『仮面ライダー』
 第四部
 第六章             永遠の絆
                
 シチリア。イタリア南部の島だ。この島は地中海の制海権を考えるにあたり極めて重要な位置にあり昔から抗争が絶えなかった。
 まずはローマとカルタゴが衝突した。ポエニ戦争である。この戦争は三回に渡って繰り広げられ遂にはカルタゴが滅亡して終わった。ローマはこれにより地中海を完全に掌握した。だがそれでも戦いは終わらず宿敵ペルシア、そしてゲルマン人達との戦いを続けた。それはローマ帝国が東西に分裂しても続いた。
 それからイスラム教徒が占拠した。それからフランスが。続いてナポリが。戦いは続き時には大規模な暴動も起こった。この時反仏の抵抗組織がマフィアになったというがそれはどうやら誤りらしい。マフィアの起源は意外と新しい。
 ナポリ統治時代、十八世紀後半辺りからナポリ政府はこの島の治安維持に対して山賊達を警官にして当たらせるようになった。毒を以って毒を制す、というわけだ。裏世界にも通じていた彼等はそちらでも力を持つようになりやがてそちらの世界のドンとなった。それがマフィアのもとである。この山賊警察は力を握ったままでそのまま犯罪組織となってしまったのである。
 彼等がアメリカに移住するとそこでも力を持った。独自の厳格な戒律と一族による固い絆が武器だった。そしてアメリカの暗黒街を牛耳るようになったのだ。
 だが彼等には一つの特徴がある。それは彼等がシチリア出身ということである。その郷土意識が彼等のアイデンティティでもあった。
 アル=カポネは実を言うとマフィアのドンにはなれなかったのだ。彼はナポリにルーツを持つ。南イタリアはマフィアとはまた違った系列の犯罪組織がある。カモラというものである。
 だから彼は本来ならマフィアのドンにはなれなかったのだ。どれだけ頭が切れ大胆であってもだ。彼は最初頼りになるドンがいた。その人物に引き立てられたのだ。そして禁酒法時代のシカゴにて絶大な力を誇った。最早この街の夜の世界は彼のものであった。
 そうしたいささか複雑な歴史を持つアメリカン=マフィアだがイタリアにおいてもそれは変わらない。むしろ彼等の故郷でありシチリアではアメリカよりもそれが顕著だ。
 彼等は裏の全てを取り仕切っている。表の世界にも顔を出す。この島は農業で知られているがその仲介等もしているのだ。
 こういったことがあった。大規模な農場を経営しているある貴族が子供を誤って殺してしまった。当然捜査が入ったがここで彼と親しいマフィアが出て来た。そして話を収めた。
「済まないな」
 その貴族はマフィアのドンに礼を言った。ドンは笑って答えた。
「何、こういったことはお互い様さ。何かあったらまた話をしてくれ」
「ああ」
 彼はマフィアとの商売により利益を得ていた。このドンとも懇意であった。
「だがあんたはまだ警察とかにマークされているぜ」
 ここでドンは彼に忠告した。
「警察がか」
 彼はそれを聞き顔を顰めた。
「そうだ。少し姿を隠した方がいいな。何処かの綺麗なホテルにでも」
「わかった、そうしよう」
 こうして彼はとあるホテルに身を隠した。一時のつもりだったがそのホテルがいたく気に入ったのだ。
「ここにずっと住んでもいいな」90
 そして彼はそのホテルに死ぬまで住んだ。ホテルの住人ディ=ステーファノ男爵である。
 こうしたことからもわかるようにマフィアはこの島について語るうえで避けられないものだ。それはこの島の者が好むと好まざるに関わらず、だ。
 そしてこの島にはエトナ山がある。火山である。ギリシア神話においては巨大な怪物テューポーンがそこに封じ込められているという。
 そう、火山である。そして今この島はそのせいか異常に気温が高かった。連日うだるような暑さが続いた。
「この暑さは尋常じゃない」
 島の者はそう思い調査を行った。だが火山には何ら異常はなかった。ただ地表が不自然なまでに熱かったのだ。
 作物にも影響が出ていた。時として池が蒸発することすらあった。
「噴火の前触れか」
「それにしてはおかしい」
 こうした話がされた。真相は誰にも掴めなかった。
「人間共にわかる筈がない」
 百目タイタンはそれを聞きそう言って笑った。
「この暑さが俺のせいだとは誰も思わないだろう」
 彼の体内には八万度のマグマが流れていた。それが改造手術により数十倍にも高められているのだ。
 その熱気が島を下から熱していたのだ。恐るべき力であった。
「ストロンガーよ、来るなら来い」
 彼は指令室の椅子に座りながら言った。
「このマグマで焼き尽くしてくれるわ」
「フフフ、大した気合の入りようだな」
 そこでシャドウが部屋に入って来た。
「だが少し熱くなり過ぎではないか。今からそれ程熱くなっても仕方なかろう」
「ふん」
 タイタンはそれを聞き鼻で笑った。
「それは貴様とて同じだろう」
 そう言って反論した。
「何処がだ」
 シャドウはそれに対して澄ました様子で返した。
「貴様の手にあるのは何だ」
 タイタンはシャドウが手で弄ぶカードを指差した。
「それここが貴様が今戦いを待ち望んでいる証拠だ」
「確かに」
 シャドウは戦いを前にすると興奮を抑える為手でカードを弄ぶ。タイタンはそれをよく知っていた。
「どうやら隠していても仕方ないらしいな」
「俺に隠し事は通用しないとわかっていないようだな」
「そういうつもりはないが」
 シャドウはそう言うとカードを収めた。
「さて」
 彼はここでタイタンに歩み寄った。
「これからは俺と貴様の勝負だな」
「どちらが先にあの男を倒すか、か」
「そうだ。遂にこの時が来た」
 シャドウの声は先程のそれとはうって変わって硬いものであった。
「わかっているな」
「当然だ」
 タイタンは言葉を返した。
「俺はこの時の為に地獄から甦ってきた」
「それは俺も同じ」
 彼等の目に炎が宿った。
「どちらがあの男を倒すか、勝負だ」
「うむ」
 タイタンとシャドウは互いをみやった。
「俺があの男を倒す」
「それは俺の言葉だ」
 二人は睨み合った。だがすぐに視線を外した。
「先にあの男を倒した方が勝ちだ。よいな」
「望むところ」
 タイタンとシャドウはまるで敵同士の様に対峙していた。シャドウが正面を向くタイタンの後ろに回り込む。
「では俺はすぐに動かさせてもらおう。悪いがこれで失礼する」
「行くがいい。だが奴を倒すのは俺だ」
 指令室を去ろうとするシャドウにそう言葉をかけた。
「ではな」
 そしてシャドウは指令室をあとにした。タイタンだけが残った。
 タイタンはベルを鳴らした。すると数名の戦闘員が入って来た。
「百目タイタン、お呼びでしょうか」
 彼等は敬礼をした後そう尋ねた。
「怪人達はどうなっている」
 彼は戦闘員達に問うた。
「既に準備は整っております。後は百目タイタンの指示を待つだけです」
「そうか」
 タイタンはそれを聞いて頷いた。
「ではすぐに出撃だ。そしてあの男の首を取るぞ」
「わかりました。ところであれはどうしましょうか」
「あれか」
 タイタンはそれを聞き考える目をした。
「連れて行こう。だが我々と離れてな。いざという時の切り札だ」
「わかりました」
 戦闘員はそれを聞き頷いた。そして前に出て彼等の間に入ったタイタンの後ろに回った。
「行くぞ」
「ハッ」
 タイタンは指令室を後にする。その後を戦闘員達が続く。
 彼等は基地を出た。そしてタイタンを先頭に岩山の上を進んでいく。
「早いな。もう動くか」
 シャドウはそれを上から見下ろしていた。
「我等も動きますか」
 傍に控える戦闘員が問うた。
「そうだな」
 シャドウはそれを聞き不敵に笑った。
「ここは奴に花を持たせるとしよう。いや、お手並み拝見か」
「といいますと」
「我等が動くのはあとでよい。まずは奴等の戦いが終わってからだ。よいな」
「わかりました」
 その戦闘員はそう言って敬礼した。
「では戻るぞ。そして戦いの用意だ」
「ハッ」
 シャドウ達はそこから引き揚げた。そしてあとには岩山から出る硫黄の煙が立ち込めていた。

 このシチリアは大規模な農園が多いことで知られている。特にオリーブの栽培は有名だ。
 彼は今そこにいた。そしてオリーブの木々の中を歩いている。
「そういえば今までオリーブの木は見たことがなかったな」
 彼はその木を見上げて言った。
「こんなのだったのか。そしてここからオリーブ油がとれる」
 そう言ってオリーブの実を撫でる。見たところ油が採れるようなものではない。
 このまま食べられるだろうかとさえ思った。だが取るのは止めた。
「折角ここの人達が丹精込めて作っているんだ。それを取るのは悪いな」
 そう思ったからだ。彼はオリーブから手を離し先へ進もうとした。
「おい茂、ここにいたのか」
 ここで後ろから彼を呼ぶ声がした。
「おやっさん」
 彼はその声に応え後ろを振り向いた。そこにそのおやっさんがいた。
「シチリアにいると聞いてやって来たんだがようやく見つけたぞ」
 立花は少し息を切らしながら城の方に駆けてきた。そしてふう、と一息つく。
「まさかこんなところにいるとはな」
「似合いませんか」
 城はにこやかに笑ってそう尋ねた。
「いや、そうは思わんが」
 立花も笑って返した。
「案外似合うんじゃないか。その格好に農園は」
 見れば城の格好はジーンズである。元々作業着だからこうした場でも不自然ではない。
「だといいですがね」
 彼は笑いながらそう言った。
「俺は結構目立つそうですから」
「少しは自覚しろ」
 立花はそれに対してそう返した。
「薔薇の刺繍のジーンズなんてそうそう見ないぞ」
「これは俺のポリシーなんですよ」
「それでも目立つものは目立つんだよ。それだとバダンと戦う時に大変だろうが。すぐに見つかって」
「いやいや、これがいいんですよ」
 彼はここで反論した。
「何でだ」
 立花はそれを聞いて怪訝そうな顔をした。
「向こうからわざわざ来てくれますから。探す手間が省けるんですよ」
「そんなもんかな」
「ええ。ブラックサタンの時からそうだったじゃないですか」
「あれは御前は無茶な行動するからだろうが。他の奴はもうちょっと慎重だったぞ」
「風見先輩もそうでしたか?」
「ああ、志郎の奴は周りに純子とか丈二がいたからな。御前の場合一人だろうが」
「今はね」
 ここで城は寂しげな顔をした。
「今はね・・・・・・って、そうか。済まん」
 立花はその言葉の意味で気付いた。
「いえ、いいです」
 城はそう言った。だがその顔は明らかに曇っている。
「あれからどれ位経ったかな」
「さあ。けれど気の遠くなるような昔の話に思えますね」
「そうだな。ドクターケイトはまた死んだしな。敬介の奴の手で」
「モンゴルでしたね」
「ああ。手強かったそうだ」
「そうでしょうね。そうでなければあいつも死ななかった」
 彼等はオリーブの木々の中を進みながらそう話した。
「あの時あいつは命を賭けた。そして死んだ」
「ええ」
「わしはあいつに何をしてやれなかった」
「俺もです」
 二人は俯いていた。
「そしてあいつはこの世から去った。何も言わずにな」
「・・・・・・・・・」
 城はもう沈黙していた。
「茂」
 立花はここで彼の名を呼んだ。
「忘れられないとは思う。だが乗り越えてはいると思う」
 だが彼はそれには答えられなかった。
「戦おう、バダンと。そしてあいつが望んでいた平和を取り戻すんだ」
「はい」
 二人はオリーブの中を進んでいく。そしてラグーサまで来た。
 ここはイベレア山麓の町である。青銅器時代からあったという古い町でありギリシア人の植民都市と交流があったという。ビザンツ帝国の時代には城壁で覆われイスラム教徒の襲撃に備えた。だが九世紀には彼等の手に落ちやがてノルマン人の領土となった。二回の大地震に見舞われるとそれを機に新しく整備された。そして十九世紀には新旧二つの地区に分けられ、古い地区はラグーサ=イブラ、新しい地区はラグーサ=スーーベリオーレと名付けられた。今二人はイブラの地区にいた。
「古い地区というだけあって古風な建物が並ぶな」
 立花は左右を見回して言った。見れば石造りの古い建物が峡谷の部分にる。山麓にあるだけあってその傾斜は激しい。
「そうですね」
 隣にいた城が相槌を打った。
「イタリアにはこうした街が結構多いですけれどここはまた格別ですね」
「そうだな。少なくとも日本じゃこうした街はないな」
「ええ。やっぱり日本は木の家ですよ」
「そうだな。檜なら言うことなしだ」
 立花はそう言って目を細めた。彼もやはり日本人だ。和風の建物を愛していた。
「一度こうしたところに住んでみたいとは思ったことがあるがな」
「そうなんですか」
「ああ。若い頃ナポリに旅行に行ってな。そこで思ったんだ」
「意外ですね」
「そう思うか。これでも若い頃は色々と考えてたんだぞ」
「いやあ、おやっさんって頑固ですから」
「茂、そりゃどういう意味だ」
 立花はその言葉に顔を顰めさせて向けてきた。
「いや、大した意味はないですよ」
 城はそれに対して言った。
「おやっさん若い頃からこんなんだったのかなあ、って思ってましたから」
「そんなわけないだろうが、御前はわしを何だと思っとるんだ」
 彼は怒った顔をしてみせた。
「いやいや、すいません。冗談ですよ」
「冗談でも言っていいことと悪いことがあるぞ」
 彼はまだ口を尖らせていた。
「気分を害したぞ。昼飯は御前がおごれ」
「はいはい」
 そう言いながらも立花の機嫌は悪くはなかった。彼は城というだけでもよかったのだ。ライダー達は彼のとって息子のようなものだからだ。
「さてと」
 城は立花の言葉に従いレストランを探した。だがいざ探してみると中々ない。
「参ったな。もう少し先に行きますか」
「ああ」
 立花は頷いた。二人は傾斜の激しい道をそのまま進んでいく。
 やがて十字路に来た。そこで左右から何かが来た。
「城茂、覚悟!」
 不意に銃弾が襲い掛かって来た。
「ムッ!」
 城と立花がそれを察知した時は既に遅かった。それは彼等のいた場所で爆発した。
「やったか!」
 十字路の左右から戦闘員達が姿を現わした。彼等は手にそれぞれ大型の銃を持っている。
「いや、待て」
 前から黒服の男がやって来た。
「死体を確認しろ。あの男はそうそう簡単には死なぬ」
 百目タイタンであった。彼はスーツ姿でそこに姿を現わしてきた。
「よいな」
「わかりました」
 戦闘員達は頷いた。そして爆煙が消えるのを待った。
 消えた。だがそこには何もなかった。
「ムッ!」
 戦闘員達が声をあげた。その時だった。
「ハッハッハッハッハッハ」
 建物の上から笑い声が響いてきた。
「その声は!」
 タイタンが見上げる。戦闘員達もそれに続く。
 そこにいた。緑の眼を持つライダーがいた。
「やはり無事だったか」
 タイタンは彼を見上げながら言った。
「当然だ、あの程度でこの俺が倒せると思っていたか」
 ストロンガーはそれに対して言った。その隣には立花がいる。
「だが売られた喧嘩は買わせてもらう。高くな」
 そう言うと身構えた。
「行くぞ!」
 そして下に飛び降りる。戦闘員達の中に着地する。
「さあ来い!」
 取り囲む戦闘員を挑発する。戦闘員達はそれに乗ろうとした。だがタイタンあそれを止めた。
「待て!」
 そして前に出た。
「気をつけろ、ストロンガーには電気の技がある。下手に動くと一掃されるぞ」
「ハッ、そうでした」
 戦闘員達はそれを聞いて動きを止めた。
「フン、流石だなタイタンよ」
「俺を馬鹿にするな」
 タイタンはストロンガーに対して返した。
「伊達に貴様と何度と戦っているわけではない。俺を甘く見るな」
「確かにな」
「貴様の相手はこの者達がしてやる」
 するとタイタンの背に何者かが姿を現わした。
「行け、そしてストロンガーを倒せ!」
 奇声と共に怪人達が姿を現わした。
「ホワァーーーーーーッ!」
「ショワーーーーーーッ!」
「アブンガーーーーーッ!」
 デストロンの突撃怪人ドクロイノシシ、ゲドンの八足怪人クモ獣人、ネオショッカーの毒針怪人アブンガー、計三体の怪人達であった。彼等は素早い動きでストロンガーを取り囲んだ。
「さあストロンガーよ、まずはその怪人達と戦ってもらおうか。勝てるかな」
「戯れ言を」
 ストロンガーは自信に満ちた声で返した。
「俺が怪人達に負けるとでも思っているのか」
「フン、相変わらずだな」
 タイタンはそれを聞いて言った。何処かその言葉を待ち望んでいたようであった。
「ではまずはこの者達と戦うがいい。その後で俺がたっぷりと相手をしてやろう。生きていたならな」
「タイタン」
 ストロンガーはここでタイタンに対して言った。
「それは俺の台詞だ。死ぬのは貴様だ」
「フフフ、そうでなくてはな。面白くとも何ともないわ。だがな」
 その無数の眼が光った。
「貴様はこの俺の手で倒してやるということを忘れるな。覚悟しろ」
「望むところだ」
 ここで怪人達が襲い掛かってきた。
 まずはアブンガーからだ。右手の毒針を振り回してくる。
「アブの毒針か」
 ストロンガーはそれを見て呟いた。
「確かに毒は脅威だ。だがな」
 彼は不敵な笑みを言葉に含んでいた。
「それは俺には通用せん!」
 そう言うとその右腕を掴んだ。
「ウオオッ!」 
 そしてそのまま投げた。柔道の背負い投げだ。
「ウワァッ!」
 アブンガーは思わず叫び声をあげた。受け身を取ろうとする。だが間に合わなかった。
 背中から思いきり叩き付けられる。後頭部も打った。その衝撃が全身を襲った。
 昏倒する。ストロンガーはそこに拳を振り下ろした。
「電パァーーーーーンチッ!」 
 雷を帯びた拳がその胸を撃つ。電撃が心臓を直撃した。
「グオオオオオッ!」
 それをまともに受けたアブンガーは断末魔の叫びをあげる。そしてストロンガーが離れた時彼は爆死して果てた。
「さあ、次は誰だ」
 ストロンガーはアブンガーの爆煙が消えると残る二体の怪人に対して言った。
「ぬうう」
「では俺が相手になってやる!」
 今度はドクロイノシシが来た。そのままストロンガーに突進する。
「死ね、ストロンガー!」
 両脇からキバを出す。それで突き刺すつもりだ。
 しかしストロンガーは退くわけでもなくそれを冷静に見ていた。間合いに入ったと見るとすぐに身を屈めた。
「ムッ!?」
 エレクトロファイアーかと思った。それならばすぐに跳ぶつもりだった。
 だがどうやら違うようだ。彼は腕を前に出した。そして叫んだ。
「磁力扇風機!」
 両手から磁力の嵐を放ってきた。そしてそれで怪人を撃ってきた。
「ウワッ!」
 これには怯んだ。思いもよらぬ攻撃にさしものドクロイノシシも怯んだ。突進を止めた。
 それが命取りとなった。嵐が去るとストロンガーは消えていた。
「何処だっ!」
 辺りを見回す。だが何処にもいない。
「クッ、何処にいる!」
「ここだっ!」
 上から声がした。咄嗟にそちらに顔を向ける。
 ストロンガーはそこにいた。すぐに攻撃を仕掛けようとしたが既に手遅れだった。
「喰らえっ!」
 ストロンガーは攻撃態勢に入っていた。一回転してから身体を激しくきりもみ状に回転させる。
「スクリューーーーーキィーーーーーーック!」
 そして蹴りを放つ。それは怪人の胸を貫いた。
「グオオオオオオッ!」
 胸に大穴をあけられたドクロイノシシは最後の絶叫をあげる。倒れ込み爆発の中に消えた。
「ショワショワショワショワッ!」
 最後の一体クモ獣人は既に動いていた。壁に貼り付いている。
 そして糸を撒き散らす。ストロンガーをその中に置いた。
「俺を捕らえるつもりか」
「その通り」
 彼は既に巣を作っていた。そしてその網の目の中央に位置していた。
「貴様はカブトムシの改造人間、それに対して俺は蜘蛛の改造人間」
「それがどうした」
「虫は蜘蛛に喰われる運命。今からそれを思い出させてやる」
 そしてストロンガーの周りを漂う糸をその八本の足で引いた。
「喰らえっ!」
 糸が一斉に襲い掛かる。そしてストロンガーの全身を覆った。
「ストロンガー、その糸の中で潰されるがいい!」
 糸が無気味な音を立ててきしむ。そしてストロンガーの全身を締め付ける。これで終わりかと思われた。
「フフフフフ」
 だがその中にいるストロンガーは余裕の笑みを出した。
「何」
「甘いな、クモ獣人よ」
 ストロンガーはまた言った。
「この程度で俺を倒せると思っているのか」
「戯れ言を。今貴様は繭の中にいるではないか。俺の糸の中に」
「今はな。だが」
 ここで激しい放電が起こった。
「な!」
 クモ獣人はそれを見て叫び声をあげた。
「これでどうかな」
 放電による熱が糸に伝わる。そしてそれにより糸が瞬く間に焼かれていった。
 糸は消えた。そしてストロンガーは繭から無事出て来た。
「放電による熱を忘れていたな、クモ獣人よ」
「クッ、ぬかったわ」
「その台詞は何時聞いてもいい。だがな」
 彼は身構えた。
「今度は俺の番だ。ケリをつけさせてもらう」
 そう言うと跳んだ。そしてクモ獣人の前に来た。
「受けてみろ」
 右腕に力を溜めている。
「電気ビーーームッ!」
 そして電気を放った。それは一直線に怪人に襲い掛かる。
「させんっ!」
 怪人はそれに対して糸を放つ。それで防ごうというのだ。
 だがそれは出来なかった。やはり熱には勝てない。焼かれていく。
 電気が怪人の胸を撃った。糸の巣が伝わった熱で瞬く間に焼かれていく。
「グググ」
 クモ獣人は炎に包まれた。そしてゆっくりと下に落ちていく。
「見事だ、ストロンガーよ」
 それが最後の言葉だった。地に落ちると爆発して果てた。
 ストロンガーは着地した。そして戦闘員達を後ろに従えたタイタンを指差した。
「タイタン、残るは貴様だけだ」
「俺だけか」
「そうだ、他に誰がいるというのだ」
 ストロンガーは悠然とした物言いのタイタンに対して言い返した。
「それともまだ誰かいるというのか」
「いると言ったらどうする」
「知れたこと。そいつも倒してやる」
「そう言うと思っていた。では貴様にも見せてやろう。我がバダンの新たな切り札を」
「新たな切り札」
「そう、あれだ」
 タイタンがそう言うと同時に大地が揺れた。
「ムッ!?」
「見るがいい、ストロンガーよ」
 タイタンはその揺れを楽しむようにして言った。
「あの巨人を!」
 すると街の上に一体の巨人が姿を現わした。
「ウオオオオオオオオッ!」
 その巨人は姿を現わすと同時に地の底から響き渡る様な声で咆哮した。
「何と・・・・・・」
 ストロンガーはその姿を見て絶句した。巨大さにはまだ驚いていなかった。
 その姿は武装した男であった。古代ギリシアの鎧と兜で武装し、手には槍を持っている。漆黒の肌に濃い髭を生やしている。
 だがさらに驚くべきはその両足であった。何と人間のものではないのだ。
 それは巨大な蛇であった。二匹の大蛇がシュウシュウと音を立てて進んでいた。
「あれはまさか・・・・・・」
「ほう、やはり知っていたか」
 タイタンはストロンガーが驚いているのを見てさらに機嫌をよくさせた。
「ギガンテスだ。その目で見るとは思わなかっただろう」
 タイタンはストロンガーに対して言った。笑いを含ませた声で。
 ギリシア神話において大地の神ガイアが作り出した神々の敵対者。その巨大な身体と強大な力を以って神々と覇権を争った巨人達である。彼等はまさに大地の化身であった。
「このギガンテスはあのギガンテスとはまた違う」
「何!?」
「あれを見よ」
 タイタンはギガンテスを指差した。すると巨人の両足の二匹の蛇の目が赤く光った。
 そしてその口を開ける。そこに闇が集まった。
「いや、違う。あれは」
 ストロンガーはそれを見て思わずことばを出した。その声は半ば叫びとなっていた。
 それは黒い光であった。ある筈のない光が蛇の口に集まってきていた。
 その黒い光が放たれた。山に向けて放たれた。
 そしてその山の頂上を消し去った。山の頂上は跡形もなく消え去り跡には何も残っていなかった。
「何という力だ」
 ストロンガーはそれを見て思わず絶句した。タイタンはそんな彼に対して言った。
「どうだ、素晴らしい力だろう。これがバダンの力だ」
「タイタン、何を考えている」
 ストロンガーは高らかに笑う彼に詰め寄った。
「その力で何をするつもりだ」
「何をするつもりか」
 彼はニヤリ、と笑った。
「それ貴様が最もよくわかっていることだと思うがな」
「クッ」
「ブラックサタン、いやショッカーからの我等が悲願、遂にそれが果される日が来るのだ」
 タイタンは誇らしげに胸を張った。
「だが俺はその前にやらなければならないことがある」
 そう言ってストロンガーをその無数の目で見やった。
「ライダーストロンガー、貴様はこの俺の手で倒す。必ずな」
「やれるものか」
「フフフ、いつもながら大した自信だ。だがな」
 その無数の目が光った。
「ブラックサタンの頃の俺だとは思わないことだ。後悔するぞ」
「何を!」
 激昂したストロンガーはエレクトロファイアーを放った。
 電撃が地を伝う。そしてタイタンを撃った。だが彼は平然としていた。
「その程度では俺を倒せはせん」
「減らず口を!」
「まあよい。挨拶としては実にいい」
 彼は後ろに下がった。
「すぐに会おう。その時こそ貴様が死ぬ時だ」
「言うな!」
「その時は超電子の力で来るがいい。そうでなければ面白くはない」
「貴様に言われずとも見せてやる」
「楽しみにしておこう」
 タイタンは余裕に満ちた声でそう言った。
「ではさらばだ、フフフフフ」
 そして彼は姿を消した。戦闘員達もそれに続いた。
 ギガンテスも何時の間にか姿を消していた。戦いの後は何処にも残ってはいなかった。
「ストロンガー」
 そこに立花が戻ってきた。
「おやっさん」
 ストロンガーは彼に顔を向けた。
「多くは言わん。だがな」
 彼はあえて言葉を少なくさせた。
「戦え。そして勝て。わかったな」
「はい」
 ストロンガーは頷いた。そして次の戦いへの決意を新たにした。

 タイタンとの戦いを終えた城は一旦立花と別れた。そして一人バイクでシチリアの荒野を進んでいた。
「ギガンテスか」
 そしてタイタンの出した蛇の足を持つ巨人のことを脳裏に浮かべた。
「恐ろしい奴だ。あの黒い光は尋常じゃない」
 それは嫌でもわかることであった。
 黒い光は通常では有り得ない。それをバダンは使っている。それだけでも信じ難いことだ。
 それだけではなかった。その力は恐るべきものである。一撃で山の頂上を消し去る程である。
 もしそれで世界を破壊にかかったならば。結果は容易に想像できた。
「それだけは許さん」
 彼は強い声でそう呟いた。
「俺が、ライダーがいる限り世界は守る」
 それが彼の決意であった。
「そして」
 彼にはもう一つの決意があった。
「あいつに誓ったことを今度こそ果す」
 デルザーが崩壊した後彼は世界に旅立った。別れも告げずに。
 既に首領はこの時新たな組織の胎動を開始していた。ライダー達はそれを察知していたのだ。
 暗黒大将軍という怪しげな男と戦ったこともあった。彼はかっての組織の怪人達を使っていた。それが何故か、すぐにわかることであった。
「奴はほんの時間稼ぎに過ぎなかった」
 彼もまた首領の使徒であったのだ。
 彼との戦いでライダー達は首領の存在を感づいた。そしてすぐに動いた。
 それから世界各地に散ったのだ。デルザーを倒してすぐのことであった。
 首領はすぐに復活した。ネオショッカーと共に。
 ネオショッカーは世界で暗躍した。その力はかってのショッカーを彷彿とさせる程であった。
 ネオショッカーを倒し彼等が宇宙から帰って来た時にはまたもや首領が動いていた。宇宙に葬り去った筈の首領が生きていたのだ。
 ドグマ、ジンドグマ。戦いは何時終わるかわからなかった。
 そしてバダンだ。彼等は休むことなく戦い続けている。
 その為約束は今だに果されてはいない。それが何時になるのか彼にはわからない。
「もしかすると永遠かもな」
 そう思うことも何度もあった。だが彼は決して諦めてはいなかった。
 諦めない、それがライダーである。ほんの一条でも希望がある限り。
 だからこそ彼等は戦うのだ。少しでも希望があればそれを力づくでこじ開ける。そして世界を救うのだ。
「それがわかるまでどれだけかかったか」
 絶望に苛まれることもあった。特にデルザーとの死闘の時には。だが彼はそれを乗り越えた。
 超電子ダイナモを受け入れた時それを悟った。超電子の力は彼に悪と戦う力を与えただけではなかったのだ。
 この時彼は言われた。手術をして生き残る可能性は僅かだと。だが彼はそれにかけたのだ。悪に勝つ為に。
 そして彼は勝った。悪に勝ったのだ。そして心にある信念を宿らせた。
「ほんの少しでも希望、可能性があればそれに賭ける」
 ということを。そこから突破すればいいのだと。
 今もそれを胸に戦っている。それが彼の信念であった。
「勝つ。絶対にだ!」
 彼はあらためてそう決意した。そして荒野を進んでいく。
 暫く進んだ時であった。不意に何かが城に向かって飛んで来た。
「ムッ!?」
 それは数枚のトランプであった。
「まさか!」
 トランプ、それを彼はよく知っていた。
 爆発が彼を包んだ。激しい光と煙が荒野を覆った。
「やったか!」
 戦闘員達が姿を現わした。そして辺りを確認する。
「気をつけろ。そう簡単に死ぬような男ではない」
 怪人も姿を現わした。ブラックサタンの豪力怪人奇械人メカゴリラである。
「ハッ、それはわかっております」
 戦闘員達は彼に敬礼して答えた。
「左右に散れ。そしてくまなく探し回れ」
 怪人は素早く指示を出す。そして城とバイクを探させた。

「一体何処にいるのか。あの程度で死ぬ筈がない」
 そう言った時であった。
「その通り!」
 不意に右から声がした。
「その声は!」
 怪人と戦闘員達が振り向く。そこに彼がいた。
「行くぞバダン!」
 カブトローXに乗る雷のライダー、仮面ライダーストロンガーがそこにいた。
 ストロンガーは突き進む。その前を戦闘員達が立ちはだかる。
「邪魔だ!」
 ストロンガーは叫んだ。そして戦闘員達を吹き飛ばしていく。
 そのまま怪人に突っ込む。奇械人メカゴリラはそれを見て構えをとった。
「させん!」
 その力で防ぐつもりだ。だがストロンガーは止まらなかった。
 怪人はその左の鋏でマシンを止めようとする。ストロンガーはそれでも進む。
「貴様の力と俺のマシン、どちらが勝つか」
 彼は突き進みながら言った。
「勝負だ!」
 そして体当たりを敢行する。怪人は鋏でそれを掴む。
 だがマシンは止まらなかった。鋏を弾き飛ばし怪人にぶち当たる。
「グオオオオッ!」
 思いきり跳ね飛ばされた。そして岩の地面に叩き付けられる。
 何度かバウンドした。そして空中に舞い上がったところで爆死して果てた。
 ストロンガーはそこで止まった。マシンから降りたその時だ。
「ムッ!?」
 彼の周りを数枚の巨大な布が覆った。その色は赤、青、黄、緑等と様々だ。
 そこから戦闘員達が姿を現わした。彼等は槍を手に襲い掛かる。
「死ねっ!」
 槍でストロンガーを突く。だがそれは全てかわされてしまう。
「その程度っ!」
 ストロンガーは一人の槍を奪った。そしてそれを手に戦闘員達の中に切り込む。
 槍を縦横無尽に振るう。戦闘員達はそれにより次々と薙ぎ倒されていく。
「グワアアッ!」
 戦闘員達が一人残らず倒れるのに然程時間はかならなかった。だがそれで戦いが終わったわけではなかった。
「ギギギギギィィィィィッ!」
 また怪人が出て来た。ゲルショッカーの植物怪人サボテンバットである。
「ストロンガー、貴様をサボテンにしてやろう!」
 怪人はそう叫ぶと腕を振るって向かって来た。ストロンガーはそれを槍で受けた。
「させんっ!」
 そしてそれで突く。だが怪人はそれをかわした。
 かわした反動を利用して再び襲い掛かる。だがそれはかわされてしまった。
 両者はそのまま攻防に入る。サボテンバットはその腕で槍を叩き折ろうとする。だがストロンガーはそれを察知して巧みにかわす。
「トォッ!」
 らちが明かないと見たストロンガーは後ろに跳んだ。そして間合いを離した。
 そして思いきり振り被った。当然その手には槍がある。
「これでどうだ!」
 槍を投げた。それは唸り声をあげながら怪人に向かって行く。
「グワアアッ!」
 槍は怪人の胸を刺し貫いた。サボテンバットは絶叫した。
 だが致命傷にはならなかった。怪人はまだ立っていた。
「ならばっ!」
 それを見たストロンガーは跳んだ。そして空中で一回転する。
「電キィーーーーーーック!」
 蹴りを放つ。だがそれは怪人を狙ったものではなかった。
 突き刺さった槍を狙っていたのだ。その先を蹴る。
 槍が怪人の身体を貫通した。怪人はそれを受け断末魔の叫びをあげた。
「ウワアアアアアーーーーーーーッ!」
 それが最後の言葉だった。サボテンバットは無残に爆死して果てた。
「これで二体」
 ストロンガーは油断してはいなかった。慎重に辺りを見回す。
「奴等のことだ、まだ何かしてくる筈だ」
 その予想は不幸にして的中した。
「シャーーーーーーッ!」
 突如としてミサイルが飛んで来た。ストロンガーは咄嗟に跳んだ。
 ミサイルは今まで彼がいた場所で爆発した。彼はそれを紙一重でかわしたのだ。
「危ないところだったな」
 だが危険はまだ去ってはいなかった。
「甘いわ!」
 今度は蛇の首が襲い掛かって来た。
「ムッ!」
 ストロンガーはそれを手刀で叩き落とす。蛇の首はその手刀で断ち切られた。
 だがそれで終わりではなかった。蛇の首は空を飛んで襲い掛かって来た。
「ウオッ!」
 身体を後ろに捻りかわす。そして反転して態勢を立て直す。
「どういうことだ」
 ストロンガーは再び襲い掛かろうと空中を浮遊する首を見た。その前に一体の怪人が姿を現わした。
「知りたいか」
 それは蛇の怪人であった。ドグマの毒蛇怪人スネークコブランである。
「それは俺の左腕だ」
「何ッ」
 怪人の左腕を見る。確かに手首から上がない。
「俺は左腕を自由に操ることができるのだ。例え離れていようとはな」
「離れていてもか」
「そうだ。それが俺の力だ」
 スネークコブランは誇らしげに言った。
「だがそれだけではない」
 そう言うと口に手を当て身構えた。
「喰らえっ!」
 そして口からミサイルを放ってきた。だがそれはストロンガーに何なくかわされてしまう。
「さっきのミサイルも貴様のものか」
「フフフ、如何にも」
 怪人はそれを肯定した。
「どうだ、素晴らしい力だろう、ライダーストロンガーよ」
「確かにな」
 ストロンガーは身構えながら言った。
「貴様はここで死ぬ。この俺の手でな」
 不敵な笑みを浮かべた。
「さあ死ね、苦しまずに殺してやる!」
 首が襲い掛かる。ミサイルも放った。ストロンガーはそれに対して微動だにしない。
「観念したか!」
 違った。彼は決して諦めてはいなかった。
 前に走った。ジグザクに走りミサイルをかわす。
「そうきたか。だが俺の首から逃れられるか!」
 首が襲い掛かる。ストロンガーめがけ牙を剥いてやって来る。
 ストロンガーは逃げなかった。その首を前に拳を出した。
「ムン!」
 その首を掴んだ。そして両手で掴む。
「電ショック!」
 両手から電撃を放つ。そしてそれで首を撃つ。
「まさか!」
 高圧電流を受けた首は忽ち黒焦げになった。そしてすぐに炭となり消えていった。
「残るは貴様だけだ!」
 ストロンガーはなおも突っ込む。そして怪人に手刀を繰り出した。
「電チョップ!」
 怪人の胸を撃つ。雷を帯びた手刀を受け怯む。
 火花が散る中ストロンガーはさらに攻撃を続ける。
「電タッチ!」 
 怪人の身体を掴み加熱させる。そしてそれで怪人を焼く。
「ウオオオオオッ!」
 それを受けた怪人は叫び声をあげる。ストロンガーはなおも攻撃を仕掛ける。
 投げた。空中に高々と投げる。
「トォッ!」
 そして自らも跳んだ。空中で態勢を整える。
「ストロンガーニーブローーーーーーック!」
 膝蹴りを放つ。それは怪人の腹を打った。
 それが決め手であった。怪人は空中で爆発四散して果てた。
 ストロンガーは着地した。最早そこには誰もいなかった。
 だがそこに何かが飛んで来た。
「ムッ!?」
 ストロンガーはそれに対して構えを取った。それは一枚の巨大なトランプであった。
「スペードのキングか」
 彼はそのカードに心当たりがあった。
「貴様か」
「その通り」
 カードの中から一人の男が姿を現わした。
「ストロンガーよ、暫く振りだな」
 ゼネラルシャドウはストロンガーに正対した。
「俺がここに来た理由はわかっているな」
「当然だ」
 ストロンガーは彼に対して言った。
「貴様の考えはよくわかっている。さっきのトランプ爆弾も貴様だろう」
「如何にも」
「シャドウ、貴様もタイタンと同じく俺の首を狙っているな」
「そうだ。その他に何の理由があるのだ」
 シャドウは背中のマントを翻しながら言った。
「貴様を倒すことこそが俺の生きがいなのだからな」
 そして腰の剣を抜いた。
「シャドウ剣」
 剣の名を呼び構えをとる。
「その剣を抜いたということは」
 ストロンガーは構えを崩していなかった。シャドウから目を離さない。
「やるつもりか」
「そうだ」
 シャドウは答えた。
「だがそれは今ではない」
 そして剣を下した。
「何!?」
「あれを見るがいい」
 シャドウはそう言うと自らの右手を剣で指し示した。
「ムッ」
 ストロンガーはそちらに顔を向けた。そこは岩山であった。
「見るがいい。俺の切り札を」
 シャドウはここでカードを取り出した。スペードのエースである。
「さあ、来るがいい古の巨人よ」
「古の巨人!?」
 ストロンガーはその言葉にハッとした。
「まさかそれは」
「フフフ、少し違うがな」
 シャドウは面白そうに笑った。
「タイタンのギガンテスのことを言っているのだろう。だが俺はタイタンとはまた違う。そこまで芸がないつもりではない」
「では何だ」
「問う前に見るがいい、あれを」
「ムッ」
 ストロンガーは言われるままに顔を向け直した。そこに巨人が姿を現わした。
「グオオオオオーーーーーーッ!」
 それは青銅の巨人であった。身体の全てが青銅で作られていた。
「タロスか」
「その通り」
 シャドウは答えた。ギリシア神話に出て来る青銅の巨人である。
「俺の生み出した最強の切り札だ。ストロンガーよ、よく見るがいい」
「クッ」
 ストロンガーは歯噛みしながらタロスを見据えた。
「この怖そるべき力を」
 タロスは両腕を上げた。そしてその手の平を下に向ける。
 そこからあの黒い光が放たれる。それはストロンガーとシャドウの少し前に当たった。
 やはり消えた。そこには巨大な穴が出来上がった。
「先にもこの黒い光は見ているな」
「・・・・・・・・・」
 ストロンガーは答えなかった。答えずともわかっていることだからだ。
「ならばわかっている筈だ。バダンの考えを」
 ストロンガーはなおも答えようとしなかった。
「ストロンガー、貴様の考えはわかっている。答えずともな」
「そうか」
 ここで彼はようやく口を開いた。
「来るがいい。そして俺と刃を交えるのだ」
 シャドウは来たるべき戦いに思いを馳せつつ言った。
「このシャドウ剣が貴様を倒す。それを楽しみにしていろ」
「生憎だがそうはいかない」
 ストロンガーは反論した。
「何度も言った筈だ。俺は悪には決して屈しないと」
「そう言うと思っていた」
 シャドウはやはり満足気に言った。
「俺もそうでなくては張り合いがない。貴様を倒すことにな」
「シャドウよ、これも何度も言ったことだ」
 ストロンガーはなおも反論を続けた。
「俺はバダンにも貴様にもタイタンにも決して負けはしない、とな」
「そうだったな」
 だが不敵な笑みは崩さない。それがゼネラルシャドウであった。
「では次に会う時を楽しみにしておこう。その時こそ貴様の最後だ」
 そう言うと手にトランプを拡げた。そしてそれを上に放り投げた。
「トランプフェイド!」
 そのトランプの吹雪の中に消えた。後にはトランプのカードだけが残された。
「消えたか」
 ストロンガーはそのカードを見下ろして呟いた。
「タイタン、シャドウと奴等が率いる二体の巨人か」
 ストロンガーはそのことについて考えた。
「相手にとって不足はない。俺は必ず勝つ」
 そして青空を見た。
「それがあいつに誓ったことだからな」
 空は何処までも広がっている。青くまるでサファイアの様に澄んでいる。
 だが今もここで戦いが行われている。ライダー達とバダンの世界の平和をかけた戦いが。彼はそれについて思わずにはいられなかった。
「必ずその日は来る」
 彼はまた呟いた。
「この世から怪人共が全ていなくなる日が」
 彼は戦場を去った。そして立花のいる休息の場所に向かった。束の間の休息をとる為に。

 立花はレストランにいた。そしてそこで食事を採っていた。
「どうやら一戦交えてきたようだな」
 立花は城の顔を見るなりそう言った。
「わかりますか」
「わからない筈ないだろうが」
 立花はそれに対して言った。
「伊達に御前達と長い間付き合ってるわけじゃないぞ」
「そうでしたね」
「御前達のことなら何でも知っているさ。今度はゼネラルシャドウにでも遭ったか」
「ええ」
 城はその問いに対して頷いた。
「奴も巨人を連れていました」
「そうか」
 立花もそれを聞いて頷いた。
「今度は青銅の巨人でした。ギリシア神話のタロスです」
「タロスか。また手強そうな奴が出て来たな」
「はい」
「だが行くんだろう。奴等を倒しに」
「はい」
 城は一言言って呟いた。
「そう言うと思っていたさ。じゃあまずは腹ごしらえといこう」
 立花はウェイターを呼んだ。そして料理を注文する。暫くして山の様な料理が運ばれてきた。
「おやっさん、これは」
「わしのおごりだ、たんと食え」
 立花は驚く城に微笑んだ。
「わしにはこれ位しかできないがな。けれどたっぷり食ってくれ」
「はい」
 城は頷いた。そしてフォークを手にまずはナスとトマトソースのスパゲティを口にした。
「美味い」
「そうだろうな、本場だからな」
 立花はそれを見て目を細めた。
「食ったらすぐに行くぞ。わしも一緒だ」
「おやっさんもですか」
「当然だ。わしが行かなくて他に誰が行くんだ」
「そうでしたね」
 城も温かい目をした。思えば立花がいなければ今の自分はなかった。
「わしは何時でも御前達の味方だ。例え何があろうとな」
「はい」
 その言葉に偽りはなかった。立花はどんな時でも自分達を信じ、時には優しく、時には厳しく接してきた。身寄りのないライダー達にとって彼はまさに父親であった。
 父親は常に子を見守り育て慈しむものだ。立花は子はなくとも立派な父親であった。
 だからこそ城も他のライダー達も彼を慕うのだ。彼なくしてライダーはなかった。
「茂」
 立花はここでワインを出した。シチリア産の赤だ。
「飲め。まずはこれで戦意を高めろ」
「はい」
 城は言われるままにグラスを差し出した。そこに紅いルビーの様な酒が注がれる。
 城はそれを飲んだ。口の中に芳香な味が漂う。
「いいですね」
「そうだろ、やっぱりイタリアのワインは違うな」
 見れば立花は顔を少し赤らめている。
「もう一杯どうだ」
「いいですね」
 そしてもう一杯飲む。立花もだ。酒はそれでなくなった。
「もう一本いくか」
「いえ」
 だが城はそれを断った。
「もういいです」
「何でだ」
「戦いがありますから」
「そうだったな」
 立花もそれに納得した。
「これ以上飲むのは勝ってからにするか」
「はい」
 城はそのつもりだったのだ。二人共酔って身体の動きを崩すようなことはない。ただ勝利の美酒は味わいたいのだ。
「じゃあ行くか」
「はい」
 二人は立ち上がった。
「奴等の首をへし折ってやるか」
「この手で」
 城は右の拳を出した。黒い手袋がギュッ、と音を立てる。
「よし」
 二人は店を後にした。そして戦場に向かうのであった。

 城は既にストロンガーに変身していた。そして立花と共に海辺に来ていた。
「反応はあるか」
 立花はストロンガーに問うた。
「いえ」
 ストロンガーはシグナルに注意を払いながら答えた。
「どうやらここにはいないようです」
「そうか」
 二人は海辺を後にした。
「この海から離れるのは少し心苦しいですが」
「勝ってからゆっくり見るか」
「はい」
 こうした時でも洒落っ気を忘れない二人であった。
 古代劇場に来た。かってのギリシア文化の名残だ。
「ここで戦いになると絵になりますね」
「ははは、確かにな」
 立花はストロンガーのジョークに笑った。
「いつもはこういう時に奴等が出て来るがな」
「呼んだか」
 ここでタイタンの声がした。
「・・・・・・噂をすれば何とやら、か」
「その通りだ」
 百目タイタンが姿を現わした。
「俺は貴様等がここに来るのを待っていたのだ」
 だが彼は今はスーツを着ている。戦闘服ではない。
「そして俺も」
 二人の後ろからもう一人が姿を現わした。
「シャドウか」
 ストロンガーは後ろを振り向いて言った。
「そうだ」
 シャドウはゆっくりと歩み寄りながら答えた。
「ストロンガー、もう逃げられんぞ」
「フン」
 ストロンガーはタイタンに言葉に対し不敵な笑みで応えた。
「元々逃げるつもりはない」
「ほう」
 二人はそれに応える様に間合いを詰めてきた。
「タイタン、シャドウ」
 ストロンガーは二人を見据えた。
「今ここで貴様等を倒す!」
 そして構えを取った。だが二人はそんな彼に対して言った。
「それはあの者達を倒してから言うのだな」
「残念だが俺との戦いはその後になる」
 二人はサッと間合いを離した。
「あの巨人達か」
「そうだ」
 二人は答えた。
「さあ、い出よギガンテス!」
「タロス、ここに姿を現わすがいい!」
 二人の声に合わせ巨人達が姿を現わした。二体の巨人達は左右から劇場の外に姿を現わした。
「ストロンガー、外に出るがいい」
 タイタンはストロンガーに言った。
「貴様もこの劇場を破壊したくはないだろう」
「無論」
 キザでも知られているタイタンらしかった。彼はこの歴史ある劇場を破壊することを好まなかったのだ。
「ほう、タイタンよ」
 シャドウはそれを見て笑った。
「貴様も芸術がわかるようだな」
「ふざけるな、シャドウ」
 タイタンはシャドウに振り向かずに言った。
「俺とて地底王国の魔王、芸術を見る目は備えている」
「フフフ、そうだったか」
 シャドウは笑みを出し続けている。タイタンはそんな彼に対しまた言った。
「からかうな、シャドウよ。それ以上は許さんぞ」
「そうか、では止めるとしよう」
 彼は笑みを消した。
「俺も貴様に従う。確かにこの劇場は壊すに惜しい。むしろ」
 劇場を見渡している。
「ここでストロンガーを倒したいと思う位だ」
「フン、相変わらずだな」
「フフフ」
 シャドウは再び不敵な笑みを出した。そして劇場から去った。タイタンもだ。
「行くぞ」
 二人は観戦に向かった。外では既に巨人達の咆哮が木霊している。
「わしも行くぞ」
 立花も向かった。彼は観戦の為ではない。ストロンガーと共に戦う為である。
 立花が劇場を出た時には戦いは既にはじまっていた。ストロンガーは二体の巨人を向こうに回していた。
「トォッ!」
 上に跳ぶ。そしてギガンテスに蹴りを放つ。
「電キィーーーーーック!」
 だがそれは効果がなかった。巨人は平然としていた。
「クッ、この程度では効果がないか」
「グオーーーーーーーッ!」
 巨人は叫んだ。そして着地したストロンガーの上に槍を振り下ろす。
 だがそれはかわした。ストロンガーは側転しながらかわす。
 しかし巨人はギガンテスだけではに。もう一体のいるのだ。
「ガオオオオーーーーーーッ!」
 タロスが足を振り下ろす。そしてストロンガーを踏み潰そうとする。
 ストロンガーはそれに対し側転を続けた。そしてそれでタロスの足をかわした。
「危ないところだったな」
 ストロンガーは態勢を立て直して言った。そこに立花が来た。
「おやっさん」
「ストロンガー、わしも戦うぞ」
 心強い味方であった。ストロンガーはその言葉を聞いて頷いた。
「わかりました、頼りにしてます」
「おう、任せとけ」
 立花は素早い動きで巨人の足下に潜り込んだ。
「こっちだ化け物!」
 そして怪人を挑発する。巨人はそちらに気をとられた。
 その隙にストロンガーが攻撃を仕掛ける。跳び拳を巨人の顔に繰り出す。
「喰らえっ!」
 だがそれはその青銅の身体に弾き返される。その身体は伊達ではなかった。
「グオッ!」
 ダメージはなかったが巨人の神経を逆撫でするには充分効果があった。タロスは両手でストロンガーを掴み、握り潰そうとする。
 だがそれはかわされた。ストロンガーは巨人の肩を踏み台にして後ろに跳んだ。そして巨人の手が届かない範囲で両手を胸でクロスさせた。
「チャーーージアップ!」
 胸のSの文字が回転する。そして超電子ダイナモが作動した。
 ストロンガーの角と胸の一部が銀色になった。超電子の力が身体に宿ったのだ。
「トォッ!」
 前に跳ぶ。そこには立花がいた。
「おやっさん、下がって!」
「おう!」
 立花はそれに従い後方に下がる。そしてタロスの攻撃が届かない範囲まで退いた。
「ストロンガー、神話を思い出せ!」
 そしてストロンガーに対して言った。
「神話!?」
「そうだ!」
 立花は叫んだ。
「タロスの弱点、それは」
「クッ、まさか」 
 観戦していたシャドウはその言葉に反応した。
「踵だ!タロスはそこを突かれて死んでいるんだ!」
「そうだ、踵だ」
 ストロンガーもそれを思い出した。そして巨人の足下に潜り込む。
「グオーーーーーーッ!」
 巨人は手の平から黒い光を放つ。しかし超電子の力で速度を速めているストロンガーには当たらなかった。
「その程度で俺を倒せるか!」
 ストロンガーは右の踵のところに来た。そして手刀を繰り出す。
「超電子チョップ!」
 それでまず一撃を加えた。
「グオオオオオオッ!」
 巨人は絶叫した。そして苦しみのあまりその動きを止めた。
「おやっさんの言う通りだ」
 ストロンガーはその苦しみを見て確信した。そしてさらに攻撃を仕掛ける。
「まだだ!」
 振り被った。そして拳に雷を宿らせて繰り出す。
「超電三段パァーーーーーンチッ!」
 三連続で拳を繰り出す。そしてそれで巨人の踵を完全に粉砕した。
「グオオオオーーーーーーッ!」
 タロスは断末魔の絶叫をあげた。そしてたちどころに砂の様に崩れてきた。
「危ない!」
 ストロンガーはそれから素早く飛び退いた。そして難を逃れた。まずは一体だ。
「フフフ、どうやら奴は貴様の巨人の手に負える男ではなかったようだな」
 タイタンはその様子を見てシャドウに語りかけた。
「何を」
 シャドウはキッと彼を見据えた。
「すぐに貴様の巨人もああなる」
「それはどうかな」
 だがタイタンは自信ありげな態度を崩してはいない。
「俺の巨人はタロスとは違う。そう」
 言葉を続けた。
「俺の巨人はかって神々と覇権を争った程の恐るべき巨人だ。あの様な作り物とは違う」
 ギガンテスは複数称である。単数ではギガスである。だがタイタンはあえてそう名付けた。その絶大な力故である。
 ギガンテスの力は他の巨人達よりも上であった。純粋に戦闘力ならばティターン神族よりも上であったしオリンポスの神々すらも凌駕していた。それはその怪物的な姿とも関係があった。
「さあ、ギガンテスよ」
 タイタンは眼下の巨人に対して言った。
「今こそその力を見せろ。そしてストロンガーを倒せ!」
「ガオオーーーーーーーッ!」
 それに応えるかの様に巨人は吠えた。そして両足の大蛇達が鎌首をもたげた。
 その両眼から黒い光が放たれる。ストロンガーはそれをかわした。
「おやっさん、こいつは」
 そして立花に問うた。
「ギガンテスか」
「はい」
 ストロンガーは答えた。
「確か神と戦ったやつだったな」
「ええ」
 立花もそれは知っていた。
「確かこいつは」
 二人は巨人の槍と黒い光をかわしていた。そして隙を窺う。
「弓にやられたな。神々とヘラクレスの弓にだ」
「ヘラクレスにですか」
 彼は力だけでなく弓にも秀でていたのだ。
「そうだ。その弓で一人残らずやられたんだ」
「そうだったのですか」
 ストロンガーはそれを聞いて考え込んだ。
「弓か」
 彼の脳裏にとあることが思い浮かんだ。
「上からならば蛇も狙うことは簡単じゃない」
 ギガンテスの蛇は両足である。下から上を狙うのは中々難しい。
「それは槍もだ」
 彼はこの巨人の弱点を見出した。上からの攻撃だ。
「よし!」
 彼は跳んだ。そして空中で構える。
「これでどうだっ!」
 そこから蹴りを放つ。
「超電子ドリルキィーーーーーーーック!」
 高速できりもみ回転しながら急降下する。そしてそれでもって巨人の胸を貫く。
 ストロンガーはその巨体を貫通した。背中まで蹴破り地面に着地した。
「ムッ」
 後ろを振り返る。そこで胸に巨大な風穴をあけた巨人が立っていた。
 しかしそれは一瞬のことであった。ギガンテスもまた砂の様に消え去っていった。
「巨人達は倒したか」
「ストロンガー、よくやった」
 立花がそこに駆け寄って来る。
「見事な戦いだったぞ」
「いえ」
 だが彼はその言葉には首を横に振った。
「どうしたんだ」
 立花はそれを見て怪訝そうな顔をした。
「今回の戦いはおやっさんのおかげです。おやっさんの助言がなければ勝つことはできませんでした」
「おい、謙遜は止めてくれよ」
 立花はそれを聞いて照れる。
「その通り、この度の戦いは立花藤兵衛の言葉があったからこそだ」
 ここでシャドウが言った。
「その助言があればこそストロンガーは勝つことができた。だが」
 彼は言葉を続けた。
「やはり巨人ではストロンガーの相手にはならなかったのも事実。やはりストロンガーを倒すのはこの俺しかいない」
「シャドウ」
 ストロンガーは顔を上げた。
「ストロンガー」
 シャドウはストロンガーに対して言った。
「明日勝負を挑む。いいな」
「望むところだ」
 ストロンガーはそれを承諾した。
「場所はシラクサのコロシアムだ。いいな」
「シラクサか」
「そうだ。我等が決着を着けるのに相応しい場所だろう」
 シャドウはそう言うとニヤリ、と笑った。
 シラクサはかってポエニ戦争で激戦地となった都市である。この都市を巡ってローマとカルタゴの勢力は互いに争った。そしてローマはこの都市を何とか陥落させている。
 なおこの街は偉大な学者アルキメデスの出身地として有名である。数学の定理で知られる彼はこの街がローマに占拠された際兵士達に殺されている。占領の際の交渉によりローマの将兵は一般市民には一切手を出さないことになっていた。ただ財宝はもらった。この時代の戦争においては当然の報酬であった。
 この時トラブルが起こった。兵士の一人がうっかりと数学の公式について考えている彼の思想の邪魔をしたのだ。これにアルキメデスは激怒した。それに激昂した兵士はアルキメデスを殺してしまった。不幸な話であった。
「それでよいな」
「俺に異論はない」
「よし」
 シャドウは満足したように頷いた。
「では明日だ。楽しみに待っている」
 シャドウはそう言うと身体を背中のマントで覆った。
「マントフェイド!」
 そしてその中に消えていった。後にはタイタンが残っていた。
「フン、相変わらずキザな男だ」
 タイタンはシャドウの様子を見送って言った。
「貴様も人のことは言えないだろうが」
 立花が彼に対して言った。

「いつも黒いスーツに身を包みやがって。そんなに服が大事か」
「当然だ」
 タイタンは無数の目で彼を見下ろして答えた。
「だが俺はキザではない」
「じゃあ何なんだ」
「これはダンディズムというのだ。貴様にはわかるまいがな」
「どっちも同じだ」
「まあいい。貴様には関係ない話だ。ところで」
 タイタンもまたストロンガーに目を向けた。
「俺もまた貴様に勝負を挑もう」
「やはりな」
 ストロンガーはそれを予感していた。
「時間はシャドウとの戦いの後でいい。何時でもな」
「そうか」
「場所はパレルモ。クワットロ=カンティだ」
「クワットロ=カンティか」
「そうだ。貴様の墓標に選んでやった。感謝するがいい」
 クワットロ=カンティとは『四つ角』という意味でありヴィットーリオ=エマヌエレ通りとマクエダ通りが直角に交わる場所である。それぞれの角にスペイン統治時代の君主や四季等を司る守護聖人達の像が置かれている。
「俺はそこにいる。シャドウとの戦いが終わったならば来るがいい」
「わかった」
「俺から言うことはそれだけだ。それではな」
 タイタンはそう言うと全身を巨大な火の玉に変えた。
「では次に会う時を楽しみにしているぞ」
 そして姿を消した。
「ンッフッフッフッフッフッフ」
 その独特の笑い声だけが残った。
「ストロンガー」
 立花は険しい顔でストロンガーに語り掛けた。
「わかっています」
 彼は強い声で答えた。
「シャドウにタイタン、リビアで再び対峙した時から何時かはこうなると思っていました」
「そうか」
「行きます」
 彼は頷いた。
「そして勝ってきます」
「おう、その時こそ飲むぞ」
「はい」
 こうして二人もこの劇場から去った。そして次の戦いに備え英気を養うのであった。

 翌日の正午城は約束通りシラクサのコロシアムに姿を現わした。
 一人である。あえて立花は呼ばなかった。
「一騎打ちですから」
 彼は立花に言った。男と男の勝負だからだ。
 このコロシアムはローマ風であった。擂り鉢状でありその中心に闘いの場があった。
「シャドウ」
 彼はゼネラルシャドウを呼んだ。
「約束通り来たぞ、早く姿を現わせ」
「言われずとも既にいる」
 前からシャドウが姿を現わした。
「城茂、いや仮面ライダーストロンガーよ」
 そしてあらためて彼に対して言った。
「よく俺の申し出を受けてくれた。礼を言うぞ」
「礼なぞ要らん」
 だがストロンガーはそれを突っぱねた。
「今から俺と御前は命をかけて闘う。それなのに礼なぞ不要だ」
「フフフ、そうか」
 シャドウはそれを聞きいつものように不敵に笑った。
「確かにな。これからどちらかが必ず死ぬ。それなのに礼なぞ言っても仕方ないか」
 そう言うと剣を抜いた。
「そして死ぬのはストロンガー、貴様だ」
「それはどうかな」
 城も不敵な声で返した。
「俺もそうそう簡単にやられるわけにはいかないからな」
「俺の勝利は決まっている」
 シャドウはそう言うと一枚のカードを取り出した。
「これを見ろ」
 そしてそのカードを城に見せた。
「カードが俺に告げている。俺の勝利をな」
「カードがか」
「そうだ。俺のカードが何なのか貴様はよくわかっている筈だ」
 シャドウはトランプの占いにより全てを決する。そして今まで生き抜いてきたのだ。彼の占いが外れたことはない。
「貴様は必ず死ぬ。この俺の手で」
「それはどうかな」
 だが城は不敵な態度のままである。
「生憎俺は占いは全く信じちゃいない。貴様もそれはよく知っていると思うがな」
「愚かな」
「愚かかどうかはこれからわかることだ」
 城は反論した。
「今からの闘いでな」
「面白い」
 シャドウもその言葉に乗った。
「では俺は俺の占いの正しさを証明するとしよう。この闘いに勝ってな。さあ来るがいい」
「言われずとも」
 城は構えに入った。両腕をゆっくりと動かす。

 変身
 まずは両手の手袋を脱ぐ。そこから銀の腕が現われた。
 そしてその両腕を右に置く。肩の高さだ。左腕は肘を直角にして右に合わせている。
 それを右から左に旋回させる。それと共に身体が黒いバトルボディに覆われた。胸は赤くなる。手袋とブーツは白だ。
 スト・・・・・・ロンガーーーーーッ!」
 左斜め上に置いた両手を合わせる。そしてそこに雷を宿らせる。
 すると顔の右半分を黒い緑の眼を持つ仮面が覆った。そして左半分も。角も備えていた。

 身体が激しい電流に覆われる。そしてその中から雷のライダーが姿を現わした。
「フフフ、変身したな」
 シャドウはそれを見届けて言った。
「さあ来い、これが最後の闘いだ!」
「行くぞ!」
 ストロンガーは前に跳んだ。そして拳を繰り出した。
「甘いっ!」
 シャドウはそれをマントで防いだ。そして逆にその拳を絡め取ろうとする。しかしストロンガーはそれより前に退いた。
「トゥッ!」
 今度は蹴りを繰り出す。だがそれもシャドウのマントに防がれてしまう。
「マントを使うか」
「フフフフフ」
 シャドウはそれに対して不敵に笑った。
「俺のマントは単なる飾りではない。こういったことにも使えるのだ」
 シャドウは笑みの後でこう言った。
「俺の身体にあるものは全て戦いの為のもの。それを忘れてもらっては困るな」
「クッ」
「そしてこれもだ」
 シャドウはここでトランプのカードを取り出した。
「受けよっ!」
 カードを投げる。ストロンガーはそれをしゃがんでかわした。
「この程度!」
「ならばこれはどうだ」
 続け様に投げる。しかしそれは全てストロンガーの素早い身のこなしの前にかわされる。
「さらに腕を上げているな」
「当然だ、伊達に今まで戦ってきたわけではない」
 ストロンガーは言葉を返した。
「貴様等を全員倒すまで俺の戦いは終わらない、だからこそ俺は腕を磨いた」
「そうか、俺を倒す為にか」
 シャドウは不敵に笑った。
「貴様だけではない」
 だがストロンガーはまた言った。
「バダン全てを粉砕する為、世界に平和を取り戻す為だ!」
「それだけではないな」
「何っ!?」
 ストロンガーはシャドウの言葉にピクリ、と動きを止めた。
「あの女との誓いもあるのだろう」
 ストロンガーはそれに対しては何も言わなかった。
「デルザーとの戦いで倒れたあの女との誓いだ。知らぬとは言わせぬぞ」
「・・・・・・否定はしない」
 彼は言った。
「そう、その為に俺は戦っている」
 そしてシャドウを見据えた。
「シャドウ、その誓いを果す為にも貴様を倒す!」
「フフフ」
 シャドウはそれを聞きニヤリと笑った。
「ならば全力で来るがいい。そして俺を倒してみよ」
「望むところだ!」
 彼はここで胸のSの文字に両手を合わせた。
「チャーーーージアップ!」
 胸のその文字が激しく回転する。そしてストロンガーの全身が光った。
 超電子の力を開放した。そして彼は超電子人間に変身した。
「行くぞシャドウ!」
「フフフ」
 構えをとったストロンガーに対して彼も構えを取った。剣を構える。
「そうでなくては面白くない。生まれ変わった超電子の力見せてもらうぞ」
「貴様に言われずとも!」
 ストロンガーは前に跳んだ。そして連続して手刀を出す。
「どうだ!」
「まだまだ!」
 シャドウはそれを剣でかわす。そして一瞬の隙を見て剣を繰り出す。
「クッ!」
 それはストロンガーの右肩を掠った。彼は危ういところでそれをかわした。
 シャドウの攻撃は続いた。突きを縦横無尽に繰り出す。
「フフフ、どうでぃたストロンガーを」
 流星の様な突きを出しながらもシャドウにはまだ余裕があった。
「俺の力はまだこんなものではないぞ」
 ストロンガーはたまりかねて間合いを離した。シャドウはそこにカードを投げた。
「間合いを離しても無駄なこと」
 トランプは電気ストームに落とされる。だがシャドウはそれにかまわず更にカードを投げる。
「こうしたものもあるからな」
 今度はその投げたカードが爆発した。
「うわあっ!」
 ストロンガーは爆発に吹き飛ばされる。だがかろうじて空中で態勢を建て直し着地した。
「トランプショットだ。俺のトランプは爆弾にもなるのを忘れていたな」
「クソッ・・・・・・」
 ストロンガーは歯噛みした。鈍い痛みが全身を襲う。
「いかん、このままでは」
 ダメージは思ったよりも大きかった。動きにも支障が出かねない程であった。
「ストロンガー」
 だが敵は待ってはくれない。シャドウはストロンガーに対して言った。
「今度はこれを受けてみるがいい」
 そう言うと剣を一閃させた。するとストロンガーの周りを数枚の巨大なカードが取り囲んだ。
「これはまさか」
「思い出したか」
 シャドウは嬉しそうな声で語りかけた。
「このカードの力は貴様はよく知っている筈だ」
「クッ」
「さあ、ストロンガーよ。このカードの中で死ぬがいい」
「誰がっ」
「フフフ、相変わらず気の強い男だ。だがそれでもこれを凌ぐことは出来まい」
 五枚のカードが一斉に火を噴いた。ストロンガーはそれから身をかわすだけで精一杯であった。
 それだけではない。シャドウは分身の術を使った。そしてカードの陰からストロンガーを狙う。
「敵はカードだけではないぞ」
 そうしてストロンガーを徐々に追い詰めていった。
「まずい、このままでは」
 ストロンガーは形勢が不利になっていることに焦っていた。
「何とかしなければ」
 だがシャドウの攻撃は激しかった。そうそう容易には破ることは出来そうもない。
「さあ、どうするストロンガーよ」
 隙を探っている間にもシャドウの攻撃は続く。
「どうして俺を倒すつもりだ」
 巨大なカードの間から攻撃を次々と繰り出す。
「どうするべきか」
 ストロンガーは考えた。
「上に逃げるしかないか」
 だがそうすればシャドウも跳ぶだろう。そして空中で剣に襲われるのは目に見えていた。
「フフフ」
 シャドウは剣も繰り出す。振り下ろされるその銀の煌きが目に入った。
「ムッ!?」
 ストロンガーはそれを見て閃いた。
「あったぞ、この攻撃を打ち破る方法が」
 彼はすぐに右腕に力を込めた。
「見ろ、シャドウ」
 そして叫んだ。
「ムッ!?」
 シャドウもそれを聞き思わず動きを止めた。
「これで貴様の攻撃は終わりだ!」
 そう叫ぶと力を溜めていた右腕を拳にして天に突き出した。
「見ろ、これが俺の戦い方だ!」
 渾身の力で叫ぶ。それと共に右の拳から雷を天に向けて放った。
「何ィ!」
 それを見て流石のシャドウも思わず叫んだ。天に向かって放たれた雷は忽ち天空を暗い雲で覆った。
「エレクトロサンダーーーーーーーーッ!」
 無数の雷が降り注いだ。そしてストロンガーの周りを覆う。
「おおっ!」
 素早く後方に退いたシャドウはその凄まじい光景を見て驚嘆の声をあげた。カードは全て雷に撃たれていた。
 カードは瞬く間に炎に覆われる。ストロンガーは雷を全身に宿らせたままその炎の中からゆっくりと姿を現わした。
「まさかここでエレクトロサンダーを使うとはな」
 シャドウは思わず賞賛の声を漏らした。
「シャドウよ、言った筈だ」
 ストロンガーは雷を宿らせたまま言った。
「俺は必ず勝つ、と。その為には何でもする」
「そうだったな」
 シャドウはそれを聞いてようやくストロンガーの本質を思い出した。
「勝つ為には何としても勝つ。正義の為に」
 ストロンガーはそれに応えるように宣言した。
「それがストロンガーだ!」
「ならば」
 シャドウもそれを聞き構えた。
「俺も必ず勝つ。カードの結果こそが俺の運命」
 そしてカードを抜いた。
「俺のカードは決して間違わん。ストロンガー、貴様の運命は決まっている」
「運命か」
「そうだ」
 シャドウはそこでその手に持つカードを投げた。
「それは死だ」
 ストロンガーに投げたカードは全てジョーカーであった。道化師が無気味な笑いを浮かべてそこにいる。
「さあ、カードの運命に従い死ぬがいいストロンガー」
「カードか」
 ストロンガーはそれに対して不敵な声を出した。
「運命は自分で切り開くもの、俺はカードになぞ頼らん」
「戯れ言を」
「ならばそのカードに占めされた運命を今こそ変えてやろう。ゼネラルシャドウよ」
 彼を指差した。
「今ここで貴様を倒す。覚悟しろ!」
「やれるものならな」
 ここでシャドウの全身を激しい気が覆った。
「俺にも切り札があることを忘れるな」
 その気は見る見るうちに強くなっていく。
「まさかその気は」
「そう、そのまさかだ」
 シャドウは笑った。皮膚のない肉だけの顔が恐ろしい笑みを浮かべた。
「かって貴様に見せたこの力、今また貴様に見せよう」
 力が全身を覆っていく。
「行くぞ、シャドウパワー!」
 身体を凄まじい気が覆った。それはまるで鎧の様であった。
「全力を出すか」
 だがストロンガーはそれに臆してはいなかった。
「ならば俺も全力で戦おう」
 全身を覆う雷を一つに集めだした。
「この雷にかけて!」
「無駄だ、カードの定めた運命には勝てぬ!」
 ストロンガーが放った雷撃を剣で両断する。何と剣で雷を切ったのだ。
「クッ、剣で切ったか!」
「フフフフフ」
 シャドウはジリジリと間合いを詰めてきた。
「さあ、どうする(ストロンガーよ。雷は最早俺には通用せんぞ」
「クッ、まさかそこまでの剣技を出してくるとは」
 しかしストロンガーは諦めてはいなかった。彼の隙を窺っていた。
(だが必ず勝つ。いや、勝てる)
 シャドウとて隙は生じる。その時を待っていた。
 だが敵もさるものである。シャドウもまたそれを狙っていた。
(さあ来い、ストロンガーよ)
 彼はストロンガーが動くのを待っていた。
(その一瞬に隙が生じる。その時にこの剣で心臓を刺し貫いてやる)
 両者は互いの隙を窺っていた。緊張した空気がその場を支配していた。
 先にストロンガーが動いた。その瞬間をシャドウは逃さなかった。
「今だっ!」
 剣を繰り出す。それでストロンガーの心臓を刺し貫こうとする。
 だがストロンガーはそれを察していた。彼は正面に出たのではなかった。
 右斜めに出ていたのだ。それで剣をかわした。
「クッ!」
「もらったぞ、シャドウ!」
 ストロンガーは手刀を放った。それでシャドウの首を撃つ。
「ガハッ!」
 普通の怪人ならばそれで首の骨を叩き折られているところだ。だがその力を全て開放したシャドウにとってはそれはどうということはなかった。だが衝撃で動きが一瞬乱れた。そしてその乱れが致命傷となった。
「トォッ!」
 ストロンガーは跳んでいた。そして空中で攻撃態勢に入っていた。
「行くぞ!」
 空中で大の字を作る。そして横に激しく回転する。
「受けろ!」
 そこから蹴りの態勢に入った。
「超電子・・・・・・」
 やはり超電子の技だった。だがそれは普通の超電子の技ではなかった。
「大車輪キィーーーーーーック!」
 回転による力を使った蹴りであった。凄まじい衝撃が空中から急降下した。
 そしてそれはシャドウの胸を直撃した。その凄まじい衝撃が彼の全身を襲った。
「グフッ!」
 だが彼はそれに耐えた。ストロンガーの足を掴んでその衝撃に必死に耐える。
 しかしそれも限界であった。彼はその手を離した。
 ストロンガーは蹴った反動を使って離れる。だがシャドウはそれでも倒れはしなかった。
 倒れもしなかった。彼はその衝撃に耐え何とか立っていた。
「何、超電子の力を以ってしてもか!」
 流石にそれには絶句した。だが超電子の力は何者も防ぐことはできなかった。
「案ずるな、ストロンガー」
 シャドウは言った。
「この戦い、貴様の勝ちだ」
 そして口から血を噴き出した。
「超電子の力、受けさせてもらったぞ。これ程の力を使いこなすとは見事だ」
「シャドウ」
「俺の負けだ。まさかカードの予想が外れるとはな。こんなことは今までなかったことだ」
 彼のカードが外れたことはない。かって彼がストロンガーとの戦いに敗れた時もカードは外れはしなかったのだ。その時カードは彼の敗北を伝えていたのだった。
「ジプシーに生まれた俺がカードを外す時の運命はわかっている。それで俺は終わりだ」
「シャドウ・・・・・・」
 彼は常にカードにより全てを決してきた。カードは彼の全てであったのだ。そのカードを外すということは彼にとっては死そのものであった。
「だが貴様はこれからタイタンとの戦いがあるのだろう。あの男は手強い。俺と同じ位にな」
 タイタンの強さは彼が最もよくわかっていた。かってブラックサタンにおいて、そしてこのバダンにおいてもライバルであったからだ。
「俺との戦いの後では辛いだろう。これが俺の最後のはなむけだ」
 そう言うと剣を天にかざした。
「受け取るがいい、ストロンガーよ!」
 すると雷が落ちてきた。そしてそれはストロンガーを直撃した。
「ウオッ!」
 思わず声をあげた。それは瞬く間に彼の全身を駆け巡った。
「どうだ、これで充分だろう。もっともこれ以上雷は出せぬがな」
「シャドウ」
「礼は要らぬ。俺と貴様は敵同士なのだからな」
 シャドウの足がかすかによろめいた。もう限界であった。
「だが俺の長い戦いの人生の中で貴様と出会えたのは幸運であった」
 最後にニヤリ、と笑った。
「思い残すことはない。思う存分戦うことができた」
 そこまで言うと全身をマントで覆った。
「さらばだストロンガーよ、さらばだバダンよ。偉大なる首領よ永遠なれ!」
 そして爆発の中に消えていった。あとにはカードが飛び散った。
「ゼネラルシャドウ」
 ストロンガーは爆発の中に舞うカードを見た。
「貴様が味方だったならな。惜しい男だった」
 カードは塵となって消えていく。ストロンガーはそれを黙って見ていた。
「だが俺にはまだやることがある」
 顔をカードから離した。
「タイタン、待っていろ」
 そこにマシンが来た。
 ストロンガーはそれに乗った。そしてその場を去った。
 こうしてブラックサタン、デルザーにおいて独自の地位を築き続け多くの者に一目置かれていたゼネラルシャドウは死んだ。彼は自らのカードの占いに反して壮絶な最期を遂げた。

 タイタンはこの時既に戦場にいた。そしてそこでストロンガーを待っていた。
「さあ、すぐに来るがよい、ストロンガーよ」
 彼は戦闘服に着替えていた。漆黒の皮の服である。
 これは黒龍の皮から作られている。彼の強烈な体温に耐えられるのはこれしかないのだ。
 そこに何かが飛んで来た。タイタンはそちらに目を向けた。
「ムッ」
 それは一枚のカードであった。スペードのキングである。
「そうか」
 タイタンはそれを見ただけで全てを察した。そのカードは彼の手の中に落ちた。
「シャドウ」
 彼はそのキングを見やった。
「どうやら最期まで退くことなく戦ったようだな。貴様らしい」
 彼はシャドウを嫌っていた。だがその能力は率直に認めていた。
 ブラックサタンにおいてもこのバダンにおいてもそうであった。彼等はやり方こそ違えどその能力は伯仲していた。時には激しく争ったのもその為であった。
「貴様の形見、確かに受け取った」
 彼はそれを己が懐の中に収めた。そして顔を元に戻す。
「あとは俺の仕事だ、そう」 
 ここで前を見据えた。
「早く来るがいい、ストロンガーよ」
 その声は力強いものであった。
「今度こそ貴様を倒す」
 そして前から来る陰を見据えた。
 ストロンガーは来た。タイタンの前に来ると颯爽とマシンから飛び降りた。
「百目タイタン」
 そしてタイタンを見据えた。
「何だ」
 タイタンはわかっていた。だがあえて問うた。
「今日で全てが終わる、全てがな」
 そう言って彼は身構えた。
「行くぞ、貴様を倒す」
「フン」
 タイタンはそれに対して不敵に笑った。
「貴様に出来るのか」
「戯れ言を」
 彼はこの時においてもまだ強気であった。
「この超電子の力で貴様を倒す」
「超電子の力か」 
 圧倒的なパワーを持つ。タイタンはそれに対しても臆することはなかった。
「それで俺を倒せると思っているのか」
「当然だ」
 その銀の角が光った。
「その為にここに来たのだからな」
「フン」
 タイタンはまた不敵に笑った。
「面白い冗談だ。この俺を倒すとはな」
「言うな!」
 ストロンガーはそれに対しては激昂した声を出した。
「タイタン、貴様の命は今日で終わる」
「シャドウのカードにでも出ていたな」
「まだふざけていられるのか」
 彼は気を抑えるのも必死になった。
(フフフ、いいぞ)
 これは無論彼の策略であった。
(怒れ、そして冷静さを失え)
 そこに付け込むつもりなのだ。
 だがストロンガーのそれにはすぐ気付いた。表情を元に戻した。
「フッ、危ないところだった」
 そう言って深く息をした。
「むざむざ貴様の策に陥ってしまうところだった。タイタン、貴様の考えは読めているぞ」
「そうか」
 彼は内心舌打ちした。
「では前哨戦はこの程度にしておくか」
「当然だ、行くぞタイタン」
「フフフフフ」
 タイタンは身構えた。そして不敵な笑みを漏らした。
「さあ来いストロンガー」
 彼は悠然と構えたまま言った。
「このクワットロ=カンティが貴様の墓場となる。前に言った通りな」
「それはどうかな」
「何!?」
 タイタンは彼の言葉にその無数の目を動かした。
「クワットロ=カンティは貴様の墓標となる、ということか」
「戯れ言を」
「それはすぐにわかる。今からな」
「そうだったな。では俺が貴様の言葉を訂正してやろう」
 彼は両腕に炎を宿らせた。
「この地獄の炎でな」
 ストロンガーも雷を宿らせた。そして両者は戦いを開始した。シチリアでの最後の戦いの幕が開けた。
「喰らえっ!」
 まずはタイタンが炎を放って来た。
「ファイアーーーボーーールッ!」
「何のっ!」
 ストロンガーは両手の雷でそれを打ち消した。そして続けて地面を撃った。
「エレクトロファイアーーーーーーッ!」
 電流を放つ。それは地を走りタイタンを撃った。だが彼は全く平気であった。
「フフフフフ、その程度か、超電子の力も」
 彼には何の効果もなかったのだ。
「俺をこの程度で倒せるとでも思っているのか」
「フン、まだだ!」
 ストロンガーはその挑発に乗るようにまた攻撃を仕掛けた。
「トォッ!」
 前に跳び込む。そして拳を繰り出した。
「超電子三段パァーーーーーンチッ!」
 拳を繰り出す。三段で続けて放つ。だがそれもタイタンに全て防がれてしまった。
「効かんな」
「クソッ!」
 ストロンガーは今度は手刀を放つ。それもタイタンに弾かれてしまった。
「効かんと言っている」
「おのれっ!」
 タイタンは強大であった。超電子の力を身に着けたストロンガーの攻撃すら簡単に受けていた。タイタンの攻撃もストロンガーはその力を以って防いでいる。両者は激しい死闘を展開していた。
「何という手強さだ」
 ストロンガーは間合いを離して思わず呟いた。
「あの時よりもまだ強くなっている」
 かってブラックサタンの時にも二人は激しい死闘を繰り広げた。彼はその時ある場所を狙って勝利を収めている。
「ストロンガーよ、肩を狙っても無駄だぞ」
 だがタイタンはそれを予期したようにそう言った。
「俺は死神博士の改造手術を受けパワーアップした。その時に力は全てこの中に封じ込めているのだ」
「クッ、そうだったのか」
「かっては貴様に飽和しきった状態で肩を攻められて敗れた。だが今度は違う」
 彼は自信に満ちた声で言った。
「今の俺に弱点はない。ストロンガーよ、今日こそ貴様の最後だ」
「何を!」
 ストロンガーは前に出た。そして手刀を出す。しかしそれはタイタンに防がれた。
「無駄なことを」
 彼はやはり余裕に満ちていた。
「その程度で俺を倒せると思っているのか」
 そして放り投げた。ストロンガーは空中で回転し受け身をとった。
「フン、身のこなしは見事だな」
 両足で着地した彼を見て言った。
「しかしそれだけでは勝てはせん。この俺の圧倒的なパワーの前にはな」
 頭部に手をやり目玉を一つ取り出した。
「ファイアーーーシューーーーートッ!」
 その目が炎となった。そしてストロンガーに襲い掛かる。
「何のっ!」
 だが彼はそれから身をかわした。そして逆にタイタンの懐に飛び込む。
「何度やっても同じだ」
 拳を繰り出したがそれも防がれた。
「その程度のパワーで俺を倒すことはできんと何度言えばわかる」
 拳を掴もうとする。握り潰すつもりだ。だがストロンガーはそれよりも前に後ろに跳び退いていた。
「またしても逃げるか。まあいい」
 やはり余裕があった。
「いずれは捕まえられる。その時こそこの炎で焼き尽くしてくれるわ」
 懐から拳銃を取り出した。そしてそれをストロンガーに向けて放つ。
「さあ、逃げるがいい、ストロンガーよ」
 ストロンガーを狙って次々と発砲する。
「何時まで逃げられるかな」
「クッ、このままでは」
 確かに何時までも逃げられるものではなかった。ストロンガーの体力にも限界があった。確かに超電子の力を多く使うことができる。しかしそれでもエネルギーを消費することには変わらないのだ。
 超電子はその力が絶大なだけに通常の状態よりも遥かにエネルギーを消費する。そしてこの力を使っている間は身体に凄まじいまでの激痛が走る。ライダー達は変身の時には激痛に耐える。だが超電子の激痛はその比ではないのである。
「だが何としてもタイタンは倒さなければならない。ここで諦めるわけには」
 冷静さを必死に保つ。まずは構えを取り戻した。
 そして戦場を見る。そこに一輪の花があった。
「あれは」
 それは紅い百合であった。淡い色をした一輪の百合が道の端にたたずんでいた。
「百合・・・・・・」
 ストロンガーはかって共に戦った一人の戦士のことを思い出した。自分より遥かに力が劣っていても果敢に戦っていたあの戦士を。
「あいつも決して諦めてはいなかった」
 例え力がなくとも。彼女は決して逃げることはなかった。
「あいつはあいつなりに必死に戦っていた。ならば俺も」
 キッとタイタンを見据えた。
「逃げるわけにはいかない。タイタン」
 そしてタイタンの名を呼んだ。
「今から貴様を必ず倒す、覚悟しろ!」
「出来るものならな」
 だが彼はそれでも自信に満ちた態度を崩すことはなかった。
「この俺のパワーに勝てるのならな」
「またパワーか」
 確かにパワーでは大きく劣っていた。しかし。
「見たところスピードは強化されていないな」
 ストロンガーはこれまでの戦いでそれを察知していた。
「ならば戦い方はある」
 彼はスッと右に動いた。
「フフフ、どうするつもりだ」
「今にわかる」
 ストロンガーはタイタンの後方に回り込んだ。
 そして跳んだ。そこから拳を出す。
「何をするかと思えばまたそれか」
 だがそれはタイタンに防がれてしまった。
「芸のない奴だ」
「それはどうかな」
 ストロンガーはそれに対して言い返した。
 すぐに再び攻撃を放った。今度はローキックだ。
「ムッ」
 それはタイタンの脛を撃った。さしたるダメージではないがこれは効果がある。
 足にダメージを受けたタイタンの動きが微かだが鈍った。ストロンガーはそれに付け込みさらに攻撃を加える。
「これでどうだ!」
 ストロンガーは果敢に攻撃を続ける。そしてタイタンを次第に押していった。
「おのれ」
 タイタンはそれに対して拳に炎を宿らせた。そしてそれでストロンガーを撃とうとする。だがそれはストロンガーの素早い動きの前にかわされてしまった。
 ストロンガーは攻撃を続ける。一撃一撃はタイタンの体力と防御力の前にさ程効果はない。だが手数で次第にダメージを与えていく。
 さしものタイタンもパワーが落ちてきた。何よりもパワーがもう限界だった。
「よし!」
 好機と見たストロンガーは跳んだ。そして空中で構えをとった。
「超電子・・・・・・」
 技の名を叫びながら激しく回転する。
「スクリューーーキィーーーーーーーック!」
 雷の様な蹴りを放った。きりもみ回転しながらタイタンに向けて急降下する。
 よけきれる速さではなかった。タイタンはそれを胸にまともに受けた。
「グフッ!」
 口から血を吐き出す。ストロンガーは胸を撃ちながらもまだ回転していた。
 本来なら完全に撃ち抜いているところである。だがタイタンはそれを凌いでいた。
 回転が止まった。ストロンガーは後ろに跳び退き後方に着地した。
 タイタンはなおも立っていた。足は揺らいでいたがそれでも立っていた。
「ストロンガーよ」
 タイタンはストロンガーに対して言った。
「見事だった。まさかスピードを使うとはな」
 彼はその無数の目でストロンガーを見据えていた。
「パワーにのみ頼った俺が迂闊だった。力だけでは勝てぬということか」
「いや、俺も危なかった。タイタン、貴様のパワーは確かに強大だった。下手をすれば俺も敗れていた」
「フッ、慰めはいい」
 彼はシニカルに笑った。
「俺の負けなのは事実だ。結局俺は最後まで貴様に勝てなかった、それだけだ」
 ストロンガーはそれに対しては何も言わなかった。
「だがいい闘いだった。この俺の最後を飾るに相応しいものだった」
 そう言うと姿勢を正した。
「貴様と闘えたことを誇りにして地獄へ行くのも悪くはない。そこでシャドウとでも心ゆくまで語り合うか」
「シャドウとか」
 やはり彼等はいがみ合いながらも互いに認め合っていたのであった。
「そうだ。さらばだストロンガー、だが地獄に来たならばまた会おう。楽しみに待っているぞ」
 そして前にゆっくりと倒れた。
「バダンバンザァーーーーーーーイッ!」
 そして爆発して果てた。炎の化身である彼の爆発は一際大きなものであった。
「これでブラックサタンの二人の大幹部も死んだか」
 ストロンガーはその爆発を見ながら呟いた。
「敵ながら見事な奴等だった。シャドウもタイタンも」
 爆発は消えていった。タイタンの姿は何処にもなかった。
 ストロンガーと二人の大幹部の戦いは終わった。彼は遂にブラックサタンからの強敵を倒すことに成功したのであった。だが彼の戦いは終わってはいなかった。
「おやっさんはこれからどうします?」
 城は空港で立花に尋ねた。
「わしか」
 彼を見送りにきた立花はそれを聞いて少し考え込んだ。
「そうだな、スペインに行こうと思っている」
「スペインですか」
「ああ、隼人があそこに向かっているらしい。何かと助けてやらにゃあいかんからな」
「おやっさんも大変ですね、一文字先輩のサポートは疲れますよ」
 一文字は本郷と比べて無茶な行動をすることが多いのを受けてそう言っているのである。
「何言ってやがる、御前が一番無鉄砲だろうが」
「あれ、そうですか。俺は自分では慎重な方だと思っていますけれど」
 城は悪戯っぽく笑った。
「フン、いつもそう言いやがる。何かというと無茶しやがった癖に」
「あの頃はね。あいつもいたし」
「ああ、あいつもいたな。確かに」
 立花は感慨深げに呟いた。
「そういえば御前そこにあるのは何だ」
 立花は城が横に置いている鉢植えを指差した。それは袋で覆われている。
「これですか、花ですよ」
「花、ってえと」
「ええ、百合です」
「・・・・・・やっぱりな」
 立花にはわかっていた。だがそれを聞いてあらためて頷いた。
「あいつが俺に教えてくれたんですよ、花を通じて」
「だろうな、あいつはそういう奴だ」
「おやっさん、俺はこれから日本に戻ります。最後の戦いの為に」
「丈二や良の助っ人にか」
「それもありますが予感があるんです。日本で何かがあるって」
「予感か」
 立花はそれを聞いて口に手を当てて考えた。城の予感はよく当たる。これはライダー全員に言えた。そうしたものがなければ今まで生きてこれなかったからだ。ライダーに求められるのはそうしたものもあるのだ。
「御前がそう言うってことは間違いないだろうな」
「ええ。他のライダー達ももう日本に向かっているようですし」
「他の連中もか。いよいよ何かあるな」
「おやっさんはスペインへ」
「ああ。わしも同じだ。あそこで絶対に何かあるからな」
 彼もまた歴戦の戦士である。それだけのものは持っていた。
「茂、日本は御前達に任せた。まあ暫くはバダンも何もせんだろうが」
「はい」
「わしはその間に本郷と隼人を助けて来る。そしてバダンの奴等を一掃してやる」
「頼みましたよ」
 城もまた立花を頼りにしていた。彼なくして今まで戦ってはこれなかったからだ。
「任せろ」
 立花は笑顔で城と別れた。
「日本で会いましょう」
「待っていろ」
 二人はそれで別れた。そしてそれぞれ次の戦場に向かうのであった。
 城の手には百合があった。彼はそれを手に最後の戦場に向かうのであった。


永遠の絆   完


                                 2004・9・25



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