エヴァ再起動
「勇、日本に入ったわ」
 三機のアンチボディは日本に入った今までは下に青い海が拡がっていたが今度は緑の大地に変わっていた。カナンはそれを見て勇に対して言ったのだ。
「ああ、やっとだな」
 勇はそれを受けて頷いた。顔は前を見据えている。
「日本に着いたけれどこれからどうするの?」
「そう、そのヒメって娘に遭うということだが」
 ヒギンズも彼に対してそう問うてきた。勇はそれに答えた。
「とりあえずあの娘が向かっている場所はわかっているつもりだ」
「何処なの?」
「第二東京市だ」
「第二東京市」
「ああ」
 勇はそれに答えた。
「あの娘はそこに向かっている筈だ」
「どうしてそう言えるんだ?」
「心さ」
 勇はヒギンズにそう答えた。
「心?」
「ああ、感じるんだ。彼女がそこに向かっているって。だから俺も行く」
「そうなの」
 カナンはそれを聞いて呟いた。
「呆れたか?」
「いえ」
 だがそれを否定するつもりはなかった。呆れたわけでもなかった。
「わかるから。それに最後まで一緒に行くって決めたし」
「有り難う。それはヒギンズもか?」
「ああ」
 ヒギンズは静かにそう答えた。
「一緒に行くよ、何処までもな」
「済まない」
「お礼はいいわ。それより急ぎましょう」
「ああ、わかってる」
 勇はそれに頷いた。
「急ごう、何時追手が来るかわからないからな」
「ええ」
 こうして三機のアンチボディは進んだ。ただひたすら緑の大地の上を飛んでいた。

 第二東京市の地下深くに彼女はいた。白衣を着た金色の髪の女性であった。
「シュウ=シラカワ博士」
 彼女はふと呟いた。
「貴方は何故あの時私を助けたのか今わかった気がするわ」
 彼女はそう呟きながら廊下を進んでいた。そしてドアを開けてその中に入った。ドアは左右に開いた。自動ドアであった。
 彼女はその時のことを思い出していた。あの最後の戦いの時だ。
「あの時私は死のうとした。けれど貴方は私を止めたわね」
 彼女はまた呟いた。
「その時は貴方が憎かった。そしてあの娘も・・・・・・」
 声に後悔と自責が滲んでいた。そう呟きながら唇を噛んでいた。
「けれどあの戦いが終わってそして今ここに来てわかった」
 今まで俯いていた顔を上げた。そして前を見た。
「私はあの時に死んではいけなかったのよ。そして今やるべきことがある。だったら行くわ」
「リツ子、久し振りね」
 ここで横から大人の女の声がした。赤い服を着た群青の髪の女がそこに立っていた。整った顔立ちに色気を醸し出している女であった。
「ええ、ミサト」
 彼女、赤木リツ子も美しい女であった。その美しい顔をその赤い服の女に見せて微笑んだ。
「まさかまたここに集まるなんて思わなかったわね」
「ええ」
 葛城ミサトはそれに頷いた。そして言った。
「皆もね。碇司令だけはおられないみたいだけれど」
「亡くなられたからね、何処かで」
「そうね」
 ミサトはそれを聞いて少し寂しい顔をした。
「最後まで素直じゃなかったみたいだkれど」
「それもあの人らしいわ」
 リツ子は一言そう答えた。
「もういない人のことを言ってもはじまらないけれどね」
「吹っ切れたわね」
 ミサトはそれを聞いてそう言った。
「いい女になったじゃない」
「貴女はどうなの?」
「私?」
「ええ」
 彼女がここで逆にミサトに対して尋ねてきた。
「私から見ると貴女の方がいい女になったと思うけれど」
「よしてよ」
 ミサトはそれを聞いて頬を赤らめて笑った。
「彼は生きていたんだし」
「嘘」
「いや、それが本当なんだな、これが」
 ここで無精髭を生やした男が出て来た。
「生憎ね。シナリオは完全に破綻していたらしいな」
「そうだったの」
「そうさ。だからあんたも生きているんだろう、今」
 その男加持リュウジはミサトに対してそう言った。
「だからこの基地もまだあるんだろうな。そうでしょう、司令」
「ああ」
 司令の席には白い髪の初老の男が座っていた冬月コウゾウであった。
「どういうわけかはわからないがな。少なくとも君達がここにいる。そして彼等も」
「はい」
 ここで三人の制服を来た若者が声をあげた。日向マコト、伊吹マヤ、青葉シゲルの三人であった。三人は白いネルフの制服を着ている。
「お久し振りです、葛城三佐、赤木博士」
 マコトがまず二人に挨拶をした。
「お元気そうで何よりです」
「君達もね」
 ミサトは微笑んで三人にそう返した。
「先輩ご無事だったんですね」
 マヤがリツ子に笑顔でそう声をかけてきた。
「心配してたんですよ」
「有り難う」
 リツ子は微笑んで彼女にそう言葉を返した。
「心配してくれていたのね」
「はい」
 マヤは笑顔でそれに応えた。
「あの戦いの後お姿が見えなかったから。どうされたんだろうと思ってました」
「色々とあったけれどね。ちゃんと生きているわよ。ほら」
 リツ子はここで白衣の下にある脚を見せた。黒いストッキングに覆われた綺麗な脚であった。
「ちゃんと脚もあるでしょ」
「ええ」
「ご本人なんですね、よかった」
「シゲル君」
 リツ子は彼の声を聞いてはっとした。
「貴方の声は」
「どうかしたんですか?」
「いえ」
 だがリツ子は最後まで言わなかった。それを自ら途中で遮った。
「何でもないわ」
「そうですか」
「それよりも」
 再会を喜び合うのは終わったかのようにリツ子は顔と声を引き締めさせた。
「今ここに集まってもらった理由はわかってるわね」
「ええ」
 皆それに頷いた。
「お話は聞いています」
「まさかとは思いますが」
「残念だがまさかではないのだ」
 冬月は彼等に対してそう答えた。
「私も最初聞いた時には信じられなかったがな。だが事実だ」
「司令、彼はあの時確かに死にましたね」
「ああ」
 彼はミサトの問いにそう答えた。
「確かにな。アダムの前で」
「それが何故」
「わからない。だが生きているということが問題なのはわかるだろう」
「はい」
 ミサトは真剣な顔でそれに頷いた。
「それはわかっています」
「彼が生きているということは我々の仕事がまだ終わっていなかったということだ。人類補完計画は既に破棄されているとしてもだ」
 彼はまだ言葉を続けた。
「そして我々の仕事は他にもできたのだ」
「他にも」
「ああ」
 加持がミサトに対して頷いた。
「木原マサキという男を知っているか」
「木原マサキ!?」
「ああ」
「聞いたことがあるわ」
 リツ子がここで言った。
「天才科学者として名を馳せていたわね。ロボット工学だけでなく医学や科学、そして錬金術にも通じた天才だったって聞いているわ」
「そうだ」
 冬月はその説明に対して頷いた。
「やはり知っていたか」
「はい。ですがそれは十五年も前の話です」
「そうなの?」
「ええ、彼は十五年前に行方不明になっているわ。原因は不明だけれど」
「そう、一説には死んだと言われている。ところがだ」
 加持がここで言った。
「彼はある野心を持っていた。そしてそれが今動き出そうとしているのだ」
「死んでいるのに!?」
「らしいな」
 加持はミサトに答えた。
「彼は世界を崩壊させるつもりだったらしいな」
「世界を」
「ええ。何故それを考えているかはわからないわ。何でも冥府の王になると言っていたらしいけれど」
「冥府の王!?あの地獄の奥底にいる魔王かしら」
「どうやらそうらしいな」
 冬月はそれに答えた。ダンテの神曲地獄篇に一人の魔王が登場する。地獄の奥底にいる巨大な姿と三つの顔の持ち主でありそこから地獄を統括しているというのだ。
「彼はそれになろうとしていたらしい。世界を滅ぼしてな」
「何故!?人類を補完する為じゃないわよね」
「ああ」
 加持が答えた。
「わからないわ。それじゃあ宇宙怪獣とかと一緒じゃない。人間である彼が何故」
「木原マサキは人格破綻者だったのよ」
 リツ子はここでそう答えた。
「彼はかって鉄甲龍という組織にいたの。けれどあるマシンを作って脱走したの」
「それで世界を滅ぼす為ね」
「どうやらそうだったらしいな。しかし途中で行方を絶った。死んだかも知れないってのはさっき言ったな」
「それで終わりじゃなかったってことね」
「そうだ。そしてその鉄甲龍はゼーレのもう一つの姿だったのだ。人類補完計画が失敗した時の為に動くな」
「そんな、そんなこと聞いてないわ」
 ミサトは冬月のその言葉を聞いて思わずそう言った。
「そんな組織があったなんて。そしてそれの目的は何!?」
「世界の破壊だ」
 冬月は一言そう言った。
「彼等はそこから新たな世界を構築するんが目的だったのだ。そして木原マサキはその鉄甲龍にいた」
「そうだったの」
「そして彼が、鉄甲龍が世界を破壊させる為に作りだしたマシンこそがゼオライマーという」
「セオライマー」
 皆その名を繰り返した。世界を破滅させる筈なのに何故か恐ろしい響きではなかった。
「ゼーレは崩壊したが我々にはまだやらなければならないことがあるというのがわかっただろう」
「ゼーレと反する立場になってしまった我々は彼等の残照も取り払わなくてはならないのだ。わかるな」
「因果な話ですね」
「加持君」
「いや、彼の言う通りだ」
 冬月は加持の言葉を肯定した。
「我々の仕事はそれまで完全には終わったことにはならない。いや」
「いや?」
「まだ先があるのかもな。どうやら長い戦いになりそうだからな」
「そうなのですか」
「葛城三佐、もう大空魔竜隊には連絡してあるな」
「はい」
 ミサトはそれに答えた。
「大文字博士は快諾して下さいました」
「それは何よりだ。そしてエヴァの方はどうなっている」
「既に再起動の用意はできています」
 今度はリツ子が答えた。
「そちらもいいな。最後の問題は彼等だが」
「それなら問題はありませんよ」
 これには加持が答えた。
「もう四人には来てもらっていますから」
「早いわね」
 それを聞いてリツ子が言った。
「もう動いていたなんて」
「待って」
 だがここでミサトが口を挟んだ。
「今四人って言ったわよね」
「ああ」
 加持はそれに頷いた。
「四人だ。それがどうかしたのか」
「とぼけないで」
 ミサトの声がきついものとなった。
「何で四人なのよ。トウジ君はわかるけれど」
「それは私が言うわ」
 リツ子がミサトに対して言った。
「リツ子」
「あの娘・・・・・・。綾波レイのことを言ってるのね」
「ええ、そうよ」
 ミサトはそれに答えた。
「あの娘は確か」
「生きているわ、私と同じで」
 リツ子は一言そう言った。
「それだけ言えばわかるでしょう。私と同じよ」
「そう、彼が」
 ミサトにも事情がわかった。彼女の頭の中にあの紫の髪の男のことがよぎった。
「それならわかるわ。彼にも色々と思うところがあるのでしょうね」
「それが何かまではわからないけれどね」
 これはリツ子とミサトにしかわからない話であった。他の者はそれを聞いて首を傾げていた。だが冬月は何か思うところがあるようであった。
「それではいいか」
 彼はここで他の者に声をかけた。
「葛城三佐は大空魔竜と連絡をとってくれ」
「了解」
「赤木博士と加持君はチルドレン達のところへ」
「わかりました」
「日向ニ尉達はまずはここで以前と同じ業務にあたってくれ。いいな」
「わかりました」
「何か久し振りですね」
「まさかまたロンド=ベルに戻ったりしてな」
「それはあるわね」
 ミサトがそれを聞いて言った。
「いえ、多分そうなるわ」
「何か懐かしいですね」
 マコトがそれを聞いてそう言った。
「甲児君達も元気ですかね」
「また人が増えていたりしてな」
「増えてるでしょうね」
 ミサトはそれを聞いて笑っていた。微笑みであった。
「アムロ少佐に会えたらいいな、早く」
「ミサト」
 それを横で聞いていたリツ子が苦笑した。
「またアムロ少佐なのね」
「だって格好いいじゃない」
 ミサトはそれに対してそう答えた。
「ガンダムに乗ってさ。派手に活躍して」
「確かにあの人は凄いけれどね」
 それはリツ子も認めることであった。
「それでもはしゃぎ過ぎじゃない?アムロ少佐は今宇宙よ」
「あれっ、そうだった?」
「そうよ。まあ機会があれば会えるから楽しみにしてなさい」
「ちょっち期待してるわ」
「そうそう。それで」
 リツ子は話を戻してきた。
「彼等は今何処にいるのかしら」
「大空魔竜?」
「違うわ。シンジ君達よ。彼等もここにいるんでしょう?」
「ああ」
 加持が答えた。
「行くか」
「そうね」
 加持とリツ子はそれで部屋を出た。冬月はそれを見届けた後でミサトに顔を向けた。
「君はエヴァの方に向かってくれ」
「わかりました」
 ミサトは頷いた。そして部屋を出た。
「それでは行って来ます」
「うん、頼む。そろそろ彼等が来る頃だしな」
「ですね。使徒でないだけ幸いです」
「それはどうかな」
 だが冬月はその言葉には懐疑的であった。
「彼等は手強い。大空魔竜隊にどれだけのスーパーロボットが集結しているかは知っているだろう」
「はい」
「それだけの力が必要だということだ。そしてそれだけでは足りない」
「足りませんか」
「おそらくな。ダブリスやゼオライマーだけではないのだ」
「といいますと」
 先程の言葉の続きだろうか。ミサトはそれを聞き眉を顰めさせた。
「バルマーも来る。そして戦いは激しくなっていく」
「それはわかっているつもりです」
「エヴァの戦いは本来の意味に入ったのかも知れない。そう」
 彼はミサトを置き言葉を続けた。その目は遠くを見ていた。
「本来のな」
「・・・・・・・・・」
 ミサトにはその言葉の意味がわからなかた。だがこれはわかった。自分達がまた長い戦いに入るということに。
「わかっていると思うが」
 冬月はまた言った。
「エヴァは四機共大空魔竜隊に合流してもらう」
「そうですか」
 ミサトは真摯な顔で頷いた。
「そして彼等と共に戦って欲しい。おそらくタブリスは君達の前に姿を現わす」
「ですね。彼の性格からすると」
 ミサトも渚カヲル、いやタブリスの性格は知っているつもりである。それに答えたのだ。
「それならば彼等と共にいた方がいい。違うか」
「いえ」
 彼女は首を横に振ってそれを否定した。
「その通りだと思います」
「そういうことだ。無論君達にも行ってもらうぞ」
「やはりそうきますか」
 シゲルがそれを聞いて微笑んだ。
「何か予想通りですね」
「リツ子先輩も一緒ですよね」
「ああ、勿論だ」
 冬月はマコトとマヤにそう答えた。
「赤木博士がいなくては話にならないからな。そして加持君にも行ってもらう」
「彼もですか」
「そうだ。まあここに残るのは私だけになるな」54
 冬月はそう言うと静かに笑った。
「だがそれはそれで構わない。何かあったら連絡してくれればいいからな」
「そうですか」
「それよりだ」
 彼は話題を進めにかかった。
「もうすぐ来るぞ。戦闘用意はいいな」
「はい」
 ミサトは頷いた。
「第一種戦闘配置」
「了解」
 マコト達がそれに頷く。そして彼等も動きはじめた。
「エヴァ、再起動用意」
「エヴァ、再起動用意」
 マヤが繰り返す。それに従い基地の中が次第に騒がしくなっていく。
「戦いがはじまるか」
「はい」
 ミサトはまた頷いた。そして前のモニターを見た。
「恐竜が出ようが鬼が出ようが」
「鬼か」
「はい。鬼でも」
 ミサトはそう言って微笑んだ。
「使徒と同じように来るならば迎え撃つだけです」
「期待してるよ」
「有り難うございます」
 ここで通信が入った。マコトが出る。
「はい」
「私ですが」
「大文字博士ですね」
「ええ」
 二人はやりとりをはじめた。それを受けて彼は冬月とミサトに対して言った。
「大空魔竜、第二東京市に到着するまであと十分です」
「十分か。思ったより速いわね」
「はい。ちなみに敵が到着するのはあと八分です」
「二分か」
「持ち堪えるには充分な時間ね。いつもこうだと有り難いのだけれど」
「ですね。使徒はいつもいきなり来てましたからね」
「それとは違うのが救いといえば救いね。さて」
 ミサトは語気を引き締めた。
「守るわよ、いいわね」
「はい」
 三人は頷いた。そして彼等も迎え撃つ準備を固めた。
「時間は二分、その間だけよ。まあカップラーメンもできないわね」
「了解。じゃあ戦いが終わったらおごって下さいよ」
「そんなのでいいの?」
「俺あれ好きなんですよね」
「シゲル、はカレーだったよな」
「私はシーフードを」
「ええ、わかったわ」
 こうして彼等も戦いに入った。その間に加持とリツ子はシンジ達を迎えに行っていた。
 
 廊下を四人の少年と少女達が続く。彼等は皆それぞれ納得いかないような顔をしていた。
「まさかまたエヴァに乗るなんて」
 中性的な顔立ちの少年、碇シンジは困ったような顔をしていた。エヴァ一号機のパイロットである。彼はどうもまだ吹っ切れてはいないようであった。
「父さんもいなくなったのに。なんでまた」
「あんたほんっとに変わらないわね」
 それを聞いて赤茶色の髪の少女が少し怒った。惣流=アスカ=ラングレーである。エヴァ二号機のパイロットである。
「ロンド=ベルにいて少しはましになってと思っていたのに」
「仕方ないだろう」
 シンジはそれを聞いて少しムッとして言葉を返した。
「そうそう急には変われないんだから」
「甲児さんみたいになればいいでしょう」
「あの人はまた特別だよ」
 シンジはそう言い返した。
「皆あの人みたいになれる筈ないじゃないか」
「じゃあ努力したら!?」
 アスカも負けてはいなかった。
「努力しないと何時まで経ってもそんなままよ」
「そんなままって」
「まあ碇はそれが持ち味やけれどな」
 シンジの横に黒い髪の少年がそれを見て言った。エヴァ三号機のパイロット鈴原トウジである。
「あの時もそれでわしは助かったんやからな」
「トウジ」
「碇、あの時は感謝してるで」
「いや」
 だが彼はトウジの言葉に口を濁した。
「いいよ、感謝なんて」
「何言うとるんや、わしが今こうしてここにおるのは御前のおかげやで」
「それは違うよ。あの時は」
 シンジは言った。
「洸さんのおかげだよ。あの時あの人が間に入ってくれたから」
「まそうやけれどな」
 トウジはそれに納得した。
「けどそれは御前がやりたくなかったからやろ」
「それはそうだけれど」
 彼はエヴァ三号機が使徒に乗っ取られた時危うくエヴァ一号機に三号機ごと破壊されそうになったのである。だがその時洸のライディーンが間に入って止めたのである。その時シンジは何とかして一号機をコントロールしようとした。しかしそれを彼の父碇ゲンドウは操縦を停止させてまでそれを妨害したのだ。その真意は不明であるが。彼はライディーンが間に入った時一言こう言ったという。
「予定が変わったか」
 それだけであった。そしてトウジを何事もなかったようにそのまま三号機のパイロットとした。シンジはその冷酷ともとれる行動に憤りを見せたがゲンドウはやはりそれには動ずることがなかった。
「そのおかげや。わしがこうしてここにおるのは」
「有り難う」
 シンジはそれを聞いて静かにそう答えた。
「そう言ってくれるだけで有り難いよ」
「何や、辛気臭いなあ。こう忍さんみたいにガーーーーーーッとはいけんのかい」
「じゃああんたあんな命令違反ばかりするの!?」
「うっ、それは」
 アスカに突っ込まれ言葉を止めた。
「ま、まあ多少はそうかな」
「あっきれた」
 アスカはそれを聞いてそのまま呆れたような声を出した。
「あんな人を模範にするなんてね」
「何で模範じゃ」
「そうだよ、ちょっとだけ参考にしたらいいかなあ、って程度だろう」
「あの人達は特別なのよ」
 アスカは二人に対してそう言った。
「あんな人達真似するなんてあんた達何考えてるのよ」
「心配ないわ」
 ここで青灰色の髪に赤い目をした少女が静かに言った。
「綾波」
 シンジが彼女に顔を向けてその名を読んだ。彼女の名は綾波レイ、エヴァ初号機のパイロットである。
「もっと凄い人達が出て来るかな」
「あの人達よりってどんなのよ」
「そこまではわからないけれど」
 レイはやはり静かに言葉を続ける。
「宇宙を破壊できるような人が出て来るわ」
「あんたねえ」
 アスカはそれを聞いて口を尖らせた。
「そんなグランゾンみたいな人がいる筈ないでしょーーーが」
「いるわ」
 しかしレイはそれでも言った。
「もうすぐ会えると思うわ」
「まさか」
「そんな凄い人がおったら是非見てみたいわ」
「そうだね。どんな人なのかなあ」
「シンジ、あんたそんなスーパーマンかバットマンみたいな人がいると思ってるの?ほんっとうに子供ねえ」
「アスカだってそう言いながらこの前仮面ライダー見てはしゃいでたじゃないか。一号が格好いいって」
「あら、あたしは二号のファンよ。あの赤い手袋がいいわね。もっとも一番好きなのはX3だけれど」
「まんまやろが」
「私はライダーマンかしら」
「そんなこと言ってる間に着いたよ」
 ここで四人はエヴァに乗る部屋の前に着いた。そしてシャッターを開け中に入る。暗い部屋で加持とリツ子が待っていた。
「四人共久し振りだな」
「加持さん」
 二人を見てまずシンジが口を開いた。
「リツ子さんも。無事だったんですね」
「ええ。色々あってね」
「シナリオが変わってな。ちゃんと足もあるぜ」
「レイ、貴女もね」
「はい」
 レイはリツ子の問いに答えて頷いた。
「あの時のことは謝っても許してもらえないでしょうね」
「あの時のこと?」
 だがレイはその言葉に対して何の反応も示さなかった。リツ子はそれを見て呟いた。
「そう、そこは消されたのね」
「申し訳ないですけど記憶にないので」
「そう、それなら言っておくわ。御免なさい」
「はい」
 レイは頷いた。他の者はそれを見ているだけであった。それが終わると加持がまた口を開いた。
「それで御前さん達に来てもらった理由はだな」
「また使徒でも出たんですか?」
「それもある。まああらかじめ言っておくと渚カヲルが生きていたんだ」
「カヲル君が」
 シンジはそれを聞いて顔を暗くさせた。
「まあな。だがそれだけじゃない。ゼオライマーってやつが出て来るんだ」
「ゼオライマー!?何ですかそれ」
 アスカがそれを聞いて眉を顰めさせた。
「何かロボットみたいな名前やな」
「正解だ。それを何とかしなければならなくなった。まあ他にも色々とややこしいことにはなっているがな。今は」
「そうですね」
 シンジはそれに応えた。今地上も宇宙もどうなっているかは彼等もよくわかっていることだった。
「貴方達にはロンド=ベルに合流してもらううことになるわ。いいわね」
「はい」
 四人はリツ子の言葉に頷いた。リツ子はそれを見て言った。
「あら、案外素直ね」
「あの時から僕も少し変わりましたから」
 シンジはそう答えた。
「カトル君達に会って」
「そういえば前みたいにウジウジしたりはしなくなったわよね」
「シンジもつよおなったっちゅうことやな」
「別にそうは思わないけれど。甲児さんや鉄也さんにも御会いできたし」
「御二人よりもずっと凄い人が出て来るわよ」
「誰なんだい、それは」
 加持はそれを聞いて首を傾げた。
「藤原中尉か?彼も確かにあれだが」
「いえ、違います」
 しかしレイはそれに対して首を横に振った。
「もっと凄い人です」
「想像がつかないわね」
 リツ子も首を傾げていた。
「ロンド=ベルは濃いメンバーが多かったけれど。彼等より上となると」
「あ、気にしなくていいですから」
 ここでアスカが言った。
「彼女さっきも同じこと言いましたから。特に気にする必要ありませんよ」
「だったらいいけれど」
「まあ素手で使徒を倒すとかそんなことをしない限りはいいさ。BF団みたいにな」
「BF団ですか」
「ああ。彼等のことはちょっとわからない。何でもバベルの塔でかなり激しい戦いがあったそうだがな。詳しいことは俺も知らないんだ」
「けれど大作君は無事なんですよね」
「そうらしいがな。とりあえず生きているってことは勝ったんだろう」
「そうですか、よかった」
 シンジはそれを聞いて微笑んだ。
「彼は自分のお父さんとの約束を果たせたんですね」
「だろうな」
「だったらいいです」
 シンジはそう言って頷いた。加持とリツ子はそれを見てから言った。
「それで四人共早速だけれど」
「ええ。じゃあ行きます」
「それではお願いするわね」
「はい」
 こうして彼等はそれぞれのエヴァに乗り込むことになった。まずは初号機が稼動する。そして他の三機も続く。こうして四機のエヴァが稼動した。彼等は第二東京市に立った。彼等にミサトから通信が入った。
「四人共久し振りね」
「ミサトさん」
「まさかまた会うことになるとは思わなかったけれど。これも運命ってやつかしら」
「運命ですか」
「そうね。それでね」
「はい」
「ええと、この前の話だけれどね」
 ミサトはシンジをモニター越しに見て何処か顔を赤らめさせていた。
「その、ね」
「何かあるんですか?」
「いえ、いいわ。何でもないの。御免なさい」
「はい」
 彼はミサトが何を言いたいのかわからなかった。ただキョトンとするだけであった。ミサトは今度は四人に対して言った。
「話は聞いているわね」
 顔が引き締まった。
「はい」
「敵が来るわよ。それもかなりの数が」
「敵?今度は何なんですか」
「恐竜帝国かミケーネちゃうか」
「ビンゴ、今わかったわ」
 ミサトがここで言った。
「ミケーネよ。正解だわ」
「あまり嬉しくないわね、それって」
「言うんやなかったなあ」
「来たわよ」
 ぼやく二人に対してレイは冷静なままであった。見れば西の方に異様な姿をした者達が姿を現わした。その先頭には恐竜の様に巨大な姿をした巨人がいた。
「フフフ、出て来たなエヴァンゲリオンよ。わしはミケーネ帝国七大将軍の一人妖爬虫将軍ドレイドウだ」
「自分から名乗ってくれるなんて有り難いわね」
「フン、余裕だな子供よ」
 ドレイドウはアスカに対してそう言葉を返した。
「その余裕が何処まで続くかな」
「あんたみたいな変なのに言われたくないわよ」
 だがアスカは負けてはいなかった。そう言い返す。
「よくもまあ毎度毎度次から次に出て来るわね。ホンットに」
「毎度毎度だと!?」
「そうよ」
 アスカは言った。
「ドクターヘルの次はあんた達と恐竜帝国だなんて。ちょっとはこっちの都合を考えてよね」
「馬鹿を言うな」
 ドレイドウはそれに対して言った。
「我々が何故貴様等の都合など考えねばならんのだ」
「それもそうだね」
 シンジがそれを聞いて納得したように頷いた。
「あちらにはあちらの都合があるんだし」
「ちょっと待ちなさいよ」
 アスカは今度はシンジにくってかかってきた。
「何であんたがこの連中の肩を持つのよ」
「別に持っちゃいないよ。けれど僕達にも僕達の都合があるんだし」
「それはわかってるわ」
「あっちにはあちいの都合があるよ。それは事実だよ」
「そんなこと言うてもはじまらへんけれどな」
「けれど事実ね」
「綾波まで」
 アスカはレイの言葉を聞いてさらに顔を顰めさせた。
「そんなこと言ってる暇じゃないでしょーーが」
「アスカの言う通りやな。シンジ、ここはやらなしゃあないで」
「それはわかってるよ」
 シンジはそれには応えた。
「敵も来てるしね、もう」
 彼等は既に攻撃に入っていた。ドレイドウの指示の下機械獣を動かしてきたのである。
「それじゃあ行くか」
 そしてポジトロンライフルを構えた。他の三機のエヴァもそれに続く。ここでミサトからまた通信が入った。
「戦い方は覚えてるわよね」
「勿論」
 四人はそれに応えた。
「アンビリカルケーブルのことは忘れないでね。そして四機一組で戦いなさい。いいわね」
「ちょっと待って下さい」
 アスカがそれを聞いてミサトに対して言った。

「どうしたの?」
「シンジやトウジと一緒に戦えっていうんですか!?」
「そうよ」
 ミサトはその問いに対して素っ気なく答えた。
「それがどうかしたの!?」
「うう・・・・・・」
「我が侭を言ってる暇はないわ」
 レイがここで言った。
「もう来てるから」
「うっ」
 見れば敵はもうすぐそこまで迫っていた。既に初号機と参号機は小隊を組み敵と戦闘状態に入っている。
「シンジ、左は任せとくんや!」
「有り難う」
 二人は左右を固め合い機械獣と相手にしていた。アスカはそれを見て何も言わず彼等のところへ向かった。そして共に戦いはじめた。
「私も」
 レイも続いた。彼等は四機一組となり戦闘に入った。ミサトはそんな彼等に対して言った。
「いい、二分だけ我慢してね」
「二分?」
「そうよ、二分経ったら大空魔竜隊が来るから。それまでの辛抱よ」
「了解」
「それだけやったら十分持ち堪えられますわ」
「ATフィールドがあるからね」
 アスカがそう言うと敵の攻撃が当たった。だがそれはエヴァの前面のフィールドによって弾かれてしまった。
「こういうふうにね」
「けれどそれは投げない方がいいよ、まだ」
「わかってるわよ」
「まあ頼むわね、二分だけだから」
「はい」
 彼等は四機で小隊を編成してドレイドウ配下の機械獣と戦闘を続けた。そして一分が経った。
「東にモビルスーツ部隊!」
 マヤが言う。
「モビルスーツ!?」
 それを聞いたミサトが眉を動かした。
「第二東京市には配備されていない筈よ」
「ああ、その通りだ」
 ここでネルフ司令部に若い男の声が入って来た。
「俺が強引に上の方を説得して来たんだからな」
「上!?」
「まさかあの三輪長官を!?」
「まさか」
 マコト達はそれを聞いて顔を見合わせた。彼等も三輪がどのような男であるかは知っているのである。
「嘘、あんな人を説得出来る筈がないわ。貴方は誰!?」
「俺!?俺か」
「ええ」
 ミサトはその声の主に問うた。
「一体誰なの。答えて」
「シロー。シロー=アマダだ」
 若い男がモニターに姿を現わした。
「シロー=アマダ」
「ああ。地球連邦軍第八モビルスーツ小隊にいた。階級は少尉だ」
「シロー=アマダ少尉。私は葛城ミサトよ」
「階級は三佐ですね」
「ええ」
「お話は聞いています、宜しくお願いします」
「こちらこそ。ところで一つ聞きたいのだけれど」
「何でしょうか」
「今貴方いたって言ったわね」
「はい」
「詳しいことは知らないけれど何かあったの?」
「ちょっとね」
 シローはここで不敵に笑った。
「抜けてきたんですよ、モビルスーツと一緒にね」
「えっ!?」
 ミサトはそれを聞いて思わず顔を顰めさせた。
「たまたま置いてあったGP−02を拝借してここまで来ました」
「なっ、GP−02を・・・・・・」
 ミサトもそれを聞いて流石に絶句した。
「まさかとは思うけれど」
「ええ、核は積んでませんよ。本当はEZ−8を持って来るつもりだったんですけれどね」
「よかった。けど」
 しかしミサトの質問は続いた。
「ここに来ることは許可はとってるのでしょうね」
「ええ、ですから三輪長官に」
「嘘ね」
 しかし彼女はそれを信じなかった。
「何でそう言えるんですか?」
「あの人がそんなことを認める筈ないでしょーーが。私達だってあの人には本当に手を焼いてるんだからね」
「あっ、やっぱり」
「やっぱりじゃないわよ」
 彼女はそう言って眉を顰めさせた。しかしそれをすぐに元に戻した。
「まあいいわ。そっちはネルフで何とかしとくから」
「すいません」
「援護をお願いしたいのだけれど。いいかしら」
 うってかわっていつもの落ち着いた表情に戻った。優しい笑みすら浮かべている。
「勿論、その為に来たんですから」
「じゃあお願いするわ。敵は機械獣よ、いいかしら」
「相手にとって不足あありませんよ」
「頼もしいわね。ところでここへ来たのは君だけかしら」
「いえ、他にもいますよ」
「誰かしら。教えてくれる?」
「はい。アイナ=サハリン少尉と」
「はじめまして」
 ここでモニターに青緑の髪の優しげな顔立ちの女性が姿を現わした。
「アイナ=サハリンです」
「よろしく」
 ミサトは彼女に対しても挨拶をした。
「話は聞いているわね」
「はい。私はドーベンウルフで来ました」
「またゴツいの持って来たわね」
 ミサトはそれを聞いてまたいささか呆れていた。
「綺麗な顔してるのに」
「えっ、そうですか」
 アイナはミサトにそう言われると思わず顔を赤らめさせた。
「そんな、私なんかとても」
「何言ってるのよ、そんな可愛い顔して」
「そんな・・・・・・」
「コホン」
 ここで今度は大人の男の声がした。
「そうしたお話をしている時間ではないですが」
「ん!?ガルーダやハイネルの声に似てるわね」
 ミサトはその声を聞いてまずそう思った。
「ノリス=バッカードです」
 モヒカンの男がそう名乗った。
「以前はジオンにおりましたが故あって今は連邦軍に籍を置いております」
「そうですか」
「階級は少佐であります」
「私と同じですね」
「そういうことになりますな。なお私が搭乗するのはドライセンであります」
「本当はグフの系列があればよかったんだけれどな」
 ここでシローが言った。
「グフ。また懐かしいモビルスーツね」
「私は一年戦争の頃はそれに乗っておりました。もう昔の話です」
「そうでしたか」
 ミサトはそれを聞いて頷いた。
「どうやら色々と事情がおありのようですね」
「はい」
「ですがここに来て頂いたことには心から感謝致します。この部隊の隊長は貴方でしょうか」
 そしてノリスに尋ねた。だが彼はそれには首を横に振った。
「残念ですが違います」
「違うのですか」
「そうです。実はここに来たのもとある方の主導によってです。三輪長官にも実はその方からとりなしがありました」
「あの長官に!?」
「はい」
 ミサトはそれを聞いて再び眉を顰めさせた。
「一体誰でしょうか、それは」
「考えてみれば当然だよな」
「ああ、あの三輪長官が命令違反を許す筈がないからな」
「即刻銃殺よね、あの人だと」
 マコト達はミサトの横でヒソヒソとそう話していた。
「セラーナ=カーン外務次官です」
 ノリスはそう答えた。
「カーン次官がですか」
「はい、あの方のお口添えで。我々は今こうしてそちらに来れたというわけです」
「それは何よりです」
 ミサトはそれを聞いてようやく納得したように頷いた。
「最初アマダ少尉の言葉を聞いた時には何事かと思いましたけれど」
「ちぇっ、えらい言われようだな」
「シロー、やっぱり皆そう言うでしょ」
 アイナが彼に対してそう言った。
「だから危険だって言ったのに」
「仕方ないだろ、今こうしてミケーネの奴等がいるんだからな。今はタダナオもオザワもいないんだぞ」
「ええ、仕方ないわね」
「ったくあいつ等何処に言ったんだよ」
 二人がそうやりとりをしている間にノリスとミサトは話を進めていた。
「そしてカーン次官は何処に」
「ここにおられます」
「ここに!?」
「そうです」
 驚くミサトに対してノリスは静かにそう答えた。
「こちらです」
「はじめまして」 
 するとそこには赤紫の髪の優しげな顔立ちの美しい女が出て来た。だが何処か陰がある。
「貴女がセラーナ=カーン外務次官ですね」
「はい」
 彼女は落ち着いた声でそう答えた。
「この度は有り難うございます。ですが」
「ですが?」
「何故貴女もパイロットスーツを着ておられるのですか」
 見ればモニターに映る彼女もシロー達と同じくパイロットスーツに身を包んでいるのである。ミサトが言ったのはそこであった。
「これですか」
「はい」
 しかしセラーナはそれに対しても全く取り乱してはいなかった。
「私も戦う為です」
「貴女も」
「ええ。ネルフ、そしてこちらに向かっている大空魔竜隊は複雑な立場に置かれていますね」
「それは否定しません」
「だからこそです。ですから私はこちらに参ったのです。貴女達をお助けする為に」
「しかし貴女は」
「政務のことなら御心配なく」
 彼女はそう答えた。
「もうそれは申し次ぎを済ませましたから。私はこれから貴女達と共に行動します」
「次官としてですか」
「はい」
「わかりました。それではお願いします」
 ミサトももうそう答えるしかなかった。彼女はそれに従った。
「それでは援護をお願いします」
「了解」
 こうして四機のモビルスーツが戦場に向かった。そのうちの一機は戦闘機に似たシルエットであった。
「あれはZガンダム?」
「そうrしいわね。どうやら乗っているのはセラーナ次官よ。何でももう一機開発されていたとは聞いていたけれど」
「それに乗って来たんですか、それはまた」
「流石は外務次官ってところですかね」
「喜ぶのはまだ早いわ」
 しかしミサトの声は楽観したものではなかった。
「敵は強いわ。四機のモビルスーツじゃ難しいかも知れないわよ」
「確かに」 
 三人はその言葉を聞いて顔を引き締めさせた。
「ミケーネの将軍の一人が来ていますからね。それに数も半端じゃない」
「ええ」
「あと一分、それまで持ち堪えて欲しいですね」
「そうね。結局それにつきるわ」
 彼等はそう言ってそれぞれの持ち場に戻った。そしてシンジ達に指示を出し続ける。
「シンジ君、右よ」
「了解」
 シンジはそれに従いポジトロンライフルを放つ。そして敵を倒した。それを見てミサトは会心の笑みを浮かべた。
「やるじゃない。どうやら腕は落ちていないわね」
「ちょっと待って下よミサトさん!」
 ここでアスカがモニターに怒鳴り込んできた。
「ミサト」
「あたしだってそうなんですから!」
「だったら見せてくれるかしら」
 あえて彼女を挑発するように言った。
「貴女の腕をね」
「了解!」
 アスカはそれを受けて叫んだ。そしてエヴァを派手に動かした。
「おりゃあああああああああーーーーーーーーっ!」
 フィールドを投げた。それで敵を撃つ。機械獣がそれでまとめて吹き飛んでしまった。
「これでどうかしら!?」
「上出来よ」
「フッフーーーーン、どう、シンジ」
 彼女はエヴァの首を向けてシンジに対して言った。見ればエヴァ自身も自慢していた。
「あたしの方が凄いでしょ」
「おい、アスカ」
 しかしシンジではなくトウジが突っ込んできた。
「何よ」
「今は戦闘中やぞ」
「わかってるわよ。けれど激しい戦いの中にこそ乙女は美しさを求めるものなのよ。わかる?」
「御前が乙女やったら世の中皆そうなるわい」
「フン、勝手に言ってなさい。ほら、敵が来たわよ」
「こら、逃げるな」
「逃げてないわよ」
 そう話をしながらもトウジは敵に攻撃を仕掛けた。接近してくる敵をプログレッシブナイフで切りつけたのである。
「これでどないやっ!」
 ナイフは機械獣サイコベアーの額を切った。それを受けて機械獣は爆発四散した。
「どんなもんや」
「また来たわよ」
 だがここでレイがそう言った。見ればまた来ていた。
「またかいっ!」
「私がやるわ」
 レイはそう言うとすぐに動いた。そしてライフルで敵を撃った。これでその機械獣を撃墜した。見ればそれもサイコベアーであった。
 エヴァ四機はかなりの強さを発揮していた。そこにシロー達も到着した。まずはシローがライフルを放つ。
「いけっ!」
 狙いは的確であった。敵の急所を貫き一撃で撃墜していく。その横ではアイナがドーベンウルフのインコムを放っていた。
「これならっ!」
 インコムは複雑な動きを展開しながら敵に向かう。そして複数の場所から攻撃して敵を撃つ。しかし間合いが広かった。そこに一機入り込んできた。
「来るっ!」
 アイナはそれを見て身構えた。防御するつもりであった。だがそれには及ばなかった。
「アイナ様、お任せ下さい」
 ノリスのドライセンが前に出て来た。そしてその敵をブームブレイブで両断した。鮮やかな動きであった。
「ノリス、有り難う」
「アイナ様を御守りするのが私の務めですから」
 彼は笑ってそう答えた。ここでシローが言った。
「俺のフォローには及ばないぜ」
「そういうわけにはいきません。シロー様はアイナ様の・・・・・・」
「ノリス」
 だがここでアイナが顔を赤くして言った。
「はっ、すいません」
 ノリスはそれを受けて口を止めた。そして戦闘を再開した。三機のモビルスーツは互いに連携しつつ戦っていた。その上ではセラーナのZが展開していた。
「うわっ」
 その戦いぶりを見てミサトは思わず感嘆の声をあげた。
「ありゃ凄いわ。かなりの腕前ね」
「はい」
 マヤもそれに同意した。見ればセラーナのZはウェイブライダーに変形し、敵の攻撃をかわしたかと思うとすぐにZに戻りハイメがランチャーで攻撃を仕掛ける。それで遠くの敵を撃ち、接近して来た敵に対してはその攻撃を紙一重でかわすとすぐにビームサーベルで切った。見事な戦いぶりであった。
「まるでカミーユ君みたいですね」
「まあ彼はあれよりまだ凄いけどね」
「はい」
「けれどそれを彷彿とさせるわ。まるでニュータイプよ」
「ニュータイプですか」
 セラーナがそれを受けてモニターに姿を現わした。
「あ、すいません」
 ミサトは彼女の姿を認めて謝罪した。
「御気を悪くされたでしょうか」
「いえ」
 だがセラーナは微笑んでそれを否定した。
「別にそれを悪い意味だとは思っていませんので」
「そうなのですか」
「はい。ニュータイプは人類の可能性の一つです。私はそう考えております」
「はい」
「ですから仮に私がニュータイプだとしたらそれはそれで私は受け入れます」
「そうなのですか」
「それが私の運命であれば、です」
「次官」
 ミサトはそれを聞いてセラーナの人としての懐の深さに感じ入った。だがここでシゲルが言った。
「二分経ちました」
「もう」
 ミサトは彼に顔を向けて問うた。
「はい、今大空魔竜隊が第二東京市に到着しました。今こちらに向かってきております」
「助かったわね」
 ミサトはそれを聞いて微笑んだ。
「もっともシンジ君達やシロー君達のおかげでそんなに苦労はしなかったけれど。ラッキーだったわね」
「はい。ただ」
「ただ?」
 ミサトはここで三人に対して問うた。
「何かあるの」
「いやあ、また甲児君達と一緒になるんだなあ、って思って」
「また変な人いなかったらいいけれど」
「今更何言ってるのよ」
 ミサトはそれを聞いて苦笑した。
「彼等から個性をとったら何が残るっていうのよ」
「まあそれはそうですけれど」
「何か嫌な予感がするんですよ」
「予感?」
「はい、私だけかも知れませんけれど」
 マヤは心配そうな顔で言った。
「私とよく似た変な人が出て来るんじゃないかなあ、って。気のせいですよね」
「そうじゃないの?」
「だったらいいんですけれどね」
「まあそんな心配は今からしない。いいわね」
「はい」
 マヤはミサトの言葉に頷いた。
「あたしだってどういうわけかアムロ少佐との仲が有名なんだし」
「あ、そうですね」
「わからないのよね、それが。確かにアムロ少佐は格好いいけれど」
「葛城三佐ってどちらかというと少年趣味だよなあ」
「そういえばウィングチームと仲よかたような」
「こら」
 彼女はここでマコトとシゲルを叱った。
「噂のもとは君達なの?」
「えっ、まさか」
「そもそもアムロ少佐ってチェーンさんやベルトーチカさんまでいるし。確かクェスちゃんもそうだったんじゃ」
「クェスちゃんはクワトロ大尉よ」
「あ、そうか。声が似ているんで間違えた。御免」
「まあ声は仕方ないわ。結構似ていることが多いし」
「藤原中尉とジュドー君もですよね」
「まあその話は止めましょう」
「はい」
 三人はミサトの言葉に従った。
「マコト君、大空魔竜に通信を入れて」
「はい」
 マコトはここでミサトの従い大空魔竜に通信を入れた。程なくして大文字が出て来た。
「暫くです、大文字博士」
「いや、こちらこそ」
 大文字はそれに応えて挨拶を返した。
「救援に来ていただき感謝致します。そしてこれからのことですが」
「それはもう御聞きしております」
「そうなのですか」
「はい。エヴァを我々と同行させて欲しいのですね。それはもう御聞きしております」
「そうなのですか」
「はい、セラーナ次官から。喜んでお受け致します」
「有り難うございます。それではこれからもお願いします」
「こちらこそ。ところで今の戦いですが既にそちらにこちらのロボット達を向かわせております」
「そうですか。それは何よりです」
「今回は葛城三佐がお知りでないロボットもありますぞ」
「どんなのですか」
「それは見てのお楽しみといったところですかな。まあまずは敵を倒しましょう」
「はい」
 ミサトはそれに頷いた。
「それでは宜しくお願いします、今後共」
「わかりました」
 こうして大空魔竜隊が戦場に到着した。彼等はグレートマジンガーを先頭に戦場へ向かって行く。
「行くぞ皆!」
「おう!」
 鉄也のグレートマジンガーが空を駆る。そして目の前にいる敵に攻撃を放つ。
「ドリルプレッシャーパンチ!」
 それが敵を貫く。腕が戻ると今度は剣を引き抜いた。
「マジンガーブレード!」
 それで今度は両断した。そして次々に敵を切り裂いていく。それを見てドレイドウは口を歪めて呻いた。
「ぬうう、剣鉄也め、またしても我々の邪魔をするか」
「おい、グレートだけじゃねえぜ」
 ここで別の声がした。
「その声は」
「俺もいるってことを忘れんなよ!」
 それは兜甲児の声であった。彼のマジンガーもグレートの横で戦っていた。
「スクランダーカッターーーッ!」
 背中の翼で敵を切り裂いていく。そしてそれで敵の中を突き進む。その周りでは爆発が続け様に起こっていた。
「僕もいるぞ!」
 グレンダイザーもいた。デュークはダブルスペイザーとドリルスペイザーを引き連れて戦場を駆け巡っていた。三機のマジンガーを中心として彼等は攻撃を仕掛けていたのだ。
「クッ、グレンダイザーまでいるとはな」
「ドレイドウ」
 彼の前にグレートがやって来た。
「貴様は今ここで倒す!」
 鉄也は強い声でそう言った。そして剣を手に彼に向かって行く。
「小癪な!」
 ドレイドウもそれに向かおうとする。だがここで止めに入る者がいた。
「待て、ドレイドウ」
「貴様か」
 ドレイドウは声がした方に顔を向けた。するとそこには鳥に似たシルエットに腹に無気味な顔を持つ巨人がいた。
「怪鳥将軍バータラー」
 鉄也は彼の姿を認めてそう言った。
「貴様もここに来るとはな。だが好都合だ」
 そう言って身構える。
「待て」
 だが彼はそれを制した。
「剣鉄也よ、今は貴様と戦うつもりはない」
「どういうことだ」
「わしはドレイドウに用があってここに来たのだ」
「わしにか」
「そうだ」
 彼はドレイドウに対してそう答えた。
「ドレイドウ、暗黒大将軍の御命令だ。ここは退け」
「暗黒大将軍のか」
「そうだ。事情が変わった。何かと地上も騒がしくなってきた」
「うむ」
 彼はそれを聞いて頷いた。だが甲児がそれに対して言った。
「へっ、騒がしくしてるのは手前等じゃねえか」
「兜甲児、今はその命預けておく」
 だが彼は挑発にも乗ろうとはしなかった。
「さらばだ。だがいずれ貴様等の首は我等が闇の帝王に捧げる。それは忘れるな」
「できるものならな」
 甲児はそう言って彼等を見据える。大介もであった。
「ミケーネ帝国、僕の第二の故郷は貴様等には渡さないぞ」
「フン」
 しかしバータラーもドレイドウもそれには鼻で笑うだけであった。
「貴様の都合なぞ知ったことか。我等には我等の望みがあるからな」
「そういうことだ。デューク=フリード、それが貴様なぞにわかってたまるか」
「クッ」
「それではドレイドウ、行くぞ」
「うむ」
 こうして二人は戦場を後にした。僅かに残った機械獣達が彼等の周りを護衛する。こうしてミケーネの兵達は戦場を離脱したのであった。
「これでここの戦いは終わりか」
 鉄也はそれを見届けて一言呟いた。
「シンジ君、御苦労だったな」
「いえ」
 シンジは鉄也にそう声をかけられて顔を赤くさせた。
「僕はあまり役には立っていませんでしたから」
「そうそう、何といってもあたしがいないとね。どうしようもないから」
「おめえはもっとフォローとかそういうの勉強した方がいいんじゃねえか」
「あんたに言われたくはないわよ」
 アスカは突っ込みを入れた甲児に対して早速噛み付いてきた。
「あんたはいつも暴れるだけでしょーーが」
「暴れるだと!?何言ってやがる」
 甲児はそれに反論した。
「俺は戦ってるんだ。おめえなんかと一緒にするな」
「あれの何処が暴れてないっていうのよ」
「それがわからねえからおめえは何時まで経っても胸が大きくなんねえんだろ!」
「胸は関係ないでしょうが!」
「やるか!?」
「喧嘩なら買うわよ!」
「二人共馬鹿なことは止めるように」
 だがここで大介が間に入ってきた。
「いきなり喧嘩をはじめるなんて大人げないぞ」
「大介さん」
「甲児君、ここは抑えるんだ。いいね」
「わかったよ」
「そこの女の子も。いいかい」
「はいはい、わかったわ」
「あまりわかってくれてはいないようだけれどまあいいか。それでだ」
「はい」
 鉄也も話に入って来た。
「エヴァのことは聞いているよ。僕達と同行するんだよね」
「ええ、そうですけれど」
「私達もね」
 ミサトがダイザーもモニターで出て来た。
「よろしくね、これから」
「わかりました。そしてセラーナ次官達も」
「これから宜しくな」
 シローが彼等を代表してそう言った。
「よし、では一度集結しよう。そひてこれからのことを・・・・・・」
「待て」
 しかしここでピートがそれを止めた。
「どうした」
「レーダーに反応だ。総員その場で警戒にあたれ」
「また敵かよ」
 忍はそれを聞いて言った。
「まだ暴れ足りなかったから丁度いいか」
「ダンクーガは相変わらずね」
「言うまでもないことやな」
 それを後ろから見てアスカとトウジは頷き合った。そこへ三機のアンチボディが姿を現わした。
「あれはブレンか」
 隼人がそれを見て一言呟いた。
「ヒメ達のだけじゃなかったんだな」
「豹馬、それはもうとっくにヒメちゃんが言うとるで」
「あっ、そうだったか」
「ヒメさん」
 健一がヒメに声をかけた。
「あのアンチボディは知ってるかい」
「はい」
 ヒメはそれに頷いた。
「あれはオルファンのです」
「オルファンの」
「じゃあ敵だな」
 一平はそれを聞いて言った。
「よし、全機攻撃態勢に入れ、いいな」
「了解」
 ピートの指示を受けて皆動いた。だがここで青いアンチボディから通信が入った。
「待ってくれ、俺達は敵じゃない」
「何!?」
 それを聞いて動きを止めた。
「俺は伊佐未勇、俺達は君達に投降しに来たんだ。君達と一緒に戦う為に」
「馬鹿な、誰がそんな世迷言を信じるというんだ」
 まずピートがそれを聞いてそう言った。
「構うことはない、全機攻撃用意」
「了解」
 それを受けて何機かは動く。だがそこでヒメが他の者を止めた。
「待って、皆」
「ヒメ」
「ここは私に任せて」
 そう言って前に出た。
「馬鹿な、奴は敵だぞ。さがれ」
 ピートがヒメを止めようとする。だがそれをサコンが制した。
「待て、ここはあの娘に任せてみよう」
「サコン」
「何が起こるか見てみたい。何、大丈夫だ」
 彼は落ち着いた様子でそう言った。
「何も起こらないさ。あのアンチボディ達を見ろ」
 彼はここでピートにヒメ達のブレンを指差して見せた。
「お互い攻撃をするつもりはない。だから安心しろ」
「しかし」
「もしもの時があればその時こそ動けばいい。違うか」
「むう」
 さしものピートも彼にそう言われると納得するしかなかった。
「わかった、ここは御前に従おう」
「悪いな。それに色々と見ておきたいこともある」
「見ておきたいこと?」
「すぐにわかるさ」
 彼はそう言うだけであった。そしてその間にヒメと勇のアンチボディは互いに触れ合いそうな場所まで接近していた。
「御前、宇都宮比瑪だな」
「ええ」
 ヒメはそれに頷いた。
「御前がこの前の」
「そうだよ」
 ヒメはこの前の最初の戦いのことを認めた。
「君は?」
 そして逆に勇に尋ねてきた。
「君は何ていうの?」
「俺か!?」
 尋ねられた勇は一瞬それに戸惑った。
「俺のことなのか」
「そうだよ」
 ヒメはそう言って頷いた。
「君の名前は何ていうの」
「俺か。俺は」
 彼は語りはじめた。
「俺は勇、伊佐未勇だ」
「勇、勇君だね」
「あ、ああ」
 彼は何時の間にかヒメのペースに飲み込まれていた。
「私達と一緒にいたいの?」
「ま、まあそうなるな」
 勇は戸惑いながらもそう答えた。
「俺だけじゃない。カナンもヒギンズもだ」
「いいよ」
 ヒメはそれに対して一言そう言った。
「いいのか?」
「うん。君も寂しかったんだよね」
「あ、ああ」
 勇はまた頷いた。
「だからここに来たんだよね」
「そうなるな」
 彼はそれを認めた。
「それでこれからのことだけれど」
「いいよ」
 ヒメはまた言った。
「えっ、いいって」
「一緒にいよう、そうしたら寂しくなくなるから」
「しかし」
「しかしも何もないよ。君も寂しいのは嫌でしょう、だったら」
「ああ、わかった」
 勇はヒメの言葉に頷いた。
「それじゃあ俺達も」
「おっと、それは待ってもらおうか」
 しかしここで後ろから声がした。
「誰?」
「ジョナサンか!」
 勇はそれを聞いて後ろへ顔を向けさせた。するとそこにはアンチボディの編隊がいた。
「ジョナサン=グレーン」
「あたしもいるよ」
 褐色がかった肌に黒い髪の気の強そうな女もいた。
「シラー=グラスか」
「ふふふ、そうさ勇」
 金色の髪の男ジョナサンが勇に対して言った。
「オルファンから抜けてどうするつもりなんだ」
「御前に言ってもわかるもんか」
「ああ、わからないだろうな」
 ジョナサンは勇に対してそう言葉を返した。
「何!?」
「逃げ出した卑怯者のことなんてな。わかりたくもないさ」
「貴様!」
 勇はそれを聞いて激昂した。ユウ=ブレンが前に出ようとする。だがそれをヒメ=ブレンが止めた。
「待って、君!」
「ヒメ!」
 勇はそれを見て叫んだ。
「何故止めるんだ!」
「今はいけないんだよ!」
 ヒメも叫んだ。
「いけない!?」
「そう、いけないよ」
 ヒメは勇を諭すようにして言う。
「よく言えないけど一人じゃいけないんだ」
「一人で」
「うん」
 ヒメは頷いた。そして勇はそれを聞いて気付いた。
「そうか、一人じゃ駄目なんだ」
 そしてヒメに対して顔を向けた。
「なあ」
「何!?」
「やるんだ」
「何を!?」
 ヒメは言われても何が何だかわからなかった。
「どうするの!?勇」
「ヒメちゃん、ひっつくんだ」
 勇は言った。
「ひっつく!?くっつくの!?」
「ああ」
 勇は頷いた。そしてヒメの横に来た。
「こうやってさ」
「こうやって」
「フン、何をするかと思えば」
 シラーはそれを見てせせら笑った。
「二人一緒に死なせてあげるよ!」
 そしてアンチボディを前に出してきた。それを見てヒメは叫んだ。
「来る!」
「大丈夫だ!」
 だが勇は彼女に対して言った。
「落ち着くんだ、いいな」
「けど」
 それでもヒメは戸惑っていた。
「狙えないよ」
「狙う必要はないんだ」
 勇は彼女に対してそう囁きかけた。
「こうやるんだ。合わせろ、ヒメ!」
「合わせる・・・・・・」
「そう、合わせるんだ」
 勇は言った。
「俺に合わせてくれればいい。わかったか」
「うん」
 そして二人は動きを合わせた。そして攻撃に入った。
「なっ!」
 二つのブレンパワードから攻撃が放たれた。それがシラーの乗るリクレイマーを直撃したのであった。それを受けてシラーの乗るリクレイマーはかなりのダメージを受けてしまった。
「な、何!?このオーガニック=ウェーブは」
 シラーは何とか機体を操縦させながら呟いた。
「一体何処にこれだけのパワーが」
「あれがプレンパワードの力だというの」
 それを見ていたカナンが呟いた。
「今の光は」
「二人で力を合わせたというのか」
 ナンガとラッセも驚きを隠せなかった。彼等もそれを見て戸惑っていた。
「何だったの・・・・・・今のは」
 それはヒメも同じであった。彼女は驚きを隠そうともせず勇に顔を向けていた。
「多分」
 勇はそれを受けて話しはじめた。
「オーガニック=ウェーブ」
「オーガニック=ウェーブ」
「ああ、アンチボディのチャクラ=ウェーブ=モーションってやつかも知れないな」
「それが今のなんだね」
「多分ね」
 勇は今一つ自信のない声でそれに答えた。
「ただかなりの力を持っていることは事実だな」
「ああ」
 ラッセはナンガの言葉に頷いた。
「勇といったな」
 ナンガが彼に声をかけてきた。
「ああ」
「一緒に戦ってくれるか、いいか」
「その為に来たんだ」
 彼はそう答えた。それで全ては決まった。
「よし、じゃあお願いする。行くぞ」
「よし」
 それを受けて彼等も戦う態勢に入った。そして前に出た。
「クッ!」
 シラーはなおも戦おうとする。リクレイマー達も前に出た。だがそこでジョナサンが言った。
「待て」
「ジョナサン」
「シラー、御前は下がれ」
 彼は一言彼女に対してそう言った。
「下がれ!?何故だ」
「御前のリクレイマーはダメージを受け過ぎた。今のままではとても戦えないからだ」
「馬鹿を言え」
 彼女はそれにくってかかってきた。
「私はまだ戦える、甘く見るな」
「そう、まだ戦えるな」
 ジョナサンはそれを受けてそう言った。
「じゃあこれからのことを考えるんだ。今はその時じゃない」
「これからのこと!?」
「そうだ。御前さんにはまだやってもらうことがあるってことさ」
「わかった」
 シラーはそれに頷いた。
「じゃあここはジョナサン、あんたに任せるよ」
「そうした方がいい。じゃあな」
「ああ」
 こうしてシラーは撤退した。ジョナサンは彼女にかわって前に出て来た。
「勇・・・・・・よくそんな機能不全のアンチボディでやれたな」
「悪いか」
 勇はそれを聞いて彼を見据えた。
「まあいい。俺の任務は貴様を抹殺することだからな。それ以外にはない」
「ジョナサン」
 勇は叫んだ。
「俺達が争ったところで何にもならないんだぞ」
「オルファンがやろうとしていることを邪魔する奴は誰であろうが排除する。貴様も同じだった筈だ」
「クッ」
 だが勇は言った。
「今は違う、グランチャーの任務もオルファンの目的もおかしいんだ!」
「おかしくはない!」
 ジョナサンはそれを聞いて叫んだ。
「オルファンの永遠は人類の永遠である!」
「その前に人間が滅ぼされちまう!」
「人類の歴史と遺伝子はオルファンとグランチャーに残るんだよ!」
「それは違う!」
 勇はまた叫んだ。
「馬鹿なことを言うな!」
「馬鹿なこと・・・・・・!?」
 ジョナサンはそれを聞いて口の端を歪めて笑った。
「どうやら貴様とはこれ以上話しても無駄なようだな」
「まだわからないのか」
「まあいい、どのみち貴様はここで死ぬことになるんだ」
 ジョナサンはそれを打ち切るようにして言った。
「だからせめて戦士らしい最期を見せるんだな。行くぞ!」
「クッ!」
 彼等は戦いをはじめた。まずはジョナサンのリクレイマーがミサイルを放つ。しかし勇はそれをかわした。
「勇!」
「大丈夫だヒメ!」
 彼はヒメに対して言った。
「ここは俺に任せろ。その前に」
 既に大空魔竜隊とリクレイマー達の戦いがはじまっていた。彼等はそれぞれミサイルを放ち剣を振るっていた。皆それを受けて戦っていたのである。
「他を頼む。いいな」
「うん、わかった」
 ヒメはそれを受けて頷いた。
「じゃあ任せたよ」
「ああ」
 こうしてヒメとヒメ=ブレンはユウ=ブレンから離れた。そして別のリクレイマーに向かっていった。
「勇、俺を一人で倒せるとでもいうのか!」
「当然だ!」
 彼は言葉を返した。
「ジョナサン=グレーン」
 勇はジョナサンと彼のリクレイマーを見据えた。
「貴様を倒す!」
「フン!」
 ジョナサンはそれを聞いて激昂した。
「死ねよやああああああああああっ!」
 ジョナサンは突っ込んだ。だが勇はそれを冷静に見ていた。剣から攻撃を放った。
「グワッ!」
 ジョナサンのリクレイマーの右手が吹き飛ばされる。彼はそれを受けて動きを止めた。
「な、何だと!?ブレンパワードの奴がソード=エクステンションを使えるというのか!?」
 ジョナサンは切り落とされた右腕を見て叫んでいた。だが勇はそれを見て呆然としていた。
「今の攻撃・・・・・・ソード=エクステンションというのか」
「勇」
 ジョナサンの声が怒りで沸騰していた。彼はまた言った。
「貴様は私の手を切った!貴様があああああっ!」
「ジョナサン=グレーン」
 それに対して勇の声は冷静であった。
「親父とお袋、そして姉さんに伝えろ」
「何!?」
「オルファンに仕えることは正義じゃない、そしてオルファンで人類を抹殺することも、地球を死の星にすることも絶対にさせない!」
「勇うぅぅぅっ!」
「今言ったことを伝えるんだ、行け!」
「クッ、俺をメッセンジャーボーイにするつもりか!」
「そうだ!だから今は狙撃しない。行くんだ!」
「おのれ勇、忘れんぞぉっ!」
 ジョナサンは怒りに身体を震わせながらも戦場から撤退した。そしてそれを見てリクレイマー達も次々と撤退した。こうして第二東京市での戦いはようやく幕を降ろしたのであった。
「終わったか」
 大文字は姿を消すリクレイマー達を見て一言そう呟いた。
「まさかここへきて新たな敵が出て来るとはな」
「全くです」
 ピートがそれに同意した。
「ただ、彼には色々と聞きたいことがありますね」
「そうだな」
 二人は勇に顔を向けて話をしていた。サコンもそこにいた。
「サコン君、頼めるか」
「ええ、いいでしょ」
 彼はそれを快諾した。
「まあ大体予想はついていますがね。悪い結果は出ないですよ」
「だといいんだがな」
 しかしピートはそれには懐疑的であった。
「奴は敵だったのだからな」
「まあそう言うなピート君」
 それを大文字が止めた。
「まずはしらべてからだ。いいね」
「わかりました」
 彼は不満があるもののそれに従った。こうして彼等は大空魔竜に集まり勇達に関しての調査を開始した。暫くしてサコンがブリーフィングルームに集まる皆に対して言った。そこには勇も一緒であった。
「どうだった」
 まずはサンシローがサコンに尋ねた。
「そいつは大丈夫なんだろうな」
「何」
 それを聞いて勇が眉を顰めさせた。
「それはどういう意味だ」
「悪い、悪気があって言ったわけじゃないんだ」
「そうですよ、サンシローさんはそんな人じゃありませんから」
 ブンタが彼のフォローに入った。
「ですから貴方も落ち着いて下さいね」
「ああ、わかったよ」
 勇はそれを受けて表情を元に戻した。
「これから長い間一緒になるかも知れないからな」
「そうそう」
「だがまだ完全に信用できないのは事実だ」
 隼人が口を挟んだ。
「隼人」
 それを聞いて竜馬と弁慶が咎める顔をした。
「いや、それは事実だ。そいつは伊佐木の人間だからな」
 鉄也も彼に同意した。
「まだ話も聞いちゃいないんだ。今の時点で信頼するにはまだ足りないということだ」
「手厳しいな、二人共」
 サコンがそれを聞いて苦笑した。
「だが当然だな。それは仕方ない」
「はい」
 勇はそれに応えて頷いた。
「勇君には自分の考えを述べてもらおう。それでいいかな」
「はい」
「あらかじめ言っておくが」
 サコンは皆に対して顔を向けた。
「彼を調べたところ肉体も精神も正常だ。それを理解してくれたうえで話を聞いてもらいたい。いいか」
「了解」
「それについてはわかった」
 皆それを聞いて頷いた。そして勇に顔を集中させた。
「でははじめよう」
 大文字の言葉を受けて勇は口を開いた。
「オルファンのことですが」
「あれか」
「はい」
 勇は大文字の言葉に対して頷いた。
「あれが浮上したならば人類は滅亡します」
「そう言われてもな」
 ピートはそれを聞いて首を傾げさせた。
「君の言っていることが本当だとはすぐには思えないな」
「それは仕方ないな」
 隼人も言った。
「今俺達は色々な連中と戦っている。正直あのリクレイマーとかいう連中もその中の一つに過ぎない」
「じゃあ人類が滅亡してもいいっていうのか!?」
「そうは言っていない」
 ここで竜馬が勇を嗜めた。
「俺達は人類を、そして地球を守る為に戦っているんだからな」
「じゃあ何故」
「まあ落ち着くんだ」
 サコンは勇の肩に手をやってそう言った。
「少なくともあのリクレイマーというのが地球や人類に対していい考えを持っていないことはわかっているからな」
「けど」
「今は情報が少ない。だからこれ以上は何も言えないんだ。君もオルファンの全てを知っているわけじゃないだろう」
「はい」 
 それは渋々ながら認めた。
「俺はあの家の一員といっても末っ子でしたから」
「兄弟でもいるのか?」
「はい」
 リーの問いに対して頷いた。
「姉さんが一人。けれど」
「どうやら訳ありのようだな」
「御免なさい、それについては聞かないであげて」
 カナンがリーに対して言った。
「そうか。じゃあいい。それは聞かない」
「すいません」
「謝らなくていいさ。それで君はリクレイマーとは決別したんだね」
「はい」
 大文字の言葉に対して頷く。
「だからここまで来たんです。彼等が今の俺をどう思っているかもうおわかりでしょう」
「それはどうかな」
 だがピートはそれに対しては懐疑的だった。
「芝居ということも考えられる」
「ピート、何を言ってるんだ」
 サンシローはそれを聞いて露骨に顔を歪めさせた。
「彼を疑うっていうのか」
「ああ」
 ピートはそれを認めた。
「敵から寝返った者をそう簡単に信用できると思うか?サンシロー、だから御前は甘いんだ」
「何っ!」
「俺達の敵はどれも強力だ。そしてどんな汚い手も使う連中だということを忘れるな。一瞬の油断が大変なことになるんだ」
「だからって彼を疑うのかよ!」
「これも戦いだからだ。俺は当たり前のことを言っているだけなんだぞ」
「だから御前は頭でっかちなんだろうが!」
「御前みたいな海人ちゃんに言われたくはないな」
「手前!」
「止めるんだ、二人共」
 リーとサコンが二人の間に入った。そしてブンタとヤマガタケがそれぞれ押さえる。
「今は喧嘩している時じゃありませんよ」
「頭にきたら四股でも踏んどけよ」
「くっ」
 こうして二人は離された、そして勇の話が続く。
「俺が信頼されていないことはわかっています。それは当然です」
「自分でわかっているならいい」
「はい」
 鉄也に対して頷く。
「けれどあえて言います。それでも貴方達と一緒に戦わせて下さい」
「オルファンを止める為にだね」
「いいでしょうか」
「ふむ」
 大文字は暫く考えていたがすぐに口を開いた。
「いいだろう。勇君、君の加入を歓迎しよう」
「本当ですかっ!?」
「ああ。ただし、何かあればそれなりの処置はとらなければいけないがそれはわかるね」
「はい」
 勇は頷いた。
「それならばいい。君はこれから大空魔竜隊の一員だ」
「有り難うございます」
「ただオルファンがどういったものか気になりますね」
 サコンが大文字に声をかけてきた。
「もし地球を破壊しかねないものだとしたら大変なことです」
「そうだな。それならばよく調べておく必要がある」
「はい」
「ミドリ君、今日本に展開している勢力はどうなっているかね」
「今のところありません。先程の戦闘でミケーネも撤退したようです」
「ふむ、ならば好都合だな。では行くか」
「オルファンにですか」
「そうだ。何も知らないのでは対策も立てようがないからな。我々はこれよりオルファンに向かう。皆それでいいな」
「了解」
「賛成です」
 皆それに頷いた。これで大空魔竜はオルファンへ向かうことになった。こうして新たなメンバーを加えた彼等は第二東京市を発ちオルファンに向けて出発した。
 既にその中はロボット達で一杯であった。流石の大空魔竜でも収容には限界があるのである。
「まったく何でこんなにいるのよ」
 アスカは格納庫でエヴァ弐号機を見上げながらぼやいていた。
「これじゃあエヴァが出撃するのにも一苦労だわ」
「そういう問題じゃないと思うけど」
 隣にいたシンジがそれを聞いて呟いた。
「アスカの言っていることは少しずれてないかな」
「けれど事実よ」
 アスカはそれに対してそう言い返した。
「これにダイターンまで来たらえらいことになるわよ」
「万丈さんかあ」
「あんな巨大なのどうしろってのよ。それを考えると夜も眠れないわ」
「それは大袈裟だよ。大体万丈さん今何処にいるのかだってわからないのに」
「案外すぐに出て来るわよ」
「まさか」
「いえ、それがあの人だからね。いきなりここにでもニュッと」
「呼んだかい?」
 ここで爽やかな男の声がした。そして青い髪を立たせた青年が姿を現わしてきた。
「君達と会うのも久し振りだね」
「えっ、言ってる側から」
「万丈さん、どうしてここに」
「ははは、色々あってね」
 彼は笑いながらそれに応えた。
「僕もこれから一緒に戦わせてもらうことにしたんだ」
「いって僕達に言われましても」
「大文字博士に許可はもらったんですか!?」
「勿論さ。だからここにいるんだよ」
「はあ。それならいいですけれど」
「ダイターンは大丈夫なんですか?」
「ダイターン?何時でもいけるよ」
 万丈は笑ってそう答えた。
「何なら呼ぼうか」
「いえ、いいです」
「場所がありませんから」
 二人はきっぱりとそれを否定した。
「何だ、じゃあいいよ。ところで」
「はい」
「君達これからオルファンへ行くんだろう?それで僕も来たんだけれど」
「オルファンにですか?」
「そうさ。あそこには色々あってね」
「何でも地球を破壊するとか」
「浮上したら人類が滅亡するんでしょ?」
「さあ、それはどうかな」
 だが万丈はそれには笑うだけであった。
「どうなるかはわからないよ」
「?それはどういう意味ですか」
「まさかもっと酷いことが」
「それはこれからのお楽しみってところかな。ところで君達お腹が空いてないかい?」
「えっ?」
「もうお昼だろ。僕なんかここへ来ただけでもうお腹がペコペコなんだけれど」
「言われてみれば」
 二人はそれを認めた。
「じゃあ一緒にどうだい。丁度ギャリソンが用意してるしね」
「じゃあ御言葉に甘えまして」
「レイも呼ぶ?」
「けれど彼女はお肉は」
「ははは、大丈夫さ。今日はスパゲティだからね。ソースは何がいいかな」
「ナポリタン」
「あたしはネーロ」
「了解、じゃあ行こうか」
「はい」
 こうして三人は万丈の部屋へと向かった。そしてそこでスパゲティに舌鼓を打つのであった。それは次の戦いへの英気でもあった。


第十七話    完



                                2005・4・15