『仮面ライダー』
 第三部
 最終章             十三人の自分
             
「フン、随分と数が減ったものだな」
 ドクトル=ゲーはゾル大佐とブラック将軍の死を自身の基地で聞いていた。
「これで残ったのは何人だ。最早数える程しかおらんではないか」
「はい、まことに残念ですが・・・・・・」
 報告した戦闘員は無念そうに頭を垂れた。
「私は仮面ラァーーーイダX3を倒せればそれでよいがな。しかし」
 彼はここで言葉を一旦区切った。
「戦力の消耗がな。ましてやブラック将軍が死んだとなると大きい」
 ブラック将軍は人の血から改造人間を復活させることができた。バダンの戦力は彼の力によるところも大きかったのである。
「そちらはまだ何とかなるようです。我がバダンの科学陣が総力を挙げて復活させておりますから」
「ならばよいがな。実際に我々の主戦力は怪人なのだしな」
「はい」
「あと新兵器が開発されているそうだな」
「ええ、それで今度の作戦を執り行なえと首領からご指示がありました」
「新兵器か」
 ドクトル=ゲーはそれを聞いて考える顔をした。
「それがどういうものかは知らないが」
 彼はそう前置きしたうえで言った。
「存分に使わせてもらいたいな。バダンの為には」
「はい」
 戦闘員はその言葉に対し頷いた。
「だがそれだけとは思えぬ」
「といいますと!?」
「うむ。さっきも言ったな。我等の主戦力は改造人間だと」
「はい」
「その改造人間がなくして我等は動かぬ。それを考えるとまた何かしらの改造人間も開発しているのではないか」
「まさか」
「だがな。暗闇大使のあの余裕を見るとそうではないか、とつい勘ぐってしまう」
 今のバダンの最高幹部は暗闇大使である。暫定的ではあるが首領が直接任命したものだ。
「その彼が何かしていたらとしたら。これは充分有り得るぞ」
「そうでしょうか。しかしもしそうだとしたら」
「わからん。だが彼も今は直属の部下はいない」
 バダンの改造人間達は皆日本各地でのライダー達との戦いで戦死していた。すくなくとも彼はそう聞いている。
「だがそれは新たに造ればいいだけだ」
「それはそうですが」
「その話も聞かないが。これはどういうことだと思う?」
「私に言われましても・・・・・・」
 戦闘員の知ることができることなぞほんの僅かである。大幹部が知らないことを知っている筈がなかった。ゲーも話していてそれに気付いた。
「済まん、貴様に尋ねても仕方のないことだった」
「はあ」
「それにしても何か妙な感じがするのだ」
 ドクトル=ゲーにはある疑念があった。
「何かある、暗闇大使は絶対に何かを企んでいる」
 彼も伊達にデストロンにおいて大幹部を勤めていたわけではない。その勘は鋭いものがあった。
「だが暫くは様子見だな」
 彼は腕を組んで言った。
「それも近いうちにわかるだろう」
 彼には予感があった。
「動くのはそれからでもいい。そしてそれよりも」
 ここで彼の目が光った。
「仮面ラァーーーーイダX3との戦いの準備をしておかなくてはな」
 彼は仇敵との対決に思いを馳せた。そしてその場から消えた。

 ヘビ女との戦いを終えた村雨良はそのまま北上しカナダに入った。
 カナダはアメリカの北にある。だがアメリカとは違い何処か影の薄い印象がある。
「そういえばカナダに来たのははじめてだったな」
 村雨はトロントに到着してそう呟いた。
 カナダはイギリス連邦に属している。その国土は広いが人口は少ない。そしてその国民性も比較的穏やかである。
 街並みにもそれはあらわれている。何処か物静かである。そして人々の服もアメリカに比べるとかなり地味である。
「気候も関係あるのかな」
 村雨はふとそう思った。カナダは冷帯及び寒帯に属する。北の方は北極圏にある。
 北の方では多くの島々がある。だがそこに人は殆どいない。北極圏は人が住むにはあまりに過酷であった。イヌイット達が吹雪の中で暮らしているだけであった。
 だがこのトロントはまだ比較的温厚な気候である。人口も比較的多く五〇〇万に達する。そして移民も多い。
 移民といえばアメリカであるがこのカナダも移民の国である。中国系等アジア系が多いことでも知られている。街中を見ればそこにはうどん屋等日本料理店の店もある。
「うどんか。そういえば長い間食べていないな」
 村雨は腹が空いていることに気付いた。そしてその店に入った。
 うどんは有り難いことに本格的な和風のうどんであった。よく海外に見られる変に甘かったりダシがコンソメやトリガラのものではなかった。そして麺もしっかりとしていた。
「美味かったな」
 食べた村雨の感想は率直であった。彼も祖国の味を忘れたわけではなかった。
 腹ごしらえを終えた彼はそのまま街中を歩いた。見ればかなりバラエティに富んだ街である。
 中華街があればイタリアンタウンもある。ネイティブ=カナディアン、すなわちインディアンの街もあった。カナダではインディアン達は主に森林地帯に住んでいたこともありそれ程弾圧はされなかったのである。アメリカのように虐殺などされはしなかったし天然痘菌が着いた毛布を渡されることもなかった。
 残念ながらこうしたことは人類の歴史においてはよくあることである。西部劇では白人の騎兵隊やガンマン達が悪辣で野蛮なインディアン達を倒しているその騎兵隊やガンマン達こそ侵略者であった。彼等は次々と西へ、西へと進みインディアン達を殺戮しその土地を奪っていった。丁度中国の歴代王朝が北方の遊牧民族達を野蛮人と罵りながら彼等の土地を開墾し北へ、北へと追いやったように。こういう意味でアメリカと中国はその根は同じであろう。
 白人と書いたがここには黒人も入る。彼等は確かに奴隷でありそうした意味で虐げられていただろう。しかし奴隷は当時非常に高価なものであった。むげには扱えなかった。ましてやアンクル=トムの小屋の様に虐待なぞできるものではなかったのである。確かに奴隷であり人権を無視したものであっても。奴隷制が廃止された後は彼等も企業を持つことができたし様々な文化活動が自由であった。差別はあった、にしろだ。
 そして彼等もまたアメリカ人であった。そう、今彼等は自らのことをアフリカ系アメリカ人と言う。その言葉は正しいだろう。彼等はアフリカにルーツを持つアメリカ人なのだから。アメリカにやって来た理由はどうであれ彼等もまた新大陸以外にそのルーツを持つアメリカ人なのだ。
 これは複雑な意味を持つ。彼等もまたインディアン達から見れば余所者であり侵略者であったのだ。
 実際にアフリカ系で構成された騎兵隊もあった。肌の黒いガンマンも大勢いた。カウボーイの三人に一人は黒人であった。そして彼等はインディアンの土地を侵略し彼等を殺戮しバッファローを撃ち殺していった。これも歴史である。差別されている者が差別をしないという道理はない。被害者が加害者になるケースも多いのだ。
 そうしたことをライダー達が知らない筈がない。彼等はそのうえで人間を、そしてこの地球を愛しているのだ。
「確かに人は多くの罪を犯してきた。しかし」
 そのインディアン達を救った多くの人達がいた。そしてそうした人達は今も大勢いる。人は決してその中に悪だけを持っているのではない。善も持っている。だからこそ今もこうして世界があるのだ。
 それがわからぬライダー達ではない。何故なら彼等こそその善を受けて戦う戦士達なのだから。
 村雨は街中を歩き回った。そして夕方になるとホテルへ帰った。そして休息をとった。

 村雨がトロントにいるという情報はバダンの上層部にも伝わっていた。
「そうか、村雨良はトロントにいるか」
 地下の全てが暗黒に包まれた部屋である。首領はそこで暗闇大使を前に話していた。
 見れば暗黒の中にバダンのエムブレムだけが浮かんでいる。声はそこから発せられている。
「はい、どうやらまた我等のことを探っているようです」
 暗闇大使は暗闇の中に立っていた。そして首領の声がするエムブレムを見上げていた。
「ふむ、そうか。あの街には何もないというのにな」
 首領は馬鹿にしたような声で言った。
「そういうわけではありません。丁度今五大湖周辺で作戦行動の準備をしている者がおります」
「ほほう、誰だ!?」
 首領はそれを聞いて意外そうに尋ねた。
「マシーン大元帥です」
 暗闇大使は答えた。
「そうか、マシーン大元帥がか」
 首領はそれを聞くと楽しそうに笑った。
「暫く見ないと思ったがそのようなところにいたのか」
「はい、五大湖工業地帯を狙っていたと思われます」
「あの男らしいな。あそこを狙うとは」
 五大湖工業地帯は北米で最大の工業地帯である。ドイツのルール工業地帯をも凌駕する世界最大の工業地帯の一つである。
「だがその作戦を一旦中止せよ、と伝えよ」
「ゼクロスに向かわせるのですね」
 暗闇大使は問うた。
「そうだ、あの男ならゼクロスとも互角に渡り合えるからな」
「ですが今の彼は」
 暗闇大使はここで口篭もった。
「どうした!?何かあるのか!?」
 首領はそれに対して問うた。
「はい。今の彼はヨロイ騎士と磁石団長を失っております。万全の力は出せない怖れがあります」
「それなら心配はない」
 首領は大使の危惧を一笑に付した。
「奴の力はデルザー随一だ。あの二人がいなくとも問題はない」
「そうでしょうか」
「フフフ、心配症だな、暗闇大使は」
 首領はそうした暗闇大使の様子を見て笑った。
「いや、慎重と言った方がよいか。確かにそれが貴様のよいところだ」
「お褒めに預かり光栄です」
 暗闇大使はその言葉に頭を垂れた。
「だがな、時として大胆にやるのも悪くはない。そう、貴様の従兄弟のようにな」
「・・・・・・わかりました」
 地獄大使のことを出せば彼は怒る、それを見越した上での言葉だった。
「フフフフフ」
 そして首領は含み笑いを出した。
「貴様にはこれから思う存分暴れてもらう。そしてこの世界をバダンのものとするのだ」
「ハッ」
 暗闇大使は頭を垂れた。
「その為には多くのものを学べ。そしてそれを己が力にするのだ」
 首領はそう言うと気配を消した。あとには暗闇大使だけが闇の中に残った。
「偉大なる首領に栄光あれ」
 彼もそう言うとその場をあとにした。そして消えていった。

 村雨はトロントの競馬場の中にいた。彼はギャンブルはしないがこうしたレースを見ることは好きだ。
「いい馬が揃ってるな」
 彼は馬達を見て思わず呟いた。
「俺もああした馬に乗りたいもんだ」
 そう話しているうちに馬達がスタートした。レースがはじまったのだ。
 まずは一頭出て来た。だがすぐに別の馬が出て来る。
「ん!?面白くなってきそうだな」
 レースは白熱していた。騎手達は身を屈め馬を走らせる。
 コーナーを曲がった。レースはより一層白熱していく。
「どれが勝つ!?これは見ごたえがあるぞ」
 一周目を終えた。そしてまた村雨の前に来た。
「あの黒い馬が特にいいな」
 彼は先頭を走る黒い馬を見て言った。その時だった。
 不意にその黒い馬に乗る騎手が立ち上がった。そして鞍から何かを取り出した。
「ムッ!?」
 それは小型のグレネードランチャーであった。それで村雨のいる席の方に攻撃を仕掛けて来たのだ。
「何ッ!?」
 村雨は咄嗟に腕から手裏剣を出した。そしてその手裏剣を投げ付けグレネードを空中で爆発させた。
「何だ、何が起こった!?」
 観客達は一斉に騒ぎ出す。そこへ無気味な叫び声を聞こえて来た。
「イィーーーーーーーッ!」
 バダンの戦闘員達が観客席から次々に姿を現わす。そして村雨がいた場所に殺到する。
「探せ、あの程度で死ぬような奴じゃない!」
 それを指揮する怪人が叫んだ。ゲルショッカーの切断怪人ワシカマギリである。
「しかし何処にも見当たりませんっ!」
「よく探せっ!」
 怪人の叱咤が飛ぶ。
「残念だったな」
 ここで村雨の声がした。
「そこかっ!」
 怪人と戦闘員達は声がした方へ顔を向けた。
 彼は観客席の最上段にいた。そして怪人達を見下ろしていた。
「仮面ライダーゼクロス・・・・・・」
「そうだ、貴様等の探していたのは俺だな」
 ゼクロスは怪人に対して答えた。
「フン、その通りだ」
 ワシガマギリは言った。
「貴様のその首、貰い受けに来た!」
 怪人はそう叫ぶと左手の鎌を放り投げて来た。
「ムッ!」
 ゼクロスはそれをかわした。そして右腕にナイフを持った。
 そしてそれで鎌を弾き返した。怪人は横に動き鎌をとった。
「電磁ナイフか。面白いものを持っている」
 そう言うと再び身構えた。
「ではこれはどうだ」
 そして今度は羽根を飛ばしてきた。
「ギィーーーーーラァーーーーーー」
 それは羽根の形をした爆弾であった。ゼクロスはそれを見て身構えた。
 ゼクロスは両肩から煙幕を出した。そしてその中に消えた。爆弾は全てかわされてしまった。
「今度は煙幕かっ!」
 すでに観客は皆逃げている。その戦闘員と怪人しかいない客席を煙が覆っていく。
「散るな、一箇所に集まれ!」
 それを見たワシカマギリは戦闘員達に指示を下した。そして戦闘員達が彼の周りに集まる。
 だがそこにゼクロスの攻撃がきた。衝撃集中爆弾である。
「しまった!」
 これにより戦闘員達は吹き飛んだ。そして煙幕が晴れた。
「我々が一箇所に集まることを狙っていたか」
 ワシカマギリは何とか立っていた。だが既に致命傷を受けていた。
「怖ろしい奴だ、そこまで考えていたとはな」
 そう言うと前に倒れた。そして爆死した。
「他にもいるな」
 ゼクロスは周りを探った。見れば下ではまだ馬達が走り回っている。
 その馬上には先程とは別の戦闘員達がいた。そしてボウガンから矢を放って来る。
「ムッ」
 ゼクロスは跳躍でそれをかわした。見れば怪人もいる。
「ギギーーーーーーーーーッ!」
 ネオショッカーの拳法怪人ドラゴンキングであった。怪人は奇声を発しながらゼクロスに顔を向けた。
「来い、仮面ライダーゼクロス!」
 そこへ一頭の馬が前に出て来た。鞍には誰も乗っていない。
「来いということか」
 ゼクロスはその馬を見て言った。
「ならば行ってやる、行くぞバダンの改造人間!」
 そして跳躍した。馬に飛び乗った。
「来たかっ!」
 それを見た戦闘員達がボウガンを捨て剣を抜く。そして一斉に切りかかる。
「ムンッ!」
 ゼクロスはそれに対しナイフで対抗する。剣の方がリーチがあったがそれを寄せ付けない。見事なナイフ捌きであった。
 戦闘員達は逆に次々と倒されていく。ゼクロスは馬を駆りながら周囲に群がる戦闘員達を倒していく。
「やはり戦闘員達では無理か」
 それを見たドラゴンキングが言った。
「ならば俺がやろう」
 そして馬を飛ばしゼクロスの横に来た。
「死ねぇっ!」
 両手に持つサイで攻撃を仕掛ける。ゼクロスはそれをナイフで受けた。
「フフフ、見事だ。俺のサイを受けるとはな」
 ドラゴンキングはそれを見てニヤリ、と笑った。
「貴様のサイなぞ」
 ゼクロスは冷たい口調で言った。
「どうということはない」
「言ってくれるな」
 ドラゴンキングは内心憤ったがそれで我を忘れることはなかった。
 再び攻撃に移る。両手でサイを繰り出し続ける。
「フン」
 ゼクロスは一本のナイフでそれを受け続ける。そして隙を窺う。
 さしものドラゴンキングにも疲れがでてきた。それを見逃すゼクロスではない。
「今だな」
 そして攻撃を繰り出した。ナイフをそのまま投げてきたのだ。
「ウワッ!」
 それは怪人の喉を貫いた。ドラゴンキングはそれを受けて落馬した。そしてそのまま爆死した。
「やったか」
 馬はその間にも駆けている。ゼクロスはそれを見送り呟いた。
「やりおるな。瞬く間に二体の怪人を倒すとは」
 そこで男の声がした。
「貴様か」
 ゼクロスはその声がした方を振り向いた。
 見ればそこには赤い馬に跨る男がいた。それはマシーン大元帥であった。
「マシーン大元帥、カナダには貴様がいたのか」
「そうだ。別の作戦でここに来ていたのだがな」
 マシーン大元帥はこちらに馬を進めながら言った。
「だが予定が変わった」
「何故だ!?」
「仮面ライダーゼクロス、貴様を倒す為だ」
 彼は低い声でそう言った。
「俺をか」
 ゼクロスはそれに対して言った。
「そうだ。貴様がいては作戦を実行出来ぬからな」
「それは有り難いな」
 ゼクロスはそれを聞いて言った。
「俺の任務は貴様等の野望を阻止すること、まさかここにいるだけでそれが出来るとはな」
「だがそれもここまでだ」
 マシーン大元帥は彼に対して言った。
「貴様はこの私が倒す」
「出来るかな、貴様に」
「私を侮らんことだ」
 彼はそう言うと額からビームを放って来た。
「ムッ」
 だがゼクロスはそれを身体を捻ってかわした。
「あれをかわしたか」
 大元帥はそれを見て言った。
「だがこれはどうだ!?」
 そして今度は鞍からマシンガンを出して来た。
「喰らえ」
 マシンガンを放つ。だがその時には既にゼクロスはそこにはいなかった。
「何処だ!?」
「ここだ」
 彼は上にいた。そしてそこから攻撃を仕掛けるべく急降下をかけて来た。
「ムムム」
 見ればゼクロスは五人いる。分身を使っているようだ。
「これが貴様によけられるか」
 五人のゼクロスはそれぞれ攻撃を繰り出して来た。しかしマシーン大元帥はそれを全てかわした。
「何ッ!?」
 何と彼はミイラの棺に全身を覆ってそれを防いだのだ。
「生憎だったな。私にはこういった楯もある」
「クッ・・・・・・」
 ゼクロスは着地して歯噛みした。五人の彼は一人に戻っていた。
「どうやら貴様は倒しがいのある男のようだ」
 彼は棺の中から言った。
「仮面ライダーストロンガーと同じくな。ならば私も全力で相手をしてやろう」
「言うな、この魔人がっ!」
 ゼクロスは珍しく感情を露わにして叫んだ。
「貴様のせいで姉さんは死んだ。それを忘れたか!」
「姉!?フフフ、村雨しずかのことか」
 彼はそれを聞くと笑って言った。
「それがどうしたというのだ。我がバダンが人間のことなどに意を払うと思っているのか」
「何ッ!」
 彼はさらに激昂した。そして棺に手裏剣を投げ付けた。
「無駄だ」
 だがマシーン大元帥にそれは全く効きめがなかった。
「また会おう、ゼクロスよ」
 彼はそう言うと棺ごと姿を消した。
「待てっ!」
 ゼクロスはさらに攻撃を続けようとする。だが棺はその前に消えていった。
「心配するな。貴様はもうすぐ倒れることになる。このオタワでな」
 彼の声だけが競馬場に響く。
「その時まで名残を惜しんでおけ。もうすぐだからな」
「言うな、それは貴様のことだっ!」
 ゼクロスは叫んだ。だがその声はマシーン大元帥には届かなかった。彼はその前に姿を消してしまっていた。
 あとには誰もいなかった。馬達とゼクロスだけがいた。
「マシーン大元帥、いやバダン」
 彼はマシーン大元帥が消えた方を怒りに震えながら見ていた。
「姉さんの仇・・・・・・。必ず忘れない」
 そして言った。
「貴様等だけは必ず倒す、そして姉さんの仇をとる、そして世界に平和を取り戻してやる!」
 彼の声が競馬場に響いた。それは雷神の怒りを呼びその場に雨をもたらした。そしてゼクロスは雷が降り注ぐ中その場を去って行った。

「どうやらゼクロスが勝ったようだな」
 暗闇大使は競馬場での戦いの報告を聞いて頷いた。
「はい。マシーン大元帥とも一戦あったようです」
 報告をした戦闘員が答えた。
「ふむ。マシーン大元帥自ら前哨戦に出て来るとはな」
「それだけあの男を警戒しているということでしょうか」
「おそらくな。口ではどう言ってもやはり油断のならない相手だからな、ゼクロスは」
「はい。我がバダンの総力を挙げて作り上げただけはあります。惜しむらくはそれが今敵に回っているということです」
「うむ。だがその技術をコピーしておいて正解だったな」
 暗闇大使はそれを聞いて言った。
「おかげで新たな戦士達が甦った」
 そう言うと右に顔を向けた。そこは改造室であった。
 そこで何人かの改造人間が横たえられている。そのシルエットは何かに酷似していた。
「遂にこの者達が姿を現わす時が来たな」
「はい、ここまでやるのには骨が折れました」
 その戦闘員は苦労を思い出すようにして言った。
「フフフ、だがその介があったというものだ」
 暗闇大使はそれに対してねぎらいをかけるようにして言った。
「この者達がバダンの第二の切り札となるのだからな」
「はい、あの兵器と並ぶ我等の切り札ですな」
「そうだ、今までの作戦はほんの序章に過ぎん」
 暗闇大使はその改造人間達を目を細めて見ながら言った。
「これから起こることに比べればな」
「はい。これで世界は我がバダンのものとなりましょう」
「そうだ、この世界が偉大なる我が首領のものとなるのだ」
「そして全てが闇に覆われる」
「恐怖と絶望が支配する世界が訪れる」
「フフフ・・・・・・」
「ハハハハハハハ・・・・・・」
 彼等は暗黒に包まれた。そしてその中で無気味な笑いが何時までも響いていた。

 競馬場での戦いを終えたゼクロスは村雨に戻った。そしてオンタリオ湖を眺めていた。
「綺麗な湖だな」
 彼はそれを見て感慨に耽っていた。
「戦いが終わればこうした場所に住みたい」
 そしてそう呟いた。
「何時になるかはわからないがな」
 そうであった。彼等の戦いは何時終わるかわからない。それは彼等自身が最もよくわかっていた。
「しかし何時かは終わりますよ」
 そこで誰かの声がした。
「そうだといいのですが」
 村雨は振り返らずその声に対し答えた。
「役さんはどうお考えですか」
 そして横にやって来た役に尋ねた。
「そうですね」
 どうやら彼は村雨がこのカナダに来ることを前から知っていたようである。
「あのショッカーのことをご存知ですか」
「はい」
 村雨は答えた。
「本郷さんと一文字さんが戦った組織ですね。あの首領がはじめて作った組織らしいですが」
「はい。その戦力は強大でした。そしてこちらは最初は本郷さん一人でした」
 本郷は一人であった。そして最初は孤独な戦いを強いられていたのだ。
「ですが次第に仲間が増え一文字さんも加わりました。そしてショッカーも倒れたのです」
「しかしすぐにゲルショッカーができた」
「はい」
 役は頷いた。
「ゲルショッカーの改造人間達はショッカーのそれよりも強力でした」
 彼等は二種類の動物を使って改造人間を作り上げた。その戦闘能力はショッカーの改造人間達を遥かに凌駕していた
のである。
「しかし彼等もダブルライダーの前に倒れました。悪の組織はそれからも次々に姿を現わしました。しかし」
 役はここで言葉を切った。
「彼等はことごとく崩壊しています」
「ですね。悪の組織は最後は必ず崩壊しています」
「バダンもそれは同じ」
 役はここでこう言った。
「村雨さん、バダンといえど無敵ではありません」
 彼は村雨を諭すように、励ますようにして言った。
「必ず戦力には限りがありそして弱点も必ずあるのです」
「弱点・・・・・・」
 村雨はそれを聞いて考える目をした。
「弱点と言いましょうか」
 彼はここでまた考える顔をした。
「天敵です」
「天敵、ですか」
 益々話が読めなくなった。彼は少し困ったような顔をした。
「わかりやすく言いましょうか」
 役はここで微笑んでみせた。
「お願いします」
 村雨は苦笑してそれを望んだ。
「はい、全ての悪の組織はライダー達によって滅ぼされています」
「ライダー達によって」
「そうです、ライダー達はどれ程強大な組織が相手でも勝利を収めてきました。そして世界を守ってきたのです」
 役は話を続けた。
「あの首領の野望はライダー達によって全て阻止されてきました」
「どれだけ悪知恵を働かせても」
「そうです。それこそライダー達が彼等にとって最大の脅威である証なのです」
 役の声はこれまでとは少し違い力が入っていた。
「そして村雨さん」
 彼はここで村雨に強い視線を浴びせた。
「貴方もまたそのライダーの一人なのです」
「俺も・・・・・・」
 そう言われた彼の顔が引き締まった。
「はい、貴方はそのことをよく知って下さい」
 彼の声は強いままであった。
「貴方はバダンを滅ぼし、世界を救うことのできる男なのです」
「俺が、ですか」
 彼はここで少し自嘲気味の声を出した。
「姉さん一人救えなかった男が」
「はい」
 話を聞いているのか、いないのか役は彼に対して言った。
「貴方の力が今必要なのですよ」
「役さん・・・・・・」
 彼は意外に思った。今まで役はクールで感情を表に出さない男であった。だが今はどうだ。
 こうして強い声で自分に語りかけてくる。そしてその声は村雨の心を激しく打ってくる。
「皆そうでした」
 役は言った。
「どのライダー達も。皆大切なものを彼等に奪われています」
「・・・・・・・・・」
 それは知っているつもりであった。彼等の多くは恩師や親友、家族を悪の組織により殺されている。そしてその憎しみの為に立ち上がったのだ。
 風見志郎も神敬介も肉親を殺されている。結城丈二は右腕と自分を慕う部下達をヨロイ元帥の追手により殺された。あの城茂も親友をブラックサタンに殺された。そしてデルザー軍団との死闘でかけがえのないものを失ったという。
「かけがいのないものか・・・・・・」
 それが何なのか、はたまた誰なのか、彼も他のライダー達も知らない。知っているのは城と立花だけである。だが彼等はそのことになると決して口を開こうとはしない。
 アマゾンも筑波洋も沖一也もだ。彼等も恩師や友人を殺されている。その憎しみ、哀しみが彼等を戦いに駆り立てたのだ。
「しかしそれだけではありませんでした」
 役は言った。
「それだけで悪と戦えるものではありません。憎しみからは何も生まれません」
「はい」
 それは村雨にもようやくわかってきた。ライダー達を見ているうちに。
「人としての心、愛を知ってこそ世界を救えるのです。そう、貴方が今知ろうとしているものです」
「そうでしょうか」
 そう言われても実感がない。
「はい、貴方は今その心もライダーになろうとしています」
「心も、ですか」
「おそらくこのカナダでそれを掴むことになるでしょう。そしてその時こそ」
 彼はここでまた村雨に強く熱い視線を浴びせた。
「貴方が世界を救える人になる時です」
 彼はそこまで言うとその場をあとにした。
「世界を、か」
 村雨はその言葉を口の中で繰り返した。
「俺にできるのだろうか」
 だがやらなければならない、ということはわかっていた。彼は戦えるのだ。ならば悩む前にやらなければならないことがある。そう、バダンと戦うことだ。
「行くか」
 彼は立った。そして戦場に向かう決意を固めた。

 それから数日経った。バダンはその間姿を見せなかった。
「だからといって油断はできませんね」
 二人はイタリアン=レストランでスパゲティを食べながら打ち合わせをしていた。
「はい、おそらく今頃は隙を窺っているのでしょう」
 村雨はパスタを口に入れて言った。
「こうしている間にも」
「そうでしょうね」
 役がそれに相槌を打った。
「それにしても」
 彼はここで微笑んだ。
「どうしました?」
 村雨は突如として表情を変えた彼を見てキョトンとした。
「ここのスパゲティは美味しいですね」
「そんなことですか」
 それを聞いた村雨は苦笑した。
「いえ、笑い事ではないのです、これが」
 役は左手で彼を制しながら言った。
「何故ならカナダのスパゲティ程まずいものはそうそうありませんから」
「そうなのですか?」
 それは少し信じられなかった。
「今食べているこれは美味しいですよ」
 ごくありふれたミートソースである。イタリア人がシェフをしているだけあって程よい湯で加減だ。
「それが珍しいのです」
 役はあくまでそう言った。
「いえ、カナダに最初来た時まずレストランでスパゲティを食べたのですけれどね」
「どんなものだったのですか?」
「もう食べられたものではありません」
 彼は苦い顔をして言った。
「パスタが完全にふやけているんです。もうコシも何もあったものではあるません」
「それはまずそうですね」
「お勧めはしませんよ。けれど土産話にはいいかも知れませんね」
「いえ、遠慮します」
 村雨は苦笑して答えた。
 二人は食事を終えると再びトロントの街を歩き回った。そしてロイヤル=オンタリオ美術館に入った。
 ここはカナダ最大の美術館である。一九一四年に建てられた美術館でありその規模大きい。
「そういえばこの国はイギリス連邦の一員でしたね」
「ええ」
 役は答えた。カナダの国家元首はイギリス国王となっている。だが行政は首相が執り行なっている。こうしたイギリス連邦に属する国として他にオーストラリアやニュージーランドがある。
「だから博物館や美術館に凝るんですね」
「そういえばそうですね」
 役はそれを聞いて笑って答えた。
「それには気付きませんでした」
「俺も今ふと思ったことですけれどね」
 村雨は答えた。
 ここには色々な展示物がある。本物と見まごうばかりの蝙蝠の洞窟にエジプトのミイラ、恐竜のギャラリー等がある。その他には中国の仏教絵画や仏像等もある。
「わりかしバラエティに富んでいますね」
「そうですね。カナダというとネイティブのものばかりかな、と思ったのですが」
 二人は展示物を眺めながら中を歩いていた。そして恐竜のギャラリーに入った。
 そこは恐竜の骨格標本や化石等が置かれていた。どれもかなり巨大である。
「大昔はこんなのが地上を歩き回っていたんですよね」
 村雨はティラノザウルスの骨格を見上げて言った。
「ええ。今思うと信じられない話ですね」
 役がそれに対し相槌をうった。見れば他にエラスモサウルスやトリケラトプスの骨格もある。
「こうした恐竜達が今生きていたらどうなっていたでしょうね」
「そうですね」
 役はそれを聞いてふと考えた。
「我々人類が恐竜と共存していたら、ですね」
「ええ」
「そうですね」
 役はそれを聞いて考え込んだ。
「それはそれで面白い世界になっていたでしょうね。トリケラトプスの背中に乗ったりして」
「面白そうですね」
「海に行けばイクチオサウルスがいて。いや、そうした世界もなかなかいいかも」
「ティラノサウルスやエラスモサウルスがいますけれどね」
「まあライオンや虎もいますから、現実に」
「ははは、確かに」
 かっては虎やライオンは今とは比較にならない程怖れられていた。銃が人々を守るようになるまでは彼等もまた人間にとって脅威であったのだ。
「それにしても本当に大きい」
 村雨は感嘆を込めてそのティラノサウルスの骨格を見上げた。
「この巨体で世界を支配していたのかもな。暴君竜とはよく言ったものだ」
 ティラノサウルスは恐竜達の中でも最も大型で強い力を持っていたと言われている。実際にその骨格を見るとそれも頷ける。
「今この世界にいたらどうなっていたかな。そういうことを考えるのも悪くないな」
 村雨はそうやって想像することを楽しんでいた。
「骨格だけでも動いたら面白いんだけれどな」
 その時だった。その骨格がピクリ、と動いた。
「ムッ!?」
「何ッ!?」
 村雨と役はそれを見て一瞬身構えた。
 恐竜の骨格が一斉に動き出した。そしてそれは村雨と役に向かって襲い掛かって来た。
「くっ、まさか本当に動くとは!」
 村雨はティラノサウルスの骨の尻尾を上に跳びかわした。そして天井を掴んだ。
 空中でゼクロスに変身していた。そしてすぐに急降下する。
「喰らえっ!」
 その拳でティラノサウルスの脳天を撃つ。それを受けた暴君の骨は粉々に砕け散った。
「銃は通用しないか」
 役はエラスモサウルスの牙をかわしながら言った。
「ここは俺に任せて!」
 そこにゼクロスがやって来る。そしてエラスモサウルスを倒した。
 だが恐竜達は次々と襲い掛かって来る。ガチガチと骨が鳴る音がする。
 ゼクロスはそれを迎え撃とうとする。役は他の客を安全な場所に避難さようとする。
 だが一人逃げ遅れていた。小さな黒人の女の子だ。
 そこへ恐竜が襲い掛かる。トリケラトプスだ。
「しまった!」
 役が向かおうとする。だが他の客達を避難させるのだけで手が一杯だ。彼がいなくてはこの客達が危ない。
「ここは俺がっ!」
 そこでゼクロスが跳んだ。彼は恐竜達をその拳で退けるとトリケラトプスと少女の間に跳んだ。
 トリケラトプスの角が少女に迫る。だがその前にゼクロスがやって来た。
「させんっ!」
 そしてその角を受け止めた。角はゼクロスの腹を貫いた。
「グオッ・・・・・・!」
 思わず呻き声が出る。床に血が滴る。
「役さん・・・・・・」
 だが彼はそれに怯むことなく役の方を振り向いた。
「は、はい」
 そのあまりもの光景に役も絶句していた。だが彼に声をかけられ役も我を取り戻した。
「その娘を早く安全な場所へ」
「わかりました」
 他の客はようやく避難していた。役はその少女の元へ素早く駆け寄ると彼女を抱いた。
 そしてその少女を安全な場所へ連れて行った。そして彼はゼクロスの元へ戻った。
「大丈夫ですか」
「え、ええ」
 既にトリケラトプスは退けていた。だが腹からはまだ血が零れ落ちている。
「その傷で大丈夫もなかろう」
 そこで何者かの声がした。
「バダンかっ!」
「いかにも」
 そこで何者かの声がした。
「ァアーーーーーーーーッ」
 ショッカーの翼竜怪人プラノドンであった。彼はゼクロスの前に飛んで来た。
「この恐竜は貴様の仕業か」
 ゼクロスは怪人を指差して問い詰めた。
「だとしたらどうする?」
 怪人は不敵に笑って言った。それは肯定の言葉であった。
「許さん」
 ゼクロスは手裏剣を抜いた。そしてそれを投げ付けた。
「フン、無駄なことを」
 怪人は口からロケット弾を発射した。そしてそれで手裏剣を撃ち落とした。
「無駄だと思うか」
 後ろから声がした。ゼクロスのその間に怪人の後ろに回っていたのだ。
「なっ!」
 怪人は慌てて後ろに攻撃を仕掛けようとする。だが遅かった。
 ゼクロスは既にナイフを抜いていた。そしてそれで怪人の首を掻き切った。
「ケアッ!」
 怪人は首から鮮血をほとぼしらせながら床に倒れた。そしてそのまま爆死した。
「まだいるなっ!」 
 ゼクロスはまだ気を緩めてはいなかった。そして後ろを振り向くとそこへ手裏剣を投げた。
「いかにも」
 手裏剣は何者かによって叩き落とされてしまった。
「この俺がいることに気付くとはな」
 また怪人が姿を現わした。ネオショッカーの採血怪人コウモルジンである。
「キキキキキキキ」
 怪人は無気味な声を出しつつ天井に逆さに貼り付いた。
「仮面ライダーゼクロスよ」
 怪人はゼクロスを見下ろしながら言った。
「美味そうな血を流しているな」
 舌なめずりをしている。まるで御馳走を見た時のように。
「生憎だがな」
 ゼクロスはそれに対して言った。
「貴様等にやるものは一切ない。そして俺が求めるのは」
 そう言うと同時に跳んだ。
「貴様等の命だけだ」
 彼はその首にナイフを突き立てんとした。
「フン」
 コウモルジンはそれを何なくかわした。
「プラノドンにやったことが俺にも通用すると思ったか」
そしてその場から飛び去った。
「だがプラノドンの仇はとらせてもらう」
「何を」
 怪人は空中戦を挑んできた。ゼクロスは着地して上から来る怪人に対して身構えた。
「来るな」
 怪人は空中での旋回を止め来た。ゼクロスはそれに対して煙幕を張った。
「またそれか、だがな」
 コウモルジンはニヤリ、と笑った。
「俺には通用せん」
 彼は蝙蝠の改造人間である。口から超音波を発して行動する。その為煙幕は通用しないのである。
「それはわかっている」
 そこでゼクロスの声がした。
「ではこれはどうだ」
 目の前にゼクロスが姿を現わした。
「わざわざ死にに来たかあっ!」
 怪人は爪で切り裂かんとした。だがそれは幻影だった。
「しまった!超音波を使えば・・・・・・!」
 モウモルジンは悔やんだ。だが後悔先に立たず、である。
 すぐにゼクロスが攻撃を仕掛けて来るであろう。怪人は場所を移した。
「おのれ、何処だ」
 怪人は超音波を発しゼクロスを探す。だが何処にもいない。
「ムムウ、しかしここにいるのは間違いない」
「その通りだ」
 そこで崩れ落ちた恐竜の化石の残骸の中から声がした。
「そこかあっ!」 
 怪人は口から毒液を発した。それは化石を溶かした。しかしその中にゼクロスはいなかった。
「そこでもないか・・・・・・」
「そうだ、俺はここにいる」
 今度は上から声がした。

「今度は上かっ!」
 上へ向けて攻撃を仕掛ける。しかしそこに彼はいなかった。
「おのれっ、またしても・・・・・・」
 怪人は再び焦りはじめた。それがゼクロスの狙いだろうか、再び声がした。
「残念だったな。折角俺がここにいるのに」
「言うなっ!」
 今度は破れかぶれに毒液を飛ばしてきた。だがそのようなものが当たる筈もない。ただ美術館の床や化石を溶かしていくだけであった。
「死ね」 
 そこで声がした。ゼクロスが真横からマイクロチェーンを放って来たのである。
「ウググ・・・・・・」
 それは怪人の首を絞めた。ゼクロスはそのまま上に跳んだ。だが怪人もまだ諦めない。その翼で飛翔した。
「そうくるか。ならば」
 ゼクロスはそれに電撃を走らせた。それは瞬く間に怪人の全身を襲った。
「キキィーーーーーーーッ!」
 怪人は断末魔の声をあげた。そして無残に焼け焦げ爆死した。
「これで終わりか」 
 着地したゼクロスはその爆発を見て呟いた。その時だった。
「・・・・・・くっ」
 腹を押さえ方膝を着いた。彼は今になりようやく傷のことを思い出したのだ。
「お見事です、その傷で怪人達をよく倒されました」
 そこへ役が出て来た。
「いや、見事も何も」
 村雨に戻った彼は苦笑しながらそれに応えた。
「こんな無様な傷を負いましたし」
「いえ、それは無様な傷などではありませんよ」
 役は微笑んでそれに対して言った。
「立派な勲章ですよ」
「勲章!?」
 村雨はその言葉に思わず顔をあげた。
「はい、少女を守る為におった名誉の負傷です。それを勲章と言わずして何と言いましょう」
「またそんな」
 村雨は立ち上がった。だが苦笑はまだ崩していない。
「他のライダー達もそうですよ。皆数々の勲章を背負っています。目に見えない勲章を」
「それがこの傷ですか」
「はい。ライダー達はその恐るべき回復能力で傷跡も消してしまいます。しかし」
 彼はここで表情を引き締めた。
「その勲章は残ります。ただ彼等はそれを誇りにしないだけで」
「誇りにしないのですか」
「そうです、彼等にとってそれは当然のことなのですか」
「ライダーとしてですか?」
「いえ」
 役はその言葉には首を横に振った。
「人間としてです」
「人間として、ですか」
「はい。人間であるからこそ他の者を助ける、それだけです。それが彼等の行動原理なのです」
「心は人間だから、ですね」
 彼は役の言いたいことがわかった。だからこそ役が言う前に言ったのだ。
「そうです。人間だからこそ同じ人間を愛し、慈しむ。それ以外に何の理由があるのでしょう」
「そう言われてみると凄く単純なものなのですね」
「そうですね。しかし正義も悪も本来そうしたものなのです」
「というと!?」
 村雨は意外に思った。彼はライダーの行動原理もバダンの野心ももっと複雑なものだと思っていたからだ。
「人を助け、愛することが善、人に危害を及ぼすのが悪ではないでしょうか」
 役は言った。
「あくまで私個人の考えですが」
 そう断ったうえで。
「けれど案外そうしたものかも知れませんよ。ライダーによってはそんなに深く考えないで戦っていた人もいるようですから。今はどうかわかりませんが」
 アマゾンや城のことを言っているのであろうか。
「難しく考えるとかえって駄目な場合もあります。時にはこうやって簡単に考えるのもいいですよ」
「そうしたものですか」
「ええ。人の歩く道なんて一つではないですし。ライダーもそれぞれの戦い方、考え方があります」
 それはよくわかっていた。彼自身も今までそうして独自の戦い方を貫いてきたのだから。
 しかし正義とは何か、漠然としかわかってはいなかった。バダンを倒し世界に平和を取り戻すことが正義なのだと思っていたのだ。
「それも正義ですよ」
 役はまた言った。
「間違いではありません。正義派一つではありません」
「そうなのですか」
「しかし悪もまた一つではない」
「悪も・・・・・・」
「はい。だからこそ首領の下にこれ程までに闇の者達が集まってくるのです」
「彼等それぞれにもそれぞれの悪があるということですか」
「そうですね。今まで大幹部も改造魔人もそれぞれの戦い方や考え方があったでしょう」
「はい」
 二人は美術館を出ていた。歩きながら話をしていたのだ。
「それはライダーと同じです。ライダーがそれぞれの正義を背負っているように彼等もまたそれぞれの悪を信じているのです」
「それぞれの・・・・・・」
「しかし正義も悪も根は一つです」
 役は美術館の出口をくぐったところでこう言った。
「それぞれ一つの大きな幹から枝分かれしているに過ぎないのです」
「そうなのですか」
「はい。ですから信じるものは同じです」
「戦う目的も同じ」
「そういうことです。そして貴方も今それをご自身の心の内に留められました」
「えっ、まさか・・・・・・」
 村雨はそれはお世辞だと思った。だが役はそれに対して言った。
「その傷が何よりの証です」
 そう言うとその腹部の傷を指し示した。
「その勲章が」
「勲章ですか」
「はい、それこそが貴方が正義の為に戦う戦士である証です。それは忘れないで下さい」
「わかりました」
 村雨は笑顔で頷いた。そして二人はその場をあとにした。

 マシーン大元帥は美術館での戦いの報告を自身の基地の指令室で聞いていた。
「そうか、やはりそう簡単にはいかぬか」
 彼は戦いの結果をある程度予想していたようである。まるで最初からわかっていたように頷いた。
「やはり私が出向かねばならないようだな、直々に」
「しかしそれは・・・・・・」
 マシーン大元帥自身を危険にさらすことになる、配下の戦闘員達はそれを制止しようとした。だが大元帥はかえって彼等を手で制した。
「心配無用だ。私の力は知っていよう」
「しかし・・・・・・」
「わかったな」
「・・・・・・はい」
 その言葉には有無を言わせぬ重みがあった。彼等はそれに従った。
「ところで美術館の戦いだが」
 彼はその戦闘員達に対して尋ねた。
「どうやら役清明が来ているようだな」
「はい、ゼクロスの後方支援を務めていたようです」
 戦闘員の一人が言った。
「そうか。一条ルミはいないのだな」
「どうもシアトルでの戦いの後日本に先に帰らせたようです。おそらく巻き添えになるのを心配したのでしょう」
「そうか。村雨という男頭も回るようだな」
「そのようですね。それは奴の戦い方を見てもわかります」
「うむ。どうやら相当手強い男のようだな。まあ当然か。最高の人材に最高の改造手術を施したのだからな」
 彼はそう言ってニヤリと笑った。ゼクロス開発の責任者であっただけにそれはよくわかっていた。
「思えばこうなる運命だったか」
 彼は感慨を込めてそう言った。
「奴は私が見出した。そして今こうして対峙するようになるとはな」
 来るべき戦いに胸を躍らせているようであった。
「面白い。それではとっておきの場所に奴を案内してやろう」
「それは何処ですか?」
「フフフフフ」
 彼は戦闘員の問いかけに対し不敵に笑った。
「すぐにわかる。すぐにな」
 彼はそう言うと指令室を出た。そして自室に向かった。
「ヨロイ騎士、磁石団長よ」
 彼は死んだ同志達の名を呟いた。
「貴様等の仇をとる前に弔いの生け贄を捧げてやるぞ」
 そう言うと自室に入った。そしてその扉が硬く閉じられた。

「ふむ、自ら戦いに赴くつもりか」
 ゼネラルシャドウは赤い円卓の上でトランプ占いに興じていた。そして占いの結果を見てそう呟いた。
「フン、また占いをしているのか」
 そこに百目タイタンが姿を現わした。
「無駄なことを。占いで何がわかるというのだ」
「未来がわかる」
 シャドウはタイタンに顔を向けて言った。
「未来か。そんなものは奪い取るものだ」
 タイタンはそれに対して反論した。
「この力でな」
 そして掌に火の玉を浮き上がらせた。
「それもいいだろう」
 シャドウはそれに対して落ち着き払った態度で返した。
「だがあらかじめ知っていれば何かと対策を講じられる」
「そんなものか。俺は常に幾通りも事前に用意しておきがな」
「その為に死神博士に協力を要請したのだな」
「そうだ。あの男を倒す為にだ」
 彼はその無数の目を光らせて言った。
「それは貴様とて同じ考えだろう。あの男も」
「そうだな。ところでその男だが」
 ゼネラルシャドウはそこでトランプのカードをタイタンに見せた。
「どうやらこれから戦いに向かうらしい」
「ストロンガーとか!?」
「いや、違う。ゼクロスとだ」
 シャドウはタイタンに対して言った。
「フム、そういえばあ奴は今カナダにいたのだったな」
「そうだ、トロントだ」
「トロントか。また洒落た街に」
 タイタンはシニカルな声で言った。
「市街で戦うつもりか?いや、あの男は市街戦は好まないか」
 タイタンも彼のことはよく知っていた。いずれ決着をつけるつもりだったのだ。
「それはこれからのお楽しみだな」
 シャドウは面白そうに言った。
「余裕だな。結果がわかっているのか?」
「いや。そこまでは占っておらん。観戦は結果がわかっていては面白くない」
「そうだな。それは貴様に同意する」
 タイタンはそう言って頷いた。
「じっくり見せてもらうか。あの男とゼクロスの戦いを」
 そう言うと踵を返した。
「待て。ここでは観ないのか?」
 見れば暗闇の上にモニターが浮かんでいた。だがタイタンはそれに対して首を横に振った。
「悪いが俺は一人で酒を飲みながら観るのが好きなのだ。シチリア産のワインでな」
「残念だな。俺もワインを用意していたが」
「貴様の酒は口に合わん。折角だが遠慮する」
「ふむ、ならばいい」
 シャドウはそれ以上引き留めなかった。彼としても社交辞令として言っただけであり特に強く言うつもりはなかったのだ。それに彼等は互いを激しく嫌悪していた。
「では俺も一人で観ることにしよう」
 そう言うと指を鳴らした。戦闘員が酒と杯を持って来た。その戦闘員はワインのコルクを抜くとそれを杯に注いだ。白ワインであった。
「ご苦労」
 シャドウは戦闘員に対し礼を言い彼を下がらせた。そして杯の中の酒を飲んだ。
「さてと」
 彼はモニターに顔を向けた。
「見せてもらおうか、マシーン大元帥よ。そして」
 彼はここでニヤリと笑った。
「仮面ライダーゼクロスよ」
 その笑みにはえも言われぬ凄みがあった。彼は杯を手にしながら戦いを待った。

 その頃ゼクロスはトロントのホテルにいた。そして役と二人で話し込んでいた。
「怪人を四体も倒したんだ、マシーン大元帥もそろそろ本気でくるでしょうね」
「そうでしょうね」
 役はそれに対して頷いた。
「おそらくそろそろ自らの出撃を考えているでしょうね。彼のの性格からすると」
「自らですか」
「はい。彼は誇り高い性格。敗北は決して許さない男です」
「そうなのですか。かなりの力を持っているとは聞いていますが」
「だからこそです」
 役は言った。
「その実力が彼の誇りのもとなのです。おそらく戦い方も正攻法でくるでしょう」
「正攻法ですか」
「はい、マシーン大元帥はデルザーの改造魔人の中でも特に強大な力を誇っております」
「それは知っています。あのゼネラルシャドウすら寄せ付けず百目タイタンも正面から渡り合おうとはしない程の」
 ストロンガーを最後まで苦しめた二人の男をも凌駕する程の者である。その強さは推して知るべし、である。
「だからこそ姑息な手段を好みません。ストロンガーやX3との戦いにおいてもそうでした」
 彼は常に正面からライダー達と渡り合った。そして互角、若しくはそれ以上に渡り合ってきたのだ。
「そして演出家でもあります」
「演出家、ですか」
「はい」
 役は答えた。
「大幹部や改造魔人は大抵そうですが」
 彼等は己の力に絶大な自信がある。だからこそそうしたことを好むのだ。
「自身が戦うのならばそれに見合った場所を選びます」
「そういえばそうですね」
 彼もヘビ女と戦った時は後ろに海が見える港であった。無意識にそうした場所を選ぶらしい。
「だとすれば次の戦場も絞れてくる」
「はい」
 役は頷いた。
「この辺りですとおそらく」
 彼は考える目をした。
「ナイアガラなんかが考えられますね」
「ナイアガラですか」
 村雨はそれを聞いて思わず顔を上げた。
 ナイアガラ、新婚旅行等で有名な滝である。カナダとアメリカにありその壮大な光景が見る者の心を惹きつけてやまない。
「あの場所ならマシーン大元帥も文句はないでしょう」
「ですね」
 村雨は頷いた。
「ですが今は身体を休めるべきです。怪我もしておりますし」
「ええ」
 村雨の腹部の傷は癒えてきた。だがまだ完治には程遠い。
「そしてそれから戦えばいいです。万全な状況でないとあの男に勝のは難しい」
 マシーン大元帥の実力はよく知られていた。役もそれを警戒しちえたのだ。
「わかりました。それでは」
 村雨はゆっくりと立ち上がった。
「暫くはこの傷を回復させることに専念します。その間トロントはお任せします」
「わかりました」
 村雨はそう言うとその場を立ち去った。そしてそのまま自らが泊まっているホテルに向かった。

 それから数日後村雨の傷がようやく癒えたその時であった。
「村雨さん」
 彼の部屋に役がやって来た。
「はい」
 村雨は部屋の扉を開け彼を出迎えた。
「これを」
 彼は一通の手紙を手に持っていた。それにはあのマークがあった。
「バダン・・・・・・」
「はい」
 役は頷いて答えた。
 村雨は無言で封を切った。そして手紙を読んだ。そこにはナイアガラにて待つ、と書かれていた。
「ナイアガラか」
 村雨はそれを読んで思わず呟いた。
「役さんの予想があたりましたね」
「はい」
 村雨は手紙を捨てた。そして言った。
「すぐに行って来ます」
「私も行きましょう」
「しかし・・・・・・」
 相手はあのマシーン大元帥である。勝てるかどうかわからない。その戦いに彼を連れて行くのは不安があった。
「私でも戦闘員位は相手にできますよ。それにこちらには策があります」
「そうですか」
 村雨は役の微笑みを信頼することにした。
「では行きましょう。おそらくここでの最後の戦いになります」
「わかりました」
 二人は部屋を出た。そして戦場に向かって行った。

 ナイアガラの滝の入口に浮島が置かれていた。そこにバダンの者達がいた。
「準備はいいか」
 怪人は二体いた。そのうちの一体が戦闘員の一人に対して問うた。ガランダーの大顎怪人ハンミョウ獣人である。
「はい」
 その戦闘員は答えた。ハンミョウ獣人はそれを聞いて満足そうに頷いた。
「よし、そちらはどうだ」
 そしてもう一体の怪人に声をかけた。ドグマの拳法怪人ライギョンである。
「こちらは全て整っている」
 ライギョンは答えた。
「あとはあの男が来るだけだ」
「よし」
 ハンミョウ獣人はそれを聞いてまた頷いた。
「マシーン大元帥が来られるまでもない。我等だけでゼクロスを倒すぞ」
「うむ」
 ライギョンはその牙をガチガチと鳴らして言った。
「久し振りに腕が鳴るわ」
 彼はその口を耳まで裂けさせて言った。
「こっちもだ」
 ハンミョウ獣人はその目を細めた。
「ライダーを倒せば褒美は思いのままだ」
「そうだな、大幹部になるのは間違いない」
 彼等はそう言いながら来るべきライダーとの戦いに備えていた。
 やがて上流の方から何かが聞こえてきた。
「ムッ!?」
 それはマシンの爆音であった。
「来たかっ!」
 怪人と戦闘員達は一斉に身構えた。
 彼等の予想は当たった。すぐにバイクにまたがる村雨が川の上を走って来た。
「来たな、村雨良!」
 やがてあと少しのところまで来た。村雨は口を閉ざしたまま構えに入った。

 変・・・・・・
 右手を真横にしそこから斜め上四五度に上げる。そして左手はそれと垂直にさせる。
 次に左手をそこから正反対の左斜め上に持って行く。右手はそれと一直線に置く。
 身体が銀色になっていく。両手呂足が赤くなる。手袋とブーツは銀色だ。
 ・・・・・・身!
 左手で拳を作りそれを脇に入れる。右手を斜め上に突き出す。
 顔を赤い仮面が覆う。右から、左から。眼が緑色に光った。

 そして光が彼とマシンを包んだ。そしてそれが消えた時仮面ライダーゼクロスが姿を現わした。
「行くぞっ!」
 ゼクロスはそのまま突っ込んで来た。ハンミョウ獣人がまず攻撃を仕掛ける。
「喰らえっ!」
 口からその大顎を飛ばす。それはブーメランの様な動きでゼクロスに襲い掛かる。
「無駄だっ!」
 ゼクロスはヘルダイバーの機首の部分でそれを受けた。大顎はそれで弾き返された。
「トォッ!」
 そしてそのままダイブする。そしてハンミョウ獣人に突撃する。
「ヘルダイバーーーーアターーーーーーーーック!」
 それは怪人を直撃した。口から鮮血がほとぼしり出る。
「ルゥリリィーーーーーーーッ!」
 ハンミョウ獣人は断末魔の叫び声をあげながら谷底へ落ちていく。そして後ろから水飛沫が上がった。
「おのれ、よくもっ!」
 目の前で仲間を倒されたライギョンが怒りに震えマシンから降り立ったゼクロスに襲い掛かる。
「ムンッ!」
 だがゼクロスはそれを受け止めた。巨大な牙を両手で上下から受けている。
「まだだっ!」
 そしてその腹を蹴った。怯んだところにまた攻撃を仕掛ける。
「受けろっ!」
 それは衝撃集中爆弾であった。口の中に入る。
「ギョギョーーーーーーーーーッ!」
 そして爆発した。内部を破壊されたライギョンはその場に崩れ落ち爆死した。
「残ているのは戦闘員だけか」
 その戦闘員達がゼクロスを取り囲んだ。その時だった。
 銃声がした。上からだった。忽ち一人の戦闘員が倒れる。
「来たか」
 ゼクロスは上を見上げて言った。そこには一機のヘリが飛んでいた。
「ゼクロス、戦闘員は任せて下さい!」
 役がヘリの中から叫ぶ。先程の銃声は彼の手によるものだ。
「お願いします」
 ゼクロスは言った。役はそれに従い戦闘員達を上空から次々と倒していく。
 戦闘員があらかた倒された時だった。不意に何者かの気配がした。
「仮面ライダーゼクロスよ」
 中空から声がした。
「よく私の招待に応じ来てくれた。礼を言うぞ」
 見れば棺が中空に浮いている。
「マシーン大元帥か」
 彼はその棺を見て言った。
「フフフ、その通り」
「やはり貴様自身が来たか」
「そうだ、貴様を倒す為にな」
 棺の中からあの声が聞こえてくる。マシーン大元帥の声だ。
「この私の手にかかって死ぬのだ。光栄に思え」
 棺はゆっくりと下に降りて来る。そして島に降り立った。
「戯れ言を」
 ゼクロスは言い返した。
「死ぬのは俺ではない。そう、死ぬのは」
 そう言いながら棺を指差した。
「貴様だ」
 そしてこう言った。
「フン、流石に大した自信だな」
 棺がゆっくりと開いた。中から白い煙が出る。
「もっともそれだけの実力があるからこそ言えるのだが。そうでない奴など倒しても面白くはない」
 そしてマシーン大元帥が姿を現わした。
「ライダー」
 そこに役が来た。手に銃を持っている。
「役さん、大丈夫です」
 だがゼクロスは彼を引き下がらせた。
「俺がやります」
「しかし・・・・・・」
「信じて下さい」
「・・・・・・わかりました」
 ゼクロスは彼に顔を向けて言った。役はその眼を見て頷いた。
 役は下がった。そして戦いを見守ることにした。
「フフフ、それでいい」
 マシーン大元帥はそれを見て満足そうに言った。
「ごく普通の人間なぞに興味はない。私はライダーを倒すのが望みだからな」
「俺をか」
「何度も言っているようにな」
 マシーン大元帥は構えをとった。
「覚悟はいいな」
「そちらこそな」
 これが合図になった。遂にゼクロスとマシーン大元帥の一騎討ちがはじまった。
 まずはマシーン大元帥が攻撃を仕掛けてきた。額からビームを発する。
「ムッ!」
 ゼクロスは横に跳んだ。そしてそのビームをかわした。
「速いな」
「その程度」
 ゼクロスは手裏剣を投げる。だがマシーン大元帥はそれを何なく右手で払った。
「無駄だ、このようなオモチャでは私は倒せん」
「そうか」
 ゼクロスは特に驚いたようには見えなかった。すぐに次の攻撃を繰り出した。
「ではこれはどうだ」
 そう言うとまた何かを投げた。
「ム」
 マシーン大元帥はそれを見た。見れば黒く丸いものである。
 爆発した。それは衝撃集中爆弾であった。
「これならどうだ」
 ゼクロスはその爆風を見送り言った。やがて爆煙が消えた。
 するとそこにはマシーン大元帥が何食わぬ顔で立っていた。何と全くダメージを受けていない。
「面白い余興だ」
 彼は余裕に満ちた声でそう言った。
「だがこれでも私は倒せん」
 そして背中からマシンガンを出した。
「しかしいいものを見せてくれた。これは返礼だ」
 そう言うと斉射した。そしてそれでゼクロスを撃たんとする。
 ゼクロスはそれもかわした。横に素早く動く。
 銃弾がそれを追う。だが全く当たらない。ゼクロスは横転しつつそれをかわす。
「やるな、そうでなくてはな」
 撃ち尽した。マシーン大元帥はそれを見ると銃を捨てた。
「もう小細工はいらん」
「それはこちらの台詞だ」
 ゼクロスも体勢を立て直して言った。
「行くぞ」
「来い」
 二人はススス、と前に出た。そしてほぼ同時に拳を出した。激しい衝撃がその場を覆った。
 二人は格闘戦をはじめた。ゼクロスはスピードで、マシーン大元帥はパワーでそれぞれ相手を倒そうとする。
 だが双方の実力は拮抗していた。両者は互いに一歩も引かず戦いを続ける。
「ムンッ」
 マシーン大元帥の渾身の一撃が襲う。ゼクロスはそれを見事な身のこなしでかわす。
「今度はこちらの番だ」
 そして反撃に手刀を繰り出す。しかしそれはマシーン大元帥に防がれる。
 両者の攻防は続いた。疲れは見られず互いに相手に攻撃を仕掛け続けた。
 マシーン大元帥が蹴りを放った。それは回し蹴りだった。
「遅い」
 ゼクロスはそれを屈んでかわした。そしてそれと同時に足払いを出した。
「ウオッ」
 それを受けバランスを崩したところにゼクロスはさらに攻撃を続ける。まずは彼を掴んだ。
「行くぞ」
 そのまま飛んだ。マシーン大元帥を上に掴んで。
「ほう、投げ技か」
 彼は掴まれてもまだ余裕の表情であった。
「まさかそれで私を倒すつもりか」
「そうだ」
 ゼクロスは答えた。
「無駄だ」
 大元帥は言った。
「私の耐久力は知っているだろう」
「確かにな」
 わかっているのかいないのか、そういった言葉であった。
「普通に投げたのならばな」
「何!?」
 マシーン大元帥はその言葉にはじめて表情を変えた。
「これではどうかな」
 ゼクロスはそう言うとマシーン大元帥の身体を頭上で激しく回しはじめた。
「あれは・・・・・・!」
 下で戦いを見守る役はその技を見て思わず声をあげた。
「まさかこの技は・・・・・・」
 技を受けているマシーン大元帥も表情を強張らせていた。
「そうだ、あの技だ」
 ゼクロスはまだマシーン大元帥の身体を回転させている。そして投げる時に言った。
「ダブルライダーの持つ技の一つライダーきりもみシュート、俺のこの技はさしづめゼクロスきりもみシュートか」
 マシーン大元帥は激しく回転しながら投げ飛ばされた。上へ飛んでいく。
「まだだ」
 ゼクロスはそれを追う様に上に向かっている。そして頂点まできたところで急降下する。
「くらえ・・・・・・」
 その真下にはマシーン大元帥がいる。今落ちようとしているところだ。そこに攻撃を加える。
「ゼクロスキィーーーーーーック!」
 そして蹴りを浴びせた。それはマシーン大元帥の強固な腹を打ち抜いた。
「グフッ・・・・・・」
 腹から鮮血がほとぼしり出る。口からも吐いた。
 そして地に落ちる。激しい衝撃が全身を襲った。
「どうだ、最早立てまい」
 着地したゼクロスは身構えながら大元帥を見て言った。
「フン」
 マシーン大元帥はその言葉に対し冷笑で返した。
「私を甘く見るな」
 何と立ち上がってきたのだ。
「まだ闘えるというのか」
 ゼクロスはそれを見て言った。
「安心しろ」
 だがマシーン大元帥は言った。
「私はもう闘えるだけの力は持っていない。貴様の勝ちだ」
「そうか」
 ゼクロスはそれを聞いて動きを止めた。
「よくぞこの私を倒した。そのことは褒めてやる」
 彼は静かに言った。
「だがな」
 無論それで言葉は終わらせない。
「それでバダンを倒せるとは思わないことだ」
 彼は傲然と胸を張って言った。
「バダンの力はこんなものではない。貴様はいずれそれを知ることになるだろう」
 いささかありきたりな言葉であったが彼が言うと妙な重みがあった。
「それを私は地獄から見ることにしよう。ゼクロスよ」
 そして彼に対して言った。
「地獄で待っているぞ。バダンに栄光あれーーーーーーーっ!」
 それが最期の言葉であった。マシーン大元帥は前に倒れると爆死した。
「終わりましたね」
 役はゼクロスの側に歩み寄ってきた。そして彼に声をかけた。
「はい、流石はデルザーでもその力を知られただけはあります」
 ゼクロスは爆風を身体に浴びながら言った。
「見事でした。闘いも、その最期も」
 素直に敬意を払っていた。敵といえど戦士への敬意を忘れてはいなかった。
「はい、敵とはいえ立派でした」
 役も同意した。マシーン大元帥の身体は爆発により欠片すら残ってはいなかった。
「これでカナダでのバダンの勢力は壊滅しましたね」
「ええ、これで終わりです」
 役が答えたその時であった。
「確かにマシーン大元帥は死んだ」
 二人の後ろから声がした。
「その声はっ!?」
 二人は慌てて後ろを振り向いた。同時に身構える。そこに彼がいた。
「フフフフフ」
 暗闇大使が無気味な笑みを浮かべて立っていた。既に黄金色のバトルボディに全身を包み右手には鞭を持っている。
「ゼクロスよ、久し振りだな」
「会いたくはなかったがな」
 ゼクロスは彼を睨んで言った。
「だがここで会ったのが貴様にとって運の尽きだ」
 そう言いながら身構えた。
「死ね」
「まあ待て」
 だが暗闇大使はそんな彼に対して言った。
「今日は貴様と戦う為に来たのではない」
「どういうことだ!?」
 ゼクロスと役はその言葉に一瞬首を傾げた。
「貴様に紹介したい者達がいてな」
「紹介!?」
「また何か企んでいるというのか!?」
 役は咄嗟に拳銃を懐から取り出した。
「待てというのだ。貴様等と戦うつもりはないと言っただろう」
「ムウ」
「わしとてバダン最高幹部として誇りがある。言ったことは嘘ではない」
 その言葉には偽りは感じられなかった。それを聞いて二人は警戒しながらも武器を収めた。
「それは誰だ」
 ゼクロスはあらためて問うた。
「貴様がよく知っている者達だ」
「俺が!?」
「そうだ。来い」
 暗闇大使は横に顔を向けた。するとそこに一人の男の影が現われた。
「ム・・・・・・」
 ゼクロスはその影を見て声を漏らした。
「やはり生きていたか」
 そして言った。影は次第に人になっていく。
「フフフ」
 それは三影であった。サングラスに黒い皮のジャケットを身に着けている。
「村雨、いやゼクロス」
 彼はサングラスを取り外してゼクロスに対して言った。
「久し振りだな。元気そうで何よりだ」
 そしてその機械の左眼で彼を見た。
「俺はようやくこうして出られるようになったばかりだがな」
 そう言うと再びサングラスをかけた。
「貴様の一撃は効いたぞ」
「そうか」
 ゼクロスは無機質な声で答えた。
「フン、相変わらず感情の乏しい奴だ。しかし」
 彼は言葉を続けた。
「それも今のうちだ」
「何!?」
 ゼクロスはその言葉に対し身を前に乗り出した。
「待て」
 大使は二人の間に立つようにしてそれを静止した。
「三影も挑発はよせ。今は戦わぬ」
「わかりました」
 三影は口の端だけで笑って言った。
「言っておくが貴様に会いたいのはこの男だけではない」
「だろうな」
 三影が出て来た時点である程度はわかっていた。
「いでよ、我がバダンの戦士達よ」
 彼の言葉と共に無数の影が姿を現わした。それは暗闇大使の左右に現われた。
 それはあの者達であった。バダンの改造人間となった者達、皆凄みのある笑みを浮かべてゼクロスを見据えていた。
「久し振りですね、ゼクロス」
 ヤマアラシロイドもいた。彼もまた不敵な笑みを浮かべている。
「約束通り戻って来ましたよ」
「俺は約束した覚えはないが」
「ふふふ、相変わらず冗談の下手な方だ」
 そう言うと目を光らせた。
「私を倒したあれが約束でなくて何だというのか」
「よせ」
 暗闇大使はまた止めた。
「折角再会の場所を与えてやったというのに」
「これは失礼しました」
 ヤマアラシロイドは恭しく頭を垂れて応えた。
「では私も静かにしておきましょう」
 そして暗闇大使の側に控えた。
「わかればよい」
 大使は彼に顔を向けて言った。その口には微笑みがあった。
「さてゼクロスよ」
 そしてゼクロスに顔を戻した。
「どうだ、感動の再会だろう」
 喜びを噛み締めた様な声でゼクロスに対し言った。
「俺はそうは思わないがな」
 ゼクロスはやはり無機質な声で返した。
「まあそう言うな」
 大使はそんな彼に言った。
「これから貴様に面白いものを見せるのだからな」
「何!?」
 ゼクロスは彼の顔を見た。
「何だそれは」
「見たいようだな」
 大使はあえて言葉に余裕を含ませている。
「まあどのみち見せるつもりだったがな」
 暗闇大使は言葉を続けた。
「さて」
 そして前に出て改造人間達の方へ顔を向けた。
「見せてやれ、貴様等の新しい姿を」
「わかりました」
「はい」
「ああ」
 彼等は口々に答えた。そして不敵に笑った。
「ムッ!?」
 その瞬間十二の光が彼等を包んだ。
 その光は普通の光ではなかった。黒い、暗闇の光であった。
「馬鹿な、こんなものは有り得ない・・・・・・」
 役は驚愕の声を出した。
「フフフ、この世の常識ではな」
 暗闇大使は黒い光の中言った。
「だが我々はこの世の力だけではないのだ」
 彼の声は自信に満ちていた。
「どういうことだ!?」
 ゼクロスはそれに対して問うた。
「今教えるつもりはない」
 彼は言った。
「今教えても面白くはない。そうだな」
 彼はここでニヤリ、と笑った。
「貴様等が我々の軍門に降る時に教えてやろう」
「戯れ言を」
 ゼクロスはそれを聞いて言った。
「戯れ言かどうかはやがてわかることだ」
 やはり暗闇大使の声は自信に満ちたものであった。
「まあ今は落ち着いてこれを見るがいい」
「な・・・・・・」
 次第に黒い光が消えていく。ゼクロスはそれを見て次第に驚愕の色を露わにしだした。
 そこにはゼクロスがいた。厳密に言うと彼ではない。彼と同じ姿をした者達だ。
 色は違う。赤ではない。青、黄、緑、紫、茶、白、黒、灰、橙、金、銀、そして虹色のゼクロスがいた。彼等は黒い光が消え去るとそこに姿を現わしたのだ。
「どうだ、流石に驚いたようだな」
 暗闇大使は不敵に笑いながら言った。
「自分自身が今ここにいるのだからな」
「クッ・・・・・・」
 ゼクロスはそれを見て歯噛みした。
「どうだ、この者達は。素晴らしいだろう」
 暗闇大使は彼にそのゼクロス達を見せつけるようにして言った。
「姿だけではないぞ。力も貴様とおなじだ。無論装備もな」
 彼等はここでそれぞれ武器を取り出してみせた。
「そう、これも貴様と同じものだ」
「俺のコピーを作ってどういうつもりだ」
 彼は問うた。
「何をするか!?決まっているだろう」
 暗闇大使は不敵に笑って言った。
「この世を我等が手に収めるのだ。それ以外に何があるというのだ」
 彼は愚問だ、と言わんばかりの態度を示して言った。
「それが我がバダンの目的なのだからな」
 そして腕をゼクロスに向けた。
「今日のところはこれで終わりだ。ただの顔見世に過ぎんしな」
「顔見世か。えらく大袈裟にやってくれたな」
 役は大使を睨みつけて言った。
「顔見世は派手にやったほうがいいからな」
 彼はそれに対して言った。
「そうでなくてはこの者達の怖ろしさが貴様等にわからぬ」
「大した自信だな」
 ゼクロスも言った。
「何なら今ここで倒してもいいのだが」
 そしてその手に手裏剣と爆弾を持った。
「フン」
 大使はそれを見て口の端を歪めた。
「せっかちな奴だ。余裕がない男は好かれぬぞ」
「そうした態度が何時までとれるかな」
 彼は手裏剣を身構えて言った。
「そのようなものでか」
 だが大使は手裏剣を見て嘲笑した。
「馬鹿な男よ、オモチャでわしを倒そうなどとは」
「オモチャというか。これを」
「ではそれでわしを倒してみよ」
 彼はあえてゼクロスを嘲笑する言葉を吐いた。ゼクロスはそれに対し無言で手裏剣を放った。
 それは一直線に暗闇大使の額を狙う。大使はそれを微動さにせず見ている。
「フン」
 そして一瞬口の端を歪めたかと思うとマントを翻らせた。
「ムッ!?」
 それだけであった。手裏剣はマントの中に消えた。
「この程度だということだ、貴様の自慢の武器はな」
 彼は笑ったまま言った。
「馬鹿な、俺の手裏剣をこうも簡単に」
 ゼクロスは流石に狼狽の色を見せた。
「これも先程の力だ」
「黒い光か」
「そうだ。これで少しはわかっただろう、我等の力が何であるかを」
「魔術か。それも黒魔術」
 役は暗闇大使に対して銃を構えながら言った。
「そうだ。どうやら只のインターポールの人間ではないようだな」
「生憎。日本から来ていますから」
 役は答えた。
「フフフ、そうか」
 それだけではないだろう、と言うつもりだったが止めた。
「普通の黒魔術でもないがな」
 暗闇大使はまだ余裕があった。
「だが今それを全て見せるつもりはない」
 彼は言った。
「楽しみはあとまでゆっくりととっておきたいしな」
「余裕だな、すぐに滅びるというのに」
 ゼクロスはまた言った。
「滅びるのはどちらかな」
 大使は言葉を返した。
「その言葉は貴様等ライダーに返しておこう。今はな」
 彼はそう言うとマントで全身を覆った。
「さらばだ」
 そして姿を消す。十二人のゼクロス達もそれに続く。
「待てっ!」
 ゼクロスはそれを追おうとする。だがそれはできなかった。
 彼等は光の中に消えた。そしてそのまま黒い光に包まれていく。
 ゼクロスは衝撃集中爆弾を投げた。だがそれも黒い光に吸い込まれた。
「無駄だ、それはわかっているだろう」
 黒い光の中から大使の声がした。
「この光には誰もあがらえぬ」
「クッ・・・・・・」
 ゼクロスは歯噛みした。
「ゼクロスよ」
 最早彼の姿は見えなくなっていた。
「また会おう。その時がバダンが世界を征服している時だ」
 それが最後の言葉であった。暗闇大使も十二人のゼクロスも姿を消していた。
「消えましたね」
 役はそれを見て言った。
「ええ」
 ゼクロスは答えた。その声は沈んだものとなっていた。
「かってショッカーライダーがありましたが」
 ゲルショッカーがアンチショッカー同盟を倒す為に開発した六人のライダーのコピーである。ショッカーに残っていたライダーのデータを使い開発したものであった。
 まずはハエトリバチと共同でライダー一号を海に叩き落とした。しかしそこでライダー二号こと一文字隼人が姿を現わし状況が変わった。そして二号と生きていた一号がやって来てダブルライダーとショッカーライダー達の戦いがはじまった。
 結果はダブルライダーの勝利であった。ショッカーライダーは数に勝りながらもその能力はダブルライダーと比べると劣っていた。これはもとになった人間の違いであった。
 本郷猛も一文字隼人もショッカーにその常人離れした能力を買われライダーに改造された。心技体どれをとっても超人的な二人と比べると流石にショッカーライダー達は劣っていた。それが結果に出たのだ。
 ダブルライダーは勝った。それからもそれぞれの組織はことあるごとにライダーの偽者を開発した。だが所詮偽者は偽者であった。ライダー達には到底及ばなかった。
「しかし今回は違うようですね」
 役は言った。
「全身から発せられていたあの黒い光」
 それはこの世の常識ではありえないものである。
「あれこそがその証」
「ですね」
 それはゼクロスにもわかっていた。彼もバダンとの戦いでそれを知っていた。
「おそらく彼等はライダーとしての力だけではありません」
「ではやはり」
「ええ。怪人の力も併せ持っているでしょう」
 当然それは考えられた。彼等の前の身体は怪人なのだから。
「気をつけて下さい、彼等は強いです」
「はい」
「しかもバダンの武器は彼等だけではないでしょう」
「といいますと」
「あの黒い光」
 役はまたあの光のことを口にした。
「あれを他のものに使ったなら」
「何か怖ろしいものができる」
「はい。全てを破壊するような力が」
「全てを破壊・・・・・・」
 ゼクロスは言葉を暗くさせた。
「ゼクロス、いえ仮面ライダー」
 役はここであえて仮面ライダーと言った。
「世界は貴方達の手にかかっています。世界を守って下さい」
「しかし俺には」
「いえ、貴方ならできます」
 役は口篭もろうとする彼に対し言った。
「あの時一人の少女を助けた貴方なら」
「俺なら・・・・・・」
「はい、期待していますよ」
 彼はここで微笑んでみせた。
「わかりました」
 ゼクロスにはそう答えるしかなかった。
「この世界、そして人々の命」
 ゼクロスは顎を上げて言う。
「俺が守ってみせます」
「はい」
 二人は夕陽が映える滝の上で誓い合った。そして二人は新たな戦場へ向かうのであった。

「また派手な宣戦布告をしたな」
 暗黒の中からあの首領の声がする。
「奇巌山の時といい中々演出が巧いな」
 見れば暗闇の中央に何者かが浮かんでいる。
「これも戦いのうちです」
 見れば暗闇大使であった。軍服に身を包んでいる。
「戦いは晴れの舞台、思い切った演出も必要です」
「演出か」
 首領はそれを聞いて楽しそうな声をあげた。
「貴様は中々の演出家だな、それを聞くと」
「有り難うございます」
 大使はそれを聞いて頭を垂れた。
「やはり貴様を最高幹部にしたのは正解だったようだな。切れる奴だ。ところで」
 首領はここで話を変えた。
「あれはどうなっている」
「あれでございますか」
 暗闇大使は顔を上げながら言った。
「そうだ。そろそろ開発が終了する頃だが」
「御心配無用です」
 彼は落ち着いた声で言った。
「既に開発は終了しております」
 その声には余裕すらあった。
「そうか、それは何よりだ」
 暗闇に響き渡る首領の声はさらに上機嫌なものになった。
「ではすぐにそれを各地に送るがよい」
「わかりました」
 大使はその命令に対し頭を下げた。
「既に各地の同志達には作戦のことを伝えております故」
「手回しが早いな」
「そうでなくてはライダーに遅れをとるかと」
「フフフ、確かに」
 首領はライダーの名を聞いて笑った。
「今まではそれで奴等にやられてきた、常にな」
 そうであった。ショッカーの時からである。
「だがこれからは違う」
「はい」
 大使はその言葉に頭を垂れた。
「ライダー達の慌てふためく顔が目に見えるようだ」
 声はまた上機嫌になった。
「世界が滅亡し絶望と暗黒が支配する世界」
 首領は言葉を続けた。
「その世界が訪れる時がやって来たのだ」
「はい、我等の理想の世界が遂にこの世を覆うのです」
 暗闇大使の声も上機嫌なものであった。
「今までどれだけライダー達にそれを阻まれてきたことか」
 それまでのことが脳裏に浮かぶ。首領はそれに対し歯噛みしたようだ。
「しかしそれもこれまでだ。暗闇大使よ」
「ハッ」
 大使は敬礼した。
「ライダーを倒せ、世界を支配しろ」
「お言葉のままに」
「そして全てをこの私が支配するのだ。永遠にな」
「永遠に絶望と暗黒が支配する世界」
 彼はニヤリと笑って言った。
「地獄の黒い炎で絶え間なく焼かれる世界」
「そうだ、その世界がもうすぐやって来る、地獄が」
 首領は目を細めたような声を出した。
「漆黒の中におわす偉大なる首領よ」
 暗闇大使はここで首領に対して言った。
「私の全ては貴方の為に」
 そう言うとまた敬礼した。
「暗闇大使よ、信頼しているぞ、暗黒の使いよ」
「お任せ下さい」
 その瞬間彼の全身を暗黒が覆った。あの黒い光であった。
「この偉大なる力をお見せしましょう」
「期待しているぞ」
「はい」
「世界が私のものになる時も近い」
 首領の声は笑った。
「世界を暗黒に覆ってやろうぞ・・・・・・」
 暗闇が全てを覆っていく。その中で首領の声だけが響いていた。


十三人の自分   完

            第三部 完

            2004.7・14

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