『仮面ライダー』
 第三部
 第八章             古都の鬼神
            
 東南アジアにおいて古い歴史を誇るタイ王国は山田長政の話でもわかるとおり我が国との交流が古い。二次大戦の時にも日本に対しては好意的と言ってもよかった。日本人も彼等の主権を尊重した。その精強さで知られた日本軍も非戦闘員、とりわけ子供達に対しては温厚であった。ただし軍事訓練は恐ろしい程厳格であり押し付けがましく融通が利かないとよく言われた。当時の帝国軍人の悪い癖であった。 
 だが彼等は真面目であった。タイ人達もそれはわかっていた。そして二次大戦が終わった後東南アジアに進出してきた日本の企業もタイに好んでやって来た。タイ人もそれを歓迎してくれた。そしてそれがタイの経済発展へと繋がっていくのである。
 よく『日本の経済侵略』といった全くの的外れな批判が日本の知識人と自称する輩から聞こえてきた。だがこれは完全に筋違いであった。この連中は経済のいろはさえ何一つ理解していなかったのだ。経済はマルクス主義を金科玉条に念仏の様に唱えるだけでは動かない。こうした連中はその程度のことすら理解出来ない知識人であったのだ。今ではそこいらの女子高生ですらわかることだ。だがそれすらも理解出来ないのである。それが戦後の我が国の経済学の実態であった。まことに笑うべきことである。
 こうした輩の正体はどうかというと何のことはない。革命を主張しとある凶悪かつ陰険、悪辣な国家と結託していた。こうした連中こそ悪であると言ってよい。とある料理漫画の原作者なぞは自分は決して謝罪などしないが他人には厳しく言う。その卑しい性根をこそ謝罪すべきではないのではなかろうか。
 テレビのキャスターと称する輩もである。所詮他人の謝罪や責任を強制する人間は自分は決して責任をとったり謝罪なぞしない。そうして世の中に害毒を撒き散らしていく。世の中の悪はバダンだけではない。こうした連中もそうだと言ってよいであろう。
「日本では何かバダンと結託していた市民団体が見つかったそうですね」
「ええ、それは村雨君が壊滅させましたよ」
 タイの首都バンコクを流れるメナム川の船の上で沖一也と滝竜介は話していた。
「バダンはとある過激派を名乗っていて市民団体はそれに気付いていなかったそうですが」
「ちょっと待って下さいよ、市民団体が過激派と結託しようとしていたんですか!?」
 沖は竜の言葉に眉を顰めた。
「そうか、沖さんは日本を離れていたからご存知ないのですね」
 竜はそれに対し表情を暗くさせた。
「日本ではよくあることなんです。市民団体を主導する者や後援者が過激派であるということが」
「とんでもない話ですね」
「ええ。しかしこれは残念なことに本当の話です」
 竜の表情は暗いままである。
「口では平和を唱えながらもその裏では全く別の事を画策する。そうした団体にはチェックが行き届きにくいのが現状です」
「呆れた話ですね」
「ですが最近はそうでもなくなってきていますよ。ネットでそうした団体のチェックが行なわれるようになりましたから」
「公安がですか?」
「いえ、我が国の公安にそんなことは出来ませんよ。一般の人が調べているのです」
「よくそんなことが出来ますね」
「ああした連中の世界は狭いですからね。関係を洗えばすぐに尻尾を掴めるのです」
「そうなのですか」
 実際にとある戦争の後で武装勢力がいる場所に極めて不自然な状況で向かい捕まり株価にして何兆もの損害を出した連中の交際等まで瞬く間に掴まれたことがある。驚くことにこの三人は出発前から奇妙なことが多くありそしてその映像等も不自然なものであった。交際はそうした団体を中心にしたものであった。実に奇妙な一致であると皆噂したものだ。
「今までは彼等に同調するマスコミや自称知識人もいましたがね」
「彼等もその力を失っているということですか」
「そうです。まあいずれはそうなる運命でしたけれどね」
 竜はシニカルな笑いを浮かべて言った。
「悪貨は良貨を駆逐する、と言いますがね。それは一時的なものに過ぎないのです」
 彼は言葉を続けた。
「邪道は邪道、正道には勝てません。悪の組織がそうであるように」
「はい」
 沖はその言葉に対し頷いた。そして二人は船を降り街の中に入って行った。

 魔神提督はバンコクの地下深くに設けた基地の奥深くにいた。
「フフフフフ、どうやら計画は順調に進んでいるな」
 彼は工事現場を自ら視察しながらほくそ笑んでいた。
「これでシンガポールでの失敗は取り戻せるな」
 彼はかって仮面ライダーX3により阻止されたシンガポールでの基地建設について考えていた。
「あれでこの東南アジアでの我々の足掛かりは費えたが今度はそうはいかん」
 顔を引き締めた。
「この基地が完成した暁には東南アジアは我等がものとなる。そしてここからアジア太平洋地域を支配するのだ!」
「ハッ!」
 側に控える手の空いた戦闘員達がその言葉に対し敬礼する。魔神提督はそれを見てさらに機嫌をよくした。
「フフフ、期待しているぞ」
 彼は目を細めた。
「そなた達に全てがかかっているからな。この作戦を成功させれば昇進も思いのままだぞ」
「はい!」
 戦闘員達はその言葉に声を明るくさせた。
「上手くやるがいい。無理をせずにな」
 彼はそう言うとその場をあとにした。そして自室へと戻った。
「こうして下の者の士気も鼓舞しなくてはな。働かなくなっては終いだ」
 彼は黒い木製の椅子に座りそう言った。
「戦闘員あってのものだしな。わしもあの者達の育成には力を注いだものだ」
 彼はネオショッカー時代にアリコマンドの養成機関の長官を務めていたことがある。
「戦闘員も組織に欠かせぬ人材だ。大事にしなくてはな」
「所詮は消耗品だというのにか」
 そこで誰かが部屋に入って来た。
「貴様か」
 魔神提督はその者も姿を認めて椅子に座ったまま彼を見上げた。
「そうだ。こちらの様子が気になり来てみたが」
 それはゼネラルモンスターであった。彼等は共にネオショッカーの大幹部であった。
「進んでいるようだな」
「当たり前だ、わしを誰だと思っている」
 魔神提督は彼の言葉に対し顔を顰めた。
「ふむ、自信はあるようだな」
 ゼネラルモンスターはそんな彼を一瞥して言った。
「伊達にネオショッカーで大幹部をしていたわけではないぞ」
「それは私も同じだ」
 ゼネラルモンスターは言い返した。
「もっともスカイライダーの始末は貴様に邪魔されたがな」
 彼はスカイライダーとの最後の戦いにおいて彼を道連れに自爆しようとしたのだ。だがそこで魔神提督は彼に雷を放ち彼を殺している。
「あの時の借り、何時返してもいいのだぞ」
「あれは介錯をしてやったのだ」
 魔神提督は悪びれることなく言った。
「介錯だと」
「そうだ、貴様もハウスホーファー閣下の下にいたことがあるのなら知っていよう」
 ハウスホーファーとは第二次大戦時にヒトラーのブレーンの一人である。ミュンヘンに生まれ地理学者、及び軍人としてその名を知られた。地政学を唱えたことでも知られている。
 彼の特徴の一つとしてオカルトに深く傾倒していたことである。彼は当時かなりの親日家として知られ日本を訪れたこともある。高野山に登ったこともありそこで我が国の神秘主義にも深い関心を示していたようだ。
 それがどうやらヒトラーとの結び付きになったようである。ヒトラーはオカルトにも造詣が深かった。どの様な難解な書でも読破し一度聞いたことは決して忘れず、そして多くの言語を操るというやはり知性においては傑出していた彼の私生活は極めて質素なものであった。
 まず極端な菜食主義であった。肉も魚も食べずラードも使わなかった。酒も飲まない。とりわけ煙草は嫌った。総統官邸においては誰も煙草を吸うことが出来なかった。
 そして女性関係もなかった。エバ=ブラウンのことは側近の将軍ですら知らなかった。ごく一部の者だけが知ることであった。蓄財にも一切関心がなかった。服装も何もかも極めて質素であった。夜明けまで仕事をし明け方には起きる。そうした生活であった。
 まるで修道僧の様な生活である。彼はその卓越した演説と人をひきつけるカリスマ性で知られていたがそれにはどうやらこうした生活と無縁ではないようだ。彼は生活にあるものを科していたようだ。
 それは宗教性であろうか。ナチスは国家社会主義である。ソ連と同じ全体主義国家でありその体制は自らこそ唯一にして絶対なものとする。宗教も敵の一つである。
 では何を信仰するのか。ナチス党員はよく『私は生涯どの宗教も信じなかった』と言った。彼等は宗教を信じてはいなかったのだ。その替わりがナチスの教義であった。
 これを果たして教義と呼んでいいのだろうか。ソ連のそれと同じく自らを絶対的な正義とし他者は悪と定義し抹殺していく。彼等はユダヤ人や資本家だけを殺すのではない。知識人も貴族も宗教家もポーランド人もロマニーもロシア人も殺した。そしてあらゆるものを消した。二十世紀を支配した狂ったイデオロギー、それは全体主義であった。いまだに人類はその狂った教義に苦しめられている。
 この教義の中心、法皇こそヒトラーであった。彼はこの世のものだけではなく人の心までも完全に支配しようと考えていたのである。これはスターリンも同じであった。やはり彼の私生活も質素で孤独なものであった。
 人の心を司る者は神秘性がなくてはならない、欲を極めた生活を送る者に神秘性など備わらない。彼はそう考え私生活を質素なものにしたと言われている。これは宣伝省であり彼の知恵袋であったゲッペルスの提案もあったというが他にも副総統のヘスの意見もあったらしい。
 このヘスもまた私生活はヒトラーのそれと似て質素であった。やはり菜食主義者であった。彼に影響を与えたのはローゼンベルクという怪しげな男であった。彼はオカルトの専門家であったのだ。
 彼はハウスホーファーとも交遊があったという。その縁でヒトラーとハウスホーファーは知り合ったのだ。そして彼の地政学とオカルトはヒトラーに大きな影響を与える。ソ連との戦いのもとになった東方植民はドイツに昔からある東方十字軍の影響もあるが彼の地政学の影響が大きいことは否定できない。彼はヒトラーのオカルトのブレーンの一人ともなっていたのだ。
 彼は前述した通り日本について深い関心を寄せていた。そしてそれは生涯変わることはなかった。ヒトラー、そしてナチスは極端な人種主義で知られているが彼は日本を忘れたことはなかった。そう、最期まで。
 彼はその生涯を自らで幕を降ろしている。ナチスは敗れ彼も裁判にて処刑されることが確実な身分であったのだ。
 ここで彼は実に奇妙な自殺を遂げている。本来ドイツ軍人はプロイセンの慣習に習い自殺には拳銃を使う。ナチスでは多くはカプセルだ。ヒムラーは自殺を蔑視しており部下の親衛隊員達にそれを禁じていたが彼自身もカプセルで自殺しているのはまことに皮肉なものである。ゲーリングも同じくカプセルで自殺している。なおヒトラーは拳銃を使っている。ハウスホーファーは拳銃もカプセルも使わなかった。
 彼は日本刀で割腹自殺を遂げた。切腹である。何と彼はドイツの流儀にもナチスのそれにも従わず切腹したのだ。そして彼はこの世を去った。それを聞いた連合軍の高官達は皆首を傾げたという。何故日本のもので死んだのか、それは誰にもわからなかった。
 ゼネラルモンスターは彼の下にいたことがある。そして彼の思想に影響を受けてもいた。
「ハウスホーファー閣下か。懐かしいな」
 彼はナチス時代を思い出しながら言った。
「だが今の私にそんなものは関係ない。関係があるのは貴様のあの時の行いだけだ」
 彼はその右目で魔神提督を睨み付けた。
「フン、生き返ってもそのことは忘れんか」
「そうだ、私が生き返るのはこれで三度目だがな」
 彼はネオショッカー時代二度甦っている。スカイライダー、そして他の七人のライダーとの戦いにおいてだ。だがいずれもライダー達の前に敗れている。
「それは貴様とて同じだろう」
 魔神提督は心臓が残っている限り幾度でも甦るのだ。
「確かにな」
 彼はその言葉に対して不敵に笑った。
「一度貴様とは決着をつけたいと考えている」
 ゼネラルモンスターは右手に持つ杖を向けて言った。
「それはわしとて同じこと。わしも一度貴様に殺されているしな」
 この二人の因縁は相当深いものであるらしい。魔神提督も剣に手をかけた。
「だがそれは全てライダー達を倒してからのことだ」
 魔神提督の言葉にゼネラルモンスターも杖を収めた。
「確かにな。あの者達を倒すことが先決だ。特にあの男は」
 そこでスカイライダーの姿が脳裏に浮かんだ。
「ここは矛を収めよう。だが忘れるなよ」
 ゼネラルモンスターは左手の鉤爪を鳴らしながら言った。
「貴様とは必ず決着を着けるということを」
「望むところだ」
 ゼネラルモンスターは姿を消した。魔神提督はそれを嫌悪に満ちた眼差しで見送っていた。

 沖と竜はバダンの捜索を行なっていた。バンコク市内をくまなく探し回る。しかしやはり容易には見つからない。
 このバンコクはタイ王国の首都であり政治、経済の中心地である。何百万もの人口を擁する東南アジアでも有数の大都市である。その街においては多くの人々が雑居している。
 その中には良からぬ者も多い。そうした輩が自らの領域に誰かが入るのを好まないのはどの国でも同じである。彼等が沖と竜に対し牙を剥くのは当然の成り行きであった。だが所詮彼等は普通の人間である。特別な訓練を受けた竜や改造人間である沖に適う筈もなかった。
「つ、強え・・・・・・」
 彼等は道に伏していた。沖と竜はそんな彼等を見下ろしている。
「どうやらただのチンピラみたいですね」
 沖は彼等を見て言った。
「はい、手加減して正解でしたね」
 竜もそれに同意した。
「痛てて、それにしてもあんた達強いなあ」
「全くだよ。一体何処から来たんだよ」
 彼等は起き上がりながら二人に尋ねてきた。
「?日本だが」
 竜が答えた。
「日本人!?じゃあ早く言ってくれよ」
「そうだよ、俺達は別に日本人に恨みがあるわけじゃないし」
「そっちからつっかかって来た癖に」
 沖はその言葉に顔を顰めた。どうやら彼等は何処かの国の人間と勘違いしたらしい。
 彼等はどうやらこのバンコクで屋台をやっているらしい。つでに副業であまり好ましくない仕事もしているという。
「まあそれは聞かないでくれよ」
 彼等が開く屋台でタイ料理を食べながら話をしている。中々美味い。
「この料理だけで充分だと思うけれどな」
 沖はタイ風チャーハンを食べながら言った。
「まあ見たところ良からぬ仕事といってもそんなに顔を顰めるようなものでもないようだな」
 竜は彼等の顔を見て言った。どうせモグリの食品販売とかだろう、彼等のさほど悪くはない人相を見ながらそう思った。
「金が欲しくてね。今はこの屋台だけれどいずれもっと大きくするのが夢なんだ」
 彼は白い歯を見せて笑った。笑顔もいい。
「だったら地道に働けばいいんじゃないか」
 沖はチャーハンを食べ終えて彼に対し言った。
「そうだな。この味があれば問題ないと思うが」
 竜も同じ意見である。
「すぐに大きくしたいんだよ。一攫千金」
「そういう考えだから変な仕事もするんだろ」
「いいんだよ、別に人を殺したり迷惑をかけているわけじゃないんだし」
「だからといって裏の仕事を持つのはどうかと思うぜ」
 沖の性格からしてこういったことは認められないのだ。
「マイペンライ、警官も黙認しているから」
「そういう問題じゃなくてな」
 おおらかな国である。裏といっても警官が文句を言わなければそれでいいのである。
「俺達の夢はこの屋台をでっかいレストランにするのが夢なんだ。その夢の為にこうして頑張っているんだよ」
「せめて変な仕事を止めてから言ってくれ」
 やはり沖はこうしたことが許せないようだ。
「沖さん、まあいいじゃありませんか」
 竜は融通の利かない彼を窘めて言った。まだ彼の方が世の中を知っている。
「じゃあその裏の仕事で聞きたいことがあるんだけれど」
「おっと、そうそう口は割らねえよ」
「そうだそうだ、さっきあんた達にはのされてるしな」
「それはあんた達が悪いんだろうに」
 沖は仕様が無いな、といった顔で彼等を見て言った。
「じゃあこうしよう。ここにあるメニュー全部頼もう。そして今この辺りにいる人達全員におごろう」
「えっ、いいのかい!?」
 屋台の店員達だけではなかった。その場を通り掛かっていたバンコクの老若男女が竜の側に集まってきた。
「ああ、それなら文句はないだろう」
「あんた話がわかるねえ。日本人っていうのは親切だけれどどうもせこいところがあるもんだけれどね」
「せこいのは余計だろ。否定はしないけれど」
 沖の声は渋いままである。だが竜の言葉が決め手となった。沖もこの屋台の料理を堪能し運の良いバンコクの人達にも御馳走した後情報を聞いた。
「最近のあそこで変な噂をよく聞くね」
「ああ、何でも黒い影が夜になるとウロウロしているとか」
「黒い影・・・・・・」

 その言葉に沖と竜は顔を見合わせた。
「ではそちらに行くか」
「それでは。料理は美味かったぞ」
「ありがとよ。何かあったらまた来てくれよ」
 こうして彼等は屋台を後にして彼等が言ったその場所に向かった。
 先程も書いたがバンコクは清濁併せ呑む街である。あまり治安の良くない場所もある。二人はそこへ足を踏み入れた。
 そこには怪しげな店が多くあった。ポン引きや薬の密売人が昼からもう道でたむろしている。
「お兄さん、可愛い女の子いるよ」
「コカインどう、コカイン」
 彼等はそう言って二人に声をかける。彼等はそれを適当にあしらいつつその中を進んでいく。
「何かこうした場所は大きな街だと何処にでもありますね」
「人間というのはそうしたものですから」
 竜は答えた。彼の方がやはり世の中をよく知っているようだ。
「さて、と」
 竜は立ち止まって辺りを見回した。
「とりあえずは姿を隠しましょう」
 二人は店で服を買った。そしてそれに着替え現地人の中に紛れ込んだ。そして夜を待った。
 夜になっても人は減らない。それどころか益々増え、怪しげな人物のその数を増やしていた。
「それでも連中の姿は見えませんね」
 現地人の中に紛れた沖は隣にいる竜に対して声をかけた。
「いや、そうでもないか」
 沖はあることに気付いた。
「見ればチラホラいるな」
 彼は屋台や建物の上を見た。すると黒い影が時折見える。
 二人は道から姿を消した。
 戦闘員達は建物の上を走り回っていた。そして何かを探っている。
「いないな」
「ああ、何処にもいない」
 彼等は誰かを探しているようである。
「ここに来たと言われたんだがな」
「偽情報だったか」
 どうやら誰かの指示でここで探っているらしい。
「仕方ない、基地に戻るか」
「ああ、そうしよう」
 そこに何かが飛んできた。
「ムッ!?」
 それは一本のナイフであった。
「残念だったな、基地に戻る必要はない」
 戦闘員達はナイフが飛んで来た方に顔を向けた。そこには竜がいた。
「貴様等が探していたのは私達だろう?」
「クッ、滝竜介か」
 戦闘員達は彼の姿を月夜の下に認めた。
「そうだ、探しているのでこちらから出向いた。覚悟するがいい」
「望むところだ、今ここで貴様だけでも倒してやる」
「そして魔神提督様への手土産にしてやる!」
 戦闘員達はそう言って竜に向かって行った。竜はそれに対してナイフと格闘術で対抗する。彼は流石に強く戦闘員を寄せ付けない。
「クッ、こうなったら」
 数人が倒されたところで戦闘員達は間合いを離した。
「怪人を呼ぶんだ!」
 忽ち二体の怪人が姿を現わした。
「ゾォーーーーリイイィィィーーーーッ」
「コォーーーーウ」
 ゲルショッカーのガス怪人サソリトカゲスとガランダーの分身怪人ゲンゴロウ獣人である。二体の怪人は無気味な叫び声と共に竜のところへやって来た。
「来たな」
 竜は怪人達の姿を認めて呟いた。
「ライダー、出番だ。すぐに来て下さい!」
「了解!」
 竜が呼ぶと共にライダーはその場に姿を現わした。下から跳んで来たのだ。
「行くぞっ、怪人達!」
 銀の仮面と拳が月夜の下に映える。ライダーは身構えると二体の怪人に向かって行った。
 まずはゲンゴロウ獣人が来た。怪人はその槍の様な両腕でスーパー1を突き刺そうとする。
「甘いっ!」
 だがスーパー1にそれは通用しなかった。彼はそれを手の甲で払い胸に蹴りを入れた。
 怪人は後ろに身体をのけぞらせた。その隙にライダーは腕を替えた。
「チェーーーンジ、冷熱ハァーーーーンドッ!」
 そして左手から冷気を発した。昆虫型怪人である彼にとってこれは効果があった。
 ゲンゴロウ獣人は忽ちのうちに凍りついた。そしてそのまま砕け散り爆発した。
 今度はサソリトカゲスが来た。怪人は左手の鋏でライダーの首を断ち切らんとする。
 しかしライダーはそれをかわす。そしてその左脇に回し蹴りを入れた。
「まだだっ!」
 そして更に背中へ回り込んだ。右腕をその背に叩きつける。
「喰らえっ!」 
 そこから炎を発する。それで怪人の背を焼いた。
 これが決め手であった。怪人は炎に焼かれそのまま爆発して消えた。こうしてスーパー1は二体の怪人を倒した。
「フフフフフ、やはりメガール将軍が警戒するだけのことはある」
 ここで何者かの声がした。
「誰だっ!」
 戦いを終えていたスーパー1と竜はその声に対し身構えた。そこには黄金色の鎧に全身を包んだ男が立っていた。
「スーパー1よ、久し振りだな。アメリカ以来か」
「貴様、魔神提督か!」
 スーパー1は彼の姿を見て叫んだ。
「一体何故ここに」
「それを言う必要はない」
 彼はそう言うと剣を抜いた。そしてスーパー1に斬りかかってきた。
「ムッ」
 スーパー1はそれをかわした。そこに二撃目が来る。
 しかし彼はそれもかわした。そして反撃した。
 蹴りを出す。それは魔神提督の腹を打った。
「グッ」
 提督は一瞬怯んだ。だがそれは一瞬だった。すぐに攻撃に移る。
 スーパー1は剣をかわす。そして腕を変えようとする。
「チャーーーンジ、エレキハァーーーンドッ!」
 青い腕に変わった。それを見て魔神提督は間合いを離した。
「出でよ!」
 彼は叫んだ。すると一体の怪人が姿を現わした。
「エーーーーーィッ!」
 それはブラックサタンの電気怪人奇械人電気エイであった。怪人は右腕の鞭を振り回しスーパー1に襲い掛かる。
「ブラックサタンの怪人か」
 彼はブラックサタンの怪人について多少知っていた。ストロンガーから聞いていたのだ。
「ならば好都合だな」
 彼はエレキハンドを見て言った。そしてその腕を怪人に向けた。
「喰らえっ!」
 両腕から電撃を放った。そして怪人をその電撃で撃った。
「フフフフフ」
 魔神提督はそれを見て笑っている。まるで何かを期待するように。
「無駄だ、スーパー1よ」
 彼はスーパー1に対して言った。
「その怪人に電気は通用せぬ」
「どういうことだ!?」
 スーパー1はその言葉に対し顔を向けた。
「その奇械人は普通の奇械人とは違う。そ奴の胸を見るがいい」
「胸!?」
「そうだ」
 見れば胸は何かのゲージになっている。それは急に上へ上がっていく。
「その怪人は電気エネルギーを吸収するのだ。そして自分のパワーにしてしまう」
「何っ!?」
「迂闊だったな。ストロンガーからそれは聞いていなかったのか」
「クッ・・・・・・」
 見れば怪人の力が満ちている。スーパー1は自らの迂闊さに舌打ちした。
 怪人は満ち足りたその力でスーパー1を打たんとする。だがその動きを急に止めた。
「!?」
 そして全身から煙を発する。ガクリ、と片膝を着いた。
 そのまま倒れ込み爆死した。どうやらスーパー1のエネルギーを全て吸収出来なかったようである。
「何と、これ程までの力とは・・・・・・」
 さしもの魔神提督もそれを見て絶句した。
「まさかパワーアップしたエレキハンドがこれ程までの力を持っているとはな」
 スーパー1は自身の両腕を見て呟くように言った。
「魔神提督、今度は貴様の番だ!」
 そして魔神提督に顔を向け指差して叫んだ。
「ウヌヌ・・・・・・」
 彼は呻いた。そして踵を返した。
「待て、逃げるか!」
 スーパー1は追おうとする。だが魔神提督はそこに右腕を飛ばしてきた。
「ムッ!」
 スーパー1はそれを電撃で撃ち落とした。右腕は爆発して消えた。
「スーパー1よ、この勝負はお預けだ」
 魔神提督はその間に何処かへ姿を消していた。
「だが覚えておくがいい。貴様はこのタイで死ぬのだ」
 彼の声だけが闇夜の中に響く。
「その事を決して忘れるでない」
 そして気配を消した。後にはスーパー1と竜だけが残っていた。

「迂闊だったわ、まさかあれ程までの力を持っているとは」
 基地に帰った魔神提督は一人自室で酒を飲みながら呟いていた。
「奇械人電気エイ、あ奴をもってしてもエネルギーを吸収出来ぬとはな」
 彼は何時に無く深刻な顔をしていた。無理もあるまい。
「だがこれで終わりではない」
 そこで彼は顔を上げた。
「まだ手駒はある。幾らでも挽回してやる。幾らでもな」
「そういう楽天的なところは見習うべきかな」
 そこで何者かの声がした。
「今度は誰じゃ!?」
 魔神提督はその声に対して顔を上げた。
「私だ」
 見れば死神博士である。部屋の中に瞬間移動で入って来たのである。
「死神博士か。一体何用じゃ」
「うむ。そなたの様子を見たくてな」
 彼はいつもの無気味な様子で彼に対して言った。
「わしのか。笑いにでも来たのか」
「生憎だが私にそのような趣味はない。少し気になることがあってな」
「気になること!?」
「そうだ、ここには仮面ライダースーパー1が来ているそうだな」
「情報が速いのう。今しがた三体の怪人を倒されてきたところじゃ」
「三体か」
「そうじゃ。まさかあれ程までの力を持っているとはな」
「あの男はヘンリー博士の最高傑作だ。強いのも道理だな」
「ヘンリー博士のことを知っておるのか」
「多少はな。あれ程の男になると」
 彼は頷いて答えた。
「流石と言うべきだろうな。あの五つの腕は私でもそうそう容易には作れぬ」
「敵を褒めている場合か」
 魔神提督は死神博士のその余裕に満ちた態度に対し苛立ちを覚えた。
「そうイライラするな。お主はどうもそういうところが地獄大使に似ておるな」
「わしはそうは思わんがな」
「まあそれはいい。だがお主は今自分がスーパー1に勝てると思うか」
「わからんな」
 彼は顔を横に向けてふてくされた態度で言った。
「正直に言おう。今んままでは難しいと思っているだろう」
「・・・・・・・・・」
 彼は死神博士の問いに答えようとしなかった。図星だったのだ。
「しかしこれを使えばお主はあの男以上の力を手に入れることが出来る」
 死神博士はそう言うと懐から何かを取り出した。
「それは・・・・・・」
 それは一つの小さな機械であった。バッテリーのようである。
「これを身体の中に埋め込むがいい。そうすればお主の力は今までとは格段に違うだろう」
「まことか!?」
「ただし数分だけだがな」
「超電子ダイナモのようなものか」
「うむ。あれからヒントを得た。だが違うのは長時間使用しても問題はないということだ」
「凄いのう」
「その分開発には苦労した。だがそれだけの介はあったと自負している」
 死神博士はその鋭い眼を光らせて言った。
「では有り難く使わせてもらおう。感謝するぞ」
「うむ」
 魔神提督はそれを死神博士から受け取った。
「ところで何故わしにそのようなものをくれるのだ?何か見返りでも要求するのか!?」
「それはない」
 死神博士は静かに答えた。
「ただそれを使ってもらいたいのだ」
「わしを実験にしてか」
 魔神提督は死神博士の顔を見ながら言った。
「そうだ」
 彼は臆面もなく答えた。
「この装置はいずれ大いに役に立つだろう。それをまずテストとして見たいのだ」
「フン、むしがいいのう」
 魔神提督はそれを聞いて言った。
「だが良い」
 しかしその声は不服そうであったが了承したものであった。
「わしは今はスーパー1さえ倒せればそれでいい。これで倒せるのならな」
「そうだろう」
 彼はそれを聞いて頷いた。
「心配する必要はない。それさえあれば仮面ライダースーパー1は必ず倒せる」
「そうであればいいがな」
「私を信じるのだ」
 彼は疑念の言葉に対し鋭い声で答えた。
「私の作ったものに欠けているものなどない」
 彼は自信に満ちた声で言った。
「私の腕を信じるのだ。そうでなければ最初から使わなければよい」
「大した自信だな」
 魔神提督はそれを見て言った。
「では聞こう。私の怪人達より優れた怪人がいるか」
 死神博士の言葉は続いた。
「私の開発した兵器より優れた兵器があるか」
 彼の言葉は自信よりも何か信仰めいたものがあった。
「私は首領よりこの才を認められたのだ。そしてショッカーの大幹部となった」
 彼はそれまでは学会では異端とも言える存在であった。科学や医学だけでなく占星術や錬金術にまで手を出していたのだから無理もないことではあるが。
「その私の作りしものに文句をつけるというのなら構わん」
 彼は右手に持つ鞭で魔神提督を指し示した。
「ならば使うな。それだけだ」
「誰が使わんと言った」
 魔神提督はそれに対して口の端で苦笑いを浮かべて言った。
「有り難く使わせてもらうと言ったのだ。わしとてお主の実力はよく知っているつもりだ」
「ならば良い」
 死神博士はそれを聞いて頷いた。だがその表情はまだ硬いままである。
 何かあったのか、と魔神提督はふと思った。しかしそれは口にも顔にも出さなかった。
「それではこれはどうして使うのだ」
「超電子ダイナモと同じだ。それをお主の身体に埋め込むのだ」
「そうか。それでは早速手術を頼む」
「うむ」
 こうして二人は部屋を後にして手術室に向かった。そして魔神提督は恐るべき力を手に入れた。

「やっぱり昨日のことは話題になっていますね」
 沖は例の屋台で朝食をとりながら現地の新聞を読んでいる。そして麺をすすった後竜に対して言った。
「そりゃ三回も爆発が起これば。しかも夜の街で原因不明のものがですよ」
 竜がそれに答えた。彼も沖と同じ麺を食べている。
「あんた達また何かやったのかい?」
 店の兄ちゃんが麺をさばきながら尋ねてきた。
「いや、そういうわけじゃないけれど」
 沖はそれを誤魔化そうとした。だが根が正直な彼である。すぐにそれがばれた。
「そしたらそんなに新聞を熱心に読むかい?普通新聞といったら興味あるところをちょこちょこと読んであとは食い物を包んだりとかに使うものだろう」
 もう一人が鶏肉に包丁を入れながら言った。
「まあ何をしていたかとかは聞かないけれどな。ほら、おかわりだ」
 麺が飛ぶ。沖はそれを受け止めた。
「有り難う」
 そしてそれを食べる。辛いがそれがまた食欲をそそる。
「あんた達のやってることに首を突っ込んだら冗談抜きにこっちの命がいくらあっても足りなさそうだからな。俺達がこれからレストランで大儲けする為にはそんなやばいことには関わらないことが肝心なんだ」
 鶏をさばいていく。見れば野菜や魚介類と食材はかなり豊富である。
「だったらモグリの仕事も止めた方がいいだろう」
 竜は沖と同じく麺のおかわりを食べながら突っ込みを入れた。
「あっちは命がかかってないからな」
「そうそう、警察も黙認してくれてるし」
「黙認すればいいというものでもないだろうに」
「そうだ、悪いことをしているのだとは思わないのか?」
 二人はいささか日本人特有の善悪の判断で二人を嗜めた。だが二人はそれに対して反論した。
「別にな。人を殺したり傷つけたりするわけじゃないし」
「そうそう、それに俺達はこう見えても家族の面倒はちゃんとみて朝からしっかり働いているぜ」
「お坊さんにも礼儀正しくするようにしてるしな」
 タイ人と日本人では法律に対する考え方が少し異なっている。法についてタイ人はわりかし柔軟に考える。その反面警官が賄賂を要求したりするのは困りものであるが。
「まあそれはいいさ。こうしたことはあちこちであるし」
 沖は彼等に対してこれについて言うことを止めた。
「ご馳走様、美味しかったよ」
 二人はそう言って金を置き席を立った。
「有り難う」
 兄ちゃん二人はそれに対し笑顔で答えた。こうした微笑みが実にいいのがタイ人のいいところだ。
「あの笑顔見るとまた来たくなりますね」
「はい、それに味もいいですし」
 二人はそんな話をしながらその場をあとにした。そしてまたあの場所に向かった。
 
 やはり今は夜のような雰囲気ではない。昼と夜で街は顔を変えるものだがこうした場所は特にそうしたことが顕著である。だが今は趣きが異なる。
「当然といえば当然ですが警官が多いですね」
「はい」
 二人は道を行きながら監察していた。昨日の夜の爆発のせいだ。色々と捜査にあたっている。
 だからといってあまり店の中には入らない。ただ現場で捜査をしているだけだ。
「ただの警官ではないですね」
 見れば軍人も一緒にいる。
「タイ政府も何か掴んでいるのかも」
 彼等はそんなことを考えながら道を進んでいた。だがここには手懸かりはなかった。
「引き払ったかな」
「まさか。そう簡単に諦めるような連中じゃありませんよ」
 沖はここで考えた。そしてあることに気付いた。
「じゃあこれを使いましょう」
 彼は早速一台のバイクを呼び寄せた。
 それはXマシンであった。それを見たバンコクの市民達が好奇心に満ちた目で見る。
「おい、ハーレーかよ」
「また派手なバイクに乗ってる兄ちゃんだな」
「ちょっと見せてくれよ」
 皆わらわらと寄って来る。
「ちょ、ちょっと待って」
 沖は苦笑いをしながら彼等に帰ってもらおうとする。だが彼等は細かいことは気にするな、と言わんばかりである。
「マイペンライ、マイペンライ」
 大体においておおらかなタイ人である。沖があまり強く言わないこともあり彼等はXマシンを興味深げに見ている。
「いいよなあ、俺も何時かこんなのに乗ってみたいな」
「ああ、五〇CCじゃなくてな」
 そんな話をはじめた。だが飽きたのかやがて去って行った。
「参ったなあ、ハーレーじゃないのに」
 沖は彼等が去った後も暫く苦笑したままであった。
「何はともあれ始めますか」
 竜はそれに対して落ち着いたものである。そして沖にXマシンを使うよう促した。
「はい」
 彼はレーダーのスイッチを入れた。Xマシンの特徴は索敵能力の高さにある。
 沖は暫くの間レーダーを見ていた。そしてある地点に反応を見た。
「成程」
 彼は顔を見上げある建物を見た。そこはこの地域によくある平凡なものであった。
「あれです」
 彼はその建物を指差した。二人は早速その建物に向かった。
 建物の中に入る。そこは一見ただの廃屋であった。
 二人はその中を探る。やがて竜が床に何かを見つけた。
「そこですね」
 開けてみる。その下は階段が何処までも続いていた。
 そこを降りていく。やがて鉄の扉の前に来た。
 沖は怪力でそれをこじ開ける。忽ち警報が鳴り響いた。
「まさか!」
 戦闘員達はそれに対し一斉に動き出した。すぐに入口へ向かう。
「いたぞ、スーパー1だ!」
 彼は既に変身していた。そして向かって来る戦闘員達を竜と共に次々と倒していく。
「これ以上はやらせん!」
 やがて怪人が姿を現わした。
「フニャオーーーーーーッ!」
 ゲドンの毒爪怪人黒ネコ獣人である。怪人はその爪でライダーを切り裂かんとする。
 だがスーパー1はそれを蹴りで弾き飛ばした。そして身構えた。赤心少林拳の構えである。
「行くぞっ!」
 そして怯んでいる怪人に向けて突進した。その両手を振るった。
「スーパーライダァーーーー諸手頚動脈打ちっ!」
 それで黒ネコ獣人の首を撃った。首の骨を叩き折られた怪人はそれで倒れ爆発した。
 二人はそのまま進む。向かって来る戦闘員達は倒していく。
 またもや怪人が現われた。ゴッド悪人軍団の一人トカゲバイキングである。
「グルルルルルルルルルッ!」
 怪人は無気味な唸り声を挙げスーパー1に向かって来る。その手には鋭い斧が握られている。
 スーパー1は落ち着いて腕を替えた。銀の腕、スーパーハンドである。
「行くぞっ!」
 そしてその腕を構え立ち向かう。トカゲバイキングはそれに対し斧を振り下ろした。
 斧は唸り声をあげて襲い掛かる。スーパー1は斧ではなくそれを持つ手を打った。
「グエエッ!」
 怪人が呻き声を漏らす。彼は肘を打ったのだ。
 動きが止まったところに掌底を入れる。それは腹に入り怪人は後ろにのけぞった。
「まだだっ!」
 さらに追い打ちをかける。斧を蹴り飛ばしその腕を掴んだ。

「喰らえっ!」
 そして投げる。怪人は床に叩き付けられた。
 さらにそこに肘を入れる。それは喉に決まり怪人の息の根を止めた。
 トカゲバイキングも爆死した。スーパー1はその爆風を後ろに受けつつさらに進んだ。
「おのれっ、来るとは思っていたが」
 魔神提督は戦闘員達を引き連れスーパー1がいる方へ向かっていた。
「これ程早く来るとはな」
 彼の索敵能力を甘く見ていた。彼はその迂闊さを呪った。
「ですが今からでも対処は可能です」
 それに対し側にいる戦闘員の一人が言った。
「スーパー1を倒せばいいのですから」
「そうだったな」
 魔神提督はその言葉を聞き微笑んだ。そして落ち着きを取り戻してきた。
「そこか、魔神提督!」
 前からスーパー1の声がした。竜も一緒である。
「おう、貴様を成敗する為に来てやったぞ!」
 彼は剣を抜きそれでスーパー1を指し示しながら言った。
「望むところだ、来いっ!」
 スーパー1も来た。二人は狭い廊下で互いにぶつかり合った。
 スーパー1は銀の拳で立ち向かう。魔神提督はそれに対し剣を振るう。
 一見魔神提督の方が有利であった。しかしスーパー1はその素早い身のこなしと拳法の腕で彼を寄せ付けなかった。
「クッ、やはり手強いのう」
 提督は剣でスーパー1の攻撃をしのぎながら言った。
「魔神提督、ここが貴様の墓場だっ!」
 スーパー1の攻撃は続く。彼は次第に押されてきた。
「だがのう」
 しかし彼はまだ余裕があった。
「あしにも切り札があるのじゃ」
 彼はそう言うと間合いを離し胸に手を当てた。
「行くぞっ!」
 そう叫ぶと全身が光った。鎧の光がさらに強くなった。
「ムッ!?」
 スーパー1はそれを見て思わず声を漏らした。今までとは雰囲気が異なると感じた。
「行くぞ、スーパー1」
 魔神提督は再び剣を構えた。そしてスーパー1に切りかかってきた。
「ウォッ!」
 スーパー1はその剣裁きを見て思わず唸った。先程までとは全く違っていた。
 速かった。それだけではない。力も相当なものであった。
「フフフ」
 魔神提督は笑っていた。まるでその力を楽しんでいるようだ。
「どうじゃ、この剣は」
 そして次々と剣撃を繰り出す。スーパー1はそれに対して防戦一方であった。
「馬鹿な、先程までとは動きが違い過ぎる」
「わしもパワーアップしたのだ。貴様の知らぬうちにな」
 彼は自信に満ちた笑いを浮かべながら言った。
「パワーアップ!?」
「そうじゃ、今それを味あわせて死なせてやるぞ!」
 そう言うと剣を振り下ろした。
 スーパー1は後ろに跳び退きそれをかわそうとする。だが一瞬遅れた。剣が胸を掠めた。
「グッ・・・・・・」
 致命傷ではなかったが傷を受けた。思わず怯む。
「ライダーーッ!」
 竜が救援に向かおうとする。だがそこに魔神提督は左腕を飛ばしてきた。
「うわっ!」
 その腕に掴まれた。竜は壁に押さえ付けられ動けなくなった。
「フフフフフ」
 魔神提督は左腕を再生させた。そして今度はその腕をスーパー1に向けて放った。
「クッ・・・・・・」
 スーパー1も壁に押さえ付けられた。身動きがとれなかった。
「その腕は時限爆弾になっておる」
 魔神提督は動けない二人をせせら笑いながら言った。
「そこで基地と共に滅ぶがいい。貴様等が捜し求めていた基地と共にな」
 そう言うと踵を返した。
「クッ、待て!」
「これで貴様は終わりだ。今更待つ馬鹿が何処にいる」
 彼はそう言うと姿を消した。戦闘員達も後に続く。
「まずい、ライダー、このままでは・・・・・・」
 竜はスーパー1に顔を向けて言った。
「大丈夫です」
 見れば彼はパワーハンドに変えている。そしてそれで自分を押さえ付ける腕を引き剥がした。
「竜さんのも」
 彼を押さえ付ける腕も剥がした。
「行きましょう」
「はい」
 彼はその時スーパー1の五つの腕の力を実感した。そのおかげで助かったのだから。

 基地を脱出した魔神提督はゴンドラ型の船でメナム川を降っていた。
「もう爆発した頃か」
 夜になっていた。黄金色の満月が川に映っている。
「はい」
 同じ船に乗る戦闘員が時計を見て答えた。
「そうか。これでスーパー1も最後だな。バンコクが奴の墓場となったのだ」
 彼はそれを聞き満足したように笑った。
 メナム川は本来の名をチャオプラヤ川という。穀倉地帯であるタイを支える豊かな川だ。この川なくしてタイはないと言っても過言ではない。
「基地は惜しいが仕方ない。ライダー一人と引き換えならば諦めがつく」
 彼は基地のあった方を振り返って言った。
「次の基地の場所を決めなくてはな。何処がいいかだ」
「その心配はない!」
 そこで何者かの声がした。
「その声はっ!?」
 魔神提督は声がした方を見た。
 右の岸である。そこに彼はいた。
 青いマシン、ブルーバージョンに乗っている。彼はその上から魔神提督達を見ていた。
「沖一也、生きておったか」
「何度でも言おう、貴様等がいる限りライダーは不滅だっ!」
 そして彼はマシンの上から変身の構えを取った。

 変・・・・・・
 右腕を上から後ろに持っていく。その平は半ば開き指は獣のように立てている。左腕は腰の下で前にある。手の平は右手と同じ形である。
 右腕を前に出す。左手をされに添える。
 身体が黒いバトルボディに覆われる。胸や手袋、ブーツは銀である。
 ・・・・・・身
 両手を手首のところで付けゆっくりと前に出す。そしてそれを時計回りに百八十度回転させる。
 すると顔の右半分が銀の仮面に覆われる。左半分も。その目は真紅である。
 
 光がマシンを包んだ。そして宇宙を駆るライダーがそこに現われた。
「トォッ!」 
 スーパー1は跳んだ。そして魔神提督の船に跳び乗ってきた。
「クッ、しぶとい奴だ!」
 魔神提督は戦闘員達を差し向ける。怪人もその中にいる。
「アウォーーーーーッ!」 
 デストロンの射撃怪人ウォーターガントドである。怪人はスーパー1に向けて左腕の水中銃を放ってきた。
「フンッ!」
 スーパー1はそれを身を捻ってかわした。そして戦闘員達を蹴散らし川の中に落としながら腕を替えた。
「チェーーーンジ、レーーダーーハァーーーーーンドッ!」
 金色の腕に変わった。スーパー1はその腕を怪人に向けた。
「喰らえっ!」
 そしてその腕からミサイルを放った。
 スーパー1のレーダーハンドに装着されているミサイルは武器にもなるかってこれにより怪人を倒したことがある。今またそれをおこなったのだ。
 ミサイルは怪人の顔を直撃した。急所であった。
「グウオオオッ!」
 ウォーターガントドは叫び声をあげ川の中に落ちた。そしてそのまま水中で爆発した。
「やりおったな」
 魔神提督はその爆発に顔を向けたがスーパー1に顔を戻して言った。
「魔神提督、ここで決着を着けてやる!」
 戦闘員達を全て倒したスーパー1は腕を銀のスーパーハンドに戻して言った。
「フン、墓場が基地から川に変わっただけだ」
 魔神提督はそう言うと腰から剣を引き抜いた。
「今度こそその首落としてくれるっ!」
 剣を構え間合いを詰める。スーパー1も巧みな足裁きをしつつジリジリと間合いを詰める。
 スーパー1が拳を繰り出した。魔神提督はそれをかわした。
「ムンッ!」
 気合と共に剣を横に一閃させる。スーパー1はそれを上に跳びかわした。
「トォッ!」
 魔神提督の上を跳び宙返りする。そして船の縁に着地した。見事な身のこなしである。
「今のをかわすとはな」
「知っている筈だ、ライダーに一度見せた技は通用しないと」
「言うのう、ではこれはどうじゃっ!」
 剣を収め右手首を外す。そしてそこから機銃で掃射をかける。
「ムッ!」
 それは船の縁やスーパー1の周りを撃った。水面を銃弾が走る。
「これだけではないぞ」
 今度は口から牙を出した。そしてそれをスーパー1に投げ付ける。
「ウォッ!」
 それは爆弾であった。スーパー1は危ないところで上に跳び難を逃れた。
「まさかこれ程多彩な攻撃を持っているとは」
 スーパー1は着地して構えを取り直しつつ言った。
「わしが改造人間を正体に持たぬから甘く見ておったか」
 魔神提督はスーパー1に対し不敵な声で言った。
「わしはこの姿しかない。だがのう」
 そしてニヤリ、と笑った。
「この姿が改造人間と同じ力を持っておるのだ」
「クッ・・・・・・」
「わしはこの身体のほぼ全てが機械となっておる。そう、改造人間なのじゃよ」
 彼は心臓と頭脳以外は機械なのである。
「姿形だけで判断は出来ん。それを死んで理解するがいい」
 そう言うと再び機銃を放ってきた。
「死ねィ、スーパー1!」
 だがスーパー1はそれをかわした。そして水面へ向かう。
「水中か。ならばこれを受けよ!」
 そして再び牙を取り出す。その時だった。
「ムッ!」
 魔神提督は投げようとしたところで動きを止めた。スーパー1は水中には向かわなかったのである。
 彼は水面にいた。何とその上に立っていたのだ。
「これはどういうことだ・・・・・・」
 魔神提督はそれを見て思わず呆然となった。
「マシンにも乗っておらぬというのに」
「魔神提督、貴様は重大なことを忘れていた」
 水面に立つスーパー1は彼を指差して言った。
「俺は重力を調節することが出来る。だから水面に立つことも可能なのだ」
「クッ、そうであった。五つの腕と赤心少林拳だけではなかったのだったな」
「そしてこれはもう一つ俺に素晴らしい力を与えてくれている。今からそれを見せてやる!」
 彼はそう言うと跳んだ。
 高い何処までも登っていく。まるでスカイライダーのセイリングジャンプのようだ。
「まさか・・・・・・」
 魔神提督は上を見上げて呟いた。
「そのまさかだ!」
 スーパー1は上空で叫んだ。その高さは最早雲を掴まんばかりであった。
「喰らえ・・・・・・」
 そこから急降下する。風を切り凄まじい唸り声が響く。
「スーパーライダァーーーーー」
 空中で型をとる。赤心少林拳の型だ。
「月面宙返りキィーーーーーック!」
 そして蹴りを放つ。それは魔神提督の胸を直撃した。
「グフウゥッ・・・・・・」
 それでも彼は立っていた。だが全身から煙を噴き出していた。かなりのダメージを受けていることは明らかだった。
「恐ろしいまでの威力だ。まさかパワーアップしたわしまで倒すとはな」
「魔神提督、確かに貴様は強かった」
 船に着地したスーパー1は彼に対し言った。
「だが俺が重力を操れることを忘れていた。そしてそれから何を出すのかも」
「確かにな・・・・・・」
 彼は口から煙を出しながら言った。
「わしの負けだな。最早心臓もズタズタにされてしまった」
 見れば左胸が破損している。先程の蹴りで心臓を潰されたらしい。
「最後位は大人しく死んでやろう。生き返ることも出来ぬしな」
 彼はそう言うとスーパー1から間合いを離した。
「筑波洋に伝えておけ。貴様を倒せなかったのが心残りだったとな」
「わかった」
 スーパー1はその申し出を受け入れた。
「ならばよい。ではわしも去るとしよう」
 そして川の中に身を躍らせた。
「偉大なるバダンの首領に栄光あれーーーーーっ!」
 そして彼は川の中に消えた。暫くしてその中で大爆発が起こった。
「ネオショッカーを支えた大幹部の最後か」
 スーパー1はその爆発を船の上から見ていた。やがて水面は落ち着きを取り戻し戦いの幕が降りたことを告げた。

 タイでの戦いは終わった。沖と竜はそれを例の屋台で祝っていた。
「お兄さん達機嫌いいね」
 それを見た兄ちゃんの一人が言った。
「うん、ちょっとね」
 沖はそれに対し笑顔で答えた。
「機嫌いいならどしどし注文してくれよ」
 もう一人が言った。
「わかってるよ、じゃんじゃん持って来てくれよ」
 沖はそれに対してそう言った。待つまでもなく料理が山のように運ばれて来る。
 二人はそれを食べる。ビールも注文する。
「これでこの料理ともお別れだと思うとなあ」
 沖はタイ風カレーを食べながら言った。
「少し残念ですね」
 竜もそれに同意した。彼は魚料理を口にしている。
「まあ心配いらないって。俺達すぐにでっかい店持つからさ」
「そうそう、それを楽しみにしてくれよ」
 店の兄ちゃん達はそんな彼等に対し笑顔でそう言った。
「だったらいいけれどな」
「ついでにモグリの仕事からも足を洗ってくれれば」
 二人は言葉を返した。
「マイペンライ、マイペンライ」
 だがそれに対する彼等の返事はいつもこれである。
「店が立ったら止めるよ。そして店を大きくするんだ」
「何時かでっかいレストランを建ててやるよ」
「期待しているよ」
 二人は微笑んでそう言った。後に本当に大きな店になる。世の中とはわからないものである。

 死神博士は魔神提督が敗れたという話をスペインで聞いていた。
「そうか」
 彼はその時バルセロナの闘牛場にいた。
「その強さはどうであった」
 彼はスーツに身を包んだサングラスの男に対して問うた。
「かなりのものだったとか。一度はスーパー1を退けたらしいです」
 そのサングラスの男は小声で彼の耳に囁きかけた。
「成程な」
 彼はそれを聞き頷いた。
「とりあえずは成功だったと見てよいな」
「はい」
 サングラスの男はそう答えた。
「フフフ」
 死神博士はそれを聞くと不敵に笑った。
「どうやら私の腕はまだまだ衰えてはおらぬらしい」
 そう言うと席を立った。
「面白い。気が乗ってきた。すぐに戻るとするか」
「どちらにですか」
「決まっている。研究室だ。すぐに強化に移るぞ」
「ハッ」
 死神博士はサングラスの男を引き連れ闘牛場をあとにした。
「あの若造共に敗れるわけにはいかぬ。私の力をもってすればどのようなものでも作れる」
 彼はその不敵で自信に満ちた笑みを浮かべたままであった。
「バダンの若き天才達か。どのような者達かは知らぬが私を越えられるかな」
 そして彼はバルセロナから消えた。スペインの空は何処までも晴れ渡り赤い太陽が照らしていたが彼のその笑みは陰惨なものであった。


古都の鬼神   完



                                        2004・5・2



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