―――体は剣で出来ている。

どこかで、誰かがそう言った。

―――気がつけば、そこは焼け野原。

戦火にでも襲われたのか、大きな火事でも起きたのか。

見慣れぬ街は紅蓮に染まり、赤く紅く朱く塗装されている。

一面の廃墟。

私は、その光景を・・・

とても、考えられないくらい冷静に見ていた。

夜が明けるころ、燃え盛る炎はその勢いを弱めて。

あれほど高かった焔の壁は低くなり、廃墟はほとんど崩れ去っていく。

どんなに堅固に作られた建物でも、長時間焔にさらされれば弱くなり、やがて崩れ去るのだ。

その中で・・・原形をとどめている、少年がいた。

―――なんて不思議。

周辺に生きているのは、彼だけ。

よほど運がよかったのか、家の位置がよかったのか・・・

いや、むしろ悪かったのかもしれない。

苦しまずに、死ぬというのもひとつの選択肢だ。

私は決して選ばないし、選ぼうとする人間を全力で止めようともするだろうが。

ともかく、生きているのは少年一人。

生き延びたからには、生きなくてはいけない。

きっと、そう思っているのだろう。

彼は当て所もなく歩き出す。

―――あの子は、まず助からない。

そして、私は手を下すことも、出来ない。

これは夢だ。

私は、正規のサーヴァントではないから、夢を見るんだろう。

ならば、こういうこともあるのだろう。

少年の貌には、明らかな諦め。

それでも、生きなきゃいけない、という意志だけ頼りに歩き続ける。

幼い子供が、死などろくに理解もしていない子供が、そう思ってしまうくらいの、地獄。

―――うん、どこかで見たような気がする。

それは、既視感。

―――少年は倒れる。

酸素・・・

人が生きるために必要な、その気体が足りないのか、それとも取り入れる器官が死んでしまったのか。

周りには、黒焦げの死体。

空にある暗い雲は、雨の到来を予期させる。

―――少年は、きっと空っぽなのだろう。

全部がない、なくなってしまった。

そんな貌で空を呆然と見上げていた。

それは、とても嘗ての自分に似ていて。

両親を野盗のために亡くして、血塗れで笑っていた私に。

思わず、涙が零れる。

きっとこの子は、これから私をなぞる。

私は、運良くカイルさんたちや島のみんなに出会えて。

あの戦いを経て。

何とか、いろいろ、空っぽじゃなくなったけど。

きっと、このままいけば、この子は・・・

他の誰かを助けるために、自分すらも捨てちゃって。

やがて、心が折れてしまう。

あの時、あの人と戦った私のように。

理想に溺れて、現実に悲嘆して、心がポッキリ折れてしまう。

倒れ伏す少年に、一人男が駆け寄ってきた。

と同時に、この夢は終わりのようだ。

意識が白くなっていく。

すぐに、現実の私が覚醒するはず。

そうして私は思う。

ああ、あんな壊れたディスク、関係ない。

この子は、私とそっくりだったから、私を呼んだのだ。

―――きっと、そうに違いない、と。


Fate/Summon night
第三話「おそらく、日常? 〜Go to Tiger gym?〜」 前編


/アティ・U

―――ゆっくりと覚醒する。

外は、まだ暗い。

「あれ・・・?ここはどこですか・・・?」

声を出した途端、すごい脱力感。

あ、やば。

そのまま布団にくず折れる・・・布団?

う〜ん・・・無理のしすぎですね。

あれからどうなったんでしょう?

とりあえず、体を苛む脱力感を、何とか処理して周りを見回す。

すると、そこでは。

昨夜の少女・・・イリヤスフィールが安らかな吐息を立てていた。

「良かった・・・やっぱり、士郎君はこの子を殺したりしなかった。」

あんなに危険な子でも、何か事情があると思ってしまう。

それは、空っぽじゃなくなって久しい私の、捨てきれないところだ。

もっとも、捨てる気なんてさらさらない。

戦わずにすむなら、それに越したことなどどこにもないのだから。

「―――さて。」

切れるような、朝の空気を体にしみこませて、私はゆっくりと立ち上がった。


/衛宮士郎・U

―――衛宮家の居間。

そこには、俺と遠坂が神妙な顔つきで座っていた。

昨夜、あの巨人・・・バーサーカーを倒した後、気絶したアティと・・・イリヤスフィール・・・イリヤを家に連れてきて、寝かせて・・・

それから、セイバーに見張りを任せて、俺と遠坂は寝てしまった。

帰る時間も遅くなったし、とりあえず遠坂には離れの洋間で休んでもらった・・・のだが・・・

3時間もしないうちに、俺を遠坂も起きちまって、それから二人でこうして話をしていた。

(因みに、起きてきたばかりの遠坂は、崩れたイメージをさらに木っ端微塵にするに十分だったことを付け加えておく。)

「やっぱり理解していなかったの・・・あのねえ。」

「いや、いまいちさっぱりなんだが・・・」

「だから!私が昨夜衛宮君を教会に連れて行ったのは、貴方に勝たせるためじゃないわ。あれはね。何も知らない衛宮君が一人でも生き残れるように、って考えた結果なの。」

遠坂は、まじめに不機嫌な声でそんなことを言った、

「俺が生き残れるように・・・?」

「ええ、そうよ。負けることが直接死につながるということを理解すれば、そう簡単に博打は打たなくなる。貴方、こういうときでも夜中一人で出歩きそうだから。」

なるほど。

「脅しをかけておけば、火中の栗を拾うこともなし。上手くいけば最後までやり過ごせるかもって思ったの。」

「そうか、気づかなかった・・・」

そう言って腕を組む。

「まぁいいわ・・・それより、率直に聞くけど衛宮君、これからどうするつもり?」

本当に率直に、彼女は一番聞いてほしくないことを訪ねてきた。

確かに・・・あの二人は、暴風が形を成した、という表現がぴったり来るバーサーカーをたった二人で倒してしまった。

正直、こうなってくると、聞いてほしくないというよりは考えたくない、というのが正確だ。

しかし・・・

「正直に言うけど、あの・・・アティさん。サーヴァントとしても異常よ。ギリシャ最大の英雄ヘラクレス・・・をたった一人で12度殺した。しかも、衛宮君は魔力を吸い取られてないでしょう?これがどういうことか、わかる?」

・・・あの時アティに渡された、ポケットの中の無色透明な石を取り出してみる・・・

触れば、確かに令呪以上のつながりをアティに感じた・・・

―――正直に言えば、このとき俺は気づいていなかった。

魔力回路を全く閉じていたからだろうか、このときも間違いなく・・・

いや、これはまだ言うべき事柄じゃない。

話を戻そう。

「・・・わからない。ただ、あの蒼い剣からは、とんでもなく強い魔力を感じた・・・」

「今貴方は聖杯戦争の勝者に、最も近いところにいるわ。セイバーが最優のサーヴァントなら、バーサーカーは最凶のサーヴァント。しかもヘラクレスといったら、この国でも知らないものはいないくらい有名な英雄よ?それを・・・セイバーの助力があったとはいえ、殲滅する力を持ったサーヴァントなんて、聞いたことないわ。」

しかも、だ。

この世界では、英雄ですらなく。

単なるテレビゲームの登場人物として処理されている人物が、である。

確かに、遠坂でなくても異常を感じるというものだ。

って、え?

「ちょっと待ってくれ、そりゃどういうことだ?」

「言葉どおりよ。わたしのアーチャーも含めて残り六人・・・アティさんは除外するわよ。ランサー、アサシン、キャスター、ライダー・・・それにアーチャー。この中でセイバーを高確率で倒せそうなやつなんていないわ。もちろん、アティさんに勝てそうなのも。」

「いや、だから・・・セイバーの助力を忘れるなって。」

俺は反論してみた。

しかし・・・

「あのね、セイバーは宝具を使ってないのよ?ほとんどアティさんの手柄だわ。」

確かにそうだった。

セイバーは、ランサーとの戦いを終えて、アーチャーを切り伏せ、その後にバーサーカーと戦ったのだ。

当然、消耗は激しい。

おそらくだけど、もしアティがいなければ全員あそこでやられていてもおかしくはないのだ。

「で、でも・・・俺は聖杯なんかに興味はないんだ。ほしくないものを、無理矢理勝って手に入れるなんて、したくない。」

「言うと思ったわ・・・貴方ね、そんな事言ったら、アティさんはともかくセイバーに殺されるわよ?」

「な・・・!殺される、ってどうして?!」

そんな俺の疑問に、遠坂はさらりと答えた。

「決まってるでしょ。何でサーヴァントがマスターに従ってると思うの?サーヴァントの目的も、聖杯だからよ。彼らは、聖杯を手に入れる、という条件だからこそ、人間の償還に答えるのよ。」

つまりそれは・・・

「そう、サーヴァントにとって最も重要なのは、聖杯なのよ。なのに、聖杯なんていらないなんていって御覧なさい?裏切り者、と殺されても文句は言えないのよ。」

その言葉に、暫し呆然とする。

そうして、しばらく・・・なぜマスターにサーヴァントが従うか、サーヴァントとは何か、そしてサーヴァントの力を発揮させる方法など・・・種々の事柄についてレクチャーを受けた・・・


/アティ・V

―――寒い。

庭に、置いてあったサンダルを使って足を踏み入れる。

空には・・・まだうっすらと月があった。

こんなに寒いのは、久しぶりだ。

あの島は常春だから、こういう切るような寒さのこと忘れていた。

「あーあ・・・ウィルたち、どうしてるんでしょうね・・・」

そう、とりとめもないことを思う。

でもまぁ・・・

今のわたしは、本体と切り離された分身みたいなものだ。

本来、英霊というものは・・・

「英霊の座」と呼ばれる、5次元的に断絶した・・・平行宇宙と平行宇宙の狭間にある所に蓄えられた情報体のようなものである。

そこから、端末として・・・コピーを作り出す。

それが、サーヴァントの元になるものである。

―――しかし、自分は違っている。

確かに、この身は彼らと同じく情報端末のごとき、複製に過ぎない・・・のだと思う。

よって、もしこの世界から消えるときがあるなら、きっと本体である自分は一瞬のうちにいろいろ体験したように感じるだろう。

「―――参りました・・・」

境界線との繋がりは強固。

この世界・・・特に、聖杯と言う孤立した聖遺物が存在するこの地に繋がった果てしなき蒼の境界線は馴染んでいる。

おそらく、士郎君との繋がり・・・令呪が消費されきっても、私はこの世界にとどまることが出来る。

それに、令呪が消費されきらねば、おそらく帰れもしまい。

つまり、それは・・・

あの島へ帰るのは、ずいぶんと先になってしまうのであろう、ということだ。

「まぁ・・・仕方がありませんか・・・」

順応性が高いのは、幸か不幸か。

いくら、聖杯とやらから知識を移植されたとはいえ・・・呼ばれてたった一日・・・いや半日たっていないのに、こんなに落ち着いている自分がいる。

いえ、最初から落ち着いていた。

10年も20年も年取らないでいると、性格は変わらないのに思慮深さとか冷静さとかだけが成熟していくのかもしれないなぁ。

どんな時でもあわてないのが、私の信条。

だから、この世界でもきっと巧くやっていける。

そんなことを思う。

あの時中天にあった月は、今は白む朝に薄れて消えていこうとしている。

「はふ。」

実年齢50近いというのに、何可愛い欠伸なんかしてるんだろ。

そんなこと思いながら、冷えた体を抱えてもう一度部屋へ戻る。

寝かせてくれた・・・多分、セイバーちゃんに感謝ですね。

それと、部屋を用意してくれた士郎君にも。

そうして、部屋に入り込む・・・

と、イリヤちゃん・・・が目を覚まして、私を睨んでいた。

「あ、起きたんですね。良かった・・・」

心底からそう思って、笑みをこぼす。

しかし、イリヤちゃんはそれすら、敵意のこもった視線で睨んでくる。

「―――貴方、何者?」

イリヤちゃんは、唐突にそんなことを聞いてきた。

「セイバーのサーヴァント・・・じゃだめですか?」

「だめよ。おかしいわ、貴方。聖杯から力をもらって現界しているのがサーヴァントでしょう?それが、逆に聖杯に力を供給しているところもあるなんて・・・」

「―――イレギュラーですよ・・・」

言葉をぼかして、私はそういう。

それに対してイリヤちゃんはますます視線を険しくして、

「―――貴方、何者?」

と、もう一度言った。

困ってしまった。

「う〜ん・・・」

「聖杯のバグ・・・とでも言うの?」

「多分、そうなんでしょう。どんな優れたシステムでも、いつかは磨耗を起こして誤作動してしまう。今回が、ちょうどそれだったってことじゃないんでしょうか?」

勤めて冷静に、彼女にそう返した。

アルディラも・・・いつだったか・・・五年位前に突然ラトリクスのコンピューターが誤作動起こして大変なことになりかけたとき、そんなことを言っていた。

その時、大分コンピューターの使い方も覚えたというものだ。

どうしてか、リィンバウムとこの世界・・・おそらく、いつか会った誓約者の住んでいたという世界は同じ事物が多い。

そのまま同じ名前のものも多々あるようだ。

この世界・・・境界線から流れてくる情報が、そう教えてくれる。

―――不思議だけれど、生活上の不便が少ないので、非常にありがたいが。

私は、そばの布団を手際よくたたむ。

「―――でも、そんなことはどうでもいいじゃないですか。私はここにいるし・・・貴方のバーサーカーを倒してしまったことは、申し訳ないですけど・・・貴方もここにいる。士郎君も、遠坂さんも、セイバーちゃんも生きている。それだけでいいじゃないですか。」

彼女に貌は見せずにそういった。

その私の貌を怪訝そうに、驚きと不安とためらいの混じった表情で見上げるイリヤちゃんは、きっとかつてのウィルのよう。

「―――なんで?何で、そんなことがいえるの?私は、お兄ちゃんを殺すのが目的なんだよ?閉じ込めたり、令呪を奪ったりするんじゃないの?」

ああ、まぁ。

大体そんなことなんじゃないか、と思っていた。

かつて戦ったあの人みたいに、この子もなぜか士郎君に固執している。

名前も知らないのだろう・・・でも、固執する。

そのあり方は、とてもあの人に似ていた。

「そんなこと、しませんよ。私は、私の周りの人間が悲しむことがないように、そして自分が悲しまないように生きたいだけですから。」

それは、本心。

あの時砕けた理想は、最高の鍛冶師と・・・大切な、失いたくない、そして悲しませたくないウィルのおかげで、新たな形を成してくれた。

私が死んでも、悲しむ人はいる。

だから、私はできるだけ生きなければならない。

そして、自分が傷つくことで悲しむ人がいるなら、私は傷つかないようにしなければならない。

悲しみ、悲しまれないように、大切な者のために生きる。

それが、あの戦いを超えて得た、たった一つの答えだったから・・・

「そんなの、無理よ・・・」

「無理じゃないです。無理だと思い込むからいけないんですよ。本当の貴方は、無邪気な・・・少女のはずです。ろくに知らない人でも、士郎君は優しくしてくれますよ・・・きっと。」

あの子の・・・士郎君のあり方は、昔の私と似ているから。

きっと、この子のことも、簡単に受け入れるはず。

「心配しないで、さぁ・・・ソロソロ起きましょう?」

「ちょ、ちょっと待って!?」

私は、イリヤちゃんの手を強引につかむと、居間への道を歩き出した・・・


中編へ続く。




あとがく時。

オッス、オラ浦谷!

いっちょやってみっか?!(何を

―――ごめん、うそ、切腹。

ちょっと難産、かつ長くなりそうなので前後編です。

今までのSSの中で、一番反響が多い、この作品。

いやはや、ホンに有難い事です。

アティ先生ですが、サモンナイト3の番外編の後から来た、という感じです。

サモンナイト3は、1でのオルドレイクの老け具合からするに、1の20〜25年前くらいだと思います。

島の中では成長が遅くなる&境界線との接続を行うとほぼ不老となる、という説明が作中で出てきたので、本作でのアティ先生の扱いはこんな感じです。

ずばり、「人工の真祖」。

世界(境界線)とつながり、不老で、膨大な魔力を扱う。

吸血種の基本スキルはないものの、すでに幻想種や精霊種、真祖のレベルまで行ってるんじゃないかと。

そして、重要なのは・・・

この話・・・

最初の予定では、運命な無限の剣製になる予定でしたが、運命な天の杯・無限の剣製風味になると思います。

アティ先生が無敵なので、それに対抗できる存在となると、黒桜くらいしかいないのですー。

あっはっはっはっはっはっは!(壊れ

―――セイバーは死にませんよ?

基本的にサモンナイトのノリでは、人を殺しづらいんで。

―――たぶん、セイバー以外にも、サーヴァント3〜4人くらい生き残るし〜

ギルガメの死亡フラグは立ったと思う。

理由も、すでに考えてありますゆえ、まぁ・・・

お楽しみに。

ではまた。

シュワッチュ!!



4/1 結局前中後編になってしまいました(汗
   次回へ続くのところを、少し修正。

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