天の光、双子の邂逅
 幽羅帝の命でアルマアタに向かったシ=アエンとシ=タウであったがそこで二人が目にしたのは廃墟と化した自分達の基地であった。
「これは」
 既に誰もいなかった。廃墟だけが拡がっていた。
「火も水も使っていない。やはり」
「そうね」
 シ=アエンは妹の言葉に頷いた。
「あの男ね。間違いないわ」
「すぐに仇を」
「それはできないわ」
 だが姉は妹をそう言って制止した。
「何故」
「今我々はゼオライマーを倒さなくてはならない」
 そしてこう語った。
「その任務の方が先よ」
「その通り」 
 それに答えるかのように二人の前に幽羅帝が姿を現わした。ホノグラフィーであった。
「帝」
 二人はそれを受けて跪いた。
「よい。それよりもわかっていますね」
「はい」
 二人は答えた。
「すぐにゼオライマーを追いなさい。そして倒すのです」
「わかりました」
「木原マサキを必ず殺すように。よいですね」
「はっ」
「それでは行きなさい。吉報を待っていますよ」
 そう言って姿を消した。後にはシ=アエンとシ=タウだけが残った。
「行くわよ」
「ええ」
 二人はすぐにその場を後にした。そして戦いに赴くのであった。

 ロンド=ベルは一路オデッサに向かっていた。途中カスピ海北岸にやってきた。
 ここは中央アジアにある世界最大の湖である。あまりもの大きさに海とまで呼ばれている。
 その水は独特で塩気すらある。これをもって海と呼ばれる一面もあった。
 今彼等はその北岸を移動していた。ふとユリカが言った。
「ねえねえ、ここで海水浴できたら気持ちいいと思わない?」
「えっ、海水浴」
 それを聞いたナデシコのクルーが皆驚きの声をあげた。
「ええ。最近戦いばっかりだったじゃない」
「確かに」
「お肌も荒れちゃったわねえ」
 メグミとハルカがそれに合わせて言う。
「そういった疲れを癒す為に。どう?」
「アキトさんと一緒にですか」
「もっちろん」
 ルリにも胸を張って答える。
「この時の為におニューの水着用意してきたんだから」
「そこまでですか」
「そうよ。ピンクのビキニ。見てみる?」
「いえ、いいです」
 ルリはそれをきっぱりと断った。
「何かありそうですし」
「えっ、何が?」
「ただそんな気がするだけですけど」
 前もってそう断ったうえで言う。
「予感がします。誰か来ます」
「誰かしら」
「美形のお兄さんだったらいいわね」
「それはないわよ」
「どうかしら。わからないわよ」
 ハルカはメグミにそう言って妖艶に笑った。
「すっごい男前の貴公子が出たりして」
「だといいけれど」
「何かうちの部隊って二枚目揃いでも一癖もニ癖もあるのばっかりだしね」
「特にウィングチームとか」
「呼んだか」
 そこにヒイロ達が姿を現わした。
「あら、君達いたの」
「今来たところだ。艦長はここか」
「私?」
 ヒイロに言われてユリカが顔を向けてきた。
「何か用?」
「偵察部隊は出さなくていいのか」
「ああ、それならコスモクラッシャー隊が行ったわよ。ゴッドマーズと一緒に」
「そうか」
「ゴッドマーズまで出たのかよ」
「ええ。そろそろティターンズの勢力圏だし。武力偵察も兼ねてね」
 デュオに答える。
「どうせなら俺達が行きたかったが」
「それならば仕方がないな」
「何なら貴方達も出る?」
「そうですね」
 カトルはそれを受けて少し考え込んだ。
「それでタケルさん達からは連絡は」
「今のところはないわね」
「特に敵に遭遇したとの報告もありません」
「なら出ても構わないかな」
「ううん、ちょっと待って」
 だがユリカはここで五人を止めた。
「何だ」
「貴方達泳ぐ気はない?」
「泳ぐ!?」
 五人はそれを聞いてキョトンとした声をだした。
「ええ。カスピ海でね。どうかしら」
「悪いが遠慮させてもらう」
 ヒイロがまず言った。
「今はオデッサでの戦いの前だ。身体は大事にしたい」
「そうだな」
 ウーヒェイもそれに同意した。
「今はティターンズとの戦いが待っている。その前に何かあっては話にもならない」
「何だ、御前等は嫌なのかよ」
「そういう御前はどうなのだ」
 トロワが尋ねてきた。
「えっ、俺」
「そうだ。泳ぐ気はあるのか」
「そうだなあ」
 問われてあらためて両手を後頭部にもってきて考え込んだ。
「俺もあんまりそんな気じゃねえなあ。何か気が乗らねえ」
「そうか」
「僕も。今はいいです」
 カトルも断った。
「あらら。じゃあ最後のトロワ君は?」
「俺もいい」
 彼も断った。
「今は一人でゆっくりしたいからな」
 これで決まりであった。結局泳ぐという話は立ち消えてしまった。ユリカはそれがいささか不満であった。
「何か面白くないなあ」
「そうでしょうか」
 ルリが問う。
「何かね、パーーーーーッとしたいのよ、今」
「艦長はいつもパーーーーーッとしてますけど」
「いつも以上によ。何かストレス溜まっちゃって」
「あれだけ好き勝手やってよくストレスが溜まるものだ」
 ヒイロの言葉はともかくして戦いは長引いていた。ロンド=ベルの面々にも疲れが少し見られていた。それはブライト達にもわかっていた。
「だがオデッサの後だな」
 今はそれどころではなかった。ブライトの判断はそうであった。
 ロンド=ベルはそのままカスピ海北岸を通過した。そしてそのまま西へ向かう。しかしその前に青いマシンが姿を現わした。
「あれは」
「シュウか」
 マサキがすぐに気付いた。そしてすぐにサイバスターで外に出た。
「やはり来ましたね」
「相変わらず手前は神出鬼没みてえだな、おい」
「ふふふ」
 シュウはマサキの言葉に対して思わせぶりに笑った。
「色々とね。私も忙しいものでして」
「今度は何を企んでやがるんだ!?」
「マサキ!」
 そこにサフィーネがやって来た。
「シュウ様への暴言は許しませんわよ」
「おや、サフィーネも」
「はい」
 シュウの前ということに気付きあらためて畏まる。
「お元気そうで何よりです」
「今日は何のご用件でおこられあそばされたのですか」
「モニカ、文法が変ですよ」
 モニカもいた。彼女はノルス=レイに乗っているのである。セニアがメカニックを務めている。
「それはさておきだ」
 マサキは話を戻しにかかった。
「何で今ここにいるんだ」
「実は貴方達にお伝えしたいことがありここに参りました」
「俺達に」
「はい」
 シュウは答えた。
「重要なことですが宜しいでしょうか」
「どうせ聞くつもりはねえと言っても言うんだろうが」
「ふふふ」
「まあいいや、聞いてやるよ。話しな」
「それでは」
 シュウはあらためて話をはじめた。
 それはゼオライマーについてであった。だが多くは語らない。ただここにもうすぐ来るだろうということだけであった。
「おい」
 それを聞いたマサキが彼に問うた。
「それだけか」
「はい」
「他にも知ってるんじゃねえだろうな、ゼオライマーのことをよ」
「生憎ですが」
 ここはとぼけた。
「私はあれには関わってはおりませんので」
「嘘つけ、ネルフにもかなり入り込んでいたってのにか」
「ネルフ、さて」
 これも誤魔化した。
「どちらにしろ今ゼオライマーは貴方達の殆どとはあまり関係はないようですが」
「それは私達に対して言っているのかしら」
 リツ子がシュウにそう声をかけてきた。
「おや」
「シラカワ博士、お久し振りと言うべきかしら」
「そうですね、赤木博士」
 シュウはリツ子にそう答えた。
「お元気そうで何よりです」
「ええ。それよりもゼオライマーのことだけれど」
「はい」
「木原博士はどうなったの?今あの中にいるのはまだ少年みたいだけれど」
「彼本人ですよ」
「彼本人!?」
「ええ」
 驚いた声をあげるリツ子に静かにそう答えた。
「それはどういう意味かしら」
「そのままです」
「・・・・・・・・・」
 リツ子はそれを聞いてさらに懐疑的な顔になった。
「どうやら誤魔化しているというわけでもないようね」
「貴女ならおわかりだと思いますが」
 シュウはここでこう言った。
「貴女ならね」
「私が・・・・・・そう」
 そしてリツ子は何かに気付いた。
「そういうことなのね」
「おい」
 そこにマサキが話に入ってきた。
「赤木博士、そりゃどういう意味だよ」
「レイと同じなのよ、彼は」
「綾波とか」
「そうよ。それもいずれわかると思うわ」
「わからねえな。どういうことなのか」
「マサキ、お楽しみは後にとっておいた方が面白いものですよ」
「御前が話をややこしくしてるだけだろうが」
「さて」 
 シュウはまたとぼけた。
「とにかく木原マサキに関してはそういうことです」
「わかったわ。あとは」
「何でしょうか」
「ゼオライマーは一体どういうマシンなのかしら。よくわからないのだけれど」
「一言で言いますとこのグランゾンに似ているものがありますね」
「グランゾンと」
「はい」
 青いマシンが威圧的にその場に立っていた。リツ子はあらためてそれを見た。
「貴方のそのマシンと同じような存在」
「少なくとも今は」
 シュウは言った。
「ですがそれも変わる可能性があります。彼自身によって」
「彼自身によって」
「それが運命ならばね」
「変えられる運命ね」
「彼も心の中ではおそらくそれに気付いているかもしれませんが。まだ御聞きしたいことはありますか」
「いえ、ないわ」
 リツ子はそう答えた。
「そこまでわかれば充分よ、今のところは。有り難う」
「どう致しまして。それではこれで」
「あっ、待ちやがれ」
 マサキが呼び止める。
「いつも適当なところで消えるんじゃねえ!」
 姿を消したグランゾンを追おうとする。だがここでリューネが呼び止めた。
「ストップ」
「何だよ」
「お客さんよ、ほら」
 見ればブライストとガロウィンであった。彼等はカスピ海の上に立っていた。
「おかしい、確かに気配はしたのに」
「どうやら似た気配のマシンがいたようね」
 姉が妹にそう述べる。
「見たところロンド=ベルしかいないようだけれど。お姉様、どうするの?」
「彼は今はどうでもいいわ」
 シ=アエンはロンド=ベルは無視することにした。
「今はね。それよりも」
 何かを察した。
「向こうから来たわよ。タウ、いいかしら」
 突如としてロンド=ベルの前にゼオライマーが姿を現わした。銀の巨体が緑の平原に浮かび上がっていた。
「こんなところに出てしまったけれど」
 マサトにはまだ何が何なのかよくわからないようであった。困ったような顔になっている。
「ここは一体」
「敵の前よ、マサト君」
 美久が彼にそう答える。
「前を見て」
「前を・・・・・・うっ」
 彼もブライストとガロウィンの存在に気付いた。二機のマシンが水の上に立っているのを見た。
「まさかこんなところで」
「これも天の配剤」
 シ=タウがそう述べる。
「天の」
「そうだ。私が貴様を倒すな」
「タウ」
 それを聞いたシ=アエンは何かに驚いたようであった。
「貴女今何て」
「お姉様」
 妹は姉をキッと見据えてこう言った。
「ゼオライマーは私がやるわ。ここで見ていて」
 そして突進する。一直線にゼオライマーに向かって来た。
「覚悟っ!」
「来た!」
「マサト君、落ち着いて」
 美久が彼を落ち着かせる。
「ゆっくりと敵の動きを見ていればいいから」
「う、うん」
 美久の言葉に従うことにした。落ち着きを取り戻しガロウィンの動きを見る。
 見れば速い。だがその速さは焦りによる速させあった。
「焦ってる」
「ええ」
 それは二人にもよくわかった。
「だから落ち着いていけばいいわ。いいわね」
「うん」
 マサトはそれに従った。狙いを定めて腕を構える。
「これで」
 そしてエネルギー波を放った。それでガロウィンを撃つ。
「ヌッ!」
 攻撃を受けたシ=タウは憤怒の声と共に動きを止めた。そのすぐ後ろに姉が来ていた。
「タウ、何をしているの!」
「お姉様」
「ブライストとガロウィンは二つで一つ。それを忘れたというの!?」
「違う」
 だが妹は姉のその言葉を否定した。
「それは嘘よ」
「嘘、何を言っているの」
「私達は二つで一つじゃない。私はお姉様の影なのよ」
「タウ、貴女」
 それを聞いたシ=アエンの整った顔が驚愕に支配される。
「これどこれからは違うのよ。木原マサキ」
 ゼオライマーとマサトを睨み据える。
「貴様を倒して私は影ではなくなる!天が水を倒すのだ!」
「天が水を倒す」
 それを聞いたマサトの声が豹変した。
「おかしなことを言う」
「何!?」
「水は天から落ちるもの。それ以外は有り得ん」
「私を愚弄するか」
「確かに愚弄だな」
 マサキではなかった。別の者としか言いようのない口調であった。
「劣っているということを教えてやるのならな」
「私が貴様なぞに」
「では劣っている証を見せてやろう」
 そう言いながらゼオライマーを構えさせる。
「俺が冥府へ送ってやってな」
「マサト君、貴方・・・・・・」
「美久」
 その何者かは美久に対しても言った。
「俺が誰なのか、わかるな」
「・・・・・・ええ」
 小さく頷いた。彼がマサトではないことだけがわかった。
「死ね。苦しまずにな」
 エネルギー波を放つ。それはもうよけられるものではなかった。
「これで終わりだというのか・・・・・・」
 シ=タウは観念した。だがその時だった。
「そうはさせないわ!」
 姉が前に出て来た。そしてエネルギー波を身体で受け止めた。
「お姉様」
「タウ」
 シ=アエンは妹に顔を向けた。
「よかった、無事だったのね」
「どうして」
 その声は震えていた。
「どうして私を助けたの!?」
「妹だからよ」
 そう答えた。
「そんな、私達はいつも一緒だった」
 シ=タウはそれを受けて語りはじめた。
「同じ顔、同じ姿だった。私はそれが嫌でならなかった」
「タウ・・・・・・」
「同じ顔、同じ姿なのにお姉様は全てにおいて私より勝っていた。私はいつもお姉様の影だった」
 沈んだ声でそう続ける。
「この顔もこの姿も憎かった。どうして同じに生まれたのか。私は影。お姉様がいつも前に出て私はそれを助けるだけ」
「何を言ってるの」
「私を楯にして助かる為にも。お姉様は私を道具としてしか見てはいないのよ!」
「そんなことはないわ!」
 シ=アエンは強い声で妹に対してそう言った。
「同じ顔、同じ姿だから貴女を愛したのよ」
「お姉様・・・・・・」
「その心、偽りはないわ。私達は同じなのだから」
「同じ」
「ええ」
 シ=アエンは頷いた。
「私達は生まれた時一緒だった。そして今までずっと。私達は同じなのよ」
「同じ・・・・・・。私はお姉様」
「そう。そして私は貴女。一緒なのよ。同じなのだから」
「・・・・・・・・・」
 姉の言葉に何かを悟ったようであった。顔を上げた。
「お姉様」
「何」
「よくは言えないけれど・・・・・・。水に戻るわ」
「では私は火に」
「そう。そして天を倒しましょう、一緒に」
「わかったわ」
 それに頷いた。二機のマシンが同時に動きはじめた。
「フン」
 マサト、いや木原マサキはそれを見て馬鹿にしたように笑った。
「茶番は終わりだ。火も水も天には勝てはしない」
「それはどういう意味」
「決まっている」
 美久に対して答える顔も声もマサトのものではなかった。険があり荒んだ笑みを浮かべていた。
「水はさっき言った。火もな」
 言う。
「天の中にあるもの。火が天を覆っているのではない」
 太陽のことを言っているのであろうか。
「それが二ついようが怖れることはない。天の力を見せてやろう」
 そしてゼオライマーを動かした。天にゆっくりと上げる。だがそこに二人が攻撃を仕掛ける。
「確実にやらなければ。あれをやるわ」
「ええ」
 ガロウィンがゼオライマーの後ろに回った。ブライストは前にいる。
「ビームサーチャーーーーーッ!」
「マグラァァァッシュ!」
 シ=タウが叫ぶ。シ=アエンも。火と水が天に襲い掛かった。直撃を受けた。
 だがゼオライマーは傷一つなかった。悠然と浮かんでいた。
「その程度か。所詮は」
 マサキは二人を見下ろしてそう述べた。
「下らん。塵一つ残さず消してやる」
 両手と胸に光が宿った。
「塵一つ残さず消え去るがいい」
 ゼオライマーを中心として爆発が起こった。白い光が支配した。
「あれは・・・・・・」
 それはロンド=ベルからも確認された。皆驚愕の声を出した。
「何という力だ」
「あれが冥府の王の力・・・・・・」
 リツ子もその中にいた。彼女もゼオライマーを見据えていたのだ。
「とんでもない力ね。シラカワ博士の言う通り」
「ええ」
 ミサトの言葉に頷く。
「それにパイロットが途中で変わったような」
「貴女もそう思う?」
 爆発を見ながらミサトに問いかける。
「ええ。何か急にね。ガラッと」
「そうね」
 それに気付いている者も何人かいた。特にアムロ達はそれを敏感に察していた。
「どういうことだ。プレッシャーが変わった」
「このプレッシャー・・・・・・。さっきまでのものとは全く違う」
 アムロとクワトロがそう呟く。
「邪悪な。まるで悪魔のような」
「どういうことだ、これは」
「ふふふふふふ」
 マサキは光の中で哄笑していた。まるで破壊そのものを楽しむように。
「どうだ、冥王の力は・・・・・・」
「ああ・・・・・・」
 ブライストもガロウィンも今まさに破壊されようとしていた。白い爆発の中で身悶えしていた。
「タウ・・・・・・」
 最後に妹の名を呼んだ。
「お姉様・・・・・・」
 それに応えた。それが最後であった。
 二機のマシンは爆発した。そして二人もその中に消え去った。後には何も残ってはいなかった。
「これでよし。雑魚は消えた」
「どうするつもりなの、これから」
「一旦帰る。もうここには用はないからな」
 マサキは美久にそう答えた。そして姿を消した。
「何なんだ、あいつは」
 甲児はそれを見て驚嘆と違和感のこもった声を漏らした。
「化け物かよ」
「そんな生易しいものじゃないでしょうね」
 ミサトが彼にそう応える。
「ミサトさん」
「もしかすると私達の最大の敵になるかもね、彼は」
「あの男が出て来たならな」
 クワトロもそれに同意した。
「あの邪悪なプレッシャー・・・・・・。一体何だというのだ」
「かってのシュウとはまた違った・・・・・・。そう、何かを破壊しようとしている。それでいながら守ろうとしている」
「何か矛盾していませんか」
 シンジがアムロにそう問うた。
「破壊しようとしてながら守ろうとしているなんて」
「人間とはそういうものだ」
 クワトロがそう答える。
「壊そうとしながら一方で守りたいと思う。矛盾した考えを同時に心に持っている」
「そうなんですか」
「そうだな」
 タダナオもクワトロの言葉に同意した。
「生きているとな。それもわかるようになる」
「まるで私が老人のようだな」
「確かに大尉はちょっと年配ですが」
「きついな」
 タダナオの言葉に苦笑する。
「けれどそれだけ人生に経験を積んでいるってことで」
「確かにな。色々とあった」
「ならおわかりだと思いますよ。あのゼオライマーの中の人間のこともね」
「彼は一人だ」
 クワトロの答えはそうであった。
「一人」
「しかし厳密に言うと一人ではない。心がな」
「二重人格者ということでしょうか」
「いや、それよりも複雑だ。どういう事情かわからないがな」
「それがわかってるのはシラカワ博士だけじゃないかしら」
「あいつは本当のことを中々言わねえからな。いつも勿体つけやがる」
 マサキがそれを聞いてそう言った。
「あいつらしいけれどな、それが」
「だとしたら真相は彼の手によって明らかにされるか」
「違うかも」
 だがリツ子はクワトロの言葉に疑問を呈した。
「私達の手でわかるかもね。そうするように彼が導くか」
「自分で手を汚さずに、かよ」
「それとは違うわ。マサキ君って彼のことになると変につっかかるわね」
「そうかね」
「ええ。まあそれは置いておいてね。とにかく」
 リツ子がその整った目を毅然とさせた。
「これからはゼオライマーについても何かとあるわよ。覚悟していて」
「ああ」
 ロンド=ベルは進軍を再開しようとした。だがここでレーダーに反応があった。

「レーダーに反応」
 マヤがシナプスにそう報告する。
「何処からだ」
「後ろからです。これは・・・・・・」
 レーダーを見ながら言う。
「パターン緑。ポセイダル軍です」
「ポセイダル」
「あいつ等地上にまで来てたの」
「しつこいね、ホントに」
 ダバ達が口々にそう言う。言っている間に後方からポセイダル軍が姿を現わした。
「遂に見つけたぞ、ロンド=ベル!」
 褐色の肌の男がグルーンのコクピットの中でそう叫ぶ。
「チャイ=チャー!」
「ここで会ったが最後だ、覚悟しろ!」
 ギャブレーもいた。当然ハッシャも。
「ギャブレーまで」
「しつっこいねえ、あいつも」
 アムが彼を認めて呆れた声を漏らした。
「食い逃げからずっとじゃないの」
「あいつそんなことまでやってたのかよ」
「何か意外と抜けてるんだな」
 ジュドーと一矢がそれを聞いてヒソヒソと話をする。
「そんなことはどうでもいい。ダバ=マイロード」
「何だ」
「今日こそは決着をつける。さあ来い!」
「言われなくても!」
 ダバが出撃した。他の者達も次々に出る。
「行くぞ!」
「待って!」
 だがそんなダバをユリカが呼び止めた。
「何か」
「タケル君達呼び戻さなきゃ」
 ユリカは携帯をかけた。
「本格的な戦いになりそうです」
「はい。ところで僕に何か」
「ダバ君に?」
「はい、ですから呼び止めたのですよね」
「あ、言葉のあや」
「言葉の!?」
 それを聞いてダバも思わず拍子抜けした。素っ頓狂な声を出す。
「だから気にしないで。そっちは続けていいから」
「はあ」
 拍子抜けしたまま答える。だがすぐに自分のペースに戻った。
「とにかく行くぞ、ギャブレー!」
「うむ!」
 二人がまず互いに前に出た。それを合図とするかのように両軍互いに攻撃を開始した。こうしてまた戦いがはじまった。
「これでどうだっ!」
「甘いっ!」
 ギャブレーがパワーランチャーを放つ。ダバはそれを左に滑ってかわした。
「この程度で俺を!」
「ならば!」
 今度はセイバーを抜く。それで切り掛かる。
 ダバも抜いていた。それで対抗する両者は打ち合ったまま対峙する。
「貴様を倒し私はギャブレー家を再興する!」
「バルマーの下でか!」
「それの何処が悪い!」
 そう言って開き直った。
「例えバルマーの下だろうと私は家を再興せねばならんのだ!」
「それが侵略の手先であってもか!」
「そんなことは関係ない!」
 二人はセイバーを打ち合いながら戦いを続ける。両者は一歩も引かなかった。
 そしてさらに戦いが続く。ポセイダル軍もロンド=ベルも互いに激しい応酬を加え合う。だがやはりマシンそれぞれの性能の差とパイロットの腕が違っていた。ロンド=ベルが押しはじめていた。
「まずい、このままでは」
 チャイ=チャーは戦局の劣勢を悟った。
「早いうちに何とかしなければ。ギャブレー」
「ハッ」
「ダバ=マイロードは今はいい。全体のフォローに回れ」
「わかりました。ダバ=マイロード」
 ダバに顔を向けて言う。
「勝負はお預けだ。いいな」
「待て!」
「待てと言われて待つわけにはいかん。さらばだ!」
 そう返してダバとの戦いを中止する。そして後方に退いた。
「これでとりあえずはよし」
 チャイはギャブレーが全体のフォローに回ったのを確認してから呟いた。
「後は如何に敵の勢いを防ぐか、だな」
 だがそれは難しかった。ロンド=ベルの攻撃はかなり激しいものであったからだ。
 それでもギャブレーの活躍もありかろうじて戦線は維持できていた。だがそれもほんの僅かの間だけであった。
「皆さん、遅れて申し訳ありません!」
 ミカの声が響く。ゴッドマーズとコスモクラッシャーが戻って来たのだ。これで戦局はさらにロンド=ベルに傾いていった。
「よし、行くぞ!」
「はい!」
 コスモクラッシャー隊はケンジの声に従いポセイダル軍に突き進んだ。そしてまずはコスモクラッシャーが出る。
「ナミダ、いいな」
「うん!」
 ナミダはナオトの声に元気よく頷く。
「タケルには負けるんじゃねえぞ」
「わかってるって。ナオト兄ちゃんこそね」
「おい、俺がタケルに負けるっていうのかよ」
「油断しているとな」
 ケンジがそう忠告する。
「それどころか命さえ危ない。それはわかってるな」
「わかってますよ」
 ナオトはそう答えた。
「だから訓練をやってるんでしょ」
「そういうことだ。アキラ、ミカ」
「はい」
 二人も顔を向けてきた。
「二人も頼むぞ。いいな」
「了解」
「任せて下さい」
 コスモクラッシャーは敵の上空を飛翔する。そして的確な動きで敵を倒していく。そしてその間にゴッドマーズが入っていく。
「あれだけは何としても止めろ!」
 チャイ=チャーの声は半ばヒステリーと化していた。それに従いハードメタル達が動く。だが彼等ではゴッドーマーズは止められなかった。
「これならっ!」
 ヘビーメタルの攻撃をかわす。巨体からは想像できないまでの身のこなしであった。
 かわしながら剣を振るう。それによりポセイダル軍はその数をさらに減らしていった。
「ギャブレーはどうしているか!?」
 チャイ=チャーは側にいる部下の一人に問うた。
「今前線でオーラバトラー、ブレンパワードと戦っております」
「クッ・・・・・・!」
 見ればその通りであった。ギャブレーの乗るグルーンはビルバイン、ユウ=ブレンを相手に戦っていた。如何にギャブレーといえど彼等を一度に相手にするには辛いらしく押されていた。
「まずいな、このままでは」
「はい」 
 その部下が答えた。
「如何なされますか。やはり」
「それも手だ」
 部下の言葉に頷いた。
「このままではな。致し方ない」
「はい」
「退く必要はない」
 だがここで声がした。
「誰だ!?」
「チャイ=チャー」
 そして彼の名を呼んだ。気品のある若者の声であった。
「ここは私に任せておけ」
「誰だ、私に気安く話しかけるのは。名乗れ」
「マーグ」
 若者の声はそう答えた。
「マーグ!?」
「そう。バルマーの者だ」
 そして巨大なマシンが姿を現わした。
「あれは!」
 そのマシンを見たロンド=ベルの面々は思わず声をあげた。それは彼等がよく知っているマシンであった。
「そんな馬鹿な・・・・・・」
 最も驚いていたのはタケルであった。彼は驚きのあまり呆然としてしまっていた。若者の声はそんな彼にも声をかけてきた。
「マーズ」
「その声は!?」
「久し振りだな。元気そうで何よりだ」
「兄さん、兄さんなのか!?」
「そうだ」
 若者の声は答えた。そのマシンからであった。
「私は今ここに来た。しかも御前と同じゴッドマーズに乗ってな。それが何故かわかるな」
「・・・・・・・・・」
「一体これはどういうことなんだ!?」
 ピートはそれを見て声を漏らした。
「何故ゴッドマーズが二機も。しかもタケルの兄だと」
「それだけじゃないな」
 サコンが彼に対して答えた。
「タケルが異星人なのは知っているな」
「ああ」
「それだ。おそらくそれに関係がある。今はずっと見ておこう」
「そうだな。そうするしかあるまい」
 大文字も彼に同意した。
「ピート君、いいな」
「・・・・・・はい」
 ピートだけではなかった。他の者もだ。皆見るしかなかった。彼等のやりとりを。
「私は今バーム軍にいる。何故かわかるか」
「・・・・・・・・・」
「御前と戦う為だ。さあ来い」
「一体何を言っているんだ、兄さん」
「マーズ」
 マーグの声は強いものになった。
「私はバルマーの者、御前を倒さなければならない。それだけで充分だろう」
「嘘だ!」
 だがタケルはそれを否定した。叫んだ。
「兄さんは俺にゴッドマーズのことを教えてくれた。地球を守る為に。それが何故・・・・・・」
「言った筈だ。私はバルマーの者だと。バルマーの者はバルマーの為に戦う」
 そう言いながら剣を抜いてきた。
「これ以上は言わない。さあ来い」
「嫌だ、そんなことは俺には・・・・・・」
「ならば」
 マーグは剣を一閃させた。タケルは何とかそれをかわした。
「私からいこう」
「クッ!」
「死にたくなければ、地球を失いたくなければ来い!」そして地球を救え!」
 二人は戦いをはじめた。だが攻めるのはマーグだけでありタケルは守るだけであった。二人の戦いは奇妙なものとなっていた。
 ロンド=ベルの者達は戦いながらそれを見守っていた。だがヒメがふと漏らした。
「あの人、何で地球を救えって言うんだろ」
「どういうこと!?」
 カナンがそれに問うた。
「うん。あの人バルマーの人だよね」
「ああ」
「だったら地球を滅ぼすとか言う筈なのに。タケル君に地球を救えだなんて変だよ」
「そういえばそうだな」
 ナンガがそれに頷く。
「あのマーグって坊やからはどうも悪意ってのは感じない。むしろ何か温かいな」
「旦那もそう思うか」
 ラッセもであった。
「俺もそうだな。何かあのゴッドマーズの剣捌きも殺そうってやつじゃない」
「ラッセさん」
「むしろ・・・・・・何て言うかな。悪い場所を切り取ろうとするような。そんな感じに見える」
「どういうことなんだ!?」
 勇はそれを聞いて首を傾げた。
「タケルを殺すつもりじゃないのか」
「多分ね」
 ヒメが彼に答える。
「あのマーグって人はタケル君を殺すつもりはないと思うよ」
「だったら余計わからないな」
 サンシローが問うた。
「じゃあ何故今こうしてあいつと戦っているんだ?矛盾するぞ」
「何か事情があるな」
 ヒギンズがそれに答える。
「私達の知らない何かが」
「俺達の。それは一体」
「残念だがそこまではわからん。だがとりあえずはタケルは安全だろう。命まではな」
「そうか」
 ラッセの言葉に応える。
「じゃあ今のうちに他の連中を何とかしておくか。ダバ」
「何だい」
 ダバに声をかけるとすぐに返事が返ってきた。
「このヘビーメタルってのはビーム兵器には強いけれど他の兵器に対してはそうじゃないみたいだな」
「ああ」
「よく気付いたわね」
 アムがそれに対して言う。
「ヘビーメタルはなえ、ニームコーティングされてるのよ。あまり安いの意外はね」
「そうだったのか。道理で」
「だからミサイルとかの方がいいかもね。あたしだってマインよく使うし」
「そうか。バスターランチャーの方が多いと思うが」
「そうかなあ。まああれってぶっぱなすと気持ちいいけれど」
 レッシィの問いにそう返す。
「けれどレッシィだって派手にやってるじゃない。お互い様よ」
「リリス」
「やっつけられればいいんじゃないかな。私はそう思うよ」
「そうだな。リリスが正しい」
 ダバはリリスの意見を支持した。そして二人に対して言った。
「とにかく今は前にいる敵を倒そう。タケル君のことは後だ」
「わかったわ」
「じゃあ今まで通りやるか」
「今まで通りか」
「サンシロー、あんたもね。いつも通り派手に頼むよ」
「言われなくたって」
 既に彼は派手にやっていた。今更という感じではあった。
「やってやらあ。行くぜ皆!」
「それでこそサンシローだな」
 リーがそれを聞いて頷く。
「ポイントゲッターはこうでないと」
「チェッ、俺はそうじゃないのかよ」
 ブンタがリーに続きヤマガタケがぼやく。ぼやきながらも攻撃に向かうのが彼らしかった。
 戦いはさらに激しくなりギャブレーのグルーンもダメージを受けた。ショウのビルバインのオーラソードの一閃を受けたのであった。
「おのれ、ダバ以外にもいるというのか」
「まだやるか!」
「残念だがそうもいかぬらしいな。そこの赤いマシンの男」
 ショウに問うてきた。
「名を名乗れ。何という」
「ショウ。ショウ=ザマだ」
「ショウ=ザマか。よし」
 ショウに名を聞いて頷いた。
「その名、覚えたぞ。また会おう!」
「お頭、待って下さいよ!」
「お頭ではない!今は隊長と呼べ!」
 そして彼は戦場を離脱にかかった。ハッシャもそれに続く。
 チャイ=チャーのグルーンも攻撃を受けていた。トッドのダンバインのオーラソードにより大破させられたのだ。
「ショウだけにやらせるわけにはいかねえんでな!」
「おのれっ、よくもこの私を!」
 チャイ=チャーは脱出しながら呪いの言葉をトッドに対して吐く。
「地球人共め、覚えていろよ!」
「覚えてもらいたきゃそれなりにやるんだな!俺はショウと違って雑魚の名前は覚えないんでな!」
「おのれ、その言葉忘れるな!」
 恨みの言葉を残し戦場から離脱する。他のヘビーメタルもそれに続いた。
 残っているのはマーグの乗るゴッドマーズだけであった。相変わらず剣を振るい続けていた。
「どうしたマーズ」
 彼はマーグに問うた。
「戦わないというのか」
「そんなこと・・・・・・」
 タケルは兄に対して言う。
「できる筈ないじゃないか!兄さんなんだぞ!」
「兄という問題ではない」
 彼の返事はこれであった。
「私と御前は敵同士だ。それ以外に何を言う必要がある」
「しかし」
「しかしも何もない。若し御前が剣を取らなければ」
 剣でタケルのゴッドマーズを指し示して言う。
「私が御前を倒すだけだ。そして地球が滅亡するだけだ。それでもよいのか」
「いえ」
 それに答えたのはタケルではなかった。
「マーグさんと仰いましたね」
「君は」
 それはナデシコの方から聞こえてきていた。マーグはそちらに顔を向ける。
「ルリ。星野ルリです」
「君か。確かロンド=ベルの」
「末席を拝借しております。それよりマーグさん」
「うむ」
「貴方は本当はタケルさんを殺すつもりはありませんね」
「どうしてそう言える!?」
「貴方の動きからです」
 ルリはマーグに対してそう答えた。
「私の動き、か」
「はい。貴方は何故タケルさんをそのまま切り捨てられないのですか」
「おい、ルリ」
 アキトが彼女を嗜める。だがルリは続けた。
「何かを切り取ろうとしているようにしか見えませんが」
「気付いていたか」
「はい」
 ルリは答えた。
「何かありますね」
「答える必要はない」
 だがマーグはそれに答えようとはしなかった。
「それは君には関係のないことだ」
「いえ、それは違います」
 しかしルリはそれに反論した。
「貴方はタケルさんに地球を救えと仰いました」
「・・・・・・・・・」
「タケルさんに何かあるのですね」
「何かって何だ?」
 ダイゴウジはそれを聞きながら首を捻った。
「悪い奴等をぶっ潰すだけじゃねえのかよ」
「リョーコさん、それじゃあ今と同じですよ」
「ったく御前と一緒じゃねえぞ、タケルは」
「もう少し深く考えられないものか」
 ヒカル、サブロウタ、ナガレの三人が一斉にリョーコに突っ込みを入れた。
「とにかく何かありそうだな」
「そうですね」
 アキトとジュンはダイゴウジやリョーコよりはまだ冷静であった。
「マーグさん」
 ルリはさらにマーグに対して問う。
「貴方はタケルさんについて何か知っておられますね」
「答える必要はない」
 だがマーグはそれについて答えようとはしなかった。
「私はただ敵としてこの弟を倒すだけだからな」
「嘘だ」
 今度はタケルが反論した。
「兄さんは何か知っている、俺のことを」
「・・・・・・・・・」
「教えてくれ、俺には一体何があるんだ。俺の秘密は」
「知りたいか」
 マーグはあらためて問うてきた。
「御前の過酷な運命を。それでもいいのだな」
「覚悟はできている」
 タケルはそれに答えた。
「だから教えてくれ、兄さん、俺は一体」
「わかった」
 マーグはそれを聞いてようやく納得したように頷いた。
「では言おう。マーズ、御前の秘密を」
「秘密」
 皆沈黙した。そしてマーグの言葉に耳を傾けさせた。
「御前の身体には」
「俺の身体には」
 タケルもロンド=ベルの面々も固唾を飲んだ。
「爆弾が埋め込まれている。正確に言うならばガイヤーにだ」
「!」
 皆それを聞いて驚愕に支配された。
「ガイヤーに。そんな」
「反陽子爆弾だ。御前が死ねば爆発するようにされている。ユーゼスによってそうセットされていたのだ」
「ユーゼスに」
「やっぱりね」
 万丈がそれを聞いて頷いた。
「あいつならそれ位のことはするな。あいつらしいというか」
「ですね」
 シーブックがそれに同意する。
「タケルさんを地球に送り込んだのはその為だったのか」
「そう。爆発すれば地球は消えてなくなる」
 マーグはシーブックにそう答えた。
「マーズ、これでわかったな。御前がどうして死んではならないのかを」
「・・・・・・・・・」
 彼は沈黙したままであった。答えることはできなかった。だがそれでもマーグは言った。
「私は御前を救いに来たのだ。ガイヤーのその反陽子爆弾を取り除く」
「できるのかい?」
「やってみる」
 マーグは剣をかざしてそう答えた。
「そして御前を救う」
 構えた。そしてガイヤーに突き立てようとする。しかしそれは適わなかった。
 一機の戦闘機がそこにやってきた。それは突如としてマーグの乗るゴッドマーズのところにやって来た。
「マーグ、そこにいたのね」
「女の声!?」
 タケルとマーグはそれに反応した。だがそれは残念ながら遅かった。
 光が放たれた。それはマーグのゴッドマーズを狙っていた。
「ああっ!」
 それがマーグを包む。そして彼は何処かへと消え去ってしまっていた。
「兄さん!」
「何者だ、貴様は!」
「今は名乗る必要はない」
 戦闘機に乗る女はそう言葉を返した。
「だがいずれはまた会う。その時を楽しみにしていなさい」
 そしてその戦闘機も女も消えた。後にはマーグによって知らされた驚くべき事態と突如として起こったことにより呆然とするロンド=ベルの面々だけが残っていた。

 皆マーグの話を心の中で反芻していた。しかしどうしても納得がいかなかった。
「嘘だろ」
 弁慶がまず口を開いた。
「タケルさんが、そんな」
「残念だが嘘じゃない」
 隼人がそれに答える。その声にも顔にもいつものクールさはなかった。
「あの人が死ねば何もかもが終わる。それは事実だ」
「事実」
「隼人の言う通りだな」
 竜馬が険しい顔でそう呟いた。
「ユーゼスなら平気でやる。弁慶、御前もそれは知っているだろう」
「・・・・・・ああ」
 否定できなかった。彼と幾度となく死闘を繰り広げてきたからこそわかることであった。
「問題はそれだけじゃない」
 隼人は深刻な顔のまま言葉を続けた。
「これからどうするか、だ」
「タケルさんがだな」
「ああ」
 竜馬の問いに答える。
「今まで色々なことがあったがな。今回ばかりはどうも」
「どうすればいいんだろうな」
「それは俺にもわからん」
 隼人にも答えは出なかった。
「だが俺は何とかやっていきたい」
「タケルさんとか」
「そうだ。これは皆同じだと思う」
 さらに言う。
「俺はあの人が好きだ。そしてあの人なら何があろうと乗り越えられる。俺はそれを信じたい」
「自分の運命にもか」
「乗り越えられるし、乗り越えて欲しいな」
 黙りがちであった弁慶もまた口を開いた。
「俺は馬鹿だから上手くは言えないけどな」
「弁慶」
「タケルさんにはな。これからも一緒にやっていきたい」
「ああ」
「そうだな」
 竜馬と隼人もそれに頷いた。彼等だけではなかった。タケルについては皆心から心配していた。
 とりわけコスモクラッシャー隊の面々はそうであった。皆深刻な顔で部屋に集まっていた。
「タケルのことだが」
 まずはリーダーであるケンジが口を開いた。
「どうすればいいと思う」
「どうればって」
 ミカが椅子に座り俯いたままそれに答える。
「どうすればいいのよ。タケルが死んだら地球が終わるなんてそんなの信じられないわ」
「ああ」
 ナオトがそれに頷く。
「まさかこんなことになっちまうなんてな。嘘だと思いたいさ、俺も」
「しかし本当のことなんだ、これは」
 ケンジが二人に対してそう言う。見れば彼だけが立っていた。腕を組んだまま語る。
「あのマーグという男、嘘をついているようには見えない」
「ですね」
 アキラがそれに同意する。
「タケルが死んだら全てが終わるのは多分本当のことでしょう」
「どうする?」
 ナオトが顔を上げて一同に問うた。
「タケルをこのまま置いておいていいのか、俺達のところへ」
「ナオト、何を言ってるの」
 ミカがそれを聞いて顔を上げてきた。
「まさかタケルをメンバーから、ロンド=ベルから外すの!?」
「・・・・・・・・・」
 ナオトは答えようとしなかった。硬い顔のまま何も語らない。
「ねえ、隊長」
 それを見て狼狽したミカは堅持に問うた。
「隊長はどう思いますか?まさかそんな・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
 ケンジも答えられなかった。見ればナオトと同じ顔をしている。
「アキラ、貴方はどうなの!?」
「・・・・・・・・・」
 アキラも同じであった。彼等は皆答えることはできなかった。
「そんな・・・・・・」
「どうすればいいだろうな」
 ケンジは苦い声を吐き出した。
「タケルと一緒に戦うべきか」
「勿論だよ」
 ナミダがそれに応えた。
「ナミダ」
「皆コスモクラッシャー隊だよね」
「あ、ああ」
 ケンジだけでなくナオトやアキラもそれに頷いた。
「それなら一緒にやっていこうよ。おいらあの時はいなかったけれど」
 タケルがはじめてゴッドマーズに乗った時について言及した。
「タケル兄ちゃんがバルマー星人だってわかっても皆受け入れたんだろ?それに同じじゃないか」
「同じ!?」
「うん。タケル兄ちゃんもおいら達も。同じ地球の為に戦っているんだよ」
「同じ、か」
「そうだよ。だから一緒に戦おうよ。タケル兄ちゃんを殺させなければいいんだからね」
「そうだな」
 ケンジがまずそれに頷いた。
「リーダー」
「俺達はどうやらとんでもない勘違いをしていたらしい」
「勘違い」
「そうだ。コスモクラッシャー、そしてロンド=ベルは皆がいてのロンド=ベルだな」
「ええ」
「だったら一人欠けてもロンド=ベルじゃない。一人が欠けても、な」
「じゃあタケルを」
「そうだ、これまで通り仲間だ。あいつはコスモクラッシャー隊の一員だ」
「そうだな、リーダーの言う通りだ」
 まずナオトが頷いた。
「俺達の仲間だ。あいつの命は俺達は身体を張っても守る」
「そして地球も。元々それが仕事だしな」
 アキラもであった。
「答えは出ているな。あいつは今まで通り俺達の仲間だ」
「皆・・・・・・」
 ミカはそれを聞き笑顔になった。
「あいつと地球を何があっても守るぞ、いいな」
「はい!」
 三人はそれに頷いた。こうしてタケルもコスモクラッシャー隊も再び結束したのであった。
「皆いい人達ね」
 ユリカはそれを聞いてナデシコの宴会室で満面の笑みを浮かべていた。そこにロンド=ベルの主だった面々が集まっていた。そして皆タケルを笑顔で囲んでいた。
「やっぱりこの部隊に入って正解だったわね」
「はい」 
 ルリがそれに頷いた。その目の前ではタケルがドラグナーチームの面々にいじられていた。
「よし、歓迎するぜ!」
「まあ飲め飲め!」
「参加の条件はワインボトル一本一気飲みだ!」
「ちょ、ちょっと待って下さいよ」
 タケルは慌ててケーン達から離れて言う。
「俺お酒はまだなんですよ」
「固いことを言う奴はドラグナーには乗れねえぞ!」
 ケーンは滅茶苦茶な反論をかけてきた。見ればこの三人はもう顔が真っ赤であった。
「それとも何か!?俺の酒が飲めねえってのかよ!」
「いや、そういうわけじゃなくて」
「何ィ、じゃあ何なんだよ!」
「おい、誰か止めさせろ」
「ケーンもまだ未成年じゃないのか?」
 ベン軍曹が間に入って来た。そしてケーンを止める。
「少尉殿、ここは大人しくされて下さい」
「うっ、軍曹」
 彼の姿を見ると急に酔いが醒めた。そして静かになった。
「わかったよ。無理強いはよくないな」
「そういうことです」
 こうしてタケルは解放された。そしてパーティーは正常に戻った。
「雨降って地固まる、か」
 ブライトは皆のやりとりを見ながら目を細めてこう言った。
「これからいよいよオデッサだからな。願ったりかなったりだ」
「ああ」
 そしてアムロの言葉に頷いた。
 パーティーが終わりロンド=ベルはオデッサに向かった。そしていよいよティターンズとの決戦の時が来たのであった。


第二十六話   完


                                 2005・6・11


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