明鏡止水
「さて」
 白いスーツの男がそこにいた。暗く、巨大な玄室であった。
「あの方は無事彼等のところに辿り着きましたよ」
「・・・・・・・・・」
 それを聞いて何かが頷いた。
「いずれ貴方達も動くことになるでしょう。準備は宜しいですか」
「・・・・・・・・・」
 その何か達はまた頷いた。
「この地球を守る為に。神は貴方達を作り上げた」
「・・・・・・・・・」
 返事はないが意識は感じられた。白いスーツの男にはそれが感じられていた。それを感じながら話を続けていた。
「宜しいですね、何もかも」
「・・・・・・・・・」
「頼みますよ、その時は」
 彼は言葉を続けた。
「ここから出る時です。そして地球を救う時」
 何かの意志があるらしい。だがそれが何かまではわからなかった。わかっているのは彼だけであった。
「それができるのは私達、そして彼等だけなのですから」
 そう言い残してその場を後にした。何かが動こうとしていた。

 ロンド=ベルはキリマンジャロに到着した。そしてそこでシャッフル同盟を中心として訓練がはじめられたのであった。
 目的は言うまでもなかった。彼等が明鏡止水を得る為である。ロンド=ベルの面々は彼等を中心として訓練を行いはじめたのであった。
「行くぜ!」
 ドモンのシャイニングガンダムに対して甲児が攻撃を仕掛ける。
「来い!」
 ドもンは身構えていた。甲児はそれに対して容赦のない攻撃を仕掛けて来た。
「ロケットパァーーーーーーンチッ!」
 ロケットパンチであった。本気で撃っていた。その証拠にそれはドモンのシャイニングガンダムの急所を的確に狙ったものであったからだ。
「ヌウッ!」
 ドモンはそれを避けることができなかった。ガードして防ぐのが精一杯であった。だがそれでは不充分なのは誰の目からも明らかであった。
「クッ、駄目だ!」
 ドもンはそれを防いだ後で言った。
「こんなことでは・・・・・・。明鏡止水なぞとても」
「そもそもその明鏡止水って何なんだよ」
 甲児が問うてきた。
「ちょっと甲児君」
 それを聞いてさやかが声をあげる
「もしかしてそれを知らずに訓練に参加していたの?」
「ああ、そうだけど」
 甲児は何も知らないといった顔でそれに答えた。
「けどそれがどうかしたのかよ」
「あっきれた」
 彼女はそれを聞いて呆れた様な声を出した。
「何で知らないのよ」
「そもそも明鏡止水ってどういう意味なんだよ」
「それは」
「それは僕が説明するよ」
「大介さん」
「明鏡止水とは武道の極意の一つなんだ」
 彼は言った。
「武道の」
「そう。何事にも動じず、己を見失わない。簡単に言うとこうなるんだ」
「そうだったんですか」
「何か難しいですね」
「そう、これを身に着けるのは非常に難しい」 
 大介はまた言った。
「だからこそ彼も悩んでいるんだ。そうおいそれとは身に着けられないからね」
「そうだったんですか」
「けど本当にそんな難しいのできるんですかね」
「過去には何人かいたそうだ」
「過去には」
「けれど。殆ど伝説の話さ。それでもドモン君達はしなくちゃいけないんだ」
「それはわかっている」
 ドモンはそれに答えた。
「だが。どうやって掴めるというんだ」
「それを見極める為にここにいるんじゃないのか?
 そんな彼に京四郎が声をかけてきた。
「京四郎」
「皆御前さん達に付き合っているんだ。その程度はわきまえて欲しいな」
「何だと!」
「まあそう怒るな。それこそ明鏡止水とは最もかけ離れた状態じゃないのか」
「クッ!」
「とりあえずは修業を続けるんだな。そしてそこから手に入れるんだ」
「それしかねえみてえだな」
 それを聞いてシャッフル同盟の他の面々が言った。
「そうですね。では続けますか」
「皆も協力してくれるしね」
「ならばやるぞ。そして明鏡止水を身に着ける」
「それじゃあ今度は俺が相手になってみる」
「一矢」
「ドモン、遠慮はいらないぞ。どっからでもかかって来い」
「わかった」
 ドモンはそれを受けて身構える。そしてダイモスと対峙した。
「本気で行くぞ!」
「来い!」
「ダブルブリザァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッド!」
 一矢はいきなり切り札を出してきた。胸からダブルブリザードを出す。
「うおっ!」
 そしてそれはシャイニングガンダムを襲った。ドモンは宙に舞った。
「ドモン!」
「兄ちゃん!」
 それを見てヂボデーとサイシーが叫ぶ。
「な、これがダイモスのパワー!」
「まだだ!これで終わりじゃないぞ!」
 一矢は叫んだ。そして次の動きに入った。
「必殺!烈風!」
 拳を構える。そして攻撃を繰り出しにかかった。
「正拳突きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーーッ!」
 落ちてきたシャイニングガンダムに対してその拳を繰り出す。激しい衝撃がシャイニングダンガムとドモンを襲った。
「うおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーっ!」
 多くの敵を一撃の下に葬り去ってきたダイモスの切り札であった。だがドモンはそれもかろうじて耐えてみせた。
「まだだ、まだだ!」
 彼は立っていた。そして闘志を失うことなくこう叫んだ。
「俺は倒れん!」
「いや、今日はここで止めておこう」
 だが一矢はここで構えを解いた。そしてドモンに対してこう言った。
「何故だ!」
「ドモン、今の君は疲れている。これ以上の訓練は無意味だ」
「何!」
「その証拠が今だ。普段の君なら俺の攻撃でも何なくかわせた筈だ」
「クッ!」
「だから今日はこの位にしておこう。明日もあるしな」
「だが俺は」
「いや、一矢君の言う通りだ」
 大介も言った。
「それにシャイニングガンダムの修理のこともある。今日はこれで止めておいた方がいい」
「だが」
「そんなにやりたいんなら生身でやってもいいんじゃねえのか」
「生身で」
 ドモンは甲児の言葉に顔を向けた。
「ああ。まあ疲れているんならいいけどよ」
「そうか。その手があったか」
「どうだい?シャッフル同盟でよ。特訓でも何でもよ」
「甲児君も参加してみたら?」
「馬鹿言えよ、俺でもガンダムファイターとまともにやり合うなんてことできはしないぜ」
 さやかの言葉に慌てて顔を向けて言う。
「さやかさんだってそんなの無理だろ」
「それはまあね」
 甲児もさやかも格闘能力はかなりのものを持っている。ドクターヘル配下の工作員と何度も拳を交えたことがあるのだ。ただパイロットの能力だけでマジンガーやダイアナンエースのパイロットになっているのではないのである。これは鉄也やジュン、そして大介達も同じであった。
「ここは連中に任せようぜ。とりあえず俺達はお開きだ」
「そうね。食事の後でトレーニングに行きましょ」
「ちぇっ、どっちにしろ身体を動かさなきゃいけねえのかよ」
「文句言わない。私達も特訓よ」
「へいへい」
 そんなやりとりを続けながら彼等は休息に入った。ドモンはその後で何処かへと姿を消した。シャッフル同盟達も一緒であった。
「何処に行ったのかしら、もう」
 レインが彼等の姿を捜して言う。
「いつも勝手な行動ばかりするんだから」
「やっぱり心配なんだね」
「当然でしょ」
 アレンビーにこう返す。
「パートナーなんだから。それにここだってデスアーミーが出て来るかも知れないし」
「大丈夫よ、五人いるんだし」
「そういう問題じゃないのよ」
「そういう問題じゃないって?」
「危ないじゃに。やっぱり」
「皆と離れていると?」
「そうよ。あのメンバーは何するかわからないんだし」
「特にドモンが」
「ええ」
 レインは困った様な顔をして頷く。
「ドモンって私の話は全然聞かないし。それで危ないことばかりするから。心配なのよ」
「そんなに心配なら行ってみれば?」
「行ってみればって。何処にいるか知ってるの?」
「大体のところはわかるわ。じゃあ行く?」
「ええ、よかったら案内して」
「わかったわ。それじゃ」
 アレンビーはそれに応えて今までいた木の上から飛び降りた。そしてレインの前にやって来た。
「行こう、こっちよ」
「ええ」
 こうして二人はドモン達のいる場所に向かった。その頃ドモン達はギアナの滝の側で激しい訓練に明け暮れていた。
 濃紫の空には黄金色の月が朧ながら巨大な姿を現わしていた。そして彼等はその下で修業を続けていた。
「ヌンッ!」
「まだだ!」
 互いに拳を繰り出し、そして蹴りを浴びせる。だがその中でも彼等はまだ明鏡止水を掴めないでいたのであった。
「まだだ、この程度では」
「何もわからん。明鏡止水、一体何だというのだ」
 普段は無口なアルゴでさえ苦渋に満ちた声を漏らす。彼等は悩み、苦しんでいた。
「このままでは」
 特にドモンの焦りは大きかった。彼は目の前に自分以外のものを見ていた。
「この馬鹿弟子があああっ!」
 それはマスターアジアであった。彼はドモンを前にして叫んでいた。
「クッ!」
 ドモンはそれを見て苦渋の声を漏らしていた。
「まだわからんのか!今まで何をやっておったかあ!」
「言うな!」
 ドモンはマスターアジアの幻想に対して叫んでいた。
「俺は、俺は・・・・・・」
「フン、どうやら何もわかってはおらんようだな」
 マスターアジアは戸惑うドモンを侮蔑した顔で見ていた。
「そんなことで明鏡止水を身に着けられると思うてかあ!何もできておらぬではないか!」
「何だと!」
「未熟、未熟!どうやら貴様を見込んだのはわしの間違いであったわ!」
「まだ言うか!」
 ドモンは拳を繰り出した。しかしそれはあえなく受け止められてしまった。
「チッ!」
「やはりこの有様よ。まるで蝿が止まるようだな」
「蠅だと!」
「そうよ、貴様は蠅よ!」
 幻影はまた叫んだ。
「薄汚い蠅よ!蠅ならば大人しく潰されるがいい!」
「誰が!」
 今度は蹴りを出す。しかしそれは幻影を切っただけであった。
「無駄なあがきよ。貴様のやっていることはな」
「無駄かどうかはすぐにわかる!」
 ドモンはまたしても叫んだ。
「もうすぐそれを見せてやる。そしてデビルガンダムを倒す!」
「その言葉偽りはないな」
「!?誰だ」
 ドモンはその言葉に我に返った。そして辺りを見回す。
「誰なんだ、一体」
「私だ!」
 そして叫びと共に一人の男が姿を現わした。
「な・・・・・・シュバルツ=ブルーダー!」
 その男はシュバルツであった。彼は今滝の上に一人腕を組んで立っていたのであった。その背には黄金色の満月があった。
「シャッフル同盟、何だこの様は!」
 シュバルツは五人を見下ろしてこう叫んだ。
「何!」
「明鏡止水すら会得出来ずに世界を守れるというのか!恥を知れ!」
「おい、いきなり出て来て大層なこと言ってくれるじゃねえか!」
 ヂボデーがそれを聞いて激昂した声をあげた。
「そうだそうだ!大体あんた何でいつもいきなり出て来るんだよ!」
「そんなことはどうでもいい!」
 ヂボデーとサイシーの言葉はこれで一蹴した。
「私は貴様等のあまりものふがいなさに憤慨してやって来たのだ!」
「憤慨して」
「わざわざここまでか」
「そうだ!」
 ジョルジュとアルゴにもこう返す。
「貴様等だけで何も掴めないというのなら私が相手をしてやろう。行くぞ!」
「なっ!」
 彼は飛び降りた。そして空中で飛翔しドモン達に対して何かを投げて来た。
 それは手裏剣であった。無数の星形のものがドモン達に対して襲い掛かって来た。
「まずはこれをかわしてみろ!」
「手裏剣!」
「クッ、シュバルツ=ブルーダー、本気だというのか!」
「本気でなければわざわざ来たりはしない!」
 シュバルツはまた叫んだ。
「そしてこれだけではない!」
「なっ!?」
 シュバルツの姿が消えた。そして同時に気配まで消えてしまった。
「クッ、何処だ」
「何処だ、何処にいるというのだ」
 シャッフル同盟は必死に辺りを探る。だがシュバルツの気配は何処にも感じられはしなかった。
 辺りは静まり返っていた。だがドモン達の動揺する気がその静寂を静寂でなくしていた。
「やはりその程度か」
 それはシュバルツにもわかっていた。彼はそれを感じこう言った。
「やはり御前達に世界を守ることはできはしない。ならば」
 シュバルツは姿を現わした。
「ここで死ぬがいい!引導を渡してくれよう!」
 シュバルツは一人ではなかった。五人いた。そして五人のシュバルツがシャッフルとそれぞれ対峙したのであった。
「行くぞ!」
 五人のシュバルツが跳んだ。そしてドモン達に襲い掛かる。
「覚悟はいいな!」
「チッ!」
 まずそれに反撃を加えたのはドモンであった。彼は咄嗟に身構えた。
「させん!」
 この時彼は無心になった。焦りも怒りも消え去っていた。ただ戦いにのみ心が研ぎ澄まされていたのであった。
 その時変わった。何かが。彼の右腕が黄金色に変わった。
「な・・・・・・」
 他の四人がそれに気付いた。そして彼等の腕も黄金色に変わっていた。
「どういうことだ、これは」
 まずアルゴが言った。
「腕が黄金色に」
 そしてヂボデーも。
「腕だけではありません」
 ジョルジュが続く。
「身体全体が。しかも紋章まで」
 サイシーが最後に言った。見れば彼等の身体は黄金色に輝きその腕にはそれぞれの紋章が浮き出ていた。
「それこそが明鏡止水だ」
「これが」
 ドモン達はシュバルツ達に顔を向けた。
「そうだ。わだかまりやこだわりの無い澄んだ心、それこそが明鏡止水なのだ」
「そうだったのか」
「今御前達の心にはわだかまりも焦りも何もかもが消えた。そして戦いにのみ心が向けられた」
「だからか」
「そう、その時にこそはじめて明鏡止水は会得されるのだ。そしてそれが人に己を超えた力を身に着けさせるのだ」
「それが今の俺達だというのか」
「そうだ」
 シュバルツはまた言った。
「今御前達はその入口に立ったのだ。そう、今こそ・・・・・・ムッ!?」
「ドモン、大変よ!」 
 そこにレインとアレンビーがやって来た。
「レイン」
「デスアーミーが出たわ!」
「何だと、デスアーミーが!」
「クッ、よりによってこんな時に!」
 シュバルツはそれを聞いて舌打ちした。
「ドモン、話は後だ。今はデスアーミーに迎え!」
「わかった!」
 だがそうはいかなかった。突如として彼等の前にあの男が姿を現わしたのだ。
「そうさせんぞ、ドモン!」
 彼はいきなりドモン達の前に姿を現わし叫んだ。
「なっ、マスターアジア!」
「ここは通さん!今ここで葬ってくれようぞ!」
「マスターアジア、どうしてここに!?」
「フン、わしは何時いかなるところにも姿を現わすことができるのだ!愚問だな!」
「な、何て事なの・・・・・・」
 レインもそれを聞いて絶句した。
「話はよい!ドモンよ覚悟はいいか!」
「やらせるか!今の俺は!」
「わしを倒せるというのか!その明鏡止水で!」
「やってやる!行くぞ皆!」
「おう!」
 シャッフル同盟の面々はそれに応えた。一斉に身構える。
「ガンダァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァムッ!」
 叫んだ。そして何処からかガンダムがやって来る。ドモン達はそれに飛び乗った。
「来い、マスターアジア!」
「フン、ならばわしも呼ぼうぞ!」
 マスターアジアも叫んだ。
「いでよ、マスターガンダム!」
 黒い影が飛翔した。そしてマスターアジアはそれに飛び乗った。彼等はまるで一心同体であるかの様に動きを合わせたのであった。
「マスターガンダム、見参!」
「見せてやる、明鏡止水を!」
「ほう、また言いおったな!」
 マスターアジアはそれを聞いてニヤリと笑う。
「ドモン、デスアーミー達は俺達に任せな!」
「ヂボデー!」
「おいら達もちょっと自分の腕を試したくてね!」
「サイシー!」
「貴方はマスターアジアに専念して下さい。周りは私達が受け持ちます」
「ジョルジュ!」
「御前はその戦いに専念しろ。そして見事師を越えてみせろ」
「アルゴ!皆済まない!では行くぞ!」
 ドモンの右手がまた輝きはじめた。
「俺のこの手が真っ赤に燃える!」
 彼はまた叫んだ。
「師匠を倒せと轟き叫ぶ!」
「よくぞ言った!」
 マスターアジアはそれを聞いて高らかに笑った。
「それでこそ我が弟子!見事わしを倒して見せよ!」
「言われずとも!行くぞ!」
 二人は同時に前に出た。
「シャァァァァイニング!」
「ダークネス!」
 それぞれの拳を繰り出し合う。
「フィィィィィィンガァッーーーーーーーーーー!」
 黄金色の光と漆黒の影がぶつかり合う。だがそれはマスターアジアの勝利に終わった。
「ウオオッ!」
 ドモンは吹き飛ばされた。そして背中から大きく地面に叩き付けられたのであった。
「クッ、どういうことだ!」
「馬鹿者があっ!」
 そこにガンダムシュピーゲルに乗ったシュバルツが現われた。そしてドモンに対して怒声を浴びせた。
「シュバルツ!」
「今の御前はまだ完全ではないのだ!」
「何だと!」
「まだ修行中だ!それで明鏡止水を完全に会得している筈がなかろう!」
「クッ、そうだったのか!」
「フン、そんなこともわかっておらなかったのか!」
 マスターアジアは地面に倒れ付すドモンに対して言った。
「だから御前はアホなのだ!そんなこともわかっておらぬのだからな!」
「何だと!」
「付け焼刃なぞこの東方不敗には無駄なことよ!確かなものでなければな!」
「確かなもの」
 ドモンは呟きながら立ち上がってきた。
「確かなものでなければ駄目だというのか」
「そうよ!」
 彼はまたしても叫んだ。
「見せてみよ、貴様のその確かなものをな!」
「ああ、やってやる!」
 ドモンも叫んだ。
「この技で!最早迷いはない!」
 その目を瞑った。そして瞑想に入る。
「フン、念仏でも唱えるというのか!」
 だがドモンはそれには応えない。ただ目を閉じ、意識を集中させているだけである。
 その身体が次第に黄金色になっていく。今彼の心は澄み渡り一点の曇りもなかった。
「そうだ、それでいいのだ」
 シュバルツはそれを見て言った。
「何事にも動じない。それこそが明鏡止水の心なのだ」
「ほう、完全に会得した様だな」
 マスターアジアはそれを見て不敵に笑った。
「その力で。何を掴むかドモンよ」
「それは・・・・・・」
 その目をカッと見開いた。
「勝利だ!」
 彼は叫んだ。そしてその右の拳を掲げた。
「最早動じん!行くぞマスターアジア!」
「来い!馬鹿弟子があっ!」
「行くぞ!流派、東方不敗の名し下に!」
 ドモンは身構えた。
「超級!覇王!」
「超級!覇王!」
 マスターアジアも映じ技の名を叫んでいた。二人の動きは今完全に重なっていた。
「電影弾ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
 今二人は技を同時に繰り出した。そして激しくぶつかり合った。
「ウウウ・・・・・・」
「ヌヌヌ・・・・・・」
 二人は凌ぎを削り合う。そこに一点の余地もなかった。
 だがそれも遂に限界があった。二人は遂に技を中断し互いに退いたのであった。
「やりおるな」
 マスターアジアは構えを取り直して言った。
「明鏡止水、遂に会得しおったか」
「勝負はこれからだ!来い!」
「そうしたいのはやまやまだがな」
 だがマスターアジアはここで奇妙なことを口にした。
「何だと」
「ここは下がろう。勝負はお預けだ」
「待て!逃がすか!」
「逃げるのではない。その証拠にキリマンジャロで待っておるわ」
 彼はそう言いながら構えを解いてはいなかった。まだ警戒を続けていたのだ。
「風雲再起!」
「ヒヒーーーーーーーーーーーーーーーーン!」
 そして愛馬を呼んだ。馬のモビルファイターがそこに姿を現わした。
 マスターガンダムはそれに乗った。そしてそこからドモンを見下ろしながら言った。
「ドモンよ、とりあえずは褒めておこう」
「褒めるだと」
「明鏡止水を会得したことをだ。どうやら貴様はまた一つ成長した様だな」
「貴様なぞに言われたくはない!」
「まあ聞け。だがそれで終わりではないのだ」
「どういうことだ」
「戦いはまだこれからも続く。今貴様は明鏡止水という長い道のその最初に入ったに過ぎないのだ」
「最初に」
「そうだ。やがてその意味もわかるだろう。だがその日はない」
「何だと」
「貴様はキリマンジャロで死ぬからだ。デビルガンダムによってな」
「貴様ァ!」
「精々首を洗って待っているがいい。ではさらばだ!」
 こうして彼は戦場から姿を消した、見れば戦いは終わりデスアーミー達も姿を消していた。こうしてドモン達の戦いは幕を降ろしたのであった。
「とりあえずはおめでとうといったところだがな」
 ヂボデーがまず言った。
「けど。素直には喜べないね」
「ああ」
 アルゴはサイシーの言葉に応えた。
「明鏡止水は会得したが。まだマスターアジアもデビルガンダムも残っている」
「それにしても気になる言葉です」
「最後のマスターアジアの言葉か」
「はい。私達は明鏡止水の入口に入ったに過ぎないというあの言葉です」
 ジョルジュはドモンの言葉に応えて言った。
「まあこれから多くの道があるのですか」
「その通りだ」
 ここでシュバルツが言った。
「まだ御前達の戦いははじまったばかりだ。明鏡止水もな」
「そうか」
「そうだ。だからこそ己の腕を磨いていけ」
「己の腕を」
「そうすればより強くなる。ドモン!」
 彼はドモンの名を呼んだ。
「御前もこれからさらに強くなれ。そしてマスターアジア、デビルガンダムを倒すのだ」
「マスターアジアを」
「その時は必ず来る。私はそれを楽しみにしているのだ」
「出来るのか、俺に」
 だがドモンはその言葉に戸惑いを見せた。
「マスターアジアを越えることが!」
「御前は何度も言っている」
 だがシュバルツはそんな彼に対して言った。
「あの男を倒してみせると。倒すということは即ち越えるということだ」
「そうなのか」
「そうだ。やってみせろ。御前は今狙う者だ」
「ああ」
「狙われる者より狙う者の方が強い。ならば出来る筈だ」
「出来るのか、俺に」
「できる。だがそうなる為にはより多くの戦いが必要だ」
「戦いが」
「強くなれ、ドモン」
 声がさらに強くなった。
「そして師を越えろ。いいな」
「師匠を」
「その時にこそ御前は本当の意味でガンダムファイターとなっている。ではまた会おう」
 そう言いながら何処からか煙玉を取り出した。
 そしてそれを足下に投げる。それで彼は姿を消したのであった。
「本当の意味でのガンダムファイターか」
 もう朝になろうとしていた。彼はその中で呟いていた。
「マスターアジアを倒したその時にこそ」
「そうですね」
 それにジョルジュが応えた。
「貴方が師を越えたその時こそ本当の意味で戦士となっているということでしょう」
「師を越える」
「親離れってことかな」
 ヂボデーはまた言った。
「親から離れてやっと一人前ってな。そういうことじゃねえかな」
「そうかなあ」
 サイシーはそれを聞いて首を傾げる。
「何かちょと違う気もするけどな」
「いや、大体の意味では同じだ」
 だがアルゴがそれに対してこう述べた。
「親も師匠も同じだ。育ててくれるという意味ではな」
「そうですね」 
 それにジョルジュも頷いた。
「だからこそ越えなければならないもの」
「そうだ」
「巣立たなければなりませんから」
「そうだな。ドモンもその時が来ようとしているのだ」
「俺がマスターアジアから離れる時がか」
「けれど離れ方は一つじゃないわ」
 今度はレインが言った。見れば彼女もアレンビーもガンダムに乗っていた。
「色々あるから。それも考えてみて」
「俺にはそこまではわからないが」
 ドモンは俯いてそれに応えた。
「今俺がやることはわかっている」
「それは」
「マスターアジアを倒す!それだけだ!」
「よし、じゃあやってみな!」
 また何処からか声がした。
「その声は・・・・・・豹馬か!」
「ああ、だけど俺だけじゃないぜ!」
 コンバトラーXが姿を現わした。そして他のマシン達も次々と出て来た。
「ドモン君、遂に身に着けたようだな」
 グレンダイザーもいた。大介は優しい声でドモンに語りかけてきた。
「大介さん」
「まさか本当にやり遂げるとはね。凄いことだ」
「そんなに凄えことなのかよ」
「甲児君、今まで何聞いてたのよ」
 さやかがそれを聞いて呆れた声を出した。
「難しいって大介さんも言ってたでしょ」
「それはそうだけどよ」
「凄いことなのよ、まさか皆身に着けるなんて思っていなかったけれど」
「それじゃあシャッフル同盟はかなり強くなったってことだな」
「その通りだ」
 鉄也がそれに応えた。
「最早シャッフル同盟はこれまでのシャッフル同盟とは違う。本当の意味で世界を守る戦士になったんだ」
「そうだったのか」
「これでデビルガンダムも倒せる。遂に時は来た」
「ああ」
 ドモンもまた鉄也の言葉に頷いた。
「やってやる。デビルガンダム、待っていろ!」
「では全軍出撃だな」
 大文字はそれを聞いて決断を下した。
「目標キリマンジャロ中央」
「はい」
 ミドリがそれに頷く。
「作戦目的はデビルガンダムの撃破だ。それでよいな」
「わかりました。それでは」
「何かあっという間だったな」
 ピートが操縦桿を操りながら呟く。
「何がだ」
「明鏡止水までだ。最初は無理じゃないかとさえ思ったんだがな」
 サコンにこう応える。
「だがそれはどうやら俺の認識不足だった様だ。連中は見事やってくれた」
「そうだな。これで俺達の戦力もまた上がった」
「では行くか」
「よし」
「少し待ってくれ皆」
 だがここでモニターに誰かが姿を現わした。
「貴方は」
「お久し振りです、大文字博士」
 それはウルベであった。彼はいつもの様に落ち着いた顔でロンド=ベルの前に姿を現わしたのであった。
「ウルベさん」
「ドモン君、今こちらにも話は伝わったよ」
 ウルベはドモンに対して声をかけてきた。
「明鏡止水を会得したそうだね、おめでとう」
「はい」
「これで君もさらに強くなったということだ。それは素直に喜ぼう」
「有り難うございます」
「そして私がここに現われた理由だが」
「祝辞を述べに来られたわけではないのですな」
「はい」
 大文字の言葉に頷いた。
「実はドモン君に贈りたいものがありまして」
「贈りたいもの」
「そうだ。新型のガンダムファイターだ」
「新型、まさか」
「そう、そのまさかだ」
 今度はレインの言葉に応えてきた。
「ゴッドガンダムが遂に完成した。今そちらに向けて発射したところだ」
「発射!?」 
 それを聞いたビーチャが顔を顰めさせた。
「今発射って言ったよな」
「うん」
「確かに」
 モンドとイーノがそれに応える。
「何かおかしかねえか、モビルスーツを発射なんてよ」
「ビーチャ、モビルファイターよ」
 ルーが突っ込みを入れる。
「おっと、そうだったか」
「モビルファイターだから発射してもいいんじゃないかな」
 ルーはまた言った。
「どうしてさ」
「だってあれ呼び掛けに応じて現われるし。ダイターンみたいに」
 今度はエルに説明する。
「だから大気圏だろうが何だろうが平気なんでしょ。それで呼び掛けに応じて何処にでも現われる」
「それ考えると凄いマシンよね」
「確かに」
「大気圏突入可能だなんて。ゼータみたいだよ」
 モンドとイーノはまた頷いた。
「確かにゼータは参考にさせてもらったよ」
「やっぱり」
 ガンダムチームの面々はウルベのその言葉を聞いて頷いた。
「だが変形機能はない。そのままで突破は可能なんだ」
「凄えマシンだな、おい」
 今度はジュドーが言った。
「まるで化け物みてえだ」
「だってガンダムファイターだし」
「何でもありなんだろ、結局は」
「ははは、手厳しいお嬢さん達だな、これはまた」
 プルとプルツーの言葉に合わせるかの様に今度は白髪に眼鏡をかけた知的な紳士が姿を現わした。
「貴方は」
「どうも、大文字博士」
 その紳士もまた大文字に挨拶をかけた。
「御父様」
 そしてレインも彼に声をかけた。何と父と呼んだのだ。
「元気なようだな、レイン」
「はい」
「それで何よりだ。ドモン君と仲良くやっているかな」
「ええ、まあ」
 だがこれには言葉が少し鈍かった。
「一応は」
「ははは、まあ彼のことは御前に任せているからな」
「はい」
「お姉さんらしくしっかりと面倒を見てくれよな」
「レインさんってドモンさんより年上だったの」
「少し意外ね」
 ファとエマがそれを聞いてヒソヒソと話をする。
「同じ年だと思ってたの?」
「はい、まあ」
 ファはレインに声をかけられてこう答えた。
「違ったんですね」
「若く見られるのはいいけれどね」
 レインは笑いながらこれに言葉を返した。
「ドモンより一つ年上なのよ、実は」
「そうだったんですか」
「小さい頃から知ってるけれど。その時から手を焼いたわ」
「やっぱり」
「そして今もいつも一緒にいるというわけなんだよ」
「幼馴染みってわけですね」
「そういうことさ」
 ファは紳士にも言われ納得した。そして話は再開された。
「ミカムラ博士」
「はい」
 紳士は大文字に名を呼ばれ彼に顔を向けた。
「ゴッドガンダムは貴方が開発されたのですな」
「そうです。シャイニングガンダムをさらに改良したもので」
 彼は説明を続ける。
「シャイニングガンダムよりも高い攻撃力と運動性を持っております。これならばデビルガンダムにも対抗できるでしょう」
「デビルガンダムにも」
「ゴッドガンダムはガンダムファイターとしてだけではなく他の戦闘も考慮して開発されたものです」 
 ウルベがここで話に入ってきた。
「それにはデビルガンダムへの対策も入っております。その為攻撃力と運動性がさらに高くなったのです」
「そうだったのですか」
「はい。そしてドモン君が操縦することを念頭に開発しました」
「俺が」
「そうだ」
 ミカムラ博士は頷いた。
「期待しているよ、これで見事デビルガンダムを破壊してくれ」
「言われなくとも」
「ちょっとドモン」
 レインがここで注意する。
「そこははい、でしょ。言われなくても、じゃなくて」
「そうだったか」
「ははは、別に構わないさ」
 だがミカムラ博士はそんな彼を笑って許した。
「ドモン君はそれでいい。闘志が前面に出ていなくてはな」
「いいのね、それで」
「いいんだよ。私もドモン君は小さい時から知っているしね」
 暖かい目になっていた。
「君の父上とも長い付き合いだし」
 そう言いながら寂しい目になっていた。
「だからこそ。宜しく頼むよ」
「はい」
 ドモンは今度はまともに頷いた。
「父さんは・・・・・・俺が救いだす!絶対に!」
「是非共頼む。いいね」
「それではゴッドガンダムはもうすぐ到着する筈だからすぐにそちらの作戦に戻って下さい」
「はい」
 大文字はウルベの言葉に応えた。
「我々からはそれだけです。それでは」
「レイン、ドモン君、またな」
「はい」
「さようなら」
 こうしてウルベとミカムラ博士はモニターの前から姿を消した。彼等が消えた後で豹馬はちずるに声をかけてきた。
「なあ、ちずる」
「何?」
「ミカムラ博士とドモンの親父さんって知り合いだったのか」
「ええ、そうよ。何でも一緒にガンダムファイターを開発していたそうよ」
「ふうん、そうだったのか」
「けど何であんな寂しそうやったんや?」
 今度は十三がちずるに尋ねてきた。
「何かあったんかいな」
「カッシュ博士は今冷凍刑に処されているのよ」
 ちずるはそれにも答えた。
「冷凍刑」
「ええ。デビルガンダム事件の責任をとらされてね。それで」
「そうやったんか」
「何か複雑な話でごわすな」
「ドモンさんはそんなお父さんを刑から解き放つ為にも戦ってるのよ」
「それを考えるとあいつも重いもの背負ってるんだな」
「そうですね。そこにドモンさんの影があると思います」
「影か」
 小介の言葉にも耳を傾ける。
「人間誰だって光と影がありますから。ドモンさんだっていつもあのテンションではない筈ですよ」
「そうか。言われてみればそうだな」
「豹馬はいつも変わらへんけどな」
「おい十三、そりゃどういう意味だ」
「単純やっちゅうこっちゃ」
「何、俺が単純だと」
「だから止めなさいって二人共」
 ちずるがその間に入る。
「もういつも喧嘩ばかりするんだから」
「こいつが先に言ってきたんだぜ」
「挑発に釣られる方が悪いんや」
「もう。けれどこれでドモンさんはお父さんを刑から釈放することができるのね」
「デビルガンダムに勝てば、でごわすな」
「完全に破壊できれば、ですけれどね」
 だが小介はまだ懐疑的であった。
「デビルガンダムの生命力は異常な程ですから。今度で完全に破壊できればいいのですが」
「できなかったら」
「ドモンさんのお父さんはそのままです。そうならないことを祈ります」
「そうね」
 コンバトラーの面々の心配はそのままロンド=ベル全体の心配であった。皆同じことを考えていたのであった。
「ピート君」
 大文字はピートに声をかけてきた。
「今度こそ、デビルガンダムを完全に破壊するぞ」
「わかってますよ」
 何時になく強い言葉の大文字に彼も強い言葉を返した。
「じゃあ行きますか」
「うむ」
 大空魔竜が発進した。続いて六隻の戦艦も。キリマンジャロの死闘が遂に幕を開けようとしていた。


第六十五話   完

                                  2006・1・5
 

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