『仮面ライダー』
 第四部
 第一章             隻眼の軍人
              
 中東には多くの戦火の跡が残されている。
 かって四度の中東戦争があった。これはイスラエルとアラブ諸国の間で行われた戦争である。
 これはイギリスの二枚舌外交に大きな要因があった。だがそれにも増してアラブとイスラエルの対立は激しかったのだ。
 スエズやシナイ半島を巡って干戈を交えた。結果としてイスラエルは国土を守り多くの占領地を獲得した。
 だがここで多くの深刻な問題が生じた。その一つがパエスチナ問題である。
 この問題も複雑かつ深刻である。一朝一夜で解決できるものではない。
 中東の問題は他にもある。クルド人にしろそうであるし原理主義者達もいる。いまだに中東は世界の火薬庫であるのだ。
 その中東でかって最大の都市と謳われアラビアンンアイトにもその栄華を残す街がバグダットである。この街に今二人の男がいた。
「まだまだ戦争の傷跡があるな」
 筑波洋は街を見回して言った。
「そらそうですやろ、あそこまで徹底的にやりましたからなあ」
 がんがんじいも隣にいる。二人はバグダットの街を見回しながら歩いている。
「原因はどうあれ激しい戦争だったからな。そうおいそれとは修復しないか」
「ミサイルやら爆撃やらでようさん攻められてましたしな。人も大勢死んだし」
「そうだな」
 筑波はそれを聞くと表情を暗くさせた。
「人間は愚かなこともする。戦争なんかはその際たるものだ」
 戦争が行われる度に平和を言う人がいる。だがその人も別の立場だと戦争を主張したりする。それが人間の一面である。
 逆に絶対的な平和主義というのも胡散臭い。我が国では口でそれをとなえても裏でテロリストや北朝鮮の如き悪辣な独裁国家と結託している自称平和主義者もいる。こうした連中が正義の味方の仮面を被り声高に己が主張を押し通そうとする。まことに卑しい話である。
「人は戦わなくちゃいけない時がある」
 筑波はそう思っている。
「愛するもの、守るべきものがある時には」
 彼は平和を愛している。だが平和主義者ではない。
 平和を守る為に戦う戦士、それこそがライダーである。彼はその力を平和の為に使っているのだ。
 ここで後ろから爆発がした。
「ん!?」
 二人はそちらに顔を向けた。見ればビルが爆破されている。
「原理主義者でっしゃろか」
「多分」
 筑波はがんがんじいの言葉に頷いた。
「行こう、負傷者がいたら救助しないと」
「はい」
 二人は爆発したビルの方へ向かった。そして負傷者の救助にあたった。
 今もバグダットは駐留する外国の軍隊と原理主義者達の戦いが続いている。双方共無益な血を流しながらもまだ陰惨な戦いを続けている。その中で巻き添えとなり無数の屍が築かれようとも。
 筑波とがんがんじいは負傷者の救助を終えると赤十字の医療所に来た。そこでテロの話を報告したのだ。
「またですか」
 報告を受けた赤十字の医者は表情を暗くさせた。中年の口髭を生やしたアラブ系の男である。
「一体何時になったら終わるのか」
 彼はふう、と溜息をついた。
「今回は死者はいませんでしたが」
「しかし傷を負う人がいるのは事実です」
 彼は筑波の慰めの言葉にも顔を晴れやかにさせなかった。
「戦争で傷つくのはいつも罪のない人達です」
「はあ」
 二人はその言葉に頷くしかなかった。それを最もよくわかっているからだ。
「貴方達には感謝しています。しかし」
 彼は顔を暗くさせたまま言う。
「戦争が完全に終結しない限りこうした悲劇は繰り返されます」
 その通りであった。だからこそ彼は顔を暗くさせているのだ。
「私は元々軍医でしたが」
「そうだったのですか」
 二人はその告白に少し驚いた。
「ええ、アメリカ海兵隊にいました」
「海兵隊ですか、それはまた」
 筑波はそれを聞いて暗い顔になった。
「洋さん、海兵隊ってあの」
 アメリカ海兵隊のことはがんがんじいも聞いていた。常時戦闘態勢にあり有事の際にはまず戦場に向かう軍である。アメリカ軍の先鋒である。それだけに損害も多い。訓練も極めて厳しい。
「ああ、あの海兵隊だ」
 筑波は答えた。この医者はそこでおそらく多くの戦争の傷を見てきたのだ。
「戦場が嫌になり軍を辞めたのですが」
 彼は俯き加減に話を続けた。
「しかしそれでも傷ついた人を放っておくことはできませんでした。しかし」
 その顔は暗さを増していくばかりである。
「やはり戦争により傷を負う人は減ることはない。こればかりは神ですら何もすることはできないのでしょうか」
「それは・・・・・・」
 筑波とがんがんじいは何も言うことができなかった。
「信じる神が違う、と言えばそれまでですが」
 医者は自嘲気味に笑ってから言った。
「それでも何とかしたい、しかし何もできない。私の力なぞは全く無力なものです」
「それは違いますよ」
 筑波はここで言った。
「貴方のような方がいなくて誰が傷ついた人達を救うのですか」
「えっ・・・・・・」
 医者はその言葉に顔を上げた。
「確かに戦争は悲惨なものです。しかし」
 筑波は言った。
「その巻き添えになる人を救う人も必要なのです。貴方のような人が」
「私の様な」
「はい」
 筑波は頷いた。
「見て下さい」
 筑波は医者の後ろを指し示した。
「あ・・・・・・」
 彼はそれを見て言葉をあげた。そこには手当てを受けている多くの子供達がいた。
「貴方のような方がいなければあの子供達はどうなるのです。彼等には貴方が必要なのですよ」
「私が、ですか」
「そうです。戦争は一刻も早く終わらせなければなりません。しかし」
 筑波は医者に目を戻した。
「貴方のように戦場で子供達を救う人も必要なのです。俺は馬鹿なんで上手くは言えませんが」
「いえ」
 医者はここでようやく微笑んだ。
「貴方の言葉で目が覚めました。そうですね、傷ついた人々を助けなくては」
「わかってくれましたか」
 筑波もそれを見て微笑んだ。
「はい、これからもここに留まりあの子供達の側にいることにします」
 彼はそう言うとまた子供達の方に顔を向けた。
「お願いします」
 筑波は右手を差し出した。
「わかりました」
 彼もそれにならった。そして二人は固い握手を交わした。

「洋さんは優しいですな」
 病院を離れた筑波にがんがんじいが言った。
「俺は別に優しくなんかないよ」
 筑波はそれに対して苦笑して答えた。
「俺はライダーだからな。ライダーは人を救うことが務めだ。それに」
 がんがんじいに顔を向けた。
「がんがんじいの方がよっぽど優しいよ」
「それは買い被りでっせ」
 がんがんじいは顔を真っ赤にして言った。
「わいみたいなええ加減な人間そうはおりまへんで」
「いや、それは違う」
 筑波はそんな彼に対して言った。
「がんがんじいはいつも身体を張って戦ってるじゃないか。人を守る為に」
「それはまあ正義の味方の務めですさかい」
「それで今までどれだけ傷を負ってきたか。その身体を見ればわかるよ」
 見ればその身体のあちこちに傷がある。大きいのも小さいのも無数にある。
「これはわいが弱いから」
「弱いからじゃないよ、それは勲章だ」
「勲章・・・・・・」
「そう、がんがんじいはそれだけ人々を守る為に戦ってきたという証だよ。それが勲章じゃなくて何だというんだ」
「そうでっしゃろか」
「そうだよ、少なくとも俺はそう思っている」
「洋さん」
 がんがんじいはその言葉にじんときた。今まで彼と共に戦ってきたが今の言葉はとりわけ心に響いた。
 筑波は心優しい戦士である。彼は悪と戦う心と同時に人々をいたわる心も併せ持っている。
「心に優しさがないとライダーになれない」
 かって本郷猛が言った言葉だ。彼等は改造人間だ。だがその心は人間である。
 だからこそ哀しみを背負っている。孤独である。だがその哀しみと孤独を乗り越えて悪と戦い、人々を愛さなければならないのだ。それがライダーなのだから。
 がんがんじいもそれを知っている。だからこそ筑波のそんな言葉と心遣いが有り難いのだ。
「洋さん」
 彼はまた筑波の名を呼んだ。
「何だい」
「夕食にしましょうや、そろそろ」
「もうそんな時間か」
 見れば夕陽が沈もうとしている。家からは煙があがってきている。
「じゃあ何処かで食べよう。羊がいいな」
「今日はわいがおごりますわ」
「え、いいよそんなの。いつも通り割り勘でいこうよ」
 実は食べる量はがんがんじいの方がずっと多い。しかしそれでも筑波は割り勘でいっているのだ。
「水臭いことはいいっこなしでっせ」
 がんがんじいはそんな筑波に対して言った。
「今日はわいの奢りつったら奢りでっさかい」
「そこまで言うんなら」
 彼も納得した。がんがんじいはそんな彼を押し立てるようにして前の店に入る。
 そして二人は食事を採った。がんがんじいの言葉通り彼の奢りであった。
 それを遠くから見る影があった。
「勲章か」
 カーキ色の軍服に身を包んだ隻眼の男である。ゼネラルモンスターだ。
「私にとっての勲章は一つしかないな」
 彼は筑波達が入った店を見下ろしながら言った。
「それは筑波洋、貴様の命だけだ」
 その目には冷たい炎が宿っていた。
「今度こそ貴様を倒す、ネオショッカーの時以来の我が悲願を果す為にな」
 その後ろに数人の戦闘員が姿をあらわした。
「ゼネラルモンスター」
「何だ」
 彼は後ろを振り返ることなく答えた。
「既にバグダットに怪人の配備を終えました」
「そうか」
 彼は相変わらず振り返ることなく答えた。
「ではそろそろ作戦を発動するとしよう」
「ハッ」
 戦闘員達は敬礼した。
「アメリカ軍も原理主義者も関係ない。我等はこのバグダットを占領するのみだ」
「はい」
「そしてここを拠点に中東を征服する。わかっておるな」
「当然でございます」
「ならばよい」
 ゼネラルモンスターはそれを聞いて頷いた。
「その時には時空破断システムで全てを破壊する。そしてその廃墟のあとに我がバダンの世界が築かれるのだ」
 彼はここでニヤリ、と笑った。
「よいな、そしてその為には」
 眼下を見下ろす。
「スカイライダー、筑波洋は必ず除いておかなければならない」 
 ゼネラルモンスターは姿を消した。そしてあとには硝煙の匂いが漂っていた。

「フム、もうすぐはじまるか」
 ゼネラルシャドウは赤い円卓の上でトランプ占いの結果を見て呟いた。
「ゼネラルモンスターも本気を出すか」
 そのカードの結果は彼に戦いを知らせていた。
「これは面白いことになりそうだ」
「気楽に言うな」
 ここで何者かの声がした。
「奴が時空破断システムを使用して中東を廃墟にしたならばこのシチリアにも影響が出るかも知れないというのに」
 部屋の中に巨大な火の球が姿を現わした。
「貴様か」
 シャドウはその火球を見て口の端を歪めて笑った。
「貴様はそれがわかっているのか」
 百目タイタンは火球から姿を現わしてシャドウに対して言った。
「当然だ」
 シャドウは口の端を歪めたまま答えた。
「そうでなくてはどうして楽しめるというのだ」
「フン」
 タイタンはそれを見てその無数の目を歪めさせた。
「その時の手は打ってある、とでもいうつもりか」
「そうだ」
 シャドウはあえて素っ気無い様子で答えた。
「もっともそれは貴様も同じだと思うがな」
「確かにな」
 タイタンはそれを聞いて含み笑いを漏らした。
「俺は地底にいればいいからな」
「それは俺も同じこと。既に本拠地は別のところにある」
「ほう、ではこのシチリアを俺に明け渡すつもりか」
「残念だがそうではない」
 シャドウは杯を空にすると言った。
「このシチリアはあの男との決着を着ける場だ。貴様に渡すわけにはいかぬ」
「それは俺とて同じこと」
 タイタンはシャドウを見据えて言った。
「俺もあの男と決着を着けなければならんからな。その為に死神博士の力を借りた」
「そうか、それは何よりだ」
「今の俺はあの男にも勝てる、貴様の出る幕はない」
「それはどうかな」
 シャドウはそれに対して冷笑で返した。
「どういうことだ」
 タイタンはその言葉に顔を向けた。無数の目がシャドウを睨む。
「例えば、だ」
 シャドウはトランプのカードを切りながら言う。
「貴様がここで死んだとしたならば」
「やるつもりか」
 タイタンはその言葉に身構えた。
「安心しろ」
 カードを切り終えたシャドウは言った。
「今貴様は死ぬ運命にはない。カードにはそう出ている」
「またカードか」
 シャドウは構えを解きとシャドウの前のカードを見て言った。
「占いなぞで何がわかるというのだ」
「全てがわかる」
 シャドウは皮肉な言葉を吐くタイタンに対して素っ気なく返した。
「俺の占いが外れることはない。それで俺は今まで戦ってきたのだ」
「フン」
 タイタンはそれを聞き顔を一瞬そむけた。
「どのみち勝てなければ意味はない。あの男に勝ってこそ、だ」
「その為に未来を知っていて損はないぞ」
「そんなものは自分の手で掴むのだ」
 タイタンは言った。
「この力でな。時として奪い取る。それがバダンの掟だ」
 右手を顔の前に開いて言う。そこには赤い炎が漂っている。
「確かにそうだ。しかし俺は違う」
 シャドウは反論した。
「俺はあくまでカードに従って動く。そこから全てがはじますのだ」
「ならばそうするがいい」
 タイタンは突き放すようにして言った。
「どちらにしろストロンガーを倒すのは俺だ」
「それはどうかな」
 シャドウも負けてはいない。
「奴を倒すのは俺だとカードが教えているが」
 彼はそこでタイタンに対し一枚のカードを見せた。スペードのキングである。
「これが何を意味するか、わかるな」
「わからんな」
 タイタンはそれを見てもなおうそぶいた。
「俺はカードなぞ信じぬからな」
「そうか。ならばいい」
 シャドウはカードを引っ込めた。
「いずれわかることだしな。中東での戦いの結果も」
「ゼネラルモンスターか」
 タイタンは中東と聞き思い出したように言った。
「どう戦うかな」
「それは占ってはおらぬ」
 シャドウはその言葉に対して言った。
「そこまで占っては面白くはないだろう」
「確かにな。珍しく意見が合ったな」
 タイタンはそれを聞き不敵に笑った。
「ではゆっくりと観戦させてもらうとするか」
 タイタンはそう言うと踵を返した。
「ストロンガーとの戦いに備えると共にな」
「それがいいだろうな」
 シャドウはタイタンの背にかけるように言った。
「だが覚えておけ」
 タイタンは振り返ることなく言った。
「ストロンガーを倒すのはこの俺だ。俺以外の誰にも倒させはせん」
「覚えておこう。一応はな」
「フン」
 タイタンはそこで姿を消した。炎の燃えカスがあとに残ったがそれもすぐに消えた。
「行ったか」
 シャドウはその燃えカスが消えるのを見ていた。
「どのみちカードの運命には逆らえぬということを知るだおうな」
 そう言うと椅子を後ろに向けた。手には杯がある。
 戦闘員が一人入って来た。ボトルを持っている。そしてシャドウの持つ杯に酒を注ぎ込んだ。白いワインである。
「ご苦労」
 シャドウは酒を受けて言った。そして彼に対して指示した。
「モニターを」
「わかりました」
 戦闘員は頷くとテーブルにある一つのボタンを押した。するとシャドウの前に映像が浮かんできた。
「では見せてもらうとするか、ゼネラルモンスターの戦いぶりを」
 彼は杯を口に含んだ。そしてまた飲み干した。
「酒もある。今は酒と戦いに酔うとしよう」
 彼はその皮膚のない顔を無気味に歪めて笑った。そしてモニターに映る戦いから目を離すことはなかった。
 モニターにはスカイライダーが映っている。彼はバグダット郊外で怪人達と戦っていた。
「ウオーーーーーーーーーッ!」
 ジンドグマの突進怪人マッハローラーが突撃を敢行する。スカイライダーはそれを紙一重でかわした。
「フンッ!」
 その入れ替わりに襲い掛かって来る戦闘員を倒す。彼の隣にはがんがんぎいがいる。
「ライダー、雑魚はわいがやりますわ!」
「頼む!」
 スカイライダーはそう言うと怪人に向かって行った。マッハローラーはそれを見るとまた突進した。
「ライダーに一度使った技は」
 スカイライダーはその突進から目を離すことなく言った。
「二度と通用せん!」
 屈んだ。そして足払いを仕掛ける。怪人はそれでバランスを崩した。
 そこで怪人の身体を掴んだ。そしてそのまま激しく回転した。
「竹トンボシューー‐トッ!」
 上に向けて放り投げる。そして自らも跳んだ。
「喰らえっ!」
 怪人に蹴りを放つ。マッハローラーはこれで爆死した。
 怪人を倒し着地するスカイライダー。そこに新たな怪人が襲い掛かって来た。
「ウククククククククッ!」
 ショッカーの凝結怪人ヤモゲラスである。怪人は無気味な声をあげライダーに向かって来た。
 怪人は口から白い液体を吐き出してきた。ライダーはそれを左に動きかわす。
「凝結液か」
 見れば後ろにいた戦闘員がそれを浴び固まった。スカイライダーはそれを見て身構えた。
 両者は睨み合った。ヤモゲラスは口からまた吐き出そうとする。
「ムッ」 
 その時に一瞬隙が生じた。それを見逃すスカイライダーではなかった。
「トオッ!」
 ライダーは跳んだ。そして怪人の頭上にやって来た。
「受けてみろ」
 彼は空中で前転した。そして両足で怪人を踏み付ける。
「必殺飛び石砕きっ!」
 彼は怪人を踏んだ。それも幾度となく踏んだ。
 そして上に跳んだ。着地した時怪人は彼の後ろで倒れ爆発して果てていた。
「見事だ」
 ゼネラルシャドウはそれを見て言った。だが彼と同時にもう一人の男もぞう言っていた。
「ムッ!?」
 シャドウはその言葉を聞き耳を澄ませた。そしてモニターを見る。
「ほほう」
 モニターを確認した彼は笑った。そしてまた椅子に身体を沈め観戦に戻った。
 スカイライダーの前に一人の男が姿を現わした。ゼネラルモンスターである。
「久し振りだな、スカイライダー」
 彼はゆっくりと前に進みながらスカイライダーに話しかけてきた。
「いや、筑波洋よ」
「何の用だ、ゼネラルモンスター」
 スカイライダーは彼を見据えて問うた。
「挨拶に来た」
「挨拶だと!?」
「そうだ」 
 彼はスカイライダーをその右目で凝視したまま言った。
「貴様に最後の勝負を挑む為にな」
「最後の、か」
「そうだ。今までの戦いに終止符を打つ」
 ゼネラルモンスターの声は何時にも増して低く、強いものであった。
「この砂漠の都バグダットが貴様の墓場になる」
「その言葉、全て貴様に返す」
 スカイライダーは言い返した。
「俺は負けるわけにはいかない。そしてゼネラルモンスターよ」
 彼を指差した。
「貴様を今度こそ完全に地獄に叩き落してやる」
「言ってくれたな」
 ゼネラルモンスターはそれを聞き右眼を光らせた。
「そうでなくては面白くない」
 そして一瞬だがニヤリ、と笑った。
「ではあれを見るがいい」
 彼はそう言うと右手のステッキで後ろを指し示した。
「ム!?」
 スカイライダーはそちらに顔を向けた。それを見たライダーの顔が見る見る強張っていく。
「な・・・・・・」
 バグダットの郊外に巨大な塔が登ってきた。それは古代メソポタミアの建築様式で造られたものであった。
「あれはまさか・・・・・・」
 スカイライダーはそれが何かすぐにわかった。戦闘員達を倒し終え隣にいたがんがんじいの顔も強張っていく。
「そうだ、バベルの塔だ」
 ゼネラルモンスターは二人に対して言った。
「かって神の世界に行こうとし、その神の怒りに触れた不遜の塔だ」
 バダンは今それを復活させたのであった。
「そしてこの塔がバグダットを滅ぼすのだ」
「どういう意味だ!?」
「すぐにわかる」
 ゼネラルモンスターは素っ気無い様子で言った。
「その時には貴様も全てが終わるが」
「何っ」
「スカイライダーよ」
 ゼネラルモンスターは激昂しようとするスカイライダーに対して言った。
「このバグダットを救いたくばバベルの塔に来い。そして私を倒してみよ」
「望むところだ、ゼネラルモンスター」
 スカイライダーは再びゼネラルモンスターを指差した。
「今度こそ貴様を倒す!」
「楽しみにしている」
 彼はそう言うとライダーと正対したまま後ろに下がった。
「来た時が貴様の最後だ。よく覚えておくがいい。スカイライダー、貴様は私が倒す」
 そして姿を消した。ゼネラルモンスターは影と共に消えた。
「行きましたな」
「ああ」
 ライダーはがんがんじいに答えた。
「もうすぐ奴との最後の戦いか」
 彼は塔を見て言った。
「生きて帰れる保証はない」
 がんがんじいはそれに対して黙って頷くだけであった。
「だがそれでも行かなくちゃな」
「そうでんな」
 がんがんじいはまた頷いた。
「そうでんな、ってがんがんじいまさか」
「洋さんだけやとしんどいでっしゃろ、わいも行かせてもらいますわ」
「しかし・・・・・・」
 スカイライダーは自分だけで行くつもりであった。
 敵は強い。おそらく塔の中には予想もできない数多くのトラップがあるだろう。だからこそ彼は一人で行くつもりだったのだ。
「前にも言ってくれましたやんか、わいも正義の戦士やって」
「ああ」
 それは真実だ。スカイライダーにとってがんがんじいはもはや常に頼りになるパートナーであった。
「そうだよ筑波君、悪と戦っているのは君だけじゃない」
 後ろから声がした。
「博士・・・・・・」
 そこには志度博士が笑顔で立っていた。
「どうしてここに」
「君がバグダットにいると聞いてね。そして激しい爆発の音が聞こえてきたからもしやと思って来たんだ」
「そうだったんですか、お恥ずかしい」
「いや、恥ずかしいことじゃないよ」
 やはり彼は筑波に対し微笑んでいた。
「君の見事な戦いを見せてもらったのだから。そして」
 彼は言葉を続けた。
「今度はそれをバベルの塔で見せてくれ」
「わかりました」
 スカイライダーはその言葉に対し頷いた。
「よし、じゃあ行こう」
 彼はここでライダーとがんがんじいの肩に手を置いた。
「ええ」
「わかってますがな」
 二人は頷いた。博士はそれを見てまた微笑んだ。
「じゃあ行こう、悪の塔へ」
 そして三人は塔へ向かった。ゼネラルモンスターが待つ悪の本拠地へ。

 その頃暗闇大使はバダン日本支部で作戦の準備にあたっていた。
「ゼクロスとライダーマンの動きはどうか」
 彼は指令室で戦闘員の一人に尋ねた。
「ハッ、今のところ目立った動きはありません」
 その戦闘員は敬礼をして答えた。
「そうか。今何処にいるのだ」
「アミーゴを本拠地として我々のことを探っている模様です」
「ふむ」
 彼はそれを聞き顎に手をあてた。
「あの二人がか」
 彼には思い当たるところがあった。
「どちらも諜報には長けている。ライダーマンは頭が切れる。ゼクロスはまさに機械化された忍者だ」
「忍者ですか」
「そうだ」
 大使は戦闘員の言葉に答えた。
「気をつけろ。忍者は影の中に潜みそこから襲い掛かる」
「魔物のようですね」
「魔物よりも手強い。かって忍者を従えた者がこの日本を制したとまで言われる」
「日本をですか」
「うむ」
 彼はまた頷いた。
「それだけ忍者の力は絶大だったのだ」
 戦国大名達は皆そうであった。武田信玄もそうであったし北条氏康もそうであった。徳川家康は伊賀忍者の力で天下人になったところが大きい。
 その伊賀を攻めた織田信長にしてもそうだ。彼の配下には蜂須賀正勝や滝川一益等忍出身の者がいた。彼は諜報戦も得意としていたがそれは彼等の力があってのものであった。
 その忍者は江戸時代においても隠密として活躍した。彼等はまさに歴史の影として活躍してきたのだ。
「だからこそ油断してはならん」
「わかりました」
「油断したならば一瞬にしてこのバダンも壊滅させられる。そう、一瞬にな」
「フン、相変わらず心配性だな」
 ここで暗闇大使の声と全く同じ声が聞こえてきた。
「・・・・・・貴様か」
 大使は声のした方を不機嫌そのものの顔で見た。
「貴様はないだろう、折角会いに来てやったというのに」
「呼んだ覚えはない」
 暗闇大使は嫌悪に満ちた声を返した。
「そう言うな。長い付き合いではないか」
「誰がっ」
 大使はここで激昂した。
「貴様とのことなぞ我が記憶から全て消し去っておるわ」
「嘘を言う必要はない」
 声は余裕のあるものであった。
「我々はあの時から一緒ではないか」
 陰から銀と赤の右足が出て来た。
「あのスラム街で生まれた時からな」
 声の主が姿を現わした。地獄大使であった。
「我々はあのベトナムのジャングルで共に戦った仲ではないか」
 彼はまるで毒蛇の様な笑みを浮かべながら言った。
「誰が」
 暗闇大使は彼を睨みつけていた。
「わしは司令官、貴様は参謀総長としてな。中々の名コンビだったな」
「ふざけるな、貴様はわしを利用していただけだっ!」
 暗闇大使は語気を荒くさせていた。
「フランスとの戦いでも、アメリカとの戦いでも、中国との戦いでもそうだった。貴様は単にわしを利用していただけではない
か!」
「馬鹿なことを言う」
 だが地獄大使はそれに対して冷笑で以って応えた。
「それがあの戦争だったのではないか」
「どういう意味だ」
 暗闇大使はまだ地獄大使を睨んでいる。
「あの戦争では全ての国民が駒に過ぎなかった。ホーチミンですらな」
 ベトナムの一連の戦争であった。
 まずフランスがこの地を植民地とした。そして第二次世界大戦の時に日本軍がやって来た。ここでも彼等は学校を建て現地民に対して厳格な教育を施した。融通が利かずしかもすぐ手をあげる日本の軍人達をわずわらしく思いながらも彼等はそこに自分達の進む道を見た。
「日本軍とも手を結ぶことが出来ていれば喜んで結んでいた」
 当時を生きたベトナム人でこうした考えの者もいた。ベトナム共産党もである。
 彼等が他の共産党と決定的に異なるのは彼等はあくまで民族主義者であったということだ。共産主義は独立を達成する為の錦の御旗に過ぎない。指導者であるホーチミンもそうした考えであった。
「共産主義なぞ何の役にも立たない」
 彼等は後に自らの行動によりそれを公言した。現在のドイモイ政策である。
 こうしたしたたかな国である。その国民も粘り強かった。
 日本の敗戦後フランス軍がまたやって来た。彼等はまたベトナムを植民地にする為に戻って来たのだ。
 彼等は前と同じようにベトナムを統治できると思っていた。だがそれは誤りだった。
 ベトナムはホーチミンに率いられていた。そして彼等は日本軍の心を学んでいたのだ。
 彼等は強かった。裸足の軍隊が近代装備のフランス軍を圧倒していたのだ。そして遂にフランス軍の本拠地難攻不落と言われたディビエンフー要塞が陥落した。これでフランスはベトナムを去った。
 ところがここでベトナム共産党の伸張を快く思わないアメリカが介入してきた。彼等は南ベトナムに傀儡政権を置くとそれを援助する形でベトナムに介入してきた。その圧倒的な物量でベトナムを制圧しようとしたのだ。
 だがアメリカ軍も苦戦した。彼等はジャングルに潜み、そこから攻撃を仕掛けた。農村にも都市にも潜んでいた。さしものアメリカ軍も彼等の神出鬼没の攻撃に手を焼いた。
 そこでベトナムは外交にも訴えた。アメリカこそが侵略者であり自分達は被害者だと。これは国際世論と何よりも国内の支持を失ったアメリカにとって致命的であった。
 結果としてアメリカは敗れた。そしてベトナムは統一されたがここでまた敵が出て来た。
 中国である。彼等は歴史的にベトナムを自分達の領土の一部だと考えていた。その中国がベトナムに雪崩れ込んできたのだ。
 しかしそれも退けた。さしもの中国もベトナムの卓越した戦術の前に退くしかなかったのだ。
 その後はアメリカ、中国、ASEAN諸国との対立が続いた。しかし彼等はソ連と組みこれに対抗した。冷戦が終わるとこれ等の国々との関係を改善しASEANにも加入した。そして日本にしきりにラブコールを送っている。
 こうした優れた戦闘力と外交能力を持つベトナムが最も評価する国の一つが日本である。ベトナムの外交官の一人が日本軍の戦いを聞いて思わずこう言ったという。
「一度に二万の海兵隊を倒したなんて信じられない。日本軍の様に強い軍隊は今までない」
 硫黄島での戦いだ。この歴史に残る壮絶な死闘はさしものベトナム人達も想像できないものであったのだ。
 そうした長年に渡る死闘を潜り抜けてきたのがこの二人だ。だが彼等はそれでも互いを憎み合ってきた。
「貴様はあの時何をした」
「ショッカーより前のことは覚えておらぬ」
 地獄大使はとぼけてみせた。
「わしにはもう何の意味もないことだからな」
「ふざけるな」
 暗闇大使はそんな彼にくってかかった。
「何時でもそうだった。功績は常に貴様のものだった。わしは貴様の陰に過ぎなかったのだ」
「それが参謀であろう」
 地獄大使は素っ気なく言った。
「貴様には表に出る能力がなかっただけのことだ。自身の無能を棚にあげてそのようなことを言うとは」
 彼はここで従兄弟を侮蔑した目で見た。
「知の魔神の名が泣くぞ」
「言うな、わしは暗闇大使だ。その名はもうない」
 叫ぶその目はもう血走っていた。
「このバダンの最高幹部だ!」
「フフフ」
 地獄大使はそれを聞いて急に笑みを変えた。

「どうした?」
 侮蔑が消えていた。何処か親しげな笑みであった。
「そうだ、バダンの最高幹部だったな」
「それがどうした」
 暗闇大使はそれを聞き一瞬戸惑った。
「いや何も」
 地獄大使はあえてからかうような顔をした。
「今のところは、という意味だったな」
 挑発する為に。
「貴様っ!」
 やはり暗闇大使は激昂した。左手に持つ鞭をこちらに向けようとする。
「面白い。ここでやるつもりか」
「だとしたらどうする!」
 暗闇大使は感情的な声で言った。
「いや」
 やはり地獄大使はからかうような顔をしている。
「最高幹部にしては軽率であるな、と思ってな」
「ム」
 暗闇大使はその言葉に我に返った。
「フフフ」
 地獄大使はその様子を楽しそうに見ている。
「落ち着くがいい。部下も見ているしな」
 彼はあえて彼を宥めるようにして言った。
「ところで本題に入ろう」
 地獄大使はここでようやく本題を言うことにした。
「時空破断システムだがな」
「うむ」
 暗闇大使は内心で怒りを沸騰させていたがあえてそれを隠し応えた。
「あれはネクロノミコンの力を使っているな」
「だとしたらどうする」
 暗闇大使は憮然とした顔で問うた。
「いや、だったらいいのだ」
 地獄大使は納得した顔で頷いた。
「だとすればこちらも安心して使えるというものだ」
「もとは貴様が持っていたものだからな」
 暗闇大使は言った。
「そうだ、わしがあえて貸してやったものだ」
「有り難く使わせてもらった」
「しかしそれだけではないだろう」
 地獄大使はここで問うた。
「どういう意味だ?」
「ネクロノミコンだけで開発したわけではないだろう、と聞いているのだ」
「フン、察しがいいな」
「貴様の考えていることはわかる」
 地獄大使は言った。
「何しろ血を分けた従兄弟同士なのだからな」
「不幸にしてな」
 暗闇大使は再び顔を憮然とさせた。
「フフフ」
 地獄大使にとってその様子がたまらなく面白いようだ。
「その力、何なのかと思ってな」
「それを聞く為にわざわざ日本に来たのか」
「まあな」
「わしが貴様に教えると思っているのか」
「言っただろう、わしには貴様のことは全てわかると」
「それはわしも同じだがな」
 暗闇大使は言い返した。
「そうだな。これでわしの知りたいことはわかった」
「そうか」
 暗闇大使は相変わらず憮然とした様子で言った。
「ならば去れ」
「言われずともな。誰が好き好んで貴様と会うものか」
 地獄大使はここで嫌悪感をあらわした。
「わしはこれで持ち場に去らせてもらう。だが一つ忘れるな」
「何だ」
 暗闇大使は顔を向けた。
「貴様の椅子は仮のものに過ぎんということをな」
「そうか」
 ここは気にもかけぬふりをした。
「いずれ・・・・・・わかっているだろうな」
「何のことだ」
「フン、まあいい」
 地獄大使は背を向けた。
「ショッカーの時からの掟だ。力こそが絶対だ」
「ならばわしの勝ちだな」
「言っておれ。それもいずれわかることだ」
 地獄大使は背を向けたまま言った。
「その時を楽しみにしておれ」
「貴様の最期をな」
 地獄大使はその言葉を聞き流し指令室をあとにした。暗闇大使はそれを見送りながら呟いた。
「あの男、気付いているのか」
 彼はいぶかしんでいた。
「時空破断システムの秘密に」
 それは彼と首領だけが知っていることである」
「いや」
 しかし彼はここで首を横に振った。
「黒い光のことは誰も知らぬ筈だ。わしと首領以外は」
 トロントでゼクロスに見せたあの光のことである。
「あの光がある限りわしの力は絶対なのだ」 
 彼は自分に言い聞かせるようにして言った。
「地獄大使、いやダモンよ」
 彼は従兄弟の名を口にした。
「今度は貴様の後塵は拝さぬぞ。決してな」
 その目には憎悪の光が宿っていた。
「今のわしの力をとくと思い知らせてやる」
 彼はそう言うとその場から姿を消した。そして闇の中に沈んでいった。

 筑波とがんがんじい、そして志度博士の三人はバベルの塔の前にいた。
「遂に来たな」
 博士はその塔を見上げて言った。
「ええ」
 二人はそれに対して頷いた。やはり上を見上げている。
「かって神の世界に行こうとして建てられた塔が今は悪の世界をもたらす為にある」
 博士の言葉は神話を語るように神秘的なものであった。
「その塔を崩し中東に平和をもたらさなければならない。その為に」
 左右にいる二人を見回した。
「行こう」
「はい」
 二人は頷いた。見ればがんがんじいは既に鎧を着込んでいる。
 筑波は人間の姿のままだ。だがすぐに腰からベルトを取り出した。
「行きますよ」
「うん」
 二人は筑波の言葉に頷いた。筑波はゆっくりと変身の構えをとった。

 スカイ・・・・・・
 まず両手を拳にし脇に入れる。そして右手を前に突き出した。
 すぐにそれを引っ込め左手をかわりに前に出す。その掌を拡げる。
 そして手刀にすると右から左に旋回させる。
 身体が黄緑のバトルボディに覆われ手首と足首が黒い手袋とブーツに覆われる。
 変身!
 その左手を脇に入れる。そして手刀にした右手を左斜め上に突き出す。
 顔の右半分が黄緑の仮面に覆われる。左半分もすぐに。目が紅く光った。
 
 光が全身を包む。光が去るとそこにはスカイライダーがいた。
「行きましょう」
「うん」
 スカイライダーの言葉に今度は博士とがんがんじいが頷いた。三人はライダーを先頭に塔の中に入って行く。
 塔の中は玄室と螺旋階段により繋がれていた。二人は玄室を通過し階段昇っていく。玄室と玄室の間は空洞になっている。
「ライダー」
 がんがんじいは階段を昇りながらスカイライダーに尋ねた。
「何だい」
 ライダーはその質問に対して問うた。
「空から上には行きまへんねんな」
「うん」
 ライダーは頷いた。
「バダンの連中は中にいるからね。それに中の方が何かある可能性が高いし」
 ライダーは言葉を続ける。
「屋上は守りが堅いだろうし。まずは中で敵の戦力を減らしていこうと思って」
「成程」
 博士とがんがんじいはそれに納得した。
「それに」
 ライダーは言葉を加えた。
「それに?」
「二人をそのままにしてはおけないから」
「ライダー・・・・・・」
 二人はここであらためてライダーの優しさを知った。
 三人は螺旋階段を進んでいく。そこへ怪人達が姿を現わした。
「来たな」
「ホオーーーーーーーーッ!」
 デストロンツバサ一族の予言怪人火炎コンドルである。怪人は階段の上にいる三人に襲い掛かってきた。
「ここは俺に任せてっ!」
 スカイライダーは二人にそう言うと跳んだ。そして怪人に向かっていく。
「頼む!」
 二人はそれに従い階段を昇っていく。前に戦闘員達が現われるがそれも倒していく。戦闘員達が悲鳴と共に暗闇の中に落ちていく。
 火炎コンドルはスカイライダーに向けて体当たりを敢行しようとする。ライダーはまずその一撃をかわした。
「甘いな」
 怪人は旋回した。そして今度は爪で切り裂こうとする。
 口から火を吐く。だがスカイライダーはそれを全てかわした。
「無駄だ」
 今度はライダーの攻撃であった。まずはパンチを繰り出す。
 だが怪人もさるものである。それはかわす。
「やはりな」
 それを見たライダーは後ろに退いた。そこに隙が生じた。
「今だっ!」
 火炎コンドルはそこに襲い掛かった。両手の爪でスカイライダーの胸を切り裂かんとする。
「かかったな!」
 そこでライダーは怪人の両手を掴んだ。そして思いきり後ろへ放り投げる。
「ギッ!」
 怪人は壁に叩き付けられた。そこから立ち直り再び向かって来る怪人にスカイライダーは蹴りを繰り出した。
「スカイキィーーーーーーーーック!」
 それは怪人の胸を貫いた。怪人は首をビクッ、とあげたがすぐにそれを垂れさせた。そしてスカイライダーの脚が抜かれると下に落ち爆死した。
 ライダーは二人の元へ戻った。そして再び階段を昇る。
 扉が見えてきた。するとそこが開いた。
「ム」
 中から怪人が姿をあらわした。ショッカーの毒針怪人蠍男である。
「シュッシュシュシュッ」
 怪人は奇妙な鳴き声をたてながらスカイライダーに向かってきた。
「こんなところで出て来るとは」
 スカイライダーは前に出た。すると後ろから別の声が聞こえて来た。
「ルロロ、ルロロ!」
 ブラックサタンの食虫怪人奇械人カメレオーンである。怪人は戦闘員達を引き連れ階段を昇っていく。
「ライダー、後ろはわて等に任せて!」
「君は前の怪人を!」
 がんがんじいと博士が後ろの怪人達へ向かう。
「すまない!」
 スカイライダーはそれを受けて前の蠍男へ向かう。怪人はそこに鋏を繰り出してきた。
「そうくると思った!」
 彼はその鋏をかわした。怪人は続けて拳を繰り出す。
 だがライダーはそれもかわした。そして脚払いを仕掛ける。
「シュッ!?」
 怪人はそれでバランスを崩した。壁の方に倒れ掛かる。
 そこでライダーは攻撃を仕掛けた。怪人の顔めがけ拳を浴びせた。
「スカイパァーーーーーンチッ!」
 一撃だけではなかった。続けて出す。それは怪人の頭部を激しく打ち据えた。
「シュッ・・・・・・」
 それで終わりであった。怪人は最後に一声叫ぶと崩れ落ちた。そして先の火炎コンドルと同じく闇の中へ落ちその中に消えた。最後に下の方で爆発が起こった。
「よし」
 後ろを振り向く。見れば博士とがんがんじいが怪人達に苦戦している。
「ルロロロロロロ」
 奇械人カメレオーンは左手を回転ノコギリに変形させた。そしてそれで二人を切り裂かんとしている。
「うわあっ!」
 がんがんじいは慌ててそれをかわす。あまり格好のいい動きとは言えないがそれでも何とかかわしている。
「がんがんじい、無理をするんじゃない!」
 博士はそんな彼に対して言う。言いながらがんがんじいをフォローしている。
「そうは言いましても」
 彼にも引けない理由があった。今後ろではスカイライダーが戦っているのである。自分がしっかりしなくては彼にいらぬ負担がかかるのだ。
「そうだがんがんじい、ここは俺に任せろ!」
「その声は!」
 後ろを振り返る。そこに彼がいた。
「よくやってくれた、あとは俺がやる!」
「はいな!」
 彼等は場所を入れ替わった。スカイライダーが怪人の前に出て来た。
「行くぞっ!」
「ルロロロロロッ!」
 怪人はライダーが前に出ると奇声を発した。すると急に姿を消した。
「保護色か」
 カメレオンの怪人の特色である。彼等はカメレオンの能力で姿を消すことができるのだ。彼もそれは今までの戦いで知っていた。
「何処にいる」
 ここは動かないことにした。どのみち階段には自分がいる。そこより後ろには回れない。攻撃は前からしか来ない。それがわかっているから気持ちは楽であった。
「さあ、どうする」
 ライダーは姿を見せぬ怪人に問うた。その時であった。
 何かがライダーの首めがけ襲い掛かってきた。彼はそれをかがんでかわした。
「来たなっ!」
 ライダーはかがみながら前に拳を繰り出した。鈍い音と共に確かな手ごたえが拳に伝わった。
「ガハッ・・・・・・」
 怪人が血を吐きながら姿を現わした。ライダーはそれをのがさなかった。
「スカイスルーーーーーッ!」
 怪人を掴み壁めがけて放り投げる。ライダーの拳をまともに腹に受け弱っていた怪人にそれをかわすことは不可能であった。
 怪人は頭から壁にぶつかった。これでゆっくりと下に落ちていった。そしてまた爆発が起こった。
「これでよし」
 ライダーはその爆発を見下ろして言った。そして上にいる二人に顔を向けた。
「じゃあ上に」
「よし」
 二人はそれに対して頷いた。そして合流し扉をくぐった。
 三人が入ったのは玄室であった。そこには何もなかった。左右に燭台が数台ずつ置かれているだけであった。
「ここは」
「スカイライダー、貴様が死ぬ場所だ」
 ここで前の扉が開いた。そこから怪人が姿を現わした。
「ググググググ」
 ドグマの蜘蛛怪人スパイダーババンであった。怪人は右手に持つ刀でライダーを差しながら言った。
「先に貴様に倒された仲間達の仇、とらせてもらう」
「来い」
 ライダーは構えをとりそれに応えた。両者は間合いを詰めた。
「喰らえっ!」
 怪人は左手から糸を放ってきた。
「ムッ!」
 それはライダーの右腕を絡めとった。怪人はそれを見て会心の笑みを浮かべた。
「今度こそ貴様の最後だっ!」
 一気に間合いを詰める。そして右手に持つ刀でライダーの首を断ち切らんとする。
 だがそれは適わなかった。
「させんっ!」
 ライダーはそれより前に残る左手で攻撃を繰り出した。怪人の右の手を手刀で打ったのだ。
「グオオッ!」
 怪人はそれを受け思わず叫んだ。そして不覚にも刀を手放してしまった。
「よし!」
 ライダーはその刀で糸を断ち切った。そして怪人にあらためて対峙した。
「まだだっ!」
 スパイダーババンはそこにまた糸を放ってきた。だがライダーに一度見せた技は通用しない。
 ライダーは右にステップしそれをかわした。そして左斜め前に跳び一気に怪人に襲い掛かった。
「フンッ!」 
 回し蹴りを繰り出す。それは怪人の後頭部を撃った。
「ウッ!」
 思わず呻き声をあげる。ライダーはそこに続けざまに攻撃を仕掛けた。
 拳を出す。怪人の左頬をまともに打った。
 そこで怯んだ怪人を掴んだ。そして後ろに叩きつけた。
「スカイバックドロップ!」
 プロレス技で有名なバックドロップだった。これをまともに受けた怪人はこれで倒れた。
 そして爆発して消えた。これでこの玄室での戦いも終わった。
 三人はさらに上を目指した。そして遂に頂上に辿り着いた。
「ここは」
 そこは何層にもなったバルコニーであった。様々な植物が植えられ、花々が咲き乱れていた。清らかな水が流れ、砂漠の中にあるとはとても思えぬ光景であった。
「これはまさか」
 三人はこれが何か知っていた。
「そうだ、あの伝説の遺跡だ」
 三人の前にあの男が姿を現わした。
「ゼネラルモンスター」
 彼等はその男の姿を認めてその名を呼んだ。
「よくぞここまで来た、スカイライダーよ」
 ゼネラルモンスターはスカイライダーに対して言った。
「かって世界七不思議の一つと言われたバビロンの空中庭園にようこそ」
「バビルの塔の上に置くとは」
「凝った演出だろう、これも貴様と戦うのに相応しい場所を作る為だ」
「俺とか」
「その通り、見ろ」
 ゼネラルモンスターは右手に持つステッキで庭園の頂上を指し示した。
「ム」
 三人はその指し示した方を見た。そこには何か巨大な鏡のようなものがあった。
「とくと見るがいい」
 ゼネラルモンスターがそう言うとその鏡に何かが宿った。
「あれは・・・・・・」
 それは闇の様に見えた。
「いや、違う。あれは闇じゃない」
 博士はそれを見て顔を青くさせた。
「あれは・・・・・・」
 その黒いものは次第に鏡を覆っていった。
「黒い光だ!」
「まさか、そんなものがこの世に・・・・・・」
「存在する筈がない、と言いたいのだな」
 ゼネラルモンスターはスカイライダーに対して言った。
「しかしこれは事実だ。その証拠に見せてやろう」
 その言葉と同時に鏡を覆っていた黒い光が前方に放たれた。
 それは光線となり前方を襲った。黒い光が通った場所が全て闇の中に消えていった。
「な・・・・・・」
 三人はそれを見て絶句した。前にあった岩山が一瞬にして消え去ったのだ。
「どうだ、この光の力は」
 ゼネラルモンスターは満足そうな声で言った。
「素晴らしいものだろう」
「ゼネラルモンスター、まさかこの黒い光で」
「そうだ、この中東を死の荒野に変えてやる」
 スカイライダーに対して答えた。
「そしてそのあとに我がバダンの世界を築くのだ」
「クッ!」
 彼はそれを聞きゼネラルモンスターに向き直った。
「そうだ、それでいい」
 ゼネラルモンスターはそれを認めると不敵に笑った。
「どのみち貴様は倒さねばならないからな。我がバダンの為に。そして」
 彼は言葉を続けた。
「この私のプライドにかけて」
「俺は違う」
 ライダーはそれに対して反論した。
「ここにいる人々の為にゼネラルモンスター」 
 彼を見据えた。
「この黒い光を封じ、貴様を倒す!」
「そうか」
 ゼネラルモンスターはそれを聞いて頷いた。
「ならば私を倒すがいい」
「そのつもりだ!」
 彼は言い切った。
「フフフフフ」
 ゼネラルモンスターはそれを聞くと益々上機嫌な笑い声を出した。
「それでいい。ようやくあの時の借りを返せる」
 彼は眼帯を取り外した。そこには赤い眼があった。
「行くぞ、スカイライダー」
 見ればもう一方の目も変わっている。そして言った。
「ゼネラルモンスター、本体!」
 掛け声と共にその身体が変わった。
 そのカーキ色の軍服が黒い身体になる。帽子が角になり口からは牙が生える。そしてその左腕がヤモリに変形した。
 ゼネラルモンスターの正体、ヤモリジンであった。
「行くぞっ!」
 ヤモリジンは前に突進した。
「望むところだっ!」
 スカイライダーも前に跳んだ。両者の拳が激突した。
「フンッ!」
 ヤモリジンの右腕に鞭が現われた。それでスカイライダーを打ちすえようとする。
「グッ!」
 それを左脇に受けた。思わず苦悶の声を出す。
 攻撃はそれで終わらない。続けて鞭を繰り出す。
 しかし一撃目こそ受けたもののスカイライダーも怯まない。脚を狙ったそれを上に跳びかわした。そして右脚で旋風脚を出す。
「フッ」
 だがヤモリジンはそれを後ろに退きかわした。そして間合いをとるとニヤリ、と笑った。
「これをよけられるかな」
 ヤモリジンは左右に分身した。そしてそのそれぞれのヤモリジンがライダーを取り囲んだ。
「分身か」
 取り囲まれたライダーはそれを見て呟いた。
「その通り。そしてそれだけではない」
 その全てのヤモリジンが攻撃を出す。無数の鞭がライダーを襲う。
「グオッ!」
 激しく全身を打ち据えられる。思わず叫び声を出してしまった。
 ゼネラルモンスターは後ろに戻った。すると分身が一つになる。
「フフフ、どうだ」
 ヤモリジンは倒れ込むスカイライダーを見下ろして言った。その声にはあからさまな優越感があった。
「私の鞭は。かなり効くだろう」
「フン、残念だな」
 ライダーはそれに対し言い返した。そして立ち上がった。
「この程度でライダーを倒せるとは思わないことだ」
「フン」
 ヤモリジンはそれを見て言った。
「流石だな。もっともそうでなくては張り合いがないというものだ」
 彼はそう言うと今度は左腕のヤモリの牙を鳴らさせた。
「次は別の方法で攻めてやろう」
 立ち上がったスカイライダーに対してそのヤモリの首を伸ばした。それは一直線にスカイライダーの首へ襲い掛かった。
「クッ・・・・・・!」
 ヤモリの牙がスカイライダーの首を喰らう。ライダーは思わず苦悶の声を漏らした。
「さあ、これならどうする」
 ヤモリジンはもがき苦しむライダーに対して言った。
「これはどうしても外すことはできない。外そうとすればする程その首に食い込む」
「ウウウ・・・・・・」
 ライダーは何とか引き剥がそうとする。だがヤモリの牙はヤモリジンの言う通り剥がそうとすればする程ライダーの首に食い込んでいく。
「さあ、これで最後か」
 ヤモリジンはそんな彼に対して言った。
「最後は苦しまないようにしてやろう。これでな」
 右手に爆弾を持った。それでスカイライダーを始末しようというのだ。
「壮絶に散るがいい、最後はな」
 彼は勝利を確信していた。だがスカイライダーは違っていた。
 彼は諦めてはいなかった。勝機をまだ窺っていたのだ。
「まだだ」
 ヤモリジンの左腕を見た。それはまだ彼の首にくらいついている。
 しかし、だ。それを外さなくてはならない。何故か、ヤモリジンは今から爆弾を彼に投げるからだ。
 この左腕は取り外しができない。従って爆発に巻き込まれない為にその瞬間外さなくてはならないのだ。
(その時だ)
 しかしそれは一瞬である。それにダメージで満足に動けるかどうかさえもわからない。
 それでも動かなくてはならない。勝つ為にだ。
 ヤモリジンは勝ち誇った顔でゆっくりと爆弾を振り上げる。そしてそれを投げた。
「さあ、これで最後だ!」
 ヤモリジンは叫んだ。そしてその瞬間左腕をスカイライダーから外した。
「今だっ!」
 ライダーはそれを見てすぐに跳んだ。その瞬間までいた場所で爆発が起こった。
「ムッ!」
 ヤモリジンは咄嗟に上を見た。そしてすぐに身構えようとする。
 しかしライダーの方が早かった。彼は既に空中で攻撃の用意を整えていた。
「これで最後だヤモリジン、いやゼネラルモンスター!」
 彼は激しく回転しながら言った。
「大回転・・・・・・」
 天高く舞い上がった彼は前転を繰り返しながら急降下する。
「スカイキィーーーーーーーック!」
 そして渾身の力を込めた蹴りを放った。それは身構えようとするヤモリジンのガードをかいくぐりその胸を撃った。
「ウオオオッ!」
 ヤモリジンはそれを弾き返そうとする。だが力及ばず吹き飛ばされた。
 激しく床に叩き付けられる。何度も床にバウンドし遂に止まった。
「決まったな」
 スカイライダーは着地した。そして床に倒れ込む彼を見下ろして言った。
「見事だ」
 ヤモリジンは立ち上がりながらスカイライダーに対して言った。
「どうやらまた敗れたようだな」
 そしてゼネラルモンスターの姿に戻っていく。カーキ色の軍服の胸が血に染まっている。
「まさか二度に渡って敗れるとはな、この私が」
 彼はここでニヤリ、と笑った。
「見事だ、スカイライダー」
「ゼネラルモンスター・・・・・・」
 その言葉に恨みも憎悪もなかった。ただ強敵を褒め称える言葉があるだけだった。
「私の負けだ。どうやら君は常に私より上にいたらしい」
 彼は異様に清々しい顔で述べた。
「さらばだ。多くは言わない」
 そして口から血を吐いた。
「早くこの塔から立ち去るがいい。私と死と共にこの塔は崩壊する」
「何と」
「私の身体には爆弾が埋め込まれている。私の死により爆発するようになっているのだ」
 これは改造人間の常であった。
「それによりこの塔も崩壊する。さあ早く行け。私が倒れぬうちにな」
「・・・・・・わかった」
 スカイライダーは頷くと後ろを振り向いた。そこには博士とがんがんじいがいた。
「少し手洗いですが我慢して下さい」
 そして二人を両脇に抱えた。そこでもう一度ゼネラルモンスターの方へ顔を向けた。
「ゼネラルモンスター」
 彼に語りかけた。
「何だ」
「さようなら。見事だったぞ」
「礼を言う」
 彼は死相を浮かべながらもそう言った。
「じゃあな」
 スカイライダーは二人を抱え上にあがった。そして庭園から離れていった。
「フフフ、最後まで見事な男だ。味方であったならな」
 ゼネラルモンスターはそう言うとゆっくりと前に倒れた。そして爆発の中に消えた。
 それが合図だった。バベルの塔と空中庭園は爆発してしまった。
「これで終わりですね」
 スカイライダーはそれを上から見下ろしていた。両脇に抱えられている二人は黙って頷いた。
「ゼネラルモンスターも遂に死んだか」
 スカイライダーの声は感慨に満ちていた。そこには強敵を思う漢の心があった。
「ライダー・・・・・・」 
 ライダーは何も答えない。だがその仮面が全てを物語っていた。
 中東でのスカイライダーとゼネラルモンスターの戦いは終わった。ライダーはここで長年の宿敵を遂に葬り去ったのだ。そして彼は中近東の平和も守ったのだ。

「ゼネラルモンスターも死んだか」
 百目タイタンはモニターを消して呟いた。
「惜しい男だったが。何処か甘さがあったな」
「それは奴だ軍人だったからだ」
 同席していた男が言った。
「あの男はまず軍人であった。軍人は時としてその美意識に流されてしまう」
「お主は違うのだな」
 タイタンは彼に対して問うた。
「当然だ。私ならばあのようなことはしない」
 その男は毅然とした声で答えた。
「かって同じナチスにいても考えは違うということか」
「その通り」
 彼はそう言うと立ち上がった。赤いマントが暗闇の中に現われた。
「フム」
 タイタンは改めて彼を見上げた。
「そういえばお主は軍人としてナチスには入ったのではなかったのだったな」
「そうだ。私は科学者として入った」
 赤いマントの男、ドクトル=ゲーはそれに対して答えた。
「成程な。ナチスといっても科学者と軍人では違うのか」
「そういうことだ。私はあくまで冷徹にいく」
「仮面ライダーX3との勝負においてか」
「うむ」
 ドクトル=ゲーは頷いた。
「奴は必ず来る、私はあの男の考えることは全てわかるのだ」
「それは凄いことだ」
 タイタンはやや冷ややかな声で言った。
「からかっているのか」
「いや」
 彼はあえて余裕をもって首を横に振った。
「ただそれはある程度というところだろう」
「確かにな。それは否定しない」
 彼は憮然としながらもそれを肯定した。
「だがそれだけで充分だ、奴は今上海にいる」
「ほう」
「そこで奴を倒す、あの魔都が奴の墓場だ」
「上海ごと消し去るつもりか」
「それでは面白くはない」
 今度はドクトル=ゲーが首を横に振った。
「仮面ラァーーーーイダX3はこの私の手で倒す。このドクトル=ゲーの名にかけてな」
「ふむ」
 タイタンはそれを興味ありげに聞いていた。
「そうでなくてはならん、奴はこの私の斧の前に倒れなくてはな」
「では上海はどうするのだ」
 タイタンは彼に問うた。
「中国を滅ぼすのがお主の作戦だろう」
「それはわかっている」
 ドクトル=ゲーは言った。
「上海をまず廃墟にする。その手筈は既に整えている」
「そうか。どうやってするつもりだ」
「それを言ってしまっては面白くないだろう」
「確かに」
「楽しみにしておれ。中国は仮面ラァーーーーイダX3と共に必ずやこの世から消え去る」
「期待しておこう」
 タイタンは素っ気ない声で言った。
「だがあの男もかなり手強いのだろう」
「それはよく知っている」
 ドクトル=ゲーはタイタンに目を向けた。
「私がもっともよく、な」
「ほお」
 タイタンはここで彼の目の色が変わったことを見た。
「デストロンでもそうだったからな。そして」
「シンガポールでも」
「うむ」
 彼はここで頷いた。
「よく知っているな」
「当然だ。俺も伊達に地底王国の主となったわけではない」
 彼は平然とした態度で言葉を返した。
「お主にとってはどれも痛恨の敗北だったな」
「それは認める」
 不本意ではあっても、だ。
「しかしそれも今回で最後だ。この悪魔生霊の力でな」
「生霊か」
 タイタンはそれを聞いて目の色を少し変えた。
「その力、面白そうだな」
「ドイツに伝わる黒魔術の一つだ」
「北欧の神々の力を使ったものか!?」
 ドイツの神々と北欧の神々は同じである。嵐の神ヴォータンや雷の神ドンナー、炎の神ローゲ、ワーグナーの楽劇にも登場する彼等は北欧の凍てついた大地より生まれた。
 金色の髪に青い瞳を持つ彼等はその神々を心の奥に持つ。それは魔女や魔術師達により密かに伝えられていたのだ。
「そうだな。系列ではそうだろう」
「ふむ」
 タイタンはドクトル=ゲーの説明を聞き一応納得した。
「だがそれだけではないだろう」
 それに気付かぬタイタンではない。彼はドクトル=ゲーに対して言った。
「鋭いな」
 ゲーはそれを肯定した。
「よくわかったな」
「わからないと思ったか」
 タイタンの言葉は不敵なものであった。
「俺も黒魔術を使うのでな」
「そうだったな、それもかなりのものと聞いたが」
「そんなに使う機会はないがな。それでも一通りは知っている」
「そうか」
「それでその魔術には何を入れているのだ?」
「聞きたいか?」
「いや」
 タイタンはここで首を横に振った。
「聞いては面白くない。当ててみせよう」
 彼はゲーの魔術を当てることにした。
「そうだな」
 彼は暫し考え込んだ。
「悪魔生霊というが俗にキリスト教でいう悪魔ではないな」
「ふむ」
 ゲーはそれを聞き眉を少し上げた。
「そうだな。黒魔術とは実は悪魔の術ではない」
 そうなのである。実際はゲルマンのルーン文字やケルトのドルイドの術の流れを汲むものが多いのだ。
「巨人族の術だな」
「そうだ」
 ドクトル=ゲーはそれを認めた。
「それも霜の巨人や山の巨人ではない」
 北欧神話において巨人族は人間や神々の宿敵である。だが今タイタンが言った巨人達はそれ程力はない。
「炎の巨人の力か」
 北欧神話において最も怖れられているのは炎の国ムスペルムヘイムに住むこの巨人達だ。彼等は全身が炎に覆われている。そして自分達の国から普段は出ようとしない。その国は全てが炎に包まれ他の世界の住人達は入ることすらできないのだ。
 だが彼等は一度だけ他の世界に姿を現わすと言われている。それは世界が滅亡する時だ。
 神々の黄昏、俗に言うラグナロクである。この時彼等は炎の国を出て神々のいるヴァルハラに攻め込んで来る。そして神々と熾烈な戦いを演じるのだ。
 そして最後に世界に立っているのは彼等の王スルトである。彼はその手に持つ炎の剣レーヴァティンで全ての者が倒れた世界を焼き尽くす。そして炎の世界に戻っていくのだという。
 神々も世界も焼き尽くす恐るべき力を持った彼等のことはあまりよく伝えられていない。表の世界に伝わるにはあまりにもその力が強大なのだ。
「だとしたらどうする」
 彼は不敵な笑みを浮かべた。
「そうか、成程な」
 タイタンはそこに答えを見た。
「流石だな、あの力を使えるとは」
「知るのにかなり苦労したがな」
「確かにあの力をもってすれば仮面ライダーX3を倒すこともできるだろう。しかしな」
「しかし、何だ!?」
 ドクトル=ゲーはここに引っ掛かるものを感じた。
「炎にも弱点はある」
「それはどういうことだ!?」
「俺は全身に炎を持っている」
「それは知っている」
 ゲーは何を言う、と言わんばかりの態度でもって応えた。
「まあ聞け。その俺もかってその炎の力で敗れた。それも二度だ」
「ブラックサタンの時にだな」
「うむ」
「だがあの時は炎の力の関係だったのだろう」
「簡単に言うとそうなるな」
 一回目の戦いでは海に投げ込まれ、その冷却により敗れた。そして二度目はその力の許容量を超えていた為肩の部分を攻撃され、そこからマグマを噴き出して敗れた。
「だが俺が言いたいのはそれではない」
「わからんな」
 ゲーはそれを聞き顔を顰めた。
「お主のその力のことではないのか!?」
「だから落ち着いて聞け」
 タイタンはそんな彼に諭すようにして言った。
「炎の巨人の力にも欠点はあるというのだ」
「それは何だ!?」
「そこまでは俺は知らん。ゲルマンの魔術には詳しくないのでな」
「そうなのか」
 ドクトル=ゲーはそれを聞きいささか拍子抜けした。
「だが完全な魔術なぞない、それに頼り過ぎるな、ということだ」
「それはわかっているが」
「わかっていればいいがな」
 タイタンはそれ以上は言わなかった。
「わかっているならいい。では健闘を祈る」
「礼を言う。長居したな」
「それは構わん。では中国を死の荒野にし、仮面ライダーX3を倒すことを期待するぞ」
「楽しみにしておれ」
 そう言うとドクトル=ゲーは姿を消した。あとには白い煙だけが残った。
「わかっていないだろうな」
 タイタンは彼が姿を完全に消したのを確認して言った。
「だからこそ今まで敗れてきたのだ」
 その声は相変わらず冷徹なものであった。
「どうなるかわからんがあの男も強い」
 X3のことは聞いていた。
「そうそう容易にはいかんだろうな。そして俺も」
 彼はここで立ち上がった。
「奴に言ったことをよく肝に命じておかねばならん、さもないとまた敗れることになる」
 無数の目が光った。
「三度目はない、それは俺のプライドが許さん」
 暗闇の中に無数の赤い光が見える。
 彼もまた闇の中に消えた。そしてあとには何も残っていなかった。



隻眼の軍人   完



                                 2004・8・5


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