『仮面ライダー』
 第四部
 第五章             絶望の運命

 アメリカは実に多彩な顔を持つ国家である。
 フロンティアや摩天楼だけではない。見渡す限りの農園もあれば荒涼とした平原もある。雪に覆われた山々があり湖がある。
 そこにいる人々も雑多である。白人だけではない。黒人やアジア系もいる。ネィティブもいる。まさに人種の坩堝だ。黒人、すなわちアフリカ系アメリカンはかっては南部に多くいた。その文化は今でも南部に色濃く残っている。その中心地がニューオーリンズである。
 この街はルイジアナ州のみならず南部の中心都市の一つでもある。ルイジアナの名が示す通りかってはフランスの植民地であった。
 だがイギリスとの戦争やアメリカの独立等を経てアメリカの領土となった。そこからこの街の新たな歴史がはじまった。
 この街はミシッシピー河の河口にあることから港町として栄えた。外輪船が行き交い、フランス風の建物が立ち並んでいた。やがてこの街を別のものが支配するようになる。
 音楽である。奴隷として連れて来られた黒人達が教会で賛美歌を習い、そこから黒人霊歌が誕生した。
 そしてジャズ、カントリー、ソウル、ゴスペル、ブルース等が誕生した。黒人達はその卓越した音楽センスでもって多くの素晴らしい音楽を生み出していった。
 今ではこの街は工業都市でもある。ヒューストンの石油工業とも繋がり、機械や化学も盛んである。
「こうして見ると色んな顔のある街ですね」
 佐久間は今では観光用となっている外輪船に乗りながら言った。
「繁栄もあれば差別もある、それの克服と栄光もある。貿易もしちえれば工業もある」
「まるでアメリカそのものですね」
 隣にいた沖がそれに合わせるように言った。
「アメリカにいた時にここにも何度か来たことがあります」
「そうだったのですか」
「はい。それで結構色んなことがありましたね」
 彼は微笑んで言った。
「タチの悪い男にからまれたこともありますよ。何でもクー=クラックス=クランとか言って」
「本当ですか!?」
 アメリカ南部を中心に活動する白人至上主義を旗印とする狂信的な団体である。真っ白な服と独特のフードを被っていることで知られている。
 彼等の主張はかなり極端である。標的はアフリカ系だけではない。ユダヤ系やアジア系、ヒスパニックやアイルランド系、イタリア系等のカトリックにも向けられる。先鋭的なプロテスタントでもあるのだ。
 その為実際には敵も多い。その野蛮な行動の為多くの者の嫌悪も買っている。
 かってクランの幹部だった男が政界に名乗り出たことがあった。そのまま白人至上主義を唱えていた。
 結果は無様なものであった。殆ど票が入らなかった。ことあるごとに反対のデモが起き、所属している政党から締め出しを受けるという有り様であった。
 所詮そうした詰まらない連中である。差別を謳い蛮行を繰り返すだけが脳の輩共だ。何故顔を隠すのか。それは自らの行いが人間として最低なものであることをあらわしているに他ならない。
「それでどうなりました」
「どうもなりませんよ」
 沖は涼しい顔で言った。
「返り討ちにしてやりましたよ」
「大丈夫だったんですか!?」
 クランの報復を危惧しての発言だった。
「何、単なるチンピラだったようです。酒に酔ってからんできただけだったようで」
「それはよかった」
 佐久間はそれを聞きホッと胸を撫で下ろした。
「別に何ともありませんよ」
 沖は何でもなかったように答えた。
「例えそいつがクランでも」
「クランでも」
「そんな奴は許せません。差別を言い立て他の者を暴力で屈服させるなぞバダンと同じですから」
「そうですね」
 佐久間はそれに頷いた。そしてあることに気付いた。
(俺達も心の中の何処かにバダンがあるのかな)
 と。これはある意味で事実だろう。人は良心だけではないのだ。中には邪悪な心も持っている。それが不完全な存在である人間なのだ。
(そしてこの人はライダーになるべくしてなった)
 沖の今の話を聞いてそれを確信した。
(正義感と悪を排除しようとする心、それがなくてはライダーにはなれない)
 人々を守る為にその拳を血に染めるライダー、その心は常に正義を愛する心と悪と戦う心がなくてはならないのである。
「船から降りたらどうします?」
 沖はその話を打ち切って佐久間に話し掛けてきた。
「降りてからですか?」
「はい。そろそろ食事時ですが」
 見ればもうすぐ正午である。
「そうですね」
 佐久間は少し考えてから答えた。
「音楽を聴きながら食べるのもいいですね」
「それならいいお店を知っていますよ」
 沖は微笑んで言った。
「ハンバーガーのお店でして。他にも色々な料理がありますよ」
「それはよさそうですね」
 アメリカの特色のひとつだがニューオーリンズも多くの人々がいる。だから食べられる料理も多岐に渡るのだ。
「歌手はかなりいいのが揃っていますよ。ジャズですけれど」
「ジャズですか」
 ニューオーリンズからはじまったアメリカの誇る音楽文化の一つである。
「ジャズはお好きですか?」
「はい」
「なら問題ありませんね」
 こうして二人はその店へ向かった。そして料理と音楽を楽しみに行った。

「そうか、あの男が来たか」
 メガール将軍はニューオーリンズの後方に広がる広大な沼沢地の中にある基地の中でその報告を聞いていた。
「やはりな。すぐに来ると思っていた」
 それは彼にとって予定されたことであった。
「どうなさいますか」
「既に考えてある」
 将軍は戦闘員の言葉にすぐ答えた。
「この時が必ず来るとわかっていたからな」
 彼は思わせぶりにそう言った。
「左様ですか」
「うむ。既に戦力も整えてある」
 彼は戦闘員に顔を向けた。
「私のやり方は知っているな」
「はい」
「ならば良い。既に刺客を送り込んである」
「刺客をですか」
「うむ。だがそれはほんの挨拶だ」
 彼はニコリともせず言葉を続ける。
 いつものように硬い表情である。彼はその顔を変えることはない。
「その者達にはすぐに帰るように言ってある。形勢が不利になったならな」
「何故ですか」
「あの男を倒すのは誰だ」
「それは・・・・・・」
 戦闘員は問われ少し口篭もった。
「私以外にはおらん」
 彼は答えられないのはわかっていた。だから自分で言った。
「それが運命なのだ。私のな」
 彼の声は沈んだものになっていた。
「私のこの身体とスーパー1のあの身体」
 恨めしそうに言った。
「同じものであった筈なのだ」
 顔を少し上に上げた。
「それが何故こうなったのか」
 暗い表情がさらに暗くなった。
「悔やんでもはじまらないがそう思わずにはいられない」
 顔を下に向けた。
「だがそうした思いもここで断ち切らねばならない」
 彼はそう言うと再び戦闘員に顔を向けた。
「よいな、あの男を倒し、このアメリカを消し去る」
「はい」
 戦闘員はその言葉に対し敬礼した。
「その為に私は選りすぐりの精鋭達を連れて来た」
「といいますと」
「見よ」
 将軍は右を指差した。そこにあったシャッターが開いた。
「おお」
 それを見た戦闘員は思わず声をあげた。
「この者達が全てを成し遂げるであろう」
「流石です、将軍」
 彼はメガール将軍にバダン設立当初から属していた。その為彼に対する忠誠心も篤かった。
「用意はいいな」
 将軍はそれをよそにシャッターの向こうにいる者達に語り掛けた。
「はい」
 彼等は一様に頷いた。
「よし。ならば早速作戦に取り掛かるぞ」
「わかっております」
 彼等はシャッターから出て来た。全部で五人いた。
「久しいな」
「地獄谷以来ですから」
 彼等は全部で五人いた。その中央にいる忍者に似た服の女が答えた。
「そうだったな。思えばあの時からかなり経つ」
「はい」
 五人は深々と頭を垂れた。
「堅苦しいことはいい。今はそういう時ではない」
 だが将軍は彼等に顔を上げさせた。
「あれの用意もいいな」
「万事整っております」
 五人の中にいるスキンヘッドの大男が答えた。
「そうか」
「何時でも出撃はできます」
 細い目の男が言った。
「ではすぐにでも行こう」
 メガール将軍はシャッターの方へ歩きだした。
「お待ち下さい」
 頭に布を着けた男が彼を引き留めた。
「我々もお供致します」
 虎の毛を着た男も言った。
「よいのか」
 将軍は彼等に顔を向けた。
「この戦いは生きて帰れる保証はないぞ」
「それがバダンの戦い」
 五人はそれに対して言った。
「我等とてそれは承知しております」
「そうか」
 将軍の顔は変わらなかった。だが声は変わっていた。
「是非ともお供を。そしてスーパー1を共に倒しましょうぞ」
「そなた達には別の作戦を執ってもらいたかったのだが」
「それは問題ない」
 ここで後ろから声がした。
「お主は」
 見ればそこに死神博士がいた。
「スペインにいた筈ではなかったのか」
「興味深い話を聞いたのでな」
 彼は科学者特有の冷徹な目でメガール将軍を見た。
「興味深い話?」
「そうだ。お主が使っている機械だ」
「あれか」
「そうだ。一度見たいと思ってな」
 彼はそれ以上は語らなかった。
「よいか」
「どうせ断っても無理に見るつもりであろう。構わん」
「ふふふ、恩に着る」
 彼は前に出た。そして将軍と共にシャッターの向こうの通路を進んだ。
「聞いたところによると古代中国の破壊兵器だそうだな」
「うむ。マタギの里である山彦村に隠されていた」
「その経緯は知っている。それにしてもよく残っていたものだ」
「だから我等も利用したのだ。一度はスーパー1に破壊されたがな」
 後ろにはあの五人が続く。戦闘員達もだ。
 やがて格納庫に辿り着いた。
「ここだ」
 将軍は扉を開けた。
「済まんな」
 死神博士はその扉をくぐった。そして将軍と五人が続く。戦闘員の最後の一人が閉めた。
 中には一機だけ置かれていた。龍の首を持つ巨大な円盤だ。
「ほう」
 博士はそれを見てまず声をあげた。
「見事なものだな」
「お主もそう思うか」
「うむ。これだとこのニューオーリンズは楽に破壊できる。だが」
「だが!?」
「アメリカ全土を瞬時となると難しいな」
「そうか」
 将軍はそれを聞き目を少し暗くさせた。
「時空破断システムを搭載していないな」
「わかるか。装填には成功していない。思ったより扱いにくくてな」
「そうか。では力を貸してやろうか」
「力を!?」
「そうだ。ことと次第によってはお主の作戦もかなり変わるぞ」 
 実は彼はこれに乗りスーパー1ごとニューオーリンズを焼き払うつもりだったのだ。
 当然スーパー1はここに乗り込んでくるだろう。その時はこの兵器ごと自爆するつもりであった。五人には別に作戦を執ってもらい、後を託すつもりだったのだ。
「まずはこれに時空破断システムを搭載する。そして無人飛行が可能なようにする」
「そんなことができるのか」
「私を誰だと思っている」
 死神博士は自信に満ちた声で言った。
「死神博士だぞ」
 それだけで充分であった。彼の名はバダンにおいては権威そのものであった。
「そうか、ではやれるのだな」
「当然だ」
 死神博士は不敵に笑った。薄い唇に自信が満ちる。
「ではとくと見せてやろう。我が技術の粋をな」
 それから数日死神博士は格納庫から出て来なかった。他の者の立ち入りは一切許されなかった。
「恐るべきプロフェッショナルの意識ですね」
 指令室で戦闘員の一人がメガール将軍に対して言った。
「うむ。伊達にショッカーで最高の頭脳と謳われたわけではない」
 将軍も彼には一目置いていた。
「いいか、決して邪魔はするなよ」
 そして周りの部下達にこう言った。
「死神博士は誇り高い。もしそんなことをすれば・・・・・・。わかっているな」
「はい」
 彼等はそれを聞き顔を一瞬青くさせた。死神博士は冷酷非情なことでも知られているからだ。
 誰も格納庫には近寄ろうとしなかった。そしてそこからまた数日が経った。
「終わったぞ」
 死神博士が指令室にやって来た。その顔は格納庫に篭る前と何ら変わってはいなかった。だが表情は自信に満ちたものであった。
「そうか」
 将軍はそれを聞き頷いた。
「では見せてもらおう」
「うむ、とくと見るがいい」
 今度は死神博士が案内した。そして二人は格納庫へ向かった。
「これだ」
 そして博士は基地の中の火の車を指差した。
 見たところ外見には何羅変わったところはない。
「外見ではない、見るところは」
 博士は将軍の次の言葉を見透かしたように言った。
「念じてみよ。飛べと」
「うむ」
 将軍は死神博士に言われ試しに念じてみた。
 すると火の車が宙に浮いた。
「おお」
 将軍はそれを見て思わず声をあげた。
「それでKではない。撃てと念じてみよ」
 言われるままに念じてみた。すると竜の目から黒い光が放たれた。
「時空破断システムを竜の目においたのだ。どうだ、いいだろう」
「うむ、まさかこれ程までのものにしてくれるとは」
 将軍は満足したように言った。
「これなら文句はあるまい」
 博士はやはり自信に満ちた笑みを浮かべた。
「それどころではない。有り難く礼を言わせてもらう」
「礼はいい。当然のことだからな」
 彼にとっては開発も改造も自然なことであった。息を吸うようなものである。
「わしの望みは一つだ。これでアメリカを、スーパー1を倒すがいい」
「わかった」
 将軍は頷いた。
「喜んで使わせてもらおう」
「それでいい。では健闘を期待するぞ」
「うむ」
 死神博士は踵を返した。そして格納庫から姿を消した。
 将軍は暫く格納庫に残っていた。そして火の車のテストを繰り返していた。
「将軍」
 そこにあの五人がやって来た。
「御前達か」 
 彼は五人に顔を向けた。
「見よ、これが死神博士の改造した火の車だ」
 彼はそれを指差して言った。
「私の意のままに動く。これ程までのものを作るとはな。流石だと思わんか」
「その死神博士ですが」
 見れば彼等は険しい顔をしている。
「言いたいことはわかっている」
 将軍は落ち着いた顔で頷いた。
「はい、死神博士といえば」
 狡猾な一面もあったのだ。だからこそショッカーにおいて大幹部として君臨することができたのだ。
「それはわかっている。だがもしそうならばこちらにもやり方がある」
「といいますと」
「簡単なことだ。これを使わなければよい」
 メガール将軍は素っ気ない声で言った。
「そういう顔をする必要はない」
 将軍は五人が表情をさっと暗くさせたのを見て宥めた。
「それはそれでもう考えてある。当然死神博士もそれはわかっているだろう」
「それはそうですが」
 よく考えてみればあの死神博士がそこまで頭が回らないとはとても思えなかった。
「だがこれで二正面作戦を展開することが可能になったな。我々tこの火の車とでだ」
「はい」
「では作戦会議に移ろう」
 メガール将軍は五人に対して言った。
「今後のスーパー1及びアメリカをどうするかについてな」
「わかりました」
 こうして将軍と五人は指令室に戻った。見ればモニターがついたままである。
「来たか」
 そこには死神博士がいた。彼は将軍達に顔を向けた。
「丁度いいものが行われているぞ」
「いいもの?」
「見るがいい」
 死神博士はその手に持つ鞭でモニターを指し示した。見ればそこにはスーパー1が映っていた。
 彼だけではない。他にもいた。
「ム」
 見ればバダンの戦闘員達である。
 スーパー1は彼等と戦っている。街は言うまでもなかった。
「これはどういうことだ」
 メガール将軍は死神博士に問うた。
「お主に見せたいものがあってな」
 彼は不敵な笑みを浮かべていた。
「私にか」
「そうだ。スーパー1が改造手術を受けているのは知っているな」
「無論だ。全てのライダーが受けていることをな」
 それはメガール将軍も知っていることであった。
「だがその戦闘までは見ていないだろう」
「残念だが。スーパー1は東南アジアにいたのでな。私は北欧だった」
「それは仕方ないな。だが一度その目で見ていた方がいい」
「うむ」
 スーパー1はその拳法でもって戦闘員達を次々と倒していた。
「また腕を上げているな」
 将軍はそれを見て言った。
「単に改造のせいだけではない。腕自体もかなり上達している」
 スーパー1は赤心少林拳の使い手である。
「そして」
 将軍の目はそこに留まらなかった。
「格闘スタイルはそれ程変わりはないようだな」
「そうか」
 死神博士は拳法にはあまり興味がない。
「やはり守り主体か。ならばそこに攻め方がある」
「見出したようだな」
「うむ。私もまた拳法を使うからな」
 ドグマの帝王テラーマクロから直伝されたものである。
「ではそれを使うのだな」
「うむ。だが」
 将軍はここで考える顔をした。
「当然工夫はしていくつもりだ」
「そうであろうな」
 死神博士にもそれはわかった。
「だがそれはお主自身で考えることだ。私の管轄外だ」
「わかっている」
 将軍は頷いた。
「見ているがいい。私がどう戦い、どう勝つのかをな」
「楽しみにしておこう」
 博士は唇の端だけで笑った。
「では私はこれで失礼させてもらう。こちらもそろそろ作戦の準備があるのでな」
「確かセビーリャだったな」
「うむ、よい街だ」
 スペイン南部の港町だ。死神博士の出身地でもある。
「そこから欧州の地獄がはじまる。ダンテの神曲のようなな」
「また古い作品を出すな」
「地獄を描いた作品としては最もよい。まさにあれこそ地獄だ」
 彼等は復活するまでその地獄にいた。だからこそよくわかるのだ。
「地獄はいい。実に快適だった。そして」
 彼の目が妖しく光った。
「この世にそれを復活させればそれこそ我がバダンの理想郷となる」
「それは同意する」
 メガール将軍にとってこの世界は破壊されなければならないものである。
「だが私はそれよりもまず為さねばならないことがある」
「それがあの男との戦いだな」
「そうだ」
「思う存分やるがいい。ではな」
「うむ」
 こうして死神博士は姿を消した。そして後には何も残らなかった。
「行ったか」
 将軍は彼が姿を消すのを見届けた。
「では我々も行くぞ」
「はい」
 五人は同時に頷いた。
「仮面ライダースーパー1よ」
 彼は暗い目で呟いた。
「今度こそ貴様との決着をつける」
 そして五人に顔を向けた。
「よいな。その為にはそなた達の力が必要だ」
「わかっております」
 五人はその言葉に頷いた。
「我等の命はメガール将軍に預けます」
「すまん」
 メガール将軍は頷いた。そして言った。
「行くぞ、仮面ライダースーパー1を倒しに!」
「ハッ!」
 五人だけではなかった。戦闘員達も続いた。彼等はメガール将軍を先頭に基地から出撃していった。

 戦闘員達との戦いを終えた沖と佐久間はニューオーリンズの郊外にいた。
「街から少し行くと沼地ばかりですね」
「ええ。ですから結構蚊も多いんですよ」
 沖が答えた。
「ミシシッピー河の河口にありますからね。どうしても水気が多くなってしまうんです」
「そうなのですか。南部にはあまり来たことがないですからそれは知りませんでした」
「佐久間さんは主にニューヨークや五大湖近辺で活動されたんですよね」
「はい。あちらはここよりはずっと乾燥していますね」
 ニューヨークとニューオーリンズでは気候にかなりの違いがある。ニューヨークは西岸海洋性気候だがニューオーリンズは亜熱帯に近い。すぐ前にはカリブ海が広がっている。
「五大湖にしろ寒い位ですからね」
「そうでしょうね。しかしアメリカは広い」
「こうした街もあるということですね」
「はい。アメリカは多くの顔を持つ国です。このニューオーリンズにしろそうです」
「隣にはテキサスもありますね」
 西部劇での有名な舞台である。
「テキサスもまたアメリカです。シカゴもニューヨークもまたアメリカです」
「面白い国ですね。様々な顔がある」
 役はあらためてそれを知った。
「これでバダンさえいなければ」
 佐久間は少し苦笑させた。先の小競り合いを思い出したのだ。
「ですが見逃すわけにはいかない」
 沖はここで険しい顔を作った。
「バダンを倒すことこそが俺達の使命なのですから」
「わかってますよ」
 佐久間は答えた。
「世界を守ることがライダーの役目。そしてその為には」
「全てを賭けます」
 その顔は引き締まっていた。強い決意が見られた。
「俺がライダーとして生まれ変わったその日からそれは決まっていたことです。いや」
 彼はここで言葉を訂正した。
「俺がこの世に生まれた時からそれは決まっていたのかも知れません」
「運命ですか」
「はい」
 佐久間は頷いた。
「人の一生はおそらく生まれる前から決まっているんだと思います。その人が何をするのか」
「そして貴方はライダーになる運命だったと」
「ええ。ならば俺はその運命に喜んで従います。ライダーとして」
 彼もまた強い決意を胸に持っていた。佐久間は彼にもライダーとは何であるかを感じ取っていた。
「だからこそ」 
 彼はここで街の方を振り向いた。
「絶対に守り抜きます。この世界を」
「はい」
 佐久間もそれに頷いた。その時だった。
「運命か」
 後ろから声がした。
「出たな」
 沖と役は素早く向き直った。
「久方ぶりだな。沖一也よ」
 そこにはメガール将軍が立っていた。あの五人と戦闘員達も一緒である。
「奇巖山以来だな」
「そうだな」
 彼はあの時のバダンとの対峙を脳裏に思い出した。
「メガール将軍よ」
 彼はすぐに構えをとった。赤心少林拳の構えである。
「貴様がここに来た理由はわかっている」
「そうか」
 彼はゆっくりと前に出た。
「お待ち下さい」
 だが後ろに控えていた五人が彼の前に出た。
「ここは我等にお任せを」
 彼等はそう言って将軍を制止した。
「よいか」
 将軍は彼等を一瞥して問うた。
「はい」
 五人は胸のところで左手に拳を作り右手の平でそれを包んで答えた。
「ならば見せてもらおう。そなた達の戦いを」
「有り難うございます」
 五人は頭を垂れた。そして沖と佐久間に向かい合った。
「沖一也よ」
 五人の中心にいる黒服の女が彼に問うた。
「我等のことは覚えているな」
「無論だ」
 沖は構えを保ったまま答えた。
「地獄谷五人衆、忘れる筈がない」
「ならばよい」
 五人はここで左右に散った。
「鷹爪火見子」
 黒服の女が名乗った。
「蛇塚蛭夫」
 細目の男が続いた。
「熊嵐大五郎」
 スキンヘッドの大男が。
「大虎竜太郎」
 虎の毛を羽織った男も。
「象丸一心斎」
 最後に頭に布を巻いた男が。五人はそれぞれの名を名乗り終えると構えをとった。
「ムン!」
 掛け声と共にその全身を気で覆った。するとそれぞれその身体が変わっていった。
 まずは鷹爪の身体が紅くなる。翼が生え爪と嘴が生える。
「サタンホーク!」
 蛇塚の身体が緑色になる。そして顔が蛇のそれになる。
 身体に蛇が巻きつき左手も蛇に変化する。
「ヘビンダー!」
 熊嵐の額に金属の三日月が出る。鬣と鉄の身体が全身を覆う。
 そしてその左腕は鉄球になる。
「ストロングベア!」
 大虎の身体はその身に着けている虎の毛皮と同化していく。
 爪が生えた。そして牙も生え揃った。
「クレイジータイガー!」
 象丸の右手に巨大なバズーカが現われる。その身体も青灰色になる。
 牙が生え目が赤くなった。
「ゾゾンガー!」
 彼等はそれぞれ怪人に身体を変えた。そして沖を取り囲んだ。
「覚悟はいいか、沖一也!」
 サタンホークが彼の前に出て問うた。
「せめて苦しまぬよう一撃で倒してやる!」
 そう言うと両手の爪で引き裂かんとした。だが沖はそれを上に跳びかわした。
「無駄だっ!」
 だがそこにゾゾンガーが砲撃を仕掛けた。右手に持つバズーカを使ったのだ。
「沖さん!」
 佐久間が思わず叫んだ。沖は爆風の中に呑み込まれたかに見えた。
 だがそれはそう見えただけであった。彼はその中からすぐに出て来た。
「トォッ!」
 その時には姿は変わっていた。スーパー1に変身していたのだ。
「変身したか、やはりな」
 後方から戦いを見守るメガール将軍はそれを見て呟いた。
「油断するな」
 将軍は五人に対して言った。
「スーパー1の力は知っていよう。気を抜いてはならんぞ」
「ハッ」
 五人はそれに対し振り向くことなく頷いた。顔はスーパー1から離さない。
 スーパー1は五人の輪の中に着地した。そして構えをとっている。
 佐久間は既に戦闘員達と戦っている。そしてスーパー1の戦いもはじまった。
「行くぞっ!」
 まずはサタンホークが跳び掛かって来た。その爪で再び切り裂かんとする。
「二度も同じ手にっ!」
 だがスーパー1はそれを巧みにかわした。足捌きだけで、である。
 しかしそこにヘビンダーがやって来た。
「サタンホーク、助太刀するぞ」
「済まない」
 サタンホークは右に、ヘビンダーは左に展開した。
「ふふふふふ」
 ヘビンダーは無気味な笑い声を漏らした。そしてその左手を伸ばしてきた。
「甘いっ!」
 しかしスーパー1はそれもかわした。だがそこに鉄球が襲い掛かって来た。
「ムンッ!」
 それは蹴りで弾き返した。パワーハンドに換える暇はなかった。
「よくぞ今のを防いだ」
 そこにはストロングベアがいた。
「だがこれはどうかな」
 間合いを離す。そして胸のブーメランを取り外した。
「死ねっ!」
 そのブーメランをスーパー1めがけ投げつけた。しかしスーパー1は既にレーダーハンドに腕を換えていた。
「させん!」
 そして右手からミサイルを放った。それでブーメランを撃ち落とした。
 しかし息をつく暇はなかった。そこに槍が襲い掛かって来た。
 今度はクレイジータイガーの槍だった。怪人はそれを手足のように使っている。
「俺もいるということを忘れるな」
「クッ」
 他の三体の怪人もスーパー1を取り囲もうとする。ゾゾンガーは離れた場所で他の四人を援護しようとバズーカを構えている。
「さあ、どうする、スーパー1よ」
 メガール将軍はスーパー1を見据えて言った。
「山彦村の時は各個撃破されたが今度はそうはいかんぞ」
「そのようだな」
 スーパー1は五体の怪人に囲まれながらもいささかも怯んではいなかった。恐怖なぞ何処にもなかった。
「今度はあの時のようにはいかんぞ。それを今教えてやろう」
「それはどうかな」
 しかしスーパー1はまだ諦めてはいなかった。
「こうした時の戦い方もあるということを見せてやる」
「そうか」
 何かあるな、メガール将軍はすぐにそれを悟った。
 だがそれに対処するつもりはなかった。ここは様子を見ることにした。
(この五人さえ無事ならそれでいい)
 彼はそう考えていた。いざという時は自分が出る筈だった。
「待て、スーパー1」
 将軍とスーパー1の会話を遮る様にクレイジータイガーが出て来た。
「今の貴様の相手は我等だ。まずは我等の相手をしてもらおうか」
「望むところだ」
 スーパー1はそれを受けた。腕をすぐに換えた。
「チェーーーーンジ、エレキハァーーーーーンドッ!」
「エレキハンドか」
 メガール将軍は彼が換えた青い手を冷静な様子で見ていた。
「それをどうするつもりだ」
 表情を一切変えない。ただスーパー1を見ている。
「さあ来いっ!」
 そして怪人達を挑発する様に言った。
「言われなくとも!」
 怪人達はそれに対しスーパー1の言葉が終わらぬうちに一斉に進み出た。その瞬間に隙が生じた。
「よし、今だ!」
 スーパー1はその隙を見逃さなかった。すぐにその青い拳を地面に撃ち付けた。
「エレクトロサンダーーーーーーーッ!」
 地面に電流を放った。ストロンガーが得意とするあの技だ。
「ウオオッ!」
 これには怪人達も思いもよらなかった。全身を電流に覆われもがき苦しむ。
「そうか、広範囲に電流を放ち対処したのか」

 メガール将軍もこれには考えが及ばなかった。
「流石と言うべきか」
 しかしスーパー1の攻撃はこれで終わらなかった。
「チェーーーーンジ、冷熱ハァーーーーーンドッ!」
 緑の腕に換えた。そしてそれで下を凍らせた。そしてすぐにまた腕を換えた。
「チェーーーーンジ、パワーハァーーーーンドッ!」
 今度は赤い腕だ。それで凍りついた大地を渾身の力で打つ。
 凍てついた大地に亀裂が走った。凍った泥地はこれで地震の様に亀裂が走った。
 そしてまだ冷熱ハンドに換える。その亀裂に炎を走らせる。
 それで大地は再び溶けた。そして怪人達はその泥の中に沈んでいく。
 スーパー1は再びエレキハンドに換装した。目にも止まらぬ速さだ。
「腕の換装にも時間をかけなくなっているな」
 メガール将軍はそれを見て呟いた。
 スーパー1は再び電流を大地に走らせた。電流が今度は半身を泥の中に埋めている怪人達に襲い掛かった。
「グググ・・・・・・」
 これには流石に大きなダメージを受けた。怪人達は何とか泥から這い出ても立っているだけでやっとだった。
「どうだ、この攻撃は」
 スーパー1は重力をコントロールさせて泥の上に立っていた。彼ならではの能力であった。
「フム、見事だったと褒めてやろう」
 メガール将軍はそう言いながら前に出て来た。
「だがそれ位にしてもらおうか。この者達は私の腹心なのでな」
「戯れ言を」
 スーパー1は将軍を見据えて言った。
「メガール将軍よ」
 そして今度は彼に正対した。
「ならば貴様が相手になるというのか」
「それも悪くはない」
 将軍は平然とした態度で言った。
「来るか」
 スーパー1はそれを聞き身構えた。
「血気にはやるな。今は貴様と闘うつもりはない」
「ではどうするつもりだ」
「貴様に見せたいものがある」
「見せたいもの!?」
「そうだ。見るがいい」
 将軍は悠然と言った。右手をゆっくりと上げる。すると空に何かが姿を現わした。
「あれは」
 スーパー1は空に姿を現わしたそれを見て思わず息を呑んだ。
「懐かしいであろう」
 将軍はスーパー1を見たまま言った。
「火の車、あれまで復活していたのか」
「そうだ、全ては貴様とこのアメリカを滅ぼす為にだ」
「できるものか」
 だがスーパー1は厳然とした態度で言い返した。
「確かに前に火の車ならできなかっただろう」
 将軍は言った。
「だがこの火の車は違う」
 そう言うと上を飛ぶ火の車をチラリ、と見た。
「見るがいい、新たな力を」
 そして右手を再び上げた。
「やれ」
 右手を下ろした。すると火の車の龍の目に黒い光が宿った。
「あれは!」
「何だあれは・・・・・・!」
 その時スーパー1の隣に佐久間が来た。彼も戦闘員達との戦いを終えていたのだ。
「これは流石に知らないようだな」
 将軍はそれを見て呟いた。
「ではとくと見ておくがいい。我がバダンの新たな力をな」
 両眼からその黒い光が放たれた。それは大地を撃った。
「ムッ!」
 沖と佐久間はそれを見て思わず叫んだ。
 二条の黒い光が大地を撃った。するとその一帯が瞬く間に消え去った。
「何だ今のは」
 二人はそれを見て呆然となった。
「驚いたようだな」
 メガール将軍はそれを見て言った。
「これが我がバダンの時空破断システムだ」
「時空破断システム!?」
「そうだ。暗黒の力を使った究極の兵器だ。全てを抹殺する、な」
 彼は冷然とした態度をそのままにして言った。
「スーパー1よ、今この場でこの黒い光を貴様に放ってもよい。だが」
 将軍はここでスーパー1を睨んだ。暗い光が宿っていた。
「貴様を倒すのはこの私の拳以外にない。だから今日はこれで退こう」
「クッ・・・・・・」
 スーパー1は歯噛みした。
「また近いうちに会おう。ニューオーリンズでな」
 将軍の声は相変わらず冷然としたものである。
 背を向けた。ようやく立ち上がった五人がそれに続く。
「その時が貴様の最後だ。それまで腕を磨いておくがいい」
 そして彼等は姿を消した。火の車も何処かへ消えていった。
「スーパー1」
 佐久間が彼に声をかけた。心配そうな顔をしている。
「大丈夫です」
 だがスーパー1はそんな彼を逆に励ますような声を出した。
「火の車も地獄谷五人衆もメガール将軍も必ず俺が倒します」
 その声は力強いものであった。
「だから・・・・・・悲観してはいけません」
「はい」
 佐久間はその言葉を聞いて頷いた。
「諦めてもいけません。諦めたらそれで終わりですから」
「そうですね」
 彼はまた沖の、スーパー1の強さを知った。そして二人は新たな戦いに備え気を張るのであった。

「とりあえずはこれでいい」
 基地に戻ったメガール将軍は言った。
「そなた達もご苦労であったな」
 そして側に控える五人に対して声をかけた。
「いえ、我々は」
 だが五人はその言葉に謙遜した。
「スーパー1に遅れをとりましたし」
「それはよい」
 将軍はそれを宥めた。
「むしろそれを経験に生かしてもらいたい。次の戦いがあるからな」
「わかりました」
 五人はそれを聞き頭を垂れた。
「そなた達は十二分によくやってくれている。このメガール、謹んで礼を言うぞ」
「勿体なきお言葉」
 彼は部下を粗末にするような男ではなかった。ましてや彼等は自分自身が鍛えた者達である。愛情も持っていた。
「今はゆっくりと休むがいい。そして次の戦いに備えよ」
「ハッ」
 五人は下がった。そしてメガール将軍は一人になった。
「仮面ライダースーパー1」
 彼はスーパー1の名を呟いた。
「貴様は確かに美しい。だがそれ故に憎かった」
 かってドグマにいた時のことを思い出していた。
「私もあの姿になる筈だった。しかし」
 改造手術の技術が未熟であった為彼は醜い姿になってしまったのだ。
 それに悲観した彼は研究所から去った。そして一人命を絶とうとしていた。
 その彼を救ったのがテラーマクロであった。彼はそんな将軍に声をかけドグマに誘ったのだ。
「あの時は本当に救われたと思った」
 彼はドグマの大幹部の一人となった。そして他の四人の大幹部や最高幹部であった悪魔元帥と共にテラーマクロの下で暗躍した。
 しかしやがてテラーマクロと悪魔元帥が対立する。二人は性が合わなかったのだ。
 悪魔元帥はドグマから出ることになった。他の四人は彼についた。
「お主はどうするのだ?」
 五人は組織を出る時メガール将軍に尋ねた。彼はドグマに残ることにした。
「テラーマクロには命を救って頂いた」
 彼はその時に言った。
「そうか」
 五人はそれを聞くと静かに頷いた。そしてそれ以上は誘おうとしなかった。
「ならばお主の好きにするがいい。我等はそれを止めることはせん。そしてお主には危害は加えん」
「すまない」
「だがな」
 悪魔元帥はここで言った。
「お主はあまりにも自分の過去を気にし過ぎる。仕方のないことだが」
「・・・・・・・・・」
 将軍はそれには答えなかった。
「それを忘れることも必要だ。そうでなければ何時かそれに押し潰される」
 彼はそう言うとドグマをあとにした。そしてそれが彼と悪魔元帥の最後の会合であった。
「悪魔元帥の言ったことは正しかった」
 彼はまた呟いた。
「私は己の醜い姿を呪い過ぎた」
 それを悔やむのであった。
 彼はドグマ怪人の墓場にてスーパー1との決戦に挑んだ。そして奥沢正人としての過去の姿を知らされた。
 だが彼はそれでもスーパー1と闘った。婚約者の命まで奪って。そしてメガール将軍として死んだ。
「私はメガール将軍だ」
 彼は一人呟き続ける。
「奥沢正人ではない」
 それが今の彼の全てだった。
「バダンの大幹部、それ以外の何者でもないのだ」
 そして席を立った。
「スーパー1を倒す。バダンとして」
 モニターをつける。そこにはスーパー1が映っていた。
「覚悟するがいい。貴様は私が必ず倒す」
 そして拳を前に掲げた。
「この手でな」
 そう言うとその場を去った。あとには闇だけが残っていた。

 沖と佐久間はメガール将軍との対峙のあとニューオーリンズを回っていた。
「必ずバダンは来る」
 そう確信していた。
 二人はフレンチクォーターに来ていた。ここはかってフランスの植民地時代市街地であった場所だ。
 彼等はそこを調べていた。バダンがテロを仕掛けて来るのではと危惧しているのだ。
「メガール将軍はあまりテロは好まないですが」
 沖は彼の性格はよく知っていた。
「だがもしもの場合もあります。他の者が来ている可能性も否定できない」
「それはありますね」
 佐久間は彼の言葉に頷いた。
「バダンは複数の大幹部が一つのエリアで作戦行動を執ることも多い。テキサスでも重慶でもそうだった」
 沖はそれまでの戦いを思い出しながら言った。
「磁石団長や魔神提督も一緒にいた。魔女参謀と幽霊博士も同時に来た」
「やはりそれだけの戦力があるということなのでしょうね」
「そうですね。今までの組織でもこれだけのものはなかった」
 沖は真剣な表情で答えた。
「今までこれだけの怪人達を一度に相手にしたことはありません」
「はい、そして今度は時空破断システムという未知の兵器まで使用してきています」
「怖ろしい奴等です、一体どれ程の力があるというのか」
 彼は己の力を過信してはいなかった。冷静にバダンの力を見極めていた。
 そこに何者かが姿を現わした。そして沖と佐久間を取り囲む。
「何奴っ!」
 二人はそれに対して素早く身構える。
「そこにいたか、二人共」
 そこに蛇塚と象丸が姿を現わした。
「くっつ、貴様等は!」
「探したぞ、今度こそ息の根を止めてやる」
 大虎と鷹爪も出て来た。
「熊嵐は」
 象丸は鷹爪に問うた。
「もうすぐ来るわ、心配しないで」
「そうか」
 他の三人はそれを聞き頷いた。
「ならば暫し我等四人で沖一也の相手をしよう」
 そして戦闘員達と共に沖と佐久間を取り囲んだ。
「行くぞ!」
 そして沖に一斉に襲い掛かった。
「来たか!」
 沖もそれに立ち向かった。そして四人と拳を交えた。
「我等の力が怪人の時だけだと思ったら大間違いだ!」
 彼等は銘々独自の構えをとり沖に立ち向かって来た。
「これを受けてみよ!」
 熊嵐は激しい動きで襲い掛かって来た。
「ムッ!」
 沖はそれを受け止めた。そこに蛇塚が来る。
「シューーーーーーーッ!」
 腕を蛇の様にしならせる。そしてその腕を鎌首の様にして襲って来た。
 だが沖はそれを屈んでかわした。しかしそこに大虎の足払いがくる。
「甘いわっ!」
 それはまるで竜巻の様であった。沖はそれを自らも足払いをかけることで相殺させた。
 沖は跳んだ。態勢を立て直す為だ。だがそこに鷹爪が跳び掛かってきた。
「そうそう逃げられると思わないことだ!」
 その爪で切り裂かんとする。沖はそれを後ろに身を捻ってかわした。
 すんでのところで着地する。そこに新たな男が来た。
「待たせたな!」
「象丸!」
 象丸はその拳で沖の顔を砕かんとする。だが沖はそれを両手で防いだ。
「やるな」
 拳を受けられた象丸は思わず笑みを漏らした。
「流石は赤心少林拳の最後の継承者だけのことはある」
 赤心少林拳、既にテラーマクロにより壊滅させられていた。沖はその最後の奥儀伝承者であった。
「生憎だが俺は負けるわけにはいかない」
 沖は象丸から身を離し彼等と間合いをとって言った。
「貴様等を全て倒すまではな。さあ、来い」
「残念だがそれはない」
 彼等は沖を睨みつけたまま言った。
「貴様は今からこのニューオーリンズと運命を共にするからだ」
「何!?」
「見るがいい」 
 五人は上を指差した。すると空から雷の様な爆音が聞こえてきた。
「あれか」
 沖はその爆音の主が何であるかすぐに悟った。
 火の車が来た。厚い雲の間から舞い降りて来た。
「さあ、沖一也よ」
 五人は彼に対して言った。
「黒い光を浴びて死ぬがいい」
 そう言うと彼等は姿を消した。
 火の車はゆっくりと沖に近付いて来た。だが沖はそれから退こうとしなかった。
「沖さん、ここは一時撤退しましょう」
 戦闘員達との戦いを終えた佐久間が言った。だが沖はそれに対して首を横に振った。
「いえ、それはできません」
「しかし」
「俺が退いたらこのニューオーリンズはあの火の車により消されてしまうでしょう。それだけは許してはなりません」
「ではまさか」
「そのまさかです」
 佐久間の言葉ににこりと笑って答えた。
「見ていて下さい、沖一也の、仮面ライダースーパー1の戦い方を!」
 そう言うと天高く跳び上がった。
「ブルーバージョン!」
 そしてマシンの名を叫ぶ。するとブルーバージョン改が姿を現わした。
 マシンは大地を蹴った。そして沖のもとへ飛ぶ。
 沖は既にスーパー1に変身していた。光の中から姿を現わす。
 そしてそれに乗った。マシンは彼を乗せたまま空を飛ぶ。
 火の車はスーパー1に狙いを定めた。そして目に黒い光を充填させる。
「やはりあそこか」
 スーパー1はそれを冷静に見ていた。
「あの両目を破壊すれば火の車はただの円盤になる」
 彼はそう喝破した。だがそれは容易ではないこともわかっていた。
 二条の黒い光が襲い掛かる。スーパー1はそれをマシンの機首を捻ってかわした。
「ムン!」
 黒い光は後ろに消えた。空の彼方で消滅する。
 火の車の目は赤に戻った。スーパー1はその間に腕を換装していた。
「これなら」
 それはレーダーハンドであった。それで火の車の左眼に照準を定める。
「喰らえっ!」
 ミサイルを放った。それは一直線に火の車の左眼に飛んでいく。
 ミサイルが炸裂した。爆発と共に龍の左眼が潰れた。
「よし!」
 だが右眼がまだ残っていた。その右眼をこちらに向けてきた。
 そしてまた光を放つ。だがそれもかわした。だがミサイルはもうない。
「今度はこれだ!」
 そしてまた腕を換装させた。エレキハンドだった。
「喰らえっ!」
 両手を重ね合わせそこから電流を放つ。それは龍の右眼を破壊した。
 これで黒い光を放つことはできなくなった。だがスーパー1は攻撃を止めなかった。
「チェーーーーンジ、冷熱ハァーーーーーーンドッ!」
 緑の腕に換える。まずは炎を放った。
 炎が火の車の全身を包む。そしてその身体を真っ赤にした。
 今度は冷気を放った。一度極限にまで熱されたその身体が今度は急激に冷やされる。
 それによりかなりのダメージを受けた。装甲はもうあちこちが破損していた。
「よし!」
 ブルーバージョン改から跳んだ。そして火の車の背に跳び乗った。
「止めだっ!」
 また腕を換装した。パワーハンドだ。
 その紅い拳で龍の背を激しく殴る。そshちえその各部を次々と破壊していく。
 装甲を破壊された火の車は最早それに対して全く無力であった。瞬く間に原型を留めぬ程にまで破壊された。
 スーパー1は跳んだ。そして蹴りを放った。
「旋風スーパァーーーーキィーーーーーック!」
 火の車を貫いた。そしてスーパー1が着地した時火の車は空中で爆発していた。
「やりましたね」
 着地したスーパー1のもとに佐久間が駆け寄って言葉をかけてきた。
「ええ、とりあえずこれで敵の兵器は破壊しました」
 スーパー1は立ち上がって答えた。
「はい」
「ですが油断はできません」
 スーパー1の声はまだ気を緩めたものではなかった。
「わかっています、残るは」
「はい、地獄谷五人衆とメガール将軍です」
 二人はついさっきまで火の車があった空を見た。そこでは爆発が消え戦いの後は何も残ってはいなかった。

「火の車が破壊されたか」
 メガール将軍はそれを指令室で五人衆と共に観戦していた。火の車は彼が操っていたのだ。
「やりおるな、やはり」
 だが彼は驚かなかった。当然のことのように受け止めていた。
「将軍、如何致しましょう」
 鷹爪が尋ねてきた。
「こうなっては最早我等だけでスーパー1を倒すしかないかと」
 大虎も言った。
「全ては将軍の思われるまま」
 蛇塚が続いた。
「将軍が行かれるところなら何処までも」
 象丸が畏まった。
「参りましょう」
 そして最後に熊嵐が言った。
「そうか」
 将軍はそれを黙って聞いていた。
「ならば決まっている。スーパー1に最後の戦いを挑みに行くぞ」
「ハハッ」
 五人衆はそれを聞き片膝を折って応えた。
「我等が勝つか、スーパー1が勝つか」
 将軍はその戦いに思いを馳せながら言葉を出した。
「それを遂に決する時が来た」
「はい」
 五人は一斉に頷いた。
「行くぞ」
「わかりました」
 これで終わりだった。彼等は指令室をあとにした。そしてそこに戻ることはなかった。

「基地を爆破したのか」
 死神博士はそれをスペインの基地から見ていた。
「潔いな。バダンの者とは思えぬ」
 彼はそれを見て呟いた。
「元々この道に入るべき男でなかったのかも知れぬ。そう」
 彼は完全に爆破された基地の後を見ながら言った。
「沖一也と同じ道を歩むべきだったのだろう」
 死神博士は同じ科学者であった彼のことを常に意識していたのだ。
「科学者といっても色々いる。私の様な天才故に全てを欲する者もいれば純粋にその身を捧げる者もいる。あの男は後者だったのだろう」
 流石にそれをよく見極めていた。
「やはりあの手術の失敗が影響しているのだろうか。いや」
 ここで思い直した。
「あれは確かにはじまりだった。そしてそれによりスーパー1を憎んでいた。だが今は違うな」
 流石はショッカー随一の頭脳である。鋭い見極めであった。
「バダンで別の道に目覚めた。そう、もうあの男に己の姿を嫌う心はない」
 だとしたら何か。
「あくまでスーパー1と戦いたいか。そして倒したい。どうやら戦士として目覚めたようだな」
 彼もまた将軍であるからだろうか。
「ならば良い。思う存分戦うがよい。そして」
 死神博士はここで酷薄な笑みを浮かべた。
「ライダーの血で祝杯を挙げようぞ」
 そしてその部屋から消えた。暗闇の中に消えていった。

 沖と佐久間、そしてメガール将軍達はニューオーリンズの市街で対峙していた。
「これが最後の戦いだ」
 メガール将軍は一歩前に出て沖に対して言った。
「この街を貴様の墓場とする。前に言った通りにな」
「そうか」
 沖は壁に背を着けた。見れば壁にはジャズ歌手の絵が描かれている。如何にもアメリカらしい。
「火の車への戦い方、見事であった。だが私達はそうはいかん」
 五人が左右に出て来た。
「まずはこの者達が相手をする」
 そして将軍は後ろに下がった。
「それから私が相手をしよう。それでいいな」
「望むところだ」
 五人は素早く左右に散り沖と佐久間を取り囲んだ。戦闘員達もいた。
「沖さん、戦闘員達はいつも通り俺がやります」
「頼みます」
 沖は佐久間の言葉に頷いた。
「では」
 佐久間も身構えた。だが五人衆は彼には目をくれない。あくまで沖だけを見ている。
「行くぞ」
 そして彼等は顔の前で両手を交差させた。そして変身した。
「変身したか」
 沖はそれを見て言った。声は落ち着いていた。
「ならば俺も」
 彼も変身に入った。右手をゆっくりと後ろに引いていく。

 変・・・・・・
 引いた右手を上に持っていく。左手はそれに合わせるかのように下にし前に置いている。両手は爪の様に指を半ば曲げている。
 右手を前に持ってきた。左手をそれに合わせる。そして両手を手首のところで合わせる。そのままゆっくりと前に出す。
 身体が黒いバトルボディに覆われる。胸は銀だ。手袋とブーツも銀であった。
 ・・・・・・身!
 その前に出して両手を止めた。そして時計回りに一八〇度回転させる。
 顔の右半分を銀の仮面が覆う。眼は紅だ。そして左半分も覆われる。

 ベルトから光が放たれる。そしてそれが消えた時銀色のライダーがそこにいた。
「行くぞっ!」
 スーパー1は前に突進した。佐久間もそれに続く。怪人と戦闘員達が彼等を取り囲む。そして戦いがはじまった。
 まず佐久間は戦闘員達に向かっていった。そして拳と蹴りで彼等を倒していく。
「貴様等の相手は俺だっ!」
 そして戦闘員達をスーパー1のところに近寄せない。そして戦いをスーパー1に有利なようにした。
 それを受けてスーパー1は五人衆と対峙した。彼等は半円型の陣で彼を取り囲んでいる。
 彼等とスーパー1は睨み合う。互いに隙を窺っている。
 先に動いた方がやられる、そんな感じだった。双方共息を呑む。
 五人の足の動きが一瞬乱れた。スーパー1はそこに隙を見た。
「よし!」
 一気に攻勢に出た。その拳と脚で五人に切り込む。
「囲め!」
 ゾゾンガーが叫んだ。他の四人は素早くスーパー1を取り囲んだ。
「よし、今だ!」
 ゾゾンガーがバズーカを放とうとする。他の四人はバズーカが発砲された瞬間素早く跳び退いた。
 砲弾がスーパー1に襲い掛かる。だがスーパー1は瞬時に姿を消していた。
「ムッ、何処に行った!」 
 五人は慌てて彼を探す。不意に気配が姿を現わした。
 それはゾゾンガーの前に来た。そしてバズーカを奪った。
「トォッ!」
 その気配の正体はやはりスーパー1だった。彼は目にも止まらぬ動きで彼等の目を眩ませていたのだ。
 バズーカを奪うとそれを拳で砕いた。そして言った。
「これで飛び道具はなくなったぞ!」
「ほざけ!」
 ゾゾンガーは怒りに身体を震わせスーパー1に体当たりを敢行した。だがスーパー1はそれを防いだ。
「甘いな」
 両手で受け止めたのだ。そしてゾゾンガーの身体を掴むと上に放り投げた。
「クッ!」
 だがゾゾンガーは空中で身体を回転させた。そして両足で受け身を取った。
 彼の周りを他の四人が取り囲む。そして再びスーパー1と対峙した。
「こうなったら拳で倒す」
 スーパー1を取り囲む。
「最初からそうするべきだった」
 彼等はジリ、ジリ、と間合いを詰める。スーパー1は摺り足で間合いを図る。
「来るな」
 彼は悟った。そして五人を注視した。
「問題はどう来るかだ」
 まずはヘビンダーが来た。
「行くぞ!」
 その身体が右から左に複数に分かれる。分身の術だ。
 その全てがスーパー1に向かって来る。彼はその全てを相手にした。
「よし!」
 そしてその後方からストロングベアがブーメランを投げる。どうやらヘビンダーの分身はどれかわかっているようだ。的確に分身体に向かって投げる。そしてブーメランはその身体をすり抜けてスーパー1に襲い掛かる。
「クッ!」
 スーパー1はヘビンダーの攻撃とそれを身を捻ってかわした。だがそこに槍が襲い掛かって来た。
「油断したな!」
 それはクレイジータイガーの槍だった。そして見れば左右にはサタンホークとゾゾンガーがいる。
「我等の拳、受けてみよ!」
 五人は一斉に攻撃を仕掛けた。その瞬間だった。
「今だ!」
 スーパー1は上に跳んだ。
「上か!」
「だが!」
 五人は焦ってはいなかった。彼の降りるところを待ち構えていた。攻撃が来てもかわすつもりであった。
 しかし彼等は一箇所に固まっていた。それがスーパー1の狙いであったのだ。
「この時を待っていた!」
 彼は一旦遠くに着地した。そしてそれでまずは敵の出鼻をくじいた。
「何をするつもりだ!?」
 彼等はすぐに攻撃が来るものだと思っていたが当てが外れて少し拍子抜けした。
 しかしスーパー1はそのまま地を滑ってきた。
「突進して来るか!」
 だがこれもフェイントだった。スーパー1は彼等の目の前で跳んだ。
「トゥッ!」
 そして空中で前転した。そのまま構えを取る。
「スーパーライダァーーーー・・・・・・」
 構えの後背面跳びになる。そしてそこから蹴りに入る。
「天空連続キィーーーーーーック!」
 五人衆に向けて蹴りを放った。連続して五発繰り出す。それぞれ一撃ずつ撃った。
 それだけではなかった。そこから一度後ろに跳び蹴りを放った。今度は気を全身に纏っている。
 そして五人を貫く様に蹴った。気が五人を包んだ。
「グオオオオオッ!」
 凄まじい爆発が起こった。そして五人は吹き飛ばされた。
「な、何という攻撃だ・・・・・・」
 彼等はそれでも立ち上がってきた。だが変身を解き人間態になっている。
「まさか我等を一度に倒すとは」
 五人は全身に深い傷を負っていた。最早余命幾許も無いことは明らかであった。
「この時を待っていたのだ。貴様等が一度に集まる時をな」
 スーパー1は彼等に対して言った。冷静な声であった。
「そうだったのか」
「ぬかったわ、我等の負けだ」
 彼等は血に塗れた口でそう言った。
「だが我等の仇はメガール将軍がとって下さる」
「地獄で貴様が来るのを待っていよう」
「さらばだスーパー1!」
 そして彼等は倒れた五つの爆発が起こった。
「これで地獄谷五人衆は倒したか」
「そうだ、その戦い見事であった」
 スーパー1の前にメガール将軍が姿を現わした。
「あの五人を一度に倒すとはな。腕をあげたようだな」
 彼は後ろの爆煙を見ながら言った。
「だがスーパー1よ」
 そしてスーパー1に顔を戻した。
「この者達の仇は取らせてもらう、そして」
 スーパー1を睨んだ。鋭い光が宿っている。
「貴様との闘いをこれで終わらせる」
「望むところだ」
 彼もまた将軍を睨みつけていた。
「メガール将軍」
 彼の名を呼んだ。
「来い、そして全てを終わらせてやる」
「その為に私は甦った」
 彼は言った。
「さあ行くぞ、スーパー1よ」
 背中のマントを取った。
「私の真の姿で相手をしてやる」
 そしてそのマントで全身を包んだ。マントを剥がすとそこには巨大な牛の頭部を持つ機械の怪人が立っていた。
「死神バッファロー」
 彼は自らの名を呼んだ。
「この名にかけて貴様を倒す!」
 そして右手に持つ巨大な鉄球を投げてきた。
「行くぞ!」
 スーパー1は前に跳んだ。そしてその鉄球をかわして死神バッファローに攻撃を仕掛ける。
「ムンッ!」
 だが死神バッファローはそれを受けた。鉄球は既に壁にぶつかりそれを粉々に砕いていた。
 スーパー1は蹴りを放った。死神バッファローはそれを受ける。
「今度はこちらの番だ!」
 そして逆に手刀を放つ。スーパー1はそれを後ろに身体を捻ってかわした。
「この程度っ!」
 そして捻りながら死神バッファローの顎に下から蹴りを放つ。しかし彼はそれを受けた。
「どうした、動きが遅いぞ」
 彼は両手でスーパー1の足を掴んでいた。そして左に投げた。
「グォッ!」
 スーパー1はアスファルトに叩き付けられる。激しい衝撃が全身を襲った。
「まだだっ!」
 死神バッファローの攻撃はそれで終わりではなかった。立ち上がってきたスーパー1に体当たりを敢行した。
 右肩からぶつかる。それはスーパー1の腹を直撃した。
「ガハッ・・・・・・!」
 思わず呻き声をあげた。吹き飛ばされはしなかったが再び激しい衝撃が全身を襲った。
 だがそれに耐えた。そして踏み止まった。
「まだだ!」
 彼にも意地があった。
「流石だ」
 死神バッファローはそれを見て賞賛の言葉を口にした。
「それでこそ私の生涯の敵だ」
 その声には敵愾心はなかった。
「スーパー1よ、さっきも言ったが私は貴様を倒す為に甦ってきた」
 そしてスーパー1に対して言った。
「かってはこの身体を醜いとも思っていた」
 その為にドグマに入ったのであった。
「だが今は違う。この身体は貴様と戦う為にあるのだ。そう、これは運命だったのだ」
「運命・・・・・・」
「そうだ」
 彼は答えた。
「私は貴様と戦う運命だったのだ。その為に絶望の底に叩き落とされたこともあった」
 一度は自ら死を選ぼうとしていた程であった。
「だがそれは誤りだったのだ。私が何故改造手術を受け、ドグマに入ったのか考えた。地獄でな」
 彼にとって地獄はその答えを出す場所であったのだ。これが他の大幹部や改造魔人達とは違っていた。これは彼がドグマに入るまで、そして入ってからの経緯も関係していた。
「そしてわかった。私の運命を」
「俺と戦うというか」
「そうだ。スーパー1よ」
 彼はここでスーパー1を見据えた。
「今ここで貴様を倒す!」
 そして構えをとった。
「そうか、運命か」
 スーパー1はその言葉を反芻した。
「運命は俺にもある」
 そして死神バッファローを見据えた。
「俺の運命、それは」
 そしてゆっくりと構えをとった。
「悪を倒し、この世に平和を取り戻すことだ。そしてその為に」
 全身を闘気が包んでいく。
「メガール将軍、いや死神バッファローよ」
 彼の名を呼んだ。
「貴様を倒す!それが俺の運命なのだから!」
「望むところだ!」
 両者は同時に突進した。そして互いに拳を繰り出した。激しい衝撃がその場を覆った。
 二人はその場所で激しく撃ち合った。そこには恨みも憎悪もなかった。ただ闘う二人の戦士がいるだけであった。
「スーパー1・・・・・・」
 戦闘員達との戦いを終えていた佐久間はその戦いのあまりもの激しさに戦慄を覚えていた。
 これ程までに激しい戦いは彼も今までそうそう見たことはなかった。双方共一歩も退いてはいなかった。
 佐久間はそれを見守ることしかできなかった。ただその拳と拳の撃ち合いを見るだけであった。
 スーパー1は技で、死神バッファローは力で闘っていた。二人は最早ガードもなく互いに激しく拳を繰り出していた。その全身が傷だらけになっていた。
 体力は僅かに死神バッファローの方が上だった。スーパー1の動きが鈍くなってきた。
「そろそろ終わりだな」
 死神バッファローは肩で息をしだしたスーパー1を見て言った。そして身体に力を貯めた。
「これで終わりだあっ!」
 拳を出した。それは今までのものとは比べ物にならないものであった。
「これを受けたならば」
 スーパー1はそれを見て考えていた。
「ただでは済まない」
 すぐにわかった。このままでは危ない、すぐに察知した。
「トォッ!」
 上に跳んだ。そしてその拳をかわした。
「上かっ!」
 死神バッファローは上を見上げた。スーパー1はそこにいた。宙返りをしていた。
「これで決める!」
 スーパー1は空中で構えをとった。
「スーパーライダァーーーーー」
 そして空中で型をとる。
「月面キィーーーーーック!」
 蹴りを放った。雷の様な速さで死神バッファローに急降下していく。
 見えなくなった。それはまるで流星の様であった。
 蹴りが死神バッファローの胸を直撃した。あまりもの速さの為かわすことはできなかった。
「グワアアッ!」
 死神バッファローは叫び声をあげた。そして後ろの壁に叩き付けられた。
「これで決まりか」
 スーパー1は着地して壁に叩き付けられた死神バッファローを見た。彼は身動き一つしていなかった。
「グググ・・・・・・」
 だがそれは一瞬であった。彼は壁から出て来た。
「やはりな」
 スーパー1はそれを見て身構えた。警戒は解いていない。
「安心しろ、スーパー1よ」
 だが死神バッファローはそんな彼に対して言った。
「私はもう闘うことはできない。貴様の勝ちだ」
 そしてゆっくりとメガール将軍の姿に戻ってきた。
 メガール将軍は壁の前に立った。その全身からは血が噴き出していたがそれでも立っていた。
「見事な蹴りだった。私でもあれはかわすことができなかった」
「そうか」
 スーパー1はそれを静かに聞いていた。
「褒めてやろう、スーパー1よ。貴様は私が今まで合った中で最高の戦士だ」
「礼を言う」
 彼は素直にそう応えた。
「その最高の戦士と拳を心ゆくまで交えることができた。最早思い残すことはない」
 その表情は死ぬ前にしては不思議な程清々しかった。
 彼はその場を動かなかった。だがその顔はスーパー1から離れなかった。
「かってはこの身体に絶望したが今は違う。貴様と闘うことができたのだからな、最後まで」
「メガール将軍」
「貴様を倒すことができなかったことは心残りだがそんなことは最早どうでもいい。さらばだ」
 そう言うと最後に笑った。
「生まれ変わりまた会おうぞ。その時はまた拳を交えよう!」
 それが最後の言葉だった。彼は爆発の中に消えていった。
「メガール将軍」
 スーパー1はそれを感慨深げに見ていた。爆発の煙も炎も消えその後には何も残ってはいなかった。
「見事な男だった。そして」
 彼は言葉を続けた。
「生まれ変わりまた会う日を楽しみにしている。貴様と拳を交えるその日をな」
 そして彼はその場から背を向けた。隣に佐久間がやって来た。
「お見事でした」
 それだけであった。他には何も言わなかった。
「有り難う」
 スーパー1もそう言っただけであった。そして二人はニューオーリンズを後にした。

「メガール将軍は死んだか」
 死神博士は自分の部屋でその話を聞いていた。
「立派な最後だったそうです」
 戦闘員は敬礼して報告を続けた。
「そうか」
 彼はそれを車椅子に座って聞いていた。
「惜しい男だったが」
 そして少し上を見た。
「だが最後まで思う存分戦うことができたのだ。悔いはあるまい」
「はい」
 その戦闘員は静かにそう答えた。
「あの男は自分の望む通りの最後を迎えた。思えば幸せな男だ」
「そうでしょうか」
 戦闘員はその言葉に思わず問うた。彼もメガール将軍のことは知っているからだ。
「人の一生は最後で決まる」
 博士はそんな彼を評するように言った。
「あの男の最後はそれをよく語っていた。そう」
 彼は車椅子から立った。
「私もそうだ。そう、この街で生まれ、また帰ってきた」
「はい」
 戦闘員はその言葉に応えた。
「それが何を意味するか、わかるだろう。すぐにな」
 思わせぶりな言葉であった。
「死神博士、そのお言葉は」
「ライダーの死を意味しているのだ」
 不安になった戦闘員に対して不敵な笑みで返した。
「ライダーが死に、私がこの街でバダンの勝利を宣言するのだ。素晴らしいと思わんか」
「それはそうですが」
 だがその戦闘員はまだ不安を拭えてはいなかった。
「心配無用だ。私には切り札がある」
「時空破断システムでしょうか」
「切り札は一つとは限らない」
 彼はニヤリと笑った。
「そう、それは空にある」
 彼は上を見上げた。そこにその切り札はあるのだ。
「待っておれ、ライダーよ」
 まだその不敵な笑みをたたえていた。
「今度こそ貴様を葬ってやる」
 彼の笑いは続いていた。そしてそれは闇に同化していった。


絶望の運命   完


                               2004・8・28


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