オデッサの戦い
 中国、そして中央アジアでの戦いを終えロンド=ベルは遂にティターンズが占拠するオデッサに到達した。そこには既にティターンズ、そしてドレイク軍の軍勢が集結していた。
「ドレイク殿からの連絡はあったか」
 スードリの艦橋でティターンズの軍服に身を包んだ口髭の男が周りの者にそう問うていた。ジャマイカン=ダニンガンという。バスク=オムの腹心の一人でありこのオデッサの責任者でもある。階級は少佐である。
「ハッ、只今連絡が入りました」
「何と仰っているか」
 ジャマイカンは答えた部下に対して再度問うた。
「援護は任せておくように、とのことです。こちらにオーラバトラーをさらに送るとのことです」
「そうか、ならばいいが」
 とりあえずそれを聞いて安心した。
「敵はロンド=ベルだ。油断はできぬからな」
「ハッ」
「ダブデは全機稼動しているか」
「既に。モビルスーツ部隊も展開しております」
「用意は整っているな。しかしそれだけでは駄目だ」
「といいますと」
「ヤザン大尉とジェリド中尉はどうしているか」
「既に前線におりますが」
「あの二人に厳命しておけ。ロンド=ベルを狙え、とな」
「どういう意味でしょうか」
 この部下は二人のカミーユに対する執着を知らなかった。
「知らぬのならよい。伝えるだけでな」
「わかりました」
 何も知らないまま頷く。そして命令通り二人にそれを伝えるのであった。ティターンズは決戦に備えていた。
 それに対してドレイク軍はいささか余裕のある態度であった。彼等はティターンズの後方に位置しそこでティターンズを見守る形となっていた。
「どう見るか」
 ドレイクはウィル=ウィプスの艦橋において傍らに控える家臣の一人に問うた。
「はい」
 その家臣は敬礼した後で答えた。
「あのジャマイカンという男、将の器ではありませぬ。おそらくこの戦いはロンド=ベルのものでしょう」
「そうではない」
 だがドレイクはその言葉に対し鷹揚に手を横に振った。
「確かにこの戦いにおいてはそうだろうがな」
「といいますと」
「私が問うているのはこれからのことだ」
「これからのこと」
「そうだ。再び地上に出たな」
「はい」
「我が野心、再び果たそうと動くべきかどうかだ」
「それにつきましては」
 家臣はあらたまって答えた。
「殿の思われるままに」
「で、あるか」
 ドレイクはそれを聞いてニヤリ、と笑った。
「わかった。それではそうしよう」
「はい」
「だが当面ティターンズとの同盟は続けておくぞ」
「わかりました」
「問題はあの二人だが」
 ここである二人の顔が脳裏に浮かんだ。
「いずれそれも始末をつけよう。よいな」
「わかりました」
「そしてロンド=ベルだが」
 ここで東を見据えた。
「裏切り者のショウ=ザマもいる。ここは慎重に相手をせねばならぬな。聖戦士を用意しておくか」
 彼もまた戦いに思いを馳せていた。異邦人達もまた地球に心をひかれようとしていたのであろうか。

 ロンド=ベルはボルガ川を越えロストフに達していた。かってナチス=ドイツとソ連の戦いの激戦地の一つであった。第二次世界大戦においてこの地域は激戦地であったのだ。とりわけスターリングラードの攻防は有名である。
「さて、と」
 ブライトはロストフを越えると辺りを見回した。ロンド=ベルの六隻の戦艦が一列に並んでいた。
「そろそろだな。総員スタンバっておけ」
「了解」
 ロボット部隊を出す。彼等は戦艦の前にそれぞれ小隊を組んで配置された。
「いいか」
 ブライトは彼等に対して言った。
「前方にはティターンズ及びバイストンウェル軍の大軍がいる。その数は尋常なものではない」
「だろうな。敵さんも必死だ」
 フォッカーがそれに答えた。
「だがこの作戦、何としても成功させなければならない。我々の任務は東方から彼等を攻撃することにある」
「西からも来るんだったな」
 シローがふとそう呟いた。
「そうだ。連邦軍の主力がな。こちらはミスマル司令が率いておられる」
「だったら安心だな」
 京四郎がそれを聞いて頷く。
「三輪長官だったら大変なところだ」
「そういえばよくあの人ティターンズに入らなかったね」
 エルがふと呟く。
「如何にも、って感じなのに」
「あの人にはあの人の考えがあるんだろうさ」
 ビーチャがそれに答える。
「俺達もそこまで突っ込めねえよ」
「そうだよね」
 イーノがそれに同意する。
「あの人の考えることなんてわからないし」
「けれど何で連邦軍にいるのかなあ」
「それも偉いさんで」
 モンドにルーが合わせる。
「迷惑っていったら迷惑よね」
「うんうん」
「これだけ好き勝手言われる長官も珍しいな」
 健一はガンダムチームのやりとりを見て呆れたように言う。
「岡長官とは全然違うな」
「おい健一」
 それに一平が突っ込みを入れる。
「幾ら何でもあの人とあんなのを一緒にするな」
「あんなのかよ」
「兄さん、その通りでごわす」
「おいらもそう思うよ」
 弟達も一平と同じ意見であった。健一はそれを聞いて苦笑してこう返した。
「そうかもな。思えば岡長官はできた人だったよ」
「そういえばあの人今何処にいるんだ?」
 豹馬が尋ねてきた。
「更迭されたらしいけれど行方知れずだな」
「めぐみちゃん、何か知ってる?」
「私もわからないのよ」
 めぐみはちずるの問いに困ったように答えた。
「元気だとは思うけれど」
「まあ忍者ですからね。何かしておられるかも知れませんよ」
「小介、それホンマか!?」
「確証は得られませんが」
「しかし小介どんが言われると何か説得力があるでごわすな」
「そうだな。ひょっとしたらオデッサにいるかもな」
「それはないと思うわ」
 だがめぐみはそれを否定した。
「どうして?」
「私の勘だけれどね」
 そう断ったうえで言う。
「ジャブローとかそういう辺りにいるんじゃないかなあ。今あそこも色々とあるし」
「ジャブローか」
 言わずと知れた連邦軍最大の軍事基地である。過去何度も攻防があった。
「北アメリカかも。あそこもね」
「そういえばあそこに武蔵がいたな」
 竜馬が話に入ってきた。
「武蔵さんが」
「ああ。ロンド=ベルと離れてな。今アメリカに行っているんだ」
「そうだったの」
「最近姿を見ないと思ったら」
「そのかわりに私が来ました」
 ジャックも出て来た。
「武蔵の替わりの形ね。頑張ってマーーーース」
「おかげで余計に訳わからなくなっちまってるな」
「それは言わない約束デーーーーース」
 何時の間にかお笑いになってはいたがそうした話をしながらロンド=ベルはオデッサに向かう。そして遂に敵の陣地の前にまで来た。
「来たな」
 そこにはもうティターンズのモビルスーツ部隊が展開していた。ティターンズの誇るエースパイロット達もそこにいた。
「やはりいるか」
 カミーユは彼等の気配を察していた。彼の察し通り彼等はいた。
「来やがったな、ヒヨっ子共が」
 その中に三機のエイに似たモビルスーツがいた。ティターンズの変形モビルスーツハンブラビである。
 それに乗る男はヤザン=ゲーブル。金髪を後ろに撫で付けた獰猛そうな顔付きの男であった。
「ラムサス、ダンケル」
 彼は後ろの二機のハンブラビに乗る男達に声をかけた。ラムサス=ハサン、ダンケル=クーパー、ともにヤザンの直属の部下達である。
「はい」
「来たぜ。いつも通りやるぞ」
「了解」
「わかりました」
「よし。おうジェリド」
 彼は部下達の声を聞くと次にジェリドの乗るメッサーラに通信を入れた。
「そっちはどうだ」
「もう準備はできている」
 ジェリドはそう声を返した。
「カクリコン、マウアー」
「おう」
「何、ジェリド」
「こっちもいいな」
「無論だ」
「何時でも」
「よし。こっちはいい」
「よし。後はクロスボーンの連中だな」
「そっちもできているよ」
 後方のバウンド=ドッグから声が返ってきた。ライラの声であった。
「ザビーネの部隊もドレルの部隊もね。もう準備はできているよ」
「よし、それならいい」
 ヤザンはそれを聞いて満足そうに頷いた。
「バイストンウェルの連中もいるしな。パーティーの準備は万端だ」
「本当にそう思うか?」
 だがここでジェリドが問うてきた。
「どういう意味だ」
「連中が信用できるかどうかだ」
「そんなの最初からわかってることだ」
 ヤザンはジェリドの疑問に対してそう答えた。
「御前は信用しているのかよ、連中を」
「そうだな」
 ジェリドもヤザンもそれは同じであった。
「あてになんかしていねえさ、最初から」
「わかった。では俺達だけでやるか」
「ハナからそのつもりさ。だが注意しろよ」
「何だ」
「今日はあの小僧の相手はなしだ。ジャマイカンが五月蝿いからな」
「わかっている。俺もティターンズの将校だ」
 ジェリドは少し憮然としながらもそう答えた。
「命令には従う。それ安心してくれ」
「お互いな。あいつ俺にまで言ってきやがったからな」
「御前にもか」
「ああ。そんなに俺が信用できねえっていうのかってんだ」
「あんたは血の気が多過ぎるんだよ」
 ライラはそんな彼に対してそう言った。
「いつも餓えた野獣みたいな目で戦場にいるだろ。だからそう言われるんだよ」
「へっ」
「戦うのが好きなのはいいけれどね。政治家にはよくは思われないよ、そういうのは」
「別に俺は政治家じゃないんでな」
 ヤザンは悪びれずにそう返した。
「戦う時は思いきりやらせてもらいたいんだよ。政治なんて糞くらえだ」
「おやおや」
「それは御前さんだってそうだろう、ライラさんよ」
「否定はしないよ」
 ライラは落ち着いた様子でそう答えた。
「あたしはね、戦いたいからここにいるんだよ」
「そういえばあんたは元々ティターンズじゃなかったな」
「そうだね。ブランやベンとそれは一緒だね」
 そう言いながらアッシマーの部隊に目をやる。
「今でこそここでこうやっているけれどね」
「人間何があるかわからないってやつだな」
「そうだね。実際にこうやってまた地球に戻れるとは思ってなかったしな」
「全くだ」
 カクリコンがその言葉に頷く。
「マクロスの前での戦いに敗れてからセダンの門にずっとこもっていたからな。こうして今地球にいるのがまだ信じられん」
「カクリコン」
 彼にジェリドが話しかけてきた。
「何だ」
「この戦いが終わった後はどうするつもりなんだ」
「そうだな」
 問われて考えながら答えた。
「アメリアと一緒になるか、遂に」
「そうか。いよいよか」
「そん時は俺も呼んでくれよ」
 ヤザンが彼に声をかける。
「あんたをか」
「そうだ。祭は好きなんでな。いいだろ」
「別に構わないが」
「あたしもいいかい?」
 今度はライラが問うてきた。
「戦友ってことでね」
「ああ、いいとも」
「当然俺もだな」
 ジェリドも入ってきた。戦友達が次々と彼に問うてくる。彼はそれが内心嬉しかった。
「だがそれは戦争が終わってからだな」
「おいおい、そこで戦争に戻るか。まあいいさ」
 ヤザンは不敵に笑った。
「来るぜ。鴨がよお」
「鴨か。余裕だな」
「俺にとっちゃあな。ラムサル、ダンケル行くぞ」
「はい」
「了解」
 二人がそれに頷く。
「また蜘蛛の巣を仕掛けるぜ」
「それじゃあ俺達も行くか」
「おう」
 ジェリドはカクリコンの言葉に頷いた。
「マウアー、いいな」
「ああ」
 ライラやアッシマーの部隊も前に出て来た。そして彼等が前に出ると同時にロンド=ベルも姿を現わした。
「もう戦闘用意を整えているな」
「はい」
 マヤがブライトの言葉に頷く。
「ティターンズのものと思われるモビルスーツ部隊が前方に多数展開しております」
「そして後方からオーラバトラーと思われるエネルギー反応も。巨大なものもあります」
「オーラシップだな」
 ブライトはシゲルの報告を聞きそう呟いた。
「さて、何が出るかな」
「おそらくウィル=ウィプスでしょう」
 シーラがそれに答えた。
「あれですか」
「はい。このオーラはドレイクのものです」
「オーラ」
「まるで全てを覆うかのような。こんなオーラを持つのは彼だけです」
「だとすると厄介ですね。あの男だと」
 ブライトも前の戦いでドレイク達と数多くの死闘を繰り広げてきた。だからこそわかるのだ。
「けれどやらなくちゃいけませんよ」
「それはわかっている」
 トーレスの言葉に返す。
「全軍戦闘用意」
 そして全軍に指示を下した。
「作戦目的はオデッサの解放だ。いいな」
「了解」
 フォッカーをはじめとして主立ったパイロット達がそれに頷く。
「総員攻撃開始。総員健闘を祈る」
「よし!」
 こうして戦いがはじまった。ロンド=ベルとティターンズはほぼ同時に攻撃に入った。
 まずはヤザン達三機のハンブラビが出て来た。それに対するかのようにゼオラとアラドのビルトファルケンとビルトビルガーが出る。
「アラド、行くわよ」
「おい、ちょっと待てよ」
 突進するゼオラを諫めるようにして言う。
「ヴィレッタさんとレーツェルさんがまだ来ていないぞ」
 彼等は四機で小隊を組んでいた。見れば他の二人はまだ後ろである。
「いいのよ、今はそんなこと言ってる場合じゃないわ」
「そういうわけにはいかないだろ。相手は三機だぜ。しかもあのハンブラビは」
「あんたまたそんなこと言ってんの!?」
 ゼオラはまごまごするアラドをそう言って叱りつけた。
「そんなんだからスクールでも落ちこぼれだったんでしょうが」
「スクールは今は関係ないいだろ!?」
「あるわよ。いつおあたしがフォローしてきたんだから」
「ゼオラ」
 アラドは彼女の言葉に少し戸惑った。
「大体あんた接近戦用でしょ。あんたが先に行かなくてどうするのよ」
「わかったよ」
 アラドはそれに従うようにして前に出て来た。
「そのかわりフォローはしっかり頼むぜ」
「任せといて」
 こうして二機は三機のハンブラビと正対した。ヤザンは彼等を見て獣じみた笑いを浮かべた。
「ヘッ、獲物が来たぜ」
 そしてラムサスとダンケルに指示を下した。
「予定通りだ。あれをやるぜ」
「ハッ」
「了解」
 二人はそれを受けてすぐに動いた。アラドのビルトファルケンと取り囲んだ。
「!?一体何をする気なんだ!?」
「アラド、気をつけて」
「あ、ああ」
 ゼオラの言葉に頷く。その間に三機のハンブラビはアラドを取り囲んでいた。
「行くぜ、蜘蛛の巣攻撃!」
「ハッ!」
 ヤザンの言葉に従い一斉に動く。三機のハンブラビが海蛇を放ってきた。
「うわっ!」
「アラド!」
 ゼオラが思わず叫んだ。アラドはその間にその海蛇の攻撃を受けていたのだ。
「へッへッへ、どうだハンブラビの蜘蛛の巣攻撃は」
「蜘蛛の巣」
「そうだ。最高にしびれるだろうが」
「しびれるだか縛られるだか知らないけどね」
 ゼオラは危機に陥っているアラドの窮地を救うべく攻撃に移っていた。
「アラドをやらせるわけにはいかないのよ。覚悟しなさい!」
 そしてヤザンのハンブラビに向けてミサイルを放った。だがそれはあっさりとかわされてしまった。
「おおっと、危ねえな」
「クッ」
「見たところまだお嬢ちゃんみてえだな。一体何しにここへ来たんだ!?」
「あんた達みたいなのを倒す為よ」
 アラドを庇うようにして前に出ながらそう答えた。
「ティターンズやネオ=ジオンみたいな連中を倒す為にね。志願してロンド=ベルに入ったのよ」
「ほお、そりゃあいい」 
 ヤザンはそれを聞いて面白そうに声をあげた。
「こんな可愛らしいお嬢ちゃんにまで追っ掛けられるとはな。俺達も人気者になったものだぜ」
「あんただけじゃないわ」
 ゼオラはキッとして言い返した。
「ティターンズもネオ=ジオンも許さない、絶対に」
「ゼオラ・・・・・・」
「何があったのかは知らねえがな」
 ヤザンはその目を憎悪で燃やすゼオラに対して言った。
「ここは戦場なんだよ。生きるか死ぬかだ」
 そう言いながらハンブラビを変形させてモビルアーマーの形態になった。
「悠長なことを言ってたら死ぬぜ。それだけ教えておいてやるよ」
「クッ!」
 そこにビームが来た。だがそれは何とかかわした。
「早い・・・・・・」
「可愛い顔してんだ。変なこと言わな方が身の為だぜ!」
「誰が!」
 ゼオラとヤザンが一騎打ちに入った。アラドはその間に二機のハンブラビと正対しようとしていた。だがそこにヴィレッタとレーチェルが到着した。
「やっと間に合ったわね」
「早いのもいいが人を置いていくのはよくないな」
「ヴィレッタさん、レーチェルさん」
「詳しい話は後よ。アラド」
「はい」
 ヴィレッタの言葉に頷く。
「ゼオラの援護に回って。この二機のハンブラビは私達が引き受けるわ」
「いいんですか!?」
「ああ。あのヤザン=ゲーブルの強さは生半可なものではない。少なくとも今のゼオラだけでは無理だ」
「わかりました」
「早く行って。さもないと危ないわ」
「騎士殿の参上は格好よくないとな」
「は、はい」
 二人に急かされて戦場に向かう。そしてヤザンのハンブラビの素早い動きの前に翻弄されるゼオラの方に来た。
「な、何て速さなの」
 ヤザンのハンブラビはその機動力とヤザン自身の操縦を駆使してゼオラのビルトファルケンの攻撃を巧みにかわしつつカウンターで攻撃を仕掛けていた。
「こんなのはじめてだわ」
「へへへ、お嬢ちゃんよ、大人の男の動きは知らないみたいだな」
「そんなもの」
「俺はもっと色気のある大人の女が好みなんだがこの際贅沢は言わねえ」
 モビルスーツ形態に戻りながら言う。
「覚悟しな。これが戦争ってやつだ」
 ビームを放つ。そしてそれでゼオラを仕留めようとした。
「まだっ!」
 それを必死でかわそうとする。だが足に当たってしまった。
「よけきれなかったみてえだな」
「うう・・・・・・」
「さて、と。これで最後にするか」
 ヤザンは今度はビームサーベルを抜いてきた。
「安心しな。苦しまずにやってやるからよ。俺はそういうのが嫌いなんだ」
「・・・・・・・・・」
「悪く思うな。これも戦争ってやつだ」
 ビームサーベルを振り下ろす。だがそれを払う者がいた。
「誰だ!?」
「騎士の登場だ」
 サーベルを払った者がそう返す。
「ゼオラ、フォローに来たよ」
「アラド」
「フン、さっきの坊主か。彼女を助けにでも来たか!?」
「そんなところだ。ここはやらせないぞ」
「じゃあきな。二人まとめて相手してやる」
「言われなくても!」
「アラド、待って」
 だがそんな彼をゼオラが呼び止めた。
「ゼオラ」
「あたしがフォローするわ。いつも通りね」
「頼めるかい?」
「ええ」
 ゼオラはそれに頷いた。
「いつも通りいきましょ」
「よし、いつも通りいこう。わかった」
「姫のピンチに現われるうるわしの騎士様が相手かい」
 ヤザンは二人を見て面白そうに笑った。
「たまにはこういうのも悪くはねえ。思う存分相手してやるぜ!」
 二人とヤザンは戦いに入った。二人は何とか互角に勝負を進めていた。
 ジェリオ達はリュウセイ達SRXチームと対峙していた。彼等はそれぞれ息の合った連携で戦いを進めていた。
「チッ、思ったよりやりやがるな」
 ジェリドはメッサーラのメガ粒子砲をかわしたR−3を見て舌打ちした。
「前にも戦ったことはあるが腕を上げているみたいだな」
「どうやらそうみたいね」
 マウアーがそれに同意する。
「手強いわよ。しかも数は敵の方が多いし」
「厄介な相手ではあるな」
 カクリコンがここでこう言った。
「しかしこのままじゃラチがあかねえ。二人共いいな」
「ええ」
「わかっている」
「連中の動きを止めてくれ。後は俺が一人ずつやってやる」
 二機のバウンド=ドッグが前に出て来た。そしてSRXチームに対して拡散ビームを放つ。
「うわっ!」
 リュウセイは驚きの声をあげながらそれをかわした。声こそ大袈裟であるが動きはそうではなかった。
「あぶねえあぶねえ」
「チッ、今のをかわすとはな」
「あのメッサーラのパイロット、かなりすげえぞ」
「それは当然だ。あれに乗っているのはジェリド=メサ中尉だ」
 ライがそう言い加えた。
「ジェリド?ティターンズのエースパイロットの一人じゃねえか。ヤザン=ゲーブルと大尉と並ぶ」
「そうだ。確か今は大尉だったかな。間違えていた、すまん」
「いいってことよ。けれどそうだったら楽しくなるな」
「楽しくなる?」
「ティターンズのエースと戦えるなんてわくわくしてこねえかってことだよ」
 首を傾げたアヤに対してそう述べる。
「どうだい、アヤも入らねえか?」
「入らないっていっても無理矢理入れるでしょ」
 そんなリュウセイに呆れたように声をかける。
「違うかしら」
「うっ」
「その通りだな。いつものことだ」
「ライ」
「どうせ三機いるんだ。丁度いいな」
「いや、違うな」
 だがここでレビも入ってきた。
「レビ」
「もう一機来たぞ。これで四機だ」
 見ればもう一機来ていたライラの乗るバウンド=ドッグだ。
「ジェリド、助けに来てやったよ」
「ライラ」
「その連中相手じゃ三機じゃ辛いだろう。相手になってやるよ」
「そうか、悪いな」
「礼はいいよ。困った時はお互い様だからね」
「頼む」
 三機のバウンド=ドッグとメッサーラが編隊を組んだ。中心にいるのはジェリドのメッサーラである。
「敵さんメッサーラを中心に持ってきやがったな」
「予想された展開だな」
「じゃあこっちもそれでいくわよ。リュウセイ、いい?」
「了解」
 SRXチームも陣を組んだ。リュウセイの機を中心とする。
「これでいいな。よし、行くぜ」
「よし」
 レビがそれに頷いた。まずは三人が攻撃を仕掛ける。バウンド=ドッグもだ。
「リュウセイ、行って!」
「ジェリド、出番だよ!」
「よしきた!」
「わかった!」
 それを受けて二人は一度に前に出た。そして互いにまずは遠距離攻撃を仕掛けた。
「いけ!」
「これでどうだっ!」
 だが両者はそれを超人的な勘でそれを察知しかわす。操縦も見事であった。
「チッ、ロンド=ベルってのはこんなのばかりいやがるな」
「流石ってとこだぜ。伊達にティターンズのエースにゃなってねえな」
 ジェリドもリュウセイもそれで互いの力量を推し量っていた。そしてさらに進む。
 ビームサーベルを抜いた。それで切り合う。光が舞い跳んだ。
「ロンド=ベルは通さん!」
「そう言われて引き下がる奴はいねえ!」
 互いに激しい剣撃を繰り出すがそれは両者に止めをさすどころかダメージすら与えられない。ジェリドもリュウセイもその剣捌きまで一流であったからだ。
「カミーユより上か、接近戦は」
「イングラム教官でもこうはいかねえ。つええ」
 同時に後ろに下がった。そして今度はメッサーラがミサイルを放った。
「これならどうだっ!」
「やらせねえっ!」
 ゴールドメタルナイフでそのミサイルを切り払う。動きは完全に見切っていた。
「やはりな、ミサイルも通用しないか」
「ジェリド中尉だったな」
「!?」
 ジェリドはそのリュウセイの声に反応した。
「今は大尉だ。それがどうした」
「俺が誰かわかってるか」
「伊達隆盛だったか。SRX計画のことは知っている」
「嬉しいね知っていてくれているなんてな」
 リュウセイはそれを聞いて喜びの声をあげた。
「俺も有名になったもんだぜ」
「それで何が言いたいんだ!?」
 ジェリドは問うてきた。
「死ぬ前に名前を覚えていて欲しいというのなら覚えていてやるがな」
「生憎俺は不死身なんでね」
「ほう、初耳だな」
「これからも覚えていてもらっておきたくてね。いいかい?」
「面白い奴だ」
 ジェリドはそれを聞いて笑った。

「では覚えておいてやる。リュウセイ=ダテ少尉でいいな」
「ああ」
「覚えたぞ。では心おきなく死ね」
 またビームサーベルを抜いた。それで両断しようとする。だが彼はそれより前に突進していた。
「さっきも言ったけれどな」
 ナイフを構えながら言う。
「俺は不死身なんだよ!そこんとこもよく覚えていて欲しいな!」
 そして再び打ち合った。両者の一騎打ちがはじまった。
 ロンド=ベルとティターンズの戦いが本格化してきた。数においてはティターンズが圧倒的に優勢であるがそれでも次第にロンド=ベルに押されだしていた。
「ええい、何をしておるか!」
 ジャマイカンは戦局が思わしくないのに苛立っていた。
「敵は我等の三分の一程だぞ!押し潰せ!」
 だがそれは不可能だった。エースパイロット達が釘付けになっているうえに機体性能及びパイロットの技量はロンド=ベルの方が遥かに上であるからだ。ティターンズはその数を一秒ごとに減らしていた。
 しかしロンド=ベルはその中においても油断してはいなかった。何かが来るのを察していたからだ。
「うっ」
 突如としてシーラが声をあげた。
「シーラ様、まさか」
「はい、来ます」
 カワッセに対してそう答える。
「これはドレイクです」
「やはり」
「ドレイクだけではありません」
 エレも言った。
「エレ様」
「エイブ、ショウ達は近くにいますね」
「はい」
「彼等に伝えて下さい。赤い髪の女もこちらにやって来ていると」
「赤い髪の女」
 そこにドレイク軍が姿を現わしてきた。ウィル=ウィプスの巨体が空に浮かび上がっていた。
「来たな」
「相変わらず派手な登場しちゃって」
 ショウとチャムがそちらに顔を向けた。
「ドレイク、また地上を戦乱で乱すつもりか。その野心で」
「ショウ」
 そんな彼にエレが声をかけてきた。
「エレ様」
「気をつけて下さい。ドレイクだけではありません」
「というと」
「貴方も感じませんか、この悪しきオーラを」
「悪しきオーラ」
「そうです。赤い髪の女のオーラを」
「赤い髪の女・・・・・・まさか」
 それはショウもよく知っている女であった。嫌でも忘れられなかった。
「それがこちらに向かってきています。注意して下さい」
「はい」
 ショウは真摯な顔でそれに頷いた。そして前を見た。
「皆」
 まずは仲間達に声をかけた。
「ニー達はオーラバトラー達を頼む」
「了解」
「トッドとマーベルは俺の側にいてくれ。いいな」
「わかったわ」
「御前も感じているんだな」
「ああ」
 トッドの言葉に応えた。
「ここまで近くなら・・・・・・わかる」
 ショウは言った。
「ジェリル=クチビ、あくまで戦いに快楽を追い求める気か」
「あの女にゃ何を言っても無駄だぜ」
 トッドが言った。
「あいつの音楽を聴いたことがあるんだがな」
「ヘビメタとは聞いている」
「ああ。しかし普通のヘビメタじゃねえ」
「どういうことだ?」
「一言で言うといかれてやがるな。まともじゃねえ」
「だろうな」
 ショウはそれに同意するところがあった。
「ジェリルは明らかに何かがおかしい。そのオーラは増幅する一方だ」
「このままじゃ何かえらいことが起こりそうだな」
「ああ」
「二人共、そんなこと言っている場合じゃないわよ」
 ここでマーベルが話に入ってきた。
「マーベル」
「来たか?」
「ええ。見て」
 既にドレイク軍とロンド=ベルも戦いに入っていた。その中で二機のレプラカーンがショウ達のところに向かってきていた。
「ショウ、久し振りだな!」
 その中にいる白人の男が彼に声をかけてきた。
「アレン=ブレディ!」
「俺もいるぜ!バイストンウェル以来か!」
「フェイ=チェンカ!」
「チッ、やっぱりこの二人も一緒かよ」
 トッドは二人の姿を認めて舌打ちした。そしてショウに対して言った。
「ショウ、あの二人は俺達に任せろ」
「貴方はジェリルを頼むわ」
「悪い」
「悪くはねえよ。俺もアレンの旦那とは色々とあるしな」
「ほう、トッドもいるな」
 アレンの方でも彼に気付いた。
「元気なようだな。何よりだ」
「皮肉はもう間に合ってるぜ」
 トッドはそう言葉を返した。
「旦那にはこれまでの借りがあるからな。楽しくやらせてもらうぜ」
「勝てるのか?候補生がベテランに」
「俺はもう候補生じゃないんでね」
 トッドは悪びれずそう返した。
「今ここでどっちがトップガンが決めねえか?そっちの方があんたにとってもいいだろ」
「確かにな。おいフェイ」
「何だ」
「こいつは俺をご指名だ。御前はそっちの西部の姉ちゃんを相手にしてくれねえか」
「女が俺の相手かい」
 フェイは不敵に笑った。
「まあいい。ダンバインなら相手に不足はない」
「私には不服みたいね」
「まさか」
 フェイは口の左端を歪めて笑っていた。
「マーベル=フローズンだったな」
「ええ」
「あんたにはこっちも色々と煮え湯を飲まされているんでね。今度はこっちが煮え湯を飲ませてやるぜ」
「私は冷たい飲み物が好きなんだけれどね」
「冷たいのは身体に毒だぜ」
 フェイはそれに対してそう返した。
「身体には熱いものがいいんだ」
「あら、エスコートしてくれるの?」
「勿論。地獄までエスコートしてやるぜ」
「じゃあ受けるわ。けれど地獄に落ちるのは」
 ダンバインの剣をフェイのレプラカーンに向けて言った。
「貴方よ。いい?」
「その言葉そっくりあんたに返してやるぜ。行くぜ!」
「どうぞ」
 マーベルとフェイが戦いに入った。その横ではトッドとアレンも戦いに入っていた。
 両者は剣を繰り出し合う。その剣撃で周りを銀に染め上げていた。
「くらえっ!」
「チッ!」
 アレンが剣を突くとトッドがそれを払う。両者は互いに一歩も引かない。
 トッドの剣もアレンに防がれる。アレンの腕も全く落ちてはいなかった。
「また腕を上げているのかよ」
 トッドは彼の剣捌きを見て忌々しげにそう呟いた。
「折角追いついたと思ったのによ」
「坊やにはまだまだ負けんさ」
 アレンはそう言葉を返した。
「俺には勝つことはできんよ」
「そいつはどうかな」
 だがトッドはそれを笑って否定した。
「御前さんが腕をあげたように俺だって腕をあげてるんだぜ」
「ほう、そうだったのか」
 アレンはそれを聞いてあえてとぼけてみせた。
「じゃあそれを見せてもらうとするか」
「俺はまだるっこしいのは嫌いでね」
 そう言いながら剣を構える。
「ここで決めたいんだがいいか?」
「こちらもな。俺もせっかちな性分でね」
 アレンのレプラカーンも既に構えていた。
「どっちが本当のトップガンか、ここで証明するか!」
「トップガンは俺だ!」
 両者は互いに攻撃に入った。激しい斬り合いが再び空中ではじまるのであった。
 その横にいるショウの前にあの赤い髪の女がいた。
「捜したよ、ショウ」
 その女ジェリル=クチビはショウを見据えて酷薄な笑みを浮かべていた。
「どうして欲しい?まずは手を切ってやろうかい?」
「ジェリル」
 ショウもまた彼女を見据えていた。
「まだ邪なオーラを」
「邪!?お笑いだね」
 だが彼女はショウのその言葉を一笑に伏した。
「あたしのどこが邪なんだい?笑わせてくれるね」
「ショウ」
 チャムがショウに対して言った。
「駄目だよ、自分ではわかってないよ」
「ああ」
 頷いた。それは彼にもわかっていた。
「どうやら言っても無駄みたいだな、やはり」
「あたしは元々誰かに何か言われたりするのは嫌いなんだよ」
 ジェリルの返答はそれであった。
「覚悟しな、ここでケリをつけさせてもらうよ」
「引くつもりはないんだな」
「この赤い髪に誓ってね」
 ジェリルは言った。
「死んでもらうよ、ショウ」
「わかった」
 それを受けてショウも剣を抜いていた。
「ジェリル=クチビ、今ここでバイストンウェルに送り返してやる」
「できるものならやってみな。できるものならね」
 レプラカーンはゆっくりと、滑るように前に出て来た。そして剣を突き出してきた。
「ヌッ!」
「殺してやるよ!」
 ジェイルは叫んだ。
「御前の血でこの赤い髪をさらに赤く染めてやるよ!あっはははははははははははは!」
「この女・・・・・・」
「狂ってる・・・・・・」
 ショウもチャムのジェリルのその形相に絶句した。それは鬼気迫るものがあった。
「殺してやる殺してやる殺してやる!」
 ジェリルは剣を遮二無二切り回しはじめた。彼女はただショウを狙っていたわけではなかった。完全に戦いの血の匂いに酔ってしまっていたのだ。
「その血、あたしが飲んでやるよ!有難く思いな!」
「ショウ!」
「わかってる!」
 そう言いながら剣を前に突き出した。それでまずはジェリルの剣の動きを止めた。
「チッ!」
「ジェリル!御前の思う通りにはさせない!」
 ショウもまた攻撃を繰り出した。そして二人は本格的な戦いに入るのであった。
 ドレイク軍の援軍を受けティターンズは態勢を立て直した。ジャマイカンも冷静さを取り戻していた。
「よし、このまままずは陣を整える」
 彼はそう指示を下した。
「アッシマー隊を戦線に投入せよ」
「了解」
「ブラン大尉とベン中尉に伝えよ。一気に戦艦をつけと」
「わかりました」
 部下の一人がその指示に敬礼で応える。ブランとベンは元は連邦軍にいたが今はティターンズに所属しているのである。
 すぐにアッシマー隊と一機のスードリがロンド=ベルの左側面に向かう。だがそこには大空魔竜とガイキング達、そしてブレンパワードがいた。
「勇、来たよ」
 すぐにヒメが勇に対してそう言った。
「あの黄色い丸いの、こっちに来るよ」
「わかってる」
 勇はそれにすぐに頷いた。
「ヒメ、行くぞ」
「うん」
「俺達もな」
 それにサンシロー達も応えた。
「行くか」
「よし!」
 ヤマガタケが叫ぶ。彼のバゾラーが宙に浮かんだ。
「バゾラーが飛んでる」
 ヒメがそれを見て思わず声を漏らした。
「これどういうこと!?」
「ミノフスキークラフトをつけたんだよ」
 ヤマガタケは得意気にヒメに対してそう言った。
「ミノフスキークラフトを」
「そうだ。だから飛べるんだよ」
「わざわざ無理を言ってバゾラーにつけたんだがな」
 ピートがここでこう言った。
「戦利品だからいいものを。強引に自分のものにするのはどうかと思うぞ」
「いいじゃねえかよ、これでガイキングチームもパワーアップするんだし」
「それはそうだな」
 サコンがそれに同意した。
「サコン」
「バゾラーの弱点は空を飛べないことだった」
 彼は言った。
「それはガイキングチーム全体に影響があった」
「他の三機は飛べるからな」
「そうだ。一機でも飛べないのがあると影響が出る。だがそれが今解決された」
「へへへ」
 ヤマガタケはサコンのその言葉に得意になっていた。
「俺の株もこれでさらに上がるってものよ」
「だが注意もまた必要だ」
「何だ、注意って」
「空での戦いは陸での戦いとはまた違う」
「そうなのか」
「ええ、そうですよ」
 ブンタがそれに答えた。
「陸では上か周りから攻撃を受けませんよね」
「ああ」
「空では下からも来ますから。それに注意して下さい」
「下から」
「そうだ」
 リーも話に入ってきた。
「それには幾ら警戒しても警戒し過ぎることはない。それだけは覚えておけ」
「あ、ああ」
「まあヤマガタケにそれが理解出来るかどうかは疑問だけれどな」
「こらサンシロー」
 からかいに即座に反応した。
「そりゃ一体どういう意味だ」
「そのまんまさ。しっかりしろよ」
「ちぇっ、俺って信用がねえんだな」
「信用してもらいたければ活躍しろ」
 ピートが締めのようにそう述べた。
「そこにいるアッシマーを倒してな」
「あの円盤みたいなやつか」
「そうだ」
 ピートは答えた。
「どうだ、やれるか」
「甘く見るなってんだ。これでもUFOは今まで大分相手にしてきたんだ」
「そういやベガ帝国とも戦ったな」
「ああ」
「大介さんのおかげで彼等も倒せましたね」
「今度は大介かよ」
 ヤマガタケはまた不平を漏らした。
「どうして二枚目ばかり注目されるんだよ。たまには俺みたいにいかしたのを注目しろよ」
 そう言いながらミサイルを放つ。それで二機のアッシマーを撃墜した。
「おお」
「いきなり二機も」
「へっ、どんなもんだ」
 ヤマガタケはその戦果に得意になっていた。
「これが俺の実力よ」
 そこに敵のビームが来る。しかしそれはネッサーのバリアによって無効化された。
「守りは任せて下さいね」
「おう、頼むぜ」
「やれやれ」
 大文字はそんな彼等を見て少し困ったような色をまじえて笑っていた。
「ヤマガタケ君も張り切っているな。張り切るのはいいことだが」
「調子に乗って墓穴を掘らなければいいですがね」
 ピートがそう言葉を加えてきた。
「あいつは只でさえお調子者ですから」
「だがいざという時にはあれでも頼りになるからな」
 サコンは彼のフォローに回った。
「不思議な奴だ。意外性の男と言うべきかな」
「意外性の男か」
「ああ。普段はあれでもここぞという時にはやってくれるからな。ヤマガタケはそういう男だ」
「その通りだな」
 大文字は彼の意見を肯定した。
「ヤマガタケ君にはいうも意外な場面で助けてもらっているしな」
「そういえば」
 ピートもそれに頷くところがあった。
「何か意外な場面でいつも活躍してくれますね」
「後ろにいきなり出て来た敵を撃墜したり」
 ミドリが言った。
「ヤマガタケ君にはそうしたことが多いわね」
「あれで勘も動く場合があるしな」
 サコンがまた言った。
「そういったことが多い。本当にわからない奴だ」
「何処かサンシローに似てるかな。無鉄砲なところといい」
「サンシロー君とか」
 大文字はそれを聞いてまた考え込んだ。
「違いますか」
「言われてみればそうだな。サンシロー君は野球、彼は相撲だが」
「ここにいる連中は大なり小なりそうかもしれませんね」
「サコン君」
「リーやブンタにしろ俺やピートにしろ」
「俺もか」
「そうかもね」
 ミドリもそれに頷いた。
「おい、そうなのか」
「ピート君も案外抜けているとことがあるから。結構周りが見えていない時があるし」
「ううむ」
「けれど七人いるからね。それで私達はやっていってるのだと思うわ」
「そうだな。君達は地球を救う為に集められた」
 彼等はその超能力を買われて集められた。その七人であったのだ。
「それはおそらく互いに補い合う為だったのだろうな」
「そして博士が俺達を統括する」
「私はただ君達を頼りにしているだけだ」
 そう言っても彼以外にこの七人をまとめられる者もいなかった。彼は大空魔竜にとってなくてはならない指導者であったのだ。
「それでは皆左翼に回ってくれ」
「了解」
 ピートが大空魔竜を左翼に向ける。他の者達もそれにならう。アッシマー達との戦いが本格化した。
「彼等を止められれば我々の勝利は見えてくるからな」
「はい」
 大空魔竜がミサイルを放つ。それでアッシマーを小隊ごと吹き飛ばした。だがその数はまだ減ってはいなかった。
「あの黄色い円盤さんまだまだいるよ」
「ヒメ、落ち着いていけよ」
 勇がヒメに対してそう声をかける。
「そうすれば上手くいくからな」
「うん」
 彼等の攻撃は続く。そしてアッシマー隊はその動きを止められてしまっていた。
「まずいな」
 スードリの艦橋でそれを見て苦い顔をする金髪をリーゼントにしたいかつい顔立ちの男が呻いていた。彼がブラン=ブルタークである。
「アッシマーではやはり荷が重いか」
「ですがここはこれしかないと思いますが」
 後ろにいる男が彼にそう声をかける。ベン=ウッダーである。
「それはわかっているつもりだがな。しかし」
「彼等の力が予想以上だったと」
「そういうことになる。これは辛いぞ」
「はい」
「オデッサは今や我等ティターンズの地上での最大拠点だ」
 ティターンズは今東欧に勢力を持っている。その拠点がこのオデッサとなっているのだ。
「ここを失うことは地球進出が振り出しに戻ったことになる」
「はい」
「それだけは避けなければならないのだが」
「ではこのスードリも前線に向かわせましょう」
「スードリもか」
「はい。そうすれば戦いは有利になります。スードリの主砲であの大空魔竜を牽制するのです」
「やれるか」
「やれるではありません」
 ベンは強い声でそう応えた。
「やらなければならないのです。それが軍なのですから」
「わかった」
 ブランもそれに頷いた。
「ではやってみよう。いいか」
「はい」
「スードリを前線に出せ。そしてそれで一気に仕留める。私も出よう」
「大尉もですか」
「そうだ。アッシマーの出撃準備はできているな」
「はい」
「ならば問題はない。一気にいくぞ」
「わかりました。それでは私はスードリに残ります」
「頼むぞ。何かと大変だと思うがな」
「何、これも仕事ですから」
 笑ってそう返した。
「大尉は大尉の仕事をなさって下さい。私は私の仕事をしますから」
「すまない。ではな」
「はい」
 こうしてブランもアッシマーで出撃してきた。彼はスードリの上に位置した。
「さてと」
 そしてそこからロンド=ベルを見る。既にかなりの数のアッシマーを撃墜していた。
「これ以上やらせるわけにはいかんからな。おい」
 後ろにいる自身の小隊に声をかけた。
「スードリを援護しながら行くぞ、いいな」
「了解」
 こうして彼も自ら前線に出た。勇のユウ=ブレンの前に出て来た。
「来たな」
「勇、一人でいける!?」
「いけるんじゃない」
 ヒメにそう言う。
「いくんだ。絶対に」
「何の為に?」
「それは」
 不意にそう言われて戸惑った。
「勇、何の為に行くの!?」
「そうだな」
 考える。中々言葉が浮かばない。だがそれでも言った。
「守る為かな」
「守る」
「そうだな。皆を、俺自身を、そして平和を守る為に行くんだ」
「君はだから戦うんだね」
「そういうことになるな」
 ようやくヒメの唐突な問いの意味がわかってきた。
「俺は行く、戦う。守る為に」
「私も行っていいかな」
「ヒメもか」
「うん。私も守る為に戦いたい。それでいいよね」
「ああ」
 勇はそれを認めた。頷いた。
「行こうヒメ、そして守るんだ」
「うん、守ろう」
 それに応えた。
「皆を」
「じゃあ行くぞ。合わせろ!」
「よし!」
 ユウ=ブレンとヒメ=ブレンの動きが合わさった。
「いっけええーーーーーーーーっ!」
「シューーーーーーーーートォッ!」
 同時に攻撃を放った。それがブランのアッシマーを襲う。
「うおっ!」
 何とか致命傷は避けた。だが大破してしまった。これ以上の戦闘は無理であった。
「チッ、まるで化け物だな」
 ブランは何とかアッシマーの態勢を立て直しながらそう呟いた。
「ニュータイプだけではないというのか、ロンド=ベルは」
「大尉」
 スードリからベンが声をかけてきた。
「ご無事ですか」
「ああ、何とかな」
 彼を安心させる為にそう答える。
「だがこれ以上の戦闘は無理だな」
「はい」
 見れば彼だけではなかった。アッシマー隊はその数を大きく減らし残っている機もかなり損傷していた。
「撤退する。ジャマイカン少佐には私から言っておく」
「わかりました」
 こうしてスードリは残ったアッシマー達に守られながら戦線を離脱しにかかった。ブランの機はすぐに収納されてしまった。
「退くか」
「これで勝ったな」
 大文字はそれを見てそう呟いた。
「彼等はいい。後は中央にいる敵の主力を叩くぞ」
「はい」
 ピートが頷いた。そして大空魔竜を動かす。
「前へ出ます」
「うむ、頼むぞ」
 こうして戦いは中央にさらに向けられた。だが既にティターンズに彼等を防ぐ力は残っていなかった。
 ティターンズも撤退をはじめた。それを見てドレイクも顎に手を当てて考え込んだ。
「如何なされますか」
「ティターンズは退いていくな」
「はい」
 家臣の一人がそれに応えた。
「このまま後方の基地に退いていくものと思われます。おそらくそこで態勢を立て直し再度戦いを挑むものかと」
「そして危急の場合には撤退だ」
 後方基地には脱出用のシャトルもある。それで宇宙への脱出が可能なのである。
「一部の者だけがな。味方を見捨てて」
「それには我等も」
「その心配はない」
 だがドレイクはそれを安じさせるようにして言った。
「既に我等の進むべき道は見つけてある」
「左様でしたか」
「ビショット殿とショットに伝えよ」
 彼は言った。
「北欧で落ち合うべし、とな」
「北欧ですか」
「そうだ。何かあればそこで力を蓄える」
「そしてそこを足掛かりに地上を」
「そういうことになるだろうな。それでよいな」
「はっ」
「だがこれだけは覚えておけ」
「何をでしょうか」
 家臣はドレイクに顔を向けてきた。
「我等はバイストン=ウェルの人間だ」
 ドレイクの言葉は重みを増してきていた。
「地上では異邦人に過ぎない。それは肝に命じておけ」
「は、はい」
 それが一体どういう意味かわからなかったがそれに頷いた。
「わかりました」
「うむ」
 彼がわかっていないのは見破っていたがとりあえずはそれでよしとした。そして今度は戦闘の指示を下した。
「オーラバトラー隊に伝えよ」
「はい」
「撤退せよとな。聖戦士達を後詰にする」
「わかりました」
 こうして彼等も撤退に入った。彼等も戦場から去っていった。
「逃げるか」
「おいトッド」
 アレンがトッドに声をかけてきた。
「勝負はお預けだな。次会う時を楽しみにしてるぜ」
「ヘッ、二度と会いたくはねえな」
 トッドは減らず口でそれに応える。
「あんたの顔を見るのも声を聞くのももううんざりだからな」
「有り難いね、そこまで気にかけてくれるとは。だが今はここまでだ」
「アレンだんよ」
 トッドは退いていくアレンにまた声をかけてきた。
「何だ」
「俺はあんたにだけは負けねえからな。それだけは忘れるな」
「生きていたらな」
 アレンは不敵な笑いでそう返した。そして退いていく。そこにはフェイがいた。
「ジェリルは何処だ?」
 フェイはアレンにそう問うてきた。
「そこらにいないか」
「見当たらないぞ、一体何処に行ったのか」
「あいつのことだ、まだショウ=ザマとやりあっているのかもな」
「有り得るな。命令を聞いているのか」
「あいつにはそんなこと言っても無駄だぜ」
「わかってるさ。だが連れて行かないと後で面倒なことになる」
「ああ」
 二人はジェリルを探した。アレンの予想通り彼はまだショウと戦っていた。
「あっははははははははははははは!」
 奇怪な笑い声を出しながら剣を振るう。ただショウの命をそれで断ち切らんとしていた。
「クッ、何てオーラだ」
「ショウ、大丈夫!?」
 チャムが必死にそれに応戦するショウに心配そうに声をかけた。
「何か物凄い邪悪なオーラを感じるよ」
「これが今のジェリルのオーラか。いや、違う」
 ショウもまた彼女のオーラを感じ取っていた。
「このオーラ、まだ大きくなる。そして」
「何ぶつくさ言っているんだい!?」
 ジェリルが凄みのある声でそう問うてきた。
「あたしの攻撃はおしゃべりしながらじゃよけることはできないよ」
「何のっ!」 
 両断せんと振り下ろした剣をかわしながら言う。彼もまたその手に剣を持っていた。
「ジェリル、何処までそのオーラを増幅させていくつもりだ」
「決まってるじゃないか」
 ジェリルは言った。
「戦いが続く限りだよ。あたしはこの戦いが続く限りやらせてもらうんだからね」
「そして殺戮を続けるのか」
「そうさ」
 彼女は言った。
「それが悪いのかい?あんたも殺してやるから楽しみにしていな」
「クッ」
「ショウ、油断しないで」
 チャムがまた声をかけてきた。
「オーラがまた大きくなってきているから」
「ああ」
 ジェリルのオーラが見えるようであった。赤黒い気がレプラカーンを覆っていた。
「あの気、これ以上大きくなったら
「どうなるの!?」
「わからない。だが恐ろしいことが起こるな」
「うん」
 それはチャムにもわかった。こくりと頷く。
「今のうちに何とかしないと」
「わかってる。こっちも全力でいくぞ」
 ショウのビルバインを緑色のオーラが包んだ。淡い緑であった。
「ハイパーオーラ斬りだね」
「ああ」
「やっちゃえ!それで一気に決めちゃえ!」
 チャムの声に呼応するかのように動いた。だがそこで二人が入ってきた。
「待ちな、御二人さん」
「お楽しみのところ悪いが今日はここまでだ」
 そこには二機のレプラカーンがいた。
「アレンにフェイか」
「その通り」
 まずはアレンが答えた。
「ショウ、ここは引いてもらうぜ」
「勝手なことを」
「そうよ、そっちから来たんじゃないの」
「文句は上に言ってくれ。所詮下っ端は命令に従うだけだ」
「俺達はその命令でここに来たんだ。ジェリル」
「何だい!?」
「ここは退け。後方で態勢を整える」
「馬鹿言ってるんじゃないよ」
 予想通り彼女はそれに反発してきた。
「あたしはこいつの首を手に入れるまでは帰らないよ」
「それは次の機会にしておけ」
「今は撤退する軍の後詰をしなくちゃならねえんだ。それはわかるな」
「チッ」
 彼女も幾多の戦場を潜り抜けてきた。もうその程度はわかるようになっていた。
「わかったよ。それじゃあ退かせてもらうよ。ショウ」
 最後にショウの方に振り向いてきた。
「今度会った時が最後だ。覚えておいで」
「言われなくても」
 ショウもジェリルを睨み返した。
「御前のそのオーラ、俺が止めてやる」
「フン」 
 だがジェリルはその言葉を一笑に伏した。そして言った。
「やれるもんならね。やってみな」
「・・・・・・・・・」
 アレンとフェイはそんな彼女を見て心の中で思った。それはショウと似たようなことであった。
「アレン、フェイ」
 彼女は二人にも声をかけてきた。
「行くよ。しゃくだけれどね」
「あ、ああ」
 ジェリルを呼びに来た筈が逆に引っ張られる形となった。彼等はこうして戦場を離脱していった。
「とりあえずは前半戦終了ってところだな」
 ショウはグランガランに帰投した後でそう呟いた。
「まだまだ戦いは続くけれどな」
「ショウ」
 彼にニーが声をかけてきた。
「ニー」
「ジェリル=クチビと会ったそうだな」
「ああ」
 彼はそれに答えた。
「あのオーラ、さらに増幅していた」
「そうか」
「あのままだと何かが起こる。それが何かまではわからないがな」
「その通りです」 
 シーラがそれに答えた。
「シーラ様」
「あの邪悪なオーラはこれからも増幅していくでしょう」
「はい」
「今はそれが彼女の中に収まっているからいいです。しかしそれが収まりきれなくなると」
「どうなるのですか!?」
 二人はそれに問うた。
「彼女は恐ろしい力を手に入れることになるでしょう。ですがそれと同時に破滅します」
「破滅」
「はい。人はその手に余る力を持ったならばそれに滅ぼされます」
「その力に」
「そうです。それは彼女にも言えます。そして」
「俺達にも」
「はい」
 最後にそう頷いた。そして彼等は休息に入った。次の戦いに備える為に。

 それはティターンズ及びドレイク軍も一緒であった。彼等は後方の基地に集結しそこで戦力の回復に務めていた。
 その中にはアレン達もいた。彼とフェイはそれぞれのレプラカーンの前で座って食事を摂っていた。黒パンにソーセージであった。
「あまり美味くはねえな」
「ああ」
 二人はそう言い合っていた。
「固いパンだ」
「ソーセージもな。幾ら何でももう少しいい肉を使えってんだ。何だこの肉は」
「そのソーセージが気に入らないみたいだな」
「中国のやつを食べ慣れていたんでな」
 フェイは笑ってそう答えた。
「中国のソーセージはな、ちょっと違うんだ」
「そうらしいな、ハムもそうだと聞いているが」
「ああ。しかしそれでもこのソーセージは大概なものだぜ」
「まあ食えるだけましだけれどな」
「だな」
 ここでアレンは話を変えてきた。
「なあフェイ」
「何だ」
「御前さっきのあれをどう思う」
「ジェリルのことか」
「そうだ。あいつのオーラ、戦う度に増幅しているな」
「それだけじゃねえ。何か禍々しくなってきている。それはショウの奴もわかっていたみてえだな」
「そうだな。俺もあれは妙だと思った」
「俺もだ」
 それに関して二人は同じ意見であった。
「あのままオーラが増幅したらどうなるか、だな。問題は」
「えらいことになるかもな」
「あのままだとな。何が起こるかわからねえが」
「俺達にとって悪いことにならなきゃいいな」
「ああ」
 彼等はそんな話をしながら食事を摂った。そして彼等もまた次の戦いに備えるのであった。オデッサはまだ戦いの神に魅入られていたのであった。


第二十七話   完


                                  2005・6・17