『仮面ライダー』

 第九幕 宙への港の電人


 アメリカ・フロリダ州。この州はアメリカ南部に位置し地域性の強いアメリカにおいても独特の雰囲気を持っている。キューバ
からの移民が多く、とりわけマイアミはキューバ系アメリカ人達が多い事で知られている。通称リトル=ハバナとも言われている。州都ジャクソンビルは北部にあり南北で雰囲気がかなり異なっている。
 この州が世界的に有名である理由は州の丁度中央部、東海岸大西洋のすぐ側にあるケネディ宇宙センターが置かれている
からである。ケープカナベラルという都市からすぐの場所にあるこのセンターは スペ−スシャトルの発射を行う事からNASAの
宇宙関係の施設の中でもとりわけ有名である。
 このセンターに向かう一台のジープがあった。乗るのは一人のアジア系の若者。赤いシャツの上に白いジャケットを羽織り
黒いズボンを履いている。滝和也である。
 「しかしリビアから帰ったと思ったら早速任務とはね」
 ジープを運転しながらぼやいている。
 「アメリカ国内つったってフロリダ半島じゃねえか。ニューヨークからどれだけ離れてると思ってんだよ」 
 溜息混じりに苦笑した。
 「まあ良いけどな。若い奴をあまり危険な目にあわせたくはねえ」
 そうこう言っているうちにケネディ宇宙センターの正門に着いた。身分証明書を見せジープで中に入る。
 中は最先端の技術とコンピューターを満載した施設で満たされていた。白衣を着た科学者や技術者、その手伝いをする
者達が動き回っている。白人だけではない。アジア系や黒人も多くいる。
 「流石は宇宙開発の中心地の一つだな。色んな国から優秀な人材が集まっている」
 ジープお駐車場に止めある施設に入る。そこは月面開発センターであった。
 入口にはガードが立っていた。警備にも細心の注意を払っているこの宇宙センターであるがこの施設はとりわけ警備が
厳重である。
 「よっぽど重要な研究をしているんだな」
 滝はそう思った。科学者の一人に案内され中に入る。応接間に案内された。
 「ようこそ、ケネディ宇宙センターへ。お待ちしていました」
 そこには一人のアジア系の青年が待っていた。
 耳を半ばまで隠した少し癖のある黒髪にやや長い顔、太く濃い眉に穏やかな黒い瞳。白衣とクリーム色のズボンの下から
でも科学者には似つかわない鍛えられた身体が見える。彼の名は沖一也、仮面ライダースーパー1である。
 国際宇宙開発研究所の科学者であった両親の下に生まれた。両親は彼が幼い頃に事故で亡くなった。身寄りの無い彼を
両親の親友であったヘンリー博士が引き取った。妻も子も無い博士は彼を実の子同様に可愛がり育てた。 
 成長するにつれ彼は自分の両親について考えるようになった。そしてその夢を知り息子である自分がそれをかなえようと
決意した。
 彼は大学を卒業後アメリカ国際宇宙開発研究所に入った。そしてヘンリー博士の助手として研究を続けた。
 研究を進めるうちにある計画が立案された。惑星開発用に改造人間を作ってはどうかという案であった。
 その案は実行に移され何人か候補者が挙げられた。それに自ら志願したのが沖一也であった。
 彼の育ての親であるヘンリー博士はそれを認めた。彼の強い決意に心打たれたからだ。改造手術の執刀は博士自ら
行う事となった。
 手術は成功した。彼は惑星開発用改造人間第一号、コードネーム“スーパー1”として生まれ変わった。博士は彼に未知の
惑星を探索する際の諸問題に対応すべく五つの技能を備えた腕を与えた。二人はこれからの人類の輝かしい未来と夢を
担うべく固く誓い合った。
 その彼を狙う者達がいた。その名はドグマ。ネオショッカー壊滅後に現われた謎の組織である。自分達を闇の王国と名乗り
選ばれた優秀な者達だけによる理想郷を創ろうとしていた。彼等は守護神としてカイザークロウという存在を崇拝していたが
帝王テラーマクロの出身がネオショッカーまでの組織を操っていたあの大首領と同じであり、しかもその後ろにいる存在で
あった為あの首領そのものではなかったか、という説もある。
 彼等はスーパー1のその力に目をつけたのだ。そして国際宇宙開発研究所に尖兵を送り込んだ。スーパーを差し出す事
を要求する為に。
 だがヘンリー博士はそれを断った。自分達の夢を、そして今まで我が子として育ててきた沖一也を悪の手で利用される事
をどうしても許せなかったのだ。
 それに対しドグマの返答は『死』だった。博士をはじめ研究所にいる者を皆殺しにした。その後で研究所を跡形もなく破壊
し尽くした。彼等に逆らう者には死、あるのみだった。
 沖の目の前で博士も同僚達も殺された。一人生き残った沖は為す術が無かった。スーパー1に変身する事すら出来
なかったのだ。
 宇宙への夢も絶たれた彼はドグマと闘う決意をする。それから半年。赤心少林拳の下で修業を積んだ彼は変身の呼吸を
身に着ける。同時に赤心少林拳の技を会得しその技と博士が授けてくれた五つの腕でドグマと闘う。
 彼は一人ではなかった。少林拳の玄海老師弁慶、そして谷源次郎達。彼等仲間達の協力も得てドグマと闘っていく。
そして遂にドグマを滅ぼした。
 だがそれで終わりではなかった。ドグマの帝王テラーマクロと袂を分かっていた悪魔元帥とその部下達が新たな組織
『ジンドグマ』を結成し世界征服に向けて動き出していたのだ。その後ろにはやはりあの首領がいたとも言われている。
その証拠の一つとして悪魔元帥の出身もまた大首領やテラーマクロと同じなのである。彼は気付いていなかったが彼も
テラーマクロも首領の分身の一つだったかもしれない。
 新たな敵と対峙するスーパー1.だが彼を助ける頼もしい助っ人が現われた。
 それはジュニアライダー隊。子供達は非力ながら果敢に世を乱さんとする悪に立ち向かっていった。
 ジンドグマとの闘いも熾烈なものだった。しかし悪魔元帥を倒しジンドグマを滅ぼした。全てを終えた彼は自分の夢を実現
する為に宇宙へ旅立ったのだ。
 「丁度三ヶ月前に地球へ帰って来たんですよ。それまでミールにいました」
 滝にコーヒーを勧めながら語った。
 「へえ、ミールか。地球は見られたかい?」
 「ええ。青かったですよ、とても。おっと、これはガガーリンさんの受け売りでしたね」
 沖はそう言って笑った。屈託の無い爽やかな笑いである。
 「ははは、そうだったな」
 それには滝もつられて笑った。
 「宇宙には無限の可能性があります。人間はそこに限り無い夢があるんです」
 そう語る沖の眼は澄んでいた。まるで少年の様な瞳である。
 「ああ、人間が宇宙へ旅立つ時代は近付いている。それは俺も感じている。あそこには果てしない希望がある」
 滝は顔を見上げた。その眼は遠い宙を見ていた。
 「だからこそそれを踏み躙る事は許せません」
 沖の顔が険しくなった。
 「・・・もうそっちにも話はいっていたのか」
 「はい、インターポールの役さんから」
 「そうか、だったら話は早いな」
 滝の顔からも笑みは消えた。二人は宇宙から話題を変えた。

 その頃センターの施設に隠れるようにして蠢く影があった。そしてマンホールを開けると中に入った。重いマンホールが
閉じられる音がした。
 影は下水道を通って行く。そして壁のある部分に近付くとそこを押した。壁が開いた。
 その中に入った。そして壁を閉める。
 暗く狭い道だった。その闇の中に影は溶け込んでいた。
 影は進んだ。そしてその暗い道の果てに辿り着くとそこの壁を押した。
 壁を押すと中に入った。中は赤い光に照らされた廊下だった。
 廊下を進むと広い部屋に出た。そこは作戦室だった。一人の男が立っていた。
 「何か変わった事は無かったか」
 銀の兜と鎧、服に身を包みその上にギリシア風の赤い服とマントを身に着けている。白いその顔には髭がたくわえられており
腰には剣がある。ドグマの最高幹部であったメガール将軍である。
 かっての名を奥沢正人という。日本人の科学者であった。沖一也と同じく宇宙開発に従事する青年であった。抜群の記憶力
と理知的な思考により将来を約束される程の優れた人物であった。いずれ宇宙開発の中心人物になるとまで言われていた。
 これは公にはされていなかったがスーパー1以前にも宇宙開発用の改造人間を作り出す計画はあった。そして実行
されていた。その計画に自ら志願したのがこの奥沢正人であった。
 彼にとって不幸であったのは改造手術を執り行なったのがヘンリー博士ではなかった事である。そして最初の改造であった
為何のノウハウも無かった。結果として改造は失敗し彼の改造後の姿は二目と見られぬ醜いものになってしまった。
 彼は国際宇宙開発研究所を逃げる様辞めた。そして世に絶望して自ら死を選ぼうとした。その時だった。
 彼の目の前に一人の老人が現われた。その名はテラーマクロ。彼の力を認め自らの組織に誘ったのだ。
 その誘いに彼は従った。もう普通の世界には住めないという事は自分自身が最も良くわかっていた。こうして彼は闇の
王国に入った。
 ドグマにおいて彼は大幹部の一人に列せられた。その冷静沈着な指揮と理知的な頭脳により次々に功をあげた。そして
テラーマクロの片腕とさえ言われるようになった。
 テラーマクロと悪魔元帥が対立し組織が分裂した時には他の幹部達の誘いも断りドグマに残った。自らを拾ってくれた
テラーマクロへの恩義の為である。
 ドグマの最高幹部として彼は常に陣頭で指揮を執った。冷静で理知的な男である。
 「はい、リビアより滝和也が来ました」
 「そうか、やはり来たか」
 その報告にメガール将軍は静かに頷いた。
 「どうやら我々の存在を感づいている様だな。そうでなければここまでは来ない」
 「如何なさいます?」
 戦闘員が尋ねた。
 「魔神提督に伝えよ。まずはスーパー1を誘き出し宇宙センターから離してくれと。それから磁石団長にも連絡してくれ」
 「はい」
 続けて指示を出す。
 「スーパー1が宇宙センターを離れた後に襲撃をかけるようにと。それまでは自重して欲しいとな」
 「わかりました」
 戦闘員は敬礼し退室した。将軍は作戦室のモニターに映し出された宇宙センターとその近辺のマップを見た。
 「スーパー1は手強い、周到に策を練らねばな」
 そこに映されているこちらの戦力の配置も視野に入れつつ呟いた。
 「今度は負けん・・・・・・」
 将軍はまた呟いた。暗い部屋にその全身がシルエットの様に浮かび上がっていた。

 滝と沖は宇宙センターの中を見て回っていた。敵の襲来時に何処に潜みそうか、何処から来る事が予想されるか、実際に
見て把握ひておく為だ。
 「こうして見ると広いな、ここは」
 滝はジープを運転しながら言った。
 「だから見学ツアーなんかはバスを利用するんです」
 沖はバイクに乗っている。流石はライダーの一員である。
 「そうか、アメリカならではだな。それにしても沖よお」
 滝は横目で沖のバイクとちらりと見ながら言った。
 「何でしょう?」
 「ハーレーダビットソンとはまたえらく派手なもんに乗ってるな」
 白を基調としたかなり大型のバイクである。横にもかなり大きく重量が凄そうだ。
 「これですか?ハーレーじゃないですよ。Vマシンっていうんです」
 沖は笑って言った。
 「そうか?外見なんかFLH1340にそっくりだけれどな」
 「ヘンリー博士が開発してくれたんです。俺の為にって」
 微笑んでそう語った。
 「ヘンリー博士?ああ、宇宙開発の権威の。確か御前さんの育ての親だったな」
 「はい。宇宙開発には補助のマシンも必要だって言ってくれて。凄いんですよ、無線機やレーダーまで搭載していますから」
 「おいおい、そりゃあ凄いな。まるで動く基地だな」
 「宇宙には何がいるか分からないからって。俺の為に寝る間も惜しんで開発してくれたんです」
 遠くを見る様な優しい目で語った。
 「・・・・・・そうか、いい人だったんだな」
 それを見た滝の顔も優しいものになった。
 「ええ。身寄りの無くなった俺を男手一つで育ててくれましたしね。あの時の暖かさは今でも憶えていますよ」
 「・・・・・・・・・それはいいな。大切な思い出だろう」
 「はい・・・・・・・・・」
 滝は思った。彼のその澄んだ目と夢を諦めない心は博士の慈愛によるものだと。素晴らしい人との出会いが彼の人間性
を形作ったのだ。
 「だからこのセンターは絶対守りますよ、命にかえても」
 沖は顔を引き締めた。
 「ここには博士の夢が残っているんです。人類を宇宙に旅立たせたいという博士の夢が」
 「・・・・・・だな、俺もそれに微力だけど協力させてもらうぜ」
 「・・・・・・はい。ん!?」
 Vジェットのレーダーが反応した。その時だった。何者かが二人を迫撃して来た。
 「むうっ!」
 滝はジープを左右にドリフトさせそれをかわした。沖のVマシンもそれに続く。
 だが敵の攻撃は執拗だった。Vマシンが爆発に巻き込まれた。
 「沖ィ!」
 滝が叫ぶ。だが沖もVマシンも無事だった。爆煙の中から彼は出て来た。
 しかしその姿は変わっていた。Vマシンは翼を広げた様な形に変形しており沖も変身していた。
 銀の黒い模様が入った仮面、赤く細めの両眼に黒いバトルボディ。仮面と同じく銀の胸と手袋、そしてブーツ。五つの腕を
持つライダー、仮面ライダースーパー1である。
 「あれがスーパー1か」
 滝はジープを止め後ろを振り返りつつ呟いた。話には聞いていたがその目で見るのは初めてだった。
 「噂に違わず格好良い奴だな。さてどんな闘い方を見せてくれるんだ?」
 スーパー1は両腕をその胸の前でクロスさせた。
 「チェーーーンジ、エレキハァーーーンド!」
 腕が光る。腕が銀色から青く変わっていた。その青い腕は甲の部分が金色で五色のメーターが着けられていた。
 「エレキ光線!」
 左腕から電撃を放った。それは砲弾が飛来してきた方向へ一直線に飛んで行く。
 「ギエエッ!」
 戦闘員の一人が爆発に吹き飛ばされる。迫撃砲も一緒だった。
 「あいつがやったのか」
 それを見て滝は言った。
 「そうですね、奴の他にもここに潜り込んでいるかも知れませんよ」
 ジープの横にVマシンから変形したバイク、Vジェットを並べて言った。
 「虱潰しに探すか?ガードにもえらく負担をかけるな」
 「いえ、その必要はありません」
 スーパー1は静かに言った。
 「?どうするんだ?Oシグナルでもこんな広い基地全部は無理だろう?」
 「これを使います」
 スーパー1は再びその両腕を胸の前でクロスさせた。
 「チェーーーンジ、レーダーハァーーーンド!」
 今度は腕が金色に変わった。甲にレーダーが着けられミサイルが装着されている。
 「行けっ!」
 両腕のミサイルをそれぞれ別方向に発射した。二つのミサイルは天高く飛んでいった。
 「・・・・・・・・・」
 スーパー1は両手の甲のレーダーを見ている。右手のレーダーに反応があった。
 「敵はこのセンターの中にはいません」
 「そうか、奴はただの鉄砲玉だったか」
 その言葉を受けて滝は安堵した。
 「しかし敵はこのセンターの外にいます。ここから少し離れた場所です」
 「そうか・・・数はどれ位だ?」
 「・・・多いですね。二十は越えています。エネルギーが大きい奴も混ざってますから怪人もいる様です」
 「成程、奴等正面から攻撃を仕掛けるつもりか」
 その報告を聞いて滝は眼を光らせて言った。
 「そうそう奴等の思い通りにさせてたまるか。こちらから出向いてやっつけてやる」
 「そう言うと思いましたよ。では行きますか」
 「ああ、行こうぜスーパー1」
 「はい」
 二人の戦士は戦場へ向けてマシンを進ませた。爆音を轟かせてセンターを後にした。

 「さて、と。わしの仕事はスーパー1を倒す事だが」
 センターから離れた荒野である男が呟いた。その周りには怪人や戦闘員達がいる。
 「何かメガール将軍の思惑通り動いている気がするのう。まあ功績はわしのものになるからいいのだが」
 全身を金色の鎧兜で覆っている。兜には水牛のものを模したと思われる角がある。鎧には髑髏と蛇のレリーフが彫られて
おり鎧の下に黒い服を着ており赤の手袋とブーツ、そしてマントを身に着けている。ネオショッカーで大幹部を勤めていた男、
魔神提督である。
 ブラジルに生まれた。家はリオデジャネイロの日系人の漁師だった。食べるものには困らなかったが家族が多くあまり裕福と言えなかった。長じて手に職を就ける為軍に入った。海軍だった。
 最初は兵士だったが上官に勧められ兵学校の試験を受けた。見事合格した。
 兵学校卒業後船に乗り込み軍歴を重ねた。アマゾン川での任務において不審な船を次々と捕まえ功績を挙げた。これ等
の功により若くして将官となった。
 それからもアマゾン川の賊の掃討に従事していたがある時船を沈められた。他の者を助ける為最後まで船に残った。これ
により船の乗員はほとんど助かったが彼は船と運命を共にした。
 だがその彼を助けた者がいた。ネオショッカーの首領である。組織設立の為に優秀な人材を欲していた首領は彼の命を
救った。そして組織に入るよう誘った。
 当初は悩んだ彼であったが既に戦死扱いされているのと命を助けてもらった恩から組織に入る事を承諾した。後その目的
を知るが野心も備えていた彼はその野望に賛同した。それが彼の運命を大きく変える事となった。
 中年米を任されその全てを取り仕切った。彼の力により中南米は仮面ライダーアマゾンと互角の闘いを演じた。その後
日本に渡りスカイライダーと闘う。剣や機械を得意とし様々な密謀を得意とする不死身の魔人である。
 「後は磁石団長がどうやるかだが。心配だのう」
 腕を組みながら一言漏らした。
 「あいつは血気にはやり過ぎる。迂闊な事をせねば良いが」
 顔を顰め考えを巡らす。どうももう一方が気になって仕様が無い様だ。
 「あ奴だけ責を問われるなら良いがわし等にまで責が及びかねん。それでも岩石男爵よりはずっとましだが」
 そうこうぶつぶつと言っている間に偵察に出していた戦闘員が戻って来た。
 「魔神提督、スーパー1が来ました」
 「ほう、来たか」
 声をあげる。目の前から赤い砂塵が二つ上がっている。一つは滝のジープのもの、そしてもう一つは青いマシン、スーパー1のブルーバージョンだ。 
 「よく我々がここにいる事がわかったな、スーパー1」
 「貴様等の行動、この腕により全てお見通しだ」
 腕を構える。銀の腕だ。
 「ふむ、噂に違わぬ切れ者よの。ではわしの名も知っておろうな」
 「ネオショッカーで悪名をはせた魔神提督、知らないとでも思ったか」
 「ふふふ、その通りだ。だが貴様は一つ大事な事を知らぬな」
 「何?」
 魔神提督はスーパー1を見て不敵に笑った。
 「わしの名を聞き、姿を見た者は必ず死ぬ運命にあるのだ」
 そう言いつつ腰から剣を引き抜いた。
 「今からその意味を教えてやる。さあ死ぬがいい、ライダーよ!」
 剣を突きつけ宣言する。彼の左右にいた怪人と戦闘員達が動き出した。
 「ブルルルルルルルルル!」
 ショッカーの冷凍怪人トドギラーが来た。まず拳を繰り出す。
 「フンッ!」
 スーパー1はそれを赤心少林拳の受けで防ぐ。右手の甲で弾いたのだ。
 「トオッ!」
 お返しとばかりに蹴りを出す。それを腹に受け怪人は一瞬怯んだ。
 だがすぐに体勢を整える。そして口から白いものを噴き出してきた。
 「ブルーーーゥーーーーッ!」
 それは冷凍ガスだった。スーパー1を氷漬けにせんとする。
 「ならば!」
 スーパー1は胸のところで両腕を交差させた。
 「チェーーーンジ、冷熱ハァーーーーンドッ!」
 緑の腕になった。これぞれ甲の部分に銀の機械が備え付けられている。右が赤、左が黒に部分々々カラーリング
されている。
 「これでどうだ!」
 左手から白いガスを出す。トドギラーと同じ冷凍ガスだ。
 両者のガスが空中で激突する。最初はその力は互角であった。
 「ブルルルルル・・・・・・」
 だが次第にスーパー1の方が優勢となる。トドギラーはそれに対し焦ってきた。
 遂にトドギラーは力尽きた。息が途絶えたのだ。
 そこをスーパー1の冷凍ガスが襲い掛かる。怪人は氷漬けになり砕け散った。
 「アーーーブラーーーーッ!」
 次はデストロンの高熱怪人ガマボイラーだ。口から高熱の熱気を出してくる。
 「今度は熱か・・・・・・ならば!」
 スーパー1は右手を向けてきた。その甲から紅蓮の炎を出す。
 勢いが違った。ガマボイラーの熱気はたちまち押される。
 炎が怪人を包む。勝負は決まった。だが怪人は最後の力を振り絞りスーパー1へ突進する。
 「甘いっ!」
 スーパー1はそれを跳躍でかわした。その直前に怪人は口から白い液を噴き出したがそれもかわされてしまった。炎の中
で怪人は爆死した。
 「おのれっ、ガマボイラーの最後の秘策もかわすとは・・・・・・」
 スーパー1の見事な動きを見て魔神提督は歯軋りした。戦闘員達は滝が次々に倒している。
 「だがこれで終わりではない。こいつならどうする?」
 「ムゥーーーーッ」
 ゴッドの豪力怪人ミノタウロスである。頭部の角を振りかざし襲い掛かってくる。
 「チェーーーンジ、パワーーーハァーーーーンドッ!」
 再び両腕を交差させた。今度は赤い腕だ。銀と黒の機械が備え付けられている。
 突進して来るミノタウロスの角を受け止めた。そして押して来る怪人を逆に押し返している。
 「グウウ・・・・・・」
 怪人の頭を持ち上げる。そして空中へ放り投げた。
 「ムオォーーーーッ!」
 怪人は天高く撥ね飛ばされた。そして地に落ち爆死した。
 次に出て来たのはドラゴンキングだ。ネオショッカーの拳法の使い手である。
 「貴様の得意の赤心少林拳、この怪人に利くかな?」
 怪人を送り出した魔神提督はほくそ笑んでいる。
「ギャイーーーーッ」
 怪人は叫びをあげサイを出してきた。両手にそれを握る。
 サイを突き出す。スーパー1はそれをかわす。
 次々に攻撃を繰り出す。爬虫類の様な外見に似合わず素早い。
 スーパー1の蹴りを右で受け止めた。そして左でサイを入れる。
 だがその手をスーパー1が掴んだ。そして捻る。
 「ギィッ」
 サイが落ちた。そしてスーパー1に横に投げられる。怪人は体勢を崩し横に滑っていく。
 「トオッ!」
 ライダーは跳んだ。そして空中で型を作った。赤心少林拳の型である。
 「スーパーライダァーーーー閃光キィーーーーック!」
 ライダーの蹴りがドラゴンキングの胸を直撃した。怪人は吹き飛ばされ爆死した。
 「おのれっ、何という強さだ」
 「魔神提督、残るは貴様だけだ」
 そう言うと魔神提督の前へ出た。ジリジリと対峙する両者。
 「ふん、貴様と闘っても最早何の意味も無いわ」
 スーパー1を侮蔑する様に言った。
 「何!?」
 「既にセンターには我等の別働隊が向かっている。今頃全て破壊しておる頃だろう」
 「なっ・・・・・・」
 迂闊だった。陽動作戦は兵法の初歩の初歩であった。
 「気になるなら戻ってみるか?瓦礫の山が見られるぞ」
 「クッ・・・・・・・・・」
 その通りだった。今センターに戻っても無駄だった。スーパー1は敗北を悟った。
 「おうい、センターは後回しじゃあ!」
 そこに声がした。ガラガラとした何処か粗暴さが感じられる声だった。
 「何!?その声は」
 赤い仮面に黒いプロテクターとズボンに身を包んだ男が出て来た。両腕と仮面には磁石が取り付けられ手には磁石の杖
がある。デルザー改造魔人の一人磁石団長である。
 中央アジアに生まれた。祖先は首無し馬に乗る魔人だった。昼も夜もその馬を駆り草原で会った者を剣の錆にしていた。
その子孫である彼も馬上で人を斬り続けた。殺した者の魂がその糧だった。
 彼の進むところ死の荒野だった。首や胴が転がり胸を刺し貫かれた屍が横たわっていた。
 彼はある時謎の人物に声を掛けられる。前に立つ者は全て殺す彼は当然その者にも切り掛かった。
 だが彼は負けた。組み伏せられた彼は相手の名を聞いた。
 その者の名はマシーン大元帥。デルザー軍団の改造魔人であった。彼は改めて自分達の組織へ彼を誘った。
 彼はその誘いに乗った。負けたからではない。マシーン大元帥の強さを知り、また彼の力量に感じ入ったからだ。
 彼は自ら進んで改造手術を受けた。磁石の力を手に入れ剣の替わりに杖を持つようになった。それが彼の新たなる誕生
の時だった。
 それ以後彼はデルザーの一員として闇に暗躍した。強力と磁気を駆使する勇猛果敢な猛将である。
 「磁石団長、貴様センター襲撃に向かったのではなかったのか?」
 魔神提督が問い質す。
 「おう、それだが途中でいい土産ができたので帰って来たのじゃ」
 ガラガラと高笑いしつつ言った。
 「何っ、貴様作戦を無視して・・・・・・」
 怒る魔神提督に対し笑って応えた。
 「これを見てもそう言えるかのう」
 戦闘員達を杖で指示する。すると縛られた子供達が連れられて来た。
 「ほう」
 それを見て魔神提督も声をあげた。
 「センター見学用のバスが通り掛かったのでな。襲撃して捕らえたのじゃ。将来の戦闘員にと思ってのう」
 磁石団長は得意そうに言葉を続ける。
 「土産の報告に来たら丁度貴様がスーパー1とやり合っていたんじゃ。どうも最高も土産になったみたいだの」
 「うむ、その通りじゃ」
 魔神提督はにやりと笑った。そしてスーパー1に向き直った。
 「さあそうする、スーパー1よ。貴様が手を出せばこの子供達の命は無いぞ」
 「くっ・・・・・・」
 スーパー1は怯んだ。子供達を犠牲には出来なかった。それが出来る程彼は冷酷ではなかった。否、彼の心はあまりにも
優し過ぎた。
 スーパー1は構えを解いた。戦闘員達に両腕を拘束される。その後ろでは滝が手を上げていた。

 荒野でスーパー1は変身を解かれていた。そして沖一也の姿に戻っていた。 
 沖は十字架に縛り付けられていた。その足下には木が堆く積まれている。
 「どうだ、十字架の気分は」
 磁石団長は得意げに尋ねる。だがそれに沖は答えようとしない。
 「答えぬか。まあ良い。どのみち貴様等はもうすぐ処刑だ」
 一体の怪人が出て来た。ゲルショッカーの火吹き怪人ムカデタイガーだ。
 「この怪人が貴様の処刑を執り行なう。焼け死にあの世で我等の作戦が成就するのを見届けるがいい」
 それに対しても答えようとしない。口をつぐんだままである。
 「口を開くつもりは無いか。それなら死ぬまでそうしているがいい。ところで魔神提督」
 隣にいる魔神提督に声をかけた。
 「メガール将軍に連絡は取れたか?」
 「うむ、スーパー1の捕獲を聞いても特に嬉しそうではなかったがん。だがこちらへ来るとは行っていた」
 「ならばいい。将軍にわし等の功を見せるいい機会だ」
 「いつも憮然として面白みの無い奴だがな。まあ宿敵の死を見れば喜ぶだろうて」
 二人の後ろに子供達がいた。縄で縛られている。周りには二人の戦闘員がいるだけである。
 (どうするかだな・・・)
 ちらりと隣を見た。滝も十字架に架けられている。その眼は死んではいなかった。激しい怒りの目で磁石団長と魔神提督を
見ていた。
 (良かった、まで諦めていない。これなら大丈夫だ)
 沖はキッと遠くを見据えた。そこから突如として土煙が巻き起こった。
 「ムゥッ!?」
 それはブルーバージョンだった。沖が自分の脳波で遠隔操作しているのだ。
 「クッ、何とかしろ!」
 場は忽ち混乱に陥る。沖の目が再び光った。
 「Vマシン、今だ!」
 荒野の横からVマシンが出て来た。一直線に沖と滝が架けられている十字架の方へ向かって来る。
 Vマシンの後部の一部だけ変形した。翼が出て来た。
 翼が沖と滝の両手を縛っていた縄を断ち切った。二人は足の縄を解き十字架から脱出した。
 「しまった!」
 二人は子供達の方へ向かった。そして二人の戦闘員を倒し子供達を護る様に立った。
 「油断したな、俺のマシンは二つ有るんだ」
 二人の大幹部と対峙し沖は言った。
 「おのれっ、それを忘れていたわ」
 滝は子供達の縄をナイフで断ち切っている。
 「滝さん、子供達を安全な場所へ」
 「おお」
 子供達の縄を全て断ち切ると滝は子供達を連れ戦場を離脱した。
 「後は貴様等だけだな」
 そう言うと沖はゆっくりと赤心少林拳の構えを取った。
 「ほざけ、ならば貴様を力ずくで倒すだけだ」
 新たに二体の怪人が現われた。ゴッドの復讐怪人サソリジェロニモとドグマのムカデ怪人ムカデリアである。
 「ならば・・・行くぞ!」
 スーパー1は構えを取った。さっきのものとは別の構えだ。

 変・・・・・・
 右腕を頭の高さで引いた。左腕は腰の高さで前にある。
 手と足が銀の手袋とブーツに包まれる。腰にベルトが出ている。
 ・・・・・・身
 右腕を前に出す。左腕はそれに添えている。胸も銀色になった。
 両手首を合わせる。そしてそのまま前に出していく。全身が黒のバトルボディに包まれる。
 両手首を時計回りに百八十度回転させた。顔の右半分が仮面に包まれすぐに左半分も包まれる。
 腰のベルトが光った。全身が光に包まれる。

 変身は完了した。仮面ライダースーパー1がそこにいた。
 「行くぞ、魔神提督、磁石団長!」
 二人へ向けて突き進む。底へ三体の怪人が立ち塞がる。
 「ムヒョーーーォウ!」
 ムカデタイガーが口から炎を吹き出す。スーパー1も腕を冷熱ハンドに変え右腕から炎を出して対抗する。
 怪人の炎が途絶えると懐へ飛び込みその首を右手で掴むと炎を噴出させた。
 「ヒョォーーーーーッ!」
 怪人は忽ち炎に包まれた。そして爆死した。
 次はムカデリアへ向かう。腕はエレキハンドに変わっていた。
 怪人はトゲ爆弾を投げる。それがかわされるとロープを投げてきた。
 スーパー1はそれを掴んだ。そして両腕に電気を込めた。
 「受けろおっ!」
 黄色い電流がロープを伝う。怪人はそれに撃たれた。
 それをスーパー1は蹴り飛ばした。電流に包まれながら怪人は吹き飛ばされ地面に叩き付けられ爆発した。
 今度はパワーハンドに変えるとサソリジェロニモの槍を掴んだ。そして奪い取り真っ二つにへし折った。
 槍を折られた怪人は今度は斧を出してきた。斧が唸り声をあげてスーパー1に襲い掛かる。
 その刃をかわすスーパー1。頭上へ斧が振り下ろされる。
 「見切った!」
 その斧を受け止めた。武道でいう真剣白刃取りだ。
 刃を封じるとそれを奪った。右手で握り潰し左手でチョップを加える。
 怪人が怯んだところにもう一撃、怪人の首に両手でチョップを同時に浴びせる。
 「スーパーライダー諸手頚動脈打ち!」
 両手の攻撃が同時にヒットした。サソリジェロニモは倒れ爆発して果てた。
 「後は貴様等だけだな」
 魔神提督と磁石団長を睨む。提督が剣を抜いた。
 「若造が、いい気になるな」
 剣を振るう。スーパー1の腕は銀のスーパーハンドに戻っている。
 スーパー1は間合いを空けた。腕をチェンジしようとしたその時だった。
 「死ねえい!」
 魔神提督が左腕を飛ばして来た。そのままスーパー1の首めがけ襲い掛かる。
 だがそれより早くスーパー1は腕をチェンジさせていた。金のレーダーハンドだった。
 「甘い!」
 右手からミサイルを放った。ミサイルはそのまま飛び魔神提督の左腕を撃ち落した。
 続けて右腕のミサイルを放つ。それは魔神提督の胸を直撃した。
 「グハァッ!」
 ミサイルの直撃を受けて倒れる。胸が破壊され煙が出ている。
 「単なる探索用のミサイルではなかったのか・・・・・・」
 「仮面ライダーの身体は全身が武器だ、貴様はそれを見落としていた」
 腕は銀に戻っていた。その腕で起き上がる魔神提督を指差す。
 「ぐぐっ、そうだったな。それを忘れていたわしの不覚か・・・・・・」
 それでも剣を離さない。だがその前に磁石団長が出て来た。
 「魔神提督、それ以上の戦闘は無理だ。後はわしに任せるがいい」
 手に杖を持っている。
 「何を言うか、わしがこの程度で怯むと思っているのかっ」
 「無理をするなと言っとるんじゃ、まだお主を失うわけにはいかんからのう」
 「むっ、うう・・・・・・」
 魔神提督は暫し考えた。そして結論を出した。
 「・・・ならばこの場は主に任せる、スーパー1の首級、見事挙げてみよ」
 「おお、楽しみに待っとれ」
 魔神提督はマントで身体を包んだ。そしてその中に消えた。
 「スーパー1よ、覚悟は良いか」
 スーパー1と対峙する。その気は今までの怪人とは比較にならなかった。
 「フン!」
 背を屈める。背中から無数の小型磁石を打ち出す。
 スーパー1はその磁石を弾き落とす。だが数が多い。
 しかも一度地面に弾き落とされた磁石が浮き上がり再び襲い来る。その全てを防げる筈もなく腹や脚にその直撃を受ける。
 「ハハハ、どうじゃわしの磁石の味は。なかなかのもんじゃろ」
 磁石団長はそれを見て高らかに笑う。
 「だがのう、まだ終わりではないぞ」
 手に持つ電磁棒を回転させる。爆発し粉々になっていた怪人達の破片が集まって来る。
 「そおれぇい!」
 それをスーパー1へ投げ付ける。トリッキーな動きをするミニ磁石に加え一直線に高速で突っ込んで来る破片が来た。
 よけきれない。数個の破片がスーパー1を打った。
 「ぐふううっ・・・・・・」
 胸を押さえる。だがすぐに体勢を立て直し磁石を落とす。
 しかしそれも限度がある。疲れとダメージから次第に動きが鈍ってくる。それにつれて防げない磁石や破片が多くなる。
 (まずい、このままでは)
 心の中でスーパー1は思った。
 (磁石は鉄に引き寄せられる。俺の全身には鉄も多い)
 しかも磁気の影響により身体の動きも妙だった。
 (どうすれば良い?磁気を消すには)
 ふと自分の銀の腕が目についた。
 (腕・・・・・・そうだ!)
 後ろに跳んだ。間合いを開ける。だがすぐに磁石や破片が向かって来る。
 「馬鹿め、無駄なあがきよ!」
 磁石団長がそれを見てせせら笑う。しかしスーパー1は心の中で必勝の笑みを漏らした。
 「チェーーーンジ、エレキハァーーーーンドッ!」
 エレキハンドにチェンジさせる。すぐに高圧電流を発射した。
 「ムウッ!」
 磁石と破片が電流に吸い寄せられる。そしてその中で分解されていく。
 「な、何いっ!」
 磁石団長は思わず叫び声を出した。目の前で分解された磁石と破片が塵となって地面に落ちていくからだ。
 スーパー1が電流を止めた時磁石も破片も全て塵となり風に吹かれ飛び去った。それを見届けスーパー1は腕を銀の
スーパーハンドに戻した。
 「・・・・・・迂闊だったわ。まさか磁気まで使えようとはな」
 「この五つの腕は悪を倒す為にある。たとえどの様な時にもな」
 「ふん、まだ勝負は終わりではないわ。行くぞ!」
 今度は電磁棒をふりかざし突き進んで来る。両者共激しい接近戦を展開した。
 だが接近戦では赤心少林拳を極めたスーパー1に分がある。磁石団長は次第に追い詰められていった。
 スーパー1の手刀が磁石団長の胸を打った。団長はたまらず体勢を崩す。
 「今だ!」
 スーパー1は跳んだ。そして空中で型を取り旋回した。
 「スーパーライダァーーー月面キィーーーーック!」
 空中からの蹴りが磁石団長の胸を直撃した。大きく撥ね跳び地面へ叩き付けられる団長。
 だがすんでのところで急所は外した。立ち上がってくる。
 「勝負あったな。最早それ以上闘えまい」
 「ぐぐっ・・・・・・」
 その通りだった。あまりにもダメージが大き過ぎた。電磁棒を杖にして何とか立っている状況だ。
 「行くぞ、次で止めを指してやる」
 再び飛び上がり蹴りを繰り出そうとする。だがそこに客が訪れた。
 「待て、磁石団長を倒させはせぬ」
 「ムッ、その声は・・・・・・」
 その声の主をスーパー1は良く知っていた。
 磁石団長の前に一騎の馬が現われた。その馬上に声の主はいた。
 「メガール将軍、やはり来たか」
 スーパー1は構えを崩さない。メガール将軍も馬上からスーパー1を睥睨している。
 「スーパー1、久しいな。再び貴様とこうして対峙する事になろうとは」
 表情は崩さないがその声には様々に入り混じった心情が感じられる。
 かって彼は自分の醜く変わり果てた姿に絶望した。そして美しいスーパー1に激しい憎悪を燃やしたのだ。
 彼等の死闘は続いた。そして彼は奥沢正人ではなくメガール将軍として最後を遂げたのであった。
 その時の事が脳裏に浮かぶ。そして今その宿敵が目の前にいるのだ。
 「今回の闘い、見事だった。おかげで北米の我々の作戦は失敗に終わった」
 更に言葉を続ける。
 「だがこれで終わりではない。我々の真の計画はこれから始まる」
 「・・・・・・・・・」
 スーパー1は沈黙を守っている。それに対し将軍は言葉を続ける。
 「我々の作り出した最強の戦士により貴様も他のライダー達も滅び去る事になろう。だがスーパー1よ、貴様は違う」
 キッとスーパー1を睨みつける。
 「貴様は私が倒す。この手でな」
 既に磁石団長は戦場を離脱している。荒野にいるのはスーパー1と将軍だけであった。
 「今は勝利の美酒に酔いしれているがいい。じきに敗北の味を噛み締めながら死ぬのだからな」
 そう言うと馬首を返した。ゆっくりと蜃気楼の様に消えていく。
 「最強の戦士か・・・・・・」
 一人残ったスーパー1は呟いた。
 「来るなら来い。たとえ誰が来ようとこの赤心少林拳で倒してやる」
 強い決意の声だった。その時後ろから滝と彼の乗るジープの音が聞こえてきた。

 「そうですか、滝さんはもう行きましたか」
 闘いから数日後の朝沖は上司や同僚達の前にいた。
 「ああ、今朝早くに。何でもサンフランシスコに行くとか言っていたよ」
 白衣を着た上司の一人が言った。駐車場を見る。既に滝のジープの姿は無かった。
 「シスコですか。またえらく離れてますね」
 沖は苦笑して言った。
 「おいおい、何言ってるんだ。君もそこへ行くのだろ」
 上司は笑いながら言う。
 「ええ、ちょっと滝さんを追っかけにね。それから何処へ行くかは解かりませんが」
 沖も微笑んで言った。
 「全てが終わったらまたここへ帰ってきます。それまで待っていて下さい」
 「インターポールへの協力か。大変だが頑張ってくれよ」
 上司が沖の肩に手を当てて言った。悪と闘うとは言っていない。インターポールへ暫く出向するという名目でセンターを後に
し悪を倒す旅に出るのだ。
 「有り難うございます。必ず帰って来ます」
 生きて帰れるとは限らない。だがそれでも行かなくてはならないのだ。それがライダーなのだから。
 「ああ、その時は派手にパーティーをして迎えてあげるよ」
 「その時を楽しみにしてて」
 同僚達が次々に暖かい言葉をかけてくる。沖はそれが嬉しくてたまらなかった。
 だが別れの時が来た。沖はあえて明るい表情と声で言った。
 「じゃあ行って来ます。お元気で」
 「頑張れよ」
 皆の暖かい声と見送りを受け沖はセンターを後にした。Vマシンが爆音をあげセンターから遠く離れていく。

 宙への港の電人  完


                                 2003・11・4

 

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