邪魔大王国の最期(後編)
 邪魔大王国の三幹部を倒したロンド=ベルは北進を再開した。だがその行く手にはまだ障害があった。
「そろそろですが」
 シュウがモニターで大空魔竜のクルーに対して話し掛けていた。
「用意は宜しいですか」
「そうか、遂にか」
 大文字はそれを聞いてまずは頷いた。
「破壊神ヴォルクルス。その神殿がそこに」
「そうです」
 シュウはそれに言葉を返した。
「準備は宜しいですね」
「ああ、こっちはな」
 ピートが応える。
「何時でもいける。ただ、一つ気になることがある」
「何でしょうか」
「ずっと気になっていたことだがヴォルクルスってのはそんなに手強いのか」
「はい」
 シュウは特にやましいところを見せるわけもなくそれに応えた。
「かなりの強さです。少なくとも私一人では無理な程に」
「ネオ=グランゾンを以ってしてもか」
 それを聞いた大文字の顔が少し変わった。
「だとするとかなりのものだな」
「その通りです」
 シュウはまた答えた。
「ですから。気をつけて下さいよ」
「ただ、腑に落ちないところもある」
 今度はサコンが言った。
「それは何でしょうか」
「確かグランゾンは最大で六万五千五百三十五の敵を同時に攻撃が可能だった」
「ええ」
 これは事実であった。ネオ=グランゾンの母体であるグランゾンはワームスマッシャーとグラビトロンカノンによって同時に複数の敵を攻撃することが可能なのである。それこそがグランゾンの最も大きな戦力であった。宇宙怪獣の大軍ですら退けることが可能な程であった。
「そのグランゾンより遥かに強力なネオ=グランゾンを以ってしても。一機では無理だというのか」
「ヴォルクルスというのは化け物なのかよ」
 サンシローも言った。
「何なんだよ、そもそもは」
「元々は悪霊の集合体に過ぎません」
 シュウはここで説明した。
「かってラ=ギアスにいた巨人族の。ですがそれが集合体になることにより破壊の神となってしまったのです」
「つまり怨念の集合体というわけだな」
「その通りです」
 サコンにまた答えた。
「ですから彼には破壊への衝動と願望しかありません」
「厄介なやつみたいだな」
 それを聞いたピートが呟いた。
「力は強くてそれか。一番相手にしたくない奴だな」
 リーも言う。
「だからこそ貴方達の御助力頂きたいのですよ」
「ふむ」
「まあよしとしよう」
 まだ頷けないところはあるが妥協することにした。
「では引き続き道案内を頼む」
「はい」
「そろそろだからな。では配置につくか」
「ええ。それに別の御客様も来られていますし」
「別の!?」
「まさか」
「はい、そのまさかです」
「レーダーに反応」
 ミドリが言う。
「邪魔大王国のものです」
「やはり」
「しつっこい奴等だぜ」
 サンシローがぼやく。
「まあそう言っても仕方ないですし。出ましょう」
 ブンタが言った。
「じゃあ行くか。おっと、その前に」
「どうした、ヤマガタケ」
「バゾラーにミノフスキードライブをつけておかねえとな。あれがあるのとないのとで全然違うからな」
「そうだな。バゾラーだけ飛べないのでは勝手が悪い」
 リーがそれに同意する。
「それが終わったらすぐ出撃するぜ。コンバット=フォースの力を見せてやる」
「はい」
 ブンタは今度はサンシローの言葉に頷いた。そして彼等は格納庫に向かった。 
 彼等が出撃する頃にはもう邪魔大王国の者達は展開していた。そしてロンド=ベルに対して鶴翼の陣を敷いていた。
「ククルよ」
 対するロンド=ベルは魚鱗の陣であった。一気に突破を計り戦いを終わらせようという意図は明白であった。その先頭にはゼンガーがいた。そしてククルに対して語りかけていた。
「何じゃ」
 ククルはそれに対して憎悪と敵意を露わにした目を向けていた。
「まだ諦めてはいないのか」
「諦める?何をじゃ」
 ククルは言い返した。
「わらわの戦いは邪魔大王国の再興まで終わりはせぬ」
「それが人のものではないとしてもか」
「無論。わらわとて人ではない」
「愚かな」
 それを聞いたゼンガーの言葉であった。
「そうして己を偽って何とするか」
「偽りじゃと」
「そうだ。その姿と赤い血こそが何よりの証」
 彼は言った。
「それを偽るというのか。偽って何になる」
「偽ってなぞおらぬ」
 ククルはまた言い返した。
「わらわは邪魔大王国の女王。それ以外の何者でもないわ」
「ではその国が滅べば何とするか」
「何っ!?」
 ククルはそれを聞いてその細い眉を動かした。
「御前の国はこれで終わる。その時はどうするのだ」
「戯れ言を」
 ククルはそれを否定した。
「わらわの国が滅ぶじゃと」
「そうだ」
 彼は言い切った。
「最早三幹部も死んだ。そして残った者達も今そこにいるだけだ」
「くっ」
 否定はできなかった。その通りであったからだ。邪魔大王国はヒミカの死後幾多の戦いによりその戦力を著しく喪失していたのである。これは事実であった。
「それでどうして滅びぬというのか」
「貴様等を倒せば済むこと」
 苦し紛れにこう言った。
「敵さえ滅ぼせば。復興する時間はある」
「そしてまだ諦めないというのか」
「わらわは決して諦めはせぬ」
 また言い切った。
「邪魔大王国の為に。諦めるわけにはいかぬのじゃ」
「愚かな」
 ゼンガーは剣を構えた。
「最早妄執と言ってよい」
「ほざけ!」
「その妄執俺が断ち切ってくれよう。覚悟はいいな」
「覚悟するのはうぬよ」
 ククルも身構えた。
「わらわのこの手で決着をつける。覚悟せよ」
「ゼンガーさん」
 ここでクスハとブリットが声をかけてきた。
「何だ」
「偉そうなことは言えないですけど」
「頑張って下さい」
 そして二人はこう言った。励ましの言葉であった。
「感謝する」
「周りは俺達に任せて下さい」
「うむ」
「ゼンガーさんは一騎打ちに専念していておいていいですから」
「無論そのつもり」
 その巨大な刀身が銀色に輝いた。
「行くぞ、ククル」
「その首、今日こそはヒミカ様の墓前に持って行ってやろう」
 そう言いながら舞を舞いはじめた。
「黄泉へ旅立たせてやる故な」
「ならばこの剣でそれを断ち切ってやる」
 大きく振りかざした。
「参る!」
 そして突っ込む。
「死にやれ!」
 ククルも前に出た。二人の戦いがこうしてまたはじまった。
 その周りではロンド=ベルと邪魔大王国との最後の戦いが幕を開けていた。両者は互いに死力を尽くして激戦を行っていた。
「ジークブリーカーーーーーーッ!」
 その中には鋼鉄ジーグもいた。彼は目の前にいたハニワ幻人にブリーカーを仕掛けていた。
「これで・・・・・・」
「ギャオオオオオオオッ!」
 ハニワ幻人は背骨を圧迫されていた。そして悲鳴をあげる。
「死ねええええっ!」
 それが止めの言葉になった。ハニワ幻人はジーグにより真っ二つにされてしまった。
 そして爆発して果てた。ジーグは爆発の中に立っていた。
「次だ!」
 すぐに別の敵に向かう。
「ミッチー、行くぞ!」
「ええ、宙さん」
 美和も彼の言葉に頷く。そして二人は新たな敵に向かって行くのであった。
 ロンド=ベルはその鋼鉄ジーグを中心として攻撃を仕掛けていた。その中には当然ながらネオ=グランゾンもいた。だが彼は積極的には動こうとはしなかった。フォローに回るだけであった。
「あれ、御主人様いいんですか?」
 チカもそれに気付いた。そして主にこう声をかけてきた。
「戦わなくて。大丈夫ですか?」
「ええ」
 シュウはその問いに穏やかに応えた。
「どのみちすぐに嫌でも全力で戦わなければなりません。その時のことを考えておかないと」
「そうですか」
「はい。ところでチカ」
「何でしょうか」
「彼女のことはどう思いますか?」
「彼女!?」
 チカはその言葉を聞いてまずは戸惑った。
「彼女っていいますと」
「ククルですよ」
 シュウはそんな彼女に対して言った。
「どう思われますか、貴女は」
「そうですね」
 チカはそれを受けて主に自分の考えを述べた。
「あれは駄目でしょうね」
「駄目ですか」
「彼女が人間でも。あそこまで対立してると」
「人間の世界に戻るのは不可能だと仰りたいのですね」
「その通りです。邪魔大王国と共に滅びるんじゃないですかね」
「滅びますか」
「はい。あたしはそう思いますけど。御主人様はどうですか」
「私はそうは思いませんね」
 彼はそう答えた。
「彼女もまた運命には逆らえませんよ」
「運命ですか」
「ええ。変えられたこの世界では」
 彼はここで未来で起こった出来事についても述べた。
「彼女もまた変えられている筈です。そしてそれが求めるものは」
「何なんでしょうか」
「それはおいおいわかることです」
「ちぇっ、またそれだ」
 チカはそれを聞いて呆れたように言った。
「御主人様は。いつもそうやって勿体ぶるんですから」
「ふふふ」
 その笑いは肯定の笑いであった。
「意地が悪いんですから。何でいつもそうやってギリギリまで明かさないんですか」
「シナリオというものはその時まで知らない方が楽しめるのですよ」
 シュウは謎めいた笑みを浮かべてこう言った。
「違いますか。何事も楽しくなければ」
「それはそうですけれど」
「そういうことです。ヴォルクルスもそうです」
「彼等にはまだ何も言っていないんですか」
「勿論ですよ。おそらく最後の最後になって驚くことでしょうね」
 笑みを浮かべたまま言葉を続ける。
「その時にどんな顔をするか。彼も」
「あの人もですか」
 どうやらチカにはそれが誰なのかわかっているようである。
「驚くなんてもんじゃないんじゃないですか?あの人は」
「でしょうね」
「だってまさか自分が、ねえ」
「敵を欺くにはまず味方から、です」
 そしてシュウはこの言葉を述べた。
「それですか」
「はい。だからこそ」
 妖しげな笑みを浮かべたままロンド=ベルを見ていた。それからまた言った。
「彼等にはここはお任せするとしましょう」
「わかりました」
 彼等のそうしたやりとりなぞ知る由もなくロンド=ベルの戦いは続いていた。戦いはシュウの予想通りロンド=ベルに有利なものとなっていた。
 ハニワ幻人達はその数を大きく減らしていた。そして気付けば残っているのはククルの周りにいる数機だけという状況となってしまっていた。
 その数機も瞬く間にビルバイン達によって倒されてしまった。こうして遂に邪魔大王国はククル一人となってしまったのであった。
「さて、どうするつもりだ」
 ゼンガーはここで彼女に問うた。
「これで邪魔大王国は終わった。それでもまだ戦うというのか」
「無論」
 だがククルには降伏する気はなかった。
「その為にここにいうのじゃからな」
「そうか」
 彼はそれを聞いて剣を構えた。示現流の構えであった。
「ではもう話すことはない。覚悟はよいな」
「わらわがいる限り邪魔大王国は滅びはせぬ」
「さて、それはどうでしょうか」
「何!?」
 声がした方に顔を向けた。
「もう邪魔大王国はなくなってしまったと思いますが」
 声の主はシュウであった。彼はこうククルに語っていたのである。
「どういうことじゃ、それは」
「それは他ならない貴女御自身が最もよくおわかりの筈ですが」
「くっ」
「貴女は彼等の女王ではありましたが彼等ではありませんでしたからね」
「その通りだ」
 ゼンガーもその言葉に頷いた。
「ククル、もうわかっている筈だ。邪魔大王国は完全に滅んだ」
「まだそのようなことを」
 目を吊り上らせてそれを否定しようとする。
「わらわがいる限りまだ」
「最早民もいないというのにか」
 ゼンガーはここでまた言った。
「民を持たぬ王は王ではない。違うか」
「クッ・・・・・・」
「それを認めよ。最早勝負はあったのだ」
「じゃが貴様との勝負は」
「その状況でまだ戦うというのか」
「何っ!?」
 ククルはその言葉に動きを止めた。
「周りには敵しかいないというのに。俺に勝ったとしてどうするか」
「貴様の首こそが我が望み」
 それでも彼女は諦めようとはしない。
「そのようなことは関係ないわ!」
「そうか」
 ゼンガーはそれを聞くと剣を一閃させた。
「ならb。これで文句はないな」
「なっ・・・・・・」
 ククルは絶句した。今の剣によりマガルガが動かなくなってしまったからだ。
「これは一体」
「貴様のことは全て見切った。マシンのこともな」
「マガルガのことも」
「そうだ。その動力源を切った」
 彼は言う。
「最早攻撃態勢に入ることはできん。少なくとも一時間はな」
「ではわらわは」
「これでわかっただろう。ククル、貴様は俺に敗れたのだ」
「グウ・・・・・・」
 流石に言葉が出なかった。
「どうするのだ、それで」
「少なくとも貴様に屈するつもりはない」
 しかしそれでもこう言った。
「屈する位ならば・・・・・・死ぬ」
「そうか」
 ゼンガーはそれを聞いて静かに頷いた。
「では死ぬがいい。一人では」
「そうしてくれる」
 自爆スイッチを押そうとする。しかしシュウがここで彼女に声をかけた。
「お待ちなさい」
「止めるつもりか」
「ええ。少なくとも今ここで死ぬのはどうかと思いまして」
「何!?」
「貴女は女王でしたね。では女王として相応しい死に場所があるのではないですか」
「女王として」
「ええ」
 シュウは頷いた。
「そこが何処か、貴女はわかっている筈です」
「・・・・・・わかった」
 そしてククルもそれに頷いた。
「シュウ=シラカワだったか」
「はい」
「このことは礼を言う。わらわとて己が骸を敵の前に晒すことは本意ではない」
 そしてこう述べた。
「そうさせてもらおう。さらばじゃ」
「おい」
 ここでトッドが言った。
「行かせていいのかよ」
「構いませんよ」
 しかしシュウはそれをよしとした。
「もう邪魔大王国は崩壊しましたし。彼女一人ではどのみち大した意味もないでしょう」
「それはそうだけどよ」
「それに」
「それに?」
「いえ、何もありません」
 だがここでははぐらかした。
「どのみちこの話は終わりです。ではまた行きますか」
「今一つ腑に落ちねえがまあいいか」
「行くか」
「うむ」
 こうしてロンド=ベルは再び北に向かうこととなった。だがここでチカがまた主に問うてきた。
「御主人様」
「何でしょうか」
「あのまま行かせてよかったんですか。自決しないかも知れないんですよ」
「おそらく彼女はしないでしょうね」
 そしてシュウの返答は意外なものであった。
「じゃあ何故ですか。行かせたら後々厄介ですよ」
「いえ、それが厄介ではないのですよ」
 シュウは穏やかな笑みを浮かべてこう言った。
「一人なのは事実ですし。それに」
「それに?」
「これもまた運命ということですよ。彼女自身のね」
「また運命ですか」
「ええ。全てはそれです」
 彼は言葉を続けた。
「ネオ=グランゾンが私におしえてくれるのですよ。あらゆることをね」
「これってそんなに凄いマシンだったんですか」
「色々と技術を入れていますから。最早私と一心同体です」
「それじゃああたしとも同じってわけですか」
「そうなりますね」
「ふうん、何か妙な気分ですね」
 そんなことを言いながらコクピットの周りを歩きはじめた。
「これがあたしと一緒だなんて。やいあたし」
 ネオ=グランゾンに対して言う。
「御主人様を御守りするんだよ。さもないとあたしまで死んじまうんだからね」
「結局はそれですか」
「結局も何もあたしは御主人様のファミリアですよ。当然じゃないですか」
 今度はシュウに顔を向けて言う。
「御主人様が死んだらあたしまで消えてしまうんですから。おっかないたらありゃしないですよ」
「ふふふ」
「いや、笑い事じゃなくてですね」
「貴女がそこまで心配してくれているとはね。嬉しいですね」
「勿論ですよ」
 また言う。
「あたしは御主人様なんですから。無意識の産物ですよ」
「では今度の戦いではちょっと頑張ってもらいましょうか」
「!?」
 チカは主のその言葉に首を傾げさせた。
「ハイ=ファミリアとしてね。いいでしょうか」
「あれですか」
 それを聞いて嫌そうな顔をした。
「あの猫や犬達がやっている」
「テュッティのあれは犬ではないですよ」
「どのみち同じですよ。あの中に入るんですか」
「別に痛くも何ともないですよ」
「けれど。何かねえ」
「クロやシロと一緒になるのが嫌だとか」
「まあそれです。あたしは猫が大嫌いなんですよ。何かっていうとあたしを餌扱いしますし」
「ファミリアが食べられることはありませんよ。私が死なない限り死ぬこともないですし」
「それでもですよ。全く、あの二匹には何時か思い知らせてやりますよ」
「はいはい」
「はいはいじゃなくてですね。御主人様も気をつけて下さいよ」
「何がですか?」
「猫にですよ。あれは悪魔の生物なんですからね」
「赤木博士は御好きですが」
「あの人は変人なんですよ。顔はいいけれど」
「そうだったのですか」
「そもそも何であんな髭だらけで無愛想で陰険な親父がタイプなんですか。どう見たっておかしいでしょう」
「それは碇博士のことですか」
「勿論ですよ。何であんなのからあんな頼りないのが出て来たのか。不思議で仕方ないですよ」
「そうですか」
「ええ、そうですよ」
 チカは言った。
「あんなナヨナヨしてグジグジしたのなんか。あたしああいうのを見ていたらイライラしてくるんですよ」
「ところでチカ」
「何ですか?」
「貴女通信のスイッチを入れていますよ」
「ええっ!?」
 その言葉に驚いた。そして実際にスイッチを見る。見ればその通りであった。
「何時からですか、これ」
「今さっきですよ」
 シュウは答えた。
「赤木博士のお話が出た時から」
「うわ、じゃあ聞かれたかなあ」
「まずいのではないですか」
「まあその時はその時です」
 意外にも取り乱してはいなかった。
「あの狂犬女でも出て来ない限りは」
「呼んだ!?」
「おや」
 シュウがその声を聞いて自身も声をあげた。
「聞いておられたみたいですよ」
「そこのチビ!あたしに何か用!?」
 アスカは通信からであるがそれでもチカに突っかかってきた。
「聞いていないと思ったら大間違いだからね!誰が狂犬だって!?」
「ああ、五月蝿い」
「五月蝿いのはあんたの方よ!あたしにそこまで言って無事で済むなんて思っちゃいないでしょうね!」
「そんなのあたしの知ったことじゃないよ」
「何ですってええ!」
 さらに激昂してきた。
「大人しくしてりゃ!そこにいなさい!今すぐ行ってあげるから!」
「アスカ、そんなの無理だって」
 シンジの声も聞こえてきた。
「今収納されてすぐなんて。無理だよ」
「まだスーツは着てるわよ」
「いや、そういう問題じゃなくてさ。エヴァも休息が必要だし」
「それじゃあたし一人でも行ってやるわよ!ミスター、ブルーガー貸して!」
「ミスターは宇宙だし」
「それじゃあバルキリーよ!」
「バルキリーも全部出てるって。だから無理なんだよ」
「無理なんて知らないわよ!」
 理不尽さが増していく。
「あたしにそんな言葉効果がないんだからね!」
「ああ、やかましい」
 チカはここで通信を切った。
「やれやれですよ。全くロンド=ベルにはああしたのが多くて困ります」
「彼女、本当に来るかも知れないですよ」
「まさか。今頃エヴァチーム全員で止めていると思いますよ」
「まあそうでしょうね」
「ですから気にしないでいいです。それより御主人様」
「何でしょうか」
「本当にいいんですね」
「ヴォルクルスのことですか」
「あれを出すとなると。失敗した時は」
「ですから彼等にも協力をお願いしたのですよ」
 シュウの顔が引き締まる。
「是非共、とね。失敗は許されませんから」
「ええ」
「ですから貴女にもお願いがあるのですよ。わかりましたね」
「お任せ下さい」
 その羽根で胸を叩いた。
「こなったら例え火の中水の中ですよ」
 そして言う。
「御主人様、何処までも一緒ですよ」
「期待していますよ」
「はい」
 そして遂にヴォルクルスが眠る山が見えてきた。彼等のラ=ギアスでの戦いも遂にその最後を迎えようとしていたのであった。

 邪魔大王国は滅んだ。だがククルは生き残っていた。彼女は一人南に落ちていた。
「これで邪魔大王国も最期か」
 彼女は空しく空を飛びながら呟いた。
「わらわの代で。そしてあの男も倒すことが適わなかった」
 それが何よりも無念であった。
「このまま。死ぬしかない。それがわらわの責じゃ」
 南に落ちそのまま地下に戻るつもりだった。そこで自決するつもりだった。そして彼女は実際に地下に戻った。そして誰もいない地下宮殿を進んでいた。そして己が玉座へ向かっていた。
「誰もおらぬな。当然か」
 ククルは気配一つしない宮殿を見回してまた呟いた。
「あの時の最後の出撃で。皆出たのじゃからのう」
 その結果があれであった。邪魔大王国はまさに彼女しか残っていなかったのだ。だがそれでも彼女は先へ進んでいた。自分で自分を決する為に。
 だがここでふと立ち止まった。何かの気配を感じたからだ。
「!?」
 そして咄嗟に身を隠した。そこにはミケーネの者達がいた。
「ようやく甦ったな」
「うむ」
 だがそこにいたのは見たこともない者達であった。背丈は彼女とそれ程変わりはなかった。しかも明らかに他のミケーネの者とは姿形が違っていた。
 一方は首を脇に抱えた男であった。軍服を着ている。恐ろしげな顔であった。
 そしてもう一人はさらに異形の姿であった。右半分が男であり左半分が女であった。そしてその声も男と女の両方のものであった。
「我等が復活できたのも。地獄大元帥のおかげじゃ」
「そうじゃな。だがそれだけではないぞ。それはわかっておるな」
「無論」
 男の声と女の声両方で答えが返る。
「全ては闇の帝王のおかげ。だがそれが適ったのは」
「ここにいる者達が生け贄となってくれたせいだな」
「その通りだ」
「わらわ達のことか」
 ククルはそれが他ならぬ自分達のことを言っているのだとわかった。
「邪魔大王国。利用されていたとも知らず」
「その滅んだ時の命を闇の帝王復活へのエネルギーにされていたとはな。まさか夢にも思うまいて」
「おのれ、そうだったのか」
 怒りに歯軋りする。しかし今は出るわけにはいかなかった。話はまだ続いていたからだ。
「これで邪魔大王国は充分役に立ったわけじゃ」
「後は我等でやるとするか。地上征服とな」
「その為に我等も復活させてもらえたのだしな」
「そういうことじゃな。じゃがブロッケン伯爵よ」
「何だ、アシュラ男爵」
 二人は互いにその名を呼び合った。
「遅れはとらぬからな」
「フン、そちらこそ用心しておくがいい」
 二人は早速いがみ合いに入った。しかしククルはもうそれを聞いてはいなかった。何処かへと姿を消してしまっていた。
 邪魔大王国は滅んだ。だがククルは生きていた。それがどういったことをもたらすのか。この時はまだ誰もわかってはいなかった。


第五十八話   完


                                 2005・12・4