恐竜帝国の侵攻
 誰かが闇の中から彼を呼んでいた。それは女の声であった。
「司令」
(俺が司令?)
 彼はそれを聞いて不思議に思った。
(馬鹿な、俺は司令ではない。どういうことなんだ)
「マーグ司令」
 だが声はそう言っていた。それは確かに彼のことを呼んでいた。
(俺を呼ぶのは誰だ?)
 今度はこう思った。
(俺を司令と呼ぶ。君は一体誰なんだ)
 気になり目を覚ました。するとそこに彼女がいた。
「ようやく目覚められたのですね」
 そこには青緑のショートヘアの美少女がいた。丈の短いスカートを身に着けている。
「君は」
 マーグはベッドに寝ていた。そして彼は彼女をそこから見上げていたのだ。見れば少女は彼を見て微笑んでいた。
「私はロゼです」
「ロゼ」
「はい。バルマー帝国銀河辺境方面軍第八艦隊副司令です」
「バルマーの」
「はい」
 ロゼと名乗った少女は答えた。
「そして第八艦隊だって」
「御存知ないですか」
 ロゼはここでマーグに問うてきた。
「何を」
「第七艦隊は全滅してしまいましたから」
「そうなのか」
「はい、地球で。そこの原住民達によって全滅させられたのです。ラオデキア=ジュデッカ=ゴッツォ士師はその際に戦死されたようです」
「ラオデキア司令とは」
「マーグ司令」
 ロゼはそれを聞いて悲しい顔を作った。
「御友人のことをお忘れですか」
「友人。彼と私がか」
「はい。ラオデキア士師は司令の御友人でした。同じ士師としても互いに認め合っていたではありませんか」
「そうだったのか」
 だがマーグには今一つよくわからない話であった。
「私にとっては重要なことなのだな」
「はい」
 ロゼは頷いた。
「悪いがよく覚えていないが」
「貴方は地球への征伐の為に派遣されることになったのです」
「地球にか」
「そうです。ラオデキア士師、そして他の多くのバルマーの将兵の仇を取る為に。だからこそ今このヘルモーズに乗っておられるのです」
「ヘルモーズ?」
「我等がバルマーの艦隊の旗艦です」
「そうか。宇宙船なのだな」
「簡単に言いますと。巨大な艦ですよ」
「そうなのか」
 だが実感は沸かなかった。
「どうも今一つよくわからないな」
「いずれおわかりになられると思います。地球のことと共に」
「そうか」
「ええ。ですから今暫くは私にお任せ願いますか」
「君に?何をだ」
「全てのことをです」
 彼女は微笑んでそう言った。
「戦いのことも。宜しいでしょうか」
「悪いが私は今何もわからない」
 彼は首を傾げながらそう答えた。
「だから任せるも何も。君に言われた通りにしよう」
「はい」
「それでは地球に到着したならばすぐに作戦を開始してくれ」
「わかりました」
 ロゼは笑みと共に応える。
「必ずや地球を我がバルマーの手に」
「わかった。バルマーの手に」
 そう言いながら起き上がった。そしてベッドから出た。
「マーグ様、どちらへ」
「いや、何」
 彼はロゼに顔を向けて言う。
「広い船らしいね、このヘルモーズは」
「は、はい」
 ロゼは何故か戸惑いながら答えた。何故戸惑っているのか彼女自身にもよくわからなかった。
「その通りですが」
「なら色々と見て回りたい。これから地球までかなりの距離があるようだし」
「ええ」
「案内してくれたら嬉しいのだけれど。いいかな」
「私がですか」 
 それを聞いて今度は戸惑った。
「あの、司令」
「何だい?」
「あの、その」
 何故戸惑っているかはやはりわからなかった。だがそれでも問うことはできた。そして彼女は問うた。
「本当に私なぞでいいのでしょうか」
「今ここに君以外で誰がいるというんだい?」
「それはそうですが」
 先程までの冷静さは何処にもなかった。ロゼは不自然な程うろたえていた。
「ただ」
「ただ、何だい?」
「本当に私でいいのですよね」
「だから君以外に他に誰がいるんだい?」
「はあ」
 何故か狼狽していた。狼狽しながら答える。
「それではお願いします」
「君が?」
「あの、何か」
「頼んだのは私だが。違ったのかな」
「あ、そうでしたね」
 ロゼはまだうろたえていた。
「そうでした。それでは司令」
「うん」
「行きましょう。案内させて頂きます」
「頼むよ」
 こうしてマーグはロゼの案内のもとこのヘルモーズの艦内を歩き回った。そしてゆっくりと地球に向かうのであった。多くの軍を共に。

 ティターンズ、ドレイク軍が東欧を制圧し、ギガノス軍が中央アジアを中心に暴れ回っていた頃北米においては一つの勢力がその牙を見せようとしていた。
「キャプテン=ラドラよ」
「ハッ」
 地底から声が聞こえてきていた。
「シカゴの防衛はどうなっているか」
「かなり手薄となっております」
 声はそう答えた。
「そうか。遂に時が来たな」
「はい」
 声はまた答えた。
「これよりシカゴを制圧する。よいな」
「わかりました」
「先鋒はそなたとする。必ずや制圧せよ。失敗は許されんぞ」
「無論承知のこと。では帝王ゴールよ」
「うむ」
「必ずや地上を再び我等が手に」
「頼むぞ」
 彼等はそう言うと闇の中に消えた。そして闇の中で何かが蠢く音がした。

 ローマでの戦いの後ロンド=ベルは南フランスの保養地であるニースにいた。ここでほんの骨休みであった。
「たまにはこんなのもいいね」
 万丈はレストランでフランス料理を楽しみながらそう言った。
「今まで戦っていたばかりだったから。羽根を休められるよ」
「はい、万丈様」
 その向かいの席にはギャリソンがいた。
「ですがここの料理は今一つ爪が甘いですな」
「そうかなあ」
 それを聞いたトッポが首を傾げた。彼も万丈達と同じデーブルにいたのだ。
「美味しいと思うよ。まずいの?」
「味は素晴らしいです」
 ギャリソンはステーキを切って口に入れながらそう答えた。
「ですが」
「何かあるんだね」
「はい。ソースのスパイスが少し多うございます。それが問題かと」
 彼はソースのスパイスの多さを問題にしていたのだ。
「それさえなければ完璧なのですが」
「厳しいなあ」
「完璧主義者だからね、ギャリソンは」
 万丈はそれを聞いて笑いながらそう述べた。
「ダイターンの整備も。これからも頼むよ」
「お任せ下さい」
 万丈達がレストランで食事を楽しんでいる間他のメンバーはホテルのプールにいた。そしてそこで楽しんでいた。
「ふう、何かこうしてプールで泳ぐのも久し振りね」
 ピンクのビキニのユリカがプールから上がってそう言う。
「アキトもそうじゃないの?今までずっと戦ってばかりだったし」
「俺はそうは思わなかったけれど」
 だが彼はそれについては特に気にとめていないようであった。
「ラーメンを作っていたし。そっちもかなり上手くなったしね」
「またラーメンなの?ここでも」
 ユリカはそれを聞いて頬を少し膨らませた。
「今日だけは私と遊びましょうよ。照れなくていいから」
「いや、照れるとかそんなのじゃなくて」
 いきなりユリカに抱きつかれて戸惑った。
「俺はそもそもラーメンを作りたくて」
「それはわかってるから」
 わかっていなかった。
「遊びましょうよ。さ、泳ぎましょ」
「だ、だから」
「ねえルリちゃん」
 赤のかなりきわどい水着に身を包んだハルカが白いビキニのルリに声をかけてきた。
「はい」
「あのおじさんはこれからどう動くと思う?」
「おじさんといいますと」
「マスターアジアよ。あの人は一体何者なのかしら」
「一言で言うと凄い人ですね」
「それどころじゃないわよ」
 黄緑のワンピースのアスカがそれを聞いて口を尖らせた。
「一体何処にあんな人がいるのよ。アストロ超人並じゃない」
「アスカ、何でそんな古い漫画知ってるんだ?」
 ケーンがそれに突っ込みを入れる。
「意外と中身は年食ってたりして」
「じゃあこれからはアスカ夫人と御呼びしようか」
「あんた達は黙ってなさい!」
 アスカはそれを聞いて三人を一喝した。
「話がややこしくなるでしょーーが」
「そうかあ?」
「気のせいだよなあ」
「偏見はよくないな」
「・・・・・・口が減らないわね、本当に」
「まあいいわ。君達も話に入りたいのね」
「そういうこと」
「よろしければ」
「レディーの中に加えて頂きたい」
「意外と女性の扱い方は心得ているじゃない」
 ハルカはそれを聞いてクスリと笑った。
「君達いい男になるわよ」
「いやあ、照れるなあ」
「ハルカさんにそう言ってもらえると」
「嬉しいというか何というか」
「とにかくね」
 アスカが三人を横目で睨みながら言う。
「あの変態がこれから敵になるのはかなりまずいのよ。それはわかってる?」
「今度は変態か」
「アスカ、何であの人にそんなに嫌悪感を示すんや?」
 シンジとトウジも思わず首を傾げてしまった。
「示して当然でしょ」
 彼女はそれに対してそう答えた。
「相手は人間じゃないんだから」
「おい、それはまずいぞ」
 ケーンがそれを聞いて珍しく顔を強張らせた。
「それを言うとダバさんやタケルはどうなるんだよ」
「ああ、俺達は別にいいけれど」
 ダバはそれを特に気にはしていなかった。
「ヤーマン人だってことはわかってるから」
「ダバさん達は人間よ」
 しかしアスカはこう言った。
「そう思ってくれるかい?」
「ええ。少し背が高いけれど。どっちにしろルーツは同じじゃないかしら」
「そうかもな」
 ダバはそれを肯定した。
「バルマー人もね。詳しくはわからないけれど俺達は多分同じなのだと思う」
「それはバイストンウェルの人間もか?」
 ニーも話に入ってきた。
「そうだと思うな」
 ダバはそれも肯定した。
「外見も中身も同じだ。それに考え方もな」
「そうなのか」
「ただ単にオーラ力の差だけだと思う。これはラ=ギアスの人間でもそうだな」
「ショウ」
「そうした多少の差はあるけれど俺達は結局同じなんだと思う。住んでいるところは関係ないんじゃないかな」
「そういうものか」
「あたしはそう思っているけど」
 アスカがまた言った。
「ただあの化け物だけは別なのよ」
「今度は化け物かよ」
「よくもまあそれだけ」
「バルマーともゼントラーディともやりあったしバイストンウェルのことも知ってるわ。だからわかったのよ」
「使徒もそうだったしね」
「結局ね、あたし達は人間なのよ。けれどあの怪物爺さんは別だし」
「使徒なのかも」
 黒いワンピースのマヤがポツリと呟いた。
「こら、そこ」
 真っ赤なハイレグのミサトがマヤを注意する。
「怖いこと言わない」
「否定はできないわね」
 白いワンピースの上から白衣を着たリツ子がここで言う。
「リツ子まで」
「けれどあれは普通じゃないわよ」
「むむむ、確かに」
 それはミサトも否定はできなかった。
「あんな人はじめて見たのは事実ね」
「そういうことね。一体何者なのかしら」
「少なくともあの人は地球の人です」
 そんな彼女達にルリがそう答えた。
「そうなの」
「はい。骨格等にこれといった差はありませんでした。おそらく身体の能力を一〇〇パーセント引き出しているだけかと思います」
「北斗神拳と同じということか」
 それを聞いたフォッカーが異様に低い声でそう呟いた。
「ならば」
「あ、あのフォッカー少佐」
 ミサトがそれを見て慌てて彼を止める。
「それを言うと話がおかしくなりますから」
「ん、そうか」
「ですから止めて下さい。お願いですからね」
「わかった。では大人しくしておこう」
「はい」 
 こうしてフォッカーは止めた。そして話が再開された。
「それでああした戦いができるのだと思います。それでも凄いことですが」
「そうだったのか」
「それでも異常よね」
「御前はホンマにあの人が嫌なんやな」
 アスカの言葉を聞いたトウジが呆れた声を出した。
「それはいいでしょ。とにかくあれが敵なのよ」
「はい」
 ルリがそれに頷いた。
「あの人の力はデビルガンダムに匹敵する程です。一個軍よりも上でしょう」
「一人で」
「けれどあの人なら」
「今後あの人が前に現われたなら注意が必要です。かなりの苦戦になるでしょう」
「俺達が総掛かりでもか!?」
「はい」
 ケーンの問いに素っ気なく答える。
「おそらくは。だからこそ注意が必要なのです」
「うっ」
「それにデビルガンダムもか。本当に厄介だな」
「ああ」
 ダバがショウの言葉に頷いた。
「これからのことを考えるとな。大変だな」
「けれどそれを何とかしてきたのがロンド=ベルだろう?」
 ケーンがここで言った。
「だったらやろうぜ。敵が来たらそこでやっちまえばいいし」
「あんたはホンットにお気楽ね。よくそんな簡単に言えるわね」
「それが俺の性分なんでね」
 アスカにそう返す。
「その時に思いっきりやらせてもらうぜ。それでいいんじゃねえのか?」
「それはそうだけれど」
 ミサトはそれを聞いて少し複雑な顔をした。
「何かね。ちょっちお気楽過ぎないかしら」
「ミサトもそうじゃないの?」
「確かにそうだけれど」
 リツ子の言葉も少し認めた。だがそのうえで言った。
「それでもね。ケーン君達はお気楽過ぎるわ」
「だがそれで何とかなってきたのも事実だしな」
 フォッカーがまた言った。
「そんなに深刻になってもはじまらない。ある程度リラックスしていこうぜ」
「そうですね」
 ルリがそれに頷いた。
「ではそうしましょう。そして今はここで遊べばいいと思います」
「さっすがルリちゃんは話がわかるね」
「そういうわけではないですが。フォッカー少佐」
「何だ?」
「お酒を飲んだままプールに入るのは止めた方がいいですよ」
「うっ」
 見れば顔が赤い。かなり飲んでいるようであった。
「わかりましたね」
「ああ。ったくルリちゃんにはかなわねえな」
「というかお酒飲んでいる方が問題だと思うけれど」
「シンジ、今度御前さんにもおごってやるぜ」
「あの、僕未成年ですから」
 シンジはそれを聞いて慌てて拒む。だがフォッカーはそれでも言った。
「何、男ってのは飲むのも仕事だ。遠慮するな」
「けど」
「一杯やってみろ。病み付きになるぞ」
「い、いいですよ」
「そう言うな」
「いえ、本当に」
「ウイスキーだ。これ一本飲めば御前も俺みたいになれるぞ」
「ですから」
「ほれ、グッといけ」
 何処からかウイスキーのボトルを取り出していた。それを執拗にシンジに勧めようとする。シンジはそれを断ろうとする。そしてここでミサトが間に入る。一同はそんなやりとりをしながらプールで休暇を楽しんでいた。
 そうして数日が過ぎた。休暇が終わりブライトもアムロも艦橋に入っていた。
「長いようで短かったな」
「休暇なんてそんなもんさ」
 アムロがブライトの呟きにそう返す。
「俺も機械いじりに専念できたしな、久し振りに」
「またそれか」
 ブライトはそれを聞いて苦笑した。
「相変わらずだ、そっちは」
「どうも外に出て遊ぶのは苦手でね。それは御前もじゃないのか」
「確かにな。船の中にいる方が落ち着く」
 ブライトはそれを認めた。
「どうやら私はそうした意味で生粋の軍人らしいな」
「だろうな。御前がいるおかげでロンド=ベルも締まっているしな」
「おい、褒めても何も出ないぞ」
「ははは」
 そんなやりとりをしていた。だがそんな和やかな雰囲気はほんの一時のことであった。
「バッカモーーーーーーーン!」
 いきなり怒声と共にモニターに厳しい顔の男が出て来た。三輪であった。
「三輪長官」
「どうしてここに」
「どうしてもこうしてもあるか!一体何をしておるか!」
「何って・・・・・・。今まで休暇をとっていたのですが」
 アムロが彼に答える。
「ミスマル司令の許可は得ていますよ」
「環太平洋区の司令官はわしだ!わしの許可なしに勝手に休暇をとるとはどういうことだ!」
「といいましても今我々は欧州にいますし」
 ブライトが答える。
「それならば欧州区の司令官の指示に従うのが基本ではないのでしょうか」
「貴様等の指揮権はわしの手にある!貴様等の多くは環太平洋区出身だな!」
「それはそうですけれど」
 これも事実であった。とりわけ日本人が多いのが特色である。
「ならば当然わしの管轄下にあるのだ!それを忘れるな!」
「何て滅茶苦茶な解釈だ」
 アムロもブライトも内心そう思ったがそれは口には出さなかった。その程度のことはわきまえなければならない立場にいたからである。
「ではすぐに来い。場所はシカゴだ」
「シカゴ」
「シカゴに恐竜帝国が総攻撃を仕掛けてきた。それにあたれ」
「わかりました」
「ただし、貴様等を完全に信用したわけでなない」
「どういうことですか!?」
「二十四時間後我々はシカゴに化学兵器を使用する。ことは徹底的にやらなければならん」
「馬鹿な、化学兵器なぞ!」
 さしものブライトも冷静さを失っていた。
「南極条約はどうなるのですか!」
「そんなことを言っている場合か!」
 三輪はまた叫んだ。
「敵は人ではない!見よ!」
 モニターにシカゴの映像を映す。そこには紫の巨大な化け物がいた。いや、化け物ではなかった。それは生き物ではなかったからだ。
「何ですか、それは」
「マシーンランドという」
 三輪はそう述べた。
「恐竜帝国の最終兵器らしい。これでシカゴの大気成分を奴等に合ったものとしているのだ。それが完了するまで二十四時間なのだ」
「だから二十四時間だったのですか」
「そうだ。ようやくわかったか」
「ですがそれでも化学兵器なぞ」
「まだ言うか、この愚か者!」
 三輪はまた叫んだ。
「これは種の生存をかけた戦いだ!甘いことを言っている場合か!」
「しかし!」
 ブライトはそれでも食い下がった。
「シカゴの市民はどうなるのですか!」
「戦いには犠牲も必要だ!」
 三輪も負けてはいなかった。
「そんなことを言っていて戦争になると思っているのか!」
「ですが!」
「ですがもこうしたもない!」
 彼はまたもや叫んだ。
「つべこべ言っている暇があればすぐにシカゴに向かえ!よいな!」
 そう言って一方的にモニターを切った。それで終わりであった。
「相変わらずだな」
「ああ」
 ブライトはアムロの言葉に頷いた。
「だがどうする。といっても行くしかないか」
「すぐにメンバーを集めてくれ。いいか」
「わかった」
 こうしてロンド=ベルのメンバーが集結した。そしてすぐにニースを経つこととなった。
「しかしとんでもない話だな」
 弁慶が離陸する大空魔竜からニースを見下ろしながら言った。
「二十四時間後で化学兵器を投入するか。何処までとんでもねえおっさんなんだよ」
「だがそれも戦争だ」
 隼人がここでこう言った。
「あいつを肯定するのか?」
「そうじゃない」
 竜馬に答えた。
「俺もあのおっさんは好きにはなれない。とんでもない奴だとは思っている」
「じゃあ何故」
「それが戦いってやつだからだ。俺達だって自分達を楯にして戦っているな」
「ああ」
「それも結局同じなんだ。俺達とあのおっさんは根本的に違うが戦いにが犠牲がつきものなんだ」
「だがシカゴの市民を見殺しにはできないぜ」
「わかってるさ」
 弁慶にも答えた。
「何としてもやらなくちゃな。それこそ俺達の命をかけても」
「そうだな、行くか」
「ああ」
 彼等はそんな話をしながら大西洋に出た。それを遠くから見ている男がいた。
「全ては予定通りですね」
「そうなのですか、御主人様」
 チカがグランゾンのコクピットで主に対してそう声をかけてきた。
「ええ、全てはね。ところで彼は元気ですか」
「彼!?ああ、あのむさい奴ですね。元気ですよ」
「彼に伝えて下さい。出番が来たと。是非共ロンド=ベルに向かって欲しいとね」
「わかりました。けれどいいんですか?」
「何がですか」
 シュウはチカに問うた。
「いえ、彼ですよ。大丈夫かな、と思いまして」
「前の戦いの傷なら問題ないですが」
「そうじゃなくてですね」
 チカはまた言った。
「何かあぶなっかしいんですよ。とんでもないことをしそうで」
「その時こそ私の出番ですよ」
 シュウはここで思わせぶりに笑った。
「出番!?」
「はい。彼を死なせるわけにはいきませんからね。彼はこれからも必要な方。こんなところで命を落されては困るのです」
「そうなのですか」
「それでは私達も行きますよ」
「ええ」
「ネオ=グランゾンに変えてね。いいですね」
「わかりました」
 こうして彼等もシカゴに向かった。だがロンド=ベルの面々はそれには気付いていなかった。

 ロンド=ベルはそのままアメリカに向かっていた。大文字がピートに尋ねた。
「ピート君、シカゴまでどの位かね」
「あと一時間程です」
 彼はそう答えた。
「一時間か。辛いな」
「辛くはないですよ」
「どうしてだい?」
「戦いは一瞬で済ませますから」
 彼の声には独特の重みがあった。
「一瞬でね」
「そうか」
 そこに決意があった。見れば彼の目は何時になく厳しいものであった。彼もまた故郷での戦いに燃えていたのであった。

「まさかアメリカで戦うことになるなんてな」
 トッドも同じであった。彼はグランガランの一室でそうぼやいていた。既に戦闘服を着ている。
「やっぱり色々と複雑か」
「ああ」
 ショウが彼に問う。そしてトッドはそれを肯定した。
「ボストンじゃねえのが救いだけれどな」
 彼はボストン出身である。だからこう言ったのだ。
「けれどな。やっぱり故郷で戦うのは嫌だな。それは御前さんにもわかるだろう」
「否定はしない」
 ショウは静かにそう言った。
「日本での戦いも多かったしな。未練はないがやっぱり辛いものはあるな」
「そういうことだな。それはあんた達もだろ」
「ああ」
 そこに居合わせたヤンロンやリューネ達にも声をかける。彼等もそれに頷いた。
「僕も中国での戦いがあったしな」
「あたしもね。一応アメリカ人だし」
「そうだったのか」
「あれ、知らなかったの?」
 ショウの言葉を聞いて意外そうに顔を向ける。
「あたしポーランド出身だけれどアメリカに移住したんだ。だからアメリカ人なんだよ」
「そうか」
「まあ今までもアメリカで戦ったことはあるからね。慣れてるかな」
「そういうものか」
 トッドはそれを聞いて自分は違うといった表情を作った。
「どうも俺はな。抵抗があるんだ」
「だからといって戦わなければならないことに変わりはない」
「それはわかってるさ」
 ヤンロンに答える。
「戦わなきゃもっと悪いことになる。シカゴが奴等に乗っ取られるか」
「化学兵器の投入だな。しかし無茶苦茶だな」
「それがあの人のやり方なのでしょう」
 マーベルがそれに応える。
「どうやらあの人は普通じゃないわ。だからまともにやりあっちゃ駄目かも」
「きついね、どうも」
「けれどそう思うしかないのじゃないかしら」
「否定はしないな」
 トッドはマーベルに対してそう言った。
「一体何処に条約違反を平然と破る司令官がいるんだ。あのおっさんは正気なのか」
「軍の上層部でももてあましているらしいな」
 ヤンロンがそう言った。
「そうだろうな」
「あまりもの過激さでな。彼には敵も多い」
「というより敵しかいないのかもね」
「孤立しているってことか」
 ショウがそこまで聞いて呟いた。
「だとしたらいずれは自滅して失脚するだろうな」
「そうだな。あんな人間が何時までもいられるとは思えない。だが」
「だが?」
「それはすぐじゃない。少なくとも今は戦わなくてはならないな」
「そうだな」
 ヤンロンの言葉に頷いた。
「そういうことだな。じゃあそろそろ行くか」
「ああ」
「ところでよ」
 トッドはここでヤンロンとリューネに尋ねてきた。
「何?」
「マサキはどうしたんだ?いつも一緒じゃねえのか?」
「いつも一緒というわけではないが」
「どうせまた道に迷ってるんじゃない?あいつのことだから」
「おいおい、大丈夫かよ」
 トッドはそれを聞いて呆れた声を出した。
「あいつグランガランに来てもう大分経つぜ。それで道が覚えられないのかよ。確か前の戦いでも乗っていたよな」
「だからといって覚えられるものではない」
「少なくともあいつはね。あいつの方向音痴って凄いんだから」
「それはわかってるつもりだけどな」
「まあマサキのことはいいさ」
 ショウがここで述べた。
「戦いの時にいればいい。あいつはいつも間に合うからな」
「本当に偶然でね。運がいいっていうか」
「そろそろ俺達も出撃準備にかかろう。いいな」
「おう」
 トッドとリューネがそれに頷く。
「では行くとするか」
「毎度のことだけれどね」
 ヤンロンとマーベルも。彼等も戦う顔になっていた。そして格納庫に向かった。彼等もまた戦いに向かう用意をしていた。
 ロンド=ベルが戦いに備えようとしていたその時彼等の前に一つの影が現われていた。
「レーダーに反応です」
 ミドリがそう報告する。
「何だ」
「何かゲッターに似ていますけれど」
「馬鹿な、ゲッターはまだ出撃していない筈だ」
 大文字はそれを聞いて声をあげた。
「では一体誰なんだ」
「ちょっと待って下さい」
 ミドリはまた言った。
「これは・・・・・・また別のものです。ですがゲッター線は感じます」
「一体何なんだというのだ」
「ミドリ君」
「はい」
 サコンが尋ねてきた。
「ゲッター線は感じているのだな」
「はい、確かに」
「そうか。ならば敵ではない。恐竜帝国はゲッター線には勝てないからな」
「そうでしたね」
 彼等が地上を追われたのはその為であった。ミドリもそれを思い出したのだ。
「では誰が」
「おい、そこにいるでっかい恐竜」
 ここで大空魔竜に通信が入ってきた。
「?俺達のことか?」
「そうだよ、他に誰がいるってんだ?」
 通信の声はピートにそう返してきた。
「最初に言っとくがおいらは敵じゃない。それははっきりしておくぜ」
「それはわかったが」
 それでも話は終わってはいない。
「あんたは一体誰なんだ?それも教えてくれ」
「武蔵っていうんだ」
「ムサシ!?」
 ピートはそれを聞いて眉を少し動かせた。
「まさかとは思うが」
「そう、おいらさ」
 モニターに姿を現わしてきた。四角く、太い眉の男が出て来た。
「巴武蔵っていうんだ。知っていてくれているみたいだな」
「知らない筈はないだろう」
 ピートはそう答えた。
「ゲッター3のパイロットだったな。先の戦いで負傷して戦いから離れていたと聞いていたが」
「その傷も完治したんでね。だからこうして来たのさ」
「そうだったのか」
「それで武蔵君」
 今度はサコンが尋ねてきた。
「君が今乗っているのはゲッターか」
「ああ、そうさ」
 彼は答えた。
「ブラックゲッターってんだ。宜しくな」
「ブラックゲッター」
「そうさ、ゲッターを改造して作られたのさ。力は以前のゲッターとは比べ物にならないぜ」
「そうなのか。そういえば早乙女博士が旧ゲッターを改造していると聞いていたが」
「それがこれさ。それでだ」
「何だ?」
「おいらも一緒に戦わせてくれないか?その為にここに来たんだしな」
「我々としては拒む理由はないな」
 大文字はそれにこう答えた。
「むしろ願ったりだ。今は戦力が少しでも欲しい」
「じゃあ決まりだな。今からそっちへ行っていいかい」
「よし、じゃあ着艦だ」
「よし」
 こうして武蔵は大空魔竜に入った。すぐに竜馬達の歓待を受けた。
「武蔵、久し振りだな」
「御前が来てくれると百人力だぜ」
 まずは竜馬と隼人が彼に声をかけてきた。あの冷静な隼人まで笑っていた。
「御前等も元気そうだな」
「勿論ですよ」
 弁慶も話に入ってきた。
「先輩も元気みたいですね。あの時はどうなるかと思いましたよ」
「運がよかったよな、あの時は」
「ああ」
 竜馬がそれに頷いた。
「本当にな。それでそのブラックゲッターで俺達と一緒に戦ってくれるんだな」
「無論そのつもりさ。まあ大船に乗ったつもりでいてくれよ」
「御前はそう言うといつも失敗するからな」
 隼人は笑みを浮かべたままそう言った。
「だが期待しているぞ。一緒に恐竜帝国の奴等を叩き潰そう」
「ああ、やってやろうぜ」
 戦いを前にして頼りになる助っ人が参加した。ロンド=ベルは彼を迎えて意気揚々とシカゴに向かうことになった。
 シカゴはアメリカ最大の工業地帯である五大湖工業地帯の中でもとりわけ重要な都市である。アメリカの大動脈であるミシッシピー川の河口にあり流通の便がよい。この街が繁栄するのは当然であった。この街の歴史はアメリカの産業の繁栄の歴史でもあるのだ。
 だがそれと同時に陰もあった。この街は二十世紀前半の禁酒法の時代にはアメリカ最悪の街であった。暗黒街の帝王アル=カポネが君臨し暴利を貪っていたのだ。光あるところに影がある。この街はそうした意味でもアメリカの歴史の鏡の一つであったのだ。
 今そこに二つの種族の存亡をかけた戦いがはじまろうとしていた。人間と恐竜人。彼等は今この街において対峙しようとしていた。
「やっと来たって感じだな」
「ああ」
 ブライトはアムロの言葉に頷いた。
「それにしてもかなりやられているな。俺もシカゴには来たことがあるが」
 彼は目の前の破壊され尽くした街を見ながら言った。
「まるで廃墟だ。しかも御丁寧にあんなのまで置いてくれている」
 ニューガンダムの目の前にその不気味な要塞があった。それがマシーンランドであった。
「これをどうするか、だな。だがそれより前に」
「フッフッフ、待っていたぞ哺乳類共」
「ラドラ!」
 蛇に手足と翼を生やしたようなマシンに乗る男がロンド=ベルに対して言う。彼がキャプテン=ラドラであった。
「よくぞここまで来た。今こそ決戦の時だ」
「それは違うな」
 だが隼人はそれを否定した。
「何!?」
「ここで御前達は滅びるんだ。俺達の手によってな」
「戯れ言を」
「いや、これは戯れ言じゃない」
 今度は竜馬が言った。
「貴様等は知らないだろうが俺達は未来で御前達と戦った」
「馬鹿な」
「その時知ったんだ。御前達に未来はないとな」
「俺を惑わすつもりか」
「どうやら知らないらしいな」
 隼人は彼等を見据えてこう言った。
「だがいい。どのみち俺達は御前達を倒さなくちゃならない。この世界でもな」
「容赦はしないぞ、キャプテン=ラドラ」
「フン、それはこちらの台詞だ」
 ラドラはそう言って不敵に笑った。
「行くぞ、猿共」
 今度は猿と呼んだ。彼等にとて人間とは決して相容れない存在であるのだ。それは人間にとっても同じことであった。だからこそ存亡をかけた戦いとなるのであった。
 恐竜帝国のマシンが次々に現われる。そしてロンド=ベルに向かってきた。こうして決戦がはじまった。
「行くぞ皆!」
 まず竜馬が叫んだ。ゲッタードラゴンが飛ぶ。
「シカゴを、そして人類を守るんだ!」
「おう!」
 他のメンバーもそれに続く。まずはブラックゲッターが前に出て来た。
「これがおいらの新しい力だ!」
 彼はそう言うと跳んだ。そしてメカザウルスサキに襲い掛かる。
「喰らえっ!」
 両手の爪で切り裂く。それで敵を両断した。
 敵が爆発すると飛び去った。そして次に敵に襲い掛かる。ゲッターのそれよりも遥かに獣じみた動きであった。
「すげえゲッターだな」
 サンシローがそれを見て呟く。
「動きも速い。まるで影だ」
「そうだな」 
 リーがそれに同意した。
「影のゲッターか。言い得て妙だ」
「そうですね」
 ブンタが頷く。
「頼りになります。貴重な助っ人ですね」
「おい、そんな悠長なこと言ってる場合じゃないぜ」
 ここでヤマガタケが他の三人にそう言った。
「ヤマガタケ」
「敵は山程いるんだぜ。俺達も戦わなくちゃ駄目だろうが」
「そうだな。たまにはいいことを言うな」
「サンシロー、そりゃどういう意味だ」
「まあ落ち着けヤマガタケ」
 そんな彼をリーが宥める。
「今は御前にとっても見せ場だぞ。頼むぞ」
「頼りにしてますよ、ヤマガタケさん」
「お、おう」
 二人に乗せられて彼も戦いに入った。早速ビームを放つ。
「死ねっ!」
 それでゼンを一機破壊した。だがそれでもメカザウルスはいる。彼等もまた敵の中に踊り込んでいった。
 戦いがはじまって一分が経とうとしていた。後方で戦局を見守るガレリィに対してバットが声をかけてきた。
「そろそろだな」
「はい」
 ガレリィはそれに頷いた。そしてグダの艦橋にあるボタンの一つを押した。するとマシーンランドの突出した管に炎が宿った。
「まさか!」
 竜馬がそれを見て叫んだ。
「皆、避けるんだ!」
「何っ、避ける!?」
 それを聞いた勇がそれに反応して後ろに下がった。するとそこに炎が打ちつけられた。
「な・・・・・・」
「やはりな、マグマ砲だ。やっぱり来たか」
「馬鹿な、何故それを知っている!」
 それを聞いたバットとガレリィが驚きの声をあげた。
「このマグマ砲は今はじめて使ったのだぞ!それをどうして知っている!」
「さっきも言った筈だ!」
 竜馬はそれに対して答えた。
「俺達は既に一度御前達と戦っていると!だからこそ知っているのだ!」
「どういうことだ」
「だから言ってるだろう!俺達は今よりずっと未来で御前等と戦ってるってな!」
 今度は豹馬が叫んだ。
「俺達に一度見た技は通用しないぜ!それを覚えておきな!」
「そうだ、だからこそまた言おう」
 竜馬はまた言った。
「御前達に未来はないと!」
「ぬうう、まだ言うか!」
 バットが激昂した。
「ならばそれを覆してやる!死ね!」
「そちらこそ!」
 彼等の戦いは更に熾烈さを増してきた。マグマ砲が降り注ぎ光と炎が飛び交う。だがその中でもロンド=ベルは着々と前に進んでいた。
「ジークブリーカーーーーーッ!」
「ぬうおおおおおおおっ!」
 ザンキの乗るゼン二号が破壊された。彼は何とか脱出には成功したがゼンは爆発してしまっていた。
「おのれ!覚えていろよ!」
「御前のことなんか覚えておられるか!」
 宙の言葉が返る。そしてラドラの乗るシグはゲッタードラゴンと対峙していた。
「キャプテン=ラドラだったな」
「如何にも」
 ラドラはそれに頷いた。
「俺がキャプテン=ラドラだ。それがどうかしたか」
「話は聞いているぜ」
 隼人がそう述べる。
「恐竜帝国のエースだってな。相当な強さだそうだな」
「そんなことはどうでもいい」
 だが彼はそれを問題とはしなかった。
「俺の誇りは今はただ御前達を倒すことのみなのだからな」
「そうか。ならば話は早い」
「やってやるぜ」
 竜馬と弁慶が言った。そしてドラゴンは両手の斧を構えた。
「行くぞっ!」
 竜馬が叫ぶ。そしてその斧を投げつけてきた。
「ダブルトマホォォォォォォォォォォクブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥメランッ!」
 斧が唸り声をあげて飛ぶ。普通のメカザウルスならよけきれるものではない。そして一撃で倒される。今回もそうであるかと思われた。だが彼は違っていた。
「何のっ!」
「ムッ!」
 三人はそれを見て思わず声をあげた。
「この程度で俺は倒せはせぬぞ!」
「そうか、ならやりがいがある!」
「リョウ、ここは俺達の力を合わせるぞ!」
「そうだ、三人いればどんな奴だって倒せる!俺達は今までそうやってきたからな!」
「わかってる!隼人、弁慶、行くぞ!」
「おう!」
「行くぜ!」
 彼等はラドラと正面きった戦いに入った。そして熾烈な一騎打ちを繰り広げるのであった。
 戦いは続いていた。だが運動性と機動力において圧倒的なロンド=ベルの有利となっていき恐竜帝国は次第に劣勢となってきていた。そして七分が経った。
「フフフ・・・・・・ハハハハハハハハハハハ・・・・・・!」
 何処からか笑い声が聞こえてきた。
「!あの声は!」
「猿共よ!」
 空に青い顔の男の巨大な顔が浮かび上がってきた。それは恐竜人の顔であった。
「我が名はゴール!帝王ゴールだ!」
「御前が恐竜帝国の支配者か!」
「その通り」 
 ジュドーの言葉に答える。
「猿共よ、この時を待ちわびていたぞ!」
「何っ!」
「わしはこうして復活するまで培養液の中にいた。そしてその間常に己の死の断末魔を味わっていたのだ」
 彼は言った。
「貴様等にはわかるまい。その苦しみが。絶え間ない苦しみを味わってきた苦しみが」
「それは貴様自身が招いたことじゃねえか!」
 宙が言った。
「何っ!」
「それでも野望を捨てないとは大したものだな」
「ほざけ、猿が!」
 ゴールはそれを受けて叫んだ。
「今のわしはその苦しみにより作られた。怒りと憎しみによってな」
「それがどうしたってんだ!」
「聞くがいい、猿よ!」
 ゴールは宙の度重なる言葉にも防がれなかった。
「わしが今思うのは我が帝国のことのみ!そして今ここに宣言する!」
「リョウ」
「ああ」
 竜馬は隼人と弁慶の言葉に頷いた。彼等は今のゴールの言葉からそれまでの彼にはなかった鬼気迫るものを感じていたのだ。
「間も無くこの地球は我等恐竜帝国のものとなる!貴様等は滅びるのだ!」
「そんなこと誰が決めたのよ!」
 ユリカが激昂して叫ぶ。
「そうだ、手前は今まで土の下にいたんだろうが!大人しくそこに引っ込んでろ!」
「黙れ猿よ」
 ゴールはリョーコの言葉をも打ち消した。
「我等が悲願、貴様等ごときに潰されてなるものか!」
「今それをやってやるよ!」
「覚悟・・・・・・!」
 デュオとウーヒェイがまず突進しようとする。だが途中でそれをカトルとトロワが止めた。
「待って、二人共」
「ん!?どうしたんだよ」
「そこをどけ。止まっている暇はない」
「そうじゃない。何か感じないか」
「!?」
 二人はトロワのその言葉を聞いて動きを止めた。
「一体何だ。おめえ等がそんなに言うなんて」
「何か感じるのか」
「うん」
 カトルは二人に対して頷いた。
「絶対に何かあるよ」
「ヘッ、罠だったらなあ」
 忍がそれを一笑に伏して前に出る。
「断空砲であのデカブツごとぶっ潰してやらあ!」
「待って」
 だがそれをクェスが止めた。
「何だよ、おめえまで」
「このプレッシャー・・・・・・何」
「プレッシャー!?何か感じているのかよ」
「ええ」
 クェスは忍に対して答えた。
「これは・・・・・・人の」
「そうだ、これは人間の気だ」
 アムロも言った。
「中佐」
「フフフ、どうやら察しのいい者もいるようだな」
「どういうことだよ」
「見るがいい、猿よ」
 ゴールは忍に対しそう言った。そしてマシーンランドの前に突如として人間達が姿を現わした。
「な・・・・・・!」
 皆それを見て絶句した。
「人間・・・・・・」
「軍人だけじゃない、民間人まで」
「フフフ、どうだ。これでもまだマシーンランドを攻撃できるか」
「人間を楯にするつもりか」
「その通りだ」
 ゴールは今度は勇に答えた。
「手前、汚たねえ真似してくれんじゃねえか!」
「まさに冷血動物ってやつだな」
 甲児とキリーがそれぞれ言う。
「上手い手ではあるがね」
 万丈も言う。
「ああしていれば僕達も手は出せない。綺麗汚いは別にしてね」
「あんたそれでも帝王!?」
 アスカもゴールを睨み据えていた。
「帝王なら正々堂々と勝負しなさいよ!」
「あっ、アスカおいらの台詞を!」
「じゃああんたも言いなさいよ!」
「お、おう」
 武蔵もアスカに言われて言う。
「正々堂々と正面から来やがれ!戦いを何だと思っていやがる!」
「戯れ言をほざくな、猿共が!」
 だがゴールは逆に彼等を一喝した。
「笑止!種の存続をかけた戦いに卑怯も何もあるか!そんなものは通用せん!」
「ク・・・・・・!」
 そのあまりもの気迫に皆沈黙してしまった。やり方はともかくとしてゴールは帝王であり種の長であった。今その気迫がそこにいる全ての者を沈黙させてしまった。
「貴様等と人質、どちらから始末してくれるか」
「待て、ゴール!」
 ここで竜馬達とゲッターが前に出て来た。
「ムッ」
「俺が人質になる!だから他の人質達を解放しろ!」
「俺もだ!」
「勿論俺も!」
 隼人と弁慶も叫んだ。
「御前達」
「ゲッターはチームだ。俺達はいつも一緒だ」
「そういうことさ」
「済まない」
「ふむ」
 ゴールはそんな彼等を見て酷薄に笑った。
「我等恐竜帝国の仇敵である貴様等がか。面白い」
「そうだ、これで不服はないだろう」
「確かにな」
 ゴールはニヤリと笑って頷いた。
「待て!」
 だがここで武蔵も出て来た。
「御前等が行くなら俺だって!」
「駄目だ、武蔵!」
 しかしそれを竜馬が止めた。
「御前は残れ!」
「けれどよ!」
「御前までいなくなったら誰が地球を、そしてミチルさんを守るっていうんだ!」
「ウッ・・・・・・!」
 これにさしもの武蔵も沈黙してしまった。
「そういうことだ。俺達のことは気にするな」
「先輩、博士とミチルさんを頼みます」
「隼人、弁慶・・・・・・」
 これが追い打ちであった。もう武蔵は何も言えなかった。
 ゲッターはマシーンランドのすぐ側まで来た。そしてゴールに対して問う。
「ゴール」
「うむ」
「約束だ。人質を解放してもらおうか」
「わかった。ガレリィ長官」
「ハッ」
「人質の半分を解放しろ。よいな」
「わかりました」
 ゴールは残忍な笑みを浮かべていた。そして竜馬達はそれを聞いて顔を壊れんばかりに驚愕させた。
「な・・・・・・半分だと」
「約束が違うじゃねえか!」
「黙れ!」
 だがそれもゴールに一喝された。
「貴様等との約束なぞ守る必要もない!これは種の存続をかけた戦いだと申したであろう!」
「クッ!」
「そしてわしは恐竜の長だ!臣民の約束は守っても貴様等猿との約束を守る義理はないわ!」
 それこそがゴールの信念であった。彼はあくまで恐竜帝国の長であったのだ。
「貴様等とこれ以上話すつもりもない!マグマ砲、一斉射撃!」
 ゴールの指示に従いマグマ砲が放たれる。それはロンド=ベルを打ち据えた。
「うわっ!」
「ど、どうしたらいいってんだよ!」
「落ち着け、甲児君!」
 慌てだした甲児を大介が制止する。
「まだ勝つ方法は残っている、今は耐えるんだ!」
「けれどどうやって」
「それは・・・・・・」
 大介は心の中にあることを思っていた。だがそれを言うことはできなかった。
 しかしアムロは違っていた。彼は戦場を見回した後でこう言った。
「全軍、一時撤退だ!」
「何っ!?」
 皆それを聞いて流石に驚きを隠せなかった。
「ここから逃げろだって!?」
「竜馬達を見捨てるっていうんですか!?」
 甲児とコウがそれぞれ疑問の声を呈する。
「違う!」
 アムロは何時になく強い声を出した。
「ここで俺達がやられたら誰が彼等を、そして他の人質達を助けるんだ!」
「!!」
 皆それを聞いて背筋に雷が走った。
「ここは撤退だ!反撃は許さん!いいな!」
「は、はい!」
「了解!」
 皆何時にないアムロの気迫に飲まれた。そしてそれに従った。
 一斉に戦場を離脱していく。離脱する中武蔵は後ろを振り返った。
「竜馬、隼人、弁慶」
 彼は仲間達の名を呟いた。
「待ってろよ!絶対に助け出してやるからな!」
「武蔵!後は頼んだ!」
「ああ!」
 竜馬の言葉に頷いた。そして彼も戦場を離脱した。こうしてロンド=ベルは皆戦場から離脱したのであった。
「フフフフフフフフフフフフフフ」
 ゴールはその光景を見て笑っていた。
「勝ったぞ!わしは勝ったのだ!猿共に勝ったのだ!」
「はい、まさしく」
 ガレリィが恭しく頭を垂れる。
「陛下の御力により」
「うむ」
 バットもだ。ゴールは満足そうに頷いた。そしてまた言った。
「我が誇り高き恐竜帝国の兵士諸君!」
 自身の兵士達に対して言う。
「我等が恐れるものは最早何もない!このまぶしい太陽が遂に我等のものとなったのだ!」
「帝王ゴール万歳!」
「恐竜帝国に栄光あれ!」
「そうだ、栄光だ!」
 ゴールは叫んだ。
「この太陽の光こそが我等の栄光ぞ!」
「おおーーーーーーーーっ!」
 恐竜帝国の者達が叫んでいた。彼等は勝利の美酒に酔おうとしていた。

 ロンド=ベルはシカゴ郊外にまで退却していた。そしてそこで策を練っていた。
「あと一時間だ」 
 その中でサコンがこう言った。
「シカゴの大気成分が人間にとって有害なものとなるまでな」
「あと一時間か」
「はい」
 シナプスの言葉に頷いた。
「それまでにマシーンランドを破壊しなければシカゴはお終いです」
「そんなこと誰が許すってんだよ」
「時間がな」
 サンシローにそう答える。
「これだけはどうしようもない」
「クソッ・・・・・・!」
「人質さえ救出できれば光明は見えるのだがな」
 シナプスは深刻な顔のまま頷いた。
「それはそうですが」
「マシーンランドへの攻撃と人質の救出を同時に行うしかありませんね」
 ここでアムロがそう提案した。
「両方か」
「はい」
 そして頷いた。
「それしかないでしょう」
「けれどそれは危険な賭けですね」
 セシリーが反論する。
「あのマシーンランドを前にして」
「それはわかっている。けれどそれしかない」
 アムロの声は強いものであった。
「違うだろうか」
「いえ」
 セシリーは首を横に振った。彼女にもそれはわかっていた。
「やるぞ、何としても」
「それなら俺が人質の救出をやらせてもらうぜ」
「宙」
「俺は生身の人間じゃないんでね。連中の大気にも平気なのさ」
 彼は不敵に笑ってそう言った。
「いいだろ、中佐」
「頼めるか」
「おう」
「僕も行かせてもらおうか」
 万丈が出て来た。
「万丈」
「潜入工作はお手のものなんでね。いいかな」
「万丈ならいいな。じゃあ頼む」
「よしきた。けれど二人だけじゃ心もとないかな」
「では俺達も行こう」
「ヒイロ」
 ヒイロ達五人も出て来た。
「俺達の本来の仕事はこれだ。適任だと思うが」
「そうだな。では頼む」
「わかった」
 こうして七人行くことに決まった。とりあえずは人選は終わった。
「後は」
 細かい作戦について話し合おうとした。だがここでラー=カイラムの通信のコール音が鳴った。
「!?何だ」
 ブライトはそれに顔を向けた。
「これは・・・・・・極東支部からです」
「あいつか」
「多分ね」
 宙はそれを聞いて嫌な顔をした。万丈もそれに続いた。そして予想通りそのあいつが顔を現わしてきた。
「三輪だ。すぐに日本に戻れ」
 彼は出て来るなりそう言った。
「何故ですか」
「マシーンランドはどうされるおつもりですか」
 大文字とシナプスが続け様に問う。彼はそれに対して答えた。
「前にも言ったな、化学兵器を投入すると」
「はい」
「これより一時間後シカゴに対して化学兵器を投入する。だから戻れというのだ」
「化学兵器を」
「そうだ。対爬虫人類用の毒ガスだ。これで奴等を一気に殲滅する」
 彼はそう述べた。
「な・・・・・・毒ガス」
「そうだ。何か不都合があるか」
 アムロの驚きの声にも動ずるところはなかった。
「化学兵器としては普通だが。それがどうかしたか」
「長官」
 たまりかねたブライトが申し出てきた。
「まだシカゴには一般市民が大勢います」
「わかっている」
「そこに毒ガスを使えば・・・・・・。どういうことになるかおわかりでしょうか」
「無論だ。それでもあえて使うのだ」
「馬鹿な!」
 一矢がそれを聞いて激昂した。
「あんた・・・・・・それで軍人か!」
「何っ!」
 三輪もそれを聞いて激昂した。
「一般市民を・・・・・・そしてリョウ達を犠牲にするなんてそれでも軍人の考えることか!」
「一般市民が勝手なことを言うな!」
 三輪は叫んだ。
「わしは軍人だからこそ人類の勝利を考えて毒ガスを投入するのだ!それの何処が悪い!」
「あんたのやろうとしていることはあのティターンズと同じだ!ジオンとどう違うというんだ!」
「黙れ、一般市民が!」
 彼はまた叫んだ。
「全ては人類の為だ、何を甘いことを言っておるか!」
「それで勝ったとしても誰が喜ぶ!」
「勝利は喜ぶ為のものではない!生き残る為のものだ!」
「それでは連中と一緒だ!」
「それがどうした!」
 一矢も三輪も引かない。だが他の者達は違っていた。
「俺は戦うことだけを教えられてきた」
 まず鉄也が口を開いた。
「だが今は違う。甲児君や大介さんに多くのことを教えてもらった」
「鉄也さん」
「だから言おう。そんな命令を聞くつもりはない」
「何だと!」
「鉄也さんの言う通りだぜ」
「そうだな」
 甲児と大介も続いた。
「顔を洗って出直してきな!」
「僕達は必ず人質もリョウ君達も救出して恐竜帝国を倒す、ここは大人しくしてもらいたいですね」
「ク・・・・・・貴様等」
「長官」
 顔を真っ赤にした三輪に対してシナプスが声をかけてきた。
「何だ!?」
「一時間後と仰いましたな」
「それがどうした」
「ではそれまでにマシーンランドを破壊し、人質を救出すればよいのですね」
「ぬっ」
「お話はわかりました。それでは」
「待て!貴様等わしの命令に逆らうつもりか!」
 さらに喚こうとする。だがここで通信が切れた。三輪はモニターから姿を消した。
「あれ?おかしいな」
 マサキが笑いながら言った。
「急に消えちまったよ。変なこともあるもんだ」
「全くだな」
 ヤンロンもそれに頷いた。
「だがこれであの長官の了承は得た。少なくともそうなる」
「マサキ、済まないな」
「何、機械が故障しちまったんですから。大佐が謝る必要はないですよ」
「そうか。だがこれでわかるな」
「ええ」
 皆シナプスの言葉に頷いた。
「後には引けなくなった。あと一時間だ」
「一時間」
「そうだ。私の考えに賛成できない者は自由に申し出ていい。責任は私が取る」
 だが誰も動こうとはしなかった。皆その場に残った。
「済まないな」
 シナプスはそれを見てそのいかめしい顔を僅かにほころばせた。
「諸君等の決意に感謝する」
「何、当然のことですから」
 万丈がそう述べた。
「万丈君」
「どのみち奴等との戦いは避けては通れないでしょうし」
「そういうことだな」
 鉄也も頷いた。
「この世界でもな。俺達は負けるわけにはいかないってことさ」
「だな」
 最後に甲児の言葉に頷いた。これで決まりであった。
「じゃあ行くか」
「ああ」
 ロンド=ベルは再び決戦に挑む。これが恐竜帝国との最後の戦いになるのであった。


第三十二話   完

  
                                    2005・7・15


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