あの狼岩の事件からあけて数週間後……SUP極東支部の諜報部の隊長となった俺、陣内陽介は日曜の休日を使って、極東支部の訓練場で剣の訓練をしていた。
 手には木刀を持ち…回りに、4体の木でできた訓練用のダミー人形がある。そう、今俺は居合い斬りの訓練をしているのだ、目隠しをして制止している人形の位置を精神統一で見極める。
「……的は4つ…」
 見えない闇の中で感じ取った4つの的に向かって木刀を振り下ろした。
「はぁっ!!」
ジャイィィィィーーーーンッ!!
 体の回転を利用して、一刀で4つの人形を横に両断にし…上空に制止させる。
 人形は空中で、ビデオのスローモーションのように遅く見えるイメージが頭に入ってくる。俺は、木刀を縦に両手で持ち…体の横に持ってくる構え…
「斬っ!」
バキィぃーーンッ!
 上空に上がった4つの人形は気合の一喝と共にバラバラに粉砕した。4つほぼ同時に……ふぅ、こんな物か……
 刀を鞘に仕舞うように、木刀を背負い…余っている片手で目隠しに手をかけようとしたその時……
「ん?」
 何かが向かってくる気配を感じる、三つだ…再び木刀を構えその気配に向かって斬る。それは俺の目の前で両断される。
「……なんだ?」
 目隠しを取って、向かってきた物を確認すると……それはバケツだった。三つとも両断されているが…
「お見事……」
「舞さん」
 訓練場の入り口に、竹刀を持った舞さんが拍手をしている。
「舞さんですか?バケツを投げたのは」
「はちみつくまさん…」
「結構驚きました、全然気配のない不意打ちでしたから……」
 半ば呆れながらそう言うと、舞さんは俺に近づいて…
「でも、見るたびに、陽介は強くなっていく……」
「ありがとうございます…、師匠がいいからかな」
 俺がSUPの関係者になってから、舞さんに剣術を習った。魔物との戦いで舞さんが使っていた剣術、対魔一神流…その名の通り魔を一掃する為の剣術を俺は習い数々の技を得た。技の一つ一つ利点や弱点を知り…そして、この前の事件で俺は舞さんが覚えられなかった…奥義の鉄血無爪を覚える事が出来た。
 そう言うと、舞さんは竹刀を俺に向けて…
「勝負……」
「手合わせですか、魔物との戦い以来ですね……良いですよ、でも前までの俺とは一味違いますよ…」
 舞さんと戦うのは、魔物戦で俺が魔物に体を支配された時以来である。その時は自我が無くただ一心に舞さんを倒そうと斬りかかって行った。そして、舞さんの兜割りが俺を救ったのだ……本当にその時は舞さんの足ばっかり引っ張っていたが……今は違う。
「確かめる……」
「……上等です」
 舞さんは竹刀を構え、俺も持っていた木刀を構えて舞さんと対抗する。間合いの空気が張り詰めた…舞さんもまったくと言って良いほど隙が無く…いつどっちからか斬りこむか解らない…緊迫した雰囲気……
 この訓練場は、仮想空間で外のモニター室で画面を選択すれば色々な場面が設置される。俺が選んだのは、剣士が決闘するのに相応しい草原っぽいところを選択した。
 空間に風が吹き……設置された木から、緑色の木の葉が…俺達の間をひらひらと落ち…地上についた瞬間…俺達はバッと消えた。
 再び舞さんが現れた瞬間に木刀を振り…両者の刃が木の高い音を上げて交差した。


機動狩猟者
ウォーハンター『陣』
ミッション01『シロガネ…』


「痛ぅーっ…やっぱ強いですよ、舞さん」
「……大丈夫?」
「ま、舞さん…」
 ぼろぼろになった俺は、地面に転げて…舞さんが唐突に膝枕をさせられ少し動揺した。
「陽介も強くなっている……あの時より…剣にも切れが出始めた」
「だけど、舞さんは早すぎて鉄血無爪が放てないですよ……挙句は、木刀折られたし…勝負ありました」
 さっきの戦闘は両者とも技と技をぶつけ合い、両者は互角同然だった。対魔一神流は技の組み合わせや技の早さが勝利へと導くのだが、鉄血無爪を繰り出す前に木刀は舞の剣技により折られて、刃の部分が無くなり柄だけになっていた。
「爪系統は最も難しい奥義の一つ、あなたはそれを覚えただけでも凄い……」
「技出される前に、武器破壊されるなんて様……まだまだ俺も未熟だ」
 少し自身がなく言うが…舞さんは俺の頭を撫でて…
「自分の剣に自信を持つのも大事……」
「自信か……」
「陽介は…必ず全ての奥義を会得して私より強くなって……」
 舞さんは子を思う母のように俺の頭を撫でながら、少しはにかんだ。腹違いではあるが舞さんは俺の姉でもある…少々甘えても罰は当たらないだろうと思い…
「少し、眠っても良いですか」
「……陽介、疲れた?」
「ああ……」
 特訓の疲れや疲労もある……それ以前に舞さんの膝は気持ちいい…、目の前がまどろんできて、瞼が重くなってきた。そして俺は舞の膝枕の中眠りについた。
「陽介……眠った」




 夢

 繰り返す過去の夢……

 銀髪の少年と少女出会い……
『私は美汐…天野美汐といいます』
『……俺は…シロガネ』
 唐突過ぎる出会い……それは再会でもあった…

 少年は、少女に会いに来た……ただそれだけの為に…
『俺は、自分が何者で何処から来たのか解らない……でも、美汐に会いたいから来たんだ』
『シロガネ……あなたは、まさか…』

 惹かれ会う心が交錯する……恋はいつだって唐突に起きて…
『俺は人間ではない……それでも、君は好きだと言ってくれるのか』
『…言ったでしょ、シロガネが何であろうと…私はあなたが人間だって言えるから』

 兆候が起きるのは遅くは無かった…
『まだ熱い…熱が下がらないよ、シロガネ』
『仕方無い事だよ美汐……この熱は下がらない…』
『どうして?』
『時が…近い……』

 別れの時も唐突に訪れた、少年は自分の生まれた場所で光の粒子となっていた。
『いやっ、いなくなっちゃ嫌だよっ!シロガネぇ!』
『…これは運命なんだ……仕方の無い事だよ』
 少年は泣き叫ぶ少女に抱きしめられながらもにこりと笑い…
『ありがとう美汐……君に会えて良かっ………』
『シロガネ…』
 そして少年は、言葉を終える途中で…光となり彼女の腕の中から消えた。銀色の子狐が一瞬見えたような気がした……後には、その少女しかいなかった。




「はっ…」
 彼女は布団から飛び起きて…胸に手を当てる。心臓の音が速くなっていることがわかる。
「また……あの夢…」
 少女の中学の時に起きた悲しい別れは、今もこうして夢にまで出てくる。少女の名を天野美汐……
「もう…忘れたいのになぜ、あなたは私を苦しめるの?シロガネ……」
 過去に出会った、銀色の狐は…彼女の前に唐突に現れそして唐突に消えた。彼は…美汐に会いたい、それだけで自らの記憶と姿…そして命を掛けて人間となった。
 それがどう言う意味を示しているのか、美汐が気づいた時にはもう遅かったのだ……
 もう……遅かった……ものみの丘に古くから伝わるおとぎ話……

 この御伽話は、最も残酷な形で一人の少年に降りかかろうとしていた。




「ん……」
 何だ、今の夢は……俺の頭の中に入ってきた…
「あはは〜っ、陽介さんおはようございます〜」
 諜報部室のベッドの上だった。体の数カ所には包帯で巻かれていた舞さんに打たれた個所が多い事が解る。
 ベッドの近くの椅子には、佐祐理さんがちょこんと座っていた。視線をそらせば下着が見えそうで少しきわどいが、俺は上体を起こして…腕に巻かれた包帯を触ると…
「打撲を数カ所…って所か」
「やられましたね〜陽介さん」
 佐祐理さんが俺の隣で微笑んで俺は少し照れくさい。俺は時計を見たすでに午前6時…後2時間で学校へ行かなくてはならない時間だ…
「またここで眠ってしまったらしいですね……」
「はい〜とても可愛い顔で眠ってましたよ〜」
 うっ、その笑顔で言われると俺も反論ができない。でも気になるのはさっきの夢だ…少なからず自分の夢とは考えにくい。としたら…
「誰かの夢が俺の頭に入ってきた……」
「はえ?誰かの夢…ですか?」
 佐祐理さんはきょとーんと聞いてきた。
「……少し、悲しい夢だった」
「悲しい……夢ですか?」
「…いや、これ以上は言ってはいけないな……」
 俺は佐祐理さんに気を使って言わない事にした……佐祐理さんも、弟一弥を失った苦い過去がある。それを考えたら、好きな奴と別れなんて夢は言わない方がいい。
「はい〜それでは佐祐理も聞きたくありません」
「佐祐理さん……」
「悲しいお話は好きではありませんから…」
「すいません…」
 笑顔で言う佐祐理に俺は少し申し訳ない……俺とした事が…
「そして、陽介さんはその悲しい夢を見た人をどうしたいですか?」
「……できれば、そっとしておくのが賢明なんですがね…」
 だがベッドの隅に置いてあった刀を取る手は少し汗ばんで、手が震えていた。何だろう…前まではこんな事無かったのに……
 身が震える寒気のような物を感じる……俺が?武者震い?何だ、嫌な予感がする。
「でも、期末テストが終わればもう少しで夏休みですよ〜」
「はいそうしたら、調査が進みますね」
「ええ、でも陽介さんと遊べる機会が増えますね〜」
「あ…そうか……」
 不安を拭い去るような佐祐理の笑顔に持ち前の落ち着きと冷静さを取り戻す。


 そして、極東支部から学校へ向かうバスの中で…
「少佐…昨日の居合い斬りはすごかったですね、木刀でダミー人形を一瞬で斬るなんて」
 すっかり話し慣れてしまったバスの運転手が俺に声をかけてきた。
「……ああ、見てたんだ」
「いえ、私もね昔は剣道習ってたんですよ…結構な腕でしてね」
「そうか……」
「今度是非手合わせしたい物ですな」
「ははっ、お互い暇ができたらな」
 まあ…互いに暇ができる事はないかもしれないけど……
「少佐の学校の近くで…今朝方変死体が発見されたらしいですよ」
 突然、緊張した声が俺の耳に届く。殺人事件か?なんだ、また…この感じ……
「…場所は……」
「商店街から西の住宅街らしいです……」
「確かに近いな……」
「あなた達の、斎藤さんが調査に当たっているらしいですよ」
 斎藤さんが……さすがは行動が早い……
「変死体って言うにはどんな死体なんですか?」
「それは、報告を待ってくださいや……少佐も期末テストなんですから」
「正論だ……」
 少し気になったが、俺は学校が近くなったからバスを降り、その後は歩きで行く事にした。
「うむ…冷静な判断力、そして仲間を思う優しき心……確かに本郷君の言った通り、期待できる新人だ……だが、まだまだ成長するぞあの少年は」
 運転手は去り行く陽介の後姿を見送りながら呟いた、その男は…SUP内では5本の指に入る実力者の一人で変装の名手で知られ、『白い鳥』の異名を持つ男である。

 嫌な予感が取れない……今朝起きた猟奇的な殺人事件…そして、夕べ自分の頭に入りこんできた悲しき夢…この二つは何か関連性があるのか。それに夢に出てきた子は…
「おっす、陣内…あいも変わらずアンニュイな表情してんな」
 いきなり、俺の後ろを悪友の北川が押した。
「一度ならず二度までも……」
「なんか、悪いことしたか?」
「どうしてこうもいつも後ろを取られるんだろう……」
「修行が足りんっ!」
 北川が冗談めいて言うと俺ははぁ、とため息をついて…
「そうなのかもな……俺はまだまだ未熟かもな…」
「おお、それよりこの近くで殺人事件だぜっ!しかも猟奇的な」
 話題が何時の間にか、今朝の殺人事件の事になりさっき運転手の話しを思い出す。
「さっき知り合いから聞いた……」
「まあ聞け、問題はその殺され方なんだよ。なんでも、獣の爪や牙で引き裂いたような傷跡があるらしいんだよ」
「獣?」
 その言葉に俺は妙な引っかかりを覚えた。
「おお、でっかい熊や虎みたいな動物がかみ殺したって感じの死体ってニュースで言ってたぜ…ついに出たのかな、巷で話題になっているアンノウンって奴が」
 最近では、一般にもアンノウンが現れた場合は注意しろと通知が来ている。俺達も第三勢力してマークしている……
「アンノウンだとしたら、不可能犯罪だ…獣のような爪跡を残すような物理的攻撃では殺さない…たぶん違う何かだ」
「なんだ、やけに詳しいな」
「知り合いが警察にいてね……よく教えてもらえる」
 その警察の知り合いとは本郷さんの事だ……
「まっ、どのみち遅かれ早かれ…ここにもアンノウンが現れるかもしれないからきをつけねぇとな…」
「不吉なことを抜かす……」
ゾクリ!
 何だ、俺の後ろから凄まじい殺気を感じて背筋が凍りつくような感覚が襲った。
「!?」
「どうした、陣内……」
 何かが俺の後ろにいる…しかも、俺を狙っている……人間じゃない、獲物を狙う猛獣の如くジンジンと感じる刺々しい視線と殺気…そして…生々しい血の匂い。全ての生物を凍りつかせる威圧感に身が震えた。
「陣内、おい…顔色悪いぞ」
「……」
 北川の声など、もはや聞こえていなかった……他の声は聞こえたが…
『陣内陽介……お前を殺して俺はただ一人の陣内陽介になる』
「何……ただ一人の俺?」
 何処だ、何処にいるっ!!俺は、必死でその気配を出している物を探した。俺のひとみに…謎の少年が映った。少年は揺らぐ陽炎の中、にやりと不気味な笑いを浮かべている
 …なっ何っ!?…俺…俺だと…顔が俺に似ていた……揺らぐ銀色の髪と邪悪に満ちた表情だけ違っていたが…その顔は…確かに俺だった。
『お前は死に、俺は人間となる……』
「?!」
 奴は、消え行く陽炎と共にその姿を消した。
「陣内っ!じんなーいっ、聞こえるか、もーしもーしっ!」
「はぁっ…」
 まるで、金縛りから解かれるように…正気を取り戻して、北川の方を見た。
「おい、陣内…汗だくだぜ、気分でも悪いんじゃないのか?」
「いや、大丈夫だ」
 全然大丈夫ではないのだが……
「本当かよ…それより、お前のせいで完璧遅刻だぜ」
 そう愚痴をもらしながらも、北川は俺に肩を貸してやり…そのまま学校へと向かい、結局遅刻となったが、俺は北川に連れられて保健室行きとなった。

 保険室のベッドに横になり、俺はさっきの事を考えていた。

 …何だ、あいつは…もう一人の俺と考えるのが普通だけど……人間じゃない気配を感じた。どちらかと言えば、獣…猛獣と言った方が良いだろう、それにあの血の匂い…多分、朝の殺人事件の犯人はあいつだろう。
『俺を殺して人間となる……ただ一人の陣内陽介となる』
 奴はそう言っていたが、自分が人間となるのは解るが、なぜ俺になるんだ?あの様相を見る限りでは、あれは俺を殺してから、俺と入れ替わるつもりなのかもしれない…が、果たしてそれだけの為に無関係の人間を殺すのか……
 獣……なんだ、この言葉に妙な引っかかりが…

 とにもかくにも、いつ襲われても反撃ができるように、刀は持っていないと…。俺は刀の入った袋を持ちながら教室へと戻って行った。
「あ、陽介君…もう大丈夫なの?」
 階段の所まで来た所で、丁度名雪と美坂に鉢合わせした。
「まあな、少しの貧血であのバカ(北川)は大げさなんだ」
「でも大事を取って今日の体育は休んだ方が良いよ」
 名雪、お前も十分過ぎるほど大げさだよ……俺は十分過ぎるほど大丈夫だ。
「いや俺は本当に大丈夫だ……格好から見て、次は体育らしいな」
 体操服姿を見る限りと、さっきの名雪との会話でなんとなく解った
「男子はいつもの通り、バスケよ…」
 美坂はいつも通り呆れ気味で答えた。うーん、よく見ると美坂って体操服が似合うな。髪も後ろに縛って…名雪はいつも部活で見ているからな。
「似合ってるな……美坂」
「え?何…」
「うにゅ?」
「いや、忘れろ…美坂。男子どもはもう向こうだよな」
「ええ、早く行かないと入れないわよ」
「解った……」
 そう言うと二人と別れて教室へと戻って体操服を取り…体育館へと行く事にした。俺とした事が…美坂に何色目使ってんだ…まったく、俺らしくもない。

 俺は、何とか男子更衣室に間に合い、北川と相沢と合流する。
「おう、もう大丈夫か?陣内」
「ああ…おかげさまでな…まったく、ただの貧血でへこたれるか」
「はぁ〜これで、相沢チームに勝てると思っていたのにな陣内が来たら…」
 北川ははぁとため息をついて残念そうにうなだれた……当然あの触覚もへこんでいる。
 この触覚には必ず神経が通っている……俺は絶対そう思う…
「じゃっ、頼むぞ陣内っ!」
「がってん…」
 俺は更衣室の脇に、刀の入っている袋を置いて…さっさと着替えて皆の元に戻って行った。思えばここで刀をここに置いて行かなければ、良かったのかもしれない……

ポスッ
 バスケットのゴールに、俺の投げたボールが軽快な音を立てて入った。俺の体は調子を取り戻している…よし、さっきの違和感は無い。
「よっしゃぁっ!でかした、陣内!」
「……ふっ、こんな物か」
 まあ少し、ハンデをつけてやったつもりなんだけどな……北川チームはいつものように呆然自失となっている。そして…いつものように……
「鮫島ぁ…お前がいつもとろいからぁ、相沢チームにやられんだろぉ〜」
「ごめ〜ん」
 鮫島に八つ当たりをする北川…敗因は鮫島一人ではなく北川チームの構成が悪いと俺は戦略的にそう思うが…
「くぁーっ!美坂にいい所見せられねぇだろうが!このだめだめボーイ」
「だべぇ〜」
 鮫島よりお前自身の実力もつけたほうが良いぞ北川…

 一方、男子がバスケをやっている向こうで、女子がバレーボールをやっていた。名雪と香里のチームはまだ自分のチームに行っていないので待機組だ。
「あ、香里〜陽介君また一点入れたよ〜」
「大した体力ね彼も、相沢君チームの点数は殆ど陣内君が入れているじゃない」
「でも良かったね、陽介君が元気そうで」
「そうね……ってなんであたしに聞くのよ」
「祐一も頑張って欲しいよ〜」
「ちょっと名雪、人の話しをっ」
 顔を真っ赤にして香里は名雪を揺さぶる…その頭上で金属が軋む音がしているのに気付かずに…

「よし、陣内っ!」
 相沢が俺にボールをパスして、俺がそのボールをゴール手前で受け取り…ゴールに向かってスローでシュートしようとした時…
ヴゥンッ!
 何だ?さっき感じた違和感と同じ…何っ!?殺気だと…
グラァッ!
「んっ!?何っ!!」
 何かが崩れる音がして、全員の動きが止まった。音の先は女子達がバレーをしている方で体育館の天井に吊る下げてあったバスケットのゴールが崩れ始めたからだ。
「崩れるぞっ!逃げろっ!!」
 男子の方を担当していた先生の声で、その真下にいた女生徒達はこちらや体育館の外へと逃げ始めた。
「名雪っ!逃げるわよっ!」
「うっうん…」
 美坂と名雪も、その場から離れようと立ち上がりこちらに向かってくる。
「キャッ!」
 だが、美坂が…そのゴールの真下で足をくじいて、倒れこんだ。
 もうワイヤー一本が支えている状態のゴールはいつ落ちても不思議ではない。
「やばいぞ、名雪っ!」
「みっさかぁぁーーっ!!」
「ちぃぃっ!」
 倒れこんだ美坂の元へ相沢と北川が向かい、俺もその後を追う。
「香里っ!大丈夫っ!」
 名雪が引き返して美坂に肩を貸して立ち上がろうとした時…
ビキィン!
 ついにワイヤーが切れてゴールが名雪と美坂に落下してきた。
「名雪っ、香里っ!!」
「美坂ぁぁぁーーっ!」
「水瀬さんっ!」
 ちっ、走って間に合う距離じゃないっ!このままだと、名雪と美坂が…刀が、刀さえあれば……んっ?
「相沢っ、北川っ!そこをどけっ!!」
 俺は丁度手に持っていたバスケットボールを構える。右足を前に出し重心は左足に…体は横に90度回転させ…左腕の腕力をチャージ…そして重心を前に出した右足に移しながら回転させた体に遠心力をかけて……標的に向かって投げつけろっ!!
 当たれっ!ラウンドトリップ!
「えっ!?」
「何ぃっ!」
ギュルーンっ!
 俺の投げたボールは、高速回転しながら美坂と名雪に落下してくるゴールに向かって一直線に突っ込んで行く。
「きゃーっ!」
「ふにぃっ!」
バキィィィーーーーンッ!
 ボールは二人の頭上すれすれの所でゴールに命中して、そのゴールを体育館向こうへと押し出した。
ガシャァァァンッ
 ゴールは、俺の投げたボールに押やられて…体育館の壁に激突して四散した。
「ふぇ?」
「何が起きたの?」
 多少の砂埃が起こったが…名雪と美坂は二人とも無事のようだ…だが、とっさにボールを使うのは少し不安だった。ボールはその丸さから、まっすぐ飛ばずに旋回して当たらないかもしれなかったからな…
 いちかばちかだったが……成功しなければ二人とも助からなかっただろう…
「名雪っ、無事か!」
「うん…祐一…すっごく怖かったよ〜」
 駆け付けた相沢に名雪はぎゅーっと抱きついた。
「わわっ、見られるだろうがっ!」
「まったく、こんな時でもいちゃつかないでよね……」
「美坂、無事でよかったぞぉぉ!」
「何ドサクサにまぎれて抱き着こうとしてんのよっ!!」
パコーンッ
 北川が、美坂に抱き着こうとして逆に吹っ飛ばされて…俺を横切って壁に激突した。まあ、北川があの程度で死ぬとは考えられん。
 俺はまだ倒れている美坂といちゃつく相沢と名雪の元へと辿り着いた。
「大丈夫か?二人とも…」
「うん、陽介君のおかげだよ〜」
「そうね…それにしても、何百キロくらいあるゴールをボール一つで飛ばすなんて…凄いわね」
「まあ、それ程でもないが……美坂、立てるか?」
「何とか……痛っ」
 結局、美坂は足をくじいたらしく、俺と相沢で肩を貸してやり保健室まで運ばれた。

 それにしても、気になったのが……ゴールのワイヤーが切れた時だ。

 古くて切れたんじゃない……何者かに斬られたんだ…俺はワイヤーが斬れる瞬間に刃らしき物が一瞬だが見えたような気がした。
「……」
 まさか、美坂が足をくじいたのも…誰かが意図的に…

 ………血の匂いが再び鼻に入ってきたような気がした…


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後書きっ
 ウォーハンター初戦『妖弧編』が始まりましたって言うかシリーズ第1作目!今回はカノンキャラに重点を絞って、やって見ようと思います。
 諜報部の仕事は拠点防衛の他に怪奇現象や迷宮入りした奇妙で難解な事件の捜査ですので、こう言う噂話も例外ではありません。が今回は、陽介君単独での行動が多いかも…
 妖弧が…主ですから、真琴や美汐のシナリオっぽくなるかも……

 そして、妖弧の本性や、真琴だけ奇跡的に戻って来れたのか……陽介君と、なぜ似ているのかっ!!
 美汐の過去になにがぁぁぁぁぁーーーーーっ!

 では、そういうこってす

 でもシロガネって名前はどうですかね?返答もとむ…



浦谷より返答

 シロガネでいいと思いますけど・・・

 だって、それは銀の別称なだけじゃないですか。ぜんぜんOKですよっ♪

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