十三人衆
 宇宙に出たマクロスと三隻の戦艦、そしてパイロット達はそのまま航路をコロニーとネオ=ジオンの部隊が展開しているエリアに向けた。打ち上げ時の激しい戦闘と比べると落ち着いた航路となっていた。
「まずは宇宙に出られためでたしといったところか」
「油断するのは早いわよ、勝平」
 生まれてはじめて宇宙に出られて上機嫌の勝平に対して恵子がそう忠告した。
「敵は宇宙にこそ一杯いるんだから」
「そうだったのか」
「そうだったのかって」
「何で御前はそういつもいい加減なんだ?」
 宇宙太も呆れた声を出した。
「これからネオ=ジオンやギガノスと戦わなくちゃいけないんだぞ。そんなことでどうするんだ」
「何とかなるだろ、そんなもん」
「何とかって・・・・・・」
「コロニーが落ちたらどうするんだ、全く」
「そんなものザンボットで止めてみせるさ」
 勝平は自信満々にそう答えた。
「御前達だっているんだからな。何としても止めてやるぜ」
「全く」
「まああんたらしいと言えばそうだけれど」
「そうだ、その心意気だぜ」
 忍がそこにやって来た。
「忍さん」
「敵なんてなあ、片っ端からぶっ潰してやりゃあいいのよ。それが戦いってやつだ」
「さっすが忍さん、話がわかる」
「おうよ、断空光牙剣でコロニーなんざ真っ二つにしてやるぜ」
「それが地球に落ちたらどうするんだ?」
 端で聞いていたアランが見ていられなくなったのか出て来た。
「そこまで考えているのか」
「真っ二つにすりゃあ爆発するから関係ねえぜ」
「まあそうだけれど」 
 恵子はそれでも何か釈然としなかった。
「けれど荒っぽ過ぎないかしら」
「戦争で何言ってるんだよ、恵子」
「けれどね。少しでも周りに迷惑がかからないようにしたいし」
「恵子ちゃんの言う通りだ」
 アランがそれに頷いた。
「藤原も勝平君ももう少し落ち着いて戦え。そうでないとまた痛い目を見るぞ」
「ヘッ、そんなこと言ってちゃ戦争になりはしないぜ」
「そうだそうだ、戦争だから派手にいかないとな」
「やれやれ」
「まあ聞くとは思わなかったけれど」
 二人はそれを聞いて呆れた声を返した。宇宙太はもう匙を投げていた。
「まあいい。ところで艦長達から何か連絡はあったか」
「今のところはねえぜ」
 忍がそれに答えた。
「まあどのみちすぐに戦いに入るぜ。ブラックイーグルの出撃準備はできてるんだろうな」
「当然だ」
「ならいいけれどよ。今度の敵はネオ=ジオンにギガノスだからな」
「ああ」
「手強いだろうな。腕が鳴るぜ」
「あんたはそれしかないの?」
「沙羅」
「戦うことと食べること以外に何か言ってるの見たことないよ、最近」
「うっせえ、それ以外に何を考えろってんだよ」
「またそれね」
「俺は戦うのが仕事なんだよ。それは御前も一緒だろうが」
「否定はしないわよ」
「じゃあそれでいいじゃねえか。獣戦機隊はな、戦わなくちゃ意味がねえからな」
「その通りだがな」
 亮も出て来た。
「もうちょっと他のことも考えた方がいいんじゃないかな、忍は」
「雅人」
「最近戦いがさらに派手になってるけど。息抜きも必要だな」
「息抜きか」
「とりあえずはテレビゲームでもしない?面白い格闘ゲームが手に入ったんだけれど。勝平達もどうかな」
「えっ、格闘ゲームか!?」
「ああ。戦いがない時はそうしたのもやるのもいいよ。どうだい?」
「いいね。入れてくれよ」
「よし、じゃあ行くか。忍はどうするの?」
「俺か?俺は」
 忍は声をかけられて考える顔をした。
「行かせてもらうか。けどそのかわり容赦はしねえぜ」
「わかってるよ。じゃあ行こう」
「おう」
 彼等は雅人の部屋に消えた。アラン一人が残った。
「世話の焼ける連中だ、全く」
 そう言って苦笑した。
「だがそれだけに見ていて飽きないけれどな」
「京四郎」
「俺のところの二人もな、困ったもんだ」
「あんたは弟と妹を抱えているからな」
「おいおい、俺は二人も兄弟を持った覚えはないぞ」
「ふふふ、どうだか」
 アランはそれを聞いてまた笑った。
「一矢君はあれで繊細だしな。色々と大変だろう」
「長い付き合いだからな」
 京四郎は一矢について言及した。
「世話が焼ける時もある。けれどな」
「けれどな」
「本当にいい奴だ。一本気でな」
「ああ」
「俺はあいつのそういうところが好きだ。おっと、あいつには言うなよ」
「わかってるさ」
「ナナもな。お転婆だが気の利く奴だ。だから心配で見ていられない時もある」
「そうなのか」
「俺ができることなんて少ししかないがな。その少しがあいつ等の助けになればいいと思っている」
「いい奴だな」
「おいおい、よしてくれ」
 それを聞いて苦笑した。
「お世辞は苦手だぜ」
「ははは」
 二人はそんなやりとりをしながら笑っていた。そして戦場に向かうのであった。
「ふう、食った食った」
「キャオ、またそんなに食べて大丈夫なのか」
 ダバは腹をさするキャオに対して声をかけていた。二人はナデシコの廊下を歩いていた。
「腹が減っては戦はできねえってね。ドラグナーの連中だって滅茶苦茶食ってたじゃねえか」
「それはそうだけれど」
「あの三人はまた異常よ」
 リリスがそう言った。
「私から見ても食べ過ぎじゃないかな、彼等は」
「育ち盛りだかららしいがな」
 ダバがそれに対して言う。
「あまり説得力はないけれど」
「まあ単に食い意地が張ってるだけだろうな、連中は」
「そうなのか」
「俺だってそうだからな、よくわかるぜ」
「結局キャオは食べることばっかりね」
「気にしない気にしない」
「食べ物で思い出したんだが」
「どうした?」
「ギャブレーが宇宙に戻ってきているらしいぞ」
「へっ、あいつが!?」
「ああ。何でもポセイダル軍は中央アジアから引き上げたらしい。そして宇宙に展開しているようだ」
「何でまた」
「詳しいことはわからないが。地球を出たのは確からしい」
「へえ、そうなのか。まあまたろくでもねえことを企んでいるんだろうな」
「ポセイダルのやることは全てろくでもないことなのね」
「あったりまえだろうが」 
 リリスにそう反論した。
「連中がとんでもなくて他に何がとんでもねえんだよ」
「そう言われると」
「連中のバックにはバルマーがいるんだぜ。それを考えるととんでもないだろうが」
「それはそうだけれど」
「そういうことだ、リリス。御前もうかうかしてるとまたとっ捕まるぜ」
「驚かさないでよ」
「別に驚かしてはいねえけどよ」
「ならいいけれど」
「まあ二人共落ち着いてくれ」
 ダバが二人を宥めた。108
「いずれにしろポセイダル軍が宇宙にいることは事実だ」
「ああ」
「そうね」
「今も遭う可能性があるのは頭に入れておいた方がいいな」
「そうだな。やっぱりダバは目のつけどころが違うぜ」
「反乱軍のリーダーだっただけはあるね」
「よしてくれ」
 しかしダバはそれには笑わなかった。
「俺は皆と変わらないさ。普通の青年さ」
「そうかね」
「謙遜はよくないよ」
「謙遜じゃないさ。人間ってのは能力差はそれ程ない」
 彼は言った。
「選ばれた人間なんていやしないさ。それを認めると」
「認めると」
「ポセイダルになる。それだけは認められない」
「そうか」
 いささか話が深刻なものとなってしまった。三人の顔は少し硬いものとなってしまった。しかしそこでそれを解す者が出て来た。
「よう、そこにいたか」
「ケーン」
「丁度いいや。ポーカーでもしねえか?」
「ポーカー!?」
「地球のカードの遊びだよ。ほら、トランプってのを使ってする」
「ああ、あれを使ってか」
「やらないか?今俺とタップ、ライトの三人でやってるんだけれどよ。メンバーは多い方がいいからな」
「面白そうだね」
「ダバ、行こうぜ」
 キャオの方が乗り気であった。
「俺達には勝利の女神もいるしよ」
「褒めたって何も出ないわよ」
「へへっ、こういうのは金を賭けるって相場が決まっていてな」
「そうそう」
「勝利の女神がいると違うのさ。じゃあ行こうぜ、リリス」
「それなら」
「ダバも」
「あ、ああ」
 キャオに押されるようにしてケーン達の部屋に入った。彼等もまたそれぞれの方法で束の間の休息を楽しんでいたのであった。
 だが艦橋はそうではなかった。マクロスの艦橋ではグローバルが早瀬やクローディア達を周りに置き周囲を警戒していた。
「今のところネオ=ジオンにこれといった動きはないか」
「はい」
 クローディアがそれに答えた。
「コロニーを護衛する本隊と護衛部隊の他は。ただ戦力が増強されているようです」
「増強か」
「ゼクス=マーキスの部隊も参加したようです。戦力は拡充されたとみてよいでしょう」
「ライトニング=カウントがか。厄介といえば厄介だな」
「はい。ですが予想されたことではあります。そのかわりセダンの門にいるティターンズに対しては南アタリアにおいて我々を襲撃した木星トカゲの部隊を送っているようです」
「あの者達をか」
「はい、北辰衆も一緒です」
「動きが速いな、ネオ=ジオンも」
「それだけ今回の作戦に力を入れているということでしょう」
 早瀬がそれに答えた。
「ですから我々も気を引き締めていかなければならないかと」
「無論だ」
 グローバルはそれに応えながらパイプを取り出した。しかしそれは艦橋にいる少女の一人に止められた。
「艦長、艦橋は禁煙です」
「おっと」
 それを言われて仕方なさそうにパイプをしまった。
「厳しいな、シャミー君は」
「当然です、決まりですから」
「やれやれ。まあそれはいい」
 気を取り直して艦橋に心を戻した。
「各艦に伝えてくれ。警戒を怠らないようにな」
「はい」
「ネオ=ジオンの他にギガノスもいる。安心はできないからな」
「ギガノスは今月に防衛線を張っているようです」
「そうか」
 クローディアの言葉に頷いた。
「ギガノスの蒼き鷹が防衛線の指揮を執っているようです」
「彼がか」
「ただ一つ気になる情報も入っています」
「何だね?」
「ギガノス軍内部で意見衝突があるようです」
「意見衝突」
「はい。まずはその蒼き鷹ことマイヨ=プラート大尉を頂点とする若手将校一派」
「うむ」
 マイヨはその能力と人柄から若手将校のリーダーとなっていたのだ。人望もある人物であった。
「彼等は今のギガノスの上層部に対して不審を募らせているようです」
「上層部と対立しているのだな」
「はい。その上層部の中心人物がドルチェノフ中佐です」
「あまりいい評判のない人物だったな」
「そうですね。私利私欲に対してのみ熱心な人物だと聞いております」
 早瀬の言葉は簡潔ながら辛辣であった。
「おそらく腐敗した上層部とそれに反発する若手将校達の反発でしょう」
「軍ではよくあることだな」
「残念なことに」
 とりわけ軍部の力が強い勢力ではそうなり易い。第二次世界大戦前の日本でもそうであった。大戦後はかなり歪な形ではあるが文民統制となり政治に何か言いたければ選挙に行き、そして政治家になればよくなったがこの時代は違っていた。それだからこそ二度のクーデターが起こったのであった。
「それでプラート大尉はどうしてるか。分別のある人物だと聞いているが」
「彼はギルトール元帥を信頼し落ち着くよう若手将校達を説得しているようです」
「流石だな。彼等に慕われるだけはある」
「ギルトール元帥も対応に苦慮しているようです」
「あの人ならそうだろうな」
 グローバルもギルトールのことは知っていた。かっては彼の部下だったこともある。
「非常に立派な人だ」
「はい」
「軍人として優秀なだけではなく清潔でな。部下の意もよく汲んでくれた」
「そのようですね」
「そして理想家でもあった。今はそのせいでああして連邦政府に弓を引いているがな」
「残念なことですか」
「それを言っても仕方ないがな」
 だがそれは言葉尻に表われていた。
「あの人ならそうするだろうということはわかる」
「それが為に事態は好転してはいないようですが」
「うむ」
 グローバルはそれに頷いた。
「我々にとっては好都合なことではあるのだがな」
「はい」
「だが。あの人のことを思うとな。複雑な心情だ」
 あまり感情を表に出さないグローバルらしからぬ発言であった。そしてここでベネッサっがグローバル達に告げた。
「偵察に出ているコスモクラッシャー隊からの報告です」
「どうした?」
「進路上に敵軍が展開しているそうです」
「ネオ=ジオンか?」
「いえ、ポセイダル軍だとのことですが。如何為されますか」
「ポセイダル軍か」
「今は避けられれば避けるべきだと思いますが」
「そうだな」
 早瀬の言葉に頷いた。
「では今は避けよう。よいな」
「了解」
 早瀬はそれに頷いた。グローバルはそれを確認してからベネッサに対して言った。
「そういうことだ。今は避けよう」
「わかりました。それでは」
「いえ、待って下さい」
 だがここでキムが言った。
「どうした、今度は」
「そのコスモクラッシャーが攻撃を受けています。どうやらポセイダル軍に発見されてしまったようです」
「まずったな」
「どうしますか」
「致し方あるまい。コスモクラッシャーにはすぐにこちらに戻るように伝えよ」
「わかりました」
「我々もそちらに急行する。全機出撃用意だ」
「わかりました」
「時間はない。一気にかたをつけるぞ」
「了解」
 こうしてふとした弾みのような形でロンド=ベルはポセイダル軍に対して向かうこととなった。コスモクラッシャーはその頃全速力でマクロス達の方に向かっていた。
「まずいことになったな」
 ケンジがコスモクラッシャーの中で苦い顔をしていた。
「まさか奴等に見つかるとは」
「すいません、私のせいで」
 ミカがケンジと他のメンバーに対して謝罪する。
「迂闊に通信を入れたばかりに」
「いや、ミカのせいじゃない」
 ケンジはそう言って彼女を慰めた。
「どのみち連絡を入れなくてはならなかったからな。それはいい」
「申し訳ありません」
「問題はこれからだ。さて、逃げきれるかな」
「何、大丈夫ですよ」
 アキラがメンバーを元気づけるようにして言った。
「俺の操縦、見ていて下さいよ。あんな連中余裕で振り切ってみせますよ」
「宜しく頼むぜ、アキラ」
 ナオトもそれに続いた。
「御前の操縦が頼りなんだからな」
「おう」
「これでタケル兄ちゃんがいたら完璧なんだけれどね」
「そのかわりに御前がいるんだろうが」 
 ケンジはナミダにそう言い返した。
「タケルの分まで働いてもらうからな」
「任せといて」
「それではいいな」
「はい」
 皆ケンジの言葉に頷いた。
「マクロスに向かうぞ」
 こうしてコスモクラッシャーはマクロスに向かっていた。しかしそれは当然ながらポセイダル軍に追撃を受けていた。
「ギャブレー、わかってるね」
「無論」
 ギャブレーはネイの言葉に頷いた。
「コスモクラッシャーを撃墜する。そしてその近くにいるであろうロンド=ベルを倒す。それが我等の使命」
「そうさ。ギワザ様からのね」
「その通りだ」
 ヘビーメタル部隊の後ろにいる戦艦から声がした。ポセイダル軍の戦艦であるサージェ=オーパスである。
「そうすれば我等のバルマーでの地位もあがるからな。ここで得点をあげておくと大きいぞ」
「わかっております」
 ギャブレーはそれに頷いた。
「今は十三人衆も揃っておりますし。必ずや使命を果たせましょう」
「果たせるのではない」
 だがギワザはそれには賛同しなかった。
「といいますと」
「果たすのだ。何としてもな」
「わかりました。それでは」
「うむ」
 ギワザは鷹揚さを装って頷いた。だがその声には虚飾があった。だがこの時にそれに気付いた者はいなかった。
 先陣はギャブレーの他にハッシャがいた。彼等は他に二機のヘビーメタルと共に小隊を組んでいた。だが彼等の他にもいた。
「ギャブレー、遅れるなよ」
 褐色の肌の男がギャブレーに対してそう言った。
「チャイ=チャー殿」
「十三人衆になったからといって天狗になるなよ。御前はまだなったばかりなのだからな」
「わかっている」
 ギャブレーは内心苦く思っていたがそれに応えた。
「この戦いで何としてもエルガイムを倒す。それを私の証明にしてくれよう」
「できればな」
「何っ!?」
「今まで何度も敗れているのに信用できるかということだ」
「私を侮辱するというのか」
「よせ、二人共」
 だがそれを老人が止めた。
「今は争っている時ではない」
「ワザン=ルーン殿」
 ギャブレーはその老人の名を呼んだ。彼もまた十三人衆であった。
「ロンド=ベルを倒すことに専念しろよいな」
「はい」
「フン、まあいいだろう」
 ギャブレーもチャイもそれに頷いた。
「だがワザン殿」
「何だ」
 チャイはまだ言った。ワザンは仕方なしかそれに顔を向けた。
「ギャブレーがまだ新入りであることはわかっているな」
「そんなことにこだわっているのかお主は」
「何だと」
「我々は軍人だ。軍人は戦場で戦果を挙げるものだぞ」
「それはわかっている」
「ならばそのことだけを考えていよ。よいな」
「クッ」
 チャイはそれ以上言い返すことはできなかった。彼等はワザンを主軸にして進んでいた。先陣は彼等三人が指揮し、主力はアントンとヘッケラーを従えたネイを中心にテッド=デビラスとリィリィ=ハッシー、リョクレイ=ロン、そしてもう一人の十三人衆が指揮を執っていた。各ヘビーメタルを混ぜたようなヘビーメタルに乗っている。
「うふふふふふふふふふ」
「上機嫌だねえ、マクトミン」
「当然だよ、ネイ=モー=ハン」
 赤い髪を立たせタキシード調の服を着た一見気色の悪い男がネイの応えた。マフ=マクトミンであった。
「ライバルと再会できるんだからねえ」
「あの坊やのことかい?」
「その通り」
 マクトミンは恭しい調子でそう返した。
「ライバルとはいいものだ。敵であっても尊重したい」
「そんなもんかね」
「このアトールXはね、ずっと彼との再会を待ち望んでいたんだよ」
「そうかね」
「嬉しいんだよ、私は」
 不気味に笑いながら言う。
「ダバ=マイロード君とまた会えるのがね。しかし彼にはギャブレー君がいる」
「それはわきまえているのかい?」
「まさか。ギャブレー君よりも先に彼を倒したいものだ」
「生憎だったね。先陣じゃなくて」
「いや、これはこれで都合がつけられる」
 彼はまた言った。
「チャンスは幾らでもやって来るさ。私は焦らない主義でね」
「おやおや」
「待たせてもらうよ。ダバ君が向こうからやって来るのを」
 そんな話をしながらロンド=ベルに向かっていた。やがて向こうに四隻の戦艦が見えた。
「あれがロンド=ベルだ」
「はい」
 ネイはギワザの言葉に頷いた。
「すぐに攻撃にかかれ。まずは先陣が突っ込め」
「はい」
「了解しました」
 まずはワザンとギャブレーがそれに頷いた。
「チャイ=チャー」
「はい」
 チャイはギワザに言われてようやく応えた。
「よいな」
「わかりました」
(私を捨て駒にするつもりか、ギワザめ)
 答えはしたが内心では別のことを思っていた。どうやら彼はギワザに対してもよくは思っていないようであった。
「他の者はそれに続け。よいな」
「了解しました、ギワザ様」
 ネイが代表してギワザに答える。
「是非共お任せ下さい」
「うむ」
 ギワザはやはり鷹揚なふりをして頷いた。そして再び指示を下した。
「攻撃開始!」
「ハッ!」
 ポセイダル軍が前に出た。ロンド=ベルからもそれは確認された。
「ポセイダル軍、来ました」
「やっとコスモクラッシャーと合流できたというのにか」
「申し訳ない」
 ケンジが彼等に対して謝罪する。
「いや、それはいい」
 ブライトがそんな彼をフォローする。
「その通り。まずは目の前の敵を倒さなければならない」
 グローバルも言った。
「問題はこれからだ。総員出撃」
「了解」
 グローバルトの言葉に従い総員出撃した。そして前方に展開する。
「行くぞ、あまり時間はない」
「はい」
「一気に倒す。そしてコロニーに向かうぞ」
「了解!」
 ロンド=ベルもまた前に出た。その先頭にはダバの小隊がいた。左右にアムとレッシィがいる。
「ダバ、やっぱりギャブレーがいるよ」
「ああ」
 ダバはアムの言葉に頷いた。
「やはりな」
「ほんっとうにしつっこい奴だね、あいつ」
「彼にとってはそれが仕事だからな」
 嫌悪感を露わにするアムに対してダバは落ち着いていた。
「だがこちら尾むざむざやられうわけにはいかないしな」
「ええ」
「行くぞ、アム、レッシィ」
「あれをやるんだね」
「ああ」
 今度はレッシィに答えた。
「まずは一撃を加える。いいな」
「了解」
「派手にやるか」
 三機のヘビーメタルはバスターランチャーを取り出した。そしてそれをポセイダル軍に向ける。
「行けっ!」
 ダバが叫んだ。同時に三つの光の帯がポセイダル軍に向かう。そしてそれが彼等を切り裂いた。
「よし、今だ!」
 四隻の戦艦の砲撃がそれに続く。これにより切り裂かれたポセイダル軍がさらに打ち据えられた。
「突っ込め!」
「よし!」
 他のマシンがズタズタになったポセイダル軍に突進した。それによりポセイダル軍は総崩れになるかと思われた。
「ぬおっ!」
 とりわけチャイ=チャーの部隊はそうであった。最早軍のていを為してはいないようにすら見えた。しかしそこにワザンの部隊が来た。
「ここは任せるがよい」
「フン」
 しかしチャイは彼に礼を言うことはなかった。忌々しげに顔を背けるだけであった。
 ギャブレーの部隊は持ち堪えていた。そして彼はハッシャと共に敵を探していた。
「ダバ=マイロードは何処だ!」
「お頭、今さっきバスターランチャーをぶっ放していたじゃありませんか」
「それはわかっている!」
 彼はその突っ込みに返した。
「今何処にいるのか聞いているのだ!」
「目の前にいやすよ」
「何っ!?」
 その言葉に驚く。見ればその通りであった。
「ギャブレー、そこにいたか!」
「いたかではない!来たのだ!」
 彼も負けてはいない。
「ダバ=マイロード、御前を倒す為にな!」
「こら、そこの食い逃げ男!」
 しかしここでアムが入って来た。
「格好つけてるんじゃないわよ。いい加減ダバにつきまとうの止めなさいよ!」
「つきまとうだと!」
「そうよ!そんなんじゃ幾ら外面がよくてももてないわよ、この二枚崩れ!」
「何だと、二枚崩れだと!」
「正式に言うと三枚目だね、あんたは」
「ガウ=ハ=レッシィ!」
 レッシィの姿も認めてキッとなる。
「裏切り者が!おめおめと私の前に!」
「あたしは裏切ったんじゃないよ」
「言い逃れを!」
「ポセイダルのことがわかったのさ。そこがあんたとは違うんだよ」
「それが言い逃れだというのだ!」
「まああんたとは話すつもりもないしね」
 そう言いながらパワーランチャーを向ける。
「邪魔だ。とっとと消えな」
「クッ!」
 何時の間にか彼とレッシィの戦いになっていた。アムはハッシャと戦っていた。
「ここで会ったが百年目!」
「おまええの方がずっとしつけえぜ!」
「裏切った奴を逃がす程あたしは間抜けじゃないのよ!」
「裏切ったんじゃねえ!見切りをつけたんだ!」
「レッシィの真似をしても無駄よ!」
「チッ!」
「何か凄いね」
 リリスは二組の戦いを傍目で見ながらダバにそう声をかけてきた。
「どうする、ダバ」
「俺か?」
「うん。とりあず手は空いているけれど」
「そんなのすぐに塞がるさ」
「どうして?」
「ダバ、そこかい!」
 そこにサイズを手に持つオージェがやって来た。
「今度こそ逃がしはしないよ!」
「ネイ=モー=ハン」
「言った通りだろ。敵は大勢いるんだ」
 ダバはセイバーを構えながらリリスに対して言った。
「だから俺は手は空かないんだ」
「そうだったの」
「何ぶつくさ言ってるんだい!」
 サイズが襲い掛かってきた。ダバはそれをかわす。
「あたしを前にしていい度胸だね、おしゃべりなんて」
「いい度胸かどうかは知らないが」
 ダバはそのサイズをかわしながら言った。
「俺は自分が戦わなくちゃいけないのはわかっているつもりだ。ポセイダルを倒す為にな」
「ほう」
 それを遠くから聞いていたギワザはダバの言葉を聞いて笑った。
「ポセイダルをか」
「そしてヤーマンを解放するんだ。圧政者から」
「奇麗事を言うねえ」
 ネイはそれを聞いて笑った。
「その奇麗事が何時まで通用するかね」
「通用するんじゃない」
 ダバはそれに反論した。
「通用させるんだ。理想は必ず現実になる」
「じゃあそれを見せてもらおうかい」
 再びサイズを構えた。
「あたしのこのサイズにね!」
「何の!」
 そのサイズをセイバーで受け止めた。
「この程度で!」
「面白い!あたしの力見せてやるよ!」
 また一組の戦いがはじまった。ポセイダル軍とダバ達の戦いはこの地球においても激しさを増すばかであった。
 戦いは熾烈さを増していた。ギワザはそれを後方から一人眺めていた。
「戦局は五分と五分といったところか、今は」
「どうやらそのようで」
 傍らにいる部下の一人がそれに応えた。
「我が軍は全力を以って戦っている。その介があると言うべきか」
「ですが一つ気になることがあります」
「何だ」
「敵の部隊の一部が戦線から離れておりますが」
「むっ」
 見ればダブルゼータの小隊とウィングゼロカスタムの小隊が戦線を離れていた。そしてポセイダル軍の側面に回り込んでいた。
「彼等は一体何をするつもりでしょうか」
「まずいな」
 それを見たギワザの顔が曇った。
「まずいですか」
「そうだ。どうやらかなり大掛かりな攻撃を仕掛けるつもりのようだな」
「しかしあの程度の数で」
「数は問題ではない」
 ギワザはそう言って部下の言葉を退けた。
「地球人のマシンは戦闘力が高い。おそらく我々の想像もつかないレベルのものがまだある」
「それでは」
「そうだ。一旦戦線を縮小するぞ」
「わかりました」
 ポセイダル軍はギワザの言葉に従い戦線を退けさせた。それを見たヒイロの目が動いた。
「気付かれたか」
「おい、もうかよ」
 ジュドーがそれを聞いて声をあげる。
「まだそれには早いぜ」
「敵も馬鹿ではないということだな」
 ノインが彼に対して言う。
「どうする?ヒイロ=ユイ。我々の行動は見破られたようだが」
「それならそれで戦い方がある」
 ヒイロはクールな声でそう答えた。
「このまま突っ込む。敵にな」
「いつもの通りだな」
「そうだ」
 ジュドーの言葉にもクールに答える。
「行くぞ、ノイン」
「ああ」
「プル、プルツー、ルー、いいか」
「何時でもいいよ」
「用意はできている」
「突っ込むのは大好きだからね」
「よし」
 ジュドーの方も用意はできた。
「じゃあ行くか。ポセイダルの奴等、ギッタンギッタンにしてやるぜ」
「ジュドー、あまり暴走しないようにな」
「わかってるって、ノインさん」
「・・・・・・どうだか」
 ノインの心配そうな声をよそにジュドー達は突進した。そしてポセイダル軍に切り込む。ワザンの部隊に突っ込んだ。
「でりゃあああああああああああっ!」
 ハイパービームサーベルが唸った。それでまずは一機のアローンを両断した。
「まずは一機!」
「一機だけじゃ満足しないでしょ!」
「勿論!」
 隣にいるルーに答える。そしてまたサーベルを振るった。
「二機目!」
「あたしも!」
 ルーのゼータガンダムがビームライフルを放った。それで敵を撃ち落とす。
 プルとプルツーのキュベレイもまた攻撃を開始しっていた。ファンネルが竜巻のように敵に襲い掛かる。
「いっけえええーーーーーーーーっ!」
「観念しな!」
 ファンネルが殺到して敵に襲い掛かる。それによりポセイダル軍は瞬く間に薙ぎ倒されていっていた。
 ワザンはそれでも指揮を続けていた。だがそれでも限界があった。
「ワザン様、このままでは」
「わかっている」
 部下の言葉に頷く。
「チャイ=チャー」
「何だ!?」
 チャイが嫌そうな顔でモニターに出て来た。
「申し訳無いが力を貸してくれないか」
「断る」
 だがチャイはそれを拒否した。
「どうしてだ」
「私も忙しい。貴殿のところまでフォローする余裕はない」
「馬鹿な、今貴方の部隊は後方にいる筈」
「黙れ!」
 話に入ってきたワザンの部下を一喝した。
「私を誰だと思っている!十三人衆の一人チャイ=チャーだぞ!」
「クッ!」
「一般のパイロットが偉そうに言うな!今度そのようなことを言ったら唯ではおかんぞ!」
「もういい、わかった」
 ワザンは呆れたのかそれ以上言おうとはしなかった。
「手間をかけたな」
「フン」
 チャイは挨拶もせずにモニターから姿を消した。見れば部下は激昂している。
「ワザン様」
「言いたいことはわかっている」
 だがワザンは冷静なままであった。
「しかし今は落ち着け」
「・・・・・・はい」
「助けは来る。マクトミン殿がこちらに向かわれるそうだ」
「マクトミン様が」
「そうだ。だから今は踏ん張れ。よいな」
「ハッ」
「ワザン殿」
 早速モニターに彼が姿を現わした。
「助太刀に参った」
「すまないな」
「気にすることはない」
 彼はいささか不気味な笑みを浮かべながらそう答えた。
「戦友を助けるのは当然のことだからな」
「そうか。では宜しく頼む」
「うむ」
 マクトミンが前線に出ると戦場の雰囲気が一変した。
「フフ、ウフフフフフフフフフフフフ」
「?何だこいつ」
 ジュドーがそれを見て声をあげた。
「気色悪いおっさんだなあ」
「おっさんという表現は適切ではないな、少年」
 マクトミンはジュドーにそうクレームをつけた。
「このような眉目秀麗の青年を捕まえてな」
「じゃあそこのいかした兄ちゃん」
「何だね」
 そう言われてようやく答えた。
「あんた一体何者なんだい!?ポセイダル軍なのはわかるけど」
「私はマフ=マクトミンという」
 胸を張って答える。
「以後覚えておいてくれ」
「そうかい。じゃあマクトミンさんよ」
「む!?」
「早速やるかい。あんたもその為にここへ来たんだろ?」
「話のわかる少年だ」
 マクトミンはそれを聞いてまた笑った。
「名前を聞いておこう。何というのだね」
「俺はジュドー。ジュドー=アーシタってんだ」
「ジュドー君か。いい名だ」
「ありがとよ」
「それではジュドー君、手合わせ願おうか」
「おうよ」
 二人はそれぞれ構えた。
「武人の務め。手加減はしないよ」
「そんなのいらねえぜ。じゃあ行くぜ」
「ふふふ、いい目をしている。どうやらダバ君だけではないようだな」
「ダバさんには負けるけどな、俺だって二枚目で通ってるんだよ」
「どちらかというと三枚目のような気もするが。まあいい」
 マクトミンは言葉を続けた。
「貴殿との勝負、楽しませてもらう」
「おうよ!」
 二人も戦いをはじめた。これによりジュドーが動けなくなった。彼の猛攻を受けていたワザン達にとっては好機であった。彼等はその間に戦線を立て直した。そこでギワザからの命令が来た。
「ワザン殿」
「何か」
 モニターに姿を現わしたギワザに応える。
「撤退せよ。これ以上の戦闘は危険だ」
「何かあったのか」
「こちらに地球人の新たな部隊が接近してきているようだ。彼等も敵に回ると厄介だ」
「そうか」
 ワザンはそれを聞いて頷いた。
「それでは仕方がないな」
「うむ。後詰はネイとマクトミンに任せる。貴殿はすぐに後退してくれ」
「わかった。それでは」
 こうしてワザンとその部隊は戦線を離脱にかかった。途中で同じく撤退するチャイの部隊を見た。
「ワザン様」
「言うな」
 部下を止めた。そして沈黙を守ったまま戦場を離脱するのであった。
「ポセイダル軍が撤退したか」
 ブライトは退く彼等を見てそう言った。
「思ったより早いな」
「どうやらそれには訳があるようですね」
「?どういうことだ」
 トーレスに問うた。
「来ていますよ、新手が」
「オモイカネからの報告です」
 モニターにルリが出て来た。
「ネオ=ジオンの新たな部隊がこちらに向かって来ています」
「ネオ=ジオンの!?それは一体」
「先頭にいるのはトールギスVです」
「奴か」
 ヒイロがそれを聞いて呟いた。
「どうしますか?敵との距離はまだかなりありますが」
「このまま進んで敵の防衛ラインに遭遇した場合挟み撃ちに遭う可能性があるな」
 ブライトは戦局を冷静に見据えていた。
「ここでカタをつける。多少時間がかかるが止むを得ない」
「わかりました。それでは」
「うむ」 
 ロンド=ベルは陣形を整え彼等を待った。程なくしてモビルスーツの一軍が姿を現わした。
「ヘッ、思ったより速えな」
「敵もそれだけ必死だということだ」
 デュオとウーヒェイがそれぞれ言う。
「ゼクスは俺が相手をする。他の連中を頼む」
「了解、腕が鳴るぜ」
 リュウセイがそれに応えた。
「ここはいっちょSRXに合体するか」
「いや、それには及ばないな」
「どうしてだよ、ライ」
「今はそれ程強力な敵がいるわけでもない。ヘルモーズでも出ているのなら別だがな」
「ライの言う通りね」
 アヤもそれに同意した。
「今はSRXになる必要はないわ。今のままで対処した方がいいわね」
「ちぇっ、つまんねえな」
「どうせリュウセイはいつも派手に暴れてるだけなのに」
 レビが言った。
「それは言わない約束だろ」
「まあ頑張ってくれよ、兄ちゃん」
 サブロウタが茶化した。
「声が似ているからあんたには頑張って欲しいからな」
「エレガントにな、リュウセイ」
「ライ、それはもっと言っちゃいけねえだろうが」
「おやおや」
「お話は終わりましたか?」
 丁度いいタイミングでルリが出て来た。
「あ、ルリちゃん」
「それでは戦いに備えて下さい」
「わかってますって」
「少佐は厳しいんだから、全く」
「というか皆が変なんだと思うけれど」
「ハーリー君」
 ルリはハーリーにも言った。
「そんなことを言ってはいけませんよ」
「わかりました」
「おい、そこにいる仮面の兄ちゃん」
「私のことか」
 トールギスVに乗るゼクスは応えた。
「一体何の用だ」
「何の用もこんな用もねえ。一体どうしてネオ=ジオンなんかにいるんだよ」
「そういえばそうだな」
 シーブックがそれに頷いた。
「ゼクス=マーキスといったほうがいいか」
「ああ」
「どうして貴方はまた俺達の敵に?かって共に戦ったというのに」
「恩の為だ」
 彼は静かに言った。
「恩」
「この世界に戻った時私は宇宙に出た。そしてそこでティターンズの部隊と遭遇した」
「彼等と」
「撃退はしたがダメージを負い過ぎた。そこをネオ=ジオンのアナベル=ガトー少佐に救ってもらったのだ。傷を負っている者を助けないわけにはいかないとな」
「へえ、ソロモンの悪夢ってそんな奴だったんだ」
「勝平、いいから御前は黙ってろ」
「その恩がある。私はガトー少佐の恩を返す為に今こうしてここにいるのだ」
「そうか、なら引くつもりはねえな」
「無論」
 忍の言葉にも答える。
「貴殿等をここで食い止める。いいな」
「ヘッ、ならこっちも容赦はしねえぜ」
 忍の闘志が燃え盛った。
「やってやるぜ!覚悟しな!」
「参る!」
 こうしてロンド=ベルとネオ=ジオンとの戦いもまたはじまった。まずはヒイロとゼクスが出て来た。
「ヒイロ=ユイ、やはり御前が」
「予想はしていた」
 ヒイロはポツリと言った。
「御前がネオ=ジオンにいるのはな」
「そうか」
「御前には御前の理念がある」
「・・・・・・・・・」
「だが俺達にも俺達の考えがある。ここは通させてもらう」
「では私はそれを何としても防ごう。恩の為にもな」
「一つ聞きたい」
「何だ?」
「リリーナのことはいいのだな」
「・・・・・・・・・」
 ゼクスは暫く沈黙した。だがすぐに口を開いた。
「リリーナにもリリーナの考えがある。私はそれを否定はしない」
「そうか」
「しかし私も引いてはならない時がある。それが今だ」
「わかった。では行くぞ」
「来い」
 トールギスとウィングゼロカスタムのビームサーベルがぶつかった。激しい緑色の火花が飛び散った。
 ネオ=ジオンとロンド=ベルの戦いもまた熾烈なものとなった。だがここでもパイロットの差が大きく出ていた。
 ネオ=ジオンの強力なパイロットはここではゼクスだけであった。しかしロンド=ベルは違っていた。
「フィンファンネル!」
 アムロのニューガンダムがフィンファンネルを放つ。それにより敵の小隊を一つ完全に殲滅した。
 その横ではクワトロが同じくファンネルを放っていた。そしてアムロと同じように敵を小隊単位で倒していた。
「クッ、あれがロンド=ベルのエースか!」
「何て強さだ!」
「馬鹿者、怯むな!」
 指揮官クラスのパイロットが怖気づく彼等を怒鳴りつけた。
「この程度の攻撃で何を怯んでいるか!」
「しかし!」
「しかしも何もない!わしが戦いの手本を見せてやる。来い!」
 そう言って前にでた。だがそこをエマのスーパーガンダムに狙い撃ちにされた。
「前に出るからっ!」
 ロングライフルで貫かれた。そしてあえなく脱出したのであった。
「あの二人だけじゃないのか・・・・・・」
「ロンド=ベルは化け物ばかりかよ」
 数はほぼ互角であった。ならば機体性能、そしてパイロットの質が上の方が優位に立つのは常識であった。ゼクスの部隊はその数を大きく減らしていた。
「クッ、まずいな」
「ゼクス殿」
 ここで通信が入ってきた。
「その声はアナベル=ガトー殿か」
「戦闘が行われていると聞いて偵察に来たのだが。御無事か」
「心配無用、大丈夫だ」
 ゼクスはそう答えた。
「そうか。では今からこちらに向かう。すぐに撤退してくれ」
「他ならぬ貴殿の要請だ。わかった」
 ゼクスはそれに従った。そしてヒイロから距離を置いた。
「ヒイロ=ユイ、今日はここまでだ」
「退くつもりか」
「また剣を交えることもあるだろう。その時また会おう」
 そう言って戦場を離脱した。イサム達がそれを追おうとする。
「待ちやがれ!」
「待て」
 しかしそれをクワトロが制止した。
「クワトロ大尉、どうして」
「あれを見ろ」
 クワトロはサザビーで指し示した。するとそこには巨大な楯とバズーカを持つガンダムがいた。
「あれは・・・・・・」
「GP−02だ。今核バズーカを装填している」
「ガトー・・・・・・!」
 コウがそれを見て呻いた。
「今迂闊に出ては核攻撃を受けるだけだ。わかったな」
「ええ」
「チッ、仕方ねえな」
 彼等も引き下がるしかなかった。こうしてロンド=ベルとネオ=ジオンの前哨戦は終わった。ロンド=ベルはここでは勝利を収めることができた。
 すぐに各機を母艦に収める。そしてコロニーに向かうのであった。
「あれがアナベル=ガトーか」
 ナデシコの喫茶店でアキトが思案に耽る顔をしていた。
「ソロモンの悪夢・・・・・・。きっと手強いんだろうな」
「おい、何辛気臭いこと言ってるんだよ」
 リョーコがそれを聞いてアキトを叱った。
「敵なんてなあ、どいつでもぶっとばしゃあいいのよ」
「リョーコの言う通り!」
 ダイゴウジもそれに同意する。
「敵は片っ端から叩き潰すだけだ!」
「そう簡単にいけばいいがな」
「ヌッ」
 ナガレが話に入って来た。
「一年戦争、そしてバルマー戦役であそこまで戦った歴戦のパイロットをそう簡単に相手にできるか?」
「そう言われると不安ですね」
 ジュンはナガレの声に頷いた。
「ネオ=ジオンを代表するエースの一人ですし」
「しかしだからといって逃げていい場合じゃない」
「京四郎さん」
「虎穴に入らずば虎子を得ず、だ。今は何としてもコロニー落としを防がなくてはな」
「その為にはガトー少佐とも戦わなくちゃいけないか」
「それは俺に任せてくれ」
「ウラキ中尉」
「俺はあいつと色々あったからな。俺にやらせて欲しいんだ」
「コウ、いいのね」
「ああ」
 心配そうな顔で声をかけるニナに頷いた。
「相手があいつだからこそなんだ。やってやる」
「頼みますよ、ウラキ中尉」
 クリスが彼に声をかけた。
「周りは私達でフォローしますんで」
「安心して下さい」
 バーニィもこう言った。
「すまないな」
「水臭いこと言うなよ」
 キースもそれに続いた。
「そういう時の戦友だろう?強い敵を相手にする時はお互い様さ」
「キース」
「へっ、そうやってまとめて撃墜されて救助されるなんていう情ない真似はすんじゃねえぞ」
「モンシアさん」
「そうなったらなあ、俺達が御前等を拾わなくちゃいけねえからよ。面倒臭いことはさせるんじゃねえぞ」
「はい」
「おっと、俺は御前等を心配してるわけじゃねえからな。余計な仕事はしたくねえだけだからな」
「わかってますよ」
 コウ達は微笑んでそれに頷いた。
「その時はお願いしますね」
「ケッ、こんな若造にはわからねえか」
「何がわからないんだか」
「モンシアさんは何時になっても変わりませんね」
「うっせえ」
 ヘイトとアデルにそう悪態をついた。
「御前等だって同じだからな。どうして俺の周りにはこんなに手前のケツも拭けねえのばかりなんだ」
「ホンットにこの人は素直じゃないねえ」
 サブロウタが茶化しながら言った。
「まあいいさ。それで話を変えるけれどよ」
「何だ?」
「今回のネオ=ジオンの指揮官はデラーズ少将だったよな」
「確かそうだったわね」
 セシリーがそれに頷いた。
「他にも名のあるパイロットが大勢いるみたいだけれど」
「ハマーン=カーンは来ないのかね、こんな重要な作戦なのに」
「ハマーンだってそうそう動けないんじゃないかな」
 ナナが言った。
「あの人も忙しいし」
「果たしてそうかね」
「?サブロウタ、何か引っ掛かるのか?」
「あ、いや」
 アキトの言葉に声を濁す。
「ちょっとね、気になっただけで」
「気になる」
「前の戦いじゃよく陣頭指揮を執っていたらしいからね、あの人。今そうしないのが不思議でね」
「ネオ=ジオンも変わったからな」
 それに対してデュオが言った。
「どういうことなんだ、それは」
「今ネオ=ジオンはザビ家の者が殆どいない」
 ウーヒェイがリョーコに答えた。
「残っているのはドズル=ザビの遺児であるミネバ=ザビだけだ。だが彼女はまだ子供に過ぎない」
「ハマーンは確か彼女の摂政となっている筈です。だからそうそう表には出られないのでしょう」
「そういうことだったのか」
 サブロウタはトロワとカトルの言葉に頷いた。
「ネオ=ジオンもネオ=ジオンで大変なんだねえ」
「そこに派閥があったりして」
 ヒカルがあっけらかんとした声で言う。
「そうなったら漫画みたいで面白いですよね」
「こらこら」
 そんな彼女をファが嗜めた。
「そんな上手い話があるわけないでしょ」
「いや、あるかもな」
「カミーユ」
「ネオ=ジオンは元々ギレン=ザビとキシリア=ザビで派閥があった。それは一年戦争でガルマ=ザビが死んでから表面化しだした」
「・・・・・・・・・」
 クワトロはそれを沈黙して聞いていた。一言も発しない。
 ガルマ=ザビはジオンにおいては若いながらそのバランスのいい能力と温厚で誠実な人柄、そしてカリスマ性により将来を期待されていた。兄弟の間でも評判がよくとりわけ父デギンと次兄ドズルは彼を可愛がっていた。しかし北米での戦いで命を落した。それはザビ家にとっては大きな痛手であったのだ。彼の死そのもの以上に。
「そして今もハマーンとデラーズの部隊では根本的に何かが違うと思うんだ」
「デラーズのところには旧ジオンの者が多いようね」
 フォウが言った。
「黒い三連星やアナベル=ガトー。大体デラーズ提督の下にいるわね」
「そして若い士官達はハマーンの下に」
 カミーユがそれに続いた。
「分裂する可能性はあるな」
「いや、それはないな」
 だがそれはライトが否定した。
「またそりゃどうしてだ?」
 ケーンがそれに問うた。
「デラーズ提督は敵ながらできた人物だからな。そうしたことはしないだろう」
「成程」
「けれど野心のある奴が出て来たらどうなるんだ?」
「その時が一番危ないな」
 タップの問いに答えた。
「ハマーンに匹敵するカリスマ性の持ち主が現われるかどうか、だが」
「そんなのザビ家の奴しかいねえんじゃねえか?」
「あるいは」
「あれっ、クワトロ大尉。何か?」
「いや、何でもない」
 だがクワトロはそれには首を横に振った。
「ケーン君、気にしないでくれ」
「そういうことなら」
「・・・・・・・・・」
 ケーン達はそれでよかった。だがアムロとブライトはそれを見て何か不吉なものを感じていた。
「とにかくだ」
 ライトが話を続けていた。
「とりあえずはネオ=ジオンも分裂したりはしないだろう。これからどうなるかわからないがな」
「ちぇっ、じゃあ今まで通り連中の相手をしていかなきゃいけねえのかよ」
「そうぼやくなよ、タップ」
「まあ音楽でも聴いて気を紛らわせろ」
「そうだな。じゃあマイケル=ジャクソンでも聴くか」
「微妙に古いな、おい」
「スリラーは名曲だぞ」
 何時の間にか音楽の話になり話し合いは終わった。クワトロは話が終わるとラー=カイラムに戻ろうとした。だが廊下で二人の男が彼を呼び止めた。
「シャア」
「どうした、アムロ君」
 クワトロは声の主に顔を向けた。
「今の私はその名ではないが」
「じゃあキャスバル=ズム=ダイクンと呼ぼうか」
「厳しいな。それにブライト艦長も一緒だとは」
「少し気になることがあってな」
 ブライトもアムロと同じ顔であった。真剣なものであった。
「さっきの話だが」
「ネオ=ジオンのことか」
「そうだ。それについて御前はどう考えている」
「もう私には関係のないことだ」
 クワトロは一言そう答えた。
「今の私はクワトロ=バジーナなのだからな」
「そうか。ならいい」
「安心してくれ、二人共」
 彼はここで二人に対して言った。
「今のネオ=ジオンは私の考えとは違う」
「どういうことだ」
「私の考えはジオニズムだ。それは変わらない」
 そう語った。
「だがあれは・・・・・・。単なる独裁主義だ」
 ギレン=ザビが目指したのがそれであった。彼はアドルフ=ヒトラーやヨシフ=スターリンの正当な後継者であったのだ。彼自身もそれを自負していた。だからこそ父であるデギンに『ヒトラーの尻尾』と揶揄されたのだ。デギンもかっては独裁者たらんとしたが途中でその権力に疲れてしまったのだ。権力というものの魔力に耐えられなかったということであろう。それがデギンの限界であったのかも知れない。
「少なくとも私は独裁者になろうとは思わない」
「御前自身がそう思っていようとも周りが動いてもか」
「フッ、それはないな」
 しかし彼はアムロのその言葉を一笑に伏した。
「今更私のような男を担ぎ出してどうするのだ。地球を、人類を崩壊させるのかね?」
「・・・・・・・・・」
 アムロもブライトもそれには答えなかった。
「まあいい。それは私自身で見せよう」
 彼は言った。
「安心していてくれ。私はもうキャスバル=ズム=ダイクンでもシャア=アズナブルでもない。クワトロ=バジーナだ」
「そうか」
「そうだ。連邦軍のな。それは変わらない」
 二人にそう言うとその場を後にした。そしてラー=カイラムに帰るのであった。


第三十七話   完



                                     2005・8・7

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