『仮面ライダー』
 第三部
 第十三章             霧の中の断頭台

 ロンドン、言わずと知れた英国の首都である。古代ケルト語であるこの名に見られるとおりイギリスには幻想的な話が多い。それはイギリス人の無意識にまで浸透している。
 イギリス文学といえばまず第一に挙げられるのがシェークスピアであろう。あの独特のくすんだ世界もまたケルトにそのルーツがある。
 真夏の夜の夢に出てくる妖精達だけではない。マクベスの三人の魔女達の正体は人々に忘れられてしまったケルトの女神達であるという人もいる。何故なら彼女達は森にいるからである。
 ケルトの民にとって森は神聖なものであった。彼女達はその中で魔術を操っていた。そしてマクベスに運命を告げたのである。そのマクベスは森が動いた時に死んだ。彼は森に殺されたのだ。
 森は欧州の全てを覆っていた。そしてその中に神々はいたのである。
 嵐の神ヴォータンに仕える女オルトルートは森に潜みブラバンテの姫エルザに罠をかけた。タンホイザーは森の中にあるヴェーヌスベルクで快楽に耽った。
 トリスタンとイゾルデは夜の森の中で互いの愛を確かめ合った。ジークフリートは森の奥深くに潜む龍を倒し呪われた指輪を手に入れた。森は聖なるものがいると同時に邪なるものも潜んでいるのである。
 今その森は大きく減った。だが人々の心にはその森はある。そしてその中に神々も龍も、魔女も、そして妖精達も棲んでいるのである。
 そうした精神風土は欧州全体にある。その中でもこのイギリスは色濃いだろう。
 トランプを構成するスペード、クラブ、ダイア、そしてハート。これはケルトの神々の宝がもとになっているのである。
 騎士。キリストの教えが伝わる前からあった。ク=ホリンやフィン=マックールが有名である。今もイギリスの貴族達は騎士道精神を尊ぶ。それはこのケルトの騎士達の心なのだ。
 そうした多くのものがこのイギリスの中に息づいている。ロンドンの名が示すように。
「しかしこう雨が多いと嫌になるな」
 本郷猛はそのロンドンの中を歩いていた。
「そうか?俺は別に何とも思わないが」
 一文字隼人はその隣にいた。二人は傘をさして霧雨の降るロンドンを歩いている。
「御前は慣れているからだろう。子供の頃はここに住んでいたからな」
「ああ、何か懐かしい気持ちだな」
 一文字は本郷の言葉を聞いて答えた。
「子供の頃はこうやって親父とお袋に連れられて霧雨の中を歩いたな」
「そうか」
「ああ、ロンドンってのは煉瓦造りの街だろ?外見はまり変わらないんだ。だから子供の頃の記憶がそっくりそのまま甦ってくる」
「楽しそうだな」
「勿論さ。これが戦いでなかったらもっといい」
「そういうわけにはいかないのが辛いな」
「ああ」
 一文字は本郷の言葉に対し答えた。それまで緩んでいた頬を引き締めた。
「俺達の宿命だな。奴等をこの世から消し去るのが」
「そうだ、その為に俺達はいるんだからな」
 望んだことではなかった。彼等はショッカーに捕われ改造手術を施行されたのだ。そして洗脳される直前に逃れた。それからである。悪と戦い続けているのは。
 彼等もまた騎士である。だがその持つものはあまりにも哀しく孤独なものである。しかし彼等はそれをおもてに出すことなく戦い続けている。

「そうか、あの二人が来たか」
 ロンドン郊外の地下にある基地でゾル大佐は戦闘員からの報告を受けていた。
「やはり気付いたか。IRAに偽装したつもりだったが」
 IRAとはアイルランド解放戦線のことである。彼等の存在は根が深い。
 イギリスの正式名称はグレートブリテン及び北部アイルランド連合王国という。かってはイングランド、スコットランド、ウェールズ、そしてアイルランドに別れそれぞれ別の国であった。とりわけイングランドとスコットランドは国力が高かった。
マクベスはスコットランドの史実での出来事でありその頃からイングランドとは抗争があった。シェークスピアの時代には二人の女王が争った。スコットランドの女王メアリー=スチュワートとイングランドの女王エリザベス一世である。
 よくこの時代はイギリスの黄金時代の一つと言われるが実際はそうではなかった。まだイギリスはイングランドでしかなく内政にも外交にも多くの問題を抱えていた。内部では慢性的な財政難であり旧教と新教の対立が激しかった。外部にはフランスやスペインといった強敵が存在した。実際にはイングランド、チューダー家はハプスブルク家の神聖ローマ及びスペインやヴァロワ家のフランスと比べると大きく見劣りしていた。
 そうした中でこの二人の女王は争っていた。エリザベスはメアリーを軟禁状態に置いたが中々判断を下せなかった。周りの者はしきりに死刑を勧めるが彼女は首を縦に振らなかった。
 エリザベス一世を評して冷酷という人も多い。だがこれも間違いである。彼女は父ヘンリー八世に母アン=ブーリンを殺されている。ヘンリー八世は好色であり多くの愛人がいた。そして妻さえも邪魔だと見ればすぐに殺すような非情な男だったのである。
 腹違いの姉メアリは狂信的なカトリックであった。その為多くの新教徒達を火刑台に送っている。その凄まじさは夫であったスペイン王太子フェリペ二世が窘める程であった。
 よく歴史というものは誤解される。エリザベス一世もそうであるがこのフェリペ二世もよく誤解されている。確かに彼はカトリックの擁護者ハプスブルク家の者で熱心な教徒であったが理性的な人物であった。国王は国家の第一の下僕として考えその生活も質素であった。そして過度な弾圧は決して好まなかったのだ。
 そうした姉に彼女も目をつけられていた。そしてロンドン塔へ送られたこともある。ロンドン塔、かって彼女の母もここで死んだ。生きては出られないと言われた死の監獄である。
 だが彼女は助かった。そうして彼女は幼い頃より幾度もそうした惨事を目にしてきたのだ。
 そのせいか彼女は死刑を好まなかった。最後の最後までメアリーの死刑にサインをするのをためらった。そして彼女を見棄てたメアリーの息子であるスコットランド王を軽蔑した。
 しかし彼は後にイングランド王にもなる。このことからもわかるとおりイングランドとスコットランドは元々は別々の国であったのである。
 それはアイルランドもそうである。度々イングランドの侵攻を受けていながらもである。
 エリザベス一世の時代には総督府が置かれていたがその統治は上手くはいってはいなかった。元々カトリックの多い国であり統治には困難が伴っていた。
 だが清教徒革命の時に事態は急変する。国王と協力関係にあると思われたアイルランドはクロムウェルの侵略を受けたのである。
 オリバー=クロムウェル。狂信的な男であった。彼は熱烈な清教徒であり強烈なカリスマ性を持っていたが他人に対する寛容さのない男であった。
 彼の統治は極めて厳格なものであった。そこには妥協は微塵もなかった。生活のことまで厳しく規制され人々は閉口したものである。清教徒に対してもそうなのだから旧教徒に対しては言うまでもなかった。
『アイルランド植民地法』を制定した。そしてアイルランド全土をイギリスのものとした。アイルランド人は小作人となってしまい
イングランド人との差は歴然となった。日本の台湾や韓半島の統治などという甘いものではない。当然大学を建てたり文化を保護したりインフラを整備したりといったことはしない。植民地だったのである。彼にとって旧教徒は敵であったのだ。これがアイルランド問題のはじまりである。
 それからアイルランド人はイギリスとしてその歴史を歩む。ユニオン=ジャックがある。イギリスの国旗であるがこれは四つの国の国旗を合わせたものである。そこには当然アイルランドもある。ちなみにワーテルローでナポレオンを破ったウェリントンはアイルランド出身である。また作家のオスカー=ワイルドもそうである。
 彼等が活躍した十九世紀は大英帝国の極盛期であった。だがこの時アイルランドを悲劇が襲った。
 当時アイルランドの小作人達はジャガイモを食べていた。麦は食べていなかった。全てイギリスの地主達にとられていた。これが搾取というものである。
 そう、ジャガイモである。彼等の命はこのジャガイモが支えていた。
 だがそれがなくなったら。結果は目に見えている。そしてそれは起こった。
 ジャガイモに病気が流行ったのである。次々と枯れていった。アイルランド最大の悲劇とも言われる『ジャガイモ飢饉』である。
 これに対しイギリス政府は何も手を打たなかった。それどころかアイルランドの多過ぎる人口を調整するにはいい機会だとさえ言う者もいた。それでいて麦は収めさせた。彼等に麦を食べさせようとは微塵にも思わなかった。
 結果多くの者が餓死した。人口の半分がアメリカへ移った。アメリカで大きな勢力を持つアイルランド系アメリカ人はその前からいたがこれにより大きな発言力を持つようになった。
 強いアメリカを主張したロナルド=レーガンはアイルランド系である。一代の梟雄リチャード=ニクソンも彼と争った若き大統領ケネディもである。そしてビル=クリントンも。アイルランド系には独特の名がある。姓の頭に『マク』や『オー』がつくことが多いのだ。マックイーンやオーウェン等がそれである。なお進駐軍の司令官であったマッカーサーはケルト系であるがスコットランドをルーツに持つ。彼は自分のルーツに非常に誇りを持っていたという。傲岸不遜であり気位の高い男であったがその反面人種差別はしない人物であった。
 そうしたこともありアイルランド人達も立ち上がるようになる。アイルランド問題は次第にイギリスの闇として人々に知られるようになる。
 そして自由党のグラッドストン等を中心にアイルランド問題の解決が計られるようになる。アイルランド土地法等が成立し一次大戦前にはアイルランド自治法が成立する。そして一次大戦後独立運動を経て遂に独立を達成した。
 だがここでまた問題が生じた。北アイルランドである。
 この地域はアイルランドの中では比較的豊かでありイングランドから移住する者が多かった。その為イギリスに残ったのである。
 だがイングランド系、言い替えるならば新教徒の割合が六割である。旧教徒、アイルランド系が四割だ。この割合が問題となる。
 その四割の中の過激派が問題を起こす。北アイルランドの独立及びアイルランドとの合流を主張し武装したのだ。そしてイギリス各地、とりわけ首都ロンドンでテロを起こす。これがIRAである。
 今ではこうした組織の常として内部で対立があり複雑に分裂している。そしてアイルランドの政治家にも彼等と関係がある者もいるという。日本赤軍や核マル派と関係があると噂される自称人権派の政治家が我が国にいるが彼等とはまた違う。だが民族主義とはいえテロは悪である。その為彼等の行動は許されるものではない。
「やはりあの二人は鋭いな。その程度は見破っていたか」
 ゾル大佐は一文字隼人と日本で死闘を繰り広げた。その為彼等、そう本郷猛のこともよく知っているのだ。
「どうしますか?」
 戦闘員は彼に尋ねた。
「そうだな」
 ゾル大佐はそれを聞き考え込んだ。暫くして顔を上げた。
「ブラック将軍と連絡をとれ」
「ハッ」
 ブラック将軍もイギリスにいた。ただし作戦は別である。
「相手が相手だ。ここは奴とも話し合わなければな」
 作戦が違うといっても、である。そう言っている状況ではないことが彼にはよくわかった。
 だがそれには及ばなかった。
「既に来ているが」
 声がした。大佐はそちらを振り向いた。
「来ていたのか」
「うむ、丁度私の方も話をしたいと思ってな」
 ブラック将軍は左手のサーベルで右手の平をポンポンと叩きながら部屋に入って来た。
「本郷猛と一文字隼人がこのロンドンに来ている」
「そうだ、それに対しどうするかだ」
 将軍は大佐の話を聞きながらその暗い目を光らせた。
「どうするかは決まっているがな。排除するだけだ」
「うむ。では怪人を出すとしよう」
 将軍は話がわかっているのかどうかすら疑う程冷静であった。
「丁度私の作戦がそれだったしな」
「有り難いな。俺の怪人達だけではあの二人に勝つのは難しいからな」
「冷静だな。地獄大使とは違い」
「俺をあのようなおっちょこちょいと一緒にしてくれては困るな」
 彼はそう言うと口の左端を歪めた。地獄大使の感情の起伏の激しさはショッカーの頃から有名であった。彼は自ら前線に出て指揮を執ることを好むが反面一つのことに没頭する癖もあったのだ。
「そういえば最近あの男は何かと焦っているようだな」
「そのようだな。どうも従兄弟に対し何かと含むところがあるようだ」
 地獄大使と暗闇大使、かっては東南アジアで共に戦った血を分けた従兄弟同士であった。外見はまるで双子の様であったがその気性はまるで違っていた。そして近親憎悪であろうか。それとも前に何かあったのだろうか。彼等ははたから見てもわかる程激しく憎み合っていた。普段は冷静な暗闇大使も従兄弟に対してはその感情を露わにしていた。
「だがそれはどうでもいいことだ」
 大佐は言った。
「今はダブルライダーを倒さなくてな。そしてどういう怪人達を向けるつもりなのだ」
「フン」
 ブラック将軍は一瞬口の右端を歪めた。そして答えた。
「既に何体かここに連れて来ている」
「流石だな。動きが速い」
 大佐はそれを聞いて表情を変えることなく言った。
「ではその怪人達を見せてもらおうか」
「うむ」
 ブラック将軍は右手をゆっくりと上げた。すると後ろのドアが左右に開いた。
「ほお」
 ゾル大佐はその怪人達を見て思わず声を漏らした。
「これでどうだ」
 ブラック将軍は怪人達に顔を向けたあとゾル大佐の方に顔を戻して問うた。
「これなら期待できるな。例えあの二人だとしても。それにこの怪人達でも駄目な時は」
「その時は決まっている」
 ここで将軍は目を光らせた。
「我々が出るだけだ」
「うむ」
 こうして二人の会談は終わった。ロンドンの白い霧が赤黒くなろうとしていた。

 霧の都ロンドン。イギリスの栄枯盛衰と共にあったこの街にかって一人の魔物が君臨していた。
 切り裂きジャック。ロンドンっ子なら誰でも、いや世界でも知らぬ者はいない程の悪名高き魔人である。
 十九世紀産業革命を経て円熟期にあった大英帝国。資本家と貴族達が繁栄を謳歌する中で植民地の者達は塗炭の苦しみを味わっていた。
 当時イギリスはインドから搾取し中国に阿片売りつけていた。今この国が麻薬に悩まされているのはその報いなのだろうか。もっともこれは欧州全体の悩みであるが。
 そうした苦しみは国内にもあった。労働者達は絶望的な貧困の中にあったのだ。
 穴子の巣の様な家に住み朝も昼も夜も働いた。賃金の高い男は家で、賃金の安い女や子供が働いた。スモッグと泥、埃が支配しその下を鼠が走り回る。寝ても起きてもそうした中にいた。太陽は見えず空は煙に覆われていた。そして彼等はその中で生きていたのだ。
 そうした中に人が長く生きられる筈もなかった。結核等の病気も蔓延し痩せ衰えた労働者達は次々に倒れて言った。こうした中で社会主義という思想が出るのも当然であった。マルクスという男がろくに働いたこともなく親の遺産で本ばかり読んで暮らし現実というものを知らずその知識も曖昧でその思想の根本にどれだけの危険が潜んでいるのかは別として。
 そうした中で娼婦達も生きていた。我が国では吉原があるがロンドンの夜の女達の生活も酷いものであった。その平均寿命は三十にも達しなかった。娼婦の生きていられる時は少ない。まるで夜に咲く花の命が短いように。病気やその生きる糧を得る為の手段が彼女達の身体を蝕んでいくのだ。
 そうした娼婦達を狙い次々に惨殺していったのが切り裂きジャックであった。手術用のメスの様な鋭い刃物を使い女達を切り刻んでいく。そして誰にもその姿を見られないのだ。
 何人もその刃の前に切り刻まれた。そして彼は忽然と姿を消した。
 その正体については今だに多くの議論がある。医者だったとも王室に連なる者だったとも言われている。だがその正体はまだわからない。もしかすると彼は人ではなく魔界の者だったかも知れない。
 そうした事件を知っているからこそロンドンっ子達は怪奇話に耳が速い。今もこの街ではそうした話が流れている。
「まあロンドン塔があるしな」
 一文字は頭上にある塔を見上げて言った。ロンドンの名物の一つロンドン塔である。
「そういえばこの塔は幽霊話のメッカだったな」
 本郷もその塔を見上げていた。エリザベス一世の母アン=ブーリンを筆頭としてこの塔には多くの歴史上の人物の亡霊が姿を現わす。さながらイギリス史を見せるように。
「ああ、この国はそうした話には事欠かない」
 流石にイギリスにいただけはあった。彼はイギリス人の幽霊好きをよく知っていた。
「元々妖精とかの話も多いしな。幽霊も多いんだ」
「切り裂きジャックとは少し違う気もするがな」
「そうか?俺は同じようなものだと思うけれどな」
「切り裂きジャックは幽霊とは違う気がする。そうだな、例えると」
 本郷は暫し考えたあとで口を開いた。
「バダンに近い。あの男は奴等と同じようなものだと思うが」
「言われてみればそうだな」
 一文字はその言葉を聞き頷いた。
「幽霊も妖精もイギリス人は親近感があるが切り裂きジャックは違う。あれは魔物だ」
「そう思うだろう。バダンがそうであるように」
 本郷の分析は鋭かった。彼はこうした話においてもその鋭い頭脳の冴えを発揮した。
「そうか。ジャックはバダンだったか」
「そう考えるとわかりやすいだろう。今ここで起こっている事件も」
「ああ」
 一文字は頷いた。そしてたまたま横を通った売店の新聞を見た。
 当然英語である。あまり品のよくない大衆紙である。そこの一面にこう書かれていた。
『悪魔がまたさらった』
 と。今ロンドンでは行方不明事件が頻発しているのだ。
「テロの方も奴等だろうな」
「ああ、それはおそらくゾル大佐だ」
「ゾル大佐か。そういえば中東からイギリスに移ったらしいな。役君から聞いたよ」
 今役はインターポールの中央に戻ってバダンの情報を収集していた。そしてその情報をライダー達に伝えていたのだ。
「俺もだ。そしてここにはブラック将軍もいるそうだな」
「ああ。それにしてもショッカーとゲルショッカーの大幹部が二人もか。またえらく豪華だな」
「二人はおそらく別々の作戦を立てて動いている。おそらくこの失踪事件はブラック将軍の手によるものだ」
「それで何をしているかだな、さらった人で」
「ああ、奴のことだ、おそらくとんでもないことなのだろうがな」
 二人はそうした話をしながらピカデリー通りへ向かった。ロンドンの繁華街の一つである。
 そこに着いた。早速爆発事件が起こった。
「IRAだ!」
「すぐに警察を呼べ!」
 人々の悲鳴が木霊する。皆これはIRAの仕業だと思った。
 だが二人は違った。直感でバダンの仕業だと見抜いた。
「本郷、行くぞ!」
「おお、一文字!」
 二人は頷くとすぐに動いた。そして爆発現場に向かった。
 そこは地獄であった。炎と煙が支配し傷付いた人々が倒れていた。
「フフフ、上手くいったな」  
 それを遠く離れた場所で見る男がいた。
「こうしたことならお手のものだ」
 彼は人ではなかった。怪人である。ショッカーの爆弾怪人サボテグロンだ。
「流石だな、メキシコを死の荒野に変えただけはある」
 もう一体怪人がいた。ネオショッカーの風車怪人カマギリジンである。
「よせ、もう昔のことだ」
 サボテグロンは賛辞に対し首を横に振った。
「俺のメキシコでの栄光は消えた。あのライダーによってな」
「そうは思わないがな。俺は貴様の活躍をどれだけ参考にさせてもらったか」
「俺なぞを参考にするよりは貴様自身の力を磨いた方がよいと思うがな」
「いや、それは違うな」
 今度はカマギリジンが首を横に振った。
「研究しそれを生かす。そうでなくては駄目だ」
「それはそうだが」
「俺は貴様の作戦を研究したのだ。俺自身の活躍の為にな。それならばいいだろう」
「確かに」
 二体の怪人はそう話していた。
「だがな」
 サボテグロンはここで辺りを見回しながら言った。
「それを生かすのも全てはあの二人を倒してからだ」
「うむ」
 二人の前にダブルライダーが姿を現わした。
「いたな、バダンの改造人間!」
「今の爆発は貴様等の仕業だな!」
 ダブルライダーは二人のいるビルの上に立っていた。そして怪人達を指差して問うた。
「フフフ、その通りだ」
 サボテグロンは不敵に笑って答えた。
「それが俺達の作戦だからな」
 カマギリジンが続いた。そしてそれぞれ武器を取り出し身構えた。
「そして貴様等を倒すのもな」
 怪人達はそう言うと前に出た。その周りに戦闘員達が姿を現わす。
「そしてここにいる怪人は俺達だけではない」
 サボテグロンがそう言うと新たに二体の怪人が姿を現わした。
「ムッ!」
 ダブルライダーはそれを見て再び身構えた。ドグマの電気怪人エレキバスとゲドンの溶解怪人獣人ヘビトンボである。
「エレーーーーーーーーッ!」
「ジャーーーーーーーーッ!」
 怪人達は奇声を発した。そしてライダー達を取り囲む。
「四体か。一度にこれだけ投入してくるとはな」
「ロンドンにはかなりの戦力が集結しているようだな」
「ヒヒヒヒヒヒヒヒ」
 サボテグロンはダブルライダーに答えず笑い声を出した。
「それは地獄で知るのだな!」
 そしてそう言った。それが戦いの合図であった。
 まずはカマギリジンと獣人ヘビトンボが向かって来た。ダブルライダーも突進した。
「キシャーーーーーーーーーッ!」
 カマギリジンは両手に鎌を持った。それで一号に切り掛かる。
「甘いっ!」
 だが一号はそれを見切っていた。そして手刀を出す。
 だが敵もさるものであった。カマギリジンはそれをかわした。
 獣人ヘビトンボは空へ舞い上がった。そしてそこから二号へ向けて急降下する。
「トォッ!」
 二号はそれを後ろに跳んでかわした。そして着地し身構える。
 向かって来る怪人に対し拳を繰り出した。それで怪人の動きを止めた。
 続けて膝蹴りを出す。だが怪人はそれにも耐えた。
 口から緑色の液体を出す。しかし二号はそれを見切っていた。
「させんっ!」
 そして一気に間合いを詰め拳を繰り出す。怯んだところで斜めに跳んだ。
「ムッ!」
 戦闘員達も怪人達もその動きに目を見張った。二号は貯水槽を蹴って三角跳びをした。
「ライダァーーーーー反転キィーーーーーーック!」
 本来は一号の技である。だが再改造と特訓により二号も身に着けたのであった。
 その蹴りが怪人の胸を直撃した。獣人ヘビトンボは大きく吹き飛ばされビルから落ちた。そして空中で爆死した。
「キシャッ!?」
 これにカマギリジンは思わず顔を向けた。そこに一瞬の隙ができた。
「今だっ!」
 一号はその隙を衝いた。一気に間合いを詰めた。
 そしてその首を両足で掴んだ。そのまま上に跳ぶ。
「ライダァーーーーヘッドクラッシャーーーーーーーッ!」
 そして怪人の頭をコンクリートに打ちつけた。素早く跳び怪人から離れる。
 怪人は動かなかった。そして倒れたまま爆死した。
「さあ来いっ!」
 ダブルライダーは残る二体の怪人に顔を向けて叫んだ。
「エレキバス、ここは俺が引き受ける」
 サボテグロンは傍らにいるエレキバスに対して言った。
「貴様はタワーブリッジに向かえ。そして予定通りあの橋を破壊しろ」
「わかった」
 エレキバスは頷くと後方へ退いた。そしてビルから飛び降りた。
「ムッ、待て!」
 ダブルライダーはそれを追おうとする。だがサボテグロンがその前に立ち塞がった。
「ここは通さん」
 そして右手に持つサボテンの剣を振るってきた。
「ムムム」
 ダブルライダーはそれに怯んだかに見えた。だがすぐに態勢を立て直した。
「本郷、ここは俺に任せろ」
 二号は一号に対して言った。
「御前はエレキバスを追え」
「わかった、一文字!」
 一号は頷くと跳んだ。そこに銀のマシンがやって来た。
「しまった、マシンがあったか!」
 サボテグロンはそれを見上げて叫んだ。だが何もできなかった。
 一号は新サイクロン改に飛び乗った。そしてそのまま着地し道路を走って行った。
「ならば二号ライダー、貴様を倒すだけだ。あの時の借り今こそ返してやる!」
 彼はかって日本で自らの作戦を二号により粉砕されている。そのことをまだ覚えていたのだ。
「死ねいっ!」
 そして剣を振るった。
「死ぬのは貴様の方だっ!」
 二号も負けてはいない。態勢を建て直し怪人に蹴りを入れた。
「この程度っ!」
 だが怪人も怯まない。果敢にライダーに向かって来る。
 剣を振り回す。二号はその腕を蹴った。
「ウォッ!」
 怪人はたまらず剣を落としてしまった。二号は攻撃の手を緩めない。その顔へ回し蹴りを入れた。
「まだだっ!」
 そして怪人を掴んだ。そのまま上へ跳ぶ。
「ライダー投げーーーーーっ!」
 怪人を下に叩き付けた。やはり力の二号というだけはある。こうした技は得意だ。
「ウオオオオオーーーーーーッ!」
 怪人は断末魔の叫びを上げその場に倒れた。そして爆死した。
「本郷、あとは頼んだぞ」
 二号はその爆発を見たあとタワーブリッジの方を見て言った。

 その時エレキバスはロンドン名物である赤い二階建てバスの上にいた。そしてそれでタワーブリッジに向かっていた。
「ヒヒヒ、上手くいきそうだな」
 怪人はライダーが追って来ないのを確かめて笑った。
「サボテグロンには感謝しないとな」
 そして自分をここに向けてくれた仲間に対して感謝した。
「それに報いる為に」
 前を見た。橋が見えてきた。
「あの橋は必ず破壊してやろうぞ」
 そう誓ったその時だった。
「待てっ!」
 後ろからあの声がした。
「おのれ、来たかっ!」
 怪人は声がした方を振り向いて叫んだ。そこに彼がいた。
「この仮面ライダーがいる限り貴様等の好きにはさせんっ!」
 一号はマシンを駆ってこちらに風の如き速さで向かって来ていた。
「ぬうう、しつこい奴だ」
 怪人はその姿を見ながら呻いた。ライダーはそれに構わずマシンから跳んだ。
「トォッ!」
 そしてバスの上に着地した。怪人と対峙する。
「こなっては仕方ない、まずはライダー、貴様を倒す!」
「来いっ!」
 まずは怪人が攻撃を仕掛けた。両手から電撃を放つ。
「ムッ!」
 一号はその蛸の手を掴んだ。そしてその電撃を身体に受ける。
「愚かな、貴様に俺の電撃が受けられるかっ!」
 怪人はそれを見てせせら笑った。だが一号の顔には余裕があった。
「それはどうかな」
「何っ!?」
 怪人はその声に一瞬戸惑った。だがそれでも電撃を流し続ける。
「これ位でいいな」
 一号はそう言うとその手を離した。そして空中に跳んだ。
「放電攻撃っ!」
 全身に帯びた電撃を放った。それは力を出し尽くしていたエレキバスを撃った。
「ウオオオオオッ!」
 自らの電撃を返された怪人は思わず呻き声をあげた。そして片膝を着いた。
「まさか自分の電撃でやられるとはな」
 それが最後の言葉であった。怪人はバスの上に倒れるとそのまま転げ落ちた。そしてテームズ川に落ちそのまま爆死した。
「これでタワーブリッジは救ったか」
 一号はバスの上から橋を見た。だがそれは甘かった。
 見れば橋の上が騒がしい。車が立ち往生している。
「何かあったか!?」
 ライダーはすぐに橋へ向かった。そこでは怪人達が暴れていた。
「シシャーーーーーーッ!」
「ビカァーーーーーーッ!」
 二体の怪人がいた。デストロンの機銃怪人マシンガンスネークとジンドグマの混乱怪人レッドデンジャーである。
「クッ、バダンめ、既にここにいたというのかっ!」
 一号は舌打ちしながら橋の上に来た。そして怪人達と対峙する。
「来たな、ライダー」
 怪人達は一号の姿を認めるとその前に来た。戦闘員達がライダーの周りを取り囲む。
「エレキバス達の仇はとらせてもらう。この橋が貴様の墓標だ」
「クッ・・・・・・」
 先程の放電攻撃の疲れがあった。敵の攻撃を受けそれを自らの力に変換するのは想像以上にエネルギーを消耗するのだ。今二体の怪人を相手にするのは分が悪かった。
 だがそこに思わぬ援軍がやって来た。
「待てっ、俺もいるということを忘れるなっ!」
「おおっ!」
 一号は声のした方を見て思わず叫んだ。仮面ライダー二号がマシンを駆ってこちらに向かって来ていた。
 そしてそのまま橋に突入する。一号を取り囲む戦闘員達の間に突っ込みサイクロンカッターで切り倒す。
「トゥッ!」
 そして跳躍した。一号の反対側、二体の怪人を取り囲む位置に着地した。
「残念だったな、本郷だけじゃなくて」
「クッ、何という速さだ」
 彼等は二号の思いもよらぬ参戦に唇を噛んだ。
「では行くぞ、この橋は渡さんっ!」
 こうして橋を巡る戦いがはじまった。一号はレッドデンジャーと、二号はマシンガンスネークと戦いをはじめた。
「シシャーーーーーーーーッ!」
 マシンガンスネークは叫び声をあげると右腕のマシンガンを放った。それは二号の足下を襲った。
「ムッ!」
 だが二号は低く跳びそれをかわした。そしてそのまま体当たりを仕掛ける。
「グオッ!」
 それを受けた怪人は怯んだ。二号は着地しさらに攻撃を続ける。
 怪人はそれに対し牙で喰らいつかんとする。だが二号はそれを許さなかった。
「無駄だっ!」
 二号は怪人の頬を殴った。そして怯んだところにもう一撃加えた。
 怪人を掴んだ。そして空中へ思いきり放り投げた。
「行くぞっ!」
 ライダーは跳んだ。そして怪人の背へ襲い掛かる。
「ライダァーーーーニーーーーブローーーーーーーック!」
 これも本来は一号の技である。それを怪人の背へ放った。
 マシンガンスネークは上へ大きく吹き飛ばされた。そして空中で爆死して果てた。
 もう一方では一号とレッドデンジャーの戦いが行なわれていた。
「ビカァーーーーーーーーッ!」
 怪人は奇声を発すると両手に炎のリングを出した。そしてそれを一号へ投げ付けた。
「ムンッ!」
 一号はそれを蹴りで叩き落とした。そして一気に間合いを詰めた。
 だが怪人は拳でそれに立ち向かう。そして一号を打った。かに見えた。
「俺はここだっ!」
 一号は素早いフットワークでそれをかわしていた。武道でいう『見切り』であった。
 そして怪人の横に現われその首に手刀を入れた。そして怪人を掴んだ。
「ウオオオオオオオオッ!」
 一号は吠えた。そして怪人の足を掴むと自らを軸として駒の様に回転しはじめた。
「ライダァーーーーーーハンマァーーーーーーーッ!」
 幾度回転したであろうか。勢いが頂点に達したその時だった。一号は怪人を空中に放った。
「グオオオオオオーーーーーーーーッ!」
 怪人は飛びながら断末魔の叫び声をあげた。そして空中で爆死した。
「やったな、本郷」
「おお、一文字」
 二人は拳を見せ合って互いの勝利を確認した。そこへあの声がした。
「フフフフフ、流石だと褒めておこう」
 橋の上へゾル大佐が現われた。
「ゾル大佐っ!」
「やはり貴様が!」
 二人は彼を認めると再び身構えた。だがそこにいるのは彼一人ではなかった。
「残念だったな、私もいる」
「クッ!」
 二人はその声にも聞き覚えがあった。その声の主も姿を現わした。
「奇巌山以来だな。元気そうで何よりだ」
 それはブラック将軍であった。彼は冷酷な眼差しを二人に向けたままこちらにやって来る。
「どうやらその表情を見る限り二人共この地での我々の目的をある程度は知っているな」
 ゾル大佐は彼等に対して言った。
「それがどうしたっ!」
 ダブルライダーは言い返した。
「貴様等の野望を阻止するのが我々の任務だっ!」
「フン」
 だが彼等はその叫びを冷笑した。
「では阻止してもらいたいものだな」
「この我々を倒してな」
 ゾル大佐とブラック将軍はそう言って再び不敵に笑った。
「やるつもりか」
「ならば容赦はしないぞ」
 ダブルライダーはその声に唯ならぬものを感じ身構えた。だが二人は戦いの素振りは見せなかった。
「安心しろ、貴様等と今ここで戦うつもりはない」
 大佐は右手に持つ鞭で左手の平をポンポンと叩きながら言った。
「我々は貴様等に伝言をする為にここへ来たのだ」
「伝言!?」
 ダブルライダーはブラック将軍の言葉に首を傾げた。
「そうだ、このロンドンでこれから起こることをな」
 ゾル大佐は二人に語った。
「我がバダンはロンドンに大攻勢を仕掛ける。この俺の手でな」
「貴様が・・・・・・!」
 ゾル大佐の手腕はよく知っていた。二号は彼と死闘を繰り広げてきたのだ。
「私もいるということを忘れるな」
 そしてブラック将軍もいた。彼はゲルショッカーにおいてその辣腕を思う存分見せ付けてきた。
「我々の攻勢を耐えられるか」
「見せてもらおう」
 二人はこう言うと姿を消した。あとには何も残らなかった。
「ゾル大佐とブラック将軍か」
「相手にとって不足はないな」
 一号は深刻な言葉を口にするところであった。だが二号はその前に言った。
「そうだな」
 一号はその言葉を聞いて頷いた。そして察したのだ。
 例え相手がどのように強大であっても引くわけにはいかない。それがライダーなのだ。
 気持ちで引いたならばその時点で敗北である。それだけは許してはならない。自分自身に対して。
 ライダーは悪と戦うのが運命だ。だがそれには何事にも負けない心が必要なのである。そう、心が。
 それは自分達が最もよくわかっている筈のことであった。ショッカーとの戦いをくぐり抜けてきた自分達が。
 ならば弱い言葉を言うわけにはいかなかった。戦い、そして勝つ為に。
「このロンドンを守る為だ、本郷、行くぞ」
「ああ、わかった」
 一号は二号の言葉にあらためて頷いた。そして霧の中へと消えていった。

「どうやらあの男はカナダにいるようですね」
 役はインターポールの一室でノートパソコンを叩いていた。そして何かを調べていた。
「何を企んでいるのかは知りませんが」
 いつもの表情とは違う。何か見下したような目をしている。
「世の摂理に逆らう者達。その摂理の下す裁きに従ってもらいましょう」
 その声も普段とは違っていた。あくまで冷徹で機械的なものであった。
 彼は席を立った。ノートパソコンを収めるとすぐに姿を消した。
 気付いた時彼はインターポール本部のビルの外にいた。まるで煙の様に消えそこに蜃気楼の様に姿を現わした。
「バダン、この世界の摂理を乱す者」
 彼はカナダの方を向いて呟いた。
「裁きを与えましょう。そして永劫にその炎で焼いて差し上げます」
 彼を知る者が聞いたら驚くであろう。それは彼の言葉とは思えなかった。まるで人々を冥界へ誘う死神の言葉の様に冷たかった。
 彼は歩き去って行った。その影は人の姿であった。
 だが何かが違っていた。それは人のものにしては妙であった。
 形は役のものである。だがその影は太陽の光に反射しているのではなかった。
 影は太陽に向いていた。そちらに頭を向けていたのだ。
「おや」
 彼はその影に気付いた。
「いけないいけない、ちゃんとなおしておかねば」
 そう言うとその影は動いた。そして普通の影の位置についた。
「どうも別の次元を移動したあとは影の位置が曖昧になってしまいます」
 彼は苦笑してそう呟いた。
「こちらの次元、こちらの世界に合わせなければ。最も私のことを知る者はこの世界では僅かでしょうが」
 そして彼は誰に聞かせるとでもなく呟き続けた。
「赤い服を着る時にでもなければね」
 そう言って消えて行った。赤い服という言葉を残して。

 ショッカーはあの首領が最初に作った組織であった。世界各地で暗躍しその悪名を轟かせた。だがそれも終わる時が来た。
 城南大学きっての天才科学者であった本郷猛を拉致、改造したのがその暗転のはじまりであった。彼は能改造手術を受ける直前で師であり彼を改造した緑川博士は良心の呵責に耐え切れず彼を救い出した。これによりショッカーと仮面ライダーの戦いがはじまったのである。
 本郷は頭脳だけではなかった。その身体能力も常人とは隔絶していた。それが改造手術によりさらに強化されたのである。その戦闘力は凄まじかった。
 業を煮やしたショッカーは彼を倒すべきもう一人のライダーを作り上げることにした。それが一文字隼人であった。柔道、空手の達人であり優れた頭脳も併せ持つ彼ならば仮面ライダーを倒すことが出来ると判断したからである。
 しかしこれも失敗した。改造手術を終え洗脳を施そうとしたその時にライダーが基地に乱入してきた。そして彼は救い出されもう一人の仮面ライダーが誕生したのだ。
 ダブルライダーの存在はショッカーにとって最大の脅威であった。日本で、そして世界各地で彼等はショッカーと戦いこれに打ち勝ってきたのだ。
 ここで首領はショッカーに見切りをつけ再編成に踏み切った。アフリカのゲルダム団と合併し新たな組織、ゲルショッカーを設立したのである。
 ゾル大佐は元々ショッカーの人間でありブラック将軍はゲルダムの人間である。そして大佐はドイツ出身であった。将軍はロシアである。両者の出自はあまりにも違っていた。
「だがそれはどうでもいい」
 基地に戻ったブラック将軍は作戦室でゾル大佐に対して言った。
「我々はただ首領に忠誠を誓うのにだ」
「うむ」
 大佐はその言葉に頷いた。
「かっては我々はそれぞれ異なるものに対して忠誠を誓っていたが」
 ゾル大佐はナチス、そして総統でありヒトラーに、ブラック将軍はロシア、そして皇帝に忠誠を誓っていた。人間であった頃の話である。
「今は同じだ。ショッカーもバダンも根幹に流れるものは同じだ」
「うむ」
 将軍は大佐の言葉を聞き今度は彼が頷いた。
「あの時と同じ失態を繰り返してはならん」
 かって彼等は一度甦っている。デストロンが日本に一大攻勢を仕掛けた時だ。
 その時は仮面ライダーX3を圧倒する戦力を誇りながらも彼等は敗北し自滅した。
 敗因はわかっていた。彼等はそのプライド故に互いに対立しそのせいで協力体制が整っていなかったからである。
 そして彼等は爆死した。生き残ったドクトル=ゲーはその後でX3に対し決戦を挑み敗れ去っている。
「だが今度は違う。我々の力が合わさるのだからな」
 将軍は言葉を続けた。
「そうだな、ダブルライダーを倒す為に」
 大佐の声も冷静であった。
「その為の戦力は用意しておいてくれたな」
「当然だ」
 彼は言い切った。
「安心していろ。私がこれまで以上の戦力を復活させた」
「そうか、それは有り難い」
 彼等はテロとは別の作戦も執り行なっているのだ。
「ニ正面作戦といこう、奴等に対抗してな」
「うむ、我等の勝利の為に」
 彼等は杯をあけなかった。そしてすぐに戦場に向かった。
 
 本郷と一文字は分かれて行動することにした。その方が敵を探し易いからであった。
「その為に俺達を呼んだのか」
 滝はテームズ川を進むボートの上で向かいにいる男に対して言った。
「ああ、相手はゾル大佐と死神博士だ。油断はできない」
 本郷は引き締まった表情で言った。
「確かに手強いな。だがこうやって俺もいる。それに」
 彼はここで上の橋を見上げた。
「おやっさんもいるぜ」
 そこには立花がいた。彼は一文字と共にいた。
「おーーーーい本郷、滝!」
 彼は橋の上から二人に声をかけた。
「テームズ川は頼んだぞ、わしと隼人はウィンブルドンの方へ行くからなあーーーーーっ!」
「了解」
「おやっさんも気をつけて下さいよおーーーーーーっ!」
「おお、わかった!」
 彼はそう言うと一文字に顔を向けた。
「おう隼人、行くぞ」
「あいよ」
 一文字は頷くと立花と共にウィンブルドンの方へ向かった。立花は黄色いジープに乗っている。
「それにしてもまさかロンドンでこの顔触れが集まるとは思わなかったな」
 本郷は二人が去った橋を見上げて言った。
「ああ、けれどそれだけ重要な戦いだぞ、これは」
 滝も橋を見上げていた。二人の顔は深刻なものである。
「あのゾル大佐とブラック将軍だ。バダンもよくあの二人を同時に投入してきたものだ」
「それだけのことをこのロンドンでしようというのだろうな」
「ああ、だろうな」
 滝はテームズ川の水面へ視線を移した。
「しかし本郷」
 滝はここで本郷に顔を戻した。
「御前は全く怯んではいないだろう」
「当然だ」
 本郷はその野太い声で答えた。
「何があろうと俺は戦わなくちゃいけない。それはもうあの時に決意したんだ」
 彼は改造を受けた時悩み苦しんだ。幾度死のうと思ったかわからない。だが死ななかった。悪を滅ぼす為に彼は戦い続けたのである。
「俺はバダンを倒す。そしてこのロンドンを、世界の平和を守る」
「そう言うと思ったぜ」
 滝はそれを聞いて微笑んだ。
「俺も同じだ。ショッカーやゲルショッカーと戦ってきたからな。御前や隼人と一緒に」
「滝・・・・・・」
 本郷は滝に顔を向けた。
「最初に御前や隼人と会った時は正直何だこいつ、と思ったよ。けれど今じゃ違う」
 彼は言葉を続けた。
「俺と御前達二人は戦友だ。共に悪と戦うな」
「戦友か」
 本郷は最初は孤独な戦いを強いられていた。只一人でショッカーと戦ってきた。
 しかしそこに立花がやって来た。ルリ子も彼と共に戦う決意をした。滝が参戦しそして一文字が加わった。彼は一人ではなくなったのである。特に同じ改造人間である一文字の存在は大きかった。
「なあ本郷」 
 滝は本郷に優しい笑顔を向けた。
「御前は今まで多くの戦いを潜り抜けてきた。隼人もな。時には自らを犠牲にして人々を守ってきた」
「ああ」
 それはいつものことであった。時には体内に核爆弾を持つ怪人を一文字と共に海の上へ飛ばし爆発させたこともあった。
その時は誰もが死んだと思った。
 しかし彼等は生きていた。それは何故だろうか。
「御前達は仏なんだよ。人々を救う仏だ」
「俺達が仏か」
 本郷はそう言われて違和感を覚えた。
「そうだ、仏なんだよ」
 滝は言った。
「仏といっても色々あるだろう。御前達は明王なんだ」
「明王か」
 明王とは憤怒の相をした戦う仏である。その多くは複数の眼や顔、腕を持ち様々な武器で武装している。そしてこの世を乱す悪を討ち滅ぼすのだ。その姿は異形であるが心は正しきものなのである。
「御前達は悪を討ち滅ぼす明王だ。それがライダーなんだ」
「よしてくれ、滝」
 本郷は照れ臭そうに言った。
「俺達は神でも仏でもない。ただの改造人間なんだ」
「本郷・・・・・・」
 本郷は滝の言葉に構わず言葉を続けた。
「俺達は確かに悪と戦うのが宿命だ。おそらく永遠にな」
 そうであった。彼等の戦いは悪がこの世にある限り続くのだ。
「しかし俺達はそれを受け入れている。人間として」
 彼等の身体は確かに改造されている。だがその心は違っていた。
「俺達は心までは改造されてはいない。今まで色々と考えてきたが俺達の心は人間のままだ。今こうして考えていられるのも俺達が人間だからだ」
「人間だからか」
「そうだ、俺達は人間だ」
 その言葉に全てがあった。そう、彼は神にも仏にもなりたくはなかったのである。
 彼がなりたくて、そしてそのままでいたいと思うもの、それは一つしかなかった。
「滝、人間とは何だと思う」
 本郷は逆に彼に問うた。
「それは・・・・・・」
 あまりにも難解な質問であった。彼も咄嗟には答えられなかった。
「俺は心がそれを示すのだと思う」
 本郷は静かな声で言った。
「心か」
「ああ。例えどのような身体を持っていても心が人のものであったならばそれは人間なんだ。俺はそう考える」
「そうか、そうだったな」
 滝はそれを聞いて頷いた。
「俺もこう考えるようになるまで悩んださ。俺はもう人間じゃないんだとどれだけ苦しんだか」
 その苦悩は滝もよくわかっていた。
「だが戦ううちにわかってきた。人を人としているのは心なんだって」
 おそらくショッカーの非道さを見てきてそれがわかったのであろう。その悪辣さは最早人間のものではなかった。
「人間は確かに愚かな一面もある。だがそれが全てじゃない」
 彼は言った。
「それと同じ位、いやそれ以上に素晴らしいものを持っている。人間は決して悪じゃない。そう断言するのはあまりにも愚かなことだ」
 そのことは滝もよくわかっていた。多くの戦いで彼は人間の愚かさを見てきた。しかしそれ以上に人間の心が持つ素晴らしさも知るようになったのだ。
「俺はその人の心を信じる。そしてその為に戦う。人間としてな」
「そうか、人間としてか」
「そうだ、俺は人間だ。それ以上でもそれ以外でもない」
 話はそれで終わった。彼等はそのままボートで川を進んでいった。

 このテームズ川はかってはヘドロの海であった。産業廃水が流れ最早生物はいない有様であった。しかしロンドン市民の懸命の浄化によりその美しさを取り戻し今ではかっての美しさを取り戻している。
 二人はその川を進んでいた。何かを探していた。
「ムッ」
 やがて本郷は水面に何かを見つけた。
「いたか」
「ああ」
 二人は頷くとそこへ水中銃を放った。
「ゥニイーーーーーーーーッ!」
 すると叫び声と共に怪人が姿を現わした。ショッカーの虐殺怪人ウニドグマである。
「やはりそこにいたかバダンの改造人間」
 本郷は既に変身を終えていた。そして怪人に対して言った。
「フン、よく俺がいるとわかったな」
 怪人はボートに跳び乗って来るとふてぶてしい口調で言った。
「俺にはOシグナルがある。それを知らないわけではあるまい」
 ライダーは言葉を返した。
「フン、確かに」
 怪人は言った。
「ではまだいることもわかっているだろう」
 ウニドグマがそう言うと後ろから水柱が上がった。
「ムッ!?」
 そしてそこから一体の怪人が姿を現わした。
「ピリピリピリピリピリピリーーーーーーーーーッ!」
 ブラックサタンの電気怪人奇械人エレキイカであった。怪人はボートの上に跳び乗って来た。
「死ね、ライダーッ!」
 そしてライダーに襲い掛かって来た。
「来たな」
 水面から戦闘員達も次々に跳び上がって来る。こうしてボートの上での戦いがはじまった。
 戦闘員達はいつも通り滝が相手をする。そしてライダーは怪人達と対峙する。
「ライダー、このテームズ川が貴様の墓場だ!」
 まずは奇械人エレキイカが来た。怪人は右手の鞭を振るって来た。
「トゥッ!」
 ライダーはそれを跳躍でかわした。そしてボートの縁の上に着地する。
「どうした、その程度か」
 そして怪人を挑発した。
「ヌヌヌ、ではこれでどうだ!」
 怪人は全身の鞭を振るって来た。そしてそれでライダーを打たんとする。
「まだだっ!」
 だがライダーはそれもかわした。そして怪人の頭上に来た。
「こんどはこちらの番だっ!」
 そう言うと怪人を掴んだ。そして再び空中に跳んだ。
「喰らえっ!」
 怪人を頭上に持って来るとそれを駒の様に回転させた。
「ライダァーーーーーきりもみシューーーーーーートォッ!」
 ライダーの持つ大技の一つである。怪人を頭上で回転させ放り投げる技だ。これにより多くの怪人達を葬ってきている。
「ウオオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーーッ!」
 キ械人エレキイカは叫び声をあげながら吹き飛んでいった。そして水面に叩きつけられ爆死した。
「次は貴様だっ!」
 ライダーは着地すると息をつかせぬ程の素早い動きでウニドグマの前に出た。
「フン、俺を馬鹿にするな!」
 怪人はそう言うと口から炎を噴いた。
「ムッ」
 ライダーは後ろに退いた。怪人はそれを見て次第に間合いを詰めてきた。
「フフフフフ」
 怪人は自身が優位にあると感じていた。そして今度は左手で殴り掛かってきた。
「来たかっ!」
 ライダーはそれを受け止めた。彼は怪人が格闘戦を挑んでくるのを待っていたのだ。
「これでどうだっ!」
 ライダーは怪人を空中に放り投げた。そしてすぐに自らも跳んだ。
「トォッ!」
 そのまま怪人へ向けて一直線に向かって行く。腕を顔の前で交差させ手刀を作った。
「ライダァーーーーーフライングチョーーーーーーーップ!」
 その手刀をもって体当たりをした。怪人はその直撃を受け空中で爆死した。
「これで終わりか」
 ライダーは着地してそう呟いた。
「ああ、戦闘員達も俺が全て倒した」
 滝は着地したライダー達に対して言った。
「それにしてもこのテームズ川を狙うとはな。やはり油断のならない奴等だ」
「そうだな。おそらくここに毒でも流すつもりだったのだろう」
 ライダーは変身を解きながら答えた。
「毒か。ゾル大佐のやりそうなことだな」
「ああ。おそらく一文字とおやっさんも今頃奴等と戦っているだろう」
「だろうな。問題は何処で戦っているかだ」
 二人は二人の戦友のことを思った。
 二人の心配は当たった。二人はこの時ロンドン空港のロビーでバダンと死闘を演じていた。
「やっぱりここにいやがったか!」
 立花は迫り来る戦闘員達を倒しながら叫んだ。
「おやっさん、雑魚は頼みます」
「おう、わかった」
 一文字は既にライダーに変身していた。そして滑走路の方に向かった。
「隼人、頼んだぞ!」
「任せて下さい!」
 二号は立花に答えると窓ガラスに跳んだ。そしてそれを打ち破り滑走路に出た。
 滑走路でも騒動が起こっていた。航空機は止まり戦闘員達が暴れ回っていた。
「貴様等の好きにはさせんっ!」
 二号は彼等の中に踊り込んだ。そして戦闘員達を次々と薙ぎ倒していった。
「言え、怪人達は何処だっ!」
 そして最後に残った戦闘員の首を後ろから絞め問い詰める。
「そ、それは・・・・・・」
 戦闘員は言おうとした。そこへ何かが飛んで来た。
「グッ」
 それは針であった。怪人はそれに喉を撃たれ即死した。
「毒針か」
 二号はそれを見てすぐに察した。そして毒針の飛んで来た方を見た。
「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」
 ショッカーの毒燐怪人ギリーラであった。怪人は旅客機の上にいた。
「貴様か」
 二号は怪人を見上げ指差した。
「あたしだけとお思いかい?」
 怪人は二号を侮蔑した笑いで見下ろしながら言った。
「何っ!?」
「後ろを見てごらん」
「ムッ」
 二号は後ろを見た。そこにはゴッドの火炎怪人ジンギスカンコンドルがいた。
 彼だけではなかった。怪人はその左腕にもう一人掴んでいた。
「おやっさん!」
 二号は彼の姿を見て叫んだ。
「そうよ、貴方がこちらに向かっている間に捕まえたのよ。迂闊だったわね」
「ガガガガガガガガガ」
 怪人達はそう言って二号を嘲笑した。
「ヌウウ」
 二号はそれを聞き悔しさで歯噛みした。
「ライダー、わしに構うな、早く怪人達をやっつけろ!」
 立花は動けなくなったライダーに対して叫んだ。
「黙れ」
 だがジンギスカンコンドルはそんな立花に対し槍を突きつけた。
「さあ、どうするの!?」
 ギリーラは二号に対し問うた。
「降伏すればそれで良し、歯向かうのならば・・・・・・わかるわね」
「・・・・・・クッ」
 それは二号にもよくわかっていた。敵を倒さなくてはならない。だが彼には立花を見捨てることは出来なかった。
「わかった・・・・・・」
 膝を屈しようとしたその時だった。何かが跳んで来た。
「ムッ!?」
 それは銃弾であった。銃弾はジンギスカンコンドルの腕を撃った。
「ガッ!?」
 無論その程度で傷付く怪人ではない。だがその衝撃で立花を捕らえていた腕が離れた。
「今だっ!」
 二号は跳んだ。そして怪人に体当たりを浴びせると立花を取り戻した。
「チッ!」
 それを見たギリーラは素早く毒針を放った。だがそれは当たらず二号の足先を追うだけであった。
「これでよし」
 二号は怪人達から間合いを離すとそう言った。
「済まん、ライダー」
「いいですよ、おやっさんさえ無事なら」
 二号は立花に対し優しい声でそう言った。
「さあ、早く安全な場所へ」
「わかった」
 こうして立花は後方へ退いた。
「ヌウウ、一体何処から・・・・・・」
 ギリーラは立花が退いたのを見て今度は彼女が歯噛みした。
「だが今はそんなことはどうでもいいわ」
 彼女はすぐに冷静さを取り戻しライダーに顔を向けた。
「死ね、仮面ライダー二号!」
 そう叫ぶと再び口から毒針を放った。二号はそれを横に跳びかわした。
「ガーーーーーーッ!」
 そこへジンギスカンコンドルが襲い掛かる。槍を繰り出してきた。
「ムンッ」
 二号はそれをかわし脇で捉えた。そして思いきり力を入れた。
 槍は折れた。それを見た怪人は一瞬怯んだ。
「もらった!」
 その隙を見逃すライダーではなかった。前にダッシュするとまずは怪人の顔に拳を入れた。
「グッ!」
 怪人はそれを受け怯んだ。二号はそこへさらに攻撃を加えた。
「これでどうだっ!」
 怪人の肩に乗った。そして脚でその首を掴んだ。
「ライダァーーーーヘッドクラッシャアアアアアーーーーーーッ!」
 上に跳ぶと怪人の頭を打ちつけた。怪人は頭を砕かれ爆死した。
「今度は貴様だっ!」
 そしてギリーラの方へ跳んだ。
「フンッ!」
 怪人はライダーの最初の一撃をかわした。そして機の後ろの方へ位置を移した。
 二人はその航空機の上で睨み合った。まずはギリーラが攻撃を仕掛けた。
「死ねっ!」 
 予想通り口から毒針を放って来た。二号は上に跳躍してそれをかわす。
 しかしギリーラも跳んでいた。両者は空中で拳を交えた。
「ライダァーーーーーーパァーーーーーーンチッ!」
 両者は互いに背を向けて着地した。まずはライダーが振り向いた。
 続いてギリーラも。だが彼女は振り向けなかった。
「グググ・・・・・・」
 今のパンチが効いていたのである。崩れ落ちるとそのまま航空機の下へ転げ落ちた。
 そして爆死した。二体の怪人はこうしてライダーに倒された。
「危ないところだったな」
 二号は航空機から飛び降りて言った。
「それにしても」
 そして変身を解きながら空港を見渡した。
「何処から誰が銃を撃ったのだろう。見たところ誰もそうした怪しい者は見当たらないが」
 そこへ立花が戻って来た。
「隼人、済まんな。おかげで助かった」
「いえ、いいですよ」
 一文字は立花の感謝の言葉に微笑みで返した。
(どうやらおやっさんは俺が助け出したと思っているようだな)
 実際はそうではない。だがそれは立花には言わなかった。
「じゃあホテルに戻るか。本郷達とも連絡をとりたいしな」
「ええ、じゃあ戻りますか」
 一文字はそれに従った。そして二人はその場をあとにした。
「危ないところだったな」
 その二人を遠くから見る男がいた。
「ふとロンドンを見に来たらこれだ。目を離せない」
 男は役であった。その手には大型のライフルがある。
「だがこれで助かった。安心してカナダへ向かえますね」
 彼はそう呟くと煙の様に姿を消した。そしてその後には誰もいなかった。

「そうか、怪人を狙撃したのか」
 一文字はホテルに戻ると早速本郷に話した。彼等はテーブルに向かいになって座って話をしている。
「ああ、そうなんだ。何処から撃ってきたのか、誰なのかは全くわからないが」
 一文字は腕を組み考え込む本郷に対し言った。
「今イギリスにいるライダーは俺達だけだったな」
「ああ、それは間違いない」
「それとおやっさんと滝だけだったな」
「ああ。ルリ子さんは今何処だ?」
「パリに残ってもらっている。まだバダンの戦闘員が残っているようだからな」
「そうか。ルリ子さんなら大丈夫だろう。じゃあここにいるのは俺達を含めて四人だけか」
「そうだな。他には・・・・・・待て、役君はどうしていた!?」
 本郷はここで役のことを思い出した。流石に勘がよかった。
「役君ならインターポールの本部にいるが。何なら連絡するか!?」
「いや、いい。彼に迷惑をかけるわけにもいかない」
 本郷はそれを拒絶した。
「結局誰かはわからないみたいだな」
「そうだな。だが俺達の敵でもないようだな。怪人を狙撃しておやっさんを助けてくれたところを見ると」
「ああ。それだけでもわかればいいか」
 二人はそう話していた。そこへ立花と滝がやって来た。
「おお二人共ここにいたか」
「ええ、ちょっと話したいことがあって」
 本郷は二人の方へ顔を上げて答えた。
「丁度二人揃ってるな。今役君から連絡があったんだよ」
 滝が言った。
「役君から!?」
 一文字はそれを聞いて思わず声をあげた。
「どうした、何かあったか!?」
 立花は一文字だけでなく本郷まで驚いた顔をしたのを見て思わず問うた。
「いえ、何も」
 だが二人はそれをすぐに打ち消した。そして立花達に対して尋ねた。
「それで役君からは何と」
「ああ、ゾル大佐とブラック将軍のことでな」
「あの二人か」
 二人はその名を聞いて目を光らせた。
「何でも奴等は夜になると姿を決まった場所に現わすらしいんだ」
「それは何処ですか!?」
「ロンドン塔だ」
「あそこか」
 二人もその塔のことはよく知っていた。
「どうする!?と言っても行くに決まってるか」
 滝が言いかけながら口の端だけで苦笑した。
「ああ、当然だ」
「奴等がそこにいるのならな」
 二人は答えた。その表情には強い決意があった。
「じゃあ行って来い。そして奴等を再び地獄へ落とすんだ」
「容赦はするなよ。絶対に勝って来い」
「おう、わかった」
「おやっさん、明日の朝にはシャンパンを用意しておいて下さいね」
「おいおい、朝からシャンパンか」
 立花は一文字の言葉に思わず笑ってしまった。
「いいぞ、それでも何ならスコッチも用意しておくか」
「おやっさん、それはウイスキーですよ」
 滝が突っ込みを入れる。
「それ位わかっとるわ。わしはウイスキーつったらそれしか知らないんだからな」
「ははは」
 三人はその言葉に笑った。そして戦いの前の束の間の笑いを楽しんだ。

 その夜本郷と一文字はロンドン塔の前にいた。夜の塔は濃紫の夜の帳の中青白い月夜に照らされ浮かんでいた。まるで魔界に浮かぶ魔王の宮殿のようだ。
 二人はその塔の前に並んで立っている。そしてその幻想的でありながら妖気を漂わせる塔を見上げていた。
「ここに来るとはな。ガキの頃はこの塔を見るのが怖くてたまらなかった」
「何故だ!?」
 本郷は少し感慨深げに呟いた一文字に対して問うた。
「幽霊が出るからな。この塔はそうした話がやけに多い。殆どシェークスピアの世界だ」
「そうか。そういえばその話は俺も何かの本で読んだことがある」
「そうだろうな。ここは幽霊のメッカだからな」
「そんなに多いのか。
「ああ、怪人よりも多いかもな」
「おい、それは冗談だろう」
「いや、冗談じゃない。だが怪人とは違うことがある」
「それは何だ!?」
「ここの幽霊は人には何もしない。バダンの奴等と違ってな」
 ロンドン塔の幽霊は実に多い。だが生きている者には危害を加えないのである。ただ自分の死や無念を伝えるだけなのである。
「だが今ここには幽霊の他にもその怪人共がいる」
「そうだな、そしてゾル大佐と死神博士が」
 二人の顔が引き締まった。
「準備はいいな。遂にあの二人との決着だ」
「ああ」
 本郷は一文字の言葉に頷いた。
「では行くぞ、本郷」
「おお、一文字」
「よし」
 二人は身構えた。そして同時に変身に入った。

 ライダァーーーーーー
 両手で手刀を作り右から左へとゆっくりと旋回させる。そして左斜め上で止めた。
 身体が黒いバトルボディに覆われ胸が緑になる。手袋とブーツが銀になっていく。
 変身!
 右腕を拳にし脇に入れる。そしてそれを手刀にし突き出すと今度は左腕を入れた。その手もやはり拳である。
 顔の右半分がライトグリーンの仮面に覆われる。左も。その眼が紅くなった。

 変・・・・・・
 両手を手刀にし右から左に旋回させる。
 身体が黒いバトルボディとなる。そして赤い手袋とブーツが現われた。
 ・・・・・・身!
 両手を拳にし左で止める。左手は直角に上に、右手は肘を直角にし身体と並行させる。
 ダークグリーンの仮面が右から、そして左から顔を覆う。やはりその眼が紅くなる。

 光が二人を包んだ。そして彼等はライダーに変身した。
「行くぞ」
「おお」
 二人は頷き合った。そして塔の中に入って行った。
 この塔は実は宝物殿でもある。しかしそれよりもやはりその血塗られた歴史の方が知られている。牢獄や処刑場であっただけではない。王宮としても様々な権謀術数が行なわれていた。そしてその犠牲者や敗者は容赦なく血の中に消えていったのだ。
 そうした血の歴史の中をダブルライダーは進む。そこへ戦闘員達が左右から襲い掛かる。
「イィッ」
 その手には斧や大鎌がある。まるで死刑執行人のようだ。彼等はそれを手にライダー達に切り掛かる。
「ムッ」 
 だがライダー達にそうした武器は通用しない。彼等は襲い掛かる戦闘員達を退け中を進む。
 石畳の廊下を走る。その前に怪人が姿を現わした。
「ギーーーーーローーーーーーーッ!」
 デストロンの処刑怪人ギロチンサウルスであった。怪人はその右手にある刃を振り回しながらやって来る。
「やはり来たかっ!」
 ダブルライダーはすぐに構えをとった。だが後ろからもう一体の怪人が現われた。
「シュルーーーーーーッ!」
 ネオショッカーの細胞怪人ナメクジンであった。怪人達はダブルライダーを前後から挟み撃ちにしてきた。
「かなりの戦力がいるようだな」
「ああ、どうやら失踪事件はこれで謎が解けたようだな」
 ダブルライダーは互いに背中合わせになりながら言った。
「これはブラック将軍の作戦だ。将軍は誘拐した人々の血を使って怪人達を復活させている」
「そう、そしてそれでもって俺達にあたらせている。どうやらここにいる奴等を始末するにはあの将軍を倒さないと駄目なようだな」
「そうだな。だがそれにはやらねばならないことがある」
「ああ、わかっているぜ」
 ダブルライダーはそう言うとそれぞれ前後に跳んだ。一号はナメクジンに、二号はギロチンサウルスに向かった。
「シュルシュルシュルッ!」
 ナメクジンは右腕から白い溶解液を放って来た。そしてそれでライダーを溶かそうとする。
「クッ!」
 ライダーは上に跳んだ。つい先程までいた足下が溶け白い煙を放っている。
 ライダーは壁を掴んだ。そしてそこから急降下した。
「グギッ!」
 怪人を撃った。怪人は堪えきれずその場に倒れた。
 だがそれで終わりではなかった。怪人はまだ諦めず溶解液を放ってきた。
「まだ攻撃できるかっ!」
 しかし一号はそれも紙一重でかわした。そして倒れている怪人に近寄りその身体を掴んだ。
「させんっ!」
 底へチョップを連続で浴びせる。パンチよりも威力は劣るがその分スピードがあった。
 そのスピードで怪人を撃った。軟体であるナメクジンもその衝撃には耐えられなかった。そしてたまらず絶命し爆死した。
 隣では二号とギロチンサウルスが死闘を繰り広げていた。怪人は口から炎をはきつつライダーに迫る。
「さあ来いっ!」
 だが二号はそれに怯むところはなかった。臆することなく前にダッシュした。
「ギッ!?」
 流石にそれにはさしものギロチンサウルスも絶句した。思わずその炎を止めた。
「やはり止めたかっ!」
 何とそれが二号の狙いであった。彼は意表を衝く行動で怪人を動揺させることを狙ったのだ。
 そしてそれは的中した。二号は怪人を掴むとまずはその右腕に拳を浴びせた。
「ギっ!」
 怪人は思わず叫び声をあげた。何と右腕のギロチンが砕けてしまったのだ。
「これでもう切り札はないぞっ!」
 二号はさらに攻撃を続けた。何発か拳を浴びせると怪人を掴んだ。そして石の床に叩き付ける。柔道でいう肩車である。
 怪人は動けなかった。そしてそのまま息絶え爆死した。
「行こう」
「おお」
 二人は頷くとその場をあとにした。そして今度は牢獄に来た。
 やはりここでも怪人達が姿を現わした。ショッカーの毒花怪人ドクダリアンとゴッドの豪腕怪人鉄腕アトラスである。
「ヒィーーーーア、ヒアッ!」
「グオーーーーーーーッ!」
 怪人達は牢獄の中から襲い掛かって来た。鉄格子を破壊してライダー達に跳び掛かる。
「こんなところにもっ!」
「面白い、牢獄じゃなく地獄に送ってやる!」
 ダブルライダーはそれをかわすと反撃に転じた。まずは二号がドクダリアンに向かった。
 怪人は鞭を放つ。それは二号の右腕に絡みついた。
「ムムム」
 二号はそれを受け呻いた。だが怯んではいなかった。
 その鞭を引いた。怪人も反射的に引き返す。こうして力比べがはじまった。
 力比べは暫くの間続いた。だが勝負が着いた。
 やはり力の二号と言われるだけはあった。二号はその力を最大限に発揮し引くと怪人は体勢を崩した。そして隙を作ってしまった。
「もらった!」
 二号はそれを見て一気に突っ込んだ。肩を前面に出し体当たりを仕掛ける。
「ライダァーーーーショルダーーーーチャーーーーーージッ!」
 そして怪人にその身体を叩き付けた。ドクダリアンはその衝撃に耐えられず吹き飛び壁に叩き付けられた。
 そして倒れた。怪人は起き上がることも出来ず息絶えその場で爆発した。
 小さな爆風が巻き起こる。一号はそれを背に受けながら鉄腕アトラスと対峙している。
「グオッ!」
 怪人は一声そう叫ぶとその手に持つ巨大な砲丸を放り投げてきた。
「来たな」
 ライダーはそれを見て身構えた。そしてその砲丸をまんじりと見た。
 それは激しく回転しながらこちらに向かって来る。ライダーはそれから目を離すことがない。
「そこだっ!」
 一号はそう叫ぶとその砲丸の一点に拳を入れた。
 砲丸は動きを止めた。ライダーの拳がその動きを止めたのだ。
 それだけではなかった。ライダーの拳は砲丸のある一点をも撃っていたのだ。
「な・・・・・・」
 砲丸にヒビが入っていく。そしてそれは砲丸全体に伝わっていった。
 砲丸が粉々に砕けた。ライダーはその動体視力でもって砲丸の点を見極めていたのだ。
「まだだっ!」
 ライダーは崩れ落ちる砲丸の破片をかいくぐるようにして突進した。そしてそのまま跳んだ。
「トォッ!」
 空中で前転した。そしてそのまま突っ込み蹴りを放つ。
「ライダァーーーーーキィーーーーーーーック!」
 蹴りが怪人の胸を撃った。それは怪人の厚い胸を撃ち抜きそのまま後ろに吹き飛ばした。
 怪人はほぼ即死であった。そしてそのまま爆死した。
「これでここの怪人は全て倒したな」
 一号は着地してその衝撃を膝で殺しながら言った。
「ああ、どうやらそのようだな」
 二号は爆炎が消え去り辺りに自分達の他に何の気配もないことを確かめながら答えた。
「じゃあ先を行こう。あの二人は必ずこの塔の何処かにいる」
 一号は立ち上がりそう言った。
「ああ、わかった」
 二号は頷いた。そして牢獄を出て先へ進んだ。
 先を進む。途中に落ちて来る天井や戦闘員達があったがダブルライダーはそれ等をものともせず先へ進んだ。
 やがて屋上に出た。そこはあの処刑台が置かれていた場所であった。
 かってアン=ブーリンはここで死んだ。その他にも多くの者がここで最後を遂げている。
 だが今そこに処刑台はなかった。そのかわりに断頭台が置かれていた。
「どういうことだ!?ここには断頭台なんてない筈だが」
 二号がその断頭台に近付きながら呟いた。その時咄嗟に刃が動いた。
「一文字、気をつけろ!」
 それを見た一号が咄嗟に言葉をかけた。
「おっとと」
 二号はそれに気付き後ろにステップした。刃は空しく空を切った。
「今のはほんの挨拶だ」
 そこで何処からか声がした。
「その声はっ!」
 ダブルライダーはその声がした方を振り向いた。
「フフフフフフフ」
 それはゾル大佐であった。彼はゆっくりと二人の前に姿を現わした。
「よくぞここまで来たな、流石と褒めておこう」
「生憎だな、貴様に褒められようが嬉しくとも何ともない」
「そうだ、貴様を倒す為にここへ来たのだからな」
 ダブルライダーは彼を指差して言った。
「フッ、相変わらずだな」
 大佐は余裕のある態度を崩さない。
「一文字隼人、いや仮面ライダー二号よ」 
 そして二号に対し言った。
「貴様にはじめて言った言葉を覚えているか」
「はじめて言った言葉!?」
「そうだ、私の名を聞き姿を見た者はどうなるかということはな」
「忘れたな、そんな昔のことは」
 二号はそれに対し言った。
「フッ、そうか。ならばもう一度言おう」
 彼はそう言うとゆっくりと言った。
「必ず死ぬ、どうだ思い出したか」
「知らないな」 
 だが二号はとぼけてみせた。ここで引けをとるわけにはいかなかったからである。
「相変わらずだな。ふてぶてしいものだ」
「だがそうでなくては面白くはない」
 ここで別の声がした。
「その声は・・・・・・」
 ダブルライダーはその声にも聞き覚えがあった。声の主はゾル大佐の横に姿を現わした。
「よくぞ来た、ダブルライダーよ」
 ライダー達の予想は当たっていた。ブラック将軍も姿を現わした。
「ブラック将軍よ」
 今度は一号が彼に対し問うた。
「何だ?」
「このロンドンでの失踪事件は貴様の仕業か」
「だとしたらどうする」
 それは肯定の言葉であった。
「そしてその誘拐した人々の血で怪人達を復活させていたな。違うか!?」
「その通りだ」
 そしてそれを完全に認めた。
「だからこそ我々は今まで多量の怪人を一度の作戦に送り込むことができたのだ。このロンドンにおいては特には」
「クッ・・・・・・」
 一号だけではなかった。二号もそれを聞いて歯噛みした。
「何を怒る!?私は以前にもこの作戦を執り行なっている」
 将軍はダブルライダーを見下した目で見ながら言った。
「ゲルショッカーにおける最後の作戦でな」
「貴様、では・・・・・・」
 そうであった。かってゲルショッカーは日本への攻勢の為ブラック将軍自ら陣頭指揮を執り人の血から怪人達を再生させた。そしてその怪人達を以ってダブルライダーに攻撃を仕掛けたのだ。
 その時ブラック将軍は将軍であって将軍ではなかった。別の姿になっていたのだ。
「それは貴様等が最もよくわかっている筈だが」
「そう、そしてこの俺のこともな」
 ゾル大佐も言った。そして二人はニヤリ、と笑った。
「偉大なる首領にお仕えする大幹部の正体・・・・・・」
「それが何であるかな」
「面白い」
 それを聞いた二号が言った。
「ならばその姿もう一度我等に見せてみろ!また打ち倒してやる」
「そうだ!今度こそ二度と甦れないようにしてやる!」
 一号も言った。それが最後の宣戦布告になった。
「言われずともそうしてやる」
「さあ、とくと見るがいい。我等の真の姿をな」
 二人はそう言うとゆっくりと身構えた。ゾル大佐は顔の前で鞭を持つ右腕をゆっくりと振った。ブラック将軍は右手に持つサーベルを左斜めから右斜め下に思いきり振った。それと共に二人の姿が変わった。
 ゾル大佐の身体が金色に変わる。厚い毛に覆われたその身体は明らかに人のものではなかった。
 顔もであった。牙を生やしたそれは狼のものであった。
 ブラック将軍の上半身が緑の皮に覆われる。両腕も変化し身体のあちこちに管が生える。その顔もカメレオンが管を生やした無気味なものであった。
「さあダブルライダーよ行くぞ!」
 ゾル大佐の正体である黄金狼男が言った。
「この断頭台の前が貴様等の死に場所だ!」
 ブラック将軍の正体ヒルカメレオンが叫んだ。そして二人に襲い掛かる。
「行くぞ一文字!」
「わかった本郷!」
 二人も同時に突進をはじめた。そしてここにロンドンでの最後の戦いがはじまった。
「喰らえっ!」
 黄金狼男は一号に向けて指からミサイルを放ってきた。だがそれは一号の拳により撃ち砕かれた。
「この程度っ!」
 一号はそのまま黄金狼男に向かって行く。そして格闘戦に入った。
 ヒルカメレオンは二号に右腕の管から攻撃を放ってきた。
「ムッ!」
 二号は斜め前に跳びそれをかわした。そして前転しヒルカメレオンに攻撃を仕掛ける。
「フフフフフ」
 だがヒルカメレオンはそれを見ながら不敵に笑った。そして姿を消した。
「ムッ!?」
 二号は攻撃を中断した。そして辺りの気配を探る。
「一文字!」
 一号が黄金狼男と闘いをしながら言葉をかけた。
「大丈夫だ本郷」
 二号は一号に対し言った。
「ヒルカメレオンは俺がやる。御前は黄金狼男を頼む!」
「わかった!」
 一号は頷くとそのまま黄金狼男との闘いを続けた。二号はその場に留まり気配を探る。
「必ずこの近くにいる」
 そして地面を見る。
 空には月がある。その光が影を映し出すのを二号は見ていた。
「ム・・・・・・」
 だが影は見えない。土煙一つ立たない。
「何処にいるのだ」
 二号は呟いた。そこに拳が来た。
「ウォッ!」
 それは二号の顎を打った。彼の前にヒルカメレオンが姿を現わした。
「フフフ、残念だったな」
「貴様、そうしてここに・・・・・・」
「私の影を探していたのだろう。だが生憎だったな」
 ヒルカメレオンは二号を嘲笑うようにして言った。
「私の身体は光をも透き通らせる。だから影も映らないのだ」
「クッ、そうだったのか」
「貴様等がパワーアップされているように私もまた強化されているのだ。それに気付かなかったのが迂闊よ」
「クッ・・・・・・」
 ヒルカメレオンはそう言うと再び姿を消した。
「こうして姿の見えぬ敵に怯えるがいい。そして死ぬのだ。フフフフフ」
 後方から溶解液が来た。二号はそれをかわすのだけで手一杯であった。
 一号もまた苦戦していた。黄金狼男のパワーの前に押されていたのだ。
「どうした、伝説のライダーとはその程度か」
「クッ・・・・・・」
 黄金狼男の拳を受け一号は吹き飛ばされた。そして床に叩き付けられる。
「パワーアップしたと聞いたが聞き間違いのようだな。これでは戦闘員の方がまだ歯ごたえがある」
「何というパワーだ・・・・・・」
 一号はよろめきながらも立ち上がった。
「俺を侮ってもらっては困るな。この力は我が偉大なる首領より再び授けられたものだ」
「あの首領にか」
「そうだ。その力で貴様を倒してやろう。さあ覚悟を決めるがいい」
「誰がっ!」
 一号にも意地があった。体勢を立て直すと黄金狼男に再び向かって行った。
 闘いは死闘そのものであった。大幹部達がそのパワーと術でライダー達に攻撃を仕掛ける。だがダブルライダーはそれを歴戦の勘でもってかろうじて凌いでいた。
 だが形勢は明らかにライダー達に不利であった。そして大幹部達は攻撃の手を緩めない。
「クッ、このままでは・・・・・・」
 ダブルライダーはそれぞれ片膝を着き敵を見た。敵は最早自らの優勢を確かなものにしていた。
「どうした、その程度か!?」
 黄金狼男は一号に対して言った。
「何を!」
 ライダーは立ち上がった。そして黄金狼男を睨みつけた。
「フフフ、そうでなくては面白くない」
 彼は不敵な声でそう言った。
「宿敵仮面ライダー、この手で完膚なきにまで叩き潰さねばな」
「そう、そうでなくては我等のプライドが癒されぬ」
 ヒルカメレオンも言った。
「さあ来いライダーよ。そして死ぬがいい」
「我等の手によってな」
 ヒルカメレオンはそう言うと再び姿を消した。黄金狼男腕を構えた。
「死ね」
 まずは黄金狼男が弾丸を放った。それは一号に一直線に向かって行く。
「来たか」
 一号はそれを見て呟いた。
「予想通りだな」
 冷静な声だった。だがそれは黄金狼男の耳には入っていなかった。
「そう来れば俺にもやり方がある」
 そう言うと脚に力を込めた。
「これでどうだっ!」
 そして大きく跳躍した。
「何っ!」
 弾丸は今まで一号がいたその場所を通り去った。一号は上に跳んでいた。
 黄金狼男は上を見上げた。ライダーはそこにいた。
「これで決まりだ、黄金狼男、いや」
 彼は既に身構えていた。
「ゾル大佐!」
 そして攻撃態勢に入った。
「ヌウウ、小癪なっ!」
 黄金狼男は上に向けて弾丸を放とうとする。だが一号の動きはそれより速かった。
「ライダァーーーーーー・・・・・・」
 技の名を叫びながら空中で回転する。
「月面キィーーーーーーーーック!」
 そして蹴りを放った。一号の得意技ライダーキックのパワーアップの一つである。
 それが黄金狼男の胸を直撃した。彼はダメージに耐え切れずその場に倒れた。
 二号はヒルカメレオンの気配を探っていた。だが掴むことはできずただその攻撃をかわすだけであった。
「フフフフフ」
 月夜にヒルカメレオンの声だけが響く。二号はその中にいた。
「どこにいるというのだ」
 姿は見えない。影すらない。
「しかしここにいるのは間違いない」
 そして辺りを見回した。
 だが気配も何処にも感じない。攻撃だけがこちらに加えられてくる。
「待てよ」
 二号はここで気付いた。
「目や他の器官に頼るからよくないんだ。ここは他のものを使おう」
 彼はそう言うとその場で止まった。
「ムッ!?」
 それを見たヒルカメレオンは思わず声を出した。
「何をするつもりかは知らんが」
 彼は一度姿を現わして二号に対して言った。
「私に小細工は通じぬ。諦めるのだな」
 そう言うと姿を消した。
「消えたか」
 二号はそれを見ようとしなかった。そして目を閉じ耳からの音を絶った。
「これでいい」
 そして辺りに気を張り巡らせた。
 それは目には見えない。だが確実に二号を中心に四方八方に伸びていた。
「どこにいるかだ」
 二号はその気を探った。そしてその中の一つに当たった。
「そこだっ!」
 二号は目を開いた。耳を開けた。そして跳んだ。
「トォッ!」
 そして空中で後ろに宙返りする。
「まさかっ!」
 ヒルカメレオンは自らの技が見破られたことを悟った。慌てて姿を現わす。
「こうなれば!」 
 そして攻撃を仕掛ける。空中に溶解液を飛ばす。
 だがそれは当たらない。二号の動きはそれよりも速かった。
 しかし攻撃を続ける。遂に二号をとらえた。
「無駄だっ!」
 彼はそれに対して言った。
「行くぞヒルカメレオン、いやブラック将軍!」
 そして技に入った。
「ライダァーーーーーーーー・・・・・・」
 身体に思いきり捻りを加える。そしてそのまま激しく回転する。
「卍キィーーーーーーーーーック!」
 二号の大技の一つだ。回転により絶大な力を発揮する。
 それがヒルカメレオンの胸を直撃した。二号は大きく後ろに跳んだ。
 そして着地した。ヒルカメレオンはガクリ、と両膝を着いた。
「やったか」
 二号はそれを見て言った。横に一号が来た。
「そっちも終わったか、一文字」
「ああ、何とかな」
 二号は盟友に対して答えた。
「ウググ・・・・・・」
 だがヒルカメレオンは立ち上がって来た。黄金狼男もである。
「なっ!」
 それを見た二人は再び身構えた。しかし彼等はそれに対して言った。
「安心しろ、最早戦うことはできぬ」
「この勝負、貴様等の勝ちだ」
 そしてゾル大佐とブラック将軍の姿に戻っていく。
「見事だダブルライダーよ、作戦を阻止し我等まで倒すとはな」
「まさかまたしても敗れるとはな。しかし見事な攻撃だった」
 二人はふらつきながらも言った。
「褒めてやる」
「・・・・・・・・・」
 ダブルライダーはそれを聞いても無言であった。何と言っていいかわからなかったのだ。
「フフフ、どうした?我等に勝って嬉しくはないのか」
「そうだ、よくぞこの私を倒した。胸を張るがいい」
「・・・・・・ああ」
 ゾル大佐とブラック将軍に言われ二人は応えた。
「だがこれで貴様等はバダンに勝ったわけではない」
 ゾル大佐は不敵に笑ってそう言った。
「まだ我等が偉大なる首領がおられる」
 ブラック将軍もである。顔には死相が出ていたがその目の光は強かった。
「首領の前に貴様等は血の海に染まるだろう」
「いや、その前に倒れるかも知れぬがな、フフフ」
「何、それはどういうことだ」
「答えろ」
 ダブルライダーはブラック将軍の言葉に対し問うた。
「残念だがそれを言う程私はお人好しではない」
「そうだ、だがそれはいずれわかることだ」
「どういうことだ」
 今度はゾル大佐に対し問うた。だが大佐も答えなかった。
「それは地獄で知ることになる」
「そう、そしてその時こそ我がバダンの悲願が達成される時、世界征服のな」
「クッ・・・・・・」
 二人は歯噛みした。だがどうすることもできなかった。
「ではさらばだ、ダブルライダーよ」
「地獄で待っているぞ」
 二人はそう言うとゆっくりと前に倒れていった。
「バダンバンザーーーーーーーイッ!」
 そう叫ぶと爆発して果てた。ショッカー、ゲルショッカーを代表する二人の大幹部がこのロンドンで最後を遂げたのである。
「やはり手強い奴等だったな」
「ああ、あの時よりもさらに手強かった」
 ダブルライダーはその二つの爆発を見ながら言った。ロンドンを巡る攻防はこうして幕を降ろした。

「ゾル大佐とブラック将軍が死んだか」
 死神博士と地獄大使はスペインにある基地の地下で円卓を囲んでロンドンでの話をしていた。
「うむ。ダブルライダーとの死闘の末にな」
 地獄大使は目の前に置かれた紅い葡萄酒を一口飲んでから言った。
「ダブルライダーか。やはりな」
 死神博士はそれを聞いて言った。
「あの二人を倒せるのは連中しかおらぬ。他のライダーでは無理だ」
「何故だ?」
 地獄大使はその言葉に対し問うた。
「あの二人はただ強いだけではない。そこには熟練の技があった。それを破ることのできる熟練の持ち主はダブルライダーしかおらぬということだ」
「成程な。ではあの二人を倒すことができるのは」
「我等しかおるまい」
「フフフフフ」
 二人はそこで葡萄酒を飲み干した。
「では存分にやるとしよう。場所はまずこのスペインだな」
「そうだな。それは確実だ」
 死神博士はここでグラスに酒を注ぎ込んだ。
「美味いか」
 そして地獄大使に対して問うた。
「うむ。スペインの酒か」
「そうだ。よくフランスやドイツのものと比べると下に見る者もいるがそんなに悪くはないだろう」
「そうだな。わしはあまり葡萄酒は飲まんがこれはなかなかいける」
「そうだろう、では飲むがいい」
「すまんな」
 地獄大使は死神博士に酒を注いでもらった。
「ダブルライダーもこのスペインに来るだろう。酒の香りと味に惹かれてな」
「面白い。ではこの酒は二人を呼び寄せる撒き餌ということか」
「違うな。二人が流す酒だ。死ぬ時にな」
「ほう、洒落た表現だな」
「私の故郷であるこのスペインに伝わる言葉だ」
 死神博士はそう断ったうえで話をはじめた。
「紅い葡萄酒は人の血なのだ。騎士はその日残した葡萄酒の分だけ血を流す。だからこの国では騎士は酒を残さない」
「そうなのか」
 地獄大使はそれを聞き考える顔をした。
「そうした話はわしの国にはないな。スペインにだけある話か」
「さあな。欧州全体にあるらしいが」
 死神博士はそう言うと葡萄酒を飲み干した。
「では今日は楽しもう。あの二人の弔いと。そして」
「ダブルライダーの死を願って」
「うむ」
 二人はそう言うと杯を打ち付け合った。そして心ゆくまで酒を楽しんだ。
「かなり飲んだな」
 地獄大使は自身の基地に上機嫌で帰って来た。足取りは確かだがその顔は真っ赤であった。
「美味い酒だったな」
 彼はあまり酒は強くない。だが嫌いかというとそうではない。
 酒は大好きである。そして飲むと普段にも増して感情の起伏が激しくなる。だが部下に暴力を振るったりはしない。
「相変わらず酒に溺れているな」
 自室に戻った彼に対し誰かが侮蔑の言葉を浴びせかけた。
「何、わしが何時酒に溺れたと・・・・・・」
 その声の方へ顔を向けた。すると地獄大使はその表情を見る見るうちに変えた。
「貴様か」
「そうだ。少し教えてやりたいことがあってな」
 そこには暗闇大使がいた。
「何だ。生憎わしは貴様と話をするつもりは毛頭ない」
「こちらも来たくはない。貴様の顔なぞ見るだけで吐き気をもよおす」
「では何故来たのだ」
「首領からのご指示だ」
「首領から!?」
 それを聞いて地獄大使は態度をあらためた。
「一体それはどういう了見でだ」
「聞きたいか」
 暗闇大使はそれを落ち着いた様子で見ながら問うた。
「もったいぶるな、早く言え」
「フン、相変わらず気が短いな」
 暗闇大使は従兄弟をせせら笑いながら言った。
「言うな、何なら首領から直接お聞きしてもいいのだぞ」
 地獄大使は鞭を突きつけながら言った。
「わかった、わかった。まあそう怒るな」
 頭に血が昇っている地獄大使に反比例し暗闇大使のそれは至って冷静なままである。静かな口調で話しはじめた。
「では言おう」
 彼はそんな従兄弟をあえて挑発するようにゆっくりと口を開いた。
「早く言え」
 地獄大使はそんな彼を急かした。
「貴様に新しい任務が下った」
「任務か」
 それを聞いた地獄大使の目が光った。
「そうだ。近いうちに新型の兵器が送られてくる」
「それは何だ!?」
「それはわしにもわからん」
 暗闇大使は口ではそう言った。だがそれは嘘であった。彼は実はそれが何であるか知っていたのだ。
「それを使って作戦担当地域を破壊せよ、とのことだ」
「核兵器のようなものか」
「さあな。だがそれは今残っている全ての大幹部達に送られるそうだ」
「そこまで計画が進んでいたのか」
「うむ。何時の間にかな」
 それの中心となっていたのは他ならぬ彼である。だが彼はそのことは伏せていた。
「我がバダンの計画は新しい段階に入った。最早一刻の猶予もならん」
「それはわかっている」
「大幹部や改造魔人達もその数を大きく減らした」
 数多くのバダンの大幹部や改造魔人達の最後は彼等もよく知っていた。
「そして実力者であるゾル大佐とブラック将軍が倒れたのを知り首領は断を下されたのだ」
「それが今回の新兵器か」
「そうだ。わしもこれを日本で使用するつもりだ」
「日本でか。だがあの地のバダンは既に壊滅しているのではないのか」
「再び上陸した。そして今橋頭堡を築いている」
「そうか」
「うむ。そして日本を死の国に変えてやるつもりだ」
 暗闇大使は無気味に笑ってそう言った。
「死の国に、か。ではわしも死の国を二つ三つ作ろうか」
「貴様に出来るのか」
「言うな」
 地獄大使は従兄弟を睨みつけた。
「貴様ごときに言われる筋合いはないわ」
「どうかな。あの時はわしの力がなくては何も出来なかったではないか」
 暗闇大使も負けていない。地獄大使を睨みかえし反論した。
「ほう、言ってくれるのう」
 地獄大使はその言葉を聞き再び顔を赤くさせた。今度は怒りで、である。
「貴様こそわしの陰に隠れてばかりだったではないか。参謀といっても所詮は日陰者よ」
「日陰者だとっ!」
 それを聞いた暗闇大使が激昂した。普段の冷静な様子からは信じられない程激しい口調であった。
「貴様がわしを利用していただけではないかっ!貴様はいつもわしを囮に自分だけ利を得ようとしていたのだ。フランス軍との時もアメリカ軍との時も・・・・・・」
「そして人民解放軍との時もだな」
 地獄大使は従兄弟が激昂したのが余程嬉しいのだろうか。ニタニタと笑いながらその顔を見ている。
「それは貴様が悪いのだ」
「何っ!」
「利用し、されるのがこの世界だ。何を甘いことを言っておる」
「貴様ァッ!」
 暗闇大使は鞭を振るおうとする。だが地獄大使もそれに対して身構えた。
「やるつもりか」
 そして不敵に笑った。
「わしは構わんが。だがどちらか死ぬことになるぞ」
「望むところだ。どのみち貴様とはいずれ決着をつけるつもりだからな」
「ほう、面白い。ではここでつけるとするか」
 二人は身構えて睨み合った。そして互いの隙を窺う。その時だった。
「待つがよい、二人共」
 不意にあの声がした。
「首領!」
 二人はその声を聞くと睨み合いをやめた。そして声のした方に身体を向けた。
「御前達は二人共私の大事な腹心だ。互いに争って何になるというのだ」
「これは失礼致しました」
「何とぞご容赦を」
 二人はその場に平伏した。
「わかればよい」
 首領はそれを許した。
「さあ立て。話がある」
 そして二人を立たせ話をはじめた。
「今回の作戦には我がバダンの浮沈がかかっている」
「ハッ」
 二人は立ちながらも頭を垂れてそれを聞いていた。
「それだけに御前達には期待している。何としても作戦を成功させるようにな」
「わかりました」
「そして仮面ライダーだが」
 首領はここでライダー達に話を向けた。
「おそらくその作戦を妨害にでるだろう。しかしそれは何としても排除せよ」
「わかりました」
「ライダーの打倒と合わせて作戦を進めるのだ。その為に犠牲がいくらかかろうが構わん」
「はい」
 その犠牲にはこの二人も入っている。だが首領はそれは口には出さなかった。
「頼むぞ。ライダーを倒した者には最高幹部の位を与えることを約束しよう」
「ハハァッ!」
 首領はそこまで言うとその場から気配を消した。そして何処かへと去って行った。
「最高幹部はわしのものだ」
 地獄大使は従兄弟に対して言った。
「何を言う、わしに決まっておる」
 暗闇大使も負けていない。両者はまた睨み合ったがすぐに視線を元に戻した。
「それはライダー達を先に倒した方のものだな」
「フン」
 二人は顔をそむけあうとその場を後にした。地獄大使は自室から別の部屋に移りながらこう呟いた。
「今に見ているがいい。ライダーは貴様ごときには倒せん」
 それは負け惜しみではなかった。確信をもって言っていた。
「ライダー達を倒すのはこのわしだ。わし以外に誰がいるというのだ」
 そして彼は部屋に入った。
「その時に精々歯噛みするがいい。そしてわしの後塵をきすのだ」
 そう言うと中に消えて行った。後には妖気だけが残っていた。

 本郷と一文字はロンドン塔を出ていた。そして立花と滝のところにいた。
「そうか、あの二人を倒したか」
 立花はそれを聞いて感慨深げに頷いた。
「手強い奴等だがな。よく倒した」
「流石に苦労しましたよ」
 一文字はそれに対し微笑んで言った。
「確かに。以前よりずっと強くなってましたね」
「以前よりもか」
 滝はそれを聞いて目を光らせた。
「鋼鉄参謀やオオカミ長官もそうだったようだな」
「よく知ってるな、滝」
 二人はそれを聞いて思わず言った。
「おいおい、俺だって馬鹿じゃない。それ位は勉強しているぜ」
 彼はそれを聞いて苦笑して言った。
「他のライダー達も皆苦労して世界各地のバダンと戦っている。それはよくわかっているつもりだ」
 滝自身もバダンと死闘を繰り返している。その為よくわかっていたのだ。
「中国でもそうだった。あのドクロ少佐の強さは以前とはケタ外れだった」
「ドクロ少佐か。あいつも厄介な奴だったな」
 立花もドクロ少佐のことはよく知っていた。
「忍術を使うだけじゃないからな。ストロンガーも超電子の力でやっと倒したような奴だ」
「ええ。実際に志郎の奴もかなり苦戦しましたよ。何とか倒すことはできましたが」
「だがその勝利は大きかったな」
 本郷はそれを聞いて言った。
「万里の長城が救われたんだからな。多くの命と共に」
 一文字が言った。
「ああ。そして御前達の今回の勝利も大きいぞ」
 立花と滝は二人に対して言った。
「実力者の二人を倒したんだ。これでバダンの戦力は大きく削がれた筈だ」
「ああ。いよいよバダンを叩き潰せる時が来たんだ。それも御前達のおかげだ」
 滝は右腕で拳を作りそれを振りながら言った。
「いや」
 だが二人はそれに対して首を横に振った。
「まだそう考えるには早いぜ、滝」
 まずは一文字が言った。
「そうだ、奴等のことだ。まだまだ戦力はあるだろう。それに」
「それに・・・・・・!?」
 滝は本郷の言葉を聞き思わず尋ねた。
「まだまだ手強い奴は残っている。油断はできない」
「そうか、そうだったな」
 滝はそれを聞き表情を引き締めた。
「やはり最後まで油断はできないか」
「ああ。ショッカーやゲルショッカーの時もそうだっただろ。奴等は追い詰められても絶対に諦めない。必ず何かをやってくる連中だ」
「そうだな。ショッカーでは地獄大使が自らを処刑台に送ってまでわし等を罠に陥れた」
 立花はパイプをくわえながらその時のことを思い出して言った。
「あの時でもかなり驚いたが」
 彼は話を続けた。
「ゲルショッカーの時はもっと凄いことをやってくれたな」
「ええ、ブラック将軍ですね」
「まさか自分を囮にするとは。あれには驚きましたよ」
 本郷と一文字はあの時の激戦を思い出していた。あの時は本郷もあわやというところであった。
「ましてや今はそのショッカーやゲルショッカーとは比較にならない程強大なバダンだ。おそらくこれ位じゃへこたれないだろうな」
「また何かやって来ると」
「当然だろうな」
 立花は滝の問いに答えた。
「まだ何をしてくるかはわからん」
 そう前ふりをしたうえで言う。
「だが確実にやってくる。この世界を崩壊させかねんようなことをな」
「ええ」
 本郷と一文字はその言葉に対して頷いた。
「絶対に阻止しなくちゃならん。さもないと世界はあの連中の思うがままにされちまう」
 そう言うと二人に顔を向けた。
「本郷、隼人」
「はい」
「はい」
 二人は名を呼ばれそれに答えた。
「絶対にそれを防ぐんだ。それが出来るのは御前達ライダーしかいない」
「はい」
 二人は強い身振りで頷いた。
「頼むぞ、世界は御前達にかかっている」
「ええ、それは」
「わかっていますよ」
 二人は答えた。そこで霧が出て来た。
「霧か」
 ロンドンの霧は最早この街の象徴ですらある。
「御前達がこの霧を守ったんだな」
 立花は最後にそう言った。そして戦士達は次の戦場に向かうのであった。


 霧の中の断頭台    完



                                 2004・6・22





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