Fate/Summon
night
第四話「vsライダー 〜Battle of Medusa〜」W
/アティ・]
「変な匂い・・・」
甘ったるい香りに閉口した私は、ハンカチで口と鼻を押さえる。
メイトルパの植物には、このような匂いを持つものが多い。
獲物を捕らえて食べる、魔獣の類。
この高校には、そんな香りが充満していた。
「セイバーちゃん。これは・・・」
「ええ、拙いですね。」
私たちを覆う、ドライアードの香気を打ち消すかのように広がるこの匂いは、中の人間の力を徐々に、徐々に吸っている。
体の弱い人は、すでに体調に異常を訴えているかもしれない。
今は、どうやら授業中だ。
でも、ドライアードがうまく私たちのことをごまかしている。
『この人々は不自然ではない。ここにいて当然なのだ。』
そう暗示をかける・・・というか、ごまかしているのだ。
きっと、擦れ違う先生たちや生徒たちも、私たちのことを校内を見学する風変わりな転校生とその保護者・・・あるいは、転校生と新任の教師くらいに認識しているはず。
「こんにちは。先生。」
ほら。
「今日もいい天気ですね、先生。」
返礼を返して、ニッコリと笑う。
人のよさそうな男の先生は少し赤くなって、そして足早に去っていった。
このように、不自然とはまだ思われていない。
―――まぁ、流石に休み時間の好奇の目は逸らしようがなかったが。
そんな考えを打ち消して、私は今この校舎を包む結界のことに思いを馳せる。
今、この結界内にサーヴァントは・・・いないかもしれない。
けれど、いずれここに現れるはず。
ならば、ここで待とう。
結界の起点を果てしなき蒼で壊せば、すぐに現れるかもしれないし、すぐではなくともいつかは現れる。
何故ならば、果てしなき蒼は共界線・・・すなわち、土地の霊脈と繋がっている。
たとえ、それそのものを操るための核識の座がなくとも、それを振るえば地脈・霊脈に影響を与える。
聖杯によって、繋がるべき地をこの町へと書き換えられた剣は、あの島での力と寸分も変わりない・・・
「セイバーちゃん。この結界、どう思います?」
「ちゃん付けはやめてください・・・・・・この結界は、おそらく地脈を利用しているのではないでしょうか。そうでなければ、サーヴァントそのものの力が大きいか・・・」
キリ、と表情を引き締めながらセイバーちゃんが答える。
「なるほど・・・」
その言葉で、はっきり確信する。
私の剣は、この結界に有効だ。
一撃で破壊することはできないだろうが、何度か結界の起点・・・つまり、あの島で言うなら”核識の座”や”遺跡”に当たる場所を破壊すれば、おそらく結界自体を破壊することができるだろう。
もしかしたら、すぐにも破壊できるかもしれない。
そして、これほどの術を使うのだから、失敗したくないと敵は考えているはず。
ならば・・・
「結界を潰そうとすれば、結界の主が顔を出すでしょうね。」
私の考えを見透かしたように、セイバーちゃんは答えた。
「シロウたちはまだ私たちが来ていることに気づいていない。今の内に起点を捜し当てて破壊すべきだ。」
「そうですね・・・でも、どこにあるんでしょうか?」
「おそらく、リンは既に見つけているでしょうが・・・それを聞いて教えてくれるほど、甘くもないでしょう。」
「・・・確かに。」
もし、この戦いの・・・違和感を見つけることができなければ、私はともかくセイバーちゃんはあの紅い男・・・アーチャーとも戦うことになるだろう。
一応、セイバーちゃんの言葉に同意はしたが・・・
私は聞けば教えてくれるだろうと感じている。
しかし・・・それは余計な借りを作ることになる。
私はぜんぜんかまわないけれど、セイバーちゃんにとってそれは好ましくないだろう。
うーん・・・
早く、この戦いのカラクリを暴かねば、余計な血が流れる。
否応なしに流れてしまう。
・・・関係のないものは極力巻き込みたくはない。
甘い考えかもしれないが、人一人救えずに英霊である意味があるのだろうか?
正規の英霊ではない・・・まだ生きている私の考えは、既に人生を終えてからこの地に召喚されているサーヴァントらから見れば異常なのかもしれないけれども・・・
やっぱり、私は私だ。
よって、するべき行動など、ただひとつ。
繰り返すが、必ずこの下らない戦争のカラクリを暴いて、戦を止める。
願いをかなえる器なんて、どう考えても嘘っぱち。
―――そんな力はエルゴにすら、ない。
そんな嘘っぱちを求めて、殺し合うなんてあまりに馬鹿らしすぎる。
そんなこと考えながら私はセイバーちゃんと校舎の中をウロウロと歩き回っていた。
結局、学校が昼休みに入るころ、ひとつの場所に行き着くことになったのだが。
/衛宮士郎・Z
昼休み。
遠坂に連れて来られた・・・屋上で、有り得ない者を見た。
「ちょっと・・・なんで貴女たちがここにいるの?」
赤い髪に青みがかった黒い瞳、スタイルのいい体を縦じまのワンピース(?)が覆う、風変わりなケープ兼マントにキノコ帽子の女性。
白い服、髪の青いリボン、同じく青い胸のリボンと腰のスカート、風変わりに止めた髪は金髪(ブロンド)で、華奢なのに鮮烈で芯の強い印象を与える少女。
「―――なんでここにいるんだ、セイバー・・・?」
間違いなく、うちのサーヴァント二人の姿だった。
それについて状況判断を放棄した脳は、俺にそんな間の抜けた声を出させた。
「もちろん、敵サーヴァントの殲滅です。」
ああ、また物騒な・・・
「いや、だから・・・」
そうじゃないだろ。
第一、俺は家で待機していてくれと・・・
アティも、それを承知して俺にこれを渡したんじゃなかったのか・・・?
そう思って、ポケットの中の透明な石を確かめる。
この召還石というものは一種の魔術具で、アティの使う異世界の魔術・・・召喚術を一つだけ使えるのだという。
それはともかく、セイバーを俺と一緒になってとめたアティまで・・・
「―――最初から、これが狙い?アティさん。」
遠坂はニィと笑ってそう言った。
「ええ・・・ただ行く、と言っても霊体化できない私たちでは二人とも反対するでしょう?目立つし。」
「確かにそうだけど。」
「ならいいじゃないですか。」
いやいやいやいや。
「良くない。俺は、家に居てくれって言ったはずだ。セイバーと一緒になって・・・」
そう問い詰めるが、アティはしれっと返す。
「よく考えてください。暗示の魔術を使えないセイバーちゃんだけならともかく、私はそういう術だって使えます。だから、ここへ来ても騒ぎになんかなっていないでしょう?なら、問題ないじゃないですか。」
その言葉に、セイバーがコクリと同意する。
―――まぁ、確かに。
休み時間が少々騒がしかったような気がするが、気になるほどでもなかった。
どうやったらそんなことができるのか気になったが、俺は黙って話を聞き続けた。
アティは、まるで先生のように話を続ける。
「それに相手も馬鹿じゃありません。新都でアレだけの戦闘をやらかしたんです。私たちとおととい戦った組以外の組がこの結界の主なら、こっちは無差別に戦う、と判断して今日明日にも結界を発動させてもおかしくないんですよ?」
「その戦闘はあんたがやらかしたんでしょーが・・・」
呆れ顔でそういう遠坂にセイバーは、「なら、暗がりから監視されている状況にあって、貴女は手を出さずに居られると言うのですか?」と言って詰まらせていた。
「おほん!まー、それはともかく。とっとと即時起動ができないように、起点を壊しにいきましょう。」
ばつが悪そうに咳払いをして、アティはそう言った。
「なるほど、既に起点がどこか、ってことは探し当ててた・・・ってわけね。一階の、ど真ん中にある。」
遠坂は言って、笑みを深くしたが―――。
「いえ、よくわかんなかったんで、あなたが来そうなところをうろついてました。あなたから白状してくれるなんて、予想外でしたけど。」
すこん。
あ、遠坂がすっこけた。
スカートの中身は見えない。
実に残念。
やはり、遠坂のスカートの中身(略してスカ凛←何、この汚いネーミング)は聖域なのか?
おっと、心の奥の何者かの囁きはほうっておいて。
こけた遠坂は、なんとか起き上がるとアティに対して、
「―――」
・・・あれ、なんかしゃべると思ったんだけどな・・・
「――――」
しばし、沈黙。
「―――がぁーーーーっ!!!」
どっかぁぁぁぁぁぁぁん!!
爆発しやがった。
藤ねえみてえ。
なんというか、まぁ・・・
「うわっ!遠坂、なに叫んでんだよ・・・」
思わず言ってしまう。
遠坂を優等生なんて思ってるやつらに、見せてやりたいなぁ・・・
具体的には、数日前の俺とか。
「なに?なによ!!あんた士郎のサーヴァントの癖に、私をおちょくって楽しいわけ?ええ?!」
「楽しくは・・・ないですけど、あなたを見ているとなんとなく友人を思い出すなぁと。微笑ましかったので、ちょっと調子に乗ってみました♪」
激しい剣幕でまくし立てる遠坂に、アティは額にうっすら汗をかきつつ、それでもやたらと楽しげにそういっている。
「待てよ・・・他の組、って言ったよな。」
「ええ。」
さっき、アティが言った「俺たちと、前回アティと戦った組以外の組」。
その言葉が引っかかる。
「もし、もしだ・・・」
「―――そうね。もし、他の組じゃあなくて・・・」
遠坂が、俺の後を引き取って続ける。
さっきまでの馬鹿騒ぎなんて、何処吹く風。
心底、普段の凛とした雰囲気に戻って。
「こないだのサーヴァントが、この結界を仕掛けたなら・・・」
「―――そうですね。この結界を仕組んだのは、その者かもしれない。そして、もしそうなら・・・構内にマスターがいる、と考えたほうがいいかもしれませんね。」
セイバーが、そう言って首を振る。
「―――だったら、余計に今日明日中の発動を警戒しなくちゃなりません。あの戦いで彼女は、ものすごい消耗してるはずです。ですから早急に魔力を―――」
補充する必要がある、そう言おうとしたのだろう。
言おうとして、アティが虚空に手を伸ばそうとしたとき。
突然、校舎をまるで血のように赤い、まるで獲物を捕らえるための檻のような空間が覆った―――!
/アティ・]T
「え―――?」
不意に、士郎君がそう漏らした。
空は赤く、血。
よく見れば、遠坂さんも貌が真っ青―――。
いや、彼女の場合は精神的な面からのものだろうか。
「は―――く・・・目、目眩が・・・」
士郎君のつぶやき。
う・・・
さっきまでの甘い匂いの、数百倍は気持ち悪い匂いが充満する。
「結界―――!」
遠坂さんの声。
学校全てを包み込む赤くて甘い空気は、源罪(カスラ)と見紛うばかりの瘴気。
魔術を使う術を知らぬ人間が吸えば、それだけで昏倒し、やがて死に至る。
「遠坂さん―――!」
「わかってる!士郎、セイバー行くわよ!!」
その言葉とともに、私たちは構内へと急いだ―――
赤。
赤。
一面の、赤。
いつかどこかを思い出す、嫌な風景。
ここまで広範囲かつ無差別だと回復術での回復では追いつかない。
それならば、
ドロリと、甘美な蜜を全身に浴びたような、気持ちの悪い感覚はこの濃密な大気から来るものだ。
「―――まるで、悪夢だな・・・」
士郎君がそう言う。
「そうなら、どれだけいいでしょうか・・・」
既に武装したセイバーちゃんは、そうつぶやく。
そうして、4人は一番手近な教室・・・4階の階段近くのそれへ飛び込んだ。
教室・・・その中には、ひどい光景が広がっていた。
赤い空気の中で、まるで石膏のような鈍色の顔色で倒れふす、人人人―――。
一番最初に入ったのは、私。
長く生きてると、修羅場も戦場も経験してるから、躊躇なく入れた。
そもそも、私だって元軍人。
こういう、民間人を巻き込んだ戦闘も・・・あのまま帝国軍にいれば経験していたかもしれない。
セイバーちゃんも、戦場を経験しているという点では同じだろう。
けれど―――。
二人は違う。
まだ、高校生。
あの島に初めて行ったころの私よりも、6つも下。
一瞬、入るのを躊躇したのも道理だろう。
「―――!」
声にならない声を、二人が漏らす。
こんな光景・・・
見ないですむなら、越したことはない。
鈍色の顔色をして倒れふす生徒たち。
口から泡を吹き、白目をむいて気絶している。
そして、特に酷い子は、既に皮膚が溶け始めている。
「―――まだ、息はあります。十分に助かりますよ・・・」
特に酷い何人かに、弱い回復の召喚術をかけながら、私はそう言った。
「―――この惨状を何とかするには、サーヴァントを倒すしかない。」
セイバーちゃんの声。
「―――頼む、セイバー、アティ。一秒でも早くこの結界を消去したい。」
「わかりました。―――警戒してください。このフロアに、サーヴァントの気配が入りました。」
冷静にそう言うセイバーちゃん。
「―――このフロア―――?4階に居るって言うの?」
「はい。それが何か?」
「え―――いや、結界の起点は1階にある、ってさっき言ったわよね。だとするならおかしいのよ。セイバーの感覚は間違いないわ。同じサーヴァントの気配を感じるのは、サーヴァントのほうが得意だから・・・でも、魔術探知は私だって負けていない。」
「サーヴァントはここに居るのに、結界は一階・・・ですか。」
「少なくとも、私はそう感じているわ・・・この結界の起点は一階だって、ね。」
ああ・・・冷静を装っているけど、遠坂さんは完全に混乱している。
冷静さを、失っている。
4階の敵が、他のサーヴァントかもしれないって考えが浮かんでいない。
――――多分、この校舎にはもう、もう一人サーヴァントが入り込んでいて・・・
きっと、この結界の主を消そうとしている・・・
でも、理由がない。
混乱に乗じて倒すつもりなのか、それとも弱っているところを襲撃するとか・・・
真逆。
拙い!!
もし、この結界を作っているのがこの間のサーヴァント・・・ライダーだったら・・・
彼女が言い倦んでいたことを聞けないまま、彼女は死んでしまうかもしれない。
いや、効果のほどから考えて、これはおそらくこの学校の人々を人質にするために作った結界。
それを、こうも早く発動させる・・・つまり、この結界の主はそれほどに魔力を必要としている。
ならば、きっと―――。
「私は、一階に行きます。おそらく、既に別のサーヴァントがこの校舎に入り込んでいるはずです・・・」
緑の召喚石を腰のポーチから取り出す。
「ムーブクロス!」
移動力強化の召喚術を、場に居る全員にかける。
時計を携えたウサギの幻影が、私たちの体にそれぞれ吸い込まれていく・・・
「これは?」
聞いたのは、セイバーちゃん。
この場で、一番冷静なのは、きっと彼女。
彼女が居れば、この場は大丈夫だろう。
何より、文句なしに彼女は強い。
「この術は、一時的に行動力をアップさせる術です。効果は・・・6〜7分といったところです。では、三人とも・・・後の判断は任せます。」
「―――おい、待てよアティ!!」
「では、また後で会いましょう!」
士郎君の静止を聞かず、私は教室の外に出る。
―――嫌な気配。
周りには、骨を模した傀儡達。
私は赤い石を手にとって、叫んだ。
「邪魔です!!召喚、ナガレ!!ここは頼みます!」
現れた、鬼妖界の妖にそう言って、虚空へと手を伸ばす。
「―――果てしなき蒼!!」
掴んだ剣を振りかぶり、廊下に思いっきり振り下ろす。
ガコォォォォッ!!
穴が開き、そこに飛び込む。
「ランダムヒット!!」
そして、落ちた先に召喚術をぶつけ、さらに掘削。
それを二回。
私は、わずか十数秒で一階までたどり着く!
そして。
そうして・・・
サーヴァントの気配がする。
一目散に、10mほど離れた教室へと向かう。
――――血の匂いが、すごい。
カチカチ、と自分の歯が鳴っているのに気がつく。
―――血塗れの、父と母を・・・幼い自分にとって全てであったものを奪った赤い朱い光景を思い出す。
怒り。
そう、怒り。
悲しみとか恐れとか憎しみとかじゃなくて、怒り。
これをさせたのは誰?
あの、どこか悲しい雰囲気を湛えた女性に、こんなことをさせたのは誰?
―――許せない。
いけない。
感情の高ぶりは、剣を暴走させかねない。
それは、サーヴァントとなった今でも変わらない。
―――この剣は自分自身だから、律しなければ感情を爆発させれば、暴れ始める。
教室の中へと・・・踏み込む。
まるで、地獄。
そう、ゲンジ校長先生の言っていた、生前悪事を働いた悪い魂が放り込まれる場所のよう。
目に張り付く血の色と、倒れて動かぬ亡骸たち。
いや、まだ生きてはいるのかもしれないけれども。
その中で、対峙する・・・
黒い布を貌に巻きつけ覆面と成した、背広の男性と―――
そう、紛う事なきあの女性・・・ライダー。
しかし、こないだの戦闘後よりもさらに彼女はボロボロだった。
「―――なるほど。力の不足が攻撃を慎重にさせているのか・・・ふむ。これは、やりにくいな・・・」
男が静かに、つぶやくように言った。
男は無傷で、ライダーを圧倒している。
すると、あの黒覆面がもう一人の・・・
いや。
彼からは何の気配も感じない。
サーヴァントとして不完全な私でも、そのくらいはわかる。
ならば、彼はマスターなのだろうか。
だが、彼はどうやらライダーを圧倒しているらしい。
「―――ク・・・」
「―――――」
男性の、拳が動く。
拙い、と思ったときにはもう、私の体が動いていた。
「仮面の石像よ!!」
ドスゥッ!!
瞬時、二人の間に生成された不気味な仮面の石像の首に、手刀が埋め込まれ。
ゴン。
その首が堕ちた。
「――――チ。」
ガッシャァァァン!
黒覆面はそう漏らして、ガラスを破り外へと逃げ去った。
そして。
私は、ライダーに向き直る。
「―――また会いましたね。ライダー・・・」
「貴女ですか・・・」
「ええ。この結界は、あなたが作ったものでしょう・・・?早く解いてください。」
「―――それは、無理な相談ですね。私はこの学校の人間など、どうとも思っていないし・・・何より、マスターがそれを許さない。」
すっくと立って、そう言うと後ろで蹲っている何かを見た。
「―――そ、そうだ!くそっ!ライダー!そんなやつ、殺してくれよっ!!」
―――とても、不快な声音。
自分のことしか考えていない、嫌な声。
多分、ライダーのマスター・・・だろう。
「―――なら、そこの誰か。この結界を止めるように、彼女に命じてください。」
「ハッ・・・!嫌だ、嫌だね!!これは僕の力だ!!誰が敵に言われたくらいで手放すもんか・・・!」
「そうですか。なら、言いたくなるようにしてあげます。」
黒い怒りが胸に充満する。
昔の自分なら考えられなかったことだが、今の自分はこういうことができる。
「させません・・・!」
釘剣を振るって、ライダーが襲い来る。
でも、消耗している彼女の、そんな攻撃―――。
果てしなき蒼が跳ねる。
ガコゥン!
釘剣は、一昨日の夜と同じく、あっさり砕け去る。
「くっ・・・!」
無駄です。
視線に、そんな意味を込めて私は彼女のマスターへ向けて歩を進める。
「―――スライムポット。」
瞬時、緑色の粘液状の生き物が入った壷の幻影が、ライダーとそのマスターに降り来る。
「―――俊敏性を極端に失う術です。これで、ライダー。あなたはマスターを助けることは、できない。ただでさえ、さっきの戦いで消耗しているんでしょう?おとなしくしていてください。」
「な・・・」
体を動かそうとするが、ほら、普段の10分の1もスピードが出ていない。
それで、私を止めることなんて・・・
不可能。
魔力がキチンとある状態の彼女なら、こんな術効きはしないのだろうが、一昨日と今日の戦いと、結界の維持で消費した魔力は大きかったってこと。
私はさらに歩を進め、
「そして、あなたは逃げることもできない。さぁ、令呪を捨てなさい。戦争に、無関係な民間人を巻き込んで殺すのは、軍法会議ものなんですよ?」
なるべく、優しく言う。
「―――ひ、ひぃ・・・!」
力なく、声に鳴らない悲鳴を上げる。
―――小心者。
およそ、力というものに執着するだけの、哀れな人間。
戦いに参加することそのものが、この子にとって最大のマチガイ。
令呪を抜き取るのが、やっぱり一番。
「ランダムヒット。」
ゴツン。
「グェッ!?・・・・・・(シーン・・・)」
落ちてきた金ダライは、正確に彼の頭にヒットし、かえるがつぶれたみたいな声と一緒に彼の意識を奪った。
さて。
「令呪は何処でしょうか・・・」
さっさとこの結界を解除しなくては。
「待ち・・・なさい・・・」
腕には・・・ない。
「待てって・・・」
―――体中調べる。
うーん・・・
何処にも見当たりませんね。
ん?
これは・・・
「だから・・・」
後ろでライダーの声が聞こえるが、気にしない。
一昨日使った、あの騎英の手綱という宝具も、今は魔力不足で使えないはず。
「この本は・・・もしかして。」
召喚師じゃない人間が、召喚術を使う方法。
それは、誓約済みの召喚石を使うこと。
令呪が見つからないが、この子がマスターなのは間違いない。
ならば、この本は・・・召喚石のようなものなのかしら?
「ああ・・・っ!」
試してみる価値はありそうですね。
「―――すいません、ライダー。結界を解いてもらえないでしょうか?」
「―――くっ・・・わかりました・・・!」
気づかれたーって顔で、ライダーはそう答える。
瞬間、学校を覆っていた結界は・・・消えたのだった。
翌日
「―――なるほど。慎二がマスターだった、ってわけね。」
遠坂さんが、衛宮家の居間で簀巻きにされて気絶している、ライダーの”元”マスター・・・間桐慎二君を見つめながらそう言った。
「―――で、アティさんが今持ってる本が、令呪、ってわけ?」
「そう言うことになりますか・・・って、それで良いんですよね、ライダー?」
「ええ、まぁ・・・」
ライダーが、お茶をすすりながらそう言った。
―――あの後、取りあえず死人が居ないことを確認してから、私が匿名で救急車を呼んだ。
で、セイバーちゃんたちは、あの傀儡達・・・と戦っている間に結界が解かれて、下に来てみたら慎二君が簀巻きにされていて、がっくり、といった次第である。
特に、士郎君はかなり狼狽していましたね(苦笑
結局、かなり不完全な形で発動した結界は(本当ならもう数日は必要だったらしい)、学校のほぼ全員の体力を根こそぎ奪ったらしく、ほとんどの生徒が2週間前後の入院を余儀なくされ、見事休校となった。
無論、藤村さんも後10日は帰ってこられないとか。
ふー・・・
で、一応私がこの本の令呪を管理することになった。
(遠坂さんは要らないと言い、士郎君では敵に奪われる可能性が高いし、セイバーちゃんが持つわけもないから、自然私ということに。イリヤちゃんも「自分のサーヴァントはバーサーカーだけ」、と嫌がった)
つまり、ライダーの仮マスターである。
本当のマスターが居る、ということも考えてライダーに聞いてみたが、「それだけは言えない。」とのこと。
今無理に聞こうとすれば、自害しかねない雰囲気だったのであえて聞かないことにしている。
そして、そのやたら際どい服をそのままに、彼女は居間に溶け込もうと努力していた(が、あまりうまく言っているとは言いがたい)
「とにかく、今問題なのは、この本作ったのは誰なのか・・・ってことと、そのアティさんが見た黒覆面が誰なのか、ってこと。」
「学校関係者でしょうか・・・」
パリン。
煎餅をかじる。
庭では、ゴレムに乗って士郎君を追いかけるイリヤちゃんと、それをさらに追いかけているセイバーちゃん。
「まったく・・・あの連中は・・・」
苦笑を浮かべながら、遠坂さんはそう言う。
「そうですね・・・」
まだ、ゴタゴタといろいろ問題があるが・・・
それでも、今はこの長閑な光景を楽しもうと思った。
続く。
後書く。
お待たせしました。
4ヶ月ぶりの本編です(滝汗
やたら長くなりました。
予定通り、ライダーがパーティーに加入。
一応予定では、9人パーティーになる予定です。
それ以上に、生き残る人(&サーヴァント)は増える予定でガンス。
―――やっぱり、戦闘シーンがないと、ちょっとスランプリます。
でも、今回はそんなスランプレベルじゃありませんでした。
ちなみに、今回ないOP部ですが、本当は4話Interludeがくっ付いてました。
忙しかったんです・・・
マジでー、マジでー・・・・
というわけで、次回はもう少し早めに書きたいと思います。
では、また。
シュワッチュ!!