『仮面ライダー』
            第八章   天空の覇王

 「・・・そしてストロンガーのデータは得られたか」
 暗い部屋に響く声。砂漠でストロンガーを閉じ込めたあの声である。
 「はっ、超電子のデータまでも」
 戦闘員らしき声が木霊する。
 「一号の技、二号の力、V3のバランス、ライダーマンの頭脳、Xの水中能力、アマゾンの敏捷性、そしてストロンガーの
瞬発力。これで七人のライダーの能力を得られたか」
 声は誰に話し掛けるでもなく語った。
 「あとはスカイライダーの飛翔能力とスーパー1の多様性か。それを揃えてようやく完全な存在が産まれるのだ」
 後ろを見る。そこには巨大な試験管があった。
 その中の液体に浮かぶもの。それは人の形をした機械であった。
 「あの男が誕生した時こそ我等が悲願の達成される日。それはもうすぐだ」
 「たった今キバ男爵と鬼火司令が帰られました」
 別の声がした。
 「ほほう、早いな」
 「ミャンマーで面白いものを見つけたと言っておられます。何でもダモン大佐の墓だとか」
 「ダモン?」
 その名を聞いて声はにやりと笑った。
 「そしてキバ男爵達はその墓をどうした」
 「遺体は白骨化していたそうです。墓から骨を持って帰られました」
 「骨か、それさえあれば良い。面白い事になってきたぞ」
 声は不気味な笑いを出した。それは部屋全体を支配した。

 ペルー。かってインカ帝国が栄えた地である。スペインのピサロの侵略により跡形のなく亡ぼされた後スペインの植民地となった。十九世紀に独立した。スペイン系だけでなくインディオや彼等の混血メスティーソも多い。これは他の中南米の国家と同じである。日系人もいる。
 この国の特色は国土のかなりの部分がアンデス山脈の高山地帯にあるという事である。北東部や東部に一部はアマゾン川やその支流となっている。人口の大部分は高山地帯に集中している。首都リマはインカ帝国の帝都クスコの跡地に建てられている。
 マチュビチュ等インカ帝国の遺跡も残っている。それ等が物語っているのはこの帝国が極めて高度な文明を持っていたという事である。特に天文学や数学においては当時の欧州なぞ比べ物にならない部分もあった。アマゾンは彼等の文明により改造されている。このような高地にこれ程までの高度な文明があったという事は不思議ですらある。通常文明とは河川流域の平野部に発展する場合が多いからである。
これは彼等が主食としたとうもろこしに関係があるのかも知れない。他にも日本で『仙人穀』と呼ばれるアマランサスというヒエ科の穀物もある。
 この国にはそうした関係からインカ帝国の伝説が多い。黄金郷エルドラドもその一つである。インカ皇帝はスペイン人に対してこう言ったいう。
 「ここにある黄金は今私が手に持つ皿に入っているとうもろこしのほんの一粒に過ぎない」
 これが本当なのかは皇帝だけが知っている。欲望に囚われたスペイン人達はアンデスを探しアマゾンを探したが遂に発見出来なかった。今も高原の何処かにその黄金郷はあるのかも知れない。だが欲に囚われた人にそれを見る事が出来ないだけで。
 目に見える遺跡で最も謎に包まれているのはナスカの地上絵であろう。
 この地上絵はナスカ平原にある。陸から見ても溝にしか見えない。その溝が奇妙な線やカーブを描いているのが確認出来るだけである。この絵は空から見てその全貌が初めてわかるのである。
 空から見るとまず蛸と人を合わせた様な奇妙な絵が山に描かれている。それから猿や犬、ハチドリらしきもの。中にはイソギンチャクの様な絵や二本の手らしきものを生やした謎の生物、鷺らしき首の異様に長い鳥・・・・・・・・・。誰が何の目的でこれ等の絵を描いたのか誰も知らない。一説にはこの絵は宇宙からの来訪者達への目印となっていたとも言われている。
 ではその来訪者とは一体誰なのであろうか。またその来訪者達はこの高原の文明と関係があるのだろうか。この謎を解明した者はいないし解き明かされるには多くの時間が必要であろう。
 その上空を一つのハングライダーが飛んでいる。地上絵の上を優雅に飛んでいる。
 それに乗っているのは赤いヘルメットを被った面長の東洋人の若者だった。
 黒い目は細く一重である。眉は薄く鼻が大きい。肌はよく焼けている。赤いジャケットに青のジーンズを身に着けている。
彼の名は筑波洋。空翔ぶライダー、スカイライダーである。
 城南大学ハングライダー部に所属していた。彼が高校生の時両親と妹が事故により死んでしまう。だが彼はそれにめげず努力し正義感の強い心優しい青年となった。
 ある日彼は謎の一団に襲われている男性を助けた。だがこの時彼は重傷を負い命を落としそうになる。彼の友人達はこの一団に皆殺しにされた。
 この謎の一団の名をネオショッカーという。デルザー崩壊後闇に潜んでいた首領が新たに結成した組織である。地球の増え過ぎた人々を粛清し選ばれた優秀な者達で世界を支配するという選民思想を掲げていた。要するにこれまでの首領のイデオロギーをそのまま踏襲したのである。
 筑波が救った男は志度博士、ネオショッカーの科学者だったが組織の実態を知り脱走しようと図っていたのだ。
 しかし身を挺して自分を救おうとしたこの青年に博士は心を打たれた。今度は自分がこの若者を救う番だと感じた彼は組織に戻り首領に言った。この若者を改造人間にしたいと。博士と筑波が組織に必要な人物になると判断した首領はそれを了承した。かくして改造手術は執り行われた。手術の時彼は怒りを覚えていた。ネオショッカーへの、自分の友人達を殺したネオショッカーへの怒りを。
 手術は成功した。彼は改造人間として甦った。博士は彼に空を飛ぶ力と正義の戦士の姿を与えた。それは仮面ライダーの姿であった。
 博士は正義の心を失ってはいなかった。そして筑波も。二人はネオショッカーを脱出し彼等との闘いを始める。世界各地から七人のライダー達も入れ替わり立ち替わり駈けつけネオショッカーとの死闘が展開された。遂にその正体を現わした首領との闘いにおいて彼は仲間達の協力を得て首領を銀河に葬った。首領の死を見届けた彼は日本を去り世界にはびこる悪との闘いに参加していった。
 「凄いな、まさか本当にこんな絵だったなんて」
 地上絵を見下ろしながら筑波は言った。
 「飽きないな、何時までも見ていたいよ」50
 思わず呟いた。そこへ下から声がした。
 「洋はーーん、気分はどうでっかーー?」
 日本語である。しかも関西弁である。声の主は大柄で愛敬のある面白い顔立ちの日本人だった。
 この人物の名を矢田勘次という。黒いジャケットと青のジーンズを着ている。筑波洋と常に行動を共にしてきた好漢である。
 彼は改造人間ではない。普通の人間である。高校を卒業し大工をしていた。子供好きで正義感の強い兄ちゃんとして知られていた。女にはもてないが男と子供にはもてた。一市民として幸せに暮らしていた。
 だが彼はネオショッカーの存在を知る。悪い奴や曲がった事が嫌いな彼はネオショッカーをやっつけようと決めた。彼は実家の鎧兜を引っ張り出し自分の手で作り直した。そしてそれを身に着け正義の味方『がんがんじい』となったのだ。闘ううちにスカイライダーと合った。

 黒く長い法衣を着た老人である。両手の袖は無数の切り込みは入っており風にたなびいている。長い金の髪と髭を生やし黒い翼が縁取りされた赤い仮面を着けている。右手に鳥の翼をかたどった杖がある。デストロンツバサ一族の長ツバサ大僧正である。
 二百年前スイスに生まれた。彼の家は代々学者を出した名門であった。大学で優秀な成績を修めカトリックの僧侶となった。
名家の出身で頭が良い為出世が早かった。若くして枢機卿となり将来は法皇の座も確実と言われていた。
 だが彼はここで道を踏み外した。それまで他の僧侶達のよう世俗に染まる等ということは一切無かった彼であるがある異端派と接触してしまったのだ。
 当時ローマ=カトリック教会は異端を激しく弾圧していたが彼はその急進派だったのだ。これは彼自身の潔癖性から来るものであり特に彼が血を好んだというわけではない。むしろ彼は異端審問による冤罪を事の他嫌った程である。
 その為彼は自ら査問に当たった。そして次々と異端者を火刑に処した。『死の枢機卿』と呼ぶ者すらいた。それを彼は誇りに感じていた。
 異端派を弾圧するうちにその異端派について知るようになる。プロテスタントの系列もあれば土着の宗教と融合したものもある。その中にカニバリズムを強く持つ宗派があった。
 キリスト教にはその儀式に隠されているものがある。聖餅をキリストの身体として、葡萄酒をキリストの血として食べ、飲む。
これはすなわち人の肉と血を食する事である。
 人肉食は中国の話かというとそうではない。欧州にも古くからある。
 古代ギリシアでは酒の神ディオニュソスの信者達は踊り狂い狂騒状態になると人を喰らったという。神話には自分の息子を引き裂き食い殺した母親の話がある。
 ギリシアだけかというとそうではない。欧州は寒冷で食料に乏しく飢饉が多発した。その為飢えを凌ぐ為人を食っていたのだ。これは童話等に隠され語り継がれている。
 また人の血を強壮剤と考えていた人々もいた。中国の作家魯迅は自身の小説『薬』に人の血を付けた饅頭を出している。
これと殆ど、いや全く同じ話がフランスにある。革命前の貴族達は夜毎宴を開いていた。朝になると貴族達はある場所へ馬車を走らせた。行く先は処刑場である。
 処刑は朝行われる。血が流れる。ドクターケイトの祖先もそこから生まれた。その死刑囚の血を貴族達は銀の杯に入れ飲んだのである。疲れを取る為だ。当時血は強壮の基と考えられていたのである。吸血鬼の話もあながち嘘とは思えないのである。こうして実際に人の血を飲む人々がいたのだから。
 枢機卿が触れたのはこうした人の血を好む一派だった。当初は邪悪な異端者として徹底的の弾圧していた彼だが次第にその教えである人の血へ興味を持つようになった。丁度人が紅い葡萄酒を好むように。その欲望は次第に高まり抑えられなくなっていた。
 ある日彼は一人の異端者を殺した。ナイフで首を掻き切ったのだ。倒れたその死骸へ近付いた。そして傷口に口を当て血を啜った。身体中に信じ難い力がみなぎってくるようだった。
 それ以降彼は人を殺しその血を吸うようになった。初めはナイフや斧で殺していたがすぐにその首へ直接噛み付くようになった。彼の歯は次第に狼の様になっていった。
 そうした彼を部下達は恐れるようになった。遂に部下の一人がそれを時の法皇に密告した。
 その話は法皇を震え上がらせるのに充分であった。彼はすぐに動き枢機卿を捕らえた。処刑しようと考えたが彼の才とこれまでの功績を惜しみ地中海の断崖にそびえ立つ古城に幽閉した。そこで枯死させるつもりだった。かってハンガリーに君臨した血塗れの伯爵夫人エリザベート=バートリーと同じ方法を取ったのである。
 しかし彼はすぐに脱出した。既に人でなくなっていた彼は空を飛び脱出した。そして遠くチベットまで逃れたのだ。
 チベットで彼は新たな宗教を開いた。その名を卍教という。異端のカニバリズムとチベットの呪術を組み合わせた独自の邪教であった。
 そこで彼はこの地を陰から脅かし続けた。権力者達が弾圧しようとすればその権力者は身体に血が一滴も残っていない干乾びた屍となって発見された。誰も彼等を抑えられなかった。
 その力は首領も知っていた。そしてデストロンに誘ったのだ。首領の悪の力を知った彼はそれに従った。呪術を極めた魔人である。

 「ツバサ大僧正、何故・・・!」
 「ふふふふふ、私の名を知っているか」
 ツバサ大僧正は誇らしげに笑った。
 「御前は仮面ライダーV3に倒された筈、それがどうして・・・」
 「それは冥土で教えてやる。今御前にここにいてもらっては困るのだ」
 「何っ、それはどういう意味だ」
 その言葉に博士は疑問を覚えた。
 「冥土で教えてやると言った筈だ、死ねい!」
 ツバサ大僧正が杖を振るうと戦闘員達が襲い掛かる。博士の命は風前の灯火と思われた。その時だった。
 「待てっ!」
 上空から声がした。一同空を見上げた。
 そこにはライダーがいた。黄緑の仮面とバトルボディ、茶の腕と胸、赤い眼、そして黒の手袋とブーツを身に着けている。
ベルトの左右には空を飛ぶ為の重力低減装置が付けられている。空を飛翔する天空の守護者、スカイライダーである。
 「むうう、貴様は」
 「人呼んでスカイライダー、行くぞツバサ大僧正!」
 空を駆りツバサ大僧正へ突き進む。それを見てツバサ大僧正は杖を振るった。
 「博士は後回しだ、先にスカイライダーをやれ!」
 戦闘員達が天へ上がる。みれば背中に小型のヘリを着けている。
 「まだだ、それだけではないぞ!」
 また杖を振るった。すると三体の怪人が飛来して来た。
 いずれも空を飛ぶ改造人間である。ショッカーの邪眼怪人フクロウ男、ゴッドの催眠怪人イカルス、ガランダーの白骨怪人モモンガー獣人の三体である。
 「むうう・・・」
 三体の怪人はたちまちスカイライダーを取り囲んだ。
 「ふふふ、如何に貴様が空を飛べようと上や下からの攻撃には分が悪かろう」
 ツバサ大僧正はニヤリと笑った。
 「手加減する必要は無い、やれい!」
 杖が振るわれると同時に怪人と戦闘員達が一斉に襲い掛かる。スカイライダーはそのい中心にいた。
 「ホホホホホ」
 フクロウ男が両眼から光を放った。
 「むっ」
 スカイライダーは上へ飛びそれをかわした。スカイライダーに後ろから攻撃をかけようとしていた戦闘員にその光が当たった。
 「ギイイーーーーッ!」
 光が戦闘員の全身を映す。その中の骨を映した。
 光が消えた。戦闘員は白骨となり地に落ちた。
 「殺人レントゲンか」
 フクロウ男はもう一度それを放とうとする。スカイライダーは一気に飛んだ。
 「させん!」
 今将に光線を放とうとする。その顔へ蹴りを放った。
 「スカイキック!」
 数多くの怪人を葬ってきた技である。それがフクロウ男の眼と眼の間を直撃した。急所であった。
 「グオーーーーーッ!」
 蹴りを受け怪人は吹き飛んだ。そして空中で爆死した。
 「トゥルアアアアア」
 イカルスが口から緑の液を放つ。それが溶解液である事は一目瞭然であった。
 下へ飛ぶ。そこへ怪人が突進して来る。しかしそれはイカルスではなくモモンガー獣人であった。
 「ヘェアーーー」
 それは急降下だった。スカイライダーの頭上へ向かい飛行膜に備え付けている爆弾を落として来た。
 「危ない!」
 かわそうとする。だが身に合わない。爆発の中へ消える。
 「やったか」
 いや、まだだった。爆発の煙が消えた時スカイライダーは獣人の頭上にいた。
 「危ないところだった。だが俺は負けない!」
 「ケアーーーッ!」
 今度は口から白い煙を吐こうとする。だがそれより速くスカイライダーが来た。
 「スカイスクリューキィーーーック!」
 螺旋状に回転しつつ蹴りを放つ。撃ち抜かれた怪人はそのまま地に落ち爆発した。
 怪人の中で一体だけ残ったイカルスが来た。その翼で切りつけんとする。見れば羽の一枚一枚が刃の様になっている。
 それを高速で振り回して来る。斬られればライダーといえど無事では済まない。
 「うおっ!」
 その翼が顔をかすめた。頬が切られる。
 だが余りにも大振りだった為隙が生じた。それを逃すライダーではなかった。
 流れる動作で懐に入る。そして身体を左へ思い切り捻る。
 捻る動きで身体の動きに速さが加速される。怪人の真横につく形となる。
 そこで水平に怪人の胸へチョップを入れた。一撃ではない。二撃、三撃と入れる。
 四撃目を入れた。それが怪人にとって止めとなった。
 「水平回転チョップ!」
 怪人から離れる。断末魔の叫びと共にイカルスは爆死した。
 「むうう、三体の怪人を瞬く間に倒すとは・・・」
 イカルスの破片が地に落ちるのを見つつツバサ大僧正は悔しそうに言葉を出した。
 「ツバサ大僧正、今度は貴様の番だ」
 戦闘員達もいなくなっている。怪人達との戦闘の間に全員倒されていた。
 「フフフ、言うなスカイライダー」
 ツバサ大僧正は笑った。人の笑いとは思えない残忍な笑みの笑いだった。
 「この私がライダーごときに遅れを取ると思ったか。ならば直々に相手をしてやろう」
 両手を思い切り広げた。そして杖をゆっくりと上へ掲げようとする。
 「待てっ、まだその時ではない!」
 下から声がした。ハッとツバサ大僧正の動きが止まる。
 「ムゥッ!」
 「その声は!」
 大僧正とスカイライダーがほぼ同時に叫び下を見た。そこに声の主はいた。
 「御前は・・・・・・」
 「筑波君、いやスカイライダーと呼ぼうか」
 声の主は表情を変えず言った。
 全身をカーキ色と赤の軍服で包んでいる。軍服の肩には金モールがある。その事からこの人物がかなりの高位にある人物だとわかる。手袋とブーツは黒である。帽子も軍服と同じ色である。
 右手には金属製のステッキがある。左手は人のものではなく金属製の二股のカギ爪である。
 端正な顔は髭で覆われている。左目には眼帯が掛けられている。それにはヤモリの刺繍がある。ネオショッカーでその才を遺憾なく発揮した男、ゼネラルモンスターである。
 ドイツ南部、バイエルンに生まれた。彼の家は下級貴族の家だった。プロイセンのユンカーとは違いそれなりに財もあり地位もあった。大臣をバイエルン王国の大臣を出したこともある。
 彼もそのまま官吏になっていたかも知れない。だが時は不穏な風に支配されていた。
 第一次世界大戦に敗北し戦勝国の要求する莫大な賠償に苛まれていた。街には孤児達が溢れ絶望感と敗北感に支配されていた。人々は腐敗し退廃的な遊戯に溺れ明日を省みる事無く生きていた。
 その中に出て来た男がいた。男の名はアドルフ=ヒトラー。狂気の独裁者であった。
 その類稀な演説とカリスマ性によりヒトラーはドイツの権力への階段を駆け上がっていた。それを見た彼は決心した。この人物に付いて行こうと。
 彼は親衛隊に入った。大学で法学を修めており将校に任じられた。本来は前線に行かなくとも良かったが突撃隊の粛清で彼は軍人としても優秀な能力を持っている事が解かり猛将として名を馳せたディードリッヒの下に入れられた。そして彼の下で軍人としての素養に磨きをかけた。
 戦場において彼は優秀であった。冷静で常に的確な判断を行い軍を勝利に導いた。ディードリッヒは彼を信頼し常に側に置いた。
 だが戦局はドイツにとって不利なものへとなっていった。ドイツ軍は次第に敗北を重ね四方から追い詰められていった。
 一九四五年四月彼はベルリンに配属される。その頃にはソ連軍が迫っていた。
 そして彼は知った。ヒトラーが自殺した事を。四月三十日の事である。
 彼はそれ以上戦おうとはしなかった。ベルリンから姿を消すとそのまま行方をくらました。それ以後ドイツで彼を見た者はいない。
 彼は何処へ行ったのか。中東にいた。この地にはナチスに密かに好意を寄せる者もいて彼等の支援の下多くのナチス党員がいたのだ。彼もショッカーのゾル大佐もその一人だった。
 彼はエジプトへ入った。この地ではナチスの残党を追うモサドとの抗争が頻発していた。彼もそれに遭った。激しい死闘の末彼は左目を失った。
 彼はそれでも倒れなかった。そして逆にそのモサドの工作員達を全員倒してしまった。
 その彼を首領は誘った。元々ナチスで選民思想に染まっていた彼はそれに従った。以後彼はネオショッカーにおいて大幹部として君臨する。
 その水際立った作戦指揮は組織内においても高い評価を得ていた。やがて彼は中東の責任者として南米を取り仕切る魔神提督と並び称されるようになる。冷静にして冷酷な男である。
 「ゼネラルモンスター、貴様も甦っていたのか」
 「この世に再び悪の世を作り上げる為にな。そしてスカイライダー、貴様を倒す為に」
 地上に降り立ったスカイライダーを見据えた。
 「あの時の敗戦、忘れた訳ではない。貴様はこの私の手で必ず倒す」
 「・・・・・・・・・」
 両者は対峙した。
 「この場は退く。だが忘れるな。貴様等は今度こそ敗れるのだ。悪の手によってな」
 そう言うやいなやステッキをこちらに向けた。その先から激しい銃撃を加える。
 「ウォッ!」
 それを手で弾き返した。通常の弾丸では倒れない。
 「このナスカが貴様の墓場となる。それまでこの世との別れを惜しんでおけ」
 ゼネラルモンスターは陽炎の中に消えていった。見ればツバサ大僧正も姿を消していた。
 「ゼネラルモンスター、奴まで甦っているとは」
 「ライダー、これは激しい闘いになるぞ」
 後ろから博士が語り掛けてきた。
 「はい、覚悟のうえです」
 向こうからがんがんじいがやって来る。見れば彼も怪我をしている。どうやら戦闘員達と一戦交えたらしい。ライダーは変身を解き筑波洋に戻った。三人は合流し話を始めた。
 それを遠くから見る影が一つ。茶の髪をしたコートの男だった。
 「あれがスカイライダー・・・・・・」
 男は一言呟くとその場を立ち去った。

  「そしてそのまま撤退したというわけか」
 地下基地の一室で荒ワシ師団長がゼネラルモンスターとツバサ大僧正に言った。
 左右には中南米の神話に登場する様な怪物達の石像が並んでいる。中央には赤い絨毯が敷かれている。その奥には三席の椅子が置かれている。
 そこに彼等は座っていた。中央がゼネラルモンスター、右が大僧正、左が荒ワシ師団長である。
 「そうだ、戦力を消耗し過ぎたからな」
 ゼネラルモンスターは落ち着いた声で答えた。
 「そうか、まあいい。次の手は打っているか?」
 「奴等の居場所は偵察済みだ。既に刺客を送っている」
 「流石だな、動きが速い」
 「兵は神速を尊ぶ。これ位は常識だ」
 荒ワシ師団長の賛辞にも心を動かされない。
 「今奴等にここでの計画を知られるわけにはいかぬ。何としても消えてもらわなくてはな」
 「そしてそれが我等の野望の障害を排除することにもなる」
 ツバサ大僧正が言った。三人はその言葉に頷き合った。

 筑波達三人はテントの中にいた。食事を作りながら話し込んでいる。
 「さあ出来たぞ」
 博士が鍋を持って来た。中にはジャガイモと野菜、そしてスライスした牛肉がある。
 それを白い御飯にかける。ペルーの料理ロモ・サルタードである。
 「本当は焼いたジャガイモじゃなくてフライドポテトなんだけどね。生憎場所も設備も無くて」
 「構いませんよ、美味しいですし」
 「ほんまですわ。けど博士は料理が上手いですなあ」
 「ははは、やもめ暮らしが長かったからね」
 博士は笑いながら言った。実際博士は若い頃から研究一筋であり結婚する暇も無かったのだ。
 「おかげで料理は上手くなったかな。独身貴族も悪くないよ」
 「そんなもんですかなあ。わしはやっぱり女の子がいた方がええですわ」
 がんがんじいが言った。見れば鎧を着ている。
 「まあそれは人それぞれ。俺は空を飛べてればそれでいいし」
 「洋さんはいつもそうでんな。空を飛ぶばかり考えてはる。ちょっとは地に足着けなはれ」
 「おいおい、そうしたらスカイライダーじゃないぞ」
 その言葉に筑波は苦笑した。
 テントの中は和気藹々としていた。
 そのテントを遠くから見る影達。ジャリッと砂を踏む音がする。
 「あのテントだな」
 一体の怪人が戦闘員に尋ねた。ドグマの忍者怪人カメレキングである。
 「はい、間違いあろません」
 戦闘員は答えた。
 「よし、カメバズーカに連絡しろ。すぐに砲撃を開始しろと」
 「はっ」
 戦闘員はトランシーバーのスイッチを入れた。
 「カメバズーカへ、こちらカメレキング。攻撃目標はS地点。早速攻撃を開始されたし」
 「カメレキングへ、こちらカメバズーカ。了解した」
 別地点、カメレキングのグループより高い地点にカメバズーカ達はいた。デストロンの砲撃用の改造人間である。
 「攻撃目標はあのテントです」
 戦闘員の一人が眼下にあるテントを指差しつつカメバズーカに言った。
 「あれか、よし」
 カメバズーカは屈んだ。ゆっくりと狙いを定める。
 「照準よし、撃て!」
 背中のバズーカから砲撃する。大砲が火を噴いた。
 しゅるしゅると砲弾が音を立てて落ちる。そしてテントを直撃した。
 「やったか!」
 爆発四散するテントを見下ろし怪人は会心の笑みを漏らした。
 「スカイライダーといっても他愛無い。このカメバズーカ様の砲撃の前には全くの無力だったな」
 高笑いを出す。その時だった。
 「それはどうかな」
 後方、カメバズーカ達より高い位置の道の方から声がした。
 「何ィ!?」
 カメバズーカは声のした方を見た。そこにはスカイライダーがいた。
 「な、馬鹿な、何故ここに・・・!?」
 「スカイターボ!」
 スカイライダーは叫んだ。すると何処からか一体のマシンがやって来た。
 白く六角形のマシンである。スカイライダーはそれに飛び乗るとカメバズーカ達へ向けて突進して来た。
 「イィーーーーッ!」
 戦闘員達が襲い掛かる。だがスカイターボはその戦闘員達を次々と弾き飛ばしていく。
 「やらせん!」
 カメバズーカが砲撃を加える。爆風がライダーとスカイターボの至近で次々に炸裂する。しかしスカイライダーはそれに怯まず突っ込んで来る。
 「ライダーブレイク!」
 前輪とカウルを唸らせ突撃する。驚異的なスピードでカメバズーカへ突進した。
 「ゲハアッ!」
 カメバズーカは吹き飛ばされた。かろうじて立ち上げるが肋骨が完全に折れ内臓も破裂していた。
 「ぐ、何故だ、貴様はテントにいた筈では・・・・・・・・・」
 口から血を漏らしつつライダーに問い掛けた。
 「Oシグナルの存在を忘れていたな」
 「Oシグナル・・・あれの事か」
 Oシグナルとは怪人の接近の際警告を発する装置である。全てのライダーに備わっている。
 「Oシグナルは変身前でも作動しているのだ。それに気付かなかったとは迂闊だったな」
 「グググ、確かにな、この勝負俺の負けだ・・・・・・」
 カメバズーカは地に倒れ爆発した。
 「さてと、急ぐか。あいつだけでは心配だ」
 スカイライダーはマシンに跨り駆けた。
 「ええい、どかんかい!」
 その頃がんがんじいはカメレキング率いる怪人達と闘っていた。
 戦闘員達にはやはり強い。次々と薙ぎ倒していく。
 「怪人は何処や、怪人はあ!」
 「言われなくとも目の前にいる」
 カメレキングが出て来た。
 「ほお、御前がこの連中の親玉かい。相手に不足は無いわ、かかって来んかい!」
 拳を振りかざし突進する。だが怪人はそれを冷静に受け止めた。
 「馬鹿かこいつは」
 片手で放り投げる。がんがんじいは背中から地面に叩き付けられた。
 「普通の人間風情が俺に勝てるとでも思っているのか。さっさと死ぬがいい」
 左手首を外す。それをがんがんじいに投げ付けようとする。その怪人を爆風が襲った。
 「ぬううっ!?」
 咄嗟に後ろを振り向く。ライダーかと思った。だがそれはライダーではなかった。
 そこにはコートを着た東洋人がいた。スカイライダーとゼネラルモンスターの対峙を見守っていたあの男だ。
 「貴様は・・・誰だ?」
 怪人の問いにその男はゆっくりと口を開いた。
 「インターポールより派遣された特別捜査官役清明、以後知っていてもらおう」
 「役清明・・・そうか、ベイルートやカンボジアで我等の邪魔をしてくれた男か」
 怪人は役をじろりと睨んだ。
 「ここで会ったが幸い。仲間の仇、ここで取らせてもらうか」
 口から剣を取り出す。そして役に近付こうとしたその時だった。
 「それは俺を倒してからにしてもらおうか」
 また後ろから声がした。この声は知っていた。
 「くっ、ライダーか」
 その予想は当たっていた。がんがんじいを守る様にライダーが立っていた。
 「行くぞ、怪人」
 ライダーは構えを取った。怪人も剣を構える。
 「ふん、貴様の首、ゼネラルモンスターへの手土産にしてくれる」
 怪人が剣を振るった。それをスカイライダーは屈んでかわす。
 「甘いっ」
 手首を捻りそのぞ上へ振り下ろす。しかしそれはライダーの読み通りだった。
 「甘いのは貴様だあっ!」
 その手を掴んだ。そしてそのまま全身を高速回転させた。
 「竹トンボシューーーートッ!」
 怪人を投げ飛ばす。そして自らも飛んだ。
 「スカイキィーーーーック!」
 空中で怪人を撃つ。カメレキングは空中で爆死して果てた。
 着地するライダー、そこへがんがんじいと役が歩み寄って来た。
 「いやあ、流石やな、ライダー」
 がんがんじいが称賛の声をかける。
 「それ程でもないけど」
 スカイライダーは謙虚に受け止める。
 「がんがんじい、この人は?」
 「この人でっか?ええっとお・・・・・・」
 「インターポールの役清明です。宜しく」
 そうい言って身分証明書を見せた。
 「インターポール・・・・・・」
 その証明書はライダーも今までよく見てきたから知っていた。贋物ではなかった。
 「インターポールが俺達に何か御用ですか?」
 そういった時はいつもとんでもない事件の協力を要請される。
 「はい、先程の連中についてです」
 予想は当たった。博士も合流し話は始まった。

 役は三人に話をした。その内容はこのナスカにおけるゼネラルモンスター達の目的であった。
 「連中はここに基地を建設するつもりなのですか」
 役の話を聞いてまず筑波が声をあげた。
 「どうやら。しかもかなり大規模な基地のようです」
 「このナスカ・・・という事は航空機を中心にした基地ですね」 
 「こんなところにでっか?」
 「ここは人も少ない。隠れるにはもってこいだ。それに離着陸には絶好の目印もある」
 「あ・・・・・・」
 筑波に言われがんがんじいは納得した。筑波はあの地上絵の事を差して言っているのだ。
 「それにしてもこの様な山岳地帯で離着陸可能な航空機ですか。ヘリか何かですか?」
 「それは解かりません。いや、より高度なものであると予想されます」
 そう言って役は一枚の写真を取り出した。
 「これは・・・・・・」
 それは円盤型の物体であった。空を飛んでいる。俗に言われる未確認飛行物体=UFOだ。
 「前にこの辺りで目撃されたものです」
 「それが今回の奴等の行動と関連があると?」
 「否定は出来ません。ネオショッカーの首領、いえこれまでの組織を陰で操ってきたあの首領は宇宙より来たのですから」
 筑波はあの時のネオショッカーとの最後の闘いを思い出していた。あの首領は巨大な竜だったのだ。その姿は紛れも無く地球の知的生命体ではなかった。
 「よく考えて下さい。今までの組織の技術には明らかに地球のものとは思えないものも多くありました」
 それは三人共嫌になる程解かっていた。
 「かって銀河王という存在もいましたね。宇宙から来てネオショッカーと共闘した」
 「はい。宇宙に脱出する際爆死しましたが」
 銀河王とは身体の殆ど全てを機械に改造した宇宙からの侵略者であった。
 「そういった事を踏まえるとこの飛行物体は彼等のものである可能性が高いのです。現に彼等はここに航空基地を建設しようとしていますし」
 「・・・ですね。連中のやるそうな事だ」
 筑波は頷いた。
 「すぐに奴等の基地を見つけ出さなくちゃな。完成してからじゃ手遅れだ」
 「だとすれば話は早いな。奴等の野望を阻止しなくては」
 博士が言った。
 「洋はん、わてらも行きまっせ。三人で奴等の悪事を防ぐんや」
 がんがんじいも同調する。そこへ役が口を挟んだ。
 「三人じゃありませんよ」
 「えっ!?」
 「私も行きます。三人より四人の方が良いでしょう」
 その言葉に三人は思わず顔を向けた。
 「いいんですか、役さん。相手は改造人間ですよ」
 「それも何で武装しているかわからない。命の保証は無いんだよ」
 「そんな事はインターポールに入ってからすぐに叩き込まれましたよ。それがインターポールだとね」
 筑波達に微笑んで言葉を返した。
 「それならいいです。では行きましょう」
 「おう、絶対奴等の悪事阻止したりましょ!」
 四人の戦士達は出撃した。

 博士が特別な機器を出して地質を調査する。先程地上絵の地質を調査する時に使った機器とはまた別のものだ。
 「どうですか博士、何か解かりましたか?」
 「うむ・・・」
 機器のメーター等を見ながら博士は言った。
 「この辺りは他の所に比べて温度が高いな。この辺りは高山地帯だしそれ程高くはない筈なのだが」
 そう言いながら丹念にメーター等を見る。
 「それも地下に行く程温度が高くなっている。それも急激に」
 「と、いう事は基地は地下か」
 「相変わらず土の下が好きな奴等やな」
 がんがんじいが下の土を見下ろしながら言った。
 「地上絵でもこんな状況だった。地上絵とここはあまり離れていない。多分この下辺りに基地がある」
 「だとすればこの辺りに入口があってもおかしくないですね」
 辺りを見回す。ふと黒い影が目に入った。
 「ん?あれは」
 それを認め四人は頷き合う。岩陰に隠れつつ影が見えた方へ進んでいく。
 「ここか」
 見たところ単なる岩である。特別変わったところは見られない。
 「む!?」
 岩が動きだした。四人は岩陰に身を潜めた。岩が大きく開いた。何と岩の扉だったのだ。
 戦闘員達が出て来た。そっと後ろから忍び寄る。
 「ギッ!?」
 戦闘員達が気付いた時にはもう遅かった。彼等は瞬く間に倒されてしまった。
 岩の扉から中に入る。奥は機械化された路になっていた。
 「暗い路だな、相変わらず」
 「ほんまですな。進歩の無い連中や」
 博士とがんがんじいがこそこそ話す。四人はその暗さの中に潜り込む様にして進む。
 「あそこから光が漏れるな」
 一行は光が見える方向へ進む。路を出た。そうすると急に視野が広がった。
 そこは巨大な格納庫だった。周りに航空機を整備する時に使用される機械が立ち並んでいる。そしてあの写真に写っていたあれが。
 「円盤か。やっぱりこいつ等の物だったか」
 円盤を見て筑波は言った。目の前にあるものの他にも数機ある。
 「はやいとこぶっ壊してしもうた方がええでんな。こんなん置いといたら後々えらいことになりまっせ」
 「矢田君の言う通りだな。しかしどうやって。見たところ外はかなり頑丈だぞ」
 「そういう事ならお任せ下さい」
 役は懐から何か取り出した。
 「小型の爆弾です。これならエンジン部分に入れる事が出来ます」
 「そうか、どんな優れた兵器もエンジンが破壊されたら終わりだ。それでいこう」
 役はそれぞれ爆弾を受け取った。そして円盤のエンジン部分へ放り込んだ。
 「よし、下がれ!」
 四人は安全な場所まで下がる。暫くして円盤が次々に爆発していく。
 爆発は誘爆を招いた。周辺の機器も爆発に巻き込んでいく。
 「成功だな、これでこの基地は使い物にならない」
 廊下の隅に隠れて四人はその爆発を見守っていた。暫くしてドカドカと足音が聞こえてきた。
 「これはどういう事だ!」
 ゼネラルモンスターであった。後ろに戦闘員達を従えている。90
 「円盤が何者かにより爆破されました!周辺の機器も全て爆発に巻き込まれました!」
 戦闘員の一人が報告する。
 「消火活動を急げ!さもないとこの基地の機能が全て失われてしまうぞ!」
 「はっ!」
 ゼネラルモンスターの指示の下戦闘員達は動く。消火器等をもって次々と火を消していく。ツバサ大僧正や荒ワシ師団長
も手勢を連れて現われて来た。
 「そうはさせるか!」
 筑波達が飛び出していく。そして戦闘員達を次々と倒していく。
 「ぬうっ、貴様等は!」
 ゼネラルモンスター達は上の階から燃え盛る格納庫にいる筑波達を憤怒の表情で見下ろす。それに対し筑波達は闘志をみなぎらせた目で昂然と見上げた。
 「残念だったなゼネラルモンスター、最早この基地は使い物にならないぞ」
 「おのれっ、カメバズーカ達めしくじりおって・・・」
 「かくなるうえは貴様等の首でもって作戦失敗の罪を清めてやるわ!」
 荒ワシ師団長が斧を振るう。すると二体の怪人が姿を現わした。
 「カオーーオゥ」
 「ガガガガーーー」
 ゲルショッカーのガス怪人ガラオックスとブラックサタンの毒燐怪人奇械人ドクガランである。
 「行けっ、奴等を討ち取ってやれ!」
 二体の怪人が叫び声をあげる。戦闘員達が周りを取り囲む。
 四人は構えを取った。顔が炎に照らされる。
 「・・・行くぞ!」
 筑波が叫んだ。構えを解く。その目が光った。


 スカイ・・・
 両手を肘から脇の下へ入れる。腰のベルトが出て来た。右手を前に突き出す。すぐに右手を引っ込め左手の平を肩の高さで前に出す。
 腕と胸がオレンジになる。胴と脚が黄緑のバトルボディに包まれる。
 変身!
 左手を手刀にし右から左へ思い切り旋回させる。黒い手袋とブーツが装着される。
 左手を脇の下に入れ右手を左斜め上へ突き出す。顔の右半分を仮面が覆う。次に左半分を。
 腰のベルトが回転する。光がライダーを包んだ。

 「さあ来い改造人間!」
 筑波はライダーに変身した。格納庫へ飛び降りてきた二体の改造人間と対峙する。
 「イイッ」
 戦闘員達がライダーへ襲い掛かろうとする。だがそれをがんがんじい達が防ぐ。
 「雑魚はわい等に任せてや!」
 「ライダーは怪人を!」
 博士も拳を振るう。意外と格闘能力も秀でている。
 「有り難う、よし行くぞ!」
 ライダーは怪人達へ向かって行く。
 ガラオックスが角を突き出して突進して来る。ライダーはそれを受け止めた。
 「スカイチョップ!」
 連続してチョップを繰り出す。怯んだところに回し蹴りを入れる。
 「ガオオーーーゥゥ!」
 怪人は吹き飛ばされた。そして炎上する円盤に叩き付けられる。 
 「ガオーーーーーッ!」
 その炎に巻き込まれた。断末魔の叫びをあげ爆死する。
 「ガガガガーーーーッ!」
 奇械人ドクガランは叫び声と共に背中の羽根から燐粉を発してきた。普通の人間ならば数秒で死に至らしめる猛毒である。
 「皆下がって!」
 ライダーが叫ぶ。戦闘員達をあらかた倒し終えていた三人はそれに従った。
 「トオッ!」
 ライダーは飛び上がった。そして空中で]の字を作り高速で回転する。
 「スカイフライングソーサー!」
 毒の粉はライダーが作り出した風によりかき消された。狼狽する怪人に対しライダーは急降下してきた。
 「スカイキーーーーーック!」
 高速回転で威力を増した蹴りが怪人の胸をちょくげきする。さしもの奇械人も爆死して果てた。
 「さあ、残るは貴様等だけだ!」
 上にいる三人の大幹部を指差す。ゼネラルモンスターが前に出た。
 「面白い、今度こそ倒してやるわ」
 だがそれを荒ワシ師団長が制した。
 「待て、ここは俺に任せろ」
 「何っ、どういう事だ」
 右目で師団長をじろりと見た。
 「この基地は最早使い物にならん。貴様とツバサ大僧正は残った人員を集めて撤退の指揮を執れ。ライダーは俺が食い止める」
 「いいのか?」
 「フン、俺はデルザー軍団で『砂漠の死神』と恐れられた男だ。悠然とライダーの首を待っているがいい」
 「・・・よし、わかった」
 荒ワシ師団長の言葉にゼネラルモンスターとツバサ大僧正は頷いた。
 「この基地は放棄する。我々は残った人員をまとめ撤退を指揮する。後詰は貴様に任せる」
 「それでいい」
 師団長は満足そうに首を振った。
 「だが中南米での作戦は続行する。コロンビアで落ち合おうぞ」
 「分かった、コロンビアだな」
 「吉報を期待する」
 ゼネラルモンスターとツバサ大僧正はその場を退いた。後に僅かに残った戦闘員達が続く。
 「むうっ」
 ライダーは追おうとする。だがその前に荒ワシ師団長とその配下の戦闘員達がはだかる。
 「貴様の相手はこの俺がしてやろう」
 斧と盾を構える。その周りを戦闘員達が固める。
 「デルザー改造魔人の力、とくと味わうがいい」
 「何を、返り討ちにしてやる!」
 斧と拳がぶつかり合う。役やがんがんじい達も闘いに加わる。
 「スカイキィーーーーーック!」
 空中にジャンプし蹴りを繰り出す。しかし荒ワシ師団長はそれを背中の翼で飛び上がってかわした。
 「何だ、その蹴りは。狙ったつもりか?」
 空中で羽ばたきつつ不敵に笑った。
 「そういえば貴様も空が飛べるのだったな。面白い、空を貴様の墓標にしてやる」
 格納庫の奥が開いた。そこから青い空が見える。
 「来い、この大空で貴様の首を叩き落としてやろう」
 そう言うと空の方へ飛んでいった。
 「何を、空の闘いなら俺も!」
 スカイライダーも飛んだ。首の長く赤いマフラーが格納庫に入って来る突風にあおられる。
 「ライダー!」
 博士達が叫ぶ。戦闘員達も彼等との闘いを止め次々と空へ舞い上がる。
 「くっ、後は頼んだぞ」
 博士は格納庫の奥を見た。そこには空中でデルザーの改造魔人と対峙するライダーがいた。その周りを戦闘員達が舞う。
 「させん!」
 四方八方から襲い来る戦闘員達をはたき落とす。空を両脇の下の羽根を使って飛ぶ彼等は特に武器を持っていない。
所詮ライダーの敵ではなかった。
 「フン、空中でも力は落ちんか。流石だな」
 荒ワシ師団長は残忍な笑みを浮かべた。
 「だがその程度では俺は倒せん。死ねえぃっ!」
 斧を投げ付ける。斧は激しく回転し空を切り裂く音を立てながらスカイライダーに向かう。
 ライダーはそれをかわした。だが斧は弧を描いて曲がりこちらに再び向かって来る。
 「まだだ、それだけではないぞ!」
 腰からもう一本斧を取り出す。そしてその斧も投げ付けた。
 二本の斧がライダーを襲う。それに飽き足らず荒ワシ師団長は次々と斧を投げてくる。
 「くっ、これは・・・・・・」
 流石にライダーもかわすだけで手が一杯である。そうしている間に敵は次々と斧を放ってくる。
 「フォフォフォ、どうだ俺の斧捌きは。そうそう避けきれるものではあるまい」
 「くっ・・・・・・」
 その通りだった。これ以上斧の数が増えると危険だった。荒ワシ師団長はまた腰に手を持っていった。
 「まだだ、まだ終わらんぞお!」
 なおも斧を投げて来る。その斧がスカイライダーの肩をかすめた。
 「うぉっ!」
 思わず身構える。だがそこへ後ろから別の斧が来る。
 「くっ!」
 空中でバク転をする。この時無意識に足で数本の斧を叩き落とした。この時足が起こした風に斧が巻き込まれた。
 (んっ!?)
 この時ライダーの脳裏に何かが閃いた。
 「ほう、斧を落としたか。だが斧はまだまだあるぞ」
 自分の技に絶対の自信があるのだろうか。荒ワシ師団長は気付いていなかった。スカイライダーは勝機を見た。
 (・・・いける!)
 「喰らえっ、全ての斧を叩きつけてやるわ!」
 荒ワシ師団長は自分の持つ全ての斧を投げ付けて来た。空中を旋回する斧が全て四方八方から襲い来る。逃げ場所は無かった。
 「死ねえい、スカイライダーよ!」
 「俺は・・・死なない!」
 ライダーは胸のところで両腕をクロスさせた。そして全身を高速で回転させた。
 「スカイドリル!」
 回転によりライダーの周りに竜巻が生じる。その威力は凄まじく全ての斧を巻き込んだ。
 「おおっ!」
 これには荒ワシ師団長も息を呑んだ。斧は全て竜巻に飲み込まれ破壊されてしまった。
 「これどもう斧は使えまい、今度はこちらから行くぞ!」
 肩から体当たりをぶつける。それに荒ワシ師団長は体勢を崩した。
 「とおっ!」
 蹴りを放つ。それを盾で受け止める。だが盾はその衝撃に耐えられなかった。
 盾が吹き飛ばされる。そのまま地に落ちていく。
 「おのれっ!」
 呪詛の声を出す。しかしもう盾はその手には無い。
 「でやあっ!」
 空中で掴んで投げる。しかしこれは体勢を立て直される。しかしこれにより間合いが開いた。
 「うおおっ!」
 ライダーが吼えた。師団長へ向けて突進する。
 空中で激しく回転する。まるで駒の様である。
 「ちいいっ!」
 しかしそれは荒ワシ師団長にかわされる。よけた、そう思った時だった。
 「な、何ィッ!?」
 何とライダーは空中で旋回した。先程自分が投げ続けた斧と全く同じ動きだった。
 その速さ、その威力、如何に荒ワシ師団長とて避けきれるものではなかった。
 「大回転・・・・・・スカイキィーーーーック!」
 高速回転しつつ蹴りを放つ。それは荒ワシ師団長の腹を直撃した。
 「グワァーーーーッ!」
 荒ワシ師団長は絶叫した。そしてきりもみしつつ地に落ちていく。
 下はナスカの地上絵だった。その上へ肩から落ちた。
 「ぐふっ・・・・・・」
 嘴から血を吐いた。かなりの重傷である。だがまだ生きていた。
 「大回転スカイキックを受けてまだ立てるのか、何という生命力だ」
 着地してスカイライダーは言った。そしてすぐに構えを取った。
 「侮るな、俺は砂漠の死神とまで呼ばれたデルザーの改造魔人、これしきで倒れる筈が無い」
 しかし生きているのが不思議な位の傷だった。戦闘能力を喪失しているのは誰の目にも明らかであった。
 「そうか、ならばその誇りと共に葬ってやる」
 脚に力を入れる。そこへ銃弾が襲い掛かる。
横に飛びそれをかわす。ゼネラルモンスターの銃弾ではなかった。
 「誰だっ!」
 ライダーは叫んだ。それに対し何処からか声がした。
 「荒ワシ師団長は倒させぬ」
 自信に満ちた声だった。その声だけでも声の主が相当な実力者である事がわかる。
 「ぐっ、その声は・・・・・・」
 荒ワシ師団長にはその声の主が誰か知っているようである。
 「悪いが・・・その言葉に甘えさせてもらうとするか」
 懐から一つの球を出した。それは煙球であった。それを足下に投げ付け煙の中に消えていった。
 「くっ・・・逃げられたか」
 ライダーは忌々しそうに舌打ちした。
 「フフフ、悔しがる必要は無いぞ、スカイライダーよ」
 声がまた言った。
 「もうすぐ我等が世界を支配する時が来る。その時に貴様等は全員我等の軍門に降る事になるのだからな」
 「ほざけっ、誰が貴様等などに!」
 ライダーは叫んだ。しかし声の主はそれに対して嘲笑で返した。
 「それはもうすぐ解かる事だ。我等が生み出した絶対なる破壊神によってな」
 「破壊神!?」
 その言葉を聞いてライダーの様子が変わった。
 「それは後のお楽しみだ、ハハハハハ」
 声の主の気が遠のいていくのがわかった。
 「待てっ、逃がさんぞ!」
 セイリングジャンプで飛ぶ。だが眼下には誰もいなかった。
 「逃げられたか・・・・・・」
 悔しそうに地に降りるライダーそれを見る影が一つ。
 「破壊神・・・もしや・・・・・・」
 役だった。一言呟くと何も無かったように変身を解いた筑波の前へ現われた。博士とがんがんじいも出て来た。
 「役さんはもう行ったか」
 ナスカの近くにあるイカの空港で筑波は遠く離れ見えなくなった一機のセスナを見つつ言った。
 「ああ、日本へ行くらしい。気になる事があるとかで」
 筑波と同じようにそのセスナを見上げつつ博士が言った。
 「ということは日本でも連中が暗躍しているのか?」
 筑波は危惧を覚えた。
 「その可能性もあるな。どうやらかなり大きな組織が動いている」
 博士はそう言うと髭を生やした顔を暗くした。
 「連中の力はここの基地程度ではない筈だ。現に役君の話ではシンガポールに基地を建設する計画も実行に移していた
ようだしな」
 「それは聞いています。風見さんがそれを防いだそうですね」
 役から聞いたシンガポールでの死闘の話を思い出していた。
 「その時はデストロンの大幹部だったドクトルG達が指揮にあたっていたらしい。その他にもベイルートやカンボジアでも
暗躍していた」 
 「あのネオショッカーをも遥かに凌駕する組織ですね」
 「おそらくな。これから辛い闘いになるだろうな」
 博士が深刻な顔で語った。
 「けどそれはいつもの事やおまへんか」
 それに対しがんがんじいが場違いな程明るい調子で言った。
 「がんがんじい・・・・・・」
 「矢田君、そうは言っても・・・・・・」
 筑波と博士が呆れて窘めようとする。しかし彼はそれも踏まえてあえて言ったのだ。
 「いくら敵が強かろうとわい等の目的は一つや。悪を倒す、そうでっしゃろ。あのドグマやジンドグマとも闘ってきたんでっせ。
今更何言うてますんや、敵が強かったらその分わい等も強うなって頭も使えばええんや、闘う前から弱音言うとったら勝てるもんも勝てやしまへんで」
 「・・・・・・・・・」
 その言葉に二人は黙った。
 「そうだな、がんがんじいの言う通りだ」
 筑波が顔を上げた。
 「我々は少し弱気になっていたようだ。それではいけないな、我々が闘わなくてはいけないのに」
 「解かってくれはりましたか」
 がんがんじいは二カッと笑った。
 「ああ行こうぜ、コロンビアへ。連中がてぐすねひいて待ってくれてるぜ」
 「そうでなくてはな。こちらもやりがいが無い」
 「さあ行きましょか」
 三人はセスナに乗り込んだ。プロペラが回りだし滑走路を走りはじめた。そして空高く舞い上がった。
  
 天空の覇王 完


                                      2003.10・30


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