正義の使者ガイヤー
 ティターンズはかっては連邦軍の一部隊であった。一年戦争後混迷を深める地球圏の防衛及び治安維持の為に設立された部隊であり連邦軍の最強硬派として知られるジャミトフ=ハイマン大将の提唱で設立された。この部隊は精鋭部隊として独自の機動力と戦力を持つ独立部隊であった。その前線指揮官にはジャミトフの腹心であるバスク=オム大佐が就任していた。
 彼等は軍服も連邦軍のものとは異なり、階級も連邦軍のものより一つ上とされていた。そして地球出身者によって構成されアースノイド至上主義を掲げていた。これはジャミトフの思想に依るものであったがこれは隠れ蓑に過ぎなかった。正確に言うならばティターンズが連邦軍に存在することそのものがそうであった。
 ジャミトフの本音は権力の掌握であった。地球圏を掌握し、ダカールでの年次総会で連邦政府を完全に手中に収めんとした。
しかしそれはロンド=ベルによって防がれバルマー戦役の後再度権力を掌握せんとマクロスを奪おうとしたが再度彼等に敗れた。
 これによりジャミトフはティターンズを宇宙に引き揚げさせた。そして旧ア=バオア=クーを改造しそこにルナツーを移動させ一大軍事基地を建造しそこに立て篭もった。そこをゼダンの門と名付けた。
 それと共にサイド3、すなわちジオン共和国と接近し木星とも同盟を結んだ。彼は表向きはアースノイド至上主義を掲げてはいたが実質的にはジオン公国、とりわけギレン=ザビの思想に共感しており彼等との接近も抵抗がなかったのである。またティターンズ自身かってジオンにいた軍人や技術者が多くその実態はジオンだと揶揄する者すらいた。その彼等がかってのジオンの基地にいるのは皮肉なことではあった。今ジャミトフはそのゼダンの門の司令室にいた。
 実務的な質素な司令室であった。頑丈そうな机と応接間の他はこれといってない。彼はその中央に立っていた。
 白い髪と顎鬚を持った険しい顔の男であった。まるで鷲の様な顔をしている。とりわけ目が鋭い。そして黒く丈の長い服に身を包んでいる。やや小柄な印象を受けるがそれは目の前にいる男が大柄なせいであった。
「ギガノスの動きはどうか」
 その男ジャミトフは前に立つその大柄な男に問うた。
「ハッ」
 男は低い声でそれに応えた。ティターンズの軍服を着たゴーグルの様な眼鏡の男であった。
「今のところ積極的な動きはないようです」
 彼はそう答えた。彼がバスク=オムであった。ティターンズの前線指揮官である。
「そうか」
 ジャミトフはそれを聞いて頷いた。
「やはりロンド=ベルの動きを警戒しているのか」
「いえ、そうではないようです」
「どういうことだ」
 ジャミトフはそれを聞いてバスクを見上げた。
「何か別の作戦を立てているのか」
「火星のことは御存知でしょうか」
「うむ」
 彼はそれに頷いた。
「バーム星人という異星人達の手に落ちたのだったな」
「それが彼等はすぐに火星を離れまして」
「何!?」
 彼はそれを聞いて怪訝そうな顔をした。
「折角占領した惑星をすぐに手放したのか」
「はい。そのかわりその衛星軌道上に巨大な船を浮かべております」
「船を」
「はい。これですが」
 彼はここで一枚のホノグラフィーの写真を取り出した。そこには透明のピラミッド型の都市が浮かんでいた。
「これか」
「はい」
 バスクは答えた。
「連中はこれを小バームと呼んでいるそうですが」
「小バームか」
「どうやら連中の母船の様です。ギガノスはそれに警戒しているようなのです」
「そうだったのか」
 ジャミトフはそれを聞いて納得した様に頷いた。
「道理でな。だがギスカールという男はそれですぐに動きを止めるような男ではないぞ」
「はい」
 バスクはジャミトフの言葉に同意した。
「伊達に連邦軍きっての切れ者であったわけではありませんからな」
「そうだ」
 ジャミトフはその言葉を待っていたようであった。
「私とあの男は士官学校において同期だった」
「はい」
「その頃からいけ好かない男だった。何かと理想を説いてな」
「昔から変わってはいなかったのですな」
 それはジャミトフ、バスクも同じであったが彼等はそのようなことには気付いてすらいなかった。
「今も選民思想を説いているな。もっとも私も不要な者なぞ消してしまえばいいとは思っているがな」
「同意であります」
「うむ。それに月でも何かを建造しているそうだな」
「そのようです」
 バスクはまた答えた。
「残念ながら全てを掴んではおりませんが」
「月に潜伏している諜報員を増やせ。そして必ずや奴等の尻尾を掴め。よいな」
「ハッ」
 ジャミトフはさらに話を続けた。
「ネオ=ジオンだが」
「はい」
「シロッコはどうしているか」
「今のところ奴等と五分に渡り合っているようです」
「そうか。ならばよい」
 彼はバスクからの報告を聞いて頷いた。
「だが、わかっておるな」
「はい」
「シロッコは最後まで信用はできぬ。あの男は危険な男だ」
「それはよく存じているつもりです」
 かって彼はティターンズにいた。しかし本来いた木星に戻るとそこでバルマーと手を組んだのである。それをジャミトフもバスクもよく知っていた。だからこそ彼等はシロッコを信用する気にはなれなかったのだ。
「あの戦いで死んだと思っていたがな」
「あれがクローンだったのでしょう」
「そうか」
「今ここにいるシロッコが本物であると私は思いますが」
「ならばよいがな」
 ジャミトフはここで思わせぶりな言葉を口にした。
「といいますと」
「む、何でもない」
 だが彼はその言葉を打ち消した。
「気にするな。よいな」
「わかりました」
「シロッコの軍には誰がいたか」
「クロノクルとカテジナ、そしてファラがおりますが」
「ふむ」
 彼はそれを聞いてまた考え込んだ。
「危険だな」
「危険ですか」
「そうだ。シロッコとあの者達を離せ。よいな」
「それではそう致します」
「そうしろ。そしてシロッコには少数精鋭の部隊を渡瀬。多くの兵は預けるな」
「わかりました」
 バスクはそれに応えてまた敬礼した。
「主力部隊はジャマイカン及びガディに預ける」
「ハッ」
「その下にはライラ、ジェリド、マウアー、カクリコンを置け」
「了解しました」
「そしてだ」
 ジャミトフの指示は続く。
「あれの準備はどうなっている」
「あれですか」
「そうだ」
 彼はここでニヤリと笑った。
「どれだけ進んでいるか」
「全て予定通りでございます」
 バスクもそれに応えてニヤリと笑った。
「近いうちに我々はこの宇宙にいる全ての勢力を滅ぼすことができるでしょう、あれの力によって」
「ならばよい」
 ジャミトフも笑っていた。そして言葉を続けた。
「そして地球に戻る。最早ゼーレもいないしな」
「はい」
「いや、待て」
 だが彼はここで考えをあらためた。
「地球には既に兵を送り込んでいてもよいかも知れぬな」
「地球にもですか」
「可能ならばな。ギガノスも地球に兵を送っているそうだな」
「はい」
 バスクはそれに頷いた。
「グン=ジェム隊でしたな。確か中央アジアを中心に暴れ回っている」
「グン=ジェム隊というのか」
「はい、何でもギガノスの汚物と称される部隊だそうです。半ば愚連隊の様な存在だと聞いております」
「愚連隊か」
 ジャミトフはそれを聞いて不思議そうな顔をした。
「あのギスカールがそのような部隊を持っているとはな」
「色々と事情があるようです」
 バスクはそれにそう答えた。
「正規軍ですが月からの統制が効きにくいこともあり。半ば独立した軍となっていると聞いております」
「そうなのか。ギガノスも一枚岩ではないようだな」
「そうですな。それが奴等の命取りになればよいですが」
「ギスカールは潔癖症だ。それにより問題が生じるやも知れぬな」
「はい」
「奴等に関してはとりあえずは守りを固めるだけでよい」
「わかりました」
「最大の問題はロンド=ベルだ」
 そう言うジャミトフの目が光った。
「ナデシコと合流したようだな」
「はい」
「そして地球にいる大塚がコスモクラッシャー隊を送ったそうだな」
「ええ、その通りです」
 バスクはそれにも答えた。
「ですがコスモクラッシャー隊といいましても僅か一機の戦闘機だけですが」
「何、そうなのか」
「はい。ですからそちらはあまり脅威とはいえないと思います」
「ふむ」
「それよりロンド=ベルにはより強力な援軍が出て来ました」
「援軍!?何だ」
「SRXチームです。今地球からラー=カイラムに合流しに向かっているようです」
「そうか」
 ジャミトフはそれを聞いてその目の光をさらに険しくさせた。
「やはりロンド=ベルにつくか」
「どうやらそのようです」
 バスクの声も険しくなっていた。彼等は先の戦いのこともありSRXチームについては快く思ってはいないのであった。
「しかも今回はリン=マオ自身が動いております」
「あの女がか」
「はい、あの女自身がロンド=ベルに参加するようです。如何なされますか」
「言うまでもない。敵は倒す」
 ジャミトフは素っ気無くそう答えた。
「それだけだ。ティターンズに歯向かう者には容赦してはならぬ」
「はい」
「徹底的にやるのだ、よいな」
「わかりました。それでは兵を送ります」
「うむ」
 ジャミトフはそれを認めた。
「ジャマイカンの部隊を送り込め、よいな」
「ハッ」
「目標はロンド=ベル、奴等も同時に叩け」
「わかりました」
「丁度ギガノスの連中も来るかも知れぬ。兵は多く出すようにな」
「ハッ」
 バスクは再び敬礼して応えた。
「それではそう致します」
「バスク」
 ジャミトフはここでバスクの名を呼んだ。
「何でしょうか」
「貴官はここに残っておれ。よいな」
「わかりました」
「この機に乗じてネオ=ジオンが動くやも知れぬからな。よいな」
「ハッ」
 彼はそれに従い頷いた。
「いざという時に備えは必要だからな」
「はい」
「さて」
 ジャミトフは話を終えると窓の外に目をやった。そこには無限の銀河が広がっている。
「この銀河は美しいがな」
「はい」
 バスクもそこに目をやっていた。
「地球を手に入れることに比べればかほどのものもない」
「全くです」
「機が来れば兵を送りたいが」
「やはりそれには限度があると思います」
「今我等はこのゼダン、サイド3、そして木星に勢力を持っている。それでもか」
「残念ながら。敵があまりにも多いかと」
「致し方ない。だが我等の目的は決まっている」
「それは承知のうえです、閣下」
 バスクはまた答えた。
「その為に手段を選ぶことはありません」
「そうだ」
 それについては彼も同じ意見であった。
「正義なぞ所詮は力の後についてくるものだ。法もな」
「はい」
「それがわかっていればよい。そしてその為には」
「勝つことです」
 二人は銀河を眺めながら話を続けていた。美しい銀河を眺めながらもその話が必ずしも美しい話ではなかったのである。

 ナデシコ、そして難民達と合流したロンド=ベルは一先地球に戻ることにした。難民達を安全な場所へ移す為であった。その時一矢はナデシコの中の一室にいた。
「あ、リョーコさん」
 彼はリョーコに声をかけていた。
「エリカは今どうしているんだい?」
「何だよ、またあいつのことかよ」
 リョーコはそれを聞いて呆れたように答えた。
「元気だよ。まだ記憶は戻ってねえけれどな」
「そうか。それはよかった」
 一矢はそれを聞いて安心した顔になった。
「前の戦いでナデシコも攻撃を受けたからな。エリカに何かあったんじゃないかって心配してたんだ」
「大丈夫ですよ、一矢さん」
 そこでルリが彼に対してそう言った。
「ナデシコの看護班は優秀ですから」
「それはわかっているけれど」
「けれどそれでも心配なのよね、一矢さんは」
 ヒカルがそれを見て嬉しそうな顔をしていた。
「恋は盲目、鯉はもう沢山」
「・・・・・・・・・」
 イズミが一言言うとその場は忽ちのうちに北極のようになってしまった。だがそれを無効化していたルリがここで言った。
「エリカさんに御会いしたいですか」
「えっ、それは」
 いささか単刀直入に問われて流石に戸惑った。
「ま、まあそれはそうだけれど」
「行かれたらどうですか。心配なのでしょう」
「う、うん・・・・・・」
「竜崎一矢、何をクヨクヨしておるかあ!」
 ここでダイゴウジが叫んだ。
「男たるもの、優柔不断であってはならぬ、一気にいかぬか!」
「まあ時には積極的にいくのも手かもな」
 サブロウタも話に入って来た。
「いきなよ、一矢さん。俺達のことは気にしないで」
「いや、気にしているわけじゃないけれど」
「だったらいいじぇねえかよ。男がウジウジするなよ」
 リョーコが一矢を見上げてそう言った。
「高い背でそんなにウジウジしてりゃあこっちが困るんだよ」
「背は関係ないだろ」
「いや、ある」
 ダイゴウジはまももや大上段にそう断言した。
「男子たるもの威厳がなくてはならぬからな」
「そういうものかな」
「そういうものですよ、やっぱり男の人って背丈がある方が格好よく見えますから」
「手長おじさんに惚れます」
「イズミさん、それを言うなら足長おじさんじゃないの」
 サブロウタが突っ込みを入れた。それを見ながら一矢は考えていた。
「ううん」
「まあ背のことは置いておいて」
「あ、アキトさん」
 ルリが最初に彼の存在に気付いた。
「エリカさんのことが心配なら言ってあげた方がいいと思うよ。彼女にとっても誰かいてくれる方がいいだろうし」
「優しいな、アキトは」
「男の人は優しくないとね」
「ヒカルさん、さっきと言ってることが違うよ」
 サブロウタがそう突っ込みを入れるがヒカルは気にはしていなかった。
「まあいいじゃないですか」
「そういうものかな」
「そう、男はただ強いだけでは駄目なのだ」
 ダイゴウジがここでまたそう断言した。
「真の男は心も備わっていなくてはならないのだ。そう、優しさも」
「何かダイゴウジさんが言うと説得力がありますね」
「ふふふ」
 アキトにそう言われ得意になっていた。それで波に乗りさらに続ける。
「そしてだ」
「はい」
「竜崎一矢、貴様にはその優しさがある。それを充分に活かすのだ」
「優しさをですか」
「そうだ」
 ダイゴウジはまた言った。
「よいな。それで男を磨くのだ。そして何時の日か真の漢となるのだ」
「わかりました」
「・・・・・・何かダイゴウジさんが話に入るといつも急に熱くなるな」
「そういう人ですからね」
「人間ガスバーナー」
 リョーコとイズミ、ヒカルは彼の後ろでヒソヒソとそう話をしていた。だがそれはダイゴウジの耳には一切入ってはいなかった。ルリには入っていたがあえて言おうとはしなかった。
「それで一矢さん」
 そのかわりに一矢に声をかけてきた。
「はい」
「すぐに行ってあげて下さい。エリカさんにとってもそれがいいですから」
「わかりました」
 一矢はそれを受けて頷いた。
「では御言葉に甘えて」
「はい」
「行って来いよ」
「死に水は用意してありますからね」
「イズミさん、何でそこで死に水が出るのですか?」
「ルリちゃん、またわかる日が来るわよ」
 そんなやりとりをしながらナデシコの面々は一矢を笑顔で送り出した。皆優しい顔だったがとりわけアキトのそれは温かいものであった。
「いいなあ、ああいう人って」
「おや、アキトが言うとはね」
 サブロウタがそれを聞いて面白そうな顔をした。
「艦長との仲は上手くいってるんじゃないの?」
「え、それは・・・・・・」
 アキトは自分に話を振られギクッとした顔になった。少し赤くなってきた。
「な、何もないよ」
「嘘つけ」
「恋愛は漫画のネタには最適だから詳しく聞きたいですね」
「恋は江戸の華」
「イズミ、火事と喧嘩だそれは」
「ダイゴウジさんの好きなものばかりですね」
 そんなやりとりをしながら彼等は一矢を見守っていた。口では色々と言っていてもその目はやはり温かいものであったのは変わらなかった。

 暫くして一矢は部屋を出た。そしてナデシコの面々と話をしながら自分の部屋に戻った。するとそこには京四郎とナナがいた。
「二人共、ここにいたのか」
「ああ」
 京四郎は壁に背をもたれさせて立っていた。ナナは椅子に座って一矢を見ていた。
「エリカさんの様子はどう?」
 ナナがまず彼にそう問うてきた。
「記憶は戻ったの?」
「いや」
 だが一矢はその問いに首を横に振った。
「自分の名前以外はまだ思い出せないらしい。回復には時間がかかりそうだ」
「だったらいいんだがな」
 京四郎はここで含ませた言葉を口にした。
「それはどういう意味だ、京四郎」
「そのままの意味だ」
 彼は一矢に目を向けてそう答えた。
「あの時バーム側の人間も大勢いたな。そしてあの混乱だ。何があってもおかしくはない」
「彼女がスパイだと言いたいのか!?」
「否定はしない」
 京四郎の声は冷厳なものに聞こえた。少なくとも今の一矢には。
「避難民の身元も全て確認されてはいないしな。実質的には今は不可能だろう」
「エリカを疑うのか」
「お兄ちゃん」
 ここでナナが言った。
「少し落ち着いた方がいいよ」
「何を言ってるんだ、ナナまで。俺は冷静だ」
「そう言えるか」
 京四郎の声と一矢の声、どちらが冷静なものであるかはもう言うまでもないことであった。一矢はそれを受けて沈黙した。
「言えないだろう。これはゲーテだったか」
 京四郎は一矢に言って聞かせるようにして話をはじめた。
「恋は盲目、だ。今の御前は周りが見えていない」
「そうよ。確かにエリカさんはいい人に見えるけれど」
「ナナまで・・・・・・。エリカはスパイなんかじゃない」
「どうしてそう言い切れる?」
 京四郎の言葉がさらに鋭いものとなった。
「それは・・・・・・」
 そう問われた一矢の言葉が止まった。
「確信はない。けれど俺にはわかるんだ」
「何がだ?」
「エリカはスパイじゃない、それは信じてくれ」
「御前は信じられる」
 京四郎はそう答えた。
「ナナもだ。お互い長い付き合いだしな」
「なら彼女も」
「それが甘いというんだ。俺達は長い間一緒にいた。しかし彼女は違う」
「付き合いの長さだけで人の信頼を計るつもりなのか!?」
「落ち着け、よく聞け」
 京四郎は言葉を続けた。
「付き合いが長ければお互いを知る機会も多くなる。それだけのことだ」
「しかしエリカは」
「落ち着けと言ってるんだ」
 それでも激昂しようとする一矢をそう言って宥めた。
「そうしてムキになっているだけでも今の御前はおかしいんだ。今俺達は何処にいる」
「ナデシコだ」
「そうだ、このナデシコは軍艦だな」
「ああ」
「ならばわかる筈だ。身元のはっきりしない者は怪しまれる。エリカ艦長はそうでもないようだがな」
「なら大丈夫じゃないか、艦長がそう思ってるんなら」
「そうじゃないよ、お兄ちゃん」
「ナナ」
「よく考えて、それでもエリカさんが誰なのかはっきりとわからないのよ」
「御前もそんなことを言うのか」
「ナナの言う通りだ。彼女は何処にいた」
「会談場のすぐ側だったよね」
「ああ」
 一矢は二人に対してそう答えた。
「あそこは一般人は立ち入りできなかった。警護にあたる俺達を除いてはな」
「それは覚えている」
「そして服を見れば軍人ではない。それだけでも怪しいな」
「・・・・・・・・・」
 一矢はそれに答えられなかった。彼も戦う者である。だからこそ京四郎の言葉の意味がよくわかったのだ。
「しかしバーム星人には翼があった」
 耐え切れなくなったようにそう反論した。
「エリカには翼はないだろう」
「確かにな」
 京四郎もそれは認めた。
「それなら」
「しかしそれだけで確証が得られたわけじゃない。まだ信用するには足らない」
「クッ・・・・・・」
「何度も言うが落ち着け。そして冷静になるんだ、いいな」
「もういい!」
 遂に一矢は激昂した。
「御前達がそんな奴等だとは思わなかったぞ!俺はあくまでエリカを信じる!」
 そう叫んで部屋を出た。そして何処かへと去って行った。
「あ、お兄ちゃん!」
 ナナが後を追おうとする。だが京四郎がそれを止めた。
「放っておけ」
「けど」
「頭を冷やすことも大切だ。特に今のあいつはな」
「そうなの」
「そうだ。だがいざとなった時は・・・・・・。わかるな」
「ええ」 
 ナナはこくり、と頷いた。京四郎の顔も深刻なものであった。だが一矢はそれには気付いてはいないのであった。そうした意味で京四郎の言葉は当たっていた。

 彼等は地球へ向かっていた。その途中ラー=カイラムに通信が入った。
「誰だ」
「私です」 
 そこには戦闘服に身を包んだ青い髪の凛々しい顔立ちの女がいた。
「ヴィレッタか」
「はい」
 その女ヴィレッタ=バゾムはブライトに微笑んでそう答えた。
「SRXチーム、只今到着致しました」
「ああ。思ったより早かったな」
「あの時の戦いでの機体の損傷が思ったよりよかったので。それで間に合いました」
「そうか、それは何よりだ」
「ただ私はR−GUNには乗っておりません」
「そうなのか」
「はい、あちらにはレビが乗っています。私はヒュッケバインマークVに乗っています」
「ヒュッケバインか。何か懐かしい名前だな」
「ふふふ」
 ヴィレッタはブライトのその言葉を聞いて微笑んだ。
「それも二機あります」
「二機もか」
「もう一機は私が乗っております」
 長めの金髪にゴーグルをかけた男がモニターに姿を現わした。
「君は」
「エルザム=フォン=ブランシュタインです」
 彼はそう名乗った。
「ブランシュタイン」
「ライは私の弟です」
 彼はそう答えて笑った。
「バルマーの時は弟がお世話になりました」
「いや、助けてもらったのはこちらの方だ」
 ブライトはそう言葉を返して微笑んだ。
「まさか彼に兄がいるとは思わなかったな」
「聞いていませんでしたか」
「彼はあまり多くのことを語らないからな。今はじめて聞いた」
「そうだったのですか」
「彼だけではありませんよ」
 ヴィレッタはここでまた言った。
「他にも誰かいるのか」
「はい。マオ=インダクトリーのリン=マオ社長とイルムガルト=カザハラ氏も来ております」
「あの二人もか」
「はい、ブライト大佐」
「お久し振りです」
 凛々しい顔立ちのピンクの髪の女と青い髪に端整な顔立ちの男もモニターに現われた。
「貴方達もか」
「ええ。今回は参加させて頂きました」
「何かと物騒ですからね」
「そうか。しかし会社の方は」
「スタッフに任せてありますので」
「俺の方も厄介ごとは全部終わらせてこっちに来ました」
「そうか。ならいいのだが。それであの四人は」
「一緒にこちらに向かっております。同時に合流できます」
「そうか。ならいいがな」
「何か引っ掛かることでも」
「そういうわけではないが」
 だが答えるブライトの顔は晴れなかった。
「やはりリュウセイが気になりますか」
「わかるか」
「ええ」
 ヴィレッタは笑っていた。見ればエルザム達もであった。
「大丈夫ですよ、アヤがいますから」
「それにライも」
「だとしたらいいのだが」
「それにリュウセイ一人でそんなに気にかけるなどブライト艦長らしくない。他にもロンド=ベルには他にも大勢はねっかえりがいるでしょうに」
「イルム、貴方もね」
「おやおや」
 リンにそう突っ込まれてイルムは肩をすくめてみせた。
「これはきつい御言葉」
「確かにそうだな」
 だがそれでブライトは思い直した。
「リュウセイは確かに突っ走るがあれ位はどうということはないか」
「そうそう」
 それにイルムが頷く。
「あれはあれで使い易いですから」
「ヴィレッタが言うと説得力があるな」
「そうでしょうか。私は彼には特に何もしていませんが」
「そうだったのか」
「私よりもアヤですね。彼の制御になっているのか」
「ふむ」
「あの四人は今ではチームワークもできていますし。安心していいですよ」
「よし。それでは合流を楽しみにしている」
「有り難うございます」
 こうしてロンド=ベルはSRXチームとの合流場所に向かった。そこでは既に四機のマシンがいた。
「何か久し振りにあのロボット達を見れると思うとなあ」
 白いマシンに乗る茶色い髪の少年がやけにはしゃいでいた。彼がそのリュウセイである。リュウセイ=ダテという。元々は高校生であったがゲームの大会に優勝し、それからSRXチームに入ったのだ。
「嬉しくてしょうがないぜ」
「それはもう何度も聞いている」
 その横にいる青いマシンに乗る金色の髪の若者が落ち着いた声でそう返した。彼はライリュース=フォン=ブランシュタインという。リュウセイと同じくSRXチームの一員である。
「いい加減落ち着け」
「これが落ち着いていられるかよ」
 リュウセイは彼にそう反論した。
「もうすぐコンバトラーやボルテスが見られるんだぜ。何でそれで落ち着いていられるんだよ」
「リュウセイ」
 そこに紫のマシンに乗る赤い髪の少女が声をかけてきた。レビ=バトラという。かってはバルマーにいたがリュウセイの説得を受けて彼等の仲間となった少女である。
「コンバトラーやボルテスは地上だぞ」
 彼女は少女にしては低い声でそう話した。
「えっ、それマジか!?」
「知らなかったの?」
「あ、ああ」
「やれやれ。それ位ちゃんと知っておけ。今彼等は大空魔竜隊に入って恐竜帝国等と戦っている」
「そうだったのか」
「だから今ここにはいない。ダイモスはいるがな」
「ああ、あの赤いやつだな」
「そうだ」
「トレーラーから変身するんだよな。それで空手で敵を薙ぎ倒して」
「・・・・・・よく知っているな」
「当たり前だろ、あんな格好いいマシン他にないぜ」
「リュウセイ、それコンバトラーにも言ったよ」
「マジンガーにもゲッターにも言ったな、確か」
 レビとライは彼にそう突っ込みを入れた。
「いつもスーパーロボットを見る度に言っている気がするのだけれど」
「そんな細かいこと気にするなよ」
「そう。ならいいけれど」
「ただもう少し静かにしろ。いいな」
「ああ、わかったよ」
「三人共話は終わった?」
 ここで赤いマシンに乗る緑のショートの髪の女が三人に声をかけてきた。
「そろそろ時間だけれど」
 彼女がアヤ=コバヤシである。このSRXチームのリーダーでもある。
「お、もうか。早いな」
「ライの相手をしていると時間が潰せていいな」
「そりゃどういう意味だよ」
「まあそれは置いておいて」
 アヤが二人を止めた。
「皆機体の調子はいいわね」
「おう、ばっちりだぜ」
「問題なし」
「何処も」
「そう、それならいいわ」
 アヤは三人のそれぞれの返答を聞き微笑んだ。
「まさかいきなりパワードが送られてくるとは思わなかったけれど」
「何かあるのですか」
「いえ、そうじゃないけれど」
 ライの言葉に首を横に振った。だがアヤの顔は晴れなかった。
(御父様、一体何を考えておられるのかしら)
「お、来たぜ」
 だがその思索はすぐに中断させられた。リュウセイがラー=カイラム達を見つけたのだ。
「何かあの艦もあんまり変わらねえな」
「修復や改装はしていたそうだがな」
「まあそれ位なら大して変わらないか。アルビオンやナデシコもいるぜ」
「多いな」
「火星からの難民の収容もあったからね。今はロンド=ベルも大変なのよ」
「だから俺達にも声がかかったってわけか」
「まあそういうことね」
「じゃあ今回も派手に暴れてやりますか」
「御前はいつもだな」
「うるせえ」
 そんな話をしながらロンド=ベルの艦艇と合流に向かう。既にヴィレッタ達は彼等の周りにいた。
「ヴィレッタ隊長、それにリンさんも」
「あれ、リンさんとイルムさんはそれなのか」
 見れば彼等はヒュッケバインには乗っていなかった。彼等はゲシュペンストに乗っていた。それもかなり新しい形のものにである。
「ゲシュペンストマークVだ」
 イルムがリュウセイに答えた。イルムのものは青、リンのものは赤であった。ヴィレッタのヒュッケバインが青紫、エルザムのそれが黒なのと同じく色分けであろうか。
「ゲシュペンストマークV」
「そうだ。かってギリアム=イェーガーが乗っていたマークT、マークUをさらに改良させたものだ。汎用性はかなり高いものとなっている」
「つまり支援用というわけですね」
「鋭いわね、そうよ」
 リンはアヤの言葉にそう答えた。
「今回私達はフォロー役に徹することにするわ」
「またえらく心強いフォロー役ですね」
「ライ、御前はフォローなぞいらない筈だが」
 エルザムがここで弟に対してそう言った。
「我がブランシュタイン家の者は自分の身は自分で守る筈だ。違ったか」
「いえ」
 口元をほころばせながら言う兄に対してそう答えた。
「その通りです」
「そうだ。だが味方のフォローは忘れるなよ」
「はい」
 ライは兄の言葉に頷いた。
「それがわかっていればいい。さて」
 エリザムは辺りを見回した。
「合流も無事終わりそうだな。では地球に向かうことになるか」
「そうね」
 ヴィレッタがそれに応えた時であった。何かがリュウセイの勘に触れた。
「ムッ!?」
「どうした、リュウセイ」
 レビが彼に声をかけた。
「何かが来るぞ」
「何かが」
「そうだ、二機いる」
 彼は辺りを見回しながらそう答えた。
「互いに激しい怒りをぶつけ合っている。何なんだ、一体」
「怒りを」
「ああ、来るぞ」
 すると西に一機のアーマードモジュールが姿を現わした。それは銀色の機体であった。
「あれは」
「もう一機後ろにいるぞ!」
 リュウセイが叫んだ。するとそのすぐ後ろに赤い同じタイプと思われるアーマードモジュールが姿を現わした。両者は互いに攻撃し合っていた。
「アイリス逃しはしないぞ!」
 赤いアーマードモジュールから声が響いてきた。
「今日こそは貴様を倒す!」
 低い、ハリのある女の声であった。凛々しさと共に強さが感じられた。
「クッ、まだ来るか!」
 それに対して銀のアーマードモジュールからはそれとは比べてやや高い声が聞こえてきた。それもやはり女の声であった。
「女の声!?」
「どうやらそのようだな」
 ライがリュウセイにそう答えた。
「どうやら戦っているらしいが」
「どっちがどっちかわからないわね。両方共敵の可能性があるし」
「そうですね」
 ライは今度はアヤにそう答えた。
「ギガノスやティターンズだとしたら」
「それはあるわね」
「けれどそうじゃなかった場合はどうするんだよ」
 冷静なライとアヤに対してリュウセイはそうではなかった。戦う二機を見て気になって仕方がないようであった。
「民間人だったら放ってはおけないだろうが」
「それはわかっている」
 しかしライはあくまでクールにそう答えるだけであった。
「だが彼等のうちどちらがそうだと断定できるか」
「ウッ」
 そう言われて言葉が詰まった。そう、今の時点ではそう断言はできないのだ。
「できないな。それに双方共武装している」
 両者は互いにミサイルを放ち攻撃をし合っていた。それを見るととても民間のものとは思えなかった。
「ロンド=ベルにはあんな機体はない。ということは」
「あの二機はどちらにしても敵である可能性が高いということか」
「そういうことだ」
 今度はレビに答えた。
「とりあえず今は様子見だな。まだ情報が少ない」
「何か性に合わねえな、そういうことは」
「リュウセイ、今私達が何をしなくちゃいけないかわかってる?」
 アヤがここで彼を嗜めた。
「ロンド=ベルと合流するのよ。わかってるわよね」
「わかってるさ、そんなことは」
 リュウセイは子供が叱られたような顔をしてそれに応えた。
「けれどそれはもうすぐじゃないか」
「ええ」
 見れば三隻の戦艦はもうすぐそこにまで来ていた。
「だったら早いとこ合流しようぜ。あの二機のアーマードモジュールは気になるけれどよ」
「わかってるじゃない。じゃあ行きましょう」
「ああ」
 四機はラー=カイラム達のところに向かおうとした。だがここで通信が入ってきた。
「ムッ!?」
「ブライト艦長からか!?」
 だがそれは違っていた。モニターには眼鏡をかけた茶色の髪の少女がいた。
「ロンド=ベルの方々ですか!?」
 彼女は必至の形相で彼等に語りかけてきた。
「ああ、そうだけれど」
「何かあったのですか?」
 リュウセイ達はすぐにそれに応えた。
「私はアルテリオンのサブパイロットツグミ=タカクラです」
「アルテリオン!?確かDCで開発されていたアーマードモジュールだったな。恒星間航行計画の為に」
「はい、そうです」
 ツグミはライにそう答えた。
「DC崩壊後は輸送業に携わっていたのですが」
「そうだったのか。その機体でか」
「はい」
 ツグミはそれにも答えた。
「ただ、それでちょっと困ったことがありまして」
「今の戦いだな」
「はい」
 見れば二機のアーマードモジュールはまだ戦っていた。赤い機体の方がやや有利に見える。
「あちらの赤い機体は」
「ベガリオンだ」
 今度は赤い髪の女がモニターに出て来た。先程の高い方の声と同じ声であった。
「ネオ=ジオンの機体だ」
「ふむ、ジオンだから赤なのか。成程」
「リュウセイ、クワトロ大尉は今ロンド=ベルよ」
 ここでアヤが突っ込みを入れてきた。
「まさかとは思うけれど」
「わかってるって」
 リュウセイはそれに対して陽気に返した。
「わかっててそう言ってるの、安心してくれよ」
「そう。だったらいいけれど」
 そう応えながらもやはり心のどこかで不安であった。そこで赤い髪の女が話を続けていた。
「ここはあたし一人でできる。だから手助けはいらない」
「おい、何言ってるんだよ」
 リュウセイがそれを聞いて口を尖らせた。
「民間人を助けるのが軍人の務めだぜ」
「フン、嘘をつけ」
 だが女はその言葉を頭から否定してきた。
「だったら今の地球連邦軍は何なんだ」
「俺達も連邦軍所属だぞ、一応」
「一応は余計よ、リュウセイ」
「そうだ、確かにリュウセイの言葉は蛇足があるが」
 ライがリュウセイにかわって女に対応した。
「そうした奴もいるが俺達の考えは違う。民間人が襲われている以上君を助ける義務がある」
「余計なことだ」
 だが女はそれでもそれを受けようとしなかった。
「あたしはそんなのいらない」
「何てヘソ曲がりなんだ、こいつは」
 リュウセイはそれを聞いて顔を顰めさせた。
「現にやばい状況じゃねえか。そんなんで何しようってんだよ」
「それはあんたには関係ないだろ」
 女はまた反論してきた。
「あたしは大丈夫なんだ。だから手出しはするな」
「待って、アイリス」
 だがここでツグミが彼女を止めた。
「ツグミ」
「今レーダーに反応があったわ。後方からネオ=ジオンが来ているわ。それも大勢」
「クッ・・・・・・」
「半端な数じゃないわよ。それでも一人でやれるの?」
「・・・・・・わかった」
 アイリスはそれを聞いて渋々ながら頷いた。
「そちらの援護を受けたい。いいか」
「最初からそう言えばいいのによけれどいいさ」
 リュウセイはそれを聞いて微笑んだ。
「行こうぜ皆、丁度戦いたくてウズウズしていたところだしな」
「御前はいつもそうだろうが」
「本当に変わらないな」
 ライとレビがそれを聞いて呆れた声を出した。しかし彼等も身構えていた。
「じゃあ行くわよ、いい?」
「了解」
 そしてアヤの言葉に従い戦闘態勢に入る。三隻の戦艦からもマシンが次々と発進する。
「エリカ、じゃあ行ってくる」
「一矢、頑張ってね」
 その中には当然一矢もいた。彼も戦場に向かうのであった。
 当然ながらコスモクラッシャー隊もいた。彼等はそれぞれ乗り込み発進した。だが席が一つ空いていた。
「タケルは?」
 コスモクラッシャーに乗り込んでいる一人の少女が他の者に尋ねた。日向ミカという。
「あいつは今は乗せていない」
 キリッとした顔立ちの男がそれに答えた。コスモクラッシャー隊のリーダーであり作戦も担当する飛鳥ケンジであった。
「何かあったんですか」
「具合が悪いようだったからな。それでおろしたんだ」
「そうだったんですか」
 ミカはケンジの言葉を聞いて頷いた。
「まあタケルのいない分は俺達で埋めるさ、なあ、ナオト」
「おうよ」
 操縦席にいるやや太った男が顎の線の細い男にそう声をかけた。太った男が木曾アキラ、操縦担当であり顎の細い男が伊集院ナオトであった。ナオトは火器担当である。
「タケルがいなくても何とでもなるぜ」
「そうかしら」
 だがミカはその言葉には懐疑的であった。
「一人がいないとそれだけ戦力が減るのよ」
「だが具合の悪い者を乗せておくわけにもいかないだろう。それはかえってタケルにも悪い」
 ケンジはここでミカに対してそう言った。
「それはわかるだろう」
「ええ」
 それがわからない程ミカも分別がないわけではなかった。こくり、と頷く。
「そういうことだ。俺達は今の状態で戦うしかない」
「そういうことですね」
「まあタケルの穴は俺が埋めてやるぜ」
 アキラとナオトもそれに頷いた。しかしミカの顔は晴れなかった。
「それでタケルは大丈夫なんですか?」
「ああ、只の風邪らしい」
 ケンジは落ち着いた様子でそれに答えた。
「だから特に心配する必要はない、いいわ」
「わかりました」
 それに頷いた。そしてコスモクラッシャーも出撃した。他のマシンも一緒であった。
 ネオ=ジオンの部隊はアイリスとツグミの乗るアルテリオンを包囲しようとした。だがそこでベガリオンから通信が入った。
「あれは私がやる」
 出て来たのは群青色に赤い軍服を着た女であった。凛々しく端麗な顔立ちをしている。
「任せてよいな、スレイ=プレスティ」
 ネオ=ジオンのモビルスーツ部隊の先頭にいるザクV改に乗る茶の髪の青年がそれに応えた。ネオ=ジオンのエースパイロットの一人マシュマー=セロである。ハマーンに心酔していることでも知られている男である。気品のある顔立ちと言えた。
「うむ、これは私がやらなければならない。わかってくれるか」
「何言ってるんですか、貴女は」
 それを聞いてザクV改の隣にいるズサに乗る鼻の大きい男が困った顔をした。マシュマーの副官であるゴットン=ゴーである。
「そんなことできるわけないでしょうが」
「いや、構わん」
 だがマシュマーはそれを認めた。
「マシュマー様、何言ってるんですか」
「ゴットン」
 マシュマーはここでゴットンの名を呼んだ。
「はい」
「素晴らしいと思わないのか」
「何がですか?」
「一人の女騎士が意地と誇りをかけて一騎打ちをするのだ。これこそが戦いというものだ」
「そういうもんですかね」
「そうだ。それこそが騎士の戦いだ」
「またはじまったよ」
 ゴットンはそれを聞いて呆れた声で呟いた。
「これさえなけりゃあな」
「ん、何か言ったかゴットン」
「いえ、何も」
「そうか。ならばよいが。さあ、今我々の敵は目の前にいる」
 ロンド=ベルは既に出撃を終え部隊を組んでいた。そしてネオ=ジオンを待ち構えていた。
「彼等を倒しハマーン様に勝利をもたらすのだ。行くぞネオ=ジオンの誇り高き戦士達よ!」
 マシュマーの声が全軍に響く。
「敵を一人残らず倒し、我等の武勇を世の者に示すのだ!」
 そう叫ぶとマシュマーが真っ先に動いた。そしてロンド=ベルに突き進む。
「マシュマー=セロ、参る!」
「あ、マシュマー様待って下さいよ!」
「ゴットン、戦場では敵は待ってはくれないぞ!」
「味方は待って下さいよ!」
 そんなやりとりをしながらロンド=ベルに向かって来た。ロンド=ベルの面々はSRXチームを加えたうえで布陣していた。
「ザクV改か」
「またマシュマーだな」
 ビーチャとジュドーはいつものことのような顔でネオ=ジオンの動きを見ていた。
「近いうちに会うとは思っていたけれど」
「出て来ると何か懐かしさすら覚えるわね」
「そうそう」
 ルー、エル、モンドも同じであった。何故か彼等は敵を前にしても緊張していなかった。だがイーノは別であった。
「皆そんなのでいいの?マシュマーは手強いよ」
「そうだな。聞いていれば俺と声がそっくりだし」
 ここでライトが出て来た。
「二枚目の声の奴は強いって相場が決まっているからな」
「じゃあ俺もだな」
 ライトの隣にいるタップがそれに合わせて言った。
「俺みたいなナイスガイはやっぱりエースになるべくしてなるんだよ」
「おい、タップの何処がナイスガイなんだよ」
 ケーンがそれに突っ込みを入れる。
「三枚目はナイスガイとは言わねえぞ」
「ケーン、そりゃどういう意味だ」
「そのまんまだよ。やっぱりエースは主役って相場が決まってるんだよ」
「じゃああの蒼い鷹の旦那がか?」
「・・・・・・ライト、それは言わない方がいいと思うぜ。何か嫌な予感がする」
「そうだな。止めるか」
「ドラグナーチームにガンダムチーム」
 ここで後ろにいるバニングからクレームが来た。
「わかってるとは思うが気をつけるようにな」
「了解」
「俺達の華麗な活躍を見せてやりますよ」
「だったらいいがな」
 バニングはドラグナーチームの軽いやりとりに対しても態度を崩さなかった。冷静に敵の動きも見ていた。
「もし駄目ならばベン軍曹にお灸を据えてもらうだけだ」
「ゲッ」
 それを聞いてケーン達だけでなくジュドー達も顔色を失った。
「それだけはご勘弁を」
「あの人のお灸はちょっと・・・・・・」
「じゃあわかっているな。真面目にやるんだ」
「はい」
「ねえジュドー、お灸って何?」
「食べ物じゃないな」
 プルとプルツーがそれを聞いてジュドーに声をかけてきた。
「そのうちわかるさ。熱くて痛いものだよ」
「うえっ、何か嫌そう」
「そんなものは欲しくないぞ」
「だったら戦争しようぜ、真面目にな」
「うん、わかった」
「後ろは任せろ」
「おう」
 ガンダムチームは右に、ドラグナーチームは左に動いた。そして中央にはバニングの小隊とコウの小隊、そしてシーブックの小隊がいた。ヒイロ達もいる。
「カミーユは左に行け」
「はい」
 カミーユ達がそれに従い左に動く。ウッソ達は中央にいた。
「ここはモビルスーツ隊とドラグナーチームで受ける。他の部隊は側面に回る」
「バルキリーもですか」
「そうだ」
 バニングはモンシアの問いにそう答えた。
「バルキリーとエステバリス、そしてダイモスはあちらだ。SRXチーム、ヘビーメタルは艦隊の防衛だ」
 モビルスーツ部隊の後方にはラー=カイラムとアルビオンがいた。ナデシコBはバルキリー達と行動を共にしている。彼等は迂回してネオ=ジオンに向かっていた。
「それでいいな。それでは戦闘開始だ」
「了解」
 皆それに頷いた。そしてライフルを構えた。
「やるぜ!」
「おう!」
 ビームライフルが一斉に放たれる。そしてネオ=ジオンのモビルスーツを次々に貫いた。敵の動きがそれで止まった。
「怯むな!」
 それでもマシュマーは突撃した。ビームをかわしロンド=ベルのモビルスーツに迫る。
「この程度で私を倒せると思っているのか!」
「うわ、やっぱり突っ込んで来たよ!」
「イーノ、落ち着け!」
 ジュドーがここで叫ぶ。
「奴は俺がやる!」
 そう言うとハイパービームサーベルを引き抜いた。そしてマシュマーのザクV改に立ち向かう。
「マシュマー、ここはやらせねえぞ!」
「ZZガンダム・・・・・・ジュドーか!」
 マシュマーは目の前にZZが来たのを見て自身も剣を抜いた。そしてZZのサーベルをそれで受けた。
「今ここで決着をつけてやろう!」
「望むところだ!」
 二人は一騎打ちをはじめた。その間にロンド=ベルの別働隊はネオ=ジオンの側面を突いた。その先頭にはダイモスがいた。
「エリカ、見てろよ」
 一矢は三節艮を取り出した。それでまずはズサを叩き潰した。
「三・竜・昆!」
 叩きながら叫ぶ。そして周りにいるモビルスーツを次々に倒していった。
「うわあ、やっぱり凄いな」
 それを見たアラドは思わず驚きの声をあげた。
「アラド、驚いてる場合じゃないわよ」
 ゼオラがそれを聞いて呆れたような、怒ったような声で彼を叱った。
「あたし達だってやらなきゃいけないんだから」
「わかってるよ」
「わかってるなら行くわよ、いい?」
「ああ」
「付いて来て。あたしが前に出るわ」
「何か逆だなあ」
「何か言った?」
「いいや」
 こちらはゼオラが主導していた。彼女が攻撃し、その脇をアラドが固めて迫り来る敵を退ける。二人一組で敵を倒していた。ネオ=ジオンのモビルスーツはその数を次々に減らしていた。
「マシュマー様、まずいですよ!」
 ジュドーとの戦いを続けるマシュマーのザクV改の横にゴットンのズサが来てそう忠告した。
「こっちばかりやられていますよ」
「わかっている!」
 マシュマーはそれを聞いて不愉快そうな声で返した。
「だが今は耐えなければならんのだ。もうすぐ援軍が来る」
「とっくに来ていますよ」
「何!?」
 マシュマーはそれを聞いて呆気にとられた声を漏らした。
「もう来ているのか」
「はい、キャラ様の部隊が」
 モニターに赤と黄色、二色の髪をした派手な顔立ちの女が出て来た。
「マシュマー、苦戦しているようだね」
「キャラ=スーンか」
 彼はその女の顔を見て名を呼んだ。
「援軍とは貴様のことだったのか」
「そうさ、ハマーン様からのご命令でね。助太刀してやるよ」
「クッ」
 断ろうとしたがそれはできなかった。ハマーンの命令とあらば致し方がなかったからである。
「わかった。それでは援護を頼む」
「了解。あんたはそのままそっちの坊やの相手を頼むよ」
「貴様はどうするつもりなんだ?」
「あたしは艦に残らせてもらうよ。ちょっとね」
「そうか」
 事情はマシュマーも知っていた。キャラはモビルスーツに乗ると人格が一変するのである。
「あたしが出なくてもいけるだろ。エンドラで援護させてもらうよ」
「わかった」
 マシュマーはそれを了承した。そしてジュドーに顔を戻した。
「ジュドー、あらためて行くぞ」
「へっ、そうこなくっちゃな」
 彼はそれを喜んで受けた。
「じゃあここで決めさせてもらうぜ」
「それはこちらの台詞だ」
 彼等はまた戦いを再開した。そして両者剣を再び重ね合いはじめたのであった。
 キャラの援軍を得てネオ=ジオンはもちなおした。キャラはまず側面を衝いてきた部隊に攻撃を集中させてきた。
「まずはあいつ等をやるよ!」
「了解!」
 ネオ=ジオンの攻撃が側面の部隊に集中される。キャラの乗るエンドラも攻撃を加えていた。
「撃て!」
 主砲が火を噴く。そしてコスモクラッシャーの至近距離をかすめた。
「おっと!」
 アキラが巧みな操縦でそれをかわす。ミカは冷や汗をかいていた。
「危なかったわね」
「何、これ位何でもないさ」
 だがアキラは至って冷静であった。どうやら敵の攻撃を見切っていたらしい。
「問題は戦艦だよ」
 彼はここでアルビオンに目を向けた。
「敵が来てるぜ。このままじゃまずい」
「けれどここからでは何もできない。護衛に任せるしかない」
 ナオトがそう言った。そしてメンバーの目を正面の敵に向かわせた。
「今は我々は正面にいる敵を倒すことを考えよう」
「了解」
 ケンジがそれに頷いた。そして攻撃を敵のモビルスーツに加える。一機撃墜した。
「こうやってだな」
「そうだ」
 ナオトは頷いた。そして彼等は目の前にいる敵への攻撃に向かうのであった。
 ラー=カイラムとアルビオンも敵の援軍が現われたのを機に前面に出ていた。そして攻撃を行なっていた。
「外すなよ」
 シナプスの指示が下る。そして敵の小隊にまがけて砲撃が加えられる。
 それを受けて敵のモビルスーツが数機撃墜される。だがそれでも敵の数は一向に減らなかった。
「こちらにも来ます!」
 シモンが叫ぶ。するとアルビオンのモニターに一機のガザDが映った。ビームを放ってきた。
「ムッ!」
 それを受けて艦に衝撃が走る。だがそれでも損害は軽微なものであった。、ただ艦内に残っていたタケルは倒れ床に叩きつけられてしまった。
「グッ・・・・・・」
 タケルは何とか起き上がった。だがそこにまた攻撃が加えられてきた。
「ウワッ!」
 また倒れた。今度は背中を強く打った。
「まだだ、俺は今はここにいるだけだが」
 彼は起き上がりながら呟いていた。
「他の皆は戦っているんだ。だからこんなところで」
『マーズよ』
 ここで誰かの声が聞こえてきた。
「マーズ!?」
 タケルはその声に気付いた。それを受けて辺りを見回す。だがそこには誰もいなかった。
「俺を呼ぶのは誰だ!?」
『私だ』
 タケルの脳裏に一人の少年が現われた。タケルと同じ顔を持つ緑の髪の少年であった。まるで中世の貴族のようなみらびやかな服を着ている。
「貴方は」
『私はマーグ。御前の双子の兄にあたる』
 彼は自分の名を名乗り彼にもそう言った。
「兄!?そんな馬鹿な」
 タケルはそれを聞いて思わず声をあげた。当然であった。
「俺には兄なんていない。俺は明神家に生まれた」
『地球ではな』
 マーグはそれを聞いてそう語った。
『確かに御前の今の名前は明神タケルかも知れない』
「知れないんじゃなくて本当のことなんだ」
 彼はそれを聞いてやや激昂してそう言った。
「それは言っているじゃないか」
『話をよく聞いてくれ』
 だがマーグはそんな彼に教え諭すように語り続けた。タケルはそれを聞いて何故か従う気になった。はじめて見る相手でしかもいきなり言われたことであるのに、だ。それは自分でも不思議であったがそれが何故かはわからなかった。
『御前は地球ではその名前なのだろう』
「当然じゃないか。何を言っているんだ」
『しかし御前のバームでの名前は違っているのだ』
「バームでの!?」
 彼はそれを聞いて思わず声をあげた。
「今バームと言ったな」
『そうだ』
 マーグはその言葉に頷いた。
『御前は本当は地球人ではない。バルマー星人なのだ』
「そんな馬鹿な、俺は地球人だ」
 タケルはそれを聞いて叫んだ。頭の中で叫んだのである。
「その証拠に俺にはちゃんと親がいる。それで何故俺をバルマー星人だなんて言えるんだ」
『言っただろう。私は御前の兄だと。私達はバルマー星に生まれた双子の兄弟なのだ』
「何を根拠に」
『根拠か』
 マーグはそれを聞いてタケルを見た。
『それは御前自身が最もよくわかっている筈だが』
「俺が!?」
『そうだ』
 彼は静かな声でそう語った。
『私と御前は同じ顔を持っている。そして今御前は私の言葉を素直に受け入れているな』
「うう・・・・・・」
 否定はできなかった。タケルはそれを聞いて俯くしかなかった。
『それが何よりの証拠だ。そして今御前がやらなければならないことは』
「待ってくれ」
 タケルはここで顔を上げた。
「俺は地球で育ち、地球の為に戦っているんだ。今ここでそれを裏切ることはできない」
『それはわかっている』
 だがマーグはそれを認めた。
『私は御前にバルマーの為に戦えとは言わない。私は御前に地球の為に戦ってもらいたいのだ』
「地球の為に」
『そうだ』
 マーグはその言葉に頷いた。
『私は確かにバルマー星人だ。だがバルマーの侵略に賛同することはできない。バルマーのやり方は間違っていると思っている』
「それで俺に今語りかけてきたのか」
『そうだ。そして御前には戦う義務がある。そして御前は死んではならない』
「死んではならない・・・・・・。どういうことなんだ兄さん」
『よく聞け、マーズ』
 彼はここでその顔と声をさらに引き締めさせた。
『御前の身体には秘密がある』
「身体にも」
『そうだ。御前の身体には爆弾が埋め込まれている』
「えっ!?」
 それを聞いて声をあげずにはおられなかった。
「それはどういうことなんだ!?」
『霊帝が地球に御前を送り込んだ時に埋め込んだのだ。地球を爆破する為にな』
「待ってくれ。バルマーは地球を征服するつもりなんじゃないのか」
 タケルはそれを聞いてマーグに問うた。
「だからこの前の戦いが起こったんだろう!?」
『その通り』
 マーグはそれを認めた。
『だがそれを為しえなかった場合のことも考えていたのだ、霊帝は』
 そのうえでそう答えた。
『その際には地球を破壊するつもりだった。その為の爆弾が御前だったのだ』
「そんな・・・・・・」
 それを聞いてタケルは絶句した。
「俺は地球を破壊する為の爆弾だったのか」
『残念だがそうだ。それは御前が死んだ時に爆発するようになっている』
「じゃあ俺は死ぬことができないのか」
『普通に死ぬのならいい。しかし戦死した場合には』
「そうか・・・・・・」
 彼はそれを聞いてうなだれた。
「何てことだ。俺はこの地球を滅ぼす為の兵器だったのか。そんな・・・・・・」
『全てはユーゼスの考えだった』
 マーグはここでユーゼスの名を出した。
『ユーゼスはそこまで考えていたのだ。そしてそれを霊帝に上奏した。そして御前が送り込まれたのだ』
「ユーゼスはもう死んだ。今もあいつに悩まされるなんて」
『今御前がやるべきことは一つだ』
 マーグはさらに強い声でタケルにそう言った。
『戦え、地球の為に』
「地球の為に」
『そうだ』
 彼は強い声で頷いた。
『地球を守りたいか』
「勿論だ」
 タケルも強い声でそう答えた。
「俺はこの地球で育ったんだ。そして今地球の皆と共に戦っている」
 その言葉に迷いはなかった。彼はそのまま語り続けた。
「地球の平和を守る為に。俺はバルマーで生まれたかもしれない。しかし」
 言葉を続けた。
「俺は地球人だ。俺は地球の為に戦う!」
『よし』
 マーグはそれを聞いて頷いた。

『それならばいい。それでは御前に戦う力を教えよう』
「戦う力」
『そうだ。地球を守る力だ。念じてみろ』
 弟に対して言う。
『正義の使者ガイヤーよ、来いとな』
「正義の使者ガイヤー」
 タケルはそれを受けて念じはじめた。
「来い!」
 すると地球で異変が起こった。日本から一条の光の柱が立った。そしてそれは宇宙に向けて放たれた。
「ムッ!?」
「あれは!?」
 それは戦闘中のロンド=ベルとネオ=ジオンからも確認された。そしてそれはアルビオンの側に来た。それは赤いロボットであった。
『マーズよ、乗れ』
「う、うん」
 タケルはそれに従いまた念じた。すると彼は何時の間にかその赤いロボットの中にいた。
「これは」
『これがガイヤーだ』 
 マーグは彼に対してそう言った。
『御前の脳波により動く。そして』
 言葉を続ける。
『爆弾はこの中にある。このガイヤーは御前の分身でもあるのだ』
「そうか。さっきの言葉はそういう意味だったのか」
『そうだ』
 マーグはその言葉に頷いた。
『御前が念じた時、戦死した時にこのガイヤーの中の反陽子爆弾が爆発する。そして全てが終わるのだ』
「そうなのか」
『そして御前とガイヤーを守る五柱の神もいる』
「五柱の神!?」
『そうだ』
 マーグは彼に語る。
『念じるんだ。六神合体とな』
「よし」
 タケルはそれを受けて再び念じた。
「六神合体・・・・・・!」
 念じた。すると地上に五つの柱が立った。
 エジプト、北極、インド洋、アンコールワット、そしてイースター島に。それは再び一直線にアルビオンのところに来た。そしてガイヤーとタケルを包み込み合体した。赤と青の巨大なロボットとなった。
「これは・・・・・・」
『ゴッドマーズだ』
 マーグは彼にそう答えた。
「ゴッドマーズ」
『御前とガイヤーを守る為に我々の父イデアが作り上げたロボットだ。御前の命を守る為に』
「父さんが」
『そうだ。さあマーズよ』
 マーグはさらに言う。
『それで戦うのだ。そして地球の平和を守れ、いいな』
「わかった、兄さん」
 マーズは頷いた。そして迫り来る敵を見た。
「俺はここで倒されちゃいけないんだ。死んではいけないんだ。そうだね」
『その通りだ。わかったなら戦え。そしてバルマーを退けんだ』
「よし!」
 タケルはその言葉を受けてまた念じた。そして敵に斬り込んだ。その手には剣がある。
「これなら!」
 それで切り裂く。ネオ=ジオンのモビルスーツはそれを受けて両断される。そして爆発した。
「俺は死ぬわけにはいかない!そして地球の平和を守ってみせる!」
『頼んだぞ』
 そこでまたマーグの声がした。
『また会おう。そして何時の日か』
 タケルの頭の中にいる彼は微笑んでいた。そして語りかけていた。
『共に戦おう。いいな』
「うん」
 タケルは頷いた。そして兄に対して言った。
「兄さん、また会おう」
『ああ』 
 それでマーグは消えた。タケルは戦場に心を戻した。
「地球を守る為に」
 その手に握る剣が煌いた。
「俺は戦う!」
 そしてモビルスーツを次々と倒していく。ゴッドマーズは周りの敵を断ち切りアルビオンの周りにいる敵を一掃してしまった。それを見たリュウセイが思わず叫んだ。
「すげえ、何てロボットだ!」
 ゴッドマーズはアルビオンの周りにいる敵を全て倒すとラー=カイラムの方に来た。そしてそこにいる敵も倒しはじめた。
「あれに乗ってるのは誰なんだ、凄いいかつい奴なんだろうな!」
「俺ですけれど」
 ここでタケルがリュウセイのモニターに出て来た。
「あんたなのか。ええと」
「明神タケルです。コスモクラッシャー隊の」
「コスモクラッシャー隊!?あそこにこんなロボットあったっけ」
「まあ色々ありまして。それより」
 タケルはここで話題を敵に向けた。
「今はここにいる敵を倒しましょう、話はそれからです」
「よし。後でじっくり聞かせてもらうぜ。いやあ、やっぱりロンド=ベルはいいぜ」
 リュウセイは上機嫌でそう言った。
「何でだ」
「だってこうしてスーパーロボットを次から次に見れるんだぜ。生きててよかったと思わねえか」
「俺は別にそうは思わないが」
 上機嫌のリュウセイに対してライはあくまで冷静であった。静かにそう答える。
「それよりそこにいるタケル君の言う通りだぞ」
「ああ、わかってるさ」
 リュウセイにもそれはわかっていた。彼とて戦士である。今の状況はよくわかっていた。
「行くぜ」
「よし」
 まずはR−1が動いた。腕から何かを放つ。
「念動シュート!」
 それが敵の小隊に向かう。そして小隊ごと敵を粉砕した。
「どうだい、これがR−1の実力だ!」
「次は俺か」
 今度はライが前に出た。彼は静かに迫り来る敵の小隊に向けて動いた。両肩にあるランチャーを放つ。
「行け!」
 それで敵を攻撃した。モビルスーツ達はそれをかわすことができずことごとく撃ち落されてしまった。
「並のパイロットしかいないようだな」
「そうだな」
 レビはもう攻撃を終えていた。装備されているキャノンで既に敵を倒し終えていた。
「ネオ=ジオンといえどもその程度か」
「油断をしては駄目よ」
 だがここでアヤの声がした。
「手強い敵もいるわよ、ほら」
 そこに四機のモビルスーツがやって来ていた。先頭にいる一機は赤で他の三機は緑のカラーであった。
「バウか。ネオ=ジオンの可変式モビルスーツだな」
 ライがそれを見て呟いた。
「その先頭にいるのはあれは・・・・・・」
「グレミー。グレミー=トトだ」
 リュウセイがそれを見て言った。
「ネオ=ジオンのパイロットの一人だぜ」
「何でそんなことまで知っているんだ?」
 レビがそれを聞いて不思議そうに首を傾げた。
「前の戦いでやりあったからな。知っているのさ」
「そうだったのか。私はあの時は敵だったからな。途中までは」
「あの時は苦労したぜ、色々と」
 リュウセイはそれを聞いて苦笑した。
「まあ今はこうやって一緒に戦っているからいいけれどな。じゃあ行くか」
「ああ」
 リュウセイとレビが動こうとする。だがそれよりも前にアヤが出ていた。
「ありゃ、先を越されたか」
「お喋りばかりしているからだ」
 ライが彼に突っ込みを入れた。
「ここは隊長のフォローに回るぞ、いいな」
「ああ」
「了解」
 二人はそれを受けてライと共にアヤのフォローに向かった。その時リュウセイはタケルに声をかけた。
「タケル」
「はい」
 彼はそれに応えた。
「後でゆっくり話をしようぜ。楽しみにしてるからよ」
「ええ、わかりました」
 タケルはそれを受けて戦いに戻った。そして目の前に迫るガザDの小隊に対して剣を振り被る。そしてそれを横に一閃させた。
「ファイナルゴッドマーズ!」
 それで敵を滅ぼした。だが戦いはまだ続いていた。目の前に迫る敵を倒し続けていた。
 アヤは一直線に四機のバウに向かう。間合いに入ったと見るや何かをバウに向けて放った。
「ストライクシールド!」
 それでもって敵を叩く。そして忽ちのうちに三機の緑のバウを撃墜した。だが赤いバウだけは残った。何とストライクシールドを切り払ったのだ。
「あのオレンジのバウ・・・・・・!」
 アヤはそれを見て思わず声をあげた。戦闘中は冷静な彼女にしては珍しいことであった。
「このマシン・・・・・・SRXか」
 そのバウに乗る金色の髪に褐色の肌を持つ青年が呟いた。彼がグレミー=トトである。彼はバウにサーベルを持たせて立っていた。
「やるな。前の戦いからさらに腕をあげたようだ」
 グレミーは前にいるR−3パワードを見て呟いた。
「どうやらこれは手強い相手のようだな」
「おっと、隊長だけじゃないぜ!」
 そこに三機のマシンがやって来た。
「俺達もいるってことを忘れるなよ!」
「隊長、フォローに参りました」
 彼等はアヤの周りを取り囲んだ。そしてグレミーのバウと正対した。
「さあグレミーさんよ、どうするつもりだい!?」
「あたし達の相手をしてくれるのか?容赦はしないぞ」
「クッ」
 彼はSRXチームを前にして唇を噛んだ。この状況が不利なことは彼にもわかっていた。
「この勝負、預けておこう」
 彼はそう言うとバウを変形させた。そして二つに分かれた。そのまま戦線を離脱しにかかった。
「おい、待て!」
 リュウセイが追おうとする。だがそれをアヤが止めた。
「待って、リュウセイ」
「おい、何でだよ」
「今は艦を守る方が先よ。まだ敵は残っているわ」
「ちぇっ、折角敵の名前のある奴を仕留められると思ったのによ」
「まあそういうな。これから機会は幾らでもある」
 ライがそう言って彼を慰めた。
「だからここは大人しく隊長の命令に従え、いいな」
「あいよ。じゃあ早く行こうぜ」
「ええ。じゃあ行きましょう」
「了解」
 こうしてSRXチームはラー=カイラムの側に戻った。そしてまた敵を倒しはじめたのであった。

 戦いはロンド=ベルのものとなっていた。ネオ=ジオンのモビルスーツはその数を大幅に減らしキャラの乗るエンドラにまで迫られていた。
「しつっこいっての!」
 ビーチャの百式のバズーカが火を噴く。それで敵を吹き飛ばした。
 そこにガンダムチームが斬り込む。そしてエンドラへの最後の防衛ラインを突破した。
「チッ、相変わらず滅茶苦茶強いね」
「キャラ様、どうしますか」
 舌打ちするキャラに側に控える士官が問うた。
「このままではエンドラにも攻撃が及びますが」
「ちょっとやそっとの攻撃なら構わないさ。けれどね」
 キャラは言葉を続けた。
「これはちょっとやそっとじゃなくなりそうだね。引くよ」
「はい」
 士官はそれを受けて頷いた。
「それではマシュマー様とグレミー様にもそうお伝えします」
「ああ、頼むよ。あれでも死なれたら寝覚めが悪いからね」
 キャラはそう士官に言って笑った。
「ハマーン様にはあたしから報告しておく。いいな」
「ハッ」
 こうしてネオ=ジオンは撤退にかかった。マシュマーもグレミーも戦線を離脱しにかかった。
「ジュドー、勝負は預けたぞ!」
「っておい、他の台詞はねえのかよ!」
「細かいことは気にするな!」
「あ、マシュマー様待って下さいよお〜〜〜〜!」
 マシュマーはジュドーにそう言い残してその場を去った。後にはゴットンがついていく。同時にグレミーも戦場を離脱していた。
「終わりましたね」
「ああ」
 戦闘が終わるとブライトはアルビオンに通信を入れた。すぐにシナプスが出て受け応えた。
「それにしても驚いたな」
「ええ、あれですね」
 ブライトはシナプスが何を言いたいのかよくわかっていた。
「まさか彼が」
「そうだな。しかし恐るべき力だった」
「はい」
 ブライトはその言葉に頷いた。
「ゴッドマーズといったな、確か」
「そう言っていましたね、さっき」
「一体何の力かわからないがこれからの戦いを生き抜くうえで鍵の一つとなるだろう」
「そうでしょうね。あの力、ダイモスやコンバトラーにも匹敵します」
「そうだ。ここは彼の力を借りたい。あくまで彼の意思によるがな」
「はい」
 こうしてブライト達はまずタケルにラー=カイラムのブリーフィングルームで話を聞いた。彼は自分に何が起こったのかをくまなく説明した。
「そうか、そういうことだったのか」
 ブライトはそれを聞いて納得した。
「何もないんですか?」
 タケルは彼が特に驚かないのを見てかえって自分が不思議に思った。
「俺はバルマー星人なのに。貴方達の敵なのに」
「そんなことは関係ない」
 ブライトは彼に対しそう言い切った。
「君は地球で育ったのだろう」
「はい」
「それだけで充分だ。君はそれだけももう立派な地球人だ」
「そうなのですか」
「私はそう思っている。いや」
 ここでカミーユやジュドー達も言った。
「俺達もそう思ってるぜ。君は俺達の仲間だ」
「皆・・・・・・」
「タケル」
 ここでコスモクラッシャー隊のメンバーが彼に声をかけてきた。
「御前が何者だろうと俺達のメンバーであることには変わりはない。それだけだ」
「隊長・・・・・・」 
 タケルはケンジの顔を見た。彼は微笑んでいた。彼だけでなく他のメンバーも彼を見て微笑んでいた。温かく優しい微笑みであった。
「そんなこと言ったらあたし達なんてとてもここにはいられないわよね」
「そうそう」
 アムとキャオがそれを見てそう言い合った。
「あたし達だってペンタゴナからここに来たんだし」
「ホエールは持って来れなかったがな」
「あれはレッシィの責任じゃない」
 ダバがそれを受けて彼女にそう言った。
「だがら気にする必要はない」
「そうか」
「そうそう、ここに皆いるしいいじゃない」
「うむ」
 アムにも言われようやく納得した。レッシィは頷いた。
「大体ペンタゴナの人も俺達も何も変わらないじゃないか」
 ケーンがここで言った。
「何か違うの?考え方も外見も一緒じゃない。タケルもそうだろ」
「お、たまにはいいこと言うね」
「熱でも出たか?」
 ライトとタップがケーンを冷やかした。
「違うよ。俺はただ思ったことを言っただけだ」
「またまた」
「そんなこと言うのがおかしい。まあケーンらしいけれどな」
「確かにケーンさんの言う通りだよな」
 ジュドーもそれに同じ意見だった。
「ダバさん達もタケルさんもはっきり言って俺達と何の変わりもないからな」
「ミリアだってそうだな」
 イサムがここでミリアに顔を向けた。
「そうね。元々地球人とは同じだったし」
「バルマー星人も。結局皆大して変わりはないと思うよ」
 マックスが言った。ミリアの夫だけあってその言葉は重みがあった。
「けれどマックスさんが巨大化した時は驚いたなあ」
 コウが言った。
「そうそう。最初見た時は何かと思ったよ」
「キースさんも言うわね」
 リンダがそれを聞いて笑った。
「俺だって考えたり言ったりはするよ。確かに影は薄いけれど」
「まあ控えめというところですね」
「アデルが言うと説得力があるな」
「俺達はそうでなくても地味だがな」
「御前達の何処が地味なんだ。言ってみろ」
 バニングはベイトとモンシアを嗜めた。そして話をタケル達の方に戻した。
「結局は我々は同じだということだな」
「バルマーも我々と祖先は同じですしね」
「そうだ」
 バニングはウッソの言葉に頷いた。
「タケル、そういうことだ」
 ケンジがまた彼に声をかけた。
「俺達は仲間だ。それは絶対に変わらない。何があろうとな」
「はい」
 タケルはこの時目から涙が溢れるのを必死に堪えていた。泣くわけにはいかなかったからだ。彼にも意地があった。
「これからも一緒に戦おう。俺達は何があっても御前を守ってみせる」
「はい、そして俺も」
「頼むぞ」
 コスモクラッシャー隊はここで互いに手を取り合った。彼等はあらためて結束を固めたのであった。
「これでいい」
 シナプスはそれを離れた場所で見ていた。そしてこう呟いた。
「戦いにあっては少しの亀裂が崩壊に繋がる。それはあってはならないことだからな」
「そうですね」
 隣にいるパサロフがその言葉に同意した。
「最初に話を聞いた時はそれが心配だったが杞憂だったな」
「はい」
「ただ一つ気になるのは」
「何でしょうか」
「うむ」
 シナプスはパサロフに話をした。
「あのゴッドマーズというマシンだ」
「はい」
「果たして一つなのだろうか」
「それはどういう意味ですか」
「うむ。見たところ構造自体はそれ程複雑ではない。簡単に別のものを作りだせるのではないかと思ってな」
「言われてみると確かに」
「敵に出て来たら厄介かも知れん。警戒が必要かも知れぬな」
「はい」
 彼等はここで話を止めブリーフィングルームに入った。そして先程の話はせずに一同の中に入った。話題は服に移っていた。見ればペンタゴナの者の服装は地球のそれとあまり変わりがないのだ。
「アムもレッシィもタイツなのね」
 ファがまず言った。
「ええ、こっちの方が動き易いから」
「前はもっと派手な服を着ていたんだけれどね。元のに戻したんだ」
「そうなの」
「あの服は結構好きだったんだけれどな。何かと」
「キャオ」
 エリスがそれを聞いて顔を顰めさせた。
「冗談だよ、冗談」
 キャオはその顔を見て笑って前言を撤回させた。
「まあ今の服も似合ってるしな、いいんじゃねえか」
「ふふふ」
 レッシィも褒められてまんざらではなかった。得意そうに笑った。
「そういえばフォウさんもルーもタイツよね」
「ええ」
「あたしも好きだしね、これ」
「動き易いよね」
「そうそう」
「エマさんのもそう?」
 アムがエマに話を振ってきた。
「私のはズボンよ」
 エマはそう言葉を返してきた。
「確かに細いけれどね」
「そうだったの」
「そう見えるでしょうけれどね。けれどこれはズボンなの」
「ふん。ところでエマさんの声ってミナトさんに似てるよね」
「また声の話?」
 皆それを聞いて苦笑した。言い出したアムも少し苦笑いしていた。
「まああたしもプルやプルツーに声が似てるって言われるし。気になるのよ」
「それを言うとここにいるかなりの数になるわね」
 フォウはこの話題にはいささか冷静であった。それが何故かはわからなかったが。
「あたしは色々と言われたね。エリスと間違えるって」
「似てないのにねえ」
「いや、そっくり」
 エルがそれを聞いて言った。
「同じ人が話してると思ったわよ」
「そうか。本当にわからないな」
「これでチャムが入ったらもっとややこしいことになるわね」
「ええ」
 ルーとファがヒソヒソと話をしていた。見ればアヤとセシリーも難しい顔をしていた。
「私達も似てますよね」
「そうよねえ」
 アヤの方が少し疲れた顔をしていた。
「セシリーさんには迷惑かけるわね」
「いえ、いいです」
「それならいいけれど。これからもお願いね」
「はい」
「ねえアヤさん」
 アヤにプルツーが声をかけてきた。
「何かしら」
「ポケットの写真は一体誰のなんだ」
「ああ、これね」
 アヤは言われてそれに気付いた。
「プロマイドよ、歌手の」
「歌手のか」
「今度は誰なの?」
 エマが聞いてきた。アヤが意外とミーハーなのはよく知られていることであった。
「バサラよ。熱気バサラ」
 アヤはそう言ってそのプロマイドを他の者に見せた。そこには眼鏡をかけた長い茶色の髪の若者がいた。ギターを持って何かを歌っているところであった。
「今話題のロックシンガーなの」
「ふうん、グループ名は?」
「ファイアーボンバー。もう凄いんだから」
「どう凄いのかしら」
 少し上機嫌になりだしてきたアヤにそう尋ねた。
「それだけじゃよくわからないよ」
「あ、御免なさい。曲がいいのよ。熱くて」
「そんなに熱いの?」
「よかったら聴いてみる?CD持ってるわよ」
「いえ、いいわ」
「また今度」
 だがそれは断られた。アヤはそれを受けて残念そうな顔をした。
「そう、それなら仕方が無いわね」
「ええ、悪いけど」
「また今度聴かせてよ」
 これでファイアーボンバーの話は終わった。ここでユリカが部屋に入って来た。
「みなさぁ〜〜〜ん☆」
 ここでは場にあった明るい声であった。
「私達は正式に地球に向かうことになりましたぁ」
「正式に?じゃあ今までは正式にじゃなかったのかよ」
「はい。まあ軍にも色々と都合がありまして」
 ケーンの問いにそう答えた。
「それでも何とか正式に地球に行くことになりました。宜しいでしょうか」
「いいも悪いもそれが軍の決定なら従うしかないんじゃないか?」
「ジュドー、それを言っちゃ駄目だよ」
 イーノが彼にそう注意した。
「それで何時地球に出発するんですか」
「今すぐです」
 今度は京四郎にそう答えた。
「あちらでも色々と入り組んでいまして。急いで欲しいそうです」
「入り組んで・・・・・・ねえ」
 フォッカーはそれを聞いて何か言いたそうに笑った。
「どうやら三輪長官も最近忙しいようだな」
「あの人が忙しいとロクなことがないですけれどね」
 柿崎はフォッカーが何を言いたいか理解した。そのうえで話した。
「まああの人のこと置いておいて」
 ユリカは話を続けた。
「どちらにしても民間人の皆さんは何とかしなくてはいけないですよね」
「まあそれは」
 彼等にもよくわかっていることであった。民間人を守るのが彼等の仕事であるからだ。それを理解していない者は流石にいなかった。
「それでは行くか。降下場所は」
「日本です。北海道らしいですよお」
「北海道ねえ」
 ウッソはそれを聞いて少し考え込んだ。
「ウッソ君、何かあるのですか?」
 そんな彼にルリが尋ねてきた。
「いえ、何もないですけれど」
「だったら何故考え込んでいるんですか?」
「いや、ただ寒いかなあ、って思いまして。北海道って寒いんですよね」
「そのかわりラーメンは美味しいよ」
 アキトは彼を慰めるようにしてそう言った。
「ラーメンですか」
「そうだよ。実は俺こう見えてもコックなんでね」
「将校なのにですか」
「おかしいかな。確かに連邦軍ではパイロットは将校以上でないとなれないけれど」
 以前は下士官でもなれたのだが制度が変わったのである。これはかってのアメリカ軍等に倣ったものである。それまでは旧日本軍やソ連軍に倣っていたのであるが兵制改革によってそれが改善されたのだ。それにより士官学校卒業者でなくとも大尉以上になれるようになった。もっとも将官ともなると流石にそうそう士官学校卒業者以外はなれないのだが。しかし連邦軍もそれなりに変わっているのは事実であった。アムロが少佐となったのもここに理由がある。彼程のエースパイロットが何時までも大尉のままで燻っているのは宣伝としても都合が悪いのでは、という考えがあったのだ。
「けれど将校が料理をしちゃいけないってことはない筈だよ」
「はい」
「よかったら一緒に食べに行こうよ。ご馳走するからさ」
「本当ですか!?」
「じゃあ俺も」
 オデロがそれを聞いて話に入って来た。
「一回地球のラーメン食べてみたかったんですよ」
「いいよ。誰でも。喜んで奢らせてもらうよ」
「やったぜ、アキトさんって優しいよな」
「そうだね。何か地球に行くのが楽しみになってきたよ」
「それは何よりだ」
 ブライトはそれを聞いて嬉しそうに頷いた。
「私も久し振りの地球だからな。嬉しいと言えばそうなる」
「ブライト大佐はジンギスカンでもどうでしょうか」
 ここでユリカが話を振ってきた。
「ジンギスカンか。悪くはないな」
 どうやらブライトも乗り気なようである。まんざらでもない顔をした。
「そういえばアムロと二人でよく食べたな、ジンギスカンは」
「そうだったのですか」
「ああ。もっとも最近はお互い別の艦に配属されて会ってはいないがな。それまではよく一緒にいたものだ」
「ブライト大佐とアムロ少佐のお付き合いは長いですからね」
「そうだな、一年戦争の時以来だからな。あの時はまだお互い若かった」
 ブライトはルリにそう言われて昔のことを思い出した。その目に懐かしいものが宿っていた。
「アムロもその時はどうしようもない奴だったな」
「えっ!?」
 それを聞いてそこにいる全ての者が驚きの声をあげた。
「あのアムロ少佐が!?」
「連邦軍きってのエースパイロットが!?嘘でしょう」
「嘘ではない」
 ブライトは皆にそう答えた。
「最初はな。アムロもいじけてばかりで暗くてな。それでよく喧嘩もした」
「そうだったのですか」
「私もまだ新米でな。何もわからずオロオロしているだけだった。だが共に戦っているうちにそれが変わった」
 彼はまだかっての日々を見ていた。その目は妙に温かかった。
「アムロも最初からエースパイロットではなかった。最初は誰でもそうかも知れない」
「何かシンジみてえな感じだったのかな」
「そういえば似ているな、話を聞いていると」
「そうだね。あんなのだったのかな」
 ジュドーとビーチャ、モンドはそれを聞きながらヒソヒソと話をしていた。
「私もな。今でこそ何とか艦長を務めているが」
「ブライト大佐って連邦軍の間じゃ一番の艦長って言われてますよお」
「有り難う、ミツマル中佐」
 ブライトはそれを受けて頷いた。
「だが私もな。一年戦争の時は色々とミスをした。今こうして生きているのが不思議な程だ」
「つまり努力と経験を積めば誰でもブライト大佐やアムロ少佐になれるということですね」
「その通りだ。・・・・・・ん!?」
 ブライトは答えたところで気が付いた。その声ははじめて聞く声であったからだ。彼は声がした方を見た。そこに眼鏡の少女が立っていた。
「君は」
「ツグミ=タカクラです。はじめまして」
 彼女はそれに答えて頭を下げた。それからゆっくりと顔を上げた。
「さっきは助けて頂き有り難うございます」
「というと君はさっきのアーマードモジュールの」
「そうです、アルテリオンのサブパイロットです。そしてこっちにいるのが」
 彼女はここで部屋の出入り口に立っている赤い髪の少女を手で指し示した。
「アイリス=ダグラスです。彼女がアルテリオンのメインパイロットです」
「彼女がか」
 ブライトはそれを聞いて頷いた。
「話には聞いていたが。まさかここで会うとはな」
「ブライト大佐、何か御存知なのですか?」
 フォウが彼にそう尋ねた。
「ああ。私も話に聞いているだけだが」
 彼はそう前置きしたうえで話をはじめた。
「確かDCで開発されていた恒星間航行のテスト機だったな」
「はい、その通りです」
 ツグミがそれに答えた。
「私達はアルテリオンのテストパイロットと開発者でした」
「私が乗っていたのさ」
 アイリスは微かに笑って部屋の中に入って来た。そしてそう答えた。
「DCが崩壊して今は運び屋をやっているけれどね。丁度仕事を終えてこおを通り掛ったところなんだ」
「それであの赤いやつに攻撃されたのか」
「ああ、そうさ」
 ケーンにそう答えた。
「それであの赤いやつは一体何なんだ?見たところアルテリオンと同じタイプだけれどよ」
「ベガリオン、同じく恒星間航行のテスト機さ。あれも二人乗りだ」
「そうだったのか」
「けれどおかしいな」
 ここでライトが言った。
「あれには一人しか乗っていなかったようだが。二人乗りというのは本当なのかい?」
「はい、それは本当です」
 ツグミが彼に答えた。
「ただ色々と事情がありまして。今は一人で乗っているんです」
「そうだったのか。見たところ綺麗な人のようだがな」
「こら、ライト」
 そこでタップが彼を嗜めた。
「そこでそんなこと言うから三枚目になるんだろうが」
「おやおや。俺は元々が二枚目だから変わらないのさ」
「何か声もキャラクターもマシュマーに似てるね」
「プル、それは禁句だ」
 プルツーがふと呟いたプルをそう言って嗜めた。
「とにかくだ」
 ブライトが話を元に戻した。そしてアイリスとツグミに尋ねた。
「あのベガリオンはどうやら今はネオ=ジオンに所属しているらしい。つまり我々の敵だ」
「はい」
「君達とも敵対関係にある。ここまで言って私が何を言いたいかはわかってくれると思うが」
「はい、わかっています」
 ツグミがそれに頷いた。
「丁度仕事もないですし。お金さえ頂ければ」
「あたしもそれでいいよ。どうせ暇だしね。戦争があっちゃ外には行けないし」
「外!?」
 皆それを聞いて首を傾げた。
「あ、いやこっちの話だ。気にしないでくれ」
 アイリスはそう言って話を誤魔化した。
「何でもない。どのみち今はなね」
 そして少し悲しそうな顔をした。だがそれに気付いたのはツグミだけであった。
「アイリス、やっぱり」
「それよりもロンド=ベルに入れてくれるんだよね」
「ああ、そちらさえよければ」
 ブライトは笑顔でそれを認めた。
「こちらにとっては今は少しでも戦力が欲しいところだしな。いいかな」
「ああ、あたしの方こそ宜しく」
「宜しくお願いします」
「こちらこそ」
 こうしてアイリスとツグミもロンド=ベルに入った。こうしてまた新たなメンバーがロンド=ベルに参加したのであった。そしてロンド=ベルは地球に向かった。行く先は北海道であった。そこに難民達を降ろし、そしてまた戦場に向かう予定であった。だが彼等の予定とは変えられる為にある。戦いの神のよって。それを知るのもまた戦いの神のみであり彼等は知らなかった。だがそれを知る時が来ようとしていた。


正義の使者ガイヤー     完




                                2005・3・31




PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル