第十話          悪友との再会
「そうか、ショットも退いたか」
 シュテドニアスの軍事基地にウィル=ウィプスは停泊していた。そこで彼は先の戦いの情報を集めていたのだ。
「突如現われた謎のマシンの攻撃を受けまして」
 部下の一人がそう報告する。
「それでか。そしてその謎のマシンは何処に行ったのだ」
「ラングラン軍と合流するかと思われましたが何処かへ去ったようです。緑の光に包まれたと報告があります」
「そうか。だがまた急に出て来るかも知れぬな」
「はい」
「それは我々の前にもだ。油断してはならんぞ」
「わかっております」
 その部下はそう応えた。
「ところで戦局ですが」
「うむ」
「シュテドニアス軍はさらに後退を続けております」
「トロイアから撤退したのだな」
「はい。そして国境に向かっておりますが」
「それを援護して欲しいという要請があったのであろう、シュテドニアス政府から」
「はい」
 部下はそれに答えた。
「すぐにオーラシップを一隻送って欲しいということですが」
「ふむ」
 ドレイクはそれを受けて考え込んだ。
「だが今このウィル=ウィプスは動けぬ」
「はい」
「ショウ=ザマ達に受けたダメージが大き過ぎた。そういうことになる」
「はい」
 彼は今度の戦いに参加するつもりはなかった。それよりも様子を見たかったのだ。
「今は動くことができない。これはショットも同じだろう」
「そのようです。ショット様の部隊もかなりのダメージを受けられたようですから」
「それにあの男は今は動かぬだろう。何を言っても白々しい答えが返ってくるだけだ」
「はい」
 ドレイクはショットを全く信用してはいなかった。同盟を結んではいるがそれはあくまで表面的なものに過ぎないのである。
「となると一人しかおらぬな」
「ビショット様ですか」
「あの御仁にも働いてもらわねばな」
 彼は思うところを含みながらそう言った。
「すぐに連絡をとれ」
「ハッ」
 部下はそれに応えて敬礼した。こうしてビショットの出撃が決定した。だが当の本人はその命令に甚だ不満であった。
「おのれ、私を楯にするつもりか」
 蝶に似た巨大なシルエットの艦の艦橋にその男はいた。小ずるそうな外見の男である。その細面は思慮深そうに見える。彼がビショット=ハッタである。バイストンウェルのクの国の国王である。ドレイクの同盟者ということになっているがその実は彼を隙あらば追い落とそうと画策している策士である。
「何が悲しくてこのような異郷の地で戦わなければならんのだ」
 彼は不満を爆発させていた。どうやらラ=ギアスに来たのが大いに不満であるらしい。
「地上ならばともかくだ。ドレイクに伝えよ」
 家臣に言う。
「私は動けぬと。どうやらゲア=ガリングの調整不足のようだ」
「お待ち下さい」
 だがここで彼を止める声がした。見れば厚化粧の年増の女である。
「ルーザ殿」
 ビショットは彼女を見てふと感情を制した。
「ここは動くべきかと思いますが」
 ルーザはそう提案した。彼女は実はドレイクの妻である。だが地上に出た時にこの艦にいたことからビショットと通じ今では愛人関係にもあるのである。名をルーザ=ルフトという。言うまでもなくリムルの母でもある。
「動くべきですかな」
「はい」
 彼女はビショットにそう答えた。
「ドレイクに恩を売っておくのもよろしいかと」
「そういう考えもありますかな」
 彼はそれを聞いて考えをいささか改めたようであった。
「ですがラングラン軍はかなりの強さと聞いております。しかもグランガランやゴラオンまでおります」
「はい」
「一度戦うとなるとこちらもかなりのダメージを負いますが」
「それならばシュテドニアス軍を楯をすればよいでしょう」
「ほう」
 ルーザの言葉に眉を動かした。
「それならば我等の損害も最小限に抑えられます。要は戦いに参加したという事実があればよいのです」
「そういうものですかな」
「ええ。ですから今回はラングラン軍の前に姿を現わしたという事実さえあればよいのです。後はどうとでも言い繕えます」
「わかりました。それでは」
 彼はそれを受けて家臣達に対して言った。
「出撃だ。よいな」
「ハッ」
 家臣達はそれを受けて敬礼した。
「攻撃目標はラングラン軍。だが決して無理はするな」
 彼は家臣達にそう命令した。
「そして赤い三騎士達も呼べ」
「はい」
「あの者達にも働いてもらう。よいな」
「ハッ」
 こうして指示が次々と下る。そしてゲア=ガリング戦力を整え出撃した。目標は表向きはラングラン軍となっていた。そしてそれはすぐにラングランにも伝わった。
「やっぱりというか何というかだな」
 マサキはそれを聞いて呟いた。
「あのおっさんが出て来る番だと思っていたよ」
「よくそれがわかったな」
 ヤンロンが彼に対して言った。
「いや、実はあの連中同盟を結んでいてもやたら仲が悪くてな。しょっちゅう足の引っ張り合いをしていやがるんだ」
「利害だけで結びついているということか」
「ああ。だから大抵戦場でも自分の利益を優先させるんだ。三隻揃って出て来たことなんか滅多にねえんだな、これが」
「何か歴史書を見ているみたいだ」
 それがヤンロンの率直な感想であった。
「だとすると今後も彼等との戦いはそうしたことを見極めていく必要があるな」
「まあな」
 マサキはそれに答えた。
「けれど手強いのはウィル=ウィプスだな。後の二つは正直大したことはねえ。特に今度出て来るゲア=ガリングは戦闘力
自体はあまりねえんだ」
「元々空母として設計されていたからな」
 ここでショウが出て来た。
「ショウ」
「あの艦はオーラバトラーの搭載に重点を置いている。だから艦自体の戦闘力は大したことがないんだ」
「そうなのか」
「だがオーラバトラーの塔裁量はかなり多い。それは注意してくれ」
「しかも手強い奴等もいやがるしな」
 トッドも話に入って来た。
「赤いビアレスには注意しろよ。あの連中は他の奴等とは違う」
「ああ、あれか」
 マサキがそれに応えた。
「奴等のことは覚えているよ。確かに手強い」
「俺もクの国にいたことがあるからな。連中のことはよく知っているつもりだ。ドレイクの旦那のところのアレンやフェイみたいに
強いオーラ力はねえけれどな。その分技量が高い」
「トッドが言うんだから本当なんだろうな。俺は何回か見ただけだからよくわからねえが」
「マサキも戦ったことがあったな、そういえば」
「ああ。けれど剣を交えたことはなかった」
 ショウにそう答えた。
「まあ連中が来たら任せてくれ。俺達で何とかする」
「頼むぜ、聖戦士」
 こうした話をしながら彼等は出撃準備に入った。そしてグランガランに集結した。
「今回はゲア=ガリングか。となると数でくるな」
 ニーが言った。彼もゲア=ガリングやビショットのことはよく知っていた。そして彼のやり方もわかっていた。
「また何か策を用意しているだろうか」
「今の時点ではそれはないと思う。むしろ保身に走るな」
 ガラリアがそれを受けて応えた。彼女はドレイクの下にいたがビショットのことも知らないわけではないのだ。
「でしょうね。結局今回も何だかんだと言ってすぐに帰ると思うわ」
 キーンにもおおよそのことは読めていた。やはり何度も戦ってきているだけのことはあった。
「だとするとそのゲア=ガリングは今回の主な敵はないということになるな」
 カークスは彼等の話を聞きながら総括的にそう述べた。
「では敵はシュテドニアス軍ということになるな、今回も」
「私もそう思います」
 シーラが彼の意見に同意した。
「ビショット=ハッタは今回は積極的には動かないでしょう。むしろシュテドニアス軍の戦意の高まりを感じます」
「戦意ですか」
「はい」
 シーラは答えた。
「彼等は今故郷に帰ろうと命懸けです。その戦意には只ならぬものを感じます」
「というか生き残ろうと必死なんだな」
 タダナオがそれを受けて言った。
「そうかも知れません。ですが問題はそれだけではないでしょう」
「というと」
「ノボトニー元帥が戦線に到着したらしいのよ、これが」
 セニアが皆に対してそう言った。
「今指揮権を掌握したらしいわ。シュテドニアス軍は彼の指揮下に入ったみたいね」
「ノボトニー元帥がか」
 カークスはそれを受けて呟いた。
「強敵現わるといったところだな」
「なあ」
 タダナオはそれを聞いて隣の席にいるシモーヌに声をかけてきた。
「そのノボトニー元帥ってのはそんなにできるのか?」
「シュテドニアス軍の重鎮って呼ばれてるね」
 シモーヌは彼にそう答えた。
「若い時からシュテドニアス軍で活躍していてね。あの国の宿将なのよ」
「宿将か」
「ああ。だから実戦経験も豊富でね。その采配には定評があるんだよ」
「所謂百戦錬磨の将ってわけか」
「そうなるね。バゴニアとあの国がやりあった時もあの人のおかげで勝てたしね。手強いよ」
「そうなのか。まあシュテドニアスは作戦指揮自体は前から悪くなかった気がするがな。こっちの戦力が高いだけで」
「魔装機神だけでなくヴァルシオーネやオーラバトラーまでいるからな。だが油断はできないぞ」
 アハマドが真剣な声でそう語った。
「油断する者にアッラーは恩恵を与えられない」
「厳しいね」
「人の世とはそういうものだ」
 アハマドはタダナオにもそう語った。
「油断する者には死あるのみ、それだけは覚えておけ」
「わかってるさ」
 タダナオはニヤリと笑ってそれに応えた。
「だから今こうしてここにいるんだ。さて」
 そして一同に顔を戻した。
「大体話は出たんじゃねえか?今回の敵はシュテドニアスだ」
「シュテドニアスか」
「ああ。そのビショットはあまり戦う気がないっていうのならな。もっともオーラバトラーには気をつけなくちゃいけないのは変わらないにしろ」
「ふむ」
 皆彼の言葉を聞いて考え込んだ。単純で口も悪いがそれだけに率直であった。
「全軍でシュテドニアスを討てばいい。そしてゲア=ガリングが来たら」
「そこで兵を分けてもいいか」
「精鋭だけな。主力はシュテドニアスに攻撃を続けてそれを退けた後で全軍でゲア=ガリングに向かう」
「精鋭は足止めか」
「そう考えてもらっていいぜ」
「わかった」
 一同タダナオの言葉に頷いた。
「では作戦を決定するとしよう」
「はい」
 カークスの言葉に注目した。
「まずは全軍でシュテドニアス軍への攻撃を開始する。だがこの際ショウ、トッド、ガラリアの小隊及びマサキ、リューネの小隊は左翼に位置すること」
「左翼に」
「そうだ。ゲア=ガリングのいた基地は我等から見てそちらにある。だからそこに配置する」
「わかりました」
 カークスの読みであった。
「そして彼等が来た場合は足止めを頼む。その間に主力はシュテドニアスを撃つ」
「了解」
 皆カークスの言葉に頷く。
「そしてシュテドニアス軍を退けた後我が軍はゲア=ガリングに向かう。そrねいより戦いを終わらす。よいな」
「ハッ!」
 こうして作戦が決定した。ラングラン軍は戦いに向けて出陣したのであった。
 既にシュテドニアス軍は迎撃態勢を整えていた。ロボトニーは移動要塞に乗り彼等を待ち受けていた。
「来たな」
「予想通りですわな」 
 隣にいるロドニーがそれに合わせるようにして言った。
「じゃあわいも出ますわ」
「いいのかね、君も前線に出て」
「何を仰いますやら。それが軍人ですがな。今更後方でコソコソやる気はおまへん」
「ふむ」
 ロボトニーはだからといって彼を引き留めるつもりはなかった。
「君も昔から変わらないな。やはり前線で戦いたいのか」
「そうでなくては何もおもろないですから。それに」
「それに?」
「下のモンに任せて自分は安全な場所におるっちゅうのはどうも。閣下もそれは同じですやろ」
「確かにな」
 彼はそれを認めた。
「私も最後尾で指揮を執る。そして兵士達を一人でも多くシュテドニアスに撤退させるぞ」
「そうこなあきませんな」
「それでだ。君が前線に出て魔装機に乗るのなら積極的に援護を頼むぞ」
「はい」
「私は援護射撃を行う。その間に兵を退ける」
「わかりました」
「正直あのオーラバトラーとやらは信用しておらん」
 彼はここで目を細めて光らせた。
「ドレイクという男、何やらよからぬものを感じる。決して信用はできぬぞ」
「そうでっしゃろな」
 それはロドニーも同じであった。
「あの男だけやおまへんしな。あのビショットにしろショットにしろ腹に一物ありまっせ」
「大統領は彼等を利用するつもりのようだがな」
「それは向こうもでっしゃろ。何のことはおまへん、同じ穴の狢ですわ」
 そこにはゾラウシャルドに対する明白な嫌悪があった。
「どっちにしろあんな連中は数には入れんとこですな」
「うむ」 
 ロボトニーはそれを受けて頷いた。
「我々だけでやるぞ。よいな」
「最初からそのつもりですわ」
 ロドニーは強い声でそう答えた。
「そうか。ならば」
 ここで精霊レーダーに反応があった。
「言っている側からだ。来たぞ」
「はいな」
 ロドニーはそれを受けて立ち上がった。
「じゃあわいは魔装機に乗りますさかい」
「うむ」
「閣下はここで全軍の指揮をお願いしますわ」
「任せておけ。そして」
「はい」
「シュテドニアスに戻るぞ。いいな」
「勿論」
 こうして戦いがはじまった。まずはラングランの攻撃からはじまった。
「いっけええええ!」
 ミオが叫ぶ。そしてザムジードがレゾナンスクエイクを放った。
 これを受けて忽ち数機の魔装機が破壊された。そしてその隙間にラングラン軍が切り込もうとする。いつもの戦法であった。だがそれが今崩れた。
「そうはさせるかい!」
 シュテドニアスの新鋭機ジンオウによりそれが防がれた。切り込もうとしたジャオームとソルガディの前に立ちはだかってきたのだ。
「ヌッ!」
「ジンオウか!」
「おお、そのジンオウや」
 それに乗るロドニーが二人に応えた。
「ここは通さへんで。わいがおる限りな」
「へえ、そう上手くいくのかい?」
 シモーヌがそれを聞いて笑みを浮かべた。そしてザインの姿を消した。
「このザインを止めることはできないだろう」
「それはどうかな」
 だがそこで攻撃が放たれた。ザインはそれを何とかかわしたが姿を現わしてしまった。
「クッ、誰だい!」
「地上からの使者、と言えば格好がつくかな」
 そこで一機の魔装機が姿を現わした。それはロドニーが乗っているのと同じジンオウであった。
「地球連邦軍少尉小沢等、訳あってシュテドニアス軍に在籍している。以後覚えていてくれ」
「小沢!?」
 それを聞いたタダナオが声をあげた。
「おい、御前小沢か!?」
 そしてそのジンオウに声をかけた。
「その声は」
 それに向こうも反応してきた。
「おい、御前栗林か」
「おう、そうだ。御前もここにいたのかよ!」
 タダナオはその声を聞いて彼であると確信した。そしてさらに声をかけた。
「何でこんなところにいるんだよ!」
「それはこっちの台詞だ」
 オザワの方も負けじとそう返した。
「何でラングラン軍にいるんだよ」
「こっちに召還されたんだよ」
 タダナオはそう答えた。
「気付いたらな、ここにいた」
「何だ。じゃあ僕と同じか」
 タダナオはそれを聞いて納得したように言った。
「えっ、御前も召還されたのか!?」
「ああ」
 彼は答えた。
「気付いたらここにいた。御前と喧嘩した後にな」
「じゃあ同時刻にか。ううむ」
 タダナオはそれを聞いて考え込んだ。
「不思議なこともあるもんだな」
「ああ。しかもまさか敵味方とはな。一体何でこんなことになったやら」
「しかし妙だね」
 ベッキーはそれを聞きながら考えていた。
「何がだい?」
 シモーヌがそこに突っ込みを入れる。
「いや、シュテドニアスに地上人を召還できることなんかできたのかなあ、って」
「そういえばそうだね」
 シモーヌもそこに気付いた。
「一体何でだろうね。あの国にそんな魔力の強い奴なんていない筈だけれど」
 それを受けてタダナオが彼に問うた。
「で、御前は誰にここに召還されたんだ?」
「ああ、紫の髪の人にな」
「紫の髪」
 それを聞いた魔装機のパイロット達が一斉に顔色を変えた。タダナオ以外は。
「紫の髪の人?」
「ああ。そしてシュテドニアス軍に入るように薦めてくれたんだ。手続きは全部済ませてあるからってな」
「そうなのか。やけに親切な人だな」
「ああ。かなりキザっぽかったけれどいい人だったよ。おかげで今こうしてここにいるんだ」
「また妙な因縁だな」 
 だがタダナオとオザワ以外の者にとってはそれでは済まなかった。皆頭の中にある疑念が浮かんでいた。
(まさか・・・・・・)
(生きているのか)
 彼等はそう考えていた。だが今はそれについて深く考えている余裕はなかった。
 敵の反撃が強まった。それを受けて彼等もそれに対処するしかなかったのだ。
「クッ!」
 そして攻撃を加えるシュテドニアス軍の中にはオザワもいた。
「御前もかよ!」
「悪いが今はシュテドニアスにいるんでね!悪く思うな!」
 彼はそう言いながらタダナオに攻撃を仕掛けてきた。
「それに前の決着をつけるいい機会じゃないか」
「それもそうだな」
 タダナオはそれを聞いて笑った。
「じゃあケリをつけるとするか」
「そうこなくちゃな」
 二人は互いに笑った。そして戦いをはじめた。二機の魔装機が互いにぶつかり合った。
 戦いは互角のまま進んでいた。シュテドニアスは戦力差をノボトニーの指揮によりカバーしていた。そして前線で戦う兵士達の士気も高かった。
「ドアホウ、死にさらせっ!」
 ロドニーが叫ぶ。そして攻撃を放つ。
「うわっ!」
 魔装機達はそれをかわす。そして何とか態勢を建て直し攻撃に移ろうとする。だがそれを彼の側にいる魔装機が阻む。
「将軍はやらせないっ!」
 シュテドニアスの魔装機ギルドーラがロドニーのジンオウのカバーを務めていた。そこに乗るのはエリスであった。
「ここは通さないよ!」
「エリス、悪いな」
「いえ」
 エリスはロドニーの礼を受けながら敵を見ていた。そしてさらに攻撃を続けた。
「とっととやられちまいな!」
 そしてビームキャノンを放つ。それでラングランの魔装機を寄せ付けなかった。
 戦いは膠着状態に入るかに見えた。だがここでカークスが指示を下した。
「グランガランとゴラオンを前に出せ」
「オーラシップをですか」
「そうだ」
 カークスは参謀に対して応えた。
「魔装機及びオーラバトラーの援護を強める。そして」
「はい」
「各魔装機に伝えよ。それぞれの属性に合わせて戦うようにとな」
「属性に」
「水の魔装機は火に」
 彼は語りはじめた。
「火は風に、風は土に、土は水にだ。それぞれの属性を思い出せとな」
「わかりました」
 参謀は彼が何を言いたいのか即座に理解した。
「それでは各機にそう伝えます」
「うむ」
 彼は頷くとシーラとエレに通信を入れた。彼も移動要塞で前線にいるのである。そしてそこから指揮を執っていた。
「シーラ王女、エレ王女」
「はい」
 二人がモニターに出た。
「申し訳ありませんが宜しいですな」
「勿論です」
 二人は微笑んでそれに答えた。
「ショウやマサキ殿達が戦っているというのにどうして私達だけが逃れられましょう」
「私達とて一国の主、その心構えはあります」
「左様ですか」
 カークスはそれを聞いて内心感銘を受けていた。二人のその言葉には高貴なる者の義務があったからである。それは彼がよく知る一人の若き君主のそれと同じであった。
(殿下もそうだな)
 彼はここで自らの主君のことを思い浮かべた。だがそれは口には出さなかった。
「それではお願いします」
「はい」
 それだけであった。そして二人もそれに頷きカークスに言われるまま前線に出た。二隻のオーラシップの攻撃により戦局は変わった。
「前面に火力を集中させよ」
「ハッ」
 シーラの指示にカワッセが頷く。そして攻撃を仕掛ける。それによりシュテドニアス軍の陣に穴が開く。ゴラオンも攻撃を仕掛ける。
「あれがオーラシップか」
 ノボトニーは二隻の戦艦の攻撃を見ながら一言口にした。
「変わった形だがかなりの強さだな」
「ええ。しかし今はこちらにも二隻おります」
「彼等か」
 彼はそう答えた参謀の一人に顔を向けた。
「はい」
 彼は何の疑念もなくそれに応えた。ノボトニーの真意はわかってはいない。
「スプリガンも入れると三隻です。数では我等の方が有利です」
「数ではな」
 だが彼は首を縦には振らなかった。
「数だけだ」
 そして感情を込めずにそう呟いた。
「?何かあるのですか」
「いや」
 あえてそれには答えなかった。
「それだけだ。ところでゲア=ガリングはまだか」
「もう少し時間がかかるようです。オーラコンバーターの調子が思わしくないとか」
「そうだろうな」
 これは容易に想像ができたことであった。ノボトニーにとっては。
「戦局は厳しくなってきたな」
 彼はオーラシップの話から戦局に話を移した。
「そうですね、確かに」
 参謀もそれに同意した。
「ラングラン軍は戦法を変えてきましたね。どうやら精霊の属性を考慮した攻撃に変えてきました」
「うむ」
「元々我が軍の魔装機はあまり高位の精霊を使ってはおりません。不利な属性相手ですとそれが特に出ますね」
「その通りだ」
 ノボトニーは低い声でそれに応えた。
「このままではいかんな。我々も戦法を変えるぞ」
「ハッ」
「彼等に習う。属性を考慮して攻撃せよ。よいな」
「わかりました」
「そしてジェスハ准将に伝えよ」
 今度はロドニーに指示を下した。
「魔装機神に注意せよとな。そして」
 彼はモニターに映る戦場から片時も目を離さない。そして指示を下し続ける。
「徐々に退け。無駄な損害は控えるようにとな」
「了解」
 こうしてノボトニーは戦いながら退却に移ろうとしていた。ロドニーもそれに従い前線の指揮を執っていた。
「流石は閣下やな」
 ノボトニーの命令を聞いた時彼はそう言った。
「そうでないとあんな連中には勝てへんわ」
 見ればラングラン軍の魔装機はシュテドニアス軍の魔装機を押していた。やはり属性がものを言っていた。
「おい、御前等」
 彼はすぐに自軍に指示を下した。
「こっちも頭使うんや。属性考えて攻撃せい。わかったな」
「属性ですか」
 傍らにいるエリスがそれに尋ねた。
「そうや。御前のやったら水やな」
「はい」
「火の魔装機狙うんや。グランヴェールとかな」
「わかりました」
「わしやったら風やな。サイバスターといきたいところやが」
 見ればサイバスターは少し離れた場所にいる。出向いては前線指揮に影響が出かねなかった。
「仕方あらへんわ。手頃なの相手にするかい」
 そして彼のジンオウも剣を抜いた。そして敵に斬り込んだ。その状況はカークスも冷静に見ていた。
「敵は我等の戦法を真似てきましたね」
「うむ」
 彼にとってそれは予想されたことであった。さして驚いてはいなかった。
「それではこちらも次の戦法に移ろう」
「次の」
「そうだ。オーラバトラーに伝えよ。遊撃戦を展開せよと」
 今度はオーラバトラーに指示を下した。
「彼等は精霊属性はない。その分自由に動ける」
「成程」
「よいか。敵に有利な状況にするな。そして確実に追い詰めていけ」
「わかりました」
 こうしてカークスの次の指示が下った。それに従いマーベル達が動く。そしてシュテドニアス軍に次々と攻撃を仕掛ける。特にマーベルの攻撃が激しかった。
「これなら」
 落ち着いた様子でシュテドニアス軍の魔装機に剣を振り下ろす。そして袈裟懸けに斬る。
「う、うわああああっ!」
 攻撃を受けた魔装機が両断される。パイロットは慌てて脱出ポッドで逃げ出した。
「よかった、逃げたようね」
 マーベルはそれを見て少し胸を撫で下ろした。そして次に敵に向かいオーラショットを放ちまた一機撃墜した。
 ニー達はマーベルに続く形で攻撃に参加する。二機のボチューンとビアレスが敵に切り込む。
「これならどうだっ!」
「私だって!」
 マーベル程ではないが彼等の技量もかなりのものであった。次々にシュテドニアス軍の魔装機を撃墜し彼等に有利な態勢はとらせない。その間にラングランの魔装機は態勢を整え攻撃に移る。戦局はさらにラングランに有利となっていた。その間ショウやマサキは自軍の最右翼にいた。攻撃には参加しているが積極的なものではなかった。
「ショウ」
 ビルバインのコクピットの中にいるチャムがショウに声をかけた。
「わかってる」
 ショウは彼女が何を言いたいのかわかっていた。即座に頷く。

「来るぞ、皆」
 彼はマサキやトッド達に声をかけた。
「あいつが・・・・・・ゲア=ガリングが」
「そうか、いよいよか」
「あの王様と会うのも久し振りだな」
 マサキとトッドがそれに応える。そして彼等はビルバインと共に新たな敵に顔を向けた。
 そこに巨大な黄色い影が姿を現わした。無数のオーラバトラーを周りに従えたそれはまるで蝶の様な形をしていた。だが全体から巻き起こる威圧感がそれが決して蝶ではないことを教えていた。
「ゲア=ガリング!」
 ショウはその巨大なオーラシップを見てその名を呼んだ。
「暫くぶりに見たが相変わらずとんでもねえ大きさだな」
 マサキがそれに続いた。彼等は一斉にそちらに顔を向ける。ここでカークスから通信が入った。
「わかってるな」
「勿論」
 彼等はそれに答えた。
「彼等の足止めを頼む。我々はその間にシュテドニアス軍を退ける」
「了解。どれだけかかる?」
「そうだな」
 カークスは戦局を見ながら答えた。
「あと数分だ。それまで時間を稼いでくれ。いいな」
「よし、わかった」
「何なら俺だけで連中全部倒してやるぜ」
「トッド、それはあたしの言う台詞だよ」
 聖戦士達がそれに応える。マサキとリューネもであった。
 彼等はゲア=ガリングとそのオーラバトラー達に向かっていった。その間にカークスは残りの部隊に指示を下した。
「全軍総攻撃だ!この移動要塞も前に出せ!」
 その声が一気に強くなった。
「一気に退ける!そしてゲア=ガリングに向かう。よいな!」
「ハッ!」
 全軍それに従い動いた。そしてシュテドニアス軍に対して攻勢に出た。
 それを見たノボトニーの動きも速かった。すにやかに全軍に指示を下した。
「撤退せよ!ダメージの多いものから退け!」
「ハッ!」
 それに従い退く。後詰はロドニー達が受け持っていた。
「お、撤退かよ」
 オザワはそれを見てタダナオから離れた。
「おい、何処へ行くんだよ」
「悪いがこれも命令でな。縁があったらまた会おうぜ」
「会おうぜ、ってどうせ敵味方だからまた戦場だろうが」
「まあ固いことは言いっこなしだ。お互い死なねえように気をつけてな」
「ああ、またな」
 こうしてオザワは戦線を離脱した。追撃しようとしてもそれより早くカークスからの指示が来た。
「深追いはするな、すぐにゲア=ガリングに向かえ」
「やっぱりな」
 彼はそれを聞いて納得した。
「小沢、また会おうぜ」
 最早姿が見えなくなった悪友にそう言葉を贈った。そして彼はゲア=ガリングに向かうのであった。
 ゲア=ガリングとその下にいるオーラバトラー達は既に戦闘に入っていた。既にビルバイン達と剣を構えている。
「必殺の、オーラ斬りだああっ!」
 チャムがショウの横で叫ぶ。ショウがそれに合わせるかのように剣を振り下ろす。
「はああああああっ!」
 それで敵のビアレスが撃墜された。だがそこに三機の赤いビアレスがやって来た。
「ショウ、あれ」
「わかってる」
 彼は答えた。そしてその三機の赤いビアレスに正対した。
「やっぱり出て来たか」
「どうするの?やっぱり戦うの?」
「決まってるだろ」
 ショウはチャムに顔を向けてそう言った。
「やってやるさ」
「無理はしないでね」
 こうしてショウのビルバインはその三機の赤いビアレスに向かった。三機のビアレスはそれを見て互いに顔を見合わせた。
「ダー、ニェット、来たぞ」
 髭面の男が他の二人に声をかけた。ガラミティという。
「おう」
「わかってるぜ」
 いかつい顔の大男と隻眼の男がそれに頷く。ダーとニェットである。
「ショウ=ザマ、やはりここにもいるとはな」
「どうやら俺達はあいつとは腐れ縁にあるらしいな」
 彼等はビルバインを前にしても余裕のある態度を崩してはいなかった。歴戦の勇者由縁だろうか。
「だが油断はするな。今まで何度も痛い目にあってきたからな」
 ガラミティが他の二人にそう言う。彼がリーダー格のようである。
「わかってるぜ」
「じゃああれをやるか」
「うむ」
 三人は互いに頷き合った。そしてサッと動いた。ショウを取り囲んだ。
「行くぞ・・・・・・」
 三人は同時に攻撃を開始した。
「トリプラーーーーッ!」
 それでショウのビルバインを討とうとする。だがビルバインはそれよりも早く上に飛んだ。
「ムッ!?」
「トリプラーを!」
 彼等は一斉に顔を上げた。そこではショウが既に攻撃態勢に入っていた。
「そう何度も!」
「いっちゃえええええっ!」
 チャムも同じになって叫ぶ。そしてビルバインはオーラビームソードを三機に向けて放った。
「ウワッ!」
 彼等はそれをよけそこねた。急所こそ外したものの大きなダメージを受けた。それぞれ腕や脚、頭部を吹き飛ばされてしまった。
「クッ、これ以上の戦闘は無理か」
「兄弟、退くぞ」
「ああ、残念だがな」
 こうして赤い三騎士は退いた。だがショウの戦いはまだ終わってはいなかった。
「チャム、今度はあいつだ」
 ショウはゲア=ガリングに顔を向けていた。
「うん」
 チャムもそれに頷く。彼女も敵が何であるかわかっているのだ。
「行くぞ、あいつを倒す!」
「ショウ、待って!」
 だがここで後ろから声がした。そこには一機のビアレスがいた。
「リムル」
「あそこにはお母様がいるわ」
 彼女はビショットと母ルーザの関係を知っていたのである。
「だから私が」
 彼女は前に出ようとする。だがそこに同じ小隊のニー達が来た。
「待て、リムル」
 ニーが彼女に声をかける。
「それだけは止めろ」
「けれど」
「いいから。子が母に剣を向けるようなことがあってはならないんだ」
「これは戦争なのよ、ニー」
 しかしリムルも引き下がらなかった。
「バイストンウェルの戦いの元凶がお母様なのだから」
 彼女はゲア=ガリングを見据えた。
「せめて私の手で」
「おいおい、お嬢様は何思い詰めてるんだよ」
 だがここでトッドのダンバインがやって来た。
「戦争だってんなら他にもあるだろうが」
「トッドさん」
「御前さんにはあのデカブツは荷が重過ぎるぜ。幾らビアレスでも一機でどうにかなるもんか。なあショウ」
「ああ」
 トッドはリムルに言うのと同時にショウに対しても言っていたのだ。一機のオーラバトラーで戦争が決まるわけではないのだと。これはショウがかってエイブに言われたことであった。アメリカ空軍のパイロット、すなわち士官としての教育を受けてきたトッドにはこのことがよくわかっていたのだ。
「今丁度シュテドニアスの連中も退けて魔装機も来たところだ」
 見れば魔装機達もゲア=ガリングのオーラバトラー達と戦いをはじめていた。既に何機かのオーラバトラーを撃墜している。
「あのデカブツを倒すのは皆でやりゃあいい。わかったな、姫さん」
「え、ええ」
「じゃあ行くぜ。こっちのオーラバトラーはあらかた退けたし」
「ああ」
 ショウはトッドの言葉に頷いた。
「一斉攻撃だ。ゲア=ガリングを落とせたら大金星だぜ!」
「よし!」
 ショウ達だけでなく魔装機のパイロット達もそれに乗った。そしてゲア=ガリングに向けて一斉に攻撃を開始した。
 それを見てビショットは一瞬顔を青くした。だがここで隣にいるルーザが言った。
「ビショット様、恐れることはありません」
「そうなのか」
 だが彼はいささか怯えていた。家臣達の手前それはかろうじて表には出さないようにはしていたが。
「まだ敵は遠いです。時間があります」
「時間といいますと」
「こちらが退く時間です。既に我等の目的は果たされました」
「ふむ」
 ビショットはそれを聞いて顎に手を当てて考えた。
「つまり戦いに参加したという証拠を作ったということですな」
「はい」
 ルーザはそれに頷いた。
「目的が果たされればもう用はありません。退いてもよろしいかと」
「確かに。それではそう致しましょう」
「はい。すぐにでも」
「わかりました。よし」
 彼はここで家臣達に声をかけた。
「これ以上の戦いは無意味だ。撤退するぞ」
「わかりました」
「シュテドニアス軍の撤退を援護するという我等の目的は果たした。ならば我等もこれ以上戦線に留まる意味はない。よいな」
「ハッ」
 ここで彼は言葉巧みに家臣達に自分達の作戦が成功したということを信じ込ませた。彼とて伊達に一国の王を務めているわけではないのだ。
「オーラバトラー隊にも伝えよ。すみやかに戦線を離脱せよと。ゲア=ガリングを守りながら後退せよとな」
「了解」
 こうしてゲア=ガリングは撤退した。オーラバトラー達もこの巨艦を守りながら随時戦線を離脱した。こうして戦いは終わった。シュテドニアス軍もビショット軍も夕刻には完全に姿を消していた。
「戦いはとりあえずは俺達の勝利だな」
「ああ」
 休息の為に着陸したマサキにファングが声をかけた。
「あのゲア=ガリングを見た時は正直驚いたが」
「そんなに凄かったか?」
「あんな形をしていたからな。あれで空を飛ぶとは信じられん」
「そんあこと言ったらグランガランだって相当なもんだろうが」
「それはそうだがな。あれは何というか」
 ファングは少し言葉に詰まった。
「お城みたいだって言いたいの?ファングさん」
「そう、その通りだ」
 彼はプレシアの言葉にそう応えた。
「あれは将に城だ。何であんな形をしているのか最初はよくわからなかった」
「オーラバトラーは空から来るからな。それを考えてああした形にしたらしいぜ」
「そうらしいな。それを聞いた時には納得したが」
「まあ俺達の魔装機も空を飛ぶしな。それを考えたらよくわかるな」
「ああ」
 ここで彼等の側にやって来る二人のフェラリオがいた。
「ねえ」
 見れば赤い髪のフェラリオとまだ赤ん坊のフェラリオであった。
「ん、シーラ女王の御付きのフェラリオか」
 ファングは二人の姿を認めて言った。エレ=フィノとベル=アールである。
「そうだよ。覚えてくれてたのね」
「嬉しいなあ」
「まあな。ところでどうしたんだ」
「ええ、実は」
「ちょっと珍しいもの見つけたんだ」
「珍しいもの」
 ファングだけでなくマサキもそれを聞いて顔を向けた。
「それは一体何だ」
「ちょっと来て」
「絶対あたし達の役に立つから」
「?」
 マサキ達は首を傾げながらも彼女達に従った。そして二人の導くところにやって来た。マサキ達はそれを見て思わず声をあげた。
「おい、こりゃすげえなあ」
「ああ、大した戦利品だ」
 ファングもマサキの同意する。
「おい、二人共」
 そしてエレとベルに声をかけた。
「すぐにショウ達を呼んでくれ。いいな」
「わかったわ」
 ショウ達がすぐに現場に呼ばれた。彼等はそこにあったものを見て思わず驚きの声をあげた。
「ゲア=ガリングが落としたものか!?」
「どうやらそうみたいね」
 驚くショウに対してマーベルは冷静に返した。
「ライネックにレプラカーンか。またえらいもん見つけたな、二人共」
 トッドがエレとベルにそう声をかけた。
「えへへ」
「どう、凄いでしょ」
「ああ、全くだ」
 ニーが二人を褒めた。そしてそのバッタに似た緑のオーラバトラーと赤いオーラバトラーを見上げた。
「ここでこの二機が入ったのは有り難いな」
「ボチューンも悪くないけれどね」
 キーンも言った。
「で、誰が乗るの」
 マーベルが一同を見渡した後で言った。
「私はダンバインがあるからいいけれど」
「俺はビルバインのままでいい」
 まずショウが抜けた。
「私は今のビアレスが一番合ってると思うから。別にいいわ」
 リムルも抜けた。
「ガラリアは」
 マーベルはガラリアに話を振った。
「バストールでいい。あたしはあれで満足してるよ」
「そう」
「じゃあ俺達三人だな」
「ああ」
「そうね」
 ニーの言葉にトッドとキーンが頷いた。
「まず俺だが」
 トッドがまず口火を切った。
「ダンバインがあるからな。最初はあれも複雑な思いがあったが今ではわりかし気に入ってる。ライネックに乗っていたこともあったがな」
「じゃあダンバインでいいのか」
「今はそう思ってるぜ。レプラカーンには最初から興味はねえ。どうも俺には合いそうもねえからな」
「じゃあ御前はいいんだな」
「ああ。ニー、キーン」
 そして二人に顔を向けた。
「後は御前さん達で決めな。どうするのかな」
「そうだな」
 ニーはそれを受けて考え込んだ。
「俺としてはライネックがいいな」
「あたしは・・・・・・レプラカーンかなあ。支援に回ることが多いから。レプラカーンは武装が多いし」
「じゃあそれで決まりだな。ニーがライネック、キーンがレプラカーンだ」
「ああ、それでいい」
「あたしも。けれどボチューンは一応とっておきましょ。何かあった時の為に」
「よし、これで決まりだ」
 こうしてライネックとレプラカーンがニーとキーンのものとなった。こうして彼等は新たなオーラバトラーを手に入れたのであった。
「しかし」
 ここでトッドが言った。
「何だ」
 ショウがそれに顔を向けた。
「いやな、ズワースもあればよかったな、って思ってな。バーンの旦那の」
「不吉なこと言わないでよ」
 キーンがそれを聞いて嫌な顔をした。
「そんなこと言ってるとまた来るわよ。変な仮面被って」
「おっと、そうだったな。ははは」
 こうした軽い話もしながら彼等は戦後処理に入った。それが終わるとそれぞれグランガランとゴラオンに戻った。その中にはタダナオもいた。
「やれやれ。今日の戦いは疲れたぜ」
 彼はグランガランに戻るとそう言ってフェイファーから降りた。
「今日はあんたあのジンオウとずっと戦ってたからね」
 横にいるベッキーがそれに合わせて言った。
「どうだい、ジンオウは。わりかし手強いだろう」
「機体の性能は確かに他のシュテドニアスのやつとは違うな。それに」
「それに?」
「中に乗っている奴もな。また腕を上げていやがったぜ」
 タダナオはそう言って不敵に笑った。
「知り合いだったね、そういや」
「ああ」
「地上からか。また何かあるようだね」
 ベッキーはそう言うと少し暗い顔になった。
「あいつ、生きているってだけでもあれなのにまた何か企んでいるようだね」
「あいつ?」
 タダナオはそれに反応して顔を上げた。
「ベッキーさん、誰か知っているのかい?」
「まあね」
 彼女は暗い顔のままそれに答えた。
「色々あってね」
「ふうん」
「あんたもそのうちわかるよ。ラングランにも事情ってのがあるんだ」
「だろうな。俺とあいつもそれに巻き込まれちまってるようだし」
 彼はそれを聞いて深く尋ねようとはしなかったが納得するものがあった。
「まあ乗りかかった船だ。付き合わせてもらうぜ」
「いつも思うけれどあんたって強いね」
「そうか?」
「いや、よく違う世界に連れて来られたら騒いだりするじゃない」
「まあな」
「あたし達は元々地上には未練がないしだからここに呼ばれたんだけど。あんたもそうなのかい?」
「未練があるっていえばあるぜ」
 タダナオはそう答えた。
「軍人だったからな、俺もあいつも。仕事があるから」
「だろうね」
「それにアイドルも見なくちゃいけねえ。折角リン=ミンメイのコンサートのチケットが手に入ったってのに急にこっちに呼ばれた
んだからな」
 そう言って口を尖らせた。
「あいつもミレーヌ=ジーナスのアルバム買うとか言ってたしな。それを思うと無念だぜ」
「・・・・・・あんたってわりかしミーハーなんだね」
「ミーハー!?違うね」
 彼はそれに反論した。
「芸術のセンスがあるのさ。音楽は芸術だぜ」
「ふうん、そんなもんかね」
「おや、あんた芸術にも五月蝿いのかい?」
 シモーヌがやって来た。
「嬉しいねえ。あたしこう見えても実はバレリーナだったんだよ」
「そうだったんだ」
 タダナオもこれには驚いた。
「そうさ。元々はパリで不良やってたんだけれどね。ひょんなことからなったのさ」
「へえ」
「得意なのはロシアバレエだよ。白鳥の湖も踊ったことがあるよ」
「チャイコフスキーか」
「うむ。あれはいいものだ」
 ここでゲンナジーもやって来た。
「あ、ゲンちゃん」
「・・・・・・その呼び方は止めてくれ」
 ゲンナジーはそれを聞いて少しムッとしたような顔をしたらしいが元々そうした顔なので外見上は区別がつかなかった。
「恥ずかしい」
「いやあ、ミオが呼んでるんでな。けれどわりかしいい呼び方だと思うけれどな」
「俺はそうは思わないが」
「そうかなあ。まあ暫くしたら慣れると思うぜ」
「慣れたくはないがな」
「まあまあ。ゲンナジーはこう見えても繊細なんだから」
 ベッキーが笑いながらそう言った。
「そうそう、こう見えても意外と芸術にも造詣が深くてねえ」
「へ、そうなんだ」
 タダナオはそれを聞いて意外そうな顔をした。
「読書家なんだよ。それに音楽も好きだし」
「クラシックが好きだ。勿論他のも聴くが」
「それでチャイコフスキーも聴くってことか」
「そうだ。あれは本来のロシアの音楽とはかなり違うがな。いいだろう」
「う〜〜ん、俺実はクラシックは聴かねえからな」
「そうだったんだ」
「ああ。聴きたいとは思うけれどな。ただ」
「ただ。何だ?」
「好みの女がいないから。どうしても」
「結局それかい」
「あんたも本当に好きだねえ」
 ベッキーとシモーヌはそれを聴いて呆れた声を出した。
「ミンメイもそれなんだね」
「・・・・・・否定はしねえ」
 彼は渋々ながらそれを認めた。
「あいつともそれが元で喧嘩になったしな」
「やっぱりね。けれどその彼はどうやらロリコンみたいだね」
「それ言ったら喧嘩になったんだ」
 シモーヌにそう答えた。ミレーヌ=ジーナスは十四歳のロック歌手なのである。
「向こうも言ってくれてな。ミンメイはもうおばさんだろうが、ってな。俺はそれで切れた」
「ふんふん」
 三人はそれを面白そうに聞いている。
「それで喧嘩になったんだ。奴をノックアウトしてやった。だが奴もそれでへこたれるような奴じゃない。後日再戦となったわけなんだが」
「そこでここに来たというわけなんだね」
「ああ。その通りだ」
 彼はそれに答えた。
「不思議なもんだよな、まさか地球にこんなところがあるなんてな」
「人間の知っているものは世界のほんの些細なことに過ぎないものだ」
 ヤンロンがここで姿を現わした。
「僕もここに来た時には驚いたものだ」
「へえ、あんたもかい。それは意外だな」
「意外か」
「ああ。何事にも動じないように見えるからな」
「ちょっと、それは買い被り過ぎよ」
「確かにヤンロンは落ち着いてるけれどね」
 ベッキーとシモーヌが言った。
「けれどこれで結構熱いところがあるんだから」
「そうなのか」
「はい」
 ヤンロンの影から一匹の黒豹に似た獣が姿を現わした。ランシャオである。
「御主人様は内に激しい心を持っておられますから」
「あんたが言うと本当なんだろうな」
 タダナオもランシャオのことは知っていた。だから納得したのだ。
「まあその赤い服を見ていれば納得できるな」
「この服か」
「そうさ。それは五行思想の火を表しているんだろ。グランヴェールの」
「その通りだが」
「心にそれがあるから出るんだろうな、服にも。俺はそう思うぜ」
「よくわかっているな」
 ヤンロンはそれを聞いてスッと笑った。
「どうやら精霊等にも詳しいようだ」
「それなりにな。イギリスにいたこともあるし」
「イギリスに」
「任地でな。日本に帰るまではポーツマスにいたんだ」
 ポーツマスはかってイギリス軍の軍港があった場所である。今そこには連邦軍の基地が置かれている。イギリスは妖精の話が多いことでも知られている。
「そうだったのか。道理で」
「ああ」
「あたしもそうしたことにはわりかし詳しいつもりだけれどね」
 ベッキーがここで言った。
「あんたもか」
「あたしはネィティブ=アメリカンだからね。インディアンなのさ」
「それでか」
「ああ。だからそうしたことがわかるんだよ。もっとも魔装機に乗っていれば自然とわかるようになるさ」
「そうなのか」
「あたしもね。最初は何がなんだかわからなかったけれど」
 シモーヌも言う。
「今じゃ精霊の名前使った技も使えるしね。ファタ=モルガーナっていうんだ」
「ファタ=モルガーナ」
「今じゃアルカンシエルさ。虹の精霊だよ」
 ファタ=モルガーナはプロコフィエフのオペラ『三つのオレンジの恋』にも出てくる妖精の魔女のことである。
「面白い技の名前だな」
「まあね」
「あたしもトーテムコールって技が使えるんだけれどね」
「それも精霊だな」
「そうさ。魔装機ってのは精霊をどうやって使うかが肝心なのさ」
「そうだったのか」
 タダナオはそれを聞いて大きく頷いた。
「じゃあ俺もこれからジェイファーを乗りこなそうと思ったら」
「精霊の力を使うことだな」
「そうか」
 彼はヤンロンの言葉を聞いて頷いた。そしてシュテドニアスの方へ顔を向けた。
「オザワ」
 友の名を呼んだ。
「今度も俺が勝つぜ。楽しみにしてな」
 そう言ってニヤリと笑った。そして彼等は戦場に向かうのであった。

「そうか」
 ゾラウシャルドは自身の執務室で電話を受けていた。そして答えた。
「やはりな。所詮あてにはしておらぬさ」
 どうやら戦局についての電話のようである。彼は目の前の壁にかけてある地図を見ながら電話の向こうの者に答える。
「そしてノボトニーは軍を無事に退却させたのだな」
 彼はここで問うた。
「そうか。ふむ」
 返答を聞くと今度は考える顔をした。
「ではそろそろいいな」
 そして笑った。何かを企む顔であった。
「その時は頼むぞ。その為に貴官にあれを渡したのだからな」
 電話を切った。それから再び地図に顔を向けた。そして呟いた。
「議会もある。ことは慎重にいかなければならない。しかし」
 言葉を続ける。
「あの男はもう邪魔だな。退場してもらうか」
 そう呟いた。そして一人地図を見て考えに耽るのであった。


第十話    完


                                 2005・2・27

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