--------------------------------------------------------------------------------

 

 生田市の元アミーゴから取って来た物資を信一さんに任せて、俺はルガーで観奈美の待つ木原市の公園へと向かっていた。

 観奈美には、なんて言ったらいいんだ……俺がいない間の出来事を、はっきり言うべきなのか…俺が人ならざる者に変えられてしまった、黒狼に変えられた事を…

 きっと、驚くだろうな、信じてくれないだろうな…それでいい、あいつが不幸になるくらいだったら…信じなくていいんだ。

「ちっ、何だよこの感じは……」

 俺はそう呟き、ルガーを走らせた……

 

 俺の頭から、観奈美の笑顔が離れない…何だこの感じは…

 

 ちくしょう……胸が痛い…

 

 

仮面ライダー・黒狼
第5章後編『偽者』

 

 ルガーが、木原市の公園へとついた。

「ルガー、戻れ」

『くぅーんっ』

 ルガーはそう鳴くと、バイク形態から子犬に戻り…俺の頭の上に乗った。

「頭に乗っててもいいけど、話しの妨げになることになることはやめろよ」

「わんっ」

 俺がそう言うと、ルガーはこくりと頷いた。

「何処らへんにいるんだ?」

 俺の視界には、観奈美はいない……どこだ、どこにいるんだ…

 今無償に、観奈美に会いたい……俺は、公園の中を駆けた。

「観奈美…俺、こんな気持ち始めてだ……何だよ、この気持ち…胸が痛いよ。観奈美に会えばこの痛みが取れるかもしれない…会いたい、観奈美」

 俺は観奈美の名を何度も呼んだ、すると、後ろにやさしい感じの気配がした。

「私はここですよ、榊さん……」

「遅いぞ……少し探した」

「ごめんなさい……ちょっと遅れました」

「俺には、そのちょっとじゃなくて……すごく待った」

 俺はそう言うと、後ろにいる観奈美をぎゅっと抱きしめた。だけど気持ちが、紛れる事はない……。

「榊さん……苦しいですよ…」

「すまない…俺が、遅れたんだよな…」

「すごく、心配したんですよ……どこに行ってたんですか?」

「………それは、言えない」

「ふぇ……なぜですか?」

 今にも泣きそうな顔で、観奈美は聞いた。その表情に俺は罪悪感を感じられずにいられなかった。

「榊さんがいなかった時間、私はどれだけ…」

「俺、その時間ずっと眠っていたんだ……気がついたら、病院のベッドの上だったんだ」

 嘘だとわかっていても、俺は観奈美を悲しませない為に続けた。黒狼になった俺なんて、観奈美は求めちゃいないだろう……こんな、人間でもない俺なんか…

 俺はすぐそこにあったベンチに座り、観奈美はその隣に座った。

「実は、その後…俺は記憶が戻った、ずっと封印されていた記憶が……」

「榊さんの記憶?」

「ああ……家族の事とか、いろいろ。闇に身を置いていた時の事も…」

 俺は、記憶が戻った事を観奈美に語った、なんだか重みが取れる様で楽になっていくのが解る。

「みんな、死んじまったけど……今は信一さんもいるし、秋子姉や春奈姉もいるし、俺は満足だ…寂しくない。それに観奈美もいる……」

「今、榊さんは幸せですか?」

 不意に観奈美が聞いてきた、幸せと言ったら嘘になりそうで怖かった。この現状が幸せだと言うのはまだ言いきれないのは確かだ。

「今は、そうは言いきれないな、でも」

「ふぇ?」

「俺は、観奈美がいてくれれば…それで構わない。観奈美さえいてくれれば……俺は、観奈美が好きだ……離したくない」

「榊さん……」

 俺はまた観奈美を抱きしめる、もう、離さないように…

「さっ榊さん…私も榊さんの事が好きです…大好きです、ですが…」

 観奈美はそう言うと、俺の腕を押して離すと俺の目を真っ直ぐと見て……

「その答えは無理なんです……」

「どうしてだ?」

「私も榊さんが本当に大好きです……それは変わりません。ですが…明日でお別れなんです……お父様の転勤で海外に行くことになりました」

 俺の問いに観奈美は悲しそうな顔をして、答えてくれた。明日、観奈美と別れるのか…

「どこにいく事になっているんだ」

「ドイツです」

「ドイツか遠いな……しかも明日なんて」

「私も、榊さんと別れるのは嫌です……もっと色々、積み上げて行きたいのに」

 考えくもない現実だ……だが、観奈美が明日、ドイツに行ってしまうというのも現実…

 だが、これでいいんじゃないか?ネメシスの危険から離れた場所にいれば、観奈美は幸せでいられるんだ…俺は残酷な事を考えているのか…

「榊さん…いっそのこと、あなたとバイクで遠くに行きたいです。私達の知らない場所に」

 俺は答える事が出来なかった、俺といたら…危険の二文字を背負わなければならない。

「…俺もいっそ観奈美を連れ去って逃げたい気分だ、だけど……それだと、観奈美を幸せにできる自身はない。お前は、俺がいない場所にいるのが一番幸せなんだ……」

「ふぇ?……どうしてですか?」

「俺といると、危険が付きまとうからだ……」

「私は、榊さんがいない世界なんて、考えられません…ふぇ…なぜ、そのような事を言うんですか?」

「それは、俺が……」

 黒狼だからと俺は言えなかった、観奈美を突き放す為…俺は黒狼の事を明かすしかないのか……それが残酷な運命だと知ってても…悲しそうな観奈美を見ているのは絶えられない……

「ふぇ?」

「俺が……」

 俺が、言おうとした瞬間…ズゥンと重い気を感じ、そして左手首が痛くなった。

「ぐぅっ!」

 黒狼への変異の兆候だ……そして、黒狼の声が、頭に響く。

…敵ダ、敵ガ来ル……

「榊さん?どうしたんですか?」

 いけない、観奈美をここから逃がさないと…やばい、俺…

……敵ヲ、敵ヲ倒セ!榊!……

「ぐぉっ!……ぬっ…」

ギュルンッ!

 俺は耳に何かがうねるような音が聞こえ、観奈美を抱えベンチから下ろし、地面を転がる。その瞬間、何か長い鞭のような物が、ベンチを粉々に粉砕した。

「よく避けたわね……さすがだわ」

「ぐぅぅっ」

 声のする方を向くと、そこには長い鎖を携えた女が不気味な微笑みを浮かべていた。

 蛇のような仮面をつけている女のようだ…だがコイツ…ネメシスの!?

 なんだこの視線……どこかで会ったような…

「その子を捕まえようと思って来て見たら、黒狼もいるじゃない…これを一石二鳥というべきなのね……うふふふっ」

「えっ?」

「観奈美をどうしようってんだ!?」

 俺は立ちあがり、その女を睨みつけながら聞く。

「それは、私達の本部に戻って、あたし達の仲間になれば…教えてやるわ」

「榊さん……どういう事ですか?…」

 後ろで、座りこんでいる観奈美が俺に話しかける。

 俺は振替もせず奴を睨んでいる、もう意識を保つのも限界で…今にも変異しそうな状態だ…特に表情と目だけは見て欲しくない…そして、俺が黒狼だと言う事を…

 だが、もう間に合わない……もう…限界だ…

「観奈美……見せてやろうこれが、理由ダ…」

ザッ!

 俺は手をクロスさせる、左手首に月影の石が浮かび上がり…俺は天に向かって叫ぶ。

「変異!!」

 俺は叫んだ瞬間……意識は黒狼へと移り…

 

 

 榊は、黒狼へと変異した…

『ぐぅぅぅぅ…』

「ふふふっ…あなたのその姿を生で見るのは始めてね……」

 黒狼は観奈美を後ろに、鎖を操る蛇仮面の女を睨みつけた。観奈美は、榊の体が瞬時に黒狼へと変わり、驚きを隠せなかった。

「さっ榊さんがおっ狼?!」

「彼女を怖がらせてどうするの……悪い子ね…いいわ、二人ともあたしの鎖で捕まえてあ・げ・る♪」

『ぐぁぁぁっ!!』

ジャキィン!

 黒狼は左腕をストライククローにして、観奈美を守るように女と対峙した。

「彼の心がまだ残っているのね…ぞくぞくするわ!」

 そう言うとジャンプして黒狼に向けて手の甲から鎖を伸ばした。

「あたしは、幹部怪人の蛇!黒狼っ!勝負よっ!」

『ぐぉぉぉぉぉーーーーーーっ!』

 黒狼はストライククローを振り上げ、蛇に突進した。

ブオンッ!ズガァァァァンッ!

 黒狼のストライククローは、蛇の足元の地面を叩き割ったが…蛇はジャンプ際に黒狼の首に鎖を巻いて、そのまま黒狼を投げ飛ばした。

『ぐぁっ!』

ズゥゥゥゥーーンッ!

 黒狼の体が、地面に叩き付けられ黒狼は血を吹いた。

「やはり、完全体じゃないと脆い物ね……ジャッ!」

ギュルン!

 蛇の鎖が黒狼の両腕に巻きついて黒狼は動きを封じられた。

 抵抗しようとするが、黒狼に巻きついた鎖は徐々に蛇へと戻って行った。

 黒狼の体が、蛇の鎖で段々と近づいているのだ。

「榊さんっ!」

『ぐぅぅっ』

「無駄よ、黒狼はもはやネメシスの手の中に入ったも同然よ…」

「ね…ネメシス?」

『ごぉぉぉぉっっ!!』

 鎖が黒狼の体を巻きつけようとした瞬間、一瞬鎖が緩められたのを見計らって黒狼は蛇の体を階段を駆け上がるように、2回蹴り…最後の蹴りの反動を利用して一回転ジャンプで蛇の鎖から離脱した。離脱技で多用するウルフキックだ。

「がはっ!」

『ぐぅぅぅっ』

 黒狼は観奈美の前に着地して、膝をついた。

「中々やるわね、鎖の一瞬の隙を見て攻撃なんて……本当見込みのある子ね、でも…」

『ぐはっ!』

 黒狼はその場膝をついてしまう…横腹に蛇の鎖を受けてしまったようだ。

「戦士としては、まだ半人前よ……ちっ、さっきの蹴りで少し気分悪くなったわ、また会う時は、あなたとあたしの決着のときよ、それまでに完全体になるべきね」

 蛇も下っ腹を押さえながら手を振って、漆黒の闇へと消えて行った。

「…アデュー黒狼」

 黒狼は、蛇が行ったのを確認すると、次第に榊の姿へと戻り、そして倒れこんだ。

 

「榊さんっ!榊さんっ!」

 俺は黒狼から戻ると、凄まじい痛みが躯に走り…倒れこんでしまった。

 黒狼への変異が重なり、俺の体にもうガタが来始めやがった。

 観奈美が俺の傍に駆け寄って来る。そして俺の頭を抱え込み介抱する。

「いっつ……」

「大丈夫ですか?榊さん…」

「言っただろ、これが理由だ…」

「さっきの姿が、榊さんが私を幸せに出来ない理由ですか?」

「ああ……俺はあいつ等に狼の改造人間、黒狼として改造させられた…間一髪逃げ出せたはいいが、このざまだ…」

 俺は、苦し紛れに言い放つ。観奈美はまだ信じられないようだ。

「俺はあいつ等が憎い、人の命を食物にしか思わない奴等が許せない。だから俺は…奴らを追い、倒す!だから…君には俺と同じ経験をして欲しくないんだ……」

 俺はそう言うと痛む躯を押さえながら立ちあがった。観奈美は悲しそうな顔で俺を見つめる…仕方がない、これが改造人間の宿命なのか…

「向こうで幸せになってくれ……それが今言える言葉だ、俺の分まで幸せにならねえと許さないからな……」

「榊さんっ!私はっ…榊さんが何であろうと…」

「言うなっ!俺はもう…人間じゃないからな……」

 これがとどめだ…観奈美を俺から突き放すには、こう言うしかないんだ。

「そんな……」

「じゃあな……ルガーっ!」

 俺がルガーを呼ぶと、茂みにずっと隠れていたルガーがバイク形態になり俺はルガーに飛び乗った。

「すまねえ……」

 そう言うと、俺はルガーを走らせて公園を後にした。

 

「さっ榊さん……うっううっ…さかきさーん…」

 公園で一人地面にペタンと座りこんで泣きじゃくる観奈美を残して…

 

 

 水瀬家に帰ってくると、俺はただいまも継げずに自分の部屋へと向かった。

「榊、どうしたの?元気が無いわよ」

「秋子姉……」

 階段を上る途中で秋子姉とすれ違う…秋子姉は元気のない俺に優しく声をかけた。

「観奈美ちゃんと何かあったの?」

「ふった……」

「え?どうして?」

「仕方ないんだ………こんな風になっては、もう、仕方が無いんだ…」

「ちょ、榊っ!」

 

 俺は頭の中が真っ白になって走って階段を駆け上がり自分の部屋へと入った。

 ベッドに横になり…天井を見上げた。

 

 明日、観奈美は日本を去ってしまう……俺は、笑顔で送る事も出来ない。

 あんなきついこと言ってて会えるわけ無いだろう…

 

 

 ネメシス地下施設

 

 その頃、世紀末王ドラゴノソードは自分の間に幹部怪人を呼び寄せ、黒狼とアルティメット・コアの母体を取り逃がした失態で鬼塚と川澄は咎められていた。

『黒狼はおろか、母体まで取り逃がすとは……やってくれたな、鬼塚博士』

「……申し訳ありません…私の失態です」

『我の願いを無視して、今まで何をやっておった』

「アグルストーンの加工を…これはアルティメット・コアに命を循環する作用を司るには必要不可欠……加工は私に任せると言ったのは世紀末王様です…」

『確かに、だが…これまでの幹部の失態から…失敗は許されないのは解っておろう……』

「………」

 鬼塚は鋭い目付きで、世紀末王の声の出ている部分を睨みつける。

『ともかく、明日女は空港へと赴く…狙うならその時だ……』

「心得ました……それと、アグルストーンの件ですが…加工は既に終了しています。後は完全な心臓となるのを待つのみと…」

『そうか……そちらの件ご苦労だった、外部からの協力者なのに無理をさせる…』

「私は楽しく思ってますが……アグルストーンの細胞組織に似た鉱物は、徐々に金属部分との融合を開始しています。後10時間後に…完全な心臓部となりましょう…朗報を期待してください」

 そう言い、鬼塚は白衣を翻して世紀末王の間を後にした、その後を川澄が続く。

「ごめんね〜、あたしが失敗しなかったら」

 謝っているけど、川澄は笑っている。それに鬼塚はにぃっと笑い…

「ふふふ、君との戦闘で黒狼は月影の石のエネルギーを、使い果たしているはず。月が出ていても、せいぜい4分が限度だろう。いいさ、アグルストーンは完成したんだ…私が次でる……今回は違う…」

「そっ……まあ、がんばんなさいよ…あたしは黒狼に蹴られた所を修復するわ…じゃねー」

 そう言うと川澄は、鬼塚と別れて奥の方へと帰っていった。

「アグルストーンが完成すれば、私の研究は完成する……私が『仮面ライダー』となれば、貴様が何を言おうと私は関係無い、世紀末王……お前は死ぬ、私に殺されるのだ」

 鬼塚は吐き捨て、神の間へと引き返して行った。地下施設の廊下で…鬼塚の不気味な笑いが木霊した。

 

 翌朝

水瀬家

 

 もう、朝だ……一睡もしてねえ、頭の中では観奈美と別れたはずなんだが…なんだよこの不快感…左腕の痛み、死の兆候の痛みも今の気分だと全然感じられないくらいだ。

 それよりもっと……胸の奥の何かが痛かったからだ…

「ちっ……」

「榊…、寝てる?」

 ドア越しに秋子姉の声が聞こえてきた。

「秋子姉か?今、何も食う気がしない……」

「そう…観奈美ちゃんのお父さんから電話が来たけど」

「俺は出れなと言ってくれ……」

「今日、羽田から経つそうよ…見送りに行かなくていいの」

「……ふっちまった女の子に今更会えるかよ…」

 そう言うと、秋子姉は黙ってしまう…しばしの沈黙が流れる、階段を降りる音がしないなら…秋子姉はまだドアの向こう側にいるんだ。

 俺は部屋のドアのところまで行き、背中を合わせて座りこむ。

 しばしの沈黙を破ったのは……秋子姉だった。

「榊が行方不明になっている時、観奈美ちゃんは毎日榊が心配で、家に来たわ…当然お弁当を持ってね…榊はまだ帰ってないって言うととても切なそうな表情をして帰るの…」

「………」

「とても悲しそうだった、見ていられないくらい…」

「……そうか」

 俺は、背中越しに秋子姉の熱を感じた。そして、思った…何やってんだろ…俺…

「帰ってきたんだから、最初に言う言葉があるでしょ……そして、旅立つ人には?」

「いってらっしゃい……」

 そうだ、これはまだガキの時に秋子姉によく教えてもらったもんだ。

 基本中の基本を……俺は忘れていたのか…

 俺は、観奈美にまだただいまも言ってない…畜生、変なところで思い出しやがる。

「まだ、時間があるわよ…行って来なさいよ」

「解ってる、けど俺……観奈美にやる事があるから、少し時間がかかるけど…」

「なるべく早く行かないと、行っちゃうわよ…」

「わーってるって、それより腹減った…飯」

「はいはい……」

 そう言って、俺は部屋のドアを開けた。そこには朝飯のイチゴジャムのトーストの乗ったお盆を持った秋子姉がいた。なんだ、用意いいじゃん。それを受け取ると俺は真っ先に机に向かった。そして紙とペンを取り出す……これが俺の気持ちだ…

 

 

 木原市

 

 観奈美は荷物をまとめて、倉田邸の前に止めてあったリムジンに乗り込む。その表情は沈んでいてすごく痛々しい。

「榊さん……」

「観奈美、彼は彼なりの答えを出しただけだ……諦めなさい」

 観奈美の父が、俯く観奈美の肩に手を置いた。彼も榊と度々会っていて、よく彼のペースに巻きこまれていた者の一人だ。

「出してくれ……」

「はい」

 リムジンの運転手にそう告げると、リムジンは空港に向かって走り出した。

 その光景を近くで見ていた者がいた。2体の改造兵士レベル2を連れた鬼塚だった。

「ふふふ、あの娘か……いいだろう、行くぞ。レベル2改」

『ギギッ!』

 鬼塚は微笑み、その場で変身し…飛蝗の怪物、改造兵士レベル3に変身して漆黒の空を駆けた。

 

 水瀬家

 

 夜の近い夕暮れ

「よし、できた……ってもうこんな時間じゃねえかっ!はやく観奈美に渡さないと…」

 そう思い、俺は完成した物をポケットに丁寧にしまったその時だった。

ドゥンッ

「ぐぅぅぅっ!」

 黒狼が敵を感知したときの、変異の兆候だ……

“敵ダ……敵ハ、マダ諦メテイナイ……”

 黒狼の声に俺はびくっと反応した。

「何っ!諦めていないだと……」

 俺は嫌な予感がした、もし……あいつ等がまだ観奈美を狙っているとしたら、また観奈美の元に来る…観奈美が危ないっ!

 俺はすぐさま窓から降り、ルガーを呼び飛び乗った。

「急げ!ルガーっ!こっちだっ!」

 俺はルガーを全速力で走らせて、観奈美のいる場所へと向かった。待ってろ、今助けてやるからなっ!観奈美っ!

 

 

 その頃、観奈美の乗ったリムジンは空港に向けて走っていた。

「……」

「観奈美…はぁ…」

 落ちこんでいる観奈美を見つめ、観奈美の父はため息をついた。彼女を救えるのは陣内榊…彼以外いないのに……

「陣内君、君が見送りに来てくれれば……」

「榊さん……」

 そう、観奈美が呟いたその時だった。

「道路に、人?」

 運転手が道路の前に立つ、白衣を着た男に気付きリムジンを急停車する。

「何事だっ!」

「旦那様、道路のど真ん中に人が陣取ってまして…すぐにどかします…」

 そして運転手は車を降りて、その白衣の男に向かって話しかけた。

「ちょっとあんた、困るな……こんな所で陣取ってちゃ…危ないでしょ」

「危ない?それはお前の事ではないのか?」

グサッ!

「ふぐっ!」

 運転手の背中から、その白衣の男の手が突き抜け…運転手は血を吐いて倒れこんだ。

「はっ……なんだあの男は…」

ガタンッ!

 すると、リムジンの屋根に何かが降り立ったかのような音が響いた。

 外には2体のロボットがリムジンを取り囲んでいた。

「キャーーーッ!」

「なっ何だっ!お前達はっ!」

 観奈美の父がその男に怒鳴りつけると、白衣の男はにたりと笑って…

「これはこれは、有名な倉田財閥の会長殿ではありませんか……部下の失礼をお許しください…今日はお二人を盛大なパーティーにご招待する為に参上しました、鬼塚儀一と申します……」

「鬼塚?あの、城南大で生物学の研究をしている……」

「……私も有名になったものだ、お急ぎの所すみませんが、私達一同はあなたが来るのを心待ちにしているのですよ、特に娘の観奈美さん……あなたはね」

「あっあなた達は……昨日の…ね、ネメシス…」

「そう、私はネメシスの協力者として、招かれたまででして…昨日の蛇のご無礼お詫び申し上げる……さあ、アナタだけでもこちらに」

「娘には、手を出すなっ!」

「ほほう、あくまで拒みますか……良かろう、レベル2…男は殺せ…」

 そう言うと、レベル2と呼ばれたロボットは、鉤爪状の腕を振り上げる。

「いっ嫌……嫌ァァッ!」

 爪がリムジンに叩きつけられる直前、低い機械音を唸らせて何かがレベル2を叩き落した。

『ギギッ!』

 向かってくるもう一体のレベル2、その新緑のバイクは鬣らしき所から2本の刃を突きたて…突進の衝撃と共に、レベル2の強固な装甲を貫いた。

ザシュッ!

 バイクの刃を抜いて、それはバイクから降りた

「……さ、榊さん…」

 窓越しに観奈美が見た者は、まさしく榊の姿だった。

 

 

 やっぱ、俺の思った通りだったぜ……奴らの行きつく場所に観奈美もいるって…

「……久しいな、鬼塚」

「誰かと思えば、陣内 榊君か…私は倉田観奈美に用があるのだ、お前はその後だ」

「………何企んでいるのか知らねぇけど、無抵抗の女の子に手出すんじゃねえよ…」

「榊さん……」

 確か、これは俺が観奈美がナンパ野郎数人に連れてかれそうになった時に俺が始めて助けた言葉だっけ……思えば懐かしいや…

「それに…お前等邪魔だってんだよ……俺だって観奈美に用があるんだよ」

「そうかね、ならばここで君は処刑する……邪魔者は何であろうと排除するのが私の仕事だ……」

「黒狼捕獲だったんじゃないのか?お前等の目的は……」

「今の私となっては、もう黒狼も世紀末王も関係無いのさ……改造人間の研究の最終段階…究極の力がもうすぐ私の手に入るのだ…その時は、もうお前もいらん……」

「上等だぜ……前みたいにボロ負けの俺じゃないぜ…倉田のオッチャン!俺があいつ引き付けている内に、逃げな…、それと観奈美、車の窓開けてくけ」

 俺は観奈美にそう告げると、観奈美は無言で車の窓を開けた。

「受け取れっ!」

「えっ!?きゃっ」

ぽこっ

 観奈美の額に一枚の紙飛行機があたり、車内に落ちる。

「榊さん、これ……」

「俺の気持ちが全部つまってる、半日かけたんだからな……さっ今はそれどころじゃねえから、行った行った!時間がねえんだろ…」

「榊さんっ!」

 その内に、おっさんが車の運転席に行き…猛スピードで車を走らせた。

「さて、追わなくていいのかよ、鬼塚先生」

「もう関係無いと言っただろう……陣内 榊、ここでお前を殺してやる、この『仮面ライダー』の力で……」

「何っ!仮面ライダー!?」

 鬼塚が仮面ライダーを知っている!?こいつ……

「私がやっていた緑川博士の論文の免疫強化は、仮面ライダーを作る為の物だったんだ、それで私はバッタの遺伝子を使った、この改造兵士レベル3から気付いた、レベル4から先に来る究極の力を…私はついに、その力を手に入れる事が出来る」

 城南大で信一さんがやっていたのは、こいつのこのバッタの化け物を作る研究だって事は西川から聞いたが、それが…仮面ライダーを作る為の物だったのか…

 だが……そんな力で、その力だけで…

「お前はっ!その力だけで仮面ライダーを名乗るのかっ!」

「そう……これが仮面ライダー、世紀末王を倒し…この世の全てを倒せる!最強の悪魔の力だ!お前には、この力の意味などわかるまい…」

 俺は、不意に可笑しくなってきた。仮面ライダーは悪魔の力か……確かに、そうかもな。

「ははははっ!解ったよ」

「何が解ったというのだ……」

「貴様のような奴は……仮面ライダーの名を語るに相応しくないっ!この名を語るのは、人間の自由と平和を守る為…そして、守りたい奴を守るための名だっ!前言を撤回しろ偽物野郎っ!」

「ふん、変身っ!」

 鬼塚は異形の飛蝗の怪物へとなり、テレパシーを俺に送った。

『陣内家の人間も落ちぶれた物だな……誰かを守るために戦うなど、戯言に過ぎんっ!』

「同じ事を言った奴を知っている……それじゃあ解らせてやる…」

 俺の意識はもう変異の兆候で無くなりかけていた…黒狼が俺の頭の中で暴れていやがる。

 出番が……来たぜ…

「変異っ!」

 両腕をクロスさせ、俺は黒狼へと変異し、そして俺の意識は消えた。

 

 変異した黒狼は、牙を向け鬼塚に飛びかかった。

『『ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』』

 双方の爪が、激しく火花を散らし……叫び声が街中に響き渡った。

 

「大丈夫かい?!観奈美……」

「はい、大丈夫です…榊さんが守ってくれました……」

 観奈美の父親が運転するリムジン内では、榊に貰った紙飛行機を開いていた。

「あれは、やはり榊殿だったのか…」

「はい、あの人はやっぱり約束を破る人ではありませんでした」

「……約束したのかい?見送りの…」

 運転席から、観奈美の父は聞いた。聞くと、観奈美は榊から貰った紙飛行機を開いていた。

「いいえ……榊さんは私の元に帰ってきてくれましたっ、それだけで嬉しいですわ」

「そうかい…よかったな観奈美…」

「はいっ」

 観奈美の目には涙が浮かんでいたが、とても嬉しそうだった。観奈美の持っていた紙飛行機にはこう書かれていた。

 

“よう!観奈美、昨日は無理やり突き放したりしてごめんな……

  ドイツは遠いけど…この世界は一つだ、だから同じ空の下にいれば、寂しい事はない。

   俺はいつでも観奈美と同じ空を見つめているんだからな。

   だからよ、また何か縁があったら会うかも知れないじゃねえか。

   その時は久しぶりに、おまえの弁当!食わせてくれよ……

   最後に……昨日言えなかったただいまをこいつに書くぜ…

 …俺、少し不器用だって秋子姉に言われるけど……本当かもなっ!

  じゃっ!元気でなっ!観奈美っ!いつか日本に遊びに来い!必ずだぞっ!土産も楽しみにしてるからな……いってらっしゃい!

                    榊…

 

「榊さん、いってきます、また会いましょう」

 そう言い、観奈美の乗るリムジンは空港へと向かうのであった。

 

 その頃、互いの怒りを爆発させた黒狼と鬼塚の激しい攻防が繰り返されていた。

『バイブルネイル!!』

 鬼塚の爪が高周波振動を起し、黒狼の高質化した筋肉を引き裂こうとする。黒狼はとっさに避けると、後ろの鉄骨に爪の後が残る。高周波振動が衝撃波を生み出し、爪の痕が残るのだ…

『……ぐぉぉっ!』

ガシッ!

 黒狼がストライククローで、応戦しようとする所に何かが黒狼の腕を掴む。

 それはさっきルガーに引かれた、レベル2だった。生き残っていたのか……

『そのレベル2は、少し改良を加えてある……幹部怪人に匹敵する力を持っている、黒狼を締め上げろ…私が止めを指す』

『ぐぅぅぅっ!』

 レベル2が黒狼の首を押さえつけ、ストライククローを締め上げ、回避不可能の状態にする。黒狼はもがくが…レベル2は黒狼を離そうとしない…鬼塚はその黒狼の首筋にバイブルネイルを向ける。

『喉を掻っ切って……二度とその減らず口叩けないようにしてやる…』

『ぐぅぅぅっ!ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!』

 黒狼は息を大きく吸いこみ、一気に鋭い咆哮を上げる。

『ぐぅぅぅっ!なんだっ!この前とは違う叫びだ……』

『ガッガガガッ』

 黒狼の咆哮で、鬼塚はひるみ……押さえつけていたレベル2の回路は故障し火花を散らす。

『レベル2改の回路を壊しただとっ!化け物かっ!』

『ぐぅぅぅっ!ぐぁおっ!』

 レベル2の力が鈍り、黒狼はウルフキックをレベル2に食らわし上空に飛んだ。

『ガッガガガガガッ!!』

 ウルフキックの威力で、レベル2は壊れ地面にその重量感ある体を横たえた。

『レベル2を倒した衝撃で、あそこまで飛ぶか!?黒狼っ!』

 上空で、黒狼は右腕を軸にしてストライククローとクラッシュファングを突き出し高速回転をし始める。

“滅殺斬!”

『ぐぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!』

 黒狼は回転しながら、鬼塚へと向かって行く。鬼塚は反射的に上空へ飛んでそれをかわした。

『直線攻撃か……軌道が見え見えだぞ』

 だが、鬼塚は気付いていない……その後方から、黒狼は旋回してブーメランのように戻っている事を……

『止めを指してやる…ぐぉぉぉっ!』

ギュィィィィィーーーーーーン!!

 高速回転する黒狼のストライククローが、鬼塚を後ろから襲った。

『ちぃぃぃぃっ!』

 鬼塚は念動力を使い高速回転する黒狼を弾き飛ばした。そして、黒狼の凄まじい一撃を食らった鬼塚は人間の姿と戻り地面に落ちた。

 黒狼も着地をして……榊の姿へと戻り倒れこむ。

 

「ぐっ……」

 ちっ…黒狼もムチャな技使いやがる、おかげでこっちは身がボロボロだ……

 鬼塚は全然倒れる様子はねえ……やられる

「くっ、黒狼…まだ終わらん!」

「…ちっ!」

 俺は歯を食いしばって、奴に対抗しようとする。その時…鬼塚は突然発狂し始めた。

「ぐっがぁぁぁぁっ!」

 何だ……何が起こったんだ?鬼塚は苦しそうに悶えて、地面を転がった。

「さっきの黒狼の一撃が、サードアイを傷付けたか……止むおえん、命拾いしたな黒狼、だがもうすぐ、私の研究は完成する、その時はまず手始めにお前を殺してやる」

 鬼塚はそう言うと、近くにかけてあった白衣を羽織漆黒の闇に消えて行った。

ザッ!

 俺は少し休んでから、痛む体を引きずりながらルガーに乗りこんだ。

「観奈美は、飛行機に間に合ったかな……」

 そう呟き、俺は星の輝く空を見上げる…不意に少し切なくなってきて少しの満足感があった。あの手紙を読んでくれたよな…俺の不器用な気持ち、受け取ってくれたかな……

 俺はルガーに乗りながら天高く親指を上げて……

「グットラック!」

 と観奈美に届くように、大声で言った。

 

 空港で何とか飛行機に間に合った観奈美は、飛行機の席に座り榊から貰った手紙に目線をやった。不器用だけど、榊の気持ちが観奈美の胸に伝わったような気がした。

「榊さん……」

 飛行機は無事空港から、ドイツへ向けて飛び立った。

 

 

 ToBe

Continue
 

怪人集0?

 

サイボーグ兵士レベル2(改)

 

主体 ??

身長 220センチ

体重 190キロ

パンチ力 400キロ

使用武器 バイブルネイル

 

鬼塚が作り上げた、改造兵士のレベル2…鉄骨の骨組を持ちネメシスの量産型怪人より強力な性能を誇り、普段は人工皮膚を被って戦闘員に化けている時もある。外部からの協力者である鬼塚をフォローする役目を持っている。対黒狼専用に攻撃力、防御力等に強化されたレベル2改が存在する。そして、真・仮面ライダー〜序章〜で出てきたレベル2はそれの最終改良版。

 

 

後書きタイムタイムっ

 

ゲスト:さゆりん&まいまい

 

佐祐理「佐祐理ですよ〜」

舞 「川澄 舞だ…」

 Y(ヤクト)団首領です、今日はすごく長かったですので後書きも短めにしたいと思います。

佐祐理「ふぇ〜つまんないです〜」

舞 「……佐祐理を楽しませろ」

チャキ

 ひえ〜っ!わかりました、解りましたから剣を下げて…

舞 「解ればいい……」

 ひぃ…さて、今回の話題なんですが…今回は今日のヒロインである観奈美ちゃんのその後を追って行きたいと思います。

佐祐理「ふえ〜お母様の、その後ですか〜でもふられちゃいましたよ〜」

舞 「はちみつくまさん……」

佐祐理「それでは、この黒狼では、お母様はもうでないのですか?」

 はい……残念ですが、この後から観奈美ちゃんはしばらく出ません。出るとしたら第2部で佐祐理さんの紹介でしょう…

佐祐理「ふぇぇ〜、佐祐理がもう生まれているんですか?第2部では…」

 まあそう言う事に鳴ります。この後観奈美ちゃんは無事にドイツに着きまして先に行っていた母親と合流して両親と仲慎ましく生活します。

 そして、日本からの留学生で議員の息子の結城一彦さんと言う人と出会い両思いへとなります、観奈美の父親は彼を婿養子に迎え…彼がその後の倉田議員となり佐祐理さんのお父様へとなるのです。

佐祐理「はえ〜そうだったんですか〜」

舞 「結城?らいだーまん?」

 違います……他の結城さんです。外伝で、ギャグっぽくこの話しを取り上げたいと思います(仮)

舞 「待て……(仮)って何?」

 はっはい……まだ未定ですので、はっはいぃぃぃっ!?!?

チャキッ!

舞 「書くの……」

 わっ解りましたっ!近日外伝でっ!お楽しみにあれっ!

佐祐理「楽しみです〜っ」

舞 「やらなかったら…斬る」

 はっはいーーーーーーーーーっ!!

 次回は、ついに黒狼完全体にっ!?榊は生き延びる事が出来るのか!?

 

 

 

つづく……かな?


Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!