何て奴だ、今までギャラクシアンと戦ってきて、幹部クラスが出てくるのはその専用トーラスを遠隔操作で、現われる者が多かった。特にギュレルはただ萱の外でチェスを楽しむように戦闘をしていたに違いない。はっきり言って…巨大な宇宙組織は全体的にのんびり屋で気が長い奴が多く、ギュレルもまた…そのような小物だろう…短気な所は違うが。
 だが、このギャレールと言う幹部は違う…まさに殺気の塊で、作戦なんて立てずに自分から突っ込んで来る、猪突猛進タイプだろう…単細胞には違いないが、こういう奴が一番とっつきにくい敵だろう。戦いを好む好戦的な奴……

 ギャレールは全身を鎧武者のような装甲版で覆い、手には二本の刀を持ちながらも、腕自体に更に2本の刀をくくり付け、両脚のブーツらしき部分に更に2本と…頭の兜らしき部分には、まるでカブトムシの角を思わせるように…刀が一本装着されている。
 計7本の刀を体中に巻き付け、胴体は強固な装甲で守った…まさに甲虫…
「国崎、俺が奴を引きつけてる間に…佳乃ちゃんを…」
「お、お前はどうすんだよ!」
「…戦ってみる、どうやらこの神社の脱出ルートはこの石段のみだ…俺が奴を気をそらしてる間に、佳乃ちゃんを連れて脱出してくれ。奴の鎧だ…重量はかなりと見ると、動きは鈍い、だけど奴の間合いに入らないようにしろ…油断するとバラバラにされる」
 そう国崎に言うと、国崎は顔面蒼白となって…
「そ、それだけは勘弁してくれ…」
「美凪さんやみちるちゃんの為、お前も気張れ!」
「あ…そうか、今ここで死んだらあいつ等になんて顔したらいいか解らないからな」
「そういう事だ…」
 国崎はそう言って俺を横をゆっくりと離れ始める。
「あ、そうだ…そのカッコの事、後でちゃんと話してもらうからな」
 ああ…そうか、俺…今『狩人』を装着していたっけ…ってそう言えば俺、何かを忘れてるような気がする。
 そう言ってる間に、鎧ギャレールは俺と国崎ににじり寄ってくる、歩くたびにガチャガチャと金属音が鳴り響く。
「ごちゃごちゃ、話をしてるな…ウォーハンター『陣』さあ…俺と剣を交えろ」
 腕に巻きつけた刀と手に持った刀の切っ先を俺に向け対峙する…ギャレールは任務より俺との戦いを望んでいる。単細胞なだけに…危険な奴だ…
 だが今は、引き付けるには丁度いい…
「良いだろう…その単細胞の脳に風穴を開けてやろう…」
 刀を両手で持ち、俺は鉄血無爪の構えを取る…
「初顔合わせ悪いが…ここで消えてもらう」
「見せてみろ、対魔一神流剣技を!」
 俺はギリッと奴を捕らえると、刀をもって走り出す。


機動狩猟者
ウォーハンター『陣』
ミッション12『敗戦』


「鉄の血が…無の爪となり切り裂く……鉄血無爪!!」
ジャァァ!!
 どんな硬い装甲でも、その爪により一撃で引き裂く無の爪をギャレールに斬り付ける。
「ふん甘い!」
ガイーン!
 ギャレールは正面からの爪技に腕の刀を巧みに使って防御した。
「く、重い技だぜ…」
「…(思った通り、奴は装甲だけでなく技もきれるか…)」
ギチギチ
 ギャレールは俺の刀を、腕の4本の刀で押さえつけている…なんてパワーだ、黒狼オルグ以上か…さすがはギャラクシアン幹部。
「余所見してんな!!」
ガイーン!
 俺の腹部に向けて足の刃を突き出そうとする、俺は4本の刀をいなしてそれを紙一重で避けて奴を佳乃ちゃんから引き離した。
「まだまだ来るぞ!」
ギィン、ガィン!
 ギャレールは俺に、7本の剣を巧みに使って攻撃して来た…こいつ、この図体と鎧に刀のオプション付でここまで素早い動きが出来る…ただ剣を沢山つけてるだけの単細胞と思ったが…違ったのか…
 俺は後ろに下がりながら奴の攻撃を刀でいなしたり、避けたりした。
 だが、これは国崎が佳乃ちゃんを助けるに丁度いい…いい時間稼ぎにさせてもらうぞ。
「(国崎…佳乃ちゃんを頼むよ…)」
「どうした、さっきの技で終わりか!?対魔一神流ってのは…」
「そうでもないさ、翼舞い!」
ジャジャジャ!
 刀の切っ先を連続的にギャレールに突きつける、驚異的なスピードで刀が何本にも見えギャレールを攻撃するが、ギャレールも腕や脚の剣でいなしたり…当たったとしてもその装甲を貫くことなく跳ね返してしまう。
「どうした、その程度か!」
 右腕の刀の大きく振り下ろされる、俺はそれを紙一重で避け、飛び上がった所を空中回転する。
「飛翔鉄爪!」
バババ!!
 上空からの回転を利用した、爪がギャレールの眉間に狙いを定めるが、ギャレールの左手の2本の剣が爪の機動を僅かにそらし頬をそれて地面を削った。
「重い技だぜ…やっとそれらしい技が出てきたな…さっきの土を断ち割った爪といい、正面からの袈裟を狙った爪といい…対魔一神流も悪くない」
ガシュ!
「ぬ…!!」
 飛び爪(飛翔鉄爪の事)がそれたギャレールの肩から、紫の血が吹き出る。
 よし、ここまで引き付ければ……後はこいつを…
「あまり、対魔一神流をなめないで欲しいな…あんたの剣が何本あって、それをどれほど巧みに使おうと、俺の切っ先から逃れる事は出来…な…」
バシュ!!
 俺の肩口に鋭く、そして熱い激痛が走って…血が左肩から噴出した。
「ぐわ!」
 こいつの剣を避けたと思った、まぐれとは思えない…こいつ本物の剣豪だ。
「ふふふ……」
 肩を押さえる俺を見てギャレールは不敵な笑みを浮かべる……


一方・往人は…
「あいつ、本当に大丈夫なのか!?」
「……」
 往人は虚ろな表情の佳乃の隣まで来て…先ほどウォーハンターとギャレールが入っていった神社の奥の林のほうを見た。
 あいつは時間を稼ぐとか言ったが…ギャレールと本当に渡り合えるのかが解らなかった。
「あの敵は、鎧に…剣が7本…七刀流って聞いた事が無いが…それに対しあいつは一刀流…勝てんのかよ」
 往人の見た目から見てあの、小柄の陽介(変身してるものの自分より小柄)に巨体に刀が7本もある化け物と…やりあうのは、自分の旅の経験上…ボブ・○ップに戦いを挑むみちると言った方がいいか…

『ムハハハハ!』
『うにー、てごわいぞー!この黒肉弾魔人!』

「とにかく、佳乃…おい佳乃!」
 往人はそんな馬鹿な事を考え付くも、佳乃の肩を揺さぶった。だが、佳乃の表情は一向に元には戻らない。
「…早くしないと、戻ってくるかもしれないだろ!?」
「……」
ズバーーーーン!!
 後方の陽介が入って行った方の林の反対側から破裂音に似た大音響が響き渡る…それと同時に金属がぶつかり合う音が響き渡る。
「あいつ、戦ってるのか!?ボ○と…じゃなくて、あの宇宙人と…」
 往人が感じる所で、剣が交差する音が四方八方からする、あっちで鳴ったと思ったらこっちで鳴り響いている。
「…マジだ…」
 往人の頭に冷や汗が流れる、もはやこれは冗談で片付けられない事だと解った。
「佳乃…」
「……えば…の…ず」
 佳乃が一瞬何かを呟いたような気がした…
「何だ?」
 剣が交わる音で、それが聞き取れない…いつもの佳乃の声より小さな声で…何を言ってるのかさえも…陽介が戦ってる音で、どうにも出来ない。
「……は…ね…」
 ただ、『羽』の単語だけは、往人にも聞き取れた…自分が旅をしていた目的、みちるが帰ってきて終着したはずの旅の理由が今懐かしく思える…

『この空の向こうには、翼を持った少女がいる』
『それはずっと昔から、そして、今、この時も』
『同じ大気の中で、翼を広げて風を受け続けている』

 御伽話のように自分の母から聞かされていた、言葉…
「……」
 まだ、旅は終わっていないのかと…往人は思った。さっき自分が陽介と話していた言葉を思い出す…
『…あいつら頬って置くとどっかにぴゅーって飛んで行っちまいそうだったし』
 確かに、往人が知ってる『変な奴等』は本当に放って置くとどこかへと消えてしまうのではないかと…空に行ってしまうんではないかと…思ったりもする。
『あんたをここに引き止めたのは、何なんだろうな……』
 陽介が聞いた言葉もあながち解っていた間違いなく、あいつ等が往人をこの街に引き止めたのだろう…
 何故かは、自分でも解らない…
ギィン!!
 また後ろで大きく金属が交わる音がした、そしてその向こうの木が倒されていくのに気づいた。結構近い位置で、巨木が倒れるのが見える…
「え…佳乃!?」
 佳乃はその後…糸が切れた人形のように往人の胸にもたれかかった。
「気絶したのか…ち、陣内…死ぬなよ」
 往人は周りからする戦いの音に、これはもうあの化け物の刀の間合いに入った事を十分に確認が取れた。もう脱出しようとしても、奴が何時飛び出してくるか解らない…
 それにこの状態の佳乃をどうする事も出来ない…
「神社の中に一旦避難するしかないか…」
 往人は佳乃を負ぶって、神社の方へと走った。


一方林に戻り…
「……はぁ、ち…さっきの一撃か」
 『狩人』の胸の装甲版に皹が入り…スーツの所々が斬り付けられている…さっきの奴が放った、7本の剣から放たれた一撃の重み…
 とっさに参重殺爪を使って食い止めたが、爪を突き破るほどの破壊力…たしか、『宇宙七刀流』と言ったかギャレールの剣術は、この林の木でかく乱させようとしたが逆にその威力に拍車をかけてしまった。
「局地に飛んだ剣術か…」
 それに『狩人』が、天槍の改修の為に光波修復が出来ない事だ…結城さんが言ったように…一回だけの大勝負と言う事だ。
「うぉぉぉーーーーーーー!!!」
 奴の咆哮が林に響き渡る…この木の上に隠れようと…何時見つけられるか解らない。隙を狙い…爪を当てる事ができれば、勝気はある。
『陣内君、聞こえているか…応答せよ!』
 突然、聞きなれた女の人の声が俺の耳に聞こえてくる。『狩人』のマスクに突然通信を入れられるのは、先日の戦いと二回目だ。それに今度は…
「聖さん…どうしたんですか?」
『せっかく私が通信を入れてやってるのにそれは無いだろう…君の『狩人』が機動してから全てモニターさせてもらったぞ…』
「あ……」
 聖さんの少し怒ったような静かで、そして単調な口調でさっきの事を見られた事で、今彼女が一番聞きたい事が解った。
『佳乃は無事なんだろうな……』
「はい、佳乃ちゃんは俺が敵を引き付けてる間に国崎に任せました。たぶん、もう逃げてると思います」
『いや、ここからの反応から、佳乃と国崎君は神社に避難した…』
「…逃げろといったのに…」
 それに神社の中にはまだ『羽』を回収していないのに…でも、佳乃ちゃんをあの羽が守ってくれるかもしれない。
『君もだいぶ押され気味だ、スーツの事もドクター結城から聞いている…こっちから君のスーツの現在情況が解る…、天槍を使えない分…ダメージを受けたらそれまでだ』
「解ってます…ここでやられるわけには…行きません」
 俺は木の枝の上で刀を構える…そして下の物々しい気配に息を殺した。木の下をずんっと重たい、気配。絡みつくような感じ…いや俺の今の気分は…
「蛇に睨まれた蛙って所か…」
 まだ未熟者って事か…ギャレールの実力はそれ程凄いって事か…
「陣…聞こえてるだろぉ?近くで見ているのは、解ってるんだよ…」
『注意しろ、奴は君の気配に気づいている』
「…了解!」
 ギャレールは明らかに俺の場所に気づいてる…だが、すぐ斬りこめる位置に居るのに…あるのに奴はあえてせずに、俺の出方を伺ってるように思える。
「ぶっちゃけ、俺は『羽』や『羽を受け継ぐ者』の奪取する任務や、この宇宙なんてなんら興味なんぞ無い…俺は、この宇宙剣法・七刀流で宇宙一の剣豪になるべく…他の剣士と戦い…そいつを倒し、また強くなる…お前に会えて本当に良かったぜ…」
ザッ!!
 ギャレールは両腕をクロスさせて、両手の刀の切っ先をX字にする…あの構え…
「そろそろ出て来い……宇宙剣術・七刀流…蛇石流斬!」
「何!?」
ズザザザザザーーーー!!
ブゥン…
 一瞬、俺の体が宙を舞う様な奇妙な感覚を覚えた、ギャレールが腕を振った瞬間、奴を中心として巨大なカマイタチの嵐が起こり、周囲の木を全てバラバラにした。
俺が隠れていた、木の枝も奴の起こしたカマイタチにより、粉砕され俺は宙を舞った。
「ち!」
 何て威力だ、目で追った限りでは2本しか剣は降られてなかったが…体中の7本の剣を全部一回だけ振った。コンマ一秒のキレも無く…鮮やかな弧を描きながら…筆で絵を書くかのごとく…
 だが、攻撃するには…今しかない…
 俺は細切れになった枝を蹴りながら、奴の背後へと回る。
「飛翔鉄爪!」
 追尾しても、防御で跳ね除けられてしまう…土爪や、直線攻撃の鉄爪じゃダメだ…有効なのは、血爪と飛爪…それ以外有効な物はない。
ザシャァァーーー!
 確実に後ろを取り、ギャレールの背中に飛爪を食らわす事に成功した。
「…な、何!?」
 俺が放った爪は、背中に回した奴の腕の刀が防ぎ相殺した…。正確には剣で分散させただけで、余波だけでは奴の鎧を貫く事は出来ないか。
「よくやったな、俺が粉砕した木の破片を利用して、動きをかく乱ながら…不意を突くとは、流石に俺もびびったぜぇ」
 俺は弾かれて、ギャレールのすぐ後ろに着地した。ヤバイ、爪の使いすぎで俺の体力も限界が近いか…俺はよろめいて、刀を杖代わりにして前を見ると、ギャレールに剣の切っ先を突きつけられる。
「勝負ありだ…」
「ちぃ…お前の言うとおりだ…勝負あった…俺の負けだ…」

『陽介!だめ…引いて!もう何度も爪を使って精神力が持たない、やられちゃうよ!』

「恋香か、無理だ…今引いたって追いつかれる…」
『でも!』
 恋香が精神の中で引きとめようとするが、どっちにしろ俺は戦わなきゃいけないんだ…
「誰と喋ってるのかは知らねぇが…お前の考えてる事は正しい、突破するなら俺を倒すしかないぜ…だがお前はもう負けている」
「確かに、俺はお前との勝負に負けた……それは認める」
 ギャレールがそう言い、俺は刀を持って立ち上がった。聞いての通りだ、恋香…
『これ以上やったら本当に死んじゃうよ!』
「最初の戦いの時も…シロガネの戦いの時も言った筈だ……俺には守りたい人が沢山、居る…だからその人達の為にも、今は負けられない」
 俺が出会ってきた人たち、夫々の悲しみを持った者達。俺と同じ羽の後継者だからではない…俺はそう言う人たちを死んでも守り通したい。
 この勝負、負けた……だが、今の戦いに負けたとは思ってない!!

「あの羽の少女のナイトになったつもりか?」
 佳乃ちゃんの事を言われ…佳乃ちゃんの笑顔が思い出される。最初に会ったのが、まだ小学生の時の霧島診療所の診断室だった。それから夏休みは定期的に遊びに行ってたな…
「ナイトか…確かに、佳乃ちゃんを守りたいと思ってるが…『羽』とか俺と同じとかそう言うんじゃない、あの子と俺は古い仲だ……借りを沢山作ってまだ、返していない!」
バシュウゥゥ!!
 奴の不意を突いた鉄血無爪が、奴の鎧を引き裂きギャレールの胸から血が噴出す。
「くぅぅ!さっきよりやる気になったか!?」
「あの子も、俺と同じなんだ…だから守らなきゃ行けないんだ!」
ガイン!ガイィン!
 恋香…俺は差し違えるつもりは無い、こんな俺でも命は惜しいさ…だけど俺は…
「もう少し、もう少しで『翼の後継者』の悲しい運命は全て終わる……そんな時に、その力を利用してまた命を刈り取って、空に居る彼女をまた泣かせようとするお前達を俺は許さない!」
『陽介…』
 両手で刀を持ち、前傾に突進しながらギャレールの四方を取り囲むように爪を放った。
「地獄の番犬の爪が、地獄へと誘う…参重殺爪!!」
バシュウゥゥ!
 四方からの爪の連続攻撃により、ギャレールは防御する暇も無く吹き飛ばされる。
「ギャラクシアン!お前達に羽は渡さない!それを受け継ぐ者もな!!」
「そうか、お前もまた…『羽の継承者』か!!」
獣のような身のこなしで、起き上がると俺の刀を何本かの剣で受け止める。
「く…おぉぉぉーーーーー!!!」
ガキィィ!

 俺は精神が果てるまで、刀を降り続け何度も爪を奴にぶつけた。その攻撃に答えるようにギャレールの攻撃も凄まじさを増し、狂気に満ちたその刃に何度も斬り付けられようと俺は、ギャレールに爪を振るった。
 いつしか、『狩人』の破損率はギャレールの攻撃で臨海を突破して、80%に達していた。斬られたスーツの間から血が流れる…
 もう恋香の声がだんだん聞こえなくなってきている…
「ふ、ここまで俺を追い詰めた剣士は久しぶりだぜ…」
『陣内君、これ以上は危険だ!スーツ云々言ってる場合ではない、離脱しろ!』
 聖さんが通信で俺に離脱しろと言ってくる、あいつの実力は俺以上、勝てない事は解っていた…だけど、これで…十分だった。
「お前はよくやったほうだよ…本当に、何度やられても立ち上がるその、不屈の精神力…俺達の組織にも少しはあやかりたいもんだ…」
「…ふ…それは……どうも…」
「いいだろう、お前のその闘志に免じて…あの羽の少女は今日の所は助けてやる…サービスとして…さっきの勝負も無かった事にしてやろう、俺優しいだろ?」
「………そうかい…」
 こいつが言うように、ギャレールはもう佳乃ちゃんや羽を奪うことは諦めたようだ…宇宙人にもこんな奴潔い奴が居たとは、いや単に本当の単細胞なだけか…意識も朦朧として来た…血を流しすぎた…もう駄目みたいだ…
「だけど…」
ドガ!!
「ぐあ!」
 ギャレールに蹴られ、俺は吹き飛ばされ林の木々を倒しながら、佳乃ちゃんや国崎の居る神社の前に倒れこんだ。

「仲間に出来ないのが残念だが、俺はお前を殺しておかなければならない…せめて俺の手にかけられることを…光栄に思えと、言いたいところだが…お前とはまだ、戦いたい」
 ギャレールの足音が俺の耳に響き、俺は殺される寸前でも立ち上がり…脚を引きずりながら…ギャレールに刀を向ける。
「出来れば…上手く避けろって…その体じゃ出来ねぇか…上手く生きのびろと言いたいが、俺の技に生き残った奴は居なかったからな…」
「……」
 幾何学模様を描くように、ギャレールの両腕の剣が一本一本不規則に回転する。必殺技か…ギャレールの技の動きを読まないと、次戦う時に対処法が解らない…だけど、目がかすれて剣が何本にも見える。
 だったら……
「……」
 俺は刀を杖代わりにして立ち上がり、無理を承知で鉄血無爪の構えを取った……佳乃ちゃんも守れたし、こいつとの勝負は完全に負け戦だった、俺にはそれで十分だった。
 これ以上勝負する気にもなれないし……こいつの一撃を食らえば、死ぬ…かな?
 だったらこの一撃は、俺が生きる為の最後の『足掻き』か…
「ん?まだ剣を持つか…良いだろう…ならば本気の一撃をお前にぶつけてやろう!ビーストブラスタァァァァァァー!!」
 ギャレールがにぃっと笑い、俺のあがきにあわせるように、全ての生物を震え上がらせる咆哮を上げる…それももう耳には届かない。本気か…それだったら俺も死ぬな…だったら、俺は勝負でもなく…誰かを守る戦いでもなく、俺自身が生きぬくためにこの一撃を!

 ただの鉄血無爪だと、奴の必殺技にかき消される……なら、試してみるか。ただし、両腕は遠心力と上昇気流に今後使い道がなくなるかもな…また聖さんにどやされそうだ…
 舞さんとの特訓の日々を思い出す……
……
バシ!
「いってぇ…」
 舞さんの威力を伴った木刀による兜割りで吹き飛ばされている。
「俺の木刀が折れてる、舞さん竹刀なのに…」
「兜割りやハイタイムのような斬撃は、普通に斬るより回転や加速度、高さ等をかければ、遠心力や風圧、重力や引力の法則で、威力は上がる…さっきの一撃はより高く飛んで頭の後ろから回転の遠心力をかけて振り下ろしたから…竹刀は岩をも砕ける」

 舞さんはそう教えてくれた回転…加速度…遠心力…重力…引力の法則……それらを巧みに使えば、刀はその威力を増す。
 ならばそれを、爪に変えることはできないだろうか?
 回転…加速度…遠心力…重力…引力の法則……その全てを爪に注ぎ込めば…ただ、そんな事が出来るのは、神…まさに、対魔一神流マスターで無い限り無理だ。
 いや待てよ、他の技との兼用で、一つの技の威力が格段と増す。
 回転…加速度…遠心力…重力…引力の法則…ひとつだけ、俺が知ってる技の中で一つだけこの全てを使って爪に兼用できる技を知っている。
 ラウンドトリップだ…ラウンドトリップは回転の加速度が上がれば上がるほど、刃に遠心力がかかり、強固な装甲を持っていたトーラスでさえも落とす事ができる威力と一撃必殺の能力がを持って、威力だけなら奥義にも引けを取らない。
 これを、ラウンドトリップの要素を爪に兼用して斬りつければ……

「………」
 ただ、これは試してもいないし…さらにはこんな傷だらけの状態、ラウンドトリップを投げずに自分の頭上で回転させるんだ…しかもそれから爪を出す…それこそ腕が使い物にならなくなる。
ブオン・ブオン…
「うおおおお!!」
 だけど、俺はやらないと、俺はこんな所では死ねない!全ての威力をこの一撃に込める!

 頭上で、刀を回転させてだんだんとその回転速度を上げていく…加速度が点き、風が竜巻のように昇っていく。風圧で、もう腕がもげそうだ…
 だが、この一撃を振り下ろせば……

「さらばだ、ウォーハンター『陣』…宇宙剣法・七刀流…奥義・逆卍車」
「鉄血無爪…旋風…陣…」

 奴が技の名前を言ったその瞬間、俺は奴を横切るように、剣を縦に振り下ろした。回転を利用した風圧が、巨大な爪となって、石段まで長い爪痕をつける。
ザシャァァ…
俺の視界が真っ白になり、何かが胸を突き抜けるような痛みが一瞬走ったがすぐに消え…俺の意識は遠のいて行った。

 寝ているはずなのに地面が生暖かい…ああ、血が出てるんだ。奴が俺から去って行く、俺、佳乃ちゃんを守れたんだな……聖さんが呼ぶ声がマスクの通信装置かれ聞こえる、その声ももはや遠くなっていく。
 勝ち負けなんてどうでも良かった、ただ…彼女を守れれば…俺はそれで十分だった。

 薄れ行く、意識の中…俺の守りたかった人たちの顔が浮んだような気がしたが…俺の意識はその時点で段々と闇の中に消えて行った。


……
………

 う、体中が痛い…、裸のままシュレッダーにかけたような、ざくざくとした痛み…それでも体は全部くっついていて足もあって手もある…俺どうしたんだろう…
「れ…ん…」
 ゆっくり目を開けてみると、そこは天国かと思えば霧島診療所の病室らしき場所だった。正確には浦谷が寝た場所とだけ言っておこう…。俺にしてみれば天国より地獄に近い場所と言った方がいい…
「あ、陽介君!」
「陣内君、目が覚めたか!」
 俺の顔を覗きこむ、佳乃ちゃんと聖さん……そういや、俺…ギャレールと戦って負けたんだっけ…
 上体を起こそうとして、胸に激痛が走った。
「あ、だめだよぉ〜まだ寝てなくちゃ」
「傷は完全に塞がってはいない、何せ心臓を貫いていたからな……生きてるのも不思議なくらいだ」
 自分の胸元を見ると、包帯でぐるぐる巻きにされている…心臓の部分から僅かながら赤い点のような物が出来ていた。
「そらみろ、傷口が開いて心臓から血が出ている…」
 聖さんはさらりとすごい事を言ってくれる…
「それってやばくないですか?」
「ああ、君の胸にハーケン○ロイツ、基…卍の文字がこんなふうに刻まれていた、線の中心点に丁度心臓が来るように…出来ていた…ある意味敵の技が天晴れと思ったくらいだ」
 ナ○スが出て来るとは思わなかったが聖さんは傷とギャレールの技に感激していた。
「でも良かったよぉ、陽介君…このまま起きないんじゃないかって心配したよぉ」
「まあ、名医が俺に着いてくれているからな…」
 俺はそう言うと聖さんは「…ふん」っと照れ隠しをするように笑う。
「それでも…大切なお友達が、もう起きないんじゃないかと思うと」
 泣きそうな顔で俯く佳乃ちゃんの頭にぽんと手を置くと…
「何言ってんだ、佳乃ちゃん…俺はまだやり残した事が沢山あるのに、死ねないよ。それに幼馴染を泣かしながら死ぬなんて…虫の居所が悪い」
「陽介君…」
 佳乃ちゃんは俺の顔を覗きこんで、こくりと頷いた。聖さんがごほんと言ってその場の雰囲気は何とか和らいだ。
「ところで、あれから何日経った?」
「かれこれ1週間という所だな…町では君が居ないのをいい事に、あの二人がまた大喧嘩をしたそうだ、被害総額を言おうか?」
「いえ……聞くだけだ頭が痛いです」
 聖さんが言う事は多分、性懲りも無く浦谷と鮫島の大喧嘩の話だろう、まあ気にしても仕方が無い。別段気にする事は無いだろう。
「一週間の間、君を心配して秋子さんや、佐祐理君達ら色々な人が華音市から見舞いに来たぞ…」
「そうか…うわ、過ぎた一週間が凄く長く感じられる」
「それは仕方が無いだろう……SUPの番場長官でさえこの地を訪れるのは稀なんだ」
 番場長官まで俺を心配してくれて…まったく、早く復帰しないと駄目じゃないか。
「おっと、君の傷は推定でも全治三ヶ月、君が無理をしても一ヶ月でやっと回復だ、全回復するまで、ここで療養だ」
「聖さん、俺せめて後一週間だけに出来ませんか?」
 無理な難題だが、これを何度も聞いてくれたのも聖さんだ…
「さっきも言ったように、君の心臓には穴が開いている。全治三ヶ月もまだ生易しいくらいだ…一般病棟にいることが奇跡なんだぞ」
 包帯の奥には貫かれた穴が開いている、脈打つたびに胸から血が流れる…それを押さえる糸と拘束具。他の体の傷は跡にならないだけましだろう…
「それに君は、色々責任を取ってもらわなくては困る。古い馴染みでもそれは取ってもらわなくてはならない」
「責任…か、あ…」
 聖さんの横で心配そうに見つめている佳乃ちゃんが目に映った。
「そういう事だ……よって、君は傷が治るまでここで養生してもらおう。ドクター結城からも許可を取ってもらってるし、君の母上や佐祐理君からも了承を貰って、何よりも番場長官からのお墨付きだ…」
 番場長官のお墨付きはんこの押された、契約書をズいっと俺の前に出される。ちゃんとSUP医療班主任『霧島 聖』と付け加えられてる事だけある。
「私の許しが出るまで、君はここで療養してもらうぞ…君が断ろうとした場合は、鎖でも用意するつもりだ」
「……それを聞いて断る気が失せましたよ。まあ…この傷なら2週間ほどで治ります」
「駄目だよぉ、いくら恐竜の病気が治せるお姉ちゃんでもさあ大変だよぉだったから…」
 それもある意味凄いな…俺に傷は恐竜の病気以上ってか…
「傷が治るまで、ゆっくりしてってよぉ〜」
「……俺は…」
チャキーン
「居ます、解りました…俺の負けです」
 少なくとも俺は二度、戦いに敗北した事になる。ふ、俺とした事が…二度の敗戦を帰するとはな…まあ、いい休養だと思って休むか。
 ここには幸いうるさい二人が居ないからな…



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