違う……
あの人は、違う……
シロガネじゃない……
陣内陽介さん、私の中学の先輩…私が憧れていた人
彼は生きている…でもシロガネは生きていない……
陣内さんの魂を食らわなかったから……シロガネは姿を消した…
シロガネは…人の魂を食らうより……死を選んだ…
妖狐にとって、人となり永遠を生きる事とは……すなわち…
その人物を殺して魂を食らい…その人となりうる事なのだから…
機動狩猟者
ウォーハンター『陣』
ミッション02『人となる為に…』
俺は相沢と一緒に、足をくじいた美坂に肩を貸してやって保健室に連れて行ってやった。
「ありがとう二人とも…」
「うう〜、香里が無事で良かったよ〜」
名雪が安心したように香里に泣き付いて、香里はその頭を撫でている。
「よしよし…お互い無事で良かったわね」
「そうだな、あの時陣内の技が無かったらマジで危なかったぞ」
「俺もあれが上手く決まるかどうか解らなかった……」
何せ、球体でラウンドトリップができるかどうか俺にも解らなかったからな…だが最後は、名雪と美坂を助け出したんだから、よしとするか。
「だが、美坂の傷が大した事なくて良かった……」
「陣内君…ありがとう」
美坂ははにかむ様に笑って、上目遣いで俺を見た…う…俺は、こう言う表情が結構苦手だ……
「なに照れてんだ、陣内」
「うるさい…」
……だが、解らないのが、ゴールが落ちてきた時に一瞬感じた俺への殺気…あれは確かに俺に向けられていた物だったが…標的は違っていた。美坂と名雪を狙ったように、あれは落ちてきた……何故だろう。俺を狙っていたのなら、何故この二人を狙ったのか…
ただ、俺が美坂に色目使っただけで……狙うのは単純すぎておかしい。
俺はそう考えながらも、茶化す相沢を引っ張ってその場から退散した。更衣室に辿り着くと…体操服から着替えたが、ある違和感を体に感じた。
無い……俺の何かが、無くなっている……
「どうした?陣内、自分のパンツでも忘れたのか?」
「そんなへまはせん……」
だが、何かが俺の前からなくなっていた……ここに持ってきて、ここに立てかけて…そうだ、刀だ俺の名刀『正幸』の入った袋が無くなっているのだ。
「何だ、マジで何か消えたのか?」
「……いや、何でも無い…戻るぞ」
そう言い、相沢より先に俺は歩き出した。名刀『正幸』が盗まれた……何処までも俺を落とし入れなければ満足しないらしいな、今回の敵は…
俺が、相沢とクラスへと向かう廊下を歩いていると…相沢が窓の外を見て立ち止まった。
「ん?あっ!真琴の奴、また学校まで来やがったな」
「……真琴?」
そう言う相沢の目線の先…正門の所で何かを待っているように学校を見ている髪の長い女の子がいた。
「あの子は……」
「おう、名雪(オレ)の家で居候してる、女の子でな…何かとオレに突っかかってくる奴でな…」
俺が聞きたかったのは、そう言う事ではない……彼女からする気配、あれは今朝俺の前に現れた、銀髪の俺そっくりの奴と似ているからだ…だが、奴のように刺々しい気配ではなく、優しく活発で元気で柔かな感じが伝わってくる。と言う事はあの子も人間では…
「でな、オレの部屋にいっつも復讐と言われる悪戯を仕掛けてくるんだ」
「お前と言う男はつねづね女運と言う物がいい……北川が聞いたらきっと泣くぞ」
「もっとおしとやかだったら可愛いのにな…」
でも俺の目から見たら、けっこう可愛い女の子だぞ…
「じゃあ、俺ちょっと真琴に言って来るからな」
「……ああ」
相沢はそう言うと、廊下を走って行った。そして…正門の女の子へと走る相沢が窓から見えた。何だか言い合っているようだ…相沢の奴、何だかんだ言って仲良さそうじゃん。
って、あいつ俺の妹捕まえて…色々な女の子に声をかけているのか…ううん。
「ん?」
俺が窓から目を話すと、俺から少し離れた所で…相沢と真琴と言う少女の言い争いを窓から見ている少女がいた。この学校の二年らしい…可愛い感じの子だ…ん?この子は…
「…美汐ちゃんか」
「……」
俺に呼ばれて彼女…天野美汐ちゃんは、俺の方を向いた。
「…陣内さん……」
「……なんだ、美汐ちゃんもここに入学してたんだな」
実を言うと、この子は俺と北川と同じ中学だった…後輩と言った方がいいか…。
さっきから……あの真琴と相沢を見ていたようだが…
「…陣内さんのお知り合いですか?」
「男の方がな……クラスメートだ、君は両方とも知ってそうだが…」
「はい…」
彼女の深い瞳に…俺は見覚えがあった。いや中学の時から久々にあったと言う事ではない……もっと近い内に…
「陣内さん…あの子、真琴は…一度相沢さんの元を離れ…そして帰ってきたんです…」
美汐ちゃんは…昔話を語るように俺に教えてきた。
「それはどう言う事だ?」
「一つの奇跡と言うものです……自らの運命を超えた」
「……運命を超えた?…」
もしかしたら、この子は真琴という子が人間でない事を知っているのか…。まさか、あの子は本当に…
「美汐ちゃん、君は…もしかしてあの子が何者か知ってるのか?」
「……相沢さんは気づいていません…けど、私はあの子が何なのか知っています」
確信を付くと不意に、彼女は悲しそうな表情になった。この表情だ…この悲しそうな顔を俺は覚えている。
「すいません…話せません」
「……話しを聞いたら俺も戻れなくなる、そうなのか?」
「……それは…」
「ならば、俺も聞かない……」
そう言うと、美汐は驚いたように俺の方を見た。
「悲しい話はあまり好まないものでな……君も、話したくなければ無理はするな」
「陣内さん…すいません」
「良いって事だ…だけど、その話し以外の事なら前みたいに相談に乗ろう」
「はいっ」
何だか昔の迷いが吹っ切れたような笑顔で美汐ちゃんは頷いた。だいぶ変わったな…美汐ちゃんも……嬉しそうだ。
「そうだ…北川もここにいるが、気付いているか?」
「そうなんですか……」
「何かされたら、俺か美坂香里と言う俺のクラスメートに言え…」
「は…はい」
美汐ちゃんは少し唖然として、頷いた。まあ…美坂に言えば確実に北川は死ぬな…南無
「それでは私はこれで……」
「じゃあな……」
そして、美汐ちゃんはぺこりと頭を下げると向こうの方へと走って行った。俺も戻るとするか…どうせ、さっきの事で職員会議があるのだろうから、自習だと思う。
その間に調べられておく事は調べておこう……
学校の図書室、来たのは始めてだ…だがここは、この町の古い文献とか新聞記事とかが保存されてあると聞く。先生から特に古い書物が記録された資料を渡された…
この町の歴史資料集とでも言おうか、分厚い辞書のようだ…歴史の年代ごとにその時の記録が記されているらしい。
SUP極東支部の資料室には、これ以上に膨大な過去の資料が存在した。結城さんは日本の記憶がここにあると言うように、この文献を公共に出したら…日本の歴史が狂ってしまう。例えて言うなら学校で使っている歴史の教科書なんて一から書き換える事だってできるくらいできるという事だ。
だけど、今の日本の状況を考えると…公共にこの『日本の記憶』を出せないのは裏付ける……
未だに、俺達SUPを煙たく思っている奴等は、現日本の政治家の中にはごまんといる。
つい最近だが…国会内に『現用兵器取扱基本法案』や『民間団体の軍用兵器使用禁止法』と言う法案が密かに進められていたらしいが、その法案の内容では世界各地に支部を置くSUPの解散を意味する文章もあったらしく…極東支部では大問題に発展しかけたと結城さんは言う……幸い、この二つの法案は、内容に無理があると言う理由から二つと国会内ではボツとなった。確かに内容だけ見ても無理がある…何も考えずにただ当てずっぽうに文章をまとめたと言った方がいい。だがこれが没になったのも…議員である佐祐理さんのおやじさんのおかげとも言える……
その問題より極東支部と国防軍の対立は何年も続いているらしく、結城さんも頭を抱えているらしい。
だから、SUPが持つ『日本の記憶』は…当面には出さないのだ……だが危機感は持った方が良いな。
とにかく、今は資料の検索だ……
今解っている事は二つ…あの夢に出てきた人物の一人は天野美汐ちゃんだと言う事だ、何故かと言えば、彼女の表情は夢の少女と酷似していた。内容から察するに彼女は、どこかの丘で…悲しき別れを経験している。
もう一つ…それはあの男、俺に似て俺の命を狙う者……そして相沢の所にいる自称居候2号、真琴…彼女はあいつと同種の存在と言う事だ…同種って事だけわかっているが、それが一体何なのか、わからない……喉の所まで、答えが出てきているんだが…何だ、この曖昧な気分は…
「ん?これ……妖狐?」
俺は資料の古い…狐の絵に釘付けとなった。そして得られたキーワードは、狐・ものみの丘・厄災の象徴…どれも今回の事件と関連があると思われるが、その中に美汐ちゃんや、今の真琴、そして夢の内容を入れるとまったく奴が違う物に見えてしまう…
これではまだ資料不足って事か……
だが、色々解った事があって良かった…今度ものみの丘へと行こう。
俺は結構な収穫を得て…クラスに戻る事にした。
ズゥゥン
何っ…後ろから、強い殺気…奴がいる……今俺の後方を取られた。だめだ…刀がない分俺に分はない…後ろを振り向けない。
「ここじゃなんだから……広い所に行かないかい?」
「……お前は」
「貴様は、この場にいる人間達に血を見せてやりたいのか……」
「…解った」
俺は、奴の要求を飲んで…後ろを振り返ることなく、奴の指示で俺は中庭に出た。
「まずここに来て何をするつもりだ……」
「この場で振り向こうならば、いつでもお前の首を刎ねる事はできる」
本気だ……首もとにナイフの刃が突きつけられている…いつでも俺を殺す事はできるってことだ。
「……分が悪いって事か」
「さすがは、俺が見込んだ男だ…そこまで察しがついているか……」
「それだけじゃない、俺はお前が思っている以上に知っている事が多い」
「何だって?」
奴の声からして、少し動揺したな…予想外って事か…
「ものみの丘…そこには妖かしなる獣が住み着きたり…姿形は狐と似たり、正体は妖狐と呼ばれし物の怪…時に、人里に下りお前等の現れた街はことごとく災禍に見舞われ…妖狐は厄災の象徴と知られていた」
「ふっ…大した物だ、そうさ…俺はその妖狐さ…名はシロガネ」
やはりな…俺の睨んだとおり、奴は妖狐だ……それに、シロガネって…美汐ちゃんの夢で出てきた奴の名前だ…もしかしたら。
「シロガネ、美汐ちゃんに……」
「彼女に近づくな…」
声のトーンが下がって、背中に強い殺気が感じられた。
「美汐は…俺の物、勝手に色目使わないで欲しいな」
首筋のナイフの刃が少し首に差し込まれる。鉛の感覚がした…
「別に色目を使ってるわけではない……お前はなぜ彼女に近づいた」
「美汐が、俺を望んでいるからだ。俺を求めているからだ」
「美汐ちゃんがお前を求めていると言うのか……」
「…そうだ、美汐は俺を求めているっ!彼女には俺が必要なんだ、俺は美汐が好きなんだ……その為には陣内陽介、お前になる必要がある」
「なんだと……俺になるとはどう言う事だ…」
「俺達妖狐が…真の人間と鳴る為の方法は二つ、その魂を食らう事…そしてその人間の名を語り…その人間となる事…美汐は以前お前に憧れを抱いていたからな、それで俺はお前を選んだわけだ……ただ一人の陣内陽介となり、美汐と永遠を共にするのさ」
だから、俺を狙ったというのか……だけどそれだけでは、美坂を殺そうとしたり、罪のない人を殺したりはしないはずだ。
「何故、人を殺そうとした……狙うなら、俺だけで十分だろうシロガネ…」
「気安く呼ぶな……人間とは許せない生き物だ…、厄災の象徴だと言い俺らの仲間を殺してきた……俺には、人間自体が厄災だと思うが」
「だから、殺すのか……人を…一族の仇をなす為に…」
「お前に俺等の何が解る………丘に残った、たった一匹の同朋も一人の人間に干渉して、結局魂を食らわずに死んで行った…」
「……」
奴等の悲しみが…俺の脳裏に響いてくるような気がした、この不快感まさに奴の悲しみの叫びだろう。まてよ、一匹の同朋って、相沢の所にいる真琴ちゃんか…
「お前…同朋を知っているのか!?」
「……?」
まさかと思うが、こいつ等は人の心を読む事が出きるのか……だとしたら厄介な相手だ。
「なんだと、あいつは魂を食わずに人間となったのか……」
ナイフの刃が首から離れる……シロガネがたじろんでいるんだろう。
「何故だ…何故、あいつだけ…納得、納得できるかっ!!」
「…何っ?」
俺は後ろを振り向くと、銀髪の俺に似た少年が左手で頭を苦しそうに抱えていた、その目は獣のように鋭くなり瞳は猫のように細くなっている、間違いないこいつは狐…。奴の腰に名刀『正幸』が見えた。奴が持っていたのか……
殺るなら今だ!とっさに俺は奴の刀を奪い、鞘から刃を引きぬいて…右手に構える。
「っ!」
「スティンガーっ!」
俺は刃を平にして切っ先を突き立て心臓に標的を絞り…突進した。
「くぅっ!!」
ズガアァァァンッ!!
スティンガーが地面を破壊して土煙を上げた。奴は上空に逃げたのだ……
「……言ってなかったか、お前の心はお見通しと言う事だ…。満月が近い…その時決着を付けよう…」
「ちっ!ラウンドトリップッ!」
ギュルンッ!!
奴に向かって刀を腕の力を使い投げた。だが…刃がくる瞬間に奴の姿は霧のように消えていた。
カシャッ!
戻ってきた刀を受け取ると、鞘にしまう。
「ラウンドトリップの回転速度より早く逃げるなんて……なんて奴だ」
……視線!?
チャキッ!
誰かの視線を後ろに感じて俺は刀をとっさに構えると……視線の先には、明らかに動揺の色を隠せない美汐ちゃんがいた。
「………」
「美汐ちゃん…見てたのか」
表情から察するに、俺とシロガネの会話を聞いたのだろう…いや、これは聞かれたな。
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初戦『妖狐編』の事件編でおまっ!いや〜長くなってしまいましたな〜…
竜さんっぽく文章まとめたんですが…どうでっしゃろうっ!とくにSUPの反対部分とかは…
それにカノンキャラとのふれあいは私っぽく表現されたと思います……
さて…次回はラブシーンあり?
うみゅうみゅ、すばらしか!
やはりY殿は文章がうまいさね・・・
うらやましかことっす。
かなりいけてます。
次章、黒狼激闘編も期待してますゆえ。
では、時間なしの故、感想はまとめてこのページで。
シロガネ・・・
悲しい漢よ・・・
想いがゆえに、自分以外のものにとらわれて・・・
・・・美汐さん、やはりあなたは悲劇が似合う・・・のかもしれない。
美汐「・・・ひどいです。」
・・・いたんすか。
お・・・俺は本当にそう思っただけなんだから・・・ってその刀は?
美汐「陽介さんに借りました・・・・」
・・・では、逃げるッす。
シュワッチュ!!!
美汐「・・・逃がしません。」
終わらない。