召還者
「オルファンの方は一段落ついたようですね」
 地下の奥深くにある玄室で男がいた。彼は小鳥に対してそう声をかけていた。
「それにしても意外でしたね」
「何がですか?」
 男は小鳥の声に応えてそう言った。
「いえね、オルファンのことですよ」
「人類の為になるということですか?」
「ええまあ。あれが浮上すると地球が崩壊するって言われていたもんですから。驚きましたよ」
「人間というのは臆病なものです」
 男は笑いながらそう述べた。
「知らないものに対しては恐怖を感じるものです」
「じゃあオルファンもそうだったんですか?」
「はい」
 それに頷いた。
「だからこそ怯えていたのですよ、彼等は」
「そうだったんですか」
「ですが問題が解決されたわけではありません」
「といいますと」
「それはそれで利用しようとする輩が出て来るということですよ。例えば」
「あの訳のわからない三人組ですか?何だかんだ言っていつも一緒にいる」
「彼等ならもう動いていますよ」
「あら、せっかちなんですね」
「迅速だと彼等自身は思っているようですけれどね。オルファンに向かっているようです」
「何かまた馬鹿なことやっちゃいそうですね、あいつ等」
「貴女はどうも彼等が嫌いなようですね」
「いや、そうじゃないんですけれどね」
 小鳥はそれを否定した。
「何と言いますか、からかいたくなるんですよ」
「おや」
「見ているだけで。あんな馬鹿っぽい連中は」
「それでですか」
「そうですね。見ていて飽きないですし。これから何をしでかすか楽しみですよ」
「ではこれから彼等に会いに行きますか」
「えっ!?」
 それを聞いて思わず声をあげた。
「御主人様、今何て」
「聞こえなかったのですか?オルファンに向かうと言ったのですよ」
「けどそれは」
「大丈夫ですよ、目的はオルファンでも彼等でもありませんから。戦闘にはならないでしょう」
「じゃあどうして行くんですか?」
「もう一つの存在に用があるのですよ」
「もう一つ・・・・・・。ああ、連中ですね」
「はい。そろそろラ=ギアスの方も何とかしなければならないですし」
「シュテドニアスの次はバゴニアが動いているみたいですね。フェイル王子が対応に苦慮しているそうですよ」
「今更動いたのですか、バゴニアが」
 ラングランの南東に位置する国である。連邦制でありラ=ギアスにおいては第三勢力となっている。ラングランとは国境等を巡って対立関係にある。
「タイミングが悪いというか」
「いえ、それがそうもばかりは言えないようですよ」
「?どういうことですか」
「ゼツがバゴニアにいるらしいですよ」
「ゼツが」
 それを聞いた男の顔が見る見るうちに曇っていった。
「それは本当ですか!?」
「はい、どうやら確かな情報らしいです。何でもあそこでまた厄介なことをしようとしているとか」
「ではこれで決まりですね」
「戻りますか?」
「はい。ですがその前にオルファンに向かいましょう」
「結局そうなるんですね。やれやれ」
「仕方ありません。どのみち彼等の力は必要ですから」
「それが嫌なんですよねえ。あの方向音痴もいますし」
「ふふふ」
 小鳥の嫌そうな声を聞きながら男は笑っていた。
「そんなに嫌ですか」
「勿論ですよ、側に猫が絶対いるし。あたしにとって猫ってのは天敵なんですよ」
 これは鳥であるから当然であった。鳥にとって猫は天敵であるのだ。
「おまけに黒豹や狼までいるし。物騒なことこの上ないですよ」
「大丈夫ですよ、それは」
 男はそう言って小鳥を宥めた。
「いざとなったら私の影に隠れればいいですから」
「お願いしますよ、本当に。何かあってからじゃ遅いですから」
「わかってますよ、だから安心して下さい」
「頼りにしてますよ、御主人様」
 そんなやりとりを終えてその玄室から消えた。彼等は何処かへと姿を消したのであった。

 その頃ロンド=ベルは再びオルファンに向かっていた。だが今度は彼等との戦いの為ではなかった。
「全く人使いが荒いな」
 真吾は自室でそうぼやいていた。
「今度は救援か。オルファンってのは的みたいだな」
「言いえて妙だな。あんなに目立っちゃ仕方ないな」
 キリーがそれに応えてこう言った。
「出る杭は打たれるってね。日本の諺だったな」
「よく知ってるな、キリー」
「伊達に自伝書いてるわけじゃねえぜ。これでも文章は勉強してるんだ」
「その自伝売れるといいわね」
 レミーが笑いながら話に入ってきた。
「楽しみにしてるわよ、キリー」
「まあ書き上がるのはまだ先だがな」
「何だ、まだ書いていないのか」
「文章ってのはな、推敲が大事なのさ。どういった素晴らしい文章にするか」
「ストーリーもじゃないの?」
「俺の人生を俺が書くんだぜ、ストーリーは最高なものに決まっているさ」
「あら、そうとも限らないんじゃないの?」
「レミーは辛口だね、本当に」
「綺麗な薔薇には棘があるのよ」
「おやおや」
「それで今度の敵は誰なんだ?」
「何でもドクーガらしいぜ」
「そうか。連中と会うのも久し振りだな」
「まぁたあの三人が一緒でしょうね。懲りないこと」
「懲りるのなら最初からドクーガには入ってはいないだろうな」
「言われてみればそうなのよね。頭にそうした考えがインプットされていないのかしら」
「悪役は不滅なのさ、特に連中みたいなのはな」
「やれやれといったところだな、全く」
「頼りにしてるわよ、真吾」
「じゃあ頼りにされてみるか」
「ケン太の為にもね」
「了解」
「そういや最近ケン太はOVAや他の子供達といつも一緒にいるな」
「そういえばそうね」
「ロンド=ベルに合流するまではずっと俺達と一緒だったのにな」
「キリー、妬いてるの?」
「そういうふうに見えるか?」
「見方によってはね。どうなの?」
「否定はしないな」
 彼は口の左端を歪めてそう答えた。
「何か寂しいのは事実だな」
「またキリーらしくない言葉だな」
「俺はこう見えても繊細なんでね」
「そうなのか」
「側に可愛い子がいないと寂しいのさ。子供でもな」
「何かその表現危険じゃないかしら」
「ん!?そうか!?」
「ええ、何となくね。気をつけた方がいいわよ」
「そうだな。俺も結構そう言われることがあるしな」
「御前はまた運がないだけだろ」
「おい、それは言わない約束だぞ」
「ははは、悪い悪い」
 グッドサンダーの三人はそうした軽いやりとりをしてリラックスしていた。だがケン太はそうはいかなかった。
「えっ、またあ!?」
 彼はOVAから出された宿題の山を見て嫌そうな顔をしていた。
「ケン太君、勉強だけは忘れてはいけませんよ」
 OVAはそんな彼の顔を見て嗜めた。
「少年老い易く、学成り難しです」
「それでも多過ぎないかなあ」
「多いにこしたことはないですよ。人生は常に勉強です」
「学校の勉強だけじゃなくて?」
「はい」
 OVAは頷いた。
「何でも勉強ですよ。ビムラーのことも」
「そうなんだ」
「だから頑張って下さい。身体だけ鍛えてもよくはないです」
「ふうん」
「頭も鍛えないと。いいですね」
「わかったよ。じゃあこれをしなくちゃいけないんだね」
「はい」
「じゃあとりあえず今日はこれをするよ」
「私も側にいますから。頑張りましょう」
「うん」
 こうして彼はOVAと一緒に勉強に取り掛かった。二人で真剣に取り組むその姿はまるで母子のようであった。
「何かいい光景だな」
 マサキがそれを見て目を細めていた。
「ああして勉強して、それを教えるってのはな」
「マサキって勉強できるの?」
「俺は体育だけだったけれどな。まあそんなことはどうでもいいじゃねえか」
 ミオにそう答える。
「どっちにしろ今の俺にはあまり関係ねえよ」
「そうね。プレシアちゃんって一人でもお勉強できるし」
「しっかりした妹を持つとな。兄貴はすることがねえんだよ」
「そのかわりに妹は大変だったりして」
「おい、そりゃどういう意味だ」
「にひひひひひひひ」
「ミオ、おめえ最近特に性格が悪いぞ」
「あたしは元々そうなんだから。気にしない気にしない」
「気にするよ。ちょっと待って」
「鬼さんこちら」
 二人はそんなやりとりをしながら廊下から消えた。その光景を今度は大介とマリアが眺めていた。
「ううん」
「どうしたの兄さん、何か複雑な顔しちゃって」
「いや、兄妹というのは血は繋がっていなくても成り立つもんだな、と思ってね」
「そういうものかしら」
「少なくともマサキ君とプレシアちゃんはそうみたいだね。仲がいいよ」
「妬いてるの?」
「おいおい、何を言っているんだ」
 大介は妹のその言葉は否定した。
「僕には御前がいるじゃないか。ちゃんとした妹が」
「だったらいいけれど」
「それに御前の他にもいてくれるしな。鉄也君に甲児君も」
「何か兄さんってマジンガーチームのお兄さんみたいだものね」
「ジュン君やさやかさん、ボスもいるしな。そういえばそうかな」
「あら、私は?」
「ちづるさん」
 ちづるもそこに姿を現わした。
「ひどいわ、私を除け者にするなんて」
「除け者にはしていないよ。ただちづるさんは」
「私は?」
「特別なんだよ。マジンガーチームの中でも」
「そうかしら」
「少なくとも僕にはね。だから安心してくれ」
「そう。だったらいいけれど」
「あっ、大介さんここにいたんだ」
「ちょっと来てくれませんか」
「ん!?」 
 見れば彼の弟達がそこにいた。
「丁度今から宙の奴とトレーニングルームで自転車競走やるんですけれど」
「大介さんもご一緒しませんか?人数が多い方がいい」
「いいね」
 大介は二人の呼び掛けに応じて微笑んだ。
「それじゃあ早速行かせてもらうよ。ちづるさんとマリアもどうかな」
「私は遠慮させてもらうわ。ちょっとさやかちゃんやジュンちゃんとお話したいから」
「そうか」
「あたしは別にいいけれど。何だったらあたしも入れてよ」
「えっ、マリアもか!?」 
 それを聞いた甲児が驚きの声をあげる。
「言っておくが相手はサイボーグだぜ」
「しかも元レーサーだ。それでもいいのか」
「何よ、甲児も鉄也さんもあたしが負けると思ってるの!?」
「いや、そうじゃねえけど」
「手強いぞ。いいのか」
「あたしは敵が強ければ強い程燃えるのよ」
 そう言ってニコリと笑った。
「相手が宙だなんて光栄じゃない」
「だったりいけどよ」
「大介さん、それでいいですか」
「僕が言っても聞かないだろうしね。別に危険じゃないしいいか」
「さっすが兄さん、わかってるじゃない」
「全く。困った奴だ」
「まあいいじゃない。それで勝ったら何をもらえるの?」
「宙が勝った場合は野球のチケット」
「何か宙らしいわね」
「俺達が勝ったらプロレスのチケットだ」
「それでいいか」
「ええいいわ。じゃあ兄さん行きましょう」
「わかった。それにしてもスポーツばかりだな」
「仕方ないでしょ。宙の奴が好きなんだから」
「俺達だってそれは同じでしょう。じゃあ行きましょう」
「うん」
 四人はちづると別れてトレーニングルームへ向かった。ちづるは一人彼等の後ろ姿を見送りながら困ったような顔をしていた。
「鈍いんだから、もう」
 そんな彼女の気持ちにも自分の言葉の意味もわかっていない大介であった。

 三隻の戦艦はオルファンに向かっていた。その途中シーラの顔は今一つ晴れなかった。
「シーラ様、やはりあのことが」
「はい」
 カワッセの問いに沈んだ顔で応えた。
「勝平さん達がいなかったのがせめてもの救いですが」
「致し方ありません」
 カワッセもそれを受けて暗い顔になった。
「戦いとはああした者達も生むものですから」
「それはわかっていたつもりですが」
 それでもシーラの顔と声は晴れない。整った顔に陰が差していた。
「彼等の気持ちもわかりますから」
「はい」
 彼等はガイゾックとの戦いを終えオルファンに向かう前に難民達を保護していた。そこには勝平の喧嘩相手であった香月や彼といつも一緒にいたアキやミチもいたのだ。彼等は口々にロンド=ベル、そして神ファミリーを批判していたのであった。
「御前等がいるからガイゾックに攻められるんだ!」
 と。ガイゾックは軍事施設よりも一般市民を標的として狙う。戦争において最も醜く、卑劣なやり方を好むのである。
 彼等はその犠牲になった。その恨みや怒りをロンド=ベル、そして神ファミリーに向けたのだ。頭ではそうではないとわかってはいてもそうするしかなかった。心の問題であった。
 彼等はそれでも任務を実行した。難民達を保護して安全な場所に届けた。宙やトッド、アスカ等は露骨に嫌そうな顔をしていたがそれでも任務を実行したのだ。
「戦争なら一般市民も巻き添えになるのは当然なんだよ」
 トッドは苦々しい顔でそう言った。
「それが戦争だろうが」
 彼のいたアメリカでは戦争は一般市民を巻き込むのが普通であった。インディアンとの戦いにおいても第二次世界大戦においてもベトナムにおいてもそうであった。アメリカ軍というものは一般市民をも攻撃対象とする。内戦であった南北戦争でもそうである。東京やドレスデンでの爆撃もベトナムの枯葉作戦もそうであった。彼等にとって戦争とは掃滅戦である。一般市民であろうと敵なのだ。
「そりゃいいモンじゃねえけどよ」
 彼はそうした戦いは好きではない。嫌悪感も感じている。だがそうした戦争があるのもわかっていた。だからこそ嫌なのであった。
「それでも俺達のせいにするなよな」
「トッドさんの言う通りね」
 アスカがそれに頷いた。
「これは戦争なのよ。何処にいても安全な筈ないじゃない」
「アスカ」
「シンジ、あんただてわかってるでしょ!?そりゃ難民になるのは辛いわよ。けどね」
 いつものキレはなかった。やりきれない顔になっていた。アスカがそうした顔になるのは珍しかった。
「仕方ないじゃない。それであたし達が悪いって言われてもお門違いよ」
「それでも」
「あんたの言いたいことはわかってるわよ。けれどね」
 やはりアスカの顔も暗い。
「じゃあどうしろっていうのよ。あんなガイゾックみたいな連中ほったらかしにしておく方が遥かにやばいでしょ」
「けど」
「あたし達はね、結局戦うしかないのよ。それはわかってるでしょ」
「うん」
「こんなこと・・・・・・覚悟はしてたわよ。けどね」
「もうそれ以上言うのは止めておくんだ」
「万丈さん」
「アスカにトッドももう少し落ち着いてくれ。僕達は僕達のやれることだけをやればいい」
「けどよ」
「いいね。そっちの方が気が楽になるから」
「ああ」
「わかったわ」
 それでも二人の顔は晴れなかった。宙は難民達の言葉に歯軋りし、今にも飛びかからん程であった。美和がそれを止めていた。皆それぞれやりきれない気持ちであった。
「このことは勝平達には内密にしておきます」
「はい」
 シーラはカワッセの言葉を受けて頷いた。
「今は何も言わないでおいた方がいいですね」
「はい」
「それがいいと思います」
「アスカ達はどうなっているでしょうか」
「アスカさん達なら今はゴラオンで落ち着いておられますよ」
 モニターにエレが出て来てそう述べた。
「トッドも。ショウ達が側にいますし」
「そうですか。それは何よりです」
 シーラはエレの言葉を受けて頷いた。
「彼等の心に戸惑いがあってはなりませんから。それを聞いて安心しました」
「ただ、先の戦い以後ガイゾックが姿を再び消したのが気にはなりますが」
「連中のことです。またすぐに出て来ますよ」
 シーラの横にいたミサトがそれに答えた。
「今までの行動からしますと。ですから警戒は緩めるべきではないと思います」
「わかりました。そして今度の敵であるドクーガですが」
「彼等が何か」
「彼等の背後には何かしら邪悪なものも感じます」
「邪悪な」
「全てを支配しようという野心のような。ドレイクのそれに似ています」
「ドレイクの」
 それを聞いてカワッセもエレの隣にいるエイブも顔を顰めさせた。
「はい。ですから彼等についても御気をつけ下さい。前線にいる三人からはそれ程の悪意等は感じられませんが」
「あの三人はまた特別ですね」
 ミサトはそれを聞いて納得したように頷いた。
「何と言いますかあまりにも独特です」
「はい」
「強敵なのは事実ですが変わっているというか。そして三人共何処かで見たような気もします」
「ミサト、あのカットナルって人だけれど」
「片目でカラス肩に泊まらせている如何にもって感じの怪しいおじさんね」
「あれ連邦政府の下院議員のカットナル氏じゃないの?」
「まさか」
 ミサトはそれを否定した。カットナルは下院において過激派で知られている。軍備の拡大に熱心であり、またティターンズに対しても一歩も引かなかった硬骨の男としても名高い。連邦の政治家では人気が高い。
「あんな人が他にいるかしら」
「言われてみればそうだけれど」
「それにあのケルナグールってのもフライドチキンのオーナーに顔が同じなんだが」
「まさか」
 ミサトは今度は加持の言葉を否定した。
「有り得ないわよ、あの人って凄い美人の奥さんがいるんでしょ」
「ああ」
「奥さんと一緒にフライドチキン経営しているそうだし。忙しい筈よ」
「だったらいいけれどな。しかしあんな青い肌であの顔の人間は滅多にいないぞ」
「ううん」
「ブンドルってのも。あの人でヨーロッパの化粧品会社のオーナーなのじゃないかしら」
「ああ、そういえばブンドルって名前のブランドもあるわね」
「他にもデザイナーとかもやってるけれど。あの人にそっくりなのよ」
「何か限り無く灰色に近い黒ばかりのような気が」
「というか三人共完全に黒だろ」
「あんな目立つことをして何がしたいのかはわからないけれど」
「愉快犯とか?」
「否定はできないな」
「あれじゃあね」
 加持とリツコはミサトの言葉に頷いた。
「何を考えているのかは知らないけれど」
「まああまりいいことではないのは確かだな」
「何かわからないわね、あの人達が動く理由が」
「理由もない可能性もあるけれど」
「ううん」
 そんなやりとりをしながらドクーガを追う。その頃ドクーガではクシャミが鳴り響いていた。それも三つであった。
「うぬうう」
「三人同時とは」
「また面妖な」
 カットナル、ケルナグール、そしてブンドルは同時にそう言った。
「誰か噂しておるのかのう」
「わしが美人のかみさんと結婚しておるのを嫉妬しておる奴がいるな」
 恐ろしいことにその予想はある程度あたっていた。
「ふふふ、幸せな者は辛いのう」
「何故お主のような者があんな美人の奥方がいるのか本当に不思議だがな」
「まあ妬くな」
「全く。世の中とはわからぬものだ」
「全く」
「ブンドル、お主も早く結婚したらどうだ」
「残念だが私はまだ一人でいさせてもらう」
「何故だ?」
「一人で孤高の美を追い求める。その姿こそが」
 そして言った。
「美しい・・・・・・」
「さて、いつもの台詞が出たところでレーダーに反応があったぞ」
 カットナルが言った。
「戦艦が三隻だ。どれもやたらでかいな」
「では連中か」
「それしかあるまい。どうする?」
「どうすると言っても決まっておるではないか」
 ケルナグールは即答した。
「全力で叩き潰す。それ以外にあるか」
「そう言うと思っておったわ」
「ではお主はどうなのじゃ」
「わしか?わしは最近暇で困っておったところだしな」
「出番がなかったからのう」
「そうではない。どうも最近派手に暴れておらんから困っておったのじゃ」
「そうなのか。で、お主も戦いたいのじゃな」
「うむ。ブンドル、貴様はどうなのだ?」
「私か?」
「そうだ。まさか戦いを避けると言うつもりはあるまい」
「戦いこそは人類の歴史の華」
 右手に持つ深紅の薔薇を掲げながら言う。
「その華を掴まないこと程無粋なことはない」
「では賛成だな」
「言うまでもないこと」
「では丁度島の上だしな。ここいらで戦うとするか」
「待て、この島には見覚えがあるぞ」
「?何処だったかのう」
「沖縄ではないか。忘れたのか」
「沖縄!?ああ、あそこか」
 ケルナグールは思い出したように頷いた。
「確か日本の南にある」
「そうだ、知らなかったのか」
「海が美しい島だ」
「かみさんが行ったことがなかったからのう。忘れておったわ」
「全く。貴様の店も一つ位あるだろうが」
「生憎わしの店は日本ではまだそれ程進出してはおらんのだ」
「そうだったのか」
「破嵐財閥との問題があってな。それで進出は控えておったのだ」
「貴様にしては慎重だな」
「フン、経営に失敗は許されんのだ」
「美は欠かせないものだがな」
「何はともあれよいな。インパクターを出すぞ」
「うむ」
「今回は私がマシンを出させてもらおう」
「何だ、持ってきておったのか」
「用意がいいのう」
「ふふふ。万端に抜かりはない。それでこそ美も引き立つというものだ」
「いつもの台詞はいいから早く出さぬか」
「そうじゃ。もったいぶっておると飽きられるぞ」
「無粋な。間を知らないのか」
「生憎わしは日本人ではないのでな」
「そういうお主もイタリア人ではないか」
「まあいい。ではい出よ、シャンデラー」 
 ブンドル艦からシャンデリアの様な巨大なマシンが出て来た。
「ロンド=ベルを美しく散らすがいい」
「何だ、シャンデリアそっくりだのう」
「また訳のわからんものを」
「どうやら私の崇高な美は凡人には理解されないようだな」
「いちいち理解していては身が持たんわ」
「いいから貴様もインパクターを出せ。わし等はもう出しているぞ」
「・・・・・・わかった。では出すとしよう」
「早くせい」
「見ろ、もう来おったわ」
 ロンド=ベルも姿を現わした。彼等も次々に出撃していた。
「あら、もう布陣しちゃってるわね」
 ゴーショーグンに乗るレミーがドクーガを見てそう呟いた。
「用意がいいこと」
「マドモアゼル=レミー、レディを歓迎する時に準備は欠かせないものなのだよ」
「あんたもいるしね」
「何かいつもいるな」
「暇なんじゃないのか」
「フン、言ってくれるのう」
 カットナルがそれに応えた。
「生憎わし等は他にもやることがあってのう。貴様等の相手ばかりしておるわけにはいかんのだ」
「わしは家にかみさんがおるしな」
「私は美しいものを追い求めるのみ」
「何だ、あの三人はドクーガはアルバイトなのかよ」
 甲児がそれを聞いて言った。
「戦争をアルバイトでするなんていい身分だな」
「誰がいい身分だ!」
 それを聞いてカットナルが激昂した。まずはトランキライザーを頬張りながら言う。
「わしにとってはこれもまた重要な仕事なのだ!決して副業などではない!」
「ありゃ、聞こえてたか」
「おいおい甲児、気をつけなよ」
 キリーが茶化し気味に甲児に対して言う。
「あの三人は地獄耳だからな」
「耳はとにかくいいからな」
「あと目もね。都合のいい身体の構造してるわよね、本当に」
「わし等の身体のことなぞ放っておけ!」
「そうじゃ、それが貴様等にどう関係があるのだ!」
「いや、大いにあると思うけれどな」
「何度撃沈されても死なねえし」
「実は不死身だったりして」
「色々言ってくれるのう、いつもいつも」
「よくもまあネタが尽きんものだ」
「少なくとも美しい言葉ではないな」
「というかあんた達がネタなんだけれど」
 レミーはそう反撃を加えた。
「ちょっとは落ち着いたら?さもないとレディにももてないわよ」
「わしにはもうかみさんがおるわ!」
「わしにも敬愛する母上がおられる」
「私にはマドモアゼル=レミー、君がいる」
「・・・・・・言ったことがわかんないのかなあ」
「わかっていてもそれは多分理解する段階で俺達の考えとは全然違う方向に行くのだろうな」
「またえらく凄い思考回路だね、こりゃ」
「ごたくはいい!やるのかやらぬのか!」
「売られた喧嘩は買うぞ!」
「早く美しい戦いに入りたいものだ」
「あんなこと言ってますけれど」
「どうしますか、大文字博士」
「そうは言っても最早致し方あるまい」
 大文字はグッドサンダーチームの問いにそう応えた。
「元々迎撃の為にここに来たのだしな」
「じゃあやりますか」
「戦いの後はバカンスという条件で」
「沖縄って可愛い娘ちゃんが多いしな」
「キリー、ここに極上の美人がいるのにつれない言葉ね」
「たまには別の花も見たくなるのさ」
「あら、浮気するのね」
「俺は浮気なんてしないさ。いつも本気だぜ」
「それはどうかしら」
「おやおや、信用ないんだな」
「それがキリーの人徳ってやつだな」
「ちぇっ」
「まあ話はそれ位にしていいか」
「了解」
「やるんですね」
「そうするしかあるまい。皆戦闘用意はできているな」
「勿論」
「話が長かったのでとっくの昔に終わってますよ」
「あらら、そんなに長かったかしら」
「これからはおしゃべりもスピード化しないと駄目なようだな」
「女の子を口説く時はゆっくりと時間をかけなきゃいけないけれどな」
「キリー、バカンスの時は程々にね」
「わかってるさ。じゃあ行きますか」
「よし」
 ゴーショーグンが前に出た。それに続いて他のロンド=ベルのマシンも展開する。
「いよいよだな」
「また思いきり暴れてやろうぞ」
「二人共、まだそれには早い」
 いきり立つ二人をブンドルが制止した。
「?どうしたのじゃ」
「まだ出し忘れていたインパクターでもあったのか?」
「そうではない。一つ忘れていないか」
「?何じゃ」
「何かあったかのう」
「音楽だ。戦いを飾るのに美しい調べは欠かせない」
「またそれか」
「で、今度は何なのじゃ?」
「ワーグナーがいいな」
 ブンドルは二人にそう延べた。
「私の今回のマシンにはワーグナーこそが相応しい」
「そんなものかのう」
「ただお主はワーグナーは嫌いではなかったのか」
「それはワルキューレの騎行だけだ」
 そう反論した。
「あれは今一つイメージがよくない」
「映画でも使われておったのにか」
「あれはかなりよかったぞ」
 コッポラの映画『地獄の黙示録』のことである。ベトナム戦争を題材にした映画であり、この映画の中でアメリカ兵達はヘリコプターから攻撃を仕掛ける場面がある。この時アメリカ兵達は音楽をかけていた。それがこのワーグナーのワルキューレの騎行なのであった。元々はワーグナーの壮大な楽劇『ニーベルングの指輪』の第一夜『ワルキューレ』第三幕において奏でられる曲である。神々の王ヴォータンの娘達が現われて槍を掲げながら唄うのである。この楽劇においてもとりわけ有名な場面の一つである。
「戦いの場面によくあっていてね」
「あれは美しくはない」
 しかしブンドルはそれをよしとしなかった。
「あまりにも醜い」
「そうかの」
「それもまた戦争じゃぞ」
「戦争とは華々しく行うものだ。あの様な戦いは美しくはない」
「フン、まあ一般市民を巻き込んだりするのはわしもやらんがな」
「そうだな。お客さんが減るしな。かみさんにも怒られるわ」
 どうやら彼等もまた人間としての心は持っているようであった。ガイゾックとはここが違っていた。
「で、何の曲なのじゃ」
「ワーグナーといっても色々あるぞ」
「ローエングリンだ」
 ブンドルは静かにそう答えた。
「ローエングリン」
「また面白いものを選んだの」
「どういう基準でそれにしたのじゃ」
「物語もいいからだ」
 それがブンドルの返事であった。彼はこの楽劇が好きであったのだ。
 かって狂王と呼ばれた男がいた。バイエルンの王ルードヴィッヒである。彼は子供の頃この楽劇を見て忽ちワーグナーに心を支配された。そして王になるとまず彼を呼び寄せた。それから死ぬまでワーグナーの音楽に耽溺した。あの有名なノイスヴァンシュタイン城を築かせたのもワーグナーの世界に耽溺した故であった。彼はこの城において白銀の騎士ローエングリン、悩める詩人タンホイザーになり時間を過ごしていた。厭世観につきまとわれ、俗世を嫌った彼が愛した世界こそがワーグナーであったのだ。
 オーストリアから生まれ出て欧州を席巻した独裁者がいた。アドルフ=ヒトラー。幼い頃にローエングリンを見た感激を死ぬまで忘れなかった。時間があればワーグナーを聴き、そしてその音楽について考えていた。彼は愛するドイツを救うことが出来るのは自分しかいないと信じていた。そして一度は救った。だがドイツは彼と共に滅んでしまった。まるでワーグナーの世界をなぞるかのように。
 その世界をブンドルもまた愛していた。だからこそ選んだのであった。
「姫を救う為に聖なる城より現われた白銀の騎士・・・・・・。素晴らしいと思わないか」
「まあのう」
「悪くはないな」
 彼等もワーグナーは聴いたことがある。悪い印象はなかった。
「で、そのローエングリンのどの曲なのじゃ?」
「一口に言ってもかなりあるぞ」
 四時間程あるかなり長い楽劇である。ワーグナーの作品は長いことでも有名だ。
「それはもう決めてある」
「ふむ」
「どの曲だろうな」
「第一幕前奏曲だ」
「ほう、あれか」
「中々いいのう」
 透き通った印象の美しい曲である。この作品のストーリーを現わしているとさえ言われている。
「でははじめるぞ」
「早くせい」
「で、指揮者は誰じゃ?」
「フルトヴェングラー」
 ブンドルは自信に満ちた声でそう答えた。ドイツが生んだ偉大な指揮者である。ロマン派を大成した人物としても知られている。ヒトラーも彼の指揮を愛したという。
「これでどうだ」
「トスカニーニではないのか」
「意外だのう」
 案外教養のある二人であった。トスカニーニはフルトヴェングラーと同時代のイタリアの指揮者である。この二人は終生のライバルとしても知られている。ザルツブルグにおいてナチスを巡って激しい論争を繰り広げたこともある。共に反ナチスでありながら政治と音楽は別としてヒトラーの前でも指揮したフルトヴェングラーとそれを否定したトスカニーニ。二人の共通の友人であったもう一人の偉大な指揮者ワルターがユダヤ人であったことがこの関係をさらに複雑なものとさせていた。
「トスカニーニはワーグナーに合わない」
 ブンドルはそう言い切った。

「そうかのう」
「いいと思うがな、わしは」
「ことワーグナーに関してはフルトヴェングラーの方が上だ」
「こだわりだろう、それは」
「わしはトスカニーニも好きだぞ」
「かけるのは私だ。何か異論でもあるか?」
「いや、そこまで言われるとないのう」
「では早くかけるがいい。戦いがはじまらなくては腕がなまって仕方がない」
「わかった。ではかけるぞ」
「うむ」
 こうしてワーグナーの曲が戦場に奏でられた。透明な青い音楽が戦場に鳴り響いた。
「おっ、ワーグナーか」
 それを聞いてまずキリーが声をあげた。
「いいねえ、それもフルトヴェングラーとは」
「わかるのか、キリー」
「ああ。フルトヴェングラーの指揮には特徴があるからな」
 真吾の言葉にそう答えた。
「だからわかるんだよ」
「へえ、そうだったのか」
「キリーって中々クラシックに詳しいのね」
「まあな」
 レミーにも応えた。
「何なら今度メトロポリタン歌劇場でもどうだい」
 ニューヨークにある歌劇場である。世界屈指の大劇場として知られている。
「考えておくわ」
「そりゃいい。じゃあこの戦いが一段落ついたらな」
「ええ」
「ふむ、メトロポリタン歌劇場か」
 ブンドルはそれを聞いて呟いた。
「世俗的だな。やはりアメリカの文化というものは」
「おいおい、メトは世界一のオペラ=ハウスだぜ」
「オペラは欧州のもの。スカラ座やウィーンこそが」
 間を置いた。
「美しい」
「何かいつものパターンだのう」
「わしはかみさんにせがまれてよくメトに行くがあそこはいいと思うぞ」
「これは私の美学だ」
「またそれか」
「ではずっとスカラにでも篭っておれ」
「言われなくとも既にロイヤル=ボックスをとってある」
 ブンドルは憮然としてそう言った。
「話はそれでいいか。では戦いだ」
「ようやくか」
「何か毎度毎度前置きが長いのう」
「一体誰のせいなのだか」
「自覚してないのが痛いよなあ」
「まあ自覚していたらいつもみたいにはならないのだけれど」
「辛辣だな、マドモアゼル=レミー」
「レディは厳しいものなのよ。それは御存知」
「ふ、ではその厳しさに応えるとしよう。シャンデラーよ」
「まだおったのか」
「忘れておったぞ」
 ブンドルの言葉に従いシャンデラーが動いた。
「見事ゴーショーグンを散らすのだ。よいな」
 シャンデラーはそれに従いゴーショーグンに向かった。そして攻撃に移る。
「他の者はそれぞれロンド=ベルに攻撃を仕掛けよ。波状攻撃だ」
「一気にはやらんのか?」
「私は御前とは違うのでな」
 ケルナグールに対して言う。
「趣向もまた違う。力技はとらん」
「フン、それこそが戦争の醍醐味だろうに」
「お主はまたやり過ぎだろうが」
「カットナルにだけは言われたくはないわ」
「わしはまだ策を使うぞ」
「五十歩百歩じゃ」
 あれこれ話している間に戦闘に入っていた。三人の戦艦も攻撃に入っていた。
「よし、突撃じゃ!」
 ケルナグールは自分の艦を前に出させた。
「邪魔する奴はラムで粉砕せよ!」
「こら、ケルナグール!」
 そんな彼をカットナルが叱った。
「波状攻撃を忘れておるのか!」
「だから波状攻撃をしておるのだ!」
「何処がだ!」
「一端突進して不本意ながら退き、また攻撃に移るのだ!」
「それの何処が波状攻撃だ!」
「五月蝿いわ!つべこべ言わずに貴様も戦うがいい!」
「言われなくとも!」
 挑発に乗る形でカットナル艦も前線に出て来た。それを見てロンド=ベルの面々はまたか、という感想を持った。
「進歩がないようだな」
 隼人がまず言った。
「まあそれがドクーガの売りだしな」
 真吾がそれに頷く。
「ネタとして楽しめばいいんじゃないかな」
「待て」
 それにブンドルがクレームをつけた。
「我がドクーガは真面目な組織だぞ」
「そうは見えないがな」
「真面目にやっていない節もある」
 ピートも参戦してきた。
「だが敵は敵だ。手は抜かないぞ」
「ふむ、ならばいい」
「博士、大空魔竜も前線に出していいですか」
「うむ、いいだろう」
 大文字はそれを認めた。
「ピート君、是非そうしてくれ給え」
「了解」
 それに従い大空魔竜が出て来た。周りにいる敵を次々と倒しながら前進する。
「サンシロー、援護を頼むぞ」
「おう」
 ガイキング達も一緒であった。五匹の恐竜がそれぞれ力を合わせ敵を倒していく。それを見てブンドルも決意した。
「私も行くか」
「行かれるのですか」
「そうだ。大空魔竜が来てはあの二人でも荷が重いだろう。私の艦も必要だ」
「わかりました。それでは」
「うむ。だが音楽は変えぬようにな」
「はっ」
 ブンドル艦も前進してきた。それは更なる激闘のはじまりを意味していた。
 熾烈さを増す戦いの中ゴーショーグンはシャングラーと対峙していた。激しい応酬が行われている。
「ゴースティック!」
 ゴーショーグンが空間からゴースティックを取り出す。それでシャングラーを斬りつける。
 だがそれでもシャングラーは平然として立っていた。そして反撃を加える。
「おっと」
「あらら、残念でした」
 だがそれはかわされた。レミーも声をあげる。
「意外としぶといな」
「しつこい男は嫌いなんだけれど」
「おいおいレミー、あれはシャングリラだ。レディじゃないのか」
「あら、だったらキリーの出番ね」
「生憎俺のタイプじゃないので。丁重にお断りさせてもらうよ」
「もう、冷たいのね」
「じゃあやはり撃墜するか」
「賛成」
「もっともそれしかないのだがな」
「さてと」
 真吾はゴーショーグンを身構えさせた。
「あれをやるか」
「ああ、あれね」
「待ってました、ってとこかな」
 二人はそれに合わせて言う。真吾はその間にゴーショーグンに力を溜めさせていた。
「行くぞ」
 ゴーショーグンが緑の光に包まれる。
「ゴーフラッシャーーーーーッ!」
 数本の光の槍がゴーショーグンの背から放たれた。そしてシャングラーに一直線に向かう。
 それはシャングラーを貫いた。そして瞬く間に撃墜してしまった。一瞬のことであった。
「終わったな」
「何かあっさりとした終わり方だったわね」
「ああ。ただゴーフラッシャーの力が上がっているような気がするな」
「!?そうなの?」
「何となくだけれどな」
「真吾の腕が上がったとかそんなのじゃないの?」
「何だかんだ言って真吾も出番多いしな」
「いや、そうじゃない。今までだったらあれだけの敵は一撃じゃ倒せなかった筈だ」
「言われてみれば」
「そうだよな」
「だが今は一撃で撃墜できた。それもあっという間にだ。これはどう考えてもおかしいだろう」
「確かに」
「ビムラーのエネルギーが上がっている。これは一体どういうことなんだ」
 真吾は首を捻り考えた。しかし戦場はそんな余裕を彼に与えなかった。そこへインパクターの小隊がやって来た。
「おい、来たぜ」
「考えるのは後でゆっくりとね」
「仕方ないな。それじゃあ」
 また新たな武器を取り出してきた。
「スペースバズーカ!」
 バズーカを取り出すとそれを撃った。そしてインパクターを撃墜していくのであった。
 やはりインパクターだけでは荷が重かったのであろうか。何時しか三人の戦艦意外は殆どいなくなっていた。
「ぬうう、やはりインパクターだけでは駄目か」
「最近何かと出費が多くて新しいマシンを開発できなかったからのう」
「シャングラーも撃墜されたようだな。では潮時か」
「待てブンドル、撤退するというのか」
「致し方あるまい」
「許さんぞ!わしはまだ戦いたいのだ!」
「ではこのまま無駄に損害を出すことになる。それでもいいのか」
「む、そう言われると」
「忌々しいが仕方あるまい。退くぞ」
「クッ、またしても奴等に負けるとは」
「勝負は時の運だ。また勝利を収める機会はある」
「では退くか、おい」
 カットナルは側の者にトランキライザーを持って来させた。そしてそれを噛み砕きながら言う。
「作戦中止、総員撤退だ!」
「覚えておれよ、ロンド=ベル!」
「それではマドモアゼル=レミー。再会を願って」
「そんなことはいいから早く撤退せんか!」
「・・・・・・無粋な」
「無粋も何もあるか!行くぞ!」
「おい、インパクターを回収せんか!」
「そんなものとっくに済ませておるわ!ええい忌々しい!」
 最後にケルナグールがケルーナを殴る音がした。それを最後にドクーガの面々は慌しく戦場を離脱したのであった。
「やれやれ、やっと退散か」
「相変わらず騒がしい連中だったな」
「ホンット。五月蝿いと女にもてないわよ」
「しかしこれでドクーガは去った。とりあえずはな」
「いや、安心するのにはまだ早いぞ」
 サコンがここでピートに忠告した。
「レーダーに反応だ。また別の敵だ」
「オルファンか!?」
「いや、違う。これは」
 彼はレーダーを見ながら言う。
「ミケーネだ。ハニワ幻人達もいるぞ」
「ハニワ幻人もかよ」
 宙が言った。
「ならばあの女も」
「ゼンガー=ゾンバルト、いるか!」
 ゼンガーが思った時にその声が響いてきた。
「今までの借り、返させてもらおう!」
「やはり来ていたか」
「貴様を倒すまでわらわは引き下がらぬ」
「そうか」
「さあ来るがいい。今度こそ地獄に送ってやる」
 彼等は前に出た。そして睨み合う。その周りではミケーネも戦闘獣達もいた。
「今度は貴様達か!」
「如何にも」
 鉄也の問いに異形の形をした二人の巨人が答えた。
「魔魚将軍アンゴラス!怪鳥将軍バータラー!」
 いずれもミケーネ七大将軍である。暗黒大将軍の腹心の部下達であった。
「暗黒大将軍はいないのか!」
「お忙しい方でな」
 アンゴラスがそれに答えた。彼は海中にいた。
「貴様等の相手だけをしておられるわけではないのだ」
「ヘン、減らず口かよ!」
「兜甲児よ、貴様の蛮勇は認めよう。だがそれだけでは我等には勝てはせぬ」
「じゃあ今からぶっ倒してやるよ!」
「待て、甲児君」
 しかしそれは鉄也と大介に止められた。
「何だよ、止めないでくれよ」
「君のマジンガーは水中戦はあまり得意じゃない。俺のグレートも」
「じゃあどうすれば」
「君達はバータラーの軍に向かってくれ。水中は僕が引き受ける」
「けど大介さんのダイザーも」
「忘れていないか?僕にはスペイザーがあることを」
「あっ、そうか」
「マリンスペイザーもあるさ。心配無用だ」
「私が乗るから」
 ひかるが言った。見ればもうマリンスペイザーに乗っていた。
「何かいつものダブルスペイザーと少し違うから戸惑っているけれど」
「そこは僕がフォローするよ。じゃあ合体しよう」
「ええ、大介さん」
 ダイザーとマリンスペイザーが合体したそしてそのまま水中に飛び込む。
「とりあえずはあっちは大介さんに任せるか」
「俺達は空だ。いいな、甲児君」
「了解!どちにしろ思いきり暴れてやるぜ!」
 三機のマジンガーはそれぞれの敵に向かった。そしてゲッターも動いていた。
「いよいよ俺の出番だな!」
 弁慶が嬉しそうに言う。
「リョウ、隼人、いいな」
「ああ」
「久し振りに御前の技を見せてやれ」
「よし。オープンゲェェェェェェェェェェーーーーーーーーット!」
 ゲッターが三つに分かれた。そして空中で弁慶が叫ぶ。
「チェンジポセイドン。スイッチオン!」
 ポセイドンが先頭に来る。次にドラゴンが。最後にライガーが。合体した時光が走ったように見えた。そして光が消えた時そこには黄色の巨人がいた。
「行くぞ、ストロングミサイル!」
 海中に落ちながらミサイルを放つ。それでまずは戦闘獣を一機粉砕した。
「うおおおおおおーーーーーーーーーーっ!」 
 側にいるミケーネやハニワ幻人の者達を手当たり次第に殴り飛ばし投げ飛ばす。水中ではまさに無敵であった。だがそこにいるのは彼だけではなかった。
「何かこっちまで暴れてきたくなったぜ!」
 ブラックゲッターも水中に入った。そこにいるのは当然ながら武蔵であった。
「水の中でおいらに勝てると思うなよ!」
 周りにいる敵を手当たり次第に爪で切りまくる。それはまるで獣のようであった。
「これはおつりだぜ!」
 ハニワ幻人のマシンを掴んだ。そして技を仕掛ける。
「くらえ、大雪山おろしーーーーーーーーーーーーーっ!」
 思い切り上空に投げ飛ばした。投げ出された敵は宙に舞い落ちた。そしてそのまま落下し水中で爆死した。
「これでどうだっ!」
「ぬうう、おのれゲッターロボめ!」
「おいおい、そりゃ恐竜帝国の言葉だぜ」
 隼人はアンゴラスのその言葉を聞き苦笑した。
「言う相手が違うんじゃないのか」
「そんなことは関係ないわ!今わしの目の前にいるのは貴様等だ!」
「HAHAHA,それでどうするつもりですかーーーーーー!?」
「知れたこと、捻り潰してくれるわ!」
「それってアシュラ男爵の言葉じゃねえのか?」
「こら、甲児君」
 さやかが嗜めた。
「また出て来たらどうするつもりなのよ」
「あ、いけね」
「貴様等だけは許さん!許さんぞ!」
「許さなかったらどうするつもりなんだ?」
 隼人が問うた。
「俺達を倒すとでもいうのかい」
「無論そのつもりだ」
「ほう」
「覚悟しろ。七大将軍の力今こそ見せてくれる!」
「アンゴラス、待て!」
 しかしここで上から声がした。
「何だバータラー!」
「今暗黒大将軍がここに来られた!」
「何、暗黒大将軍が!」
 それを聞いてさしものアンゴラスも驚きを隠せなかった。
「何故ここに」
「わからん。だが今は落ち着け。よいな」
「クッ、わかった」
「暗黒大将軍が来ただと」
 それはロンド=ベルにも伝わっていた。鉄也が辺りを見回した。
「一体何処にだ」
「ふふふ、剣鉄也よ久し振りだな」
「そこか!」
 彼はその声を聞くとすぐに攻撃に移った。
「グレートブーメラン!」
 胸にあるブーメランを放った。それは前に向けて放たれていた。
 しかしそれは弾き返された。そしてそこに剣を持ち漆黒の鎧を身に纏った巨人が姿を現わした。どうやら剣でブーメランを弾いたようである。
「ふむ、よくぞ見破った」
「あれで隠れていたつもりか、まるわかりだったぜ」
「どうやら貴様には小細工は通用せぬようだな。だがよい」
「それで一体何の用でここにきやがったんだ」
 甲児も入ってきた。
「やるつもりなら手加減はしねえぜ」
「まあ待て」
 だが彼はそれを制した。
「いきり立つばかりでは何にもならんぞ」
「ヘッ、これが俺のやり方なんだよ。少なくとも敵にまで言われたくはねえぜ」
「今わしは貴様等と戦いに来たのではない。戦いを収める為に来たのだ」
「何っ、どういうことだ」
「最初はアンゴラスとバータラーに任せておくつもりだったがな。オルファン攻撃は」
「やはりオルファンを」
 勇がそれを聞いて顔を顰めさせた。
「だが事態が変わった。そういうわけにはいかなくなったのだ」
「へッ、逃げるつもりかよ」
「フン、そう取るならば構わんがな。だが今は貴様等と遊ぶつもりはない」
「ミケーネの戦力はそんなに落ちてはいないと思うが」
「宇門大介か」
「今まで御前達とはそれ程戦ってはいない。ましてや損害もそんなに多くはない筈だ。違うか」
「その通り」
「では何故だ。どうしてここを退くのだ」
「しかもこれだけの戦力を向けながらな。どういうつもりだ」
「それは私がお話しましょう」
「ムッ!?」
 白い光が暗黒大将軍の側に現われた。そしてその中から青い威圧的なマシンが姿を現わした。ネオ=グランゾンであった。
「シュウ、どうしてここに!?」
「マサキ、貴方にも関係があることなのでね」
「俺に」
「そう、わしが兵を引かせるのはこの者の為なのだ」
 暗黒大将軍はシュウのネオ=グランゾンを横目に見ながらそう言った。
「シュウ=シラカワの為にな」
「どういうことだ」
「詳しいことはこの男から聞くがいい。それではな」
「ムッ、待て」
「貴様等とはまた決着をつける。次に会う時にな」
 そう言い残して戦場を後にした。バータラーもアンゴラスも戦場を離脱した。だがククルはそれでも戦場に残ろうとしていた。
「ククル殿、お主も」
「いや、私は残る」
 彼女はそれでも退こうとしなかった。
「この男との決着をつけるまでは」
 ゼンガーを見据えていた。しかし暗黒大将軍はそれを認めようとはしなかった。
「それはなりませんな」
「何故だ」
「今の貴女は邪魔大王国の女王。軽率な行動はなりませんぞ」
「クッ・・・・・・」
 それを聞いて舌打ちした。
「わかりましたな」
「・・・・・・致し方あるまい」
「ではこれで。宜しいですな」
「わかった。ゼンガーよ」
 振り向きざまに言った。
「貴様の首、今は預けておこう!」
 そう言い残して去った。魔の蝶もまた戦場を離脱したのであった。
「で、シュウ」
 マサキはサイバスターを前に出してきた。そしてシュウに問う。
「今度は一体何を企んでいやがるんだ?」
「企む?何をですか」
「おい、とぼけるんじゃねえぞ。御前が何もなしに俺達の前に姿を現わす筈ねえだろうが。一体何のつもりだ」
「ラ=ギアスですが」
「御主人様、言っちゃうんですか?」
「隠す必要もありませんしね」
 シュウはそう言ってチカに応えた。
「そうなんですか」
「はい。それでマサキ」
「おう」
「貴方達に少しラ=ギアスに来て欲しいのです。ロンド=ベルの皆さんにも」
「どういうつもりだ」
「今地球がどういう状態なのかわかっているだろう」
「勿論ですよ。皆さんがおられない間は私とこのネオ=グランゾンが責任を以って御守り致します」
「地球をか」
「はい。それなら構わないでしょう」
「信用できるとでも思ってるのかよ」
「それは御自由に。ですが私は自分自身が言ったことは守ります」
「どうだか」
「そのうえでお話しているのですよ。是非共ラ=ギアスに向かって欲しいのです」
「どういう理由でかね、シラカワ博士」
「あ、大文字博士」
 シュウは大文字に気付いた。
「どうも。ロンド=ベルにおられるとは聞いていました」
「色々あってな。それでどうして我々にラ=ギアスに行ってもらいたいのだね」
「大文字博士、、いいのかよ」
 マサキがくってかかった。
「こんな奴の話を聞いて」
「誰であろうとまず話は聞くべきではないのかね」
「まあそうだけれどよ」
「それに今のシラカワ博士は以前とは違う。それは君もわかっていると思うが」
「・・・・・・まあな」
 渋々ながらそれを認めた。
「では聞くとしよう。それでいいかね」
「御好意有り難うございます」
「うむ。では話してみたまえ」
「ヴォルクルスのことです」
「ヴォルクルス」
 それを聞いた魔装機のパイロット達が一斉に顔色を変えた。
「ラ=ギアスで今復活させようという動きがあります」
「ルオゾールか」
「はい」
 シュウはそれに頷いた。
「彼が復活させようとしているのです、あの破壊神を」
 ここで彼はあることは言わなかった。自身とルオゾールの関係を。そしてもう一つのことを。
「それを貴方達に阻止してもらいたいのですよ」
「それだけじゃねえだろ」
 マサキがまた言った。
「他にあるんじゃねえのか、正直に言えよ」
「御名答」
「やっぱりな。で、それは一体何なんだ?」
「バゴニアもね。不穏な動きを見せていますので」
「やはりな」
 ヤンロンがそれを聞いて呟いた。
「あの男のことか」
「あの男?」
「ああ、リューネは知らなかったか。以前ラングランに一人の錬金術士がいた」
「はい」
 シュウがそれに応えて頷いた。
「彼は天才だったがその心は病んでいた」
「マッドサイエンティストってやつだね」
「そうだな。それに近いか」
「で、そいつがどうしたんだい?」
「ラングランにおいて禁じられていた秘術に手を出した。そしてそれにより追放された」
「何かよくある話だね」
「ドクター=ヘルに近いな」
「そうかもしれない」
 ヤンロンは甲児の言葉にも頷いた。
「長い間行方不明となっていたがバゴニアにいることがわかったのはつい最近のことだ」
「そうだったんだ」
「対策を考えている間にシュテドニアスとの戦いに入ってしまってな。有効な手を打てずにいたんだ」
「で、そいつが今バゴニアで何かしようとしてるんだね?」
「具体的にはラングラン侵攻です」
「やはりな」
「ラングランに復讐する為に。バゴニアにとっては侵攻のよい口実になります」
「ちょっと待ってよ、ラングランに侵攻するの?」
「はい」
 シュウはリューネに対してこう応えた。
「バゴニアは長い間ラングランと対立関係にありましたから。シュテドニアスと同じく」
「だからって。国力に差があり過ぎるじゃない。そんなことしてもバゴニアが勝てる筈ないよ」
 それはラ=ギアスにおいては誰でもわかることであった。ラングランとバゴニアは対立関係にあるとはいえその国力差ははっきりしている。シュテドニアスとの戦いで疲弊しているとはいえその差は歴然たるものがあった。
「それはバゴニアの者もわかっています」
「じゃあ何で」
「彼等が正常な状態ならば、です」
「それはつまり・・・・・・」
「ゼツが彼等を洗脳したということか」
「はい。だからこそ彼の考えが通ったのです。今バゴニアは全軍を挙げてラングランに雪崩れ込もうとしております」
「まずいね」
「ですから貴方達の御力が必要なのですよ。バゴニアを止めて頂きたいのです」
「そしてゼツを倒す」
「そうです。やって頂けますか」
「本来なら御前の誘いは乗るわけにはいかないが」
 ヤンロンは一言そう断ったうえで述べた。
「どうやらそうも言ってはいられない状況のようだな。わかった」
「有り難うございます」
「それでは行こう。ラングランでの場所は何処だ」
「王都です」
「まずはフェイル殿下に御会いしてからか」
「ええ。それならば何かと問題も生じないと思いますが」
「わかった。それでいい」
 ヤンロンはそれに頷いた後で後ろを振り向いた。
「皆はどう思うだろうか」
「どっちにしろほっておくわけにもいかねえだろ」
 まず甲児が言った。
「そんなやばい野郎はよ。倒すしかねえぜ」
「そうだな。俺もそう思う」
 隼人もそれに賛成した。
「とりあえず今はそのやばい爺さんか親父かわからんのを始末するべきだ。ラ=ギアスのことも重要だからな」
「しかし地上のことはどうするんだ?」
 ショウがそれに異論を述べた。
「確かにラ=ギアスのことも大事だが。シュウだけで何とかできるのか」
「それは御心配なく」
 しかしシュウはその疑問に対して微笑んで答えた。
「このネオ=グランゾンがありますから。ミケーネも恐れるに足りません」
「だといいけれどね」
 万丈がそれを聞いて言う。
「ダイターンも残ろうかい?よかったら」
「いえ、それはよくありません」
 だがシュウはそれを断った。
「貴方もまたラ=ギアスに行かれるべきです」
「それだけ厄介な相手だってことか」
「ええ。そうでなkればわざわざここに来ませんし」
「またここで何か企むんじゃねえだろうな」
「あんたには前科が一杯あるからね」
 マサキとリューネがシュウを見据えて言う。
「悪いけど信用はできないよ」
「信用するされるの問題ではないのですよ」
 しかしシュウはその言葉を意に介さなかった。
「私にとってはね。今はこの地上を守ることが契約なのです」
「契約!?」
「そう、今貴方達と交わした。契約は私にとって絶対のものです」
「神に対するのと同じようにね」
「そうですね。今はどの神とも契約はしていませんが」
 ミサトの言葉に思わせぶりな言葉を返した。
「自由な身ですがそれは絶対です」
「それじゃあこの地球は御前一人でやるんだな」
「はい」
「・・・・・・わかった、じゃあやってみろ」
「えっ、マサキいいの!?」
「いいも何も俺達はラ=ギアスに行くんだろ。じゃあこいつに全部任せるしかねえだろ」
「けど」
「思い切りも大事だぜ。ここはそういう時だ」
「けどねえ」
「けどもこうも言っている場合じゃねえ。今はラ=ギアスを何とかしなくちゃいけないんだ。ヴォルクルスにいかれた爺までいちゃどうなるかわかりゃしねえ」
「結局任せるしかないのね」
「そうだ。宇宙にいた連中がこっちに戻ってくるまでな。シュウ」 
 そしてあらためてシュウに顔を向けた。
「ここは御前に任せてやるよ。好きにしな」
「有り難うございます」
「ただし、絶対に奴等を抑えろよ。いいな」
「勿論ですよ」
「何かあったら絶対に許さねえからな、いいな」
「やれやれ、疑い深いものですね、本当に」
「おめえとは以前派手にやり合ったからな。嫌でもそうなるぜ」
「ふふふ、また懐かしいことを」
「いいから送るのなら早くしやがれ。放っておいていい奴等じゃねえだろ」
「わかりました。それでは」
 シュウはあらためてロンド=ベルの面々を見据えた。顔が真剣なものとなっていた。
「皆さん、宜しいですね」
「うむ」
 大文字が一同を代表して頷いた。
「それでは頼む。宜しくな」
「わかりました。では」
 シュウはネオ=グランゾンを動かした。集結するロンド=ベルの周りに白い光が集まりはじめた。
「ラ=ギアスを救う為に」
「おめえに言われるのは癪だけどな」
 マサキはまだ悪態をついていた。だがそれでも光が覆いはじめていた。
「お願いしますね、マサキも」
「へっ」
「シュウ様」
 サフィーネが言った。
「はい」
「久方ぶりに御会いできたというのに。残念ですわ」
「貴女にも御苦労をおかけしますが」
「わかっております。ですが私にもしものことがあれば」
 彼女は言った。
「私の灰を。シュウ様の花に変えて下さい」
「何か言ってることが今一つわからねえな」
「まあサフィーネだからね」
「ちょっとマサキ」
 彼女はそれにくってかかってきた。
「それはどういう意味よ」
「って本当に訳わからないし」
「リューネまで。あたくしの言葉の何処がわからなくて!?」
「意味がな。いつも危ないことばかり言うしよ」
「その格好もね。何か変なお店の人にしか見えないわよ」
「格好のことであんたに言われたくはないわよ」
 リューネにそう反論した。
「胸は見せればいいってもんじゃないのでしてよ」
「御前が言っても何の説得力もねえしなあ」
「とか何とか言ってる間にそろそろよ。もういいの?」
「あっ」
 リューネに言われてハッとした。そしてあらためてシュウに顔を向ける。
「シュウ様」
「はい」
「また再会の時を心待ちにしておりますわ」
「わたくしもでしてよ」
 モニカも出て来た。
「シュウ様、お名残惜しいと少し思わないこともないですが」
「モニカ、文法が変ですよ」
「何か王女の話し方ってこんなのかね」
「あたしは違うわよ」 
 セニアがマサキに反論した。彼女は大空魔竜の艦橋にいた。
「モニカだけだからね」
「まあ確かにそうだけれどな」
「タダナオもそう思うでしょ」
「あ、私ですか!?」
「ええ。そう思わない?」
「は、はい」
 彼は顔を赤くしながらそれに頷いた。
「王女の仰る通りだと思います」
「ほら」
「前から思っていたけれど」
「言いたいことはわかってるわ」
 シモーヌとベッキーがヒソヒソ話をする。
「タダナオってやっぱり」
「間違いないわね」
 そうした大人の噂話に興じていた。だがそれも中断しなければならなかった。
「いよいよか」
「ええ」
 光がロンド=ベルを完全に覆った。そして彼等はその中に消えていった。
「ではお願いします」
「お願いされてやるぜ」
 これが別れの言葉であった。こうしてロンド=ベルはラ=ギアスに向かった。
「さて」
 光が消えるとシュウは声をあげた。
「ではチカ、行きますか」
「あ、覚えててくれたんですね」
 チカはそれを受けてかん高い声をあげた。
「出番がなくて困ってましたよ」
「貴女にもこれから色々と働いてもらいますよ」
「お金はもらえますか?」
「お金?」
「そうですよ。たっぷりはずんでもらわなくちゃ嫌ですからね」
「わかってますよ」
 彼は微笑んでそれに頷いた。
「では前金として」
「やった」
 一粒の大きなダイアモンドを取り出す。そしてそれをチカに与えた。
「どうぞ」
「やっぱり御主人様って気前いいですね、だから大好きなんですよ」
「私にとってはさして価値のあるものでもありませんし」
「けれどどうするんですか、これから本当に」
「ミケーネのことですか」
「ええ。それにガイゾックもいますし他の勢力も」
「ティターンズやドレイク軍は今のところ勢力の回復に務めております」
 シュウはまずは彼等に言及した。
「ですから彼等については心配することはありません」
「ガイゾックは」
「彼等については私自身が向かいます。これで充分でしょう」
「神ファミリーには何も言わないんですか?」
「彼等はね、無茶をしてしまいますから」
「無茶!?」
「ええ。命を捨ててでも戦うでしょう。彼等にそれはさせられないです」
「で、御主人様自ら行かれると」
「はい」
「けどそれじゃミケーネとかはどうなるんですか!?厄介なことになりますよ」
「彼等はおそらくは動かないでしょう」
「何故ですか!?」
「地下に向かうと思われます。彼等の本拠地が地下にあるのは知っていますね」
「はい、まあ」
「おそらくヴォルクルスの存在を知っているのでしょう。彼の力を借りようとするでしょう」
「ミケーネが」
「というよりククルがです」
「ククル!?ああ、あの銀色の髪のきつい女ですね」
 チカは持ち前の毒舌をここで発揮した。
「彼女はミケーネとは協力関係にありますが本質的に違います」
「邪魔大王国の女王ですからね」
「元々は違いますけれどね」
「あれっ、そうなんですか!?」
 チカはそれを聞きまた驚いた。
「初耳ですよ、それ」
「貴女の知らないことも多くあるということです」
「意地悪いなあ、御主人様は」
 それを聞いて不平を漏らす。
「いつもそうやって肝心なことは教えてくれないんだから」
「そのうちわかることですから」
 シュウはうっすらと笑ってそう言葉を返した。
「私が言わなくても」
「そうなんですかね」
「そうですよ」
「まあそれならいいですけれど。けれどそろそろ」
「はい」
 話を終えシュウとネオ=グランゾンは姿を消した。そしてそこには何も残ってはいなかった。

第四十二話   完


                               2005・9・3