あの、レベル2開発工場事件の後、牙王に対して捜索部隊が出動する3日の前…ネメシス本部では『獣王』鮫が幹部の集会場でもある、戦慄の間に呼び出されていた。

『鮫よ…勝手な行動は控えよと言ったはず、我が体を修復するまでは、『王の戦い』は始まらないと言ったはずだ…』
「作られた後、何十年も凍結しておいて…それでまた俺の動きを拘束するつもりかい?それに、牙王…幹部怪人『蜘蛛』は、いつかはオレに殺される運命だったんだろうに…」
 人間体の鮫は皮肉めいて、世紀末王にぼやいた…
鮫は獣王となれば、その気になれば…今この時本部を壊しまくり、世紀末王でさえも殺せる力さえ持っている。
 獣王の復活は、世紀末王は今、死んだも同然なのだから…

『牙王はあれでもまだ我が体を復活させる為に、まだ使える存在だった…』
「……不可抗力って事にしといてくれ」
 やる気が無さそうに鮫は答えると…
『ならば、戦いたければ…我が直々に……』
 そのさっきが満ちた声に鮫はゾグッとした背筋の寒さを感じたが…その殺気が快感のようににたりと笑い。
「無理しなさんな…まだ体が完全じゃない時に、んま…今の俺も…完全じゃないからな…」
 前回の勝手な行動が鮫の配下でもあるサブミナルの2体は檻に入れられて拘束状態に陥っている…そう、今の鮫には獣王になれない、完全でなくても幹部怪人の体で今の世紀末王に無傷で勝てる確率は殆ど無い…たとえ無敵の装甲である鮫肌を持とうと…
『ならば、お主は…牙王の代わりに…我の体の候補でもある、子供を連れて来い』
「……仕方ないな…行きますか」
 鮫がしぶしぶと踵を返すと……
「お?」

 戦慄の間の扉を開け、真っ黒いスーツとサングラスをした男が室内に入ってきた。侵入者かと鮫はにたりと笑い…
「…すまないけど、ここって関係者以外立ち入り禁止なんだよねぇ」
 黒いスーツ男と対峙する鮫は、怪人体の姿となりそのスーツ男に腕のヒレを向ける。
「おっと…無駄な戦いはよしましょう…同士よ」
『同士?何言ってんだぁ?ガードを破ってここまで辿り着くなんて、普通の人間にはできないぜぇ』
 鮫はその巨大な口を開けて、黒いスーツ男に噛みかかろうとした…
「おお、怖い…流石はネメシス最凶と言われた幹部怪人…迫力ありますな」
 余裕綽々と黒いスーツ男は、その牙をひょいっと避けると、スーツの中から拳銃を取り出す。
『はぁ…なら俺の牙にかかる事を光栄に思え!』
『待て、両者よ!』
 世紀末王の声で…鮫はその男に牙を向ける前に停止して舌打ちをする。スーツの男も向けていた銃口を下げる。
『…ち、何だよ…』
「………」
 黒い男は落ちそうになったサングラスを戻す、鮫には全く動じないように…余裕ありありと…
『勝手な行動はするなと言ったはずだ…してお主…この間…いやこの基地に入る事は、万死に値するぞ、だがあれだけのガードをくぐり抜け…この間まで来た理由を答えよ、それからでも殺すのは遅くは無いはずだ…鮫』
『…ふぅ、そうだな…』
 世紀末王がそう言うと鮫は人間体の姿に戻ってつまらなそうに戦慄の間にある椅子に座る。勿論侵入者が不審な行動をすれば速攻で殺せるように…間合いを計りながら。
 一方、スーツ姿の男は戦慄の間の世紀末王の声の出ている所へと歩み寄り跪いて…
「おお、お慈悲の言葉…有難き幸せに存じます…世紀末王ドラゴノソード様…」
『ガードの物達をどうした』
「少々歓迎が手荒かった為か……『永遠の眠り』について頂きました。やはり…私はここでは毛嫌いされてますし…」
 不適に笑うその男の腕には真っ赤な鮮血が滴り落ちていた。

『して…お主は一体何者だ……』
 世紀末王が聞くと、その男は「待ってた」とばかりに立ち上がって…
「今ネメシスは、世界の各支部が崩壊し…幹部怪人も残す所を、鮫様をのみとなり、しかも先日は主力の一つを欠いたと聞きます。ネメシスはもはや終わりの兆しを見せている所で、私どもは、参上つかまつりました!」
『そんな事は聞いておらん……我が聞いてるのはお主は何処から来て、何者かと言うことだ、次…質問と違う事を言った場合…お主の命は無いと思え』
 刺々しい世紀末王の声がその男に響くが、それもまた何も気にしないように…その男は…続けた。
「は…恐れ多くも…私めは…ネメシスとバティムの外交役…エージェントQにございます」


仮面ライダー・黒狼
第6章〜夜明けの前〜『崩壊の咆哮』


「それで?バティムの外交役であるエージェントさんが敵陣であるここに何のようだ?」
「さっきも申しましたように…あなた方ネメシスは、もう崩壊の一途を辿ろうとしています。しかしながら…私達バティムも、前戦で戦力を大幅に欠く始末…そこで、今の戦力をネメシスを1として我々を4とします」

 エージェントは歩き回りながら、自分達バティムの現状を簡単に説明していった。そもそも『エージェント』は、バティムが製作したサイボーグ工作員の中でも優秀な兵隊で、A〜Zまで存在する。
 現状で、エージェント達の大半は今日に至るまで、殆ど破壊されて…残りの部隊もCIAにより壊滅状態だと言う。
「そこで、私達は貴方達と協定を結ぼうと言う次第で、こうして出向いたのであります」
「虫が良すぎる話だな…大体、ネメシスの各支部を破壊して行ったのは、お前たちバティムだろう? それに、この間の騒ぎもお前の同僚(エージェントT)のお陰で…」
 鮫が静かながらも、冷たい怒気を発しながらエージェントに言い放つと…エージェントもはぁっと溜息をついて…
「我々も、その時は上の命令ゆえ…仕方なかったのです。私たちエージェントのプログラムは上の命令を受信したら瞬時にその、命令を作戦へと変え…的確にその任務を遂行するように出来ていますから…」
「で?今のお前等の上の命令は?」
「今の私達に受けた命令は、『ネメシスと協定を結ぶこと…互いの戦力を一つにすること』と命令を受けました…上も焦っておられるのです、貴方達もそうではありませんか?」
「………」
 焦ってると聞いて鮫は、言葉をなくす。エージェントはそれを見計らったようににやりと笑い…
「世紀末王様、これが私達バティムからの用件です。勿論受け入れてくれなくとも結構でございます。今までどおり、また我々は敵同士として…再び戦いに戻ります…それではまた悪循環で戦力が減る一方だ、ですが今のネメシスとバティム…二つの戦力を足せば、貴方様の言う『絶対王』に相応しい世界を…ご提供できます」
「…!?」
 『絶対王』と言うエージェントの言葉に、鮫も世紀末王も沈黙してしまう。
「ぜひとも!我等バティムと共に!」
 エージェントの叫びに、世紀末王の今まで閉じていた重い口を開いた。
『……うむ、バティムがどのような物か知らぬが…もはや我等に選択の余地は無い、我が命尽きる時は近い…一刻の有余も許されぬ時だ……良かろう、お主等を受け入れよう』
「………」
 世紀末王の意外な言葉に、鮫もしばし無言のまま聞き入っていた。エージェントのその言葉を待っていたかのように顔を上げると…
「はは、ありがたきお言葉! それでは、今後の事についてご説明させて頂きますと…既に私達バティムの戦艦が日本近海に待機しております…戦艦には我々の残りの戦力が集結して、私の上司も乗っております。つきましては後日言いますが、そこにあなた方の特使を派遣していただき、正式な契約を果たします。その後…そのまま日本に上陸…と言うシナリオになっております…」
 べらべらとよく喋る奴だと、鮫は思いながらも世紀末王の言葉を待つ。
『日本上陸か、お主ら戦艦で日本を攻撃でもするのが…お主らのシナリオか?』
「……神のみぞ知るシナリオです」
『神か…今まで、バティムと交戦して……よく聞いた台詞…お主らにとって神とはなんだ』
「……我等が創生主と言いましょう、そして…貴方達の創生主でもあります」
 世紀末王はその言葉の後沈黙する。バティムと戦って何度も聞いた、『神のみぞ知る』ネメシス側にはまだ、『神』の存在は知らなかったが…世紀末王も鮫も大体は把握できていた。

 『あの男』だと…言う事は…

「ですが、私も行きの燃料しか貰っていません故…貴方達の特使と共にご同行させてもらわなければならないのが…私には痛い、それでは…私はこれで」
 エージェントは踵を返して、戦慄の間から去ろうとした所…鮫と目が合う。両目とも前髪で隠れていて、わかり辛いが…その眼から凍て付く…冷気を放っていた。
「なにか?」
「機械には解るか?」
「……さあて、私には…どうとも言えませんな」
 一瞬、ぶつかり合う怒気が、室内を支配するが…エージェントが戦慄の間を去って行った後、鮫はふっと笑い…
「さて…どういうつもりだ?あの機械人形は…」
『機械の割には面白い男だ……我々の動きを観察するように話しておった…それに、あの男から『絶対王』と言う言葉が出て来るとは意外だったな…』
「全く何処まで、俺達のことを把握してるんだ?バティムって…そもそも、バティムって何者だ?俺が封印される前から…あんたとは、仲が悪かったって聞くが…」
『彼奴は、自らの神を『創生主』と呼んでいた……』
「おっと…待て」
 鮫は世紀末王の言葉を制止して…自分の背中から小さな機械らしきものを取り外して、ちらつかせる…その機械からは、ここの話が聞き取れる盗聴機だった。それをあえて再び体につける鮫は…
「泳がせるのも面白いかもしれないな…」
 とにたりと不気味な笑いを浮かべて、何時も自分が座ってる椅子に腰をかけて楽な体制を取った。


「…進入成功か、最古参のエージェントの中で戦闘力に欠ける『Q』も意外な場所で役に立つものだ…」
 ニューヨークの摩天楼の町並みをビルの窓から見下ろしてタバコをふかす、CIA長官…ユーゼス・ゴッツォ…。
 室内に取り付けられたスピーカーから、二人の男の声が聞こえてくる…それはあの鮫と世紀末王の会話だった。
『鮫よ、早朝にでも…すぐにでも出向できるようにせよ』
『解ったよ、あんな機械どもと組むのは癪に触るが……あんたが不完全な内は協力するよ…何せ、復活しなければ、食い甲斐が無いではないか世紀末王……』
『…よかろう……だが、勝手な行動は控えよさもなくば…』

 ユーゼスの耳に聞こえる鮫の声は、彼に鮫が今までの幹部より、いかに油断のならない幹部である事を再確認できた。
 戦力を大幅に欠いた、ネメシスの『切り札』…最凶と呼ばれた大海のジョーカー…そして、大陸、大空を支配する二匹の獣を従え…獣王へと合体する。
「この幹部怪人、注意する必要があるな…」
 ユーゼスは直接世紀末王の声を聞くのは初めてであろう、生気が段々消えていくように感じられる世紀末王の声に多少の皮肉を込めた笑いをユーゼスは、浮かべる。
「長官…失礼します」
 長官室に、黒服とサングラスをした男が入って来るユーゼスは、盗聴機の回線を一旦切り、その男の方に目を向ける。
「何だ…」
「は、ヘリの用意は整っております、すぐにでも母艦へ発進準備は出来ます」
「そうか…では参ろうか?」
 解ったと言わんばかりにユーゼスは頷いて、椅子から立ち上がり司令室から端末を用意して…
「(陣内榊よ…すぐにそっち日本へ行こう…)」
 端末に盗聴機の座標を入力すると、長官室を後にした。その影に悪魔を映しながら…ユーゼスは嘲笑した、笑い声はヘリの音にかき消されていった。
ブルルルーーー



ブルルルーーー
空港ヘリポート
某国際空港のヘリポートに、エージェントQとネメシスの特使である科学班の人間が輸送ヘリへと歩いている、その横を2台の巨大な檻が通り過ぎる。
「あの幹部の人は、来ないんですね」
 エージェントQの前に現われたのは当初、鮫のはずだった、だが現われたのは帽子を深く被って、かなり遠慮深そうなひょろっとした人間の特使だった。
「はい…何せ鮫様は気が短いお方な為こういう仕事には向かないと…」
「気が短い…確かに短気そうだ、私とそりは合わなさそうだ…」
 エージェントは最初自分と会った時のあの喧嘩腰の鮫に、不敵な笑みを浮かべ、噴出した。まあ鮫は上にも注意せよと命令があった幹部怪人だ、今の作戦に鮫がいたんじゃ、作戦に支障が出るだろう。運良くこの男を寄こしてもらった方が都合が良いだろう。
「所で、あの二つの檻は一体?」
「ええ…協定を結ぶに当たってこちらからも、主力であります量産型の二体を提供しろとの世紀末王様からのご命令で…」
「それはありがたい、それでしたら私等の方もあなた方にお返しをしなければ」
「あ、いえいえそんな…」
「遠慮する事なんてありません…何せ、少ない戦力からの提供ですから、私達もそれなりにお返しせねばなりません」
 エージェントは特使の両手を握って、大げさなアクションで手をぶんぶんと振る。
「は、で…では、ヘリへ搭乗してください」
「解りました」

 ヘリに搭乗し、二つの檻はカーゴに入れられるとヘリは轟音を上げて飛び上がった。

 ヘリの座席で窓の外の大海原を見つめながら、エージェントは特使に…
「指定されたポイントまで飛んでください、そこに我々バティムの海上対地上攻撃用空母エージェントJがあります」
「戦艦が、そのままエージェントなんですか?」
「はい…私達の母艦も私と同じようなエージェントの一人です。史上最大級エージェント艦で、全長255m、全幅は25m。深海400mまで潜れる潜水艦にもなります、主砲は対地用長射程200ミリメガカノンを1文を装備し、対艦ミサイルを4機、更には飛行甲板に4機の戦闘ヘリを常に待機させてあります」
「ほお…それはすごい…貴方のようにその戦艦は意思を?」
 エージェントQの自分達の艦の説明に、その特使はオーバーリアクションで驚くと、得意げにエージェントQは続けた。
「いえ…艦長として私の同僚であるエージェントIが動かしています…他にも戦力として量産型のエージェントRやEを数十名程、艦に待機させて地上上陸後の戦力を投下し日本を一気に攻め落とすそれが我々の『シナリオ』です、あとエージェントJの恐ろしさはこんな物ではありません、彼がエージェントと呼ばれているのは…戦艦形態から地上攻撃用として、人型形態に変形する事です」
「人型に変形!?200mもある巨大な物が変形ですか!?」
「そうです、『彼』は最強最大のエージェントなのです」
「……そうか…最強か…」
 特使の顔色が、微妙に変化した…それに気づかないエージェントは窓から海上を見下ろした…


「見えてきましたよ、あれがエージェントJです」
 ヘリが発進してから、会話の時間を合わせても時間はそんなに経っていない、海上から日本をしっかり射程に入れた距離に、その巨大戦艦は浮いていた。戦艦と言うより一つの島と考えた方がいい…
「もう着いたという事は、あのメガカノンの射程はもう日本に到達していると言う事ですか?」
「はい、当然です…何せ、時間も余りありませんし……これも手助けなんですよ、ネメシスを終わりにさせる為のね」
スチャ
 特使の頭にエージェントが拳銃の銃口を向ける。エージェントの表情は狂気に満ちて、特使を睨みつける。
「メガカノンの照準は既にネメシス本部を捉え、私が行った事でもうロック完了しているんですよ、特使さん…。もうすぐに発射体制でき一撃であなた方の本部を撃破する事は可能です」
「……」
「日本に侵攻するにはどうしてもあなた方や、未確認生命体の存在は邪魔なんでね…ですがあなた方ネメシスには世紀末王を蘇らす、ミレニアムストーンをお持ちだ…その石は世紀末王が唯一の『絶対王』となるための素材で…我々バティムには大変興味深い物だ、利用する価値は十二分にある。ですから、貴方にはまだ生きていてもらい…貴方の口からミレニアムストーンをこちらに渡してもらうように…頼んではくれませんか? 勿論、断ったらすぐにでも、本部を攻撃しますが…ふふふ…あはははははぁ!」
 高笑いをしながら、エージェントQは銃を振りながら笑う。
「貴方が何処まで人質となるかは知りませんが、少なくとも鮫様よりは働いてくれるでしょうね…彼はネメシスにも、私達にも非協力的ですから」
 にじり寄りながら、特使の頭に銃口を突きつけるエージェントの顔を、特使はギロリと睨みつける。

その目には白目が無く、深くどす黒い瞳があるだけだった。
「な!?お前は…」
ドス!
「がぁ!」

「俺の瞳を見てしまったな……ふふふ」

 特使が帽子を外すと、中に仕舞われていた髪の毛がバサっと落ちて…その男の目を隠した。銃口を下ろしたエージェントの背中からは鋭い出刃包丁のような刃が突き出している。
「まあ、機械は嘘をつけないと言う限り…嘘が下手だな…オレ達が気づいていないと思ったか……阿呆め」
「が、何時から気づいていた…幹部怪人『鮫』」
 エージェントからヒレを抜くと、エージェントは膝をついて倒れこむ。
「機械にも痛みと言う物があるらしいな……意外や意外…」
 鮫はヒレを元の腕に戻してダメージを受けている、エージェントの首を掴む。
「こんな事をしていいと思っているのか!?私が死ねば…その時点でメガカノンは発射されるぞ!」
「どうぞ、発射してくれ……まあどうせ、最後は俺が勝つんだからなぁ」
「な…お前、自分を生み出した者を見捨てるというのか!?裏切るというのか!?」
「機械は脳みそもお硬いねぇ…俺は最初っからそんな仲間意識なんざ持っちゃ居ないさ…機械とは違って、俺は生きてるんだよ…」
「く…貴様、最初からそのつもりで……」
 鮫はにたにたと笑いながら…人間体から幹部怪人の鮫の体へと変身していく。変身を完了させた、鮫は巨大な口を動かしながら…
『唯一の絶対王という言葉には正直驚いた、けどお前たちは肝心な事を解っちゃ居ない……俺達ネメシス幹部怪人は潰し合いをしてるのよ、唯一の『絶対王』となるためにな…だから、組織なんて関係なくあの世紀末王が作ったもの…そんなもんどうでもいいさ……心配しなさんな、お前達の助け無しにネメシスはじき終わる。世紀末王の死と共に俺が絶対王となってな!…はっきり言ってお前等機械は邪魔だ…』
 鮫のヒレにより…エージェントの体はバラバラに分解され細切れとなり落ちた。
『機械が俺達の潰しあいに介入してくるな……』
首だけとなってヘリの中を転がるエージェントは、最後の質問を鮫に投げかけた。
「サ…メ……貴様…何ヲ…考エテ…」
バキ!
 それを聞くとエージェントの首を鮫は踏み潰して…
『真意?それは、神さえも知りえない……難解なものさ』
 そして量産型…いや、鮫のサブミナル達が入った檻に近づいて…その檻を開け放つ。
『は…確か、あの機械はあれが地上最強と言ったな……面白い』


 その頃、艦の飛行甲板上ではエージェントQが破壊された事など知らず、ヘリの到着を待つ、何人かのバティムの量産型エージェントたち、手にはライフルが持ち第一種戦闘配置の体制をとっていた。
「ふん、馬鹿どもめ…ヘリがつけば貴様等も終わりだという事に気づかずに…ヘリがつき次第、二本のネメシス本部を迎撃しろ。あいつが現われてからもうバティムはネメシスの本拠地の場所など把握している」
 エージェント艦のメガカノンの照準が、ネメシス本部へと向け…司令室での、艦長であるエージェントTが発射ボタンに手を伸ばそうとしていた所を、ヘリの異変にいち早く気づいた。
「……ヘリの動きが可笑しいです、ヘリが減速しない…。しかもカーゴが開いている」
「エージェントQとの通信開け!何が起きたか情況を報告させよ」
「はは!」
 エージェントIが指示を出し、艦のオペレーターがヘリに居ると思われる、エージェントQに連絡を取ろうとしたその時…
「Q、Q…応答せよ、応答せ…」

ドドォォーーーーーン!!

 ヘリが強烈な爆音と共に大爆発を起こした。
「何!?ヘリが…もしや、感づかれた!?」
ビービービー
 警報が鳴り響き…レーダーが何かを察知した。
「艦長!上空に敵怪人、一体出現!!」
 モニターに爆風から飛び出す、巨大な鳥の翼が確認された。大翼を広げた鮫のサブミナルの一体…『大鷹』が高速で空を滑空していた。
「量産型一体か!?いや、幹部怪人!?」
「それが、あの鳥は幹部のリストにはありません!!」
「だとしてもあれは、我等に対するネメシスの答えだ!さっさと撃ち落せ!!」
「レーダーに更に反応!海上を猛スピードで本館に向けて接近するもの一!!」
「何!?」
 大鷹の映像より下の画面に、海上を走り…赤い鬣を風に揺らす地上の獣の王者の姿がそこに居た。
「し、獅子の怪人が!!海上を、猛スピードでこちらに向けて進行してきます!!」
「ありえん!地上の怪人が…もしや、敵影は獅子一つではない!二つだ!」

ジャジャジャ…
 海上を走るサブミナル…獅子は明らかに不自然な姿で海上を走っている何かに捕まるように腕を海に潜らせて、膝をついて何かに乗るような形で走っている。
 いや実際に乗っているのだ、水中を猛スピードで泳ぐ鮫の背に…獅子は乗っている。
『さて……始めるぞ。獅子、大鷹…トリニティベノンを奴にかける!』
 鮫は海中を泳ぎながら、背中の獅子と上空を飛ぶ大鷹に指示を出した。その指示は脳波を伝い、指令となり二体に送り込まれ…戦闘開始の合図となった。
『くうぇぇぇぇーーーー!!!』
 大鷹が上空で風に乗るように旋回しながら飛び、驚異的なスピードで飛び戦艦に特攻を仕掛ける。
「構わん!撃て!3体とも撃ち落せ!!」
 司令室からエージェントIが命令を下し、戦艦から機関砲が上空の大鷹に向かって撃たれる。だが、大鷹はそれを余裕でそれを避けて…避けた所に両腕の翼から羽を手裏剣状に投げつける。
ジャジャジャ!
 上空から投げられた羽は、機関砲を切り裂いて雨のように戦艦の装甲を傷つけて行った。
「く!小ざかしいマネを!」
 攻撃が一瞬ひるんだ隙に、鮫は背中の獅子に向けて…
『飛び移って、飛行甲板上の敵と…戦艦の中を掃除しろ…俺は戦艦を沈める』
『ごぉぉ!』
 鮫の指示の後、獅子は勢いを付け、脚のばねを使って飛び上がった。
ズーーーン!
 獅子が飛行甲板に着地すると、戦艦全体がが大きく上下に揺れた。
「うわ!獅子海上より、飛行甲板上に着艦!エージェント部隊攻撃せよ!!」
ブゥン!
 甲板上で待機していたエージェント部隊はライフルを構えて獅子に対し発砲する。
ズダダダダダ!
 何発もの弾丸をその強固な筋肉で跳ね返し、獅子はその豪腕と鋭い爪でエージェント一体の頭を叩き潰した。
グシャ!
『ぐわおぉぉぉーーー!!』
 一体を後に攻撃を仕掛けてきたエージェント達を次々となぎ倒していく。
「!!死ね…」
 獅子が止めの腕を振り上げたその瞬間、その背中にコンバットナイフを突き立てようとするもう一体のエージェント…
バシュ!バシュ!
 だがそのエージェントも、上空から撃たれた大鷹の羽によりバラバラに切り刻まれる。
『うう…ぐおぉぉーーーー!!』
 咆哮と共に獅子の猛攻撃が、甲板上で繰り広げられた。

「何をしてる!エージェント隊は全部甲板に投入し掃討しろ!甲板上の敵は一体だ!上空の敵は、メガカノンを使っても撃ち落せ!!」
「艦長!艦の下部より浸水していきます!次々と…艦に亀裂が!」
「何!?どういう事だ!?」
 エージェントIが被害の報告をオペレータに聞くと、戦艦の水に浸かってる部分が傷ついていくのが、時間と共に増えていっていた。
「何者かが海中から艦を攻撃してるとしか……」
「…もしかしたら……」

 海中では、鮫が両腕と頭の三角のヒレ…トリプルダガーを使い戦艦の船体を斬り付け、穴を開けていた。
『装甲は意外に脆いな…これではミサイルも跳ね返せんぞ…』
ジャキン
 鮫は巨大な口で船体に噛み付き、そこの装甲を引っぺがして大穴を開けそこから進入して浸水していく船の中を泳いでまた、壁を引っぺがしそこから海中に戻ったりを繰り返した。

「艦長!艦がどんどん海中に引きずり込まれて行きますこのままだと沈没します!」
「何てことだ、地上・上空・海中の3つからの多面攻撃…たった3体の敵にバティム最強の力を持つエージェントJが沈む……」
 エージェントIは苦悶の表情を浮かべ頭を抱ええた…上空から大鷹により機関砲は無力化され…ミサイルを封じられ、飛行甲板では獅子が暴れ周りエージェント部隊を悉くなぎ倒して行き…海中からは鮫が艦を沈めようとする…

 トリニティベノン…獣王の必殺技の一つとされていた三位一体の動物の攻撃とされていたが、上空・地上・水中からの息のあったフォーメーション攻撃…いくらそれが最強の力、巨大な体を持とうが…それの前には完全に無力になる。
「後にトランスフォーメーション!こうなったら、全砲門を正射して…一気にけん制するしかない!」
「しかし海上面でトランスフォーメーションはバランサーが!」
「構わん!このままみすみすやられるより、奴等を道連れにした方がまだましだ!!」
「く…了解!」
 エージェントIの指示で艦内に放送が流れる。
『エージェントJスクランブル、トランスフォーメーション開始…総員は直ちに所定の場所へ移動してください…繰り返します』
 放送の後、館内の隔壁が閉鎖され…戦艦に大きな揺れが生じた。

 鮫はその放送を聞いて、海上から飛行甲板に躍り出て…エージェント部隊をなぎ倒す獅子と合流する。
『しゃぁ…獅子、戦艦が振動しているぞ……人型に変形するつもりらしいな……でか物が全く悪あがきを…獅子!大鷹!』
 鮫の命令で、空中から大鷹が飛行甲板へと降下してくる…鮫と獅子の居る飛行甲板も…ゆっくりと変形していく。艦首が持ち上がって、段々と変形していく。
『一撃で沈めるぞ……トリニティ…』
 変形していく飛行甲板の上で鮫を中心に獅子と大鷹が合体していく。眩い閃光の中、二体は鮫と融合して、鮫は陸・海・空を制する獣の王へと変わって行った。
『うぉぉぉぉーーーーーーー!!!』
 咆哮と共に、獣王は背中の鷹の翼を広げ一気の上空まで飛び上がる…その間にも戦艦は海の上で変形を完了させようとしていた。その巨体は海の底に沈んでいくが尚、獣王を道連れにしようと、巨大な腕を伸ばす。
『ウドの大木が……はぁぁ!!』
スバァァーー!!
 獣王が力を解放しただけで、獣王を掴もうとしていた巨大な腕が消滅する。

「右腕…消滅!!何て力だ…最強の力を持つ、エージェントJの腕をもぎ取るなんて」
「これが…『王』の力とでも言うのか!?メガカノン照準合わせ!沈む前に、奴を落とせ!ここで無駄死になどしない!」
 傾く司令室のモニターに、翼を広げた獣王の姿が映る…艦長がトリガーを持ち…照準を獣王へと向ける。

グイーン…
 獣王に向けて、戦艦の肩部にあるメガカノンが向けられる。長い主砲の銃口から巨大な砲台が発射されようとしていた。
『木偶が…まだ悪あがきを、俺はしぶとい奴が大嫌いなんだよ!』
グギュル…グギュリ…
 獣王の体が波打つように変形して、胸から腹部にかけて巨大な鮫の口が姿を現した。
『消えな…機械人形たち』
ズゥゥゥーーー
 口の中に何かを吸収して行き、それをどす黒い気の塊が形成されていく…その球体は口の中で巨大化して行き。
 それを知らない艦長はトリガーの銃口を引こうとした。
「死ね!ネメシス!」
 メガカノンのトリガーが弾かれ、砲から巨大な弾頭が発射される。獣王は正面に来る弾頭を目の当たりにして…

『……全ての、終わりだ…最終極技…』
 一気にそれを吐き出した。

 ジ・エンド・オブ・デストロイヤー!!

「な!?」
 艦長の目に一瞬…太陽が爆発したような強烈な光が炸裂した、まぶしい光に目を閉じるがその目は二度と開かれない。…光は戦艦も何もかも飲み込んで……全てが消滅した。

ズガァァァーーーーーーーーーーン!!!
 上空には巨大なキノコ雲が立ち、海が大きく揺れた。

東京湾
 風祭 真はバイクで、優を迎えに行く途中…海の向こうで何かが光ったのを感じ取った。
「何だ、あの光……」
 光は一瞬で消え、その数秒後…花火が炸裂したようなバンと言う音が聞こえて来る。真は今の光に不吉な予感を募らせつつ、またバイクを走らせた。

 海上上空で巨大な羽を羽ばたかせながら、崩壊したバティムのエージェントJの破片が雨のように飛び散る…どす黒い黒雲が立ち込めた空を浮遊する、獣王が一人。
 さっきまであった戦艦はその姿を海の上から消し…粉々に破片となって飛び散った。
『これで、機会に邪魔をされる事は無い……さて、これから本当の終わりの序曲が鳴り響く……』
 獣王はくるりと反転して、漆黒の雲が立ち込める空を日本に向けて引き返していった。



 バティムは、その戦力の全てをあの戦艦に投入して……日本侵攻を図ったらしい。当然ネメシスからミレニアムストーンを奪った後は、メガカノンで砲撃し壊滅させるつもりだったらしいが、その野望も獣王の最終極技の前にチリとなって消えた……

 エージェントたちは全てあの一撃で微塵に消滅し、バティムの神たる存在である男も、ヘリで戦艦に向かったまま行方知れずとなった。

 バティムを裏で動かしていたその男の正体と行方は……今だ謎に包まれ、バティムと言う組織に実態すら、知りえないまま永遠の終わりを告げたのだ。

ただ知ってるとしたら、それこそ…神のみぞ知る……物なのではないだろうか…




 ToBe Continue

ぐわし!
 前回に引き続き、どうしたのでございますか榊君…
榊 「今回も何ぞやこれは…」
 今回もネメシス側の話ですが、今回は獣王様をかっこよくしてみました。
榊 「なんで、様付けなんだよ……」
 だって獣の王様なんだもん。てへ
榊 「男がてへっじゃねぇよ、きしょい!」
ぼか!
 うがぁ!まあいいでしょう、今回は獣王様こと、鮫様にスポットを入れます。ネメシスの本当の目的は次回明らかになるんですが…。
その前に鮫様は、その強力な力ゆえに封印されていた事を覚えているでしょうか?榊君…
榊 「え、あ、まあな…最凶の幹部って言うくらいだし、元から王として作られたんだろ?」
 まあそうですが、最強の幹部怪人として作られたのはじつは黒狼、貴方だったんです。
榊 「何!?まじか?」
 でも第一部で逃げちゃった為か、中途半端なところで改造で変異体として動いていた時期ありますよね、その時逃げなくて完全に改造させられたら、鮫様を超える凶悪さになっていたというわけですよ〜
榊 「今考えるとぞっとするよなぁ……」
 暴走したのも案外、その『最強』さが裏目に出たんじゃ?

 あ、そうそう…話戻しまして鮫様の人間体のモチーフは、『貞子』です!
榊 「へ?井戸から出てくるのあいつか?」
 ええ、何せ伸ばしきった髪の毛で両目を隠しているんですから、結構不気味。前髪の中には鮫の眼球が…それも、また不気味に…
榊 「ぞー…確かにありゃ不気味だよな」
 顔自体はビジュアル系…なんですけど…
榊 「なんぞやそりゃ…」
 んで、今回の話を最後に、バティムは壊滅しちゃいました。そんで次回は、いよいよ…あの男が動き、終局に向かう決戦が始まります!
 交互期待!
榊 「て、てめぇ!話を、きりが悪い所で終わらすな!」

 全ては神のみぞ知る…

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