『仮面ライダー』
 第三部
 第六章             失われた地の翼人

 アマゾンと別れた筑波洋は予定通りギアナ高地にやって来た。ツバサ大僧正がここにいると聞いたからである。
「今度は一人か」
 彼は高原に足を踏み入れて呟いた。
 ここギアナ高地は秘境と呼ばれる。テプイと呼ばれる多くのテーブルマウンテンがありそこに生息する生物は独自の進化を遂げている。密林に覆われたこの地はかってコナン=ドイルが『ロスト=ワールド』で小説にしている。流石に恐竜まではいないがここは不思議な生物が見られるということでも知られている。
「まさかそればバダンだったとはな」
 筑波はエンジェルの滝を見上げた。この滝は標高一千メートルに近いところから垂直に落ちる滝でありあのナイアガラすらも凌駕している。
「あらためてこの目で見ると余計凄いな」
 彼は感嘆の言葉を漏らした。そして目を輝かせた。
「この戦いが終わったら一度飛びながら見てみるか。これは綺麗だ」
「ほんまでんなあ。こういう時は洋さんが本当に羨ましいですわ」
「ん!?この声は」
 筑波は声がした方に顔を向けた。
「やっぱりな。がんがんじい、どうしてここにいるんだよ」
「どうしてと言われましても」
 がんがんじいは筑波の言葉に愛想笑いで返した。
「役さんにこっちに向かってくれって言われまして。わいはそれに従っただけですわ」
「役さんに!?」
「はい。ここに洋さんが来るって言われまして。まさかこんなに簡単にお会いできるとは思いませんでしたけど」
「ふうん、役さんからか」
 筑波はふとどうしてわかったんだろう、と思ったがそれは口には出さなかった。
「だけどいいや。正直一人でいるより二人のほうがいい。がんがんじい、よろしく頼むぜ」
「はいな」
 こうして二人はこの地の何処かに潜むバダンに対して挑むことを誓ったのである。

 この時ツバサ大僧正は高地に新たに築いた基地にいた。
「ふむ、遂に来たか」
 彼は指令室で部下の戦闘員から報告を受けていた。
「ハッ、がんがんじいも一緒です」
「またか」
 彼はそれを聞いて思わず呟くように言った。
「あの二人はよく一緒にいるな。ネオショッカーと戦っていた頃からのようだが」
「その通りです。魔神提督も手を焼かれたようで」
「まああの男なら手を焼くだろうな」
 彼は頷いてそう言った。
「おい、ツバサ大僧正よ、いくら何でもそれはないぞ」
 その時指令室のモニターに魔神提督が姿を現わした。
「おお、一体何の用だ」
「何の用もあるか。お主はわしに協力を要請したのではなかったのか」
 彼はツバサ大僧正の意を得ぬ言葉に少し苛立ちを感じた。
「協力!?ああ、あれか」
 彼はふとこの基地に来る前にギアナ高地に戦力の補充を要請したことを思い出した。
「だかあrといってお主が来るとは思わなかったがな」
「何を言っておる。ここはわしの本拠地だぞ」
 彼はブラジル出身である。そしてネオショッカー中南米支部長を務めていたのである。
「このわしが来ずして一体誰が来るというのだ」
「そうかそうか、では早くここに来るがいい」
 ツバサ大僧正はしれっとした態度で彼に対して来るように言った。
 そして魔神提督は指令室に入ってきた。まだ憮然としている。
「まあ機嫌をなおしてこれでも飲め」
 ツバサ大僧正はそう言うと一杯の赤い飲み物を差し出した。
「ワインか」
「そうじゃ。お主も嫌いではあるまい」
「まあな」
 彼はそれを受け取った。そして一口口に含んだ。
「人の血を入れておるな」
「うむ。こうすれば味が良くなるのでな」
「成程な、考えたものだ」
 彼は人の血は飲まずとも生きていける。だが嫌いではない。
「美味いな」
「そうじゃろう。おかわりはいおるか」
「いや、いい。今は酔いたくはないのでな」
 彼はもう一杯勧めようとするのを断った。
「さて、と。では本題に家鴨としよう」
「うむ」
 ツバサ大僧正も杯を空けた。そして話をはじめた。
「ここでの作戦だが」
 魔神提督の顔は真剣なものになっていた。
「ここにUFOを離着陸させる基地を建設すると聞いているが」
「その通りだ」
 ツバサ大僧正は答えた。
「ここはUFOの基地を作るには最適だからな」
「確かにな。高地だし人も殆ど来ん、しかしな」
「スカイライダーがやって来ているな」
「そうだ、まずはあの男を始末しなくてはならん」
 魔神提督はそう言うとモニターのスイッチを入れた。
「もう知っているとは思うがな」
 そこにはスカイライダーの姿が映し出された。
「奴の戦闘だ」
 見ればネオショッカーと戦う彼の姿が映されている。
「どうじゃ、かなりのものだろう」
 魔神提督はモニターを見ながらツバサ大僧正に声をかけた。
「うむ。この頃からかなりの強さだったのだな」
「今はこれ以上だ。もっともそれは知っているのだろう」
「当然じゃ。ナスカで戦っておるしな」
「そうだな。では策も考えているな」
「当然だ、だからこそこの地に来たのだ」
 彼は自信に満ちた声で言った。
「そうか、既に考えてあるか」
「その通り。お主はここで見ているだけでもいいぞ」
「そういうわけにはいかんがな」
 魔神提督は苦笑した。
「それではわしはサポートに回ることにしよう、期待しておるぞ」
 二人は闇の中での密談を続けていた。

「洋さん元気にしているかしら」
 アミーゴのカウンターに座る一人の少女がふと呟いた。
「えっと、君誰だったっけ?」
 史郎は彼女の顔を覗きながら尋ねた。
「史郎さん、さっき聞いたじゃない」
 隣にいるルミが顔を顰めて彼に言った。
「御免、俺あんまり記憶力なくて」
 史郎はそれに対してバツが悪そうな顔をした。
「野崎です。野崎ユミ。洋さんの知り合いなの」
 その少女はニコリと笑って答えた。
 黒い髪を肩のところで切り揃えている。赤いセーターに黄色いジーンズを身に着けているやや小柄な少女である。
 彼女は志度博士のハングライダークラブの一員であった。その関係でネオショッカーと戦うことになった。負傷しながらも復帰して彼等と戦った闘志の持ち主である。
「えっと、洋君だよね。今何処にいるか知ってる?」
 史郎はルミに尋ねた。
「今南米だそうですよ。何でもアマゾンからギアナ高地に入ったとか」
「アマゾンからギアナ高地か。また凄いところを回ってるなあ」
 史郎はそれを聞いて感慨深そうに言った。
「史郎さん、旅行に行ってるんじゃないでよ」
 ルミが再び咎めた。
「そうですよ、洋さんは戦いに行ってるんですから」
 ユミもそれに続いた。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ二人共、そんなに言わなくてもいいじゃないか」
 史郎は女の子二人に責められ狼狽した声をあげた。
「俺だってそれ位わかってるよ。ただえらく凄い場所で戦ってるんだなあ、って」
「そんなに凄い場所なんですか?」
 二人はその言葉に表情をあらためて尋ねた。
「ああ。アマゾンは知ってるだろう」
「ええ」
 アマゾンは通称『緑の地獄』と呼ばれる。鬱蒼と茂った密林の中には猛獣や毒蛇が身を潜めている。川の中には鰐やピラニアが棲む。中には人の血を吸う魚までいる。
「ギアナ高地も凄いところなんだよな」
「どんなところなんですか!?」
 ユミはさらに尋ねた。
「あそこは人類最後の秘境とも呼ばれるんだ。何しろ標高二千メートルもあるテーブルマウンテンが無数にあってね。あ、二人共テーブルマウンテンは知ってるよね」
「はい」
 二人は答えた。テーブルマウンテンとは頂上が平らになり台地になっている山のことである。
「そしてその間が断崖絶壁になっているんだよ。それも密林の中にね」
「凄いですね」
「それだけじゃないよ。風も空気も複雑に動くし。アマゾンに勝るとも劣らない危険な場所なんだ」
「洋さん大丈夫かしら」
 ユミはそれを聞いて表情を暗くさせた。
「大丈夫だと思うよ、根拠はないけれど」
 史郎はそんな彼女に対し笑顔で答えた。
「どうしてそう言えるんですか?」
 ルミが尋ねた。
「いやね、ライダーって今まで信じられない位の死闘を潜ってきているじゃない。今更その程度の場所で戦ってもね」
 彼は微笑を浮かべていた。
「ライダーを信じようよ。彼等は何時だって絶体絶命の状況を乗り越えて勝ってきたじゃないか。だから今回も絶対に勝つよ、心配しなくていい」
「優しいんですね、史郎さんって」
 ルミはそんな彼に微笑んだ。
「おいおい、褒めたって何も出ないよ」
 史郎はそんな彼女に苦笑しながら言った。
「うふふ」
 ルミはそんな彼に再び笑みを返した。ユミも二人の会話に笑顔を取り戻していた。

筑波とがんがんじいはテーブルマウンテンの一つに登っていた。
「ふう、やっと着いたな」
 筑波はスカイライダーに変身しがんがんじいを持って上に飛んでいったのである。
「洋さん、すんまへん」
 がんがんじいは筑波が変身したスカイライダーに対し礼を述べた。
「いいよ、どうせライダーになったらこんなのどうってことないし」
 ライダーに変身すると力が驚異的に上がるのである。普通の時でも彼等は常人とはかけ離れた力を持っている。だがこれは彼等にとっては喜ばしいものではない時もある。
 そのあまりにも強過ぎる力は触れたものを壊してしまうのである。意識せずともドアを壊し握り締めた鉄を粉々に砕いてしまう。そして愛する者を抱き締めることができなのである。彼等の力は苦悩と表裏一体でもあるのだ。
「それよりも」
 スカイライダーはがんがんじが立ち上がったのを見て言った。
「噂に聞いていたけれど凄い場所だな」
 山の上にもジャングルが生い茂っていた。そして滝が数段に渡って流れている。森の緑と滝の青に覆われた世界であった。
「はい、こうして見るとまるで絵みたいなところですなあ」
 がんがんじいはその美しく幻想的な景色に見惚れていた。
「確かにな。こんな綺麗な景色は今まで見たことがない」 
 スカイライダーも彼の言葉に同意した。
「ただこれが戦いに来たんじゃなければもっといいんだがな」
 彼は言葉を濁した。丁度その時額のオーシグナルが点滅した。
「そら、早速来たぞ」
「無粋な奴等でんなあ、いつもいつも」
「だから世界を征服しようといつも企んでいるのさ」
 二人は構えをとった。やがてすぐに怪人と戦闘員達が出てきた。
「来たな」
 怪人は四体いた。デストロンの変身怪人カメラモスキート、ゴッド悪人軍団の一人カブトムシルパン、ネオショッカーの毒ガス怪人コウモリジン、そしてショッカーの電撃怪人エイキングである。
「四体か、また随分多いな」
 スカイライダーは迫り来る怪人達を見ながら言った。
「だが負けるわけにはいかない。来い!」
 そして前へ突き進んだ。
 まずは戦闘員達が来た。ボウガンを放ってくる。
「こんなものっ!」
 スカイライダーは手でその弓を叩き落とした。そして戦闘員達の懐に飛び込み当て身を喰らわせる。
「ギィッ!」
 戦闘員は叫び声をあげて吹き飛ぶ。ライダーは動きを止めずそのまま前へ出る。
 まずはカメラモスキートがやって来た。
「ブルルルルルルルルルッ!」
 怪人は奇声を発し迫り来る。左眼となっているカメラでスカイライダーを写し取ろうとする。
 だがスカイライダーの動きはそれよりも速かった。彼は怪人の懐に飛び込んだ。
「スカイパァーーーーンチッ!」
 そして怪人のカメラを撃った。忽ちカメラが破壊される。
 それで決まりであった。怪人は後ろに倒れ爆死した。
「ルパルパルパッ!」
 カブトムシルパンが頭のシルクハットを飛ばしてきた。スカイライダーはそれをかがんでかわす。
 しかし今度は後ろから飛んできた。怪人はそれに動きを合わせサーベルで突かんとする。
「トォッ!」
 スカイライダーはそれに対し跳んだ。そしてサーベルの上に着地した。
 シルクハットはサーベルに突き刺さった。ライダーは攻撃を封じられた怪人の脳天にチョップを振り下ろした。
「スカイチョーーーーーップ!」
 手刀が怪人の脳天を直撃する。急所を撃たれた怪人はそのまま倒れ爆発した。
 スカイライダーはそれをさけて上に飛んだ。そこに残る二体の怪人が襲い掛かる。
「キィーーーーーーッ!」
 まずはコウモリジンが来た。怪人は一直線にライダーに向かってくる。
 口から緑色の毒液を放ってきた。それはライダーの腰を狙っていた。
「ムッ」
 ライダーはそれを横に動きかわした。そして迫り来る怪人と取っ組み合いを開始した。
 怪人は口の牙でライダーの喉笛を裂かんとする。しかしスカイライダーはそれを両手で防いでいた。
「ムムム・・・・・・」
 両者は互いに引かない。やがて怪人は埒が明かないと見たか間合いを離そうとした。しかしそれを見逃すライダーではなかった。
「させんっ!」
 スカイライダーは飛んだ。そしてまず体当たりを仕掛けた。
「キキィッ!」
 怪人は叫び声と共に吹き飛ばされる。ライダーはそこに追い撃ちを仕掛けた。
「スカイドリルッ!」
 身体をきりもみ回転させる。そして脚からコウモリジンの腹を撃った。
 決まりだった。怪人は爆発の中に消えていった。
「残るは一人か」
 爆発から身を離したスカイライダーはエイキングを見た。
「ウハウゥーーーーーーッ」
 怪人は叫び声をあげるとこちらに向けて飛んできた。
 左手の鞭を振るう。それはライダーの身体をかすめた。
「おっと」
 ライダーはそれをかわした。やはり腰を狙ってきている。
「どういうことだ・・・・・・!?」
 先のコウモリジンもそうだった。怪人達は何故かライダーの腰を狙っている。
「だがそんなことはどうでもいい」
 ライダーはとりあえず目の前にいる怪人を倒すことを優先させた。蹴りを鉈の様に振り下ろす。
 怪人はそれを横にかわした。そして再びスカイライダーの腰を狙った。
「甘いっ」
 だがそれもかわした。そして怪人に拳を加える。怪人は怯んだ。
 そこに連続して拳を加えていく。
「スカイ連続パァーーーーーンチッ!」
 そして怪人の顔を集中的に打った。怪人はこれで倒れた。
 だがその前に最後の一撃を放った。何と左手の鞭を引き千切りそれをライダーめがけて投げ付けたのだ。
「何ィッ!」
 これのはさしものライダーも思いもしなかった。それでも何とかかわそうとする。だが鞭はライダーの腰をかすめた。
「ウッ」
 身体にダメージは受けなかった。だが重力低減装置にダメージを受けた。
「まずいな」
 ライダーは止むを得なく下に降りた。そしてがんがんじいのところに戻った。
「やりましたな、スカイライダー」
 がんがんじいは戦いを終えた彼をねぎらった。
「ああ」
 しかしそれに対するスカイライダーの声は晴れてはいなかった。
「どうしましたん!?」
「ちょっとな・・・・・・」
 彼は浮かない顔のまま変身を解いた。そして腰の辺りを見た。

 スカイライダーの様子を遠くから見る影があった。
「どうだ、これで奴は満足に空を飛べなくなったぞ」
 その影の一つツバサ大僧正は消沈した顔をしている筑波を杖で指し示しながら言った。
「ふむ、考えたな」
 もう一つの影魔神提督はそれに対して顎に手を当てて頷いた。
「最早奴は文字通り翼をもがれた鳥よ。後はどうとでもなる」
 大僧正は勝ち誇った顔で言った。
「確かにな。これで奴は満足に自分では飛べなくなった」
 魔神提督は顎から手を離した。
「しかしな」
 彼は言葉を続けた。
「まだ爪も牙もあるぞ」
「それがどうした」
 ツバサ大僧正はまだ勝ち誇っている。
「爪や牙ならば我等も持っておる」
「ならばよいがな」
 彼はまだ何か言いたそうであるがあえて言わなかった。
「ではここはお主に任せてよいかな。実は首領より新たな任務を授けられたのだ」
「ほう、そうなのか」
「うむ、奴との決着を着けられぬのは残念だがそれはまたの機会にさせてもらおう」
「残念だな、あの男はわしが倒す」
「おっと、そうだったな」
 魔神提督はその言葉を聞き顔を崩した。だが腹の中では別のことを考えていた。
(さしものツバサ一族でもそうそう上手くいくかな。あ奴とてライダーなのじゃぞ)
 そして顔を元に戻すと踵を返した。
「それではな」
「うむ、また飲もうぞ」
 こうして二人は別れた。
「スカイライダー、このギアナが貴様の死に場所となるのだ。このツバサ大僧正によってな」
 ツバサ大僧正はそう言うと無気味に笑った。そこに映る影は人のものではなく蝙蝠に近いものであった。

 筑波とがんがんじいはギアナ高地を探し回った。筑波はスカイライダーに変身してもあまり空を飛ぼうとはしなかった。
「スカイライダー、どうしたんでっか!?」
 がんがんじいは不思議に思い彼に声をかける。
「あ、いやちょっとな」
 スカイライダーはそれに対して言葉を濁して誤魔化した。誰にも気付かれるわけにはいかなかったからだ。
(もしこれがバダンに知られれば・・・・・・)
 その時は彼に危機が迫るからだ。
 一週間後二人はとある山の上に舞う一つの影を見つけた。
「洋さん、あれ」
 がんがんじいはその影を下から指差した。
「ああ」
 筑波もそれを見て頷いた。間違いなく怪人のものであった。
 二人はその山の上に登った。そして辺りを探った。
「ここだな」
 やがて一つの怪しげな穴を見つけ出した。二人はその中に入ろうとする。
「待て、筑波洋よ」
 その時後ろから呼び止める声がした。
「その声はっ!」
 筑波とがんがんじいは後ろを振り向いた。予想通り彼等がいた。
「やはり貴様か、ツバサ大僧正」
 筑波はツバサ大僧正を指差した。
「そうだ、貴様に引導を渡しに来てやったぞ」
 ツバサ大僧正はカラカラと笑いながら筑波に対して言った。
「フン、戯れ言を」
 筑波とがんがんじいはそう言うと間合いを取った。
「ナスカでの決着、今ここで着けてやる」
「望むところだ」
 ツバサ大僧正も言い返した。それを合図に筑波は変身を開始した。

 スカイ・・・・・・
 両腕を脇の下に入れた。そしてまずは右の拳を突き出した。
 そしてすぐに引っ込める。左手を突き出す。それは広げている。
 その左手を手刀にした後右に持っていく。
 身体は黄緑のバトルボディに覆われる。胸は赤くなり手袋とブーツは黒である。
 変身!
 左手を右から左にゆっくりと旋回させる。左手を脇に入れた後右手を左斜め上に突き出した。
 顔の右半分が真紅の眼の黄緑の仮面に覆われる。そして左半分も。

 全身が光に覆われる。そして黄緑の身体のライダーが姿を現わした。
「ツバサ大僧正、勝負だっ!」
 スカイライダーは叫ぶ。それと共に二体の怪人が姿を現わした。
 デストロンツバサ一族の怪人木霊ムササビとガランダーの黒羽怪人フクロウ獣人である。二体の怪人は空からスカイライダーに向けて襲い掛かってきた。
「・・・・・・・・・」
 それに対しスカイライダーは飛ぼうとしない。下から怪人の動きを見ている。
「ライダー、どないしたんや!?」
 がんがんじいはそんなライダーに対し言葉を浴びせる。
「飛ばな勝負になりませんで!」
「無駄だ、そこの大きいの」
 ツバサ大僧正はカラカラと笑いながらがんがんじいに対して言った。
「今スカイライダーは空を上手く飛ぶことは出来ぬ」
「何やて!」
 がんがんじいは思わず叫んだ。
「前の攻撃の時に腰の重力低減装置を叩いておいた。これにより上手く空を飛ぶことは出来ないのだ」
「そんなアホなことあるかい!」
 がんがんじいはそう言ってスカイライダーに目をやった。
「ライダー、飛べますやろ!」
「・・・・・・・・・」
 ライダーは答えない。がんがんじいは蒼くなった。
「そんな・・・・・・」
 だがその時であった。
「トォッ!」
 スカイライダーは怪人に向けて地を蹴った。
 飛んだ。不安定であるが彼は空に舞った。
「ライダー!」
 がんがんじいは喜びの声をあげた。スカイライダーはそれに応えるように上空を旋回した。
「フフフフフ、無駄なことを」
 ツバサ大僧正はそれを見てほくそ笑んだ。
「動きがぎこちないではないか。それで我々に勝てると思ったか」
 彼はそう言うと杖を振るった。怪人達がそれに合わせ空に上がった。
「来たな」
 スカイライダーはそれを見ていた。そして空中で身構えた。
「来いっ!」
 そして戦いが開始される。二体の怪人は左右からライダーを包囲した。
「ホッホーーーーャ!」
 フクロウ獣人が叫び声をあげライダーに襲い掛かる。まずは黒い羽根を投げてきた。
「ムッ」
 スカイライダーはそれをかわした。そして迫り来る怪人の爪をかわした。
 怪人は今度は腕を飛ばしてきた。だがスカイライダーはそれもかわした。
 爪が迫る。ライダーは上に飛び怪人の後ろに回り込んだ。
「スカイハンドドリルッ!」
 そして腕を激しく回転させる。それで怪人の背を貫いた。
「ホホーーーーーーッ!」 
 それは怪人の心臓を撃ち抜いた。怪人は断末魔の叫びと共に地に落ちていった。
 次には木霊ムササビが来た。手首からミサイルを放つ。
 ライダーはそれをかわそうとする。だが重力低減装置の調子が悪くなった。
「ウワッ!」
 ミサイルは何とかかわした。だがこれ以上の飛行は満足に出来そうにない。
 それを見逃す木霊ムササビではなかった。勝負を着けんと迫り来る。
「こうなったら・・・・・・」
 スカイライダーは意を決した。そして何かを呼んだ。
「スカイターボッ!」
 彼はマシンの名を叫んだ。すると白いマシンが姿を現わした。
 スカイターボはそのまま天に飛んでくる。ライダーはそれに飛び乗った。
「喰らえっ!」
 マシンに乗ると一直線に飛ぶ。そして怪人に体当たりを敢行した。
「ライダァーーーーーブレイクッ!」
 マシンの直撃を受けた怪人は大きく噴き飛んだ。そして空中で爆死した。
 ライダーはマシンに乗ったまま着地した。ツバサ大僧正はそれを黙って見ていた。
「ふむ、最早満足に飛べなくなったようだな」
 スカイライダーは答えない。敵に弱味を見せるわけにはいかないからだ。
「それではわしが相手になろう。今の貴様を倒すことなど造作もないこと」
 彼はそう言うと両手で顔の前を覆った。服の袖が翼に変化し色も黒から赤褐色になる。
 顔が人のものから蝙蝠のものに変化する。耳は異様に大きく口には牙が生え揃っている。
「これがわしの正体だ」
「デストロンツバサ一族の長死人コウモリか」
 スカイライダーはその怪人の姿を見て言った。
「そうだ、我が力今こそ見せてやろう!」
 ツバサ大僧正の正体である死人コウモリはそう言うと天高く舞い上がった。
「スカイライダー死ぬがいい!」
 死人コウモリは空中から高速回転しつつスカイライダーに襲い掛かる。ライダーはそれを何とかかわした。
 しかし怪人の攻撃は執拗である。一度かわしてもすぐに上に上がりまた攻撃を仕掛けてくる。一撃離脱で急降下を仕掛けてくるのだ。
 その威力は凄まじかった。さしものスカイライダーも上からの攻撃である防戦一方であった。
「ライダーーーッ!」
 がんがんじいが助けに来ようとする。だがスカイライダーはそれを手で制止した。
「大丈夫だ」
 彼はあえて強い声で言った。
「俺は絶対に勝つ」
「そやけど・・・・・・」
 がんがんじいはそれでも心配そうである。だがスカイライダーはそんな彼の心配を打ち消すように言った。
「ライダーは何時如何なる時でも絶対に負けない。それは知っているだろう」
「・・・・・・・・・」
 がんがんじいはその言葉に沈黙した。
「今それを見せる。よく見てくれ」
 そう言うとスカイターボを呼んだ。
「これがライダーの戦いだっ!」
 彼はスカイターボを踏み台に空を飛んだ。そして死人コウモリに向かう。
「ほう、考えたな」
 怪人はそれを見て言った。
「だがそれでこのわしを倒せるかな」
 怪人は翼を大きく広げた。そしてライダーの突進をかわした。
「さあ、あとは地に落ちるだけじゃな」
 怪人はライダーを見送ってほくそ笑んだ。だがライダーは地に落ちなかった。
 そこにはスカイターボがあった。ライダーはそこに足をつけた。
 ガッ
 マシンの前輪を踏んで再び飛ぶ。今度は高速回転をしている。
「フフフフフ、駒の様じゃのう」
 怪人はそれを余裕の笑みで見ていた。
「じゃがそれも通用せん!」
 そして彼も高速回転する。スカイライダーの高速回転に対抗する為だ。
 二つの駒が撃ち合った。空中に鋭い音が木霊する。
「ライダーーーーッ!」
 下からその闘いを見守るがんがんじいはそれを見て思わず叫んだ。
 死人コウモリは退いた。その回転は止まっていた。
「ヌウウ・・・・・・」
 怯んだが体勢を立て直す。そしてライダーに目をやる。
 ライダーの動きは止まってはいなかった。そのまま回転し空中を飛んでいた。
 弧を描きこちらにやって来る。その速さは今までよりもずっと速かった。
「ムウウッ!」
 死人コウモリはそれを見て思わず唸った。見事な動きであった。
「スカイ・・・・・・」
 スカイライダーは回転しながら技を繰り出そうとする。
「フライングソーーーサァーーーーーッ!」
 そして蹴りを放つ。それは怪人の胸に襲い掛かった。
 蹴りが怪人の胸を直撃した。そして大きく吹き飛ばした。
「ガハアッ!」
 怪人は地に叩き付けられた。そしてツバサ大僧正の姿に戻っていく。
「見事だスカイライダーよ、わしの技を破るとは」
 彼は立ち上がりながら言った。
「そちらこそな。こっちもスカイターボがなければどうなっていたかわからん」
 スカイライダーは怪人を見据えて言った。
「それにあの高速回転には悩まされた。やはりツバサ一族の長だけはある」
「フフフフフ、褒め言葉か」
 彼はそれを聞いて笑った。
「敵に賛辞を受けるのがこれ程嬉しいとはな」
「賛辞ではない。本当のことだ」
「そうか、どうやらわしの長い戦いもこれで終わりだな」
 彼はガクリ、と片膝をついた。
「ツバサ一族はわしの死によって幕を降ろす。その幕引きに一人の素晴らしい敵と出会えたことは誇りに思おう」
「ツバサ大僧正・・・・・・」
「ツバサ一族の火よ消えよ。バダンバンザァーーーーーイッ!」
 彼はそう言うと前に倒れた。そして爆発の中に消えていった。
「これでまた一人バダンの大幹部が倒れたな」
「ええ。せやけど敵ながら天晴れな奴でしたわ」
 スカイライダーとがんがんじいはそれを見守りながら言った。
 こうしてギアナ高地での戦いは終わった。二人は誰もいなくなった基地を破壊しその場を後にした。
「ここを降りるのは怖いでんなあ」
 がんがんじいはロープを伝いながら震える声で言った。
「仕方ないな、重力低減装置が壊れてしまったんだし」
 筑波はそんな彼に対し苦笑して言った。
「そやけどこんな高い場所をロープ一本で降りるっちゅうんは」
「まあそう言わないでくれよ。ほら、神様は勝利のご褒美に凄いものを見せてくれてるし」
「ご褒美!?」
「見ろよ」
 筑波が指差した方に一つの巨大な滝があった。エンジェル滝である。
 この滝は一千メートル近い場所を直角に落ちる滝である。その景色はこの秘境においてもとりわけ不思議なものである。
「・・・・・・凄いでんなあ」
 がんがんじいはそれを見て思わず感嘆の言葉を漏らした。
「だろう、これも勝ったから見れるものだ」
 筑波はがんがんじいの方を見下ろして言った。
「こんな素晴らしい場所がこの世界にはまだまだ沢山あるんだ。それを守らないとな」
「そうでんな」
 彼は声の震えを収めた。そして二人は降り終えギアナを後にした。

「これでツバサ大僧正も死んだ」
 死神博士は暗闇の中で水晶玉を覗き込んで言った。
「ライダー達め、やはり腕を上げているな」
 彼はその沈んだ声で呟く様に言葉を発する。
「我々も油断するわけにはいかない。これ以上の敗北は許されないだろう」
 彼はそう言うと左に顔を向けた。
「こちらもより強力な戦力を用意しておかねばなるまい」
 そこには無数の巨大なカプセルがあった。そこにはそれぞれ怪人達が眠っている。
「ではその連中を解き放つ時が来たのだな」 
 そこで一人の男が入って来た。
「貴様か」
 それはゼネラルモンスターであった。
「うむ。少し貴様と話がしたくてな」
 彼はその冷たい目を光らせながら言った。
「話、か」
「そうだ。私の身体のことだが」
「そのことか」
 博士はそれを聞くと無気味に笑った。
「任せておけ。貴様もあの男に勝る力を手に入れることだろう」
「そうか。ならば早速頼もう」
 二人は扉の向こうに消えていった。そして後には沈黙だけが残った。
 闇は何も語らない。だが無気味に笑うだけであった。


失われた地の翼人    完




                               2004・4・18




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