古都の攻防
 サンクトペテルブルグでの戦いを終えたロンド=ベルはローマに向かっていた。その途中彼等に通信が入って来た。
「!?これは」
 それを受け取ったシモンが怪訝な顔をした。
「どうした」
「ギガノスの通信です」
「ギガノスの」
 それを聞いたシナプスも怪訝な顔になった。
「一体何だ」
「ええと、マイヨ=プラートとなっています」
「ギガノスの鷹」
 ベンがそれを聞いて声をあげた。
「まさか彼が」
 ダグラスもであった。二人はその名を聞いただけですぐに反応した。
「一体何だ」
「ええと」
 シモンは二人に挟まれながらも冷静に答える。
「ケーン=ワカバと話がしたいとのことです」
「あの馬鹿とか」
 ダグラスの言葉は容赦がなかった。
「物好きな。アスカみたいに喧嘩がしたいとでもいうのか」
「どうやら違うようですけれど」
「そうなのか」
「大尉」
 ベンがここでダグラスに声をかけてきた。
「どう思われますか」
「放っておけ」
 彼はそれに対してこう答えた。
「ギガノスだな。どうせ罠に決まっている」
「そうでしょうか」
「敵が対話を望んでくる時は大抵何かあるものだ。信用できん」
「それはどうでしょうか」
 ここでモニターにルリが出て来た。
「ホシノ少佐」
「彼はそうした人ではないと思いますが」
「どうしてですか」
「マイヨ=プラート大尉は今まで私達に対して常に正面から向かって来ました」
「確かに」
 ベンがそれに頷く。
「それに一般市民に危害を加えはしません。あくまで軍人として己を律しているように見えます。策略も用いたことはありません。そうしたことを嫌っているようです」
「つまりは生粋の軍人であると言いたいのですな」
「はい。ですから彼の今回の申し出は信用できると思います」
「ふむ」
 ダグラスはそれを聞いてあらためて考え込んだ。
「では一度ワカバ少尉に話してみましょう。それでいいでしょうか」
「それでお願いします」
「わかりました」
 ダグラスはケーンと話をした。これを聞いたケーンは意外といった顔であった。
「ギガノスの蒼き鷹が俺にかよ」
「そうだ、どうするつもりだ」
「どうするつもりって言われてもなあ」
 彼はこの時自分の部屋でくつろいでいた。上は丸裸で下はトランクス一枚であった。
「どうしようかな」
「とりあえずは服を着ろ」
「あ、はい」 
 それを受けて服を着る。それから話に戻った。
「全ては御前の決断次第だが。どうするのだ」
「そうだな」
 彼は暫し考えた後で答えた。
「とりあえず会ってみるのも面白いか。その申し出受けるぜ」
「そうか、わかった」
 こうしてケーンとマイヨの会談の場が設けられることになった。場所はコロセウムとなった。
「あの旦那も何考えてるかね」
 タップがケーンの部屋に来てそうぼやいた。ライトも一緒である。
「さあな、あの人はどうも理想を追い求めている人みたいだしな」
「兄さんらしいといえばらしいけれど」
 リンダは不安そうであった。
「けれどどうしてケーンと話をしようなんて思ったのかしら。それもいきなり」
「俺がエースだからかな。ロンド=ベルの」
「それだったらアムロ中佐だろ」
「うっ」
 ライトにそう突っ込まれてたじろぐ。
「いくら御前さんでもアムロ中佐やショウ程派手に暴れちゃいないだろうが」
「比べる相手が凄過ぎるけれどな」
「じゃあ比べるなよ。俺はニュータイプでも聖戦士でもないんだからな」
「まあ俺達だってそうだけれどな」
「それなりに活躍はしててもな。だからこそわからないんだ」
「何でだよ」
「どうしてこれだけ大所帯のロンド=ベルからわざわざ御前を選んだのかな。あの旦那にしかわからないが」
「俺はわかっていないとでも言うのかよ」
「御前がわかってるなんて誰も思っちゃいないだろ」
 タップがそう切り返す。
「もしかするとあの旦那もわかっちゃいねえかも知れないがな」
「訳わからねえな」
 ケーンはどうにも話が掴めないでいた。
「あの旦那がわかっていなけりゃ話にもなりゃしねえだろうに」
「だからこそ話がしたいのかもな」
 ライトは考えながらそう述べた。
「理解した為にな」
「またわからなくなっちまった。まあいいさ」
 ケーンは開き直ることにした。
「とにかくあの旦那と話をするぜ。それでいいだろ」
「ああ」
「気をつけてね、ケーン」
「わかってるって」
 最後はリンダの言葉ににこりと笑って頷いた。こうしてケーンは本隊より一足先にローマに入った。リンダも一緒であった。
「ここがローマか」
「ええ」
 街を見回すケーンに対してリンダが答える。
「何かと古いもんが多いな」
「ローマだからね」
「あの向こうに見える城なんかいいな」
「サン=タンジェロ城ね」
「へえ、そういうのか」
「ローマじゃかなり有名な場所よ。一番上に天使がいるし」
「天使が」
「ええ」
「そりゃ面白いな。戦争じゃなきゃずっといたいな」
「戦争が終わったら行ってみたらいいわ」
「リンダとな」
「もう」
 そんな話をしながらコロセウムに向かった。かって多くのグラディエーター達が血を流した場所でもある。そこにネクタイを締め、ベストを着た男が一人立っていた。
「・・・・・・・・・」
 三人は互いに顔を見ても何も言わない。暫くそのままで時間が過ぎた。やがてケーンが口を開いた。
「なあ」
「何だ」
 マイヨもそれを受けて口を開いた。
「俺と話がしたいそうだけれど何かあるのかよ」
「ケーン=ワカバ」
 マイヨは彼の名を呼んだ。
「何故御前は戦う?」
「何っ!?」
 ケーンはそれを聞いて思わず声をあげた。
「何故戦うのだと聞いているのだ」
「一体何が言いてえんだ、あんたは」 
 その質問に戸惑っていた。
「俺が何の為に戦うかだって」
「そうだ」
 マイヨは頷いた。
「戦いが好きなのか?それとも命令だからか」
「生憎どちらでもねえ」
 ケーンは素直にそう答えた。
「では連邦への忠誠か」
「連邦に?まさか」
 ケーンはそれも否定した。
「お世辞にもそんなにいいもんじゃねえだろ。いかれたおっさんがいたりするからな」
 それが三輪を指していることは言うまでもない。
「そうか」
 マイヨは一通り聞いて頷いた。
「では御前は信念を持って戦っているわけではないのだな」
「信念はあるさ」
 だがケーンはそれを認めはしなかった。
「俺は皆を守る為に戦っているんだ。ロンド=ベルでな」
「守る為か」
「そうさ。あんた達みたいな連中からな。俺は皆を守りたい、だから戦っているんだ」
「そうなのか」
「あんた達ギガノスみたいな連中がいる限り」
 ケーンは言う。
「俺は戦い続けるだろうな」
「ふむ」
 マイヨはそれを聞き終えて考える目をした。そしてそれから言った。
「では御前は自分の内にある力は自覚してはいないか」
「力!?何だそりゃ」
「気付いていないか。大いなる無知としか言いようがないな」
「どういう意味だ、そりゃ」
「愚かだと言ったのだ」
「確かに俺は落ちこぼれだけれどな」
 反論する。
「少なくともあんたみてえに人を馬鹿にしたりはしねえよ」
「何っ」
「ケーンの言う通りよ」
「リンダ」
「久し振りね、兄さん。挨拶が遅れたけれど」
 リンダは兄を見据えてそう言った。
「どうしてケーンをここに呼び出したのかわかったわ」
「何?」
「ケーンを愚か者、馬鹿者と罵って自分を優位に置きたかっただけなのね」
「何を言うか」
「いえ、その通りよ。兄さんは怖いのよ」
「私が怖れているというのか、ケーン=ワカバを」
「ええ」
 リンダは答えた。
「自分と違うものを信じて戦うケーンが怖いのよ。違う!?」
「・・・・・・・・・」
 すぐには答えなかった。だが妹に対して言葉を返した。
「言ってくれるな。御前を呼んだつもりはないというのに」
「それがどうしたの」
 リンダも負けてはいなかった。
「私は自分の考えで動いているわ。兄さんとは違うわ」
「戯れ言を」
 それを聞いたマイヨの眉が動いた。
「私こそ自分の信念で動いているのだ」
「そして多くの人を傷つけるのかよ」
「黙れ」
 ケーンの言葉を遮って言う。
「無能な者は不要、優れた者だけ生きればいいのだ」
「それじゃあ獣と変わらないだろうが!」
「閣下の崇高な御考えを獣の考えと言うか」
「じゃあ言い換えようか」
 ケーンは怒りに満ちた声でマイヨに対して語る。
「あんたのその考えはな、ギレン=ザビのそれを全く同じだ。何処がどう違うんだよ」
「私がギレン=ザビと同じだと」
「ええ」
 今度はリンダが頷いた。
「同じよ。あの何十億の罪のない人を殺したギレン=ザビと同じよ。ギガノスとジオンがどう違うのよ」
「我々はジオンとは違う」
 半ば苦し紛れにそう返す。
「我々は美しい地球をそのまま守り・・・・・・」
「そして罪のない人を殺すんだろうが!」
「まだ言うか!」
「何度でも言うわ!」
「クッ!」
 三人は完全に衝突してしまった。最早後戻りはできなかった。互いに二つに別れて睨み合っていた。そこで三人の周りに何者かが姿を現わした。
「ヘヘヘヘヘヘヘヘヘ」
「何者」
 まずはマイヨが彼に顔を向けた。
「俺か。俺はミケロ=チャリオットっていうんだ。知ってるか?」
「ミケロ!?」
 それを聞いたケーンが声をあげた。
「あんたまさかネオイタリアのガンダムファイターか」
「そうさ」
 彼はそう答えて笑った。赤く立てた髪と痩せた血色の悪い顔が印象的である。何処か鳥を思わせる。
「じゃあ俺のことも知ってるな」
「ああ」
 答えるケーンの顔に嫌悪感が露わになっていた。
「マフィアだったな。ガンダムファイトでも汚いことばかりやってたな」
「ヒヒヒ」
「そのあんたが何の用なんだ!?生憎俺達はあんたには用はないぜ」
「そっちにはなくてもこっちにはあるんだよ」
「そう答えると思っていた」
 マイヨはそう答えながら懐から拳銃を取り出した。そしてそれをミケロに向ける。
「愚か者よ、立ち去るがいい。立ち去らないならばこちらにも考えがある」
「何だ、そのおもちゃは」
「私はギルトール閣下の理想とする社会を見るまでは死ぬわけにはいかぬ。わかったならばすぐに立ち去れ」
「ヘッ、理想なんぞ何になるんだ」
「閣下を愚弄するか」
「理想よりなあ、力の方が大事なんだよ」
「どうやら貴様と話すだけ無駄なようだな」
 そう言って狙いを定めた。
「覚悟しろ。一撃で楽にしてやる」
「ガンダムファイターにピストルなんざなあ」
「その通り!」
 ここでコロシウムの中央から声がした。
「ムッ!?」
「その声は」
 マイヨとケーン、リンダがその声を聞いて中央に顔を向けた。マイヨの顔はいぶかしげであるがケーン、リンダの顔は朗らかなものであった。
「ミケロ=チャリオット、まだ卑劣な手を使うか!」
「どうやら貴方はずっと変わらないようですね」
 ドモンとジョルジュがそこにいた。そして他の三人も。
「シャッフル同盟見参!覚悟しろ!」
「おお、よく来てくれたな」
「仲間の為なら火の中水の中ってやつさ」
「そういうことさ。心配だから来たんだぜ」
「悪いがこんな鳥みたいな奴は俺一人で充分だぜ」
「過信は禁物だ」
 強がってみせたケーンをアルゴが窘める。
「ガンダムファイターは常人とは違うからな。拳銃では倒せん」
「そうだったのか」
 マイヨはそれを聞いて左の眉を顰めさせた。
「迂闊だったな」
「ふふふ、だがそれは極限まで鍛えれば誰でもできることなのだ」
「その声は」
「また登場ね」
「如何にも!」
 ケーンとリンダの声に応えるかのように空中に颯爽と紫の影が現われた。
「東方不敗参上!」
「師匠!」
「ドモン、元気そうで何よりだ」
 彼はコロシウムの最上段に着地しながら弟子に対して声をかけてきた。
「オーラが変わったな。どうやらまた腕をあげたようだ」
「おかげさまで」
「しかし油断してはならんぞ。今この街は危険に充ちておる」
「危険といいますと」
「あのおっさんが一番危険だと思うけれどな」
「ケーン」
 ポツリと呟いたケーンをリンダが窘める。まるで保護者のようであった。
「ドモンよ、あれの用意はいいな」
「はい!」
「それでは行くぞ!ガンダムファイト!」
「レェェェェェェェェェェェェデデデデデデデディィィィィィィィィィ」
 ドモンだけではなかった。他のシャッフル同盟のメンバーも叫んでいる。
「ゴォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーッ!」
 最後にミケロが叫んだ。そしてドモンがまた叫ぶ。
「ガンダァァァァァァァァァァァァァァァッム!」
 ガンダムが飛んで来る。皆それに飛び乗った。こうしてガンダム達が古都に姿を現わした。
「何時見ても凄えな」
「ケーン、悠長なことを言っている場合じゃないぞ」
 ここでブルーガーがコロシウムの上に姿を現わしてきた。
「ミスターか」
「乗れ、すぐに本隊に戻るぞ」
「ああわかった。ギガノスの旦那」
 ブルーガーに飛び乗る直前にマイヨに顔を向けた。
「何だ」
「さっきの話はまた何時かな。戦場でもいいぜ」
「望むところだ」
 マイヨもそれを受けた。こうして戦士達は別れた。
「兄さん」
 ブルーガーはケーン達を乗せるとその場を去り後方に向かう。リンダはその後部座席で遠くなっていくコロシウムを見ていた。
「やっぱり気になるの?」
 そんな彼女にマリが声をかけてきた。
「ええ」
 リンダはそれに対して頷いた。
「気にならないって言えば嘘になるわね」
「そう」
「兄さんはギガノスにいて父さんはドラグナーの開発者。皮肉なものね」
「そう悲観的になることはありませんよ」
 だがそんな彼女に麗が声をかけてきた。
「麗さん」
「きっとわかり合える日が来ますから。その時が来るように努力してみればどうでしょうか」
「兄さんと父さん、そして私が」
「ええ。それは努力しなければ来ません。けれど努力したならば」
 彼女は言った。
「神が助けて下さいます。ご安心下さい」
「はい」 
 それを聞いて幾らか気分が楽になった。そしてアルビオンに戻った。ブルーガーはそのまま出撃する。
「おう、戻って来たな」
「遅かったんでそのままリンダちゃんとスパゲティでも食べているかと思ったぜ」
 タップとライトがケーン達を出迎えた。二人はもうパイロットスーツに身を包んでいる。ケーンにもそれを手渡した。
「生憎そんな時間はなかったんでね」
 ケーンはスーツを着ながらそれに応える。
「スペイン広場にも行けなかった。折角あそこで洒落こもうとしたのによ」
「まあケーンたら」
 リンダがそれを聞いて顔を赤らめる。
「おいおい、スペイン広場かよ」
「レストランじゃなくて」
「こう見えても俺はロマンチストでな」
 そう返す。
「ローマの休日に憧れてるんだよ。悪いかよ」
「別に」
「意外だと思うけどな」
「わかったら早く出るぞ。ドモン達がもう戦っているからな」
「おっと、そうだったな」
「じゃあ急ぐとするか」
「よし。三銃士出撃だ!」
「よしきた!」
 こうしてドラグナーチームも出撃した。その頃マイヨはコロシウムから去り一人車で市街に向かっていた。車中で携帯にかける。
「私だ」
「大尉殿」
 ダンが出て来た。
「何処におられたのですか、心配しておりました」
「野暮用でな」
 マイヨは多くは語らなかった。そう答えただけであった。
「だがそれももう済んだ。今からそちらに向かう」
「はい」
「合流した後ですぐに出撃するぞ。いいな」
「了解」
「・・・・・・これでよし」
 マイヨはダンに電話をかけ終えると携帯を懐にしまった。そして一言そう呟いた。
「ケーン=ワカバ、御前の守るもの、いずれ見せてもらう」
 そう言って彼はローマを後にした。ギガノスの蒼き鷹もまた動いていたのであった。
 シャッフル同盟とマスターアジアはミケロと対峙していた。彼はネロスガンダムに乗っていた。
「ヘヘヘ、ドモンよ」
 彼はドモンを見据えて笑っていた。
「覚悟しろよ。手前には予選での借りがあるからな」
「馬鹿なことを」
 ドモンはそれに対して一言そう述べただけであった。
「貴様が俺に敗れたのは当然のことだ。それがまだわからないのか」
「ああ、わからないさ」
 彼は悪びれることもなくそう返した。
「だから今やってやるさ。手前を殺す」
「やれるものならな」
 ドモンは臆することなくそう言い返した。
「やってみるがいい」
「フッ、わかったぜ。聞いたかチャップマンよお」
「何!?」
 それを聞いたシャッフル同盟の一同の顔色が一変した。
「チャップマン、ジェントル=チャップマンか!?」
「馬鹿な、あの男は死んだ筈だぞ」
「そんなことが有り得るものか」
 ネオ=イギリスのガンダムファイターでありガンダムファイト史上前人未到の三連覇を達成した英雄である。だが彼はドモンとの戦いの後安らかに眠った筈なのだ。その彼が何故。皆それを嘘だと思った。しかしすぐにそれが真のものだとわかった。
「うむ」
 声がした。そして独特のシルエットのガンダムが姿を現わした。ネオ=イギリスのジョンブルガンダムであった。
「確かに聞いたぞ、ミケロよ」
「馬鹿な、あんたは死んだ筈だ」
 ドモンが彼に声をかける。
「それが何故」
「しかもミケロなどのような輩と」
 とりわけジョルジュの動揺は激しかった。イギリスとフランスのライバル関係はこの時代でも有名であるが彼はそうしたものを越えてチャップマンをガンダムファイターとして、そして騎士として尊敬していたからであった。
「そんなことは関係ない」
 チャップマンはそう答えただけであった。
「今の私にとって力だけが必要なのだからな」
「馬鹿な、心のない力なぞ」
 ジョルジュが言う。
「何の意味もないというのに」
「確かにな」
 マスターアジアがそれに同意する。
「力は地球を守るものだ」
「はい」
 ドモンがそれに頷く。だが彼はこの時師の目の奥にあるある暗い決意には気付いてはいなかった。
「力を知らぬ者は」
「力によって滅びる!ミケロ=チャリオット、そしてジェントル=チャップマン」
 ドモンは二人に対して叫んだ。
「俺達が貴様を倒す。シャッフル同盟の名にかけて」
「ヘッ、できるのかよ手前等に」
「ならば見せてみるがいい」
「言われなくとも。行くぞ!」
 まずはドモンが前に出た。それでも二人はまだ余裕の笑みを浮かべていた。
「ヘヘヘヘヘ」
「何がおかしい」
「おかしいから笑うのさ」
 ミケロが返す。
「俺達二人で手前等を相手にするとでも思っているのかよ」
「何!?」
「出て来な、出番だぜ」
 ミケロの言葉に合わせるかのように陸と空に突如として影が姿を現わした。それはデスアーミー達であった。
「なっ、デスアーミー」
「すると御前達は」
「その通りさ」
 今度はジョルジュの言葉に答える。
「俺達はDG細胞の力を得た」
「そして今の姿があるのだ」
「馬鹿な、悪魔の力を借りるとは」
 ジョルジュが叫ぶ。
「そこまで落ちたというのか」
「落ちたか」
 しかしチャップマンはドモンのその言葉を鼻で笑った。
「それはこの力を見てから言ってもらうか」
「まだ力を」
「この力」
 それに構わず言う。
「今こそ見せてやろう!」
「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!」
 ネロスガンダムとジョンブルガンダムが変形した。そして巨大な、かつ異形のガンダムへと変形したのであった。
「な・・・・・・・!」
 ドモン達はそれを見て絶句した。そこにいたのはそれ程までに異様なガンダム達であったのだ。
 ミケロのネロスガンダムは空にいた。銀色の翼を持つガンダムであった。
「何だあのガンダムは」
「ガンダムヘブンズソードっていうのさ」
 ミケロがドモンに対して答えた。
「ガンダムヘブンズソード」
「そうさ、空を駆るガンダムだ。どうだ、いいだろう」
「馬鹿な、そのような異形のガンダムなぞ」
 ドモンはそれを否定した。
「ガンダムではない!」
「では私のグランドガンダムもガンダムではないのか」
 チャップマンがそれを聞いてドモンに対して言った。
「この素晴らしいガンダムも」
「無論!」
 ドモンの返答に迷いはなかった。
「貴様のそれもまたガンダムではない!」
「ほお」
 チャップマンはそれには答えず不敵に笑うだけであった。
「言ってくれるな、私を前にして」
「では聞こう」
 ドモンはまた言った。
「貴様のその異形のガンダムは怪物の姿ではないのか!」
 見れば黄色の身体に背に複数の巨砲を持っている。それは確かに怪物の姿であった。
「否定はしない」
 チャップマンの返答はそれであった。
「だがそれこそがガンダムではないのか。怪物の様な姿が。そしてガンダムファイターもまた」
「違う!」
 ドモンは叫んだ。
「ガンダムファイターは怪物ではない、人間だ!」
「フ、戯れ言を」
「言ってくれるぜ」
 ミケロも突っ込みを入れた。
「この拳こそがそれを証明している」
 ドモンは右の拳を彼等に見せつけた。
「この真っ赤に燃える拳が。ミケロ=チャリオット、そしてジェントル=チャップマン」
 彼は二人の名を呼んだ。
「今貴様等にそれを教えなおしてやる。それから地獄に行け!」
「ドモンよ」
 後ろからマスターアジアの声がした。
「この二人、倒せるか」
「はい!」
 ドモンはそれに答えた。
「このような連中、俺一人で」
「いや、それは無理だ」
 しかし彼は弟子のその言葉を否定した。
「何故」
「御前は確かに強くなった。だがな」
 師は言う。
「一人では限度があるのだ。だが二人ではどうか」
「二人では」
「そうだ。わしも手伝おう」
「師匠」
 それを聞いたドモンの顔が明るくなった。
「その為にわしはここに来たのだからな。では行くぞ」
「はい!」
「ドモン=カッシュ」
 ジョルジュが彼に声をかけた。
「デスアーミー達は私達が引き受けましょう」
「済まない」
「まあ今度は俺達にも見せ場をくれたらいいからな」
「おいらはラーメンでいいよ」
「ヂボデー、サイシー」
「そういうことだ。では行くがいい」
「わかった」
 最後にアルゴの言葉に頷いた。そして銀色のガンダムと漆黒のガンダムが同時に跳んだ。

「行くぞドモン!」
「はい!」
 二人は呼吸を合わせて叫び合う。そして言った。
「流派東方不敗は」
「王者の風よ!」
 空中で力強い構えをとった。そしてそのまま二機の異形のガンダムに向けて急降下を仕掛ける。
「ヘッ、東方不敗がどんなもんか知らねえが」
 まずはミケロが出て来た。
「このガンダムヘブンズソードを倒せると思っているのかよ!」
「流派東方不敗は無敵!」
 ドモンがそれを聞いて言葉を返す。
「貴様ごときに敗れはしない!」
「ならばやってみやがれ!」
 ミケロもまた叫んだ。
「やれるもんならよ!」
「では見せてやろう」
 ドモンは言った。
「これが流派東方不敗だああああああああっ!」
 そして拳を放つ。それでまずはミケロの飛ばしてきた羽根を弾き飛ばした。
「何ィッ!」
「ドモン、次だ!」
「はい!」
 二人は動きを合わせてきた。
「ダブルシャイニング・・・・・・」
「ストラァーーーーーーーーーーイクッ!」
 それでヘブンズソードを弾き飛ばした。ミケロは無様に宙を舞った。
「ウオオオオオオオオオオッ!」
 だが二人はそのまま急降下を続ける。そしてその下にいるグランドガンダムを見下ろした。
「今度は貴様だぁっ!」
「面白い」
 チャップマンはやはり不敵な笑みを浮かべて見上げていた。
「私に一度見た技を通じないぞ」
「わかっている!」
 ドモンはまたもや叫んだ。
「今度はこれだあっ!師匠!」
「うむ!」
 二人は互いに顔を見て頷き合った。そしてまたもや動きを合わせる。
「覇千王気炎弾」
 今度はマスターアジアが言う。
「連射ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!」
 二人は同時に覇千王気炎弾を放った。それは凄まじい唸り声をあげグランドガンダムに襲い掛かった。そしてチャップマンはそれを避けることができなかった。
「グオオオオオオオオオオオッ!」
 激しい衝撃がグランドガンダムを襲う。そして大破した。二人は瞬く間に二機の異形のガンダム達に対してかなりのダメージを与えたのであった。
 二人は着地した。そして背を重ね合ってミケロとチャップマンに対して言う。
「どうだ、俺達の力は!」
「大したものだと言っておこう」
 チャップマンは煙が沸き起こるグランドガンダムのコクピットからそう述べた。
「まさかこれ程までとはな」
「俺を吹き飛ばすとはな。やってくれるじゃねえか」
 空から声がした。ミケロもいた。
「まだやるか」
「ならば相手になるぞ」
「そうしたいのはやまやまだが」
 チャップマンが答える。
「今日はこの位にしておこう」
「逃げるのか」
「そうじゃねえよ」
 今度はミケロが答えた。
「こっちにも都合があるんでな。手前の相手は別の奴がやってくれるさ」
「何!?」
「フフフ」
 驚くドモンに対してマスターアジアは何故か意味ありげに笑っていた。
「じゃあな。精々頑張りな」
「さらばだ」
 二人は姿を消した。気がつけば戦いは終わっていた。デスアーミー達もジョルジュ達により皆倒されてしまっていた。
「もう終わりか」
「そのようですね」
 ジョルジュが答えた。
「他愛ないといえばそれまでですが。何か引っ掛かりますね」
「それビンゴみたいだぞ」
 彼等の側にやって来たライトがそう述べた。
「ライト」
「マギーちゃんが教えてくれてるぜ。またお客さんだ」
「デスアーミーか」
「いや、それだけじゃない」
「では何者が」
「これは普通の敵ではないです」
 ナデシコもドラグナーチームの他のロンド=ベルの面々もやって来た。その中にいるルリがドモン達に対してそう述べた。
「おや、ルリちゃんもわかったようだね」
「はい」
 ルリはライトの言葉に頷いた。
「これは・・・・・・かなり危険な相手です」
「まさか」
 それを聞いたドモンが身構えた。
「そいつは俺が追っている」
「そうよ、彼よ」
 レインがライジングガンダムで出ていた。そして彼の側に来た。
「キョウジ=カッシュよ」
「やはり」
「来るわ。覚悟はいい?」
「無論」
 ドモンの声がそれまでのより遥かに強くなった。
「その為に俺はここまで来た」
「そうだったな」
 マスターアジアがそれに頷く。
「ではドモンよ、よいな」
「はい」
 ドモンもまた頷いた。
「さあ来い、デビルガンダム」
「デビルガンダム」
 その名を聞いた他の者達の背に寒気が走った。
「何という禍々しい名だ」
「一体どんな奴なんだ」
「すぐにわかる」
 ドモンは一言そう述べるだけだった。だがここで禍々しいまでのプレッシャーがロンド=ベルの面々を襲った。
「この気は・・・・・・」
「何てとんでもない力なんだ」
「気をつけて下さい」
 そんな彼等に対してルリが言う。
「ルリちゃん」
「デスアーミー達も来ていますから」
「ああ、わかってるさ」
 答える彼等の周りに早速姿を現わしてきた。かなりの数であった。
「もう来ているしな」
「じゃあやるか」
「おいドモン」
 甲児がドモンに声をかけてきた。
「甲児」
「そのデビルなんとかっているバケモンは御前等に任せるぜ、いいな」
「ああ」
「思う存分ギッタンギッタンにやってやりな。そのデビルなんとかってのを」
「甲児君、デビルガンダムよ」
 名前を覚えられない甲児に対してさやかが突っ込みを入れた。
「わかってるよ。デビルガンダムだったよな」
「わかってるじゃない」
「今覚えたのさ。まあそんなことどうでもいいや。とにかくドモンよ、やってやるんだ、いいな」
「ああ」
「雑魚は俺達がやるからな。御前は大物をやるんだ」
「済まない」
「いいってことよ。じゃあな」
 甲児はそう言うと戦いに向かった。すぐに拳を振り回す。
「ロケットパァーーーーーーンチッ!」
 それで早速デスアーミーを一体破壊した。相変わらずの威力であった。
 他の者達も負けてはいなかった。彼等は雲霞の如き数のデスアーミー達に対して果敢に立ち向かっていた。
「ドモン、後ろは安心していいぞ」
「はい」
 師の言葉に頷く。
「御前はデビルガンダムに入るのだ」
「えっ!?」
 ドモンは最初師が何を言っているのかわからなかった。
「師匠、今何と」
「聞こえなかったのか」
 マスターアジアはそれを聞いて笑った。
「御前はわしと共に世界を救うのだ。デビルガンダムの力のよってな」
「馬鹿な!」
 彼はまだ師が何を言っているのかわからなかった。
「師匠、ご冗談を」
「わしが嘘を言ったことがあるか?」
 だがマスターアジアは逆にこう問うてきた。
「御前に対して」
「いえ」
 首を横に振る。彼がそのような人物でないことは他ならぬドモン自身がよくわかっていた。
「ではわかるな。来い、ドモン」
「一体何処に」
「わしと共にだ。さあ、来るぞ」
 地響きが聞こえてきた。
「この世の救世主が。これこそ地球を救う者なのだ!」
「馬鹿な!」
 その救世主の姿を見てドモンは叫んでしまっていた。その救世主の邪悪な姿が古都に浮かんできた。
「何てとんでもない姿なんだ」
 それを見たロンド=ベルの者達が思わず声をあげる。
「化け物かよ」
「いえ、化け物じゃないわ」
 レインが彼等にそう答える。
「あれがデビルガンダムなのよ」
「あれが」
「ええ」
 レインは頷いた。
「あの不気味な姿。それが何よりの証拠」
「見れば確かにガンダムの頭があるな」
 アムロがそれに最初に応えた。その言葉通りその頭は確かにガンダムのものであった。
「だが」
 しかし彼はそれを否定した。
「あれはガンダムじゃない。化け物だ」
「確かにな」
 クワトロがそれに合わせた。
「ガンダムは化け物だ。だが」
「シャア」
「あれは本物の怪物だ。最早この世にいていいものではない」
「大尉もそう思うか」
「ああ」
 彼はドモンにも答えた。
「ドモン君、君の言いたいことはわかっているつもりだ」
「有り難い。師匠」
 再びマスターアジアに声を向ける。
「俺は師匠の仰ることがわかりません。どういうことですか」
「人間は滅びなければならん」
「馬鹿な」
 ドモンにはまずそれがわからなかった。
「何故滅びなければいけないのですか」
「わからぬか」
 彼はそれを聞いて険しい顔となった。そして宙に跳んだ。
「今この地球は死に瀕しているのだ。他ならぬ人間によってな」
「それは否定できないね」
 万丈がそれに同意した。
「戦争だけじゃなく環境破壊も進んでいる。確かに真実の一面ではあるね」
「そう、それだ」
 マスターアジアはサン=タンジェロ城の城壁の上に着地して万丈に対して答えた。
「人間は今まで何をしてきた。地球を食い潰すだけではないか。愚かな存在だ」
「違う!」
「どう違うとうのだ?」
 彼は叫んだドモンに対して逆にそう問うてきた。
「真実ではないのか?ドモン、貴様も今までの戦いでそれを知ってきたであろう」
「・・・・・・・・・」
 それに答えることはできなかった。何故なら彼もレインとの旅やこれまでの戦いで地球を見てきたからであった。確かに地球は荒廃していた。それは否定できなかった。
「そういうことだ。では我等が今為さねばならないことはわかるな」
「しかしシャッフル同盟だ」
「シャッフル同盟は地球を守るもの」
 それがマスターアジアの考えであった。
「ならばそれを害する人間こそ滅ぼすべきではないのか。それが先代のキング=オブ=ハートであるわしの結論だ」
「あの爺さんもシャッフル同盟だったのかよ」
「だとすると他にも四人あんなのがいたのか」
「化け物が五人も」
「何か想像するだけで怖いね」
 ジュドー、ビーチャ、モンド、イーノがヒソヒソとそう話していた。
「ドモン、そして御前に聞こう」
 そのうえで弟子に対して問うた。
「わしと共に来るか。どうだ」
「俺は・・・・・・」
 心が揺らいでいた。師のもとに行くべきか否か。判断がつきかねていた。だがそれよりも先に動いている者達がいた。
「手前勝手なこと言ってるんじゃねえ!」
「あ、よせ勝平!」
「今は動いちゃ駄目よ!」
 勝平がザンボット3を動かしていた。宇宙太と恵子の制止は残念ながら間に合わなかった。
「俺達が何であんたに滅ぼされなくちゃいけねえんだ!難しいこと言って俺を混乱させるつもりかよ!」
「結局頭にきただけかよ」
「いつもこうなんだから」
 呆れる二人をよそに突っ込む。だがマスターアジアはザンボットを前にしても余裕であった。
「フ、ザンボット3か。その力は知っているぞ」
「それがどうした!」
「貴様は確かに強い。だがな」
「褒めたって出るのは拳だけだぞ!」
「わしはもっと強いのだああああっ!」
「何ィ!」
 マスターアジアは跳んでいた。クーロンガンダムはその手に長い布を持っていた。
「受けてみよ!」
 彼はその布を振り回し叫ぶ。
「流派東方不敗の技を!」
「うわあああああああっ!」 
 それに絡め取られた。そしてザンボットの巨体が宙に舞う。ザンボットは無様に大地に叩きつけられてしまった。
「わしに向かってきた勇気は褒めよう。その命、預けておく」
「いててててててて・・・・・・」
「勝平!」
 ドモンは彼のことを気遣い声をあげる。
「大丈夫か!」
「何とかね」
 彼は何とかザンボットを起き上がらせながらそう答えた。
「けれど、かなりのダメージを受けちまったよ」
「何も考えずに突っ込むからだろうが」
「何時まで経っても進歩しないんだから」
「フン」
 二人の言葉に口を尖らせる。だが彼は何とか無事であった。
「師匠」
 ドモンはあらためて師を見据えた。
「先程のことですが」
「何だ?」
「謝罪して下さい。俺の大切な仲間を傷つけたことを」
「では聞こう」
 ここで彼はまた問うてきた。
「あのザンボットとやらは人間を守る為に戦っているのだな」
「そう聞いています」
 彼は答えた。彼もザンボットがビアル星人のものであり、その彼等が地球を守る為にガイゾックと戦っていることを知っているのである。
「それが何か」
「それが愚かだというのだ」
 マスターアジアはそれを否定したのであった。
「何と・・・・・・」
「何を驚く。ガイゾックだったな」
「はい」
「人間を滅ぼすのだ。それの何処が悪いというのだ」
 彼は弟子を挑発するようにして言った。
「地球を害する人間共をな。そうは思わんか」
「思わん!」
 今度は何処からか声がしてきた。
「マスターアジア、狂うのもいい加減にしろ!」
「この声は」
 ロンド=ベルの面々はそれを聞いて辺りを見回した。するとまた声がした。
「貴様はそれでも正義の戦士なのか!」
 また新たな影が姿を現わした。それは黒いガンダムであった。
「また変なガンダムが」
 ニナはそのガンダムを見て顔を顰めさせた。
「一体どんなガンダムなの?」」
「ガンダムシュピーゲル」
 声はそう答えた。
「ネオ=ドイツのガンダムだ」
「ああ、知ってるぜ」
 ヂボデーがそれを聞いて声をそのガンダムに対してかけてきた。
「嫌でもな」
「全くだよ」
 見ればサイシーもヂボデーと同じ顔をしていた。
「おいら達を訳のわからないうちにあしらってくれたもんな」
「あんな勝負ははじめてだった」
 アルゴもである。
「何時の間にか負けていた」
「あの三人がか」
 さしもの京四郎もそれを聞いて驚きを隠せなかった。
「あのネオ=ドイツのガンダムってのはそんなに凄いのか」
「あれ、京四郎さん知らなかったの?」
 ナナがそれを聞いて声をあげた。
「ネオ=ドイツのガンダムシュピーゲルっていったら物凄く強くて有名なのよ」
「そうなのか」
「滅茶苦茶な強さでね。大会じゃ準優勝だったのよ」
「あれは圧倒的でした」
 ジョルジュの顔と声も苦いものであった。
「まさかこの私まで為す術もなく倒されるとは。思ってもいませんでした」
「あんたまでもか」
「ええ」
「あたしもね」
 アレンビーもジョルジュと同じであった。
「あっという間にやられちゃったわよ。何だっていうのよ」
「そして俺は引き分けだった」
 ここでドモンが言った。
「運がよかった。そうとしか言えない」
「あれはな。本当にそうだったな」
 サンシローがそれを聞いて応える。
「あんた普通にやってたら絶対に負けてたぜ」
「わかってる」 
 ドモンは険しい顔でそれに頷いた。
「俺が一番な。シュヴァルツ=ブルーダー」
 そして人の名を呼んだ。
「何だ」
 コクピットの中にいる覆面の男が尋ねてきた。
「一体どうしてここに来たんだ?お前はネオ=ドイツに帰ったのではなかったのか」
「確かに一度は帰った」
 彼はドモンの問いに対してそう答えた。
「だがデビルガンダムの気配を察しここまで来た。そしてもう一つの脅威も」
「もう一つの脅威」
「そうだ。マスターアジア」
 シュヴァルツはまたマスターアジアに顔を向けてきた。そして問うた。
「そのクーロンガンダムの真の姿を見せてもらおうか」
「フッ、気付いておったか」
「無論!」
 彼はドモンを彷彿とさせるような力強い声で応えた。
「貴様の魂胆、私にわからないとでも思っていたか」
「何よ、あの化け物に正体があるっていうの!?」
「まんまどっかの悪の組織じゃない」
 ルーとエルが声をあげる。
「その正体とは」
「見ていればわかる」
 今度はドモンに対して言う。
「見ていればな」
「フフフフフフフフフフ、では見せるとしよう」
 マスターアジアはまたもや笑った。
「このクーロンガンダムの真の姿」
 そう言いながら身構える。凄まじい気がクーロンガンダムの全身を覆った。
「マスターガンダムをな!」
「マスターガンダム!」
「見るがいいドモン、ロンド=ベルの小童達よ!」
 マスターアジアは叫んだ。
「これぞ史上最強の存在よっ!」
 気がローマを覆う。幾度もの死闘を潜り抜けてきた歴戦の強者だけが放つことのできる気であった。そしてそれが消え去った時そこには紫のガンダムがいた。
「見たか、ドモン」
「何と・・・・・・」
 ドモンはそのガンダムを見て絶句した。そのガンダムには紫の翼まであった。
「これこそがわしのガンダムの真の姿なのだ」
「何てプレッシャーなんだ」
 シーブックがそのマスターガンダムを見て呟いた。
「鉄仮面のなんて比較にならない」
「ええ」
 セシリーもそれに同意する。
「まるでこの街を・・・・・・いえ地球まで覆うような。こんなプレッシャー感じたことはないわ」
「それが東方不敗の気ってわけね」
「その通り!」
 アヤの言葉に頷く。
「わしこそがこの地球を救える者だ。さあドモンよ」
 彼はまたしてもドモンに対して声をかけてきた。
「わしと共に来い。よいな」
「断る!」
 だがドモンの答えは意外なものであった。少なくともマスターアジア自身にとっては。
「何!?」
「師匠、貴方は今俺の大切な仲間を傷つけた。それを許すことなぞできはしない」
「馬鹿な、大義を知らぬというのか」
「人間を救うのは大義ではないと」
「大義の前には犠牲も必要なのだ。いや」
 彼は言った。
「人間はその大義にとって害悪でしかない。違うとでもいうのか」
「違う!」
 ドモンはまた答えた。
「人を救うことこそ我等が大義!シャッフル同盟の大義だ!」
「フン、どうやらわしは御前を育て損ねたようだな」
 マスターアジアはそこまで聞いて鼻で笑った。
「馬鹿弟子が。最早貴様なぞあてにはせん」
「それで結構!」
 ドモンはまた言った。
「人を滅ぼすというのなら師匠・・・・・・いやマスターアジアよ」 
 言葉を続ける。
「貴様といえど倒す!それがシャッフル同盟だ!」
「この馬鹿弟子があああっ!」
 マスターアジアは叫んだ。
「人というものがわからんのか!だから御前はアホなのだ!」
「それで結構!」
 ドモンは怯まない。
「俺は人の為に戦う!馬鹿だのそういうことは関係ない!」
「ドモン=カッシュ、よくぞ言いましたね」
 ジョルジュはそれを聞いて感心したように言った。
「流石です。それでこそキング=オブ=ハート」
「ジョルジュ」
「俺達も同じ考えだぜ」
「ああ」
「ヂボデー、サイシー」
「マスターアジア、あんたは間違ってる」
 ヂボデーはマスターアジアを指差しそう言う。
「地球は大事だけれど人間は邪魔だなんてどう考えてもかしいだろ」
「サイシーの言う通りだ」
 アルゴも言った。
「俺もまたシャッフル同盟としてそれには反対させてもらう」
「フン、若造共が。情に流されおって」
「これは情ではない」
 シュヴァルツがまた言った。
「真理だ。マスターアジア、貴様にはそれがわからないのか」
「わかるだと。フン馬鹿めが」
 彼はシュヴァルツの言葉に対して不敵に笑みを返した。
「わしをわからさせたければ言葉では無理ぞ」
「ならば!」
 シュヴァルツはそれを受けて跳んだ。
「拳で教えてやろう!行くぞ!」
「望むところ!」
 マスターアジアもまた跳んだ。そして跳びながら空中で演舞をはじめた。
「演舞か」
「これが東方不敗の演舞よ!」
 彼は誇らしげに叫んだ。
「華麗にして豪壮、見よ、この舞いを!」
「では私も見せてやろう!」
 シュヴァルツもそれを受けて動いた。
「これがゲルマン忍術の舞いだっ!」
「ゲルマン忍術ぅ!?」
 それを聞いて多くの者が顔を顰めさせた。
「何だそりゃあ」
「嘘に決まってるだわさ」
「いや、残念ながら嘘じゃない」
「何ィ、知っているのかサコン」
 甲児とボスに合わせるかのようにサコンがここで言った。
「ああ。かって日本に忍者がいた」
「それは知ってるぜ」
「岡長官もだったな」
「ああ」
「私も忍術なら使えるわよ」
 ここでめぐみも話に入ってきた。
「一応はね。これでもくの一なんですから」
「そう。忍者は戦国時代に出来上がった」
「そういやそうだったっけ」
「甲児君たらまた。だから歴史赤点なのよ」
 さやかがまた呆れた溜息をついていた。サコンはそれに構わず続ける。
「そしてその中には海を渡った者達がいた。山田長政のようにな」
 シャム、今のタイで国王の臣下の将として活躍したと言われている日本人である。他に海を渡った日本人としてキリシタン大名であった高山右近等がいる。
「そして忍者の中にもまた海を渡った者達がいたのだ。当然ドイツに入った者達もいた。それこそがゲルマン忍術の起こりだ」
「何かとんでもねえ話だな」
「作り話としては最高だわね」
「だがこれは作り話ではない」
「そうなのか」
 さしもの大文字も首を傾げていた。
「あの国にそんなものがあったとは初耳だな」
「私達の知らないこともあるのでしょう」
 ミドリがフォローを入れる。
「世の中ってそんなものですから」
「確かにね」
 ミサトがそれに同意した。
「ミサトさん」
「目の前にあんなとんでもないおじさんがいるんだし。ドイツに忍者がいても不思議じゃないわ」
「そういうものでしょうか」
「そうなんだろ」
 マヤにシゲルがそう答える。
「大体エヴァにしろかなり不思議なものだしな」
「そうそう」
「ううん」
 マヤはまだ少し納得できないでいた。だが彼女に深く考えさせる程周りは落ち着いてはいなかったのであった。
 マスターアジアとシュヴァルツは空中で演舞を続ける。そしてそれぞれ両手を出してぶつかり合った。
「ムン!」
「ヌン!」
 互いに気と気もぶつけ合う。そして力比べをはじめた。
「あの時よりさらに腕をあげたようだな」
「貴様のおかげでな」
 彼はそう答えた。
「まさかこれ程早く再び拳を交えるとは思わなかったがな」
「それはわしも同じこと」
 マスターアジアは言った。
「だが今こうして交えたからには」
「ガンダムファイターとして」
「死合う!」
 彼等は空中でそのまま激しい戦いに入った。マスターガンダムは拳法で、ガンダムシュピーゲルは忍術で互いに応酬し合う。
「喰らえっ!」
 マスターアジアが拳を繰り出すとシュヴァルツはもうそこにはいなかった。それは残像であった。
「ムッ!」
「今度はこちらだっ!」
 後ろにいた。そして手裏剣を放つ。
「これならっ!」
「飛び道具を使って勝てると思うてかあああああっ!」
 マスターガンダムは分身した。それで手裏剣をかわした。まるで流れるような動きであった。
「手裏剣をかわすとはな」
「未熟未熟うううううっ!」
 彼は叫んでいた。
「我が拳を受けて猛省するがいいっ!」
「猛省するのは貴様だあっ!」
 今度はシュヴァルツが消えた。そして拳をかわした。
「ヌウッ!?」
 彼はいた。マスターアジアの拳の上に。そこで腕を組み立っていた。
「小癪な真似を!」
「もらった!」
 そのままマスターガンダムの脳天に拳を振り下ろす。だがそれもかわされてしまった。
「ムッ!」
「まさかわしをここまで楽しませてくれるとはな。褒めてやろう」
「生憎褒められても嬉しくはない」
「フン、照れるでない」
「照れはない。ただ貴様を倒すのみ」
「あくまでそれを追い求めるか」
「そうだ。だからこそここにいる。人間を滅ぼさせはせん!」
「害を滅ぼして何が悪いかああっ!」
「それは貴様の独断だ!主観のみでものを語るな!」
「わしの言っていることは真実よ!」
「ならば私を倒してそれを証明するがいい!」
「望むところ!」
 二人の戦いは激しくなる一方であった。シャッフル同盟はそれを尻目にデビルガンダムに向かっていた。五機のガンダムが怪物を取り囲んだ。
「行くか」
「うむ」
 ドモンの言葉に他の四人が頷く。そして一斉に攻撃に入った。
「まずは俺からだ!」
 アルゴが攻撃に入った。その手に持つグラビトンハンマーを頭上で振り回しはじめた。
「砕け散れ!」
 そしてそれをデビルガンダムに向けて放った。
「グラビトンハンマーーーーーーッ!」
 それでデビルガンダムを砕かんとする。続いてサイシーが動いた。
「ハアアアアアアッ!」
 突進する。そして背中の旗を出す。
「行くぜ・・・・・・フェイロンフラッグ!」
 それでデビルガンダムを攻撃する。そして一気に突き抜けた。
「どうだああっ!」
 だがそれで終わりではなかった。ジョルジュも構えていた。
「私の持つ最大の技・・・・・・お見せしよう!」
 彼は自信に満ちた笑みと共に言う。そしてローゼスビットを一斉に放ってきた。
「行け、美しき薔薇達よ!」
 彼はその美しき深紅の薔薇達に向かって言う。
「ローゼス!スクリーマーーーッ!」
「今度は俺だぜ!」
 ヂボデーもいた。彼は拳をふり立てる。
「バーニングパンチ・・・・・・」
 その拳を繰り出す。赤い光のブローが敵を撃つ。
「シューーーットォォ!!」
 それでデビルガンダムを狙う。赤い光が一直線に飛ぶ。
 四人の最大の攻撃がほぼ同時にデビルガンダムを直撃した。いずれも戦艦ですら一撃で沈めることが可能な攻撃である。これにはさしものデビルガンダムも立ってはいられないだろうと誰もが思った。だがそれは思っただけに過ぎなかった。
「な・・・・・・!」
 誰よりも驚きの声をあげたのは他ならぬシャッフル同盟の面々であった。彼等は平然と立っているデビルガンダムを見て絶句せずにはいられなかった。
「我々の最大の奥儀を受けて立っているとは」
「化け物なのか!?」
「フフフフフフフフフフフ」
 デビルガンダムの中から男の笑い声がした。
「キョウジ!」
 ドモンはそれを聞いて憎しみに満ちた声で何者かの名を呼んだ。
「やはりそこにいたか!」
「キョウジか」
 それを聞いてもう一人複雑な感情を示した者がいた。シュヴァルツであった。
「だがいい。今はな」
 しかし彼はすぐにその感情を消した。そしてマスターガンダムに向き直るのであった。
 デビルガンダムは立っていた。そしてキョウジの笑みは狂気に満ちたものであった。
「フフフフフフフフフフフ」
「何がおかしい!」
 ドモンの問いにも答えはしない。
「ハッハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
 彼は笑い続けていた。そして攻撃を放ってきた。
「ムッ!」
 長い蔦が地を這う。そしてシャッフル同盟目掛け襲い掛かって来た。
「何のっ!」
 ドモン達はそれをかわした。空中で態勢を整える。
「この程度の攻撃で!」
 その蔦は蔦ではなかった。何とその先はガンダムの頭であった。デビルガンダムの触手であったのだ。
「何と不気味な」
 ゼンガーはそれを見て嫌悪感を露わにさせた。
「あそこまで邪悪なものは見たことがない」
「ゼンガーさん」
 クスハがそれを聞いて彼に顔を向ける。
「断じて違う、あれはガンダムではない」
 彼は嫌悪感を露わにしたまま言う。
「あれは・・・・・・化け物に他ならない」
「そう、あいつは化け物だ」
 ドモンがそれを受けるようにして言った。
「だからこそ、俺達が倒す!」
「だが貴様等にデビルガンダムが倒せるかな?」
「できる!」
 マスターアジアの言葉に叫んだ。
「今それを見せてやる。シャッフル同盟に敗北はない!」
「うむ!」
 彼等は跳んだ。だが今度は五人ではなかった。
「ドモン、あたしもいるよ!」
「アレンビー!」
「そして私も」
 レインもいた。二人はドモンに動きを合わせていた。
「このままやるよ!」
「フォローは任せて!」
「わかった。では行くぞ!」
「何時でも来な!」
「シャッフル同盟の力!」
「今こそ見せる時です!」
「力を合わせるぞ!」
「よし!」
 五人は一斉に全身に力を込めた。そして再び技を繰り出す。
「バーニングパァーーーーーンチッ!」
「フェイロンフラッグ!」
「ローゼススクリーーマーーーーッ!」
「グラビトンハンマーーーーッ!」
 それだけではなかった。アレンビーとレインも技を放っていた。
「飛べぇっ!」
 アレンビーは叫ぶ。そして腕のリボンを放つ。
「伸びて!ビームリボン!」
 それでデビルガンダムを撃つ。レインもそれに続くように技を放つ。
「必殺必中!」
 弓を構えながら叫ぶ。
「ライジングアローーーッ!」
 二人の攻撃も放たれた。そして最後にドモンが技を放つ。
「いくぞっ!俺のこの手が真っ赤に燃える!」
 その手に気を溜めながら言う。その手はまるで炎のように燃え盛っていた。
「御前を倒せと轟き叫ぶ!」
 叫び続ける。そして突撃する。
「爆熱ゴッド・・・・・・」
 技の名を叫ぶ。それにつれて身体を力が覆う。
「フィィィンガァァァァァァァァァァァァァァッ!」
 それでデビルガンダムを襲った。そしてそれは悪魔の腹を直撃した。
「ヒィィィィィィィィィィィィィト・・・・・・」
 デビルガンダムの巨体が揺れていた。だが彼はなおも力を放っていた。
「エンドッ!」
 そしてこれが最後であった。力を全て放ってしまった。これで終わりであった。
 デビルガンダムの巨体が赤い光に包まれた。そして一瞬の後光は爆発となった。そしてこれで悪魔は消え去ったのであった。
「勝負あったな、マスターアジアよ」
「フン、まだまだ」
 だが彼は健在であった。シュヴァルツとの戦いは五分と五分であった。だが彼に疲れはなかった。
「デビルガンダムは不死。何を驚くか」
「まだ諦めないというのか」
「わしの辞書に諦めるという言葉はない!」
 ここで彼は叫んだ。
「だが今は退いてやろう。貴様との勝負はお預けか」
「そうか」
「そしてドモンよ」
 今度はドモンに顔を向けてきた。
「ムッ」
「貴様とは今日限り師でも弟子でもない。敵同士だ」
「言われずとも」
「今度会う時が貴様の最後だ。よいな!」
「マスターアジア!」
 彼もまた師を呼び捨てた。その声には憎悪だけがあった。
「俺も貴様を倒す!その時を楽しみにしていろ!」
「フッ、そうさせてもらおう。ではロンド=ベルの強者達よ」
 ロンド=ベルの面々に対して言う。
「これで一先さらばだ。風雲再来!」
「ヒヒーーーーーーーーン!」
 馬が空から舞い降りてきた。マスターアジアは空中でそれに乗った。
 そして何処かに去った。後にはただ覇気だけが残っていた。
「デビルガンダムを一先退けたとはいえ」
 ブライトは戦いが終わったのを確認してから呟いた。
「マスターアジアか。また厄介な敵だな」
「ああ」
 それにアムロが頷いた。
「特にあいつにとってはな」
「そうだな」
 二人はドモンを見ていた。彼はまだマスターアジアを見据えていた。その目には憎悪と怒りが燃え盛っていた。
 シュヴァルツもまた何処へかと姿を消した。彼等はとりあえずは古都を守った。しかし同時に新たな強敵をも抱え込むことになったのであった。


第三十一話   完



                                    2005・7・10


楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル