狂気の魔装機
 シュメルの行方はようとして知れなかった。ロンド=ベルの面々は彼の捜索を続けたが手懸かりはないままであった。こうして一週間が過ぎようとしていた。
「参ったな」
 マサキがグランガランに帰るとたまりかねたようにこう言った。
「何もわかりゃしねえ。どうしたもんか」
「あんたがそんなこと言うとはね」
 同時に帰ってきていたリューネがそう応えた。
「そんなに困ってるのかい」
「困らない筈がねえだろ」
 マサキはそれに対してこう返してきた。
「シュメルさんがどうなったのか、考えるだけであれなんだからな」
「そうだったね」
 それを聞いたリューネの顔が曇った。
「どうなってるんだろう」
「あまりいいことになってるとは思えねえな」
 マサキも同じ考えであった。
「ゼツの野郎、一体何をするつもりなんだ」
「何をするつもりでも私達は彼を止めなければならないの」
 ここにウェンディが来た。そして二人に対してこう言った。
「さもないと取り返しのつかないことになるわよ」
「そうだな」
「けれど一体何をやってくるつもりなんだか」
「そこまではまだわからないけれど」
 ウェンディは言った。
「恐ろしいことを行っているのは事実ね。覚悟はしておいて」
「ああ」
「わかったわ」
 彼等だけでなく他の面々もその顔は暗いものであった。そしてここで新しい情報が入って来た。バゴニア軍で異変が起こったのだ。
「あの人が!?」
 それを聞いてドロシーが最初に驚きの声をあげた。
「知っている人なのか?」
「知ってるも何も」
 彼女はナンガの問いに少し慌てながら答えた。
「あたしの前に先生のところにいた人なのよ」
「そうだったのか」
 皆それを聞いて表情を変えた。
「ジノ=バレンシアさんだよね。あたしも知ってるよ」
「へえ」
 今度はプレセアが言った。
「バゴニアじゃ有名な剣の使い手だよ。鬼のバレンシアって言われてるわよ」
「鬼か。じゃあとんでもなく怖い顔をしてるんだろうな」
「ヤマガタケよりもな」
「こらサンシロー」
 ヤマガタケはサンシローに言われて彼に対してつっかかってきた。
「そりゃどういう意味だ」
「まあまあ」
 それをブンタが宥める。
「ここは落ち着いて。それでそのバレンシアさんですが」
「はい」
 そして話を元に戻す。ロザリーはそれを受けて話を再開させた。
「ロザリーさんの兄弟子にあたるわけですね」
「ええ」
 ロザリーはそれに頷いた。
「二年で先生から免許皆伝を貰ったそうでして」
「二年で」
「何でも天才だったとか。それでいて凄く真面目で熱心な方だったそうです」
「そんな人が」
「何をしたのかしら」
「脱走らしいわよ」
 それにマーベルが答えた。
「脱走」
「それでバゴニアの前線は大騒ぎよ。さっき偵察していたらそんな話を聞いたわ」
「何でまた脱走なんか」
「多分シュメル師のことでしょうね」
 マーベルの考えはそこにあった。
「自分の恩ある人が捉われたのだから。そうした行動に出てもおかしくはないわ」
「それで脱走ですか」
「可能性としては高いのじゃないかしら」
「ううん」
 皆それを聞いて考え込んだ。
「言われてみれば」
「それでどうするつもりなのかしら」
「少なくとももうバゴニアにはいるつもりはないでしょうね」
 マーベルはまた言った。
「覚悟のうえでの脱走なのは間違いないでしょうし」
「そうか」
「何はともあれこれでバゴニア軍は一人有力なパイロットを失ったわけだ」
「そして剣の使い手も」
「けれどゼツはそれで怯むようなことはないわよ」
 ウェンディはここでも言った。
「気をつけて。必ず何かしてくるから」
「はい」
「そして何があっても感情的にならない。いいわね」
「それは何故」
「感情的になればそれだけ周りが見えなくなるわ」
 彼女は言った。
「それは避けなくてはいけないわ。とりわけ貴女はね」
「わかってます」
 ロザリーはウェンディの言葉に頷いた。
「覚悟はもう決めていますし。何があっても」
「そう」
 ロンド=ベルは全体的に重苦しい空気に覆われていた。そして会議を打ち切りとりあえず解散した。皆それぞれの部屋に戻った。
 ロザリーもそれは同じであった。だが戻ってすぐに誰かが部屋の扉をノックしてきた。
「誰?」
「私よ」
 それはウェンディのものであった。ロザリーはそれを聞くと部屋の扉を開けた。そしてウェンディを招き入れた。
「どうしたんですか?」
「さっきの話の続きだけれどね」
 ウェンディは部屋に置かれていた椅子に座りながら言う。椅子はロザリーが勧めたものであった。
「先生がどうなっていても、もう覚悟はできているの?」
「はい」
 ロザリーはそれに頷いた。
「もう。何が起こっても驚きません」
「そう」
 ウェンディはそれを聞いて彼女も頷いた。
「だったらいいわ。貴女に伝えたいことがあるの」
「それは一体」
「ゼツのことよ」 
 彼女はゼツについて言及をはじめた。
「ゼツのこと」
「そうよ。彼が進めていた研究だけれどね」
「はい」
「人間をね、使ったものなのよ」
「人間を」
「だから何があっても動揺しないでね」
「はい」
「何があっても」 
 そう言い終えるとウェンディは部屋を後にした。そっと一人姿を消した。
 後にはロザリーだけが残った。彼女は険しい顔になっていた。
「もし先生が奴に殺されていたら」 
 その時はもう決めてあった。
「あたしが奴を殺してやる」
 決意した。そして彼女は戦場に身を留めることをあらためて決意したのであった。

 戦いは暫く止んでいた。ラングラン本軍とバゴニア本軍もまた半ば休戦状態に陥っていた。そしてロンド=ベルもこれは同じであった。
「何か静かだね」
「嵐の前だな」
 哨戒にあたるリューネに対して同行していたヤンロンが言う。
「これからだ。何かが起こるのは」
「ゼツが来るってことだね」
「それしかないだろう」
 ヤンロンの声はクールだが強いものであった。
「何が来ても驚かないようにな」
「わかってるよ」
 それで驚くようなリューネではない。こくりと頷いた。
「あんたもね」
「僕もか」
「意外とね、あんた隙が多いから」
「それはまた心外だな。僕の何処に」
「グランヴェールは今一つ打たれ弱いじゃない。それと同じだよ」
「打たれ弱い、か」
「あたしはそう思うよ。ゼツがどんな化け物出してくるかわからないけれど攻撃は受けないようにね」
「わかった」
 珍しく素直に頷いた。
「それは君もな。ヴァルシオーネも守りはあまり強くはない」
「ああ」
 これもわかっていた。リューネの乗るヴァルシオーネはその外観故かあまり守りは強くはない。それはリューネ自身がよくわかっていることであった。
「魔装機は全体的に守りが弱いのかな」
「地の魔装機はまた別だがな」
「そういう意味じゃミオはいいよね」
「その分機動力が劣る。五十歩百歩だ」
「そんなものかね」
 そんな話をしているうちにヴァルシオーネのレーダーに反応があった。一機こちらに向かって来る。
「!?何だろ」
「それはどうやら魔装機だな」
 ヤンロンのグランヴェールの精霊レーダーにも反応があった。彼はそれを見てすぐに言った。
「バゴニアのものだ。こちらに向かって来る」
「じゃあ敵だね」
「そうだな・・・・・・いや待て」
 だがヤンロンはここで止まった。
「何かあるのかい?」
「どうもおかしい。逃げているようだ」
「!?逃げてる」
「ああ。そしてその後ろに魔装機が数機続いている。これもバゴニアのものだ」
「脱走!?」
「おそらく。どうする」
 ヤンロンはリューネに問うてきた。
「バゴニア同士のことだ。我々には関係ないと思うが」
「そうだね」
 リューネはそれを聞いて考え込んだ。それから言った。
「とりあえず見てみようよ。それから考えればいい」
「珍しく落ち着いた考えだな」
 本当であった。いつもは直情的なことではマサキに匹敵するリューネであるのにこの時は冷静であった。
「皮肉は止めてよ。何かね、気になるんだ」
「気に」
「とにかく行こう。そして場合によっちゃ他の皆も呼ぶ」
「ああ」
「それでいいね。じゃあ行こう」
「よし」
 こうして二人は現場に向かった。程無くしてその魔装機達がいる場所に到着した。
 そこではバゴニア軍の魔装機同士が衝突しようとしていた。一機の魔装機を数機の魔装機が追撃している。
「待ちな、バレンシア少佐」
 その数機の魔装機の先頭の魔装機から声がした。
「脱走は許されねえぜ」
「私は辞表を出した筈だが」
 逃れる魔装機から声がした。そこにはジノがいた。
「そしてこの魔装機の分の金は払ったが」
「認められてはいないぜ」
「そして私ももう少佐ではない筈だが」
「辞表も認められていないんだよ。これだけ言えばわかるよな」
「戻れというのか、私に」
「その通りさ」
 トーマスは笑いながら言った。
「さあ一緒に来な。裁判が待っているぜ」
「それは断る」
「逃げるのか?」
「違う。私はバゴニアを見限った」
「祖国をか」
「そうだ。シュメル先生を害するバゴニアはもうかってのバゴニアではない」
 彼は毅然とした態度で言う。
「私の祖国はもうない。バゴニアは最早あの男の私物、そのような国家は私の祖国ではない!」
「あんたの言いたいことはよくわかった」
 トーマスは一通り話を聞いた上で言葉を返してきた。
「だがこっちもビジネスなんだ。悪いが付き合ってもらうぜ」
「こちらには付き合う理由はない」
「そう言わずによ。さあ来るんだ」
「断ると言ったら?」
「その時は腕づくだ」
 彼はそう言いながら剣を抜いた。
「女に対しては腕づくはしないが男は別でね。意地でも来てもらうぜ」
「そうか」
 ジノもそれに応じて剣を抜いてきた。
「ならば話は終わりだな。私も従うわけにはいかない」
「来な。あんまりかっての同僚を相手にするのは気分じゃないがな」
 そうは言いながらも両者は次第に間合いを詰めてきた。
「仕事だ。遠慮なくやらせてもらうぜ」
「うむ」
 両者は激突しようとした。だがここにリューネとヤンロンがやって来た。
「ジノ=バレンシアだって!?」
「確かバゴニアを脱走したという」
 二人はそう言いながら戦場に姿を現わしてきた。
「それはやはり本当だったのか」
「ラングランの者達か」
 ジノは彼等に顔を向けて言った。
「何故ここに」
「レーダーに反応があってね。それで来たのさ」
「シュメル師のことが原因か、脱走は」
「脱走したつもりはないが」
 ジノはそう答えたうえで言った。
「少なくとも理由はそれだ。否定はしない」
「そうか、わかった」
 ヤンロンはそれを聞いたうえで頷いた。
「では僕達の方針は決まった」
「決まったって?」
「彼を助ける。いいな」
「助けるの」
「そうだ。彼はシュメル師の件でバゴニアを出た。それならばもう敵ではない」
「ああ」
「そしてロザリーと同じだ。ならば助けるのが道理というものだろう」
「そう。まあ助けるのにはやぶさかじゃないよ」
 リューネは彼とは違った視点からこう言った。
「困っている人を助けるのはね。義を見てせざるは勇なきなりってね」
「よく知ってるな」
「あんたのいつもの言葉を聞いて覚えたんだよ。学習ってやつさ」
「それは何よりだ」
 ヤンロンはそれを聞いて感心したように頷いた。
「学はもって止むべからず、常に学んでおかないとな」
「ミオとかは全然勉強してないよ」
「彼女はまた特別だ」
 どうやら流石の彼もミオは苦手なようだった。
「どうも僕が何を言っても通じないようだ。困ったものだ」
「まあミオはね。特別だから」
 そういうリューネもまた彼女には手を焼いている。
「意外とゲンナジーとは合ってるみたいだけれどね」
「あれがまた不思議だ。明らかに個性が違い過ぎる」
「だからじゃないかな。正反対だからかえって合うとか」
「ううむ」
「まあ話はそれ位にして。バレンシアさん」
「うむ」
「助太刀するかな。安心してね」
「かたじけない」
 ジノの方もそれを受けることにした。
「では頼めるか。正直これだけの数だと私の手に余るところだった」
「これだけの数って・・・・・・ほんの数機だけじゃない」
「よく見ろ」
「!?」
 ヤンロンの言葉に従い辺りを見る。見れば確かにそうであった。
 数十機もの魔装機達がやって来た。それが全てジノの追撃に向けられていたものであることは明らかであった。
「うわ、こりゃ凄い」
「確かにこれでは一人では無理だな」
「残念だがな。頼めるか」
「乗りかかった船だしね、いいよ」
 それでもリューネは臆するところがなかった。
「任せておいて、魔装機神とヴァルシオーネがいるから」
「それでも慎重にな。さっきの話を忘れるな」
「そうだね」
 一瞬ムッとしかけたが頷いた。グランヴェールもヴァルシオーネも守りは弱い。それをわかっていなければ大変なことになるからだ。
「では行くぞ」
「雑魚はあたし達でやるから。あんたはそこのリーダー格をやってね」
「おい、俺のこと忘れてもらっちゃ困る」
「覚えてるよ、トーマスだったね」
「ああ」
 クレームをつけながらも言葉を返されたのでとりあえずは機嫌をなおした。
「あんたも何かと大変みたいだね。DCからラ=ギアスまで」
「これでも案外楽しいもんだぜ」
「そうなの」
「波乱万丈ってやつさ。俺には相応しい」
「そうなんだ」
「あんたとは今は敵味方だがな。まあよろしくやろうぜ」
「いいけれど手加減はしないよ」
「ビジネスに手加減は無用だぜ」
 さばけた言葉を続ける。
「だからそっちも覚悟しておいてくれよ」
「了解」
 リューネは笑って返した。
「じゃあ覚悟させてもらうよ。それでいいね」
「ああ。じゃあな」
「また派手にやり合おうね」
「その時は容赦しないからな」
「それはこっちの台詞だよ」
 戦場でのやりとりとは思えない程の軽いやりとりの後で両者はとりあえず別れた。そしてジノはトーマスと対峙した。
「正直あんたとは戦いたくはなかったがな」
「それはこちらもだ」
 両者は互いにこう言った。
「けれどなっちまったものは仕方がねえ。行くぜ」
「うむ」
 互いに剣を構えなおす。そして次第に間合いを詰めていく。
「どうやら剣の腕もあるようだな」
「伊達にこれで飯を食べているわけじゃないんでな」
 トーマスは不敵に笑いながらこう答えた。
「俺の剣の腕、見せてやるぜ。そっちも自慢の剣技を見せてくれよ」
「言われずとも」
 そう言いながらまた間合いを詰める。
「参る」
「来な」
 まずはジノから仕掛けてきた。剣を構え前へ突進する。
 そして切り掛かる。だがそれはトーマスにより受け止められてしまった。
「ムッ!」
「これはまた。いい太刀裁きだ」
 トーマスはそれを受け止めた後でこう言った。
「どうやら腕は衰えちゃいないみてえだな」
「当然のことだ」
 ジノは言い返した。
「今まで日々鍛錬を積んできた。何時如何なる時であろうともな」
「武士道ってやつかい」
「武士道」
「おっと、あんたは知らないか。これは地上の言葉さ」
 トーマスはこう説明した。
「そのうちわかるさ。まあ気にするな」
「そうか」
「そのうちも俺に勝たなきゃないんだがな。じゃあ今度は俺からやらせてもらうぜ」
 そう言うと間合いを離してきた。
「俺はどっちかっていうとこっちの方が得意なんでね。悪く思わないでくれよ」
 そして攻撃を放ってきた。リニアレールガンであった。
「そうら」
 一発ではなかった。続けて何発も放つ。それでジノを仕留めるつもりであった。
 だがジノは彼の攻撃をかわしていく。まるで蝶の様に身軽な動きだ。
「今度は見切りってやつかい」
「お望みならそれも見せよう」
 ジノはこう返してきた。
「どちらにしろ私もむざむざやられるわけにはいかない」
「何の為に?」
「それはわからない」
 ジノは言った。
「だがここで死んではならないのはわかる。これから私が為さねばならぬことの為にな」
「運命ってやつかい。あんた外見はキザな感じだがどうしてストイックなんだな」
「私は剣に生きる者だ」
 また言った。
「ならば全てをこれに賭ける。他には何もいらぬ」
「いい覚悟だよ、本当に」
 トーマスはそれを聞いて感服した。
「あんたとは一度何処かで心ゆくまで語り合いたかったな。酒でも飲みながら」
「悪くはないな」
「しかし今は無理だ。おそらくこれからもな」
 それはトーマス自身がよくわかっていることであった。だからこそ言えた。
「あんたがバゴニアを出ちまったからな。脱走は死、今それをわからせてやるぜ」
 そしてまたリニアレールガンを放った。二人の攻防は激しさを増す一方であった。

 この頃ロンド=ベルの三隻の戦艦はシュメルの邸宅の近辺に駐留していた。そして哨戒に出しているマシンの管制にあたっていた。
「何か変わったことはないかね」
 大文字は大空魔竜の艦橋においてピート達に対してこう言った。
「どうも最近バゴニアも静かで不気味なのだが」
「何かを企んでいるのは間違いないでしょうがね」
 サコンがそれを聞いてこう言った。
「けれどそれが見えない。だから余計に」
「焦るというわけか」
「ああ」
 ピートの言葉に頷いた。彼等も少し苛立ちを覚えはじめていた。
「ただ、碌でもないことを企んでいるのは事実だ」
「碌でもないことか」
「あのゼツって爺さんからは邪なものしか感じない。おそらくシュメル師も奴の犠牲になった筈だ」
「サコン君、滅多なことは」
「わかってますよ」
 サコンは大文字の言葉に頷いた。
「今はロザリーがいないから。言えますが」
「うむ」
「いるとね。どうしても彼女のことを考えなくちゃいけません。一番辛いのは彼女ですから」
「わかってくれているか」
「皆そうですよ」
 サコンはまた言った。
「本当に。錬金術士は科学者と同じようなものですよね」
「話を聞く限りではな」
「やっていいことと悪いことがある。許せませんよ」
「サコンがそこまで怒るのも珍しいな」
「そうか」
「普段はもっとクールだが。どうしたんだ」
「どうしてもな」
 サコンはまた言った。
「怒らずにはいられない。あのゼツという男許せん」
「だが熱くなっては駄目だぞ」
 大文字はここでサコンをたしなめた。
「君まで熱くなっては話にならないからな」
「それはわかっているつもりです」
「うちは只でさえサンシローがいるんだ。熱くなる奴はもう足りている」
「サンシローか」
「もっともあいつはそうでなくちゃ困るんだがな。あいつはうちのキーマンだ」
「確かにな」
 これにはサコンは冷静に頷いた。
「あいつがいなくちゃどうにもならないところがある」
「ああ」
「ただ、それを言うとすぐ調子に乗るからな。困った奴だ」
「そこらへんは舵取りだな。上手くやるしかない」
「そうだな」
 そんな話をしていた。ここでモニターのスイッチが入った。
「!?」
「誰だ」
 一行はそれに気付き顔を上げた。するとモニターにフェイルが姿を現わした。
「殿下」
「お久し振りです、大文字博士」
「はい」
 フェイルはまずはそう挨拶をしてきた。大文字はそれに応える。
「お元気そうで何よりです」
「はい、殿下の方も」
「貴方達の活躍は本当に感謝しております。おかげでこちらも順調です」
「はい」
「それで今はどうされていますか」
「ここで待機中です」
 大文字はそう説明した。
「御存知だとは思われますがシュメル師がゼツに拉致されまして」
「ええ、それは聞いています」
 フェイルもそれに頷いた。
「残念なことですが」
「それでゼツが何をしてくるかわかりませんので。ここで警戒しつつ待機しているのです」
「ですがそれにしてはいささか数が少ないようですが」
「同時に哨戒活動にあたっておりまして」
 そう説明する。
「それで半分程出撃しております」
「そうだったのか」
「それで今回は何の御用件でしょうか。戦局のことでしょうか」
「はい、それです」
 フェイルはそれに対して頷いた。
「実はバゴニアで政変がありまして」
「クーデターか何かでしょうか」
「少し違います。どうやらゼツが出奔したようなのです」
「出奔!?」
 それを聞いた大文字は思わず驚きの表情となった。ピートとサコンは顔を顰めさせた。
「馬鹿な、そんなことが」
 まずピートが言った。
「あいつはバゴニアの実権を握っていたんでしょう!?」
「はい」
 フェイルの方もそれに頷いた。
「じゃあ何故。出奔する理由がない」
「そのままの地位にいれば楽にラングランに対して害を与えることができるのに」
「そう、そこです」
 フェイルはそこを指摘してきた。
「彼はバゴニアの実質的な独裁者でした」
「はい」
「バゴニアのことなら何でも思いのままにできる状態でした。その為に我々とバゴニアの戦争がはじまった」
「少なくともそう聞いています」
「しかしここに来て突然の出奔です。我々もこれがどういうことなのか当惑しているのが実情なのです」
「そうなのですか」
 大文字はそこまで聞いて呟いた。
「では理由がわからない」
「はい。そしてこれによりバゴニアが正常に戻ったようです」
「正常に」
「バゴニア政府から我々に対し講和を打診する話が来ております」
「では戦争は間も無く終わると」
「少なくともラングランとバゴニアの間では。しかし」
「彼ですか」
「そういうことです」
 フェイルはそう応えた。そしてまた言った。
「今は行方すら掴めません。一体何を考え、何処にいるのか」
「姿が見えないだけに不気味と」
「ええ。若しかするとそちらに向かっているかも知れません」
「可能性はありますな」
「今バゴニアもラングランも厳戒体制に入ろうとしております。そちらも御気をつけ下さい」
「わかりました」
「そして彼が来たならば用心して下さい。必ず何か邪なことを企んでいますから」
「それは承知しているつもりです」
「くれぐれも御用心を。それでは」
 そう言い残してフェイルはモニターから姿を消した。それを確認した後で大文字はピート達に対して顔を向けてきた。
「どう思うかね」
「正直戸惑っています」
 まずピートがこう言った。
「ここに来て。一体どういうことか」
「やはり何かあると思うのが自然だな」
「ですね」
 それにサコンも同意した。
「出奔したということはつまりバゴニアにはもう見切りをつけたということでしょう」
「見切りを」
 大文字とピートはサコンの言葉に顔を向けた。
「はい。そうでなければ出奔したりはしません。もうバゴニアに用はない」
「用はない」
「まさか」
「そのまさかだと思います」
 サコンはここでこう言った。
「そしてもう行動を移しているのではないでしょうか」
「まずいな」
 ピートの顔が険しくなった。
「若しかするとこっちにも」
「可能性はある」
 大文字が言った。
「すぐに哨戒に出しているパイロット達を呼び寄せよう」
「はい」
「今待機しているパイロット達も出撃させよう。いいな」
「わかりました。それでは」
「うむ」
 こうしてロンド=ベルはすぐに準備を整えた。そして臨戦態勢に入った。

 この頃リューネ達はバゴニアの魔装機達をほぼ倒し終えていた。そしてジノはトーマスとの戦いを続けていた。
「凄いね」
 リューネはジノの剣技を見てこう言った。既に他の魔装機達は全て撃破されるか撤退している。ヴァルシオーネのサイコブラスターとグランヴェールのメギドフレイムによるものであった。
「あれだけの剣技を持つ者はラングランにもあまりいない」
 ヤンロンも同じ意見であった。ジノの剣技を見て唸っていた。
「見事なものだ。だがどうかな」
「何かあるの?」
「戦法の違いだ」
 ヤンロンはそこを刺激してきた。
「ジノ氏は接近戦が得意だな」
「ええ」
 それは見ればわかることであった。彼はその剣を使った攻撃を得意としている。
「だが対する相手は遠距離戦を得意とする。この違いがある」
「向こうの方が有利ってこと?」
「そうは言ってはいない」
 ヤンロンはそれは否定した。
「だがそれに彼が気付くかどうかだ」
「遠距離戦もやらなきゃいけないってこと」
「そうだ」
 ヤンロンはそれに頷いた。
「そこだ。だが彼にできるか」
「気付くか、だね」
「うむ。それに気付かなければ戦いは進まない」
 そしてこう言った。
「どうなるかだな、そこが」
「何か難しそうだね」
「だがそれの両立はできる」
「両立?」
「僕も君もやっているだろう」
 ヤンロンの言葉は思わせぶりなものとなっていた。
「遠近両方の戦いをな」
「それ」
「そうだ」
 ヤンロンの声が強いものとなった。
「果たして彼にそれができるか、だが」
「できると思うよ」
 しかしそれに対するリューネの返答はあっけらかんとしたものであった。
「簡単に言うな」
「あたしやヤンロンも平気でできてるんだし」
「うむ」
「出来ない筈が無いじゃない、あの人に。まあここは落ち着いて見ていようよ」
「そうするか」
 結局彼はリューネの言葉に従うこととなった。そしてジノとトーマスの戦いは続いた。
「本当にいい腕をしてるよ」
 トーマスはジノの動きを賞賛しつつこう言った。
「全く。よくやってくれる」
「また世辞か」
「世辞じゃねえさ、本当のことだ」
 それに対するトーマスの返事であった。
「ここまで凄いパイロットはDCにいた時にもお目にかかったことはねえ」
「また言ってくれちゃって」
 リューネがそれを聞いて茶化す。
「だがそれもここまでさ。そろそろケリをつけさせてもらうぜ」
「ムッ」
 トーマスはそう言うとあらためて構えに入った。
「今度こそ決めてやる。覚悟するんだな」
 そう言いながら攻撃態勢に入った。そしてリニアレールガンを放つ。
「今度は一発だけじゃねえぜ!」
「何とっ!」
 続け様に連発してきた。どうやら持っている全てのリニアレールガンを放ってきたらしい。
「流石にあんたでもこれは逃げられないな!覚悟しな!」
 トーマスは会心の笑みと共に叫んだ。そして攻撃を連発する。
 ジノは相変わらずその超人的な技量でそれをかわす。だがそれも限界があった。
 最後の一発が襲い掛かる。流石にこれはよけられそうにもなかった。
「クッ!」
「勝ったな!」
 トーマスは勝利を確信していた。ジノの顔が苦渋に歪む。その一瞬はまさにそう見えた。
 だがそれはやはり一瞬のことであった。ジノも遅れこそとったがシュメルの弟子であった。咄嗟に攻撃を放った。
「これでっ!」
 トーマスが放ったリニアレールガンを撃ち消した。ジノもリニアレールガンを放ったのである。
「俺の攻撃を・・・・・・!」
「まだだ!」
 それで終わりではなかった。ジノはさらに攻撃を放つ。それでトーマスに逆襲を加えた。
 その中の一発がトーマスの乗る魔装機の右腕を吹き飛ばした。それで勝負は決まりであった。
「クッ、どうやら俺の負けみたいだな」
「危ないところだった」
 ジノはトーマスに対してこう言った。
「私ももう少し反応が遅れていれば。どうなるかわからなかった」
「世辞は止めときな」
 トーマスはいつもの笑みを浮かべてジノにこう言った。
「今回は俺の負けさ。それは認める」
「そうか」
「負け犬は大人しく引き下がる。早く行きな」
「いいのか」
「仕方ないだろ、俺は負けたんだ」
 トーマスはまた言った。
「それじゃあな、あんたはもうこれでバゴニアとはおさらばだ」
「済まない」
「謝る必要はないさ、どのみちまた会うことになるだろうさ」
「また」
「あんたと俺はこれで敵味方だ。これは当然だろう」
 トーマスは醒めた見方を述べた。
「だったらまた会うさ。その時は容赦しねえぜ」
「うむ」
「そういうことだ。じゃあな」
 そう言いながら飛び立つ。そして最後にジノに顔を向けた。
「あんたとの勝負は楽しいからな。また会おうぜ」
「わかった」
 こうしてジノとトーマスの戦いは終わった。戦いを終えたジノのところにリューネとヤンロンがやって来た。
「お疲れさん」
 まずはリューネが声をかけてきた。
「大変だったね、何かと」
「申し訳ない」
 ジノはまずリューネに対して謝罪してきた。
「何で謝るのさ」
「危ないところで助太刀に入ってくれたこと、まことにかたじけない」
「何さ、そんなことだったの」
「そんなこと」
「そうさ。こんなのあたし達にとっちゃいつものことだから。気にすることはないよ」
「それでもだ」
「堅苦しいね、何か」
「剣を極めんとするからかな。よくそう言われる」
「いいね、そういうの。気に入ったよ」
 リューネはそれを聞いて顔を綻ばせた。
「どうやらあんたとは何かと気が合いそうだね」
「そうかな」
「絶対そうさ。あたし昔からそういうの大好きなんだ。武士道とか侍とかね」
「武士道、侍」
 武士道という言葉は先程トーマスからも聞いた。よくはわからないが悪いものではないということはわかる。
「それを大事する人がラ=ギアスにもいるなんてね。嬉しいね」
「まあ話はそれ位にしてだ」
 ヤンロンが中断していた話を元に戻してきた。
「ジノ=バレンシアさんでしたね」
「はい」
「バゴニア軍を辞められたそうですが」
「ええ。理由はもうおわかりだと思いますが」
「はい」
 その通りだった。ヤンロンはその言葉に対して頷いた。
「もう私はバゴニアとは袂を分かちました。最早バゴニアの者ではありません」
「そうですか」
「といってもこれからどうするか。ちょっとわかりかねているのも実情なのですけれどね」
「ううむ」
「それならうちに来たらどう?」
 リューネがここでこう言った。
「ロンド=ベルに」
「そうさ、行くあてもないんだろう?じゃあうちに来るといいよ」
「しかし私は」
「固いことは言いっこなし。うちは前に敵だった奴でも一杯いるんだし」
「それでも」
「ロザリーもいるよ。何かと話にも困らないと思うけど」
「だが」
「まあ細かいことは後でね。とりあえず来たらいいさ。それから考えなよ」
「・・・・・・わかった」
 ジノは戸惑いながらもそれに頷いた。
「行くのならば一時とは言わない。これから行動を共にさせてもらおう」
「よしっ、これで決まりだね」
「うむ。諸君等の末席に加えて頂く」
 リューネに押し切られる形で頷いた。こうしてジノはロンド=ベルに合流することとなった。そこでリューネ達に対して通信が入った。
「おや、何だろう」
「大空魔竜からか」
 二人はそれぞれ通信に出た。するとモニターに大文字が姿を現わした。
「二人共、無事だったようだな」
「ええ、まあ」
「ちょっとばかし身体を動かしてたけれどね」
 ヤンロンとリューネはそれぞれ応えた。
「だが無事で何よりだ。そちらでは色々とあったようだな」
「はい。ジノ=バレンシア氏と合流しました」
「バレンシア少佐とか」
「今は軍属を離れております。そして我々に参加したいとのことですか」
「いいだろう」
 大文字はそれは問題なく頷いた。
「バレンシア氏のことは聞いている。腕も立つし人格者だということだな」
「ええ」
「なら問題なら。彼の参加を喜んで歓迎する」
「有り難うございます」
「そして君達に通信を入れた件だが」
「はい」
「何かあったの?」
 リューネが問うてきた。
「すぐにこちらに戻って来てくれ。大変なことになりそうだ」
「大変なこと」
「まさかゼツの奴が」
「そのまさかだ。彼はバゴニアを出奔した」
「何と」
 それを聞いていたジノが驚きの言葉をあげた。
「あの男が出奔だと」
「そう。そして後でわかった情報だが一機のマシンに乗っているらしい」
「マシンに」
「それはまさか」
「可能性はある。そしてそれがこちらに向かって来ているそうだ」
「ロンド=ベルに」
「ことは一刻を争う。すぐに戻って来てくれないか」
「了解」
「どうやら迷ってる暇はないようだしね」
 ヤンロンとリューネは迷うことなくそれに頷いた。
「ではすぐに戻って来て欲しい。お願いする」
「はい」
 こうして大文字はモニターから姿を消した。そしてジノも含めた三人は大空魔竜のもとへと向かった。彼等は程なくしてシュメルの邸宅の側に待機する大空魔竜の側に戻って来た。
「何かものものしいね」
 リューネがシュメルの邸宅の回りを見てこう呟いた。
「まるで今にも戦いがはじまるみたいだよ」
 見ればロンド=ベルのマシンの殆どが展開していた。どうやら戻って来たのはヤンロンと彼女が最後であるようだった。
「ゼツが来るって話やからな」
 ギオラストから声がした。
「んっ、タダナオじゃないの?」
 ギオラストに乗っているのはタダナオである筈だった。だが今そこから聞こえてきたのは訛りのある言葉であったのだ。
「タダナオは今ちょっと勉強中なんや」
「勉強中」
「そや。新しいマシンに乗る為にな。セニアさんと一緒や」
「ふうん」
「それでわいが乗っ取る。これからよろしゅうな」
 乗っていたのはロドニーであった。口髭を綻ばせて挨拶をしてきた。
「パイロットが変わったんだ」
「そや」
「それであんたが。大丈夫なのかね」
「おい、そりゃどういう意味や」
 ロドニーはそれに食ってかかってきた。
「わいやったら何か不安でもあるんかい」
「というか滅茶苦茶不安よ」
 リューネの言葉は手厳しかった。
「そんなにお茶らけていて。大丈夫なんでしょうね」
「安心せえ」
 彼は自分の胸をドン、と叩いて言った。

「わいがおる限りゼツは進まさへん」
「口では何とでも言えるけれどね」
「ホンマに信用してへんのやな」
「何か心配なのよ。何しでかすかわからないし」
「困ったもんや」
「まあそれでも宜しくね。あらためてね」
「おう」
「けど、タダナオがそれじゃあちょっと辛いわね」
「オザワもやしな」
「オザワもなの」
「そや。オザワの方はもう完成しかけとるらしいで」
「マシンが」
「ああ。それでラストールも空いてもうたんや」
「ラストールも」
「そっちはまだ操者がおらへん。空席ってわけやな」
「それなら丁度いい人がいるよ」
「誰や、それ」
「新しく参加してくれた助っ人よ」
 リューネはそう言いながら後ろを指差した。
「ジノ=バレンシアさんよ」
「宜しく」
「えっ、ジノ=バレンシア」
 ロドニーはそれを聞き、そして彼の顔を見てキョトンとした。そしてあらためて言った。
「あんたひょっとして」
「知ってるの?」
「知っとるも何も有名人やろが」
 ロドニーはリューネに対してこう返した。
「バゴニアきっての剣の達人や。大会でも凄い強かった」
「そうなの」
「そうなのやあらへんわ。何でこんな人がここにおんねん」
「ちょっとね」
 リューネはくすり、と笑って言った。
「まあ色々とあって。けれど心強い味方になってくれると思うよ」
「味方か」
「何か不思議そうだね」
「シュテドニアスとバゴニアも決して仲がええとは言えんかったからな」
 口が少し尖っていた。何故かひょっとこを思わせる。だがロドニーの言ったことは事実であった。シュテドニアスとバゴニアもまた長い間いがみ合ってきた関係なのである。
「それで今は同じ部隊に、ってなってもな。何か不思議や」
「そういうものなの」
「もっともここはそうしたことが多いみたいやけれどな」
「まあそうね」
 これはリューネも頷くところがあった。
「あんたとも何回かやり合ったしね」
「あの時はえらい目に遭ったで」
「そっちが攻めてきたんやけれど」
「あれはあの大統領が議会とか軍の穏健派の反対押し切ってやったからな。けれど負けて失脚や」
「そうらしいわね」
「それでロボトニー先生が今大統領をやっとる。もうシュテドニアスもあんなことはせえへん」
「だといいけれどね」
「ロボトニー先生やったら大丈夫や」
「信頼してるんだね」
「当たり前や、わいの先生やった人やで」
「えっ、先生って」
「聞かんかったか?わいはシュテドニアス士官学校出身なんや」
「嘘」
「本当ですよ」
 今まで横にいて黙っていたエリスがリューネにそう説明した。
「閣下は士官学校卒業です。私の先輩にあたります」
「エリスさんもそうなんだ」
「はい」
 エリスはにこりと笑って頷いた。
「その時から閣下は有名人でした。士官学校でも」
「ふうん」
「ラディウス少尉」
 ここでロドニーがエリスに声をかけてきた。
「何でしょうか」
「わいもう将軍でもないし。それにシュテドニアス軍やないから」
「あっ、そうでした」
 彼にそう言われてハッと気付いた。
「閣下言われても。もうちゃうんやからな」
「すいません、つい」
「いや、まあええけれどな」
「将軍だったんだ」
「ってあんた等と戦ってた時わい閣下って言われとったやろ」
「御免、聞いてなかった」
「何で聞いてへんねん。あれだけ何度も顔を見合わせたのに」
「何か面白いおじさんがいるなあ、って。それだけしか思わなかったよ」
「おもろいか。怒るでしかし」
「ロドニーさんも古いの知ってるね」
 ミオが話に入ってきた。どうやらツボに触ったらしい。
「あっ、そうなんか」
「やすきよなんて。通じゃないとわからないよ」
「やすきよ・・・・・・。何やそれ」
「あっ、何でもないから」
 咄嗟にリューネが話を戻しにかかった。
「地上の話だから。気にしないで」
「漫才やったらわいも詳しいけれどな」
「ラ=ギアスにも漫才ってあるの?」
「当たり前やろが。シュテドニアスで有名なんが愛する、愛さないの二人や」
「何か変わった名前だね」
「あとハードゲイスペシャル一号二号。これはキワモノやな」
「よく知ってるね」
「わいは漫才見るのが趣味やからな。そら」
 どうやら彼も素質はあるらしい。上機嫌になってきた。
「知っとるで。最近あまり見てへんからよおわからんけれどな」
「見てないんだ」
「ラングランとの講和やらこっちへの移動やらでゴタゴタしとったからな。で、見てなかったんや」
「そうだったの」
 どうやら彼も彼なりに多忙であるらしい。
「気付いたらここにおるし。それでジノさんまでここに来る。人生とはわからへんもんやで」
「急にシリアスになったね」
「アホ、わいは元々シリアスなんや」
「声はそうなんだけれどね」
「そやから声に突っ込むなっちゅうねん。何か仮面被ってくれとか言われて困っとるんや」
「仮面か」
「どうせ変な奴と間違えとるんやろ。黒い仮面がどうとか言われて困っとるんや」
「誰が言ってるのさ」
「あの翡翠色の長い髪の毛した別嬪さんの女王様おるやろ」
「ああ、シーラ様」
「あの人の横にいつもおる妖精二人にや。何でわいが仮面なんて被らなあかんねん。それにあの銀色のマシンに乗っとる女の子にも声でえらい驚かれたしな」
「美久ちゃんね」
「美久ちゃんっていうんか。あの娘にもどえらいびっくりされたで、ホンマ」
「あんたって声は格好いいから」
「おっ、そうか!?」
 それを聞いてデレーーーーッとした顔になる。
「どうしても似てる声の人が多くなるのよ、色々な事情でね」
「事情か」
「そういうこと。まあそこは気にしなくていいよ」
「そうなんか」
「あたしだってアレンビーに似てるってよく言われるし」
「アレンビー?ああ、あのセーラー服のガンダムか何かに乗っとる娘やな」
「そうそう」
「そういや似とるな。何かそっくりや」
「声はね、どうしても似るのよ」
「じゃあわいの声はその黒い仮面の奴とそっくりやったと」
「一人じゃないけれどね、それも」
「何か嫌な話やな、わいと同じ声が二人も三人もって」
「まだいるんだけれどね」
「ってまだおるんかい」
「それもおいおいわかるよ。まあ驚かないでね」
「覚悟しとくわ」
「それがいいよ」
「それでジノさん」
「はい」
 ロドニーはジノに顔を向けてきた。そしてジノはそれに応じてきた。
「あんたはこれからここでやるんやな」
「そのつもりですが」
 ジノは落ち着いた声でこう応えた。
「それが何か」
「それやったら魔装機換えたらどないでっしゃろ」
「魔装機を」
「そや。ギンシャスプラスやったら今度辛いかもしれへんし」
「ギンシャスプラスでも」
「そやから他の何かに乗り換えた方がよろしいと思いまっせ。空いとる魔装機にでもな」
「ふむ」
「それじゃあラストールだね」
「ラストール」
 リューネの言葉に目を向けさせた。
「あれなら接近戦が得意だし。ジノさんにも合ってると思うよ」
「そうなのか」
「それでいいかな。嫌なら別にいいけれど」
「いや」
 だがジノはその言葉に首を横に振った。
「かってシュメル先生に言われた。魔装機は性能ではないと」
「ふん」
「真の達人が乗るならばどのような魔装機でも最高の性能を引き出せると。そう仰った」
「じゃあラストールでいいんだね」
「うむ。どのような魔装機でも乗りこなしてみせよう」
「有り難いね。あれがいい、これがいいってダダをこねてたどっかのおじさんに聞かせたいよ」
「おい、そらどういう意味や」
「あっ、聞こえてた!?」
「わざと聞こえるように言うたんちゃんかい」
「それは気のせいだって。聞こえてたら御免ね」
「ホンマに。口の悪いやっちゃな」
「それでジノさんはどの小隊に入るの?」
「空いている場所でいい」
 ここでも彼は謙虚であった。
「私はそこで私の役目を果たさせてもらおう」
「謙虚だね」
「謙虚も何もないさ」
 そう言って微笑んだ。
「それが戦争というものだろう。違うだろうか」
「まあそうだけれど」
「そういうことだ。それではこれから宜しくお願いする」
「ああ、こちらこそ」
 あらためて皆に対して挨拶をした。こうしてロンド=ベルにまた一人頼もしい仲間が入ったのであった。
 その日は結局何もなかった。だが次の日朝から異変が起こった。
「これは」
 その時部隊の先頭で哨戒にあたっていたダイターンのレーダーに反応があった。それを見た万丈が顔を曇らせる。
「万丈様、どうなされましたか」
「ギャリソン、どうやら大変なことが起ころうとしているよ」
 彼は自分の執事に対して答えた。
「大変なことといいますと」
「こちらに敵が向かって来ている。それもかなり巨大な奴がだ」
「巨大ですか」
「多分ゼツだ。遂に来たぞ」
「ふむ、それは何とかせねばなりませんな」
「何とかって」
「ギャリソンさんってこんな時でも落ち着いているのね」
 それを後ろから見ていたビューティとレイカが呟いた。
「慌てても何にもなりませんから」
 これ対してやはり落ち着いた様子で返す。
「そして万丈様、その敵はどちらに向かって来ていますか」
「こちらに一直線に来ている」
 万丈はレーダーを見ながら言葉を送る。
「すぐに皆に伝えてくれ、来たと」
「はい」
 ギャリソンはそれに頷いた。
「全軍戦闘態勢だ。これは用心してかかった方がいい」
「わかりました」
 こうしてロンド=ベルは戦闘態勢に入りゼツを待ち受けた。彼等は緊張した顔もちで前を見据えている。皆強張っていた。
「来るか」
 マサキが前を見ながら呟いた。
「あの爺さん、やっぱり俺達を最初に潰すつもりか」
「どうやらそうみたいね」
 セニアがそれに応じてきた。彼女もノルス=レイに乗って出撃している。
「それだけあたし達が憎いってことでしょ」
「何度も痛めつけてやったからな」
「そういうことは絶対に忘れないからね」
「嫌な性格だな」
「ラングランにいた時からね、頭がおかしかったから」
「頭がか」
「所謂狂気に心を支配されていたってやつね」
 そう語るセニアの表情が暗いものとなる。
「自分とその研究の為には。他人がどうなろうと構わない」
「エゴイストってことかしら」
「そうね」
 シモーヌの言葉に頷いた。
「一言で言うと。増大化した自我と制御の効かない欲望。それが全てなのよ」
「そうなのか」
「本当にいかれてるのね」
「それで今シュメルさんを使って何かを作り上げた。多分かなりの自信作の筈よ」
「そうでなければバゴニアから出奔したりはしないな」
 アハマドは冷静に言った。
「見切りをつけたのだろう。利用価値がなくなったとな」
「でしょうね」
「それでラングランも俺達も滅ぼすってか。冗談じゃねえぜ」
「冗談じゃなくて本当のことよ」
 いきり立つマサキに対してシモーヌが言った。
「何が出ても。驚くんじゃないよ」
「ああ」
 シモーヌに言われては落ち着くしかなかった。マサキはとりあえずは落ち着いた。
「皆、もうすぐだ」
 万丈の通信が入ってきた。
「来るぞ、彼が」
「来るか、いよいよ」
「ゼツ」
 ロザリーの目が憎悪に光った。
「シュメル先生を。まさか」
「待つのだ」
 だがそんな彼女にジノが声をかけてきた。
「落ち着くんだ」
「ジノさん」
「いいな。何があっても」
「は、はい」
 兄弟子に言われては頷くしかなかった。ロザリーは少し落ち着きを取り戻した。
「だが。何があっても覚悟はできているな」
「ええ、それは」
「ならいい。もうすぐだ」
 彼はそう言いながら前を見据えた。
「来るぞ」
「はい」
 ロンド=ベルの前に何かが姿を現わした。それは巨大な、まがまがしい形の魔装機であった。
「ヒョヒョヒョヒョヒョヒョ」
 そこから不気味な笑い声が聞こえてきた。狂気を露わにした笑みであった。
「きやがったな」
 マサキがその笑い声を聞いて言った。
「ゼツ、それが貴様の最後の切り札ってわけか」
「切り札?はて、これはわし自身じゃ」
「!?」
 皆その言葉を聞いて眉を顰めさせた。
「おい、今何て」
「聞こえんかったか?これはわし自身じゃと言っておるのじゃ」
「何を言っているんだ?」
「俺達を馬鹿にしてるんじゃねえのか?」
「ヒョヒョヒョ、わしの前に敵はおらぬ」
「まさか」
 彼等はその声を聞いて疑惑を確信に深めていった。
「ゼツ、手前」
「わしはこの力さえあれば他には何もいらぬ。このガッツォーさえあればな」
「そのガッツォーで何をするつもりなの、ゼツ=ラアス=ブラギオ」
 ウェンディが彼に対して問うた。
「そのガッツォーで」
「ぬ、御主は誰じゃ?」
「えっ!?」
 ウェンディはその返事を聞いて呆然となった。それはもう返事ではなかった。
「ゼツ、貴方まさか」
「わしは御主みたいな女は知らぬぞ。何処の馬の骨じゃ」
「やっぱりな」
 万丈がそこまで見ていて頷いた。
「駄目だ。もう彼は完全に狂っている。何を言っても駄目だ」
「狂って」
「ああ。あそこまでいくと。もうどうしようもない」
「ゼツ、それあ手前の末路なのかよ」
「末路だああだと妙なことを言うのう」
 マサキに対しても何もかもが定まらない声で返す。
「若僧が。年寄りは敬わなければならんのじゃぞ」
「そうだな」
 マサキはとりあえずはそれに頷いてみせた。
「手前にはもう言うことはねえ。ここで引導を渡してやるよ」
 彼は静かにこう言った。
「覚悟しな。その覚悟ってやつを覚えていたらな」
「ヒョヒョヒョ、面白い言葉じゃの。何じゃそれは」
「・・・・・・もう何を言っても無駄なようね」
「ですね」
 シーラがウェンディの言葉に頷いた。
「こうなっては。もう終わりです」
「はい」
「全機に告ぐ」
 そのうえで彼女は指示を下した。
「あの魔装機を撃墜しなさい。そしてこの戦いを終わらせるのです」
「了解」
 こうしてゼツとロンド=ベルの最後の戦いがはじまった。ロンド=ベルはまずガッツォーを取り囲んだ。
「喰らいやがれっ!」
 まずは甲児がロケットパンチを放つ。それは一直線にガッツォーに向かって行った。
「これなら!」
 甲児は命中を確信していた。だがここでガッツォーは突如として分身した。
「なっ!」
「まさか!」
 皆それを見て驚きの声をあげた。今までのゼツからは信じられない動きだったからだ。
「これは一体・・・・・・」
「この動き、シュメル先生のものだ」
 それを見てジノが言った。
「シュメルさんの!?」
「じゃあまさか」
「おそらくは」
 ジノはガッツォーを睨みすえたまま答えに応じる。
「先生の能力を。そのままあのガッツォーとやらに入れたのだ」
「どうやって」
「ヒョヒョヒョ、あの男の脳味噌は役に立ってくれるわい」 
 ゼツはまた笑った。
「脳味噌を」
「あの男。腕だけは立っておったからのう。こうしてわしに脳を移植させたのじゃ」
「何ということを」
「それじゃあシュメル師は」
「身体はゴミ箱行きじゃ」
 ゼツは相変わらず視点の定まらない目でこう言ってのけた。
「わしにとってはあんな身体は必要ないのでな」
「酷い!」
「何て野郎だ!」
「わしは全てじゃ。わし以外にこの世には誰もおらんよ」
 さやかと甲児の言葉も最早真っ当に届いてはいなかった。
「虫しかおらぬ。この世にはのう」
「・・・・・・終わっているな、何もかも」
 ジノは首を横に振ってこう言った。
「この男は救えない。何があろうと」
「そうだな」
 マサキもそれに頷いた。
「こうなっちゃ手加減はいらねえ。ヤンロン、テュッティ」
「うむ」
「わかってるわ」
 二人がそれに応じて頷く。
「ミオ、リューネ、やることはわかってるな」
「当たり前でしょ」
「やるしかないわね」
 この二人も同じであった。彼等は前にいるガッツォーを見据えていた。
「行くぜ、五機でな」
「よし」
 サイバスターが飛ぶと他の四機も続いた。そしてゼツのガッツォーを取り囲んだ。
「ん!?何をするつもりなんじゃ」
「ゼツ、憎しみの果てにあるのは何か、よく見させてもらったぜ」
 マサキは重い声で語った。
「手前はもう終わったんだ、本当にな」
「何が終わったのじゃ?わしの世界がはじまるというのに」
「自分で自分がどうなってるかわからねえようになっている奴はもう終わりなんだよ」
 マサキの言葉は続く。
「こうなっちまっちゃもうどうしようもねえ!ゼツ、俺達が手前を裁いてやるぜ!」
 サイバスターの身体に何かが起こった。突如としてその身体が白く光った。
「これは・・・・・・」
「精霊憑依ね」
 ウェンディが皆に対しこう語った。
「精霊憑依」
「元々魔装機はその力を精霊によって得る」
「はい」
「サイバスターは風の魔装機神。サイフィスと契約しているのよ」
「それじゃあ今サイフィスが」
「ええ。サイバスターに憑依したのよ」
 サイバスターの身体が今までとは違って見えた。気が感じられた。
「これでサイバスターの力は今までとは比較にならないものになったわ。そしてそれを引き出したマサキも」
「じゃあまさか」
「出切るかも知れないわ」
 ウェンディはまた言った。
「彼に引導を渡すことが」
「ゼツ!」
 マサキは叫んでいた。
「これが俺の手前への引導だ!受け取りやがれ!」
 そう言いながらサイバスターの前に魔法陣を出させた。
「アカシックバスターーーーーーーッ!」
 魔法陣の中から巨大なオーラの鳥が姿を現わした。そしてゼツに向かって飛ぶ。
 それは一直線にゼツのガッツォーに向かった。だがガッツォーはそれをさけようとする。だがよけきれなかった。
「ヌオッ!?」
 直撃であった。これにより右腕が肘から吹き飛んだ。
「わしの右腕が」
「まだだ!」
「今度はあたしの番だよ!」
 ヴァルシオーネが動く。そして赤と青の螺旋状のビームを放つ。
「クロスマッシャーーーーーーーーッ!」
 今度はその螺旋の光がガッツォーを撃った。右腕が完全に吹き飛んだ。
「ヤンロン!」
「わかっている!」
 ヤンロンはリューネの言葉に頷いた。そして彼も攻撃を仕掛けた。
「これで・・・・・・どうだっ!」
 グランヴェールは炎の柱をガッツォーに向けて撃った。電光影裏であった。
 それで今度はガッツォーの左腕を吹き飛ばす。またしても肘から下がなくなった。
「何か起こったのかのう?」
「まだわかってねえのか!」
 マサキは相変わらずの様子のゼツを見て思わず声をあげた。
「何処までいかれてやがるんだ」
「もうわかってる筈よ、マサキ」
 そんな彼に今度はテュッティが言った。
「彼には。もうこうするしかないわ」
 そう言いながら攻撃態勢に入る。
「行くわよ・・・・・・」
 いつもの穏やかな様子はなかった。その顔と声も激しいものとなっていた。
「ヨーツンヘイム!」
 そして水の柱を放った。それでガッツォーの左腕を完全に消し去った。
 だがそれでもガッツォーは動く。両腕がなくなろうともゼツは動いていた。
「クッ、まだ」
「ならあたしが!」
 ミオも攻撃に入った。
「これでっ!」
 突進する。ガッツォーの腹に拳を放った。
 超振動拳であった。腹に直撃を受けさしものガッツォーも動きを止めた。だがそれでもゼツは生きていた。
「何も起こっておらぬのう、ヒョヒョヒョ」
「マジでいかれてやがるな」
 宙も呆然としていた。
「何処までも。どうなっちまってるんだ」
「だがそれももう終わりだ」
 そんな彼に竜馬が言った。
「終わりか」
「そうだ。あれを見てくれ」
 そう言いながらゲッターで前を指差す。見ればロザリーが狙いを定めていた。
「先生の仇・・・・・・!」
 その目は何かを見ていた。決して仇や憎しみを見る目ではなかった。
「今ここで・・・・・・!」
 そしてリニアレールガンを放った。それで全てが終わった。
「ヒョッ!?」
 一条の光がガッツォーを貫いた。ゼツの顔が止まった。
「何が起こったんじゃ?」
「御前が終わっちまったんだよ」
 マサキは彼に対して言った。
「何もかも。成仏しやがれ」
「何を言っておるのじゃ」
 彼だけがわかっていなかった。
「わしが終わる筈が。ヒョッ!?」
 だがここで気がついた。
「何じゃこれは。赤いものが」
 見れば彼は血に染まっていた。先程のロザリーの攻撃で彼自身も傷ついていたのだ。
「これは何じゃ!?ふむ、鉄の味がするのう」
「駄目だ」
 皆それを見て首を横に振った。
「どうしようもない」
「ああ」
「ん!?何かわしの身体があちこち爆発しておるのう。これは一体」
 既にガッツォーのあちこちから爆発が起こっていた。そしてもうそれは止まらなかった。
「どうなっておるのじゃ!?おお、これは花火か」
 最早自分の見ているものすらわかってはいなかった。
「わしの復讐がなったことを祝う花火じゃな。おお、有り難い」
「あんなのになっちまっても復讐は忘れねえのか」
「何という奴だ」
「花火じゃ。祝え、祝おう」
 彼は爆発の中で悦に耽っていた。
「わしの復讐を。そしてわしの世界がやって来たのを」
 それが最後であった。遂にガッツォーは爆発し何もかもが消えた。こうしてゼツは消えてしまった。
「終わったな」
「ああ」
 ロンド=ベルの面々は爆発し、消えていくガッツォーとその中にいるゼツを見送りながら言った。彼等はこれで一つの戦いが終わったことを実感していた。
「ロザリー」
「うん」
 声をかけられたロザリーは静かに頷いた。そして言った。
「先生、仇はとったよ。そして」
 前を見た。
「さようなら」
 その目からは涙が溢れ出ていた。今彼女にとってかけがえのない者が自分の前から永遠に去ってしまったのだということがわかっていたからであった。
 こうしてゼツとロンド=ベルの戦いは終わった。だがその彼等の前に一つの影が現われた。
「お久し振りですね」
「シュウ」
 マサキはネオ=グランゾンに気付きそちらを見た。そこにはネオ=グランゾンが威圧的な姿と共に立っていた。
「丁度話が終わった時に出てきやがったな」
「一体何の用だい?」
 リューネも彼に問う。やはりシュウを警戒していた。
「今一つの戦いが終わりました」
「ああ」
「確かにね」
「しかしまだ戦いは終わってはいません。バゴニアとの講和がこれから成ってもね」
「ヴォルクルスかよ」
「はい」
 シュウはマサキの言葉に頷いた。
「いよいよ復活しようとしております。それを止めなければなりません」
「で、俺達に何をして欲しいんだ?」
 マサキは彼を睨んだまま問うた。
「どうせろくなことじゃねえんだろうが」
「確かにあまりいいことではありません」
 シュウはある程度それを認めた。
「また皆さんに戦いに赴いてもらうのですから」
「やっぱりな」
「そんなことだろうと思ったわよ」
「お嫌ならいいですが」
「そう言いながら何で俺達の前に姿を現わすんだよ」
「どうせあたし達じゃなきゃどうしようもない仕事なんでしょ」
「ご名答」
 シュウはここでは嘘をつかなかった。
「是非貴方達にヴォルクルスを倒す手助けをして頂きたいのです」
「ヴォルクルスをか」
「あんた一人じゃできないの?そんな化け物に乗っていて」
「生憎。私では限界がありまして」
「えらく謙虚だな、おい」
「そうでしょうか」
「いつも自信に満ちた慇懃無礼な態度なのによ。何を企んでやがる」
「さて、何のことか」
「ヘッ、言わねえつもりかよ。まあいいさ」
 とりあえずはそれを不問にすることにした。だがさらに問う。
「で、手前とヴォルクルスのことだが」
「はい」
「どういう関係なんだ?どうも俺にはただ敵対しているだけのようには見えないんだがな」
「敵対、ですか」
「そうさ。今の手前には前みたいな怪しげな感じがねえ」
「はい」
「怪しいというのは変わらないが何かが違うんだ。雰囲気がな」
「そういえばそうね」
 それにリューネも頷いた。
「何かね、違うのよ。未来で戦った時と比べると」
「あの時の私と今の私は違いますから」
「!?どういうことだ、そりゃ」
「言ったままですよ」
 シュウはそれに対して一言言っただけであった。
「今申し上げたままです。あの時の私と今の私は違うのです」
「!?」
「同じ人間でも違うのです。それが全てです」
「訳わかんねえな、何か」
「いえ、簡単ですよ」
「おめえの言う簡単なのと俺達の言う簡単なのは訳が違うんだよ」
「そうだね、そのマシンだって一人で設計、開発したんだし」
「このネオ=グランゾンもまた簡単なのです」
「何かさらに話がわからなくなってきたな、おい」
 トッドがそれを聞いてぼやく。
「空軍の士官教育の方がまだましだぜ」
「トッドさんって士官になる予定だったんだ」
「ああ、パイロットはな。皆そうだぜ」
「そういえばそうですね」
 シンジはそれを聞いて頷く。
「アムロ中佐もそうでしたし」
「あの人はパイロットになってから教育を受けたんだがな。まあ同じか」
「ですね」
「まあショウはちと違うがな」
「うちは士官じゃなくてもパイロットになれるわよ」
 そんな彼にマーベルが言った。
「おっ」
「私だってショウだってそうだし」
「まあそれを言うとそうなんだがな」
「だが士官教育は無駄じゃなかったみたいだな」
「おいおい、お世辞を言っても何も出ないぜ」
 話に入ってきたショウにそう返す。
「俺は生憎ケチでな。軍人ってのは財布が軽いんだよ」
「そう言いながらこの前僕にジュース奢ってくれましたね」
「子供は別だ」
 シンジに対して一言言う。
「子供には優しくしなくちゃならないのがパイロットなんだよ」
「そうなんですか」
「正義の味方だからな」
「正義の味方」
「アメリカじゃそう教えられるんだよ。アメリカ軍は正義の軍隊だってな」
「またえらくあれですね」
「それがアメリカ軍だったんだよ。まあ変な考えなのは今思うとそうだな」
「トッドもわかってきたじゃない」
「俺はこんなタチなんでな。根がひねくれているからそう考えるのさ」
「少なくとも素直じゃないな」
「おいショウ」
 ショウに言われて少しムッとしたようであった。つっかかってきた。
「御前さんに言われたくはないんだがな」
「俺にはか」
「そこにいる坊やならまだ許せるがな。御前さんにだけは言われたくはねえな」
「何で俺だけなんだよ」
「自分の胸に聞いてみな」
「わからないな」
「あら、わかっているのじゃないかしら」
 マーベルがくすりと笑ってショウに対して言う。
「マーベル」
「だってショウったら。いつも素直じゃないんだから」
「そうかな」
「そうよ。最初会った頃なんて特に」
「あの時は本当に手を焼いたよ」
「ニー」
 ニー達も話に入ってきた。
「本当に我が侭で意地っ張りでな。苦労したよ」
「本当」
「キーンまで言うのかよ」
「俺達だから言うとは思わないのか?」
「大変だったんだから」
「何かえらい言われようだな」
「ドレイクの旦那も御前さんのことには手を焼いていたみたいだしな。よく色々と言っていたぜ」
「ドレイクに言われても何とも思わないが」
「まあそうだろうな」
「しかし。俺もあまり評判がよくはないんだな」
「ショウさんもそうだったんですか」
「あえ、シンジ君は違うだろう?」
「僕は。ちょっと」 
 シンジは俯き加減に言う。
「何か。よく頼りないって」
「そうか」
「っていうかそのままじゃないの」
 アスカも参戦してきた。
「アスカ」
「あんた見てるとねえ。本当にイライラするのよ。いつもウジウジしちゃって」
「そんな言い方はないだろ」
「けど本当のことじゃない。根暗でさ。もっとシャキッとしなさいよ」
「けど」
「けども何もないわよ」
 アスカはいつもの調子であった。
「イライラしてしようがないのよ、本当に」
「けれど何でいつもシンジ君に言うのかしら」
「えっ」
 マーベルに言われてハッとする。
「アスカちゃんっていつもシンジ君に言ってるわよね。前から思っていたけれど」
「シンジ君だけか?」
「何かドラグナーの連中や甲児やガンダムチームの面々にも色々食ってかかってるような気がするんだけれどな」
「見境なし、かな」
「そういえばマスターアジアにも色々と言っていたわよね」
「まあそれは置いておいて」
 マーベルはそう言ってショウ達を窘めた。
「けれどシンジ君に対して一番言っているから」
「そ、それは」
 どういうわけかアスカは戸惑いだしていた。
「何かあるのかしら」
「何もないですけれど」
 そうは言っても戸惑ったままであった。
「いや、あのその」
「言えないのかしら」
「言えなくはないですけれど。その」
「いいわ。じゃあこれでお終い」
「終わるのかよ」
「ええ。彼女が言いたくないみたいだから」
「あたし別に言いたくは」
 トッドの突っ込みに大人の余裕で返したマーベルに不覚にも突っ込んだ。やはりこうしたところが若かった。
「じゃあ言えるかしら」
「それは」
 あっさり切り返される。結局は無駄であった。
「言いたくないのだったらそれでいいわ。私も色々と言いたくないこともあるし」
「うう」
「それに今はもっと大事な話がはじまっているしね」
「そうだったな」
 まずショウがそれに頷く。
「シュウ=シラカワ。今度は何を考えている」
「何か碌なことじゃねえのだけはわかるがな」
 そう言いながらもシュウから目を離さなかった。皆シュウに注目していた。
「シュウ」
 マサキはまた問うた。
「手前はヴォルクルスを倒したいんだな」
「はい」
 集はそれにこくり、と頷いた。
「その通りです。何度も申し上げていますが」
「それがまず信用できねえんだ」
 だがマサキはここでこう言った。
「何故でしょうか」
「今までの手前の行動だ。未来で手前は俺達の前に姿を現わした」
「はい」
「未来へ行く前にもな。その時手前は世界を破壊しようとした。その手前が何故今ヴォルクルスを倒そうとしやがるんだ」
「自由の為とでも申しましょうか」
「自由の為!?」
「はい。こう見えても私は自由というものを愛しておりまして。それが最も大事なものであると考えています」
「他人はどうなってもか」
「他の方は他の方です。とりあえず私は自身が自由であることを願います」
「それがヴォルクルスを倒すこととどう関係があるってんだ?手前はそもそもやってることがヴォルクルスとそっくりだったじゃねえか」
「ヴォルクルスとですか」
「そうだ。忘れたとは言わせねえぞ」
「確かに前はそうでした」
 シュウはそれは認めた。
「以前の私はね」
「じゃあ今の手前は違うってのかよ」
「はい」
 シュウはそれも認めた。
「ですからこうして貴方達の前に姿を現わしているのですよ」
「ヴォルクルスを倒す為に」
「そういうことです」
「まだ信用はできねえがな」
 マサキはこう言いながらもシュウに顔を向けた。
「まあいい。どのみちヴォルクルスはさっさと始末しておかなきゃならねえ」
「はい」
「案内しな。何処にいるのかわかってるんだろう」
「勿論です。それでは」
「ああ」
 こうしてシュウは一時的にではあるがロンド=ベルに加わることになった。だが母艦には入らずネオ=グランゾンに留まったままであった。そんな彼にチカが声をかけてきた。
「いいんですか、御主人様。あっちに入らなくて」
「いいのですよ、今はね」
 シュウは謎めいた笑みを浮かべてそれに応えた。
「今はね。どのみち彼等とは一旦すぐに別れることになりますし」
「あれ、別れちゃうんですか」
「私にはまだやる仕事がありますので。仕方のないことです」
 そしてこう言った。
「けれど今はこれをセニアに送っておきましょうか」
 そこでコクピットから何かを取り出した。それは分厚いファイルであった。
「ネオ=グランゾンの転送システムでね。これでまた彼等に大きな力が加わります」
「ああ、安西博士やオオミヤ博士から貰ったやつですよね」
「はい」
 シュウはそれに頷いた。
「あのクリバヤシ、オザワという二人にとって非常に有益な筈です」
「それはまあそうですけれどね」
「後はゼンガーさんですが」
「彼がどうかしたんですか?」
「ここでそろそろ因果を断ち切られればいいのですが」
「因果ですか」
「はい」
「あの人にそんなのありましたっけ」
「あるのですよ。ここにまで来ているでしょう?」
「ああ、あれですか」
 それが何かチカにもわかった。納得したように頷く。
「あれが因果だったんですか」
「そうなのですよ」
「けれどあれはどうにもならないんじゃないですかね」
「何故ですか」
「あれだけ憎まれていると。手の施しようがないですよ」
「それはどうですかね」
 だがシュウはその言葉には否定的であった。
「彼女は何もわかっていないだけですから」
「あれっ、ゼンガーには問題はないんですか」
「この場合はね」
 シュウの答えはそれであった。
「後は彼女が気付くだけです」
「気付きますかね」
「気付きますよ」
 しかしどういうわけかシュウの答えは楽天的なものであった。
「きっとね」
「何か気楽ですね」
「そうでしょうか」
「御主人様はいつも何かを見透かされていますけれどね。今回もまた」
「ふふふ、さて」
 シュウは笑ってそれを誤魔化した。そして道案内に入った。
「こちらです」
「行くか」
「ああ」
「もし何かやらかしたら」
「よせ、甲児君」
 鉄也はいきり立つ彼を制止した。
「疑うこともしなければならない時もあるが。今は抑えておくんだ」
「けどあいつは」
「俺も君と同じ考えだ」
 それは認めた。鉄也も甲児と同じくシュウを信用してはいなかった。
「だが何かすることは何時でもできる。違わないか」
「それはそうだけれどよ」
「甲児君、安心するんだ」
 大介も言った。
「僕もいる。けれど今は彼を信用しよう」
「大介さんも言うんなら」 
 この二人に言われては逆らうことはできなかった。この二人は甲児にとって仲間であると共に兄のような存在であるからだ。そういった意味で彼は末っ子の様な存在であった。
 シュウはそのままラングラン領に入った。そして北の奥へ進んで行く。そこは険しい山脈であった。
 そこでまた戦いがはじまろうとしていた。破壊を司る神との戦いが。彼等の戦いは地下においても続いていた。そしてそれは何時終わるかもわからなかった。


第五十二話   完


                                        2005・11・6


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