仕組まれた引き金
「そうか、うまくいったか」
 巨大な玄室の中で一人の男が周りにいる者達の言葉を聞き満足そうに頷いていた。
「では次は洗脳だな」
「ハッ」
 周りの者達が彼の言葉に頷く。
「万全を期すようにな。よいな」
「わかりました。ではユーゼスの残したあの技術を使いましょう」
「よし。それにしてもユーゼスめ」
 男はユーゼスについて言及した。
「まさか今あの技術が使われるとは思っていなかったであろうな」
「全くです」
 部下達がそれに合わせて笑った。
「オリジナルのラオデキアに監視されていたとも知らずに。己が宇宙の支配者となるつもりだったようです」
「宇宙の支配者か」
 男はそれを聞いて笑みを浮かべた。そして周りの者に対して問うた。
「皆に聞く」
「はい」
「宇宙を統べるに相応しい者は誰か」
「陛下以外におりませぬ」
 彼等は一様にそう答えた。
「そうであろう。ではわかっているな」
「はい」
「朕の意思が。全てを統べる為に」
「全てを統べる為に」
「マーグをあの星に向かわせたのだ。そしてあの女も」
「あの女ことですが」
「何かあるのか」
「果たして大丈夫なのでしょうか」
「どうしてそう思うのだ?」
 男は疑問の声を呈した部下に対してそう問うた。
「いえ、あの女は生粋のバルマー星人ではありませぬ」
「それは知っている」
「だからこそです。信用できるでしょうか」
「マーグはバルマー星人だ」
 彼はそう述べた。
「ラオデキアと同じくな。それには逆らうことができまい」
「女であっても」
「女だからこそというのもある。だがそれ程心配か」
「はっ」
 否定はしなかった。
「僭越ながら」
「ふむ。そなたの考えはわかった」
 だが男はそれを退けることはなかった。見るべきものを見出したようであった。
「ならばさらにつけよう。シャピロ=キーツがいたな」
「はい」
「あの男をまた地球に送る。そしてムゲ=ゾルバトス軍もな」
「あの者達も」
「これで不安はあるまい。だがシャピロには注意しろ」
「はい」
「あの男が妙な動きをしたならば」
 男の目が剣呑に光った。
「消せ。よいな」
「わかりました」
 そして彼等はその部屋の中に沈んでいった。地球から遠く離れた場所でのことであった。

 地球では相も変わらず戦いが続いていた。ロンド=ベルはサンクトペテルブルグまであと僅かの距離にまで迫っていた。
「寒くなってきたな」
 バニングがアルビオンの格納庫でモビルスーツを前にそう呟いていた。
「そうですか?俺には丁度いいですけれど」
「御前さんは鈍感だからな」
「ヘイト、そりゃどういう意味だ」
「まあまあ」
 彼の部下達も一緒だった。アルビオンのパイロット達が皆そこにいた。
「けれどモンシアさんって意外と寒さに強いんですね」
「慣れってやつよ」
 ツグミに対してそう答える。
「俺の生まれた国は寒くてな。それで慣れたのさ」
「ふうん、そうなんですか」
「俺と同じだな」
 アルゴがここでポツリと言った。
「ていうかアルゴさんの故郷でしょ、ここ」
「一応はな」
 アルゴは頷いた。
「俺はコロニー生まれだがな。ネオ=ロシアだからな」
「あたしも同じだね」
 アレンビーも言った。
「あたしも寒い国だよ、ネオースウェーデン」
「あ、そうだったね」
 アイリスがそれを聞いてハッとした。
「あんたも寒い国の生まれだったんだ」
「そうだよ。オーロラも見たことあるよ」
「ねえ」
 それを聞いたクリスがグイ、と顔を前に出してきた。
「オーロラって綺麗なの?見たことないのだけれど」
「まあ綺麗って言えば綺麗かな」
 しかし当のアレンビーの答えは素っ気無いものである。
「あたしはあんまり興味なかったけれど」
「あら、そうなの」
「スフェーデン生まれだからってオーロラが好きとは限らないよ。あたしはそれより戦う方が好きだし」
「何か今更って感じのする言葉だな」
 キースがそれを聞いて呟いた。
「けれどスフェーデンはいいところなのは事実だよ」
「本当!?」
「魚が美味しいしね。鮭も鰻も美味しいよ」
「いいな、それって」
 それを聞いたコウとコスモクラッシャー隊の面々が声をあげた。
「魚が美味いって」
「あ、そうか」
 アレンビーはそれを見て気付いた。
「あんた達日本人だったんだね。だから魚が好きなんだ」
「嫌いな人はそうそういないな」
 ケンジがそれを認めるような言葉を口にした。
「刺身にしてもいいし」
「天麩羅もいい」
「鍋や唐揚げにしてもな」
「ふうん、色々な食べ方があるんだ」
「そうさ。知らなかったのか?」
「だってドモンは何かいつも焼いたのをそのままガブリだったし。もしくは生のままで」
「ドモンさんは特別よ」
 ミカがそれを聞いて困ったような顔をした。
「ドモンさんだったらウランを食べても平気なんだから」
「偉いいいようだな」
 当のドモンがそれを聞いて顔を顰めさせた。
「俺でもウランなんかは食べないが」
「レインさん、それ本当?」
「ええ」
 レインはミカの言葉に頷いた。
「ドモンはね、健康は大事にしているから。これでも体調管理はしっかりしているわよ」
「レインさんが全部やってるんじゃ」
「世話女房だしな」
 キースとバーニィがそれを聞いてヒソヒソと話をしている。だが彼等はそれをよこに話を続ける。
「そうだったんだ。ドモンさんも格闘家だしね」
「当然だ。俺は何時誰の攻撃を受けるかわからない。常にそれに備えている」
「だからね。体調管理もしっかりしていないと駄目なの」
「成程」
「生の魚を食べる時も気をつけている。虫がいては大変だからな」
「・・・・・・ドモンさんだったら虫まで消化しちゃいそう」
「それ禁句だぞ、バーニィ」
 それでも二人もヒソヒソと話をしている。
「まあ鰻なら蒲焼にしてもいいと思うよ。あたしも一度食べてみたいし」
「蒲焼か」
 コウがそれを聞いて目を輝かせた。
「いいよな、あのタレが。やっぱり鰻は蒲焼だよ」
「俺はひつまぶしの方がいいな」
 ナオトが突っ込みを入れる。
「肝の吸い物も忘れるなよ」
 アキラも。彼等もどうやら鰻が好きなようである。ナミダも何だか嬉しそうであった。
「だがそれはサンクトペテルブルグの戦いが終わってからだ」
 ここでバニングが皆を引き締めにかかった。
「それはわかっているな」
「はい」
 皆それに応えた。
「わかっているならいい。ではそろそろ戦いだ。配置についておけ、いいな」
「わかりました」
 こうして彼等は控え室に入った。入る時にタケルに対してミカが声をかけてきた。
「タケル」
「どうしたんだい?」
「お兄さんのことだけれど」
「兄さんの」
 それを聞いたタケルの顔が曇った。ミカはそれを見て言った。
「あ、嫌ならいいのよ。けれど」
「ミカの言いたいことはわかってるよ」
 彼はそう言葉を返して笑った。
「兄さんは生きている、それでいいさ」
「いいの?」
「今はね。けれど絶対に救い出す、絶対にね」
「お兄さんだから?」
「そうだな」
 タケルはそれを認めた。
「それはある」
「やっぱり」
「兄さんはやっと巡り合えた俺の肉親なんだ。何としても助け出したい」
「助け出してどうするの?」
「そこまではわからない」
 そう答えるしかなかった。
「だが兄さんを助け出したい。それじゃあ駄目なのか」
「いえ」
 ミカはそれを否定しなかった。
「それでいいと思うわ。けれどね、タケル」
「何だい」
「無理はしないでね、いいわね」
「わかってる」
 タケルはそう頷いた。
「だけど無理はしなければならない時は」
「私達がいるわ。安心して」
「有り難う」
 タケルはにこりと笑った。そして戦場に向かった。
 ロンド=ベルは戦場に布陣した。そこには既にティターンズとドレイク軍もいた。サンクトペテルブルグの入口であった。
「ロマノフ王朝の帝都か」
「ああ」
 ピートの言葉にライが頷いた。
「そしてソ連の時には国父の街だった。ロシアの歴史において最も重要な都市の一つだ」
 この都市はロシアきっての名君とされるピョートル一世の作り上げた都市である。当時欧州きっての軍事国家であったスウェーデンとの戦いにおいて勝利した彼がここに街を築いたのであった。理由は幾つかあった。
 まずはそのスフェーデンに近かったこと。勝利を収めたとはいえいまだスフェーデンはロシアにとって脅威であった。そして港になった。ロシアにとって港とは喉から手が出る程欲しいものであるのだ。ロシアの拡張主義はこの不凍港を手に入れる為でもあったのだ。
 最後に西欧の進んだ技術や文化を取り入れるに適しているとピョートル一世が考えたこと。彼はここに古いロシアの匂いのしない西欧風の都市を築こうと考えたのだ。そして自らの名を冠したのである。ここに彼の意気込みが見られた。
 北極の凍てついた大地の上にこの都市は築かれた。その際夥しい犠牲者が出ている。この都市は白骨都市とさえ言われた。ロシアの歴史の暗部でもあったのだ。
 そしてロマノフ朝の都となった。栄耀栄華を極める貴族達の街であった。革命の後には聖地となった。ロシアの激動の歴史と共に歩んできた街であった。
 今この街で激戦がはじまろうとしていた。ロンド=ベルとティターンズ、ドレイク連合軍が対峙していた。そして別の俳優達も姿を現わそうとしていた。
「とりあえずはゼオライマーは無視していい」
 ブライトは全軍にそう言い伝えた。
「無視ですか」
「そうだ」
 カミーユにそう答える。
「ゼオライマーにはエヴァを向ける。いいな」
「了解」
 シンジがそれに頷く。他の三人もいた。
「やってみます」
「やってみますじゃないでしょ」
 アスカがそう突っ込みを入れる。
「やるのよ。あの銀色のマシンを破壊するのよ」
「けれど敵じゃなかったら」
「は!?あんたまだそんなこと言ってるの」
 アスカはそれを聞いて呆れた声で返した。
「あれが敵じゃなかったら何だっていうのよ。そんなんだからあんたはなよなよしてるって言われるのよ」
「別になよなよしてるわけじゃ」
「口ごためはいいの。男がそんなの止めなさい」
「男だからってわけじゃ」
「ええい、だからそれがいけないのよ!」
 アスカは遂に切れてしまった。
「とにかくゼオライマーが来たら倒す。それでいいでしょ」
「うん」
 アスカに押し切られる形となった。頷くしかなかった。
「どのみちあいつは洒落にならない程危ない奴なんだから。見たでしょ」
「うん」
 木原マサキの危険さはシンジもよくわかっていた。これまでの戦いでそれがわかっていた。
「どのみち放っておいたら危ないわよ。あんな冷酷で残酷な奴見たことないわ」
「アスカもああした奴は嫌いなのか」
「好きな奴を見つける方が難しいわよ」
 ケーンにそう返す。
「あんな奴!あたしの手でギッタンギッタンにしてやるわよ。見てなさい!」
「このお嬢さんがここまで嫌うのも珍しいな」
「カルシウムが足りないとか」
「毎日牛乳は一リットル飲んでるわよ」
 ライトとタップにそう返す。
「だから骨は丈夫よ」
「情緒は安定しねえんだな」
「全くだ」
「あんた達には言われたくはないわよ」
 反撃に出て来た。
「特にあんたにはね」
 そう言ってケーンを睨みつけてきた。
「おやおや」
「まあ話はそれ位にしてや」
 トウジが間に入って来た。
「ケーンさん達はあっち頼んます」
「了解」
「わし等はゼオライマーっと。まそのうち出て来るやろ」
「突然ね」
 レイがポツリと呟いた。
「シンジ君、気をつけてね」
「う、うん」
 レイに突然言われ戸惑うシンジであった。
「僕も頑張るよ」
「そうね。頑張ればいいわ。自分の範囲でね」
「そうだね、そうするよ。少しずつ」
「フォローもあるしな」
「洸さん」
「俺達でな」
「ミスター」
 コープランダー隊からも言葉が来た。
「だから安心してやれ。後ろは気にするな」
「はい」
「だからゼオライマーは任せたぞ。俺達の方も片付いたら行くからな」
「お願いします」
「あらあら」
 アスカがそうした温かい光景を見ていささかシニカルに笑った。
「シンジって何か男にもてるのね。それも年上に」
「いいことだ!」
 ここにドモンが入って来た。
「男と男の友情、それは熱き心の血潮」
「あんたが言うと説得力あるわね」
 さしものアスカも彼だけは苦手であった。正確に言うとガンダムファイターがであるが。
「そこにこそ真の世界があるのだ!」
「はい、ドモンさん」
 シンジはそれにも頷いた。
「僕頑張ります。そしてやります」
「そうだ、やり遂げろ」
 ドモンはそれに応え彼を励ます。
「そこに真の世界があるのだからな!」
「はい!」
「まあシンジも強くなったかしら」
 アスカはいささか呆れながらもそう呟いた。
「みんなの影響で」
「そうかもね」
 そこでエヴァ弐号機のモニターにミサトが出て来た。にこりと笑っていた。
「ここに入るまでのシンジ君とは偉い違いよ」
「そうでしょうか」
 シンジがそれを聞いてモニターに出て来た。
「ええ。前はホントに引っ込み思案だったから。けれど朱にも混じればっていうのは本当ね」
「確かにね」
 アスカもそれは認めた。
「少なくとも今のあんた臆病じゃないし」
「そ、そうかな」
「ええ。けれど甲児みたいにはならないでね」
「おい、そりゃどういう意味だ」
 甲児もモニターに出て来た。
「何か俺が馬鹿みてえな言い方じゃねえか」
「あんたが馬鹿じゃなかったら誰が馬鹿なのよ」
「何ィ!?」
「あんたこの前マジンガーに乗る理由何て答えたのよ」
「格好いいからだ。何度でも言ってやるぞ」
「だからあんたは馬鹿なのよ!よくそれでマジンガーのパイロットが務まるわね」
「俺とマジンガーは一身同体だからな」
 彼は誇らしげにそう答えた。ふんぞりかえってすらいる。
「だから戦えるんだよ、一緒に」
「理由にも何にもなってないじゃないの。ちょっとは大介さんみたいに悩んだら!?」
「僕も関係あるのか」
 大介はそれを聞いて少し困った顔になった。そして甲児に声をかけてきた。
「甲児君」
「あ、大介さん」
 甲児も彼に顔を向けてきた。どうも彼には弱いらしい。
「話はそれ位にしてだ。戦いの方を頼むよ」
「あ、いけね」
 その言葉にハッとした。
「丁度敵も来ているし。そちらをお願いできないか」
「わかりました。それじゃあ行きます」
「甲児君、大介さん、久し振りにあれをやりますか」
 ここで鉄也も出て来た。
「あれですか」
「いいな」
 二人はそれを聞いて笑みを作った。彼等にだけわかる笑みであった。それを受けてまず大介のグレンダイザーが続いた。
「じゃあ行くか。目標はあれだ」
「はい」 
 そこにはダブデがいた。丁度いい場所にいると三人は思った。
「甲児君、鉄也君」
 大介はまた二人に声をかけた。
「僕に続け、いいな」
「はい」
「了解」
 二人は彼の言葉に頷いた。
「久し振りにマジンガーチームの真の力を見せてやろう」
「腕が鳴りますね」
「甲児君」
 グレートマジンガーがマジンガーZにマジンガーブレードを手渡した。
「いいな」
「ええ」
「よし!」
 大介の言葉を合図に一斉に前に出た。そして同時に叫ぶ。
「トリプルマジンガーブレード!」
 まずはマジンガーとグレートが突進する。ダイザーはその上でスペイザーに変形した。
 そのまま三機はダブデに突っ込む。まずはマジンガーとグレートが斬りつける。それだけでもかなりのダメージであった。
 だがそれで終わりではなかった。上にはスペイザーがいたのだ。スペイザーはグレンダイザーに戻った。その手にはダブルハーケンがある。彼はそれを振り下ろした。
「止めだっ!」
 それで決まりであった。ダブデは真っ二つになり爆発して果てた。三人の見事な連携攻撃であった。
「うわ、凄いや」
「シンジ、感心してる場合やあらへんで」
 トウジがそう彼に言った。
「わし等もあれ位やれるようにならなあかんのやで。それはわかってるか」
「そ、そうだね」
「けれど無理でしょうね、あんたとろいから」
「アスカ」
「努力しなさい、いいわね」
「う、うん」
 シンジはまた頷いた。
「努力したらひょっとしたらマスターアジアみたいになれるかも知れないから」
「それは無理ね」
 リツ子がキッパリとそれを否定した。
「シンジ君は人間だから」
「俺の師匠は人間だ!」
「だといいけれど。使徒でも驚かないわよ」
「同感」
「クッ」
 さしものドモンもリツ子とミサトの連続コンボの前に沈黙したかと思われた。だがその沈黙は二人のコンボを受けてのことではなかった。これがドモンであった。
「ゴォッドスラッシュ・・・・・・」
 彼はオーラバトラー達を前にして構えに入っていた。全身に力がみなぎっている。
「タイフゥゥゥゥゥゥン!!」
 そして竜巻を放った。それで敵を一掃してしまったのである。
「とりあえず彼も怪しいわね」
「こらこら」
 今度はミサトが止めた。リツ子にしてみればドモン達は常識の範囲外であるのに変わりはないのであった。
 だが何はともあれ戦いは行われていた。ロンド=ベルは果敢に攻撃を仕掛けていた。
「ゴッドバァァァァァァァァーーードチェェェェェェェェェェーーーンジッ!」
 洸がライディーンの照準を一機のスードリに合わせた。
「照準セェェェェェェェェェェェーーーット!」
 そしてゴッドバードを放つ。それでスードリは大破し炎上する。乗組員達は脱出するので精一杯であった。
「クッ、スードリが一撃か」
「流石はライディーンといったところですか」
 ブランに対してベンがそう答える。
「ですが我々にとってはそれだけでは済みません」
「ああ」
「少佐、これからどう戦われますか?このままですと」
「わかっている」
 ベンに対して言葉を返す。
「ドレル隊長に申し上げよう。これ以上の戦いは不利だとな」
「はい」
 こうしてブランはドレルに意見を具申した。彼はそれをベルガ=ダラスのコクピットで聞いていた。
「撤退すべきか」
「はい」
 ブランはそう答えた。
「御言葉ですが我が軍の損害は最早無視できない程になっております」
「うむ」
 それは他ならぬドレルが最もわかっていることであった。頷くしかなかった。
「それにこのサンクトペテルブルグの市街にまで迫ってきております。これ以上の戦闘は我々にとって地球の市民達の不必要な反感を抱かせるだけかと」
「アースノイドのか」
「はい。それは避けるべきだと思いますが」
 ティターンズは表向きはアースノイド至上主義を唱えている。その実態は木星と手を結びクロスボーンを受け入れていてもだ。だが表向きとはいえ重要であることには変わりがない。
 それがわからぬドレルではなかった。彼もまたロナ家の人間であり政治に深く関わっているのだから。ただの軍人ではないのである。
「わかった」
 ドレルはブランの提案を受け入れることにした。
「ではこのサンクトペテルブルグを放棄するとしよう。以後は北欧に向かう」
「ハッ」
「後詰は私が引き受ける。ブラン少佐には損傷の激しいモビルスーツ及びオーラバトラーの回収を頼みたい。いいな」
「おおせのままに」
 ブランは頷いた。こうしてティターンズ、そしてドレイク軍の作戦が決まった。
「ドレイク殿」
 ドレルはティターンズを代表してドレイクのウィル=ウィプスのモニターに姿を現わした。
「これから北欧に向かいたいのですが。宜しいですか」
「北欧ですか」
「はい」
 ドレルはそれに頷いた。
「まずはそこで勢力を回復させるべきだと思うのですが。如何でしょうか」
「ふむ」
 ドレイクはそれを聞いて考えるふりをした。あくまでふりである。そしてドレルに対して問うた。
「ドレル殿」
「はい」
「それはジャミトフ閣下の御考えですかな」
「閣下の」
「若しくはバスク大佐の。どうなのでしょうか」
「それは」
 ドレルは躊躇したが答えることにした。
「私の考えです。この部隊を預かる指揮官としての判断です」
「では御二人の御考えではないのですな」
「はい」
「成程」
 ドレイクはそれを聞いてまた考えるふりをした。
「卿の御考えですか、つまりは」
「それが何か」
 それを聞いてドレルは問うた。
「不都合があるのでしょうか」
「いえ、別に」
 ドレイクはそれに対しては不平を述べはしなかった。
「ただ北欧はどうかと思いましてな」
「いけませんか」
「これはあくまで私の考えですが」
 ドレイクはここでは考えていた。考えながら述べた。
「北欧よりいい場所があるのではないですかな」
「といいますと」
「西欧等はどうでしょうか。北欧に比べれば勢力を回復させ易いと思いますが」
「言われてみれば」
 北欧は人口が少ない。だが西欧はそれに比べて遥かに人口が多い。しかもジャミトフの出身地であるゼダンもある。ここではティターンズの人気は高いのである。
「悪くはないですね」
「では決まりですな。西欧へ向かいましょう。そこで勢力を回復させるとしましょう」
「わかりました。それではそれで」
「はい」
 ドレルはモニターから姿を消した。それを見送りドレイクは不敵に笑っていた。
「これでよし」
「殿」
 ここで家臣の一人がドレイクに話し掛けてきた。
「どうした」
「何故あの若者に西欧を勧められたのですか」
「さっき申したであろう」
 ドレイクは不敵に笑いながらそう言葉を返した。
「勢力を回復させる為だ」
「いえ」
 だが家臣はそれで全てだとは思わなかった。さらに問うた。
「それだけではないと思いますが」
「ふふふ」
 ドレイクはまた不敵に笑った。
「どうやらわかっているようだな」
「ハッ」
「ここはティターンズに対して恩を売るべき時だ」
「はい」
「ジャミトフ=ハイマン、バスク=オム、いずれも野心に満ちた男だな」
「どうやらそのようで」
 彼等の野心は既にドレイクも見抜いていた。これは同類だからであろうか。
「その野心をくすぐらせてもらおう。そうすれば今後何かと面白くなるやも知れぬ」
「この地上の世界を手に入れる為に」
「そうだ。だが」
 ここでドレイクの目が光った。
「それはあの二人には悟らせるな。あの二人だけではないがな」
「はい」
「ビショットにもショットにもだ」
「無論です。ビショット殿もショット殿も今回は後方に退いておられますな」
「いつものことだ」
 ドレイクはそれに対してやや忌まわしげに吐き捨てた。
「小賢しい真似を。漁夫の利を得ることしか考えておらぬは」
「ですがそれも想定のうちでは」
「否定はせぬ」
 ドレイクはそれも認めた。
「こちらも利用させてもらう。最後に立っているのは私なのは既に決まっていることだからな」
「殿が」
「そうだ。だがな」
 ドレイクの顔が歪んだ。
「果たしてあの二人だけなのか」
「といいますと」
「リムルの動きを見よ」
 ロンド=ベルにおり敵味方に分かれている娘について言及した。
「リムル様ですか」
 家臣達も彼女のことは知っていた。抵抗はあったがあえて述べた。
「そうだ。何故ゲア=ガリングを執拗に狙う」
「それは」
 それが彼女の特徴であった。ゲア=ガリングが戦場に出たならばまずそこに向かおうとする。その際強い怒りと憎しみのオーラを放っているのだ。
「ビショットとは確かに婿の話があるが」
 それは既に反故になっているにも等しい話であった。
「あの娘はあそこまでビショットに対して感情を持ってはいない筈だな」
「ええ」
「では何故だ。何故ああまであの艦を狙うのだ。あれはどういうことだ」
「それは」
 それは誰にもわからなかった。家臣達は皆首を傾げてしまった。
「あの裏切り者達が何か吹き込んだとは思えぬ」
 ショウだけではない。ショットやガラリアについても述べていた。
「あの者達はそうしたことはせぬからな」
「はい。では何故でしょうか」
「今はわからぬな。だが」
 ドレイクの目に暗い光が宿った。
「必ず何かある。その時は動かねばならぬな」
「はっ」
 彼等も戦場を離れた。こうしてティターンズとドレイク軍はサンクトペテルブルグからバルト海へと次々と逃れていった。凍てついた氷の海であった。
「逃げるか」
「どうしますか?」
 シナプスに対してバニングが尋ねた。
「追いますか、それとも」
「うむ」
 シナプスはそれを受けて考え込んだ。
「追ってもいいがな。だが一つ気懸りなことがある」
「あれですか」
「そうだ。そろそろ出て来る頃だな」
「ですね。出るとするなら」
 バニングはニュータイプではない。だが歴戦の勘が彼に何かを教えていた。
「そろそろですね」
「ああ。葛城三佐」
 シナプスはここでミサトに話を振ってきた。
「はい」
「そちらのレーダーに反応ははないか」
「ちょっと待って下さい。伊吹ニ尉」
「はい」
 マヤがそれに応える。
「レーダーに反応は?」
「今のところは・・・・・・あっ」
 マヤがここで声をあげた。
「反応です、市街地にです」
「また厄介なところに出て来るわね」
 ミサトはそれを聞いて顔を顰めさせた。
「どうやら木原博士ってのは女にはもてないタイプみたいね」
「おいおい、どうしてそうなるんだ」
 加持はそれを聞いて思わず苦笑した。
「場所を考えないからよ。そんなのはもてないわよ」
「そんなもんか」
「女はね、ルックスだけを見ないの。内面を見るんだから」
「じゃあ俺やアムロ中佐はどうなるんだ?俺はともかく中佐は」
「格好いいじゃない。優しいし」
「おやおや」
 それを聞いて肩をすくめさせた。
「どうやらかなりお目が高いようで」
「少なくとも男を見る目は養ってきたつもりだから」
「ほう」
「だからわかるのよ。少なくとも木原博士は女にはもてないわ。ひょっとすると興味がないのかも」
「じゃあもう一人はどうかな」
「もう一人」
 それを聞いたミサトの顔色が豹変した。

「あのアンドロイドの女の子のことかしら」
「さてね」
 加持はここではとぼけてみせた。
「まあまだ謎はあるってことさ。それよりも」
「レーダーにまた反応です」
 マヤがまた言った。
「今度は二つです。これは」
「何なの!?」
「八卦衆のものです。来ました!」
 その言葉に呼応するかのように二体のマシンがサンクトペテルブルグの街に姿を現わした。彼等は雪の街に立っていた。
「ほう」
 彼等を見たマサキは思わず喜びの声をあげた。
「今度は御前達か。八卦もいよいよ数がなくなってきたか」
「木原マサキ」
 そんな彼に対して緑のマシンに乗る祗鎗が言った。
「この山のバーストンが出撃したからには今までのようにはいかんぞ」
「ほお」
 だがマサキはそれを聞いても動じはしない。面白そうに呟くだけであった。
「ではどうなるというのだ」
「知れたこと」
 祗鎗はまた言った。
「貴様を倒す。この山のバーストンと」
「地のディノディロスで」
 茶の髪の女も言った。ロクフェルであった。
「御前達二人でか」
「そうだ」
 祗鎗はマサキを睨み据えた。
「木原マサキ」
 その目には強い憎しみの光が宿っている。
「貴様だけは許さん」
 前に出る。だがマサキはそれを前にしてもまだ笑っていた。
「面白いことを言う」
「何!?」
「俺は誰にも許されるつもりはない。貴様の言っていることは戯言に過ぎん」
「俺の言っていることが戯言だと!?」
「そうだ」
 マサキは答えた。
「違うというのなら答えてもらおうか」
「クッ」
「答えられぬか。それも当然だ」
 笑ったままであった。
「貴様はそういうふうに作られているのだからな」
「作られている」
「そうだ」
 今度は答えた。
「しかしそれを教えるつもりはない。俺はそこまでお人好しではない」
「というかここまで底意地の悪い奴はじめて見たわ」
「アスカが言うかね、ほんと」
 それを聞いてライトがまた軽口を叩いた。
「そしてだ」
 マサキはまた言った。
「御前もそこにいる女も俺に倒されるのだ。それが宿命だ」
「宿命だと」
 今度はロクフェルが声をあげた。
「そうだ、宿命だ」
 マサキはそれにも答えた。
「今それを教えてやろう。来るがいい」
「言われなくても」
「ロクフェル」
 前に出たロクフェルに対して祗鎗が声をかけた。
「何!?」
「御前だけ行かせるわけにはいかない」
「祗鎗、貴方」
「俺も行く。いいな」
「ええ、わかったわ」
 ロクフェルはそれに頷いた。そしてまずはディノディロスが前に出た。
「ほう、御前から来るか」
「そうだ」
 ロクフェルはマサキに対してそう答えた。
「これが地の響き」
 全身に力を込める。
「とくと味わえ!」
 そして胸の光から力を放出した。それを大地に叩き付けた。
 するとそれにより地響きが起こった。何と地震を起こしたのであった。
「馬鹿なことをする」
 だがそれを見てもマサキはまだ笑っていた。
「天と地、どちらが上なのか知らぬらしい」
「何だと!?」
「天は地の上にあるもの」
 マサキは言う。
「それがひっくり返ることなぞはありはしない。見よ」
 その地震を受けた。
「これが何よりの証拠だ。地は天に届きはしない」
「な・・・・・・」
「さて、天の裁きだ」
 ゼオライマーがマサキの言葉と共にゆっくりと腕を動かした。
「死ぬがいい。裁きを受けてな」
 次元連結砲を放とうとする。それでディノディロスを滅ぼすつもりであった。だがそれより前にバーストンが動いていた。
「そうはさせんっ!」
「祗鎗!」
「ロクフェルはやらせん、この俺の命にかえて!」
 そう言ってミサイルを放った。バーストンの持つ全てのミサイルを放ってきた。無数のミサイルがゼオライマーに襲い掛かる。
 しかしそれでもマサキはやはり余裕であった。地震の時と同じくそのミサイルも全て受けた。だがゼオライマーは傷一つ負ってはいなかった。
「馬鹿な・・・・・・」
「こういうことだ」
 マサキはまだ笑っていた。
「山も同じだ。天に届く山なぞありはしない」
「おのれ」
「何をしてもな。貴様等は所詮は俺の前に滅び去る宿命なのだ」
「宿命か」
「そうだ」
 マサキは答えた。
「覚悟を決めろ。宿命は受け入れられなくてはならないものだからな」
「それは貴様が言うことではない!」
 それでも祗鎗はまだ諦めてはいなかった。
「宿命とは自分で切り開くものだからだ。違うか」
「貴様等に限っては違うな」 
 返答は冷酷極まるものであった。
「駒共はな」
「駒だと・・・・・・俺達が」
「その通りだ」
 呆然とした祗鎗に対してやはり冷酷な返答を送る。
「違うというのか。貴様等は全て俺の楽しみの為の駒だ」
「私達が・・・・・・」
「惑わされるな、ロクフェル」
 祗鎗はそう言ってうろたえようとする戦友を落ち着かせた。
「今はその時ではないぞ」
「え、ええ」
「木原マサキよ」
 祗鎗は再びマサキに顔を向けた。
「どうやら貴様は俺の全力を以って滅ぼさなければならない男のようだな」
「ようやくわかったか」
「言うな。まさかこれを使うとは思わなかったが」
「ムッ!?」
 それを見たアムロの直感が彼に教えた。
「まさか」
「受けよ、木原マサキ」
「いけない、皆!」
 アムロが咄嗟に叫んだ。普段の落ち着いた彼からは想像もできない言葉であった。
「どうした、アムロ」
「ブライト、すぐにあいつを止めろ」
「何があるのだ」
「あいつは・・・・・・核を使うつもりだ」
「何!?」
 それを聞いたブライトの表情も一変した。
「まさか」
「いや、おそらくそのまさかだ」
 クワトロもアムロと同じものを察していた。
「このプレッシャー、間違いない」
「クッ、どうすれば」
「心配ありません」
 だがここでエレが出て来た。
「オーラーバトラーならば核を受けても何ともありませんから」
「そうだったか」
 それを聞いてハッと思い出した。オーラバトラーは地上ではその力を大きく増幅させる。実際に核ミサイルの直撃を受けても無事だったのである。
「それならば」
「ここは俺達に任せろ」
 すぐにショウ達が出ようとする。だがここでマサキが攻撃を放ってきた。ショウ達はあわててそれをかわした。
「一体どういうつもりだ」
「余計なことはしないでもらおう」
「余計なこと」
「そうだ」
 それがマサキの返答であった。
「観客は客席にいろ。それだけだ」
「俺達は客かよ」
「じゃあこのまま死んじゃえっていうの!?何さ、あいつ」
「いや待て、チャム」
 そんなチャムをショウが窘めた。
「ショウ」
「あいつは俺達を観客と言ったな」
「うん」
「だったらあいつは核ミサイルを止めることができるかも知れない」
「何でよ」
「それだけ自信があるということさ。そうじゃないと言えないだろ」
「そりゃそうだけれど」
「だから安心していいかも知れない。あいつはやる」
「やれなかったら」
「その時は俺がやる。それだけだ」
 ショウは覚悟を決めながらことの成り行きを見守っていた。バーストンはいよいよミサイルを放とうとしていた。
「これで終わりだ、いけえっ!」
 核ミサイルが放たれた。それは一直線にマサキに向かう。だがゼオライマーは何とそれを打ち消してしまった。
「な、核ミサイルまでも」
「これでわかっただろう」
 マサキはミサイルを消した後でそう答えた。
「貴様等が何故俺を倒せないのかをな」
「いや、まだだ」
 それでも祗鎗は諦めようとしなかった。
「まだだ、必ず貴様を倒す」
「ふ、まだわからないか」
「わかってたまるものか」
「ならばいい。俺はわからせる為に話しているのではないのだからな」
「では何故話す」
「死の宣告の為だ」
 そううそぶいた。
「貴様等へのな。行くぞ」
 そう言うとゼオライマーを天に昇らせた。
「苦しまずに死ね」
 メイオウ攻撃を放とうとする。だがここで異変が起こった。
「む!?」
 黄色い奇妙な形をしたマシンが姿を現わしたのである。ゼオライマーはそれを見て動きを止めた。
「ほう、遂に全員揃ったか」
「何だ、あれは」
 だがロンド=ベルの面々にとってははじめて見るものであった。マサキ程落ち着いてはいなかった。
「八卦衆の一つか?」
「それにしちゃ随分変わった形だな、おい」
「ここにいたか、二人共」
 その奇妙なマシンに乗る男が祗鎗達に声をかけてきた。塞臥であった。
「塞臥」
 ロクフェルが彼の名を呼んだ。
「オムザックが復活したのね」
「如何にも」
 塞臥はニヤリと笑ってそう答えた。
「ようやくな。思えば長かった」
「それは何よりだ。だが」
 祗鎗の声の色はロクフェルのものとは違っていた。何故か硬かった。
「どうしてここに来た。貴様への出撃命令はまだだった筈だ」
「少し用があってな」
「俺達にか」
「そうだ。ここは一先戻ろう。よいか」
「ううむ」
 祗鎗はそれを聞いて考え込んだ。そしてロクフェルに対して問うた。
「ロクフェル」
「何!?」
「御前はどう思う」
「私は」
 彼女は戸惑いながらも答えた。戦闘の時の気丈さは何故か感じられなかった。
「塞臥に従う。それでいいか」
「そうか」
 祗鎗もそれを聞いて納得したようであった。縦に首を振った。
「ならばいい。塞臥よ」
 塞臥にも顔を向けた。
「今は貴様に従おう。それでいいな」
「ああ。では行くか」
「うむ」
 こうして三機のマシンは姿を消した。後にはゼオライマーとロンド=ベルの面々だけが残った。
「さて、と」
 まずはアスカが口を開いた。
「遂にこの時が来たって感じかしら。何か長いようで短かったけれど」
 そしてゆっくりとエヴァを前に出す。
「覚悟はいい?木原マサキさん」
「ほう、御前は」
 マサキはエヴァを見て面白そうに声をあげた。
「チルドレンの一人か。まさかこんなところで会うとはな」
「悪いの?」
「別に悪いとは思っていない。面白いと思っただけだ」
「面白いですって!?」
 それを聞いて整った眉を顰めさせた。
「それどういう意味よ」
「そのままだ」
 どうやらマサキはアスカのような少女を扱い慣れているようであった。アスカの噛み付きにも怯んではいない。
「こうして会えたのがな。どのみち会うことになったと思うが」
「で、ご対面して面白いってわけね」
「そうだ」
 マサキは答えた。
「面白くないわけがなかろう。碇ゲンドウの遺産を今こうして見れるのだからな」
「父さんを知ってる」
「そこにいるのは碇の息子か」
 今度はシンジに顔を向けてきた。
「何か?」
「ふ、面白い」
 マサキはシンジの声を聞いて笑った。
「全く似ていない。似ているのは顔の輪郭だけか。どうやら受け継いだのは遺伝子だけらしい」
「それがどうかしたんですか!?」
 話していると不快感を覚えた。シンジはそれに耐え切れなくなったかのように声をあげた。
「怒ったか」
「怒ってなんかいません。けれど貴方にはあまりいい感触は受けません」
「素直だな」
 マサキはそう言われても全く臆してはいなかった。どうやら他人が自分をどう思っていても何とも思わない人間であるようだ。それがマサキらしいと言えばマサキらしい。
「ふむ」
「何か?」
「さっきの言葉は否定してやる」
 シンジをよく見た後でこう述べた。
「純朴だな。あの男と同じだ」
「!?今何と」
「聞こえなかったのか。御前は父親に似ていると言ったのだ」
「あいつ、頭おかしいのか!?」
 離れて話を聞いていた甲児が首を傾げさせた。
「何処がどう似てるんだよ」
「いや、僕は似ていると思うな」
「万丈さん」
「意外だろうけれどね。シンジ君は父親似だよ」
「嘘・・・・・・」
 それを聞いて最も驚いているのはミサトとアスカであった。
「司令とシンジ君が」
「んなわけないでしょーーーが」
「と否定するのは容易いね」
 万丈がそこに突っ込みを入れた。
「けれど認めるのはどうかな」
「意味深い言葉ね、万丈君」
「世の中ってのは皆そうなのさ。否定するのは容易い」
「ええ」
「けれど認めるのは・・・・・・それより難しいんだ」
 メガノイドとの戦いを乗り越えた彼ならではの言葉であった。
「木原博士」
「ほう」
 マサキはそれを受けて万丈に顔を向けた。
「破嵐財閥の御曹子か。暫く見ないうちに大きくなったな」
「お久し振りです、と言った方がいいかな」
「挨拶はいい。どうせ今の俺と貴様はそういう関係ではない」
「おやおや」
「それにしても貴様までいるとはな。碇の息子だけではなく」
「他にも大勢いますよ。博士、貴方の興味を引く存在が」
「そのようだな」
「それでこれからどうされるのです?」
 万丈はそのうえで彼に対して問うた。
「何をだ?」
「僕達と戦うのか。それとも」
「安心しろ。今は御前達と戦うつもりはない」
「そうなの」
「こらシンジ、安心しない」
 安堵の声を漏らしたシンジをアスカが窘めた。
「そういってブッスリいくのが悪い奴の行動パターンなんだからね」
「それは安心しろ」
 しかしそれはマサキ自身が否定した。
「俺はやるとしたら正々堂々とやってやる。ゼオライマーの力でな」
「ホントかしら」
「セカンドチルドレンか。気の強いことだ」
「何よ」
「一つ言っておく。俺のゼオライマーを以ってしたらエヴァなぞものの数ではないということをな」
「何ですってえ!?」
「そのままだ。セカンドよ、御前では俺には勝てない」
「そんなに言うのならやってもらおうじゃないの!」
「待って」
 いきりたつアスカをレイが宥めた。
「今あの人と戦っても何にもならないわ」
「そういう問題じゃないの、これはあたしとあいつの問題よ!」
「そうやってまた自爆するのかね、このお嬢様は」
「何!?」
 からかうような言葉を口にしたケーンを見据える。
「お嬢様は我が侭ときたもんだ」
「おしとやかにならないとレディにはなれないぜ」
「あんた達に言われたくはないわよ!」
 今度はドラグナーチームに噛み付いてきた。
「あたしはあんた達みたいにピーマン頭に言われたくて戦ってるんじゃないの!」
「ピーマンか、今度は」
「その前はカボチャだったっけ」
「いや、スイカだったぞ。どういう理屈かは知らないが」
「スイカは水ばっかりでしょ」
「おう」
 三人はアスカの説明に頷いた。
「つまり大事なのは一切入ってないってこと。あんた達はそれそのものじゃない」
「うわっ、きついなそりゃ」
「俺達ってそんなに馬鹿だったか?」
「学校の勉強だけで判断するのはよくないぞ」
「別に学校の勉強だけじゃないわよ」
「そうかなあ」
「疑問だな」
「あんた達の行動を見て言ってるのよ。もっとちゃんとしたら!?」
「俺今回の戦いで七機撃墜したぞ」
「俺は六機。負けたな」
「俺は五機だけれどな。マギちゃんは活躍したぜ」
「とにかくあんた達は馬鹿なの。わかった!?」
「理屈なしかよ」
「何とまあ我が侭な」
「ほっといてよ」
 そう言って拗ねるアスカであった。だがレイは四人のそのやりとりを見てケーン達に対して内心感謝していた。
「有り難う」
 これは誰にも聞こえなかった。レイが心の中で言った言葉であった。だが実際にアスカの矛先がマサキから離れたのも事実であった。
「さてと、これでまた帰らせてもらうか」
「ラストガーディアンに?」
「知っていたか」
「おかげさまで。それでこれからどうするのです、博士」
「それを言う程俺はお人よしではない」
 万丈に対して邪な笑みを向けてそう答えた。
「だがこれだけは教えてやろう。ローマへ行くといい」
「ローマに」
「そうだ。そこで面白いことがある。俺が貴様等に教えてやるのはそれだけだ」
「へッ、ケチらずにもっと教えてくれりゃいいいのによ」
「そういう問題か?」
 悪態をつくデュオに対してウーヒェイが突っ込みを入れた。
「何か声が似ていてむかついてな。気にしないでくれ」
「そういうわけにもいかないだろ。それに声のことは言うな」
「おっと、悪い」
「俺もマサキと声が似ているしな」
「だから止めろ。とにかくローマだな」
「そうだ」
 マサキはウーヒェイの問いに対してそう答えた。
「無理に行くなとは言わんがな。だがいいことがある」
「どうせとんでもないことだろうな」
 甲児が半ば達観した声を漏らす。
「御前がてぐすね引いて待っているとでもいうのか」
「それはない」
 宙に対してそう返す。
「さっきも言った筈だ。俺に小細工を弄する必要はないと」
「俺達を倒せるからか、何時でも」
「ふふふ」
 鉄也の問いには答えなかった。ただ嘲笑だけは贈った。
「それではな。また会おう」
「そしてどうするつもり!?」
「その時に考えるとしよう。ではな」
 ミサトにそう答えて姿を消した。こうしてゼオライマーはまたしても姿を消したのであった。
「行ったね」
「何かむかつく奴ね。頭にくるわ」
 アスカは姿を消したところでようやく怒りの本来の矛先を思い出したようであった。
「あんな奴はじめてよ。今度会ったらホンットウにギッタンギッタンにしてやるんだから」
「その時は私も交ぜて」
 マリアが話に入って来た。
「グレンダイザーでボコボコにしてやるんだから、あんな奴」
「マリアさんってダイザーに乗れたんですか?」
「勿論よ」
 シンジに答えた。
「フリード星の王女なんだから。当然でしょ」
「そうだったんですか」
「これは意外だろうけれどね」 
 シンジに対して大介が言葉をかけてきた。
「グレンダイザーはフリード星の王族以外には乗ることができないんだ。言い換えると僕だけじゃなくマリアも乗ることができるんだ」
「そうなるんですね」
「そうさ。だから僕に何かあってもマリアがいるから。安心してくれ」
「そんなこと言わないで下さいよ」
 甲児が大介のその言葉を聞いて声をかけてきた。
「甲児君」
「マジンガーチームは一人欠けたら終わりなんですから。頼みますよ」
「それはわかってるよ」
「ならいいですけれどね。大介さんがいないと俺が困りますから」
「有り難う」
「そして俺は除け者か」
「いや、鉄也さんもいてくれないと」
 拗ねるそぶりを見せた鉄也に対して慌てて声をかける。
「三人いないとマジンガーチームじゃないですから。そんなこと言っていじめないで下さいよ」
「おいおい甲児君、俺はいじめはしないぞ」
「そうですかあ!?俺はそうは思えませんけれど」
「ははは」
 三人の和気藹々とした話が聞こえる中サンクトペテルブルグでの戦いは終わった。そしてロンド=ベルはティターンズとドレイク軍をミスマル司令率いる連邦軍正規軍に任せローマに向かうのであった。古の都であるローマが彼等を待っていた。

「帝」
 鉄甲龍の基地の奥深くでルラーンが幽羅帝に対し畏まって言葉を送っていた。
「どうした」
「我等の目的のことですが」
「それがどうかしたのか」
 帝はそれを聞いてあらためてルラーンを見た。優しい目であった。
「我等の目的は世界を滅ぼすことでしたな」
「今更何を言う」
 帝はそれを聞いて右の目を微かに疑問で曇らせた。
「ゼーレが人類補完計画に失敗した場合我等が動く計画であった」
「はい」
「補完に失敗した人類を浄化する為に。それを忘れたわけではあるまい」
「無論です」
 ルラーンはそれ自体は認めた。
「ですが」
「ですが・・・・・・何だ?」
「それは御本心ですか?」
「何を言いたい」
 幽羅帝には彼の言葉の意味がわからなかった。
「それは帝の御意志なのでしょうか。私はそれを御聞きしたいのですが」
「無礼な」
 彼女はそれを聞いてその幼さの残る目をキッとさせた。
「私が嘘を言うとでもいうのか」
「いえ」
「ならばわかろう。私は世界を破壊する為に存在している」
「はい」
「そしてその為なら如何なことでもしよう。例え我が身が滅びようともな」
「御身が」
「そうだ。それはそなたが最もよくわかっている筈だが」
「如何にも」
 それも認めた。だがそれでも言った。
「それが本当の帝の御意志ならよいのですが」
「まだ言うのか」
「いえ」
 ルラーンはここで話を止めることにした。
「これ以上は。それでは私はこれで」
「うむ。ゆっくりと休むがよい」
「はっ」
 ルラーンはいたわりの言葉を受けてその場を退いた。後には帝だけが残った。
「おかしなことを言う」
 彼女はルラーンがどうしてあのようなことを言ったのか理解できなかった。
「私が世界の、人類の破壊を望んでいないとでもいうのか?馬鹿な」
 それを肯定しようとした。だが何故かそれを肯定しきれなかった。それが何故か彼女自身にもわからなかった。
「どういうことなの?」
 その時彼女は一人の少女に戻っていた。
「私はこの世界も人類も滅ぼすつもりなのに。それを私は本当は望んでいないというの」
 だがそれはわからなかった。彼女自身には。だが一人だけそれを理解している者がいた。彼女のよく知る者である。そしてそれは彼女自身でもあったのだ。


第三十話   完


                                   2005・7・3

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