熱気バサラ
「それでね」
 アヤは何時になく上機嫌で皆に対して語っていた。
「彼ったら本当に格好いいんだから」
「何だ、またアイドルか?」
 そこに通りかかったリュウセイはそれを聞いて一言そう言った。
「アヤも相変わらずだよな。今度は何処のアイドルなんだ?」
「アイドルじゃないわよ」 
 リュウセイにもアヤの上機嫌な声が向けられた。
「アーティストよ」
「画家か何かか?」
「違うわよ。ミュージシャンよ」
「何だ、そっちかよ」
 ゼオラにそう言われてあらためて頷いた。
「まあどっちでもいいか。それで誰に夢中なんだ、今度は」
「熱気バサラよ」
 アヤは熱っぽい声でそう答えた。
「ああ、ファイアーボンバーの」
 リュウセイはそれを聞いて思い出した。
「確か最近やたら派手なコンサートやttらしいな」
「そうなのよ、バルキリーで出て来て。もう最高だったわ」
「バルキリーでかよ」
 イサムがそれを聞いて呆れた声を出した。
「またえらくクレイジーだな、おい」
「同感だ」
 さしものガルドも今回ばかりはイサムを引き合いには出せなかった。
「とんでもない奴がいるものだ」
「そのとんでもなさがいいのよ」
 しかしアヤの言葉は変わりはしない。
「熱気バサラらしくて。ぶっ飛んでいて」
「そういう問題かしら」
 エマはそれを聞いて首を傾げさせた。
「幾ら何でもそれはやり過ぎじゃないかしら」
「それで終わりじゃないのよ、彼は」
「まだあるのかよ」
「今度は何をしたのだ」
 イサムとガルドはもう興味津々で聞いていた。見れば他の者も同じである。
「バルキリーに乗り込んでね」
「そして」
「銀河に飛び上がったのよ。ギターを持ちながらね」
「おいおい、ギターを持ってバルキリーの操縦とはまたハイセンスだな」
 さしものフォッカーも完全にいつものクールさと斜に構えた素振りはなかった。
「俺でもそうはいかないぞ」
「そうね」 
 クローディアも珍しくフォッカーを窘めない。
「貴方よりも無茶をする子がいたなんて」
「私も初耳ね」
 早瀬もそれは同じであった。
「そこまで滅茶苦茶だと。かえって尊敬するわ」
「滅茶苦茶なら俺達だって大概なものだがな」
 忍は獣戦機隊のメンバーと共にバンドも組んでいる。だがその彼等でもコクピットにギターを持ち込んで演奏したりはしないのである。
「エレキギターをね、もう派手に鳴らして」
「はあ」
「俺の歌を聴けーーーーーーーって。もうしびれたわ」
「同感」
「ある意味は」
 皆それを聞いて完全に呆れてしまっていた。
「そこまでやると立派よね」
「熱気バサラにしかできないわよね」
「そう、そこなのよ」
 アヤは胸を張ってそう言った。
「その誰にもできないことを平然とやってのける。そこに憧れるのよ」
「そんなの俺だって得意だぜ」
 今度はリュウセイが胸を張った。
「常識や理屈なんて大嫌いだからな」
「御前のは単なる我が侭だ」 
 しかしライはそう言ってそれを否定した。
「我が侭と横紙破りはまた違う」
「ちぇっ」
「けどバサラもかなり我が侭だって聞いたよ」
 エルがそう言った。
「何でも人の話を全然聞かないんだって」
「そうなの」
「ええ。というか耳に入らない」
 ルーの問いにも答えた。
「メンバーはそれで何かと苦労しているらしいわよ」
「だろうね。あんな個性が強いの一人いるだけで何かと大変よ」
 モンドがそれに対してそう述べた。
「うちも結構そうした人間が多いしね」
「イーノ、そりゃ俺のことか」
「御前以外に誰がいるってんだよ」
 ビーチャがイーノにかわってジュドーにそう声を返した。
「何でも派手にやりゃいいってもんじゃねえぞ」
「それが戦争だろうが。っていうか手前等だってかなり派手にやってんじゃねえかよ」
「そうだったかな」
「そうだったかなじゃねえよ。この前の戦いでハイメガランチャーぶっ放しまくってただろうが」
「それが俺のやり方なんだよ」
「モンドもエルも。ミサイルやらビームやらバズーカやらどんどん使ってたじゃねえか」
「仕方ないだろ、向こうも山程の数で来るんだし」
「こっちはこっちで大変なのよ。そういうあんたもどれだけミサイル撃ってたのよ」
「悪いが覚えちゃいねえ」
「全く。ハイメガキャノンも飽きる程撃ってるし。だからダブルゼータの側にいると何時巻き添え食らうかわからないのよ」
「そん時はよけるんだな」
「まずは味方を撃たないようにしなよ」
「まあそう言うなって」
「ところでね」
 イーノが話題をかなり強引に変えにかかってきた。
「何だ」
 そして肝心のジュドーがそれに乗ってきた。成功であった。
「そのファイアーボンバーだけれどね」
「ああ」
「ミレーヌ=ジーナスってマックスさんの何なのかなあ」
「ああ、ミレーヌちゃんか」
 それを聞いたケーン達が身を乗り出してきた。
「それなら俺が知ってるぜ」
「そうなの」
「当たり前さ。この俺に知らないことなんてねえぜ」
「女の子のことはな」
「この前ナデシコのプールでリンダちゃんにメロメロだったしな」
「ええい、五月蝿え」
 囃し立てるタップとライトに睨みを利かせてから話を再開させてきた。
「それでミレーヌちゃんだけれどな」
「うん」
「実はマックスさんの従妹なんだ」
「従妹!?」
「それ本当!?」
「はい、そうですよ」
 丁度そこに同席していたマックスがそれに頷いた。
「ミレーヌはね。僕の従妹なんですよ」
「へえ」
 皆それを聞いてまたしても驚いた。
「そうだったんですか」
「意外でしたか?」
「まあ姓は一緒だったんでまさかとは思いましたけれど」
「しかしケーンもよくそんなの知ってたよな」
「マギーちゃんに教えてもらったのかい?」
「違うさ。アイドル雑誌で読んだんだよ」
「アイドル雑誌!?」
「ああ。それを読んでわかったんだよ。ミレーヌちゃんの詳しいことがな」
「その雑誌のことは僕も知っていますよ」
 マックスはケーンにもそう答えた。
「まさか公になるとは思っていませんでしたけれど」
「丁度その雑誌にミレーヌちゃんのグラビアもあったし。それで買ったんですよ」
「結局それなんだね。納得」
 雅人はいつもの調子のケーンの言葉を聞いて妙に納得していた。
「歳相応ってやつだよな、本当に」
「ただミレーヌちゃんってなあ」
 それでもケーンは何やら不満そうであった。
「どうしたい」
「相談に乗ろうか、竹馬の友」
「どうせお金とリンダのこと意外でだろ」
「まあそう言うなって」
「お金なんてどうせ大した価値もないものさ。本当の愛に比べたらな」
「ライト、その台詞はどっかの薔薇の騎士みたいだから止めときな」
「ハマーン様、このマシュマー=セロ」
「うわあ、何かそっくり」
 プルはライトの他愛のない悪ふざけを聞いてキャッキャッと笑い出した。
「面白いね、プルツー」
「私達も人のことは言えないがな」
 そうは言いながらも彼女も笑っていた。
「何かな。本当に似ている」
「まあそっちの方はいいさ。それでミレーヌちゃんのことだけれどな」
「ああ」
「彼女なあ」
「どうしたんだよ」
 二人だけでなく他の者も溜息をつくケーンを心配そうに眺めた。
「何かなあ、胸がねんだよなあ」
「何だ」
 それを聞いた女性陣は一斉に白け返ってしまった。
「何かと思えば」
「下らない」
「下らなくなんかねえよ」
 ケーンはそうした冷淡な女性陣に対して敢然と反旗を翻した。
「胸ってのはなあ、どれだけ大事なモンか。わかってねえのかよ」
「そんなもの自然と大きくなるわよ」
 ルーが白けた声のままそう返す。
「ゼオラを見なさい、ゼオラを」
「えっ、あたしなの?」
「まあたまたま目に入ったから。けれど本当に立派じゃない、その胸」
「肩が凝っちゃうけれどね」
「胸が大きいと肩が凝るのですか」
「ルリルリ、知らなかったの?」
「はい。ハルカさんはどうなのでしょうか」
「私?まあ時々ね」
「そうですか」
「胸ってのはなあ、大きくないと何かこう物凄く悲しいモンなんだよ」
「まだ言うか、こいつは」
「そんなんだから最近皆から変な目で見られるのよ」
 だがそんなレッシィとアムの視線にも屈しはしなかった。
「だからミレーヌちゃんは悲しいんだよ。何か可哀想でな」
「いや、それはどうかな」
 だがここでその反旗に逆襲を加える者が姿を現わした。
「小さい胸は小さい胸でそれでいいと思うよ」
「そういうあんたは」
「はい」
 見ればガムリンであった。彼は落ち着いた声でケーンの前に姿を現わした。
「確かにミレーヌちゃんの胸は小さいけれど」
「ああ」
「だからといって彼女の魅力は少しも損なわれてはいないと思うよ」
「むっ」
 対峙するケーンの目が光った。ガムリンもそれを受けて立った。
「胸が大きいということはそれだけでいいことだと思うけれど小さいことも同じ位いいことなんじゃないかな。私はそう思うのだけれどね」
「いや」
 ケーンはそれに首を横に振ろうとする。
「俺はリンダのあの豊かな胸に惚れたんだ」
「さりげなくとんでもないこと言ってるよな」
「プールのあれか」
 タップとライトはヒソヒソと囁き合っていた。
「だからこそ俺は・・・・・・巨乳だ!」
「ならば私も言おう」
 ガムリンも負けてはいない。
「ミレーヌちゃんの美しさを際立たせるが為に貧乳こそ最高だ!」
「・・・・・・何か傍目から見ると馬鹿以外の何者でもないですね」
「メグミ、それは言わない約束だよ」
 沙羅がメグミに対してそう言った。
「男ってのは訳のわからないものに執念を燃やすんだからね」
「それでも今回は何か」
「だから言わないでおきなよ。男ってのは片目を瞑って見てやるのも必要だっていうしね」
「けど沙羅さんは何かいつも睨んでる感じですよね」
「あ、あたしのことはどうでもいいんだよ」
 そう言われてかえって沙羅の方が狼狽した。
「あたしはね。まあ色々とあったから」
「そうでしたね」
 それはメグミも知っていた。申し訳なさそうに項垂れる。
「わかってくれたらいいよ。しかしこの二人は」
 見ればケーンとガムリンはそれぞれの主張を頑として譲らず対峙を続けていた。
「何処までやってるんだよ。こうなったらとことんまでやらせてみたくなったね」
「それでも答えは出ないだろうな」
 亮が沙羅の言葉にそう述べた。
「平行線にしかならないな」
「そうなのかい」
「元々どっちが正しいかどうかは関係のない話だ。あくまで個人的な嗜好の話だ」
「まあそう言えばそうだね」
「それで結論が出る筈もない。何処までいっても平行線だな」
「じゃあ止めるのかい?」
「いや」
 しかし亮はそれには首を横に振った。
「今はいい。二人が疲れきるまでやらせよう」
「わかった。じゃあ見とくよ」
「ああ」
 だが決着はつかなかった。何時の間にか誰もいなくなりケーンとガムリンだけが何時までも議論のようなものを続けていたのであった。
 ロンド=ベルはその間にも地球圏へ向けて進んでいた。やがて月の圏から離れようとしていた。
「また月とも暫くお別れだな」
「そうね」
 ナナは一矢の言葉に頷いた。
「それにしても近くで見ると何か全然違うね」
「何がだ?」
「お月様よ。地球から見たらあんなに綺麗なのに側で見たら穴だらけで。何か不思議ね」
「何でもそういうものだ」
「京四郎さん」
「側で見るのと遠くで見るのとでは勝手が違う」
「そうなの」
「人間でもそうだ」
「そんなものかしら」
「誰でもな。一矢にしろそうだな」
「俺がか」
「ああ。遠くから見ると頼もしいが側で見るとこんな危なっかしい奴もいない」
「心外だな、それは」
「いや、あながちそうとも言えないね」
「アイビス」
「一矢、あんたは向こう見ず過ぎるよ。何でも一途に思い過ぎるんだ」
「俺はそんなつもりは」
「あんたにそんなつもりはなくてもね。そうなんだよ」
「・・・・・・・・・」
 一矢はアイビスにそう言われ俯いてしまった。
「あたしもそうだからね。よくわかるんだ」
「ほう、意外な言葉だな」
「意外かい?」
 彼女はそれを聞いて京四郎に顔を向けて笑った。
「じゃあ今までどう思っていたんだい、あたしのことを」
「クールな奴とばかり思っていたがな」
「そうか。案外知られていないんだね」
「御前さんは気取り屋なんだよ」
 そこに04小隊のメンバーがやって来た。そしてモンシアが言った。
「何か一匹狼でな。もうちょっと可愛くできねえのかよ」
「それは押し付けではないですか」
 アデルがそれに意を唱えた。
「可愛いも可愛くないもあくまで主観的なものですし」
「俺はその主観で言ってるんだよ」
「やれやれ、いつものことか」
 ベイトがそれを聞いておどけてみせた。
「全く。困った奴だ」
「側にいても遠くにいてもモンシアさんはモンシアさんですね」
「うるせえ、それがどうした」
 彼は二人に言われてそう開き直った。
「俺には俺のやり方があるんだよ。指図するな」
「残念だがそういうわけにはいかん」
「大尉」
「モンシア、御前がスタンドプレーに走ればそれだけ他のメンバーに迷惑がかかる。それはわかるな」
「そ、そりゃまあ」
「第四小隊は一人一人のチームワークが命だ。それを忘れるな」
「は、はい」
「チームワークか」
 一矢はそれを聞いて呟いた。
「そういえば俺は御前達によく助けてもらってるな」
「当たり前じゃない」
「何かと世話を焼かされているがな」
 ナナと京四郎がそれに答えた。
「それがガルバーの役割だから」
「だがくれぐれも無茶はするなよ」
「ああ」
 一矢はそれに頷いた。
「そうだな。俺達はパートナーだ」
「そうよ」
「そしてそれは俺達だけじゃない」
「わかったよ、それも」
 彼等は今コスモクラッシャー隊と小隊を組んでいた。そのうえでの話であった。
「あいつ等もいるしな」
「そういうこと」
「全く。やっとわかったようだな」
「済まない」
「だが謝る必要はない」
 京四郎は一矢のそんな謝罪の言葉を受け流した。
「俺達が欲しいのは御前の謝罪ではなく力だからな」
「そして無茶をしないこと。いいかしら」
「じゃあそれを見せてやるよ」
「お願いするわね、お兄ちゃん」
 そんなやりとりを終えて彼等もその場を後にした。第四小隊のメンバーも去りアイビスは一人そこに残る形となった。
「パートナー、か」
 そこでツグミの顔が脳裏に浮かんだ。
「あたしにはあいつがいるか」
 だがそう思ったところで別の者の顔も浮かんだ。
「えっ!?」
 アイビスはその顔が脳裏に浮かんで思わずギョッとした。
「な、何でだろ。あいつの顔が」
 どうして浮かんだのかは彼女にもわからなかった。だが浮かんだのは事実であった。
「まさか。そんなこと有り得ないよ」
 頭を振ってそれを否定する。
「そんなことが有り得ないって」
 そう言いながらその場を立ち去った。それから暫くして敵影発見を知らせる警報が各艦に鳴り響いた。
「また敵か」
 皆それを聞いてうんざりとした声をあげた。
「またティターンズか?それともギガノスか?」
「いや、そのどちらでもない」
 グローバルが出撃に向かおうとするパイロット達の愚痴に答えた。
「ネオ=ジオンだ。しかも火星の後継者達だ」
「あいつ等か」
 アキトがそれを聞いて顔を引き締めさせた。
「また来たのか。懲りない奴等だ」
「元々機械だからな。それも当然だろ」
 サブロウタがそんな彼に軽い声を向けた。
「気にしない気にしない。そういうふうにインプットされてるんだからな」
「いや、そうじゃなくて」
「戦えるのが嬉しいのだな」
 今度はダイゴウジが出て来た。
「アキト、御前の気持ちはよくわかる」
「そうでもなくて」
 無闇に熱血に入ろうとするダイゴウジに額に汗をかきながら言う。
「言われなくともな。それでこそ心の友だ」
「そうでもなくて」
「御二人さん、こんなところで油を売っている暇はないぞ」
 しかしここでナガレが助け舟を出してきた。
「早く出撃しないとな。我々だけが遅れるぞ」
「おっと、そうだった」
「今度こそ一番乗りをしなくてはな」
 比較的単純な二人はそれに乗った。そして格納庫に急行した。
「アキト、君もな」
「は、はい」
「安心しろ、今回はいないようだ」
「連中ですか」
「そうだ。どうやら別行動を採っているらしい。何でもポセイダル軍とネオ=ジオンの戦いも熾烈になってきているらしい」
「ポセイダル軍と」
「本隊が地球圏に戻って来たらしい。今冥王星付近だそうだ」
「冥王星に」
「その関係でそちらに向けられているらしい。どちらにしろ今我々の前には姿を現わさないさ」
「だといいですけれどね」
「言いたいことはわかっている」
 ナガレは複雑な顔を作ったアキトに対してまた言った。
「だが今やるべきことをやろう。全部それからだ」
「それからですか」
「そうだ。とりあえずは今の敵を倒そう。いいな」
「わかりました。それじゃあ」
「ああ。後ろは任せてくれ」
 そして彼等も戦場に向かった。その目の前には既に木星トカゲの大軍が布陣していた。
「何かこの連中だけは数が全く減らないな」 
 洸がライディーンからその大軍を見てこう呟いた。
「まるで宇宙怪獣みたいだぜ」
「言われてみれば何かそんな感じだな」
 神宮寺がそれに頷く。
「数で押してくるしな。しかし連中はこんなもんじゃなかった」
「ああ」
「ガンバスターの連中が命をかけて戦わなくちゃいけなかった程にな。エクセリオンも全てを賭けて」
「辛い戦いだったな」
「今もそうだけれどね」
 マリは二人が深刻になりそうなところで言葉を入れてきた。
「だから二人共そんなに暗くならない、今もそうなんだから」
「おいおい、何か今日はやけに立派だな」
「マリっぺも成長したのかね」
「もう」
 それに対して茶化して返す二人に頬を膨らます。
「そんなこと言ってると知らないわよ、本当に」
「そうですね。マリさんは今回は正しいことを仰っています」
 猿丸がここでマリの援軍に入った。
「洸さんもミスターも変に暗くならないように。いいですね」
「猿丸大先生に言われるとな」
「そうなのかな」
「そうなのよ」
 マリはまた言った。
「だからリラックスしていきましょう。いいわね」
「よし」
 洸はそれを受けて身構えた。弓矢を取り出す。
「じゃあこれでいくか。ミスター、バックアップを頼むぜ」
「よし」
 ブルーガーはライディーンのサポートに回った。その後ろを守る。
「ゴォォォォォォォォォッドゴォォォォォォォォォォォォガン!」
 そしてその弓矢を放った。それを合図として戦いがはじまった。
 まずはライディーンのゴッドゴーガンが木星トカゲの一小隊を刺し貫いた。幾つかの爆発が起こり銀河を照らす。そこにロンド=ベルの攻撃が襲い掛かる。木星トカゲの一団はそれによりまずはその第一陣を壊滅させられた。
 しかしそれで終わりではなかった。彼等はその数を頼りに襲い掛かる。戦いは本格的なものに入っていった。
「いけっ!」
 ブルーガーがミサイルを放つ。それで一機撃墜した。そしてまた一機。神宮寺の操縦は実に巧みなものであった。
「凄いじゃない、ミスター」
「今更わかったのか?」
 マリの言葉に不敵に笑いながらそう返す。
「だったら少し鈍過ぎるな」
「わかってたけどね。長い付き合いなんだし」
「おや、長かったか」
「悪魔帝国との戦いからじゃない。忘れてもらっちゃ困るわ」
「マリさんは参加してきたのが新しかったですから」
 ここで猿丸が注を入れてきた。
「仕方がない一面もありますよ」
「ちぇっ、猿丸さんまでそんなこと言っちゃって」
「それより御前さんはレーダーの方を頼むぜ」
「私はサブパイロットを務めていますから」
「了解」
 四人はこうして何だかんだ言って的確にブルーガーを操縦していた。ライディーンのサポートとして立派に戦っているといって過言ではなかった。
 それはコスモクラッシャーも同じであった。同じように戦闘機でありながら多くのパイロットが搭乗している。それだけにそれぞれの力が合わさると強かった。
「何か戦闘機も強いんだな」
「おい、何当たり前のことを言っているんだ」
 アランが勝平に対してそう声をかけてきた。
「御前も戦闘機に乗っているだろうが」
「あ、そうだったか」
「勝平、御前そんなことまで忘れていやがったのか」
「あきれた」
「うるせえ、ザンボットに乗ってるから仕方ねえだろうが」
「そんな問題じゃねえだろ」
「大体自分が元々乗っている機体位覚えておきなさいよ」
「相変わらずだな、本当に」
 アランはそんな彼等を見て笑ってはいたが戦いは真剣なものであった。烏の様に舞い敵を倒していく。そして他にも戦闘機が戦場を駆っていた。
「アイビス、今日はどうしたのよ」
「・・・・・・・・・」
 アイビスはツグミの言葉にも応えようとはしない。ただ黙って戦場を駆っていた。
「何かおかしいわ、今日の貴女は」
「おかしいかい?」
 ここでようやく口を開いた。そしてこう尋ねてきた。
「今日のあたしは」
「ええ」
 ツグミは率直にそれに頷いた。
「どうしたの?何かに焦ってるみたいだけれど」
「焦ってる、か」
 それを聞いて顔を少し暗くさせた。
「そうかもね。何か胸騒ぎがするんだ」
「胸騒ぎ」
「あいつが来るんじゃないかと思ってね」
「あいつって」
「決まってるじゃないか、あいつだよ」
 アイビスは反論にならない反論で以って返した。
「わかるだろ?あいつだよ」
「それってまさか」
「やっとわかってくれたね」
 伊達にパートナーを務めているわけではなかった。彼女の言いたいことがわかった。
「来ると思うかい?ここに」
「そうね」
 ツグミはその眉を引き締めさせてそれに答えた。
「来るわ、絶対に」
「そうだね、来るよ」
「アイビスさん」
 そこにアラドとゼオラがやって来た。
「どうしたんですか、今日は」
「一人でこんなところにまで。危ないですよ」
「一人だからここまで来たんだよ」
「!?」
 二人はアイビスのその答えに目を丸くさせた。
「それって一体」
「どういう意味なんですか?」
「ヴィレッタさんやリンさんのところへ行って欲しいんだけど」
「どうして」
「来るのさ、あいつが」
 彼女は遥かな銀河の彼方を見据えてそう言った。
「あいつはあたしだけが狙いなんだ。だから」
「巻き添えになりますから。下がっていて下さい」
「ううん、どうしようゼオラ」
「どうしようって言われても」
 どうしたらよいのかゼオラにもわかりかねていた。アイビスはその間に速度を全開にさせた。
「行くよ、ツグミ」
「ええ」
 ツグミはそれに頷いた。そして二人は戦場の中央へと向かって行った。
「あ、行っちゃった」
「誰かを待っているみたいだけれど」
「誰かって?」
「そこまではわからないわよ」
 アラドの問いにバツが悪そうな顔をする。
「けど。あたし達もうかうかしていられないわ。行くわよ、アラド」
「お、おいちょっと待ってくれよ」
「遅いと置いてくわよ」
「おい、俺は子供じゃないんだぞ」
「身体はそうでも頭の中はまだ子供ってことよ」
「言っていいことと悪いことがあるぞ」
「じゃあそうじゃないってところを見せてよね」
「わかった。じゃあやってやらあ」
 そんなやりとりをしながら二人も戦場へ戻った。ロンド=ベルの激しい攻撃が仕掛けられている戦場の中央にアイビスのアルテリオンがその白銀の姿を現わすとそこに赤い姿のアーマドモジュールもいた。
「やっぱりいたね」
「御前を倒す為にわざわざここまで来たのだ」
 そのアーマードモジュールベガリオンに乗る女がそう言葉を返した。
「アイビス、覚悟はいいか」
「ああ、あんたが望むのならな」
 アイビスはそうその女スレイに言った。
「来な。今日こそは決着をつけてやるよ」
「望むところ。行くぞ!」
 加速した。そして全速力で突進しながらミサイルを放つ。
「これなら!」
「アイビス、来るわ!」
「わかってるさ」
 アイビスは冷静にそう答えた。そしてミサイルの手前でそのマシンを動かした。
「ムッ!?」
 それだけでミサイルはアルテリオンを素通りした。驚くべき運動性能であった。
「スレイ、また腕を上げたようだね」
 アイビスはそのミサイルを全てかわしたのを確認した後でスレイにそう言った。
「クッ!」
「けれどね。あんたに負けるわけにはいかないんだ」
「それはこちらとて同じこと」
 スレイはアイビスを睨みつけていた。
「御前を倒し・・・・・・私の方が上だということを思い知らせてやる!」
「じゃああたしは絶対に負けるわけにはいかない」
「御前が勝つとでもいうのか」
「いや」
 しかしそれには首を横に振った。
「あたしはね、少なくとも今のあんたに負ける気はしないんだ」
「戯れ言を」
「わからないのかい、そのベガリオンの本当の力が」
「ベガリオンの」
「そうさ。あんたのお兄さんが開発したそのマシン、今のあんたは完全に使いこなしちゃいない」
「戯れ言を言うな!」
 そう言われて激昂した。
「私が御兄様のマシンを乗りこなせていないというのか!」
「そうさ」
「あの時DCを捨てた御前達に何がわかるというのだ!ネオ=ジオンに身を寄せる私達の苦しみを」
「それはわかってるつもりさ。けれど今のあんたは完全に一つのことに捉われている」
「まだ言うのか」
「何度でも言ってやるさ。あんたはそうでもしないと昔からわからなかったからね」
「貴様も昔から変わりはしないな」
 逆襲の様にそう返した。
「あの時から私に対して。何故私の前にいつもいる!」
「さてね」
 それを言われてすっと笑った。
「悪いけれどそれはあたしにもわからないんだ。けれどあんたと話をしているとそれがわかってくるようになる。そう思って今ここにいるんだ」
「私に倒されにか」
「それでもわかるならいいさ。けれどこっちも全力でやるよ」
「全力でか。面白い」
 ベガリオンはまた加速をつけはじめた。
「ならば見せてみろ、御前のその何かを!」
「ああ、見せてやる、見つけてやるさ!あたしがあんたに何を求めてるのかをね!」
 二人はぶつかり合った。一度ではなく何度も。赤い星と白い星が激突する。そしてその向こうに何かを生み出そうとしていたのであった。

 その頃月では一つのトラブルが起こっていた。
「あいつは何処だ」
 髭の男が辺りを見回して誰かを探していた。
「まさかまた何処かへ行ったとでもいうのか」
「そのまさかよ」
 ピンクの長い髪の少女がそれに答えた。
「今さっきどっかへ飛んで言ったわよ」
「何処へだ!?」
「港に」
「馬鹿な。港なんかで何をするつもりなんだ」
「そこに俺のやりたいことがあるって。それであたしが止める間もなく行っちゃったのよ」
「いつものことか。やれやれ」
「・・・・・・・・・」
 溜息をつく髭の男の後ろでは異様に大柄な女が黙って立っていた。
「どうするの、それで」
「どうすると言われてもな」
 髭の男はピンクの少女に言われて止むを得ずのように顔を上げた。
「こうなっては仕方ない。俺達だけでやるぞ」
「いつもみたいにね」
「仕方がない。いいな、ミレーヌ」
「うん、レイ」
 その少女ミレーヌ=ジーナスはレイ=ラブロックに頷いた。
「ビヒーダもいいな」
「・・・・・・・・・」
 大柄な女ビヒーダ=フィーズは答えるかわりにドラムを鳴らした。それが言葉であった。
「じゃあ行くか。今回は三人だ。ミレーヌ、しっかり頼むぞ」
「うん、任せておいて」
「おい、あれ見ろ!」
 ここで建物のモニターを見て街の人々が一斉に驚きの声をあげた。
「!?」
「何!?」
 それを聞いてミレーヌ達もモニターに目をやった。
「バルキリーだ!赤いバルキリーが映っているぞ!」
「赤いバルキリー!?」
「まさかロンド=ベルのミリア=ジーナスか!?」
 だがそれは違った。モニターに映るそのバルキリーは逆翼であった。それはミリアのバルキリーのシルエットではなかったのである。
「見たことのないバルキリーね」
「新型か」
「けどあのバルキリーって」
 それを見たミレーヌの顔が急に曇っていく。
「レイ、あれって」
「ああ」
 レイもミレーヌに対して頷いた。
「まさかとは思っていたがな」
「どうしよう」
「今更どうしようもない。俺達ではな」
「あいつ、死にたいの!?あんな場所に一機で」
「死ぬとは思っていないだろうな、奴本人は」
「嘘っ、戦場よ、あそこは」
「今は何処でも戦場だ」
 レイはミレーヌに突き放すようにそう述べた。
「それで戦場が何処にあるのか言っても無駄だろう」
「けど自分から行くなんて。馬鹿じゃないの」
「馬鹿なのもわかっているだろう?」
「うう・・・・・・」
 反論できなかった。確かに彼の今までの行動を見ればその通りであるからだ。
「だったらここは落ち着いて見るとしよう。あいつが何をするのかをな」
「仕方無いの?」
「仕方無い」
「あ〜〜あ、またこれよ」
 ミレーヌはそう言われて思わずそうぼやいた。
「何かあたし達っていつもあいつの我が侭に振り回されてるみたい」
「まあそう言うな」
「言いたくもなるわよ。大体戦場で歌を歌っても」
「何とかなる」
 だがレイはミレーヌのその言葉を否定した。
「リン=ミンメイだ」
「リン=ミンメイ」
「これでわかったな」
「・・・・・・ええ」
 その名を出されては頷くしかなかった。ミレーヌも音楽をしていればその名を知らないとは言えなかったからだ。その名は最早伝説とさえなっていた。
「では見るぞ、黙ってな」
「何もなければいいけれど」
 そのミレーヌの言葉をよそに赤いバルキリーは単身戦場に突入しようとしていた。
「ヘヘヘ、ここまであっという間だったな」
 そのバルキリーのコクピットには一人の若い男がいた。小さなメガネをかけ黒い髪を思い切り前に伸ばしている。そして派手なステージ衣装を着てその手にはエレキギターを持っている。コクピットにいると言えばまず誰もが冗談だろうと思うような格好であった。
「ちょろいちょろい。じゃあ早速はじめるとすっか」
「!?艦長」
 それにまず早瀬が気付いた。
「一機見慣れないバルキリーがこちらに向かって来ておりますが」
「バルキリーが」
「はい」
 そしてグローバルに対して頷いた。それからまた言った。
「逆翼のバルキリーです。あの新型です」
「確か量産にはまだ時間があったな」
「そうですが。しかし何故ここに」
「それはおいおいわかるだろう。だが問題は他にある」
「艦長、識別信号は発されておりません」
 クローディアがここでこう報告した。
「味方かどうかすらわかりません」
「では敵か」
「私もそう思ったのですが」
 しかし彼女はここで言葉を濁した。
「違うというのか」
「敵にしては。動きが破天荒過ぎます」
「ううむ」
 見れば確かにそうであった。そのバルキリーはただ戦場の中心に向かっていたのだ。まるで戦争を止めさせようとしているかのように。
「あれは一体何なのでしょうか」
「わからん」
 グローバルもそう答えるしかなかった。
「だが警戒は怠るな。いいな」
「了解」
 早瀬達はそれに頷いた。だがその間にも赤いバルキリーは戦場に向かって突き進んでいた。
「よし、そろそろいいな」
 男は不敵に笑いながらそう言った。
「それじゃあそろそろはじめるか」
 そう言いながらギターに手を添えさせた。
「おい皆」
 両軍に放送を入れる。
「聴こえてるか!?」
「その声は」
 それにまずアヤが反応した。
「まさか。こんなところに」
「!?大尉、どうしたのだ」
 レビがそれに気付いて声をかける。
「普段と全く様子が違うぞ」
「確かにな」
 ライもそれに頷いた。
「これではまるでコンサートに行ったようなものだ」
 何処と泣く落ち着かなくなっていたアヤを見てそう述べた。
「隊長、どうされたのですか」
「彼がいるのよ」
 アヤは目を輝かせてライにそう返した。見ればその目はまるでいたいけな少女の様に光っていた。
「彼」
「熱気バサラよ。今ここに来ているのよ」
「な、何だってえっ!?」
 それを聞いてライだけでなくリュウセイも驚きの言葉をあげた。見れば他の者もそうであった。
「おいどういうことなんだ、ここは戦場だぜ」
「それも戦闘中に。命が惜しくないというのか」
「命!?生憎俺はそんなものには興味がなくてな」
「おめえは」
「熱気バサラ!」
 バサラが答えるよりも前にアヤがその名を言っていた。
「本当!?本当にここに来たのね」
「おいおい、一体どうしたんだよ」
 バサラはそんなアヤを見て面白そうに笑った。
「サインなら後でしてくれよ」
「そうじゃないのよ。確かにサインは後でもらうけれど」
「結局もらうのかよ」
「何かコバヤシ大尉もリュウセイと根は変わらないか」
「おめえだってそうだろうが。盗人猛々しいってことわざを知らねえのか」
「そんなものとっくの昔に忘れてしまったさ」
「へっ」
「それよりもだ。あの男、これから何をするつもりなんだ」
「それだよな。見たところあのバルキリーは特別だ」
「ああ」
「武装もねえみてえだし。どうすっかね」
「俺のバルキリーに武器なんていられねえぜ」
「何か訳わかんねえこと言ってるな」
「これは予想外だ」
「そこにいるのはリュウセイ=ダテかよ」
「あれ、俺のこと知ってるの?」
「そうさ。話は色々と聞いてるぜ。何でも相当無茶なことをしているそうじゃねえか」
「無茶がロンド=ベルの花なんだよ」
「それでも御前のは異常だな」
「だからおめえは黙ってろよ」
「ではそうしよう」
 ライはリュウセイにそう言われ以後言葉を慎むことにした。それからバサラはまた言った。
「戦争に度になってるそうだな。しかしその戦争も俺が終わらせてやるぜ」
「それは幾ら何でも無理だろうな」
「それは俺の歌を聴いてから考えるんだな」
「歌を」
「そうさ。じゃあ聴きな」
 ギターに指をやった。そしてはじめてからかなり激しく弾きはじめた。
「いくぜ・・・・・・」
 次第にテンションがあがっていく。まるでそれを楽しむかのようにニヤリと笑った。
「よし、俺の」
 彼は言った。
「俺の歌を聴けーーーーーーーーーーーっ!」
 ギターをさらに激しく奏ではじめた。そして歌も歌う。それがロンド=ベルの将兵達にかなり大きな影響を与えていた。
「艦長」
「どうした」
 また早瀬がグローバルに報告をしてきた。
「今表われた熱気バサラというシンガーですが」
「うむ」
「彼の歌が思わぬ効果をあげております」
「それは一体」
「御覧下さい。我が軍の動きがよくなっております」
「ふむ」
 見ればその通りであった。攻撃力も機動性もかなりあがっていた。まるでバサラの曲に元気づけられているように。
「これについてどう思われますか」
「彼の歌の効果だと言いたいのだな」
「はい」
 早瀬はそれに頷いた。
「リン=ミンメイの時と同じものかと思われます」
「リン=ミンメイか」
「歌のジャンルこそ違いますが。同じような効果を今度は我々に対して与えてくれています」
「武器を使わずに、だな」
「はい」
「面白いことだ。我々はまた歌に助けられていることになる」
「そういうことですね」
「だがこれは好都合だ。一気に勝負をつけるとしよう」
「では全軍」
「総攻撃だ。マクロスも前面に出してくれ」
「了解」
 ロンド=ベルは攻勢に移った。木星トカゲの軍は瞬く間にその数を大きく減らしていった。
「あれ、妙だな」
 ダイゴウジは目の前で為す術もなくやられていく木星トカゲ達を見てふと呟いた。
「この連中こんなに弱かったか?」
「そういえばそうだな」
 ナガレがそれに応えて頷いた。
「幾ら何でもこれは弱過ぎる」
「というより俺達が普段より調子がいいように感じるな」
「サブロウタ」
「ダイゴウジさん、あんた特に乗ってるな」
「ん、そうか」
「何かな。あの兄ちゃんの曲に乗っているみたいだぜ」
「あいつのか」
 それに応えて後ろを見た。そこにはバサラのバルキリーがいた。
「行くぜ!」
 彼は一心不乱に曲を奏で歌っている。ここがまるでコンサート会場であるかのように。
「今日の俺は一味違うぜ!」
「何か凄い男だな」
「気に入ったみたいだな」
「あそこまで破天荒だとな。何か好感が持てる」
「あんたらしいね」
「アキト、御前もそうは思わないか」
「俺ですか」
「そうだ、どう思う?」
「そうですね」
 アキトは考えた後で答えようとした。しかしここでユリカがモニターにニュッと出て来た。
「ねえアキト」
「わっ、ユリカ」
「今いいこと考え付いたんだけど」
「何だい、それは」
「どうで碌なことじゃねえぞ」
「知らないふりをしておこう」
「ああ」
 サブロウタとナガレはそれを見てヒソヒソと話をしていた。ダイゴウジは特に興味を示してはいない。
「この戦い終わったら二人でファイアーボンバーのコンサートに行きましょうよ」
「えっ、また急に」
「思い立ったが吉日よ。いいと思わない?」
「それは・・・・・・」
「二人で楽しくコンサートでデート!さいっこうよねえ!」
「ううん」
「ね、二人っきりの時間を過ごしましょうよ。折角なんだし」
「ミスマル大佐」
 だがここで早瀬もモニターに現われた。
「早瀬さん」
「どうしてここに」
「聞こえていましたよ、さっきから全部」
「何だ、そうだったんですかあ」
「笑い事ではありません」
 頭をかいて笑うユリカに対して厳しい言葉を返す。
「今は戦闘中です。無闇は私語は謹んで下さい。いいですよ」
「わかりましたあ」
「テンカワ少尉も。いいですね」
「はい」
「アキトって少尉だったのかよ」
「サブロウタ、御前もだぞ」
「えっ、今知ったよそれ」
「ちなみに俺は大尉だ」
「ダイゴウジさんも出世したんだな」
「私は中尉だ」
「じゃあ俺とアキトだけかよ、少尉なのは」
「いや、あの三人娘もだぞ」
「あれっ、そうだったんだ」
「副長は少佐だがな。ちゃんと階級はある」
「今まで知らなかったよ、何か凄い妙な感じがするな」
「俺達だってそうだぜ」
「おっ、三銃士のお出ましだな」
「わかってんじゃないか、サブロウタ」
「何かこうここの雰囲気ってのは俺達に合ってていいね」
「へっ、よく言うぜライト」
「御前も最初軍に入るのに抵抗があったじゃねえか」
「それはそれこれはこれ」
 ライトはケーンとタップに対しそう返した。
「今は違うんだな、これが」
「そうなのか」
「少なくとも俺は誰かさんみたい自慢のリーゼントをバッサリとやられちゃいないしな」
「それ思い出させるなよ」
「俺は大丈夫だったぜ」
「タップのそれは地毛だろうが。俺のはセットしてたんだよ」
「へえ、あんたリーゼントにしてたのかよ」
「何か妙か?」
 サブロウタにそう返した。
「これでも個人的には気に入ってたんだぜ。ビシッと決まってな」
「何かリーゼントっていうと敵のイメージが強いんだよな」
「誰だよ、それって」
「ティターンズのジェリドやヤザンなんかがそうだろ。ヒーローにリーゼントは似合わないぜ」
「そういう御前の髪の色は何なんだよ。地毛かよ、それ」
「ああ、これか」
 サブロウタは自身の金色の長髪を眺めながら得意そうに笑っていた。
「これな、染めてるんだよ」
「何だ、そうなのか」
「リョーコの緑色の髪だってそうだぜ。あれは染めてるんだ」
「へえ」
「フォウさんのはどうかは知らねえがな。そういう人もいるってことさ」
「何か触れてはいけない核心に触れちまった気がするな」
「こら、そこ」
「危ないネタは振らない」
「私のこれは地毛よ」
 しかしフォウはそれでもモニターに出て来てそう答えた。
「答えになってるかしら」
「まあ」
「何か話が収まりそうにもないのでこれで止めておくけれど」
「丁度そんな方もおられるし」
「それって誰だよ」
「ほら、あれ」
 ライトはケーンとタップの言葉に答え戦場の中央を指差した。
「あそこに丁度一人」
「おお」
 そこにはスレイがいた。彼女はまだアイビスと激しい攻防を展開していたのだ。
 ドッグファイトを展開する。互いにきりもみ回転をしながら攻撃を仕掛ける。二匹の大蛇がその隙を窺い合っているようであった。だがそれは大蛇ではなかった。二つの流星であったのだ。
「クッ、この動きについてこれるとは!」
「また腕をあげたじゃないか」
 アイビスは焦るスレイに対してそう言葉をかけてきた。
「流石だね。褒めてやるよ」
「貴様ごときに!」
 スレイはそれを聞いて激昂した。
「褒められるいわれはない!」
 そしてビームを放ってきた。しかしそれはアイビスに見切られていた。何なくかわされてしまう。
「今度は甘いね」
「クッ!」
 スレイは思わず舌打ちしてしまった。焦りが増す。
「何処までも私を愚弄してくれる!」
「どうしてそう思えるんだい?」
「何!?」
「あたしが何時あんたを愚弄したんだい?いつもそう言うけどさ」
「それは」
 答えようとするが言葉が思い浮かばなかった。
「貴様は私の・・・・・・」
 言おうにもそれ以上出なかった。スレイは沈黙してしまった。
「スレイ、まだ意地を張るの?」
 今度はツグミが言った。
「その声はツグミか」
「ええ」
 ツグミはそれに応えて頷いた。
「ずっと一緒だったのよ。アイビスと」
「そうか。では私のことも見ていたのだな」
「ええ」
「私があがく姿を。さぞかし堪能したことだろうな」
「そんな・・・・・・」
 スレイのお世辞にも上手とは言えない煽り言葉に対して言葉を失ってしまった。
「満足か?私のその様な姿を見て。かってはDCで一ニを争うエースパイロットでありテスト生でも最も優秀だった私がアイビスごときにムキになる姿を見られてな。さぞかし満足だろうな」
「スレイ」
 ツグミより先にアイビスが口を開いていた。
「あたしのことは何を言ってもいい。そんなの気にしたりはしないからね」
「何が言いたい?」
「そのかわりツグミに対して言うのは許さないよ、絶対に」
「絶対に、か」
「そうさ、今はそらさ。覚悟はできてるだろうね」
「それは私の言葉だ」
 アイビスはそう言って身構えた。
「アイビス、ツグミ」
 その声の険しさが増す。
「貴様等を倒す、必ずな」
「今ここでかい?」
「そうだ」
 そう答えた。
「行くぞ。最早容赦はしない」
「面白いね。じゃあこっちから行くさ」
「アイビス」
「心配することはないよ」
 心配そうな声をかけてきた相棒に対して言った。
「あたしにはあんたがいるから。あんたがいる限り大丈夫さ」
「有り難う」
「話は済んだか」
「ああ」
 アイビスは答えた。
「じゃあ行くよ。覚悟はいいかい」
「無論」
 スレイも迷いはなかった。
「この一撃で決める」
「来な。あんたの好きなようにね」
 アイビスは言った。
「あたしはそれを受けてやるよ。何時でもね」
「ならば!」
「来たわ、アイビス!」
「わかってるよ」
 ツグミにそう返した。
「そうくるのなら!」
 アルテリオンは動いた。銀の影が消えた。
「クッ!」
「スレイ、確かにあんたは凄いよ」
 何処からかアイビスの声がした。
「けれどね」
 彼女はまた言った。
「あんたには・・・・・・迷いがあるんだ!」
「馬鹿な、私に迷いなぞ」
「じゃあ何でそんなにいつも焦ってるんだい?」
「それは」
「答えられないね。そういうことさ」
 アイビスはそんな彼女に対してまた言った。
「あんたはどうしようか迷っているんだ。そのベガリオンをどう使うのかをね」
「そんなことは決まっている!」
 強い声でそう叫ぶ。
「貴様を倒す為だ、アイビス!」
「そうかい」
 それに応えた。ベガリオンの前に姿を現わした。
「なっ、前に!」
「ずっとここにいたのさ」
 彼女は驚くスレイに対してそう言った。
「私の前にだと!」
「そうさ。だけどあんたは気付かなかった」
「どういうことだ」
「あんたは前を見ていなかったんだよ。周りを、そして自分が見たいものしか見えちゃいないんだ。だからあたしにも気付きはしなかったのさ」
「戯れ言を」
 だが彼女はそれを否定した。
「目の前にいるのなら。最早容赦はしない!」
「そうはいかないんだよ」
 アイビスはまた言った。
「今のあんたには」
「黙れ!」
 ここでベガリオンの攻撃が放たれる。しかしそれはアルテリオンにかわされてしまった。
「チィッ!」
「あたしはね、今も全然動いちゃいないのさ」
「まだ言うか!」
「言ってやるよ。あんたが目に見えるものを信じようとしない限りはね。そしてそうである限りあんたは」
「なっ!」
 姿を消した。また辺りを見回す。
「何処だ!」
「あたしは勝てないのさ」
 アルテリオンが前に姿を現わした。先程と全く同じであった。
「グウウ・・・・・・」
 パイロットにとってこれ程屈辱的なことはなかった。スレイは歯噛みするしかなかった。
「わかったのならまた来るんだね」
「情をかけるというのか、この私に」
「生憎あたしはそんな殊勝な女じゃないよ」
「では何故」
「またあんたと会いたいだけさ」
「なっ・・・・・・」
 スレイはそれを聞いて絶句した。衝撃がその全身を走った。まるで稲妻の様に。
「今何と・・・・・・」
「愛の告白と言いたいところだけれどね。残念だけれど違うよ」
「アイビス」
 調子に乗るかのように言うアイビスに対してツグミが言葉を入れる。
「どうしたの、今日は。何かおかしいよ」
「そうかも知れないね」
 アイビスは意外にもそれに頷いた。
「けれど。これは全部本心なんだよ」
「本心なの」
「そうさ。少なくとも嘘は言っちゃいないよ」
「そうだったの」
「スレイ」
 アイビスはスレイに顔を戻した。
「わかっていると思うよ、あんたは」
「何をだ」
「自分自身のことをさ。わかったらまた来な」
「貴様に言われずとも」
 まるで反抗するかのような口ぶりであった。そこには普段の高慢なまでの自信はなかった。何かに反抗するかのように子供じみたものを持っていた。
「また来る。その時こそ貴様もツグミもヴァルハラに旅立つ時だ」
 そう言い残してその場を後にした。その時にはもう戦争はあらかた終わってしまっていた。やはりロンド=ベルの勝利であった。
「本当に素直な奴じゃないね」
「アイリス、今日は一体どうしたのよ」
 ツグミは後ろからアイリスにそう問いかけてきた。
「おかしいわよ、本当に」
「それはさっき答えたよ」
 だがアイリスはそれにはあえて答えようとしない。腕を振って笑ってそう返す。
「二回答えるのはちょっと勘弁してもらいたいよ」
「じゃあ率直に聞くけれど」
「ん!?」
「スレイのこと、本当に待ってるのよね」
「あたしは嘘は言わないよ」
 これこそが他の何よりもわかり易い言葉であった。
「これでいいかい?」
「わかったわ」
 ツグミはそれに頷いた。彼女のことも長い付き合いでわかっていたからである。
「じゃあ貴女の好きなようにして。戦闘に関しては貴女に全てを任せているんだから」
「悪いね、いつも」
「悪くなんかはないわ。けれど」
「けど・・・・・・何だよ」
「貴女は私のパートナーなのよ。それは忘れないで」
「ずっとか」
「当然よ。私と貴女は一緒にいる運命なんだから」
「運命」
 アイリスはそれを聞いてハッとした。
「アルテリオンもベガリオンもそうだったんだな」
「そうよ、今更何言ってるのよ」
「いや」
 アイリスは今自身が口にしたいことを言えないのがわかっていた。どちらにしろツグミにはわかっていることだろうとも思ったのも事実である。
「ツグミ」
「何かしら」
「あ、いや」
 言おうとしたが止めた。
「何でもない。気にしないでくれ」
「わかったわ。じゃあそろそろ帰りましょ。用意はいいわね」
「ああ」
 こうして戦いを終えた彼等は帰還した。そこではまた別の話が起こっていた。
「まさかこんなことになるなんてね」
 アヤはいささか考え込みながらそう言った。
「何と言えばいいのかしら、この場合は」
「そうね」
 セシリーもアヤと同じ様に考え込んでいた。
「彼が来るなんて」
「正直思いもしなかったわ」
 クリスが言った。ロンド=ベルの面々は先程の事態にかなり面食らっていたのであった。
「おいおい、何をそんなに驚いているんだよ」
 だがその張本人であるバサラは特に変わった様子もなくそう彼等に対して言った。
「俺はここに用があって来たんだからな。宜しく頼むぜ」
「用があってだと!?」
 ブライトがそれを聞いてその眉を顰めさせた。
「それは一体どういうことなんだ。教えてもらおうか」
「理由は簡単さ」
 彼は笑ってブライトにそう返した。
「俺の歌を聴かせる。そして戦争を終わらせるんだ」
「戦争を」
「そうさ。リン=ミンメイみたいにな」
「ミンメイみたいにか」
 輝はそれを聞いて呟いた。
「それじゃあまさか」
「ゼントラーディとの戦争は歌で終わったよな」
「ああ」
「じゃあ今回もそれで終わらせられると考えてな。それでここにわざわざ来たってわけさ。宜しくな、これから」
「宜しくって」
 恵子がそれを聞いて驚きの声をあげた。
「まさかロンド=ベルに入るつもりなんですか!?」
「ああ、その通りさ」
 バサラは胸を張ってそう返した。
「部屋はないのかい?そうならコクピットで寝泊りするけれどよ」
「いや、それは大丈夫だが」
 ブライトが彼にそう答えた。
「我々は四隻の戦艦を擁している。その中にはマクロスもある」
「へえ」
「だからそちらの心配はない。食べ物のこともな」
「有り難いね。じゃあいいんだな」
「いや、だがそれは」
 しかしブライトの顔は苦いままであった。
「我々としては。君の参加は」
「言われても俺の意志は固いぜ」
「どういうことだ」
「何と言われてもここにいるからよ。宜しく頼むぜ」
「だが」
「まあ細かいことは気にしないでくれ。金はこれでどれだけでも稼ぐからよ」
 そう言って背中のギターを親指で指し示した。
「安心してくれよ」
「そういう問題じゃないの」
「ん!?」
 バサラはその声にハッとして後ろを振り向いた。するとそこには見知った顔が並んでいた。
「見ないと思ったら。こんなところにいたのね」
「何だ、御前等も来てたのかよ」
 だがバサラは彼女達を見ても一向に変わりはしなかった。
「何だじゃないわよ」
「大体コンサートをほったらかしにして何をしていたんだ」
「見ての通りさ」
 バサラはしれっとして言った。
「俺の歌を皆に聴かせていたってわけさ」
「何の為によ」
「戦争を終わらせる為だ」
「バッカじゃないの!?ミンメイさんにでもなるつもり!?」
「ミンメイさんか、いいねえ」
 バサラはその名を聞いてニヤリと笑った。
「俺ももうすぐあの人みたいに伝説になるんだな」
「またそんなこと言って」
 これには流石に呆れてしまった。
「あんたがなれる筈ないじゃないの」
「いや、それはわからないな」
 ブライトがそこに入ってきた。
「えっ、まさか・・・・・・」
 ミレーヌは彼を見て少し驚いた顔をした。
「ブライト=ノア大佐!?ロンド=ベルの」
「そうだが」
「嘘みたい。こんなところで会えるなんて」
「私はそんなに有名人だったのか」
「どうやらそうらしいな」
 アムロがそれに対して応えた。
「アムロ=レイも。何か夢みたい」
「どうやら俺もらしいな」
 ミレーヌの言葉に苦笑した。
「それであんたロンド=ベルに入るつもりなの!?」
「ぞうじゃなかったら来る訳ねえだろ」
「戦争を終わらせるって。相変わらず破天荒なんだから」
「全くだぜ」
 忍が頷いた。
「こんな滅茶苦茶な奴だとは思わなかったな」
「藤原中尉が言うんだから本物だよな」
「うるせえ」
 バーニィの言葉に突っ込みを返した。
「まあ断られても俺は入らせてもらうぜ。そしてこの銀河に俺の歌を響かせてやるんだ」
「そう言っていますが」
 ブライトはそう言ってグローバルに顔を向けた。
「どうしますか?」
「面白いな」
 だがグローバルはそれを聞いても特に変わったところはなかった。
「熱気バサラ君だったな」
「ああ」
「君の参加を歓迎しよう。是非共頼む」
「やっぱりお偉いさんは違うね。そうこなくっちゃ」
「そして君達も」
「あたし達も!?」
 ミレーヌはそう言われてキョトンとした顔になった。
「そうだ。彼と同じグループを組んでいるのだったな」
「ええ、まあ」
「それはそうですが」
「・・・・・・・・・」
 レイも答えた。だがビヒーダは相変わらずであった。
「どうかな。部屋も食べ物もあるが」
「それはいいですけれど」
「何かあるのかね?」
「まあちょっと」
 ミレーヌは言った。
「ペットのことで」
「ペット」
「グババっていうんですけれど。その子も連れて来ていいですか?」
「ああ、いいとも」
 グローバルはそれも認めた。
「そんなことならな」
「よかった。それじゃあ」
「おいおい、それでいいのかよ」
「それでじゃないわよ」
 ミレーヌはバサラに言い返した。
「あたしにとっては凄く大事なことなんだから」
「やれやれだぜ」
 何はともあれこうしてミレーヌ達の参加も決定した。彼女達はマクロスに入ることになった。ミレーヌは毛だらけのマリモに似た大きな目を持つ生き物を連れて来た。
「ここよ、グババ」
「グババ」
 グババはミレーヌの肩でミレーヌにそう言われてにこりと笑った。
「それがグババなのね」
「貴女は」
「私は早瀬未紗。このマクロスのブリッジオペレーターよ」
「そうなんですか。宜しくお願いします」
「こちらこそ。ところで一つ聞きたいことがあるんだけれど」
「何ですか?」
「貴女の楽器は何かしら。よかったら教えてくれないかしら」
「ベースですよ」
「ベース」
「はい。それとヴォーカルを担当してます」
「ヴォーカルはバサラ君だけじゃなかったの」
「あいつだけじゃないんですよ、うちのバンドは」
 ミレーヌは笑ってそう答えた。
「ヴォーカルが二人いるんですよ」
「そうだったの」
「それでレイがキーボード、ビヒーダがドラムなんですよ」
「四人のグループなのね」
「はい、それが何か?」
「うん、ちょっとね」
 早瀬は彼女に応えて微笑んだ。
「彼がバルキリーに乗っているから。若しかすると貴女達にも乗ってもらうかも知れないわ」
「あたし達もですか!?」
「グババ!?」
「ええ」
 驚きの声をあげるミレーヌとグババに答えた。
「どうかしら。嫌だったらいいけれど」
「あいつは言われなくても出て行くし」
「まあ彼のことはね。仕方ないわ」
 流石の早瀬もバサラに対してはいささか面食らっていた。
「それでもね、放っておくと危険だしね。こちらとしても心配なのよ」
「あいつはそう簡単には死にませんよ」
「いや、それでもね」
 早瀬は苦笑した。
「本当に死なれるわけにもいかないし」
「けれどあのバルキリーには武装はありませんよ」
「そうらしいわね」
「知ってたんですか」
「さっきメカニックから聞いたのよ」
「そうなんですか」
「それで色々と話をしたのだけれど貴女達に乗ってもらうことになったらそのバルキリーも武装はない予定よ」
「あたし達にも」
「ええ。音楽に専念してもらう為にね。それでいいかしら」
「といってもあたしバルキリーに乗ったことなんか」
「それなら僕がやるよ」
 マックスがここで出て来た。
「おじさん」
「おい、おじさんはないだろ」
 マックスはおじさんと言われて苦笑した。
「僕は君の従兄なんだ。おじさんじゃないだろ」
「けれど前からそう呼んでたじゃない」
「それでもだよ。確かに結婚して子供もいるけれど」
「夫婦でパイロットだったわよね」
「ああ。よく知ってるな」
「有名だもの。ロンド=ベルの青いバルキリーと赤いバルキリーって」
「そうだったのか」
「それも夫婦で。あたしいつも学校で言ってるのよ。自慢のおじさんだって」
「だからおじさんじゃないんだって」
「マックス少尉も従妹にはかなわないようね」
「からかわないで下さいよ」
 早瀬にまでそう言われては参るしかなかった。それでも彼は言った。
「操縦は僕が教えるよ。それともミリアの方がいいかい?」
「おじさんだと何か。親戚だし」
「僕は駄目か」
「御免ね。それにミリアさんも」
「ミリアは厳しいぞ」
「そうなの。何かあまり合わないような気がするし」
「そういえばバサラ君はどうやって操縦を身に漬けたのかしら」
「あの動きははじめてのものではなかったですね」
「あいつは特別なんですよ。運動神経も抜群で」
「そうだったの」
「パイロットとしての経験はない筈ですけれどそうしたことは得意なんですよ」
「じゃあ彼には特にそうした教育は必要ないわね」
「そう思います」
「それじゃあ彼はいいわ。問題は貴女達ね」
「どうしますか」
「そうね」
 早瀬は暫し考え込んだ。そしてそれから言った。
「まだ色々と話し合ってみるわ。私一人で決められるものでもないし」
「そうですか」
「正式に決定するまでは待機していて。いいかしら」
「わかりました。それじゃあ暫くお邪魔します」
「ええ。こちらこそ」
 早瀬は笑みで返した。こうしてミレーヌ達もロンド=ベルに参加することとなった。
 
 戦いが終わりロンド=ベルは地球圏へと再び向かった。ネオ=ジオンは一時戦場から退いていた。
「木星トカゲ達はどうしているか」
 ゼクスはスレイのベガリオンのモニターにその姿を映していた。ロンド=ベルへの迎撃は彼が担当していたのである。
「はい」
 スレイはそれに応えた。
「既に全機戦場から離脱しました。一部は火星に帰ったようです」
「そうか」
 ゼクスはそれを聞いて静かに頷いた。
「わかった。それならいい」
「特佐はどうされるおつもりですか」
「私か?」
「はい。木星トカゲの部隊は壊滅しましたし。このままでは」
「私の方も今防衛ラインを築いているところだ」
 ゼクスはそう答えた。
「だが一つ問題がある」
「ティターンズですか」
「そうだ。パプテマス=シロッコが動きはじめたのだ」
「こんな時に」
「デラーズ閣下も応援に来られるそうだが。これもまた問題だ」
「何故でしょうか」
「バルマー帝国の本隊が地球に向かって来ているらしいのだ。まだ未確認の部分が多い情報だがな」
「バルマーが」
「今アクシズを空にするわけにはいかない。デラーズ閣下にはアクシズの防衛をお願いしたいと思っている」
「ですがそれでは」
「構わんさ。私はどのみちここでは余所者だ」
 ゼクスはそう言って笑った。
「喜んで捨石になろう。それで死ねばそれまでのことだ」
「・・・・・・・・・」
「だが君はそうはいかないだろう。兄君のこともある」
「・・・・・・・・・」
 スレイは何故か答えようとしなかった。黙って俯いている。
「これからは君自身が決めるといい。何事もな」
「それは一体どういう意味でしょうか」
「そのままの意味だ。特に深い意味はない」
 そう返すだけであった。
「いいな。あと」
「はい」
「兄君は今こちらに向かっている。合流するかね」
「はい」
 スレイはこくり、と頷いた。
「ならいい。ではな」
「はい」
 こうしてゼクスはモニターから姿を消した。スレイは暗くなったモニターを見て深刻な顔になていた。
「お兄様・・・・・・」
 一言そう呟いただけであった。それ以上言葉は出なかった。
 赤い流星が銀河の中に消えていった。只一つのその星は何かを欲していた。しかしその欲するものが何であるかはその星自身もわかってはいなかった。だが運命は変わろうとしていた。彼女が気付かないうちに。


第四十九話   完


                                        2005・10・13