美しいと思った。

紫の髪を持つ死神は、神速で私の目の前に到達する。

繰り出してきた銀の釘を千斬疾風吼者の剣で弾く。

おそらく、宝具としてはとても弱いもののはずだ。

しかし、その速度は・・・それを侮れぬ凶器へと変化させていた。

「くっ・・・」

「その程度ですか?バーサーカーすら倒したあなたの力は。」

その女性はそう言って、さらにその釘を押し出してくる。

それをさらに弾くと、鎖の向こうのもうひとつの釘を投擲する。

それを弾いて、一瞬退く。

そして、私は手にした石に魔力を込めた。

「我が召還に応えよ!黒炎陣符狐火の巫女!」

黒い炎の符が、彼女を襲う。

だが、彼女は神速でそれを避け、そうしてまた私に釘を見舞う。

「―――どうしました?昨夜の・・・宝具は使わないのですか?」

ニィ、と笑ってそう漏らす。

だが、挑発されたからとて、そう簡単に遣うわけにはいかない。

緑の賢帝を使っていた頃に思ったこと・・・

それと似たようなことを考えていた。

―――即ち、使用し続けたときに何が起こるか、ということである。

士朗君とセイバーちゃんにつながった境界線から逆流している、わずかな魔力。

それが何をもたらすか判らない以上、下手に剣を使うわけにはいかない・・・!

私と彼女は、破壊されたその場を縦横に走る。

だが、やはり・・・

正直言って、拙い。

なぜならば、彼女の速度は私の倍近い上に、膂力も多分私より上だろう。

私の短剣・・・宝具としてもやっていけるくらいの業物・・・がなかりせば、初撃で命を絶たれていてもおかしくはない。

正直、迂闊だったかも知れない。

セイバーちゃんなら、この人を押し返す膂力と最低限攻撃に対応するすばやさがあったのだが・・・

クッ・・・

お互いの武器の性能をあわせても、攻撃力では互角、すばやさでは・・・当然かなうわけもない。

ならば、逃げる!

ああ、情けない。

宝具を使わなきゃ勝てないけれど、下手にそれをするわけにはいかないのだ。

「毒持つ水辺の主・・・我が前の敵に、その息吹を!!フェイタルブレスタマヒポ
!!」

巨大な複眼の河馬が現れ・・・そして、猛烈な毒の息を放つ。

「・・・!?」

この子のブレスにかかっては相当の魔力抵抗を持つものでも、最低限ダメージだけは食らう。

その毒霧にまぎれて、もうひとつ術を放った。

打ち砕け光将の剣シャインセイバー
!」

五本の光り輝く剣が女性へと向かっていく。

それを隠れ蓑に、ワイヴァーンを召還する。

「頼みます!」

「ギャオォォォッ!!」

一声叫んだのを聞いて、飛び乗ると凄まじいスピードで場を遠ざかる・・・

「―――助かった・・・?」

いや、まだだ。

もし、彼女のクラスがライダーだったら、この子についてこれる手段を持っているかもしれない。

その考えは、運の悪いことに本当になってしまった。

ヒュゥ・・・

風が、横を吹きぬけた。

いや、それは疾風等ではなく。

・・・天馬に乗った彼女が、私を追い越して・・・

そうして、私たちの大分前で滞空する・・・そう、待ち受けるように。

くっ。

天馬にまたがるその姿は、まるでサプレスの天使のごとく。

その手に持つ煌く手綱を私は見た。

―――アレは、やばい。

かなりの力を備えた宝具であることが、一目でわかる。

こうなっては仕方がない。

あの手綱を使われて・・・ここで死んでしまっては、抜剣者の名折れと言うものだ。

私は、境界線からあの剣を引っ張り出す。

果てしなき青ウィスタリアス
!!」

抜剣覚醒・・・

私の体は、剣から注がれる魔力によって変質する。

それは、限定された空間の端末として機能する。

よって私の魔力は・・・

この瞬間だけ、無限に近い。

「―――ようやく、宝具を出しましたね。」

女性は、それでもまだ不敵な笑みを浮かべていた。

だが、その笑みには・・・少し、憂いが含まれていたのを、私は・・・見逃さなかったのだ・・・


Fate/Summon night
第四話「vsライダー 〜Battle of Medusa〜」・T


/セイバー・T

あのサーヴァントは・・・おかしい。

私も、実を言えばイレギュラーな存在だが、あの女性はさらに異常だ。

一応、彼女とシロウの霊脈はつながっている。

それは、間違いなく魔力の導通を可能とするもの・・・私と彼のそれとは違う、完璧なものだ。

なのにもかかわらず、シロウから彼女へはまったく魔力の供給がない。

それどころか、私の霊脈と混線している部分から・・・わずかな魔力・・・常人一人分にも全く満たないものだが・・・が流れ込んでくる。

ハクリ。

目の前のドラ焼き・・・とシロウは言っていた・・・を口にする。

「おいしい。」

「おう、そうか。お茶入れるか?」

シロウはそのように聞いてくる。

それに首肯し、暫し待つ。

リンとイリヤスフィールにもお茶を持ってきて、シロウはまたテレビの前に座った。

テレビでは愚にもつかないお笑い番組がやっている。

―――そう、以前の経験と聖杯からの知識でこの時代のこともよく知っている。

「つまんない・・・」

イリヤスフィールがぼやくように、そう言った。

なんと無防備な姿勢だろう。

先ほどの・・・あのサーヴァントを除いて行った作戦会議で、

「他のマスターなんか、殺してもいいでしょう。私はシロウが生き残ってくれてれば、それでいいのよ。」

と、冷酷非情な姿勢を見せたものとは思えないしぐさを見ながら、私はため息をつく。

「―――そうか?結構面白いと思うんだけど。」

「そうは思えないわね。っていうか、ぶっちゃけこの番組つまらないわよ、いや本当に。」

シロウの言葉に、リンは本当にどうでもよいという感じでそう言っていた。

今私が着ている服は、リンが与えてくれたものだ。

いずれ戦わなければならない相手とはいえ、感謝せざるを得まい。

そうして、私はあのサーヴァントのことを考えていた。

・・・何というか、あのサーヴァント・・・アティと名乗っていましたか。

シロウもそうだが、彼女もあまりに無防備すぎる。

緊迫しきっていたので、先程の食事の際のリンとアティの口論には参加できなかったが、あまりにもその言い分は甘かった。

しかも、真名をあれ程簡単に、マスターであるリンに教えてしまうとは。

この時代での、出版物に存在する架空の人物だという彼女。

それも、現代の出版物なら、それこそ簡単に弱点を知られてしまうではないか。

あまりにも無防備、無策、無謀。

しかし、そんな無策さを補って余りあるのが、あの宝具だ。

世界と繋がり、魔力を無尽蔵に引き出し・・・それでいて、彼女にはろくに負担はないようである。

もっとも、使用していた魔術のおかげで大分回路を傷めていたようだったが。

おそらく、あの宝具のおかげだろう。

シロウの魔力供給を必要とせず、それでいて魔力をこちらにも流すという芸当を行えるのは。

本当に聖杯のバグなのだろうか・・・

イリヤスフィールは何か気づいていたようだったが、結局会議では何も言わなかった。

「喚起の門」という、彼女の世界(というものが本当にあれば、だが)のものはいったいなんだろうか・・・

確かにリンの言うとおり、私たちはこの戦争の勝利に一番近い場所にいる。

だが、何か・・・

罠のようなものを感じる。

それが何かははっきりとはしないが・・・それでも、私の直感が何かを警告していた・・・

―――さて、こうしていても埒が明きません。

魔力消費を抑えるため、就寝しておきましょうか・・・

と、そう思ったとき。

「・・・?!」

「―――ガッ?!」

私とシロウは同時に声を上げていた。

魔力・・・そう、相当に優秀な魔術師一人分程だろうか、突然私の精神と肉体にそれは流れ込んできた。

「―――なん・・・だ、これ・・・」

魔力不足の私は兎も角・・・

シロウにも同じ分力が流れ込んできているとしたら。

―――拙い、かも知れない。

魔術師として、全く未熟な彼にこんな魔力が流れ込んだら――――――



/衛宮士郎・W

「―――なん・・・だ、これ・・・」

焼けた火鉢を、強制的に背中につきこまれたような、焼け付く痛みと熱が体を駆け巡った。

拙い。

拙い。

拙い拙い拙い拙い拙い拙い―――

体が熱い。

手足の感覚が麻痺していく。

背中には焼けたとしか思えない、熱さのような痛み。

それは、この数年、ずっと繰り返してきた作業を一瞬で行うかのような難行。

「士郎?!何があったの!!」

遠坂が声をかけてくる・・・

が、ろくに聞こえない。

全ての神経は背骨に集中する。

―――開かねば。

誰かが、心で何かを言った。

――――開いて、そして閉じねば。

きっと、それは自分の声。

遠坂が、イリヤが・・・そして、セイバーが心配そうに俺を覗き込んでいる。

「―――ギィ・・・ガァ・・・グゥゥゥゥッ!!」

どこかから流れてくる何かが、自分の中身を書き換えていく。

勝手に魔術回路が作られていく、感覚。

俺には一本しか作れない。

それは、何年も行ってきた作業でわかっていた。

正確には、マチガイだと・・・後から気づくのだが・・・

しかし、このときの俺にそんなことはわからなかった。

2本・・・3本・・・4本・・・

どんどん回路が作られていく。

まるで、地面に流れた水が、自らを通す溝を自ら作っていくように。

27本・・・回路が作られる。

きっと、これが限界だ。

これ以上力が流れ込んできたら、俺は崩壊する。

だから、その前に回路を閉じなければならない。

でも、それで流入を防ぐことが出来るのか?

いや、それでもやらなければならない。

そうしなければ、確実に俺は・・・死ぬ。

だから。

強引に回路を閉じる。

回路を閉じるのは、簡単じゃない。

27本閉じている間に、俺は壊れてしまうだろう。

ならば・・・

ふと、思いつく。

――――スイッチ。

トリガーとかスイッチとか、剣を鞘に収めるとか、鉛筆を筆箱にしまうとか。

そうすれば、早く閉じれるんじゃないか、と朦朧とした脳で考える。

――――イメージするのは、撃鉄。

それを、引き降ろすことが出来れば・・・

いつか・・・そう、土蔵の奥で見つけた壊れた銃のように。

早く。

早く。

早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く!!!

「ガァァァァァァァァゥッ!!」

叫んだ。

力の限り。

ガギンという音がした。

したように感じた。

途端、背中の痛みは急激に薄れる・・・

ハタ、と気づけば。

体の異常な熱さだけを残して、痛みは消え去っていた。

「ハァ・・・ハァァッ!!」

大きく息を吐く。

「大丈夫、士郎?!」

「生きてる、シロウ!!」

遠坂とイリヤが、ほとんど同時に声をかけてきた。

「―――ご、ごめん・・・突然、魔力が・・・」

瞬間、誰かの声が聞こえた気がした。

―――これは・・・

「よかったぁ・・・お兄ちゃん、死んじゃうかと思った・・・」

イリヤのアンドの声を聞き、俺は彼女の手をとって立ち上がった。

あの魔力は・・・わからない。

けど、なんとなくアティのものではないか、と思った。

―――もしかすると・・・

酷く不安になる。

なら。

そうして、俺は言った。

「アティが・・・戦ってる・・・多分・・・」

息も絶え絶えに、そう吐く。

「いったい何があったの?!」

「突然、魔力が流れ込んできた・・・多分、アティが戦っているんだ・・・」

「―――なるほど、やはりあれはアティからのものでしたか・・・」

セイバーの言葉に首肯し、そうして・・・

―――あの膨大な魔力は、きっとアティから流れてきたものだ。

それを確信しながら、俺は痛む体を強引に走らせる。

それを支えるように、セイバーと遠坂も走り出した。


/アティ・Y

ダブルインパクトナックルボルト
!!」

巨大な鉄鋼の巨人がその腕を飛ばす。

それをひらりとかわして、天馬は飛龍へ肉薄する。

―――スピードパワーともに、この子より上・・・

ならば、他の術を使うしかない。

あの狂戦士には、連続の大召還でどうにかできたが、この天馬とその乗り手を倒すには、それなりの物が必要のようだった。

ムーブクロスクロックラビィ
!!」

その言葉に答えて、時の兎が私とワイヴァーンに憑依する。

すると、瞬時に身が軽くなる・・・

移動力をプラスする召還術である。

「ハァァァァッ!!」

ワイヴァーンと天馬の俊敏性は、その差を縮め、私は果てしなき蒼を彼女へ向かって縦一文字に振り下ろした―――

続く。



あとがき。

続きです。

Vsライダー編は、4〜5話を予定。

どうやら、桜やバカシンジ(語弊あり)の出番もありそうです。

では、バイトがあるので、今日はこれにて。

シュワッチュ!!



(武器情報が更新されました。)

千斬疾風吼者の剣
通常時のアティ先生の武器。
無限回廊と呼ばれる異空間の奥深くに存在していた短剣。元々はスカーレルが使っていたものを、アティが譲り受けた。
使用者のAGIとLCKを引き上げる効果を持つ。

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