シュウ、再び
「サフィーネ」
 あの神殿の一室で紫の髪をしたあの男が赤い髪の女に声をかけていた。
「はい」
 その女はそれに答えた。整った顔に異常に露出の高い服を身に纏っている。一見すると高貴な雰囲気が漂うがすぐにそれは何かしら危険な香りに変わる。そうした妙な雰囲気を持つ女であった。
「ラングランとシュテドニアスの戦いはどうなっていますか」
「はい」
 彼女はそれを受けて話しはじめた。
「既に戦局は決しています。ラングラン軍はシュテドニアス軍を国境にまで追い詰めています」
「やはり。戦力差は如何ともし難かったようですね」
「それにシュテドニアス軍内部の分裂もあるようですわ」
「ほう」
 紫の髪の男はそれを聞いて興味深そうに声をあげた。
「ロボトニー元帥が更迭されたのは御存知でしょうか」
「そうらしいですね、ゾラウシャルド大統領との対立の結果だとか」
「はい、その結果軍では強硬派が実験を握りました。その代表がラセツ大佐です」
「ラセツ?ああ、あの時の」
 彼はそれを聞いて何かを思い出したように呟いた。
「彼がですか。そしてどうなりましたか」
「前線に戦力を集結させております。ラングランと決戦を挑むつもりのようです」
「それはまた随分強気ですね。戦力はあるのですか、今のシュテドニアスに」
「国内に残っている全ての戦力を動員するようです。その中には変わった魔装機もあります」
「変わった魔装機」
「はい。何でもバイラヴァというようです。それで今の戦局を挽回するつもりのようです」
「シュテドニアスも後には引けないようですね。しかし流れはもう決まっています」
「はい」
「時が来ました。サフィーネ」
 彼はここであらためて彼女の名を呼んだ。
「あれの準備はもう整っておりますか」
「何時でも」
 彼女は妖艶に微笑んでそう答えた。紫の男もそれを受けて笑った。
「ならばよいです。では行きましょう」
「はい」
「モニカもね。宜しいですか」
「・・・・・・わかりました」
 彼女はその名が出ると一瞬言葉を詰まらせた。だが心の中にある感情を押し殺してそれに応えた。男はそれを知ってか知らずか彼女に対してまた言った。
「それでは行きますよ」
「はい」
 二人は部屋を後にした。そして何処かへと姿を消したのであった。

 マサキ達はラングランとシュテドニアスの境に来ていた。そこにシュテドニアスの最後の防衛ラインがあるのだ。彼等はそこに向かって進撃していたのだ。
「さて、と。そろそろだな」
 軍の先頭には魔装機やオーラバトラーがいた。彼等は軍の先陣を務めていたのだ。
「シュテドニアス軍が出て来るぜ。皆用意はいいか」
 マサキが他の者に対してそう問うた。その横にはヴァルシオーネがいた。
「何時でもいいよ、腕が鳴るねえ」
「リューネは何時でもそう言うな」
「そうかなあ。あたしはそうは思わないけれど」
「いや、前にも言ってたぜ。まあそれはいいや」
 マサキはここで視線を前に戻した。
「それよりも・・・・・・来るぜ」
「ああ、わかってるよ」
 リューネはそれに頷いた。そして彼女も前を見据えた。
「皆、行くよ」
「了解」
 魔装機とオーラバトラー、そしてゴーショーグンはそれぞれ散開した。そして敵に向かう。その後方にはグラン=ガランとゴラオンがいた。二隻の戦艦も戦闘態勢に入っていた。
 シュテドニアスの魔装機が来た。彼等は空を飛びサイバスター達に迫る。だがここでサイバスターがファミリアを放った。
「クロ、シロ、行け!」
「あいよ、マサキ」
「おいら達に任せとくニャ」
 二つのファミリアがまず敵を一機撃墜した。それを合図にラングラン軍は一斉に攻撃を開始した。だがシュテドニアス軍は数を頼んで彼等に迫る。だがここでオーラバトラーが前で出て来た。
「やるかよっ!」
「いっけぇぇぇぇぇっ!」
 チャムが叫ぶ。ショウのビルバインは抜いた剣を真一文字に振り下ろした。それでシュテドニアスの魔装機を両断した。
「うわああああああっ!」
 両断されながらもパイロットは何とか脱出した。そして墜落する機体から逃げる。彼は何とかそこから逃げ出すことに成功した。
「助かったみたいだな」
 ショウはそれを見て少し安堵した顔になった。
「やっぱり死んじゃうと後味悪いもんね」
「ああ」
 チャムの言葉に頷いた。
「戦争だけれどな。それでも死ぬより死なない方がいいさ」
「うん、そうだね」
「ヘッ、そんな悠長なこと言ってる場合じゃねえぜ、ショウ」
 だがここで隣に来たトッドがそう言った。
「また来るぜ、敵に情をかけるよりこっちが生き残るのを優先させな」
「トッド」
「トッドの言う通りよ、ショウ」
 ここでマーベル達もやって来た。
「今は敵を倒すことだけを考えましょう、戦争なんだから」
「わかってる」
 ショウはそれに答えた。そして敵をまた一機撃墜した。今度はオーラショットであった。
「これでどうだ」
「そうよ、それでいいの」
 マーベルはそれを見て満足したように頷いた。
「行くわよ」
「ああ」
 マーベルはショウに前に出るように言った。ショウはそれに従い前に出る。そして敵をまた一機葬った。今度は剣で斬り落としたのだ。
「西部の姉ちゃんもやるねえ」
「トッド、貴方もよ」
 だがマーベルはクールにトッドに対してもそう言った。
「敵が怯んだわ、今がチャンスよ」
「了解、じゃあ行くか」
「ああ」
 オーラバトラー達は前に出た。それに魔装機達も続く。ゴーショーグンもその中にいた。
「真吾、あたし達も行くわよ」
「真打ち登場ってね」
「よし」
 彼はレミーとキリーの言葉を受けて動いた。ゴーショーグンの手にサーベルが宿る。
「ゴースティック!」
 それでもって周りにいるシュテドニアス軍の魔装機を切る。そして前へと出た。
「あのでかいのを先に倒せ!」
 彼等は目標をゴーショーグンに定めた。忽ち数機がやって来た。だが真吾達はそれでも冷静さといつもの調子を捨て去ってはいなかった。
「来たわよ」
「ここは一つ大きいのといきますか」
「よし」
 真吾は頷いた。そしてゴーショーグンの全身にエネルギーを溜めた。
「行け・・・・・・」
 ゴーショーグンからエネルギーが矢の様に放たれる。そしてそれは一斉にその数機の魔装機に向かった。
「ゴーフラッシャーーーーーーッ!」
 それで以って魔装機達を撃ち落とした。それからサイバスター達と合流した。彼等は退くシュテドニアス軍に対してさらに攻撃を加えていった。
 戦いはラングラン軍が優勢であった。彼等は先陣のみでシュテドニアス軍の主力部隊を相手にし、十二分に戦っていた。だがここでシュテドニアス軍も反撃に出た。
「おっと!」
 マサキは地上からの攻撃をかわした。そして下にいる敵に目をやった。
「チッ、またあのデカブツがいるぜ」
 見ればそこには移動要塞がいた。攻撃はその要塞からのものであった。それも一両ではなかった。
 何両もの移動要塞がそこにいた。彼等は陣を組みラングラン軍に対して攻撃を仕掛けていた。それを受けてまず彼等は移動要塞の射程外にまで退いた。その間にシュテドニアス軍も退いていた。
「さて、どうするかだな」
 マサキは下にいる移動要塞の部隊を見ながら言った。
「合計で七両か。また大勢やって来たな」
「それだけシュテドニアスも必死だということだ」
 ヤンロンは落ち着いた声でそう答えた。
「彼等も後がない。思えば当然のことだな」
「けれどこのままじゃあたし達も進めないよ。どうするの?」
 ミオがここでそう尋ねた。
「何とかしなくちゃいけないのはわかっているけれど」
 テュッティの声は考えるものであった。
「七両もいるとね。やっぱり難しいわ」
「いや、そうでもない」
 ここでタダナオがそう言った。
「奴等の陣を見てくれ」
 彼は他の者に移動要塞の陣を見るように言った。皆それに従い下にいる移動要塞を見下ろした。
「円陣を組んでいるな。一両を中心として」
「ええ」
「互いに一定の距離を置いて。そこに付け目がある」
「付け目!?」
「ああ」
 タダナオはそれに対して頷いて答えた。
「付け目なんだ。まずはそれぞれ周りにいる六両の移動要塞を狙う。魔装機神とヴァルシオーネでな」
「俺達でか」
 マサキがそれを聞いて言った。
「そうだ、そして残る一両は俺がやる。ここは任せてくれ」
「いいのか?」
「何、心配はいらないさ」
 彼はそう答えて不敵に笑った。
「それよりも移動要塞の護衛にさっき退けたシュテドニアスの魔装機がやって来ている。他の魔装機とオーラバトラーはそっちを頼む」
「了解」
「オーラシップの護衛もな。そしてゴーショーグンだが」
「やっと出番といったところか」
「ああ。中央の要塞を頼む。派手にやってくれ」
「了解」
「派手なのは得意だぜ」
 彼等もそれに同意した。これで作戦は決まった。
「じゃあ行くぜ」
「ああ」
「上は頼んだぜ」
「任せときな」
 シモーヌ達がそれに答える。
「だから安心してあのデカブツをやっちゃいな。いいね」
「ああ、わかった」
 魔装機とオーラバトラー達は動きはじめた。まずはサイバスター達が移動要塞に向かった。
「一撃でやるぜ!」
「よし!」
 サイバスターとヴァルシオーネ、そして他の三機の魔装機神、ジェイファー、ゴーショーグンが動いた。彼等はそれぞれの移動要塞に向かって行く。
「行っけええええええっ!」
 マサキが叫ぶ。サイバスターの胸にプラーナが集中される。
 他の機体もであった。その全身に力が篭る。その上ではもう戦いがはじまっていた。
「これでどうだい!」
「火気、金に克ち地を覆え!」
「ロキの息子よ、汝の敵を貪れ!」
「これならどう!?」
 魔装機神はそれぞれの攻撃に入った。そしてそれをそれぞれの前にいる移動要塞に向けて一斉に放った。
「コスモノヴァ!」
「円月殺法!」
「火風青雲剣!」
「フェンリルクラッシュ!」
「カッシーニの間隙!」
 移動要塞が炎に包まれ、氷の牙に襲われる。両断され気を叩きつけられた。そして五つの爆発が起こった。
「よし!」
 見れば中央の移動要塞もであった。ゴーショーグンのゴーフラッシャーにより完全に破壊されてしまっていた。
「残るは」
 タダナオの受け持ちの移動要塞だけであった。彼は移動要塞に照準をあてていた。
「よし、ここだ!」
 彼はハイパーリニアレールガンを放った。それで移動要塞のエンジンを貫いた。急所を貫いたのだ。
 それで移動要塞は終わりであった。動きを止めエンジンが爆発した。そして炎の中に消えていったのであった。
「これで終わりか」
「ああ、どうやらそうみたいだな」
 移動要塞は全て破壊された。そして上空での戦いももう終わっていた。シュテドニアス軍はもう国境の向こうへと撤退してしまっていた。
「これでこの戦いも終わりだな」
「何かあっという間だったな、王都解放からは」
 マサキは少し感慨を込めてそう言った。
「あんたはその頃からの参加だったのな」
「ああ」
 タダナオはマサキにそう答えた。
「いきなりこっちに来たわりにゃ凄い慣れてるよな」
「まあ前からジェガンとかに乗ってたからな。特に焦ることはなかったよ。ただな」
「ただ、何だ?」
「いや、まさかオザワの奴までこっちにいるとはな。これには驚いたよ」
「ああ、あいつか」
 マサキはそれを聞いて頷いて答えた。
「まあここは地上から人を召還することが多いからな。そういうこともあるだろ」
「そういうものか」
「そうさ、まああいつも元気でやってるんだろう。問題はないさ」
「そうだな、今は敵味方だが」
 タダナオはそれを聞いてそう言葉を返した。
「また会うこともあるだろうさ」
「そうだな、だがそれは今だ」
 するとここで声がした。タダナオのよく知るあの声であった。
「噂をすれば!」
 彼は上を見上げた。するとこちらにやって来る一機の魔装機がいた。ジンオウである。
「よう、決着をつけに来てやったぞ」
「オザワ」
「この前の借りを返させてもらうぜ、オザワ」
 モニターに彼の顔が出た。不敵に笑っている。
「ミレーヌちゃんとあのおばさんのどっちが上かってことをな」
「おばさんだと!?」
 タダナオはそれを聞いて激昂した。
「ミンメイさんはおばさんじゃないぞ!」
「じゃあ年増だな」
「年増・・・・・・。御前はどうやらあの人に対して言ってはならないことを言ってしまったようだな」
「それはこっちの台詞だ」
 今度はオザワが激昂した。
「御前はあの時何て言った」
「あの時!?」
「そうだ、ここへ来る直前だ。ミレーヌちゃんをガキだと言ったな」
「ああ、言ったぜ」
 タダナオはおくびもなくそう言葉を返した。
「他にどう言えばいいんだよ」
「ミレーヌちゃんはガキなんかじゃない!」
 彼はここでこう断言した。
「あの歌唱力と美貌が御前にはわからないのか!」
「まだガキだろうが、隙だらけだ!」
「またガキと言ったな!」
「ああ、何度でも言ってやる!」
 売り言葉に買い言葉、二人はそう言葉を返し合った。
「ガキだってな。あんな牛乳の匂いが残ってるのの何処がいいんだ!」
「あれは若さだ!」
 オザワはそう力説した。
「あのミンメイなんかもうそんなものないだろうが!」
「ミンメイさんの魅力はあの成熟にある!」
 タダナオもやはり負けてはいなかった。
「ミレーヌにはそんなものまだないだろうが!」
「それはこれから身に着けるものだ」
 彼はそう反論した。
「だがミンメイはこれからお婆ちゃんになっていくだけだがな」
「貴様・・・・・・」
「やるか」
「そのつもりで来たのだろう」
「フン、その通りだ」
 二人は互いに睨み合った。タダナオはジェイファーを飛び上がらせた。そして対峙する。
「行くぞ」
「受けて立とう」
 そして二人は戦いをはじめた。他の者が助太刀に動く前にタダナオは言った。
「手を出さないでくれよ」
「あ、ああ」
 皆それに従った。あえて周りで見守るだけであった。
「これは俺とこいつの勝負だからな」
「ケリをつけてやるぜ」
 剣を引き抜き斬り合う。彼等は互いに一歩も引かなかった。
 二人が戦いをはじめている間にまた影が来た。今度は異様に巨大な影であった。
「ん!?」
「何だこの禍々しいプラーナは」
 マサキは何かよからぬものが来たのを感じた。すると空に巨大な赤い魔装機が立っていた。何やら長い尾まで持っている。かなり異様なシルエットであった。
「何だあれは」
「バイラヴァという」
 その赤い魔装機から声がした。
「バイラヴァ」
「そうだ、我がシュテドニアスの切り札とも言える魔装機だ。我が国がその総力を挙げて作り上げた究極に魔装機がこのバイラヴァだ」
「バイラヴァ・・・・・・。ヒンドゥーでいう破壊の神シヴァの化身の一つであったな」
「その通り」
 男はティアンの言葉に答えた。
「シュテドニアスの守り神でありラングランを破壊する神なのだ。このラセツ=ノバステと共にな」
「ラセツ」
「確かシュテドニアスの大佐だったな、特殊部隊の」
 ファングがそれを聞いて言った。
「確かゾラウシャルドの腹心だった筈だが」
「ほう、よく知っているな」
 ラセツはそこまで聞いてそう答えた。肯定の言葉であった。
「その通りだ。如何にも私はシュテドニアス軍特殊部隊の者だ」
「それが何故ここに」
「君達の存在が邪魔だからだ」
 彼は周りを取り囲みだしたラングランの魔装機達を見回しながら言った。
「邪魔?」
「そうだ、私の野望にな」
 今度はザッシュに対してそう答えた。
「我がシュテドニアスがこのラ=ギアスの覇権を握る為にはな。ラングランの存在は邪魔でしかないのだ」
「そしてそのラングランにいる俺達こそがその最大の障壁だと言いたいのだな」
「否定はしない」
「クッ」
 マサキはそれを聞いて歯噛みした。
「こうまであからさまに野望を剥き出しにしてくれるとはな」
「隠す必要もないからだ」
 ラセツは冷たい声でそう言い放った。
「君達はどちらにしろここに死ぬのだからな。このバイラヴァによって」
「できるとでも思ってるのかよ、このサイバスターを」
「如何にも」
 しかし彼の態度は変わらなかった。
「このバイラヴァに不可能はないからな」
「へっ、面白え、じゃあやって見せてもらおうじゃねえか」
「フン」
 ラセツは冷たく笑った。そしてバイラヴァから何かを放った。
「ムッ!」
 皆それを見て一斉にバイラヴァから離れた。バイラヴァを中心に黒い瘴気が辺りを支配した。
「フッ、かわしたか。やはりビッグバンウェーブはかわすか」
「当たってたまるかよ」
 マサキはここで彼にそう悪態をついた。
「そんなのでこのサイバスターがやられるとでも思っているのかよ」
「確かにな。それではこれではどうかな」
 剣を抜いた。不自然なまでに巨大な剣であった。魔装機の半分程あった。
「これを受けて無事でいられるかな」
「ラセツさんよお」
 そんな彼にマサキはあえて悪びれた声をかけた。
「そうそうあんたの思い通りにいくと思ったら大間違いだぜ」
「それが上手くいくのだよ、マサキ=アンドー」
「俺の名を」
「サイバスターのパイロット。嫌でも名前は知っている」
 彼はそう言葉を返した。
「君には我が軍も随分悩まされたものだ」
「侵略してきたのはそっちだろうが、勝手なこと言ってるんじゃねえ」
「確かにな。だがそれは我々にとっては当然のことだ」
「何!?」
 マサキはそれを聞いて眉を上げた。
「それはどういう意味だ」
「ラングランはかってこのラ=ギアスの約八割を占めていた」
 ラセツはここでラ=ギアスの歴史について語りはじめた。
「そして今もこのラ=ギアスにおいて第一の大国だ。それが脅威と言わずして何というのだ」
「だからといって侵略を正当化していいのかよ」
「厳密に言うと我々のとった行動は侵略ではない」
「何!?」
「自衛の為の戦争だ」
 そしてそう言い切った。
「自衛だと、馬鹿を言うのも大概にしやがれ」
 マサキはそれを聞いて激昂した。
「御前等のやったことの何処が自衛なんだ」
「敵を倒すのだ。やられる前にな」
「そんな手前勝手な論理が通用するか!」
「する」
 しかしラセツも負けてはいなかった。そう反論した。
「勝利者ならばな。歴史とはそういうものだ」
「手前!」
「そして今私が勝利者となる。その意味はわかるな」
 そう言うと凄みのある笑みを浮かべた。そしてマサキ達を見回した。
「さらばだ、ラングランの者達よ。貴様等の名は歴史に永遠に刻まれるだろう。敗北者としてな」
「敗北者ですか」
 それに応える者がいた。
「そう、敗北者だ」
 ラセツはそれに返した。だがここで彼は奢っていた。バイラヴァの性能に。それが故にその声の主が誰なのか確かめることを怠っていた。そしてその声の主が今現われた。
「それは貴方のことですね。ラセツ=ノバステ」
「それはどういう意味だ」
「今わかりますよ」
 目の前に黒い光が現われた。そしてその中から青いマシンが姿を現わした。背中に光を背負う角張った禍々しさと神々しさを共に漂わせた威圧的な外見のマシンであった。
「馬鹿な、あれは」
 ヤンロンがそのマシンを見て声をあげた。
「あの時に滅んだ筈」
 テュッティもであった。彼女の声は震えていた。
「ちょっと、これどういうことよ!」
 リューネが叫ぶ。彼女達は今目の前に現われた青いマシンの事をよく知っていたのだ。
「まさか生きていやがったとはな」
 マサキは青いマシンを見据えて言った。
「シュウ、これは一体どういうことなんだ。説明してもらおうか」
「おや、マサキではありませんか」
 その紫の髪の男はそれに応えて顔を彼に向けた。彼がシュウ=シラカワであった。本来の名をクリストフ=グラン=マクゾート、ラングランの王族でもある天才科学者である。グランゾンの開発者兼パイロットでありその真の姿であるネオ=グランゾンのパイロットでもある。
「お久し振りですね。元気そうで何よりです」
 彼は微笑んで彼にそう答えた。
「やはりここにいましたか」
「どうやら何もかも知っているみてえだな」
「何をですか」
 シュウはここであえてとぼけてみせた。それはマサキにもわかった。
「とぼけても無駄だぜ」
「おやおや」
「また何か企んでいるんだろうがそうはいかねえぜ」
「マサキ、貴方は変わりませんね」
「何!?」
「もう少し落ち着かれてはどうですか。まさか私が今ここで貴方達を敵に回すとでも思っているのですか?」
「何しらばっくれていやがる。あの時のこと忘れたとは言わせねえぞ」
「あの時はあの時です」
 シュウはしれっとした態度でそれに答えた。
「今私は少なくとも貴方達と戦う為にここに来たのではありません」
「何っ!?」
「私が今ここに来た目的は・・・・・・」
 だがここでラセツが話に入って来た。
「待て!」
「ん!?」
 シュウはそれに気付いて彼に顔を向けた。
「おや、貴方は」
「グランゾン・・・・・・シュウ=シラカワ、いやクリストフ=グラン=マクゾートだな」
「懐かしい名前ですね」
 シュウはラセツの言葉にそう嘯いてみせた。
「一体何の御用ですか」
「それはこちらの台詞だ」
 ラセツは彼を見据えてそう言った。
「何の目的でここに来た」
「貴方には関係のないことです」
「どういうことだ」
「少なくともシュテドニアスにはね。所詮貴方達はこの話では部外者に過ぎないのですよ」
「部外者だと!?」
「ええ」
 シュウは答えた。
「私がここに来た話にはね。それに貴方は今ここでいていいのですか?」
「どういうことだ」
「シュテドニアスで何が起こっているか御存知ないのですか」
「シュテドニアスで」
「はい。たった今ゾラウシャルド大統領の弾劾裁判が決定しましたよ。今までの強引なやり方が問題となりましてね」
「何っ!?」
 流石のラセツもそれを聞いて驚きの声をあげた。
「出まかせを言うな」
「私が出まかせを言うような人間だとも?」
 シュウはそれにそう言葉を返した。そうであった。シュウは決して嘘や出まかせの類を言うような男ではないのだ。それは広く知られていた。例え背徳者であってもだ。
「クッ・・・・・・」
「当然貴方も御自身がどうなるかおわかりの筈です。もう戦争なぞしている場合ではないでしょう」
「だからといって私が諦めるとでも思っているのか」
「まさか」
「そうだろう、その通りだ」
 ラセツはニヤリと笑ってそう言葉を返した。凄みのある笑みとなっていた。
「例え大統領の後ろ楯がなくとも今の私にはこれがある」
「そのオモチャがですか?」
「馬鹿を言うな」
 ラセツはそう言ってシュウを睨み返した。
「このバイラヴァを馬鹿にすることは許さんぞ」
「バイラヴァ、ですか」
 シュウはその名を聞いて何か言いたげに呟いた。
「破壊神シヴァの仮の姿の一つの名でしたね、確か」
「如何にも」
「それでしたら私にも考えがあります。何故なら」
 シュウの顔に凄みが走った。先程までの涼しげな微笑が消えていた。
「このネオ=グランゾンも破壊神シヴァが本質なのですからね。フフフフフ」
「何が言いたい」
「何が?そのままですよ」
 シュウは涼しげな微笑を戻してそう言葉を返した。
「破壊神はこの世に一つで充分なのですよ。そう」
 言葉を続けた。
「一つだけね」
「まさか」
 それを聞いたウェンディが眉を顰めさせた。彼女は今グラン=ガランの艦橋にいたのだ。
「ウェンディ殿、どうかなされたのですか?」
 そこにシーラが声をかけた。
「いえ、何も」
 だが彼女は言葉を濁した。言うわけにはいかなかったからだ。
(破壊神が一つということは)
 彼女はネオ=グランゾンを見ながら心の中で呟いていた。その顔からは血の気が引いていた。
(クリストフ、貴方はまさかあの神とは既に・・・・・・)
 しかしそれは彼女の憶測に過ぎないことはわかっていた。ウェンディはただことの成り行きを見守るしかできなかったのであった。シュウはその間にも言葉を続ける。
「シヴァの本質は破壊だけではないのですよ」
「何が言いたい」
「破壊の後には何がありますか」
 シュウはラセツに問うた。
「・・・・・・・・・」
 だがラセツは答えられなかった。シュウが自分に対して何を言いたいのかわからなかったのだ。
「おわかりにならないようですね。貴方はその程度だということです」
「何!」
 ラセツはそれを聞いて激昂した。しかしシュウは相変わらずクールなままであった。
「貴方は軍人でしかありません。それも悪い意味で。だから破壊の後には何があるのかおわかりになられないのですよ」
「まだ言うか」
「はい。破壊の後にあるのは」
 シュウは微笑んだまま言った。
「創造と調和です。このネオ=グランゾンの力はシヴァそのものであるならば」
「それ以上言うことは許さん!」
 プライドを傷つけられたと感じたラセツは剣を振り下ろした。そしてそれでネオ=グランゾンを斬ろうとした。だがそれはあっけなくかわされてしまった。
「おやおや、無粋な」
 シュウはそれをかわして言った。
「しかし私に剣を向けた御礼はしなければなりませんね」
 彼はそう言うと間合いを離した。そして胸に黒いものを集中させる。
「縮退砲・・・・・・発射!」
「あれを使うのか!」
 マサキはそれを見て思わずそう叫んだ。彼はかってネオ=グランゾンと戦ってきた。だから縮退砲の力もよく知っているのであった。
 それは黒い巨大なブラックホールであった。グランゾンの武器でるブラックホール=クラスターのそれよりも遥かに巨大で禍々しかった。それは将に黒い破壊そのものであった。
 それがバイラヴァを直撃した。そしてラセツはその中にバイラヴァと共に消え去ってしまった。後には何も残ってはいなかった。
「愚かな。所詮はその程度だったようですね」
 シュウはラセツがつい先程までいた空間を見てそう呟いた。そこには何の感情もなかった。
「シュウ」
 マサキがここで彼に対して言った。
「それで御前の用事ってのは何なんだ」
「おお、忘れていました。それですが」
「ああ」
「マサキ、今地上で何が起こっているか御存知ですか」
「地上で!?」
「はい」
 シュウは彼に対して頷いた。
「今地上、そして宇宙は多くの勢力により争いが行われています」
「どうやらそうらしいな」
「その中にはこの地球を滅ぼそうとしている者達もおります」
「恐竜帝国とかミケーネとかだろ。あとバルマーもまた来ているらしいな」
「はい」
「俺達にそいつ等と戦って欲しいっていうんだろ、御前は」
「ご名答」
 シュウはマサキにそう言葉を返した。
「相変わらず勘がいいですね、その通りです」
「ヘッ、お世辞はいらねえぜ。背中が痒くならあ」
「ふふふ」
「それでどういうつもりなんだ、御前が僕達の前に姿を現わすなんて」
 ヤンロンが彼に尋ねた。
「何を考えているんだ」
「ですから地上に行って頂きたいと」
「あれ、確か魔装機って地上に介入できないんじゃなかったっけ?」
「普通はね」
 テュッティはミオにそう話した。
「けれど事情にもよるわ。クリストフ、貴方がそう言うからにはそれなりの事情があるのでしょう」
「ええ」
 シュウはテュッティに対してそう頷いた。
「丁度喧嘩も終わったようですし」
 見ればタダナオとオザワの戦いも終わっていた。結局決着はつかなかった。
「チッ、今日のところはこれでお預けだぜ」
「ああ、またの機会だな」
「お待ちなさい」
 シュウはここで飛び去ろうとするオザワのジンオウを呼び止めた。
「貴方にもご同行願いますよ」
「あれっ、あんた」
 オザワはその声を聞いて顔を向けた。
「知ってるのか?」
「ああ」
 彼はタダナオにそう答えた。
「僕をここに召還した人だよ。何でここに?」
「事情がありましてね」
 シュウは彼にそう答えた。
「貴方にも地上に行って頂きたいのですが」
「地上に、ねえ」
「如何ですか。といっても残念ながら選択権はないのですが」
「わかってるさ」
 彼はシュウにそう答えた。
「こちは呼ばれた身だからね。呼び出しにはまた従うしかないさ」
「ご理解頂き感謝します」
「それで何時地上へ行くんだい?こっちはもう用意は出来ているけれど」
「暫しお待ち下さい」
 シュウはここで周りにいる者に対しそう述べた。
「今地上への道を開けますので」
 ネオ=グランゾンの両手を天に掲げさせた。そして前に巨大な黒い穴を生じさせた。
「あれは・・・・・・」
「オーラロード!?」
 それを見たショウが思わず声をあげた。
「原理的には同じです。ただこれはこのネオ=グランゾンの力により作り上げたものですが」
「相変わらずとんでもねえ力だな」
「ふふふ」
 シュウはあの涼しげな微笑みで笑った。
「それでは行きますか」
「待て」
 だがここでヤンロンが止めた。
「フェイル殿下はどう考えておられるのだ」
「私なら構わない」
 ここで各魔装機のモニターにフェイルが姿を現わした。
「殿下」
「シュテドニアスの脅威もこれで消えたしな。今あちらから講和の申し出があった」
「そうなのですか」
「はい。ですからこちらは心配いりません。今ある戦力で何があっても対処が可能です」
 シーラとエレにそう答えた。
「それよりもだ」
 彼はここでマサキ達に話を戻した。
「クリストフ・・・・・・いやシュウの言葉は本当だ」
「貴方もどうやら感じておられるようですね」
「ああ。今地上では大変なことが起ころうとしている。それは地上だけには留まらない」
「まさか」
「そのまさかだ。宇宙にも、そしてこのラ=ギアスにもその影響が及ぶ。それは何としても止めなければならない」
「それは一体何なのです!?ラ=ギアスにまで影響を及ぼすなんて」
「すぐにわかることですよ、それは」
 ザッシュにシュウがそう答えた。
「すぐにね」
「相変わらず勿体ぶってるわね」
「一度死んでもそれは変わらないようだな」
 ベッキーとアハマドがそれを見て言った。
「まあいいんじゃないですか。人それぞれだし」
「あんたが言うと説得力あるね」
「そうでしょうか」
 いつもと変わらないデメクサにシモーヌは少し呆れていた。シュウはその間にも言葉を続ける。
「さて、フェイル殿下からの許可は頂きました」
「かなり強引なような気もするがな」
「マサキが言っても説得力ないよ」
「リューネだったそうだろうが」
「えっ、そうかなあ」
「話は置いておいてだ」
 ヤンロンが二人を制止して言った。
「それでは行こう。だがクリストフ」
「何でしょうか」
「僕は御前を信用したわけじゃない。それはわかっているな」
「ええ、勿論」
 シュウはそれに答えた。
「だが今はそれよりも地上の、そしてラ=ギアスのことの方が重要だ。これは魔装機のパイロットとしての義務だ」
「それでも構いませんよ。さあ、道は開いております」
「ああ」
「行かれなさい。そして貴方達の目的を果たされるのです」
「言われなくてもな。行くぜ、皆」
「おう!」
 皆マサキの言葉に頷いた。そしてネオ=グランゾンの作った道に入った。オーラバトラーやオーラシップも入った。実に巨大な道であった。
「じゃあ俺達も行くか」
「こんなの使わなくてもビムラーで戻れるんだけれど」
「まあこれはお約束ってことだ。あっちにはケン太もいるしな」
「そうだな。元気にしているかな」
「案外OVAに叱られてたりして」
「それはいつものこと」
 ゴーショーグンの面々も入った。こうして魔装機とオーラバトラー、そしてゴーショーグン達が地上に向かった。だがまだ二人残っていた。
「貴方達は行かれないのですか?」
「いや」
 そこにはタダナオとオザワがいた。彼等はまだ残っていたのです。
「当然貴方達にも行って頂きたいのですが」
「それはわかっているさ。ただな」
「ただ・・・・・・何でしょうか」
「シュウ=シラカワだったな」
「ええ」
 シュウはタダナオの問いに頷いた。
「あんたが何者かはどうでもいい。それに悪いことを考えているわけでもないようだしな」
「それはどうでしょうか」
 だがシュウはここであえてぼかした。
「冗談はいい。ただな、気になるんだ」
「何がですか」
「あんたがオザワを召還した理由だよ。どうしてここに呼んだんだ?」
「それだ」
 オザワも話に入って来た。
「タダナオもそうじゃないのか。貴方が呼んだとしか思えないが」
「その通りです」
 シュウはそれに答えた。
「貴方達をこのラ=ギアスに召還したのは私です。それは否定しません」
「何故だ」
「何故僕達をここに」
「貴方達もマサキと同じだからですよ」
「マサキ達と!?」
「はい」
 シュウは答えて頷いた。
「だから貴方達は魔装機のパイロットとなったのです。私にはそれがわかっていました」
「そうだったのか」
「そして貴方達にはやってもらいたいことがあります。それこそが私が貴方達をここに召還した理由です。それはもうおわかりでしょう」
「ああ」
 二人はそれに頷いた。
「フェイル殿下」
 彼はここでフェイルに声をかけた。
「オザワさんのジンオウはもうかなりのダメージを受けております。おそらく地上への道を通過するのには耐えられないでしょう」
「だろうな」
 それはフェイルにもわかっていた。彼はそれに頷いた。
「別の魔装機を用意して頂きたいのですが。宜しいでしょうか」
「といっても生憎ウェンディも向こうに行ってしまったしな。何がいいか」
「じゃああたしが選んであげる」
 ここでセニアが出て来た。
「おお、貴女が」
 シュウは彼女の姿を認めて声を出した。
「殿下がですか!?」
 タダナオもであった。だが彼の声はシュウのそれとは違いいささか戸惑っていた。
「そうよ。何か不都合でも?」
「い、いえ」
 タダナオはセニアにそう言われ慌てて首を横に振った。
「滅相もありません」
「ならいいけど。オザワさんだったわね」
「はい」
 オザワは動じてはいなかった。セニアを見ても何とも思ってはいないようだ。おそらくタイプではないのだろう。
「今何機か余ってるんだけれど。どんなのがいいかしら」
「そうですね」
 彼はそう尋ねられて考え込んだ。それから言った。
「機動力があるのがいいですね。そっちの方が戦い易いですし」
「わかったわ。じゃあこれね」
 彼女はここで一機の魔装機の写真をモニターに映し出してきた。それは黄色い鋭角的なシルエットの魔装機であった。
「これは」
「ギオラストっていうの。風の魔装機の一つよ」
「風のですか」
「ええ。ジンオウは火の魔装機だったけれどこれならどうかしら。悪くはないと思うけれど」
「ううむ」
 彼はセニアにそう言われまた考え込んだ。だが今度はすぐに答えた。
「わかりました。それでお願いします」
「ええ、わかったわ。それじゃあ兄さん」
 セニアはフェイルに声をかけた。
「あたしも一緒に行くわ。いいでしょ」
「セニアもか!?」
 彼はそれを聞いていささか驚いたような声を出した。
「ええ。ウェンディさんだけだと整備とかが大変でしょ。だから行きたいのよ」
「しかし」
 だがフェイルは妹が地上に行くのにはあまり賛成ではなかった。彼は言葉を濁していた。
「地上の戦いは激しい。それはわかっているね」
「勿論」
 彼女は笑顔でそれに頷いた。
「わかっててお願いしてるのよ。ねえ、いいでしょ」
「ううむ」
「フェイル殿下」
 ここでシュウが彼に対して言った。
「セニア王女も行かせてあげてはどうですか」
「シュウ」
「セニア王女は魔装機にとって必要な方です。行かせてあげるべきだと思います」
「しかし」
「兄さん」
 セニアがまた言った。
「クリストフ・・・・・・じゃなかったシュウもそう言ってることだしさ。いいじゃない」
「だが」
「大丈夫だって。あたしだって戦えるし。それにあたしを狙う奴なんてそうそういないしね」
「そういう問題ではないのだが」
 フェイルの顔は晴れなかった。実はセニアには王位継承権がない。彼女にはあまり魔力が備わっておらず王位継承権から外れているのだ。ラングラン王になるには血筋だけでなくそれなり以上の魔力も必要とされているのである。
「何なら護衛を送りましょうか」
「護衛!?」
「はい」
 シュウはまたフェイルにそう言った。
「サフィーネ」
「はい」
 ここで赤い魔装機が姿を現わした。かなり禍々しい姿であった。
「彼女か」
「はい」
「お久し振りですわね、フェイル殿下」
 その赤い魔装機に乗る女がくすりと笑って言った。シュウの部下であるサフィーネ=グレイスであった。
「まさかここで会うとはな」
「あら、お嫌ですの?」
 サフィーネはフェイルの反応を楽しむようにして言った。
「いや、そうではないが」
「彼女のことなら御心配なく」
 シュウは微笑んでフェイルに対してそう言った。
「私が保障致しますので」
「わかった」
 フェイルもそれを聞いて渋々ならがそれを認めた。
「それではお願いしたい。いいかな」
「喜んで」
 サフィーネは笑顔でそれに応えた。これでセニアが地上に行くことが決まった。
「それでセニアは何か魔装機に乗るつもりなのか」
「どうしようかしら」
「まだ決めていないのか」
「ちょっとね。考えたけどあたしに合うのがなくて」
「それならノルス=レイなぞどうでしょうか」
「ノルス=レイ」
「はい」
 シュウがまた頷いた。
「あれなら問題はないでしょう。セニア王女にも合っていますし」
「合っているのか」
「私はそう思いますが」
 シュウはそう答えた。
「モニカ王女とセニア王女は双子なのですからね」
「確かにな」
 フェイルは頷いた。だがここで言った。
「モニカは元気か」
「はい」
 シュウは答えた。
「御心配なく」
「そうか、ならいい」
 フェイルもそれを聞いて安心した声を出した。
「別に卿を疑っているわけではないがな。不愉快に感じたのなら申し訳ない」
「いえいえ」
 フェイルもシュウがどんな男かは知っていた。決して女性に害を及ぼすような男ではない。それをわかったうえで確かめたのである。
「そしてモニカはどうなるのだ」
「暫く私の側でいてもらいたいのです」
「生憎ね」
「おや」
 サフィーネがそれを聞いて小声で舌打ちした。しかしそれを聞いたのはタダナオだけであった。
「私の方でも色々とありましてね」
「そうか」
「まあフェイル王子はわかっておられるかも知れませんがね」
「?何をですか、シュウ様」
「それはおいおいわかることです」
 彼はサフィーネにそう答えた。
「そうですね、チカ」
「え、ええ御主人様」
 チカは突然そう言われ慌てて頷いた。しかしその理由がわかったのはフェイルだけであった。
「ではそれはそちらでやってくれ」
「はい」
「モニカには何もないと思うがな」
「それは御安心下さい。さて」
 彼はここでタダナオ、オザワ、そしてサフィーネに顔を向けた。オザワはもうギオラストに乗り込んでいた。シュウは彼等に対して言った。
「それでは行きますよ。いいですか」
「ああ、何時でもいいぜ」
「どうぞ」
「シュウ様の命じられるままに」
 三人はそれぞれ答えた。これで全てが決まった。そして彼等も道に入った。
「さあ、行きなさい。貴方達の使命を果たす為に」
「ああ」
 こうして三人は地上へと向かった。彼等がそこを通り抜けると道は閉じられた。
「これでよし、です」
「クリストフ」
 フェイルは彼だけになるとあらためて彼の名を呼んだ。今度は本来の名で、であった。
「何ですか」
 シュウはそれを受けて彼に顔を向けた。やはり涼しげな笑みのままである。
「変わったな。いや、本来の姿に戻ったというべきか」
「そうですかね」
「誤魔化さなくていい。今ここでやりとりをしているのは私と卿だけだ」
「私もいるんですけれどね」
 ここでチカが割って入ったがシュウが彼女に対して言った。
「チカ、貴女は大人しくしていなさい。いいですね」
「わかりました」
 彼女は渋々ながらそれに頷いてシュウの影の中に消えた。それから二人はまた話をはじめた。
「一体何を考えているのだ」
「御存知だと思いますが」
「そうだな」
 フェイルにはよくわかっていた。ここでもまた頷いた。
「それではもうすぐ行くのだな」
「はい」
 彼は応えた。
「私に命令できるのは・・・・・・」
 彼は言葉を続けた。
「私だけですから。それを確かなものにするだけです」
「そうか、では行くがいい。軍には私から言っておこう」
「申し訳ありませんね」
「いい。だがそれだけが目的ではないだろう」
「ええ」
 彼はそれも認めた。紫の目の光が不思議なものとなった。
「それは私の仕事のほんの一つに過ぎませんから」
「そうか、では多くは言えないが」
 フェイルはここで言った。
「健闘を祈る。それだけだ」
「有り難うございます。それでは」
「ああ」
 ネオ=グランゾンは何処かへ姿を消した。後には何も残ってはいなかった。黒い光もそこにはなかった。
「クリストフ、掴むのだ。卿の宝を」
 フェイルは消えたモニターの向こうでそう言った。そして彼も姿を消した。
 こうしてラ=ギアスでの戦いはひとまずは幕を降ろした。戦士達は今度は地上へと戦場を移すのであった。それはあらたなる死闘のはじまりであった。


第十六話    完



                                   2005・4・5

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