水瀬家食卓にて
 家主一人と、その一人娘…そして3人の居候(男1名)は一家の団欒を楽しんでいた。今日のご飯は真琴の好きな肉まんであった。
「今日ね、すごく変な人とあったのよ〜」
「んぁ、どうせ道歩いている亀に声をかけられたんだろう?」
 この中では唯一の男、相沢祐一が真琴を茶化すと…
「あうーっ!違うわよ〜っ!もっと、こう目が尖ってて…」
「久瀬っ!」
「違うぅ〜それに誰よ〜」
「真琴ちゃん、動物に例えるとどんな人なの?」
 真琴同様の居候、月宮あゆが変わりに聞いて来た。真琴はうーんと少し考えてあっと手をポンと叩くと…
「狼っ!」
「おおかみ〜…猫(ピロ)はおろか、今度は犬に手をつけたか…見ろ名雪を猫アレルギーでティッシュが手放せなくなってるぞ!」
 祐一は、名雪の席の方を指差した。頭にここの飼い猫であるピロを頭に乗せた名雪がいて、秋子さんが次のティッシュの箱を用意していた。
「ねこーねこーっ」
「ニャーニャーっ」
「あらあら、名雪テッシュよ」
 幸せそうな名雪に秋子さんはティッシュを渡して、名雪はちーんと鼻をかむ。頭に乗っているピロは落ち付かないと思ったら満更でもなく名雪の頭で寛いでいる。
「祐一君、名雪さんは犬は大丈夫だと思うんだけど…」
「もーっ、話しをそらさないでよっ!あっ、その人の名前思い出したっ!」
「ん?何だ、その目が尖ってて狼みたいな奴の名前聞いて来たのか?」
「うんっ、肉まん10個奢ってもらったし…色々な事を教えてもらったのよ〜」
「だから、一体お前吹っかけた男の名前を教えろよもったいぶらずに…」
「陣内、ヨースケっ」


機動狩猟者
ウォーハンター『陣』
ミッション04『黒いマフラー』

 その頃、陣内宅
「はっくしょん!」
「はえ?」
 俺は佐祐理さんと舞さんと食事中だったが、突然俺はくしゃみをしてしまった。
「どうしたんですか?陽介さん…風邪ですか?」
「陽介…汚い」
 突然の事で佐祐理さんがきょとーんとして、舞さんに注意される
「いや、誰かが俺の噂をしていたような気がしまして…」
「あはは〜っ、陽介さんの噂をする人は、SUPの上層部の人か…北川さんくらいだと思いますよ〜」
 佐祐理さんは天真爛漫な笑顔で言うと、俺も自然と笑顔が出て……
「だろうな…でも、佐祐理さん達は俺の噂をしないのですか?」
「あはは〜っ、そうしたら毎日陽介さんはくしゃみばっかりですね〜」
「はちみつくまさん…」
「それでは、風邪と変わりませんよ…佐祐理さん」
 少しアンニュイな気持ちだったが、場の雰囲気を佐祐理さん達(?)を盛り上げてくれて気がまぎれた。
 あと2日で満月、決戦の時だ…あいつにとっても、俺にとっても100%の戦いができる時……双方のどちらかに決着が付き、どちらかが死ぬ…
 美汐ちゃんにはああは言ったけど、本心ではどうなのか…俺は恐れているのか…
「陽介さんっ…陽介さんっ!」
 美汐ちゃん自身、さっきのシロガネを斬ってくれと言ったが…本当に内心では悪魔と成り果てたシロガネに決別できているのか…あの時の言葉からは、そうとも取れない感情が伝わって来そうだった。俺に見を委ねた行為でさえ…彼女にとっては……
「陽介さーんっ!無視なんてひどいですぅー!!」
ビシッ!
「ほがっ!」
 佐祐理さんの猛烈な、フライパンびんたが直撃して…俺の頭は壁にのめり込んでしまった。舞さんはその様子を見ながら…
「佐祐理…お見事……ぱちぱち」
「…さ…佐祐理姫…この私目が何か粗相を起こしましたでしょうか…」
 あまりの頭の衝撃(多分12tくらい)で俺の思考回路は少し狂い、訳の解らない言動へとなってしまった。
「ふぇ〜、お姫様が呼んでいるのに無視するなんてひどいですっ」
「…佐祐理も少し変わった」
 佐祐理さんもああは言ったが、乗りは会わせてくれているようだ……
「もう、そんな事する人嫌いですっ、ぷんぷん」
「あの…キャラが違いますよ〜佐祐理姫様」
「あはは〜っ、一度言って見たかったんですよ〜。はいこれで冷やしてください」
 佐祐理さんはぷんぷんと怒っていたが、すぐに元の笑顔に戻り俺に氷袋を手渡した…佐祐理さん、俺が考え込んでいたから……元気付けたんだ。すまないな……
「陽介…」
 俺が、頭を冷やしていると…さっきまで俺達の行動の一部始終をじーっとご飯を食べながら見ていた舞さんが話しかけてきた。
「お風呂から上がったら、私の部屋に来てくれる?」
「はい……構いませんよ、何ですか?」
「渡したい物があるから……」
「……渡したい物?」
 何だか気になったが、俺はまた食卓に戻り…飯を再開した。それから、さっきの一撃で和やかな雰囲気が戻ってきたので、良かったと言う事にしよう。

 飯を済ませて、俺は…風呂に入った……風呂で、美汐ちゃんの事が頭に浮かんだ。
「さっきも考えたが…やっぱり、俺はあいつと100%で戦う事ができるのか?」
 正直言って不安が募るのは当然だ……邪悪に染まった者になってもシロガネはシロガネ、やはり過去を断ち切れるのは、さっきの行為でも難しいかもしれない…
 俺や恋香に掛かった千年の呪いも、簡単には断ち切ることはできない…まさに鋼鉄の鎖のような物だ…呪いも、悲しい過去も…言い換えて見れば同じ物だ……
 だから、やっぱ戦いにくいんじゃないか……

 俺は風呂から上がると、廊下で舞さんが俺を待っていた。
「舞さん……」
「陽介…私の部屋に来て」
「唐突にですか……」
 舞さんはそれ以上言わずに俺の先頭を立って、自分の部屋へと連れて行った。

 舞さんの部屋は、俺の隣の部屋でベランダで直結している。月の光がよく通り…まるで、魔物との戦いの場であった学校内を思わせる雰囲気が出ていた。
「電気はつけないんですか?」
「今日は特別……陽介、ベランダに出て」
 俺は言われるままに、舞さんと一緒にベランダに出た……夏だと言うのに、冷たい空気が吹いている。この街は夏はいたって熱帯夜だと言うのに…今は、冬のような風が吹いていた…舞さんは、ベランダに寄りかかって月を見上げた後少しで、完全な満月になる…少し欠けた月が俺と舞さんの頭上にあった…
「あと2日で、月が満ちる……陽介の剣も強く引き立つ時…」
「そうですね……」
 二日……月が満ちれば、二人の俺が対決する時だ……舞さんはその事に気付いているのか?
「…今日の陽介は少しおかしい……佐祐理の一撃をかわす事ができなかった」
「……修行が足らんと言う事ですよ、多分…」
「そう……少し心に迷いがある…」
 舞さんは厳しく言い放った…確かに、迷いがあるのは当然だ…
「…話して、私達は仲間だから……遠慮なんていらないから」
 俺の方を向いて、舞さんはそう言った…月明かりに照らされた舞さんに少しドキッとした…この感覚、始めて舞さんと会った時と似ている夜の学校で……そうか、昔の雰囲気、魔物と戦っている時の雰囲気で話せば…今考えている事も自然と出てくる、それで…
「はい……実は」
 俺は自然と口が動いた……最初、夢で美汐ちゃんの過去を見た事から、シロガネが自分を狙っている事……妖狐の事…そして過去と現在のシロガネの違いと…満月の戦い…美汐ちゃんの本心…そして、俺の心境…を…さすがに、俺が告白された事は言わなかった…
「そう……ものみの丘に住む妖狐、特に銀色の毛を持つ狐は何百年に一度生まれると言われている妖狐の亜種、異端児でもある」
「異端児……美汐ちゃんの話でもそう言っていたな…」
 舞さんは単調に丁寧に俺に長々と説明した。
「生まれた妖狐の異端児は、人里に降り……今までの妖狐以上の厄災を振りまいた、人を食らい…殺傷して、その魂を啜る…強暴なまでの存在…しかも、人の心を読む力もあった」
 舞さんの話しを聞く限りでは今のシロガネを彷彿とさせる事だった……
「詳しいですね」
「SUPの資料室で、色々勉強したから……でも、その妖狐の異端児には裏話がある」
「裏話?」
 舞さんはそれから、少し目を伏せながら話した…
「遠い昔、生まれ出た妖狐の異端児は…人間となる為、仮の人間の姿で人里に降りた…でも、その仮の姿で居られる時は短く、その時が来たら命は消え去る…永久に…だけど、銀色の狐は一人の少女と出会う。二人が恋に落ちるのは時間の問題だった…二人は互いに引かれ合い…二人は心を通わせた…しかし、妖狐の掟は命が消える前に…心を通わせた人物の魂を食らわなければならない…だけど、妖狐には彼女の魂を食らうより死を選んだ……やがて時は流れ、妖狐は彼女に抱かれながら光となった……そして、その少女は永遠の悲しみと厄災を与えられた…とこれが妖狐の異端児の裏話」
「……っ」
 美汐ちゃんの過去と似ている、いや、そのままじゃないか……俺は頭に手を当てる…くっ、過去でもシロガネの仲間は2タイプに解れる…ますます戦いにくいではないか…
「銀の妖狐の伝説は二つある…けど、結局は人に悲しみを与える…どちらのパターンでも…結果は同じ……今も同じ…シロガネは天野美汐の心に深く入ってきている」
「はい…」
「今の陽介も同じ……心に迷いがある…」
 ふっ、情けない話しだな……でも当然か、俺はシロガネとまともに戦う自信が無くなってきているのが解る…。
「妖狐は…物理攻撃に加えて精神的な攻撃も得意……ある意味では、黒狼を凌駕する力を持っているかもしれない強敵…でも、今の陽介では…」
「勝てる確率は、極めて低い……はい、俺もそう思いますよ…心に迷いがあれば、剣は振るえないですからね…精神攻撃にも耐えられないかもしれない…」
 らしくないが……弱気になってしまうのも無理はない…俺というのは甘いのか…

「でも、陽介は…ここで歩みを止めるつもりなの?」
「えっ?」
「……あなたの目標は、それより遥か遠いはず…ここで負けて、歩みを止めていいの?」
 舞さんの言葉に、俺の脳裏に…親父と恋香の姿が浮かんでくる…そうだ、俺の目標(ターゲット)は親父…黒狼だ…そして決めたんだ、これからも舞さんや佐祐理さん、そして自分の中にいる…恋香を守る為に…、俺は抜かれた牙を取り戻したんだ。
 それに…言ったはずじゃなかったか?美汐ちゃんに…君を守ると…
「…陽介……」
「ありがとう、舞さん……俺とした事が、気付きませんでしたよ…これもシロガネの精神攻撃だったとはね…」
「…そこはまだ、修行が足りない証拠…でも今の陽介なら勝てる…保証ができる」
 少し、舞さんが柔らかく微笑んだような気がした…舞さんにまた助けられたような気がする…
「気がついたなら……佐祐理」
「はーい」
 舞さんが呼ぶと、部屋から佐祐理さんがひょこっと顔を出した。
「まさか、聞いていたんですか?」
「はい〜、陽介さんの様子がおかしかったのは帰ってから解ってました…」
 というと、さっきの佐祐理さんの一撃は…俺が正気になるかためして……ふっ、佐祐理さんにも助けられてしまった…俺って、やっぱ修行が足らんか…
「陽介さん…はい、これを…」
 そして、佐祐理さんは俺に1枚の綿でできたような黒く長い布を俺に渡した。
「マフラー?ですか?」
「はい〜正義の味方は、マフラーが必需品ですからね〜」
 その黒いマフラーには銀色の太文字が書かれていた…『狩人推参』と…
「ウォーハンターに変身した時は…このマフラーを羽織ってくださいっ…そうすれば、戦いの最中に心の迷いが起きてもその色を見れば…必ず、自分の目標を見失わないはずですから」
「黒い色は……親父を意識として…」
「はいっ!その通りです…受け取ってくれますか?」
「勿論ですっ、ありがとう…佐祐理さん」
 俺は早速首に巻こうとしたが…それを止め、右腕に巻き付けた…変身する時だけにしよう、このマフラーをする時は…
「陽介…シロガネも、邪悪なる魂の底に…必ず美汐といた時のシロガネもいるはず…だから、大丈夫…必ず」
「はい、勝つつもりですよ……そうでなければ、シロガネの魂も浮かばれないからな」
 俺は強く頷いて、月を見上げた……後は、美汐ちゃん自身だな…





 そして、翌日…シロガネの殺しは無く、不気味なまでの快晴な空が広がっていたが、やはり昨日の寒気は取れなかった。学校は…昨日の騒ぎが無かったかのような静けさと、普通な時間が通り過ぎて行った…相沢と名雪が、真琴ちゃんと会ったのかと質問されると…俺は適当に流すように答えてやった。シロガネの事も気にかかるが、真琴ちゃんはどうして人になれたのだろう、銀色の狐ではなく特別な存在でもない。謎が一つ増えたな…
 美坂は足首に包帯を巻いていたが、歩くのには支障は無くいつものように接してきた。北川は思いっきり心配していたが……
 廊下で美汐ちゃんに会ったが、やはり昨日の事で双方共々意識してしまい…素通りしてしまう…もう少し話したいが、彼女の気持ちが落ち着くまで…待つのも悪くはない。
 食堂で飯をすませ午後の授業に入り、普通の時間を過ごしたがこの日俺達の前にシロガネが現れる事は無かった……
 明日の為にパワーをチャージするのか…もしくは…

 そして、時が不気味な程普通に流れてとうとう、決戦の日がやってきた。この日は少し雲が多く、寒気は増してきたが…目立った事は起きず…取り合えず安心した。
 だが、少し見られているような気がするのは気のせいか?
「とうとう来てしまいましたね……シロガネとの決戦の時は…」
 昼休み…俺は美汐ちゃんを中庭に呼んだ……本心を聞きたくて…
「ああ、だけど俺は自分の身は自分で守るつもりだ……シロガネを斬る」
 俺は袋から名刀『正幸』を出して…目の前で少し刃を出す。
「……」
 美汐ちゃんは顔を伏せて明らかに動揺の色に表情が変わった……やはり、迷っているんだな……
「斬れとは頼んだ物の、やはり気持ちが半端なのは仕方がない……」
「そんな…勘違いを…」
「だが、君の気持ちが半端でも俺は本気でかかる…向こうもその気だからな…」
 美汐ちゃんはやはり、少し悲しく目を伏せて……
「冷たいんですね……」
「俺は、いつもこんな人間じゃなかったか?」
「言われて見れば……そうですね」
「やはり…本当にシロガネから決別している訳でもないのか…」
 本心を付いて見たら、美汐ちゃんは目を閉じて首を振った……いや、これはまだ諦めてない…絶対に…。銀色の狐と心を通わせた人間は…こうして迷うのか、ここにいるのも時間の問題と考えた俺は…その場を立ち上がって刀を袋に仕舞うと…校舎へと戻って行くことにした。
「とにかく、俺は…シロガネと戦う。君が決別していようとしていまいと…関係無くな…」
 あえて冷たい吐き台詞を残すと、美汐ちゃんを残して…その場を立ち去った。
 ちっ、何してんだ俺……本当だったら美汐ちゃんを慰めてあげるつもりじゃなかったのか……でもそうしたら、また迷っちまうような気がした……だから、俺は…


PM:3:21分 商店街にて

 真琴は、いつものように商店街を歩いていた…でも、今日は少し雰囲気が違う。肉まんを探して元気に走りまわっていると思いきや…物静かにとぼとぼと歩いていた。
 元気な姿が取り柄で、彼女やあゆが元気に走る姿は商店街では名物っぽくなっていた…だけど、それでも彼女の足取りは何となく重い……
「(何だろう、胸がドキドキする……祐一と喧嘩別れして、あの丘で寝た時と同じ気持ち…真琴、どうしちゃったんだろう)」
ドンッ
 真琴はぼーっと歩いていると誰かにぶつかって尻餅をついた。
「わぷっ…」
「ん?……レディーが一人歩きかい?」
 ぶつかった男は紳士的に手を差し伸べた。真琴はその男の顔を見た……
「あう、ヨースケ…じゃ、ない……」
 陽介に似ていたが明らかに違う事を本能でわかったようだ…
「さあ、早く手を取って…」
「あう…」
 真琴は何も疑いもせずに…その男の手を取った、その瞬間…真琴の脳裏にビリっと電撃が走ったと思った…そして忘れたはずの記憶が…真琴の中から蘇ってきた。


 それは、ものみの丘の風景…風が吹き荒れる中…真琴はそこにいた。自分を合わせて、たった2匹しかいなくなった同族と一緒に…銀色の同族と……
 その銀色の子狐は、一族の中でも異端児扱いされて…幼馴染だった真琴の家族も彼の家族も彼を危険とみなして、彼を置いて遠く離れた山へと移り住む事となった…
 でも…真琴は家族の枠から離れて、彼と残る事にした……同族以上に、生まれも育ちも一緒だった兄と妹みたいな物だった…、彼が寂しがらないように…真琴が残る事にしたのだ……それから、何年か過ぎた頃だろう…突然の別れだった。
『じゃあ、また…ってもう会う事は無いと思うけど……俺は行くよ…』
 その銀色の狐は、一度真琴の目の前から消えている…人間に助けられ、その人間の心と交わったからだ…そして今…彼は、その人間にもう一度会う為に仮の人間の姿となって、会いに行くと言うのだ。
『あんた…解ってるの?仮の人間の姿になると、記憶が無くなっちゃうんだよ…妖狐に戻れなくなっちゃうんだよ…』
『そんな事、先刻承知だ……』
『それに、それにっ!人間になっても…4週間以内にその仮の姿と同じ顔の人か、あんたの好きな人の魂を食べなきゃ…生きられないんだよ…』
 その言葉を聞いて、銀色の狐は歩みを止めた……それは神が授けた一瞬の閃き、一度だけの過酷なチャンスでもあった…これで人になるかどうか決まるのだ。
『人の魂なんて、気持ち悪くて食いたくないよ……ご先祖の掟だか何だか知らないけど、関係無いな…俺は…あの子が好きだから、会いたいんだ』
『シロガネ…』
 既にその時、その銀色の狐には美汐から名前を貰っていた……シロガネと言う…妖狐の世界には名前は存在しない…が、この二匹は人間につけられた名前で呼び合っている。
『真琴…お前も人間の心に触れた時があったんだろ……だったら、お前も俺を忘れて…その人の元へ行くべきだ…』
 真琴もまた、シロガネ同様に人の心に触れた時があった。ここにいれば必ず訪れる事だと真琴は家族から聞かされていた。が…家族の大半は人の心に触れる前に捨てられたか逃げ出したのだ……だけど、このシロガネは違う…好きな人の為に命掛けられる奴だって真琴は知っていた…
『そんな事したら……』
 シロガネは優しい目で真琴に振り返ると……
『お前も命掛けて見ろよ……』
『あう〜…』
 真琴は泣きそうな顔でシロガネに寄り添った…もう二度と会う事も無いかもしれないからだ……
『心配するな……魂なんて食わずに俺は人になるよ…人の魂を食うくらいだったら迷わず死を選ぶね……』
『そんなの無理よ〜』
『出来上がってる運命だからこそ、変えてみたいじゃないか…』
 シロガネは真琴の顔の前でにかっと笑って見せた…
『例え死んだとしても、あの子に抱かれて死んだほうが本望だしね……』
『嫌よ…そんなの嫌っ』
『真琴……俺が駄目だったら…希望はお前だけだ、もうものみの丘には同族は戻っては来ないだろう…だから、お前が妖狐の運命を変えられる希望だ…解るよな…もうガキじゃないんだし…』
『あう〜…うん…そう…だけど…あう、うっ…』
 そう言い、シロガネは歩き出した……もう二度と会うことは無いかもしれない、そう思うと、真琴の目から涙が流れた。
『…ったく、やっぱガキだな…』
『余計なお世話よーっ』
『……ははは、サヨナラは言わないぜ…お互い、本当の人になれるといいな…』
『魂なんか食べずに?』
『そうっ…じゃあな、真琴…今まで俺みたいな変り者と一緒にいて…ありがとう…忘れないからな……お互い人になれたら、また会おうな』
『うんっ…うんっ』
 涙でもうシロガネの姿はもう見えなくなっている……でも真琴は、シロガネの残像を目で追った…
『絶対に好きな奴と幸せになれよ……約束だからな』
『うんっ、あうーーっ』
 真琴の鳴き声が、ものみの丘に木霊して…風が吹いたと思ったら…丘には真琴一匹だけしか残っていなかった………


 真琴は目を開くと……そこには、あの男が立っていた。
「……しろ…がね?」
「ふっ、覚えていてくれたか?真琴…会いたかったぜ」
「…うん、覚えていないわけないわよ〜あうーっ」
 真琴は、嬉しさの余りシロガネに抱き付いた…
「お互い、人間になれたんだな……」
「うん、真琴…人間だよーっ」
 人間になっても、その表情は変わらなく…優しくおおらかだった。
「ああ、良かったな…ほら見ろっ!俺達は運命に勝ったんだ!」
 シロガネは強く喜びを真琴に伝えるが…内心では少し薄笑いを浮かべていた。
「うんうんっ、真琴達やったんだね…」
「そうだ、こうやって再会できたんだ…久しぶりに、行こうか…俺達の生まれた場所へ」
「うんっ」
 シロガネの言葉に真琴は満面の笑みで頷いて、自分等の故郷…ものみの丘へと向かう事にした。だがシロガネは不気味な笑いを浮かべて…
「……さて、これから楽しいショーが見れるぜ…真琴」
「ん?どうしたの?シロガネ…」
「いや、何でも無い…」
 そうごまかして、シロガネと真琴はものみの丘へと向かって行った。


 美汐ちゃんには、酷い事を言っちまったな…俺とした事が……
「祐一〜放課後だよ〜」
 名雪ののほほーんとした声で、放課後が訪れるほど…決戦の日も何事も無く学校は終わった。俺は美汐ちゃんに一言誤ろうかと思い、部活をキャンセルして…美汐ちゃんのクラスへと直行することにした。何だか不安になってきた、あの子の傍についていないと何だか落ち付かない。
 美汐ちゃんのクラスに到着すると、もうクラスの大半はいなくなっていた…美汐ちゃん自身いなくなっていた…ちっ、遅れたか…
「あっ、陣内先輩ですよね」
 クラスの女の子らしき子が俺に話しかけてきた……
「あの、天野さんから伝言貰っているんですけど…多分来るだろうからと言っていたんで…校門の所で待っていますって…言ってました」
「あっそうか…」
「あの〜少し質問なんですけど、陣内先輩と天野さんってどんな関係ですか?」
「ただの先輩後輩だ…、中学の時からの付き合いは長いのでな…じゃな」
 俺は適当に言ってその場を後にした……美汐ちゃんは校門か……

 校門の所まで、辿り付くと美汐ちゃんが俺を待っていた。
「陣内さん…」
「待ったか?美汐ちゃん、すまんな…待たせて……」
「…いえ、全然大丈夫ですから…」
 美汐ちゃんはそう言うと俺に目を向けてきた、綺麗な瞳が俺を見つめ少しどきっとしてしまう。
「肌寒いですね……今日は」
「ああ…今日はやけに寒いな…」
 少し雲が多くなって来たな…満月はこの雲で隠れてしまうのは当然か……
「はい、それに何処と無く日が短いように感じられます」
 美汐ちゃんの言う通り、夏にも関わらず肌寒く…ましては日さえもまだ4時くらいなのに、少し傾いていた。まるで…冬のようだった。
「……この満月が終われば、七夕は近いですね」
「そうだな……」
 そう言えば、七夕も近い…邪魔な満月が無くなれば今度は星の川が現れる…
「それで、美汐ちゃんは俺に何の用があって」
「私もものみの丘に行っていいいですか?」
「シロガネの最後をわざわざ見たいのか?」
「……そうでもあります、けど…最後にもう一度彼を説得したくて」
 さっきの言葉から、美汐ちゃんもそれなりに考えたんだな、そうだよな美汐ちゃんだってバカではない。シロガネが正気に戻るなら、何でも試した方がいい。
「ああ…好きにしてくれ。俺も君に時間をあげよう、最も奴がくれるかどうかの問題だが」
「覚悟はしていますし…駄目で元々ですから……」
「そうだな……行くか」
 俺はそう言ってにこりと笑うと、美汐ちゃんの背中をぽんと叩いてやった…美汐ちゃんは少し赤くなったが、少し上目遣いで笑った。
 何年振りのような気がするな…美汐ちゃんの笑顔は……

 俺は鞄から、変身に使用するブレスを出して左腕にはめ…佐祐理さんたちから貰ったマフラーを右腕に巻きつけた。
「それは?」
「ああ……ある人から貰った勇気だ、そして目標でもあるな」
「……陣内さんの目標ですか…」
 話しているうちに、俺達は商店街を抜けて……ついに、決戦の地に足を踏み入れた。

PM:5:32分…ものみの丘にて
 少し日が落ち…逢魔ヶ刻へと変わるが、その日も段々と分厚い雲によって隠されて行った。それだけでも結構暗く、ものみの丘を不気味に映し出して行った。俺は鞄を地面に置くと…刀を袋から出した……
 丘の頂上から…物々しい気配を感じ息を飲んだ…邪悪なほどのどす黒い気…
「くっ…妖気…か」
「……これをシロガネが放っていると言うの…」
 美汐ちゃんが信じられないのも無理は無いが……これがシロガネの本性だ…
「美汐ちゃん…俺の後ろから離れるな」
「はい……」
 俺は美汐ちゃんを背に、闇に染まる丘の頂上へと近づいて行った。頂上に辿り付くと…そこには、誰もいなく…殺風景な風景が広がっているだけだ…回りを見渡しても、シロガネの気配は感じられない。
 そう思った瞬間…
バッ!
「きゃっ!」
「何っ!?」
 突然うしろから美汐ちゃんの小さな悲鳴が聞こえた瞬間…俺の後ろから美汐ちゃんは消えた……そして振り返ると、そこには美汐ちゃんを捕まえたシロガネが宙を舞っていた。
「はははっ!死角を取られたなっ!陣内陽介っ!」
「くそっ!美汐ちゃんっ!」
 シロガネは、頂上にある木の根元に着地した。美汐ちゃんはシロガネの腕の中で気絶している…
 俺は刀を抜いてシロガネに向かって構えた……
「ついに来たな、陣内陽介…俺はお前の魂を食うのが楽しみで…2日食事を抜いた」
「…どおりで昨日静かだと思ったら……飢えで精神面での力を付けたか…」
「お前を食えば……完全な人間になれるからな…」
 シロガネは、美汐ちゃんを地面に横にすると…また俺を睨み付けて…
「お前を殺し…魂を食う……」
「その前に一つだけ聞かせろ……美汐ちゃんが寝ているから、変わりに聞く」
「良いだろう……心からでは、その質問は美汐の質問だろうからな…」
 俺は構えを説いて……シロガネと対峙して…
「………シロガネ、お前の本当の目的は何だ?それにお前は美汐ちゃんといた頃の心はあるのか?少なくとも、今のお前から察するに…その気は無いようだが」
 陽介はそう付け足すと、シロガネはクククッと薄い不気味な笑いを浮かべて……
「全ての人間の死だ……そう、俺は自分勝手な人間により殺された同朋達の怨念が集まり再び蘇った、今の戦いこそその序章に過ぎない…陣内陽介の魂を食い人となり、お前の顔で人を殺す……これは、俺の同朋の復讐でもあるんだ…」
「もう一度聞く……お前は美汐ちゃんに言った、人の魂を食らうくらいだったら死を選ぶと……あの時あった心はもう無いのか」
「……心は当に捨てた…それに人が魂を食われる前に死ねば当然魂は消える……この戦いでお前が魂を食う前に死んだら、その時は……美汐だって食う」
「!?」
 俺は美汐ちゃんを見て…シロガネを見返すと……両手で刀を持つと…薄く笑って
「その言葉を聞いて、安心した……それで、俺は心置きなく戦える…」
「当初からそのつもりさっ…はぁ…」
ボッ…
 シロガネは手に妖気を集め、黒い炎を手に宿し始めた。
「狐火って聞いた事あるか?」
「何っ!くっ!」
 シロガネは俺に向けて、手の狐火を放ってきた。俺はジャンプしてそれを一気に避ける。
ゴォッ!
「ちぃっ!」
 俺が避けた地面が狐火によって焼かれる、やはり狐独特の技と言える…
「まだ行くぞ……出でよ、火炎曼陀羅…」
 シロガネは今度は両手に狐火を作り、体の周りに計8個の火の玉を作り出した。
「焼き尽くせっ!」
ゴォォォォーーーッ
 俺に向かって、その8つの炎は向かってきた。一つは避けきれたが…8つは…よしならばっ!俺は、向かってくる炎に向かって刀を構えると…
「翼舞いっ!」
 刀の突きを連続かつ高速で行う対魔一神流の技の一つで、8つの炎はかき消された。
「何っ!」
「はっ!…兜割りっ!!」
 俺は奴に向かってハイジャンプをして、脳天に向かって刃を叩き付けた。
「バカか、俺が心を読む事を忘れたかっ!?」
 シロガネは俺の刀を避け、地面に爆煙が立ち込める……
「ラウンドトリップッ!」
「何っ!」
 煙の中から俺は、シロガネに向かって刀を投げ付ける。シロガネはとっさの事で避けるのが精一杯だったようだ……
 その瞬間隙ができ、俺は煙の中から飛び出して奴の顔を思いっきり殴り付けた。
バキッィィ!
「がはっ!」
 シロガネは倒れこみ、俺は地面に着地してブーメランの如く戻ってきた刀を受け取った。
「対魔一神流か……貴様がそれを…」
「ああ、良く知っているな、なんなら奥義の一つも見せてやるつもりだ……」
「その剣術を得ていたとは、こっちが部が悪いか……」
「命乞いもなしだ、ここで一気に首を落とす…」
 冷淡に奴の首筋に刀の刃を向ける……
「だが…今の状態は俺の方が優勢だって事しらないかっ!?」
「何だと…」
ヴゥゥン…ゴォォーーッ!
 俺の背後にブラックホールのような物が発生して、俺は体が段々と吸い込まれて行った。
「精神世界で永久の苦しみを味わえ……」
「ぐぁぁぁっ!」
 俺は、奴の作り出した精神世界に吸い込まれて行った。

 手を伸ばしても、今俺がいる部分にはさっき入ってきた扉は無くなっていた。いや、扉はおろか、何も無いと言った方がいいか……この空間は、奴が作った精神世界…
 無限の虚無の世界…宇宙にも似た空間……奴の狙いはこう言う何もない世界で俺を永久に迷わせ…精神崩壊を狙った作戦なのだろう。いや、こう言う精神世界だ…何があるか解ったもんじゃない……
ザワッ!
 俺は背後で、物々しい気配に感じて…刀を構え振り返った。
「誰だっ!」
「あうっ、ごめんなさーい」
 何者だと思ったら、動く影は真琴ちゃんだった。なぜここに……
「あ、脅かしてすまない……」
「あうっ、しっ、シロガネ…じゃない、ヨースケだぁ。わーん誰もいなくて寂しかったよ〜」
 なぜか会った、真琴ちゃんは俺に抱き付いてきた。
「どうしたんだ、真琴ちゃんが何でここで…」
「うーんどうしたのか、解らないんだけど……2分前にシロガネに無理やり入れられて、歩いていたらヨースケとあったのよぉ〜」
 2分前?それって、さっき俺とシロガネが会話していて、戦闘をしたような気がする。俺と会話している時も戦っている時も、さっきみたいにシロガネが俺のように真琴ちゃんを精神世界に取りこむ隙はなかったし、最中に真琴ちゃんもいなかった。
「待てよ、君はこの空間に取りこまれて少し歩いたら俺に会ったのか?」
「うん、そんなに時間は過ぎてないかも……」
「時計持ってるか?」
「あっいいよ…」
 真琴ちゃんは自分のしていた腕時計を俺に見せた……PM3:20分…俺が入った時は5時過ぎ…この空間が読めた…俺達が元いた世界での1時間が…こっちでは1分ってことか…ってことは24時間がこっちではまだ24分、1日経っても30分を切らないとは…
 これを俗に言う『ウラシマ効果』と言うのか…
「どうしたの?」
「たちが悪いな、もう1分30秒を切った…向こうでは1時間半か…真琴ちゃん、ここから出ないと大変だ……」
「大変ってなによーっ」
「探すのに手間取っていたら、祐一がじいさんになってるぞ…それでも良いのか」
「ええっ!?そんなのいやよぉ〜」
 真琴ちゃんは、精神世界の中であたふたしている…もう35秒…一刻の猶予もない。
「出口なんてないわよぉ〜どうやって出れば良いのよ〜あう〜シロガネのバカぁ」
「出口?そんなの作れば良いさ……」
 俺は慌てる真琴ちゃんをなだめて、右腕に巻かれた黒いマフラーを解いた。
「精神世界での防御方法は、自身がそれ相違の強靭な精神力が必要…そして脱出方法は…」
「あう?」
 俺は上空高々に、マフラーを投げ……
「光波っ!招来っ!!」
 まばゆい光が、ブレスから放射され俺に赤黒い装甲服となり装着され…最後に狼を形どった、マスクが装着された。
『……光波率100%装着完了…『狩人』装着完了』
 コンピューターが狩人の装着を完了を告げ…俺は舞い降りてきた黒いマフラーを首に巻いた。狩人推参の文字が見えるように…
「よ…ヨースケ、かっかっこいいーっ!何っ!?マンガみたいっ!!」
 真琴ちゃんは変身した俺の姿を見て、ぴょんこぴょんことはしゃいでる。
「よし、真琴ちゃん俺から離れるんだ…今から出口を作る!」
「あっ、うんっ!たのんだわよ〜っ!」
 そう言って真琴ちゃんは少し俺から離れた場所へと移動した。
「脱出方法は、精神世界には一瞬…次元の歪みが生じる……そこが見つかれば、後は…」
 俺は刀を構えて精神統一をする……歪みは肉眼では捉えられない一瞬の出来事、見つかれば後はそこを切り裂くほどの巨大な衝撃を与えるのみ…
 俺は刀を右肩の当たりで両手で構え…精神を統一させる……読め、空間の一瞬の歪…
………ブォ…
「そこだっ!鉄血無爪っ!!」
 刀が血のように真っ赤な爪を作りだし、空間の歪を引き裂いた。
ザシャァァァァァーーーーーーーー!!!


ガシャァァァーーーーーーーッ!!!
「何だとぉぉーーーっ!」
 精神世界が、崩壊して俺は真琴ちゃんを抱えて飛び出てきた。
「……はっ、あれは…」
 どうやら2時間10分って所か……
「まったく、とんだ浦島太郎ごっこをさせてくれたな、シロガネ…」
「貴様っ!?まさか……」
「陣内、陽介さん……」
 変身した俺の姿を見て驚愕の色を見せるシロガネに俺は言い放った…
「反撃開始……」


 NEXTミッション⇒




佐祐理「あははーっ!佐祐理ですよー、このミッション4は2日で完成しましたっ!さすがは、SUPの科学力です〜、それで佐祐理は今舞とお勉強中です」
舞 「はちみつくまさん……歴史が得意…」
佐祐理「はい、舞は毎日資料室でこの日本の裏の歴史をお勉強中です〜」
舞 「…昔、リント族の前に現れた翼人は……神の二つの石を授けた」
佐祐理「あははーっ、熱心ですね〜次ぎはいよいよ、陽介さんとシロガネさんとの流血の決闘ですっ!果たして勝つのは誰でしょうかっ!?」

 あははーっ!つづきますよーっ

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