火星の影
 ポセイダル軍とゼクスの部隊を退けたロンド=ベルの宇宙進出組はそのままコロニーに向かっていた。偵察部隊を出しながらの慎重な進軍であった。
「ヒイロ達からの報告はあったか」
「はい」
 トーレスがブライトに応えた。どうやら今度の偵察部隊はヒイロ達であったらしい。
「今しがた敵の防衛ラインをBポイントに発見したそうです。今から帰還して詳細を報告したいとのことですが」
「わかった、許可する」
 ブライトはそれを認めた。
「それではすぐにBポイントに向かおう。舵はいいな」
「了解」
 彼等はヒイロ達の報告に基づきネオ=ジオンの防衛ラインに向かった。その途中も作戦についての検討を怠ってはいなかった。
「GP−02があるのが問題だな」
 コウが他の仲間達に対してそう言った。
「あれは核を持っている。気をつけろよ」
「こっちにも使ってくるでしょうか」
「絶対にな」
 ウッソにそう答えた。
「ガトーはそういう男だ。己の理想の為ならば何でもする」
「危険ですね」
「だからソロモンの悪夢って言われてるんだよ。ハンパじゃねえぜ」
「わかりました」
 ウッソはそれを聞いて頷いた。
「あの時のことは僕も知っているつもりですから」
「そうだな」
 オデロがそれを聞いて応えた。
「俺達もあの人とは何回か戦っている。手強い」
「そうね」
 マーベットも応えた。
「多分彼だけじゃないし。他にもネオ=ジオンの名のあるパイロットが大勢いるでしょうね」
「マシュマーもいるかな」
「絶対いるよ、あいつは」
 ジュドーにルーが突っ込んだ。
「それにグレミーも」
「その通りだ」
 ここでヒイロ達が部屋に入って来た。
「おお、戻ってきたかよ。無事みたいだな」
「運がよかっただけだ」
 トロワがジュドーにそう答えた。
「敵に気付かれなかった。そして情報を最大限集めることができた」
「まあ俺のデスサイズヘルカスタムのおかげだけれどな」
「ナタクも頑張ってくれた。それに越したことはない」
「結局御前等ってこういう任務に向いてるんだな」
「元々そうした用途の為に開発されましたから」
 カトルも言った。
「情報を収集するのは得意なんです」
「それは何よりだ。ところでだ」
「はい」
 アムロの言葉に頷いた。
「敵の部隊はどれだけ展開しているんだ」
「俺達の二倍程だ」
「二倍」
 皆ヒイロの言葉を聞いて拍子抜けした。
「それだけか」
「他に伏兵とかはいないのか」
「辺りをくまなく探したが見当たらなかった」
 彼はそう答えた。
「コロニー周辺に主力がいるのかも知れないが」
「そうか。やけに少ないな」
「何かあるんでしょうか」
 カミーユが首を傾げながらそう言った。
「奴等の今までのやり方を考えると。おかしいですよ」
「普通に考えればそうなるな」
 クワトロもカミーユと同じ考えであった。
「彼等は策を好む。おそらく今回も何かやってくるだろう」
「はい」
「警戒は続けるべきだな」
「それでコロニーの方はどうなっているんだ?」
「かなりの数のモビルスーツが展開していました」
 カトルがアムロにそう答えた。
「そこに敵の主力がいました」
「そうか、やはりな」
「激しい戦いになるが皆覚悟はできているな」
「できてなけりゃここにはいねえぜ」
 リョーコがそう言った。
「やるぜ皆、ネオ=ジオンの奴等をぶっ潰す」
「よし」
「そしてついでコロニーもやるぜ」
 彼等の士気は高かった。シローもまたそうであった。しかしアイナは少し違っていた。
「お嬢様、どう致しました」
 それに気付いたノリスが声をかけてきた。
「何かお考えのようですが」
「兄さんのことが気になって」
「ギニアス様の」
「ええ。ネオ=ジオンにおられるわね、今でも」
「はい」
「今度の戦いにも参加しているんじゃないかって思って」
「その可能性はありますな」
「やっぱり」
「しかしそれは致し方のないことです。我々はネオ=ジオンとは袂を分かったのですから」
「それはわかっているつもりだけれど」
「ならば御気に召される必要はありません。どうしてもというのならギニアス様には私が向かいましょう」
「貴方が」
「はい。私はお嬢様に忠誠を誓う身」
 彼は言った。
「お嬢様の為ならどのようなことでも喜んで致しましょう」
「有り難う」
「おっと、ノリス」
 しかしここでシローが出て来た。
「シロー殿」
「それは俺の仕事じゃないかな」
「どういうことですか」
「わかってる筈だぜ、俺はアイナの恋人だ」
「認めたつもりはありませんぞ」
「アイナ公認なんだよ。それでその恋人が言うんだ」
「何と」
「アイナの悩みは俺が全部引き受ける。当然今回のもな」
「シロー」
 アイナは彼のその言葉を聞いて顔を晴れやかにさせた。
「いいなアイナ、兄さんのことは任せておけ」
「いいの、本当に」
「その為にここにいるんだ、任せておけよ」
「わかったわ、じゃあもし兄さんがいたら」
「任せてくれ」
「ええ」
 二人は笑顔で頷き合った。そしてその場を二人で後にする。ノリスは一人それを見送っていた。
「お嬢様も成長されたか」
 かっては自分の膝程の背丈しかなかった。そしてそこで彼から離れなかった。それはまだついこの前のように感じられる。
 だが彼女はもう成長していたのだ。幼い少女から一人の女性へ。彼はそれを噛み締め、寂しくもあり、また嬉しくもあった。実に複雑な気持ちであった。
 敵の防衛ラインに接近していた。既にマシンを出していた。彼等は前方を警戒しつつ進んでいた。
「さて、と」
 グローバルは前面を見ながら言った。
「どうでるかな、敵は」
「おそらくは守りに徹するかと思いますが」
「果たしてそうかな」
 しかし早瀬のその言葉には賛同しなかった。
「敵の指揮官にもよるが。積極的にくるのではないかな」
「防衛でですか」
「防衛だからこそだ」
 彼はそう答えた。
「積極的にやらなければいかんからな」
「ソロモンの悪夢が指揮官ならば尚更な」
「彼は今はコロニーの側にいるようです」
「そうなのか」
「はい。カトル達からの報告ではそうでした。GP−02に乗っています」
「最も頼りになる男を側に置いておくか。戦争の常道だ」
 クローディアの言葉に頷いた。
「では防衛ラインにいるのはライトニング=カウントか」
「そこまでは確認できていませんが」
「だが名のある者であることには間違いない。覚悟はしておくようにな」
「わかりました」
「艦長」
 キムが彼に報告してきた。
「どうした」
「前方に敵発見。かなりの規模です」
「遂にか」
「巨大な戦艦か何かもいるようです。どうしますか」
「決まっている」
 彼の返答はそれであった。
「全軍に告ぐ。攻撃用意」
「了解」
「このラインを突破してコロニーに向かう。総員戦配置!」
 その言葉がはじまりとなった。ロンド=ベルは前面に出た。彼等の前にモビルスーツ隊が姿を現わした。そしてそれ以外の敵も。
「何だ、あれは」
 ケンジがその銀色の巨大な戦艦を見て驚きの声をあげた。
「見たことのない戦艦だが。ネオ=ジオンのものか」
「いや、違うな」
 クワトロがそれを否定した。
「ネオ=ジオンにあのような艦はない。少なくともジオンの技術ではない」
 確かにその艦はネオ=ジオンの形ではなかった。円盤に似た形で手のようなものが突き出ていた。まるで要塞のような印象を与える。
「どちらかというと木星トカゲの技術だな」
「京四郎、そうなのか」
 一矢がそれを聞いて尋ねた。
「ああ。これは俺の勘だがな」
「京四郎さんの言う通りです」
 そこでルリが言った。
「あれはかぐらつきです。かって木星連合の旗艦でした」
「やはり」
「しかしあの艦は木星連合の敗北と同時に撃沈されました。何故ここにいるのかはわかりませんが」
「ネオ=ジオンが接収したのかもな」
「まさか」
「いや、わからないよ」
 プルツーが一矢に答えた。
「あたしがネオ=ジオンにいたのは知ってるね」
「ああ」
「あたしもいたよ」
 プルもそうであった。プルツーは他ならぬ彼女のクローンであるのだ。
「だから知ってるんだ。ネオ=ジオンは他の組織の兵器も接収して使う。サイコガンダムマークUがそうだった」
 彼女は最初サイコガンダムマークUに乗っていたのだ。そしてプルやジュドーの説得によりそれを降りロンド=ベルに加わった。乗機も今の赤いキュベレイに変わった。
「だが、今回は違うね」
「どういうことなんだ、プルツー」
「どう違うの?」
「ジュドー、プル、あの中から何か感じるだろ」
「!?」
 言われた二人はかぐらつきに目をやった。
「あそこからは人のプレッシャーを感じる。けれどそれはニュータイプのものじゃない」
「確かにな」
「うん」
 二人はそれに頷いた。
「何かこう・・・・・・。ハマーンに少し似ている。キュベレイに乗っていない時の」
「まさか」
 それを聞いたアキト達の顔色が変わった。
「あいつか!?」
「おい、そんな話は聞いてないぜ」
 サブロウタがナガレにそう言葉を返した。
「あの人は確か今は・・・・・・」
「ロンド=ベルの諸君」
「むっ!?」
 だがそんな話を打ち消すようにその巨大戦艦から声がした。
「私は草壁春樹だ。かって木星にいた」
 ナデシコ、そして他の艦やマシンのモニターに頬がこけた中年の男が現われた。
「諸君等の中には私をよく知っている者もいるだろう」
「くっ、あんたか。やはり」
「タカスギ=サブロウタか」
 草壁は彼の存在に気付いた。
「久しいな。またこうして会えるとは」
「どうしてこんなところにいるんだよ」
「私は理想を捨てるつもりはなかった」
「それでネオ=ジオンと手を組んだってことか!」
「そうだ」
 彼は答えた。
「私は今は火星の後継者を率いている。ネオ=ジオンの同盟者だ」
「火星の後継者!?まさか」
 ユリカはそれを聞いてハッとした。
「まさか今火星を占領しているのは」
「そう、我々だ」
 彼は答えた。
「火星はバーム星人達により占領されたが彼等は小バームに撤退し地球に入り込んだ。彼等にとって火星はさ程の価値もなかったのだろう」
「それでその機に乗じて火星を占領したのですね」
「そうだ」
 ルリの問いにも答えた。
「そしてネオ=ジオンと同盟を結んだのだ。正しき世界を作り上げる為にな」
「馬鹿な!ザビ家などと!」
 アムロがそれを聞いて激昂した。
「貴方もネオ=ジオンがどのような組織か知っている筈だ!それを何故!」
「ネオ=ジオンの理想は素晴らしい」
「な・・・・・・!」
 ロンド=ベルの者達にとっては驚くべき答えであった。
「あれこそまさに理想だ。理想は実現されなければならない」
「その為に多くの人が死んだとしても!」
「正しき世界を作るのに犠牲はつきものだ」
「詭弁だ!」
「詭弁ではない。正しき世界には不要な存在も多い。そうした者達を粛清することもまた必要なのだ」
「・・・・・・・・・」
 クワトロはそれを黙って聞いていた。何故か一言も発しない。
「その為にはコロニー落としを成功させる。人類の未来の為に」
「どうやら言っても無駄なようだな、このおっさんには」
 忍が話を打ち切るようにして言った。
「じゃあ潰してやる!覚悟はいいな!」
「我々も何の策もなしにここにいるわけではない」
「何ィ!?」
「い出よ、我が愛する兵士達よ」
 ロンド=ベルを取り囲むようにして木星トカゲの大軍が姿を現わした。
「ここで殲滅してくれる。そして人類の理想社会を築くのだ」
「そうはさせるかあっ!」
 ダイゴウジが叫んだ。
「このダイゴウジ=ガイ様がいる限り勝手なことはさせねえ!」
「ヤマダさん、ナデシコの重力波ビーム圏内から出てますよ」
「おっとと」
 メグミに言われ慌てて戻る。
「とにかくだ。また懲りずに出て来たのならまた潰してやるだけだ。覚悟しろ!」
「熱いね、どうも」
 ナガレがそれを聞いて微かに笑った。
「けれどそれもまたよし」
「よし、はじめて意見があったな!」
「ただエレガントにことを運びたいが」
「ナガレ、それ言うと話がややこしくなるから止めな」
「済まない、ノイン女史」
「あたしはリョーコだよ。だから止めなって」
「話はいい!とにかく行くぞ!」
 ダイゴウジが話を引っ張っていた。
「攻撃目標かぐらつき!一気に行くぞ!」
「おう」
「それは待ってくれ」
 しかしそれはグローバルにより制止された。
「グローバル艦長」
「君達ナデシコとエステバリス隊には木星トカゲの部隊の迎撃に向かってもらう。バルキリー隊と共にな」
「何故」
「その方が向いているからだ。あの戦艦にはダンクーガとゴッドマーズ、そしてダイモスを向かわせる」
「よしっ、あのおっさんを地獄に叩き込んでやるぜ」
「忍にいい目見させるのはちょっと癪だな、いつも派手に戦ってる癖によ」
「それが人徳ってやつなんだよ」
 忍はリョーコにそう言い返した。
「まあここは任せてな。悪いようにはしねえぜ」
「後先考えずにやるのは止めろよ」
「そうじゃなかったら戦争なんてできねえだろうが」
 亮の忠告には当然のように耳を貸さない。
「戦争ってのはなあ、直感でやるもんなんだよ」
「・・・・・・それが士官の言葉か」
 それを聞いたアランが呆れた声を出した。
「藤原、落ち着け」
「落ち着くのは俺の仕事じゃねえ。目の前にいる連中をブッ殺すのが仕事なんだよ」
「何かいつもこんな感じだなあ」
 雅人も呆れていた。だがそこに敵が来る。
「おっと!」
 火星トカゲの攻撃をかわす。そしてダンクーガの拳で目の前にいる一機を叩き潰す。
「その程度でやられるかよ!」
「腕は落ちてはいないようだな」
「うっせえ、アラン、御前のところにも来てるぞ!」
「わかっている」
 アランはそれに応えてブラックウィングを動かせた。そして木星トカゲを一機撃墜した。
「これでいいな」
「おう、まあな」
「では君達にはそのままかぐらつきに向かってもらおう」
 グローバルがあらためて指示を下した。
「いいな」
「言われなくてもやってやらあ!そこにデカブツ覚悟しな!」
「私がデカブツか」
 草壁はそれを聞いて苦笑した。
「面白い。では来るがいい。ダンクーガの力見せてやろう」
「おうよ!」
「おっと、俺も行かせてくれよ」
「洸」
 洸とブルーガーもやって来た。
「小隊を組んでいるしな。いいだろう」
「ああ、まあな」
「俺達もかぐらつきに向かう。グローバル艦長、それでいいか」
「そうだな」
 彼は神宮寺の言葉を聞きそれに頷いた。
「許可しよう。君達も向かってくれ」
「了解。聞いたな、ミスター」
「ああ」
「攻撃目標はあの化け物。麗、マリッペ、猿丸先生もいいな」
「はい」
「わかったわ、洸」
「それで僕もなんですねえ、トホホ」
「おいおい、猿丸先生がいなくて何がコープランダー隊なんだよ」
「レーダーの方宜しく頼みますね」
「はい」
 彼は嫌々ながらもそれに頷いた。そして突撃するブルーガーの中でレーダーにしがみつくのであった。
 ゴッドマーズとボルテスもかぐらつきに向かう。他のマシンはその道を開けるのと艦隊の護衛に回っていた。特にエステバリス隊は艦隊を上手く護衛していた。
「オラオラッ!」
 リョーコのエステバリスがライフルを放つ。それにより木星トカゲを次々に撃墜していく。
「ボヤボヤしてっとまとめて撃墜してやるぞ!」
「リョーコさん気合バッチリィ」
「気合は機雷・・・・・・」
「そこで無理矢理な駄洒落飛ばすんじゃねえ!気が抜けるだろうが!」
 イズミにそうクレームをつける。
「おやおや」
「けれど私たちもちゃんとやってますよお」
「・・・・・・まあな」
 見ればヒカルとイズミも戦っていた。ライフルで敵を次々と撃墜していた。
「相手が相手だけに慣れたもんだな」
「ほう、慣れたものか」
「その声は!?」 
 アキトがその声に反応した。
「北辰衆!」
「久し振りだな、テンカワ=アキト」
 そこに突如として北辰衆の者達が姿を現わした。
「元気そうで何よりだ」
「貴様等、どうしてここに!」
「我等もまたネオ=ジオンに協力しているのだ。草壁閣下の下でな」
「何っ!?」
「ボゾンジャンプを使ってここまで来た。わざわざ火星からな」
「一体何の為に」
「戦場に来る目的は一つ」
 北辰は落ち着いた声でそう答えた。
「敵と戦う為。違うかな」
「俺達とやろうってのか!」
「無論」
 ダイゴウジに答えた。
「貴様等の相手は我々がする。そしてテンカワ=アキト」
 彼はそう言いながらアキトを見据えた。
「貴様の相手は私だ。覚悟はいいか」
「言われなくても御前だけはやってやる」
 アキトはキッとした顔で言い返した。
「この前の借りがあるからな」
「へえ」
 それをナデシコのキッチンで聞いていたホウメイは声を漏らした。
「彼も強くなったもんだねえ。ラーメンのことばかり考えていると思ったら」
「やってやる。このエステバリスで!」
「・・・・・・・・・」
 ルリはそれを黙って聞いていた。表情は変わらないが何やら思うところがあるようである。
「アキトってさいっこう!」
 ユリカはその横でアキトの雄姿を見てはしゃいでいた。
「そうでなかったら私の恋人にはなれないわ!」
「けれど勝てるかどうかは別です」
「どういう意味なの、ルリルリ」
 それにハルカが尋ねた。
「アキト君なら負けないわよ」
「負けはしないでしょう。けれど」
「けれど!?」
「勝てもしないと思います。エステバリスでは」
「何かよくわからないんですけれど」
 ハーリーがそれを聞いて首を捻る。
「今のアキトさんとエステバリスでは勝てないということでしょうか」
「はい」
 ルリは彼にそう答えた。
「もっと強いマシンがあればわかりませんが」
「そう言いましても」
 これには皆首を傾げた。
「エステバリスはあれ以上は強化できないし」
「どうしたものか」
「そうかなあ」
 しかしユリカだけはそれには疑問であった。
「艦長、何か御考えでも」
「新しいエステバリス作っちゃえばいいじゃない。思い切って」
「ネルガルに?」
「そうね、プロスペクターさんに頼んで。どうかしら」
「う〜〜〜〜〜ん」
 だがそれには殆どの者が賛成していないようであった。
「それはどうでしょうか」
「駄目かなあ」
「駄目というよりは。お金が」
「お金が解決したらいいのね」
「えっ!?」
 これには皆再び驚かされた。
「じゃあ連邦軍にかけ合ってみるね、時間があったら」
「艦長、本気ですか!?」
「勿論よお。それだとロンド=ベルのパワーアップにもなるしアキトも活躍できるし。いいことばかりじゃない」
「そうでしょうか」
「悪くない考えだと思います」
 驚いたことにルリがそれに賛成の意を表わした。
「ルリちゃん」
「アキトさんの素質と能力を考えますといずれエステバリスでは限界が生じると思われます。新しい、全く別のマシンを開発する必要があります。オモイカネもそう分析しています」
「じゃあそれで決まりね」
「ただ、開発にはかなりの時間がかかると思います。それでもいいですか」
「えっ、今すぐじゃないの!?モビルスーツみたいに」
「モビルスーツもすぐには開発できないぞ」
 ブライトがそれを聞いて呆れてそう言った。
「そんなことできたら苦労はしない」
「そうだったの」
「かなり後になりますがそれでいいでしょうか」
「ええ、いいわ」
 それでもユリカはそれをよしとした。
「ルリちゃん、じゃあプロスペクターさんに連絡して」
「はい」
「何はともあれアキトの格好いい姿をもっと見られるんだから。楽しみよね」
 だが当のアキトはそれどころではなかった。彼は北辰と必死に戦っていた。
「このおおおおっ!」
「甘いっ!」
 ライフルやミサイルを放ってもそれをかわす。そして胸元に飛び込んできて接近戦を仕掛ける。アキトはそれを何とかかわす。だが接近戦は苦手なので思ったように反撃を仕掛けられない。それが北辰の狙いであったのだ。
「どうした、その程度か」
「クッ・・・・・・」
 アキトはそう言われて歯噛みした。
「前と然程変わってはいないな。進歩がない」
「言うな!」
 アキトはそれに激昂して間合いを離す。そしてまた攻撃に転じた。
「これなら!」
「何度やっても無駄だ」
 だが北辰の笑みは変わらなかった。彼は余裕をもってアキトの攻撃をかわしまた接近戦を仕掛ける。こうしてアキトを翻弄していたのであった。
「そのエステバリスではな。私を倒すことはできん」
「そんな筈はない!」
 アキトはそれに反論する。
「できる筈だ!エステバリスでも!」
「無駄だ。このマシンはエステバリスに対抗する為に開発されたのだ」
「やはり」
 ルリはそれを聞いて呟いた。そして北辰を見る。その金色の目が輝いた。
「・・・・・・成程」
「何かわかったんですか!?」
「はい。おおよそのことは」
 ハーリーにそう答えた。
「北辰衆のマシンのデータはわかりました。後でファイルにしてネルガルにお送りします」
「頼んだわよ、ルリちゃん」
「はい。これで何とかできると思います。いずれは」
「今は!?」
「アキトさん次第です」
 そうであった。今はエステバリスでやるしかない。それはルリが最もよくわかっていることであった。アキトもわかっていた。だからこそ命をかけて戦っていたのだ。
「そら、どうしたのだ」
「クッ!」
「それではこの夜天光を倒すことなぞ不可能だぞ」
「果たしてそうかな」
 しかしそれに異を唱える者が出て来た。
「ムッ!?」
「邪魔しちゃ悪いがな。アキトの危機には黙ってはいられなくてな」
「貴様は」
「俺か?フォッカーっていうんだ」
 ロイ=フォッカーとその愛機ロイ=フォッカー=スペシャルがその場に姿を現わした。
「大した自信だ、気に入ったぜ」
「気に入ってどうするつもりだ」
「決まっているさ。倒してやるよ。それがパイロットってもんだろ」
「・・・・・・私を倒せると思っているのか」
「今までその台詞は飽きる程聞いてきたな」
 彼は自信に対して自信で返した。
「言った奴は全員死んでいるがな」
「面白い」
 北辰もそれを受けることにした。
「では私が生き残る最初の者となる」
「それも聞いているぜ」
「さらに面白い。では行くぞ」
「来な。アキト」
 フォッカーはアキトに声を送った。
「そういうことだ。悪いが他の連中の相手に回ってくれ」
「は、はい」
「もう、フォッカー少佐ったら」
 ユリカはフォッカーが出て来たのを見てふくれていた。
「折角アキトがいいところ見せてくれるところだったのに」
「いえ、フォッカー少佐の判断は的確です」
「どうして?」
「今のアキトさんでは押されていました。だからこそ少佐がここに来られたのです。相手をできるのは自分しかいないとわかっておられるこそ」
「そういえばそうね」
 ルリの言葉にハルカが同意した。
「モビルスーツ部隊は今近くにいないし。アムロ中佐やカミーユ君なんていたら別なんだろうけど」
「エマ中尉やウラキ中尉もあっちだし」
 彼等はロンド=ベルはおろか連邦軍でも屈指のエースであった。流石に彼等の力量はズバ抜けたものがある。ハルカ達もそれはよく知っていた。
「となるとここにはフォッカー少佐しかいない。ここはお任せしましょ」
「はい。では少佐、お願いできますか」
「俺はクローディア以外のレディの頼みは引き受けないんだがな」
「じゃあ私からもお願いするわ」
 それを受けてそのクローディアも出て来た。
「ロイ、頼めるかしら」
「おうさ」
 それを聞いてニヤリと笑った。
「クローディアに言われちゃあな。仕方ないか」
「お願いするわね」
「そういうわけだ。そこの若いの」
「私のことか」
「そうさ、他に誰がいるんだ」
 北辰に対して言う。
「覚悟するんだな。いいな」
「スカル小隊のリーダー、ロイ=フォッカー。噂だけは聞いている」
「じゃあ話は早い。行くぜ」
「本来ならばテンカワ=アキトを相手にしたいところだが売られた勝負は買わないわけにはいかない。行くぞ」
「おうよ」
 バルキリーと夜天光が激突した。フォッカーはめまぐるしく動き回りながら夜天光に攻撃を仕掛ける。
「ミサイルじゃあ俺は倒せはしねえぞ!」
「クッ!」
 北辰はそれを見て舌打ちした。
「まさかこれ程の動きとは・・・・・・」
「バルキリーの運動性能を甘く見るな!この程度じゃねえぞ!」
 さらに動きを速める。そして攻撃を仕掛けてきた。
「食らえっ!」
 今度はバルキリーがミサイルを放った。ミサイルはそれぞれ複雑な動きを示しながら北辰に向かう。彼はそれを手に持つ杖で何とか防いでいた。
「おのれっ!」
「まだ終わりじゃねえぜ!」
 変形した。そしてガウォークになりガンポッドでの攻撃に変える。ミサイルだけでも苦戦していた北辰はそれを受けてさらに窮地に陥った。
「ぬおっ!」
 ガンポッドの攻撃を胸に受けた。それで怯んだところにフォッカーはバルキリーに戻り再びミサイルを放つ。それが決め手となった。夜天光は大破してしまった。
「おのれ・・・・・・」
「どうだ、これがバルキリーの動きだ!」
「それよりも貴様の技量といったところか」
「フン、褒めても何も出ねえぞ」
「率直に感想を述べたつもりだがな。だが今回の勝負は決まった」
「俺の勝ちだな」
「残念だがな。ここは退いてやろう。さらばだ」
 そう言い残すと姿を消した。他の北辰衆もリーダーが去ったのを見て戦場を去った。フォッカーはそれを悠然と眺めていた。
「少佐」
 そんな彼にアキトが声をかけてきた。
「おう少年、元気そうだな」
「有り難うございます。助けて頂いて」
「礼には及ばんと言っているだろ。俺も久し振りに戦いがいのある奴とやりあえて楽しい気分なんだ」
「そうなんですか」
「ああ。あの夜天光ってのはかなりの強さだ。それはわかった」
「そのわりには押してたように思えますけれど」
「俺のミサイルをあそこまでかわした奴ははじめてだ」
 ヒカルに対してそう答えた。
「本来ならあそこで倒せていた。しかしそれができなかった」
「それでガウォークに」
「ああ。あれは予想外だったぜ。だが何とかそれで退けることはできたな」
「ついでにあいつの手下もどっかに行っちあったしな。清々しくなったぜ」
「とりあえずはそうですね。ホッとしました」
 ジュンがリョーコに対してそう述べた。
「一時はどうなるかと思いましたけれど」
「そう言う割にジュンさんも頑張っていましたよね」
「えっ、そうかなあ」
「おうさ。まさか北辰衆の奴等を一度に二人も相手にするとは思わなかったぜ。大健闘だな」
「あ、あれはたまたまで」
 ヒカルとリョーコに言われ謙遜した。
「本来の僕の実力じゃないよ。本当にたまたまなんだから」
「パイロットにたまたまはなくてな」
 そんな彼にフォッカーが言葉をかけた。
「培った技量が全てなんだ。偶然なんてのはないさ」
「そうでしょうか」
「ああ。だから御前さんも自分の腕に自信を持ったらいい。それだけのことができたんだ」
「はい」
「それでいずれは俺みたいになれよ」
「少佐みたいに」
「そうだ、俺を目指すんだ」
「それは駄目よ、ジュン君」
 しかしここでクローディアがモニターに姿を現わした。
「クローディアさん」
「ロイみたいになったら何時か大怪我するわよ。今までどれだけ怪我してきたか」
「おい、それは言わない約束だろ」
「言いたくもなるわよ。この前だって調子に乗ってアクロバットやってマクロスに激突しかけたじゃない」
「あれは前の戦いの話だろうが」
「それでもよ。どうしてそんなに向こう見ずなのよ」
「パイロットってのはなあ、命掛けでやるもんだ」
 彼は反論した。
「だから多少の危険は付き物なんだよ」
「それと向こう見ずは違うわよ」
 クローディアも負けてはいない。
「もしものことがあったらどうするのよ」
「そんなことは有り得ないな」
「どうしてそう言えるのよ」
「俺には勝利の女神がついているって言ったろ」
「え!?」
「御前がな、クローディア。御前がいる限り俺は死なないさ」
「・・・・・・馬鹿」
「結局おのろけなんですね」
「仲良きことは美しきかな、ですよ」
「そうなのかなあ」
 ジュンとヒカル、アキトはそれぞれの感想を述べた。戦いはその間に佳境に入っていた。
「ゴッドバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァドチェェェェェェェェェェェェェェンジ!」
 ライディーンが変形した。かぐらつきを前にゴッドバードになる。
「照準セェェェェェェェェェェェェェェェェェェーーーーーーーーット!」
 照準を合わせた。そしてそのまま突撃を敢行した。
「ぬうっ!」
 直撃を受けたかぐらつきが揺らぐ。だが草壁はそれでも艦橋に立っていた。
「まだだ!まだ沈みはせん!」
 そう言って動揺しかけた部下達を安心させようとする。しかしそこに忍のダンクーガが来た。
「皆、一気にいくぜ」
「おう!」
 他の三人がそれに頷く。ダンクーガは巨大な剣を出してきた。
「空なる我もて敵を討つ・・・・・・」
 恐ろしい程落ち着いた声になっていた。この時忍は心を空にしていた。
「いけええええええええ!断空光牙剣!」
 剣身が巨大な白い光となった。そしてかぐらつきを一閃した。それで以って致命傷を与えた。
「ぬううっ!」
「これでどうだっ!」
「まだだ、まだ沈みはせん!」
 しかしそれでも草壁は立っていた。
「この程度ではまだ!」
「いえ、司令、これ以上は」
 ここで部下の一人が彼に対して言った。
「コントロール部をやられました!これ以上の戦闘は不可能です」
「まことか」
「はい、残念ながら」
 部下は口惜しそうにそう述べた。
「ここは退くべきだと思いますが」
「・・・・・・わかった」
 彼は苦汁に満ちた顔でそれを受け入れた。
「では下がろう。よいな」
「はっ」
 かぐらつきはそれを受けて戦場から離脱を開始した。しかしそれを逃す忍ではなかった。
「待ちやがれ!」
「待て、藤原」
 だがそれをアランが制止した。
「何だよ、追うなってのかよ」
「そうだ。今はかぐらつきよりも優先させなければならないことがある」
 彼は忍に対してそう語った。
「残敵の排除、そしてコロニー落としを防ぐことだ。わかったな」
「・・・・・・チッ」
 彼は舌打ちしながらもそれに頷くことにした。
「そうだな。じゃあそっちに向かうか」
「そうだ。では行くぞ」
「ああ」
 だが敵は既にその殆どが撤退していた。木星トカゲの部隊はボゾンジャンプで戦闘宙域から去っており、モビルスーツ部隊はコロニーの方に離脱していた。こうして戦いは幕を降ろしたのであった。
「これで敵の防衛ラインは突破したな」
 ブライトは戦闘の終わった宙域を見回しながらそう言った。
「はい。思ったよりあっさりといきましたね」
「一時はどうなるかと思いましたけどね」
「そうだな」
 トーレスとサエグサに対して頷いた。
「だがまた新たな敵がはっきりしたな」
「火星の後継者か」
「ああ」
 艦に戻り、艦橋にやって来たアムロに対しても応えた。
「ナデシコと合流した時からおかしいとは思っていたがな」
「そうか」
 アムロはそれを聞いて頷いた。
「だがまさか新しい組織が出て来るとはな。意外だった」
「しかもネオ=ジオンと結託するとはな。これは厄介だぞ」
「ああ」
「それも火星にだ。下手をするとネオ=ジオンはティターンズに匹敵する力を手に入れたのかも知れない」
「だとしたら大事ですよ」
 トーレスがそれを聞いて口を挟んできた。
「ただでさえ手強いモビルスーツを一杯持っているっていうのに」
「わかっている。いずれ彼等も何とかしなくてはならない」
「そうだな」
「だがとりあえずはコロニーに向かおう。全てはそれからだ」
 こうして彼等はコロニーに向かうことになった。アイビスはその時アルビオンの自室で窓の外を眺めていた。
 そこには無限の銀河が拡がっている。彼女は何も語らずただその星の大海原を見ているだけであった。
「アイビス、部屋にいたのね」
 そこにツグミが入って来た。
「探したのよ、何処にいるのかって思って」
「済まない、心配をかけたな」
「いえ、いいわ。それより気になるのね」
「ああ」
 彼女は友の言葉に頷いた。
「何かね、ネオ=ジオンとなるとね」
「彼女、多分今回の作戦にも参加しているわよ」
「だろうな。あいつのパイロットとしての腕とベガリオンの性能を考えるとね」
 アイビスは真剣な顔でそう語った。
「絶対にいるだろうね。そしてあたしに向かって来る」
「けれど、わかってるわね」
「ええ」
 彼女はそれに頷いた。
「負けないよ、あたしは。もう何があっても」
「そうよ」
「アルテリオンがある限りね。絶対に負けない」
「ただ、無理はしないでね」
「無理!?」
「ええ。何かアイビスって彼女のことになると人が変わるから」
「そうだろうね」
 彼女はそれを認めた。
「あいつのお兄さんのこともあるしね。今はネオ=ジオンにいるんだったな」
「そうらしいわね」
「ネオ=ジオンとは縁があるね。どういうわけか」
「本当ね。皮肉なものだわ」
 ツグミは悲しい顔になった。
「ここにいる人の多くがそうだから言ってはいられないけれど」
「ああ」
 アイビスは答えながら星を見た。星は何も語らず銀河に輝いていた。
「こんなに綺麗なのにな、星は」
「そうね」
 ツグミもそれを受けて星に目をやった。
「人間ってのは戦い続ける。因果なものだよ」
「そうね。けれど戦いは何時か終わるわ」
「終わるのかな、本当に」
 アイビスはそれを疑問にすら感じた。
「こんなに激しいのに」
「どんなことでも終わりがあるから。この戦いも」
「そう思いたいね」
「それでこの戦いが終わったらどうするの?」
「どうするって?」
 アイビスはツグミに顔を戻した。
「どうすればいいと思う?ツグミは」
「遠い何処かに行かない?二人で」
「遠くへか」
 それを聞いて虚空に目をやった。
「悪くはないね、それも銀河の遥か彼方へ」
「何があるかわからないけれど。行ってみる」
「ああ、行こうか」
 彼女はそれに応えた。
「二人でね」
「若しかするとまだ増えるかもしれないけれど」
「?誰だよ、それ」
「それは秘密」
「わからないこと言うね、全く」
「ふふふ」
 そんな話をしながらも次の戦いの時は迫っていた。アイビス達にとっても正念場が近付こうとしていたのであった。


第三十九話   完


                                       2005・8・15

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