シャングリラ
 地上で小競り合いが続いている頃、宇宙でもそれは例外ではなかった。
 月にはギガノスがおりゼダンの門にはティターンズ、そしてアクシズにはネオ=ジオンが存在していた。そしてそれぞれ強力な指導者を得ていた。
 まずギガノスにはギルトール元帥がいた。能力とカリスマ、そして理想を備えた彼に心酔する者は多く、月を完全に掌握していた。
 ゼダンにいるティターンズにはジャミトフ=ハイマンがいた。戦いに敗れ宇宙に退いたとはいえ彼にはまだかなりの戦力が存在していた。かおかつジオン共和国やジュピトリアン達とも結び付きを強めその勢力を大幅に回復させていた。最早彼等は宇宙の一大勢力となっていた。
 そしてネオ=ジオンである。先の戦いでギレン=ザビ及びドズル=ザビを失いキシリア=ザビも終戦直後の不慮の事故で失った彼等だがその勢力は衰えることがなかった。それどころか盟主となったドズルの遺児ミネバ=ザビの摂政に就任したハマーン=カーンと奇跡的に生き残っていたエギーユ=デラーズの手によりその勢力を維持し、アクシズに独自の勢力を保っていた。彼等はジオンの残党を吸収し、やはり独立勢力と化していた。そして地球圏及び火星にいる連邦軍、とりわけロンド=ベル隊と激しい対立関係にあった。
 それは各コロニーにおいても同じであった。各サイドでもティターンズと友好関係にあるサイド3をはじめとしてそれぞれの勢力と結び付こうとしていた。それはモザイク状に絡み合い各勢力の小競り合いを促す結果となっていた。それはかってジュドー達がおり、そして今も住んでいるシャングリラにおいても同じであった。
「敵機はいるか」
 ロンド=ベルの旗艦ラー=カイラムの艦橋に座る男の声がした。この艦の艦長ブライト=ノアである。黒い髪を後ろに撫で付けた理知的な顔立ちの男である。連邦軍の制服がよく似合っている。
 一年戦争以来の名艦長と言われている。冷静沈着かつ的確な戦況判断で名がある。エースパイロットであり一年戦争からの戦友でもあるアムロ=レイと並んでロンド=ベルの重鎮とされている。今もこの艦を指揮し最前線に立っていた。
「はい、今のところ反応はありません」
 レーダーを見る金髪の男が答えた。トーレスである。
「そうか。だが油断するな」
「わかってますよ」
 トーレスはブライトに答えた。
「敵は何時何処から出て来るかわかりませんからね」
「そういうことだ」
 ブライトはそれを受けてこう言った。
「ティターンズやアクシズだけではないからな」
「ギガノスですか」
「そうだ。彼等はまた彼等でかなりの勢力を有している。油断は禁物だ」
「ロンド=ベルの勢力だけじゃ心配ですね」
「そうだな。連邦軍は今地球だけで手が一杯だ。とても宇宙にまでは手が回らない」
 やはり恐竜帝国やミケーネとの戦いがあるからだ。甲児達だけで何とかなるものではなかった。
「我々の戦力も心もとない。今動けるのはスカル小隊とヘンケン艦長の部隊、そして」
「俺達だけですね」
 いかつい顔の男がここでこう言った。サエグサである。
「そうだ」
 ブライトは彼の言葉に頷いた。
「どちらも戦力はかなりのものだがな」
「ヘンケン艦長の部隊にはリュウさんやスレッガーさん、ウッディさん達がいますしね」
「それにシュラク隊もな。どうもヘンケン艦長は彼女達が回って残念なようだが」
「そりゃそうでしょうね」
 トーレスはブライトのその言葉を聞いておかしそうに笑った。
「ヘンケン艦長はエマ中尉がいなくて残念なんですよ」
「エマ君がか」
 ブライトはそれを聞いて何かに気が付いた。
「確かにな。彼女は優れたパイロットだからな」
「問題はそうでもないようですか」
「だったら何だ?」
 ブライトはヘンケンがエマに持っている感情に気付いてはいなかったのだ。
「私にはよくわからないぞ」
「じゃあいいです」
 トーレスはそれで話を終わらせることにした。
「ところでそろそろですよ」
「うむ、そうか」
 ブライトはここで指揮官の顔に戻った。
「それではオビルスーツ隊に発進命令を出してくれ」
「了解」
「全機いけるな」
「勿論ですよ」
 艦橋にいた茶色の髪の男が答えた。この艦のチーフ=メカニックであるアストナージ=メドッソである。
「どれも整備状況は万全ですよ」
「それならいい」
 ブライトはそれを聞いて口の端を少し綻ばせた。
「ではすぐに向かわせよう」
「わかりました」
「指揮官はバニング大尉だ。04小隊とコウ、そしてカミーユを出そう」
「わかりました」
「先行しているクリスとバーニィから連絡はあったか」
「いえ、まだです」
「そうか」
 艦橋は次第に騒がしくなってきた。ブライトはその中で的確に指示を出していく。
「だがいい。あの二人なら大丈夫だ、すぐに出撃させるぞ、敵が側にいるのは間違いないからな」
「はい」
 サエグサとトーレスはブライトの命令に頷いた。
「では出撃させます」
「ああ、頼むぞ。ラー=カイラムはとりあえずはコロニーの側で待機する。そしてそこで哨戒に当たる」
「わかりました」
 こうしてモビルスーツ隊が発進した。彼等はまずラー=カイラムの側で隊を編成した。
「ふう」
 戦闘機の形態をしたリ=ガズィのコクピットで声をあげる者がいた。
「性能がいいだけあって操縦が厄介ですね」
「そうか?」
 その隣にいる緑のモビルスーツディジェSERから声がした。
「俺はそうは思わないぜ」
「おい、モンシア」
 そこで銀色の量産型F90からディジェのパイロットを嗜める声がした。
「アデルのリ=ガズィと御前さんのディジェじゃ操縦の形式がまた違うだろうが。一緒にするな」
「おお、ヘイトか」
 ディジェの中にいる茶色い髪と口髭の中年の男がF90に顔を向けさせた。
「御前さんはありかし普通に動かしているな」
「まあな」
 F90の中にいる金髪のリーゼントの男、ヘイトはそれに答えた。
「こっちはわりかし操縦が楽なんだよ」
「そうなのですか」
 リ=ガズィの中の黒い髪と髭の男がそれに頷いていた。彼がアデルである。この三人は一年戦争からの同僚であり、かっては『不死身の第4小隊とまで呼ばれていたのである。歴戦のパイロット達であった。
「隊長は何の問題もないみたいだな」
 ここで三人は彼等の前にいる銀色のガンダム、GP−01に目をやった。するとそこから声が返って来た。
「当たり前だ」
 渋い男の声であった。
「このガンダムには何度か乗ったことがあるからな」
「そういえばそうでしたね」
「ああ」
 男はまた答えた。白い髪をした初老にさしかかろうかという男であった。彼がこの小隊のリーダー、バニングであった。連邦軍においては名のあるエースの一人である。
「アデルもじきに慣れるだろう。いや、慣れてもらわないと困る」
「わかっていますよ」
 アデルはそう答えた。
「慣れないと命に関わりますからね。それはわかっているつもりです」
「ならいいんだがな」
 バニングはそれを聞いてそう言った。
「機体がよくなったのはいいがな。慣れないとどのみち同じだ。それはわかってくれ」
「了解」
 三人は彼の言葉にそう頷いた。
「ところでだ」
 バニングはここで話を変えた。
「カミーユの隊は何処にいる」
「あっちですよ」
 ディジェが右手を指差す。そこには四機のモビルスーツがいた。
 一機は黄色いモビルースーツであった。Zガンダムの試作機の一つメタスである。試作機ながらコストパフォーマンスが高く、修理機能もある。中々優れた機体だ。
 そしてガンダムマークUにGディフェンサーを付けたスーパーガンダム、そしてガンダムマークUを更に発展させたガンダムマークV、そしてZの発展型ZUであった。どれも名のあるパイロットが乗っている。
「ねえカミーユ」
 メタスから少女の声がした。黒い髪のあどけない顔立ちの少女だ。ファ=ユィリィである。ロンド=ベルのパイロットの一人である。歳の割に戦歴は長く、この隊においては主要なエースの一人でもある。
「もう私達の小隊は全員揃ったわ。早く行きましょう」
「ああ、そうだな」
 ZUに乗る少年の声がした。青い髪の少年である。彼がアムロ=レイと並ぶロンド=ベルのエースパイロットであり、ニュータイプとしても知られるカミーユ=ビダンである。先の戦いで獅子奮迅の活躍をしたことでも知られている。
「ファの言う通りね」
 それに合わせるかのようにスーパーガンダムから女の声がした。
「バニング大尉が待っているわ。早く行きましょう」
 茶色い髪をショートにした凛とした顔立ちの女性であった。エマ=シーンである。先程艦橋でブライト達が話していたその女性である。彼女もまたエースパイロットとして有名である。その操縦技術には定評がある。
「私もそう思うわ」
 ガンダムマークVからも声がした。空色の髪の少女であった。
「フォウ」
 カミーユは彼女の名を呼んだ。彼女はカミーユに名を呼ばれると微笑んだ。
 彼女の名はフォウ=ムラサメ、ティターンズにより養成された強化人間の一人である。かってはカミーユ達と死闘を繰り広げたが、彼の心からの説得により今こうしてロンド=ベルにいる。この隊においてはカミーユに匹敵するエースの一人である。
「早く言った方がいいと思うわ、バニング大尉は厳しいから」
「そうだな」
 カミーユは彼女の言葉に頷いた。
「行こう、そしてバニング大尉の指示に従う」
「ええ」
「了解」
 他の三人もそれに従った。そして彼等はバニングのところに来た。
「来たか」
「はい」
 バニングは彼等が来たのを認めてそう声をかけた。カミーユ達はそれに頷いた。
「これで二つだな」
「ええ。ところでウラキ少尉とキース少尉は」
「先に行かせた」
 バニングはカミーユにそう答えた。
「クリス中尉とワイズマン少尉から連絡がないのでな。二人も先行させた」
「そうなのですか」
「我々もすぐに行くぞ。用意はいいか」
「はい」
 カミーユはそれに頷いた。すぐにZUを変形させる。
「何時でも行けますよ」
「ならばいい」
 バニングはそれを受けて頷いた。
「では我々も行こう。二人から連絡がにところを見ると何かある」
「そうでしょうね」
 カミーユもそれには同じ見方をしていた。
「中にいるのはティターンズかネオ=ジオンか」
「ギガノスの可能性もあるぞ」
「はい」
 他の者達も頷いた。
「ギガノスにも凄腕のパイロットがいるそうだしな」
「蒼き鷹ですね」
「そうだ」
 バニングはカミーユの言葉に頷いた。
「まさかこのシャングリラにも」
「そこまではわからん。だが用心するにこしたことはないぞ」
 バニングの言葉は歴戦の戦士故の言葉であった。だからこそ重みがあった。
「わかるな」
「ええ」
 カミーユは答えた。
「では突入だ。カミーユ、先頭は俺が務める。サポートを頼む」
「了解」
「後は続け。敵がいたならばすぐに叩くぞ」
「わかりました」
 彼等はそれに続いた。こうして八機のモビルスーツがシャングリラに潜入した。

 戦いが終わった後ジュドー達は元のジャンク屋を経営していた。顔触れは以前よりもかえって増えていた。そしてその商売の状況も以前よりよくなっていた。彼等は今そのジャンク屋になっているジュドー=アーシタの家に集まっていた。
「ねえジュドー」
 長い薄紫の髪の美しい少女がジュドーの名を呼んだ。ルー=ルカである。
「何だ」
 黒い髪の少年ジュドーが彼女に応えた。
「何か気になることでもあるのかよ」
「あるわよ、それも大あり」
 ルーは強い声でそう答えた。
「ここにティターンズかギガノスが来ているって話じゃない」
「まさか」
 だがジュドーはそれを否定した。
「こんな所にわざわざ来るもんかよ、あいつ等は今ゼダンにいるんだぜ」
「いや、わかんねえぞ」
 蜂蜜色の髪をした少年、ビーチャ=オレーグがジュドーに対してそう言った。
「ここはアナハイム社の業者も出入りしているしな。それの関係なら有り得るぜ」
「そういえば昨日でっかい船が来たよね」
 黒い髪に浅黒い肌の少年がそれに合わせた。モンド=アカゲである。
「ああ、あの船だね」
 茶色の髪の少年も言う。イーノ=アッバーブである。
「それならあそこに泊まっているよ」
 彼はそう言ってコロニーの彼方を指差した。港のある方である。
「そうなのか」
 ジュドーはそれを聞いていささか事情がわかってきた。
「ティターンズのやつなんだな」
「ああ」
 彼等はそれに頷いた。
「じゃあ話が早え、それかっぱらっちまおうぜ」
「やるか」
 皆それを聞いてにんまりと笑った。
「こうこなくっちゃね」
 黄色い髪の少女が言った。エル=ビアンノである。
「プル、プルツー」
 ジュドーは店の奥にいる赤髪の二人の小柄な少女に声をかけた。
「仕事だぜ。お宝を見つけたぞ」
「お宝!?」
「ザクか何かか!?」
 二人はそれを聞いて店の先に出て来た。
「おいおい」
 ジュドーはザクと聞いて苦笑した。
「確かにザクなんて手に入ったら高く売れるだろうけれどな」
 やはり名機なのは事実である。その筋のマニアには高く売れるのである。
「けれど今回はもっと違うぜ」
「違うの?」
「じゃあ何だ?」
「よく聞けよ」
 ジュドーはまずそう断った。
「うん」
「わかった」
 そして二人はそれに頷いた。彼はそれを確かめてから語った。
「相手はティターンズだ」
「ティターンズ」
 二人はそれを聞いて顔を引き締めさせた。
「そうだ」
 ジュドーは二人のその顔を確かめながら頷いた。
「わかるな。今回は儲かるだけじゃねえぜ」
「そうだな」
 プルツーはそれを受けて応えた。
「ティターンズはどのみちあたし達によくするとは思えない。連中を妨害することならした方がいいな」
 ティターンズはスペースノイドにとっては公然とした敵であった。地球至上主義を唱え彼等を排除するティターンズを敵視
するのは当然であった。
「そう思うだろう。じゃあ決まりだな」
「うん」
 今度はプルが頷いた。
「じゃあすぐに行こうよ。早くしないとあっちが出て行っちゃうよ」
「まあそう焦るなって」
 ジュドーはそんなプルを宥めた。
「準備ってやつが必要だよ。なあ」
 ここでビーチャ達に顔を向けた。
「ああ」
「今車を持って来るよ」
「うちのワゴンでいいよね」
 エルとイーノがそう言って何処かに駆けて行った。彼等はそれを見送った。
「さて」
 ジュドーは二人が車を持って来に去ったのを見届けた後で店の奥に顔を戻した。
「リィナ」
 そして別の女の子の名を呼んだ。
「何?」
 暫くしてプルやプルツーと同じ位の歳の少女が出て来た。髪の色はジュドーと同じである。顔付きも似ている。だがその表情は可愛らしく、如何にもといった感じの整った顔立ちであった。そこがジュドーとは違っていた。ジュドーの妹であるリィナ=アーシタであった。
「おお、いたか」
「さっきからいるわよ」
 リィナは兄の言葉に口を尖らせた。
「ティターンズ相手にやるんでしょ」
「ああ」
 彼は答えた。
「何だ、知っているのかよ」
「知ってるわよ」
 リィナは口を尖らせたまま答えた。
「さっきからそれだけ騒いでいたら。ご近所に聞かれたら大変よ」
「あらら」
 ジュドーはそれを聞いてバツの悪い顔をした。
「聞こえてたのかよ」
「どうせ止めたって行くんでしょ」
 ジュドーは兄に対して言った。
「相手はティターンズだし」
「ああ」
 ジュドーはそれを否定しなかった。頷いて答えた。
「気を着けてね」
 リィナは兄達に言った。
「あたしが言えるのはそれだけだけれど」
 その顔は不安に満ちたものであった。
「わかってるさ。心配するなって」
 ジュドーはそんな妹を励ますようにして言った。
「すぐに大金持って来るからな」
「そうしたらパーティしようぜ。パッとな」
「いいわね、皆で」
 ルーがビーチャの言葉に賛同した。
「そういうこと。リィナちゃんは何も心配する必要はないよ」
 モンドも彼女を励ました。それを聞いてもリィナの顔は晴れなかった。
「うん」
 まだ何か言いたげであった。だがここでエルとイーノが乗るワゴンが来た。
「お待たせ」
「これなら皆乗れるよね」
「ああ」
 ジュドーはそのワゴンを見て満足そうに頷いた。
「じゃあ早速行くか。皆乗れ」
「了解」
「まずあたしが乗るね」
「子供は後だよ、プル」
「あーーーっ、自分だってまだ子供の癖に」
「ビーチャずるいぞ」
 口喧嘩をしながらワゴンに乗り込む。そして皆乗った。それから出発した。
「行ってらっしゃい」
 リィナは彼等を手を振って送った。もうそれだけしか出来なかった。
「けれど」
 それでも顔は不安気なままであった。
「大丈夫かなあ。ホントに」
 それが本音であった。やはり兄達が心配でならないリィナであった。

 ジュドー達はワゴンを飛ばして港に到着した。そしてティターンズの船を捜した。
「あれか」
 それはすぐに見つかった。アレクサンドリア級巡洋艦であった。
「ドゴス=ギアじゃないんだ」
 イーノはアレクサンドリアを物陰に隠れながら見て呟いた。
「流石にあれは目立つからな」
 ジュドーその隣にいた。彼もアレクサンドリアを見上げていた。
「それに入れないだろ、あんなでかい船は」
「それもそうだね」
 イーノはそれを聞いて納得した。
「けれどあれに入っているモビルスーツって何なのかなあ」
 今度はモンドが首を傾げていた。
「凄いのだったらいいけれど」
「案外バーザムとかだったりしてな」
 ビーチャが言った。
「ハンブラビとかだったらいいけれど」
 エルが合わせた。
「それだったら一緒にいるパイロットが問題よ」
 ルーが何かを思い出して露骨に嫌な顔をした。
「どうせ生きてるんでしょうけれど」
「だろうな」
 ジュドーがルーの言葉に同意した。
「あのおっさんはそう簡単に死ぬタマじゃねえよ」
「ティターンズだからな」
 プルツーがここでこう応えた。
「あのリーゼントの人もそうだしね」
 プルがここでジェリドについて言及した。
「あの兄ちゃんもなあ」
 ジュドーも彼については知っていた。
「よくもまああれだけカミーユさんばかり追いかけられるよ、本当に」
「それが生きがいなんでしょね」
 そうした話をしながら隙を窺う。見たところティターンズの将兵の警護は緩かった。
「行くか」
 ジュドーがそう皆に問うた時であった。不意に艦の後ろで何やら爆発が起こった。
「ンッ!?」 
 そちらに顔を向けた。これはティターンズの者達も同じであった。
「おい、あっちだ」
 彼等はすぐにそちらに向かう。出入り口はガラ空きとなった。
「ジュドー」
 エルが囁いた。
「今だよ」
「おっ、そうだな」
 ジュドーだけでなく他の者も気付いた。伊達にこの商売をやっているわけではなかった。
「行くぜ」
「おう」
 彼等はすぐに入り込んだ。そしてそのまま潜入した。
 アレクサンドリアの中はあまり知らない。だが連邦軍の艦艇なおでおおよその造り方はわかっていた。彼等は格納庫の方に向かった。
「見つかるなよ」
「わかってるって」
 そうしたやりとりをしながら慎重に進む。そして格納庫に辿り着いた。中に入って彼等は思わず声をあげた。
「お、おい」
「あ、ああ」
 そこには多くのモビルスーツがあった。そして何とそれはガンダムであったのだ。
「おい、ZZがあるぜ」
「Zもよ」
 見ればキュベレイマークUもある。それも二機だ。
 他にもあった。人数分、いやそれ以上あった。どれも量産型のものではない、特殊なものであった。
「どうするよ」
 ジュドーはそれを見て興奮を抑えられなかった。
「どうするってよお」
 ビーチャもそれは同じである。
「何でティターンズがこんなの持ってるんだよ」
「大方アナハイム社からの横流しでしょうね」
 ルーがそれに答えた。
「あそこの社長わりかし狸だから」
「有り得るね、それ」
 エルがそれに同意した。アナハイム=エレクトロニクス社の社長メラニー=ヒュー=カーバインは腹芸の達者な寝業師として知られているのである。
「こんなのティターンズに渡ったら大変だよ」
「そうそう、モンドの言う通りだよ」
 この面々では比較的穏やかなイーノも声をあげている。ジュドーはそれを見て考え込んだ。
「どうするかだよな」
「盗むしかないよ、ジュドー」
 ここでプルが言った。
「丁度キュベレイもあるしさ。盗んじゃおうよ」
「そうだな、最初からそのつもりだったし」
 彼もそれに乗った。いや、最初から決めていたことを実行に移す決心をしただけであった。
「やるぞ」
「よし来た」
 皆それに従った。そしてそれぞれ気に入ったモビルスーツに乗り込む。ジュドーはZZ,ルーはZ,ビーチャはフルアーマー百式改に乗った。エルはスーパーガンダムの黒、モンドはフルアーマーマークU、イーノはメタス改だ。やはりガンダム系のモビルスーツを選んでいた。プルとプルツーは当然キュベレイマークUであった。
「何か前と乗っているのは同じだな」
「それもそうだな」
 プルツーが答えた。しかも彼女のキュベレイは赤であった。
「だがそっちの方がいい。慣れたモビルスーツの方が何かとやり易い」
「それもそうだな」
 見ればどの者も的確に動かしていた。やはりどれも以前に乗ったことがあるものか、それの発展型であるせいであった。操縦は見事であった。
「さてと」
 ジュドーは他の者を見回して言った。
「では行きますか」
「おう」
「了解」
 皆頷いた。そして出て行こうとする。その時であった。
「おい、見ろ!」
「大変だ、モビルスーツが!」
 ティターンズの将兵達が気付いた。そしてこちらに集まって来る。
「いけね!」
「早く逃げろ!」
 彼等は急いで逃げ道を探す。とりあえずは艦内から脱出しようとする。辺りを見回す。
「おい、あれ見ろよ!」
 モンドが叫ぶ。すると格納庫が開き外に出られるようになっていた。
「行く?」
「勿論」
 ジュドーはイーノに答えた。
「ここで行かなきゃどうにもなんねえだろ」
「それもそうね」
 エルはそれに頷いた。
「じゃあ行きましょ。後ろはあたしに任せて」
 ルーが後方に回った。
「Zはいざって時にはすぐに逃げられるからね。火力も強いし」
「頼むぜ。じゃあ俺は突っ切る」
「あたしも」
「あたしも行くよ」
 プルとプルツーがその左右を固める。そして彼等は脱出に向かう。
 まずは言葉通りジュドーが出る。その左右を二機のキュベレイマークUが固め他の機体がそれに続く。Zはやはり一番後ろであった。
「行くぜえ!」
 ジュドーは叫んだ。そしてそのまま艦の外に出る。それからコロニーの中に出た。
「皆いるか!?」
 ジュドーはコロニーに出ると他の者に声をかけた。すると周りに次々と集まって来た。
「いるよ」
「俺も」
 皆いた。だがルーのZだけは見えなかった。
「ルー!?」
「心配しないで」
 ここで彼女の声がした。
「あたしもいるから」
 ZZの前にウェイブライダーが姿を現わした。そしてそれはすぐにZに変形した。
「よし、これで全員揃ったな」
 ジュドーはそれを見て満足そうに声を出した。
「後は・・・・・・だ」
 見れば港の方からモビルスーツ達がやって来る。バーザムやマラサイである。どれもティターンズのモビルスーツだ。
「あいつ等をやっつけるだけだな」
「よし」
 彼等は前に出た。皆歳は若いが先のバルマー戦役を生き抜いた者達である。そのパイロットとしての力量は普通のそれを遥かに凌駕しているのだ。
 照準を合わせる。そして狙い撃とうとする。その前にティターンズでも彼等でもないモビルスーツ達が姿を現わした。
「待てっ!」
 それはZUであった。ジュドー達はそれのパイロットが誰であるか知っていた。
「カミーユさん!?」
「久し振りだな、ジュドー」
 コクピットにカミーユの声と映像が入って来た。
「シャングリラだからまさかと思ったが」
 彼はジュドーに対して微笑みながら声をかける。
「また盗もうとしていたのか」
「ええ、まあ」
 ジュドーだけでなく他の者もカミーユに対してバツの悪い顔をした。
「ティターンズですからね。別にいいでしょ」
「俺はいいけれどな」
 カミーユも相手がティターンズならば特に問題としてはいなかった。
「どのみち俺達も連中を倒すつもりだったし」
「そうだったんですか」
「ところでウラキ少尉を知らないか」
「コウさんですか!?」
「ああ。先にコロニーに入った筈なんだが」
 彼は辺りを見回しながらそう言った。
「知りませんけど」
 ジュドーは本当に知らなかった。
「そうか。あの人のことだから大丈夫だと思うが」
 その間にティターンズのモビルスーツは距離を詰めて来ていた。
「そうこう言っている場合じゃないか」
「はい」
 それは二人共よくわかっていた。
「話は先だ。まずあいつ等を何とかしよう」
「了解」
 再びライフルを構える。そして攻撃に入る。だがビームは彼等だけが放ったのではなかった。
 左からも来た。そしてジュドー達の照準から外れていたモビルスーツ達を撃った。そして忽ち数機撃墜していた。
「バニング大尉か!?」
 カミーユはそれを見て思わず叫んだ。
「悪いけど違うよ」
 その声は若かった。
「済まん、調査に長くかかっちまったよ」
「悪い、俺もだ」
 GP−03と量産型F90であった。コウとキースである。
「けれどこれで合流したんだ。宜しくな」
「ええ」
 カミーユはそれに頷いた。
「じゃあ早くこの連中を倒しましょう。それからアレクサンドリアを」
「そっちにはもうバニング大尉が向かってるよ」
「そうなんですか!?」
「クリスとバーニィの案内でな。後はこの連中だけだ」
「それなら話は早いですね」
「そうだな。早く終わらせよう」
「わかりました。ジュドー」
 カミーユはジュドーに顔を向けた。そのカミーユの周りにエマやフォウ達がやって来た。
「そういうことだ。すぐに終わらせるぞ」
「了解」
 ジュドーはにこやらに笑ってそれに応えた。
「パッパッとやっちゃいますか」
「けれどあまり調子に乗るなよ」
「わかってますって」
 彼はそう答えて前に出た。そしてダブルビームライフルで次々と撃ち落とす。彼等の活躍もありシャングリラでの戦闘はすぐに終結した。そして外でもアレクサンドリアが拿捕されていた。
「会うだろうとは思っていたがな」
 ブライトはラー=カイラムの艦橋でジュドー達を前にしてそう語っていた。
「しかしまたモビルスーツに乗るとは。しかもまた盗んで」
「堅いことは言いっこなしですよ、ブライトさん」
「そうそう、俺達のおかげで今回の作戦は成功したようなもんだし」
 ジュドーもビーチャも全く悪びれてはいなかった。
「それにティターンズとは前から色々あったし。今回もあるんでしょ?」
「それはそうだが」
 ブライトはそれを認めた。
「じゃあ話は早いや。ブライトさん」
 ジュドーが一同を代表して彼に対して言った。
「俺達もロンド=ベルに入れてくれよ。金も入るし」
「そうそう、パイロットでお金いいのよね」
「エル」
 ブライトは彼女を咎めるような声を出した。
「あ、御免御免」
「そういう言葉は謹んでもらおう」
 だがそれは事実であった。パイロットは他の軍人達と比べてその給料は高いのである。
 何はともあれ彼等は再びロンド=ベルに入隊した。そしてすぐに軍属扱いとなった。
「まあこれは仕方ないな」
 ジュドー達はラー=カイラムの廊下を歩きながらそう話していた。
「そうよね」
 ルーがそれに同意した。
「お給料はいいんだし」
「それしかないの?」
 イーノが彼等があまりにも金のことばかり言うので呆れた声を出した。
「それ以外に何があるんだよ」
 ここでモンドが突っ込みを入れた。
「そうそう」
 ジュドーがそこで相槌を打った。
「リィナをいい学校に行かせる為なんだからな」
「気持ちは有り難いけれど」
 ジュドーの横にいるリィナがここで言った。
「お兄ちゃん何でもケチケチし過ぎ」
「そうか?」
「というか石鹸位ケチらないでよ」
「いいじゃねえかよ」
 ジュドーはそれを聞き不満を露にした。
「大体御前が綺麗好き過ぎるんだよ」
「そうじゃないわよ」
 だがリィナはそう反論した。
「今履いているトランクス何日目?」
「うっ・・・・・・」
 彼はトランクスは一週間履く主義である。
「まだ三日目だよ」
「もう三日よ」
「ええ、ジュドーそんなに下着替えないの!?」
 プルがそれを聞いて驚きの声をあげた。
「トランクスはいいんだよ」
「そうそう」
 男組がそれに対して頷く。彼等も大体同じである。
「ガラのせいで汚れが目立たないからな」
「そういう問題じゃないでしょ」
「そうよそうよ」
 リィナとプルが言う。そこにプルツーも加わる。
「不潔なのはよくないな」
「不潔じゃねえよ」
 ジュドーは反論する。
「生活の知恵だ」
「それは生活の知恵じゃないな」
 ここで若い男の声がした。
「その声は」
 見れば金髪の青年が立っていた。ロンド=ベルのパイロットの一人バーナード=ワイズマン、バーニィであった。
「バーニィさん」
「それはズボラっていうんだよ」
 彼は笑いながらそう言った。
「かえって危ないよ。怪我でもしたらそこからばい菌が入る」
「うっ・・・・・・」
「や〜〜〜い、バイキンバイキン」
 プルがそれを聞いて楽しそうに囃し立てる。
「病気になっちゃうぞお」
「プルの言う通りだ」
 バーニィは真面目な顔で言葉を続ける。
「いざという時にそうなったら困るだろう」
「そりゃまあ」
「だから普段から清潔にしておくんだ。いいね」
「はい」
「バーニィは何時でも綺麗好きだからね」
 今度は女の声がした。赤いロングのストレートの女性であった。クリスチーナ=マッケンジー、クリスである。
「当然さ」
 バーニィはそう返した。
「いざという時に困るじゃないか」
「ザクを動かす時ね」
「えっ!?」
 ジュドー達はそれを聞いて思わず声をあげた。
「バーニィさん、あんたもしかして」
「まだザクに乗ってるの!?」
「ああ、そうだよ」
 彼は先程とはうって変わって不貞腐れた顔をして答えた。
「それが悪いのかい!?」
「いや」
 彼等はそれには首を横に振った。
「別に悪いとは思わないけれど。ただ」
「言いたいことはわかってるよ」
 バーニィにもわかっていた。
「けれどザクはいい機体なんだ」
「それでもなあ」
「ザクはザクだけれどな」
 ジュドー達に反論にかかった。
「ザクVなんだ。これなら文句はないだろう」
「確かに」
 ジュドー達もそれには同意した。ザクVはネオ=ジオンの機体でありその性能、とりわけ装備はかなりいい。ザクとは思えぬ程である。
「けれど何でロンド=ベルにそんなものが」
「捕獲品よ」
 クリスが答えた。
「私だってそれに乗っているんだから」
「そうなんですか。そしてそれは?」
「ドーベン=ウルフよ」
 にこりと笑ってそう言った。
「中々いいでしょ」
「中々どころじゃ」
 ネオ=ジオンの誇る重モビルスーツである。その装備はかなりいい。
「何か今のうちの軍って凄い装備だよな」
「ああ」
 そう言うジュドー達もガンダムやキュベレイである。ロンド=ベルはこれまでの戦いにより多くのモビルスーツを手に入れていた。従ってその装備もかなりのものとなっていた。
「そんな中でもザクを選ぶバーニィさんも」
「悪いのかよ」
「いや」 
 それには首を横に振った。
「けれどなあ」
「ああ」
「・・・・・・いいじゃないか、別に」
 バーニィは頬を膨らませた。そうこうしている間にラー=カイラムのエンジンに火が灯った。そしてそのまま次の戦場に向かうのであった。


第三話   完



                                     2005・1・23


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