『仮面ライダー』
 第四部
 第十二章             悪魔の兵器
            
 青山町での対峙を終えたライダー達は鈴鹿に向かっていた。そこで立花達と合流する為である。
 この鈴鹿はレース会場として有名である。立花達は今そのレース場にいた。
「ここでレースを見るのが好きなんですよ」
 立花は笑いながら谷達に語っている。
「やっぱりレースはいい。男のロマンですよ」
「おやっさんまだ諦めていなかったんですか」
 谷がここで笑いながら口を入れてきた。
「当然だ」
 立花は口を尖らせてそう反論した。
「まだまだ諦めていないぞ、何なら御前がレーサーになるか」
「いや、もう俺は歳ですから」
 彼はそれを笑って断った。
「流石にもう駄目でしょう」
「何を言っているんだ、わしはまだやるつもりだぞ」
「おやっさんがですか!?」
「当然だ。誰もやらないのならわしがやるだけだ」
 彼は胸を張ってそう言った。
「もっとも他の若い奴も探しているがな」 
 そしてここで顔を綻ばせた。
「アマゾンなんかはかなりいい素質があるんだがなあ」
「あいつはまた勘が違いますからね」
「そうだ、まあライダーの仕事があるから仕方ないが」
「史郎なんかはどうです?」
「あいつがか?あいつは駄目だよ」
「何でですか?」
「向き不向きがあるんだ。あいつはカウンターにいるのが一番似合ってる」
「ははは、確かに」
 滝だけでなく他の者もそこで笑った。
「あいつがバイクに乗る姿はちょっと想像できませんね」
「五〇CCは乗れるみたいだがな。あと車も」
「それでもバイクには向いていませんね」
「そういうことだ。ましてやレースともなるとな」
 立花はここで顔を引き締めさせた。
「センスが必要なんだ。そうした奴はそうそういるもんじゃない」
「本郷にはそれがありましたね」
「ああ。ライダーには全員あるな。だからこそライダーになったんだろうが」
「確かに」
 皆その言葉に対して頷いた。
「ところでだ」
 立花はここで志度に顔を向けた。
「時間はどうなっていますか」
「はい」
 彼はそれを受けて腕時計を見た。
「そろそろですね」
「そうですか」
 立花はそれを聞くと顔を前に戻した。そしてその向こうに何かを見ていた。
「来るな」
 そう呟いた。すると一陣の風が来た。
 青いマシンが姿を現わした。それはコーナーを高速で回りながらこちらにやって来た。
「まずはあいつですか」
 滝はその青いマシンを見て言った。
「ちょっと予想とは外れましたね」
「そうですか。風見先輩らしいですけれど」
 だが佐久間はそれを見て当然のようにコメントした。
「あの人はああいう人なんですよ」
「そうだったのか」
「確かにな。あいつらしいと言えばあいつらしいな」
 立花もそれに納得したようである。ニューハリケーンが彼等の前に止まった。
 挨拶をするよりも早く次のマシンが姿を現わした。それは雷を纏っていた。
「また派手に出てきやがったな」
 立花はそれを見て苦笑した。
「いつもああなんだ。とにかく目だちたがり屋でな」
「ライダーにしては珍しいですね」
 伊藤がそれを聞いて言った。
「まあその分結果は出していますがね。それでも見ている方はヒヤヒヤしていますよ、いつも」
「そうでしょうね」
 ニューハリケーンの横にそのマシンは止まった。
 またマシンがやって来た。今度は銀のマシンだ。
「今度は」
 それは新サイクロン改であった。
「本郷か隼人か」
「あれは」
 滝と立花はそのマシンを見ながら話をしていた。やがて立花が言った。
「本郷だな」
 見れば手袋とブーツが銀色であった。そしてマシンの動きも流れるようであった。
「隼人のは少し強引なんだ。本郷は流れに従う」
「そうだったんですか」
「おい、御前はいつもあいつの走りを見ていただろうが」
「そこまで見ていませんよ」
「何言っているんだ、そんなんだから御前はレーサーとしては今一つだったんだぞ」
「それは関係ないでしょう」
 そんな話をしているうちに一号も到着した。
「次は誰ですかな」
 谷がコーナーに目を向けた。
「さて、誰でしょうね」
 立花もであった。他の者も目をみはっている。
 そしてすぐに次のライダーが姿を現わした。青いマシンであった。
「あれで来たか」
 谷はそれを見て思わず口に出した。
「Xジェットカスタムで来ると思ったんだがな」
「あれは小回りがききませんからね」
 横にいる立花が言った。
「ブルーバージョン改はオフロード用ですから。その分機動性がいいんですよ」
「成程、確かにあれは小回りがききませんからね。それもありますか」
「はい。おそらくそうでしょう」
 ブルーバージョン改が到着するや否や次のマシンがやって来た。それは激しい動きをしていた。
「今度はあいつか」
 立花の目には獣に似た形のマシンが映っていた。
「相変わらず独特な動きをするな」
 そのマシンはまるで生き物の様に激しく動いていた。
「操る動きもな。あいつはちょっと他のライダーとは違うんだ」
「違うんですか」
 竜がそれに尋ねてきた。
「違うさ。わしにはわかる」
 立花はジャングラーGから目を離しはしない。
「そして操縦しながら喜んでいる。それも変わらないな」
 到着すると背鰭を激しく動かした。そしてアマゾンもマシンも立花に挨拶をした。
 次に出て来たのはプロペラを持つ銀色のマシンであった。
「ほう」
 立花はそのコーナリングを見て目を細めた。
「いいな。あのマシンは動かすのがかなり厄介なんだが」
「そうなんですか」
「ええ。バランスがね、独特なんですよ」
 海堂の質問に答える。
「もっともあいつは最初からあれを乗りこなしていましたけれどね。それでもあのコーナリングはそうそう出来るもんじゃない」
 彼はマシンの動きに関心していた。
「センスだけでも駄目なんですよ。やっぱり経験がなければ」
「そういうものなんですね」
「ええ」
 クルーザーDが到着すると同時に別のマシンが来た。
「今度はあいつか」
「待たせてくれましたわ」
 谷とがんがんじいが同時に声をあげた。スカイターボカスタムがやって来た。
「あれはかなりのスピードが出るんですよね」
「ああ」
 谷が滝に答えた。
「流石に今はそんなにスピードは出せませんか」
「そりゃね。けれどそれでもかなり速いな」
 谷がマシンの動きに感心していた。
「よくあれだけ出せるものだ。重力も相当なものだろうに」
「あいつは空を飛ぶからな。重力には強いんだよ」
「成程」
 スカイターボカスタムも止まった。そこで荒々しい風の音が聞こえてきた。
「この音は」
「来たな」
 立花はその音を聞いてニヤリと笑った。
「やっぱり最後の方になって出て来やがったか。変わらねえな、あいつも」
「ええ」
 滝がそれに賛同した。
「あいつらしいと言えばあいつらしいですね、本当に」
「ああ、マシンの動きも変わっちゃいね。そのまま長所を伸ばしてやがる」
 二号の新サイクロン改は立花が言うには荒々しい動きでコーナーを曲がりこちらに来た。その止まり方も一号とは微妙に違っていた。急停車であった。
「じゃあ次は」
「あいつだな」
 立花には次のライダーがもうわかっていた。
「どちらだと思います」
「決まっているじゃないか」
 彼は他の者に対して自信ありげに答えた。
「ライダーマンだよ」
 その言葉と同時にライダーマンのマシンであるライダーマンマシンカスタムがコーナーを曲がってきた。
「な、わしの予想は当たっただろ?」
 立花は他の者に声をかけた。やや自慢げに聞こえる。
「ええ。何故わかったんです?」
「勘だよ」
「勘、ですか」
「ああ。あいつの性格も考えてな。多分次に来るんじゃないかと思ったんだ」
「それで予想できたんですか。流石ですね」
「長い付き合いだからな。わかるさ」
 それは立花だからこそ言える言葉であった。
「マシンの動きもな。あいつのは特徴があるんだ」
「そうなんですか。見たところそうは思えませんけれどね」
「無駄がないだろ。それにハンドル裁きも慎重だ」
「ううむ」
 だがそこまでわかる者はいなかった。わかるのは立花だけであった。
「わししかわからんのかな。まあいいさ」
 彼は笑ってそう言った。
「これがわかるようになるにはかなりの年期ってやつが必要だからな」
「はあ」
 そう話している間にライダーマンも到着した。そしていよいよ最後のライダーの番である。
「やっぱりトリはあいつか」
「まあこれは予想通りですけれど」
 やがて先の尖ったマシンがやって来た。それはコーナーをやや傾きながらやって来る。
 曲がり終えるとそのまま姿勢を元に戻しこちらに来る。それはまるで影の様に静かな動きであった。
「ほう」
 立花はそのマシンの動きを見て思わず声を漏らした。
「あいつの動きは今初めて見るがなかなか」
「どうですか」
 伊藤が彼に尋ねてきた。
「彼のマシンの動きは」
「いいですね。またこれはいい」
「そうですか」
 彼はそれを聞いて安心したように微笑んだ。
「そう言ってもらえると有り難いですね」
 彼とは長い付き合いである。共にバダンを抜け出している。だからこそそう言ってもらえると有り難いのである。
「またこれは無駄がない。あんな派手なマシンに乗ってよくあれだけやれますよ」
「そうなんですか」
「ええ。筋がいい。これは楽しみですね」
 立花はここで笑った。
「この戦いが終わったら誘ってみるか」
「レーサーにですか」
「ああ」
 滝の問いに頷いた。
「あいつ次第だけれどな。けれどあいつはいいレーサーになるぞ、わしが保障する」
 そのゼクロスも彼等の側で止まった。こうして十人のライダーが勢揃いした。
「行くか」
 立花は彼等に声を掛けた。
「はい」
 戦士達はそれに頷いた。そして戦場に向かうのであった。

 ライダー達と立花達は合流した後すぐに鈴鹿を発った。そしてそのまま南に向かった。
 先にライダー達のバイクが進む。彼等は変身を解いていた。
「おおい」
 その彼等に立花は後ろの車から顔を出して声をかける。
「はい」
 風見がそれに振り向いた。
「今どの辺だ」
「ええと」
 問われた彼は遠くに見える標識を見る。普通の者では見えないが改造人間である彼には容易に見ることができた。
「今丁度河芸です」
「そうか」
 立花はそれを聞いて頷いた。
「じゃあ津までもう少しだな」
「ええ」
 風見はそれに答えた。
「そこで一旦休むぞ」
「はい」
 他のライダー達もそれに頷く。彼等はそのまま進んで行く。
 そして津に着いた。既に日が落ちようとしている。
 彼等は旅館に入った。海の見える旅館だ。
「さてと」
 一向は浴衣に着替えて部屋に集まっていた。その前には刺身等海の幸の料理と酒が並んでいる。
「これはわしの奢りだ。思う存分食ってくれ」
 立花は周りに座る一行に言う。
「はい」
 ライダー達だけでなく滝や志度達もそれに頷いた。
「ここで一泊した後朝に発つぞ。松坂にな」
「わかっています」
 彼等は顔を引き締めてそれに応える。
「その後はわかっていると思う。健闘を祈るぞ。そしてだ」
「そして」
「必ず勝つ。そして誰も死ぬな」
「わかっていますよ」
 本郷と一文字がそれに応える。
「おやっさんもね」
「無理はしないで下さいよ、歳なんですから」
「おい、何を言うんだ」
 立花はそれを聞いて口を尖らせた。ここであえてひょっとこの様な顔をしてみせる。
「わしはまだまだ若いぞ。御前達には負けんぞ」
「そう言っていつも後で腰が痛いとか言ってたじゃないですか」
 ここで城が入ってきた。
「そうそう、戦いの後はいつもそうでしょね、おやっさんは」
「おい敬介、御前まで言うのか」
 立花はそれを聞いてさらに口を尖らせる。
「わしみたいに若い奴はそうそうおらんぞ」
「気持ちだけは」
「こら丈二」
 立花は結城を叱るふりをした。
「御前はこの前わしを二十代みたいだと言ってただろうが」
「そうでしたっけ」
「くそ、どいつもこいつも。おいアマゾン」
 退路がなくなった彼はアマゾンに助っ人を頼んだ。
「御前はどう思う。御前はわしの味方だよな」
「うん」 
 アマゾンは頷いてそれに応えた。
「アマゾンおやっさんの味方。これ変わらない」
「よしよし、流石にアマゾンはわかっているな」
 それを聞いて目を細める。
「だからアマゾン言う。おやっさん無理しちゃ駄目」
「なぬ!?」
「おやっさんもう歳、だから無理するのよくない。アマゾンそう思う」
「御前もか」
 立花の顔はそれを聞いてさらに渋くなった。
「まあまあ」 
 谷がそれを宥める。
「彼等も悪気はないんですし」
「しかし」
「いいじゃないですか。心配してくれてるんですから。それだけ立花さんが慕われているってことですよ」
「そうですかね」
 彼は自分が年寄り扱いされることを嫌う。だからヘソを曲げているのだ。
「まあ今回は私にも任せて下さいよ。私もまだまだやれますし」
「そうですかぁ!?」
 ここで筑波と沖が声をあげた。
「谷さんも立花さんと大して変わりませんよ」
「関節痛は大丈夫ですか!?」
「何を言うんだ、御前達は」
 谷はそれを聞いて立花と同じ様に口を尖らせた。
「わしのことをまだよくわかっておらんようだな」
「わかってますよ」
 筑波は苦笑しながら答えた。
「背中にお灸していることは」
「これは気合を入れる為だ」
「じゃあそこのサロンパスは」
 沖が指摘する。見れば肩から見えている。
「うぬぬ」
 彼はそこで観念した。顔を顰めるだけである。
「どうやらお互い様みたいですな」
 立花はそれを見ながら谷に言った。顔はもう苦笑いとなっている。
「全く」
 認めるしかなかった。彼はおもむろに盃を手にした。
「こうなったらやけ酒だ。どんどん飲むぞ」
「肴もありますしね」
 谷は刺身を醤油に漬けて食べはじめた。平目の刺身である。
「皆食ってやる。年寄りを馬鹿にするとどういうことになるかよく教えてやるからな」
「あ、ちょっと待って下さいよ」
「俺達の分もあるんですよ」 
 ライダー達だけでなく滝達もそれに入った。そして彼等は食べ物の争奪を開始した。
「おい、まだまだあるからそうがっつくな」
「全部食うって言ったのはおやっさん達の方じゃないですか」
 そう言いながらも朗らかに食事を続ける。喧騒はあるが比較的和気藹々とした感じであった。
 村雨はその時場の端にいた。そしてそれを微笑みながら見ていた。
「食べてるかい」
 そこに伊藤がやって来た。
「はい」
 彼はそれに頷いた。
「美味いですね、ここの魚は」
「魚だけじゃないぞ」
 伊藤はにこやかに笑ってそう答えた。
「伊勢に来たらあれを食べないとな」
「あれですか」
「そうだ。見れば役君なんかはそれを楽しみにしているようだぞ」
「役さんが」
 彼はここで役に目をやる。見れば確かに何かを待っているようだ。
「お待たせしました」
 ここで仲居が入って来た。
「おお、来たな」
 立花が仲居が手にするそれを見て喜びの声をあげた。
「こっちに持って来て」
 そして彼女に声をかける。仲居はそれに従いそれを台の中央に持って来た。既に平目は全部食べられていた。
 それが台の上に置かれる。伊勢海老の刺身であった。
「これだよ、これ」
 立花はまだ動いている伊勢海老を指して言った。
「伊勢に来たらこれを食わないとな」
「おやっさんって海老好きだったんですね」
 本郷が彼に問うた。
「まあ嫌いじゃないな。他の海老も好きだしな」
「そういえばこの前海老フライをかなり食べてましたね」
 一文字がそこで言った。
「ああ。美味かったからな。ささ、話はそれ位にして食おう」 
 そこで他のものに声をかけた。
「この後は味噌汁も来るからな。たっぷり楽しめよ」
「はい!」
 こうして一同は伊勢海老に箸をつけた。それは瞬く間に消えていった。
 特に役はそれに舌づつみを打っていた。どうやら伊藤の予想は当たっていたようである。
「ところで良君」
「はい」
 伊藤がまた声をかけてきた。
「君は酒は飲まないのかい」
「いや、そういうわけじゃないですけれど」
「そのわりに進んでいないね」
 見れば彼の杯は殆ど減ってはいなかった。
「実は日本酒は駄目でして」
「そうか。じゃあビールはどうだい」
「いただきます」
 彼は笑顔で答えた。どうやらビールは好きらしい。
「それじゃあ」
 伊藤はそれに応えてコップを持って来た。そしてビールをそこに注ぎ込んできた。
 一向は飽きるまで食べ、そして飲んだ。全てを食べ終え、飲み終えるともう台の上には何もなかった。
「ああ、食った食った」
 それで終わりであった。彼等は何とか布団の上にまで行くとそこで倒れ込んだ。そしてそのまま潰れてしまった。
 台は村雨が呼んだ仲居により片付けられた。村雨はそれを見届けると一人外に出た。そして風呂に向かった。
 ここの風呂は外にあった。彼はそこに浸かり酒を抜いていた。
「ふう」
 大きく息を吐く。それは湯気の中に消えた。
 彼は夜空を見上げた。そこには星が瞬いていた。
「綺麗ですね」
 横から声がした。そちらに目をやると役がいた。
「役さん」
「こうして空を見上げることなんて最近なかったですね」
「そうですね。・・・・・・いや」
 彼はここで口ごもった。
「俺はあります」
「そうなんですか」
「はい。覚えていますよ、あの時を」
 彼はここでバダンを脱出し東京に向かって伊藤と共に旅をしていた時のことを話した。その途中で彼はふと夜空を見上げた時があったのだ。
「あの時の空は綺麗でしたね。とても」
「そうだったのですか」
「はい、今でも覚えていますよ」
 彼はにこやかに微笑んでそう言った。
「あの時の星は綺麗でしたね。まだ感情ってやつが戻っていなかったんですけれどよく覚えていますよ」
「そうなんですか」
「ええ。感情を取り戻すまでに本当に色々とありましたけれどその中でもいい思い出の一つですね」
 彼はやや饒舌に語った。
「少なくともバダンでは見れないものでしたよ」
「それはわかります」
 役はそれに同意した。
「バダンの支配する世界ではこんな綺麗な空はありませんよ」
「はい」
 それは誰もがわかることであった。彼等にとって夜空の星は不要なのだ。
「彼等に必要なのは自分達だけです。首領を崇めない者は彼等にとっては敵でしかありません」
「そして弱い者も」
「そうです。彼等の世界、それは地獄です。この世に存在してはならない世界です」
「暗黒の世界ですね。俺もあの時まではそれがわからなかった」
 彼はそこで顔を俯けた。
「心がなかったから。その心はバダンに消されていた」
「それがバダンなんですよ。不要なものは全て抹殺する」
「姉さんも」
 ここで彼は姉しずかのことを思い出した。
「俺の目の前で殺された。まるでゴミの様に」
「彼等にとってはゴミだったのでしょう」
「はい」
 激昂する気になれなかった。実際にバダンにとってはそうだったのだから。
「だから姉さんは殺され俺は心を奪われた」
「全ては彼等の野望の為にです」
「つくづくとんでもない連中ですね」
「はい。その様な者達はこの世に残しておいてはいけません」
 役の声が強くなった。
「わかりますね」
「ええ」
 もう詳しく言う必要もなかった。村雨もただ頷くだけであった。
「松坂には暗闇大使がいます。そしてバダンの改造人間も」
「それだけではないでしょうけれどね」
「そうでしょうね。あれを持って来ているでしょう」
「時空破断システム」
「どの様なものかは御存知ですね」
「ええ、黒い光を発するのですよね。今までは色々な形になって各地で暴れてましたが」
「今度のはおそらくこれまでのよりも遙かに強力なものでしょう」
「そうでしょうね、あの暗闇大使のことですから」
 村雨にはそれが嫌になる程よくわかった。
「恐らくとんでもないのを用意していますよ」
「ええ。今はそれに備えて英気を養いましょう。戦いの前に」
「そうですね」
 彼はそれに頷いた。そして湯を楽しんだ。
 翌朝彼等は出撃した。向かうは松坂であった。

 松坂には既に暗闇大使が改造人間達と共に布陣していた。彼は大河内城跡にいた。ここはかって伊勢に勢力を持っていた北畠氏の居城である。
「そうか、来たか」
 彼は戦闘員からの報告を受けていた。
「そして今奴等は何処にいる」
「ハッ、今市内に入ったところです」
「そうか」
 彼はそれを聞いて頷いた。
「ではまだこちらの防衛ラインには達してはおらぬな」
「その様です」
 報告をする戦闘員は彼の前に跪いていた。そして報告を続ける。
「確か第一防衛ラインにはアメンバロイドとクモロイド、そしてカニロイドがいたな」
「はい」
「二人に伝えよ。ギリギリまで奴等を引きつけろとな」
「わかりました」
 戦闘員は跪いたまま頭を垂れた。
「そして無理をするなとな。予定通りある程度戦ったならば退け、と」
「ハッ」
 戦闘員は再び頷いた。
「それから市街地に誘い込め。そして分断して攻め掛かるのだ」
「予定通りですね」
「そうだ。よいか、決して無理をするな。まだその時ではないのだ」
「ハッ、そう伝えておきます」
「ここまで誘い込め。その時が勝負なのだ」
「この城跡にですね」
「ここ程それに相応しい場所はないからな」
 彼はそう言って笑った。
「織田信長ですら陥とせなかったこの城、果たしてライダー達に陥とせることができるかな」
 不敵に笑っていた。そして彼は市街に目をやった。
「来るがよい、そして死ぬのだ」
 その声はまるで毒を滴らせている如くであった。
「神の御業によってな」
 そして彼はさらに奥に向かった。そこでは何かが胎動していた。

 ライダー達はオートキャンプ場に入った。そこにはトレーラーハウスが並んで置かれていた。
「油断するな」
 立花はライダー達に対して言った。
「連中のことだ。何時来るかわからんぞ」
「わかってますよ」
 立花達を護る様にして位置するライダー達はそれに頷いた。見れば既に変身している。
「いつもいきなり来るからな。特にこうした隠れるところの多い場所だと特にな」
「その通りだ」
 そこで何者かの声がした。
「ムッ!」
「来たか!」
 彼等はその声に反応してすぐに身構えた。すると上空から赤や青の布が飛んで来た。
 それはライダー達を取り囲んだ。そしてそれは戦闘員達に変わった。
「やはりな!」
「ギィッ!」
 戦闘員達は手にする剣で斬り掛かって来る。ライダー達はすぐに攻撃に入った。
「ここは俺が!」
 ]が彼等の先頭に出る。腰からライドルを抜いた。
「ライドルホイップ!」
 そのらライドルを剣にする。そしてそれで戦闘員達の中に切り込んだ。
 ]のライドルが風と共に唸る。そして左右に群がる戦闘員達を次々に斬り伏せていく。
「流石にやるな」
 そこで先程の声がした。
「その声は」
「そう、俺だ」
 そこにカニロイドが姿を現わしてきた。
「]ライダーよ、あの時の決着をつけてやろうか」
「望むところだ」
 ]は彼と対峙した。ライドルを握る手に力が篭る。
「待て、カニロイド」
 だがここで別の声がした。
「今ここで我等の任務を忘れるでないぞ」
「チッ」
 彼はその声に対して舌打ちした。トレーラーハウスの陰からクモロイドが姿を現わした。
「わかっている。同志暗闇大使の作戦はな」
「それならばよいがな」
 彼はそれを聞いて頷いた。
「アメンバロイドは何処だ」
「俺はここにいるぞ」
 クモロイドの声に応えて彼が姿を現わしてきた。丁度ライダー達の後ろに出た。
「心配無用だ、俺はわかっている」
「ならば良い」
 クモロイドはそれを受けて納得したように首を縦に振った。
「では行くぞ」
「うむ」
 三体の怪人はライダー達を取り囲んだ。そしてその後ろに新手の戦闘員達が姿を現わしてきた。
「また出て来たか」
「流石に暗闇大使がいるだけはある、かなりの数の戦闘員がいるな」
「フフフ」
 怪人達はライダーの言葉を笑みをもって聞いていた。
「それだけではないのはわかっているだろう」
「・・・・・・確かに」
 それは当然のことであった。
「さあ、かかれ」
 クモロイドが戦闘員達に号令をかけた。
「ギィッ」
 すると彼等はそれに応えるように腰から何かを取り出した。それは鎖鎌であった。
 左手に鎌を持ち右手で分銅を振り回す。そしてゆっくりと前に出て来た。
「さあ、ライダー達を」
 怪人達は後ろに下がって彼等に対して言う。
「これにはどうするつもりだ」
「知れたこと」
 だが彼等はそれでも臆することはなかった。
「倒すまでだ。他に何がある」
「ではやってみせるがいい。できるものならな」
 クモロイドはそれを聞いて冷淡に返した。そして戦闘員達に対して号令した。
「やれ」
 それと同時に分銅が一斉に放たれる。それにライダー達が前に出た。
「おやっさん達は伏せて!」
「ここは俺達が!」
 すぐに立花達に声をかける。
「わかった!」
「頼む!」
 彼等はそれに従いすぐに身を屈める。ライダー達はそれを横目に分銅に立ち向かう。
「トォッ!」
 その両手で分銅を掴む。それも一度に何本もだ。
 続いてそれを引く。すると戦闘員達は態勢を崩した。それで全ては決まった。
 ライダー達が突進する。そして態勢を崩していた戦闘員達を薙ぎ倒していく。勝負はほぼ一瞬で決まってしまった。
「これで終わりだな」
「次はどうするつもりだ」
 ライダー達は怪人達の前に出た。だが怪人達は不敵な笑みを浮かべたままである。
「ククククク」
「何がおかしい」
 X3が問うた。
「ここは下がってやろう」
「だがこれで終わりではないぞ」
 そして三体の怪人達は後ろへ退いた。
「クッ!」
「逃がすか!」
 ライダー達はそれを追う。立花達もそれに続く。
 
 ライダー達はそのまま市街地に入った。江戸時代の建物が立ち並ぶ古い街並みだ。
「おい、気をつけろ」
 ここで立花が一向に対して言った。
「奴等のことだ。こういった場所でこそ何かしてくるぞ」
「わかってますよ」 
 それはライダー達もわかっていた。
「おそらくここにもいるでしょうね」
「来ますよ、絶対」
 彼等も油断してはいなかった。身構え、辺りを警戒しながら進んで行く。
「ケッ!?」
 ここでアマゾンがふと顔を上げた。
「いるのか!?」
 それを見て二号も辺りを見た。
「来る、アマゾンにはわかった」
 そう言った瞬間に何かが飛んで来た。
「危ない!」
 二人は左右に散った。それまでいたところに鎌が突き刺さっていた。
「この鎌は!」
「ホホホ、アマゾンよ久し振りだねえ」
 屋根の上から女の声がした。
「奈良での恨み、晴らさせてもらうよ」
 カマキロイドは無気味な笑い声を立てながらアマゾンを見下ろしていた。
「ぬうう」
 ライダー達も立花達も彼女を見上げて構えをとった。だがアマゾンが彼等を制した。
「ここはアマゾンがやる」
「しかし」
「大丈夫。アマゾン負けない」
「・・・・・・わかった」
 二号がまずそう言った。
「こいつは御前に任せる。頼むぞ」
「うん」
 アマゾンは頷く。その横にモグラ獣人がついた。
「モグラ」
「俺らも手伝わせてくれよ」
 彼は笑いながら彼に顔を向けてきた。
「けどこいつは」
「戦闘員もいるだろ。そいつ等を任せてくれよ」
 そこでその戦闘員達が姿を現わして来た。彼等は鉈を手にアマゾン達を取り囲んで来た。
「わかった。モグラ、頼む」
 アマゾンは彼の意を受け入れることにした。それを聞いたモグラ獣人はまた笑った。
「そうこなくっちゃ」
「けれど気をつける。いいな」
「わかってるよ」
 こうして二人がカマキロイドとその配下を引き受けた。ライダー達は先に進もうとする。だがその前に新手が現われた。
「残念だがそうはいかん」
 そこにはカメレオロイドが立っていた。
「我々とて仕事なのでな。貴様等にはここで死んでもらおう」
「戯れ言を」
「戯れ言!?」
 カメレオロイドは滝のその言葉に顔を歪めさせた。
「生憎これでも私はかっては神父だったのでな。嘘は言わん」
「バダンが嘘を言わなかったことがあるか」
「ある!」
 そう言いながら彼は自らの舌を剣に変えてきた。
「この剣で貴様等を倒す。これが嘘だと思うか」
「クッ・・・・・・」
 これには滝も言葉を詰まらせた。だがここで一号が出て来た。
「ではその言葉、偽りにしてやろう」
「できるのか、貴様に」
「では俺も言おう。不可能を可能にする」
 その言葉尻が強くなった。
「それがライダーだ!そしてライダーは決して嘘はつかん!」
「面白い」
 カメレオロイドはそこでまた笑った。後ろに戦闘員達が姿を現わす。かなりの数であった。
「ではその言葉、偽りのものとしてやろう。覚悟はいいな」
「待て」
 そこで新たな声がした。
「ムッ」
 それは後ろからだった。カメレオロイドの目が後ろにまで動いた。
「貴様等か」
「ああ」
 そこには二体の怪人がいた。トカゲロイドとタカロイドであった。
「貴様一人では流石に分が悪いだろう」
「俺達も参戦させてもらうぞ」
「勝手にしろ」
 彼はそれを受け入れるでもなくそう言った。
「私は私のやり方でやらせてもらう。だが御前達が戦うというのならそうしろ」
「わかった」
「そうさせてもらう」
 二人は答えた。そしてアマゾンと対峙するカマキロイドに声をかけた。
「カマキロイド」
「何だい?」
 彼女はそれに反応して顔を向けてきた。
「こちらに来い。まとまるぞ」
「フン」 
 彼女はそれを聞いていささか不満げであった。だがそれに従うことにした。
「わかったよ。確かにそっちの方が何かとやり易いだろうしね」
「それでいい」
「では行くぞ」
「ああ、わかったよ」
 カマキロイドは跳んだ。戦闘員達もそれに続く。
 そして別の屋根の上に着地した。そこはライダー達のすぐ側であった。
「ケケケッ」 
 アマゾンとモグラ獣人もそこに来た。こうして四体の怪人達とライダー達が対峙する形となった。
「まずは俺からやらせてもらおう」
 トカゲロイドはそう言うと口から炎を吐き出してきた。それでライダー達を焼き尽くそうとする。
 そこにスーパー1が出て来た。すぐに腕を換える。
「チェーーーーンジ冷熱ハァーーーーーーンドッ!」
 両手を緑のものに変える。そして左腕を前に突き出して来た。
 そこから冷気を発する。それで炎を退けた。
「ヌヌヌ」
 それを見たトカゲロイドは怒りで顔を歪めさせる。その間に戦いは動いていた。
 一号とカメレオロイドが戦いをはじめた。一号は素手ながら彼と五分に渡り合っていた。
 空ではスカイライダーがタカロイドと戦っている。両者は激しい空中戦を展開している。
 そしてアマゾンとカマキロイドもだ。彼等は屋根の上を激しく飛び回りながら切り合っている。
「ケケッ!」
 アマゾンの叫び声が響き渡る。両者は互いに譲らず打ち合う音を響かせている。
 他のライダー達は戦闘員達を相手にしている。二号の拳が唸った。
「食らえっ!」
 それで戦闘員達を倒していく。やはり力の差は歴然たるものがあった。
 立花も谷も戦っていた。歳を言われたとはいえ彼等もひとかどの戦士である。戦闘員達には負けてはいなかった。
 戦いはライダー達が優勢に進めていた。やがて戦闘員達はあらかた倒されてしまった。
「これ以上の戦いは無意味だな」
 トカゲロイドは戦闘員達が殆どいなくなったのを見てそう呟いた。そして同僚達に対して言った。
「退くぞ、ここでの戦いは終わりだ」
「わかった」
「もう少し戦いたかったがな」
「仕方ないわね」
 彼等はそれに従った。そして後ろに大きく跳んだ
「それではな、ライダー達よ」
 屋根の上に着地するとライダー達に対して言った。
「さらばだ」
「おのれ!」
「待て!」
 彼等はそれを追う。そしてさらに進んで行った。
 怪人達は西に向けて逃げて行く。やがて泉の森に入った。ここはかっては大神神社があった。今は森になっている。ここには春の種蒔きの時に泉が沸き、そして秋の刈り入れ時に枯れるという言い伝えがある。
「森か」
「また何かありそうな場所に案内してくれたな」
 ライダー達はやはり立花達を守る様に円になり身構える。そして上下左右を警戒している。
「来るぞ、絶対にな」
「ああ、わかっている」
 ライダー達は警戒を緩めない。その時木々が動いた。
「ムッ!」
 そこから何かが飛んで来た。それは薔薇の蔦であった。
「ヒヒヒヒヒヒ!」 
 バラロイドが姿を現わして来た。怪人は奇声と共にライダー達に襲い掛かる。
「ここから先は行かせないよ」
「それは貴様等だけの都合だ」
 X3はスッと前に出て来た。
「俺達には俺達の都合がある。悪いが通らせてもらう」
 そして拳を繰り出す。それでバラロイドを打とうとする。
「おっと」
 だが怪人はそれを蔦で防いだ。余裕をもった動きで後ろに下がる。
「甘いね、X3。それでは倒せはしないよ」
「クッ」
 X3はそれを聞いて歯噛みした声を漏らした。だが怯んではいなかった。
「ならば」
 さらなる攻撃に移ろうとする。だがその前に戦闘員達が姿を現わして来た。
「ギィッ」
「やはり出たな」
 それを見た他のライダー達も立花達も彼等に向かって行った。こうして森での戦いがはじまった。
 戦闘員達との戦いがはじまった。ライダー達はその戦闘力により数をものとしなかった。戦闘員達は瞬く間にその数を減らしていく。
「油断するな」
 ここで二号が他の者に対して言った。
「まだ来るぞ」
「ええ」
 それは他の者もわかっていた。そしてそれは来た。
 槍が来た。それは一直線に二号に向けて飛んで来た。
「ムッ!」
 二号はその槍を掴み取った。そしてそれを膝で叩き折った。
「来たな」
「フフフフフ」
 森の中からヤマアラシロイドが姿を現わしてきた。
「あれを掴み取るとは。流石と褒めておきましょうか」
「戯れ言はいい」
 だが二号はその言葉を受けなかった。
「まさか貴様がここに出て来るとはな」
「意外でしたか」
「どうやらそう言って欲しいようだからな。そう言っておこうか」
「やれやれ、素直ではありませんね。仮面ライダー二号は一号に比べて明朗闊達だと聞いていたのですが」
「それは平和を愛する人々に対してだ」
 二号はそう言い返した。
「貴様等には違う。平和を害する貴様等にはな」
 そして前に出た。そのまま攻撃に入る。
「フフフ」
 ヤマアラシロイドは笑った。そして彼も二号に向かって行った。
「後悔しますよ」
「それはこちらの台詞だ」
 拳が激しい音と共に撃ち合った。両者は戦いをはじめた。
「さあ、こっちに来い!」
 ストロンガーは戦闘員達のかなりの数を相手にしていた。相手にしながら他のライダー達がいない場所にまで誘導していく。
「そうだ、来い、来るんだ」
 やがてその誰もいない場所に来た。森の出口だ。
「よし、ここならいいな」
 ストロンガーはそれを確かめて笑った。そしてその拳に雷を宿らせた。
「エレクトロサンダーーーーーッ!」
 拳を地面に打ちつけた。すると雷が地を走った。
「ギエエエエェェェェェッ!」
 戦闘員達は断末魔の悲鳴をあげて絶命した。そして皆地に倒れ伏した。
「これでよし、出口も押さえたぞ」
 ストロンガーはそれを見て満足そうに笑った。だがそれはやや早計であった。
「それはどうでしょうか」
 後ろから何者かの声がした。
「その声は」
 ストロンガーはそれに反応して後ろを向いた。
「やはり貴様か」
「うふふふふ」
 ドクガロイドは身体を向けてきたストロンガーに対して無気味に笑った。
「私だけではありませんよ」
「何!?」
「俺もいる」
 そこにジゴクロイドも姿を現わしてきた。
「ここで戦闘になれば来る予定だった。間に合ったようだな」
「ええ」
 ドクガロイドは同志に対して頷いた。
「丁度いいタイミングでしたよ」
「それは何よりだ。さて」
 ここであらためてストロンガーに向き直った。
「どうする、ライダーストロンガーよ。こちらは二人だ。観念するか」
「観念!?何だその言葉は」
 だが彼はそれを聞いてとぼけたふりをしてみせた。
「生憎だが俺はそんな言葉は知らないな」
「ふふふ、相変わらずですね」
 ドクガロイドはそれを聞いて笑った。
「強気な方です。ですがそれが何時まで続きますかね」
「何時まで?これはまた愚問だな」
 ストロンガーはそう言い返した。
「死ぬまでだ。いや、俺は死ぬことはないから永遠にだ」
「面白い人だ」
 ドクガロイドはまた笑った。
「ではあの世に導いてさしあげましょう。行きますか、ジゴクロイド」
「おお」
 ジゴクロイドは頷いた。そしてストロンガーの後ろに回る。
「行くぞ、ライダーストロンガー」
「挟み撃ちか。これはいい」
 だがそれを見てもストロンガーは余裕なままであった。
「こうでなくては面白くはないからな」
「そういう強がりもいい加減にしておけ」
 ここでライダーマンが姿を現わしてきた。
「見ないので何処に行ったかと思ったらこんなところにいたのか」
「ライダーマン」
 ストロンガーは彼に顔を向けた。
「ストロンガー、助太刀させてもらうぞ。幾ら御前でも怪人が二体では辛いだろう」
「いえ、大丈夫ですよこの程度」
 だがストロンガーも引かない。何か今の状況を楽しんでいるようである。
「ピンチを楽しむのもいいがな。俺にも戦わせろ」
 だがライダーマンはそんな彼に対して言った。
「俺もライダーなのだからな」
「そうきましたか」
「当然だ。では行くぞ」
「はい」
 ストロンガーはそれを受けてジゴクロイドと対峙した。ライダーマンは毒がロイドとである。
「覚悟はいいな」
「それは貴方の方こそ」
 双方の宣戦布告は終わった。ライダーマンはパワーアームを装填するとドクガロイドに切りかかって行った。
 こうして二組の一騎打ちがはじまった。ライダー達も怪人達も互いに譲らず五分と五分の戦いが繰り広げられていた。
 だが次第にライダー達の方が優勢になってきた。やはり長年の経験とその地力がものを言ってきた。
「まずいな」
 ジゴクロイドはストロンガーの拳をかわしながらそう呟いた。
「やはりこの辺りが潮時か」
 そう言うとドクガロイドに顔を向けた。
「おい、下がるぞ」
「わかりました」
 彼はそれに頷くとライダーマンとの間合いを離した。
「ライダーマン、また御会いしましょう」
「クッ、待て!」
 ライダーマンはドクガロイドを追おうとする。だが彼はその前に毒の霧を発した。
「ムッ!」
 彼はそれを見て咄嗟に後ろに退いた。ストロンガーもである。その間に二体の怪人は後ろに下がった。
「しまった・・・・・・」
「よりによってこんな時に」
 二人は逃げ去って行く彼等を見て歯噛みした。そこに他のライダー達や立花達がやって来た。
「おう、ここにいたのか」
 立花は二人のライダーを見て声をかけてきた。
「何処に行ったかと思ったぞ。無事で何よりだ」
「ええ」
 ストロンガーがそれに応えた。
「ところでそちらは」
 ライダーマンが彼に戦いの行方を尋ねた。
「駄目だ、逃げられた」
 立花は首を横に振ってそう答えた。
「相変わらず逃げ足も速い奴等だ」
「そうですか」
 それは大体予想できていた。ライダーマンもそれに関しては特に驚いてはいなかった。
「それで奴等は何処に」
「大河内城の跡に向かっているようだ」
 X3がそれに答えた。
「バラロイドが逃げた後X3ホッパーを使ったらそこに反応があった。だがそれだけじゃない」
「どういうことだ」
「そこにかなりの数がいた。どうやらそこが本拠地のようだ」
「この松阪のか」
「ああ」
 X3はライダーマンの問いに対して頷いた。
「おそらくこれまでの戦いはほんの前哨戦だろう。そこに奴等の切り札がある筈だ」
 二号がここでこう言った。
「そして暗闇大使もいる」
「暗闇大使」
 ゼクロスがそれに反応した。
「気をつけろ、あいつはあの地獄大使の従兄弟だからな。一体どんなことをしてくるかわからんぞ」
「そうですね」
 二号は立花の言葉に頷いた。
「おやっさんの言う通りだ。皆、気をつけていけ」
「おう」
 ライダーも滝達もそれに応えた。
「ところでだ」
 ここで滝がゼクロスに尋ねてきた。
「はい」
 ゼクロスはそれを受けて彼に顔を向けた。
「その暗闇大使だがあいつも改造人間なのか?見たところそれっぽいが」
「おそらく」
 ゼクロスはそれに答えた。
「今までの大幹部や改造魔人もそうでしたし。あの魔神提督も脳と心臓以外は機械でしたよね」
「そうだったな。ショッカーでもそうだった」
 滝はそれを聞きながら呟いた。
「じゃああいつも何かしらの改造人間か。一体どんな正体かはわからないが」
「でしょうね。大幹部の正体は怪人、その鉄則からすればあの男も怪人なのでしょう」
「ゾル大佐は黄金狼男だった。死神博士はイカデビルだった」
「そしてあいつの従兄弟はガラガランダだった。毒蛇の化身の」
 ここで一号が言った。
「ではあいつは一体」
「わからん。だがこれだけは言える」
 一号の声が深刻なものとなった。
「かなりの力を持っている。そう、今までの大幹部達に勝るとも劣らぬ程にな」
「そうか」
 皆その言葉に息を呑んだ。
「注意しなくてはな。かなり激しい戦いになる」
「それはもとより承知」
 誰かがそう言った。
「それを覚悟で来たんだからな」
「そうだな」
 一同それに頷いた。
「行くぞ」
「ああ」
 そして戦士達は大河内城に向かった。そこに何があるのかはわかっている。だがあえてそこに向かうのであった。
「来るぞ」
 暗闇大使はそれを察知してそう言った。
「同志達は戻って来たか」
「ハッ」
 後ろに控える戦闘員の一人が敬礼をして答える。
「つい今しがたバラロイド達が戻って来られました」
「そうか。ならばよい」
 彼はそれを聞いてそう答えた。
「全ては整ったな」
 そして二歩前に出た。
「あれの用意は出来ているな」
「何時でもいけます」
 その戦闘員が答える。
「では行くとするか」
 暗闇大使はそれを受けてさらに前に出た。
「さあ、ライダー達よ」
 彼は歩きながら呟く。
「このわしに勝てることができるかな」
 その声は笑っていた。血に濡れた声で笑っていた。

 ライダー達は大河内城跡の前に来た。そこには既に戦闘員達がいた。
「もういるのか」
「どうやらここが本拠地と見て間違いないな」
 ライダー達を先頭にそこへ突っ込む。だが戦闘員達はそれでも動こうとしない。
「どういうことだ」 
 そう思った時だった。不意に戦闘員達が左右に分かれた。
「ムッ!?」
 彼等は思わず立ち止まった。そこにあの男が姿を現わしてきた。
「フフフ、久し振りだなライダー達よ」
 その男、暗闇大使はゆっくりと前に出て来た。
「まずはここまで来たことを褒めてやろう」
『戯れ言を」
 だがライダー達はそれを受け流した。
「貴様が本心から俺達を褒めるとは思えん。ここで倒すつもりだろう」
「その言葉、半分は正解だが半分は間違っておるな」
「どういうことだ」
 ライダー達に問われ彼はまず口の両端を耳まで拡げて笑った。
「まずわしは他の者の力は素直に認める、例え貴様等であろうとな。これは間違いだ」
 彼は説き聞かすようにして言った。
「そしてもう一つ。これは正解だな」
 彼は言葉を続けた。
「貴様等はここで倒す。わしの力をもってしてな」
「望むところ」 

 ライダー達はそれを受けて身構えた。
「ではその力見せてもらおうか」
「フフフ」
 暗闇大使は笑った。その後ろには怪人達が控えていた。
「では見せてやろう。わしの力をな」
「来るか」
 ライダー達は目を瞠った。
「出でよ」
 彼は静かに言った。その時空が割れた。
「何っ!」
 ライダー達は思わず空を見上げた。割れた部分は赤くなっていた。
「まさか」
「ククククク」
 大使はライダー達が驚く様を見ながらさらに笑った。
「そのまさかだ」
 彼は言った。そしてその割れた場所から何かが出て来た。
「さあ見るがよい。我がバダン、そしてこの暗闇大使の力の結晶」
 その顔は自信に満ちていた。
「サザンクロスをな」
 巨大なサザエに似た怪物が姿を現わしてきた。無数の突起を持った貝であった。
 いや、それは貝ではなかった。何か得体の知れない装甲であった。
「あれは」
 ライダー達はその中央に何かを見ていた。そこには顔があった。
「フフフ」
 大使は笑っていた。サザンクロスの顔も笑っていた。
「サザンクロスよ」
 彼は上を向いてその化け物に言った。
「やれい」
 サザンクロスの顔も笑った。そしてその無数の突起が何かに変化した。
「ムッ」
 それは大砲に変わった。禍々しく伸びライダー達にその砲口を向ける。
「受けるがよい、我が力」
 暗闇大使は言った。するとその砲の全てに黒い光が集まってきた。
 そしてそこから黒い光が放たれる。それはライダー達に襲い掛かる。
「危ない!」
 ライダー達は咄嗟に立花達を抱いて跳んだ。そしてその黒い光を避けた。
「ほう、今のをかわしたか」
 大使は相変わらず余裕に満ちた笑いを浮かべていた。
「流石だな。しかし何時まで続くかな」
 再びサザンクロスの砲口に黒い光が集まる。そしてまた放たれた。
「クッ!」
 ライダー達は再び跳んだ。そしてその光を何とかかわした。
 着地した彼等は立花達を下ろした。そして彼等に対して言った。
「ここは俺達に任せて下さい」
「おやっさん達は安全な場所に」
「しかし」
 立花はその言葉に一瞬戸惑った。だがすぐに決めた。
「いや、わかった」
 そして彼等に対して言った。
「では頼んだぞ。ここは御前達に任せた」
「はい」
 ライダー達はそれに頷いた。
「勝って来い、いつもみたいにな」
「わかってますよ」
 彼等は微笑んだ声を出した。これだけで充分であった。
「じゃあな」
「ええ」
 立花達は後方へ退いていく。ライダー達は彼等を守るように身体を暗闇大使達に向けた。
「別れの挨拶は終わったな」
「あくまで余裕でいるつもりか」
 ライダー達は彼に対して言った。
「無論だ。わしの勝利は決まっているのだからな」
「ほう」
「では受けるがいい。再び我が力をな」
 また黒い光が放たれた。ライダー達はまたもやそれをかわした。
「何時までそうしてかわせるかな」
 大使はそれを見ながら言った。
「次第に疲れてくる。そして貴様等はサザンクロスに対して手出しはできない」
「クッ・・・・・・」
 そうであった。サザンクロスは遙か上空にある。そこまで飛び上がっても無理がある。かえって狙い撃ちにされる怖れがあった。
「俺が行けば」
 ここでスカイライダーが言った。
「いや」
 だが他のライダー達がそれを止めた。
「御前一人では無理だ。あいつを倒すのはな」
「しかし」
「よく聞け」
 ここで一号が彼に対して言った。
「一人では、と言ったんだ」
「ということは」
「そうだ。あれをやるぞ」
「あれを」
 それを聞いたライダー達の顔に緊張が走った。
「あれをやるんですか」
「そうだ」
 一号は他のライダー達に顔を向けてそう答えた。
「それしかないだろう」
「わかりました」
 ライダー達はその声に対して頷いた。これで決まりであった。
 そこにまた黒い光が来た。ライダー達は上に跳んだ。
「今だ、やるぞ!」
「はい!」
 ライダー達は頷いた。一号はスーパー1とゼクロスに対して言った。
「はじめてだがいけるか」
「はい」
「やってみせます」
 二人はそれに頷いた。これで決まりであった。
 ライダー達は互いに手を繋いだ。そして空中でリングを作った。
「ムッ」
 暗闇大使はそれを見上げながら怪訝そうな顔をした。
「何をするつもりだ」
「行くぞ」
 だがライダー達はその間にも攻撃の準備にかかっていた。その中央にスカイライダーが来た。
「よし」
 ライダー達のベルトが光る。そしてその光がスカイライダーのベルトに集まっていく。
「ムムム」
 その力が彼の全身にみなぎっていく。それと共にライダー達は飛んでいく。
「馬鹿め、隙だらけだ」
 サザンクロスが砲撃を仕掛けてきた。黒い光がライダーを貫かんとする。
 だがその光は彼等の前で打ち消された。ライダー達の光によって打ち消されたのだ。
「何っ」
 それを見た暗闇大使は思わず声をあげた。光を打ち消したライダー達はそのまま突き進んでいく。
「食らえ」
 スカイライダーを中心とした彼等はサザンクロスに向かって行く。そして光の強さがさらに強まった。
「セイリングアターーーーーック!」
 スカイライダーの身体に蓄えられた光が放たれた。そしてそれはサザンクロスに一直線に向かっていく。
「フン、そう来たか。だがな」
 暗闇大使はそれを見てもまだ余裕であった。
「それでサザンクロスを倒せると思っているのか」
 だがその言葉は彼等には通用しなかった。光はそのまま突き進んでいく。
 そして光がサザンクロスを撃った。そしてそのままその厚い装甲を圧迫していく。
「何っ!?」
 装甲は鈍い音を立てて壊れていく。そして遂にそれが破られた。
 サザンクロスの動きが止まった。光はそのままその中を進んでいく。
「ま、まさか・・・・・・」
 暗闇大使は思わず呆然としていた。光はその間にも中を進む。
 やがて反対側の装甲が盛り上がってきた。そしてまた音を立ててきた。
 その装甲も突き破られた。光はサザンクロスを撃ち抜いたのだ。
「やったか!?」
 ライダー達は空中でそれを見守っていた。だがサザンクロスはまだ空中にあった。
「クッ、これでも落ちないのか」
「何という奴だ」
 彼等は歯噛みした。だがそれでもまだ諦めてはいなかった。
「もう一撃繰り出すか」
 既に先程の攻撃でかなりのエネルギーを使っていた。しかし諦めるわけにはいかなかった。
「よし」
 ライダー達は再びエネルギーを集めようとする。だがここでゼクロスが叫んだ。
「ここは俺だ!」
 そして一人前に飛び出した。
「ゼクロス!」
「何をする気だ!」
 他のライダー達はそれを止めようとする。だがゼクロスの動きはそれよりも速かった。
「ヘルダイバーーーーーッ!」
 彼は叫んだ。すると地上にヘルダイバーが姿を現わした。
 マシンが跳んだ。ゼクロスはそれに空中で乗った。
「行くぞ!」
 そしてそのままサザンクロスに向けて突っ込む。進みながらその身体を赤い光が覆った。
「何っ!」
「まさかっ!」
 ライダー達だけではなかった。暗闇大使達バダンの者も目を瞠った。ゼクロスは赤い光となっていた。
 そしてサザンクロスに突き進んだ。砲撃が仕掛けられるが当たりはしない。
 当たった。その瞬間サザンクロスは爆発した。空中で四散する。
「ゼクロスッ!」
 ライダー達は叫んだ。だが返答のかわりに爆発が起こるだけであった。
「おのれ・・・・・・」
 それを見上げる暗闇大使は苦渋に満ちた顔を浮かべた。
「まさかサザンクロスを破壊するとは・・・・・・」
 その時彼の口から一条の血が零れた。
「グフッ!」
 大使は血を吐いた。そしてその場に崩れ落ちた。
「暗闇大使!」
 怪人と戦闘員達がその場に駆け寄る。そして彼を助け起こした。
「大丈夫だ」
 彼は同志達に対してそう言った。
「それよりもこの場は退くぞ。これ以上の戦闘は無意味だ」
「ハッ」
 それはわかっていた。サザンクロスが破られた今戦意も潰えていたからだ。ライダー達の勝利は明らかであった。
「サザンクロスを失ったのは惜しいが」
 暗闇大使は戦闘員達に左右から抱えられながら呟いた。
「ゼクロスを倒せたのはよしとしなければな」
 そして戦場から去った。後にはライダー達だけが残っていた。
「あの化け物こそ倒すことはできたが」
「失ったものは大きいな」
「ああ」
 だがライダー達はその場から去った。彼等にはそれを伝える義務があるからだ。

「どうだった」
 立花達は松阪の駅で彼等を待っていた。
「良の奴がいないようだが」
「ええ」
 彼等を代表して本郷が口を開いた。
「特攻して・・・・・・。それで俺達は勝つことができましたが」
「そうか」
 彼はそれを聞いて頷いた。何とか表情は変えないことに成功した。
「惜しい奴だったな」
「はい」
 ライダー達も滝達もそれに頷いた。だがそれ以上のことはできなかった。その時だった。
「勝手に殺してもらっちゃ困るな」
 彼等の後ろから声がした。
「その声は」
 皆後ろを振り向いた。そこに彼がいた。
「おやっさん、先輩達、皆、遅れてすいません」
 彼がマシンを引き摺るようにしてこちらにやって来ていた。全身傷だらけだが確かに立っていた。
「良・・・・・・」
「無事だったのか!」
 彼の姿を見て誰もが驚きの声をあげずにはいられなかった。村雨はそんな彼等に対して微笑んでみせた。
「あれ位じゃ死にはしませんよ。だってそうでしょう?」
「どうしてだ?」
 立花がそれに合わせて問うてきた。彼はそれに答えた。
「ライダーだからですよ。ライダーはそう簡単には死なないんでしょう?だから生きてるんですよ」
「確かにな。その通りだ」
 立花はその答えに対して笑った。
「無事で何よりだ。おう、今日もわしの奢りだ」
 ここで彼は他の者に顔を向けた。
「ステーキでも焼肉でも何でも食え。松阪牛の食べ放題だ」
「本当ですか!?」
「ああ、良が帰って来たんだ。それ位は奮発してやる。いいな」
「はい!」
「喜んで!」
 戦士達は同志の帰還を心から喜んでいた。だがそれは最後の戦いへ向かう前の盃でもあるのを忘れてはいなかった。

悪魔の兵器   完


                                  2004・12・16
 



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