再会
 地上に出た二隻のオーラシップは日本に出た。そこは日本で第一の軍港横須賀であった。
「久し振りだな、ここに来るのも」
「ああ」
 タダナオとオザワは互いにそう話をした。彼等は何回かこの港に来たことがあるのだ。
 この港が開かれたのは明治以降であった。ここに目をつけた海軍が軍港を置いたのである。以後この横須賀は呉と並ぶ海軍の軍港となった。それは海軍から海上自衛隊、そして連邦軍になっても同じであった。今ここには多くの連邦軍の艦艇が停泊していた。
「あの戦艦は何だ?」
 ショウは港に見える変わった形の戦艦を指差した。
「えらく変わった戦艦だな」
 見れば艦橋がピラミッドの形をしている。見たこともない艦であった。
「ノヴァイス=ノアだな」
 タダナオがそれに答えた。
「ノヴァイス=ノア」
「ああ。連邦軍でも特別な艦でな。詳しいことは俺も知らない。任務とかも一切秘密なんだ」
「そうなのか」
「ああ。ただあの艦がここにいるなんて珍しいな」
「それを言ってた俺達がここにいるのも珍しいぜ」
 マサキがタダナオに対して言った。
「グランガランとゴラオンのことは知っている奴も多いからここには無事置かせてもらったけれどな」
「ああ、そうだったな」
 タダナオはマサキの言葉に頷いた。
「それにしてもよく置かせてもらったよ、こんなもの」
「全くだ」
 上を見上げる。そこには二隻の戦艦が浮かんでいた。
「まさかシュウがここに俺達を送るとは思わなかったな」
「一体何のつもりなんだろな」
「わからねえな」
 マサキはその問いに対して首を横に振った。
「あいつのやることはどうもよくわからねえ。企んでいるのは事実だろうがな」
「企んでいる」
「そうさ、あいつはそういう奴だ」
 顔を顰めながらそう言う。
「物腰は穏やかだが腹の中では何考えているかわかりゃあしねえ。だからあいつには注意しろよ」
「そうなのか」
 そう言われてもタダナオはピンとこなかった。シュウには悪い印象はないからである。
「まあここに来ちまったもんは仕方ねえな。俺も横須賀は行ってみたいと思ってたんだ」
「そうなのか」
「ああ。だから後で遊びに行かねえか。たまには洒落た街も悪かねえ」
「そうだな。じゃあ案内しようか」
「頼めるか?」
「ああ」
 タダナオは頷いた。横須賀はかってアメリカ軍の基地もありその街並みは異国情緒溢れるものであるのだ。かっての敵国の文化が色濃いというのも歴史の皮肉であろうか。
「店は大体知っているしな。ここは俺に任せてくれ」
「じゃあ頼むぜ」
「ちょっと待った」
 だがそれをオザワが止めた。
「何かあるのか?」
「あれを見ろ」
 オザワはそう言って前に広がる海を指差した。見れば空に一隻の巨大な戦艦があった。
「何だ、また変わった形の戦艦だな」
 トッドがそれを見て言った。
「大空魔竜だ」
 オザワがその艦の名を呼んだ。
「地球を防衛する為に建造された。だがあれは連邦軍の管轄下にはなかった筈だ」
「三輪長官は入れたがっているけれどな。上手くはいっていねえな」
「当たり前だ。あんなのにあの艦を渡したら大変なことになる」
 オザワはタダナオの言葉にそう返した。
「大体何であんなのに環太平洋区なんて重要な場所を任せているんだ?」
「岡長官が更迭されたからだろ」
「それもわからない」
 オザワはそれについても言った。
「あの人で問題はなかった筈だが」
「俺達にとって問題がなくても上の方は違うのだろうな」
「政治的配慮ってやつか」
「わかってるな」
「まあな。だがそれで迷惑する人間も多い。いや、上の方もあんなのはもてあますだろ」
「何かとんでもないおっさんみてえだな」
 マサキがそれを聞いて言った。
「軍国主義者ってやつか?」
「そんなアナクロなのがまだいるのかよ」
 トッドはそれを聞いて呆れたような声を出した。
「軍国主義者か。その通りだ」
 ここで鉄也が出て来た。
「あれ、あんたが何でここに?」
「久し振りだな、マサキ、ショウ」
 鉄也は彼等に声をかけてきた。
「俺達は大空魔竜に乗っていたんだ。それでここに来たのさ」
「そうだったのか」
「じゃあ甲児達も一緒だな」
「わかってるじゃねえか、マサキ」
 甲児が待っていたかのように姿を現わした。
「俺もさやかさんもいるぜ。あと新しい仲間も」
「宜しく」
 大介が彼等の前に出て来た。
「僕は宇門大介。グレンダイザーのパイロットだ」
「ああ、あんたがグレンダイザーのパイロットだったのか」
 タダナオはそれを聞いて言った。
「もっといかつい人かと思っていたけれど。まさかこんな涼しげな外見だとは思わなかったな」
「意外だったかな」
 大介はそれを聞いて微笑んで応えた。
「僕なんかで」
「いや」
 だがタダナオはそれを否定した。
「人は外見じゃわからないからな。顔は怖くても心は優しいことも多い」
「それで御前はミンメイを好きなのだな」
「悪いか?」
 オザワにそう言われて顔をムッとさせた。
「ミンメイさんは永遠のスターだぞ」
「それはミレーヌちゃんの為になる言葉だな」
「やるか?」
「やらないでか」
「まあ二人共待て」
 ショウが彼等の間に入って抑えた。
「折角懐かしい顔触れと再会できたのに。喧嘩することもないだろう」
「むっ、そうだな」
「じゃあこの話は後でだ。オザワ、いいな」
「ああ」
 二人はとりあえず矛を収めた。その間の大空魔竜の他のメンバーもやって来ていた。懐かしい顔触れもあればはじめて見る顔触れもあった。ショウもマサキもそれを見て目を細めていた。
「再会ってのはいいものらしいな」
 タダナオはそれを見てオザワに声をかけた。
「そうだな」
 オザワはそれに同意して頷いた。
「僕達のそれとは大違いだ」
「まあそれは置いておこうぜ」
 彼はここでは矛を手にとらなかった。オザワもであった。
「そうだな。ここは黙って彼等を見ているとしよう」
「ああ」
「へえ、あれがグランガランか」
「実際に見ると大きいわね」
 そこで子供の声がした。
「ん?」
 見れば勝平達がオーラシップを見上げていた。タダナオ達は彼等に声をかけてきた。
「何だ、あの船が気になるか?」
「ああ、ちょっとな」
 勝平はタダナオにそう応えた。
「そうか。まあ乗ってみると実際に本当に大きいってわかるからな」
「あの艦のクルーなんですか?」
 恵子が彼に問うてきた。
「あ、ああ」
 タダナオもオザワもそれに頷いた。
「魔装機に乗っているからな。ラ=ギアスから来たんだ」
「ラ=ギアス?」
「一言で言うと地下の世界かな
「地下の世界ねえ」
 宇宙太がそれを聞いて考え込んだ。
「何か俺達の知らないことが色々ありそうだな」
「な、僕の言ったとおりだっただろ」
 万丈が三人に対して言った。
「あのオルファンも凄かっただろ。あれもまだまだよくわかってはいないんだ」
「万丈さん」
「万丈?」
 タダナオとオザワはそれを聞いてすぐに反応した。
「もしかしてあんたはの破嵐財閥の」
「ああ、そうさ」
 万丈は二人の問いに答えた。
「わけあってね。今はこの大空魔竜隊に一緒にいるんだ。皆と一緒でね」
「ふうん、じゃあダイターン3も一緒か」
「ああ。呼べばすぐに来るよ。呼ぼうかい?」
「いや、今はいい」
 二人はそう言ってそれを断った。
「あんな大きいものがここに出たらまたややこしくなるから」
「そうか、じゃあ止めておくよ」
「ああ。ところでだ」
「何だい?」
「どうも地上でも何かと物騒になってるみたいだな。大空魔竜を見ていると」
「その通りさ。色々出て来てね」
 万丈はそれを認めた。
「だから今地球も大変なんだよ」
「そうか。じゃあ俺達がここに送り出された理由はそれかな」
「送り出された?」
「ああ。シュウ=シラカワって人にね。知ってるかな」
「よく知ってるよ。そうか、彼がか」
 万丈はそれを聞いて考える目をした。
「どうやらまた動き出したみたいだな」
「?まだ何かあるのか」
「それはおいおいわかることさ。ん!?」
 ここで万丈の携帯が鳴った。彼はすぐにそれに出た。
「ビューティか。どうしたんだい」
 彼は電話でのやりとりをはじめた。そしてそれが終わるとタダナオ達だけでなく他の者にも声をかけてきた。
「皆、ここにロンド=ベルが来るらしい」
「ロンド=ベルもか」
 タダナオはそれを聞いて呟いた。
「また凄いのが来るな」
「やっぱり知っているのかい」
「知らない筈がないだろう」
 タダナオは万丈にそう言い返した。
「連邦軍でも精鋭を揃えているからな。アムロ=レイ少佐にクワトロ=バジーナ大尉を筆頭にして」
 彼はまだアムロが中佐になったことを知らない。
「一条輝少尉やロイ=フォッカー少佐。艦長にブライト=ノア大佐。これだけの顔触れはそうはいないだろう」
「確かにね。最近じゃナデシコやダイモスも参加しているよ」
「ダイモス?火星開発のあれか」
「そうさ。火星がバーム星人という異星人に制圧されてね。ロンド=ベルに参加することになったんだ」
 オザワにそう答えた。
「それにしてもナデシコもか。凄い大人数になってるな」
「そうだね。その彼等もこっちに来る」
「さらに凄いことになるな」
「そうさ。楽しみにしていてね。それじゃあ」
 万丈はそう言うとその場を後にした。そして大空魔竜に戻った。後にはタダナオとオザワだけが残った。勝平達も万丈と共に向かった。
「何か大所帯になってきたな」
「そうだな」
 オザワはタダナオの言葉に頷いた。
「戦艦が六隻も集まるのか。派手なことになりそうだ」
「それだけならいいがな」
「?そりゃどういう意味だ」
 タダナオはその言葉に反応した。
「何かあるっていうのか」
「いや、そうじゃないが」
 オザワは言葉を濁した。
「何かな。何かあるような気がするんだ。僕の気のせいかも知れないが」
「いや」
 だがタダナオはそれに首を横に振った。
「御前が言うのなら何か起こるのだろうな」
 彼は友の勘の鋭さを知っていた。だからこう言ったのだ。
「あるとしたら海だ」
「海か」
「ああ。ここを攻めるとしたら海からしかないからな」
「そうだな」
 オザワはその言葉に頷いた。横須賀は後ろは山だ。攻めるには海からが最もよいのである。
「だがここに来るかな」
「来る奴は来る」
 タダナオはそれにそう答えた。
「だから用心も必要だな」
「そうだな。問題は何が来るかだが」
 彼等はそんな話をしながらショウや万丈達の中に入った。そして多くの者と知り合いになったのであった。

 翌日ロンド=ベルも横須賀にやって来た。既に難民達は安全な場所に降ろしている。少し遅れてアイリス達もやって来た。
「あの赤いのはどうなったんだい?」
「逃げられたよ」
 アイリスはジュドーの問いに首を横に振ってそう答えた。
「けれど地球にいる。また会うことになるだろうね」
「そうか」
 ジュドーはそれを聞いて応えた。
「あんたも何かと大変だな」
「別にいいさ」
 アイリスはそう答えた。
「あたしは別にそうは思っていないからね」
「そうか。あんたってそんな顔して強いんだ」
「強いかい?」
「ああ、俺はそう思うぜ」
 ジュドーはそう言った。
「パイロット向きなんじゃないか?その芯の強さは」
「まあアルテリオンに乗るのは嫌いじゃないからね」
「そうかい」
「ああ。それにツグミもいるし。ツグミと一緒ならあたしは何処へでも行けるから」
「私もよ」
 それを受けてツグミも言った。
「私もアイリスとならね。何処へでも行くわ」
「ツグミ」
 彼女はそれを聞いてその赤い目を優しくさせた。
「悪いね、いつも」
「それは私の台詞よ」
 ツグミも笑ってそれに返す。
「アイリスがいないとこのアルテリオンも動かないから」
「そんな。あたしは動かしてるだけだよ」
「いいえ、この子はアイリスを選んだから。だからこの子は飛べるのよ」
「あたしが」
「そうよ」
 ツグミは言った。
「アイリス、だから無理はしないでね。私だけでなくこの子まで何かあったら悲しむから」
「ああ」
 アイリスは頷いた。
「けれど貴女の性格からしたら無茶するでしょ」
「否定はしないよ」
「それは私がフォローするから。安心してね」
「頼んだよ」
「うん」
 そうしたやりとりをしながらロンド=ベルの三隻の戦艦とアルテリオンも横須賀に入った。そして大空魔竜隊やオーラシップと合流したのであった。六隻の戦艦が横須賀に揃った。
「こうして見ると壮観だな」
 ラー=カイラムの艦橋でアムロはそう呟いた。
「これだけの戦力が一度に集まるとは思わなかった」
「それは私も同じだよ」
 ブライトは友にそう言った。
「三隻だけかと思っていたからな」
「ああ。しかもその中にははじめて見る艦もあるな」
「艦だけじゃない。マシンもだ」
 ブライトはそう述べた。
「何でもガイキングやザンボットとかいうものまであるらしいぞ」
「それに魔装機もだな」
「ああ。それもサイバスターやガッテスだけじゃない。他のものまである」
「そこまであるからな。これから何かと大変だぞ」
「大変?ああ、成程な」
 アムロはそれを聞いて頷いた。
「あの人に対してどうするか、だな」
「そうだ。それでこれから色々と話をしたいと思っているのだが」
「俺と御前だけでか?」
「まさか」
 ブライトは微笑んでそれを否定した。
「私と御前だけだったらもうここで話は済んでいるだろう」
「確かにな」
「葛城三佐とフォッカー少佐、そして各艦の艦長達を呼んでくれ。そしてクワトロ大尉とバニング大尉も」
「了解」
 トーレスはそれに頷いて通信を入れる。こうしてラー=カイラムの会議室に主立った者達が集まった。来たのはブライトとアムロ、ミサト、フォッカー、シナプス、ユリカ、シーラ、エレ、クワトロ、バニング、そして大文字であった。彼等はそれぞれ
の席に着いた。
「それでははじめようか」
「はい」
 皆大文字の言葉に頷く。そして会議がはじまった。
「まずはこれからのことですが」
 ブライトが口を開く。
「今地球圏は大変な混乱の中にあります。それは地球を脅かす様々な勢力のせいです」
「その通りだ」
 大文字はブライトの言葉に頷いた。
「宇宙にいるティターンズやアクシズだけではない。地球にも様々な勢力が活動している」
「どのような者達でしょうか」
 シーラがそれに尋ねた。
「恐竜帝国やミケーネ王国といった地下にいた勢力です。今彼等が地表に出ようと活動を開始したのです」
「そしてそれに謎の敵。あの土偶ですね」
「はい」
 大文字はミサトに答えた。
「彼等は何でもガイゾックというらしいですが。文明を破壊する存在らしいです」
「文明を」
「はい」
「というと先の戦いの宇宙怪獣のようなものでしょうか」
「存在としてはそれに近いかと思います」
 シナプスにそう答えた。
「ただ彼等の行動はより直接的です」
「直接的とは」
 バニングが尋ねた。
「街や一般市民を狙うということです。彼等はチバでの戦いにおいて一般市民を狙おうとしました」
「何て奴等だ」
 フォッカーがそれを聞いて吐き捨てるようにして呟いた。
「ロクでもない連中らしいな」
「それが彼等にとって当然の行動だとしてもな。許すわけにはいかない」
 クワトロは冷静にそう答えた。
「あと宇宙にはバーム星人達がいます。そしてバルマーも尖兵を送って来ました」
「バルマーもか」
「はい」
 ブライトは大文字に言った後で頷いた。
「やはり彼等はまだ地球を諦めてはいなかったようです。これから本隊が来ると思います」
「何ということだ、バルマーまでか」
「厄介なことが続きますね」
 そう言うエレの顔はやや沈んだものであった。
「それだけではありません」
 ミサトがここで言った。
「我々はもう一つ厄介な敵を抱えることになるでしょうから」
「厄介な敵?」
「はい」
 真剣な時の顔であった。ミサトは鋭い声で言った。
「渚カヲルが生きています。彼もおそらく行動を移すでしょう。そして我々の前に立ちはだかります」
「まさか彼が生きているとはな」
 アムロがそれを聞いて顔を顰めさせた。
「あの時確実に死んだ筈なのに」
「それが何故かは私にもわかりませんが」
 ミサトは言葉を続ける。
「もしかすると我々が今調べているゼオライマーとも関係があるかも知れません?」
「ゼオライマー?」
 皆それを聞いて顔を上げた。大文字の声だけが他の者と違っていた。
「聞いたことがありますな。確か鉄甲龍という組織にいた木原マサキという科学者が開発したという」
「御存知でしたか」
「名前だけは。実は個人としても彼と会ったことがありますので」
「どのような人物でした?」
「そうですな」
 大文字はそれを受けて語りはじめた。
「天才なのは事実ですがその人間性は。とても褒められたものではありませんでした」
「そうですか」
 皆それを聞いてそのマサキという人物がどのような者であるか理解した。人格者として知られる大文字がそう言うからには相当問題のある人物であるからだ。
「ただ彼は十五年前に行方を断った筈ですが」
「はい」
 ミサトはそれに頷いた。
「ですが今急に彼の存在が情報にかかるようになったのです。ゼーレの残された情報を通じて」
「ゼーレの」
「ええ。どうやらその鉄甲龍はゼーレの裏組織であったようですから」
 ミサトはそう答えた。
「彼等の計画が失敗した場合に行動に移るのが目的のようです。その目的は世界の破壊です」
「また物騒な連中だな」
 フォッカーがそれを聞いて言った。
「それじゃあ恐竜帝国とかは変わりがない。とんでもない連中だな」
「私もそう思います。おそらく彼等は考えようによってはあのBF団よりも危険な組織であると思います」
「BF団よりもか」
「その目的が目的だけに放置しておいては危険であると思います」
「確かにな。葛城三佐の言う通りだ」
 シナプスがそれに同意した。
「我々はどうやらその鉄甲龍とやらも相手にしなくてはいけないようだな」
「我々も、ですか?」
 ユリカが彼に問うた。
「そうだ」
 シナプスは彼女にそう答えた。
「どのみち今我々はこれといって予定もないしな。大空魔竜隊に協力させてもらいたい。どのみち今この日本は危険な状態にある。放置してはおけん」
「確かに」 
 それにブライトも頷いた。
「だがまずはこれからの方針をおおまかに決めたいと思う」
 大文字が提案した。
「これから我々は集まって一つの部隊として行動するべきだと思うのだが。それについてはどう思うか」
「賛成」
 まずユリカが手をあげた。
「それでいいと思いますう」
「他には」
「私も異論はありません」
 エレが答えた。
「戦力は一つに集まっている方がいいですから」
「そうですね」
 それにシーラが賛成した。
「これから多くの敵と戦うことになるのを思うとそれがいいと思います」
「ふむ」
 大文字はそれを見てからシナプスとブライトに顔を向けた。
「御二人はどう思われますかな」
「我々ですか」
「はい」
「そうですな」
 まずはシナプスが答えた。
「私はそれでいいと思います。敵がこれだけ多いとなると」
「私も同じです」
 ブライトもそう言った。
「ただ一つ問題があります」
「あの人だな」
「ああ」
 アムロに答えた。
「あの人をどうするかだ」
「厄介ですね」
 ミサトがそれを聞いて難しい顔をした。
「あの人を説得するのは至難の技ですよ」
「だがやらなきゃどうしようもないな」
「それはわかっています」
 フォッカーにそう答えた。
「しかし」
「それなら心配はない」
 クワトロが彼女にそう声をかけてきた。
「彼については私のほうで話をしておく。そうしたコネもあるのでな」
「コネですか」
「あまりいい表現ではないがな。だがこう言った方がわかりやすいだろう」
「そうですね」
「それでいいか。三輪長官には私から話をしておくということで」
「お願いできますか」
「何、こうしたことには慣れているのでね」
 クワトロはあえて素っ気無く答えた。
「だから御気になさらずに。それよりもこれからどの敵と戦うのかを考えましょう」
「そうですな、まずは」
 彼等はこれからのことについて話をはじめた。何はともあれ六隻の戦艦とその部隊は一つになった。そしてロンド=ベルに編入されることとなったのであった。

「こうしてまた一つになったわけだな」
 コウが廊下を歩きながらキースにそう話をしていた。
「俺達にとっちゃ元からいた部隊だからそんなに違和感がないけれどな」
「強いて言うなら新しい顔触れが増えたってことか。あと昔の仲間と再会したと」
「そうだな。またショウや甲児達と一緒になるとは思わなかったぜ」
「俺もだ。しかしこれでロンド=ベルはさらに強くなったな。それは有り難いよ」
「ああ。今まで敵の数には正直困っていたし。御前もそれは同じだろ」
「まあな」
 コウはそれに頷いた。
「ネオ=ジオンにはあいつがまだいるしな」
 そう言って暗い顔をした。
「あいつか」
「そうだ。まだ決着はついちゃいない。俺はあいつを倒さなくちゃいけないんだ」
「ソロモンの借りか?」
「違う」
 それには首を横に振った。
「パイロットとして男として・・・・・・。あいつを倒したいんだ」
「そうだったのか」
 キースはそれを聞いて目の色を少し複雑なものにさせた。眼鏡の奥の目の色が変わった。
「御前も変わったな」
「そうか?」
「ああ。俺も変わらなくちゃな。じゃあ行くか」
「ああ」
 こうして二人は廊下を去った。それと入れ替わりに一矢とエリカがやって来た。
「エリカ、ロンド=ベルの話は聞いているかい?」
「ええ」
 エリカは一矢の言葉に頷いた。
「一つにまとまって行動することになったんだ。マジンガーやゲッターと一緒になるんだ」
「マジンガー?」
 だがエリカはそれを聞いて首を傾げた。
「それは何?」
「御免、記憶が戻っていなかったね」
 一矢はそれを聞いてエリカに謝罪した。
「マジンガーっていうのは地球のロボットなんだよ。ドクターヘルっていう悪い奴と戦った」
「そうだったの」
「他にも一杯いるけれどな。まあ皆かなり強いから」
「一矢よりも?」
「それは」
 ここで一矢は一瞬戸惑ったが言った。
「俺程じゃないけれどな」
「そうね。私にとっては一矢は一番強い人よ」
「それはどうしてだい?」
「心が。一矢は誰よりも優しいから」
「優しいのが強いのかい」
「そうよ」
 エリカは答えた。
「強いから本当に優しくなれるの。私はそう思うわ」
「エリカ・・・・・・」
 それを聞いた一矢の目が温かいものとなった。
「そこまで俺を・・・・・・」
「一矢・・・・・・」
 エリカも温かい目になった。二人はみつめ合う。だがその時であった。
 サイレンが鳴った。二人はそれにハッとした。
「敵襲!?」
「一矢、そこにいたか!」 
 京四郎とナナが駆けて来た。
「バームの連中が来た。すぐに出るぞ!」
「バーム星人が!」
「そうだ。どうやら敵さん地球に基地を置いたらしい。海からきやがった」
「地球にか」
 一矢はそれを聞いて暗い顔をした。
「恐竜帝国やミケーネまでいるってのに。辛いことになったな」
「ああ。だが今ここでそんなことを話している暇はないぞ」
「お兄ちゃん、行こう」
「ああ。エリカ」
 彼はここでエリカに顔を向けた。
「君は安全な場所にいてくれ。いいか」
「はい」
 エリカは頷いた。
「必ず戻って来る。だから心配はしないでくれ」
「わかってるわ、一矢」
 そして言った。
「信じてるから」
「有り難う」
 それを見てナナは思うところがあった。哀しげな顔になったがそれは一瞬のことであった。
「ナナ、行くぞ」
「うん」
 京四郎に応える。そして三人はその場を後にした。そしてダイモスとガルバーで出撃するのであった。
 それぞれのマシンが出撃する。そして戦艦達を中心にバーム軍を前に布陣した。シーブックが彼等を見て言った。
「地球にまでやって来るとは思わなかったな」
「それだけ向こうも必死ということよ」
 セシリーが彼にそう言葉をかけた。
「彼等には彼等の事情があるのだから」
「そうだな」
 シーブックはそれを聞いて頷いた。
「だが俺達はだからといって負けるわけにはいかない」
「ええ」
「セシリー、フォローを頼む」
「任せて、シーブック」
 バーム軍は次々に出撃して来る。その後ろには巨大なエイに似た母艦がいた。そこから高く澄んだ男の声が聞こえてきた。

「地球人共よ、聞こえているか!」
「!?」
 エリカはその声を聞いて表情を一変させた。
「余はバーム軍司令官リヒテルである!」
 背中に翼を生やした金髪の男がモニターに姿を現わしてきた。
「貴様等地球人には我が父リオンを殺されている。今その恨みを晴らしにここに来た」
「勝手なことを言うな!」
 一矢がそれに反論した。
「俺も御前達に親父を殺されている!」
「黙れ!」
 だがリヒテルはそれを聞いて激昂した。
「元はと言えば貴様等の姦計のせいだ。貴様の父は自らの罪の報いを受けただけだ!」
「俺の父さんはそんなことはしない!」
「では何故我が父は死んだ!」
「あれは何かの間違いだ!」
「問答無用!」
 リヒテルはこれ以上何かを言うつもりはなかった。そう言って話を打ち切った。そして左右に控えている大男と髪の長い妖艶な女に声をかけた。
「オルバス、ライザ」
「はっ」
 二人はそれに応えた。
「思う存分やるがいい。そしてこの戦いを我等の復讐のはじまりとするのだ」
「了解致しました」
「お任せ下さい、リヒテル様」
 二人はそう言うとそれぞれの機に移った。見ればリヒテルが乗っているものと同じものである。
「そなた等にそのガルンロールを与えよう」
「有り難き幸せ」
「それで思う存分地球人共に正義の鉄槌を下すのだ。余も行く」
「いえ、リヒテル様はここで戦局全体の指揮をお願いします」
 だがここでライザがこう言った。
「?何故だ」
「リヒテル様は我等の司令官です。何かあっては」
「ライザ」
 だがリヒテルはそれに対して嫌悪感を露わにした声を送った。
「余が奴等に遅れをとるとでもいうのか?」
「いえ、それは」
「ならわかるな。余計な詮索は無用だ」
「はっ」
「余も行く。そして自らの手で裁きを下してくれる」
「わかりました」
「わかればよい。では行くぞ!」
「はい!」
「全軍攻撃開始!地球人を一人残らず成敗せよ!」
 こうしてバーム軍の攻撃がはじまった。早速激しい応酬がはじまる。ミサイルやビームが交差し激突する。ナデシコもそれに参加していた。
「ミサイル撃っちゃって!」
「ミサイル発射です」
 ユリカとルリの声が艦橋で聞こえている。ユリカは身体全体を動かしながら言うのに対してルリは冷静なままであった。
「どんどん撃って!」
「はい、どんどん」
「ルリちゃん、それじゃわんこそばよお」
 ミナトが突っ込みを入れる。
「まあいいからいいから」
 ユリカがそう言う。
「そばならそばで打っていいから!」
「了解」
 ナデシコの艦橋は他の艦とは違っていた。やはり雰囲気が明るいのだ。いや、明るいというよりは能天気なものであった。その中心にいるのはユリカであるのは言うまでもなかった。
「さあ、敵の攻撃はちゃっちゃっとかわして」
「回避行動お願いします」
「わかったわあ」
 ミナトがナデシコを動かす。そしてライザのガルンロールの攻撃をかわした。
「よし!」
 ユリカが会心の笑みでガッツポーズをする。
「この調子でいっちゃって!激しく激しく!」
「待って下さい」
 だがそんな彼女をルリが嗜めた。
「どうしたの?ルリちゃん」
「今こちらに御客様が来られています」
「御客様?」
 見れば艦橋にエリカが来ていた。
「あれ、エリカさんここは」
「お願いがあるのです」
 エリカはユリカにそう言った。
「お願い」
「はい。この戦い・・・・・・見て宜しいでしょうか」
「ここでですか?」
「はい」
 ルリの問いに対して頷いた。
「貴女達だけ宜しければ。お願いできるでしょうか」
「う〜〜ん、本当は民間の人は艦橋に入れちゃ駄目なんだけど」
 ユリカは腕を組んで考えながらエリカに対して言った。
「それはわかっています。けれど」
「いいわ。そんな堅苦しいことはナデシコじゃ意味ないし。ルリちゃん、ハーリー君に椅子を一つ用意させちゃって」
「わかりました。ハーリー君、お願いできますか」
「はい」
 ハーリーはそれに応えてすぐにエリカを空いている席に案内した。
「ここでいいですよね」
「ええ。そこならいいです」
 ルリはそれを了承した。そしてユリカにまた言った。
「これでいいでしょうか」
「うん、いいわ」
 ユリカはそれを認めた。そしてまたエリカに対して顔を向けた。
「一応気をつけて下さいね。攻撃が当たっちゃうこともありますから」
「はい」
 エリカはまた頷いた。
「すいません。我が儘を言ってしまって」
「いいのよ。私だって我が儘なんだから」
「わかってたんですね」
 メグミがそれを聞いて少し驚いた声をあげた。
「意外」
「私だって自分のことはわかってるわよ」
 ユリカは笑いながらメグミにそう言葉を返した。
「まあ今はばびゅーんとやっちゃいましょ。いいわね」
「了解」
 それを受けてメグミ達は頷いた。そしてまた前に顔を戻した。
「ナデシコ突貫しちゃって!」
「はい!」
 ナデシコは前に出た。そして敵への攻撃をさらに強めるのであった。
「地球人共よ、降伏はしないのか!」
 戦いの中リヒテルの声が響く。エリカはそれを聞いて眉を顰めた。
「また。この声は」
「降伏だと!?」
 ピートがそれを聞いて怒りの声をあげた。
「何故俺達が貴様等なぞに降伏しなくちゃいけないんだ!」
 サンシローも言った。
「全てはバーム十億の民の為だ」
 それに対してリヒテルは昂然を胸を張って答えた。
「我等に安住の地を与える為だ」
「勝手なことを言うな!」
 サンシローの怒りが爆発した。怒気を露わにして叫ぶ。
「侵略して来たのは御前達だろうが!それで虫のいいことを言うな!」
「黙れ!」
 だがリヒテルはそれを頭から否定してまた叫んだ。
「我が父を殺しておきながらよくそんなことが言えるな!」
「俺達は御前の親父さんなんか殺しちゃいない!」
「そうだ。誰がやったか知らないがそれを人類全ての罪にするな!御前が言っていることは単なる偏見だ!」
 一矢も叫ぶ。だがそれでもリヒテルの怒りは収まらなかった。
「どうしても余の言葉に従わぬつもりか」
「当たり前だ」
 一矢は吐き捨てるようにして言った。
「御前の言葉が間違っている限りはな」
「ぬうう、よくぞ言ったそこの地球人よ」
 リヒテルはダイモスを見据えてそう言った。
「名を聞こう。何というか」
「一矢。竜崎一矢だ」
 彼は名乗った。
「そしてこれはダイモス。俺の愛機だ」
「竜崎一矢・・・・・・ダイモス」
 リヒテルはその名を復唱した。
「覚えたぞ。今この場で貴様を倒してくれようぞ」
「できるのか?貴様に」
「余は誰にも遅れをとった覚えはない」
 リヒテルは即座に言い返した。
「我が友以外にはな」
「ふん、じゃあ掛かって来るんだな」
「望むところ」
 リヒテル、そしてガルンロールの姿がナデシコのモニターにも映る。それを見てエリカの顔が一変した。
「あれは・・・・・・!」
「どうしたの、エリカさん」
 ユリカが彼女に問うた。
「そんなに驚いて。あの敵の司令官がどうしたんですか?」
「いい男なのは事実よね」
 ミナトがリヒテルの顔を見ながら言った。
「ちょっときついけれど」
「確かに顔は悪くないですね。けれど人間的には余裕がないと思います」
 ルリは彼の人間性まで見ていた。
「生真面目ですけれどまだ若いです。周りもよく見えていないと思います」
「兄上!」
 エリカは叫んだ。
「兄上って!?」
 ナデシコの艦橋のクルーはそれを聞いて顔をエリカに向けた。
「兄上、もう止めて下さい!」
「その声は」
 リヒテルも気付いた。ガルンロールに入ってきたエリカの声にハッとする。
「エリカ、エリカだというのか!」
「兄上、戦いを止めて下さい!」
「エリカ!」
「おひいさま!」
 リヒテルの横にいる初老のバーム星人も驚きの声をあげた。彼女はリヒテルの乳母であり妹の侍女でもあるマルガリーテである。
「エリカ、御前は今地球人共と一緒にいるというのか!」
「生きてらしたとは・・・・・・!」
 驚きをそのまま維持するリヒテルに対してマルガリーテは顔を喜びに変えようとしていた。
「エリカさん、これどういうこと!?」
「あの敵の司令官が貴女のお兄さんだなんて」
「皆さん、御免なさい」
 エリカは席を立ちナデシコのクルーに謝罪した。
「今全てを思い出しました。私はバーム星人だったのです」
「そんな・・・・・・」
「これは一体どういうことなんだ!?」
 それを聞く一矢は冷静さを完全に失っていた。
「エリカがバーム星人だったなんて。そんな筈がないだろう!」
「落ち着け、一矢」
 そんな彼を京四郎が嗜めた。
「話はまだ終わっちゃいないぞ」
「しかし」
「だから落ち着けと言ってるんだ」
 それでも京四郎は彼を嗜めた。
「いいな」
「・・・・・・ああ」
 一矢はそれに従った。そしてエリカを見た。見れば皆戦いを中断しエリカに注目していた。
「すいません、皆さん」
 エリカは言った。
「私は・・・・・・全てを思い出しました」
 そう言うと艦橋を後にした。そしてそのまま格納庫へ去っていく。
「待って、エリカさん!」
 ハーリーが呼び止めようとする。だがルリがそれを制した。
「ルリさん、どうして」
「ハーリー君」
 ルリは表情を消しながらも優しい声で彼に語りかけてきた。
「今は追う時ではありません」
「けど」
「わかりますから。私はエリカさんと一矢さんを信じています」
「・・・・・・信じているんですか」
「ええ。だから今は行かせてあげるべきです」
「わかりました」
 ハーリーは頷いた。そして彼は動きを止めた。
 ルリの言葉にユリカ達も従うことにした。彼女達はそのままエリカを行かせた。
「どんな苦難があってもあの二人は乗り越えます」
 ルリはまた言った。
「そしてその先には」
 エリカはナデシコを出た。そして予備のガルバーで出る。だがそこで大空魔竜に乗るピートが叫んだ。
「行かせるか!スパイを逃がすな!」
「やはりな」
 京四郎はそれを聞いて呟いた。
「おかしいとは思っていたが」
「京四郎、それはどういう意味だ」
 一矢が彼にくってかかってきた。
「まさか御前はエリカを疑っていたのか」
「ああ、そうさ」
 彼はすぐにそう答えた。
「そう思うのが普通だろう。スパイじゃないかってな」
「エリカはスパイなんかじゃない!」
 彼は叫んだ。
「じゃあ何で今逃げるんだ?」
「それは・・・・・・」
 彼は答えられなかった。そのかわりにエリカの乗るガルバーに顔を向けた。
「エリカ、説明してくれ!」
「一矢、御免なさい」
 だがエリカはそう答えた。
「そんな、こんなことが・・・・・・」
「私はバーム星人、リヒテルの妹です」
「エリカが父さんの仇の妹だったなんて・・・・・・」
 一矢は呆然としていた。今何が起こっているのか把握できてはいなかった。
「こんな、こんなことが・・・・・・」
「貴方を騙すつもりはなかったのは信じて下さい」
「エリカ」
「貴方はお慕いしてはいけない人・・・・・・さようなら」
 そしてバームの方へ行く。ダイモスはそれを追おうとする。
「行くな、エリカ!」
「一矢!」
 エリカは振り向こうとした。だがそれを止めた。
「駄目」
 行ってはいけないことはわかっていた。振り向きたくとも。
(どうして好きになってしまったの・・・・・・。愛してはいけない人なのに・・・・・・)
 涙が溢れる。それを止めることはできなかった。
「エリカ!」
 一矢はまた彼女の名を呼んだ。
「君がバーム星人でも父さんの仇の妹でも関係ないんだ!」
「一矢・・・・・・」
「だから・・・・・・戻ってきてくれ!」
「ああ、一矢・・・・・・」
 エリカのガルバーの動きが止まった。それを見てリヒテルは叫んだ。
「どうした、エリカ!こちらに合流するんだ!」
「兄上、御免なさい」
「何、何を謝るのだ」
「エリカは死にました。ですから・・・・・・」
「どういうことだ!?」
「ですから・・・・・・追わないで下さい」
「エリカッ!」
 一矢とリヒテルが同時に叫んだ。
 一矢のもとへ行こうとする。だがそこにライザのガルンロールが来た。
「ああっ!」
「エリカ!」
 一矢が彼女の名を呼んだ。
「エリカ様、たいがいになさいませ!」
 ライザが怒りに満ちた声で叫んだ。
「貴女のお兄様は戦っておられるのですよ!それがわからないのですか!」
「ああ、一矢・・・・・・」
 エリカのガルバーはガルンロールの中に収容された。こうしてエリカは捕らえられてしまった。
「でかした、ライザ」
 それを見てリヒテルはライザにねぎらいの声をかけた。
「有り難うございます」
 ライザはモニターに映るリヒテルに対して礼を述べた。そして申し出た。
「リヒテル様、私はエリカ様の保護の為戦場を離脱したいのですが」
「うむ、そうだな」
 そしてリヒテルはそれを認めた。
「では下がれ。くれぐれも頼むぞ」
「ハッ、それでは」
 ライザのガルンロールが戦場からの離脱を開始した。一矢はそれを見て追おうとする。
「待ってくれ、エリカ!」
「一矢!」
 エリカも彼の名を呼んだ。
「俺はまだ君と何も話してはいないんだ!待ってくれ!」
「一矢、御免なさい」
 それでもエリカとの距離は離れるばかりである。一矢は消えようとするエリカの乗るガルンロールに対して叫んだ。
「俺は・・・・・・俺は君が好きなんだーーーーーーっ!」
「一矢さん・・・・・・」
 ロンド=ベルの者達はそんな一矢とエリカを見て言葉を失った。同時に二人の愛の深さも知った。
「お兄ちゃん・・・・・・」
「あの野郎、短い間にあそこまで・・・・・・」
 それはナナと京四郎も同じだった。二人はそれぞれ眉を顰めて二人を見守っていた。
「エリカァァァァァッ!」
 ダイモスが飛び出た。その前にガルバーが出て動きを止めた。
「待て一矢、何のつもりだ!」
 京四郎が彼に声をかけた。
「まさか追うつもりじゃないだろうな!」
「止めるな京四郎!」
 それでも一矢は行こうとする。ダイモスは必死にエリカを追おうとする。京四郎はそんな彼に対して言った。
「馬鹿、状況をよく見ろ!」
「そんなもの!」
「落ち着け!今御前一人が飛び出したところで何になる!」
「エリカを救い出せる!」
 一矢は叫んだ。
「まだわからないのか!」
「わかってたまるか!」
「待て、一矢君」
 そんな彼に竜馬が声をかけてきた。
「リョウ」
「京四郎君の言う通りだ。今君一人が言っても何にもならない」
「クッ・・・・・・」
 一矢はそれを聞いて歯軋りするしかなかった。
「それよりも今はバームの戦力を少しでも削っておくんだ。いいな」
「エリカを見捨てろというのか!」
「彼女はバーム星人だ」
 鉄也も彼に対して言った。
「敵側の人間だ。おいかけてどうするつもりだ」
「じゃあエリカは」
「一矢」
 京四郎はまた彼に声をかけてきた。
「今は戦うことに専念しろ。いいな」
「・・・・・・わかった」
 彼はようやく頷いた。そして元の場所に戻った。そして戦いを再会した。
「フン、地球人めが」
 リヒテルは怒りに満ちた目でロンド=ベルを見据えた。
「我が妹をたぶらかした罪も償ってもらおうぞ。バルバス」
「ハッ」
 ここでバルバスに声をかけた。既にライザのガルンロールは戦場を離脱していた。
「思う存分やれ。容赦はするな」
「畏まりました、リヒテル様」
 それに応えるとロンド=ベルを見据えた。
「行くぞ、ロンド=ベル」
「望むところだ」
 一矢にかわって忍がそれに応える。
「かかってきやがれ、この翼野郎!一人残らず始末してやるぜ!」
「どうやら地球人も戦いを怖れぬようだな」
「それはあたしだってそうだけれどね」
「俺だって。御前等にやられてたまるかよ」
「今ここで葬ってやる」
 獣戦機隊の心に炎が宿った。そしてダンクーガを気が覆った。
「やるぜ、皆!」
「おう!」
 他の三人が忍の声に応える。忍はそれを受け取ると断空砲を放った。
「いっけえええええええええええっ!」
 それで目の前にいる敵を薙ぎ払う。それで終わりではなかった。
「まだだっ!」
 剣を抜く。そして敵の中に殴りこむ。
「断・空・剣!」
 それで敵を両断していく。バーム軍の陣にそれで穴が開いた。
「藤原!」
 ダンクーガにアランが声をかける。
「後ろは俺に任せろ、いいな!」
「おう、頼むぞ!」
 ダンクーガは将に鬼神の如き戦いを見せる。それにライディーンが続く。
「ミスター、サポートを頼む!」
「任せろ!」
「洸さんは敵の主力をお願いします!」
 神宮寺と麗が彼に言う。洸はそれを受けたうえで弓を構えた。
「ゴォォォォォォッドゴォォォォォォガァァァァァァァァァァンッ!」
 狙いを定める。矢が光となって放たれる。そしてそれで敵を射抜いていく。見事な腕前であった。
 その穴にロンド=ベルが雪崩れ込む。巨大ロボットを戦闘にバルキリーやダンバイン、ブレンパワードが左右を固める。モビルスーツとヘビーメタルは海岸線でそれをサポートする。見事な連携であった。
「ほう」
 リヒテルはそれを見て不敵に笑った。
「どうやら地球人共もそれなりに戦いを知っていると見える」
「リヒテル様、如何為されますか」
 側に控える部下の一人がそれに尋ねた。
「決まっておろう。我等は我等の戦いをするのみだ」
 彼はそれに対してこう答えた。
「ダリを中心に戦線を再構築せよ。奴等の勢いを殺せ!」
「ハッ!」
 リヒテルの命を受けて部隊が動く。そしてロンド=ベルを阻もうとする。だがそれよりも前にロンド=ベルが突撃を仕掛けてきたのだ。
「やるぜ、皆!」
「豹馬、調子にのんなや!」
「わかってらい!」
「そう言っていつもわかってないじゃない」
「まあそれが豹馬どんのいいところでごわす」
「そういうことですね」
 コンバトラーとダイモスもその中にいた。そして敵を蹴散らしながらそのまま突き進む。そしてリヒテルとバルバスのガルンロールに迫ってきた。
「健一」
 豹馬は二機のガルンロールを前にして健一に対して声をかけてきた。
「俺はあの左のやつをやる」
 そう言ってバルバスのガルンロールを指差す。
「御前はもう一機を頼む」
「わかった」
 健一は頷いた。そしてコンバトラーとダイモスは左右に散った。
「貴様が敵の司令官だな」
 健一はリヒテルに問うた。
「如何にも」
 リヒテルは臆することなく答えた。
「地球人よ、何か言いたいことはあるか」
「貴様は俺の兄さんに似ている」
「何っ!?」
 リヒテルはそれを聞いて眉を顰めさせた。
「馬鹿を言え、何故余が貴様等等と」
「俺の兄さんはボアダンの貴族だった」
「ボアダン!?あのボアダンか」
「そうだ」
 ボアダンのことはリヒテルも知っていた。
「では貴様はボアダンの者だというのか」
「半分はな。だがそんなことは関係ない」
「どういうことだ」
「俺は地球の為に戦う。それだけだ」
「フッ、その心意気は褒めてやろう。だが貴様の兄と余が似ているとは聞き捨てならんな。どういうことだ」
「貴様は誇り高い。だがその誇り故に見える筈のものが見えなくなっている」
「余を愚弄するか」
「愚弄なんかしてはいない。だが貴様にもそれがわかる時が来る。兄さんもそうだったからな」
「貴様の兄の名を聞いておこうか」
「ハイネル」
 健一は答えた。
「プリンス=ハイネルだ」
「プリンス=ハイネルか。覚えておこう」
 リヒテルはその名を呟いて健一に答えた。
「それではもうよいな。死ね!」
 そして攻撃に移った。破壊光線でボルテスを粉砕しようとする。だがボルテスはそれをかわした。
 逆に攻撃に移る。彼は天を見上げて力を集めた。
「天・空・剣!」
 今度は胸から剣を取り出した。そしてその剣を斜めに構える。
「うおおおおおおおおっ!」
 それでガルンロールに斬りつける。そしてそれで大破させた。
「これでどうだっ!」
「ぬううっ!」
 ガルンロールが激しく揺れた。だがそれでもリヒテルは立っていた。
「まだだっ!貴様等なぞにやられるものかっ!」
「何処までも兄さんに似ている」
 健一はそんなリヒテルを見て思った。
「それならば・・・・・・!」
 攻撃を続ける。今度は駒を取り出す。
「超電子コマーーーーーーッ!」
 それでガルンロールを撃とうとする。だがその前に一機のダリが現われそれを全て撃ち落とした。
「何っ!?」
「リヒテル様、ここはお下がり下さい」
 そしてそれに乗る一人の男がリヒテルにそう言った。
「そなたは!?」
「ハレックです。ガーニー=ハレックです」
「武術指南役のか」
「はい」
 黒い髪をした精悍な顔立ちの男が応える。
「ここはお下がり下さい。これ以上の戦闘は無意味です」
「馬鹿な、何を言う」
 リヒテルは即座にそれに反論した。
「今ここで逃げることはならん」
「逃げるのではありません」
 ハレックはそれに対して言った。
「撤退です。既に我が軍もガルンロールもかなりの損害を受けております。これ以上戦っても損害を増やすだけかと思います」
「ぬうう」
 リヒテルは呻いた。だがガルンロールの損害もバーム軍自体の損害も無視できないことは事実であった。そして彼はそれを認めた。
「わかった。ここはそなたの言葉に従おう」
「有り難き幸せ」
「地球人共よ」
 彼はロンド=ベルに対して言った。
「その命、暫しの間預けておこう。だが忘れるな」
 言葉を続ける。
「貴様等はバームの神によって裁かれる運命にあるということをな!」
 そう言い残して戦場から離脱した。後にはロンド=ベルの面々だけが残った。
「行っちまったか。また濃い奴が現れやがったな」
「あんたにとっちゃ敵はそれで片付くのね」
 アスカが甲児の言葉に呆れた声を出した。
「じゃあ何で言えばいいんだよ。ガルーダ二世とでも言うか?二代目シャーキンでもいいぜ」
「だから簡単に言うのは止めなさいよ。だから馬鹿だって言われんのよ」
「言ってるのはおめえだけじゃねえか」
「うっさいわね」
「じゃあ認めるんだな。おめえだけだって」
「だからどうしたっていうのよ」
 反撃に転じてきた。
「あんたが単純馬鹿なのは変わらないわよ」
「何、俺が単純馬鹿だってえ!?」
「違うの!?あんたみたいなのはそうそういないわよ!」
「このアマ、言わしておけば!」
「何、やろうっての!」
 二人はまたいがみ合いをはじめた。だが皆それを見ても落ち着いていた。
「止めなくていいのか?」
 ケーンがジュドー達に尋ねた。
「ああ、あの二人は放っておいていいぜ」
「喧嘩する程仲がいい」
「そういうこと」
 そう言って誰も間に入ろうとしない。それを見てケーンは首を傾げた。
「そういうもんかね」
「まあここはそういうところですから」
 そんなケーンにカトルが答えた。
「ですから気にしなくていいですよ」
「そうか。じゃあ気にしないぜ。それでいいな」
「はい」
 そんなやりとりをしながらロンド=ベルの面々は集結した。それぞれの艦に戻る。一矢はナデシコに入るとすぐに艦橋に向かった。
「何でエリカを行かせたんだ!」
 一矢はナデシコのクルー達にそう叫んだ。
「エリカは・・・・・・」
「一矢さん」
 そんな彼にユリカが声をかけてきた。
「何だ!?」
「あの人はバーム星人だったのよ。言って悪いことはわかってるけど」
「それがどうしたっていうんだ!エリカは俺の・・・・・・」
「大切な人なのですね」
 また叫ぼうとする彼に今度はルリが声をかけてきた。
「あ、ああ・・・・・・」
 ルリの静かで落ち着いた声を聞いて彼は少し落ち着きを取り戻した。
「そうだ。けれど・・・・・・」
「ですから私達はあの人を行かせたのです」
「何故だ」
「貴方が大切に思う人に傷をつけられるでしょうか。あの人を止めたなら自分で命を絶たれたかも知れません」
「エリカが!?馬鹿な」
「一矢さん、貴方は心優しい方です。おそらく貴方はあの人がいる限りあの人を守られると思います」
「それが悪いというのか」
「あの人にとっては」
 ルリの声が少し哀しみを帯びたように聴こえた。
「あの人も心優しい人です。貴方が自分の為にそうして苦しむのを見たくはないでしょう」
「だからといって・・・・・・」
「安心して下さい」
 あえて語気にほんの少しだが力を入れた。
「あの人は無事です。そして必ずまた貴方の前に現われるでしょう」
「何故そう言えるんだ!?」
「愛があるからです」
 ルリは率直に言った。
「愛、が」
「はい。一矢さん、貴方はエリカさんを愛しておられますね」
「ああ」
「そしてエリカさんも貴方を愛しておられます。それで充分です」
「それだけで何とかなるというのか」
「そうです。私はそう思います」
「何故だ、何故そんなことが言えるんだ」
「愛は不滅だからです」
 ルリは一矢を見てそう言った。
「この世で最も強いものだからです」
「・・・・・・・・・」
 一矢は答えられなかった。だがそれで感情は完全に鎮まった。
「私は一矢さんとエリカさんが必ずもう一度笑い合って過ごせる時が来ると思っています。ですからご自重下さい」
「・・・・・・わかった」
 一矢は頷いた。そして艦橋を後にしたのであった。
 ナデシコのクルーはそれを見守っていた。見ればパイロット達もそこにいた。
「ったく、とんでもねえ馬鹿だな、あいつは」
 リョーコは一矢の後ろ姿を見て呆れた声を出していた。
「よくあんなので今まで生きてこれたもんだぜ」
「そうですか?私はいいと思いますよ」
 ヒカルはそれとは異なる考えであった。
「あんなに熱い人なんてそうそういませんよ」
「俺はどうなるんだ」
 ガイがクレームをつけてきた。
「ガイさんはガイさんで。けれど一矢さんって本当にエリカさんを愛しておられるんですね」
「そうだな。だがそれで周りが見えなくなっている」
 ナガレは冷静に一矢を見ていた。そしてそう述べた。
「それが仇にならなければいいが」
「そん時は俺達がフォローすればいいじゃないか」
「サブロウタ君が言うと何か意外ですね」
「本当はジュンさんが言うところだけれどな。けれどな、あんな人は放っておけないだろう」
「まあな」
 リョーコは渋々ながらそれに同意した。
「あそこまで純粋で一途だとな。応援したくなる」
 ナガレもそうであった。
「私とアキトみたいなものだからね。本当にいいわあ」
「ここで艦長が言わなかったら本当に最高だったのだけれど」
「それは言わない約束よお」
 メグミとハルカはそう話をしていた。こうして一矢を何とか宥め大人しく引き下がらせたのであった。
「あいつへの処罰は何もなしですか」
「そうだ」
 大空魔竜では大文字がピート達にそう説明をしていた。
「損害も予備のガルバー以外ないしな」
「それだけでも十分だ」
 ピートはサコンにそう反論した。
「あの女はスパイだったんだぞ。そしてあいつはスパイと一緒にいた。それだけでも重罪だ」
「ピート、それはどうかな」
 だが健一はここでピートに対してそう言った。
「それは偏見じゃないのか」
「偏見!?俺がか」
「ああ」
 健一は彼に答えた。
「確かに彼女はバーム星人だ。けれど同じ人間じゃないのか」
「人間!?」
「そうだ」
「ピート」
 ここでサンシローが彼に声をかけてきた。
「健一はボアダン星人とのハーフだぞ。それはわかってるな」
「ああ」
 それはピートにもよくわかっていた。
「ダバ達もだ。そしてガラリアやニー達はバイストンウェルから来ている。それもわかってるな」
「わかったうえで言ってるんだ」
 ピートはサンシローにそう反論した。
「異星人や地下勢力との戦いで情は無用だ。かけたらやられるのはこっちだ。それは健一、御前が最もよくわかってることじゃないのか」
「それはわかってるさ」
 健一は答えた。
「俺だって全ての異星人とわかりあえるとは思っちゃいないさ。けれど彼等とは平和交渉の段階までいっていたんだろう?」
 彼は言葉を続けた。
「不幸な事件はあったけれどそれで一方的に拒絶するのはどうかと思うんだが」
「・・・・・・・・・」
 ピートは沈黙した。健一はそれを受けて言葉を続けた。
「ピートの言いたいこともわかってるさ。けれど俺はバーム星人と機会があればもう一度話し合うべきだと思っている。その時には」
 ここでナデシコの方を見た。
「一矢とエリカさんが地球とバームの架け橋になる・・・・・・。そんな気がするんだ」
「健一」
 めぐみ達がそんな彼に声をかけてきた。ピートは沈黙したままである。だが彼もその目はナデシコに向いていた。そこに架け橋があるのだから。

 戦場を離脱したバーム軍は海中へと入っていった。そして海底に置かれている基地に戻った。リヒテルはガルンロールから降りるとすぐに司令室に向かった。エリカも一緒である。多くの機械やコンピューターが置かれ多くのバームの者達がつめていた。極めて機能的な司令室であった。
「おひいさま、よくぞご無事でした」
 司令室に来るとマルガレーテがすぐにエリカに声をかけてきた。
「マルガレーテ、心配をかけて御免なさい」
 エリカもマルガリーテにそう言葉をかけた。その姿はまるで実の親子のようであった。
 だがリヒテルは違っていた。彼は妹を厳しい目で見据えながら問うてきた。
「エリカ」
「はい」
「率直に尋ねよう。何故そなたは地球人達とかくも長い間共にいたのだ?」
 その声も厳しいものであった。
「若」
 そこへマルガレーテが入って来た。
「おひいさまは記憶を失われていて」
「余はエリカに問うているのだ」
 だがリヒテルの言葉は厳しいままであった。
「エリカ、余は兄として問うているのではない。地球攻略司令官として問うているのだ。よいな」
「はい」
 エリカは答えた。その声からは覚悟が窺えた。
「答えよ、エリカ。何故一緒にいたのか」
「・・・・・・・・・」
 だがエリカはそれに答えなかった。ただ兄を見据えているだけであった。
「何故答えぬのだ」
 リヒテルはまた問うた。
「言えぬというのか」
「いえ」
 だがエリカはここで口を開いた。
「お答えします。私は地球の若者に恋を抱きました」
「何っ!?」
「ああっ・・・・・・」
 リヒテルはそれを聞き声を荒わげた。マルガレーテは嘆いた。
「素直に申し上げます。私は今地球の若者と恋に落ちております」
「馬鹿な、我等が父が奴等に謀殺されたのを知っているのか!」
「はい」
 エリカは答えた。
「それでも申し上げているのです。私は地球の若者を愛しております」
「まだ言うか」
「何度でも」 
 エリカも引き下がらなかった。
「ぬうう」
 それを聞いてリヒテルの顔色が変わった。見るみるうちに紅潮していく。
「ならもう言葉もない、エリカよ」
「はい」
「今ここで成敗してくれる、そこになおれ」
 剣を抜く。そしてエリカに詰め寄ろうとする。
 エリカは一歩も動かない。ただリヒテルを見据えているだけである。そして言った。
「兄上、御聞き下さい」
「黙れ!」
 リヒテルは叫んだ。
「裏切り者の言葉なぞ聞く必要はない。せめてもの情だ。世自らの手で始末してくれる!」
「若、お止め下さい!」
 そんなリヒテルをマルガレーテが止めた。二人の間に入ってきた。
「どけ、マルガレーテ!」
 リヒテルはそんな彼女をどけようとする。だが彼女は引き下がろうとはしなかった。あくまでエリカの前に立ち彼女を守ろうとする。
「この様な光景を御父様が御覧になれば・・・・・・」
「その父を殺したのは地球人だ!その地球人を愛するなぞどういうことだ!」
「どうしてもというのなら私をお斬り下さい」
 マルガレーテは言った。
「何!?」
 それを聞いたリヒテルの動きが止まった。
「どういうつもりだ、マルガレーテ」
「おひいさまをお育てしたのは私です。全ては私の責任です」
「馬鹿な、何を言う」
 リヒテルは戸惑った。彼もまたマルガレーテに育てられたのだからこれは当然であった。
「ですから、ですからエリカ様だけは・・・・・・。それだけはなりません」
「クッ・・・・・・」
 さしものリヒテルの動きも完全に止まった。掲げていた剣を下ろす。
「勝手にするがいい」
 負けた。彼は妹を斬ることを遂に諦めたのであった。
「だが許しはせぬ。そなたを牢に入れる」
「はい」
「裏切り者を許すわけにはいかぬ。よいな」
「若・・・・・・」
「マルガレーテ」
 リヒテルはマルガレーテをキッと見据えた。
「最早余に肉親はおらぬ。よいな」
「わかりました・・・・・・」
「余はこの世に一人だ。一人しかおらぬのだ」
「わかりました」
「よし。衛兵達よ」
 そう言うと彼は左右の兵士達に声をかけた。
「ハッ」
 翼を生やした兵士達がそれに応えた。
「裏切り者を連れていけ。よいな」
「わかりました。さあ、こちらへ」
「はい」
 エリカは彼等に従った。大人しくそれに従い司令室から消えた。
(さようなら、一矢)
 彼女は最後に心の中で呟いた。リヒテルはそれを何も言わず見送っていた。
「これ」
 そしてまた別の兵士達に声をかけた。
「ライザとオルバスに伝えよ。再度地球人共を殲滅するとな」
「わかりました」
 兵士達はそれに頷いた。
「そしてハレックだ。あの者にも出てもらう」
「ハレック様もですか」
「そうだ」
 リヒテルはその言葉に頷いた。
「地球人共の力、決して侮ることはできん。それはわかるな」
「はい」
 リヒテルは決して無能ではなかった。地球人達を憎んではいたがその力まで侮ってはいなかったのであった。
「あの男の力が必要だ。是非とも出てもらいたい」
「わかりました」
 こうして次の作戦が決まった。横須賀はなおも戦火に晒されようとしていた。


第十九話    完




                                   2005・4・29


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