帰って来た男達
 地球圏降下を狙うネオ=ジオンの行動を抑止することになったロンド=ベルは月を離れそのまま地球に向かっていた。それを阻む者は今のところはいなかった。
「これでギガノスは当分動けないわね」
「そうですね」
 ルリはユリカにそう答えた。
「しかし油断はできません。敵はギガノスやネオ=ジオンだけではありません」
「ティターンズとかポセイダル軍とか?」
「はい。彼等の動きも無視できませんから。何をしてくるかわかりません」
「けれどティターンズも戦力の殆どを地球に送ってるんじゃなかったかしら」
 ハルカがそれを聞いてふと声をあげる。
「ザンスカールやクロスボーンの系列まで送ってるし。他に誰かいたっけ」
「彼がいます」
 ルリはハルカに対してそう答えた。
「彼って?」
「あれよ、ハルカさん」
 少し首を傾げさせたハルカにユリカがそう答えた。
「ほら、木星帰りの」
「ああ、パプテマス=シロッコですか」
「そういえば生きていましたね」
 メグミがそれを聞いて言った。
「木星の戦いでカミーユ中尉に撃墜されたけれど」
「はい。それでも彼は生きていました」
 ルリは静かにそう述べた。
「そしてまたティターンズに参加したのです」
「それで今は宇宙にいるのよね」
「はい」
「またジ=オに乗って来るのかしら。あれって確か滅茶苦茶強いのよね」
「運動性能でゼータガンダム、ライフルやビームソードでダブルゼータに匹敵します」
「凄いじゃない」
「しかも乗っているのがシロッコ大尉ですから。かなり危険です」
「それでその彼が私達の前に出て来る可能性があるのよね」
「はい」
「どれ位の割合で?」
「一〇〇パーセントです」
 ルリは静かにそう答えた。
「いずれは確実に出会うものと思われます」
「参ったわね、それは」
 ハルカはそれを聞いて困った顔を作った。
「私ああした女を食い物にするタイプって嫌なのよね」
「そうだったんですか」
「レディーファーストでなきゃね、やっぱり」
「はあ」
「その点うちの部隊は合格よね。美少年も多いし」
「藤原中尉なんてどうですか?それじゃあ」
「もう美少年じゃないと思うけれど」
「あ、すいません」
「けれど悪くないわね。ああしたワイルドな人も」
「問題は本人にあまりそうした話に興味がないってとこですね」
「そこがいいのよ。戦いだけを追い求める男って。それに声もいいわ」
「そういえばジュドー君に声似てますしね」
「そうでしょ。私あの二人の声って好きなのよね」
「カミーユ中尉やクワトロ大尉の声はどうですか?」
「あの二人もいいわよね。特にクワトロ大尉なんて何かこう大人の雰囲気が出ていて」
「いいですか」
「そうよ。メグミちゃんにもそうしたところはおいおいわかると思うわ」
「はあ」
「男ってのは外見だけじゃなくてね。声も大事なのよ」
「そんなものですか」
「何よりも大事なのはハートなのは言うまでもないけれど。ルリルリはそれについてどう思うかしら」
「私ですか」
「そうよ。まだそれがわからないかなあ」
「それは」
 ルリはそれを聞いてその頬を微かに赤らめさせた。
「あら、何かあるのかしら」
「嫌いじゃないです。一矢さんとエリカさんのそれを見ていると」
「あの二人はね」
 ハルカはそれを聞いてその切れ長の色気のある目をさらに細めさせた。
「見ているこっちが妬けちゃうわ。それに本当に応援したくなるわ」
「そうなのよね、あの二人って」
 ユリカもそれに頷く。
「最後には幸せになって欲しいわ、本当にね」
「そんなの心配いらねえよ」
 そこにリョーコが入って来た。見ればヒカルとイズミも一緒である。
「愛は勝つんだよ、絶対にな」
「リョーコさんいいこと言いますね」
「あったりまえだろ。正義と愛ってのはな、敵が強ければ強い程燃え上がるんだ。そして勝つんだよ」
「漫画みたいですね」
「漫画よりもずっといいもんさ。特にあの二人のはな」
 そう言ってニヤリと笑う。
「見ていてな。あんな純粋な奴等は見たことねえ。あたしも馬鹿だがもっと馬鹿なのがいたのも驚きだったが」
「馬鹿ですか」 
 ルリはそれを聞いてポツリと呟いた。
「この部隊は馬鹿しかいねえけれどな。けど一矢はその中でもとびっきりの馬鹿だよ」
「何か褒め言葉みたいですね」
「そうさ、褒めてるんだよ」
 ルリにそう言葉を返した。
「世の中利口な奴だけがいいんじゃねえんだ。馬鹿の方がずっといいんだ」
「それ、わかるようになりました」
「ルリルリもわかってきたじゃない」
「はい。私も馬鹿ですから」
「そうさ、ここには馬鹿しかいねえ。だから戦える」
「馬鹿ばっか。河馬ばっか馬鹿」
「・・・・・・だからよ、イズミ、強引過ぎて何が何だかわかんねえんだよ」
「それでもリョーコさんの言うことはわかりますよ」
「おっ、流石は熱血漫画家だな」
「はい。一矢さんとエリカさんのことが心から気になってるんですね」
「こっからどうなるかな。けれどあたしは確信してるんだ」
 またニヤリと笑った。
「あの二人は最後はハッピーエンドだ。地球人やバーム星人も関係ねえ」
「愛があればそんなもの」
「乗り越えられるんだよ、絶対にな!」
「いい言葉だ」
「あれ、リョーコさん今何か言いました?」
「え、いや」
 突如として聞こえてきた声に戸惑う。
「何も言ってねえけれどよ、あたしは」
「それは私だ」
 ノインがナデシコの艦橋にやって来た。
「声が似ているのでな。迷惑をかけたな」
「あ、ノインさん」
「ミスマル艦長、只今偵察より帰還致しました」
 ノインはユリカに敬礼してそう述べた。
「偵察中異常はありませんでしたか?」
「はい」
 彼女はユリカの問いに頷いてそう答えた。
「ヒイロ達も今帰還しております。とりあえずは周辺には敵の脅威はありません」
「それでは今のところは安心ですね」
「そう思います。ですがネオ=ジオンの部隊をまだ発見できていないので引き続き偵察が必要かと思います」
「わかりました。それでは引き続き偵察を続けましょう」
「それが宜しいかと。それでは」
「はい」
 ノインは報告を終えると艦橋を後にした。そしてそのまま自室に戻って行った。リョーコ達はその後ろ姿を見送って溜息をつかざるを得なかった。
「ホンットウに格好いいですよね、ノインさんって」
「そうだな。同じ女のあたしから見てもな。キリッとしたものがあるぜ」
 リョーコはヒカルの言葉に頷いた。
「うちの男共は何かな。ナガレ以外はこれといってキリッとしたものがねえからな」
「ナガレさんもちょっと違うタイプですしね」
「サブロウタは軽いし副長は優しいしな。ヤマダはまた暑苦しいし」
「俺はダイゴウジだ!」
「ヤマダさん」
 ルリが彼の姿を認めて声を出す。
「今来られたのですか」
「そうよ。トレーニングも終了してな。男たるもの何時如何なる時でも身体を鍛えておかなくてはならんのだ!」
「そんなんだから暑苦しいって言われるんだろ」
 リョーコは呆れた様子で彼にそう言った。
「何かな、もっとこうクールにいけねえのかよ」
「それは少なくとも俺の流儀ではない」
 当然の様に聞き入れなかった。
「あくまで、そして徹底的に熱く、強く、激しく」
 彼は言った。
「それがこのダイゴウジ=ガイだ!例え何があろうとも俺は敗れはしない!」
「わかったから汗飛ばさないでくれよ」
「何だスバル、今日はやけにつれないな」
「あたしだってね、色々あるんだよ。あんたみたいにいつも暑苦しくいられるわけじゃないのさ」
「つまらん。それでは何がいいのだ?」
「うちの男共にはわからないことだよ」
 口を少し歪めてそう答えた。
「永久にな。特にあいつにはな」
「あいつ」
 ダイゴウジはそれを聞いて考え込んだ。
「それだけではわからんな」
「別にわかってもらいたくもないさ。それよりあんたこの前の怪我はいいのかよ」
「怪我!?ギガノスとの戦闘の時のか」
「利き腕怪我したんだろ?それはいいのかよ」
「そういうこともあったか」
 自分の利き腕を見つめながらそう言う。
「今まで忘れていたぞ」
「ホンットに丈夫な身体してんな、おい」
「丈夫なのが取り得だ」
「そういう問題じゃねえだろ、もう」
「まあいい。それより腹が減っていないか?」
「腹!?」
「そうだ。何か今急に腹が減ってきてな。何だったらセシリーちゃんの焼いたパンでもどうだ」
「そういえばセシリーちゃんってパン屋の娘さんだったわね」
 ユリカがそれを聞いて頷く。
「パンが焼けてパーンと割れる」
「イズミ、やっぱり無理があるわよ」
 今度はいつものリョーコではなくハルカが突っ込みを入れた。
「もっと自然にいかないと」
「いや、そういう問題じゃねえんじゃねえかな、イズミのは」
「まあそれはいいとしてだ。パンは嫌か」
「ああ、悪いがそういう気分じゃねえ」
「ではラーメンはどうだ」
「ラーメンか」
 それを聞いたリョーコの顔が少し明るくなった。
「丁度ホウメイさんが作っているところだしな。どうだ」
「じゃあそれでいいよ。ヒカル、あんたも来るんだろ」
「悪くないですね」
「イズミはどうするんだ?」
「ラーメン大好き」
「それじゃあ決まりだな。ヤマダの旦那、そういうことだ」
「ダイゴウジだと言っているだろう」
「いいじゃねえか、名前なんてよ。それじゃあ他のメンバーも誘おうぜ。人が多い方がうまいからな」
「よし、それでは行くか」
「ああ」
 こうしてダイゴウジとリョーコを中心としてエステバリスのメンバーはホウメイのラーメンを食べに向かった。ただし『あいつ』
はいなかった。その者はまだトレーニングルームにいたのだ。
「ふう」
 トレーニングはまだ終わってはいないが一息ついた。そして額の汗を拭う。
「まだだ、こんなものじゃ駄目だ」
 アキトはそう呟いてまたトレーニングを再開した。その拳が白くなる。
「あいつに勝てはしない」
「かなり無理をしているな」
「一矢さん」
 そこに一矢が姿を現わした。
「どうしてここに」
「エステバリスのメンバーが君を探していたからな。ここにいるんじゃないかと思って来たんだが」
「そうだったんですか」
「どうしたんだい、君がラーメンのことを忘れるなんて。何かあったのか?」
「宇宙に出る時のことを覚えていますか」
「ああ、木星トカゲとの戦闘になったな。覚えているよ」
「その時あの北辰衆との戦い。どう思いました」
「手強いな」
 一矢はその整った顔を真摯なものにさせてそう述べた。
「機体の性能だけじゃない。その技量もかなりのものだ」
「はい」
「特にリーダー格のあの男は。気をつけた方がいい」
「今の俺で勝てると思いますか」
「今の君でか」
「はい。それはどう思いますか」
「それは」
「正直に言って下さい」
 口篭もる一矢に対してそう言う。
「今の俺で勝てるかどうか。どうなんですか」
「それは御前さんが一番よく知ってることだと思うがな」
「京四郎」
 そこに京四郎がやって来た。そしてアキトに対して冷たさを含んだ声でそう述べた。
「そうじゃないのか。違うとは思わないが」
「そうですね」
 アキトはそう言われて頷いた。
「今の俺じゃあいつには」
「それがわかってるのならいい」
「京四郎」
「一矢、だから御前は甘いんだ」
 京四郎はとがめようとする一矢に対しても言った。
「こういったことははっきりと言っておいた方がいいんだ」
「しかし」
「それじゃあ御前はアキトに何かあってもいいのか?そうなってからでは遅いんだ」
「そうか」
「そうだ。御前じゃ言えないこともある。だが俺は違う」
 京四郎はその言葉をさらにクールなものにさせた。
「アキト、御前さんのエステバリスにも限界があるのかも知れん」
「エステバリスにも」
「そこいらも考えてみるんだな。何もエステバリスにこだわるばかりでもない」
「はい」
「戦争ってのは生き死にだ。それを忘れるなよ。相手が死ぬか、自分が死ぬか、だ」
「そうでしたね」
「生き残る為には自分を知ることだ。いいな」
「わかりました」
 そうしたやりとりの後でアキトはトレーニングルームから姿を消した。そして後には一矢と京四郎が残ったがその二人もそこから姿を消した。そして二人はそのまま廊下に出た。
「一矢」
 京四郎は歩きながら横にいる一矢に声をかけてきた。
「何だ」
「俺を冷たいと思うか」
 彼はサングラスの奥のその目で一矢を見ながら問うてきた。
「どう思う」
「少なくとも俺はそうは思わない」
 一矢はそう答えた。
「冷たかったらそもそも言葉もかけたりはしないだろう」
「そうか」
「御前は純粋にアキト君の為を思って言ったんじゃないのか」
「御前はそう思うか」
「そう思えるんだが違うのか」
「さて、どうかな」
 だが彼は不敵に笑って答えをはぐらかしてきた。
「生憎俺はこんな男だからな。何を考えているかはわからないぞ」
「素直じゃないのはわかっているつもりだが」
「さてな、それもどうかな」
 そこで自分の部屋の前に来た。京四郎はそこに入った。入る時にまた言った。
「御前もだ。あまり焦るなよ」
「焦るな、か」
「そうだ。そして周りをよく見ろ。俺の言いたいのはそれだ」
「わかった。じゃあそうさせてもらうよ」
「それが出来ればな。無鉄砲さは誰に似たのか」
 そう言いながら部屋に消えた。一矢は一人となった。
「無鉄砲か」
 京四郎の言いたいことはわかっている。だが彼はそれでも忘れられないものがあったのだ。
「エリカ」
 彼はその名を呟いた。
「今君はどうしているんだ」
 それを思うだけで胸が一杯になる。そして他のことが考えられなくなく。例え誰に言われようとも。
 彼もまた自分の部屋に入った。丁度京四郎の部屋の向かいであった。
 そこにある写真を見る。そこには幸福があった。彼はその幸福をもう一度その手に掴もうと決意するのであった。

 ロンド=ベルは順調に地球圏に向かっていた。だがそこで突如として異変が起こった。
「ムッ!?」
 カミーユが何かを感じた。そしてその脳裏に何かを見た。
「あいつだ・・・・・・」
「カミーユ、どうしたの!?」
 ファが突如として呟いた彼の側に寄って問う。そこにはフォウもいた。
「ファ、君は感じなかったのか」
「何を!?」
 ファもニュータイプとしての素質は備えている。実際にそれにより戦闘においては鮮やかな動きを見せる。しかしカミーユのそれと比べると明らかに歴然たるものがあった。その差が今出ているのである。
「あいつが来る・・・・・・!」
「あいつが!?」
「そう、あいつだ」
「ええ、来ているわ」
 フォウにもそれはわかった。
「まっすぐにここに」
「フォウ、君にもわかったんだね」
「ええ、危険だわ。すぐに動かないと」
「よし」
 カミーユはその言葉を受けて立ち上がった。
「じゃあ行こう、すぐに」
「ええ」
 こうして二人はそのまま何処かに向かおうとした。ファがそんな二人を呼び止める。
「ちょっと二人共何があったのよ」
「すぐにわかることさ」
 カミーユはまた言った。
「すぐにって」
「ファ、君は何も感じないのか」
「何をよ」
「このプレッシャーを」
「プレッシャーって・・・・・・!?」
 その瞬間彼女も脳裏に何かを察した。
「これは・・・・・・まさか」
「そう、あいつだ。すぐに行こう」
「わかったわ。それじゃエマ中尉とカツも呼ぶわ」
「ああ、頼む」
 こうして彼等はその場を後にした。そしてこの時何かを察し動いていたのは彼等だけではなかったのであった。
「ブライト」
 アムロがブライトに声をかけた。だがそれは艦橋においてではなかった。
「アムロ、どうしてそんなところにいるんだ」
 彼は格納庫にいた。そしてニューガンダムに乗り込んでいたのだ。ブライトはそんな彼に対して問うた。
「まだ戦闘用意の命令は出してはいない筈だが」
「じゃあ今すぐ出してくれ。大変なことになる」
「大変なこと」
「御前もそろそろ感じると思うんだが。どうだ」
「まさか」
 長い付き合いである。彼が何を言いたいのかわかった。
「あの男か」
「そうだ、遂に出て来た」
 生きていたのは知っていた。それが遂に来たのであった。
「わかった、それならばすぐに頼む」
「そう言ってくれると思ったよ。それじゃあな」
「うむ」
「艦長、レーダーに反応です」
「都合がいいな」
 既にモビルスーツ部隊は出撃している。ニュータイプ能力を持つ者と彼等がいる小隊だけだったがそれだけでもそれなりの数であった。トーレスがレーダーの反応を確認する頃にはもう戦艦の前に展開していた。
「さて、あいつも元気でやってるかな」
 ジュドーは目の前にいるまだ姿も見えない敵を見据えながらそう言った。
「元気でって。元気だからこっちに来るんじゃない」
「おっと、そうだったか」
 隣にいるルーにそう言われて片目をつむる。
「もう、しっかりしてよ」
「悪い悪い」
「しかし本当に生きているとは思わなかったな」
「そうだね」
 プルがプルツーの言葉に頷いた。
「木星で死んだと思っていたが」
「悪運が強いってことだろ」
 ビーチャが二人に対して言う。
「元々そういう奴だったしな」
「何かそれじゃよくわからないよ」
「イーノ、そういうのはね、勘で感じるのよ」
 エルが彼に対してそう言う。
「勘でね」
「勘かあ」
「だったら賭けるかい、エル」
「?何を?」
 モンドの問いに顔を向ける。
「あいつが何で来るか。負けた方がジュースをおごるってことで」
「悪くないね。けれどあたしはビールの方がいいね」
「こら」
 そんな彼等をエマが叱った。
「子供がそんなもの飲んじゃ駄目でしょ」
「いけね」
「全く。目を離したら何をするかわからないんだから」
「忘れてた、エマさんもいたんだ」
「厳しいなあ、全く」
「ははは、エマ中尉も相変わらずだな」
 クワトロはそんなエマを見て思わず笑い声を出してしまった。
「いい教官になれるな」
「大尉が甘過ぎるんですよ」
 エマは今度はクワトロに注意してきた。
「いつもそうではないですか。彼等を甘やかすから」
「子供はそれでいい」
 だがクワトロは反省するところはなくそう言葉を返した。
「無理に抑圧するよりはな。それぞれの道を歩ませた方がいいのだ」
「それは違います」
「違うのか」
「はい。教えることも必要です。ましてこの子達ときたら」
「何か俺達って信用ないんだな」
「心外よね」
「こんな利発な子供達を捕まえて」
「ジャンク屋なんてそうそうできはしないぜ」
「これでも苦労してるんだよ」
「皆の苦労はちょっと違うと思うけれど」
「けれどお風呂は我慢したくない」
「あたしもそれは嫌だね」
「そういうのが駄目なのよ」
 見かねたファが彼等にそう言った。
「そんなのだからエマさんに怒られるんでしょ」
「ちぇっ」
 ジュドー達はそれを聞いて口を尖らせた。
「何か面白くねえなあ」
「そんなこと言ってる暇じゃないけれどね」
 今度はクェスが言った。
「ん!?来たか!?」
「うん、ほら」
 赤いヤクトドーガが指差した方にそれはいた。果てしなく巨大な艦であった。
 だがそれは戦艦ではなかった。だが戦艦よりも遥かに巨大であった。それは木星のヘリウム輸送船であるジュピトリスであった。輸送艦であるが武装はある。これに乗る男は一人しかいなかった。
「来たな」
 カミーユはジュピトリスの巨大な姿を見てその目を決した。
「シロッコ、また俺の前に出て来るのか」
「カミーユ」
 だがそんな彼にフォウが声をかける。
「気を走らせては駄目よ」
「フォウ」
 それに気付きフォウを見た。優しい顔をしていた。
「いいわね」
「わかった」
 カミーユはそれに頷いた。そしてジュピトリスを見据えていた。
 
 その艦橋には白い軍服の男がいた。パプテマス=シロッコである。
「ふむ、既に出撃しているか」
「ニュータイプが多いようですが」
 隣にいるサラがそれに答える。
「予想通りだな。そしてあの男もいる」
「カミーユ=ビダン」
「サラ、ボリノーク=サマーンで出撃しろ。レコアはパラス=アテネだ」
「はい」
「了解」
 見ればレコアもいた。二人は敬礼してそれに頷いた。
「モビルスーツ部隊を出せ。ジュピトリスを中心に展開する」
「ハッ」
 それに従いジュピトリスからモビルスーツが発進する。見ればジュピトリスの他にも艦艇がいた。アレクサンドリア級が数隻いた。
「さて、と。宇宙でこの連中とやりあうのは久し振りだな」
 その中の一隻にいるいかつい顔の男が呟く。ガディ=キンゼイである。
「ジェリドやヤザンがいないのが残念だが贅沢も言ってられん」
「今連中は地球で頑張っているそうですね」
「ああ、その通りだ」
 側にいる艦橋のスタッフにそう返す。
「どうせ何かと不平を言っているのだろうがな。どちらにしろ今は関係ない」
「今ジュピトリスより連絡がありました」
「何だ?」
「すぐにモビルスーツ部隊を発進させて欲しいとのことですが」
「わかっていると伝えろ。そんなのは常識だ」
「はい」
「それにしてもあの戦いで生きているとはな」
「木星ですか」
「しかもバームにいた者を使うとは。ジャミトフ閣下もわからないことをされる」
「艦長、それ以上は」
 副長が彼を止めた。
「わかってるさ。戦力は少しでも必要だ」
「はい」
「だがな、クロスボーンや木星の残党を入れたり。ティターンズとはわからん組織だな」
 地球至上主義を題目に掲げているがそれが看板に過ぎないことは彼にもわかっている。何故ならジャミトフはジオン共和国と関係を深め同盟関係にあるからである。そもそもが単なる独裁を目的とする組織なのだ。
「まあいい。俺は政治のことには興味はない」
「はい」
「ジャマイカンとは違う。俺は俺だ」
「それでは戦いには参加されるのですね」
「少なくともロンド=ベルを放っておいてはならないだろう。やるぞ」
「わかりました」
「モビルスーツ部隊を出す。いいな」
「了解」
 見れば他の艦のモビルスーツ部隊も出撃していた。そしてロンド=ベルに向かう。
 その中にはサラとレコアもいた。しかしシロッコの姿はなかった。
「出撃されないのですか?」
 それが気になったジュピトリスの士官の一人が艦橋にいるシロッコに尋ねた。見れば彼はパイロットスーツすら着てはいなかった。
「今はいい。私が出る必要はない」
 彼は落ち着いた声でそう答えた。
「それよりもこれまでの戦いを生き抜いた彼等を見てみたいのだ」
「左様ですか」
「サラとレコアに伝えろ。サラはカミーユ=ビダンを狙え」
「はっ」
「レコアは戦艦だ。いいな」
「わかりました」
 それに従いサラとレコアはそれぞれの敵に向かう。その頃にはコウ達普通のモビルスーツパイロット達や他のマシンも出撃していた。そして戦艦の周りに展開しはじめていた。
「艦長、一機こちらにやって来ます」
「誰だ」 
 シナプスは報告したパサロフに問う。
「緑のモビルスーツ、パラス=アテネです」
「そうか、来たか」
 彼はそれを聞いても落ち着いていた。これは予想されたことであったからだ。
 パラス=アテネは重装備のモビルスーツである。対艦用に開発されその火力は絶大だ。ならばこちらにやって来るのは自然であったからだ。
「迎撃用意」
「了解」
「他の艦にも伝えよ。敵の急襲に警戒するようにとな」
「わかりました。それでは」
「うむ」
 他の艦にシナプスの言葉が伝わる。それぞれ迎撃態勢に入る。だがそれでもレコアのパラス=アテネは戦艦の方に向かっていた。
「これなら・・・・・・!」
 そしてミサイルを放った。巨大な対艦ミサイルであった。
 それは一直線にアルビオンに向かう。だが突如として爆発した。
「何っ!?」
 切り払われたのだ。そしてそこにはエマがいた。
「クッ、エマ中尉」
「久し振りね、レコア中尉」
 エマはそう言葉を返す。そしてレコアと対峙していた。
「どうやら元気そうね」
「貴女もね」
 レコアはミサイルを切り払われた衝撃を押し殺しつつそう返した。
「先の大戦以来だけれど。またパラス=アテネで来たのね」
「貴女もね。どうやらそのスーパーガンダムがお気に入りみたいね」
「そうね。乗り易いから」
「それでどう、そっちは」
「悪くはないわ。皆元気だし」
「そう。じゃあカミーユも」
「ええ」
 エマはそれに頷いた。
「元気よ。すぐ側にいるわ」
「そう。だったらいいわ。じゃあカミーユに伝えておいて」
「何て言えばいいのかしら」
「フォウを大事にねって。それだけよ」
「わかったわ」
「貴女もね」
「!?私が」
 エマはその言葉にハッとした。
「どうして私なのかしら」
「それも変わっていないわね」
 レコアはキョトンとするエマを見て思わず苦笑してしまった。
「他人への気配りはできても自分のことは気付かないんだから」
「何を言ってるのかわからないのだけれど」
「まあいいわ。それよりも」
 そう言いながらビームサーベルを抜く。
「やるんでしょ?もっともやるしかないのだけれど」
「ええ、わかったわ」
 エマも頷いた。そしてサーベルを抜く。
「カツ、サポートお願いね」
「はい」
「じゃあ行くわよ」
 パラス=アテネが先に動いた。そして斬りつける。
「まだっ!」
 エマはそれも払った。だがレコアの攻撃はそれで終わりではなかった。
「これならどうっ!」
 今度は拡散ビーム砲を放つ。切り払うことができないのを見越しての攻撃だった。
 しかしそれも駄目であった。エマは素早い動きでそれをかわしたのだ。
「これでもっ!」
「その程度の攻撃で!」
 エマは叫んだ。
「じゃあっ!」
 だがレコアも負けるわけにはいかなかった。間合いを放すと今度は拡散メガ粒子砲を放ってきたのだ。
「これでっ!」
「それでもっ!」
 しかしエマはそれもかわしてみせた。上に跳びかわす。見事な操縦だと言えた。
「クッ・・・・・・」
 パラス=アテネは重装備であるぶん機動性に欠ける。それに対してスーパーガンダムはガンダムならではの非常に優れた運動性能を持っている。それが如実に現われていた。レコアはそれを悟って舌打ちしたのだ。
「このままでは」
「レコア中尉、まだティターンズにいるつもりなの?」
「というと」
「貴女もジャミトフやバスクがどういった連中か知っている筈よ。離れて悪いことはないわ」
「それは知っているわ」
 レコアはそれに対して冷静にそう返した。
「じゃあ何故」
「私は彼等についているわけじゃないの」
 そしてこう言った。
「私はシロッコと一緒にいるのよ」
「シロッコと」
「そうよ。これからの新しい時代はニュータイプの女性が創るというのなら。それを見てみたくなったのよ」
「それは詭弁よ」
 エマはそう言ってシロッコを否定した。
「彼は自分以外の存在は認めてはいないわ。自分だけが頂点にいるのだと」
「確かにそうかも知れない」
「なら」
「けれど・・・・・・そんなに簡単じゃないのよ、女ってのは」
「わからないわ、そんなの」
「貴女にはわからないかも知れない・・・・・・。けれどそれはいいわ」
「それじゃあやっぱり戦うのね」
「ええ」
 レコアは頷いた。
「シロッコの為に」
「それじゃあ私はロンド=ベルの為に。行くわよ」
 二人の戦いも続いていた。そしてカミーユとサラも戦いを続けていた。
「サラ、まだわからないのか!」
 カミーユはビームサーベルを振りながらそう叫んだ。
「シロッコなんかに!何ができるというんだ!」
「この世の中を作り変えることができる!」
 サラはそれに対して叫んだ。
「パプテマス様ならできる!」
「それは違う!」
 だがカミーユはそれを否定した。
「あいつは御前を利用しようとしているだけなんだ!レコアさんも!」
「どうして貴方にそう言えるの」
「俺はあいつのプレッシャーを感じたからわかるんだ」
 彼は言った。
「あいつは・・・・・・自分以外の者は全て手駒だとしか見ていない。サラ、君もだ」
「貴方はそうとしか見れないのね」
「何!?」
「パプテマス様を。一度あの人を倒したのに」
「倒したからわかる」
 それでも彼はシロッコを否定した。
「全部。あいつを生かしておいてはいけないんだ」
「それでは私は貴方を倒す」
 サラは強い声でそう言い切った。
「パプテマス様を御守りする為にも」
「どうしてもやるというのか」
「ええ」
 そして頷いた。
「あの人は私の全てだから」
 二人の戦いもまた続いていた。その周りではマラサイやバーザムといったティターンズのモビルスーツ達がロンド=ベルのマシン達と死闘を展開していた。シロッコはジュピトリスの艦橋でそれを見守っていた。
「相変わらずの強さだな、彼等は」
「はい」
 それに副長が頷く。
「いや、さらに強くなったと言うべきか。特にあの青いマシンだ」
「あれですか」
 そこにはゴッドマーズがいた。タケルはその中で剣を振り回し戦っている。
「あのマシンに乗る少年・・・・・・。強い力を持っている」
「力をですか」
「そうだ。それもかなりのな。だが悲しい力だ」
「といいますと」
「半分しかない。その半分は今はここにはない」
「はあ」
 副長は彼が何を言いたいのかわかりかねていた。力なくそれに頷く。
「だがすぐに来るだろう。その時面白いことになる」
「そういえば太陽圏外に何やら新しい勢力が姿を現わしたそうです」
「バルマーか」
「おそらくは。こちらに向かっているようですが」
「そうか。遂に来たのだな」
 彼はそれを聞いて面白そうに笑った。
「彼等も何かと御苦労なことだ」
「しかし厄介なことになりませんか」
「厄介とはどういうことだ?」
「我々の立場です。以前のことがありますから」
 シロッコは前の戦いで木星の勢力と共にバルマーに組していたのだ。その為木星においてカミーユと対決したのである。その後木星の勢力はティターンズに入った。この時彼もまたティターンズに戻っていたのである。
「関係を疑われたりは」
「その心配はない」
 だがシロッコはそれを否定した。
「それは何故でしょうか」
「ジャミトフ閣下は聡明な方だ。我等を信頼して下さっている」
 そう心にもないことを言った。
「だから何も気に病む必要はない。わかったな」
「艦長がそう言われるのでしたら」
「そういうことだ。安心していいぞ」
「わかりました。それでは」
「うむ。ところで戦局だが」
「はい」
 彼等はここで話を今行われている戦いに移した。
「我々にとって不利になってきているな」
「如何されますか」
「一旦退くとしよう。今は無理をする時ではない。わかりました。それでは」
 副長はそれに従い命令を出した。それに従いティターンズのモビルスーツ達は次々と後退していった。
「むっ」
 その命令はレコアの許にも届いていた。彼女はそれを受けてまずはエマから離れた。
 そして最後に拡散ビーム砲を放つ。エマはそれをかわすのに専念しなければならなかった。
 エマが戸惑っている間に撤退に移った。エマが態勢を立て直した時にはもう彼女は消えていた。
「行ったわね」
「レコアさん」
 カツもそれを見て彼女を気遣う声を出した。
「何時までああしてるんでしょう」
「それはわからないわ」
 それに対するエマの返答は要領を得ているとは言い難かった。だがそれでも意味は通じた。
「私達には。全部彼女の問題だから」
「レコアさんの」
「そうよ。けれどこのままではどうにもならないことは彼女が一番わかっている筈」
 その言葉は厳しいものであった。
「それでもどうしようもないのかもしれないけれど」
「そうなんですか」
 サラも戦場を離脱していた。カミーユはゼータツーをウェイブライダーに変形させて追撃しようとするがそれはフォウに止められてしまった。
「駄目よ、カミーユ」
「どうして」
「追うと・・・・・・死ぬわ」
「死ぬ・・・・・・どうしてなんだい」
「シロッコが。貴方を狙っているわ」
「!?」
 その時彼は感じた。シロッコのプレッシャーを。それは確かに彼に向けられていた。
「どうしても行くというのなら止めないけれど。けれどその時は私も一緒よ」
「・・・・・・わかった」
 彼はそう言われて頷いた。
「じゃあ今は止めておこう。それでいいんだね」
「ええ」
 フォウもそれに頷いた。こうして彼は追撃を止めてその場に留まった。戦いは終わりティターンズは何処かに撤退してしまった。ロンド=ベルの勝利ということになった。
 だがロンド=ベルの面々はそれを素直に喜ぶことはできなかった。特にニュータイプと言われている者達は。彼等は皆不機嫌な顔をして塞ぎ込んでいた。
「一体どうしたってんだよ」
 勝平はそんな彼等を見て声を出さずにはいられなかった。
「勝ったんだろ。もっと喜んでもいいじゃねえか」
「御前本っ当に何もわかっていないんだな」
 宇宙太はそんな彼を見ていつもの呆れ顔を作った。
「シロッコを見て何にも思わねえのかよ」
「思うって何をだよ」 
 だがやはり彼は何もわかってはいなかった。
「あんなキザな白服野郎。ガイゾックなんかと比べたらヒョロヒョロだぜ」
「考えようによってはガイゾックより怖いぞ」
「!?そうなのか」
「ああ。ガイゾックは破壊するだけだろ。だがあいつは違う」
「よくわからねえな、それって」
「ギレン=ザビとかな。ちょっと違うが」
「独裁者なのかよ」
「そうなる可能性はある。とにかく奴は危険過ぎるんだ。言うなら怪物だ」
「怪物か」
「だからだ。御前もあいつを前にしたら用心しろよ。何をされるかわからねえぞ」
「よくわからねえがわかった」
 勝平はそう答えた。
「とにかくやっつけりゃあいいんだな」
「わかってるのかしら」
 恵子はそんな彼を見て首を傾げたがそれ以上は何も言わなかった。彼女もシロッコの脅威を感じてはいたがそれでもどうしようもないのではと思っていたからだ。ニュータイプでないとわからないこともあるのではないか、とさえ思っていた。
 ニュータイプの者達も少し経つと気を取り直してきた。だがカミーユだけは別だった。
「カミーユはどうだ」
 心配になったブライトがファに尋ねた。
「かなり悩んでいるようだが」
「少しはましになりましたけれど」
 それでもその声はあまりよいものではなかった。
「けれどそれでも。やっぱり何か歯切れが悪いです」
「そうか」
「時間が経てば違うと思うんですけれど。どうでしょうか」
「生憎その時間がな」
 ブライトはそれを聞いて苦い顔を作った。
「あまりない。ネオ=ジオンの部隊が確認された」
「ネオ=ジオンが」
「そうだ。カミーユの力は必要だ。できるだけ早く立ち直って欲しいんだが」
「けれど今は」
「難しいかどうしたものかな」
「あれっ、何かったんですか?」
 二人が悩んでいるところにケーン達がやって来た。
「そんなに落ち込んで。悩みですか!?」
「気になるなあ。何なんですか」
「俺達でよかったら相談に乗りますよ」
「実はな」
 ブライトはその苦い顔に少しだが笑いを含ませてから三人に対して言った。三人はそれを聞くと一気に笑い飛ばした。
「何だ、滅茶苦茶簡単じゃないですか」
「簡単!?」
「そういう時はね、身体を動かせばいいんですよ」
「音楽を聴きながらね。それで万事解決です」
「そう上手くいくかな」
「失敗した時は考えない方がいいですよ。その時はその時」
「何か適当ね」
「適当なのが俺達のウリでな」
「あまり気にしない。じゃあファは案内して」
「何処によ」
「カミーユのところに。いっちょ派手に行こうぜ」
「あ、ちょっと」
「いいからいいから」
 何が何かわからないうちにファは三人に連れられてカミーユの部屋に向かった。ブライトはそんな彼等の後ろ姿を見て一人笑っていた。
「あれで上手くいけばいいがな」
「上手くいくさ」
 そこにクワトロがやって来た。そして彼にこう言った。
「そう思わなければ何もできはしない」
「楽天的にいくのか」
「そうだな。まあケーン達にはもう言うまでもないことだが」
「ああした軽い雰囲気はな。どうも苦手だ」
「ジュドー達もか」
「あの連中にも最初は悩まされたさ。どれだけ修正してもなおらないしな」
「苦労したんだな」
「アムロもそうだったしな。最初はあいつもどうしようもない奴だった」
「また懐かしい話だな」
 アムロもそこにやって来た。
「あの頃のことを蒸し返すのは正直困るんだが」
「だがそれで今の御前があるしな」
「確かにな」
 それを言われると苦笑するしかなかった。
「御前とはあの時は色々あったな、本当に」
「全くだ。どうしようもない奴だったよ」
「連邦軍の白い流星の若き日だな」
「おい、俺はまだ二十代だぞ」
「そういう私もだ」
 クワトロもそれに応えた。
「最近やけに老け込んできたのは自覚しているがな」
「私もな。何か色々と身体が痛む時がある」
「御前はストレスじゃないのか?」
「そうかも知れないが。まだ二十代だというのに」
「検査を受けてみろ。五十代とか言われるぞ」
「そこまではいかないだろ。三十代だと思うが」
「トレーニングはしているか?」
「一応はな。だが内臓がどうもな」
「ストレスだな、確実に」
「やれやれだ。もっとも最近はいい加減慣れてきたように感じているがな」
「それはどうかな。ある時急に来るぞ」
「一年戦争の時の方が楽だったか。厄介なのは御前やカイだけだったし」
「カイもか」
「あいつもな。ひねくれていて扱いに困った」
「今はジャーナリストをしていたな」
「そうらしいな。地球にいるらしいが」
「あいつも元気にやっていればいいな」
「まあ生きていることは確かだ。元気でやっているだろう」
 ブライトは懐かしそうな笑みをたたえながらそう言葉を続けた。
「リュウもスレッガーもいたしな。セイラさんも」
「セイラさんか」
 それを聞いてアムロも懐かしい顔になった。
「地球にいるとは聞いているが。どうしているかな」
「アルティシアなら元気でやっているさ」
「知っているのか、シャア」
「ああ。この前連絡があった。ダカールで株をやって生計を立てているらしい」
「そうなのか」
「会うことはないがな。だが何処となくうちとけてきた」
「それは御前がシャア=アズナブルでなくなったからだろう」
「そうなのかな」
「今の御前はクワトロ=バジーナだ。もうシャアじゃない」
「そうだな。もうその名前は捨てた」
「だがキャスバル=ズム=ダイクンには戻らないのだな」
「私には父の理想を完全には理解できはしないからな」
 クワトロは少し寂しそうな声でそう答えた。彼が言ったとは思えないような口調になっていた。
「私が父の理想を実現しようとすれば他の者を不幸にしてしまう」
「そうか」
「それは他の者にとっても私にとってもよくない。それならば私はクワトロ=バジーナでいる」
「わかった。それでは御前はそうしたらいい。クワトロとしてな」
「ああ」
「だが、御前をまだシャア=アズナブルだと思っている者もいる。それは忘れるな」
「わかっているさ」
 シャアはそう答えた。
「ハマーンもな。そう思っているだろう」
「ハマーン=カーンか」
 その名を聞いたアムロの顔が少し変わった。
「あの女、何を企んでいるのだろうな」
「ハマーンもまたジオンの亡霊に取り憑かれているのだ」
「ジオンの亡霊にか」
「そうだ。だからこそ地球に戻って来たのだ。アクシズからな」
「そうだったのか」
 アムロとブライトはそれを聞いて顔を引き締めさせた。
「地球がある限り戦いは避けられない。それは覚悟している」
「ジオンの亡霊とだな」
「そうだ。これは私の宿唖だ。逃げられはせんよ」
「では戦うのだな」
「そうするしかないだろう」
 その言葉には最早達観があった。
「ザビ家と私は。だがミネバに罪はない」
「ミネバ=ザビか」
「あの娘は何とかしたいが。できるだろうか」
「可能性がある限りはそうした方がいいな」
 アムロは言った。
「それは御前もそう願っていることだろう」
「全てお見通しというわけか」
「御前のことだ。すぐにわかるさ」
「やりづらいものだな。何もかも見透かされていると」
「しかしそれで止めるつもりもないだろう」
「ふ、確かにな」
 三人は来たるべきネオ=ジオンとの戦いについてそれぞれ考えていた。そしてそれを別に思う者もいた。
「あれ、セラーナさんこんなところにいたんですか」
「ええ」
 見ればナナである。セラーナは一人マクロスの喫茶店にたたずんでいたのだ。そして窓の外から道路を眺めていたのだ。
「シローさん達が探していましたよ。何処にいるのかって」
「そうだったのですか」
「マクロスにいるのならそう言ってもらわないと。皆心配しますよ」
「御免なさい。ところでナナさんはどうしてこちらに?」
「私はちょっとお兄ちゃんや京四郎さんについて。それでここに来たんですよ」
「そうだったのですか」
「ダイモスの整備のことで。色々とお話があるらしくて」
「ダイモスも前線で頑張っていますからね」
「そうなんですよ。もうフォローするこっちが大変で。お兄ちゃん仲間がピンチだとすぐにそっちに行っちゃうから」
「一矢さんらしいですね、何か」
「仲間が傷つくのを見ていられないんですよ。それで何かと頑張っちゃって」
「京四郎さんは止めないんですか?」
「まさか。京四郎さんってああ見えても実はお兄ちゃんより熱いんですよ」
「あら」
「戦いになるとね、お兄ちゃんのことが本当に心配らしくて。ピンチになるとすぐに突進するんですよ」
「意外ですね。そうは見えないのに」
「普段はすかしてますけれどね。あれで結構いい人なんですよ」
「そうだったのですけ」
「そんなのだからこっちもやらなきゃって思うんですけれど。けれどね」
「一緒にいると何かと大変そうですね」
「楽しいですけれどね」
「楽しい、ですか」
 セラーナはそれを聞いて少し寂しい顔になった。
「そうでしょうね。周りにいつも誰かいてくれると」
 そう言って寂しい笑みを作った。
「けれど私にな」
「セラーナさん・・・・・・」
 セラーナは一人窓を見続けていた。ナナはそれに何も言うことはできなかった。
 彼女もまた胸の中に何かを抱いていた。しかしそれは誰にも見せようとはしなかった。


第四十七話   完


                                   2005・9・28

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