始めに…
  このSSは、仮面ライダー黒狼の第1部第5章と6章の間で、まだ黒狼が変異体だけしか変身できない時から、一気に最終回に飛ぶです。ネメシス本部で前回失敗した蝙蝠が戻ってきた所から始まります。そして幹部の一人、蜘蛛の元で働いていた戦闘員の飛車(ひしゃ)は……



仮面ライダー黒狼 外伝第1章
 
仮面ライダーDF
特別編『飛龍』

 俺の名前は、飛車龍治(ひしゃりゅうじ)…夏休みに入る前、バイトでネメシスとか言う組織の非戦闘員をやっていた。何でも、新型戦闘機で有名なジグロ社も支援を受けている組織と言う事で…給料もいいからだ。重労働をしなくてもいい給料が貰える…何とも理想的な仕事だ。
 だけど、バイトに入る前に、反対した人物がいた。勿論…両親じゃない…両親は電車の脱線事故で死んでいる。反対したのは、同じバイトをしているクラスメイトの西川だった。
 あいつも俺と同じバイトをしているんだが…あの反対ようは尋常じゃなかった。まるで、何かに脅えている、そう言う感じだった。辞めればいいと言ったら、辞められないと言っい返された。そう言うなら、もっと前に言えばいい…俺はすでに奴等の手のうちにはまってしまったからだ……どうしようもない事だ、上官はノルマ達成をすればバイトは止められると言った。
 だけど、俺は戦闘員としてランクを順順に上げて行った。戦闘員から非戦闘員には、C〜Aランクあり、非戦闘員のランクがAランクまで上がれば、戦闘員に昇格できる。

 非戦闘員の仕事は、主に雑用全般、武器の管理…何かは知らないが、動物の餌を作ること…その餌は市販されている肉のようだが、原産が何処で…何の肉かわからない。
 仕事が終われば、その組織の施設スポーツジムで一汗流す……プールで泳いだり、ウェイト機器で鍛えたり…様々だが、入る時と帰る時に必ず血圧計のような物に腕を突っ込む。
 これに何の意味があるのか俺にはまだわからなかった……が、この後、スポーツジム…雑用…何かの餌の製作等、全ての非戦闘員の仕事は、戦闘員から…その先にある何かに、二重に関わっていた。

 それで、俺は気がつけば戦闘員となり、非戦闘員同様C〜Aランクの階級があり俺はいつしか西川よりランクが上がっていた。
 戦闘員となり、俺はここの戦闘員をしていた西川が言いたい事がようやく解った。当初、戦闘員とは…ネメシスの正社員と考えていて、俺のような高校生がなっても良いのかと思ったが、そんな甘い考えはあっさり否定された。
 ネメシスが軍事的テロ組織である事が、この時やっとわかったのだ…戦闘員の意味はほんとそのままの意味、一つの部隊に入り…軍人さながらの特殊訓練…銃器の使用など、物理的な訓練から……精神訓練(マインド・トレーニング)と言う、人が誰しも持っている可能性と言う者だが、実際誰も気付かない能力…言ってみるなら、超能力だ…この組織はこの能力を訓練による形で引き出し、伸ばす…超能力は精神の力、訓練をすればいくらでも伸ばす事ができるからだ…俺は、数ある能力で割りとポピュラーな『念動力』と言う力だ……
 そして、非戦闘員時に作っていた、謎の餌……何に与える物か解らなかったが、俺の所属している部隊に一人いる餌係がある日帰って来なくなったときがあり、俺が変わりに行った時…その秘密がわかった…ネメシスの戦力がただの軍事力の塊ではない事を…
 檻の中には、一見豹ともとれるが人間ともとれなくもない…異様な怪物が入れられていた。檻の中に人骨が転がっていた事から、餌係は自分が餌となったのだろう…これが、ネメシスはこんな、怪物を戦力に投入しているのか…と言う事は、あの餌の肉は、人間の肉の可能性が高い…最近、よく戦闘能力や精神の成績が悪い奴等が削られているが…もしかしたら……辞めると言えば、ここにいるこの怪物の餌となる…だから西川や俺がやめられなくなった。
 西川は戦闘員Cランクで留まっているが……俺は、Aランクまで行った。だが、その上にΣランクと言う謎のランクがあった。
 西川は、一番危ないランクだから絶対行くなと言った。そこで何が待っているのかわからないが…危機管理能力はあるつもりだ。だが、少し興味があった…Σランクとは何だ、Aランクの先に待ちうける物とは何だろうか、興味があった。危険だと思っていても…


 だが、ある時の事だった。
「俺が、Σランク?」
「そうだ、君は正式にΣランクへと昇格した…」
 上官から、俺のΣランクになった事を聞かされ、俺は驚愕した。だが少しの期待と恐れがある。好奇心…いやなんだ?この感覚は…
「という事は、あんたの上官になったのか?」
「事実上そうだ…あまり実感は無いが…」
 この人はAランクで今まで俺の能力を育ててきた教官だが、この人の上官になるとはな…驚きだ。
「……今までは、感謝しよう…事実上と言うのはどういう事だ?」
「君は生まれ変わると言ってもいい……」
「生まれ変わる?」
「そうだ……その為に、科学班のこの部屋に行くのだ」
「………」
 俺は世話になった教官に一礼して、科学班の第4研究室へと足を運ぶことにした。

 戦闘員のΣランク……生まれ変わる、教官の言葉はどう言う意味を持っているんだろう…今の俺には、理解が出来なかった。






 科学班の第4研究室についた時、俺の他に何人かの戦闘員が控え室で待機していた。正直言って、科学班の控え室は虫が好かない…量産型怪人を製造していると聞いたし、ウイルス兵器も開発していると言っていた。一体俺達戦闘員になんの用がある…
 戦闘員ランクΣの戦闘員と何か関係があるのだろうか……

「少年、あなた飛車龍治?……」
 考えていると、女の戦闘員の一人が話し掛けて来た。俺より2つか3つ年上っぽく…結構美人だが、下心など今の俺に皆無に等しい
「ああ……ランクΣか?」
「まあね、ここに呼ばれている全員はそのつもりよ…その中では、一番あなたが若い方だぞ…龍治少年っ」
 そう言えば、この30代後半から、初老のじいさん…この女まで俺を合わせ全員で7人くらいいる。全てランクΣか…ランクΣって7人しかいないのか?意外と少ないな、他のランクの戦闘員は何十人、何百人くらいいるのに……この少なさは一体なんだ?
「私っ赤鐘(あかがね)あげはっ、21歳よっ」
 あげはと名乗った女は何も心配ないっと言うように、天真爛漫に笑っている。
「なあ、ランクΣってなんだ?」
「うーん…人一倍給料分の仕事をして、早く昇進した従業員って所だろうね…」
「…だから、年配の奴等が多いんだ」
 そう言うと、他のみんなが俺の方をギロッと睨み付けた。そして、また元通り静かに頭を下げた。
「……嫌われたものね、龍治。あなたはバイト感覚でここに入って、ランクΣになったと思うが、私達は違う…ここに入る前、会社の倒産、リストラ、借金らで左遷した者ばかり…定年退職した人もいる…みんな同じような境遇の持ち主、もう何も得る物も守る物も何もない…自殺志願者もこの中にはいる……」
「……あんたは、何故ここにいるんだ」
「私っ?秘密…」
 あげははなぜかにこりと笑ってそう言った。その笑顔が、なぜか寂しげだった。
 なぜ、それがランクΣの戦闘員と関係があるんだ?未来のない大人達と俺の違いと…何か接点があると言うのか!?
「未来に希望も何もない人達に……あなたのような若者は本当に眩しく見えるのよ」
「なぜ、そう言うんだ?」
「全てわかっていれば……そうも言いたくもなるよ、龍治」
 あげはの顔が寂しげに曇った。なんだ……この絶望に似たような表情は、全てわかっている?どういう事なんだ?
「あなたはまだ若い、それ故に知らされてなかった……」
「どういう事だ!?なあっ!あげは……さん」
「あげはで良いわよ…でもそれを言われるのも、もう最後かもね…」
 それ以上、あげはは口を開こうとしなかった。他のみんなも俺が話しても全然答えようとはしなかった。
「……お、おい…みんなどうして何も言ってくれないんだよ!ランクΣの後に何が待っているか知っているんだろう!教えてくれ、何なんだよっ!!この先に何があるんだよっ!」
 そう言うと、俺の後ろでカチャリと言う音がした。ドアの鍵が締まる音!?
 俺はドアノブに手をかけた、鍵が外から閉められている!
「くっ!開けっ!開けろよっ!!そこにいるんだろっ!」
 必死で、ドアを引っ張った……ビクともしない。俺はドアを思いっきり叩いて外にいるだろう、科学班の連中に怒鳴り付ける。
「開けろっ!!俺達をどうするつもりだ!!あげはっ…なんで落ち付いていられるんだよ……こんな時にっ!」
「これが、答えだから……戦闘員ランクΣになった本当の理由…」
シューッ
 俺がドアを叩いていると空調から、ガス官が漏れているような音がした。
「何だよ、何が起きてんだよ……」
「催眠ガス…私達を眠らせようとしているんだ」
 俺は今思った、これは罠だ……奴等は、俺達を殺そうとしているんだ!奴等の餌にするつもりなのかっ!?
「口を塞げっ!何してんだ!みんな、死んじまうぞっ!ごほっ!」
 俺は口を塞いでガスを吸わないように、みんなに呼びかけたが…だが、一人また一人とガスを吸いこみ、倒れて行った。
「……龍治…諦めなさい」
「あげはっ、俺達殺されるかもしれないんだ…それなのに、なんで…落ち付いていられるんだよ……」
 だんだんと意識が薄れてきた……あげはの表情がだんだんと霞んで見えてきた。
「確かに……私達はこのままだと、死ぬ……だけど龍治…あなたは、生き延びて…私達にとって、あんたは……希望の光なんだ」
「あ…げ……は…くっ」
 最後に、あげはが泣いているように見えた……そして俺は意識を完全に失ってしまった。
「所詮…私達は量産怪人になって死ぬのも同然……私は、愛した人も何もかも失った…龍治…あなたはまだ16、私より5歳も若いじゃない…こんな私達より未来を許された……怪人の体に改造されても、あなたの意識が残る事を…祈るよ……」
 そう言い残し、女は静かに眠りについた。もう起きるかどうかも解らないのに…






 それから、時は過ぎて…
 量産型怪人主体安置室

「これが、ランクΣの最後の主体の一人か……」
「はい、これがカルテです」
 科学部の研究員が主任と思われる人物に、カルテを渡した。

         戦闘員ランクΣ NO.7

     名前:飛車龍治
     年齢:16
     健康レベル:A
     射撃値:B
     格闘値:A
     念動力値:A
     透視能力値:C
     予知能力値:D
     総合能力値:B
     適合遺伝子:T−R

「うむ…ごく平均的だな、だが、今までの主体の中では最年少…よくランクΣへとなれた」
「はい、念動力値は他の主体と比べても高い物です……」
「そうだな、それに適合する生命体の遺伝子は二種類か、しかも全く別の種類でもある二つの生物の遺伝子か……」
「それと言いますと……」
 助手の質問に、主任は…遺伝子の入った小さいカプセルを二つ助手に手渡した。
「これは……ティラノサウルス、白亜紀で最強を誇った恐竜ですか…、それとこれは…」
「…絶滅した、昆虫界で最大のトンボだぞ…この二つの生物は全く別の種類だ、この少年は、もしかしたら幹部怪人に匹敵する力を持つかもしれないぞ」
「はい、そうですね…では、早速取りかかりましょう」
 引き出しを引くと、そこから冷凍保存された少年が出された。
「これより、独立部隊『MD(マッド)』専用量産怪人NO.7の改造手術を施す。完成予定時間は明日午前7時」
 そしてこの少年『飛車龍治』は、量産怪人へとその体を徐々に変えていった。


 元来、量産型怪人とは…幹部怪人とは違い、世紀末王の力を使わずに人の手で作られる物で、戦闘員の中で好成績(ランクΣを始めとする)と遺伝子適合する生物との人口的な遺伝子融合で出来る物で、人に作られた為…意思は持たず…欲求と本能だけで動き、人を狩る為だけ生まれたまさに生物兵器である。人より産まれし怪物は人を餌とし糧とする。何とも皮肉な物だ…その為、量産型怪人が意思を持つという事は極まれであり、幹部怪人『蝙蝠』の直属部隊、『鴉天狗五人集』(黒狼第4章参照)がそのいい例だろう……
 大量生産できる生物の怪人は、大量生産怪人とも呼ばれ南極やオーストラリアにあるプラントで生成される。

 量産型怪人独立部隊『MD(マッド)』では、世紀末王ドラゴノソードが収集した古代生物の遺伝子サンプルを利用した、7体の量産怪人で構成される。

 数ヶ月後、ネメシス日本支部は黒狼により戦力を大幅に欠いたため、戦力増強のためニューヨーク本部へと移行して、間もない頃…独立部隊『MD(マッド)』完全改造の済む、1ヶ月前に予定された実戦テストの日…

本部科学部室
 本部の科学部室は日本支部のより広く、その中には7体の培養液の入ったカプセルが設置されていた。そこで、独立部隊『MD(マッド)』担当の主任と助手が覚束ない面持ちで立っていた。
「やはり、意思は生まれなかったか」
 主任は、助手の目の前にあるカプセルの前に立って聞いてくる。その中には、赤い躯をした昆虫を形どった怪人が、培養液のような液体に浸かっていた…
 血のような赤く固い外骨格の表皮に、それに増して真っ赤に染まった目…まさしく量産型怪人の一体と言える異形の怪人がそこにいた。
「……NO.7か…こいつは恐竜と昆虫、二つの異なる動物の遺伝子を持っているからな、最後まで融合させないと培養液から出した時にバラバラに崩壊するぞ」
「そうですね……二つの生物が両立するのは、難しいですしね」
「そうだな、それに所詮は量産型怪人…幹部怪人のような意思は持たなかったか…」
 諦めの表情を浮かべると、館内放送が鳴り響いた。
『1時間後に、第4施設模擬戦闘室により量産型怪人独立部隊『MD(マッド)』の実戦テストを執り行なう、各員、担当者は至急第4施設模擬戦闘室に集まるように』
「摸擬戦が始まる、彼等を第4施設まで転送用意」
「はい、NO.1〜7のカプセルを転送します!」
 助手が、コンピューターのキーボードを打つと、その場にあった7体のカプセルが徐々に下降して行った。
「転送完了、我々も行きましょう、主任……」
「うむ……」

 第4施設模擬戦闘室

 巨大なドーム状の白い何も無い空間があり、隣のモニター室ではテストを前にモニターを見ている、ネメシス科学班のスタッフと『MD(マッド)』担当の主任と助手、そして『MD(マッド)』を任された幹部怪人、蜘蛛こと…雲海 有がいる。
「けけっ、いい物を見させてもらうぜぇ」
「はっ、テスト内容ですが…まずは部隊にある量産怪人個々の力を測定するため、従来の量産怪人との実戦テストを行います…それで、このドーム全体に設置されているセンサーにより戦闘データがこのモニター室に来るわけです」
「能書きはいい、早く始めろ…俺様の新しい部下の実力を見せろ」
「ははっ、ではテスト用量産怪人投入!」
「了解!」
 コンピューターのキーボードを叩くと、ドームの向こう側の壁が開き、中から量産型怪人の檻が9個出てくる。中には、蛙を主体とした量産怪人が息を潜めていた。もう獲物の匂いを感じたのか、ふーっふーっと唸っている。
「よし、『MD(マッド)』を起動させろっ」
「了解、カプセルをNO.1〜7まで開閉、起動っ!」






 ………俺は、一体…誰なんだ……
 ………ここは、どこだ……
 ………なぜ、俺は生きているんだ……
 ………解らない……
 …わから……

 目の前が光で包まれる。眩しくて目を覆いたくなるような光景が目に映る。
「………」
 俺の体は、赤い異形の怪物の姿だった。しかし違和感は沸かなかった…元は人間の姿だったが、今のこの体も嫌いではない。それに…元人間は俺のことは殆ど覚えていない。
 いや、俺は本当に人間だったのかが……疑わしい…俺は何者なんだ…
「………」
 俺は目を開き、今の情景を見る。俺の他に6体の異形の怪物がいて……全員前から迫る敵を悉く殺している。
 そうだ、俺はこの6体を覚えている……こいつ等も俺と同じ、元は人間…

 でも、あの蝶の怪人…何故戦おうとしない…あいつだけ、他の5体とは違い一人だけ戦おうとせず、一人空中に漂っている。

 一方、モニター室では始まった戦闘のデータを取っていた。
「NO.3とNO.5の戦闘数値は平均以上、他のも記録を更新しています。凄い……これが本当に同じ量産怪人とは思えない……」
「ああ……怖いくらいだ…ん?NO.2とNO.7がまだ動いていないではないか」
「けけっ、怖気づいたのか?あのガキ……」
「変ですね、2体ともテストが始まってから20分も経過しているのに……戦闘シグナルを送ります」
 戦闘シグナルとは、戦闘中に活動を止めているもしくは眠っている時に、怪人の首の中枢から脳に繋がっている伝導体を通して、脳に直接その怪人の闘争本能を引き出す為に取り付けた機械である。中でもこれは、回収したパーセルを元にして開発されてあり…より強力な戦闘シグナルを送る事ができる。
「戦闘シグナル、NO.2、NO.7に伝達、同時に多量生産怪人、『始祖鳥』を投入!」
「了解」
「(NO.7はともかく…NO.2『華蝶』には特別な改良を加えてある…そのせいか…)」

 突然、頭が痛くなった。何者かが俺に呼びかけて来る。
『殺せ!目の前の敵を殺せ!食らい付け!そして引き裂けっ!』
「ぐぅぅっ…」
 …くっ!敵…敵…………テキッ!
 俺の敵っ!何処だっ!!何処にいるんだっ!
 目の壁から、今度は鳥の化け物が次から次へとドームへと入ってくる。あれが……俺の敵?!あれが、俺の獲物……
「ぐぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーっ!」
ヴゥンッ!
 俺は咆哮と同時に瞬時に飛んだ。他の6体を掻き分けて俺は敵の前に瞬間的に移動して…敵の一体の頭を掴みかかる。
『ぎゃぅぅ…』
「死ね……」
ガシュッ!
 敵の頭を握り潰して、返り血が俺に振りかかる。
『ぎゃーっ!』
「………」
ザシャッ!!
 だが、一匹を殺した所で他の敵たちが俺に標的を変え牙を向かって立ててくる。
…だめ、龍治…心を捨てちゃ、駄目…
 頭に不意に届いた声…俺は気にせず腕の刃を出現させて、奴等に対抗した。
「ぐぉぉぉぉーーーーーっ!!」


「すごい、桁外れの戦闘数値だ……40〜50、どんどん上がってます」
 モニター室では、突如戦闘を始めたNO.7の戦闘データを見て愕然としていた。
「なんと、荒々しい姿だ…NO.7はやはり作ってはいけない存在だったのか?」
「一体で、部隊の仲間が獲物を狙うより先に『始祖鳥』を倒している……なんてスピードだ…1分の間にもう40体も殺している……」
「まるで、地獄絵図を見ているようだ……あれはまさしく恐竜の暴君…ティラノサウルスの狩りの姿だ」
 主任の言葉を裏付けるかのようにモニターに写るドームは最初全体は白かったが……今はNO.7の猛攻により飛び散った『始祖鳥』の血が…ドーム全体を赤く染めていた。
「……うっ…残り後1体です…」


 俺の手にかけた敵の屍が、無数に散乱している。残りはこいつだ……
「ぐぅぅぅ……」
ザシュゥゥッ!!ブシュゥゥゥーーーーーーッ!!
 腕の刃が敵の首を斬り落とし……奴は血を噴出しながら、その場に倒れこんだ。
 敵を斬っていると、不快が快感へと変わって行った…血肉を切り裂く快感はたまらないほど気持ちい……敵…俺の敵は何処だ…俺が倒すべき敵……これが、恐竜としての本能…
「ぐぁぁぁ…」
 いる……俺の後ろに6体もいるではないか…
 俺は後ろを振り返り、背中の羽を広げ…6体に向かって行った。
「ぎゃぁぁうっ!!」
 まずはお前からだっ!!!
 俺の目の前にいた、奴から手始めに攻撃を仕掛けた。
『ギギッ…』
「ぐっ…」
 奴は俺の刃をその長い牙で受けとめる。強いな…今までの奴とは段違いの力だ…

「いけないっ!NO.7が暴走して、NO.6『犬歯虎』を攻撃してます!」
「いかんっ!停止信号発射!NO.7を止めるんだっ!」
 モニターに写るように、NO.7はサーベルタイガーを主体としたNO.6に襲いかかっていた。主任はすぐに停止信号を送ろうとしたが…何かの腕が制した。
「けけっ、待ちな。こんな面白い余興は久しぶりだぜ…残り6体に戦闘シグナルをおくりな、どいつが一番強いか見てみようじゃねえか…」
「ですが、このままだと、『MD(マッド)』は全滅してしまいます」
「口答えすんじゃねぇっ!何様だと思ってんだっ!」
「……あんたは、部隊が全滅してしまっても構わないのか」
「けけっ、幹部怪人は一番強い奴が最後に生き残る…こいつも同じ事さ、量産怪人の分際でよく気がつく奴だ。…さあ、やれ…でないと殺すぜ…」
 不適な笑みを浮かべる蜘蛛…主任は下唇を噛みながら助手に……
「NO.1〜NO.6までの全ての怪人に戦闘シグナルを送ってくれ」
「しっしかし……」
「やるんだ…」
「…………はい」
 主任の賢明な判断により、NO.1〜NO.6までの全ての怪人達に戦闘シグナルが送られた。
「NO.1〜NO.6戦闘数値が50%向上…NO.7を攻撃しはじめました」
 これでは、檻の中に毒虫や毒蛇を入れ…一番強い者が生き残る。幹部怪人の世界まさにそれではないか…

『ぐぁぁぁーーーっ!』
 敵が、目を血走らせて俺に向かってくる。
…止めて、龍治…この人達を止めて…
 何だろう…この声、悲しい…俺じゃないこの中の誰かが…苦しんでいる。
…行けない、駄目っ!お願い、龍治…戦いをやめてっ!…
「……」
 俺はこいつ等と戦う事ができない…なぜかは解らない…こいつ等を倒す事が俺には苦しい……
『ぐぎゃぅ!』
「ごぉぉーーっ!」
がきぃぃんっ!!バギィンッ!
 5体が俺に食って掛かってくる、攻撃を受け止めきれない…ちっ…
「!?」
 なぜあいつだけ向かってこない…あの蝶だけ、俺に向かってこない…
…龍治、この人達を…楽にしてあげて…
 こいつ、泣いている……嫌だ、俺は…こいつ等を殺せない。


「所長っ!NO.7の動きが鈍くなっています。戦闘数値も大幅に低下…戦意を喪失し始めています!主任っ!他のにも停止信号を送ってください、もう十分です」
「だめだ!つづけろっ!ん?なんだ、なぜあの女だけ向かおうとしねえ…NO.2確かに戦闘シグナルは送ったはずだが…戦闘シグナルをNO.7と2に送りやがれ」
「あなたには、そんな権利はありません…蜘蛛様…これは私達の仕事です……」
「てめぇ…幹部怪人を舐めきってやがるな……」
 蜘蛛は腕を鉤爪にして鬼気迫る形相で睨み付ける…
「…我々にはこの争いを止める事が出来ます、世紀末王様の権限がありますから…」
『よい…蜘蛛の言う通りこのまま続けよ……』
 主任の言葉に答えるように、モニター室内に世紀末王の声が木霊する。
「そんな、このままだと『MD(マッド)』は同士討ちで全滅です!今すぐ戦闘を止めさせれなければ」
『NO.7と言ったか…ティラノサウルスと赤蜻蛉二つの遺伝子を兼ね揃える者………赤き血を浴びたその姿は、空飛ぶ赤き龍の姿と等しき、『飛龍』…そして、NO.2もこやつと同じ、二つの異なる生物の遺伝子で作り上げられた者だな』
「何だって?あのまったく戦おうとしねぇ女かっ!?」
 世紀末王に図星を付かれ、主任は手をつく…NO.2にも、二つの生物アゲハ蝶と数多の毒草の遺伝子を組みこんで作られていた…元の人間の時は、最も強いテレパシーの能力を持った人間だった……そして…
「彼女には戦闘シグナルを送って…そして、彼女は前から戦っていますよ…」
「けけっ、解ったぜ…あの女が戦闘シグナルを他の怪人に伝えるアンテナの役割を果たしてんだな……それで、自分からは戦おうとせずに、他の奴と戦わせていたのかよ…」
『どちらでも良い、飛龍の戦いを見せよ…』
「聞いただろう…飛龍に戦闘シグナルを送りやがれ……」
「……了解しました」
 主任は、手から血が出るほど強く拳を握った。



 誰だ…俺に話しかけるのは……
『飛車…龍治……』
 女の声?飛車龍治?…誰の名前だ?俺には……名前なんて…
『龍治…思い出して……自分が何者なのかを…』
 俺は…忘れていると言うのか……いや、忘れてなんて!…いや、俺は…俺は…
『あなたは……希望の光なんだ』
 光……俺が?…希望の…光…
『……戦って、戦うのよ龍治…』
 解らない……俺は、俺は!一体…誰なんだ…
『龍治……私を止めて…』
 俺は………飛車…龍治…

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
 俺の息が続く限りの咆哮が響き渡る。それは空気を共振させて…全ての者を振るわせすくませる程の力と声量があった。

「なっなんて数値だ、前以上…いや…それ以上に上がっている!これは…測定不能」
「何だとっ!?これは、もう幹部怪人の領域を越えてる」
 モニターのメーター数値が、飛龍の咆哮と同時に急上昇して…軽くレッドゾーンへと突入した。
「けけっ、ついにキレやがったか…むっ!?」

ブチッ!
 俺は首筋を爪で突き破り、そこにあった小さな機械を力ずくでもぎ取った。
「もう、こんな物必要ない…」
『ぐるるるるるっ』
 5体全員が俺を睨み付けている。
「…解った、あんた達を…これ以上戦わせない。俺がこの手で葬ってやる」
 俺は人としての意識を取り戻して、腕に刃を作りだし……怪人と化した人達に向かって行った。
『ぎゃぉぉぉぉーーーーーっ!!』
 変わった甲殻類を思わせる一体目が俺に向かってきて、俺に口の上にある2本の力強い触手を体に纏わりつかせて、奇妙な形の口を開けて俺を食おうとした。俺はその触手に刃を突き立て、一気に微塵と切り裂いた。
「デスブレイド・暗龍斬!!」
 腕の鰭を刃と変え…『戦海老』アノマロカリスの首を切り落とした。
ザシュゥゥゥゥーーー!!
「壱体…」
『ぐぁうっ!!』
『ぎゃぅっ!』
「ぐぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 翼竜と甲蟹(カブトガニ)の怪人が俺に向かってくる。俺は一気にジャンプして空中で、背中に収納してある2対の羽、ビートルウイングを展開させてまずは翼竜に狙いを絞る。
『くぇぇーーっ!!』
バキィ!!
 空中で翼竜の羽を捕まえ…一気に引き千切り、腕の刃を振り上げる…
「はぁぁぁーーっ!」
ガシュッ!
 Xの字に切り刻む。翼竜は、鳴き声を上げる間もなく絶命した。
「弐体…」
 俺は次ぎに地上の甲蟹に狙いを定めるが奴は甲羅に身を包み…刃を受け付けない。だが、俺はその代わりに…奴の腹に向かって懇親の蹴りを放った。
ドシュゥゥーー!
「フライキック…」
 俺の足が甲蟹の甲羅を内側から突き破り…砕け散った。
「参体……」

「NO.3〜NO.5、全部にNO.7にやられました!信じられない…それでも戦闘数値はまだ延びつづけている……」
「伝導体を自らの手でもぎ取り、彼は戦っている…まさかNO.7には、意思が!?」
 その間にも、飛龍はその場にいたもの全ての怪人を引き裂き、残ったのはNO.6『犬歯虎』とNO.1『巨象(マンモス)』が飛龍と対峙している。

「後……参体、覚悟しろ」
『ぶぉぉーーーっ!!』
『がうぅっ!』
 巨象が咆哮を上げると同時に、犬歯虎が俺に襲いかかってきた。
「むんっ!」
『ぐぅぅぅぅっ…』
「ぎぃぃっ」
 俺は、犬歯虎の長い牙を受けとめる。だが……力の差が歴然としている。
「だぁぁぁーーーーっ!!」
バキッ!!ガシャッ!
 俺の方が一枚上手だ……
『おおおっっっーーーっ』
 犬歯虎の牙を力任せにもぎ取りその一本を首に突き刺す。
「タイラントストライクっ!!」
 俺の拳は、風圧を纏い…敵を突き刺す矢となり、奴の首に突き刺した牙もろとも貫いた。
ドシュゥゥーーッ!
 犬歯虎は腹から血を流しながら絶命して、今度はあの巨象が俺の眼前に現す。
「後弐体………」

 俺の前に、体毛に覆われた巨大な象の怪物と蝶を彷彿とさせる姿の女怪人…この2体を残していた。NO.1『巨象』が前に出て俺は刃と背中のビートルウイングを展開させた。
 身長差は故に3メートルも違う…圧倒的な体格で威圧感さえも感じさせる……
「だぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!!!」
『ぐばぁぁぁぉぉぉーーーーっ!!!!』
 両者の咆哮がぶつかり合い、館内は大音響に包まれる。その大声量は、ガラスを砕く。戦いはそれ以前に始まっていたのだから…
「どぁぁっ!!」
『ぐぁぁぁーーーっ!!』
 巨象は、湾曲していた牙を真っ直ぐにして突進して来た。俺は羽を広げ飛びあがり攻撃をかわした。
「亜高速振動発生…」
ブゥゥゥゥゥーーーン…
 4枚の羽が目に見えぬほどの超振動を引き起こし、俺の体に空気と音の壁を作り出す。
ブォンッ!
 巨象は長い鼻を鞭の様に振り下ろし、俺を攻撃するが…鼻は空を斬りそこには俺の残像が浮かんでいた。
『!?』
「ここだっ!」
 俺は一瞬で、巨象の後ろに周りこんで、音と空気を切り裂きながら足を突き出した。
「フライキィィーーークッ!」
バシュゥゥゥゥーー
 空中を飛行しながらのキックが、巨象の首元に直撃して鈍い音がした…そして、彼は首がへし折れ、地面に倒れ込んだ。

 巨象が倒れ…俺と蝶の女怪人が残った、彼女はあの『あげは』だと言う事が解る。その姿となっても名前と同じ、美しい蝶のままなのか……
 あの声は、彼女の物で……俺はその心の叫びが伝わってきたんだな…
「あげは…みんなは俺が、丁重に葬ったよ…」
 俺と彼女の下には、屍となった他の人達が転がっていた。彼女の望み通り…俺は彼らを倒した。だが…何かが足りない。
「俺はこんな風に、人間に戻れるし、意思もちゃんとしている……あんたのおかげだ…」
 体を段々と人間に戻して、俺は…怪人となったあげはに話しかける。
「だけど、…しかもこんな体になっちまって…あんた達と同じだ、未来なんてない……希望の光でもない…帰る場所さえない…」
『………』
「…一つだけ、教えて欲しい……俺は何故…」
 俺は腕を旋回させて、こう叫んだ……
「変身っ!!」
 俺の体から脱皮するかのごとく、それは這い出してきて、俺の体を浸食し…姿を赤き龍神の姿へと変えた。
「俺はなぜ生きなければならないんだ……」
 ビートルウイングを展開して、あげはと同じ高さまで跳びあがり……
「あげは、お前は俺を殺してくれるのか?…」
 俺の声は届いたかのように、あげはは背中から植物の触手が伸びて、戦闘態勢に入った。
「俺の変わりにお前だけは生きて欲しかったんだけど…叶わないか」
 腕のデスブレイドを展開させて、俺はあげはに向かって刃を向けた。あげはも触手を使い、俺に攻撃を仕掛けてきた。
『きゅわぁぁぁーーーっ!!』
 2本の触手が鞭のようにしなり、俺の動きを翻弄しながら攻撃してくる。直線攻撃が効果無しか……
 だが俺も…それに答えるように、デスブレイドを振る。
 攻撃の一撃の一つ一つが、会話のようになり俺の頭に響いてくる。

『龍治……私も、この人達と同じように…決して恵まれた人生は送れなかった、愛した人も…私と同じ戦闘員で同僚だった…私は、量産型怪人の餌係だった』
 その会話(攻撃)の中で、あげはの過去が明らかになっていった。
『いつも、自分の小隊に配備されている量産型怪人に、餌となる人を捌いていた。いつもの事で、捌くのは慣れていると思っていたけど…その時は違った。自分のして入る事と組織を呪った……私が包丁をおろしたのは、彼の肉だった…』
 ……酷いな…それで…量産型怪人に…
『そう…皮肉にも、彼を食った量産型怪人の高位レベルになれる、ランクΣまで昇格したわ……私はその時点で、自分の運命も呪った…』
 伸びてきた触手を俺は、デスブレイドで切り落とした…だが、彼女の方も攻撃の手を休めない。
『だけど、教えてくれ!なんで俺はこの人達のように死を選べないっ!』
 俺の問いかけの攻撃にに…あけばは触手で答える。
『あなたが希望の光を持つと言ったのは……思い違いじゃないわ、龍治…その意志の強さで、きっと…』
 その言葉の途中であげはの攻撃の手が揺らいだ感じがした…そしてあげはの後ろに巨大な影が写った瞬間…
ドシュゥゥーー
 長い牙が…アゲハの腹を突き抜け、俺の肩に突き刺さる。この牙は…さっき倒したはずの『巨象』が牙を伸ばしてアゲハごと、俺を攻撃して来た。
「あげはぁっ!」
『げはっ…』
 アゲハの口から血が噴出す……俺は彼女を貫いた奴を睨み付けた。敵を殺すためには、味方もなしかっ!?そこまで、あんたはそこまで、人間を捨てたのかっ!?
「ぐぁぁーーっ!」
 俺はデスブレスドで、俺の肩とアゲハを貫いていた牙を寸断すると奴の後ろに周りこんで、高周波振動を発生させながら…音と空気を切り裂きながら足を突き出した。俺の足から体にかけてに音と空気の竜巻が生じて…全身が恐竜の頭骨のような残像が出現した。だが、それは決して残像ではない……まさに空気の化け物だ。
「ティラノ!ヘッドボーン!キッィィィーーーークっ!!!」
グァァァァァァァーーーーーーーーーーーッ!!!
 空気の化け物は、一直線に向かって行き…巨象の巨体を上半・下半身と一刀両断に引き裂き…俺は地面に着地した。
ドシュゥゥゥゥゥゥーーーーーーッ!!!
『ぐばっ!!』
 巨象は、完全に沈黙して…俺は自分の体を見た、何かが違う。空気抵抗に対応した強靭な外骨格の強化…足は暴君竜ティラノサウルスの如く太い筋肉の固まりとなり指は三本に分かれていた。腕のデスブレイドは3つの刃となりノコギリのようになっている…それは、まさに暴君を意味する、俺の陸上で最強の力を誇る…『タイラントフォーム』だ。
 THBキックが起こした激しい空気の揺れが、俺を変えたのか…
「あげはっ!」
 俺はあげはのことを思いだし、変身を解き…あげはの元へと向かった。


「すごい、戦闘能力は……あの黒狼並、いやそれ以上の数値を叩き出した、それにNO.7は意思も持ち、人間体へと戻る事も覚えている…彼は一体」
「決まってるじゃねぇか、世紀末王様の敵……『悪魔の戦士』よっ!!」
 蜘蛛はそう言い放ち、モニター室のガラスを突き破ってドームへと乱入した。

「しっかりしろっ…あげは」
 怪人体のあげはも段々と人間の姿へと戻って行く、俺は上体を持ち上げる…なんて軽いんだ。俺が改造されて力が倍増されているわけではない。抱え上げたあげはの腕を見てみた、細い腕の肌が色あせて…段々と血色がなくなって行く…老化現象している。
「これはどう言う事なんだっ!」
「完全ではないもの…私の改造は……二つの生物の遺伝子を両立させるのは…体に負担がかかり遺伝子崩壊するの…」
「なら、俺はどうして……」
 確かにあげはは、蝶と植物を合成した量産型怪人、だけどそれは…俺にも同じ事が言える……俺も恐竜と昆虫、まったく異なる遺伝子だそれなのに…
「運……そうとしか言えない…神様が与えてくださったのかもしれな…い…」
「だったら…教えてくれ…神は何故…俺を生かして殺そうとしない…」
「………」
 あげはに問いかけるが、あげははもう何も答えてはくれなかった。彼女の手が力なく落ちる…
「教えてくれ…運命は何故、俺を殺さない…答えてくれ…あげは」
 俺は無表情だったが…その瞳から涙が零れ落ちた……血の涙ではない…人の流す涙だ。
 あげははもう…俺の質問には二度と答えない。俺は彼女の最後の言葉さえも聞けなかった……自分がなぜ生きている事…なぜ、生きなければならない運命なんだ…
 赤く染まった空間に問いかけても…何も帰ってこない…神がいるのなら、答えてくれ…

 俺が生きる理由って何だっ!?
ダンッ!
 その時、上から何かが俺の元へと降り立った。
「………なんだ、お前は」
『いい戦闘を見させてもらったぜ、飛龍……だがこれで、お前が『悪魔の戦士』だって事が解って良かったぜ…悪魔の戦士は黒狼だけで十分だからな』
 蜘蛛を象った怪人は俺にそう言った。こいつさっきまでの奴とは雰囲気が違う……いや、俺とも違う…
「悪魔の戦士?」
『そうさ、お前が悪魔の戦士、仮面ライダーだっ!!』
「……俺が、仮面ライダー?」
『そう言う奴は抹殺しろって言う命令なんでな、死んでもらうぜぇ〜』
 蜘蛛の怪人はそう言うと鋭い爪を付き立てて俺と対峙した。こいつは俺を殺すことはできるのか?いやできない……こいつでは俺を殺すことなど無理だ。
 俺は、変身もせず…あげはの亡骸を抱え…この空間から出ようとした。
「悪いが…お前では俺は殺せない……お前にやられるほど、俺は柔ではないからな」
『その言葉は戦ってから言えぇぇぇーーーー!!!』
「くっ!!」
『よさぬかっ!蜘蛛よっ!!』
 赤く染まった空間に、どす黒い何とも耳障りな声が聞こえてきた。その言葉に、蜘蛛の動きは停止する。
「……何者だ??」
『我の名は世紀末王ドラゴノソード…この超常破壊結社ネメシスの王なり』
「……」
『お前は人の作りし存在……だが、我の作り出した幹部怪人の力を遥かに凌駕する力、見物だったぞ…あっぱれだ』
「いい誉め言葉だ、光栄に思うぞ…世紀末王」
『てめぇっ!世紀末王様に対して……』
『まあ待て、蜘蛛よ……どうだ、飛車龍治…お前はその女の言葉の意味を探しているのだろう……自分が生きている意味…』
「……彼等は、人の姿を捨てても戦って死んだ…だから、俺も全力で戦って死にたい」
『お前らしい答えだ、飛車龍治よ……ならば、お前を殺してくれる相手を我が教えてくれると言ったら…』
 その言葉に俺は過敏に反応した。
「……嘘をついているとは思えない、いるのか?俺を殺してくれる奴が……」
『ああ……その男は、そこにいる蜘蛛と同じ幹部怪人の一人だったが、ある事故で裏切り我等に対抗する、『悪魔の戦士』と成り果てた……お前と同じように…』
 『悪魔の戦士』、仮面ライダー…そいつが俺を殺してくれる奴なのか……
『そいつの名は黒狼…陣内 榊…その男ならお前を殺せるだけの力を備えてあるだろう………』
「そうか……黒狼か」
 あげはの言った言葉の意味に…少しだけあかりが差し込んできたような気がした。俺が生きる目的…それは俺を殺せる相手を探す事…
『だが、条件が一つだけある……我にお前の力を貸してくれたら、我々も黒狼を探す手伝いをしてやろうではないか……』
 いまいち信用のならない声だが、何もしないよりはまだましな方だ…この声の主も相当な力の持ち主、こいつも俺を殺す事が出来る。
「いいだろう、黒狼を見つけたら全力で戦う…全力で戦って死ねたら本望だ。いいだろう…それまで、お前達に協力しよう、だが…その黒狼が弱く、俺が黒狼を打ち負かしたら…今度はお前を襲う……」
 俺は声の出ているだろう、天井のスピーカーに向かって吐き捨てる。
『ふっ、交渉成立だ……飛車龍治よ』
「その名前は捨てる……お前の呼びたいように呼べ」
 そう言い、俺は屍の転がる床を掻き分けて、この空間の出口らしき所に向かった。
『…解った、今日よりお前を、飛龍…『ドラゴンフライ』と名づけよう』


 そして、この日より俺は飛車龍治から、飛龍『ドラゴンフライ』と名づけられ、短く切り…『ドラフ』と呼ばれるようになった。

 奴等の要求は、ネメシスの壊滅を狙う反ネメシス組織の情報収集と壊滅だった。その組織の一部に…その黒狼はいると世紀末王は語った。

 今…俺は、自分を殺せる相手と戦う為……生きている…黒狼と戦う事もあると思うが…場合によっては、ネメシスと戦うことにもなるだろう。
 あげはの言いたかった事はこの事だろうか……空を舞う儚き蝶は…その事を教えてくれる前に落ちた…彼女も、戦って死んだ…
 希望の光なんて大げさな物…俺にはない…だが、信じている…貫く光があることを…そして、今を生きる……自分を殺す相手が現れるまで……

 生きていく…さ迷いながら…永遠に……


 完

設定資料集

仮面ライダーDF(ドラフ):フライフォーム(空)
能力 パンチ力5t キック力20t ジャンプ力900m 飛行速度:マッハ1
武器 デスブレイド
必殺技 フライキック(黒狼キック同様の強さを誇るキック技)
 飛車龍治が量産型怪人独立部隊『MD(マッド)』の怪人として改造させられた姿。二つの異なる生物の遺伝子を持っている為、その力は絶大。これはその通常形態であるフライフォームで、蜻蛉の遺伝子が色濃く出た形態で昆虫の軽い外骨格が90%締めている…ビートルウイング解放時は飛行能力も持ちマッハ1の速度で飛び、ビートルウイングは、亜高速振動を起こす事が可能。空中戦では最強の力を発揮する。

DFのフォーム
 DFは戦う地形状況に応じて、戦闘形態を変える。陸・海・空と3つの形態を持ち、それぞれに特化した戦闘ができる。ちなみに空は通常形態であるフライフォームだ。

タイラントフォーム(陸)
能力 パンチ力20t キック力50t ジャンプ力20m 走力:100mを6秒
武器 キラーブレイド
必殺技 ティラノヘッドボーンキック(竜巻を纏い、強風と音により巨大な恐竜の頭骨を作り、その牙で引き裂くDFの最終極技。65t)
 ティラノサウルスの遺伝子が色濃く出た形態で、外骨格より高質化した筋肉が体の90%を締め、ビートルウイングは退化して…陸上戦闘を得意としたパワー&スピード形態。暴君竜としての恐竜のような強力な足が特徴的で、そのキックは強烈。

ネイビーフォーム(海)
能力 水中移動速度:マッハ2 
武器 ダイブリッカー
必殺技 シープレシオ(海中で高速で泳ぐ事で、渦を作り海中に飲み込む技)
 DFの水中での形態で、海中にダイブすることでエイのような形態へと変身する。エイのような形態な溜め、両腕のデスブレイドは肥大化して…巨大なまくとなり推進力を得る為足まで達する。また体が流線型となり…水の抵抗が少なくなりフライフォームの空中を飛ぶより早く移動が可能。海上戦だとこれで奇襲攻撃を仕掛けられ…海に引きずり込まれる。


量産型怪人独立部隊『MD(マッド)』
 反ネメシス組織打倒の為に、世紀末王が量産型怪人のみを使って編成した独立部隊。7体の量産型怪人で構成されていて、その全てが古代に生きた生物(カンブリア記〜新生代まで)の遺伝情報と、鬼塚儀一博士の身体改造レベル1を施した、通常の怪人の4倍の性能を誇る。尚、主体となった人間はネメシス戦闘員で優秀な成績を残した、ランクΣだ。

あとがき

ふぅ、劇場番登場用の黒狼外伝終了…今回はバイオ系のライダーを目指してやりました結果、すこしグロテクスなしあがりになってしまいすんまそん。バイオ系故に、改造人間の悲哀を色濃く出したようですが……
でも、ぶっちゃけいいますっ!
このライダーは、バイクには乗りません!だって元が量産型怪人だし…だったらなぜライダーと言う……細かい事は気にしない(やけ)……でもバイク乗ってないとライダーって言いませんよね……

 それでも、ご期待を損なわぬように!3つのフォームチェンジや迫力の戦闘シーンをやって行きたいと思います!


そして、劇場版を書き上げるためにもう一つの黒狼外伝も書かなきゃ…

そいではっ!!次はメカ系だっ!!

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