―――光が満ちている。

オートパイロットで駆動するアールガンのコクピットでクォヴレーは夢を見ていた。

巨人が、7つの光が、闇を吹き払う夢を。

闇を吹き払い消えた七つの光を彼は忘れまいと思った。

それが夢という時空にあっては不可能に近いことと悟りながら。

夢は覚める。

目的とする空間は後少し。

低空を飛行する人型の機械は全てを見通すかのように流れていった。



…クォヴレーが夢を見ている今からさかのぼること一週間前。

世界は共通暦100年を迎えていた。

この時代、憎しみや争い事は減り、自然はその美しさを取り戻そうとしている。

この地球に生きるすべての者の願い「平和」がようやく叶えられようとしていた。

だがかつての[混乱の時代]の如く、再びその裏で、その影でうごめくものたちが現れだしたことに危機を覚えた人類は…

一つの影が大気を切り裂いて大地を侵す。

人はそれを流星と見たろう。

だが、それはある事実を示していた。

地面に辿りつき、赤黒い光を放つその闇は…大異変が始まったことを我々に知らせていた。

かつての「混乱の時代」の如く、再び混乱の兆候が世界に現れだした。

民間人が不可能な方法で殺害される事件が相次ぎ、地震が絶えない。

これを再びの危機襲来と捉えた各国は国際連合、TDF(地球防衛軍)を再編しTPC(地球平和連合)を結成した。

TDF自体が、共通暦80年以降出現しなくなった怪獣、異星人たちのこともあり形骸化していたのも、この審議を国連安保理が推し進める原因ともなっただろう。

兎に角、人々は新しいイージスの盾を欲していた。

ハルパーの鎌はもう要らない。

それは過剰防衛によって幾つかの星の生命を滅ぼしてしまった過去への反省でもあった。

国際連合はその権限のうち、地球防衛と自然保護に関する業務をTPCに移管し、TDFはその残存戦力全てをTPCへ移管することでそれは結成された。

…本部は東京湾に浮かぶ電子の城砦ダイブハンガー。

新たな世界の守り手である。

そのダイブハンガーから一騎の主翼が空に駆ける。

壮大な航空基地でもあるそれから吐き出された金の翼は、北へと進路を向けてただひたすらに航り始めた。


―――モンゴル平原

地面が歪む、大地が割れる。

地底から巨大な物体が現れる。

それは、怪獣。

最初の怪獣「G」の出現が確認されて以来51年。

共通暦80年までの31年間、ほぼ間断なく人類は怪獣たちの襲撃におびえながら暮らしてきた。

理由はわからないが、80年代初頭のその頃から突然怪獣たちも、そしてそれに乗じるかのように侵攻してきた異星人、異次元人、そして暗黒組織たちも消えてしまった。

消えてしまった怪獣たちに脅威を抱きながらも、人類はその牙を研いではいない。

それが凶と知りつつ、今日かも知れぬとおびえて暮らしてきた。

だが、恐れた事態はついに来たのだ。

『キャァァーーー』

空気を切り裂く甲高い叫びが夕日の平原に満ちる。

姿は筋肉質な体と鋭角的な角が印象的だ。

ゆっくりと立ち上がったそれは目の前の小さなものたちを、我々の眼から見ればそれは民家であるが、それを叩き潰さんとただ前へと進んでいた。

金の翼が一騎、そこへ現れる。

それに搭乗しているの男女が一組あった。

「ダイゴ、なによ…あれ、怪獣でしょう?!」

「すげえ!まさか、本当に現れるなんて…!」

二人の声は驚きに満ちている。

旋回して様子を見る彼らは、驚きを怪獣の動きに気づくことでなし崩しにして、冷静に状況を見始めた。

「怪獣が民家に向かっているわ!」

「…今のGUTSウィングは非武装だ…信号弾で威嚇しよう!」

機体が横滑りし、瞬時に金の翼…GUTSウィングは彼の怪獣の前に出る。

どうやらV-STOL機能がついているのか、まるでヘリコプターのように空中で静止している。

そこから低空を滑空し、両脇に抱えた信号弾が燈を放った。

しかし、やはりそれは単なる信号弾。

ほとんど無意味に終わる。

だが、その隙に鼻面を掠めてGUTSウィングが煙を吹き散らすと、まるでそれを嫌がるかのように怪獣は声を上げた。

…その目に映ったものは何か。

それは、それは、金の翼の後ろの座席に乗る、冴え冴えとした風貌を持ちながらも普通の印象をぬぐえない青年。

彼を見るなり、怪獣は地面に再び穴を開け、そして消えていったのだ。

それを見届けると、GUTSウィングもまた母島の元へと帰島する。

…すべては始まったのだ。


そして、今…

TPCの現在の主な業務は、原因不明の怪現象や自然現象から地球人類を守護することである。

国連の一部…ユニセフや赤十字といった団体やTDFが母体であるためその活動は全世界に及ぶ。

さらに旧式化しているとはいえTDFの軍備を引き継いでいるため、ほとんどの国家はTPCを無視して軍事行動を行うことが出来ない。

各国に独立した支部と研究機関を持ち、さらに月面基地ガロワ、宇宙ステーションVシリーズ、デルタなどを保有する。

それらを束ねる本部が日本、東京湾に浮かんでいるのは理由がある。

「混乱の時代」、もっとも被害をこうむり、かつ事態を解決してきたのは日本に設立された研究施設や特捜チームであった。

加えて、現在では最重要機密事項の一つに数えられているある存在が最も多く現れた場所でもある。

そこに本部を置かねばならない、という意見に同調したのはアメリカ、中国、ロシアなどのいわゆる大国たちだ。

どうせ敵は日本を狙う。

なら日本に戦力を集中せねばならないと、皆が考えた結果でもある。

その中でもGUTS=Global Unlimited Task Squadは科学特捜隊の流れを強く汲む超常現象専門の調査チームだ。

残念ながら、調査機関であるという位置づけからライドメカは非武装のものも多い。

だが、それを補って余りある隊長イルマ=メグミの指導力と各個の高い能力から、現在の地球でもっとも力を持つ部隊のひとつと考えられている。

メンバーは七人。

まずはイルマ=メグミ隊長。

チームを束ねる優秀なキャリアウーマンであり、冷静沈着な頭脳から生まれる指導力、統率力は既に参謀レベルだといわれている。

次にムナカタ=セイイチ副隊長は、リーダーという愛称からもわかるように前線での指揮を主に行う実戦派の男で、イルマ隊長同様冷静さを売りにしている。

ホリイ=マサミ隊員。チームの知恵袋であり、小太りな体から発散される知性は他に追随を許さない、関西出身の気の良い男である。

知恵袋といえば、チーム最年少、18歳のヤズミ=ジュン隊員のことを忘れてはいけない。

開発能力、新奇性ではホリイに劣るが、分析と既存の技術を発展させることでは、彼が勝っている。

シンジョウ=テツオ隊員は射撃の名手で、同じく実戦派でありながら前に出る荒々しい戦いを得意としている。

しかし、チームで一番荒々しいのはこの娘であろう。

ヤナセ=レナ隊員はオペレーティングと実機操縦、どちらもこなす有能な女性だ。

そして、最後に…

マドカ=ダイゴ隊員。

彼は元々輸送部員であったが、TPC総監サワイによって見出された男である。

抜擢に見合った仕事をしようとして、へまをすることも多い。

…そうして1人、2人とダイブハンガーの中枢部に位置するGUTS司令室にメンバーが集まってきた。

その空間には…一つの物体がおいてあった。

それはまさしく、あの謎の隕石…

隕石をレーザーナイフでがりがりと削る音が響いていた。

それを見守る隊員たちも、どこか緊張した面持ちである。

「天然の隕石じゃない…作られたものよ」

白衣を着た女性が、なんでもないことのように言った。

「えっ!?」

ホリイが驚愕の声を上げる暇も有らばこそ、シンジョウとダイゴはその隕石につけられた傷からそれを開いた。

中から現れたのは、銀色の平べったい三角柱。

どこかダイブハンガーにも似ている三角柱が現れた。

分析担当のヤズミ以外が隕石に集まってそれを凝視する。

「レナ、触ったらアカン!」

三角柱のオーパーツに触れようとしたレナをホリイがたしなめる。

不思議な気分で皆がそれを眺めていた。

「もしかしたら、例のオーパーツと関連性があるかも…」

「宇宙から、ですよ?ありえませんて」

白衣の女性の言葉に、ホリイがそういって笑う。

ダイゴはそれを見つめながら、どこか不可思議な既視感を感じていた。

とたん、暗転した。

世界が暗転する、司令室に闇が訪れる。

皆がざわめく中、オーパーツはひとりでにその目を開き、光を放った。

ボウ、と光が揺らめく。

そして、そこには、光の中には1人の女性が立っていた。

短髪のレナよりも髪は長く、イルマよりは短い。

背は低く、高齢のその女性はゆっくりとこちらを振り向いた。

「―――ホログラム?」

イルマが、いや全員が目を見張る。

それは現代の技術をはるかに超えたものだ。

「なんか言うとる…サウンドトランスレータで訳せるかもしれへんで?」

ホリイは足元から小さな端末を取り出してそれをヤズミとともに操作する。

画面には、小さな明滅と波形の揺らめきが映し出された。

それが一つの波形となると、この声は…オーパーツの女性が放つその声は響き始めた。

『私は…地球星警備団の団長ユザレ…」

ゆっくりと彼女は言葉をつむぐ。

『このタイムカプセルが地球に届いたということは…大異変が相次いで地球に起こるということ…冥王星の使者が時間も空間も越えて現れるということ…その兆しとして、大地を揺るがす怪獣ゴルザと空を切り裂く怪獣メルバが復活します…』

淡々としたその声が…響く。

「ゴルザだ!モンゴルに現れた怪獣は、ゴルザって言うんだ!」

ダイゴがどこか憎しみすら込めてそう言う。

その言葉に呼応するように、ユザレも言葉をつむいだ。

『大異変から地球を守れるのは、ティガの巨人だけです…かつて地球上の守り神だった巨人は、戦いに用いた体をティガのピラミッドに残し、本来の光に戻ると星雲へ帰っていきました』

ユザレの声はあくまでも事実だけを伝える響きがあり、それに誰も何もいえない、そんな力があると思わせた。

『我が末裔たちよ…巨人を復活させ、ゴルザとメルバを倒すのです。巨人を復活させる方法はただ一つ…』

その言葉は、深く染み入る。

だけれども、その言葉を最後にユザレはかすかなノイズを残し、消え去った。

…闇は晴れ、部屋に光が戻る。

かすかな落胆を残して。

「どう思いますか、カシムラ博士?」

「超古代のタイムカプセルね…異星人のいたずらにしては、手が込んでるなぁ?」

イルマの質問を前に、白衣の女性はそういうと笑った。

「いや、本物ですよ!ゴルザが現れることまで、ぴったり言い当てている!」

ダイゴは…そう、なぜか熱に浮かされたようにそう叫んだ。

「しかしだ、もう現れてはいないとはいえ、過去にはたくさんの怪獣たちが現れていた。あれがゴルザとは限らん」

ムナカタは沈思を湛えた顔つきでそういうと、黙考を続ける。

「しかし!そのうちメルバも!」

「あのね、ダイゴ隊員?これを認めるということは、過去に人類よりも優れた文明があったことを認めるということよ?それがどういうことか、判る?」

皆がはっとした。

それは、過去にウルトラ警備隊が行った…ある一つの蛮行を示す反応だ。

GUTS…そして、参謀以上のTPC関係者しか公式には知らないことになっている事件…

ダイゴはその躊躇いに従って、ただ諾々と沈黙に帰った…


ぱしゅ

沈黙を続ける司令室に扉を開ける音が響いた。

隕石の外表の分析を続けていたホリイとカシムラ博士だ。

「結論から言うわ。カプセルの周りを覆っていた隕石の放射性元素を調べたの。この隕石は紀元前約25万世紀から38万世紀の間の地層で形成されている」

「およそ3000万年前や。新生代第三期漸新世…まぁ、人類が地球上に現れるはるか昔に作られたちゅーこっちゃな。こりゃ、本気で異星人の再来かも知れへんで?」

カーボン製の台に乗った隕石を見つめながら、ホリイはそういって笑った。

まぁ、笑うほどの洒落で済む事態だと考えていないことは、その頬を伝う汗が示していた。

「そんな…」

レナが信じられないといった目でそれを見た。

ピィピィピィピィピィ

その時だった。

司令室のモニタに写っていた風景に近い衛星画像が、正式な地図に変換される。

そして、警告が示されたその場所は、南アメリカはイースター島である。

通信が入った。

『イースター島に怪獣出現!レーザーカメラの映像を送ります!』

現地のTPC職員が張り詰めた表情でそういった。

後ろでは、報告が混乱しているのか、何人もの職員が走り回っている。

映像が切り替わると、そこに写っていたのはモアイの丘を切り崩して出現した、ナイフを思わせる怪獣の姿だった。

『キィァァァァァッ!』

ゴルザに良く似た癇に障る声が響く。

「メルバだ!」

ダイゴが叫ぶ。

「空を切り裂く怪獣メルバ…」

「一体何が起こっているというんだ…!」

ムナカタの絞り出すような声に、ダイゴはこたえる。

相変わらず、まるで熱に浮かされたように、ダイゴの言葉は確信的だ。

「世界に異変が起こっているんですよ!…ユザレは正しかった。タイムカプセルは本物です!ゴルザ、メルバ…先年のグランドクロス以来軌道を外れた冥王星…後はティガの巨人だけなんです!」

「ティガの巨人…ティガって、どこ?」

思いつめたようにイルマへ振り向くダイゴの言葉に、彼女は言った。

「―――ティガ…ティガ、インドネシア語で3…?」

ヤズミがぶつぶつとつぶやく。

やがて、ヤズミは確信を持ったように叫んだ。

「ありますよ、ティガ!」

その言葉に、誰もがぎょっとしたのだった。


―――東北

「調査の結果か…東北にピラミッドがあるという伝説は聞いていたがな」

クォヴレーは1人そうつぶやくと、アールガンのコクピットを降りた。

新緑の季節、風が心地よい。

「GUTSも行動を開始しているはずだ。人間相手なら彼らでも戦えるが…」

少しの焦りがあった。

ネオバディムは、アンドロイド兵、ロボット兵を使った本格的な大規模テロ組織である。

通常の兵士も、バルシェム、バディム兵と呼ばれる人間ではない代物である。

「ふむ、迅速に行動し、真偽を確かめなければならないな」

クォヴレーはそう漏らすと、新緑を踏み荒らしながら奥地へと進んでいった。

どこまでも深い森。

日本とは思えない、どこか作られた印象すら覚えるその聖なる森を歩き続ける。

歩きながら、目の前の草を切り、前へ前へ。

…ふと、吊り橋が見えた。

「…いくか」

そう言った瞬間、上空を金の翼が…GUTSウィング1号、2号が通り過ぎていった。

「…来たか」

先へと歩く、先へと。

そうして、数時間後…


「各員、気をつけろ。各々連絡を取っていけ」

GUTSウィング2号のコクピットからムナカタは指示を発していた。

果たして鬼が出るか蛇が出るか判らない。

コンソールにはダイゴら、イルマ以外のGUTS隊員の動きが衛星からの映像として映し出されていた。

『本部より二号機へ、本部より二号機へ』

…通信機からイルマの声が届いたのはそのときの事だ。

「はい、こちらムナカタ」

『メルバが動き出したわ』

…!

声にならない声が上がる。

ムナカタの脳裏にははっきりと、メルバが空へと飛び立った姿がイメージされていた。


―――つり橋?

ダイゴははっとした。

慎重に行かなければと思い、足を運ぶのを躊躇させる。

だが

『ダイゴ…』

声が聞こえる。

『ダイゴ…』

呼ぶ声が。

それは遠く、近く、誘うように。

『ダイゴ…』

その声に従い前に進むと、そこには…

黄金に輝く光の四角柱があったのだ…


「だからぁ、んな怪獣並みの巨人を入れられるピラミッドなんてあったら、衛星カメラで捉えられてるッちゅーに!」

腰を打ったのか、ホリイはぼやきながら歩いている。

「ダイゴ、大丈夫かな…」

レナは、先行しているはずのダイゴを思い、シンジョウもまた無茶をしていないかを心配していた。

そうして、ダイゴが向かったつり橋の辺りまでたどり着く…と…

「ダイゴ!」

そこには、翼を持つ異形に狙われている、ダイゴがいた。

「アカン!行くな!!」

三人の目に映るは異形、ダイゴ、そして光のピラミッド…


「危ない!」

クォヴレーは跳躍し、その手のなかの拳銃を上空の異形へ向けてはなった。

「バディム兵!」

無音で浮き続けるそれは、拳銃の一撃で大地に堕ち、煙を噴き上げる。

彼の使っている拳銃はどうやら普通とは違うらしい。

「大丈夫か、あんた!」

クォヴレーはぼうっとした表情で、突然現れたピラミッドを見つめるダイゴを助け起こした。

「これは一体なんなんだ…くそ、おい行くぞ!」

ダイゴの手を引っ張り、クォヴレーはピラミッドへと走った。

GUTSの隊員たちはついてきているか。

それを確認しながら、ひたすら呆けているダイゴを引っ張り、時には引っ張られながら森の奥地へと進んでいく。

気づけば、光のピラミッドは目の前にあった…


同じ頃、メルバは音速の数倍で日本へと接近し、ゴルザもまた市街地に出現していた。

20年ぶりの怪獣出現に、人々は戸惑っていた。

そして、信じているものもいた。

かつて、現れた銀河からの救世主の再臨を。

テレビではゴルザ、メルバの出現を告げる報道が流れていた。

不吉なほどに、風が強かった。

その風が、良きものを運んでくれると信じているものも、いたのだ。


周辺には散発的にロボット兵が潜んでいた。

それらは、隙さえつければ人間でも撃退できる程度の強さでしかなかったが、それでもGUTSの隊員には脅威だった。

「くそッ!」

そうこうしているうちにムナカタが追いついてきた。

「何をしているんだ!ダイゴ!もどれぇ!!」

「ダイゴぉー!」

皆が呼ぶのを無視して、そして腕をつかんでいるクォヴレーのことも忘れて。

ダイゴはただひたすらにピラミッドへ向かっていった。

「くっ!お前…」

いつの間にか、直前にあるそのピラミッドは、まるで質量などないかのようにダイゴを、クォヴレーを飲み込む。

「おい!」

レナたちが追いつくも、光は消え、金の壁が立ちふさがるのみ。

ダイゴたちが通り抜けたのを確認すると、彼女らもまた壁を抜けてピラミッドの内部へと入っていた。

そこには、真剣な表情で石像を…巨大なる石像を見つめるダイゴと、驚愕のまま固まるクォヴレーがいた。

彼らに駆け寄り、ムナカタは開口一番「お前は正しかった…まさか」と漏らす。

その言葉をクォヴレーが継いで言った。

「光の巨人…ウルトラマンだと…!」

聳え立つ三体の巨人が彼らを見据えていた。

ダイゴは彼らに近づくと、真ん中にいた巨人の足に触れた。

暖かかった。

クォヴレーも、レナたちもその光景をじっと見守っていた。


同時刻

GUTS司令室には警告音が鳴り響いていた。

モニタにはゴルザとメルバがはっきりとティガのピラミッドを目指していることが判る光点が混じっていた。

「大変だわ!何とかノイズ部分に修正を入れて、ティガの巨人を復活させないと!」

「はい!」

イルマの焦りが空を切った。

…その時、かすかに、かすかにだけれども。

この光景をいつか、見た気がしたのだ。


ユザレの予言どおり、復活した二怪獣、ゴルザとメルバは申し合わせたかのようにティガのピラミッドを目指して突き進んでいた。

「わかりました。で、どうします?」

『ダイナマイト輸送機がそちらに向かっているわ。あなた方はすぐにそこから離れて!』

「了解。偵察して方位陣形を配備します」

イルマの通信を受けて、ムナカタは断を下そうとしていた。

後ろではダイゴが駆け寄ってきている。

「…ここを撤退する!ゴルザとメルバがすぐそこまで来ている」

「巨人は!?巨人はどうするんですか!?巨人を蘇らせる方法は!?」

沈痛な面持ちのダイゴに、ムナカタは冷静に「進路を上手く変更できんそうだ。やむを得ん」と言った。

「待ってくれ、俺が行く」

「そういえば、お前は誰だ?」

口を出したクォヴレーにシンジョウは聞いた。

明らかな不審とともに。

「気にしている場合か?お前たちはほぼ非武装、そして俺には反撃の手段がある。なら考えることはない」

酷く冷たい声で、だが全身から脂汗を流し、荒い息をつく。

「あっ!?お前どこへ!?」

「コール!アールガン!!」

そして、クォヴレーだけがピラミッドの外へと走り出した。

それを…どこか別世界のことのように見つめている…ダイゴは…自らの構成要素が全てばらばらになっていくような感覚を得ていた。

「う…うわあああああぁぁぁぁぁぁっ!!!」

ダイゴはその感覚から逃げるために走り出した。

それを追って、他の隊員たちも…

巨人の目が、見つめている…


コールコマンドによってアールガンを呼び戻したクォヴレーは1人怪獣と戦っていた。

「ダブルファイア!」

アールガンの持つ、ツインマグナライフルが火を噴いた。

目の前には三倍以上の身長を持つゴルザが吼えている。

アールガンの攻撃のほとんどは、意味を成してはいなかった。

まるで、巨人に恨みを持っているかのように、ゴルザは歩き続けている。

「くっ!スラッシュブーメラン!!」

アールガンの兵装のなかでもっとも強力なものが発射された。

それは狙い違わず、足を切り裂く。

だが、それすら無意味。

怪獣の足を止めるには至らない。

「くそっ!いい気になりやがって!」

ようやく飛び立ったGUTSウィング2号の中でシンジョウが毒づく。

『ギャァァァァァッ!』

ゴルザは声を高らかに、まるで戦勝宣言。

額から光線を放ち、ゴルザは目の前のピラミッドを破壊、いや分解していく。

中から、荘厳な面持ちの巨人が三体現れた。

巨人は沈黙を続ける。

そして、分解された黄金のピラミッドが形作る、金の流れを見つけ出したかのように…

ナイフのような翼を持つ怪獣、空を切り裂く怪獣メルバが現れた!

「進退窮まったか…ぐっ!?」

ゴォン!!

強力な爪が、アールガンを弾き飛ばし、その勢いを忘れぬままに左側にいた巨人を砕いた。

メルバもまた、巨人を砕かんとその牙でその爪で右側にいた巨人に食って掛かる。

腕を砕かれ、頭を破壊され、二対の巨人像は破壊されてしまった。

残るは、中心にいた巨人のみ。

その時、森の中からGUTSウィング1号が飛び立った!

「ダイゴ!?」

レナの声が響く。

同時にゴルザは彼を…残った最後の巨人を倒した。

まだ破壊されてはいない、だが…

「やめろぉぉぉぉっ!?」

叫んだ、破壊されんとする救世主の像のために。

「無駄だ!やめろッ!」

エマージェンシーコールが鳴るそのコクピットでクォヴレーは叫んだ。

ダイゴは信号弾を立て続けに放ち、レナがモンゴル平原で行ったように、怪獣たちの鼻面を掠めて飛ぶ。

だが

『キシャァァァァッ!』

メルバの放った朱い光弾が翼の動力を破壊した!

「うわッ!?」

ダイゴの悲鳴がコクピットに響いた。

「脱出しろ、ダイゴッ!」

ムナカタが叫ぶ、その叫びはむなしく。

「無理です!故障しました!」

「なんだと…ダイゴーーーーー!!」

シンジョウの、ホリイの叫びが、レナの声にならぬ慟哭がGUTSウィング2号のコクピットに響き渡る。

「ゴホッ!ゴホォッ!」

近代兵器の炎上は、それそのものが死を意味する。

ハイテクオブジェクトの加熱により発生する有毒ガスは致死性のものが多いからである。

まさに死に瀕した脳でダイゴの心は澄んでいた。

―――一つの気がかりだけを残して。

その時、ユザレが…目の前に現れた。

くっきりとした映像が。

光の檻の前にいる自分とともに。

―――巨人を蘇らせる方法はただ一つ…それは、ダイゴが光となること…

―――ダイゴ…やがてウルトラマンティガとなるもの…

――君は、プログラムじゃないのか?

―――私はプログラム…光を導くための…

―――ダイゴ…やがてウルトラマンとなるもの…

―――あなたには古代の英雄戦士の遺伝子情報がインプットされている…

――僕は…ウルトラマンなんかじゃない!

―――いいえ、貴方はウルトラマンになる…そのスパークレンスこそが…

その手には既に…光り輝く飾り杖が握られていた。

――ひとつ答えてくれ…人の意識に介入するほどの技術を持ちながら、何故君たちは消えてしまった?

―――あるものは滅び…あるものは新天地を目指して去っていった…

――何人もの巨人がいたのに、君たちを守ることはできなかったと言うのか?!

―――巨人は光…人類の選択にまでは干渉しない…

―――でも、ダイゴは違う。

――違う?

―――貴方は光であり、人。人であり光であるもの…

その言葉が体をかけて…

そして、その肉体は…


機体から光が飛び出る。

その光は、巨人の胸に宿り、額に秘められる。

キラキラと光り輝き、そして…

ゴルザはそんな巨人にとどめを刺そうと、彼に近づいていった。

だが…!

その腕は色を取り戻し、叩きおろされたゴルザの足を弾き返す。

『タァッ!』

その胸には光のストライブ。

その体は、銀。

そして、模様は…赤と蒼。

「ひか…ウルトラマン!」

クォヴレーは機体を何とか復旧させようと努力しながら、そう叫んだ。

レナも「巨人が…ウルトラマンが蘇りました!」と叫ぶ。

「でも、どうやって?」

シンジョウのつぶやきも有らばこそ。

巨人はその体をゴルザに向けた。

…GUTSウィング1号が墜落しようとしたとき、間一髪のところで、ダイゴ隊員は光となり巨人の体内にあふれた。

巨人はダイゴの光を得ることでその力を、光を取り戻したのである。

巨人はその俊敏そうな肉体をゴルザに向け、胸に強力な蹴りを食らわした。

ヘッドロックを噛まし、更に襲ってくるメルバの胸も蹴り飛ばす。

『キゥアアアアアッ!』

巨人が蹴り飛ばした隙に、ヘッドロックをはずしたゴルザはティガに爪で攻撃し、次いで光線を放った。

連続して加えられるそれに、巨人はばく転を繰り返し、またメルバが赤色の光弾を放てばそれをバリアで弾き返した。

『テァッ!?』

連続する光線がついに巨人の体に食い込んだ。

その隙に近づいてきたメルバが、そのナイフのような体で切りつけてきた。

『シャッ!?』

巨人はひざをつき、それでも立ち上がろうと目の前に手を持ってきて…

いや、「立ち上がる」のではない。

それは「反撃」のための準備。

『ツァッ!』

青の模様が反転する。

気づく暇も有らばこそ、彼の体色は赤一色になっていた。

『ダァッ!』

メルバを吹き飛ばし、そしてゴルザにタックルを加える。

さらに彼はブリーカーホールドをゴルザに与え、ギリギリと締め上げた。

更にそこから首投げに転じ、彼はゴルザを頭から地面に叩きつける。

だが、メルバの奇襲が更なる追撃を妨害した。

『デュァッ!』

大振りな蹴りは、だがメルバの俊敏な肉体に食い込むことはなく、メルバは空へと逃れる。

と、その時である。

クォヴレーの機体が復旧したのだ。

「残念だが、俺ではお前たちは倒せん!だがっ!」

アールガンの手に握られていた一本の剣、ビームカタールソードがメルバに三毛手投げられる。

『ギシャァァァァァァツ!』

それは一瞬、メルバの動きを止めた。

それで十分だった。

『ハァァァァァァ…ハッ!』

巨人は両の手を示すように腰の脇にかざす。

まるで炎を玉のように胸の前で集め、それを放つ!

地中へ逃れようとするゴルザの背中に、赤い巨人の放った光の濁流…光流が着弾した!

ドォォォォォォォォンッ!

光がはじけ、その後には何も残ってはいなかった。

ピコンピコンピコンピコンピコン…

その時、胸の光球が点滅を始めた。

相棒を殺されたのがにくいのか、メルバは更に彼を、巨人に追撃をかけようとする。

だが…

『タッ!』

巨人は額から青い光を放つと、その姿を全身青に変えて!

『シェアッ!』

気合一閃、その俊敏に放たれたとび蹴りがメルバを叩き落す。

叫び声を上げ、立ち上がるメルバに、巨人は追撃をかけた。

両手をまっすぐに開き、胸の前に風のような光が集まる。

そして、その光を腰溜めに貯めて、光弾として放った!

ガスッ!

カッ!

叫び声をあげる暇もなく、光弾を食らったメルバは四散した。

それを見届けると、巨人は空を見上げそして…

『テァッ!』

飛んでいく、飛んでいく。

空の彼方へと飛んで行った…

「…ダイゴ…」

あっけにとられる隊員たちと、炎に消えた男を思う言葉を残して…

「…あれ、見ろ!ダイゴや!」

ホリイが叫ぶ。

そこには、『おーい』と言いながら沢を駆けているダイゴの姿があった。


「一体、どうしたんだ?」

「いえ、脱出レバーが故障しまして!」

ムナカタの言葉に、楽しげにダイゴが答える。

その表情に、陰りはない。

ユザレの言葉が心に刺さる。

だが、一つだけ判ったことがある。

それは、自分が光であり、人であるものになったこと。

「運のいいヤツだ!」

ムナカタが彼の胸を叩く。

笑い声が絶えない。

「ところで、君は?」

追いついてきたクォヴレーの顔をシンジョウが見た。

不審の色は薄い。

戦闘に協力してくれたからかもしれない。

「俺は…TPCの特別諜報員だ。アメリカ軍にも所属しているが」

「そうか、身分等については、後できちんと説明してもらうとしてだ。とりあえずそのPTをうちで修理しないか?当てはないんだろう?」

「まぁな…これはもう骨董品もいいところだ」

「決まりだな。じゃぁ、行くか!」

ムナカタの強引だが的確な申し出にクォヴレーは一も二もなく頷いた。

そして、気づく。

バディム兵の残骸が軒並み消えていることに。

だが、それはいつものことだろうと、さして気にも留めずに彼は歩き出した。

やがて、つぶやく。

「ウルトラマン…さしずめ、ティガか」

彼の名前を、巨人の名を。

見覚えのない、しかしきっと似た存在を見たことがある。

それを不思議に思いながら。

ダイゴもまた巨人の名をつぶやいた。

「ウルトラマンティガ…!」

それは巨大な異変の始まり。

時空を超えた決戦の幕開けであった。


―――詰まらぬ…贄が足らぬ…

――今しばしお待ちください、我が主…

「光を継ぐもの」 終
Next Epsode...「悪魔の預言」




次回予告
悪魔の預言…それは人を狂わせる…
はたして、全てを救う権利が、神にも、悪魔にもあるのだろうか…
まして人には…
次回、『悪魔の預言』



あとがき

きゅーんきゅーん、ドキガムネムネ。

今年は特撮映画熱すぎですのココロよ

ではまた。

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