榊が日本を去ってから3年、秋子は毎日と言っていいほど、榊の言った風の辿り付く場所、『ものみの丘』に来ていた。
 そして、いつか……いつか帰ってくる、榊を待ち望んで。

 それから3度目の誕生日、秋子はいつもの場所に来ていた。彼が言った約束…3年後この場所に、必ずその風は吹くだろう。
「榊……」
 ……榊が帰ってきたら、笑顔で迎えなくちゃ……と秋子はそう思った。
 

 そして、少し不安だったあれから黙って出て行った榊は、今はどんな感じになっているんだろう……また、いつもの榊なのか、変わってしまっているのか…少し心配だった。
 でも秋子は榊がどう変わっていようと……再会するのは、紛れもない榊だった。
 だから秋子は、榊から貰ったペンダントの宝石にこう願う……

『榊が……笑って、私の元に帰って来ますように…』

ブロローーッ!

 後ろで、バイクが止まる音が聞こえた。
「………」
 ざっざっ、とこっちに近づいてくる足音……そして、懐かしい感覚…
 秋子は緊張で後ろを振り向けなかった。変わっていない…あの人は、この気持ち…あの時と同じ風を感じた。
「よっ…久しいな」
「……榊…なの?」
「約束をすっぽかす程、俺は冷たくないぜ…秋子もそうだろ?」
「………」
 声も…3年前と同じで……全然変わっていない。
「ごめんな、誕生日だってのに…プレゼント一つも用意しなくて」
「(振り向いて、笑わなきゃ……笑わなきゃ…)」
 秋子は、自分にそう言い聞かせたが…体が行動に出なかった。極度までの緊張がそうさせるのだ……榊は、秋子を後ろから抱き…
「秋子、ニューヨークにいる時もただ一度も秋子の事忘れちゃいないぜ…秋子が一番大切だってわかっている、秋子もそうだろ」
「……榊…」
「もうどこにも行かない……秋子を一人にしないよ…」
 榊の台詞が…秋子の心に響いてくる。3年間待って…秋子が寂しい訳は無かった……1秒たりとも、秋子は榊の事を忘れた事は無かったのだ。
 秋子は…榊の抱きしめる手にそっと触れると…
「おかえりなさい…さかきぃ」
 嬉し涙を流しながら、秋子は榊に泣き付いた…榊はそんな秋子の背中を優しく叩いてやった。3年も待った二人の男女の再会……ここから、伝説(サーガ)は再び動き出した



仮面ライダー・黒狼
第2部プロローグ『月食に産まれし者達』






 榊はその後、CIAの長官ユーゼスの裏工作で…警視庁捜査一課へと転属した。ニューヨーク本部を放棄して、日本に本部を移したと聞き…CIAの事を隠して、一人の刑事としてネメシスの動きを探索していた。だが…ネメシスは、その行動を停止させていた…

 まるで、何かの出現を待つかのように…

 数ヶ月後、榊と秋子との間には子供が出来ていた。榊は、その子供にも自分と同じ陣内の血が混ざっていて…いつか、その子供にも不幸な運命が待ちうけているのではないかと不安だった。

12/22 PM:10:20分
 そして、…秋子がお産と聞き……榊は、ルガーを走らせた。空には月が浮かんでいた…榊の目に、その月は段々と欠けてくのが見えた。
「月食っ!?」
 巨大な満月は、時間を過ぎると共に段々と欠けて行っていた。それはまるで…何か危険な事が起きる前兆ではないのかと榊は思った。そして……生まれ出てこようとする、榊の子供……ネメシスの不可解な活動停止。
 何かが……起きようとしている……

 病院に着いた時は、すでに11時を回っていた。
「秋子は大丈夫ですか!?」
「落ち付いて、もうすぐですから」
 だけど、秋子には安心して自分の子供を産んで欲しい……たとえその子に、不幸な運命が待っていようと、それを乗り越えて行こうと思う…秋子とその子供とで…


………とある地下施設、ネメシス新本部

 新設されたネメシス新本部の地下4階…『戦慄の間』は幹部怪人達が人間体の姿で世紀末王に召集していた。
 蜘蛛、蝙蝠、そして新幹部に蠍(さそり)を加えた三人の幹部は、館内に響き渡る世紀末王の言葉に耳を傾けていた。
『幹部怪人達よ……今世紀最大の皆既月食が今起ころうとしている。月が欠ける時何かが起こると言われていた…』
 世紀末王の声が、直に三幹部の耳に届く。ニューヨーク本部から、世紀末王も本体をこのネメシス基地の最下層に置き、三幹部も緊張が走る。
『黒狼と水瀬秋子の間に、子供が出来……そして、今その子供が産まれ出ようとしている』
「なにっ!?」
 月食と黒狼、陣内榊の2世誕生と言う事で、三幹部の顔に驚きの表情が現れる。
『戦慄の序曲は始まろうとしている……三幹部達よ、準備に取りかかるがいい』
「「「ははっ!」」」
 三幹部は世紀末王の声に敬礼する……

 世紀末王の声は途切れ、戦慄の間には三幹部怪人が残った。
「オレ達が動き出すのも時間の問題だな……」
「そうだが…問題は黒狼だ……奴も絶対に我等の計画を阻止しに来るに違いない」
「けけっ、心配いらねぇよ…」
 不気味な笑いを浮かべる幹部怪人『蜘蛛』に蝙蝠や蠍に疑問が浮かんだ。
「どう言う意味だ?」
「なにせ、黒狼もおれ様達と同じ、幹部怪人として改造させられた奴だ……その本性が現れても、なんらおかしくねぇ…」
 確かに、黒狼は自分たちと同じく幹部怪人として作られたが、黒狼にはアグリュームを付けて完全体、今の自分たちと同等の力を得ている。それが何なのかと、蝙蝠は改めて思う。
「それに黒狼の子供も、相当な力を持っていると思うぜ……世紀末王様はその力を狙っているのかもしれないぜ……黒狼がガキの頃の様に…」
 蜘蛛はけたけたと笑いながら、戦慄の間を後にした。蠍も蝙蝠もあっけに取られていた。
「あいつの台詞からだと、黒狼の子供は…世紀末王様のアルティメットコアに使える素材になる可能性があるんではないか?」
「……確かに、科学班の進める『アナザーAC計画』も、黒狼の遺伝子を使っているのだろう……その直接の子供だと、力の差は激しいと言うのか?」
「多分…そして、アグルストーンのように…強大な力を持つミレニアムストーンの特性を持っているんではないか?」
「だとしたら……世紀末王様の復活もここ数年の間に実現できると…」
「ああ……だが、やはり黒狼が…気がかりだ。確かに黒狼は、我等と同じ幹部怪人として作られたが……まさかっ!?」
 蝙蝠は悟ったように、顔を歪める。
「あの黒狼にも我等と同じ特徴を持つとしたら……大変だ」
 蝙蝠は黒狼に秘められたある事実を確信するが、蠍にはそれが悟れなかった…それどころか、黒狼の力自体に興味さえも持ち始めていた。
「なんだか、興味が沸いてきた」
「蠍よ、あまり深追いするな……黒狼はお前が思っているほどの男ではない」
 蝙蝠の助言も虚しく、蠍も蜘蛛と同じような笑いをし始めた……それに呆れかえった蝙蝠は…
「はぁ、どいつもこいつも……」
 と空に浮かぶ、欠けて行く月の映像を見ながら…そう呟いた。



 そして…12月22日 11:56分…月食の夜に、それは産声を上げた。



「んぁ…」
 榊は、目を開けると…病院の窓から太陽の光が刺しこんでいた。榊は疲れからか病院で眠ってしまったらしい。
「そうだ、秋子!」
 榊は、肝心な事に気付いてすぐさま立ち上がる。秋子と自分の子供……もうこんなに時間が過ぎている。もう、産まれてしまったのか?はたまた……
「陣内さんですか?」
 そこにいた看護婦が榊の名を呼んだ。榊は一心不乱にその看護婦に……
「秋子はっ!?大丈夫なんですか!?」
「……ひっ」
 少し脅かしてしまったようなので、榊は少し離れて…
「すまない…それで、産まれたんですか?」
 落ち付いて、看護婦に問うと…看護婦はにこりと笑って…
「おめでとうございます。男の子と女の子の双子ですよ…母子ともに健康その物ですよ」
 その言葉を聞いて、榊は開放感と安心感に心が洗われるような感覚が押し寄せてきた。そして壁に手をついた後…大げさなガッツポーズを決める。
「よっしゃぁぁぁっ!」
「ひっ……」
 それに、そこにいた看護婦はまたビックリしてしまい、少し腰が引けてしまった。が榊は気にする事も無く秋子のいる病室へと走って行った。
「あっ、ここ病院ですよっ!」

ガタッ!
「秋子っ!!」
「しー、榊…赤ちゃんが起きちゃうわよ…」
「……ああ、すまん」
 秋子の横には、二人の赤ん坊が眠っていた。その子供にはすでに沢山の髪の毛が生えていた得に女の子の方は……そして、短い方は少し目付きが鋭くてきつい感じだ。
「抱かせてくれ……」
「じゃあ、お兄ちゃんの方を…」
 そう言って、秋子は榊に男の子を抱きかかえさせた。すうすうと、寝息を立てる男の子は寝顔は可愛いのだが少し……
「やっぱ、目付きが悪いな……」
「あら、榊にそっくりよ、この子」
「そか?女の子の方も、秋子にそっくりだぜ……」
 喜びに、笑顔がほころぶ二人の男女……そして、安らかな表情で眠っている二人の赤ん坊。
「二人とも可愛いわね、髪がもう生えてるのは陣内家の子供だから?」
「まあ、そうかもしれないけど良いんじゃないのか?ちなみに俺が生まれた時は普通だったって聞いたぞ」
「そう?ふふふ、二人の名前はどうするの?」
 秋子は、笑顔で榊に聞いた…そして榊もにっこりと笑って…
「ふっふっふっ、こんな事があろうかと考えといたんだぜ……男なら『太郎』女なら『花子』だっ!」
「榊……名前のセンスが無いわよ…」
「あ、そか?……」
 そして、秋子は外を見ていた……外は降り積もった雪と、雲間から降り注ぐ太陽の光を見ながら…
「女の子が『名雪』男の子は『陽介』って名前にしない?」
「名雪……陽介…いいな、よしお前は今日から陽介だぞっ!」
 榊は高く陽介を持ち上げる…太陽に掲げるかの如く……

 榊自身その時は知る良しも無かった……この陽介が後に、自らの命を奪おうとする自分と対となる存在になろうとも…

「榊……赤ちゃんが生まれたから考えたんだけど…いつ挙げるの?」
 秋子は名雪を抱きながら…赤くなり俯き加減で榊に聞く。榊も何となく解ったのか…真っ赤になってしまう。
「おっおう……来年の1月ってどうだ?」
「もうそろそろじゃない、決める事がいっぱいあるのに……それにまだ」
「CIA出の俺の操作網をなめんなよ〜秋子、その所の準備は済ませてある!そして…こいつもな」
 そう言って榊が秋子の前に小さな箱を置いた。
「これは……」
 中を見て、秋子は嬉しさに涙しながら、笑顔を作った。
「そっ……その、言わせんな…俺の気持ちだ」
「………榊…ありがとう」

 その1ヶ月後、榊と秋子は盛大な結婚式を挙げて…榊は旧姓『陣内』から『水瀬』へと変えた。それは……榊が陣内との思念を立ち切る為の第1歩でもあった…この名のせいで、一体何人もの人が死んだんだ……榊は改めてそう感じて、新たな名前と秋子…そして二人の子供たちと歩もう……そう感じて、榊は秋子と永遠の誓いを果たした。
 結婚式が終わり、帰宅してから…二人の赤ん坊を寝かし付けると…二人は疲れからか、直ぐに眠ることにしたが、榊はなぜか寝付けなかった。ネメシスの事を考えていたのだ。
 ……本部をニューヨークから日本に移行した、超常破壊結社ネメシス…、奴等は前回とは比べ物にならない戦力を保持しているのに未だにその動きを見せない。漠然とした不安が榊の脳裏を過っていた。
「榊……どうしたの?」
「いや?何でもないよ……秋子」
 ベッドの隣りで寝ていた秋子が心配そうに聞いてきた。榊も結婚式の疲れで眠いのは山々だったが、ネメシスとの戦いを考えると寝付けない。
 だけど、悩んでいても秋子には何も言えない……この戦いで、秋子や自分等の子供たちに危害が加わる事が何よりも不安だったから…
「そう、それなら良いけど…でも、榊は余計な心配しないで、やるべき事をやって…私達は大丈夫だから……」
「でも…俺……秋子達と離れられない」
「榊、そんなの…榊らしくないぞっ」
 秋子は微笑みながら、榊の額を軽く指で突いた。
「悩んでいたら、自分の敵に勝てないわよ…いつものあなたらしく、一直線に行けば必ず勝てるわよ。だから私は安心して『いってらっしゃい』って言えるから…ファイトっ榊」
 秋子は笑顔で榊にエールを送った…榊は何だか目頭が熱くなり額に手を当てて……
「……ファイト…か、それもそうだな…」
 榊はこの笑顔を守りたい……絶やしたくない、人からこの笑顔を…榊は秋子の体をぎゅっと抱きしめる。
「サンキューっ!秋子っ!」
「榊……私も名雪も陽介も…応援しているからね」
「ああっ!」
 榊は天井に高々と拳を上げた……守る者のため自分らしく戦う…そう誓うかのごとく。



 それから、榊は……警視庁捜査一課の刑事(本職はCIA対ネメシス特捜隊長なのだが、ネメシスの極秘捜査の為警察では隠している)としてネメシスの動向を独自に操作して行ったが……4月から8月までは、ネメシスの動きを掴む事は出来なかった。
 だが12月……陽介と名雪が生まれてから1年が過ぎた日…

 長野九朗ヶ岳周辺で奇妙な失踪事件が没発していると警視庁で発表があった。
 その事件がネメシスと何か関係があると榊は思い、捜査一課から長野県警へと転属して一条薫警部補と共にその事件を追う事となった。
 一条と共に、喫茶店で昼食を取りながら…この不可解な事件の事を振り返って見た。
 それは『神隠し』としか思えない程の奇妙な事件で失踪した被害者の多くは6日後突然帰ってきて、自分がいなかった6日間の事はさっぱり記憶に無いと言う。
「まるで、浦島太郎ですね」
「……その日、山菜取りに行っていた老人がいた。だが彼が帰った時は…もう6日も時間が経過していて、捜索願も出されていた。そして……その翌日…彼は不可解な心臓発作で死亡した……」
「心臓発作の原因は全く不明…彼は誘拐されてから1週間後に死亡したという事になりますね……(やはり、ネメシスの仕業か…)」
「確かに、呪いめいた不気味な事件だが……彼等には共通点がある。この森林地帯周辺に山菜取りに行って…それから、失踪している事がわかった」
 一条は地図の赤いペンで塗りつぶされた森林地帯をペンで叩いて言った。
「夏に見つかった超古代遺跡の近くですね……」
「水瀬…、何か気になるのか?」
「……いえね、この事件には何か裏があるんじゃないかと思いましてね」
「何者かが裏で糸でも引いているそう思うのか?」
「……その何者かが解れば…ねえ…」
「確かに、それは俺もそう思う…だが、こんな事が出来る人間がいるのか?」
「(奴等なら……可能だ、間違い無い。ついに動き出しやがったか…それに超古代遺跡周辺で起きているのも、何か裏があるようにも見える…)」
「……水瀬、あまり深追いはするな、確か来週は君の子供の誕生日のはずだろ」
 一条の言葉に、榊は遠く離れた秋子と二人の子供の事を思い出した……丁度一月前、この事件の為に単身長野まで来たがもうそんなに時間が絶つのか…
「ありがとうございます、一条さん…でもやるべき事をやらないと…秋子に怒られるし……中途半端にやったら俺らしくないですし」
「そうか…まったく、君はおかしな奴だな……」
「…それはどうも…」
 榊はそう言い、前においてあったグレープフルーツジュースをコップから全てすすった。
「一条さん、現場はこの周辺に集中してますね……」
「ああ…得に、この1週間の内に周辺の住人がいなくなっている」
「(最初事件が起こった所から1週間ごとに、らせん状に広がっています……このまま行けば……)」
 榊は、地図を見ながら…頭の中で次ぎに起こると思われる現場を割り出していった。
「じゃあ!俺もうちょっと聞き込み行ってきますっ勘定ここに置いときますね、じゃっ!」
「あ、ああ……」
 何が何だかわからない表情の一条を店に残して、榊は店を出てそこで待っていたルガーに飛び乗り、エンジンをかけてある場所に向けて走り出した。
 榊の頭には、失踪事件の犯人と…次の犯行現場の大まかな目安が叩きこまれていた。そこに必ず奴等が現れる……
「何をしているのかは知らねぇが、てめぇらの好きにはさせないぜっ!ネメシスっ!!」
 ルガーを飛ばしながら、榊は遺跡近くの森林地帯へと入って行った。


 榊は、ルガーからCIA特注の二丁拳銃エクス&ボルテスを取りだし人気の無い森の中に足を踏み入れた……
 辺りは一面夜の闇で真っ暗となっていた……だが、黒い狼の遺伝子が体の中にある榊には暗闇など無意味に過ぎない…それにしても月が異様に無気味に見える今日、去年陽介と名雪が生まれた時に起きた月食から、榊は月に何かしらの違和感を感じていた。だが、今はそんな事気にしている暇など無い……
 そして、木の入り組んだ場所で榊は立ち止まる……丁度この辺り、ここで奴が次のターゲットを狙っているはずだ。
「出てきやがれ……獲物はここだぜ」
 榊は闇に包まれた森に言い放つ…何が出てきても可笑しくは無い。榊はそんな中……無防備にも目を閉じて、その場に横になった。

「(気持ちがいい……大地と風の匂いだ…黒狼も、俺と融合する前はこうして、大地と風の匂いを感じていたのかな……)」

 榊の頭に、ニュージャージーの大地で寝そべる黒狼の映像が映し出された。
 静かな風を感じながら、その巨体を横にして……大地の匂いを噛み締めている…
 狩りに明け暮れて、疲れ果てた躯を休めていた……けど、奴等の出現により、黒狼の安息は破られた……その時の恨みと憎しみは忘れられなかった。
 そして、その憎しみは形となり、アグリュームから、青い閃光を放ち出し榊の血を使って榊の体を駆け巡る…筋肉を高質化させ漆黒の体毛を鉄壁の装甲盤に変え…高質化した筋肉を固める。
 そして…赤い灼熱の炎を思わせる二つの目を形成させ…榊を、完全なる姿へとなった。

 漆黒の闇から現れる…黒き疾風……彼こそが、仮面ライダー黒狼だ!

 仮面ライダーと化した榊は、ベルトから二丁ハンドガン『エクス&ボルテス』の銃口を遠くの茂みに向けた。
「そこかっ!」
ズガガガガガガガッ!!
 茂みに、連射されたハンドガンの銃弾が茂みに吸いこまれるとそこから、巨大なハエ型の怪人が羽を羽ばたかせて出てきた。
「やっぱり、ネメシスの量産怪人かっ!」
『ギギィーッ!!』
 ハエ怪人は黒狼の姿に驚き、その場から退散しようとしていた。
「逃がすかよっ!!追尾しろチェーンクローッ!」
 黒狼の手甲が展開して、先端に6本の鉤爪のついた鎖がハエ怪人に向けて伸びて行く。その鎖はハエ怪人を追尾してその体にグルグルに巻き付くと、ハエ怪人は自由を失い…地面に向かって…急降下して行った。
『ギェェッ!』
「はぁっ!!」
ズガンッ!
 落下地点に黒狼は素早く走って、ハエ怪人を蹴り上げる。その衝撃で、ハエ怪人の顔は上を向いた。そして、黒狼は蹴り上げた足をそのままハエ怪人の頭部に振り落とした。
「だぁぁーーっ!!」
バシュッ!
 振り落とされた踵はハエ怪人の頭部を砕いて、緑色の体液を噴出させ…倒れこんだ。
「……誘拐犯が、こいつ一匹だけって言うのもなんだよな…何か黒幕がいるはずだ」
『ご名答…さすが黒狼だぜ!』
「………蜘蛛か」
 黒狼の耳に、聞き覚えのある不気味な笑い声が聞こえ…木から何かが自分の目の前に飛び降りてきた。
「久しぶりだな……ニューヨークでは殆ど会えなかったしな」
『オレ様はいつでもお前を八つ裂きにする事だけを考えていたぜ……この腕の借りは返さねぇとな』
「返り討ちにしてやるぜっ!!来いっ!!」
 黒狼はベルトのバックルからナイフを取り出して、蜘蛛と対峙した。
「なぜ、古代遺跡の近くで人を攫っているのか…答えてもらうぜ」
『けけけっ!てめぇに話す事なんてねえっ!!』
キィンッ!
 蜘蛛の爪と、黒狼のナイフが交差して激しい金属音を響かせる。衝撃で、双方は後ろに仰け反る。
『どうしたよ、黒狼…警察(仲良しグループ)に入って、体が鈍ったんじゃねえか?技の切れが無くなってるぜぇーっ!』
「やらせるかよっ!」
 黒狼はさらに、ベルトのバックルに装備された二丁ハンドガンを蜘蛛に向けて撃つ。
ズドドドドッ!
『くっ!CIAも粋なもん持たせんじゃねえか……』
「つぎは外さないぜ…なにせ今月は子供達の誕生日だからな……速急に片付けるぜ」
スチャ
 銃口を蜘蛛に向ける黒狼、だが蜘蛛は避けるそぶりを見せず…黒狼のアグリュームを見て、不適な笑いを浮かべて……
『まあいい、もう十分な魂も蓄積された……ここにはもう用は無い』
「何っ?逃げる気かっ!?」
『けけっ黒狼……人って物は、自らの首を絞めているようなもんだぜ…自然を破壊して、自らの欲望の為に地球を汚すなぜ幹部怪人であるお前がそんな奴等に加担するんだ?』
「……どういう事だ?」
『所詮はお前もオレ等と同じ目的で作られたんだ……なあ、人間なんか見限って戻って来いよ……幹部怪人らしいことしろよ』
「………ふざけんなよ、ゲスが」
『(そうだ黒狼…その調子で……お前の怒りが、自分の本性を呼び出すのさ)』
 黒狼のアグリュームが、かすかに赤き光が陽炎の如く見えた瞬間、黒狼の口部が開き…放熱現象を起した。
「ふざけんな、人間はそんなに愚かじゃねえよ……人間は自らの可能性を高めているっ!お前等にそれを邪魔する権利などないっ!俺は、守れる者が入るから強くなれるっ!!グァオッ!!」
 黒狼の怒りは頂点に達して、全身のバネを使って跳躍し…横回転をつけた黒狼キックを蜘蛛に繰り出す。
ズガァァーーッン!!
『くっ!!』
 蜘蛛はとっさに黒狼キックをジャンプして避け…高い所に糸を巻き付けて、反撃にでると思われたが…凄いスピードで黒狼の前から消えた。
『あばよっ!今度会ったときは容赦しないぜっ!』
「っつ!待てっ!!」
 だが、蜘蛛のスピードに追い付かず、黒狼は月下の中その場に取り残された。
 そして……敵の気配が消えると、黒狼は榊の姿へと戻る。アグリュームに微妙ながら違和感を感じて、榊はアグリュームのある辺りをさすった。
「……何だ、さっきの感覚…アグルストーンから感じる…あの時、陽介と名雪が生まれた月食の日から度々感じる違和感と似ている…」
 アグリュームから感じられた奇妙な感覚は直ぐに治まった為、榊は気にも止めなかった。これが…今後の戦いを大きく揺るがそうとは、知らずに……

 ともかく、これでこの事件がネメシスの仕業である事が解った。だが……目的の全容がハッキリしない…ここには一体、何があって…何が狙いなのか。
 そして……月食の日から妙な違和感を奏でるアグルストーン、陽介と名雪が生まれたのと関係があるのか?何かの偶然か?それとも……これは…運命なのか。

 榊が見上げる月は……いつもと変わらず、不気味な光を放ちつづけていた。


  ToBeContinue

 後書き
第2部スタートっ!イェーイッ!
 やっとスタートできますです…沈黙を破って、黒狼っ!復活っ!!

プロローグは、榊と秋子の再会から名雪、陽介の誕生…蜘蛛との初戦まで、この一本で世界は2年くらい月日が凄い早めに過ぎていますね。次ぎからは、それから本編は1ヶ月後1月からのスタートです、そこから…色々なクロスオーバーでスーパーヒーロー作戦っぽくなって行きます。

 今回のプロローグのテーマは、ズバリっ!『月』です!
月ってのは、表と裏2面の顔があると言われています…それで、これからの展開によってはこの表と裏が…深く関わって行こうと思い。
 後、月食の日に陽介君と名雪ちゃんが生まれたという事ですが……月が地球の影に隠れている時に陽介君が生まれて、名雪ちゃんが月が現れた時に産まれたという事になっています……これも今後の展開に関わらせよう。

 余談ですが……今回のゲストとして、クウガの一条さんを出しました。性格をどう表現したらいいか…解らなかったけど(泣)
 まあ……これからの第2部もどうなるか解りませんが……温かい目で見守ってください。
 

づづく?

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