あれから、体育館内の騒ぎに、警察が駆けつけてきた。ネメシス幹部怪人蜘蛛の作った蜘蛛の巣と、無数の異形の怪物の死体と数人の生存者…そして…俺と秋子の二人。
「秋子……やっぱ、怖かったか?俺のあの姿……」
 仮面ライダー黒狼の姿となった俺だ、怖がるのは当然か…でも、秋子は首を横に振って。
「怖くない、だって榊だから……」
「秋子…ありがとう」
 秋子は俺を受けとめてくれた……人間じゃなくなったこの俺を、そう思うと何だか泣けてきた。もう、ネメシスを追う何てことも何だか同でもよくなってきた。
「絶対に、守るから…」
「ずっと、私の傍にいてくれる?」
「ああ……約束だ」

 だけど、この約束は守れないかも知れない、あいつからあの事を聞くまでは…
 俺の選択と、旅立ちの時が近づいてくるのが…


仮面ライダー・黒狼
最終章完結篇『秋子』

 警察の事情聴取や、病院での検査を終え…俺と秋子は一緒に家路についていた。
 そこで、子犬のルガーが普通の犬じゃないと言う事も明かした。秋子の目の前でバイクに変身すればやっぱ、秋子は驚くだろう。
「る、ルガーが…榊のバイクだったの?」
「ああ…俺が逃げ出す時に一緒に連れて来たんだ、今では俺のいいパートナーだ」
「すごい…」
 秋子はまだ驚いて、バイクのルガーをぺたぺたと触りまくる。余程珍しかったのか…
「秋子…そろそろ行かないか?」
「はっ、ああそうね。ごめんなさい…あまり珍しかったから」
「そうか、まあいっか」
 俺は秋子を後ろに乗せて、エンジンをかけた。
ヴゥゥーン!

「帰ったら、みんなに全て話すよ…最も、信一さんはもう知っていたけど」
「え?お父さん、榊の体のこと…知ってたの?」
 あの人の勘のよさは侮れない……随分前から俺の体の事を心配してくれたよな…
「そっ、俺が死にそうになった時は助けてくれたし…」
「そう…」
「落ちこむなよ、秋子も俺の事をずっと心配していたのは知ってるから…」
 俺は、左ハンドルから手を離して、秋子の手に添えた。秋子の温かさが伝わっているのが解る…。
「……榊、ありがとう」
「いや、一番助けられているのは俺だからさ…」
「……でもそれって、人間だから当たり前なのよ…人間は、助け合いながら生きる者なの。少し哲学かしら…」
「人間か……良いんじゃねえの、哲学入っても…」
 俺は、その言葉が少し嬉しくてバイクのスピードを上げた…俺は、人間だよな…


 それから、俺は今日のことを信一さんと春奈姉に伝えた。信一さんはともかく、春奈姉は驚いた。
「榊が……あの『骸骨仮面』?」
 仮面ライダーは、噂話上は骸骨仮面と呼ばれていたらしい…俺が噂話の根源だと言う事を春奈姉は驚いただろう…秋子との事を話したらそして真っ先に反応したのは、信一さんだった。
「そうか、榊君。遅かれ早かれ…僕は君達が惹かれ合うって解っていたよ」
「そうなのお父さん?」
「信一さん…」
「結局は、本当の姉弟じゃ無かったからね……」
 その言葉に、俺と秋子は二人で真っ赤になってしまう。春奈姉は…クスクスと笑い…
「あたしは最初っから気付いていたわよ!秋子が、男になってくる榊に段々惹かれているって事を…」
「はっ春奈姉さん!」
「じゃあ、明日は相沢さんと約束があるから…寝るわね…あんたたちののろけ話しは、今度にしてやるわ!」
 相変わらず、相沢さんと仲がよろしい事で…あんたののろけ話も今度聞かせて貰うぜ、そいで、春奈姉は二階へと上がって行った。
「ふう…姉さん」
「……あまり俺が、黒狼だって事に驚かなかったな…最初の方だけで…」
「はぁ、春奈は相沢君とのデートで忙しいんだよ、あまり忙しくして欲しくないけど……」
「やっぱり、一人娘が知らない男と付き合ってるって信一さんは許せませんか?」
「まあ……ね、心配な所もあるよ…相沢君と会って無いのはこの中で僕だけだからね」
 でも、相沢さんほどの人だから大丈夫だと思うんだけど……
「だけど、榊君なら安心できるよ……秋子を任せられそう」
「…ありがとう」
「でも……夏人兄さんがどう言うか…」
 そうだ、この家にはいないが…信一さんの息子さんで秋子と春奈姉の兄貴で現在新婚旅行中の水瀬夏人(なつひと)と言う人がいた。すごく屈託の無いかなり強引な性格で一度決めた事はやり遂げるまで帰ってこない性分で、まさに夏真っ盛りな人である。
 数ヶ月前に結婚して『新婚旅行は世界一周だぁ!!』って言って今は、ユーラシア大陸の何処かの民族の住まいにお邪魔しているらしい……何処かは明かさなかった、けどそれって行方不明じゃないのか?
 すごく妹思いで、秋子の事をいっつも心配して旅行に行く前も『いいか榊!秋子の事任せたぞ!秋子が他の男に変な事されたら、真っ先に俺を呼べ!地の果てからでも1秒で駆けつけてきてやるぞ!』
「夏人は当分帰ってこないから、大丈夫だよ……」
「それもそうね…」
「不幸中の幸いっていうかなんて言うか…だな」
 ともかく、夏人さんには、いつか説明しよう…何年後になるかはわからないけど…

 それで今日はもう遅い事だから、寝ることにした。
「じゃあね…榊」
「ああ……」
 秋子と別れて、俺は部屋に入った。部屋の中にはルガーが座布団の上で待っていた。
「わん、わんっ!」
「どうした?ルガー?」
 聞くと、ルガーはいきなりバイク形態となっていきなり西川の声が出てきた。
『陣内っ!大変だっ!』
「どわっ!ビックリした……」
『ビックリしている場合じゃない、こっちはかなり大変な事になっちまっている!』
「ニューヨークに移転するんだろ、ネメシスは…」
『ああ……だけど、それ所じゃない状況だ…』
「どうしたんだ?」
 いつになく、騒然とした西川の口調に明らかに焦りが感じられる。何だろう、嫌な予感がする……
『ネメシスはこれまでに無い空前絶後な計画を実行するらしい!』
「おい、西川…くっ空前絶後って大げさ過ぎじゃないか?」
『大げさも何もあったもんじゃねえ!』
「どうしたんだよ」
『一つの都市を破滅に追いやる事のできる計画だ、『バイオハザード計画』と言う計画命が出た』
「バイオハザード計画!?」
『生物災害…ウィルスとか細菌での人に害をもたらす災害だ…それをニューヨークで実行するらしい……』
「マジな話しか?」
『ああ……ニューヨークに行ってすぐに計画に必要な素材を集めるツモリだぜ。実行は…1年か2年後だと思う…だけど、確実に阻止しなくてはいけない。陣内…力を貸してくれるか?』
「………」
『どうした?陣内』
 俺は、それを聞いて…迷いが頭によぎった。ニューヨークへ行こうと思っていたが、秋子を守る為に日本に残ろうとも思っていた。それで、ニューヨークへ行くのを断念しようとも思ったが……今のニューヨークで行われると思われる、計画で何人もの人が死ぬ……そいつ等を見捨てる訳には行かない…
『………無理すんな、お前にも守りたい者がいるんだろう。ここに残るか、ニューヨークへと行くか、全てお前が決める事だぜ』
「…ああ、俺はここに残って秋子を守りたい……だけど、あいつ等を放って置く事は出来ねえっ!またそのバイオ何とかって計画で沢山人が死ぬ事になる!俺はそれを見逃すわけにはいかねえ!猛さん達ならそうする」
 俺は強く、西川に言った。本当なら、ここで秋子を守る為に残るはずだったけど…だけど、猛さん達や俺みたいな被害者をもう誰一人として作っちゃいけないんだ!
『そうか、ネメシスは明日日本を経つ、お前も付いて来るか?』
「………少し考えてから、必ず行く」
『何もすぐって訳じゃねえんだ。時間をかけてゆっくり考えてくれ…』
「ああ……」
『仮面ライダーか…』
 西川はそう言うと、通信を切った…。そして…ルガーを元の子犬に戻して、俺のはベッドに寝転んだ。
「とは言ったものの……話して良いのか、ルガー」
「わう〜」
 これじゃあ、秋子との約束破っちまうな……絶対に離れないって言ったのにな…
 俺はその事が頭から抜けなくて、今日は寝れずにいた。

「人の自由と平和を守る、それが……仮面ライダーなんだよな…でも一人の人間だったら辛いよな……」
 弱音……かよ…俺らしくない。
 でも、どうしようもない……明日、秋子に話そう。辛いが仕方が無い、弱音を吐いても仕方が無いよな……俺は仮面ライダーなんだからな。


 ネメシス地下施設…
 世紀末王の間で幹部怪人蜘蛛と蝙蝠が集結していた。
『蜘蛛よ、やはり水瀬秋子の奪還は失敗したのか……』
「申し訳無い……ですが、この失敗をバネにニューヨークで必ずや挽回して見せましょう」
『ふふふ、楽しみにしておるぞ……それと、問題が発生した』
「それと言いますと……」
 蜘蛛が聞き返すと、蝙蝠が割ってはいって……
「私から説明します…、我等ネメシスが誇る、南極にある大量生産怪人…『蟻』のプラントが何者かにより占拠されたと言う報告を、お前の別働部隊である『海賊』が知らせてくれた……」
『海賊?あの……第参次極東内乱時に回収した『G0』がいる部隊か…』
 海賊とは、幹部怪人蜘蛛が誇る戦闘員大隊の第4中隊第13小隊が正式名であり、主に海上のゲリラ戦を得意とする部隊である。
「あそこが占拠されたなら、やっぱり反ネメシス組織か……」
「らしい……黒狼が暴走してから、俄かに裏の世界で動き出したからな…世紀末王様、これらの組織に同対処しましょう…」
 世紀末王に問い詰める蝙蝠…そして世紀末王の答えは…
『うむ……反ネメシス組織は恐れるに足らん、問題は黒狼だ…我を斬滅できる悪魔の戦士へとなった黒狼が、そう言う組織と手を組むと我等の脅威となるだろう…蜘蛛よ、先の失敗を挽回すると申したな…』
「はっ!」
『ならば、蜘蛛よ……お主に、量産型怪人部隊『MD(マッド)』の指揮を任せる、反ネメシス組織の攻撃参謀として任命する、蝙蝠は『バイオハザード計画』に必要な機材の調達を命じよう、本部に戻ったら失敗は許されんぞ…』
「「はっ!仰せのままに…」」
 二人は、世紀末王に敬礼する…そんな中蝙蝠は心の中で不気味に呟いた。
「(蜘蛛め、自分の監視役として『MD(マッド)』を託されるとも知らずに……)」
『よし、全戦闘員、科学班に通達しろ!明朝7時に日本を出発予定!』
「「ははっ!!」」
『ネメシス戦闘員、非戦闘員、及び科学班に通達…日本支部は今日より放棄……明朝7時に東京湾から出向予定。』
 秘密基地内に響き渡る、世紀末王の放送に西川 和も気付いていた。
「…はー、ついに俺達もひっこしだな、西川」
「ああ…(さて、後は陣内がオレ達を追ってくれば……)」
 必要な荷物をバッグに詰める西川、勿論荷物にはルガーに取りつけてある通信機も入っている。武器庫から弾薬を運んでいる途中で、一緒にいた戦闘員仲間が声をかける。
「そういやさ、鬼塚の奴…生化学研究所ISSに輸送されるって知ってるか?」
「え?ネメシス下部組織の研究所?」
「話しによるとな、日本支部はそこだけ残して、あの改造兵士の研究を進めるらしいぜ」
 西川には、その話しはまったく初耳で…自分の耳を疑った。
「あんな状態の鬼塚に、改造兵士の研究が進められるのか?」
「さあな……でも、そこの所長の氷室って奴。ほら科学班の、あいつだぜ改造兵士レベル2の強化量産案を出したのは…」
「確かにそうだけど……」
「まっ、噂だけど…鬼塚が日本から離れないのは事実だぜ…さっ!さっさと片付けて出航の準備をしようぜ!何せ向こうに行ったらカップラーメンが食えなくなるからなっ!!」
 戦闘員仲間はそう言って、荷台を押して行った。西川の表情は強張っていた…
「………陣内」


 そして、その日の翌朝…ネメシス日本支部は生化学研究所ISSを残して、本部のあるニューヨークへと東京湾から船で出航して行った。

 船の上で、遠ざかる日本を見つめる西川は……最後に…

「じゃあな……陣内」

 日本に束の間の平和が戻ったと…今の時点では……






 水瀬家

「榊ぃーっ!朝よ〜っ!」
「起きろーっ!榊っ!!」
 いつもの様に秋子と春奈姉に叩き起こされ、いつもの様に朝食を取る。そしていつもの様に秋子と一緒に学校へと向かう。学校へ向かう途中でも、話しは切り出せないでいた…ここで言えば、どれ程楽か…思えば……これで、この学校も見納めになるのか。
「榊、どうしたの?」
「んっ?ああ……何でも無い」
「朝から少し変よ…」
「……なあ、秋子。今日部活ある?」
 実は秋子は部活に入っていて、一緒に帰れる日はそんなに少ない…
「無いわよ、一緒に帰る?」
「ああ……途中までな、少し寄りたい所があるから。少し話したいことがあるから……」
 寄りたい所とは、最後に会っておきたい人がいるからな…
「良いわよ、榊…」
 秋子は頬を赤くして微笑んでくれた。秋子はいつもの様に俺に微笑んでくれた…。
 いつか、この笑顔がしばらく見納めになるのかも知れないと思うと…少し寂しいか……


 結局話せぬまま、俺は自分のクラスへと行った。
 クラスには西川の姿が無く、もうネメシスは日本から離れたって事が容易に想像がつく。
「おはようございます、榊」
「おう、咲耶」
 席に座ると、咲耶が声をかけて来る。
「先日の事件は大丈夫でしたか?」
 先日の事件とは蜘蛛の巣事件の事だろう……周りに他の奴らがいるから、何となく話しにくいが……
「ああ……逃げられたけど、また新しい力を手に入れたよ」
「………」
「どうした?咲耶」
「…いえ、大丈夫です……」
「……変なの」
「榊もです、今日は何だか元気が無いように見えます…」
「そか?俺はいたって普通だぜ」
「そうですか…榊の要望で、お弁当を作ってきましたので…昼休みにどうです?」
「おっ、いいね!サンキュー咲耶」
「………(やっぱり元気が無いように見えます)」

昼休み
 屋上のいつもの場所で、咲耶の作ってくれた弁当を俺と咲耶の二人で食う。
「うん!美味いよ!」
「ありがとうございます…」
 咲耶は優しく微笑み俺は弁当をバクバクと食う。だが、咲耶は俺が食ってる途中で切り出した。
「榊……私に何か話しがあるのではないですか?」
「ん?」
 全てお見通しか、さすがは俺の家系と約500年ぐらい争ってきた天野家の人間だ…
「さすがだな、咲耶は……」
「西川さんがアメリカに留学したのも…関係しているんですか?」
「ああ…実はな」
 俺は、事細かに西川が転校した理由を話した。
「そうですか、ネメシスがそれで西川さんはニューヨークへ……それで榊は、どうするつもりですか?やはり、追うんですか?」
「………それもお見通しか…さすがだな。そうだ、俺が追わないで誰が追うんだ?」
「榊、言いましたね…『俺は…あいつ等をネメシスを潰すまでは、戻るわけにはいかない』と…」
「ああ…俺のように、量産型怪人にされる者、そして殺される者も増える…俺はそれを見過ごすわけには行かない……許すわけには行かないんだ!」
「そうですか……いままでの陣内家からは想像もつかない言葉ですが、榊らしい答えです」
「サンキュー、ご馳走様」
「お粗末様…」
 俺は咲耶に空になった弁当箱を渡すと、立ち上がって屋上から出ようとした。
「榊……旅立つなら、名刀『正幸』はどうします?」
「もう少し預ける。今は必要無い、そんな気がするんだ」
「解りました、榊…旅立つあなたを私は止めません…ですが、水瀬先輩を悲しませないようにしてくださいね、榊は単純でバカですから」
「うるせーっ!じゃな…咲耶」
 そう言い、俺は屋上から出ていった。最後のが癪に障ったがこれで決心がついた…ありがとう、咲耶……最後のは余計なお世話だが、感謝するぜ…
 いつか、名刀『正幸』を貰いに行くよ……

 それで、午後の授業も終え…俺は終礼した後に急いで秋子のクラスへと走った。
「ひゃっ、榊…ビックリした」
 勢い余って、俺は秋子のクラスの前で少しこける。
「おわっ!あ、秋子…来たぜ」
 俺は体制を立て直して、こめかみに手を当てる。秋子はそんな俺に微笑みながら…
「うん…」
「よし、行こうぜ…」
 そして、俺は秋子を連れて、水瀬家への帰路につく。

 水瀬家近くの路地で、俺は歩みを止めた。今言わなければ…いつ言う……
「榊?どうしたの?」
「……秋子、俺…」
「何だか、榊…朝から元気が無いように見える。何だか後ろめたいようで…」
「…すまない」
「謝る事じゃないわ、何か話しがあったんじゃないの?」
 やっぱ、鋭いな秋子は……いつも俺が悩んでいる時はすぐに当てたから、本当…

…ですが、水瀬先輩を悲しませないようにしてくださいね…

 咲耶の声が蘇ってくる…正直どう言えばいいか解らない…だけど、どの道言わなきゃならねえんだよな…
「実は…俺、日本から去る……」
「えっ?」
 さすがに冗談とも取れない俺の言葉に秋子はきょとんとする。
「どう言う事なの?」
「……実は…」
 俺は、西川の言った計画を秋子に大まかに説明した。秋子は俺の話しを信じられないような顔で聞き入れていた。説明の最後にこう付け加えた。
「放って置けないんだ、あいつらの為にこれ以上の犠牲者を出すのが……だから、俺はあいつ等を追う…」
「………」
 秋子は無言のまま俯いた、俺の決意に秋子も止めに止めれないのか、なんて言って止めて良いのか解らない…そんな感じか…俺には解る…秋子の瞳が物語っているんだから…
「…俺……不器用だから、こんな言い方しか出来ない…許してくれ」
 そう言うと、秋子は瞳に多量の涙を浮かべて……
「…いいのよ、…榊はいつも決めた事はやり遂げるまで気が済まない性格だから、それを無下に止めるなんて、できないわ…私には」
「………」
 そして、溜まっていた瞳から、涙が零れ落ちた……すごく切なくて、何だか頭が痛くなりそうだ…
「だから、私には……無理なのよ…」
「秋子っ!」
 そしてそのまま、秋子は走り去ってしまった。まるで、俺から避ける様に……そして、俺は一人取り残された。結局秋子を悲しませてしまった。
 俺ってやっぱ、咲耶の言った通り単純で……バカなんだろうな…

 ちっ、どうしようもないな、明日…荷物をまとめて、水瀬家から出よう……
 その方が良いな……、だけど、俺はその前に寄る場所があった。

 それは、信一さんの知り合いで以前に俺が世話になった医者のいる病院だった。
「おう、水瀬んちの榊君か!川澄さんに会いに来たのか?」
 この人が俺の体を調べ尽くした、美坂医師である。もちろん、この人も俺が黒狼だと言う事を知っている人の一人だ。そして…人間に戻した幹部怪人…蛇こと川澄零が記憶喪失の為、入院させている所でもあった。
 やはり、アンチテレキネシスによる怪人を浄解するにもメリットがある…怪人であった時の体の負担はかなり大きく、人間に戻ったとたんに体の免疫力、回復力は極端に低下してしまい、常人なら死、それとも重病人と刺し違えない物だ。だが、幸いな事に…常人ならば今は死んでいるはずだが……鬼塚が施していた、改造レベル1の免疫向上のおかげで、彼女は辛うじて命を取り留めているのだ…鬼塚に感謝しよう……
 だけど、当然…彼女は俺が記憶を消して、彼女が目の前で両親を殺された記憶から、ネメシス幹部怪人だった時までの記憶を消した。俺は、記憶喪失の彼女が道端に倒れていた所を助けたという事になっている。
「はい…」
「そうか…まあ、あの人が1月前の大量殺害事件の犯人グループの一人なんて、信じられないな……」
「………」
 俺は何も答えずに、零のいる…病室へと歩いて行った。
「言ったらまずい事だったか……当たり前か…」

305病室
 何とか面会はできるようで、俺は15分だけ時間を貰い…零のいる病室に入った。
「あ、陣内君…」
「よう…元気してる?」
 零は俺の来訪に、嬉しそうに微笑んだ。
「うん、今は平気よ」
「そうか…」
 俺は、病室のベッドの近くにあった椅子に腰掛けて、ため息をついた。
「どうしたの?陣内君」
 俺の硬い表情に気付いたのか、零は心配そうな感じで聞いてきた。やばいな、何か話す為にここに来たんだよな……でも何処から話す、秋子の事?それとも旅立つ事か?
「やっぱり、陣内君…何か言いたい事があっても言いにくい時はいつもそんな表情するから、すぐ解る」
「…そうなのか!?俺って顔に出やすいのか?」
「そうよって、前にもあったような言い方でごめんね……陣内君とはこの前会ったばかりなのに……」
 実際会っていたなんて、全然言えないよな……でもそこまで、俺が顔に出やすい性格だって事がよく解ったよ…
「それで、どうしたの?彼女にでもふられたような顔をして…」
「…実は……」
 俺はさっきの事を零に全て話した。そしたら零は難しい顔をして、腕を組みながら…
「うーん、旅ね……何の旅かは聞かないけど、自分がそう決めたんなら仕方ないと思うな……でも、その子を傷付けたまま行くのはどうかと思うわね…」
「…そうなのか?」
「うん、そうなの!そうでなきゃ、あなた…後悔したまま、旅立つのは嫌でしょ?旅が面白く無くなっちゃう!」
 零は説教臭く、俺に問い掛けると、妙に納得がいった。秋子の泣き顔が頭に焼き付いて離れない…そんなんでは、俺は旅立つ事なんてできっこない。後悔だけが残るだけだ…何も残るはずは無い……畜生、大事な事を忘れていた気がするぜ…
 そう気付くと、零はにこりと微笑んで……
「ならいっそ、連れて行けば?」
「えっ!?」
「旅は道連れ、世は情けよ…って冗談よ、冗談…間に受けないでね」
「おっ、脅かすんじゃねえよ…本当に焦ったよ」
「ふふふっ、でもそれくらいの気持ちを伝えなきゃ……あなたは行けないわよ…ちゃんと気持ちをその子に伝えてから、胸を張って行きなさい!教師からの一言アドバイスよ!あっ……」
 教師と言い、礼はまた少し表情を伏せた。…記憶が混乱しているのか。
「やだ、教師だなんて……教師じゃないのに、変ねあたし…」
 少し悲しそうに呟く零に俺は、笑いながら……
「いや、いい先生になるよ、零は……病気が治れば、きっととなれるよ…」
「……そうかな」
 零の今の状態は治るかどうか俺にもわからない……だけど、それを期待してしまうのは愚かと言うのか……でも、この人は本当にいい先生だよ。
「じゃっ、面会時間が過ぎたから、俺は帰るぜ」
「うん、また会おうね」
「ああ……またな、いい授業だったよ、先生…」
 俺はそう言って、病室から出ていった。一人になった病室で零は……
「本当はあたしも連れて行って欲しいけど、だめね……彼、風みたいだから…」

 俺はルガーを呼んで、全速力で水瀬家に向かって走った。
 咲耶や零のおかげで、俺は、胸を張って旅に立てるよ、本当に感謝する……

 そして、水瀬家の前にルガーを止めて、水瀬家に入った。
「ただいま」
「あ、榊!やっと帰ってきた……」
 玄関を潜ると、いきなり春奈姉が血相変えて俺に向かってきた。
「一体どうしたのよ、ねえっ!」
「それはこっちの台詞だ、何慌ててんだ」
 俺の襟元を掴んでぶんぶんと振る春奈姉に聞くと、後ろから信一さんが出てきて……
「秋子が帰ってから、部屋に閉じこもったままなんだ……それで、榊君と何かあったんじゃないかと……」
「……」
 やっぱり、ショックなんだよな……俺は、春奈姉の腕を退けて…信一さんと春奈姉を見て……
「信一さん、春奈姉……」
 俺は、旅に出る事と、信一さんと春奈姉に教えた。当然秋子に話した事も全て言った。
「……そうか、この家を離れるんだね」
「すいません」
「なにが、すいませんよっ!あんた、昨日秋子をずっと守ると言っておいて…今度は、旅に出ますって…それが秋子にとってどれだけ痛いか解って言ってるの!」
「……春奈、それくらいにしなさい…」
「だって、お父さん……」
 信一さんが、飛びかかろうとしていた春奈姉を押さえて、俺の方に向かって真剣でそして怖さも感じられる視線を向けた。
「榊君……君がこの家に来てから、いずれこの時が来るかとは思っていたけど、こんなに早く来るなんて思っていなかったよ……旅に出るのは大いに結構、明日の飛行機で日本を絶ちなさい…パスポートはもう取ってあるから」
「お父さんっ!?」
「信一さん…」
 そして、信一さんは俺の襟元を片手でグッと掴んで……その顔を俺に近づけた。
「でも、これだけは覚えておいてくれ……秋子を傷付ける者は許さないよ、それが君でも例外ではない事を忘れるな……」
 いままで、温厚で優しい信一さんに見られない荒々しい姿……それは娘を傷付けた怒りからも出ている。だから俺は…
「解ってますよ、だから……今から秋子と話すんだ…その手を離せ」
 俺も殺気立った表情で信一さんを睨みつける。しばらくその体制で、俺達は睨み合ったまま硬直状態が続いた、だけど…しばらくして信一さんはいつもの穏やかな表情に戻り…
「……うん、よろしい…やっぱり、榊君はそうでないと」
 そして、信一さんは俺の襟を放した。
「信一さんには似合いませんよ、荒々しいのは…」
「そうか……じゃあ、旅に必要な物があれば言って。用意するからさ」
「はい!ありがとうございます!」
 そう言って、信一さんは……家の奥へと向かって行った。そして…春奈姉と二人になった。
「お父さんったら……まあ良いわ、お父さん怒ると怖いからこれからも気をつけてよね…どうなるかと思った……でも、本当に旅に出るのね」
「寂しいのか?」
「バカ言うんじゃないわよ!食費が一人分減って清々するわ!じゃ…必ず帰ってくるのよ……私が言えるのはこれだけだから」
「ふっ…当たり前だっ!」
 そして…春奈姉は俺の頭をスパーンと掃って……
「お土産忘れないでよね〜っ!」
 そう言い……走って行ってしまった。
 そして俺は……秋子の部屋の前に行くことにした。

 秋子の部屋のドアの前に立ち、ノックをしようとする。
 ……秋子が、部屋の中で塞込んでいるのが痛いくらいに解る…人より五感が鋭いから解るのか……痛いくらいに伝わってくる。
 だけど、言わなくては……言わなくては、始まらない。
「秋子、いるか……」
「………」
 無言の答えが帰ってくる。だけど、俺は続けた……
「…さっきは、あんな言い方して悪かった……本当、俺って不器用だ…不器用でバカだって解っている」
「………」
「明日の飛行機で、日本を発つ…信一さんと春奈姉に追い出されたよ…結局……」
「………」
「…秋子、俺だって…今の現状が本当信じられないよ。だってそうだろ……なんで俺だけこんな事になってんだろう…ってな。それで…秋子を守る事が出来ずに、俺は旅立ってしまう……こんな酷な事はないだろ、俺も秋子とは別れたくないよ…ずっと傍にいたいそう思っている……」
「………」
 秋子は、始終無言で俺の言葉に答えているのかどうかわからない…寝ているのか…でも今の俺の言葉を聞いているなら……何か答えをくれ…
「だけど、俺……人間が好きだ。大好きだから助けたい…、守ってやりたいんだ…人を好きになれる気持ち…それを教えてくれたのは他でもない、秋子だぜ。これだけは言える……俺は、どんな人よりも、一番…一番大切なのは秋子だ……秋子が大好きだ!」
「………」
 それを言うと、俺は立ち上がり秋子の部屋のドアから離れようとした。
「そう言えば、明日は秋子の誕生日だったな……最高のプレゼント用意してあるから必ず来てくれ……」
「……榊」
「ん…やっと答えてくれたか…」
 ようやく、ドア越しから秋子の声が聞き取れる事が出来た。秋子の声は今にも消えそうなそんな声だった。
「…私…笑っていられる自身がない……私は…榊がいなくなって、笑っていられるの?」
「…それは……」
「私はいつでも榊が私に元気を与えてくれたから…私は笑っていられた、でも榊がいなくなったら……」
「ドアに頭を置いて見ろ」
「え?」
「いいから……置いて見ろよ」
「………」
 俺は秋子の部屋のドアに、俺は手を翳して……秋子の頭の置いてある部分が何処にあるのか探った。多分、秋子は…このドアの向こうにいる……能力を持って探る。
 あった…ここに秋子がいる。秋子の暖かい感じがドア越しに感じられる……
「…何だか、頭が温かい……榊の手が置いてあるみたいで、ドア越しでも伝わってくる」
「……」
 俺は秋子の意識に直接、能力を送りこんだ。
「秋子、目を閉じて……何が見える?何を感じる?」

 今、秋子は……小高い丘の上にいて体いっぱいに、済み切った風を受けている。
「……温かくて、優しい風が吹いているのが解る…この風は……榊?榊なの?」
「そう俺は風…、消える事のない…自由な風だ……いつでも秋子の元に吹くことができる…その丘が俺の辿りつく場所だ…だから、悲しむ事はない…3年したら俺はこの場所に必ず吹く……その時にこの場所に来てくれ…勿論、笑顔でな…」
「3年…そんなに待てるかどうか解らない……」
「そんな時は、この場所に来て…風を感じてくれ……そして、目を閉じれば俺はいつでも秋子の傍にいる、いつでも秋子を守ってやる…だから、3年したら俺を受けとめてくれるか?俺を抱きしめてくれるか?俺に、いつもの笑顔で出迎えてくれるか?」
「…うん…」
 秋子の部屋のドアが開き、中から秋子が出てくる。その瞳には涙が溜まっていたが、その表情には、悲しみの色は無かった。
「待っててくれるか?」
「……うん…待ってる、風の辿りつく場所で…」
「ありがとう……」
 俺は優しく呟いて、秋子を抱きしめた。秋子は、俺の腰に手を回して…
「榊、あの風の匂いがする……必ず帰ってくるよね」
「ああ、約束する…だから帰ってきたら……」
 俺は……最後の部分を秋子に耳打ちすると、秋子は驚いたように俺の顔を見つめる。

 そして俺と4秒間くらい見詰め合うと、秋子は静かに頷いた。

「うん……必ず、必ずよ…1分1秒遅れたら……ジャム」
「それは勘弁してくれ…」
「だめ……約束」
「ああ…必ず、3年したら秋子の所に戻ってくる…約束だ」
「じゃあ……忘れない内に…」
 秋子は背伸びして、俺の唇に自分の唇を当てた。俺はその感触を忘れないように…秋子の細い背中を抱きしめた。

 ずっと…永遠に…離れる事の無いように…

 今だけ、今だけでいいから、この感触を忘れたくない…
 そう思い、俺は瞳を閉じた。






 そして、夜明けと共に、榊は水瀬家から姿を消した。
 今までの事が夢のような感じのした秋子だが…確かに、そこには榊の温もりや…そこにいたと言う証拠は残っていた。だけど、彼は音も無く…静かに消えていた。
 そう、まるで風のように……陣内 榊は消えていた。


 秋の風が、段々と冬の風になり……辺りが肌寒くなって来たある日。
「秋子さん、おはようございます」
「あっ、咲耶ちゃん。おはよう」
 登校中の秋子に榊のクラスメートでもあった咲耶が、秋子に声をかけて来る。
「彼が行ってしまって、もう2週間になりますね…」
「そうね…早いようで、何だか長かったわね」
 それで、無言のまま二人は、学校へ向かう道を歩いていた。だが、一陣の風が吹き荒れて、秋子の長い三つ編みの髪が靡いた。そして、咲耶の目に秋子の首から下げられた金属の物体に目が行った。金色のチェーンに不思議な雰囲気の漂う宝石を吊るしたペンダントだ……。
「そのペンダントは?」
「これ?榊からの誕生日プレゼント……」

 あの日、榊を見送ることの出来なかった秋子は、記憶を辿ってあの場所へと向かった。
 榊が見せてくれた、あの丘に……
 だが、そこには榊の姿はなかった…だけど、秋子には…榊が言ったあの言葉が頭から離れなかった。
『そう言えば、明日は秋子の誕生日だったな……最高のプレゼント用意してあるから必ず来てくれ……』
 そして……秋子は、丘の天辺にある木の前に何かを見つけた。小さな小包とバースデーカードであった。バースデーカードにはこう書かれていた。
『…誕生日、おめでとう秋子……それと黙って出ていって悪い!BY、榊』
 それで小包に入っていたのが…このペンダントなのだ。

「これはね、『願いを一つだけ叶えてくれる石』なんだって…多分ただの迷信だと思うけど、これを付けてると本当に私の願いが叶うってそう思うの……」
「素敵な石ですね……彼らしいです」
「うん、榊らしい……」
「秋子さんは、その石に何をお願いしたんですか?」
「内緒っ」
 そう言って、秋子は足早に道を急いだ…咲耶も慌てて秋子を追いかけた。
「でも、叶うといいですね…秋子さんの願いが……」
「うん……届くかな…榊に」
「届きますよ……彼は、今もこの地球の空の下で…バイク風を切って走っています…秋子さんの願いは必ず彼に届きます」
「うんっ」
 秋子と咲耶は、空を見上げながら笑いあった。
『榊が……笑って、私の元に帰って来ますように…』
 その願いが……届くように…




 そして、アメリカの荒野を、一陣の黒い風が、走りぬけている。

 運命を変える為…人類の自由と平和を守る為…大切な人を守る為…その黒き狼の仮面の戦士は……荒れた荒野を、疾風の如くバイクで走りぬける。

 いつか、風の辿りつく場所に……辿りつけるその日まで…

 その戦士は……今も何処かで、風を受けている。

 その戦士は名をこう言った。
「仮面ライダーっ!!黒っ狼っ!!」

仮面ライダー黒狼 第一編…完結


後書き!

 やっ…やっと終わった、思えば長い道のりだったぜ…
 第1部!やっと完結っ!!
榊「いえーいっ!」
秋子「はあ、疲れたわ」
 部活…文化祭…中間テスト…入試…その一段落がついて…我々もこれで羽がのばせるというものだっ!
榊「ご苦労さん……」
秋子「でも、首領さん…第2部はいつから始めますか?」
榊「あっ、そうだな!ネメシス追っかけて旅に出たはいいけど…その後からどうなるのかわからねえな」
 はい、2月まで黒狼の第2部は始めません。その間に、外伝の2つと劇場版をつけまして進めたいと思いますっ!
榊「劇場版?映画にもならないのに……」
ぐさーーーーっ!!
 ってでも…それだけ長いの書こうかなと思っている所です!それに、ちゃんと劇場版だけの黒狼もパワーアップ体もありますし…
榊「なにっ!?マジか!」
 はい、劇場版だけになれる形態です。したがって、その形態は第二篇では出ません、劇場版一回のみの出演って事になってますので……
秋子「第二篇では、レギュラーメンバーがいるという話しですが…」
 あっ、はい…第二篇では、スーパーヒーロー作戦風にしながらやろうかなと思ってますので、多分…他のライダー達との競演もあったりして…それと、第3勢力の登場など第二篇では波乱が巻き起こるかも…
秋子「楽しみ」
 はいっそりゃもうっ!

それでは、今回は…前回の前編中編に出てきました、新たな必殺技を紹介しましょう。

08:黒狼半回転キック
 遠距離の技とは異なり中距離からの方が威力が高い。遠距離からは複数の敵(戦闘員等)を一度に倒す時に使われる。
09:黒狼ドリルニー
 高い所から回転落下しながら敵を貫く技、命中率が低いが威力は最大。

でまんねん…劇場版や、第二篇でも新しい技は沢山出てきますので期待しててくださいねっ!

 さて、今回の後書きタイムも第一篇は最終回となってしまいました。これからこの後書きタイムが無くなると思うと涙が出てきます。(泣)
榊「第二篇からも頑張れよ、それと劇場版でもなっ!」
秋子「そうですよ、首領さんならがんばれます。ここまでやって来たんですから」
 そでげすか?………では、気を取り直して

 うぉぉぉぉぉぉぉぉおーーーーーーーーーやる気満万だぜ!!

 すんまそん。

では、またこの後書きタイムであえたら、会いましょう。

終わり


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