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ズガンッ!

 手術室の扉が両断され、中から異形の狼男が這い出てくる。

 それはまさしく、幻の黒いオオカミと融合を果たした…榊だった。

 そして、鬼塚に気づくと、左腕の発達した中指の爪を振り上げ攻撃を仕掛けてきた。

ズンッ!

 狼男と化した榊の爪は、火花を散らせながら床を切り裂く。鬼塚は間一髪の所で榊の爪を避けた。

「っ!早いっ!」

 再び、鬼塚に向けて爪を向け、唸り声を上げる。

『ぐぁぉっ!』

「……やはり、脳手術が施されてないから、自我をコントロールできないのか…」

『ぐぅぅぅ……ぎゃんっ!』

 榊は猛スピードで、鬼塚に爪を振ってくる。

 そのスピードはもはや常人を超えた化け物だ…

「ふっ…だが、まだまだだな……」

 鬼塚は、一振りで人の首を斬り落とす爪を紙一重で避ける。

 この男も普通ではないと言う事だ…

「スピードは私の方が上らしいな……黒狼君」

『ぎゃうっ!』

 鬼塚は、榊の発達した胸を蹴り榊から間合いを取ると…

「レベル2!来い!」

 鬼塚は、大声を出して何かを呼んだ。そして…反転して、榊の爪を避けきり…奥へと走り去った。

『ぐぅぅぅっ!がっ!』

 榊は鬼塚を追おうとしたが、何かの匂いに気づき…動きを止める。

 そして、後ろを振り返り…明らかに近づいてくる、何かを察知していた。

『……うぅぅぅーーー…』

ガシャッ!ガシャッ!

 振り返った榊の目の前には、二人の大柄の男とも見えた。だが、それらは人間の姿をしていなかった2体のロボットにも見えたが、生物的面もある。強いて言うならば……生体兵器である。

『ぐぅぅぅーーー』

 榊は、その2体を睨みつけ…ブレード状となった爪を突き上げ、その2体に跳びかかった。

 

仮面ライダー・黒狼

第1章『逃走』

 











 

ピチャン…

 俺は、聞きなれない水の音に目を覚ます。

 何時間、いや何日寝ていたのかわからない……

 

 一体何が起きたんだ?俺の身に…何が……記憶を洗いざらい辿って見る。

 そうだ、俺は家に帰る途中、変な奴等に追いこまれ、蜘蛛人間の巣に捕まって…それから……いや、それ以上は気絶していたようで思い出せない…

 今までの事が本当に悪い夢のように思えてならなかった………長いリアルな夢を見ていたようだった。

 

 だけど、ここの情景を見渡して…それからこの手錠を見て見れば、あの事が夢じゃないって事がはっきり解った。

「ふぅ……まいったな」

 ここは倉庫みたいな所は辛うじて、今にも止まりそうな換気扇から光が漏れていた。俺は、細い柱に手錠に両手を繋がれ身動きが取れない状態でいた。力を入れても、どんな事しようとしても手錠は取れなかった。

 ったく、俺をこんな所に監禁して何しようとしてんだ?

 それより、今何日だ?あの時からそんなに経っていないようだが……

 水瀬家が心配だ……、もしかしたら、昨日の奴等が………秋子姉…

 

 そう考えていた時、俺の後ろのドアが開いた。

「おっ、お目覚めか?陣内っ」

「………」

 どこかで聞いたような声だ…何者だ?俺を襲ったクモ野郎か?

 俺は、とっさに身構えようとするが、柱に手錠をかけられては、身構えるどころか、身動き一つ取れない状態だ。ちっ、ここまでか…

 俺を殺す気か?

「……何警戒してんだよ、オレだよオレ!」

 俺の前に、見知らぬ軍服の男が立っていた。いや、軍服と言っても自衛隊の物とはかけ離れていて、肩には何かのマークらしき印がある。

 そのマークにはローマ字で『NAMESIS』と書かれていた。

 ………ネメシス?

「誰だ?」

「っか〜、自分のクラスメートの名前くらい覚えとけよな!西川だよっに・し・か・わ!」

「強調せんでもわかる……それで、そのクラスメートの西川が何用だ?」

「決まってんだろ、お前を匿ってやってんのさ」

「匿ってる?だと?これはどう見ても、匿っていると言うより捕まっているって言った方が正しいぞ……何のつもりだ」

 手錠は、あのクモ野郎じゃなく…この西川が、かけたようだ。

「……備えだよ備え…」

「備えだと?」

「それにここ知ってるのオレだけだし…上官の奴等にはばれねえよ…」

「なんだって……」

 西川は、笑って言う。周りを見ても、倉庫としか見えない。色々な銃とか火器が色々置いてある。武器庫か……

「最初見たときは驚いたぜ…黒狼が暴走したからってライフル片手に現場に来て見たらさ…陣内が、独房近くのトイレの所でぶっ倒れているから、ここに運んできたわけだよ」

「独房?トイレ!?黒狼!?」

 そうか、あの後俺は捕まって独房に入れられていたのか…でもなんでそんな所で……

「俺はその黒狼って言うのに襲われたのか?」

「……覚えてないのか?」

 それを西川に聞くと、西川は顔色を変えて聞き返した。

「何の事だ?」

「……やっぱり、あれは…陣内自身の意思じゃ動いてなかったと言う事か…」

「どう言う事だ?」

「じんない……」

 西川の顔が青ざめる…どうしたんだ?。

「話してくれ、西川……俺はどうしたんだ!あのクモ野郎…俺に何したんだ?」

 そう言って俺は、西川を問い詰める。

「蜘蛛?あの幹部クラスの怪人か……やはり」

「俺は……いったい…」

「………驚くな!…って言うのが、無理だと思うが…今は8月10日…お前が連れ去られてから20日経っている。その黒狼が暴走したのは昨日の話しだ……」

「20日!?俺はその間中…ずっと独房で寝ていたのか?」

「いや……違う、…お前はある手術を科学班に施された」

「ある手術?!」

「ああ……蜘蛛と同じこの組織の幹部クラスになるための手術だ…」

「俺に何をしたんだ?どんな手術をしたんだよ…まっまさか……」

 俺の脳裏に何かが浮かび上がった…

「……遺伝子融合、アメリカのニュージャージー州の森にに生息する…巨大な黒いオオカミと陣内の遺伝子を融合させて、脳手術を施し…ここの親玉の忠実な伍幹部にするつもりだった」

「それじゃあ……俺が……その…」

 黒狼と言う事か?その、西山の言う…暴走したって言う……

「ああ……脳手術が施される前にお前は暴走してしまい、科学班数人を殺し逃走してしまった。上官の話では今の黒狼は不完全な身体……変異体と呼ばれている。現在基地内を捜索されているんだ……」

「俺は知らず知らずの内に、そんな化け物に……」

 俺は身体ががたがたと震えた。

 そう言えば、俺の左腕に確かな血の感触があった気がする……

 俺の爪が、何かを引き裂いたような感覚を覚えている……

 









 

 不気味な声が聞こえた気がした…『我と共に来い、そして我に一千人の人間の魂を…』

 はっきりと覚えている言葉は、それだけだった。

 

 その後、俺は身体から蒸気を出し、煙の中あの姿となり、何人の人の首を切り落とした。

 飛び散る鮮血に、俺は快感を覚えた……『獲物ハ…何処ダ…』と言う声が脳裏に何度も響き渡った。俺は何度も、それを押さえようとした…だが漆黒の影は、俺の意識に浸食していき…獣へと変えて行った……これが、変異だ…

『……敵ハ何処ダ…オレノ敵ハ……』

 自ら、敵と認識したを攻撃し、撃破する。それが例え、味方であろうと敵にしてしまう獣の本能のまま動く戦闘マシーン……それが黒狼か…

 

 そして、新たな敵を探しに手術室から強引に抜け出した俺は、そこに来た研究員らしき奴と接触した。他にも人はたくさんいたが…黒狼はその中の白衣の人物に目をつけた。

『敵ダ……コイツハ、オレノ敵ダ……久シブリニ、楽シメソウダ…』

 黒狼はその白衣の男に爪を振るが、そいつは何度攻撃されても、紙一重で避ける。

『フッ、コイツハ強イナ……戦イ我意ガアルト言ウ物ダ…』

 男はゆらりと、黒狼の爪を避け…何かを叫んだかと思うと、奥へと逃げて行った。

『チッ、逃ガシタカ……逃サン!オレト戦エ!』

 黒狼は男を追おうとしたが……追おうとする前に、一時停止した。

『何ダ……敵ノ匂イ…2体カ…ザコガ!貴様等ト遊ンデイル暇ハ無イ!』

 後ろから近づく人ならざる異形のロボット達、黒狼はその2体のロボットに向かって突進した。

『邪魔ヲスルナ!ザコ共ガッ!』

 一瞬だった……黒狼が爪を振ったとたん、2体のロボットの首は落とされ…そのロボットの体液か燃料かは解らなかったが、緑色の液体が流れた。

 

『オレハ、アノ男ト戦イタイノダ!……ウッ!ナンダコノ感覚ハ…体カラ力ガ抜ケテクル!アノ体ノ、人間ノ姿ニ、戻ッテシマウノカ!』

 突然、黒狼が苦しみ出したかと思ったら、俺は引きずり出されるような気持ち悪い感覚に囚われた。

 もう、だめかと思ったら…俺は自分の体を取り戻して…気絶していた。

 そして、俺は夢の中で、俺を怪物にした黒い影と話しをした……

『オ前ガ、オレノ体ノ宿主カ…オレヲ押サエルツモリダッタラシイナ、ダガ、ソノ程度デハ…オレハ押サエラレン…オ前ハ、精神ヲイズレ、オレニ食ワレル運命…オレハ獣…本能ノママニ動ク…奴ラノ指図ハ受ケナイ…勿論…人間ニモ…オ前ニモ……』

「お前は誰だ?!俺をどうしようってんだ!奴らってなんだ!」

『オレは…オ前ノ言葉デ、狼ト言ウ獣ダ……』

 

 そして俺は、人間の姿に戻ると西川にここに連れてこられ監禁されたって言うのか……

「俺は、狼の化け物に返られたのか?西川っ!なんでだっ!何で俺が!」

「解らない…オレが上官から仕入れた情報はこれくらいだ…」

「仕入れた?なら聞かせてもらうが、お前達って何者なんだ!…変な化け物がいたり、変な戦闘員はいるわ…俺まで、改造させられ…何が目的だ!」

 俺は、西川に跳びつかんばかりに問い掛けた。

 西川は表情を沈ませて、軍服のマークを見せて…

「ジグロ社って知ってるか?」

「ジグロ製の戦闘機が自衛隊に配備されるってあれか?ハリアーを越える性能で有名な、VR−19XXを製作した、空魔怪冶(そらまかいじ)社長率いる大企業か?」

「でも、ジグロって名はこの組織は表向きの名では、裏の名は超常破壊結社ネメシス……」

 ネメシス!?やはり、西川の肩のマークはネメシスを意味しているらしいな。

「首領の特殊能力である遺伝子操作で人をとんでもない化け物にする……オレ達戦闘員は特殊な訓練をさせられ…成績が良くなったら、怪人として改造する…」

 西川はそう言うと、手を向こうにあるガラスビンに向けてかざした。

 ガラスビンはピキッと音を立てて割れて、床に落ちた。

 超能力と言うのか……こんな訓練を…

「オレの仲間も、この能力を強化されて大半が量産型の怪人に変えられた…もう、だれも怪人には代えたくない、だからお前を助けた……」

「えっ?どういう事だ?助けたって…」

「オレは何も知らずに、バイト感覚で入った、だけど…奴等は裏を返せば、とんでもない化け物やロボットを作ったり…オレ達のような怪人に代えられる運命にある者を雇ったりするような奴だ…人も平気で殺す!オレは、陣内や仲間たちのように代えられる人間も、オレ達のせいで殺される人間も見たかないからな……」

「西川……」

 こいつの言う事が本当なら、俺が脳手術を完全にされていれば…俺は西川や化け物に敵わないような戦闘員を始め、他の人間も殺してしまうことも限らない…

 みんなも…俺の子供の時にあったあの光景のように…

「陣内、オレと組まねぇか?オレは上官の会議室や至る所に盗聴機を設置して、情報を集めている。それでお前が元に戻る方法や上の動きを伝えられる…たぶん、上の奴等はお前が元の身体に戻る方法を知ってるはずだ……」

「戻れるのか?俺の体は……」

「まだ、情報待ちだ…陣内、一緒に戦ってくれるか?勿論、断ってもいい。オレ等のせいで陣内がこんな体になっちまったしな……でも、何とか脱出させてやるよ…」

 それは、西川が言っての通りだと思う…

 俺は関わる必要はない……だが、なんだこの感じ…今あのクモ野郎や、俺の体をこんなふうにした奴らを俺は…許せない!

「断る必要なんてない………借りは必ず返す、俺を化け物にした礼をネメシスの奴等に何百倍にして返してやるつもりだぜ!」

 そう、俺は西川に一喝をいれると、西川は沈んだ表情が和らいで……

「陣内…よしっそれだったらもう安心だな。よしっ!脱出させてやる、手を出せ」

 西川はうんうんと頷いて、手錠の鍵を取ってきて…

「今とっておきの場所につれて行ってやるよ……」

「ああ?なんだそれ……」

 そして手錠の鍵を外して、倉庫の奥の方のドアへと連れて行った。

「なあ、お前なんで俺に手錠かけてたんだ?」

「ああ?今の話しを聞いて、オレに殴りかかってくるんじゃないかって思ってな!」

「そんな事でか?変な奴だな…」

「お前よかいい……このドアは、隠し通路で外に通じている」

 西川はドアを開けて見せた。

 広いトンネルみたいになっていて、奥の方に光が見える。空気の流れを感じる事を考えると外に通じているのだろう…

「ここから抜け出すのか?」

「ああ、いいだろ」

「いいって……バレそうだぞ思いっきり…」

「大丈夫だ、そのために…これを持ってきた」

 西川は、手前にあった巨大な布をすっと引く…

「こっこいつは!?」

 そこには、深緑のモトクロス系のバイクが、そこに置かれていた。

 バイクには違いないが…それは、明らかに異形の形をしていた。

「これは、バイクだよな!?」

「ここの科学班が2年がかりで作り上げた、黒狼専用マシーン『ルガーソーダー』黒狼の持ち味としているスピードをより引きたてるために、開発され…最高時速は300キロだ。お前、専用にするために…人工知能を搭載して、お前以外の者は絶対に乗せないしお前の言う事を忠実に聞くパートナーだ…」

「俺だけのマシーン……」

「ああ、これが特注で盗んできた、起動キーだ…」

 西川はルガーソーダーの無い右ハンドルを渡した。

「これが起動キー…ルガーか」

 俺は早速、ルガーに右ハンドルを刺しこんで起動して見た。

 エンジン音が鳴り、ルガーの二つライト部分が点滅する。まるで目みたいだ。

「こいつ、お前に懐いているな……本当にお前専用に開発されたって感じだな…」

「すげぇな……いいか、今日からおまえのご主人だ…よろしくなっ!」

 ルガーにそう言い聞かせる。すると嬉しそうにライト点滅させた。

「よしよし、ルガー…行くぞ」

「っと、その前に、陣内!この中からなんか持っていけ」

 西川は、武器が詰まった車付きの棚を運んできた。別にいらないのだが…西川の言う通りいざと言う時に使えるだろう。

「それじゃあ…これとこれだ」

 俺は手近にあった、拳銃とナイフを取った。ナイフと言っても刃渡りは40センチ程のものだが……拳銃はリボルバー系の弾丸が6発入れられる奴だ。射撃訓練とかしていないが、ないよりましか。

「それか?もっといいのがあるんだけど、まあいいか!ルガーの後ろのアタッシュに入れる事ができるぞ」

 俺は言われた通り、銃とナイフをルガーのアタッシュにしまいルガーに飛び乗る。

「サンキュー、西川っ!よしっ、ルガー行くぞ」

 俺はルガーに飛び乗ってハンドルを握る。使い方も前俺が使っていたバイクと変わらない。俺はルガーでトンネルの方へと向かった。

「西川、お前はどうするつもりだ?」

「オレ?まだばれてないから、情報を集めてお前に送るよ。勿論、お前を元に戻す方法もな……夏休みはまだある、ドンドン奴等の情報は集まるし。こんな時期は奴等が動くには最適な季節だ」

「そうか、連絡方法は?」

「ルガーに搭載されている、通信機を使って色々送る。でも、陣内…ここを出ても気をつけろ……黒狼の捜索はまだ終わってないし、もっととんでもない事が起きるかも知れない。気をつけろよ……」

「解った……お前も、ばれないように気をつけろよ…」

「大丈夫だっ!ばれないって!」

 自身満万に胸を張る西川…どこにそんな自身があるんだ。

「まっその自身なら、心配ないか…んじゃあな、西川」

「ああ!またなっ!」

 西川に別れを告げ、俺はルガーソーダーを駆ってトンネルを猛スピードで疾走した。

 凄くスピード感だ…お世辞じゃなくてもでもいいマシーンと言える。

 

 やがて、トンネルの外へと出て、見知らぬ森へと出た。

 そのとたん、警報らしき音が後ろの方から聞こえた。

 気づかれた!こんなに早くっ!何やってんだよっ、西川!

「走れ!ルガー!奴等に追いつかれないように!」

 そう言うと、ルガーの速度は増し、一気に林道を駆け抜けた。

 

 でも、ここは一体どこだ?西川が来れると言う事は、そんなに遠くない森だろう。

 そうか、ここはあの雑木林っ!そこの地下に奴等がいると言う事か……

「それにしても、今は……夜か…」

 雑木林の周辺はすでに真っ暗になっていた、まずは、20日ぐらいいなくなっていたから、秋子姉や水瀬家のみんなに詫びなければな……

 行方不明になっているから、警察にでも捜索願を出しているんだろう…

 心配しているだろうな…秋子姉……

 どうしてるかな、俺がいなくなってから…

 

 そう考えながら、俺は月を見上げた。

 見事な満月が、頭上にあった。……もうため息をつきたいほど大きな、見事な月だった。

 月を見た一瞬のことだった、俺の左手首に激しい激痛が走った。

「ぐぅぅっ!」

 すごく痛い…左手がもぎ取れそうだ!

 俺は溜まらなくなり、ルガーソーダーを止め、近くの草むらに転がった。

「うっぐぉぉっ!」

 左手首を何かが這っているようだ、俺の体中にドンドン広がって行く。

ドクンッ!ドクンッ!ドクンッ!ドクンッ!

 心臓の音が異常に大きくなる。

 死ぬ!……今度こそっ!?ダメか!?

 

 その時だった、前の茂みから白衣を着た男が出てきた。

「ふふっ、こんな所にいたのかい?陣内君……」

「なっ…お前はっ!」

 そうだ、記憶の断片に出てきた…黒狼の爪を紙一重で避けたあの男だ…

 こんな所で……

「君と会うのは2度目だね、ルガーのタイヤの後を追って行ったらすぐに見つかったよ」

「……くぅぅっ」

 さっきから、俺の後を着けて来たと言うのかコイツは!?

「私は鬼塚儀一……城南大で君を預かっている人の同僚だ」

 鬼塚はそう言って俺に近づいて来た、こいつは…危険だ!逃げないと…と言っても、ルガーはあいつの後ろの方だ……

 諦めかけた、その時だった。

『敵ダ……』

 えっ?今、頭の中で…何かが呟いた……

『コイツハ、敵ダ……』

ドゥン!

 その声が脳裏によぎった感覚があった後、俺の視界はブラックアウトして…膝をついた。

「ふふっ、どうしたのかな…陣内君」

 鬼塚が迫ってきているのは解る、だが俺の中のもう一人の俺が這い出ようとしていた。

『戦エ……戦エ……戦エ……戦エ…』

 その言葉が、俺の脳裏を行ったり来たりしていた…

 そして、左手首にブレスレット状の装飾品が浮かび上がり、体が震え上がった。

 熱いっ!体中の血が沸騰しそうだ!

 

 俺は、体の急激な変化に耐えきれなくなり、意識を失った。

 

 

「さあ、私と来い…そうすれば…君は……」

『ふふふ、ふははははっ!』

 鬼塚が倒れこんだ榊に手をかけようとすると、榊はバッと立ちあがり高く笑った。

「何がおかしいんだね?陣内君……」

『……じんない…さかき…か…』

「……何者だか存じぬが…話しは早い、私と一緒に来てもらおう」

 鬼塚は、榊の異変に気づき…慎重に話した。

『……ふっ、オレは獣…本能のままに生き、本能のままに獲物を狩る!それがオレ…貴様らの指図は受けない!オレは自分の敵を見つけ、そしてっ!殺す!それだけだ!』

 榊のカッと見開いた目は、血のごとく深紅で不気味な物だった。

 

『変異っ!』

 

 満月を背にして、微笑む榊は次の瞬間…体がブルっと震え、肩の筋肉が盛り上がった。

 徐々に、頭が犬科の動物のような長い頭部へと変わり、腕の筋肉が高質化し…全体的に体重が何倍にもなったかのように、ズンッと重量感を漂わせた。

 そして…黒い狼の体へと変異した。

『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーー!!!』

 黒狼の咆哮が森林中に響き渡り、雑木林の鳥達が騒ぎ始める。

 変異した榊は、高質化した左腕の発達した中指の爪をブレード状にする。

 

 鬼塚は少しはにかみ…

「やはり黒狼・変異体か……どうやら、楽に連れて帰る事はできなさそうだな……」

 そう言うと鬼塚の周りに凍て付くほどの冷気を放出し、鬼塚は身構えた。

「変身……」

 鬼塚の体は徐々に変化していき……額にもう一つの目が現れ、そして…鬼塚はバッタを思わせる姿と変身していったた。

 

 怪物となった双方は睨み合い、対峙する…

『ぐるるるるるっ…』

『ふふふ、驚いたか…これが私の本来の姿だ……さあ、来い!』

 バッタ男となった鬼塚は口は動かしてはいないが、その言葉は直に黒狼の脳に伝わった。

 テレパシー能力を、鬼塚は持っているらしい…

『ぐぉぉぉっ!』

 黒狼は吠え、鬼塚に向かって爪を振り上げ突進する。目に見えないほどのスピードで、黒狼の猛攻が鬼塚を追った。だが…鬼塚もそれと負けずのスピードを誇り、黒狼を圧倒的な早さで翻弄する。

ブンッ!

 黒狼の爪は水平に空を斬り、鬼塚は何も無かったかのようにその場から消え去った。

『ぅぅぅ……』

 肉食獣特有の荒い息を立て、周りを見渡す黒狼……

 全神経を研ぎ澄ませ、鬼塚を探す…

『きぇぇぇっ!』

 黒狼の頭上から突然鬼塚が襲いかかって、黒狼はとっさに避けるものの、鬼塚の爪は黒狼の胸を掠めた。

『ギャンッ!』

 そして鬼塚が着地した所を、狙い黒狼は左腕の爪を振り下ろす。がっ…

バチッ!

『グルルルルッ!』

 黒狼の爪は電撃が走ったように見えない何かに阻まれて、弾かれた。

 そして黒狼の脳裏にまたもや鬼塚の声が聞こえてくる。

『ふふふ、私の得た力……念動力の壁…貴様の爪でも破れまい!』

『ううう……』

ガィン!ガィン!

 何度爪を叩きつけるが、黒狼の爪は念の壁に阻まれて弾かれた。

『無駄だと言うのが、解らん様だな!!』

ブォォォッ!

 念動力をフルに放出し、鬼塚は黒狼を吹き飛ばした。

 そして、倒れこんだ黒狼に跳びかかる。

 足を振り上げ、脹脛のカッターを黒狼に踵落としをするかのように、全体重をかけて斬り付けた。

ザシュゥゥゥゥーーーー!

 黒狼が立ちあがろうとした瞬間に斬り付けられ、黒狼の胸から赤い血が飛び散った。

『グァァァッ!』

 だが、高質化した筋肉により骨までには達していないのが幸いした。黒狼はよろけながらバッタ男と化した鬼塚に爪を振り上げる。鬼塚はにぃっと笑い…

『ヌンッ!』

バシュッ!ガシュッ!ドシュッ!

 爪やカッターで黒狼を八つ裂きにした。ブハッと血を吐いて黒狼は段々と榊の姿に戻って行った。ついに榊へと戻って血溜まりの中に崩れ倒れた。意識は失って気絶しているようだった。

 鬼塚はそれを確認すると、人間の姿に戻り倒れている榊の元へと歩み寄る。

「月影の石のエネルギーを使い果たしたか、黒狼……ふふふ、他愛ないこれが、伍幹部となる怪人の力という物か……」

 榊を抱え込もうとした時、鬼塚は背後から何かが急接近してくるのに気づき…バッ、と跳びあがった。

ブロロロロローーーーーーーー!!

 ルガーソーダーが、後ろから鬼塚を跳ね除けると同時に負傷した榊をその座席に抱え込むと、猛スピードで走り出した。

 

 

 とっさに木に飛び乗った鬼塚は、ルガーソーダーの行った後を目で追った。

 さっきの戦闘で念動力を使い、少し体力を消耗し追う事は無理みたいだ……

「ちっ、逃したか……だが、行き先はだいたいわかっているさ、そうこれからだよ…」

 そう言って、鬼塚は木の上からフッと忍者のごとく消え失せた。

 











 

ザァァーーーーーーー

 音からして、雨だな……くっ、体が痛てぇ。あのバッタ野郎に滅多切りにされたのか…

 俺の記憶に、黒狼の記憶が混ざっている…気持ちが悪くなりそうだ…

 特に左手首が熱い感じがする…。この背中、誰の背中だ?暖かい…負ぶさっているようだ。そうだ…俺はルガーに助けられたんだ。ありがとう……ルガーソーダー…

 

 ルガーは俺の脳波に反応するんだった…だから、水瀬家に連れてってもらおう……

 

 そうすれば……万事大丈夫だ…怪我も治る。

 ルガーは俺を乗せてUターンして、水瀬家の方へと走り出した。

 

 秋子姉……

 

 

  ToBe

Continue
 

データ編

 

黒狼(変異体)

主体 幻の黒い狼・陣内 榊

身長 190cm

体重 84キロ

最大速力 100mを3秒

ジャンプ力 ひと跳び20m

パンチ力:2トン キック力:5トン

使用武器 ストライククロー(左手の爪) クラッシュファング(牙)

必殺技 ブレイククロー(高い所から一気に爪を遠心力をかけて振り下ろす)

ニュージャージーに生息する5mの巨大な黒い狼と榊の遺伝子を融合して5幹部怪人の一人として作られた怪人狼男。常人の何倍もの運動能力とパワーを誇り強靭な脚力から出るスピードはかなりである。変身の起爆装置は左手首に埋め込まれたブレス状の装飾品『月影の石』で月の光、特に満月の光を増幅し変身エネルギーを得る。また、そのため発達した左手の中指の爪は人の首を一瞬で両断する切れ味を持つ。変異体なので完全体ではないため、月の出ている夜間でしかこの姿になれない。

 

敵組織

超常破壊結社ネメシス

 永遠の命を持つと言われている世紀末王ドラゴノソードが、軍事兵器開発公団ジグロ社を主体として結成した破滅結社。自らの特殊能力で動植物の遺伝子と合成させた怪人を配下におき、世界征服を前提(?)に暗躍する。あくまで世界征服は前提で彼等の本当の目的は知られていない。

 五人の幹部怪人に数十名の量産型怪人と戦闘員50人、非戦闘員を100人を配備させている。戦闘員は成績のいい順から量産型怪人へと改造される。

 

 

後書き・ゲスト:美汐ちゃん

いやーっ、ようやくライダーになりましたねっ!嬉しいもんだ!

美汐「でも、ライダーと言うより本当に狼男っぽいですね…」

くっ、前回のかおりんと同じような事を言うな……

まっまあいい…今の説明の通り、今の榊君は完全体じゃありません。

あの姿は変異体です、まだ完璧ではないと言う事です。

美汐「たしかに、変身じゃなくて変異って言ってましたね」

はい、その内変異から変身と言える日が来ますっ!必ず!

美汐「それでは、完全体はライダーっぽくなるんですね……」

それは次回からのお楽しみです。今回は黒狼の変異体について語りましょう。

美汐「はい、黒狼の変異体はその名のとおり変身ではなく、変異した姿ですから変異体です。体が完全ではないので、主人公の榊さんは自分の意思でコントロールできないんですよね……」

はい、モチーフは私のお気に入りのホラー映画の狼男をベースに、ライダーシリーズのモチーフを昆虫の『バッタ』から哺乳類の『狼』にしてみましたっす。

美汐「それはどうしてですか、やっぱりホラー映画が好きなだけですか?」

いや、それもあるんですが……

美汐「資料では、バッタは『自然』の象徴と書いてありますよ…やはり同じ理由ですか?」

うーん、平たく言えば自然とは別に…『野生』か『本能』ですかね。

美汐「野生?ですか」

狼は哺乳類であり肉食獣ですから、野生と本能に満ち溢れています。

例えて言うなら、1号ライダーが『技の1号』2号が『力の2号』ですから、黒狼は『本能の狼』ですねっ!

美汐「まんま、アマゾンですね……」

グハッ!(アマゾン知ってるけど見た事ない奴…)

言ってはならぬ事を……まあ、今後のパワーアップに期待してください。そいではっ!

 

あっ、それと、あるじさんから頂いたネメシスですがこの第一シリーズからドーンと出す事にしました。少し設定は変わりますが、怪人が特殊能力を使えるのと首領が異次元からの使者と言うのは変わりませんのでご了承あれ…

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