―――朱の装束を纏った男が町を行く。

和服の男。

しかも、鮮やかな朱色の着物を着ている男が目立たないわけはない。

顔つきもまた、異常。

人並み以上の、目鼻立ちをしていながら。

細めた眼は蒼く。

冷酷な暖かさ。

そう表現すべきものが浮かんでいた。

口端には笑み。

全てを嘲笑し、慈しむ矛盾の笑み。

繁華街を歩く異様な姿が捕らえたのは、死の気配。

歩むその姿が目指すところはどこか。

―――さて、今宵の物語を語ろう。


不死眼、死眼しなずめ しなめ
第一部 模造起源
1/X 模造幻視


/瀬尾晶・T

―――さて、どこから話せばよいのか。

私、瀬尾晶はその日、アーネンエルベという・・・まぁ、いきつけの喫茶店へと歩を進めていた。

どうってコトない日。

遠野先輩は冬休みで実家に帰ってたし、ほかの先輩方や友人連中も軒並み実家へ帰省していた。

まぁ、私はというと、クリスマスも終わったしソロソロ帰ろうかな、志貴さんにもプレゼント渡したし、もらえたし、言うことなしだ。

そんなことを考えていた。

そうして、なぜかふと遠く街へと出たくなって、私は街へ出たのである。

特に意味はなくて、もしかしたら志貴さんと会えるからで、でも意味はなくて、意味は有ったような気がする。

―――でも、やっぱりどうってことなくて。

そういえば、一年前に志貴さんとはじめてであったのも、こんな日だったと思った。

あの時は、いろいろあって、偽者さんが逮捕されて、志貴さんがお蕎麦をおごってくれて終わった。

そんなことが、また今年もあったらなぁ・・・と思って出てきたのかもしれない。

一人でウィンドウショッピング、一人で映画・・・

とってもつまらない。

と、そんな時だった。

―――来た。

それは、幻視。

先を見る、力。

私の脳は、どこか変なところにつながっていて、そこから未来の有り得べき姿を形作る。

―――赤い男の人。

――――紅い男の人。

うん、剣戟。―――剣戟?

響く剣閃、視界を揺らす。

耳いっぱいに、剣の音。

私の未来視は映像が見えるわけじゃなくて、言語が記憶される感じだ。

と言うより、たぶん映像が記憶されないし、見たって自覚もない。

なのに、今日のは情報量が多すぎるせいなのか、ハッキリ像を結ぶ。

撃ち響く剣の嵐。

金の人と赤の人、そして紅の人と黒の人。

空の剣を打ち合って。

それをかいくぐって・・・

――――その嵐をすり抜けて、黒の人に肉薄する人・・・

ま、さ、か・・・

志貴・・・さん・・・?

そう思った時、いつもとはもう完全に、完璧に、ありえないほど、どうしようもない、認めたくない、消えてしまいたいくらい違うくらいはっきりとした幻視が脳に叩き込まれる。

そうして、私は気を失った。



/七夜志貴・T

―――それは見覚えのある女の子。

さて、アレの記憶から少女の記憶を引っ張り出す。

ああ、アレは瀬尾晶。

義妹の友人で、アレとも友人。

先日も、クリスマスプレゼントを戴き、その返礼もした。

―――赤くなっている姿が少し印象的。

アレは、犬か何かのようだ、と想じていたようだ。

はて、好意を抱かれているのは明白なのに、まったく気づいていない我が分身を少し憐れんで・・・

そして、地面に倒れ掛かる瀬尾晶を抱きとめた。

「―――大丈夫かい?」

まるでアレのように、俺は呟く。

とはいえ、聞こえてはいなさそうだ。

完全に気を失っている。

脈拍、動悸、呼吸、瞳孔。

とりあえず、知るだけの生命確認手段を用いて、彼女の無事を確認する。

どうやら無事のようだ。

しかし、こうして放っておくのもなんだろう。

そう思った俺は、彼女を負ぶさる。

周りの人間の考えなど推し量りもせず、俺は一直線に休める場所・・・

少なくとも、休ませても風邪を引かない場所。

―――考えあぐねた末、俺は目の前の喫茶店・・・

アーネンエルベへと歩を進めたのだった。



/遠坂凛・T

―――さて、どこから言うべきか。

私こと遠坂凛は、なぜか遠出がしたくなって、なぜかこの店に入りたくなって。

入ったこの店のラズベリーパイが思いのほか美味しくて、上機嫌だった。

名前はアーネンエルベって言うらしい。

独語で”遺産”という意味の言葉だ。

うん、覚えておいて損はない。

わざわざ冬木から出てきたんだから、このくらいの役得はあるべきよ。

力を込めて、心の中で叫んでみる。

と、その時だった。

――――和服?

そこに見えたのは、まごうことなき和服。

しかも、まじめに朱い。

朱色の和服。

それも、下に下着着てないっぽい。

まるっきり、明治や江戸のころに戻ったような服装だ。

―――はじめ、何の冗談?と思った。

その男は、至極まじめな貌で、背負っていた女の子を椅子に寝かせた。

そして、店員の見ている前で、首と背中に手を当てる。

店員は何事か言いたそうだったが、その男が尋常でない眼を見せるだけで奥にすっこんでいった。

―――まさか。

その男のまとっている異様な空気から、私はその男が彼女を殺す、と思ってしまった・・・が、それは杞憂に終わった。

その男が少し体を動かすと、女の子は「う〜ん・・・」とか、かわいいうめき声を上げて目を覚ましたからだ。

その男は・・・先ほどの様子とは打って変わったやさしい笑みを見せると、女の子に対して「よかった・・・」と笑った。

うん、なんていうか・・・

アレは女殺しの目だ。

それも、本人にはまったく自覚がない。

さっきの殺気に満ちた眼と比べるとなんと印象的なのか。

うん、きっと私はあの男とは相容れない。

自分には、どこか女の子としてかけてる部分があると思っているのだが、そのかけている部分が警告を発しているような気分だった。



/浅倉智也・T

―――はてさて。

俺こと浅倉智也は目を見紛った。

恐ろしいと思った。

アレほどの魔眼を一切封じもせずに歩いてくるやつ。

それが異常でないはずがない。

魔眼とは、一工程の魔術の中でも高度なもので、俺を始め・・・死徒や真祖のような超越したものが持つもの、魔術師の持つものがあり、さらに中には生まれつきそれを持っている者もいるらしい。

そういった生まれつきの者の魔眼は、魔術で作った魔眼などよりもはるかに強い力を持っているらしいのだ。

ずいぶん前から行き着けとなったこの・・・アーネンエルベという店で、田舎雑炊を口にしながら俺はそう思った。

なぜ田舎雑炊かというと・・・食べたくなったんだから仕方がない。

その男は、背負っている少女を椅子に寝かせて・・・ああ、気付け、だな。

―――気付けってのは、アレで難しい。

正直、漫画のように行くやつは滅多にいない。

下手すりゃ、逆効果だったりする。

そうして男は眼を覚ました女の子に、労いの言葉をかける。

少女は驚き、憔悴、思慕・・・いろんな表情をくるくると変えながら、しどろもどろに何かを言っていた。

ああ、非常に好ましい態度だ。この少女のそれは。

「志貴さん・・・?あ、あの実は・・・」

「落ち着いて。何かを幻視たんだね。話して、もらえないかな?」

そう男はいった。

それに少女はおろおろしながら、それでも少しずつ話し始めた。

「―――実は・・・」

その話は、俺にはきっと聞き逃せないものだった。

いや、聞き逃さなかったんだけどね。

「どこか・・・そう、神社の境内のようなところで、黒い男の人と、赤い男の人、金の男の人、紅い男の人・・・それから志貴さんが戦ってるんです。黒の男の人は黒い剣の丘、赤い人は赤い剣の丘を・・・まるで魔法みたいに作って・・・」

そこでいったん言葉を引き、水を口にする。

「そ、それで・・・紅い男の人は血で真っ赤の丘を・・・やっぱり作って・・・」

何だと・・・?

血塗られた丘は、俺の聖地。

あるものを滅ぼすためのシステムである、俺の領域だ。

―――なるほど、聞いていてよかった。

世の中には、魔眼・超能力の類で幻視を見る連中がいると先ほどいった。。

そうした連中の中は、実際に根源の記憶・・・アカシックレコードとつながっていてほぼ疑いない未来を見るものもいるという。

―――高確度の未来視を持つものは、例外なく生まれつきであるのだが。

過去から未来を計算する、過去視もどき・・・と俺は見た。

アカシックレコードにつながっていて、こんな普通の生活が出来るのはおかしい。

こう見えても、俺は裏の世界で生きる人間。

表の顔は持っているが、やっぱり俺は裏のもの。

そんな風に考えてるうちに、話は進んでいた。

「―――それで、黒い人に志貴さんがすごい勢いで突進するんです。今みたいに朱色の服を身に着けた・・・」

そんなことを言っている。

どうやら、男はシキというらしい・・・

―――シキ?

まさか遠野志貴か?

俺がそう思ったとき。

少女はふと気づいたように言った。

「志貴さん・・・その服は何ですか?それに、いつもの眼鏡は・・・?」

「―――忘れたんだよ。この服は、気紛れさ。」

嘘だ。

この男は嘘をついている。

この男が遠野志貴のはずがない。

だって、遠野志貴は、魔眼殺しがなくては、街を歩けない。

それは、俺が遠野志貴に会いにこの街に来たときから知っていた事柄。

もう、裏の世界では、相当に有名な話だ。

魔眼殺しで何かの魔眼を抑えている、真祖の姫君と教会の第七位に寵愛される青年の話は。

そういう、話、だった、のに・・・

血が、抑えられない。

―――チ。

ここで殺し合いは・・・

そう思ったときだった。

黒い影が、床から染み出すように現れて、志貴と呼ばれた遠野志貴以外の何者かに襲い掛かったのは。


/七夜志貴・U

―――俺が模造されたわけはわからない。

が、この少女・・・晶の意見は実に参考になる。

この子の幻視は、当たる。

変えようと思えば変えれる類のものではあるが、変えようと思わなければそう変わらないし、何より今の俺には何も道標がない。

「志貴さん・・・なぜ、黙っているんですか?」

晶がそう聞いてきたときだった。

気配が生まれる。

これは魔の気配。

俗世の人間が決して触れてはいけない、死の領域の住人。

黒い影、黒い影。

黒い影が染み出して、俺に飛び掛ってきた。

「チィッ!!」

俺は、影の脇を潜り抜け、晶を突き飛ばす。

「キャンッ!」

そんな声を上げて、すっころんだ晶を尻目に、俺は懐の短剣を抜く。

―――その名は七つ夜。

依然、姫君に言われたことがある。

―――これは、ただ頑丈なだけのナイフ、だと。

だが、俺の眼はそれを最悪の凶器に変貌させる。

ああ、世界はこんなにも死に満ち溢れている。

「・・・閃鞘・七夜。」

その呟きが、戦いの始まりだった。

疾風の如く駆ける。

その姿は、凶った蜘蛛。

影の死線を流れるように切る。

それだけで、影は霧散していく。

新たに染み出した影を合わせて、残り七体。

俺の口が、自然と言を紡ぐ。

―――ようこそ、この惨殺空間へ。

―――さぁ、殺し合おう。


/遠坂凛・U

その男は容赦なかった。

綺麗な殺し方というものがあるなら、それはきっとそうなのだろう。

思わず、見蕩れてしまうほど、流麗で残酷な妙技。

魔術師の私から見ても、それは卓越しすぎていた。

影を殺す。

唯の一刀で。

その影は、どう見ても私よりも強い。

―――正確には、私よりはるかに強い魔力を持っている。

それを、唯の一振りで、切り伏せ、霧散させる。

きっと人間業ではない。

―――そう。

私が目標としている・・・聖杯戦争の勝利。

その為に必要な、英霊・・・サーヴァント。

アレは、あんな戦い方をするのではないだろうか。

そう思わせる。

そうして、彼が囲まれたとき、もうほとんどの人間が逃げ出していた店内に、唯一人残っていた、私とあの二人以外の人間がゆっくりと立った。

思えば、これがきっと後の運命を狂わしていた。

―――ここ一番で失敗するのは、遠坂の家系だけど。

ここで、こんなミスチョイスをするとは。

二度とこんな店来るものか!!


/浅倉智也・U

志貴と呼ばれた男が・・・影に囲まれるのを見据えながら、俺は席を立った。

心に潜る。

―――アレは、影。

本体のある影。

それも、ごく弱い。

それとのリンクを断てば、自然消滅するのだ。

最速で自らの深層に潜る。

我が手のひらに、一つの小世界を作り出すために。

しかし、リンクを絶つための力は用意するつもりはない。

それは・・・この男に手の内を見せるようなもの。

それは、意味がない。

なぜなら、この男は敵になるかもしれないのだ。

そんな相手に、俺の切り札は見せられない。

故に、吸血鬼以外には、程度のいい概念武装程度の威力しかない剣を作り出す。

詠唱は、三節。

その言葉を胸のうちでそっとつぶやき、そして俺は駆け出す。

腕には既に諸刃の刃。

金色の剣を手にして、俺は志貴と呼ばれた男の救援に向かった。


/七夜志貴・V

「閃走・六兎。」

蜘蛛の動きが影を捉える。

突き上げるような飛び蹴りは影の死点を突き通す。

そうして、その足の向きを変え・・・空中で直角に近い動きが現出する。

―――ハァッ!

「チ、早く逃げてくれ。晶ちゃん。危ないから。」

そう言って、さらに駆け出す。

そこに見えたのは、宝石を手にした魔術師と、金色の剣を手にした吸血鬼。

―――きっと、これも道標。

俺を導くべきところへ導くための、はずせぬ道標なのだろう。

ズガッ、と音がして影が二つに断たれる。

「―――そこのそいつ、大丈夫か?」

金色の剣を持つ吸血鬼は、そういって話しかけてきた。

「何用だ、吸血鬼。こいつらは俺の獲物。横取りするなら、正当な理由を言え。」

そんな、退魔の一族らしくないことを言う。

男は「?!」と声にならぬ驚きを表して、俺が一度でこの男を死徒・・・まがいのものと見抜いたことに、少なからぬ衝撃を受けたようだ。

そうしているうちに、影が一つ襲い来る。

Eine1番 ZehnProzent十分の一 Abfeuern撃て!」

魔術師の女がその宝石から、ほんの少し・・・いや、それでも、この魔力・・・とでも言うのだろうか、嫌な気配だけが矢鱈とでかいこの影を一つや二つ殺すには十分な力を放つ。

カシャーン、とまるで氷が砕けるような音がして、その力は影を一つ砕氷する。

「何よ・・・魔力ばっかり大きくて、脆すぎる・・・?」

その女はそう言って、驚きを表した。

「チ・・・まぁいい・・・」

舌打ち一つ、俺は駆ける。

影は残り・・・増えてるな。

さらに増えて、残りは・・・10。

この分だと、さらに増えてもおかしくない。

黙々と、俺は影の死線を切り、死点を突く。

「お前・・・何者だ?」

吸血鬼は、そんなことを聞いてくる。

「殺し合いの最中に、呑気だな。まぁいい。俺の名は・・・志貴。それ以上は教えられんな。」

「―――俺は、智也だ。それだけ覚えてくれれば好い。」

俺の言葉に、憮然としてそう返す。

一体を金色の剣が裂いた。

「アンタたち・・・!何者よ?!」

女が、そう問うてくる。

しかし、俺はそれに答えず、「名前は言った。お前も名乗れ。」とつっけんどんに返して、微笑む。

その・・・多分、きっと残酷な笑みに気圧されたか、ぐっ、と詰まると「遠坂よ!」と叫ぶ。

また一体、宝石から放たれた光によって消えた。

そうして、しばし・・・言の葉も交わさずに、俺たちは影を殲滅する。

やがて、影が全て片付いたとき、カラン、と呼び鈴の音も鮮やかに、俺と吸血鬼と魔術師の三人・・・それと呆気に取られている晶しかいない、滅茶苦茶になった店内に・・・

「なによ、これ。ずいぶんと散らかってるじゃない。」

一人、女が入ってきた。

スッキリした服装に、眼鏡。

その手には、重そうなトランク。

瞳柔らかく、それでいて何かを隠し持っている・・・

“先輩”に似ているような、気もしたのだが・・・

なんとも不思議な・・・懐かしさを覚えた。

そう、俺はその女に、どこか・・・

わが分身に、人として生きる道を与えてくれた女性の面影を見ていた。

続く。



あとがくとき。

はい、ボンクラ参上です!

なんか、変。

というか、七夜の一人称部が一番少ないのはどういうことか。

そして、予想通りFateとのクロスになりますた。

―――まぁ、予定通り、というべきか。

遠坂の御嬢さんの運命は、最初っから狂って行きます。

まぁ、きっとアーチャー先生やセイバータソは出てくるし、マスターも多分変わりません。

キャスター救済ではないので、あしからず。

ある意味、セイバーも救済なのか、そうでないのか微妙な話になるので、今後ともよろしく(汗

では、また。

―――おや?

(約束されたエクス・・・)

うむ、どうやら今日の制裁は、あと3〜4話くらい出番まったくないはずのセイバータソのようです。

では、シュワッチュ!!

(勝利の剣カリバー!!!)

チュゴゴゴゴゴゴォ・・・ン・・・

(作者消滅につき、強制終了)



加筆修正(3/26)。では。

セイバー「まだ生きてやがりましたか。」

こんどこそおはり。

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