燃える地球
 ロンド=ベルは遂に地球圏に降下しようとするネオ=ジオン本軍にまであと僅かという距離にまで迫っていた。彼等はすぐに戦闘態勢に入った。
「全機出撃用意」
 ブライトの指示が下る。
「すぐに敵にあたるぞ」
「はい」
 皆それに頷く。
「まずは戦艦を重点的に狙え。戦艦を沈めればそれだけ降下する戦力が減る」
「わかりました」
「特に大気圏突入可能な機体は前に出ろ」
「僕達ですね」
 カミーユがそれに応える。
「そうだ。そして」
「あたしよね」
 ルーも出て来た。
「そうだ。わかってるな」
「はい」
「まあ任せておいて。けれど単独行動は駄目なのよね」
「後で何処に降下するかわからないからな。小隊ごとの行動は守ってくれ」
「わかりました」
「了解。そういえばうちも結構大気圏突入できる機体が多いわよね」
「ここにはいないけれどセレーナさんもゼータだしな」
 ビーチャが言った。
「後はザンボットもそうだったんじゃないの?」
「あれっ、そうだったのか」
 勝平はエルの言葉にキョトンとした。
「ザンボットって大気圏も突入できたのかよ」
「馬鹿、何で知らねえんだよ」
 宇宙太がそんな彼に対して言う。
「だから地球まで来れたんだろうが」
「けどあれはキングビアルの中にいたからじゃねえのか」
「まあそうかも知れないけどな」
 宇宙太も一旦は勝平の言葉に頷いた。だがそれでも言った。
「それでもちゃんと睡眠学習で習っただろうが」
「大気圏突入能力をかい?」
「そうだよ。ちゃんと覚えておけ」
「あんたがしっかりしないと駄目なんだからね」
 恵子も言った。
「頼むわよ、もう」
「悪い悪い」
「まあ突入したらかなりザンボットが傷むんだけれどな」
「それじゃあまともに戦うのは無理か」
 モンドがそれを聞いて呟く。
「まあ仕方ないね。ゼータとかが特別なんだから」
 イーノも言う。
「やっぱりザンボットも普通にやらなくちゃ駄目か。結構大気圏の戦いって難しいんだな」
「ジュドー、君のダブルゼータは大気圏は無理だったな」
「ええ、まあ」
 彼はカミーユの言葉に応えた。
「それは流石に。その点ではゼータには負けますね」
「そうか」
「キュベレイでも駄目かなあ」
「馬鹿、死にたいのか」
 プルツーが能天気に言うプルを窘める。
「そんなことをしたら大変なことになるぞ」
「そっかあ」
「無理はするな。いいな」
「うん」
「ドラグナーやバルキリーも無理だな」
 ブライトは話を続けた。
「エステバリスも。ライディーンやダンクーガもだ」
「何かあまりないですね、本当に」
 ケーラが言った。
「仕方無いと言えば仕方無いですけどね」
「だがいざという時これでは心もとないな」
 ブライトの言葉は続いた。
「グレンダイザーはいけるのですけれどね」
「残念だがあれは今ラ=ギアスにいるしな」
「失礼、そうでした」
 ケーラは自分の言葉を引っ込めた。
「後は・・・・・・ゴッドマーズですか」
 エマがふと呟く。
「ゴッドマーズだといけるのではないでしょうか」
「そうだな」
 ブライトはまず頷いた。
「タケル、そこはどうだ」
「いけることはいけますけれど途中の操縦はかなり落ちると思いますよ」
「どういうことだ、それは」
「ゴッドマーズが地球に降りた時も本当は何処に降りるかわかりませんでしたし。六神もバラバラでしたから」
「そうか」
「それじゃあゴッドマーズも無理ですね」
「すいません」
「いや、謝ることはない」
 ブライトは申し訳なさそうな顔をするタケルを宥めた。
「仕方のないことだからな」
「はい」
「大気圏でも自由に動けるマシンは流石にないか」
「ゼータだけでは不安ですね」
「それならあたしのがあるよ」
「アイビス」
 アイビスとツグミがそこにやって来た。
「アルテリオンは元々宇宙飛行用だからね。単独で大気圏突入も可能なんだ」
「宇宙に出ることもできます」
 ツグミがここで一言付け加えた。
「そうだったのか」
「そうだったのかって言わなかったかな」
「いえ、初耳よ」
 フォウが言う。
「言ったかも知れないけれど皆忘れていたかも」
「やれやれだね」
 アイビスはそれを聞いて苦笑いを浮かべた。
「まあ実際に使う機会もなかったから仕方ないか」
「そういえばそうだな」
「それは置いておいてね。そういうわけだから大気圏でも自由に戦かえるよ」
「そうか」
「だからいざという時は任せて。後ろは引き受けるから」
「よし」
「ただ、一機だけだと貴女達に負担がかからないかしら」
 エマがふと言った。
「何、そんなの気にしないよ。アルテリオンだからね」
「そういう問題じゃないわ。大気圏で何かあったら本当に命がないわよ」
「命なんて。戦争してれば何時死ぬかわかったもんじゃないし」
「そういう問題じゃないの」
 エマの声が強くなった。
「無駄死にはよくないわ。いいわね」
「けれど実際に大気圏で満足に戦えるのはアルテリオンなんだろ?」
「それはそうだけれど」
「だからどのみちいざって時はやるから。任せてよ」
「一機だけじゃないですよ、アイビスさん」
 アラドが言った。
「あら」
「ゼオラも」
「俺達のビルトビルガー、ビルトファルケンも大気圏で戦えますよ」
「そして突入もできます。安心して下さい」
「そうだったの」
「はい。何せ特別製ですから」
「私達もいますから。アイビスさんもツグミさんも安心して下さい」
「いいね、じゃあお願いしようかな」
 アイビスはそれを聞いて頬笑みを浮かべた。
「今回は同じ小隊でいこうか」
「はい」
「宜しくお願いします」
「それじゃあ私とレーツェルはイルム、リンと組むわね」
「ええ」
「申し訳ないですけれどお願いします」
「いいのよ。年寄りは年寄りで固まりたい時があるし」
「おいおい、私も年寄りか」
 レーツェルはそれを聞いて苦笑した。
「全く。好き勝手言ってくれる」
「男は歳をとると渋みが加わるからいいのじゃなくて」
「知らない言葉だね。女は歳をとると磨きがかかるとは聞いているけれど」
「言ってくれるわね」
「それはお互い様」
 二人はそう言い合いながら笑みを浮かべる。だがそれで話はまとまった。
「それじゃあ行きますか」
 ジュンコが言った。
「敵もスタンバっていうことだろうしね」
「そうでしょうね、彼等のことだから」
 マーベットも言う。
「いつものこと。気にしないでいきましょ」
「けど迂闊に前には出ないで下さいね、ジュンコさん」
「こら、それは子供の言うことじゃないわよ」
 そう言ってウッソに返す。
「大人が子供に言うことよ。覚えておきなさい」
「はい」
「そこで納得するからウッソなんだよな」
「オデロはもうちょっと素直にね」
「はいはい」
 マーベットの突っ込みに返す。
「何か俺の場合は子ども扱いなんだよな」
「実際子供じゃない」
「それはそうだけれど」
「では総員出撃」
 ブライトが命令を下す。
「攻撃目標はネオ=ジオン。だが作戦行動時間は八分とする。それを過ぎれば我々も降下する」
「地球にですね」
「そうだ。目標はダカール。いいな」
「了解。それでは」
「よし。作戦開始!」
「はい!」
 こうして総員出撃した。その前にはもうネオ=ジオンの艦隊がいた。既に降下態勢に入っていた。
「クッ、もう降下態勢に入っていたか」
「ようこそ、ロンド=ベルの諸君」
 モニターにハマーンが姿を現わす。
「ハマーン」
「よく来てくれたと言いたいが少し遅かったようだな」
「クッ」
「既に我が軍の殆どは降下態勢に入っている。出迎えに来てくれたのなら話は別だ」
「ハマーン、そんなことを言っていられるのも今のうちだぜ」
 ジュドーが叫ぶ。
「どっちにしろ地球で御前等を倒してやるからな。覚悟しな」
「ジュドーか」
 ハマーンは彼を見据えた。
「相変わらず元気なことだ。だが今ここで私を倒すことはできぬぞ」
「チッ!」
「会うのは地球でだ。その時を楽しみにしている」
「待てハマーン」
 今度はクワトロが言った。
「・・・・・・シャアか」
 彼の姿を見て顔色が変わった。急に険を深めた。
「またしても私の前に姿を現わしたというのか」
「地球がそれ程恋しいというのか」
「戯れ言を」
 そうは言いながらも顔には嫌悪感が如実に現われていた。
「全てはジオンの大義の為。ミネバ様の為だ」
「それがミネバの為だというのか」
「そうだ。ミネバ様はジオンの唯一の正統な後継者なのだからな。そのミネバ様がジオンの大義を果たされる。素晴らしいことだと思わないか」
「それがミネバ=ザビが望んでいないのはわかるがな」
 クワトロはそう言い返した。
「ミネバはただジオンの呪縛に捉われているだけだ。それがわからないのか」
「貴様とそれについて話すつもりはない」
 ハマーンはこの話を打ち切った。
「話は終わりだ。ではな、シャア」
 そう言い残してグワダンに指示を下す。
「行くぞ、まずはこのグワダンからだ」
「ハッ」
 それに従いグワダンが降下に入った。
「ダカールで待っているぞ、シャアよ」
「くっ」
 歯噛みしたところでどうにもならなかった。こうしてハマーンはミネバと共に地球に降下したのであった。
「ハマーン様に続け!」
 マシュマーが叫んだ。彼はザクV改に乗っていた。
「地球に辿り着きジオンの大義を知らしめるのだ。よいな!」
「了解しました。ところでマシュマー様」
「何だ、ゴットン」
「そろそろ艦に帰った方がいいんじゃないですか?」
「構わん」
 だがマシュマーはゴットンの言葉に従おうとはしなかった。
「まだいい」
「いいって。あと数分しかありませんよ」
「数分あればロンド=ベルを数機撃墜できる!」
「そんなこと言って一度も勝ったことないじゃないか」
「?何か言ったか?」
「いえ、何も」
「ではいい。ゴットン、御前はそこで私の活躍を見ていろ」
「いや、最初からそうするつもりですけれど」
「仕方のない奴だ。だがいい」
 そして隣にいるグレミーに顔を向けた。彼は赤いバウに乗っていた。
「グレミー」
「はい」
「行くぞ。騎士道を奴等に知らしめるのだ」
「はい」
「待ちな、マシュマー」
 後ろにいるゲーマルクから女の声がした。
「キャラ=スーンか」
「あたしもいるよ。一緒にやるんだろ」
「戦いに女性を巻き込むのは好きではないが」
「何言ってるんだよ、長い付き合いじゃないか」
「ううむ」
「あたしも暴れさせてもらうよ。イリアもそれでいいね」
「私はいいが」
 彼女はリゲルグに乗っていた。かってのゲルググに似たモビルスーツであった。
「じゃあ決まりだよ。地球にキスする前にいっちょ派手にやるよ」
「派手にか」
「ラカンの旦那もいるしね。あれ、旦那は」
「もう地球に行っちゃいましたよ」
「何だい、つれないねえ」
 ゴットンの言葉を聞いて仕方なさそうに言う。
「まあいいさ。それじゃあ遊ぶとするかい」
「戦いは遊びではない!」
 マシュマーはそれに反論する。
「美しき華の場だ!そんな軽い考えでどうする!」
「いや、マシュマー様もえらい勘違いしてるけど」
「さっきから何だ、ゴットン」
「いえ、別に」
「全く。御前といいキャラといいだな」
 急に説教をはじめた。なおここは戦場である。
「そんなことで。そもそもハマーン様は」
「なあマシュマーさんよお」
「誰だ、軽々しく」
 顔を向ければそこにはガンダムチームがいた。当然その先頭はダブルゼータであった。
「ヌッ、何時の間に!?」
「いや、さっきから」
「あんた達がおしゃべりしている間に来ちゃったのよ」
 ルーもいる。見れば戦闘は既にはじまろうとしていた。
「ヌウウ、卑怯な」
「それはちょっと違うと思うなあ」
 モンドがそれを聞いてぼやく。
「そっちが勝手におしゃべりしてただけだし」
「通信聞いていて信じられなかったよ」
 イーノもモンドに続く。
「まあおかげで俺達楽にここまで来れたけれど」
「何か相変わらずだね、この人」
 ビーチャとエルも言った。やはりマシュマーはマシュマーであった。
「おのれ、名乗りもせずに」
「名乗りって?」
「やあやあ我こそはってやつだよ。ほら、万丈さんがいつもやってるだろ」
 プルツーがプルに説明する。
「ああ、あれ」
「そうさ。この日輪の輝きを怖れぬのならかかって来い!ってあれさ」
「あれ格好いいよな」
「モビルスーツには似合わないけれどな」
「けどドモンさん達ならやりそうだよ」
「まああの人達は少し違うから」
「元気にしてるかな」
「殺したって死なない人達だし。大丈夫だろ」
「そだね」
「ええい、無駄話はいい!」
「ってあんたがやってたじゃん」
 マシュマーにジュドーの突込みが入る。
「くうっ」
「で、どうするんだよ。やるのかい?」
「無論」
 マシュマーは答えた。
「さあ来るがいい。容赦はするな」
「最初ッからそんなつもりはねえけどよ」
「ハマーン様の為、ジオンの栄光の為」
「何かガトーさんと微妙に違うね」
「そもそもがシリアスじゃないからな」
「ええい、外野は黙っていろ!」
 名乗りの途中でプルとプルツーに叫ぶ。
「マシュマー=セロ、参る!」
「で、あたしも行くよ!」
「ゲッ、キャラまでいるのかよ」
「あたしがいなくちゃネオ=ジオンになんないでしょ」
「そうだったかな」
「そういうことさ。それじゃあ派手に暴れてやろうかね!」
 そう言いながらガンダムチームに向かって来た。彼女にはビーチャとモンド、そしてイーノが向かった。
「おっと、俺達が相手だぜ!」
「何で俺達なんだよ!」
「何か運が悪いなあ」
 調子づくビーチャに対してモンドとイーノは不満げであった。しかしそれでも巧みな連携でキャラのゲーマルクの前に展開していた。
「そして私の相手は御前達か」
 イリアの前にはプルとプルツーがいた。
「因果なものだな。かっては味方だったのに」
「今じゃジュドーの側にいられるもん」
「まあそういうことだ」
「そうか。それで満足してるのだな」
「毎日お風呂入られるし」
「いつも二人一緒だしな」
「よし、わかった」
 イリアはその言葉に頷いた。
「では遠慮なくいく。覚悟はいいな」
 こうして三組の戦いがはじまった。そしてもう一組の戦いもはじまっていた。
「ルー=ルカ。またこうして会うとは」
「因果なものね」
 ルーはグレミーと対峙していた。その隣にはエルがいる。
「貴女とは戦いたくはないが」
「けれどそうも言ってはいられないでしょう」
「確かに」
 グレミーもそれに頷くしかなかった。
「では」
「いらっしゃい。相手をしてあげるわ」
「参る!」
「ルー、サポートは任せて!」
「お願いね!」
 こうしてルーとエル、そしてグレミーの戦いもはじまった。その時には両軍の戦いもまた本格的なものとなっていた。
「時間を忘れるな!」
 戦いの中ブライトは全軍に対して言った。
「八分だ!それ以上は待てんぞ!」
「了解!」
 皆それに頷く。
「それまで派手にやってやるぜ!」
「忍、熱くなって忘れないようにね」
「わかってらあ!」
 いつものように沙羅に返しながら攻撃をエンドラに仕掛けた。
「喰らえ、断空砲フォーメーションだ!」
 巨大な白い光を一隻の戦艦に向けて放つ。そしてその腹に直撃させた。
「よし!」
 それだけでエンドラは沈んだ。多くの脱出船を出した後で炎の中に消えた。
「この調子でどんどん沈めていくぜ!」
「何か忍調子がいいね」
「当たり前だ!かえって制限があると暴れたくなるんだよ!」
 雅人にそう返す。
「だが時間は守るようにな」
 だがそこで亮の忠告が入った。
「さもないと大気圏に突入することになる」
「ヘッ、その時はそれさ」
「おい、何を言っている」
 それを聞いてアランが声をかけてきた。
「そんなことをしてはダンクーガがもたないぞ」
「わかってるって。冗談だよ」
「そうは聞こえなかったが」
「さもないとまた葉月博士にどやされるしな。ここは慎重に行くぜ」
「だが戦いは大胆に、だな」
「その通りだ。アラン、用意はいいな!」
「うむ!」
 アランもダンクーガに動きを合わせてきた。
「まとめて沈めてやるぜ。雑魚もな!」
 次々と断空砲を放ってきた。そしてそれでエンドラを沈めていくのであった。
 そうこうしている間に数分経った。ブライトは自分の腕の時計を見た。
「あと僅かか」
「結構降下されてしまいましたね」
 トーレスが言った。見れば撃沈されている戦艦も多いがそれ以上に降下に成功した艦も多かった。
「六割程、ですかね」
「それでも上出来と言うべきか」
 ブライトはそれを受けて呟いた。
「地上での戦いはそれなりに辛いものになりそうだがな」
「まあそうですね」
 トーレスはそれに頷いた。
「けれど今は少しでも多くの敵を倒すことに専念しましょう」
「うむ」
「そろそろラー=カイラムの主砲の射程ですしね」
「よし。主砲発射用意!」
 それを受けたブライトの指示が下る。
「一斉発射。てーーーーーーーーーっ!」
 そして主砲が火を噴いた。これによりまた一隻の戦艦が撃沈された。
「やるな、ブライト艦長も」
 クワトロはそれを見て呟いた。
「では我々も頑張るとしよう。クェス」
「はい」
「右にいる敵に回ってくれ。いいな」
「えっ、大尉は」
「私はいい。一人でも大丈夫だ」
「そうなのですか」
「伊達に赤い彗星と呼ばれたわけではないさ」
 そう言いながら攻撃態勢に入る。
「ファンネル、オールレンジ攻撃!」
 そしてそのファンネルで小隊を一個消し飛ばしてしまった。
「こういうことだ。安心してくれ」
「わかりました。それなら」
「うむ。頼むぞ」
「行け、ファンネル達!」
 クェスは動きながらヤクト=ドーガのファンネルを放った。そしてそれで敵を撃墜していた。
「どうやら彼女も戦いに慣れてきたようだな」
 クワトロはそれを見て呟く。
「それがいいことかどうかまではわからないが。ララァ」
 ふとその名を口にした。
「君はどう思うかな」
 かっての女性のことを思いながら戦いに入る。そして荒れ狂う戦場で攻撃を続けていた。
 さらに時間が経った。ブライトは言った。
「よし、時間だ!」
 指示を続ける。
「全機撤収!降下に入るぞ!」
「了解!」
 殆どの者がそれに従い戦艦に帰って行く。だがガンダムチームはまだ戦場にいた。
「チッ、もう時間かよ!」
「ジュドー、戻るわよ!」
 ルーが言う。既に彼女達は闘いを切り上げ撤収にかかっていた。
「えっ、けどよ」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!死にたいの!」
「マシュマー様も!」
 ゴットンも主に声をかけていた。
「このままだと無駄死にですよ!」
「私が無駄死にするというのか!」
「ステーキになりたいんですか!早く戻って下さい!」
「くっ・・・・・・。ジュドーよ!」
 彼は無念の声で以ってジュドーに声をかけた。
「この勝負、預ける!ダカールで会おうぞ!」
「ほら、マシュマーもそう言ってるし」
「仕方ねえなあ。じゃあ戻るか」
「そういうこと」
「じゃあな、マシュマーさんよお」
「うむ。ダカールで決着をつける!」
 こうして両者は別れた。そしてそれぞれの艦に戻った。
 ネオ=ジオンの艦隊が全艦降下に入った。そしてロンド=ベルの四隻の戦艦もまた降下に入った。
「皆いるな」
「はい」
 ジャクリーヌはシナプスの問いに応えた。
「全機収納しました。これで降下に入られます」
「うむ。それでは降下を開始する」
「了解」
 こうして四隻の戦艦は降下態勢に入った。だがその時だった。
「後方に敵機」
「何、こんな時にか」
「お約束ってやつだな」
 神宮寺がそれを聞いて言った。
「毎度毎度のことだが。いい加減慣れたな」
「ミスター、そんなこと言っていていいのかよ」
 洸がそんな彼に対して言う。
「まあ待て。何もこのままにしておくってわけじゃない」
「けれどミスター」
 今度はマリが言った。
「ブルーガーはもう出れないわよ」
「それにブルーガーでは大気圏突入は」
「バーニアを付けていなかったのか?」
 麗が応えてきたので返した。
「はい。残念ながら」
「しまったな。出るつもりだったのだが」
「どうする?ライディーンも大気圏は無理だ」
「カミーユにでも頼むか」
「いや、あたしが行くよ」
「アイビス」
 アイビスが出て来た。
「行っただろ。アルテリオンは大気圏でも戦えるって。こんな時の為にもうスタンバッてたんだ」
「そうだったのか」
「私も行きます」
「あんたもか」
 ツグミも出て来ていた。
「じゃあここは二人に任せるか」
「ああ、頼むよ」
 アイビスはにこりと笑って応えた。
「殿軍を引き受けるのはこの上ない名誉ってのは日本の言葉だったっけ」
「ああ」
 洸が頷く。
「よくそう言うな」
「じゃあその名誉引き受けさせてもらうよ。ダカールだったね」
「そうだ、ダカールだ」
 神宮寺が答えた。
「行けるな」
「帰ったら上等のワインを御馳走してくれたらね。それじゃあ」
「おいおい、俺達はワインは飲まないぞ」
「あれ、そうだったのか」
「まだ未成年だからな」
「他のコープランダー隊はともかくミスターはそうは見なかったけれど」
「ははは、生憎老けていてな」
 神宮寺は笑って応えた。
「これでも十代なんだよ」
「そうだったのか」
「まあお茶かコーヒーでいいかな」
「何か急に安くなったね」
「とびきりの玉露を用意しておくから。それで勘弁してくれ」
「わかった。それでいいよ」
「それじゃあ頼む」
「ああ」
 こうしてアイビスが出撃した。神宮寺はそれを眺めながら呟いた。
「頼むぞ」
「ミスター、そろそろ降下です」
「何かに捉まるかベルトを」
「そうだったな」
 麗とマリに言われてすぐに降下準備に入る。
「では行くか、ダカールに」
「はい」
 既にロンド=ベルも後戻りできないところまできていた。そしてアルテリオンが一機そこに残った。
「頼めるか、アイビス」
 ブライトも彼女に声をかけた。
「ああ、大丈夫さ」
「敵は一機ですし」
 ツグミもそれに応える。
「後ろは任せてダカールに行ってくれ」
「すぐに私達も追いつきますから」
「そうか。では頼むぞ」
「はい」
 こうして四隻の戦艦が降下した。残ったのはアルテリオン一機となった。
「さて、と」
 アイビスは一機になったのを確かめてからツグミに顔を向けてきた。
「わかってるね、ツグミ」
「ええ」
 ツグミもそれに頷いた。
「スレイ、あんただろ」
 おもむろに通信を入れて問う。
「来ているのは。違うかい?」
「わかっていたか」
 ベガリオンが姿を現わした。そしてアイビスとツグミの前にやって来る。
「私だということに」
「ああ、わかるさ」
 アイビスは穏やかな笑みを浮かべてこう言った。
「来るのはね。じゃあはじめようか」
「うむ」
 スレイも頷く。
「決着を着けるのをね」
「こちらこそ。容赦はしないぞ」
「覚悟はできているさ。けれど勝つのはあたしさ」
「戯れ言を。このベガリオンが負けるというのか」
「少なくとも勝てはしないわ」
「何っ」
 ツグミの声にキッとする。
「それはどういうことだ」
「すぐに勝てるわ。貴女はあることに気付いていないから」
「ツグミ、御前もまた私を侮辱するというのか」
「侮辱じゃないわ。けれど」
 ツグミの顔が悲しそうなものになった。
「貴女は。何もわかっていないから」
「フン、では教えてみせよ」
 そう言いながらベガリオンを右に動かした。
「私に。その身を以ってな」
「ああ、いいさ」
 アイビスが応える。
「スレイ、あんたを倒す」
 その目が燃えていた。赤い瞳がルビーのようになっていた。
「いいね」
「私はずっと御前に嫉妬していた」
 スレイはふとこう漏らした。
「何だって」
「どういうことなの」
 それを聞いたアイビスとツグミの顔が一変する。
「嫉妬・・・・・・あんたがあたしに」
「そうだ」
 もう隠すこともなかったのだろう。スレイは素直に述べた。
「プロジェクトTDにいた頃から私は兄様の喜ぶ顔が見たかった。銀河を飛ぶことは私にとって兄様の夢を適えることだった。そして私はプロジェクトのナンバー01になった」
「そうだったのか」
「只それだけのことだった。兄様の笑顔が見たいだけに」
「そして共にネオ=ジオンに移ったんだね」
「そうだ。だがアルテリオンは御前に渡り銀河を飛ぶのは御前がやっていた。私は・・・・・・只の戦士になっていた」
「それは貴女の望みではなかったのね」
「そういうことになる」
 スレイは言葉を続けた。
「兄様の夢を取られたような気がしてな。兄様は何も仰られなかったが」
「けれどそのフィリオも今は」
「そう、ネオ=ジオンを出られた。知っていたか」
「聞いてはいたわ。本当のことだったのね」
「ああ」
 スレイは頷いた。
「兄様の心遣いだったのだろう。私に対する」
「そうよ」
 ツグミはまた言った。
「貴女を自分の呪縛から解放する為に。フィリオはあえてネオ=ジオンを離れたのよ」
「研究する為の費用や施設も捨ててか」
「費用も施設も関係なかったのよ」
「そうだったのか」
「フィリオの夢はもう動いているのだから」
「動いて」
「それは貴女が嫉妬したアイビスと・・・・・・そして」
 ツグミはさらに言った。
「貴女がいるから。だからフィリオは」
「そうか。そうだったな」
 申し訳なさそうに俯く。
「そんなことに気付かなかった私は・・・・・・。愚かな妹だ」
「それでネオ=ジオンを離れたんだね」
「もうあそこにいる理由もない」
「それじゃああらためて聞くよ」
 アイビスは再び問うてきた。
「何で今あたし達の前に姿を現わしたのか。言えるね」
「ああ」
 不敵に笑うアイビスに対して答えた。
「それはアイビス・・・・・・御前に勝つ為だ」
 昂然と顔を上げる。
「兄様のことも兄様の夢のことも関係ない。私は御前に勝ちたい。その為にここに来た」
「やっと言ったね」
 それを聞いたアイビスの顔が急に優しいものになった。
「私は御前に勝つ!私自身の誇りに賭けてライバルである御前を倒す!」
「そうかい、わかったよ」
 アイビスは優しい笑みのまま頷いた。
「それならいいさ。存分にやれる」
「スレイ、やっと自分の言葉で話してくれたね」
「自分の言葉だと」
 ツグミの言葉に顔を向けた。
「ええ。今までの貴女は自分の殻に入っていたわ。そしてそこから話をしていた」
「・・・・・・・・・」
「フィリオのこともそう。自分のことも。けれど今貴女は本当の意味で自分の言葉を話してくれたのよ」
「そうだったのか」
 気付いてはいなかった。だがツグミの言葉で今ようやくわかった。
「それが大切なことの一つだったのよ。貴女はスレイ=プレスティなのだから」
「スレイ=プレスティ」
 自分の名を呟く。
「そうさ、あんたはスレイ=プレスティさ」
 アイビスも言った。
「あたしはスレイと戦うんだ。アイビス=ダグラスとしてね」
「アイビス・・・・・・」
「あんたとならあたしも全てを賭けて戦える」
 そしてアルテリオンを右に動かした。ベガリオンと対比するように。
「さあやるよ、スレイ」
 またスレイに声をかける。
「これが最初で最後の真剣勝負だ。いいね」
「うむ」
 スレイも頷いた。
「あたしが勝ったらあたしの言うことを聞いてもらうよ」
「私が勝った時は」
「あんたが勝った時かい」
「そうだ」
「その時はね」
 そこでにやりと笑った。
「その時に考えるさ。じゃあ行くよ!」
「うむ!」
 二機のマシンが互いに動く。
「負けないよ、スレイ!あんたもかって見ていた夢をもう一度見る為にね!」
「それは私もだ!」
 こうして二機のマシンは戦いに入った。まずは逆時計回りに動きはじめた。
「行くぞアイビス!」
「スレイ、あんたにも教えてあげるよ」
 両者は互いに言った。
「今ここで決着を!」
「夢ってやつをね!」
 アルテリオンとベガリオンは同時に突進した。そしてまずはキャノンを放った。
「相対速度、距離算出!」
「その程度の動きで!」
 二人はそれぞれ照準を合わす。
「一撃で決める!」
「これで!」
 互いにキャノンを放つ。しかしそれは互いに避けられてしまった。
「よし、ブレイクターンだ!」
「こちらもだ、!」
「やるね」
 アイビスは自分と全く同じ動きをしてみせたスレイを素直に称賛した。
「伊達にナンバーワンじゃなかったということだね」
「御前もな」
 スレイは不敵に笑ってそれに返した。
「どうやら本物のようだな。私のライバルとして」
「まさかあたしをライバルとまで言ってくれるなんてね」
「それだけ御前を認めたということだ。だが」
 スレイの目がキッとなった。
「勝つのは私だ。そしてこのベガリオンだ!」
「その言葉、そっくりあんたに返してやるよ!」
 アイビスは笑った。楽しそうに。
「これでね!ツグミ、あれをやるよ!」
「アイビス、もう仕掛けるっていうの!?」
「当たり前さ!今のはね、あたしの会心の攻撃だったんだ」
 ブレイクターンを仕掛けながら言う。
「それが通用しないんならね。あれしかないよ」
「わかったわ」
 ツグミもそれに頷いた。
「じゃあアイビス、リミッターは解除したわ」
「よし、GRaMXsで行くよ!」
「テスラ=ドライブ=オールグリーン!フルブーストで行けるわ!」
「よし来た!」
 アイビスはツグミの言葉に頷いた。そして影達が一つになった。
「なっ!」
 スレイはその華麗な動きに思わず息を呑んでしまった。そしてそれが命取りになった。
「まさかそれは・・・・・・」
「オンリーワンフィニッシュで決めるよ!」
「うん!」
 アルテリオンは攻撃態勢に入った。ベガリオンはそれに対して一瞬だが対応が遅れた。それで全ては決まった。
「ブレイク!」
 GRaMXsがベガリオンに決まった。こうして全ては終わった。
「な・・・・・・」
 ベガリオンが大きく揺れる。勝敗が決した証だった。
「急所は外れたみたいだね」
「情をかけたというのか」
「まさか。本気でやったよ」
 アイビスはスレイにそう言い返す。
「そうじゃなきゃ。あたしがやられていたからね」
「今のは確実に撃墜できたのよ」
 ツグミも言う。
「けれど貴女の咄嗟の動きで。急所は外されたの」
「どうやら私も運がいいようだな」
「それは違うよ」
 アイビスは自嘲の笑みを浮かべたスレイにこう言った。
「実力さ。全部ね」
「そうか」
「一歩遅けりゃあたしが負けていたよ。けれど今はあたしの勝ちだ」
「フッ、見事だった」
「で、さっきの話だけど」
「ああ」
 穏やかな顔に戻っていた。スレイはアイビスの言葉に顔を向けた。
「あたしの言う事、聞いてくれるって言ったね」
「そうだったな」
「あんた、ネオ=ジオンを抜けたんだろ?ロンド=ベルに来る気はないかい?」
「ロンド=ベルに」
「ああ。フィリオは今安西博士のところにいるけど。あそこはうちと?がりが深いんだ」
「だからね。こっちに来たらどうかって思うのだけれど」
「馬鹿な。今の私には」
 申し訳なさそうに顔を背ける。
「今まで御前達と憎しみ合ってきたのだ。それでどうして」
「今も憎んでいるのかい?」
「いや、それはない」
「じゃあいいじゃないか。それで決まりさ」
 アイビスは言う。
「それに・・・・・・あんたも銀河を飛びたいんだろう。ベガリオンに乗って」
「ああ」
「だったら一緒に来なよ。皆歓迎するよ」
「私でもか」
「あんただからだよ。この戦いを終わらせて」
「この戦いを終わらせて」
「銀河に行こう。仲間としてね」
「仲間として・・・・・・」
「そうさ。アルテリオンとベガリオンで」
 さらに言おうとする。しかしここで邪魔者が入った。
「おやおや」
「あれは」
「ネオ=ジオンの」
 見ればネオ=ジオンのモビルスーツ部隊であった。その先頭にはガーベラ=テトラがいる。
「シーマ=ガラハウ」
「また強敵が」
 三人はそのガーベラ=テトラを見て舌打ちした。
「まさかまだ残っていたなんてね。哨戒に出たところで獲物にありつけたよ」
 シーマはアルテリオンとベガリオンを見ながら笑った。
「さて、早速いただかせてもらおうかね。アルテリオンとベガリオンなんて最高の御馳走だよ」
「クッ、やるつもりか」
「ここは私が!」
 スレイが前に出ようとする。それをアイビスが呼び止めた。
「待てよ、何をするつもりだい」
「知れたこと」
 スレイは振り向いて言う。
「あの部隊は私が引き受ける。御前達は地球に行け」
「けど」
「けどもどうしたもない。私は御前達に借りができた。それをここで返す」
「駄目よ、スレイ」
 だがそんな彼女をツグミまでもが呼び止めた。
「ベガリオンは急所を外したっていってもかなりのダメージを受けているわ。それでやったら」
「くっ」
「あんた、何故」
「私は仲間を失いたくない」
 スレイはアイビスにそう答えた。
「だから・・・・・・行け」
「スレイ・・・・・・」
「いえ、まだ諦めるには早いわ」
 しかしここでツグミがまた言った。
「ツグミ」
「アイビス、スレイ、私の言うことをよく聞いてね」
 そして二人に言う。
「それぞれの機体に今から言うコードを入力して」
「コードをかい」
「ええ」
 ツグミは頷いた。
「いいわね。H・Y・P・E・R・7・7」
「HYPER!?まさか」
 それを聞いてまずスレイが驚きの声をあげた。
「何をするつもりなんだい、ツグミ」
「説明している時間はないわ!二人共早く私の指定したフォーメションを最大速度で!」
「このコードを入力してかい!けれどこれを入れたら」
「激突一歩手前だ!自殺行為だぞ!」
「いえ、大丈夫よ」
 ツグミは危惧の声を言う二人に対して穏やかな頬笑みを見せた。
「今の貴女達なら。だから安心して」
「いいのか」
「ええ。全てのタイミングは私がとるわ。だから機体のコントロールに集中して」
「よし」
「それでは行くぞ」
「でははじめて」
「了解」
「ツグミ、あんたを信じるよ」
 こうしてアルテリオンとベガリオンはそれぞれ接近しつつ高速移動に入った。
「ふん、何をする気か知らないけどね」
 シーマはそれを見つつ不敵な笑みをたたえ続けていた。
「どのみちここで死ぬんだ。覚悟しな」
「行くよ、スレイ、ツグミ」
「了解」
「ええ、わかったわ」
 だが三人はもうシーマの言葉を聞いてはいなかった。高速移動に入り何かになろうとしていた。
「フォーメーション=ヘリオス、スタート!」
 そしてツグミが叫んだ。二機のマシンが今ぶつかり合った。
「翔けろ、ベガリオン!」
「行け、アルテリオン!」
 スレイもアイビスも叫んでいた。今三人の心が一つになった。
 二機のマシンはぶつかったように見えたが違っていた。それは一つになろうとしていたのであった。
 ベガリオンがその間に変形する。そしてアルテリオンがその中に入った。
 両機は合体した。何と一つの機体となったのであった。
「な、何だいあれは」
 その姿を見たシーマはまずは驚きの声をあげた。何とベガリオンの中に作業活動形態のアルテリオンが入ったのであった。
そして一つになっていたのだ。
「これは・・・・・・」
「一体何だ」
 アイビスとスレイも戸惑っていた。だがツグミはそんな二人に対してまた言う。
「アイビス、機体コントロールを確認して」
「あ、ああ」
「スレイはテスラ=ドライブと火器管制コントロールを。いいわね」
「了解」
「コンディション・グリーン!テスラ・ドライブA・B、シンクロニティ100%!」
 ツグミも自分の仕事を行っていた。そして言う。
「二人共よく聞いて。この機体こそがプロジェクトTDの結晶なのよ」
「プロジェクトTDの」
「ええ。ハイペリオンよ」
「ハイペリオン」
「星の神達を生み出した太陽神の父か」
 スレイはそれを聞いて呟いた。ギリシアの古代の神の一人である。太陽を司る偉大な神であった。
「これがフィリオの真の目的だったのよ。そしてそれをアイビスとスレイにそれぞれ託しているのよ」
「あたし達に」
「どうして」
「フィリオは。身体が弱いから」
 ツグミは残念そうに言った。
「パイロットになれるような強い身体じゃないから。だから私達に託したのよ」
「自分の夢を」
「御兄様・・・・・・」
「今は地球にいるけれど。心は常に銀河と共にあったのよ。だから」
「あたし達に託してくれたんだね」
「ええ」
「わかったよ。今フィリオの夢、受け取った!」
「兄様の夢は妹である私が!」
「じゃあいいわね!」
「ああ!」
「来るぞ!」
 スレイが叫ぶ。見ればネオ=ジオンの部隊がもうそこまで来ていた。
「行くよ、スレイ、ツグミ!」
 アイビスもそれに応じた。ハイペリオンを駆る。
「銀河の彼方へ行くまで・・・・・・戦い抜くよ!」
「よし!」
 ハイペリオンはネオ=ジオンに向かう。だがそこに思わぬ助っ人がやって来た。
「ちょっと待ってよ!」
「あたし達も入れて下さい!」
「えっ、あんた達」
 見ればアラドとゼオラであった。二人はそれぞれビルトビルガーとビルトファルケンに乗っていた。
「どうしてここに」
「言ったじゃないですか、仲間だって」
「だから。ブライト艦長達に無理言って出させてもらったんですよ。大気圏突入もできるからって」
「けど。わざわざ残るなんて」
「いいの?それでも」
「何、大丈夫ですよ」
 アラドはこう応えて笑う。
「いつものことですから」
「いつものこと」
「ピンチと救援はロンド=ベルの常だって。ほら、皆言うじゃないですか」
「そうだったのか」
「アイビスさんだってそうだったじゃないですか。急に出て来て」
「そういえばそうだったね」
 アイビスはロンド=ベルに入った時のことを思い出して微笑んだ。
「あんた達は連邦軍からだったけれど。あたしやツグミはね」
「飛び入りだったわね。けれどそれも何かの縁だったのよ」
「だろうね。そして今スレイも来たし」
「あらためて宜しくな」
「ああ。じゃあ行くよ、皆」
「はい」
「援護はあたし達がします。アイビスさん達は」
「ああ、わかってるよ」
 そう言って前にいるシーマのガーベラ=テトラを見据えた。
「あいつをやる。一気に行くよ」
「ええ。任せるわ」
「御前の技量、見せてもらおう」
「まだ素直じゃないんだね」
 スレイの態度に少し笑う。だがもうその心はわかっていた。言葉なぞ飾りでしかなくなっていた。
「行くよ、そして」
「仲間達のところに!」
 ハイペリオンと二機のマシンが駆けはじめた。そして前に突っ込む。シーマはそれを見てもまだ笑っていた。
「さかしいねえ、本当に」
 どうやら彼等のこと自体が気に入らないようであった。
「やっちまいな。たかが三機だ」
「了解」 
 それに従いモビルスーツ達が前に出る。だが三機の力は彼等では相手のしようがないものであった。
「オクスタン=ライフル、セット!」
 まずはゼオラが攻撃に入った。狙いを定めて叫ぶ。
「シュートッ!」
 光を放った。それで前にいるドライセンを小隊単位で葬った。
「チッ、小隊をまるごとか!」
「何て奴だ!」
「俺だって!」
 アラドが続く。まずはビルトビルガーのジャケット=アーマーを外す。
「ジャケット=アーマー、パージ!」
 すると翼が生えたようになった。そしてそのまま前に突き進む。
「飛べ!ビルガー!」
 ガゾウムの小隊に突っ込む。そこにビームが降り注ぐ。
 だがそれは最早アラドにとって何でもないものとなっていた。まるで流星の様に早く、幻の世界に住む蝶の様に流れる動きでその攻撃をかわす。そして突攻した。
「ビィィィィクッ!」
 ガゾウムの小隊を切り裂く。彼が通り抜けるとその小隊を構成していたモビルスーツの数だけ爆発が起こった。
 ハイペリオンの前にも敵はいた。しかしもうアイビス達は焦ってはいなかった。
「ベガリオン以上の速度にアルテリオン以上の運動性」
 アイビスはハイペリオンを操りながら呟いていた。
「これがハイペリオンの力」
「アイビス!火器管制と出力コントロールは任せろ!」 
 スレイが彼女に対して言う。
「スレイ」
「そうよ、スレイの言う通りよ」
 ツグミも。
「ハイペリオンは私達三人の、そしてフィリオの機体よ」
「あたし達の」
「そう、貴女は一人じゃないわ。だから」
「ツグミの言う通りだ。フォローは私達に任せろ!」
「わかった。わかったよ、二人共」
 ここまで嬉しい言葉はなかった。アイビスは素直な笑みを浮かべた。
「ツグミ、スレイ、行くよ!」
「うむ!」
「任せたわ!」
 見ればジャムルフィンの小隊がいた。アイビスはそれを見てすぐに決断を下した。
「スレイ!02だ!」
「よし!」
 スレイがそれに頷く。そしてスピキュールを放った。
 ハイペリオンが通り抜けた時ジャムフルィンはもういなかった。その攻撃で全機撃墜されてしまったのであった。
 これで彼女達を阻む者はもういなくなっていた。彼等はそのまま突き進み遂にシーマの前までやって来た。
「変形に合体なんてね」
 シーマは忌々しそうに呟く。
「全くロンド=ベルらしい機体だよ!鬱陶しいったらありゃしない!」
「おばさんが憎いのはそこじゃないんじゃない!?」
「何だって!?」
 シーマはアイビスのおばさんという言葉にこめかみをひくつかせてきた。
「あたし達の若さが憎いんじゃないの?」
「よせ、アイビス」
 スレイがここで言う。
「図星をついては相手を怒らせるだけだ」
「どうやら死にたいらしいね」
 シーマの顔が憤怒で歪む。暗い怒りの顔であった。
「ほらな、見ろ」
「あんたの言葉が一番大きいけどね」
「そうかな。ふふふ」
 そう言いながら彼等は攻撃に移っていた。
「ツグミ、スレイ、GRaMXsでいくよ!」
「わかったわ!」
「御前の動きに合わせる!」
 二人はアイビスの言葉に頷いた。
「相対距離、速度データロード!」
 ツグミが自身の前のコンピューターに入力しながら言う。
「テスラドライブ=フルブースト!」
 スレイも叫ぶ。攻撃の用意は整った。
「よし、決めてみせる!」
 アイビスも動いた。照準を合わせる。
「そこだーーーーーーーーーっ!」
 今三人の心が一つになった。そしてガーベラ=テトラを撃ち据えた。シーマはかろうじて急所を外させたがそれが限度であった。ガーベラ=テトラは今の攻撃で完全に戦闘能力を失ってしまった。
「ちっ、小娘だと思って甘く見ちまったようだね!」
「言っただろ、若さには勝てないって」
 アイビスはそう言い返す。
「今回はあたし達三人の若さの勝利なんだよ。もうおばさんの時代じゃないさ」
「フン、男だって知らない癖にね」
 シーマはそれでも憎まれ口を叩いた。
「よくそんなことが言えるよ」
「そんなことはこれからゆっくりと知ればいいさ」
「そう、今の私達は」
「夢を適えられるのだから」
「夢かい、言ったねえ」
 シーマはそれを聞いて思わせぶりに目を細める。
「じゃあ精々その夢を追うんだね!生き残れたらね!」
 そう言い残して姿を消した。こうして戦いは一瞬にして終わったのであった。
「ミッション終了ね」
「ああ」
 アイビスはツグミの言葉に応えた。
「これでな。もう終わりだ」
「そうだな。アイビス」
 スレイが言う。
「あらためて。これから宜しくな」
「ああ、こちらこそ」
 アイビスもそれに応える。
「この機体で。銀河の果てまで行こう」
「そうだな。ハイペリオンなら何処までも行ける」
「三人で。永遠に」
「あのお話中悪いですけど」
「ん、何!?」
 三人はアラドの言葉に我に返った。
「そろそろ行かないと。まずいんじゃないですかね」
「ほら、他の皆はもう降下していますし」
 ゼオラも言う。
「早く行かないと。ダカールまで」
「おっと、そうだったね」
 アイビスもその言葉に我に返った。
「じゃあ行くか」
「そうだな。久し振りの地球だ」
「スレイはずっとアクシズにいたから。懐かしいでしょう」
「ああ。青い地球の中に入るのは。本当に久し振りだ」
 その目を細めて言う。
「早く行きたいな。では行くか」
「ああ」
 アイビスもそれに頷いた。
「じゃあ行くよ。目標はダカール」
「一直線で」
「行きましょう」
「よし、二人共遅れるなよ!」
 今度はアラドとゼオラに声をかける。
「降下だ。帰ったら早速皆のところに行くよ!」
「了解!」
 三機のマシンは降下に入った。すぐに大気圏の摩擦熱がそれぞれの機体を覆う。
「アイビス」
 その中でスレイがアイビスに声をかけてきた。
「何だい!」
「さっき地球は青いと言ったな」
「ああ」
「だがどうやら違うようだな。地球は赤い」
「赤いか」
「そうだ。今見える地球は青くはない。赤い」
 見ればその通りであった。大気圏内から見える地球は赤かった。摩擦熱でそう見えていたのだ。
「まるで・・・・・・」
 スレイは言葉を続けた。
「燃えているみたいだ」
「燃えている、かい」
「そうだ。ここから見るとそう思える」
「確かにね」
 アイビスもそれに頷いた。
「燃えているよ、地球が」
「ああ」
 五人はその燃えている地球に入って行った。そこにはまた新たな戦いが彼女達を待っているのを知りながら。

第五十九話   完


                                       2005・12・8



 

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