邪魔大王国の最期(前編)
 ラ=ギアスにいるロンド=ベルはシュウの誘導に従いそのまま北に向かっていた。だがその行く手に彼等に復讐の念を燃やす者が向かおうとしていた。
「邪魔大王国のことですが」
 地下の巨大な玄室であった。昆虫将軍スカラベが暗黒大将軍の前にいた。そして報告を行っていた。
「何かわかったか」
「はい。今までラ=ギアスにいましたが」
「うむ」
 暗黒大将軍はそれを聞いて上の顔を動かした。
「どうやら全軍を挙げてロンド=ベルに向かうつもりのようです」
「何だとっ」
 暗黒大将軍はそれを聞いて声をあげた。
「それはまことか」
「はい。それが何か」
「まずいぞ。今はその時ではない」
「といいますと」
「ロンド=ベルに攻撃を仕掛けるのは今ではないということだ」
 彼は重厚な声でスカラベにそう語った。
「まだ我等も邪魔大王国も充分な戦力を備えてはおらぬ」
「戦力なら既にありますが」
「単純な戦力ではない」
 だが彼は今ある戦力をよしとはしなかった。
「まだあの方がおられぬ」
「あの方」
「知れたこと。闇の帝王だ。復活はまだ先であろう」
「はい」
 スカラベはそれを聞いて頭を垂れた。
「残念なことに。今はまだ」
「まだ時間はかかるか」
「手を尽くしてはおりますが。まだ暫くの猶予を」
「仕方あるまい。だが急ぐようにな」
「ハッ」
「闇の帝王が戻られたその時こそミケーネが世界をその手の中に収める時」
 重厚な声をそのままに言う。
「その時にはそなた達にも働いてもらう」
「お任せを」
「そして人間共を一掃する。手はじめに日本だ」
「日本を」
「あの国を完全に占拠しそこを我等の拠点とする。よいな」
「ハッ」
「全ては我等が闇の帝王の為に」
「闇の帝王の為に」
「世界を掌中に収めるのだ」
 そう最後に言って不敵に笑った。彼等もまた動いていた。そしてロンド=ベル、人類との決戦に備えて刃を研いでいたのであった。

 ロンド=ベルはそんなことも知らずヴォルクルスとの戦いに思いを馳せていた。彼等は皆緊張した面持ちでそれぞれの艦に乗り込んでいた。
「そろそろかよ」
「あら、まだ先よ」
 さやかがソワソワする甲児に対して言った。
「そんなに焦らない。どうせ嫌でも戦わなくちゃいけないんだから」
「けど何か気がはやってな」
「甲児君らしいわね、何か」
 ジュンがそれを見て笑った。
「けど焦り過ぎてもよくないわよ。焦りは禁物よ」
「まあそうだけどよ」
「そんなに気がはやるんだったらトレーニングジムでも行ってきたら、甲児」
 今度はマリアが言った。
「そこで体力を発散させるといいわよ。そうしたら時間なんてあっという間だし」
「それもそうかな」
「じゃあ行こ。あたしも付き合うわよ」
「あっ、ちょっと待って」
 そんな二人をさやかが呼び止めた。
「何、さやか」
「マリア、さっきひかるさんが呼んでたわよ」
「ひかるさんが?」
「ええ。今思い出したんだけど。どうするの」
「何の用事かしら」 
 マリアはそれを聞いて首を傾げさせた。
「まあそれは行ってみたらわかるわ」
「それもそうね。じゃあ」
「ええ」
 こうしてマリアは甲児から離れてひかるの方へ向かった。さやかはそれを見届けてから甲児に顔を戻した。
「で、どうするの」
「どうするのつったってなあ」
 一人残った甲児は首を傾げさせた。
「まあ一人でもいいさ。じゃあ行ってくらあ」
「ええ」
 こうして甲児は一人トレーニングルームに向かった。さやかはそれを見て少し胸を撫で下ろしたようであった。
「嘘でしょ」
 そんな彼女にジュンが声をかけてきた。
「ちずるさんが呼んでたなんて」
「本当よ。けど」
「けど?」
「何かね、あの娘と甲児君が一緒にいると少しイライラするのよ。どうしてかわからないけれど」
「そうなの」
「八つ当たりはしないようにはしてるけれど。どうしてかしら」
「まあそういうことは私にもわからないけれど」
 ジュンもあまりそうしたことには詳しくはない。仕方のないことではあった。
「さやかは甲児君よりも大人なんだから。しっかりしてよね」
「ええ」
 軽いやり取りの後で二人はその場を後にした。ロンド=ベルはそれぞれの思いを抱いて戦場に向かっていた。
「今のところは順調だな」
「ここは生物もあまりいない場所ですから」
 シュウがエイブにそう応えた。
「そうなのか」
「いるとすれば高山に住む動物達位ですね。しかしこれだけの高さになるとそうはいません」
「さっき雪男を見たぞ」
「イェテイですね」
「ああ。地上でもヒマラヤにいると言われている謎の動物だ」
「ここでは謎でも何でもないですよ」
 今度はサコンの言葉に応えた。
「ラ=ギアスでは普通にいる動物ですから」
「普通にか」
「ええ。身体は大きいですが大人しい動物です。害はありません」
「そうか」
「何か凄いな。そんなのが普通にいるなんて」
「いや、サンシローそれは違うぞ」
 ここでサコンはサンシローに対してこう言った。
「違うのかよ」
「そうだ。ここは地上じゃないんだ。地上とは生態系も異なる」
「生態系がねえ」
「だから地上にはいない生物がいるのも当然だ。現にシュウの側にいる小鳥だが」
「ああ、あの五月蝿いの」
「五月蝿いってのは余計ですよ」
 チカはそれを聞いて口を挟んできた。
「あたしはねえ、そもそもシュウ様の」
「この小鳥にしろラ=ギアスにしかいないものだ」
「何処にでもいそうな外見だけどな」
「馬鹿を言っちゃいけません」
 チカはサンシローの言葉に反論した。
「こう見えてもあたしは由緒正しいファミリアで」
「ファミリア?」
「所謂使い魔だ。マサキのクロやシロと同じだ」
「ああ、あれか」
「シュウ様の身の周りのお世話をする非常に有り難いファミリアなので御座います」
「身の周りの世話を、ねえ」
 サンシローはそれを聞いて首を傾げさせた。
「シュウは何でも自分でやっているように見えるけどな」
「それは表向きのこと。あたしは影に日向にサポートしているので御座います」
「そうなのか」
「そもそもファミリアというのは御主人様の無意識下から生まれたもので」
「待て」
「どうした?」
「今こいつ無意識下って言ったよな」
「ああ」
 サコンはそれに頷いた。
「ということはこいつはシュウの無意識にある思考とかそんなのが具現化した奴だよな」
「そういうことになるな」
「じゃあこいつとシュウは同じなのか?全然似ていないが」
「言われてみればそうだな」
 サコンもそれに気付いた。
「あの無口でクールなシュウにもこんな無意識があるのか」
「意外と言うべきか」
「チカ、貴女は少し黙っていなさい」
「あ、すいません御主人様」
 シュウがここでチカを窘めた。
「無意識ですか」
 そして彼女にかわって二人の前に出て来た。
「否定はしません。彼女は私の無意識下にある思考の具現化の一つですから」
「そうだったのか」
「またえらく正反対だな」
「そうでもありませんよ」
「何っ」
 サンシローもサコンもそれを聞いて声をあげた。
「それは一体どういうことだ」
「彼女は私の願望を表わした存在なのですから」
「願望を」
「それもいずれわかりますよ」
 笑ってこう述べた。
「それも近いうちにね」
「近いうちにか」
「ええ。その時を楽しみにしておいて下さい」
 そしてこう言った。
「宜しいですね」
「よくはわからねえけどよ」
 サンシローが実直に言った。
「まああの小鳥があんたの一部だってことはわかったよ」
「はい」
「あんたも意外と複雑なんだな」
「そうでしょうか」
「色々な一面を持っていてな。まあ人間ってそんなもんだろうけどな」
 意外と鋭かった。どうやらエースというのは鈍くては務まらないらしい。
「ところで」
「何だ、今度は」 
 シュウがまた言った。サンシロー達がそれに反応した。
「敵が来ましたよ」
「何っ」
「ヴォルクルスか」
「いえ、これは違いますね」
 シュウはネオ=グランゾンのレーダーを見ながら応えた。
「これは邪魔大王国のものです」
「邪魔大王国」
「まだ諦めていなかったのか」
「おそらく。彼等も意地があるのでしょう」
「ヘッ、負け続けていてもまだ意地があるのかよ」
 サンシローはそれを聞いて減らず口を叩いた。
「懲りない奴等だぜ」
「だが侮ることはできないぞ」
 そんな彼にサコンが忠告する。
「ここまで追ってきたということはそれだけ必死だということだからな」
「そうか」
「その通りだ。油断するな」
 そう言った後で大文字に顔を向けた。
「博士」
「わかっている」
 大文字は頷いた。
「総員出撃。そしてこの場で迎撃にあたる」
「ここでですか」
「足場こそ辛いが防御に適している。ここで戦うべきだと思うが」
「むっ」
 サコンはそれを受けてモニターで周りを見回した。確かに足場は狭くクレバスも多い為不安定であった。だが岩山が多く防御が期待できるのは事実であった。
「どうかね、サコン君」
「それでいきましょう」
 サコンとて天才を謳われている。それがわからない道理はなかった。コクリ、と頷く。
「では総員すぐに出撃だ。空を飛べる者も下に降りるんだ」
「了解」
「そして岩山を利用して敵にあたる。ただしダイターンは空を飛んでくれ」
「何故ですか?」
「隠れるにはあまりにも大きいからだ」
 大文字は万丈の問いに対してこう説明した。
「流石にその巨体では無理だろうからな」
「その通りで。それじゃあ僕は僕でやらせてもらいます」
「うむ、頼むぞ」
「ゲッターはまず地中に潜るか」
「そうだな」
 ゲッターチームはまずその巨体を隠すことにした。
「それでは他のメンバーはすぐに出てくれ。おそらくすぐにでもやって来るぞ」
「了解」
「じゃあ出るぜ」
「よし」
 こうしてロンド=ベルは出撃した。ダイターンの他にはコンバトラーやボルテス、そしてゼオライマーといった大型のマシンが空中に展開していた。そして邪魔大王国の軍を待ち構えていた。
 やがて三機のヤマタノオロチを中心とした邪魔大王国の軍がやって来た。その先頭にはやはりククルがいた。
「ロンド=ベルの者達よ」
 ククルはマガルガのコクピットから言った。
「今日こそはうぬ等を滅してくれる。覚悟はよいな」
「ヘッ、その言葉はもう聞き飽きたぜ」
 宙がそう言い返す。
「逆に言い返してやる。邪魔大王国」
「何じゃ」
「今日こそはこの鋼鉄ジーグが貴様等を倒してやる。覚悟しな」
「フン、鋼鉄ジーグか」
 ククルはそれを受けてジーグを見下ろした。
「そういえばヒミカ様はうぬに倒されたのであったな」
「それがどうした」
「ヒミカ様の無念もここで晴らしてくれよう。覚悟するがいい」
「覚悟するのは貴様等の方だぜ」
「減らず口なら今のうちに申しておけ」
 ククルは冷やかな声でこう述べた。
「どのみちここでうぬもまた滅びるのだからな」
「ククルよ」
「貴様か」
 その声を聞いただけでククルの目の色が変わった。
「ゼンガー=ゾンバルト。うぬもここで終いじゃ」
「どうやらわかるつもりはないようだな」
「わかる!?」
 その言葉を聞いたククルの顔色が変わった。
「何をわかるというのじゃ」
「それは貴様で考えろ」
 そう言いながらダイゼンガーを浮上させた。
「おいゼンガーさん」
「浮かんじゃ何にもならないぜ」
「そうですよ。折角岩山に布陣しているのに」
「そのようなことは関係ない」
 だがゼンガーはそれを無視した。
「相手が宙にいるのならば俺も宙にいる」
 強い声でそう言う。
「それが武士というものだ。ククル」
 そしてククルを見据えた。
「貴様がわからぬというのなら地獄ででも教えてやる」
「地獄でか」
「そうだ。この斬艦刀はただ敵を切るだけではない」
 恐ろしく巨大な刀を構えながら言う。
「悪をも絶つのだ。邪な心をな」
「言ってくれるのう」
 口元は笑っていたがその目は怒っていた。
「わらわを悪じゃとな」
「己の心に逆らい続けて何が善か」
 ゼンガーは言い切った。
「貴様が正しいと思うのならば来い。そして決着をつけよ」
「言われずとも」
 ククルは言うより先に前に動いていた。
「相手をしてやろう。来るがいい」
「参る」
 ゼンガーもまた動いた。そして二人は空中で対峙した。
「今度こそ死ぬがいい」
「今度こそその悪を絶つ」
 そう言うが早いか二人は激突した。それを合図に戦いがはじまった。
「さてと」
 その中にはタダナオとオザワもいた。二人はそれぞれ新しいマシンに乗っていた。
「この新型機のテストでもあるな、この戦いは」
「ああ」
 オザワはタダナオの言葉に頷いた。見れば二人共見たこともないようなマシンに乗っていた。
「確か御前のがジガンスクードだったな」
「そうだ」
 オザワはタダナオの言葉に頷いた。
「そして俺のがアルフレードカスタムか。何か参考にしたマシンがすぐにわかるな」
「これクリストフから貰ったのをかなりもとにしてるんだけれどね」
 二人のモニターにセニアが現われてこう言った。
「ひ、姫様」
 タダナオは彼女の顔を見るとその顔を急に赤くさせた。
「あれっ、どうしたの?」
「な、何でもありません」
 タダナオは慌てて対面を取り繕う」
「クリストフというとシュウ=シラカワ博士のことですね」
「ええ」
 セニアは頷いた。
「そっちのジガンスクードもね。色々と参考にさせてもらったわ」
「そうなのですか」
「ジガンスクードはダイターンとかスーパーロボットを。そしてアルフレードカスタムは」
「SRXの流れを汲んでですね」
「ええ。こっちは殆どクリストフの設計を」
「シラカワ博士が」
「あたしは作っただけ。けれど凄いわよ」
「凄いのですか」
「それは戦ってみてのお楽しみ。まあやってみて」
「わかりました」
 彼はそれを受けて戦場に向かう。すると目の前にヤマタノオロチが現われた。
「いきなりかよ」
「どうするんだ」
 オザワがタダナオに問うてきた。
「やるのか」
「やるに決まってるだろ」
 タダナオは友の言葉に対して笑いながら応えた。そして攻撃準備に入る。
「まずは」
 攻撃態勢に入る。流れるような動きだ。
「スプレット=ビームキャノン!シューーート!」
 その肩にある二つの砲塔からビームを放った。
 それがヤマタノオロチに襲い掛かる。それは指揮を執るイキマにも向かってきた。
「なっ!」
「イキマ様、これは!」
「案ずるな!この程度の攻撃!」
 だが彼はわかっていなかった。この攻撃の真の恐ろしさを。ビームは的確な動きでヤマタノオロチの急所を攻撃してきた。そしてそれは到底耐えられるものではなかった。
「グハッ!」
 ヤマタノオロチが大きく揺れた。一撃にして大破してしまったのだ。
 イキマ自身も負傷していた。胸、そして腹から血を流している。致命傷であった。
「ウググ・・・・・・」
「イキマ様、脱出を」
 周りの者が声をかける。見ればあちこちから火を噴き出しえいる。そして倒れて動かない者も多い。
「いや、よい」
 だが彼はそれを断った。
「最早助からぬ。だがククル様にはお伝えしてくれ」
「何と」
「これでわしは死ぬが邪魔大王国は永遠だと」
「永遠」
「そうだ。我等はまだ滅びぬ」
 最後の力を振り絞って言う。
「闇の帝王がおられる限り。よいな」
「わかりました。それではお伝えします」
「うむ、頼むぞ」
 そして彼は死んだ。彼の乗るヤマタノオロチを墓標として。こうしてイキマは戦死した。
「すげえ、一撃かよ」
 それを見てオザワが感嘆の声を挙げた。
「どうやら予想以上みたいだな」
「そっちのジガンスクードもそうじゃないのか」
 だがタダナオはその言葉にも乱れることなくオザワにそう言ってきた。
「僕のもか」
「そうだ。やってみろ」
「よし」
 彼はもう一機のヤマタノオロチに狙いを定めた。それはアマソの乗るものであった。
「アマソ様、奴等が来ます」
「臆するでないぞ」
 アマソは部下達に対してこう言い伝えた。
「イキマの弔い合戦だ。よいな」
「ハッ」
「敵が来たところを一気に押し潰す。攻撃用意をしておけ」
「わかりました。では」
「イキマよ、見ておれ」
 アマソは怒りに満ちた目で呟いた。
「うぬが無念、今こそ晴らしてくれる」
 そしてオザワの乗るジガンスクードを見据えた。それは一直線に突っ込んできていた。
「見せてやるぞこのジガンスクードの力」
 オザワは言った。
「プラズマスパイラル!」
 その胸を光が包んだ。そしてそこから放たれた光が一直線に突き進む。
「死ねえっ!」
「今だ、やれ!」
 それを見てアマソが攻撃を命令する。だがそれはあえなく弾き返されてしまった。
「なっ!」
「すげえ」
 オザワはそれを見て呟いた。
「これがジガンスクードの力なのか。これならいける」
 そして全身に更なる力を込めた。
「いけええええええーーーーーーーっ、一撃で粉砕してやる!」
「グワアッ!」
 一条の光がヤマタノオロチを貫いた。それで終わりであった。
「ヌウウ!」
 アマソもまた致命傷を負っていた。彼は最後の力を振り絞って言った。
「ミマシ!我等が邪魔大王国を!」
 そして炎の中に消えた。これでアマソも戦死した。
「何と、イキマとアマソが」
 ミマシは戦友達の最後を見て驚きを隠せなかった。
「無念であっただろう」
 長い付き合いであった。その間のことを思い出し項垂れる。
「だが御主等の死は無駄にはせん」
 しかしそれはほんの僅かのことであった。
「その無念、見事晴らしてくれよう。行くぞ」
「ハッ」
 そして周りの者に声をかけた。
「総攻撃じゃ。まず狙うわ」
 目の前に奴がいた。
「鋼鉄ジーグじゃ!ヒミカ様の仇もまとめて討つぞ!」
「了解!」
 それを受けてミマシのヤマタノオロチは動いた。全速力でジーグに向かって来る。
「来たな」
 それはジーグからも見えていた。彼はまず後方にいる美和に顔を向けた。
「ミッチー、あれをやるぞ」
「ええ、わかったわ宙さん」
 美和はそれに頷いた。そしてビッグシューターが動いた。
「マッハドリル発射!」
「よし!」
 それを受けてジーグも跳んだ。
「マッハドリルセット!」
 その両腕にマッハドリルを装着するとそのままヤマタノオロチに突進した。
「これでも喰らえっ!」
「ミマシ様、来ました!」
「火力を集中させよ!」
 ミマシの指示が下る。だがそれより先にジーグは突進していた。
 そしてそのドリルでヤマタノオロチを刺し貫いた。これでミマシも終わった。
「ぬうう・・・・・・」
 見れば周りにいる者達はその多くが倒れ、負傷している。彼自身も身体の半分が吹き飛んでいた。こうなっては最早明らかであった。
 彼は何とか生き残っている僅かな者達を見つけた。そして言った。
「総員退去」
「ミマシ様は」
「わしはいい」
 彼もそれを断った。
「どのみち助からぬ。それよりな」
「はい」
「国を頼む。よいな」
「わかりました。それでは」
「うむ、さらばだ」
 生き残った者達が退去するとヤマタノオロチは撃沈した。こうして邪魔大王国を支えた三人が死んでしまった。
「まさか、あの者達が」
 それはククルも見ていた。思わず絶句してしまった。
「嘘じゃ、このようなことが」
「嘘ではない」
 彼女に正対するゼンガーが言った。
「これが真実だ。邪魔大王国はこれで終わりだ」
「戯れ言を」
 だが彼女はそれを否定した。
「邪魔大王国は滅びぬ。これからも永遠に繁栄するのじゃ」
「それはない」
 しかしゼンガーはその言葉も否定した。
「この世にあって滅びぬものはない。例えどのようなものであってもな」
「うぬう」
 その言葉を聞いて激昂した。
「ではうぬは邪魔大王国が滅びるというのか」
「そうだ」
 彼は臆することなく言い切った。
「それが今だ。御前の腹心であった三人が滅んだことが何よりの証」
「ぬかせ」
 彼女はさらに激昂した。
「わらわがいる限り。邪魔大王国は滅びはせぬ」
「愚かな。一人で国を保てるとでも思っているのか」
「それは貴様が言うことではない」
 その目が赤く変色してきた。
「わらわに逆らう者は容赦することはできぬ。覚悟はよいな」
「覚悟はとうにできている」
 ゼンガーはまるで夜叉の様になったククルの顔を見て臆することはなかった。目は赤くなり顔は憤怒で歪んでいた。それはまるで京劇の仮面の様であった。
「ならば容赦はせぬ」
 ククルは身構えた。
「この黄泉舞を受けて死ぬがいい」
「それは適わぬ」
「何と」
「気付いていないのか、今の自身に」
「どういうことじゃ」
「よく見るのだ」
「何っ!?」
「己が周りを。それでも言えるか」
 見ればククルの周りに部下達はもう殆ど残ってはいなかった。いるのはロンド=ベルのマシンばかりとなっていた。
「これが現実だ。今の御前は一人だ」
「言うな!」
「一人だけの王国だ。それでも滅びぬというのか」
「左様」
 それでもククルは言った。
「わらわがいる限り何度でも。それがヒミカ様の願いである限り」
「ヒミカか」
 それを聞いてまたゼンガーは言った。
「あの女が御前をどう思っていたか。知ってはいないのか」
「何をじゃ」
「あの女は御前を利用しようとしていただけだ。それがわからないのか」
「まだ言うか」
「何度でも言おう。御前は利用されていただけだ」
「何処にその様な証拠が」
「それは御前自身だ」
「わらわ自身じゃと」
「そうだ。御前が人間であることが何よりの証」
 彼は言う。
「その赤い血に白い肌が。御前を人間だと言っている」
「それがどうした」
「邪魔大王国はハニワ幻人の国だ。何故人間がそこにいる」
「グウウ」
 言い返せなかった。確かにその通りであるからだ。
「御前はその力を邪魔大王国に利用されていただけだ。御前は女王ではなかった」
「では誰が女王なのじゃ。わらわなくして」
「ヒミカだ」
 ゼンガーはまたしても言い切った。
「ヒミカ様が。馬鹿な」
「あの女は死しても邪魔大王国の女王だった。それはあの三人を見てもわかるだろう」
「・・・・・・・・・」
 その通りであった。それはククル自身が最もよくわかっていた。それを聞いてククルは完全に沈黙してしまった。
「御前は女王ではない。傀儡に過ぎないのだ」
「ではわらわは何なのじゃ」
「人間だ」
 ゼンガーはまた言った。
「人間・・・・・・」
「そうだ、人間ならばわかるだろう」
 彼はさらに言う。
「どうするべきかな」
「・・・・・・・・・」
「わからないならいい」
 ゼンガーは沈黙してしまったククルに対して声をかけた。
「だがまた来るがいい。わかるまで何度もな」
「・・・・・・後悔するぞよ」
 ククルはそんな彼に言い返した。
「わらわを逃がしたことを」
「俺の生き方に後悔はない」
 しかしゼンガーは言い切った。
「俺は常に前を見据えている。過去はただ学ぶだけのもの」
「フン」
 最後まで聞くとその場を後にした。ククルは残った僅かな兵を連れてその場を後にした。
「あのゼンガーさん」
 一人立つゼンガーにクスハとブリットが側に寄って来た。
「いいのですか、あれで」
「あの女、きっと」
「構わん」
 ゼンガーは二人に対しても同じであった。
「何度来ようとも。俺は敗れはしない」
「けれど」
「他の者に迷惑はかけぬ。これは俺とあの女の戦いだ」
「けどそれじゃあ」
「他の兵達か」
「はい」
 クスハはそれに頷いた。
「このままじゃやっぱり」
「心配は無用だ。このダイゼンガーがある限り」
「けど」
「ゼンガーさん一機じゃ」
「そんなに心配なのか」
「勿論ですよ」
「同じ小隊じゃないですか」
 二人はさらに言った。
「若しもの時は任せて下さい」
「俺達も一緒にいますから」
「・・・・・・これはあくまで俺とあの女のことなのだが」
「それはいいです」
 クスハはここで無意識に駆け引きをした。
「けど。他のハニワ幻人は」
「俺達がやります。ゼンガーさんは自分のことに専念して下さい」
 ブリットもそれに加わった。やはり彼も無意識であった。
「他のことは俺達が引き受けますから」
「・・・・・・・・・」
 それを聞いてゼンガーは沈黙してしまった。
「いいですよね、それで」
「嫌なら・・・・・・仕方ないですけれど」
「士は己を知る者の為に死す」
 ゼンガーは二人に応えなかった。しかし一言こう言った。
「えっ」
「その言葉は」
「自分を認めてくれている者の言葉は受けなければならないな」
「それじゃあ」
「ゼンガーさん」
「うむ。あらためて頼む」
 彼は言った。
「俺と共に。戦ってくれ」
「は、はい!」
「それじゃあ。やらせて下さい」
「済まないな。いつも」
 ゼンガーはそう言ってあらためて二人に顔を向けた。
「何かと。迷惑をかける」
「いえ、そんなこと」
「俺達の方こそ」
 二人はゼンガーにそう言われてかえって照れてしまった。
「いつも助けてもらってるし」
「困った時はお互い様ですよ」
「それでは頼むぞ」
「はい」
 二人は頷いた。
「あの女とはここで決着をつける」
「邪魔大王国とも」
「うむ」
 ゼンガーも頷いた。
「では今は帰ろう。戦いはまだある」
「はい」
「そして。次の戦いで」
「やりましょう」
「三人で」
 彼等は誓い合った。今三人の心が繋がった。それは戦いに向かう戦士としての?がりであった。今クスハもブリットもようやく真の意味で戦士となったのであった。
 戦いはロンド=ベルの圧勝であった。地形を上手く活用したことと新型のマシンの活躍によるところが多かった。邪魔大王国は三人の幹部と多くの戦士達を失った。最早その衰退は決定的なものとなってしまったのであった。
 だがそれでも戦いは終わったわけではなかった。それはロンド=ベルもよく認識していた。
「また来るな」
 宙が大空魔竜のリビングルームで言った。
「残った戦力でな。まだ戦いは終わっちゃいない」
「やっぱりかなり詳しいね」
 万丈がそれを聞いて宙にこう返した。
「邪魔大王国のことはやっぱり君が一番よく知ってるね」
「ああ」
 宙は万丈の言葉に頷いた。
「この身体になったのも。あいつ等のせいだからな」
「彼等の」
「俺は最初は人間だったんだ。純粋な」
 宙は語りはじめた。
「だが親父によって改造されたんだ。サイボーグに」
「邪魔大王国と戦う為にかい」
「そうさ。そして銅鐸を守る為に。俺は邪魔大王国と戦う為に人間じゃなくなった」
 そう語る声は内容に反比例してふっきれたものであった。
 普通の者であれば奇異に聞こえるものであった。しかし万丈は違っていた。表情を変えることなく普段の様子のままで聞いていた。
「最初は。悩んだものさ」
「そうだろうね」
「親父も恨んだ。憎んださ。しかしそれしかないとわかった」
「君が邪魔大王国と戦うしかないってことに」
「そしてヒミカを滅ぼした。ロンド=ベルにも入った」
「ふん」
「今の俺がここにいるんだ。その結果な」
「その間色々悩んだのだね」
「ああ。わかるか」
 宙は万丈の顔を見ながら言った。
「色々と恨んだり憎んだりしたがな。だけど今はどうでもいい」
「君が鋼鉄ジーグであること、そして心が司馬宙であることは変わらないのだからね」
「俺はわかったんだ。心が問題だってな」
「そう、心だね」
 万丈は頷いた。
「俺は身体はサイボーグになった。しかし心はそのままだった。司馬宙のままだった」
「心までは変わっちゃいなかった」
「ああ。それに気付いた時俺は悩まなくなった」
「恨んだり憎んだりすることもなくなった」
「俺は人間だ。それがわかったからな」
「その通りだね」
「今まで悩んでいたのが馬鹿馬鹿しくなった。俺は人間だって確信できたからな」
「それさえわかればいいんだ」
「ああ」
 今度は宙が頷いた。
「心さえ人間だったら。それで人間なんだからね」
「わかるのか」
「ああ。僕もそうだったからね」
「あんたも」
「僕のことは聞いてるね」
「ああ」
 今度は宙が聞き役になった。万丈の話を聞く。
「僕の父は。メガノイドを開発したんだ」
「そうらしいな」
「能力だけでなく。そのエゴまで強化した最悪のサイボーグだった。奴等は人間じゃなかった」
「そして火星で奴等を滅ぼしたんだったな」
「酷い戦いだった。そこで僕は地獄を見た」
「俺と同じだな」
「そうだね。そしてコロスもドン=ザウサーも倒した。けれど・・・・・・残ったのは」
 その声に血が滲む。
「何もなかった。僕には何も残らなかった。血に濡れた腕以外は」
「そして地球に戻ってきたんだな」
「そうさ。ダイターンと一緒にね」
 目にも血が滲んでいた。
「火星から持って来た金塊で財閥を作って今は暮らしているけれど。やっぱり僕には何もないんだ」
「それは違うな」
「えっ」
「あんたは何もないわけじゃない。それどころか他の奴等が羨むようなものばかり持っているじゃないか」
「お金の話はなしだよ」
「それなら俺だって持っているさ」
 宙はそう答えて笑った。
「伊達にプロのレーサーやってるわけじゃない。店もあるしな」
「しっかりしているんだね」
「そんな下らない話はしないさ。お互いな」
「ああ」
「あんたはいつも側にビューティやレイカがいるじゃないか」
「あっ」
 言われてハッと気付いた。
「それにトッポにギャリソンさんも。あんたは一人じゃないんだぜ」
「そうか、そうだったね」
「俺も途中で気付いたのさ。俺には母さんもまゆみもいる。そしてミッチーもな」
「お互い一人じゃないということだね」
「そうさ。だから何もないわけじゃない」
「それどころか一杯持っているというわけだね」
「そうとしか思えないだろ。だから暗くなることなんてないさ」
「そうだね」
「それじゃあ似た者同士一杯やろうぜ。実はバゴニアでたっぷり買い込んでいるんだ」
「僕はお酒には五月蝿いよ」
「これもお互い様だぜ。じゃあ今日は二人で心ゆくまで飲むか」
「何か僕達が一緒にいるとブライト大佐やアムロ中佐を思い出すっていうけれど」
「余計面白いじゃないか。それじゃあ二人で騒ごうか」
「いいね」
「皆驚くぜ。何でここにブライト大佐とアムロ中佐がいるんだってな」
「弾幕薄いぞ、何やってんの!」
「ニューガンダムは伊達じゃない!」
「いいね、そっくりだよ」
「そっちこそな。本人かと思ったぜ」
「全く」
「それじゃあ飲むか」
「よし」
 こうして二人は宙の部屋で飲みはじめた。そしてブライト、アムロと間違われたのであった。

「さて」
 シュウは一人ネオ=グランゾンのコクピットにいた。共にいるのはチカだけである。
「もうすぐですね」
「ヴォルクルスですか」
「ええ」
 シュウはファミリアの言葉に頷いた。
「いよいよですよ。覚悟はできていますか」
「勿論ですよ」
 チカは答えた。
「何度も言いますけれどあたしは御主人様のファミリアですから」
「はい」
「御主人様と一心同体、御主人様の為なら例え火の中水の中ですよ」
「では一つだけお願いがあります」
「何で御座いましょうか」
「ルオゾールの前では私の影の中にいて下さい。いいですね」
「またどうして」
「貴女は口が軽過ぎるんですよ。余計なことをしゃべられては困ります」
「あら、これはまた」
「いいですね。特に彼に気付かれてはなりませんから」
「わかりました。今回は特別ですからね」
「そういうことです」
 シュウは頷いた。どうやら彼等は何かしらの秘密を共有しているようである。だがそれは互いに口には決して出そうとはしない。
「当然マサキ達にも同じですが」
「あいつ等にわかる筈もないですよ」
「さて、それはどうでしょうか」
 だがシュウはそれにも懐疑的だった。
「何かあるんですか」
「マサキもリューネもあれで勘が鋭いですよ。注意して下さい」
「そうなんですかね」
「油断大敵。秘密は何処から漏れるかわかりませんよ」
「はあ」
 チカはシュウのその言葉にぼんやりとだが頷いた。
「敵を欺くにはまず味方からってことですね」
「私はそこまで人が悪くはありませんよ」
「いやいや、何を仰いますか」
 それには笑って応えた。
「御主人様がそんなことを仰っても説得力がありませんよ」
「ふふふ、確かに」
 これはシュウも認めた。
「これからやることを考えるとね」
「ではいいですね」
「はい」
 チカはあらためて頷いた。
「それではその日に備えて」
「英気を養いましょう」
 チカはシュウの影の中に入った。シュウはそれを確かめるとネオ=グランゾンを自動操縦にして目を閉じた。眠りに入ったのである。
 今ラ=ギアスでも二つの戦いが行われていた。戦いは至る所で繰り広げられていたのであった。

第五十六話   完


                                     2005・11・24

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