ザシュウ!
 彼女は俺の後ろの空間を、斬っていた。見えない闇はその一撃で、まるで逃げるようにその場から消えていった。
「くっ!」
 俺は、その光景に立っているのがやっとな体制で、彼女を見ていたが…彼女は俺のほうをクルリと向き、俺と目が合った。その瞬間、俺は腰が抜けてその場に座り込んでしまった。今まで、俺を束縛していたのがなくなったかのように俺は倒れこんでしまった。ただ、目が開いていた、月に照らされた天井が目に入った。

 ただ、信じられなかった…現実と非現実的が逆転した世界に来た…言い換えてみれば、夢を見ているのではと思った。それでもこれは現実だ…夢では痛みが無い…
 だけど、夢と同じ情景…彼女は俺の前に現れて、俺を助けたと言うのか…
「……」
 剣を持った少女は俺の顔を覗き込んで来て、再び彼女と目が合った。俺はビクッとして目をそらす様に、上体を起こした。
 そしたら、彼女は俺に手を差し出してきた…
「……あ、ありがとう」
 差し出された彼女の手に俺は捕まって、立ち上がった。
「助けてくれて、すいません……」
 一応礼は言っておいた…3年なので、一応敬意は持って彼女に接した。まずは冷静を保って、状況を聞こう。
 だが、彼女は俺に対して無反応でじっと見つめているだけであった。背も俺と寸分違わないため、まっすぐ見るだけで俺は彼女と目が合った。
「……」
 見とれてしまった、月の光に当たった彼女の深い瞳に引き込まれるような感じだ。
なぜか俺は彼女に自分を照らし合わせていた。似ている……俺に、なんとなく……直感ではなく、実感に近い物があった。
 夢の事もそうだし……俺と彼女は何らかの共通項がある…そう思った。
「同じだ…」
「え?」
「私と…同じ目をしている」
 彼女が始めて口にした言葉で、彼女も俺と同じ事を思っているのだろう…。初対面だと言うのに、こんなにも近い不思議な存在…俺と同じ物を持つ…この人は誰だ?
 いや、俺は…一つの可能性を知っている…彼女と俺の共通点…それは俺が探していた人の一人だった。

 確か、俺には腹違いの姉が居たはず……育ての母親から聞いた言葉、俺たち陣内の血には、肉親がわかる能力があるらしく、親や兄弟とかはその血の鎖の繋がりさえあれば…すぐに解ると言う。育ての母も、親父と兄妹で…生き別れていたが、再会した時今のような不思議な感覚があったと言う……たとえ、何十年も離れていようと、血の繋がりは解かれない…陣内の血族なのである。
 伝説めいて、迷信かと俺は最初思った。だが、この言葉が本当だとすると…彼女は俺の姉と言う事になる。
 だけど今の現実離れした光景で、つじつまが一本の糸のように繋がった。

この人は…俺の姉だと言うことが、確信が持てた。

「……」
 だけど、この人は俺が弟だって知っているのか?そもそも、彼女は自分に腹違いの弟が居た事など知っていたのか?それで、初対面の俺がいきなり「俺はあなたの弟だ」とか言っても、多分この人は困惑するだけだろう…
…そんな事だけはなるべく避けたかった。それに、この人が本当に俺の姉だと言う保障も何も無い…

 しばらく、俺達は見詰め合っていた、彼女は俺が何者か知りたい…そんな目で見ているのだろう。
 それに今は他に聞きたいことがあった。
「…さっきのは一体なん何ですか?」
 さっきの、それは彼女が追い払った謎の気配である。確かに見えない空間だったけど…蹴った時の手ごたえが感じられた。彼女が知って、あれを斬っているなら…俺も知ってもばちは当たらないだろう。
「……」
 だけど、彼女は無反応のままだ…やはり、答えにくい事なのか…
「答えにくい事なら、深くは追求しません……」
 そう言うと、彼女もこう答えてくれた…
「…私は、魔物を討つ者だから」
「魔物?」
 なるほど、それがさっきの気配だと言う事か……
「俺は、陣内陽介です…あなたは?」
「……川澄 舞」
 俺が名乗ると、彼女も名乗ってきた…。彼女が川澄 舞さんだったか、だとしたら舞さんが起こす、ガラスの一連の騒動の理由も説明が付く。
 魔物を討つ…舞さんは理由があって、ガラスが割らざる終えない状況だったに違いない。いや、不慮の事故だろう…魔物の仕業が、帰ってこの人のせいになる……常識に見たら絶対そう思うのは当然だ。
でも学園側や俺たち生徒会を敵に回しても、舞さんは依然ここを守ってる、そうとしか思えなかった……姉弟だからこう納得がいくのだろうか…
 でも何故、魔物からここを守っているのだろう……そこが解らない。
「もう、来ない…」
 舞さんは不意にそう言った。来ないということは、魔物は居ないと言うことだろう…
「そうですか、良かった。なら俺はもう帰ります…」
「……」
 こくりと、舞さんは頷いた…その方がいいと言うことだろう。
「また会えるといいですね…」
「……」
 舞さんは複雑な表情をした…正直、俺だって姉さんの事は何にも知らない、だから知りたいんじゃないか…本当に、この人が姉さんか…
「では…」
 舞さんに手を振ると、俺は進入ルートから夜の学校を抜け出した、改めて夜の学校を見た…今さっきまでの事が、夢のように思えた、ただあれは現実……魔物…腹違いの姉との再会…何より驚くのが、生徒会の俺があの問題児である川澄 舞の弟だって事が一番驚いたが…

 久瀬には教えるつもりは無いが、もし言った時の奴の表情を思い浮かべて噴出した。ヘルメットをかぶって、バイクに跨ると俺は帰路に向かった。

 はて、何か忘れているような気がする。


 “雪幻〜Winter Dust〜”
第三幕『二人の先輩』


 帰ってから気づいたが、俺は北川のノートを忘れていた事に気づいた。
 まあ、俺が予習ができるだけでましだが……北川にはその予習ノートを、貸して見せてやればいい。そう思って寝る事にした…

舞さん、何故魔物と戦うんだ…魔物と戦って、いったい何を得ようと言うのか…解らない、それだけが……。
 そう思いながら、俺は眠りについた。


……
………

 特に変わった夢も見なく、俺は起きてみた……また舞さんの夢でも見るのかと思ったが、どうやら期待はずれのようだったな。
「さて、行くか…」
 起き上がって制服に着替え、ネコ共と朝食を取って、俺は学校へと向かった。おっと、ネコ共の昼食を隣の人にお願いしておくのを忘れるな。


 雪道を歩いていると…校門前で北川と出くわした。
「おはよう、陣内…」
「勉強してないのに徹夜か?」
 何だか疲れている様子の北川に聞いて見る…
「予習ができないからさ、やけくそでゲームやってたんだよ…」
「ほう、やけゲームか…お前らしいな」
「誰のせいだ誰の…」
 仕方なく、俺は鞄から昨日予習した自分のノートを渡してやる…
「まあ、戦利品と思え……教室行ったらお前のは俺の机から勝手に引き抜け…」
「おう…その代わり、今日はこのノート使わせてもらうからな……」
 俺は勝手にしろといい、徹夜でよろよろの北川を軽くあしらってから先を急ぐ事にした。


退屈でなんの代わりの無い授業が過ぎる、まるで昨夜の事が嘘に思えるほどだ、俺は移動教室以外の教室での授業を寝てすごして……昼休みに入るのが日課だ。寝ていい先生と寝て悪い先生を分けて寝る…それも一つのコツだろう。
 それで、昼休みが来る……
「祐一、お昼休みだよ〜」
 名雪ののほほーんとした昼のお知らせが告げられる…相沢が来た途端、名雪も嬉しそうになっている。
「さて、陣内。学食行くか」
 午前の授業ほとんど寝ていた北川が俺を誘い俺も立ち上がって…
「ああ………ん?」
 俺は教室の前を通り過ぎる人影を見つけた…あの髪型は…
「すまん、北川…急用だ、飯は相沢達と頼む」
「お、おい!陣内!」
 ちぇっと、北川の舌打ちが聞こえたが無視しよう…俺はあの人の後姿を追った。

「はぁ、はぁ…やっと追いつきました」
 何とか追いついて、俺はその人に声を掛けた…その人…舞さんは振り返って俺を見る。
 当然、見るだけで何も話しかけない…もしかして、あの時あったのは夢だったのか?
「俺です、陣内…覚えてませんか?」
「……」
 こくりと頷いた…良かった、あの時の事は夢じゃないようだ。
「良かった、覚えてなかったらどうしようかと……」
「まーいー、ごめんね〜」
 遠くから、舞さんを呼ぶ…名雪ばり、ののほほーんとした声がして、俺と舞さんは声のする方を向いた。そこには、少し走ってきたのか息を少し切らしている舞さんと同じ3年の人が居た。
舞さんより少し身長が低いが、美人と言うより可愛いといった方がいい顔立ちで、舞さんとは性格が正反対の明るい少女だ…
俺は少し、彼女に見とれてしまった……舞さんの時とは違い、心臓の音がとても早い。
「はえ?舞の、お友達ですか?」
 彼女は俺を見てそう聞いてきた、う…またドキッとした…
「……ええ、先日舞さんに危ない所を…助けていただいたのでありまして…」
「ふえ〜、良かったですね〜」
「は、はい…なにせ、危機的状況下でしたから…」
 おいおい、何を俺はこんなに焦っているんだ…姉の面前で、情けない。
「あ、俺は陣内陽介です……」
「陣内さんですか、倉田佐祐理です、よろしくおねがいします」
 ご丁寧に、彼女はお辞儀をされたので俺は佐祐理さんにお辞儀をし返した。
 佐祐理さんか…いい名前だな…
「では、話も済んだ事ですし…俺はこの辺で……」
「あ、待ってください…あの、もしよろしければ……お昼一緒にどうですか?」
「え?…」
 それから、流されるように俺は、三年の先輩達に連れられて行き着いた先は、屋上の前の踊り場であった。
「ここは…」
 声がエコーがいい具合にかかり…屋上手前の階段の踊り場、なぜかそこにレジャーシートを引いて、倉田さんはそこに5つも大きな重箱を置いた。
「やっぱり、お弁当は机で食べるよりこっちの方がおいしいと思うんですよ〜」
「なんか、遠足みたいですね」
「あはは〜、そうですね〜」
 和やかな雰囲気に自然となってしまう…こういうのも悪くは無い…それにこの季節だ、外は寒くて誰も出る気はしないだろう。
「陣内さんもどうぞ〜」
「ああ、それと…陣内じゃなくて陽介でいいです」
「はい、陽介さんじゃあ…佐祐理の事も佐祐理って呼んでください」
「いえいえ、俺の方が年下だし……佐祐理さんで勘弁してください」
 一応先輩だし…それに…俺はそう呼びたい。佐祐理さんは少し残念そうな顔をした。
「川澄さんは…あの、舞さんと呼んでいいですか?勝手に言ってますけど」
「…いい」
「解りました……」
 いきなり姉さんは無難だからな…
「それでは、どうぞ〜。舞もね」
「はい…それでは、いただきます」
「…いただきます」
 3人で丁寧にいただきますを言い佐祐理さんの作ってくれた弁当で昼食を取る事にした。何だか、美人と二人で食事ができるなんて、何だか俺にはもったいないな……(佐祐理さんから割り箸を貰った)
 静かで落ち着いた雰囲気で食事しているんだけど一人だけ落ち着かないのは難点だな。何とか紛らわせねば…
「佐祐理さんのお弁当って、手作りなんですか?」
「はい、そうですよ〜」
「凄いですね、これだけの量を一人で…」
「はい、夜遅く仕込んで朝早く起きてしたくしますので〜」
「大変ですか?」
「あはは〜、でも慣れてますので〜」
 という事は、舞さんとは付き合いが長いと言う事か…
「それにうまいです、一人暮らしが長い俺でも…ここまでは出来ない」
「はえ〜一人暮らしなんですか?いつ頃からですか」
「まあ、母親が外国で単身赴任中なんです…毎月の仕送りと俺のバイトで食いつないでいます……」
 だが、やけに仕送りの量が半端ではない…多い時では、1000万が送られて来たときもあったからな。あの人の職業の年収がやけに気になる。
「でも俺も慣れてますから……」
「あはは〜」
 お互い慣れると、それ程大変になくなるのがいい所だ。
「本当に美味いですよ…」
「ありがとうございます〜佐祐理も作った甲斐があります〜」
 俺は、舞さんのほうを見る、俺達の会話には参加せず…ひたすら食べているがその箸が止まっていた。
「どうしたんですか?舞さん…」
 どうやら、俺のほうにある弁当箱の中にあるのが欲しいのだが、箸が届かないのか…
「えっと、どれが欲しいんですか?」
「玉子焼き…」
「解りました、では…」
 俺は舞さんのほうに玉子焼きを差し出す…舞さんって意外とお茶目な所があるんだな。でも、もくもくと食い続けて何だか会話が無くて少し寂しいな…
「玉子焼き好きですか?舞さん…」
「嫌いじゃない…」
「そうですか…では、もう一つ」
 そう言い舞さんのほうにもう一つ玉子焼きを乗っけてやった。
「タコさんウインナー」
「了解しました…」
「あはは〜」
 不思議な気分だ、いつもの俺の硬い調子とは違いこんなに柔らかくなっている…佐祐理さんのお陰か舞さんのお陰か知らない。ただ、こんなにも自分の表情が砕けるなんて…いつ以来だったか…
 こんな時に、魔物の話や生徒会の話なんてしたくない…今の俺が保てないからな…
「それでは、陽介さん」
「はい…あ、あの…」
 昼休みも終わりに近づいて、佐祐理さんの一言で解散となるとき、俺は不意に佐祐理さんに話しかけた。
「はえ?」
 う、何だか照れくさいな…冷静になれ、俺らしくないぞ。
「また来てもいいですか?」
「あはは〜、いいですよ〜佐祐理も構いませんし、舞も陽介さんを気に入ったようだし…」
「………」
 舞さんは無表情だったから、本当の所はどうだか解らない。
「では、次も踊り場に来ますので…」
「はい〜、それでは」
 佐祐理さんはぺこりとお辞儀をすると、舞さんと三年の教室の方へ歩いていった。

 彼女達が去ってなんだか、自分が自分で無いような気が今になってした…得に佐祐理さんと話していると、何だか調子が狂うって言うか…物凄くどきどきしている。
 頭の中が佐祐理さん一色に染まると、何だかまた顔が熱くなってきた。
ベコ!
 俺は少し耐えかねて、学校の壁に拳を叩きつけていた。壁は拳がめり込んで皹が入るほど強く…
 頭を冷やせ、相手は3年の美人の先輩だぞ…何をうろたえている。俺らしくも無い…
「顔を真っ赤にしたと思ったら、壁に八つ当たりとはどういう風の吹き回しだ?陽介」
「く、久瀬か…」
 俺はすでに周りの視線を集めていて、久瀬がそんな俺に注意して来て始めて気がついた。
「む?相変わらずの細腕のくせに凄いパンチ力だな…で?どうしたんだ?」
「…なんでもない!それに、細腕は余計だ!」
「……好きな人でもできたか?」
「がっ!違う、そんなんじゃない!」
 俺は真っ赤になって久瀬の言ったことを必死に振り払おうとする…
「…顔にそう書いてあるよ、耳まで真っ赤にして…」
「ちが……ちがう…」
 段々と力が抜けていって、否定しきれなくなってきた…これは本気でヤバイな…
「ふふーん、まあ頑張りたまえ…振られたら何時でも僕の所に泣きついて来てもいいよ」
「誰が行くか誰が……」
 ああ、一瞬空気が青ざめたよ…
 俺はそう吐き捨てると、久瀬から逃げるように走ってその場を後にした。
「…廊下は走るもんじゃないぞ…」


 自分のクラスに、急ぎ足で戻った…
「お、陣内…戻ってきたか」
「はぁ、はぁ…」
 まずは、北川が話しかけてくる…ちぃ、余計な所で余計な奴が次々と現れる。
「ん?陣内君、見ないと思ったら…何処行ってたの?また生徒会?」
 北川に続いて、美坂も声を掛けてくる…ふ、うちのクラスメートは心配性が多いな。
「……まあ、それ関係…」
「陣内、何だか顔真っ赤だぞ…ほんと、なんかあったのか?」
「本当ね…いつも冷たそうな表情してるのに、何だか今日は茹でたタコみたい…」
「美坂、それ…たとえ悪過ぎないか…」
 そう差し違えても、構わない…今の俺は何だかいつもの俺じゃない、何だか感情的になりすぎてる。
「好きな人でもできた?」
「っっ!?!?」
 美坂に確信を聞かれて、俺はビクついて…声が裏返ってしまった。
「ほう、良かったな…ふられて傷心の陣内に新たに好きな人現るか…」
「うるさい…黙れ…」
 立ち上がって、北川の胸倉を掴みかかる…
「はいはい…違うって解ったから、離せ離せ」
 俺は、はあはあと息を荒くさせて…北川の胸倉を離してやる、ち!あの人のことを考えると、こうも感情的になるか…俺が情けない。
「でも、砕けて表情が見えてきただけ、いいんじゃないかしら…」
「それもそだな……」
 呆れたように笑って、北川と美坂はそう言った…全く北川も美坂も久瀬も人事だと思って、こっちは結構苦しい事が解らんか…
 何だか胸が締め付けられそうな感じで、俺が俺でなくなりそうで…怖いんだ…

「あれ?陣内君、どうしたの?」
「落ちてる物でも食ったのか?」
 途中で、少し遅めに帰ってきた名雪と相沢にも、感づかれ俺は更に頭を抱えてしまった。



「なあ、名雪…俺ってそんなに解りやすいか?」
 部活が終わり、更衣室の前で別れる前に名雪に一言聞いてみた。
「うん陽介君って、冷たい感じだけど…意外と顔に出やすいから。照れてるってすぐわかっちゃうよー」
「顔に出やすいか?」
 わたわたと手を振って、顔を隠そうとする俺を名雪はくすくすと笑って…
「ほらね…耳まで真っ赤にしてるよ〜どんな人かなぁ、陽介君の好きな人って」
「面白がってないか?美坂や北川みたいに」
「わ、そんな事、全然無いよ〜」
 ちぃ、名雪にも見破られるとはな…俺もまだまだ未熟か…
「ああ、そうだよ……その……まじだ」
 最後ら辺は、もう殆ど言葉になってない…俺、重症らしいな。
「お前だから言ったんだ……美坂や北川だと、言いふらしそうで怖い」
「へー本当なんだ〜、誰なの?」
 すぐに、倉田佐祐理さんの顔が浮んできた、何処となく性格がこいつに似ているがすこし違う、なんだか考えただけで顔面にお湯をぶっ掛けた気分になった。
「3年の…先輩だ……それ以上は言わん!」
 教える事だけ教えて名雪の額をぐりぐりと押す。
「うう〜〜、ケチだよ〜」
「お前はどうだよ、相沢の事…教えてやったんだ、こっちも聞く権利はある!(←横暴です)」
「わ、わ、祐一の事は違うよ〜〜!」
「図星だな、お前も解りやすい奴だ……」
 名雪はう〜っと唸っているが…そういう事にしておこう。
「意地悪だよ〜…陽介君」
「何度でも言え…」
「意地悪、意地悪、意地悪、…」
「本当に連呼しろと誰が言うた!?」
「うー、でもそんな所が少し祐一にも似てるかな…」
「相沢も意地悪か?…俺と奴は同レベルと言うわけか…」
「ふえ?むにゅ〜〜」
 むぎゅーっと名雪の両頬を引っ張って伸ばす…てかよく伸びる頬肉だな…
 相沢に似てるか、何となく…似てるんじゃないかって思ってたが、他人から見てもそう思うか…。
「すまんな名雪…そう言われて何だかすっきりした…」
「う〜いたひ…わたし、なんか悪いこと言った?」
 赤くなった頬を半べそをかいてさすって聞いてくる名雪の頭を撫で踵を返した。
「じゃな…」
 俺はそう言うと、男子更衣室へと入って行った。
 ストレス解消とまではいかないが、何だか名雪に勇気付けられた…みたいな気がした。

 家に帰り…飯を作り、ネコ達と一緒に食事をする、まるで隣のネコ婆見たいな生活だが、まあ人それぞれの生き方だろう…ちゃんとしつけもできてるし…そのネコ婆よりかましだ。
 舞さん、今日も魔物と戦ってるのか……怪我とかしないかな?腹は減ってないか?生まれた腹は違えど、姉弟だから当たり前のように心配はする。
「行こう…」
俺は棚から救急箱を一式用意する…そうだ…いざ戦う事になった為にこいつを……。再びガレージからバイクを引き出して…学校へと走る事にした。途中寄ったコンビニで、寒いから肉まんを買い…学校へと向かった。

 昨日と同じ場所から俺は、忍び込んで…舞さんの姿を探した…何処かな?二階まで差し掛かると、誰かの足音がした…廊下の方から舞さんの姿が見えた。
「あ、舞さん…居ると思いました」
「……」
「お腹空いてると思いましたので……」
 それを聞くと舞さんはこくりと頷いて、俺の持っていたコンビニの袋を見ていた。
「肉まんです。あ…少し冷めたな…でも中は暖かいですよ…」
「……」
 あれ?舞さん、肉まん差し出しても無反応で、それをジーっと見ている。
「あの、違う奴が良かったかな?」
「…食べさせて」
 え?ああ、剣を両手持ちしてるから…離さなせないんだな…でも食べさせるとなると何だか気が引ける。
「……は、はい…口開けてください」
 つまりあーんの状態になれと言ってるのだ、何だか凄く可愛く見えるな。
「はむ……」
 舞さんの小ぶりな口が俺の手にあった肉まんにかぶりついた。何だか本当に気が引けるな…幻想的な雰囲気が似合うけど俺がぶち壊してるようで…
「…ま、いいか…」
舞さんがよければ…
それにしても、俺が居て…舞さんはいいのかな…邪魔だったら俺も、これから先は魔物の戦いには出ないが…だからといって、舞さんに怪我でもさせられたら…義弟としては不出来であろう、だからこうして救急箱に包帯を持ってきているんだし…
「……」
 まあ、舞さんと居れば、彼女の方も自然に俺が義弟だと言うことが、わかるはずさ。
「舞さんお茶もありますから…でもお茶は、片手でも飲めますから…あけるのは俺か…」
「……」
 不思議だ、舞さんと居ると自然と口から声が出る、そりゃ舞さんって無口だから場の雰囲気もあるだろうし、静かだ…だけど、本音は…せっかく再会した姉と話がしたかったからか?
「…舞さん、俺…舞さんと話がしたいです…ここで会ったのも何かの縁ですし」
「……」
「偶然じゃない、なんて言葉…舞さんピンと来ないと思いますが、何となく俺はそう思うんですよ……」
 昨日の夜、舞さんとであった事を偶然と片付けること奇跡的なことだろう…
「…よく、解らない」
「その内、解る時が来ますよ…」
 舞さんはそう言い、俺のほうを見た…なんだか、吸い込まれそうな…不思議な感覚が蘇ってくる。
「陽介は…」
 舞さんから俺の名が呼ばれる…初めて俺の名が口から出た…
「はい?」
「なんでもない…」
 何かを聞こうとしたようだが、舞さんは口ごもってそう言った。
「気になります…でも、話し難いのであれば、無理には聞きません…魔物の事もね…」
「……ありがとう」
「礼には及びませんよ…年下ですし…」
 でも、これから舞さんと過ごす時間が多くなっていくのは確かだ、だから…色々話がしたいんだ。自分のことや、佐祐理さんの事も…
 佐祐理さんとは付き合いはどれくらいなんだろう…不意に少し、佐祐理さんの笑顔を思い出した、舞さんと過ごすとなると…自動的に佐祐理さんとも会うんだよな…
 また緊張してきた…でも、俺は舞さんに佐祐理さん、二人の相反する先輩にとってどんな存在となるのか、俺が居て彼女達の仲に割り込む程野暮ではない…
 やはり時がなせる業と言ったほうがいいな…彼女達と、一緒に過ごすなら…
 佐祐理さんって、今の舞さんの姿を知ってるのかな……いや、知っていたら彼女もここに居るはずに決まっている。と言う事は、あの噂も…流石の佐祐理さんでも、そこまでは知って居るだろう。
 それが、彼女がもし本当の事を知ったら……いや、考えるな…
「今日は、来ない……」
 魔物はもう来ないという事か…それを知ると、俺はごみを纏めて…かえる支度をした。
「あ、良かったです。それでは俺はこれで…舞さんも気をつけて帰ってくださいよ」
 お父さんが子供を見送るような口ぶりで舞さんに言うと、こくりと頷いてくれた。俺はそういう事で、帰る事にした…

 もう一度、学校を振り返ってみる…舞さん、まだ居るのかな……俺だけ帰ってよかったのか…と少し心配になってくるが、舞さんだきっと大丈夫に違いないと言う自分も居た。

 感情移入か…生徒会の俺がここまで、惹かれていくのはなぜか解らない、先行き不安だが、二人の先輩に関わってしまったからには…俺は最後まで付き合う事にしよう。

 そうでないと…俺は…

続く。

 後書き
 さて、この話の主力となってくる舞さんと佐祐理さんのはじめてのカラミティ!(爆)これで陽介君を介して、舞さんと名雪ちゃんの意外なる血縁関係が浮んでくるでしょ…
 舞さんが生まれた切欠は、黒狼第2部本編でお探しください…
舞「……」(黒狼読んでる…)
ドス!
 ぐは!…た、確か…黒狼の時も同じような事が……がく…
舞「お母さんが殺されかけてる……」
 ま…まもったじゃん…がく…

では〜

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