キリマンジャロ航空戦
 何とかダカールを守りきり、イルイという少女を保護したロンド=ベルはデビルガンダムを倒す為にキリマンジャロに向かって
いた。七隻の戦艦はマクロスを中心として陣を組み空からキリマンジャロに向かっていた。
 その途中ドモンは黙ったままであった。ただ腕を組み窓から見える空を眺めているだけであった。
「おい、どうしたんだよ」 
 そんな彼に豹馬が声をかけてきた。
「黙りこくってよ。汗でもかきに行かねえか?」
「いや、今はいい」
 だがドモンはそれを断った。
「今は。一人にしておいてくれ」
「おい、どうしたんだよ」
「豹馬」
 ここで彼に健一が声をかけてきた。そして言った。
「今は。一人にしてやれ」
「健一」
「汗をかくなら俺が付き合う。それでいいな」
「あ、ああ」
 健一に言われては頷くしかなかった。豹馬は彼に従いドモンの側から離れた。そして一人になったドモンはそのまま思索に耽るのであった。
「何ていうか嫌な話よね」 
 アスカはゴラオンの休憩室で紅茶を飲みながら不満そうに声を出した。
「あんなのと戦わなくちゃいけないなんて。ああ嫌だ嫌だ」
「何でそんなに嫌がるのよ」
 あまりにも不平不満を露わにする彼女にキーンが尋ねてきた。
「前にも戦ってるんでしょう?勝手がわかってるからいいじゃない」
「そういう問題じゃないのよ」
 だがアスカはここで言い返した。
「キーンさんはあれを見て何も思わないの?」
「あれって?」
「マスターアジアよ。素手で使徒をやっつけるのよ。あたし最初にそれ見た時腰が抜けるかと思ったわ」
「ああ、あれね」
 それにジュンが頷く。
「あれは確かにね。びっくりしたわ」
「ジュンさんもそう思うでしょう!?あんなの普通じゃないわよ」
「普通じゃなくても戦いだからね」
 激昂気味のアスカに対してジュンはいつもの様にクールな調子であった。
「どんなのが出ても驚いたらよくないと思うわ」
「うっ」
「私達は今まで宇宙怪獣を相手にしてきたんだし。それにBF団はあんなのがゴロゴロいたじゃない」
「ああ、思い出したくない」
 どうやらアスカはBF団も嫌いなようであった。思いきり嫌そうな声を出した。
「あんな指をパッチンしただけで何でも真っ二つにしたり妖術だか忍術だかわかんないの使う連中なんかもう見たくもないわ」
「よっぽど嫌なのね」
「ええ」
 これには大きく頷いた。
「常識外れなのは嫌いなのよ。何であんなのが普通にいるのよ」
「まあ世の中何がいてもおかしくないしな」
 ニーが言った。
「それは君も今までの戦いでわかっているんじゃないのか?本当は」
「それはそうだけれど」
 それに関して否定はしなかった。
「けど。嫌なものは嫌なの」
「こら、嫌だからってそんな態度だと何時まで経っても駄目だぞ」
 チャムにそう注意される。
「アスカは本当はいい娘なんだから素直にならなきゃ駄目」
 リリスも言う。
「さもないと立派な大人にはなれないぞ」
「一応もう大学は出ているんだけれどね」
 言葉を濁しながらも答える。
「けれど何ていうか。ここってあたしの常識通用しないし。パイロットでもマシンでも科学者でも」
「幾ら何でもサコンさんは常識外よ」
「あの人もね」
 キーンの言葉に応える。
「アムロ中佐なんか平気で神技やっちゃうし」
「あの人も特別よ」
「ダイターンみたいなどっからともなくやって来るマシンまであるし。おまけに万丈さんも人間離れしてるしね」
「自信なくしてるとか?」
「そうじゃないけれど。何かこうね・・・・・・。驚きっぱなしで」
「けれどアスカだって頑張ってるじゃない」
「マーベルさん」
 マーベルの声にも元気なく顔を向けただけであった。
「止めてよ。あたしはやっぱり普通の人。ニュータイプでも聖戦士でも超能力者でもないし。只のチルドレンよ」
「アスカじゃないと出来ないことだってあるわよ」
「使徒を素手で倒せる人までいるのに?」
「すっごいショックだったんだな」
「まあそうならない方がおかしいけれど」
 ニーとキーンがそれを聞いて呟く。
「現に今でもエースパイロットじゃない。エヴァの中ではトップよ」
「ううん」
「シンジ君達を引っ張ってるじゃない。だから皆貴女を頼りにしているわよ」
「だったらいいですけれど」
 マーベルに言われて少しずつ気分をなおしていた。
「それじゃあキリマンジャロでは頑張ってね」
「ううん」
「貴女しかいない場面だって考えられるから。そうした時にやってもらわないよ困るのよ」
「あたししかいない場面」
 それを聞いて表情が変わってきた。
「そうよ」
 マーベルはそれを見逃さなかった。すかさず声をかける。
「いいわね、期待しているわ」
「はい、それじゃあ」
 そこまで言われて乗らないアスカではなかった。ようやく顔をあげた。
「やってやろうじゃないの」
「そうそう」
「それでこそアスカ」
「ところで今どの辺りかな」
 チャムがふと言った。
「あのダカールって街から離れて結構経つけれど」
「今丁度ダカールとキリマンジャロの中間辺りよ」
 マーベルがそれに答える。
「中間」
「真ん中ってことよ。半分行ったってことね」
「そっかあ、半分かあ」
「あと半分で着くのね」
「そうよ」
 リリスにも答えた。
「もうちょっとゆっくりとできると思うけれど」
「キリマンジャロに着いたらまた派手に戦わなくちゃいけないし」
「今のうちに英気を養っておきますか」
「残念だがそうはいきそうにもない」
 ここでカワッセがやって来た。そして一同に対して言う。
「総員戦闘配置に着いてくれ」
「カワッセさん」
「敵ですか?」
「ああ。火星の後継者の部隊が前方に展開しているらしい」
 彼はマーベル達の問いにこう返した。
「それも結構な数だという。すぐに出撃してくれ」
「やれやれ」
「何かいつものことだけれど。何処にでも敵はいるわね」
「そう言うな。今は仕方がない」
 カワッセはぼやくキャオとキーンにこう返した。
「キャオはすぐにナデシコに戻ってくれ。リリスと一緒にな」
「あいよ」
「そして聖戦士は総員出撃だ。すぐに前に出てくれ」
「了解」
「エヴァはミノフスキークラフトがあったな。それを着けて艦の防衛に回ってくれ」
「艦の防衛ね。わかったわ」
「地味な仕事だが。頼むよ」
「いいわよ。何でもやってやるわ」
 アスカはにこりと笑って言葉を返した。
「敵が誰でもね。それがあたしの仕事だから」
「やってくれるか」
「はい。グランガランの周りにいればいいんですよね」
「ああ、頼むぞ」
「わかりました。それじゃあ」
「宜しくな。後でバームクーヘンを御馳走するからな」
「ちょっと待って下さい、何でバームクーヘンなんですか!?」
 それを出されて戸惑いを見せる。
「あたし別にバームクーヘンは」
「好きだと聞いたが」
「誰にですか!?」
「ワカバ少尉達にだが。違っていたか」
「あいつ等ぁ〜〜〜〜・・・・・・」
 それを聞いてワナワナと身体を震わせる。
「シーラ様も大層御気に入れられてな。今シェフに作らせている」
「シェフに」
「だから楽しみに待っていてくれ。いいな」
「はあ」
 何だかわからないうちに押し切られてしまった。カワッセが去ると後にはキョトンとした顔のアスカだけが残った。
「で、どうするのかしら」
 そんなアスカにマーベルが声をかけてきた。
「食べるの?それとも断るの?」
「シーラ様が一緒だと。断れる筈ないじゃない」
 アスカは憮然とした顔でこう返した。
「仕方ないわね。それじゃあ頂いてあげるわ」
「素直じゃないな、何か」
「何よ、悪いの」
 ニーに喰ってかかる。
「あたしは甘いものってあまり好きじゃないのよ。子供っぽくって」
「その割にこの前チョコレート美味しそうに食べてなかったっけ」
「あれはたまたまよ」
 キーンの突っ込みに苦しい言い訳を返す。
「それしかなかったから。別に好きじゃないわよ」
「あら、けれどケーキには五月蝿いじゃない」
「そういえばそうよね」
 チャムがマーベルの言葉に頷く。
「苺のケーキもモンブランも美味しそうに食べてたし」
「あれは綾波に付き合って」
「はいはい、わかったからもういいわ」
「ちょっとマーベルさん」
「アスカはもう少し自分に素直になった方がいいわ。さもないと綺麗な顔が台無しよ」
「綺麗って」
「女の子の顔はね、男の子を惹き付ける為にあるのよ。それでそんなに素直じゃなかったわ誰も来ないわよ」
「来なくたってあたしは」
 反論しようとする。だがやはりマーベルの方が大人であった。
「困るんじゃなくて。何かと」
「うっ・・・・・・」
「まあすぐにはできなくてもいいわ。徐々に」
「アスカもいい娘になるんだね」
「あらチャム、アスカはもういい娘よ」
「そうなの」
「ただ素直じゃないだけよ」
「ちぇっ」
 最後にはアスカが折れた。仕方なさそうに口を尖らせる。そしてそのまま格納庫に向かうのであった。
「あれ、何処に行ってたの?」
 格納庫でシンジが彼女に声をかけてきた。
「部屋にもトレーニングルームにもいないから。気になってたんだよ」
「別に」
 アスカは口を尖らせたままシンジに顔を向けた。
「あんたには別に関係のないことだし」
「関係ないって」
「・・・・・・あんた、バームクーヘン好き?」
「何だよ、急に」
 シンジはアスカの突然の脈絡も何もない問いに戸惑った。
「好きかどうかって聞いてるのよ。どうなの?」
「そりゃ嫌いじゃないけれど」
 シンジは戸惑いながらも答えた。
「けれどそれがどうしたの?」
「何でもないわよ」
 アスカは憮然としたまま答えた。
「ちょっとね、気になっただけ」
「そうなの」
「ところであんたエヴァにミノフスキークラフトはつけているわね」
「うん」
「じゃあいいわ。聞いてると思うけれど今回は空中戦だから。しっかりやりなさいよ」
「宇宙での戦いと同じ感じでいいよね」
「それは」
 アスカも少し実感が湧かない。返答に戸惑っているとミサトがやって来てシンジの問いに答えた。
「ええ、大体はそれでいいわ」
「そうなんですか」
「ただね、重力の関係は頭に入れておいてね」
「重力の」
「ほら、宇宙って重力はないでしょ」
「はい」
「けれど空にはあるから。それを注意してね。他はそれ程変わりはないわ」
「わかりました。それじゃあ」
「気をつけてね。シンジ君も空ははじめてだった筈だから」
「はい」
「最初はね、何かと戸惑うものなのよ、何でも」
「そうなんですか」
「他のこともね。戦い以外にも」
「こら、そこで変な方に話をもっていかない」
 妖しい話に持って行こうとしたミサトをリツコが注意する。
「中学生には刺激が強過ぎるでしょ」
「けどジュドー君達は喜んで合わせてくれたわよ」
「彼等はまた特別。シンジ君はウブなんだから。そこら辺もわきまえなさい」
「了解。厳しいわね、リツコは」
「貴女がズボラ過ぎるのよ。それじゃあ艦橋に戻って」
「そろそろなのね」
「ええ、彼等もいるわ」
 リツコは答えながらその顔を真剣なものにさせていく。
「だから。そう簡単にはキリマンジャロには行けないかもね」
「しつこい男は嫌いなのにね」
「生憎向こうはそんなことはお構いなしみたいよ。そもそも機械の兵器ばかりだし」
「心の通っていないのはもっと嫌い」
「あら、じゃあカミソリみたいな目をした人は嫌いなのね」
「勿論。あんなサイボーグみたいなのはお断りよ」
「あらあら。それは意外ね」
「あたしは純情な子がいいのよ。まだ若い子供がね」
「やっぱりショタなのね、貴女」
「人聞きの悪いこと言わないでよ、そもそもあたしは」
「葛城三佐、葛城三佐」
 だが話はここで中断せざるを得なかった。マヤの声で放送が入ったからだ。
「あら、呼び出し」
「赤木博士、赤木博士」
「あんたもね」
「艦橋に来いってことかしら」
「すぐに艦橋に来て下さい」
「ビンゴ」
「じゃあすぐに行くわよ」
「そういうことだから。シンジ君、後はモニターでね」
「わかりました」
「他の二人にも言っておいてね。大体宇宙での戦い通りでいいからって。それじゃあ」
 こうしてミサトとリツコは艦橋に向かった。後にはチルドレン達だけが残った。
「宇宙での戦いって」
「わいと綾波は経験ないけどええんかな」
「どうにでもなるわ」
 困った顔のトウジに対してレイはいつもの様に冷静なままであった。
「戦うのは同じだから」
「そうかいな」
「ええ。だから気にする必要はないわ。問題は敵を倒すことだけ」
「敵を」
「けれど今は私達はそんなに重要じゃないわ。重要なのは」
「誰や」
「アキトさんとドモンさんよ」
「アキトさん!?」
 それを聞いた三人は戸惑いの声をあげる。
「ドモンさんはわかるけれど」
「どうしてアキトさんなのよ」
「すぐにわかるわ」
 だがレイはそれに対しても口調を変えない。
「私達はあの人のサポートに回ればいいわ。それと艦隊の護衛に」
「ううん」
「よくわからないけれど」
 三人は釈然としないまま頷こうとした。
「綾波がそう言うんなら」
「やってみっか」
「そうね。今回のキーマンはアキトさんと」
「じゃあ出ましょう」
 レイが合図を打った。
「いいかしら」
「よし。それじゃあ」
「エヴァ発進」
 こうして四機のエヴァが出撃した。彼等は話通りグランガランの周りで艦隊の護衛にあたった。そしてその前を黒いエステバリスが通り過ぎていった。
「あれがブラックサリナね」
「そうよ」
 レイはアスカの言葉に頷く。
「アキトさんが乗っているわ」
「とりあえずは大丈夫みたいだけれど」
 シンジはブラックサレナの動きを見ながら呟く。それは今までのアキトの操縦と何ら変わるところのない安定したものであった。
「どうなのかな」
「何かあったら助けに行くだけだから」
 レイはまた言った。
「それまでは。私達の戦いを続けましょう」
「そやな。それしかあらへんな」
 それにトウジが頷く。こうして彼等はその配置についたのであった。
 ロンド=ベルの前方に木星トカゲ達が展開していた。そしてその中には北辰衆もいた。
「ナデシコはどうやら新型艦になったようですな」
「うむ」
 北辰は部下の言葉に頷いた。
「そして最新鋭のエステバリスもあるな。情報通りだ」
「あの黒いエステバリスですな」
「あれの相手は私がする」
 北辰は静かに言った。
「手出しは無用だ。よいな」
「わかりました。それでは」
「全軍攻撃に移る」
「了解」
 彼等は静かに動きはじめた。そして攻撃に掛かる。ロンド=ベルと火星の後継者達の空中戦が幕を開いたのであった。
「空を飛べないやつは戦艦の甲板に出ておけ!」
 ブライトの指示が下る。
「そしてそこから援護射撃だ!いいな!」
「了解!」
 アムロ達がそれに頷く。そして早速攻撃に移る。
「このヴェスパーなら!」
 まずはシーブックがヴェスパーを放つ。それでカトンボが一機消し飛ぶ。セシリーもそれに続く。
「私だって!」
 ビギナ=ギナのメガビームランチャーから光が放たれる。それでまたカトンボが一機炎に包まれた。艦上からであったがそれでも彼等の攻撃は正確であった。
「やっぱり凄いわね」
 アムがそれを見て素直に感嘆の言葉を述べる。
「シーブック君もセシリーちゃんも。ニュータイプだけあるわ」
「私達も腕を見せないと駄目だぞ」
 そんな彼女に対してレッシィが言う。
「折角出撃しているんだからな」
「けれどちょっと攻撃が難しいわね」
「艦の上からだとか」
「うん。このグランガランって結構足場ないし」
「それはそうだが」
 二人のエルガイムとヌーベルディザートは何とかグランガランの上にいる形となっていた。それでも攻撃は行っていた。
「辛いね」
「やはりここはダバに期待か」
「そうね」
 だがそうは言っても彼等も頑張っていた。パワーランチャーで敵を撃ち抜いていく。やはり確かな腕を持っていた。
 ロンド=ベルは七隻の戦艦を軸に戦いを行っていた。その中でも最新鋭のナデシコの活躍は目を見張るものであった。
「艦首を敵に向けて下さい」
 ユリカはハルカに指示を出す。
「了解」
「ルリちゃん、ミサイルはいけますか」
「はい、何時でもいけます」
 続けてルリにミサイルの状況を問う。そしてそれを聞いてからハーリーに言う。
「ハーリー君、ミサイル発射用意」
「攻撃目標は」
「前方にいる木星トカゲ一個小隊。了解しましたか?」
「了解、照準セットしました」
「では攻撃に移ります」
「はい」
「ミサイル発射!」
「ミサイル発射!」
 攻撃命令が復唱される。それによりミサイルが放たれる。
 幾十ものミサイルが敵を狙う。そしてそれは寸分違わず敵を撃った。これにより敵の小隊がまるごと消え去った。見事なまでに正確な攻撃であった。
「やりましたね」
「はい」 
 ハーリー達がそれに頷く。
「次はまた前方の敵です。いいですね」
「了解」
「艦長、待って下さい」
 だがここでルリが声をかけてきた。
「何か」
「エステバリス隊に北辰衆が攻撃を受けています」
「北辰衆が」
「はい。どうしますか」
 ルリは問うてきた。
「援護しますか」
「わかりました」
 そしてユリカはそれに頷いた。
「援護します。艦首をそちらに向けて下さい」
「はいは〜〜い」
 ハルカがそれに従い操縦桿を動かす。
「ミサイルで攻撃します。攻撃用意再度用意」
「了解」
「今度は外してもいいです」
「外しても、ですか」
 メグミがそれを聞いて声をあげる。
「艦長、それでいいんですか、本当に」
「構いません」
 だがユリカはそれをよしとした。
「ただこちらのエステバリスに当たらなければいいのですから」
「そうですか。それじゃあ」
「はい。援護射撃に徹して下さい。いいですね」
「わかりました。それではミサイル発射ですね」
「はい。ハーリー君、どうぞ」
「じゃあいっきまぁ〜〜〜〜す!」
 ハーリーはそれに従いミサイルを放った。これはユリカの言葉通り派手に撃っただけで特に照準を定めたものではなかった。その為その全てがかわされてしまった。
「この程度の攻撃で」
 北辰衆はそれをかわして不敵に笑う。
「我等がどうにかなると思うてか」
「笑止」
「おいおい、それは完全に時代劇の悪役の言葉だぜ」
 それに対して今まで対峙していたリョーコが言い返す。
「格好だけじゃなくて言うことまで悪役だったみてえだな」
「リョーコ、今更何を言っている!」
「ヤマダの旦那」
 ダイゴウジの言葉に顔を向ける。するとすぐにいつもの言葉が返って来た。
「ヤマダではない!ダイゴウジと呼べ!」
「悪い、ダイゴウジの旦那。それでだ」
「何でえ、おリョウ」
「・・・・・・そのおリョウっての何なんだよ」
「おお、時代劇だからな。ちょっと言い方を変えてみたぞ」
「そんな変に芸の細かいこたあどうでもいい。今がチャンスだぜ」
「うむ」
「敵の攻撃が止んだし反撃開始だ!ガンガン行くぜ!」
「では俺が先陣だ!」
「あたしだよ!」
 二人は早速先陣争いをはじめた。
「ここはこのダイゴウジ=ガイ様が!」
「切り込み隊長つったらあたしに決まってるんだろ!」
「あの、二人共」
 そんな二人にヒカルが声をかけてきた。
「ヌッ」
「どうしたんだ、ヒカル」
 ヒカルは顔を向けて来た二人に対してまた言う。
「そんなこと言ってる間にサブロウタさんとナガレさんが行っちゃいましたよ」
「ナヌッ!?」
「何時の間に」
「今さっきですよ。お話してる間にもう先に」
「何ということだ・・・・・・」
「あたしのお株が奪われるなんて・・・・・・」
「お株を奪われて恥をおっかぶる・・・・・・」
「何か今回もイズミさんのジョークは面白いですね」
「・・・・・・そうか!?」
 リョーコは脱力しながらもそれに突っ込みを入れる。
「まあいい。こうなりゃ仕方がねえ」
 そしてすぐに立ち直った。
「旦那、こうなりゃ開き直ってガンガン行くぜ!」
「うむ、派手に暴れるか!」
 二人は頷き合った。
「ヒカル、イズミ、やってやるぜ!」
「うんうん、リョーコさんはこうでなくっちゃ」
「少し藤原中尉入っています。注意」
「だからイズミよお、何でも駄洒落に絡めるなよ」
「面白いからいいじゃないですか」
「とにかくだ。皆行くぜ!」
「それじゃあ僕も」
「って副長もいたのか」
「嫌だなあ、僕だってパイロットですから」
「それじゃあ六人で行くか。あの二人に負けないようにな」
「アキトさんはいませんよ」
「ん、どうした!?」
「敵のボスと戦ってます。ブラックサレナで」
「そうだったのか。何か主役みたいだな」
「黒い衣を纏った主役ですね」
「そう言われるとあいつも格好いいな。どっか頼りないんだけれどな、いつも」
「母性本能をくすぐられますか?」
「ば、馬鹿言うな」
 リョーコはヒカルにそう言われて顔を急に赤らめさせた。
「何てあたしがそんな。大体だな」
「はい。大体」
「あんな頼り無い奴は。何ていうか側で見ていてやらねえと心配でな」
「心配で仕方がないだけだと」
「まあそういうことだ。誤解するなよ」
 必死に取り繕ってこう言う。
「わかりました」
「わかってくれたならいいさ。じゃあ行くぜ」
「了解!」
「美味しくいただきまぁ〜〜す」
「旦那と副長もいいんだな」
「俺に異論はない!」
「僕はそれでいいです」
「よし来た。それじゃあ反撃開始だ!」 
 五機のエステバリスが突攻を仕掛ける。そしてサブロウタ、ナガレと合流した。その側ではアキトのブラックサレナが北辰と激しい一騎撃ちを展開していた。
 北辰が杖を手に攻撃を仕掛けるがブラックサレナはそれをかわす。そして間合いを取って遠距離から反撃する。両者はそれぞれ得意とする戦法に持ち込もうとしていた。
「ふむ、ただ単に腕をあげただけではないな」
 北辰はそれを見て言った。
「ブラックサレナの力もある。それもかなりな」
「それは否定しないさ」
 アキトも言い返す。
「今御前に対抗出来ているのはこのブラックサレナのおかげなのは事実だ」
「ほう、素直だな」
「だがそれだけじゃない。俺だってやってやるんだ」
「機体の性能に溺れない、ということか」
「そうだ」
 アキトはまた言い返した。
「ブラックサレナを乗りこなす。そして御前を倒す」
「私を」
「火星の後継者・・・・・・。御前達が何を考えているかまではわからないがな」
「残念だが私は火星の後継者達ではない」
「何だって」
「私は単に雇われたに過ぎない。当然部下達もな」
「どういうことなんだ、それは」
「言った通りだ。私は本来別の組織だった。だが草壁中将に雇われたのだ。金でな」
「じゃあ傭兵か」
「簡単に言うとそうなる」
 そして彼もそれを認めた。
「彼の大義とやらに力が必要だったということだ。そして私達は雇われたのだ」
「そしてネオ=ジオンにも」
「所詮彼等は同じ穴の狢。大義とやらには興味はないがな」
 シニカルな口調で言う。
「だが貰った分だけは働く。それが私の考えだ」
「だから俺とも戦うのか」
「貴様の場合はそれだけではない」
「何!?」
「貴様との勝負は実に面白い」
 彼は不敵に笑いながらそう述べた。
「これからどうなっていくのかな。そして今もだ」
「今も」
「闘う度に腕をあげている。果たしてどうなっていくか」
「見極めたいとでもいうのか」
「そうだ」
 彼は言い切った。
「強くなるがいい、テンカワ=アキト」
「俺の名前を」
「当然知っているさ。ロンド=ベルのことは全て調べてある」
「くっ」
「貴様のオゾンジャンプの能力もな。どうやら貴様はかなりの潜在能力を秘めているようだ」
「俺が。まさか」
「自分では案外気付かないものなのだ、人間とはな」
 北辰は思わせぶりにこう言った。
「それも見ていきたいものだな。ここで死ななければな」
「馬鹿な、俺は負けない」
 彼も言い返した。
「俺は宇宙一のラーメンを作るんだ、それまでは」
「ラーメンなぞに興味はないのでな、生憎」
「じゃあ一体」
「戦いだけに興味がある。だからここにいる」
「御前は一体・・・・・・」
「今言った筈だ。戦うことだけに興味があると」
 彼は涼しい顔でこう述べた。
「二度も言わせるとはな」
「そうか。戦闘マシーンってわけか」
「否定はしない」
「俺は違う。俺は」
「ではそれを私に見せてみよ」
 今度は挑発する様にして言った。
「見事な。そうすれば貴様を認めてやろう」
「御前なんかに認められる為に戦ってるんじゃない!」
 彼はまた言い返した。
「俺は・・・・・・俺のラーメンの為に」
「戦うというのか。ではそれでいい」
 これ以上の会話に必要性を感じなかったのか打ち切って来た。
「行くぞ。よいな」
「行ってやる!」
 アキトは激昂した声をあげて突き進んだ。そして北辰も攻撃を返す。両者の戦いもまた激しさを増していった。
 激しい戦いの中ドモンはマクロスの甲板の上にいた。そしてそこで敵を迎撃していた。
「この程度で!」
 彼は空から来る敵に対しても遅れはとらなかった。跳躍しその時に敵を屠る。それで一機ずつ敵を倒していた。
「俺を倒せると思っているのか!」
「調子いいね、兄ちゃん」
 そんな彼にサイシーが声をかける。見ればシャッフル同盟も一緒である。
「サイシー」
「今日は何時になく張り切ってんじゃん。どうしたんだよ」
「キリマンジャロが近いと思うとな」
 ドモンはそれに対してこう答えた。
「自然と気合が入る。身体に力がみなぎってくるようだ」
「いいね、そんな気持ち」
 ヂボデーがそれを聞いて声をかけてきた。
「燃えるハートってやつだな」
「そうだな。確かに戦いに心が向いている」
 ドモン自身もそれを認めた。
「あいつともうすぐ会えると思うとな」
「キョウジ=カッシュとか」
「ああ」
 今度はアルゴが言った。ドモンはそれにも応えた。
「あいつはこの手で必ず倒す」
「そうか」
「ですがドモン、焦りは禁物ですよ」
「ジョルジョ」
「今の貴方には焦りが見られます。それではデビルガンダムに遅れをとりますよ」
「そうか」
「その通り!」
 ここでマクロスの艦橋の方から声がした。
「この馬鹿弟子があっ!戦いに焦りは禁物だと何度言えばわかる!」
「この声は!?」
「誰だと思う?」
「もう言わなくてもわかるでしょ」
 それを聞いたマリアとさやかが呆れた声で話していた。
「戦いにおいて最も重要なのは平常心よ!それがわからぬ貴様はやはりアホなのだ!」
「マスターアジア、何処だ!」
「ここじゃ!」
 見ればマクロスの艦橋の頂点に彼がいた。生身で腕を組みそこに立っていた。
「そこにいたか!」
「わしの気配に気付かぬとは貴様もまだまだ未熟よのう」
「なっ、航行中の戦艦に生身で出ているだと」
 これにはさしものグローバルも驚きを隠せなかった。モニターには確かに彼が映っていた。間違えようがなかった。
「何者なんだ、彼は」
「少なくとも普通の人間ではないかと」
 クローディアは何とか平常を保ちながらそれに答えた。
「東方不敗マスターアジア。何処まで恐ろしいの」
 早瀬ですら驚きを隠せなかった。
「まさか超音速の戦艦の上にいるなんて」
「ちょっとお、幾ら何でもあれはないでしょ!」
 ミレーヌがそれを見て叫んでいた。
「どなってるのよ。あんなこと出来るなんて人間なの!?」
「信じたくないけれど一応人間らしいわよ」
 アスカがそれに返す。
「そうなの」
「そうよ。とんでもないでしょ」
「とんでもないって次元じゃないわよ」
 ミレーヌはまだ叫んでいた。
「話には聞いてたけどあんなことできるなんて嘘でしょ」
「あたしも最初はそう思いたかったわよ」
 アスカの声がどういうわけか半分喧嘩腰に聞こえる。
「こんなの。使徒だって素手で倒すのよ」
「嘘・・・・・・」
「本当よ」
 ミレーヌに対してレイが答える。
「車より速く走ることだってできるわ」
「聞いているとさらに人間とは思えないわね」
「だから嫌なのよ、あの人を見るのは」
 アスカは拒絶反応を露わにしてこう述べた。
「こんなの。普通じゃないでしょ」
「そもそも普通の基準なんてあいまいなものだけれど」
「バカシンジ、あんたは黙ってて」
 今度はシンジに噛みついた。
「どっちにしろあの人が出て来たってことはもうそれだけで常識がぶっ飛んじゃうんだからね」
「何か超兵器みたいね」
「人間最終兵器よ」
「成程」
「まあ後は何が起ころうとあたしは驚かないわ。何があろうとね」
「そう」
「見てたらわかるわ。あまりの凄さに腰抜かさないようにね」
「何かよくわからないけれど了解」
 ミレーヌは答えた。
「それじゃあ見ながら戦争続けるわ」
「弾にあたらないようにね」
「うん」
「それじゃあ音楽頼むわね」
「了解。曲は何がいい?」
「そうね。じゃあプラネット=ダンスをお願いするわ」
「オッケー、それじゃ」
 ミレーヌはプラネット=ダンスの演奏をはじめた。それをバックにマスターアジアは話を続けていた。
「フン、その程度でよくもシャッフル同盟キング=オブ=ハートを名乗れたものだ」
「何だと!」
 ドモンはそれを聞いて激昂する。
「この程度の連中に手こずっているのがその何よりの証拠よ。わしならばこの様な連中ガンダムファイターを使わずとも倒してくれるわ!」
「またとんでもないこと言ってるよ」
「考えたら駄目よ」
 アスカはミレーヌにそう忠告をした。
「いいわね」
「納得できないけどわかったわ」
「そういうこと」
「では見せてくれよう、流派東方不敗の真の技を!」
 そう言いながら跳んだ。
「消えええええええええええーーーーーーーーーっ!」
 蹴りを繰り出した。それで目の前にいるカトンボを一機突き破った。
「まだよ、この程度ではわしは終わらん!」
 そしてそのまま空中で態勢を立て直す。回転しながら別の木星トカゲに向かう。
 今度は拳であった。一撃を加えるとさらに攻撃を続ける。
「ハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
 それで完全に粉砕した。降り立つとまた飛翔した。
「なっ、艦から艦に飛び移るだと!?」
 ブライトが驚きの声をあげた。マスターアジアはラー=カイラムに降り立っていた。
「フフフフフフ、まだよ、まだまだあっ!」
 また飛び上がる。そして木星トカゲ達を屠っていく。その姿はまるで鬼神の様であった。
「何ということだ」
 グローバルはそれを見てまた呟いた。
「あんなことができる人間がこの世にいるとはな。世の中は広い」
「それだけの問題ではないと思いますが」
 クローディアがそれに答えた。
「まだ信じられません」
「私もだ」
「あんなことができるとは。嘘だとしか思えません」
「だがどうやら現実の様だ」
「はい」
「その結果として火星の後継者達の戦力はかなり落ちている。今が好機だ」
「はい。それでは全軍攻撃開始ですね」
「うむ」
 彼は頷いた。
「一気に戦局をこちらに引き寄せよう。それでいいな」
「了解、それでは」
「攻撃開始だ、いいな」
「はい」
 こうしてロンド=ベルは攻撃に入った。火星の後継者達にもうそれを防ぐことは出来ず為す術もなく倒されていくだけであった。北辰もそれを見ていた。
「ここが潮時か」
 彼は戦局を見て冷静にそう述べた。
「全軍撤収だ。よいな」
「はっ」
「了解」
 それに北辰衆達が頷く。そして彼等も戦いから退きはじめた。
「テンカワ=アキトよまた会おう」
 彼は最後にアキトに声をかけた。
「今度会う時は楽しみにしているぞ。ではな」
 そう言い残してその場から姿を消した。他の北辰衆と木星トカゲ達も撤収した。こうしてキリマンジャロでの航空戦は終わった
のであった。
「とりあえずはこれで終わりか」
「いえ、もう一人いますけど」
 トーレスがブライトに対してこう言った。
「彼か」
「はい。どうしますか」
「どうしますかと言われてもな」
 ブライトは戸惑いながらもそれに応えた。
「とりあえずは我々に対して攻撃する意思はない様だしな。様子を見るか」
「そうですか。それでは」
「ただし全機警戒態勢は緩めるな」
 ブライトは緊張を解くことのないように指示を出した。
「いいな。マスターアジアは危険だ」
「はい」
「あれだけの戦闘力を持っている。何があってもいいように警戒だけは続けろ。いいな」
「了解」
「フン、流石はロンド=ベルだな」
 マスターアジアは自分の周りに集まって来たロンド=ベルの戦艦やマシンを見据えながら言った。
「すぐに集まってきおったわ。今は戦うつもりはないというのにな」
「そんなこと信用できるものか」
 そんな彼に対してドモンが言った。彼はマクロスの甲板にいた。
「どういうつもりだ、何故ここに来た」
「何、貴様に言いたいことがあってな」
「俺に!?」
「そうだ。正確に言うならば貴様等シャッフル同盟にだ」
「どういうことだ、それは」
「今の貴様等ではデビルガンダムに勝てはせん」
「何をっ」
「待って、ドモン」
 いきり立つドモンをレインが制止した。
「今は。彼の話を聞きましょう、いいわね」
「クッ、まあいい」
 ここは仕方なくレインの言葉に従うことにした。
「じゃあ言ってみろ、何を言いたいんだ」
「明鏡止水だ」
「明鏡止水」
 シュバルツにも言われた言葉であった。それを聞いたドモンの眉が動いた。
「それを知れ。さすればデビルガンダム、そしてわしとも戦えるようになるだろう」
「貴様とも」
「そうよ。今のままでは歯ごたえがなくて困るわ」
 あえて挑発する様にして言った。
「だから身に着けるがいい。そして見事わしの相手をしてみせよ」
「ああ、やってやる!」
 ドモンは叫んだ。
「明鏡止水、身に着けて貴様を倒す!見ていろ!」
「フン、できるものならな!ではさらばだ!」
 マスターアジアもまた叫んだ。
「風雲再起、いでよ!」
「ヒヒーーーーーーーン!」
 何処からともなく馬のいななきが聞こえてきた。そして風雲再起が飛翔して来た。
「馬までもが・・・・・・」
「何処まで非常識なのよ!」
 ミレーヌはまた叫んだ。だが叫んだところでどうにかなる話ではなかった。
「さらばだ、ロンド=ベルよ!」
 マスターアジアは風雲再起に飛び乗り言った。
「キリマンジャロで会おうぞ!その時までに腕を磨いているがいい!」
「貴様に言われずとも!」
 ドモンはかっての師を睨み据えていた。そして言う。
「倒す!その時を待っていろ!」
「貴様にできるものならな!」
「何だと!」
「わしの気配に気付かぬ未熟者があ!そしてどうしてわしを倒せるというのか!」
「クッ!」
「そりゃ普通生身で戦艦の上になんかいやしないわよ」
「こんな話はじめて見たわ」
 アムとレッシィが呆れた顔で言う。
「本当にね。嘘みたい」
「嘘じゃないっていうのが余計に凄いわね」
「だから御前はアホなのだ!」
 マスターアジアはさらに言う。
「いかなる事態においても敵の存在を忘れぬ。それができぬ貴様にどうしてわしを倒せるというのか!」
「黙れ!」
 ドモンも負けてはいなかった。
「俺は貴様を倒す!さっきも言った筈だ!」
「フン!」
「もう論理もへったくれもないわね」
「熱い男の世界だね、こりゃ」
「レミーとキリーには似合わない世界かもな」
「あら、御言葉ね、真吾」
 レミーがそれを聞いて面白そうに真吾に振ってきた。
「私だって熱い男の世界は好きよ」
「どうだか」
「燃えるじゃない、見ていると」
「まあクールなのが売りの俺としちゃちょっと敬遠したい世界だけれど」
「そう言いながらこの前サンシロー君と熱い話してたわね」
「それでもスポーツは別っと」
「勝手ね、何か」
「男の世界には矛盾はつきものだぜ」
「その首を洗って待っていろ!必ず倒す!」
「フフフ、できるものならやってみよ」
 ドモンを見下ろし傲然として言い放つ。
「やってやる!」
 ドモンはマスターアジアを見上げ宣言した。
「キング=オブ=ハートの名にかけて!」
「ではわしは流派東方不敗の名にかけて!」
「マスターアジア!」
「ドモン!」
 二人は互いの名を呼んだ。
「貴様を倒す!」
「御前を倒す!」
 遂に宣戦が布告された。それで全ては決まった。
「覚悟していろ!」
「その首、洗って待っているがいい!」
「ねえマサト君」
「何だい、美久」
 マサトはここで話し掛けて来た美久に声を向けた。
「あの人についてどう思う?」
「マスターアジアにかい?」
「ええ。マサト君はあの人が人間じゃないって思ってるの?」
「まあね」
 マサトはそれを認めた。
「あんなことができるんだから。やっぱり人間じゃないんじゃないかな」
「そう思うのが普通よね」
「違うの」
「ええ。私にはわかるわ」
 美久は言った。
「あの人は完全に人間よ。間違いないわ」
「あれでかい」
「そうよ。人間の能力を完全に引き出したらああなるみたい」
「そうだったのか」
「それじゃあニュータイプと同じなのか」
 ケーンがそれを聞いて言った。
「難しい話はよくわかんねえけどよ」
「身体と頭脳の違いはあるけれどそれは同じみたい」
「そうだったのかよ」
「ただ、あそこまでなるには相当なトレーニングが必要だけれど」
「相当、ねえ」
「どうやったらあそこまでなれるんだか」
「どっちにしろ俺達には無縁な話だね」
「あんた達はちょっと怠け過ぎなのよ」
 いつもの調子の三人にアスカが突っ込みを入れる。
「ちょっとは真面目にやりなさいよ」
「あれっ、俺達だって真面目だぜ」
「そうそう、いつもクールでダンディなタップ様ってね」
「何処がよ」
「まあそれはあの蒼き鷹の旦那に譲って」
「そういえばあの旦那もどうしてるかねえ」
「生きてるだろうけどな」
「まあそのうち姿現わすんじゃない?格好よくね」
「格好よく、かあ」
「主役奪われたりして」
「おい、縁起でもないこと言うな」
「本当にそうなるかもな」
「ライト、おめえまで」
「ドモン!」
 外であれこれ言っている間にも話は続いていた。
「では待っているぞ!さらばだ!」
「ヒヒーーーーーーーーーーーーーン!」
 最後に風雲再起のいななきが聞こえた。そしてマスターアジアは姿を消した。彼は流星の様に華麗に姿を消していった。
「行ったか」
「とりあえずは、ですけれどね」
 トーレスがブライトにこう言った。
「けれどキリマンジャロでは大変なことになりそうですね」
「ああ」
「あの御仁とデビルガンダム。辛い戦いになりそうですよ」
「我々以上に彼等がな」
「シャッフル同盟ですか」
「そうだ。ここで一皮剥けて欲しいが」
「それは彼等の頑張り次第ですね」
「できると思うか」
「思う、ってのはうちにはない言葉じゃなかったでしたっけ」
「そうか。そうだったな」
 ブライトはそう言われ笑って返した。
「不可能を可能にする、それがロンド=ベルだったな」
「そういうことです」
「だからドモンも、か」
「とりあえずはキリマンジャロまで行きましょう」
 サエグサも言った。
「それからですね。全ては」
「わかった。それでは向かうとするか」
「了解。進路はキリマンジャロのままで」
「ああ、頼む」
 戦いを終えマシンを収納してキリマンジャロに向かう。彼等もまた戦いに赴こうとしていたのであった。
 ドモンは大空魔竜の中に入った。だがそこでも彼は闘争心を抑え切れないでいた。
「クソッ!」
 憎しみの目でマスターアジアが消えた方を見る。だがそれでもどうにもならないことは明らかであった。
「ドモン」
 そんな彼にレインが声をかけてきた。
「レイン」
「気持ちはわかるけれど今は」
「一人にしておいてくれないか」
 だがドモンはそれを拒もうとした。
「今は」
「そう・・・・・・」
 そう言われてはもう返す言葉はなかった。レインは仕方なくそこから立ち去ることにした。こうしてドモンは一人になった。
 彼は夕暮れの空を見ていた。まるで炎の様に赤い空を。
 そこで何かを見ていた。それが何かは彼だけがわかっていることであった。しかしその先に何があるのか、そこまではわかってはいなかった。

第六十四話   完


                                     2006・1・1

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