―――戦争。

多くの人間が死に至る、人同士の悲しい争い。

いえ、私の世界では戦争とはもう一つの意味も持つ。

異界の存在・・・悪魔や鬼との全面的なぶつかり合い。

今、私が参加しているこの戦争は、むしろ後者に分類されるだろう。

マスターと呼ばれる魔術師たちの操る”兵器”は、それこそサプレスの大天使や大悪魔をも凌駕するかもしれない威力を持つサーヴァントなのだから。

でも今、目の前に広がる光景はそんな悲しい現実を忘れさせてくれるくらいにぎやかだった。

「うぉわーーーーっ!!やめろ、イリヤ!追っかけてくるなぁぁぁぁぁっ?!」

「待て待てー!シロウを捕まえるまで止まんなくていーよ、ゴレムッ!」

「貴女こそ、待ちなさいイリヤスフィール!!」

「だぁぁぁぁぁぁっ!!勘弁してくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

目の前の光景は・・・まぁ、この世界では一般的じゃないかもしれないけど、取り敢えず長閑で落ち着く光景だった。

「止めなくて、いいの?」

「いいんですよ。息抜きないと、あれです。息が詰まっちゃいますよ、遠坂さん。」

「凛、でいいわよ。かたっくるしいわ、その呼び方。学校で優等生演じてる身としてはね。」

ため息つきつつ、そう言った彼女は苦笑する。

「そうですね。ところで・・・」

傍らに居た、無駄にお色気満点な衣装の女性・・・両目に眼帯なんぞつけているため、アブない趣味の人とも見える・・・に私は話しかけた。

「ええと。アレ、どうしましょうか?」

私が指差したのは、今日ふんづかまえた元マスターの間桐慎二君だった。

「そんなこと私に聞かれても困りますね。マスターとはいえ、あなたは仮のマスターなんですから。」

その女性・・・ライダーはそう淡々と返した。

眼帯のせいで目は見えないが、心なしか呆れられてるような視線を感じる・・・

―――ってか、慎二君に対してとっていた態度と大分違うような気がするのは気のせいですか?

なんとなく不貞腐れてるような印象も受けてしまいます。

「言峰んとこにおいてくるしかないんじゃないの・・・?そうしたほうが双方のためだわ・・・」

―――こんなキモい見世物とっとと撤去したいわ。

遠坂さん・・・凛の心の声が聞こえた気がする(汗

「それにしても、聞きそびれてたけど、あなたの宝具ってなんなの?とっても反則のような気がするんだけど・・・?」

話を急展開させて、彼女はそう言った。

また答えづらい事を聞いてくるものですね・・・

「それは私も聞きたいところですね。将来どうなるかはわかりませんが、あなたは私のマスターだ。一応、何とか、不本意ですが。」

ライダーも相槌を打ってきた・・・

うーん・・・私はしばし思案して、ひとつの結論を出す。

まぁ、教えても差し支えないですか。

どうせ、弱点なんかひとつしかないですし、それを教えてあげる気はないですからね。

「―――私の宝具は、果てしなき蒼(ウィスタリアス)といいます。この宝具は、実を言うと常に半発動状態にあるんです。」

「つまり、真名を唱えるまでもなく、あなたは常に影響下にある・・・と?」

「まるで、アーサー王の剣の鞘ね・・・」

ライダーのせりふに、凛はそう呆れた声を出す。

「―――まぁ、それに近いものがありますね。」

アーサー王のことは、少しだけ知ってる。

リィンバウムでのことだが、旅先で会った壮年の戦士・・・レナードさん、という人が教えてくれたから。

傷を癒し、攻撃を跳ね除け、不老の力を与える・・・そういう鞘だったはず。

「普段は地脈・・・私たちの世界の言葉では共界線(クリプス)というんですけれども、そこに融け合うように隠してあるんです。」

「―――」

いつの間にか(いや自分で掛けたのだけれども)、私はメガネを掛けて説明を続ける。

「そして、剣を通じて地脈、霊脈、大源・・・そういった外の力を私は使うことが出来るんです。だから、令呪がなくても現界できるでしょうし、その力で限界以上の力を発揮することも出来る・・・それが、あの変身・・・抜剣覚醒です。」

そこで言葉を区切って、ため息をついた。

抜剣覚醒・・・それは、剣を呼び出すことで起こる肉体的変容とそれに伴う能力の向上を指す。

「実際、剣の力が失われたら、ライダーにあっという間に負けます。断言できます。」

そして。

この点が、きっと一番その「アーサー王の鞘」に近いところだろう。

「さらに、大きな力は・・・剣が私とともにある限り、剣が眠る霊地にいるかぎり、私はほぼ不老不死、ということですね・・・」

「―――ほとんど反則ね。いや、聖杯戦争の反則を固めて捨てたみたい。」

心底呆れた風で、凛はそう言った。

「まぁ、そのくらいじゃないとあんな芸当は出来ないか・・・」

どこか怒っているようでもあった。

そりゃそうだろう。

私が異世界の人間であるとはいえ、この世界の魔術の常識や法則を完全に無視してるのだから。

「まぁ、それは仕方ないか。あなた自身がイレギュラーなんだし、それに腹を立てても仕方ないから。」

そういうと、凛はニマ、と笑んだ。

「ところで、召還石・・・だっけ?アレ、私にももらえないかしら?」

―――さらりとふざけたことを言って、彼女はその笑みを深くしたのだった。


Fate/Summon night
第五話「柳洞寺にて 〜Reality Marble〜」・T


/アティ・・・夢

―――夢を見ている。

それは、深い深い夢。

剣突き立つ岩の前。

どこか、気持ち安らかに。

無垢な少女を見ている。

少女には見覚えがあったが、深く眠り込んでいるせいか、どうしても思い出せなかった。

目の前には、美しい剣。

少女の瞳には、幼く・・・それでいて頗る強固な決意が宿っている。

少女は、王になるために生まれたと、そう聞いた気がする。

ならきっと、王になるために、ここにいるのだろう。

彼女がいる場所は人も少なく、そして木々と風の奏でる音色と遠くから流れる騎士たちが技を競い合う戟だけが聞こえていた。

剣の柄には、何かが書いてあった。

だが、ぼやけた様にそれは読むことができない。

私には。

―――確信がある。

より彼女と心近きものなら、その文字は読めるのだと。

そう思い、私は目の前の少女と、美しい剣を注視する。

「―――いやいや、それを手にとる前にきちんと考えたほうがいい。」

声がする。

それは、男の声だった。

若いのか、年をとっているのか、それは判別できない。

それは・・・この夢が語る国で、最も恐れられた魔術師の声だった。

「それを手にすれば、お前さんは人で無くなる。それでもよいのかね?」

少女は静かに頷いた。

少女の決意の前に、そんな言葉・・・何になろうか。

人を・・・殺すことで人を救う。

それが王というものだから。

毎晩、朝まで震えたけれど、恐れなかった日は無いけれども、それも今日で終わる、と少女は告げた。

少女の・・・どう見ても、か弱すぎるほどの手に剣が握られる。

剣は、光を放ち。

す、と音も無く抜き払われ。

―――そして、伝説の王の時代が始まった。

美しい剣だった。

心から、美しいと感じる。

―――軍神と戦友(とも)にあるに相応しい。

その剣と、美しい王の姿を、決して忘れまいと思った。

こんな子供に・・・重責を押し付けるなんてどうかしてる・・・

心のどこかがそう叫んでいる。

しかし、そんな声・・・一息でかき消すほどに、目の前の少女は凛々しく鮮やかで・・・美しかった。

その誇り高き姿を深く深く瞳に焼き付け、そして私の眠りは覚めていった・・・


/士郎・・・斧剣、投影

―――はぁ。

俺は、深いため息をついた。

「今日は・・・疲れた・・・」

疲労した身体に、刺すような冷たい空気がむしろ心地よかった。

事件が終わったあと、暗くなるまでイリヤに追いかけられた。

―――置いていった罰だとか何とか。

ゴレム、とかいうアティの召喚獣を使って、小一時間走る羽目になり。

そしてその後、遠坂の部屋で強化の訓練・・・

マジで今日は死ぬかと思った・・・

もう一度ため息をついて、土蔵の入り口から見える月を見上げた。

そうして、俺は今日の事件を思い起こした。

・・・どれだけの人間が犠牲になったのか。

犠牲者は幸い誰一人でなかったが、それが全てではない。

強引に命を吸い出すような真似をされて、無事な人間がいるはずはない。

長期にわたる身体への影響、酸欠による記憶障害・・・

肌が溶けていたやつもいた。

―――それに、たとえ完治しようとも、心には生涯消えない傷が残る。

身体が痛む。

ほとんど、アティとセイバーにまかせっきりという形になってしまった。

―――俺は、何もできなかった。

心が囁く。

お前はうまくやった。

巻き込まれたみんなは不幸だったが、それでもお前はお前の従者サーヴァントとともに彼らを助けられたじゃないか。

しかも、お前のサーヴァントは・・・敵すら味方につけたではないか。

それは、お前の理想を助けるものではないのか・・・

だから、今は休め。

悔やむことも、恥じることもない。

大人しく部屋に帰って寝てしまえ。

そう囁く。

否。

そんな言葉でごまかすことはできない。

惨劇は起きて、自分は何もできず、しかも友と思っていた者に欺かれていたことにも・・・気がつかなかった。

いや、欺かれていたのではない。

気づかなかっただけ。

気づこうとしなかっただけ。

確かに、数日前のあいつは、慎二はどこか変だった。

どこか・・・何か焦っているような感触を受けた。

それに気付かなかった俺の落ち度。

何が正義の味方だ・・・

俺は命を救えたかもしれないが、同時に誰も救うことはできなかった。

それが、楔になって心に刺さる。

その楔の痛みが、逆に心を冴え渡らせる。

そうだ、痛い。

ならば、痛みが消えるほどに走れ。

奇跡など起きはしない、起こったことは消せない。

でも、誰も傷つけない、傷つけないようにする。

それが理想なら、死の淵までその理想を追い続けろ。

俺は、あの暴力を思い浮かべた。

―――狂戦士の、岩の斧剣。

あの純粋な暴力は、全てを破砕する大剣でありながら、無垢な少女イリヤを守る盾だったのではないか。

唐突にそんなことを思う。

頭の中に、スイッチを思い浮かべる。

列を成すように撃鉄が上がり。

一斉に引き金を引く。

それが自然にできる。

―――あの、夜のあの・・・ひどい熱さの後から。

誰にも負けない強い剣。

流麗で硬い・・・まるでセイバーの見えない剣のような剣を、俺はまだ知らない。

それが出来たら・・・

しかし、それを知らない俺に、それはまだ望むべくもない。

だから、この身は・・・あの狂戦士の斧剣を思い浮かべる。

―――なぜか、自然に心の中から言葉がつむぎ出る。

剣を創れ。

剣を造れ。

剣を製れ―――!

「―――投影、開始トレース、オン。」

―――もとよりこの身は。

それだけに特化した魔術回路・・・・・・!

意識内に想定された二十七の撃鉄が引き絞られていく。

ただひとつの妥協も恭順も憂いも迷いも許されない。

ただひとつの想いだけを胸に。

みんなを守りたい。

あの巨人が少女のために戦ったように。

セイバーが俺を守るように。

アティが学校のみんなのために戦ってくれたように。

例え、悪鬼羅刹と化しても、みんなを守りたい。

そのために、俺が自分に課した古い約定を思い出す。

それは普段練習している強化でもなく、それは強化の発展である変化でもなく。

その先にあるもの、義父が・・・切継が「割に合わない」と禁じた術。

「――――ギ・・・ァ・・・」

創造の理念を鑑定し、

基本となる骨子を想定し、

構成された材質を複製し、

製作に及ぶ技術を模倣し、

成長に至る経験に共感し、

蓄積された年月を再現し、

あらゆる工程を凌駕し尽くし・・・

「グゥゥゥゥ・・・・」

魔術回路にノイズが走る。

光が目の前ではじける。

両の腕はまるでマグマに突っ込んだかのように熱い。

そして、俺は・・・

―――なんだろう。

心の中・・・いや、もっと違う。

この声は、きっと俺じゃない誰かの声だ。

いや、俺じゃないけども、間違いなく俺だ。

―――雑念を交えるな。

所詮、お前には・・・想像することしか出来ないのだから。

ゆえに、想像を創造となし・・・

ここに幻想を結び剣となす・・・!

ギィン・・・!

音が鳴った。

そして、目を開く。

そこには・・・

俺の両腕には、あの巨人の大剣、岩の斧剣が握られていた。

「―――おぉー・・・」

思わず、俺は歓声を上げていた。

と同時に、その剣の重さを感じていない両腕を感じた。

「え―――?」

その両腕は、まるでバーサーカーの腕そのものになったかのように、剣の重みを感じてはいなかった。

「・・・軽い。まるで・・・」

羽のようだ。

こんなにうまくいった投影は初めてだ。

ほとんど、あの斧剣そのもの・・・振ればきっとこんな土蔵、一撃で破壊しかねない暴力の象徴が、俺の腕に握られている。

―――転がるガラクタどもを見やる。

「―――なんで、うまく行ったんだろ・・・」

と思ったそのとき、その斧剣は突然重さを取り戻した。

「―――?!!お、おも・・・い・・・」

ガシャンッ。

そして、斧剣は地面に尻餅をつくみたいに落っこちた。

「―――は、ぁ・・・」

息を吐く。

「本当に、何でうまく行ったんだろう・・・」

この斧剣は、ここに転がるガラクタどもとは、一味もふた味も違う。

何かの篭った・・・そう、例えていうなら英雄の縁の地からもってきたような不思議な感覚が漂っている。

「不思議だ・・・」

しゃがんで斧剣を手に取り、そうつぶやいた。

「そうか、不思議か?セイバーのマスター。」

刺すような視線とともに、入り口に誰かが立っているのに気付いた。

「―――っだれだ!?」

それは・・・

あの夜に見た、赤いサーヴァント・・・

「お前、遠坂のサーヴァント、アーチャーか・・・?」

その問いに、笑みでのみ返し、男はその問いを肯定した(と思った)。

何か癇に障る。

どうしてか、理由もなくムカつくというか、どうしても好きになれない・・・

襲われたこともない、襲われたこともない。

だが、一目でわかる。

俺はコイツを認められない。

訳もなく俺はこいつが気に食わない・・・それは相手も同じはずだった。

ざっ・・・ざっ・・・

そのときだった。

足音がひとつ、こちらに向かって近づいてきたのは。

「―――?!」

俺は、思わず斧剣を手に立ち上がろうとした・・・が、聞こえた声でそれを中断する。

「―――アーチャー、士郎君・・・起きてたんですか?」

「ふん・・・サーヴァントには眠りは必要ない。私はお前たちのように不出来ではないしな。」

アティの心配する言葉に、皮肉気にアーチャーは答えた。

やっぱり、気に食わないな・・・

「ところで、セイバーのマスターよ。お前はセイバーを・・・いや、そこのイレギュラーも戦わせたくないそうだな。」

「悪いかよ。大体、お前は傷が治るまで見張りに徹するんじゃなかったのか。」

「無論、そのつもりだ。当然、傷さえ癒えればこの下らん協定も終わりだ。故に、今まで話すこともないと傍観していたのだがな。」

「―――なら遠慮すんなよ、いくらでも傍観してやがれ。」

「―――まぁ、まぁ。ちょっと落ち着いてください、士郎君。アーチャーも言いたいことがあるならはっきり言ってくださいよ。」

そういって、アティが俺とコイツの争いを止めにかかる。

「ふん、如何にも小僧の考えそうなことだな、とな。他人の助けは要らない、出来ることは自分で何とかする。加えて、犠牲者はひとりも出したくない、か・・・虫唾が走るな、その思考。」

「なっ・・・!お前なんかに言われる筋合いは!」

「はいストップ。落ち着けって言ったでしょう?」

言いがかりをつけてくる、アーチャーに俺はそういって食って掛かったが、アティが間に入って止めた。

「筋合いはあるかもしれませんが、言いすぎです。士郎君も・・・はっきり言って、私やセイバーちゃんをなめすぎです。」

額に怒りマークを貼り付けていそうな勢いでアティは怒りはじめた。

「いいですか、私やセイバーちゃんは貴方を守るために、ここにいます。それを自分だけで何とかするなんて、傲慢の極みです!」

「その通りだ。サーヴァントは戦うためにある。それから戦いを奪うことは―――」

「貴方も黙ってください、アーチャー。好きな人間、身近な人間に傷ついてほしくないというのは当然のことです。それを馬鹿にする権利は貴方にはありません。」

そう言ってアティは人差し指を立てて、いつの間にか掛けていたメガネに指を掛けた。

「大体にして士郎君。私たちはもうバーサーカー、ライダーと戦ったんですよ?そしてバーサーカーは下し、ライダーはある意味で説得に成功しました。その上でまだ、誰も殺さず、誰も殺させない・・・そんなことが出来ると思ってるんですか?」

「う・・・」

俺は言葉に詰まった。

確かに、すでに二人・・・サーヴァントを自分達は下している。

つまり、二組脱落させた、ということだ。

「いいですか、誰も傷つけたくない、って言うのは自分が・・・自分の心が傷つくよりは自分の身体が傷ついたほうがいい、って言う・・・貴方を大切に思う人間にとってひどく許せない考えなんです。」

「そんなこと・・・」

「考えてます。だから、私やセイバーちゃんに戦ってほしくないんでしょう?」

「グ・・・」

再度、俺は言葉に詰まった。

返す言葉が・・・見つからなかった。

俺は・・・今まで一度もそんなこと思ったことはなかった・・・・

なのに、アティの言葉に微塵も言い返せない。

それは・・・

「心のどこかで認めているのだろう、衛宮士郎。お前の気取る正義の味方とは、ただの掃除屋だ。生き残った者しか救えず、そしてお前はお前の救いたいと思った誰かを救うことは出来ないだろうよ。」

アーチャーが、そう言った。

「―――悲惨な死や現実は、変えられません。完全に取り戻すことも、絶対に出来ません。大切なものを失いたくないと、そう思ったから・・・私は理想を・・・捨てました。すべてを守るのではなく、守りたい者を守る。それが、もっと多くのものを救うことになると、私は思っています。」

アティはそう言った。

そんなことは、ない。

誰かを救おうと手を伸ばして、その誰かだけ救えないなんて事―――

「アーチャーの言う事は・・・間違っていませんよ、正義の味方・・・誰も傷つけたくない、って理想は結局・・・色んな人を、大切に思う人間をこそ、傷つけてしまうんです・・・」

絶対に、あるものか。

でも。

「――――」

アーチャーは背を向けた。

「理想を抱き続けることは、とても難しいんです。現実は厳しくて、守りたいものは多くて・・・私は、理想と現実のズレのツケを払う羽目になりました。私は・・・運がよかったから、どうにかなりましたけど・・・」

そうして、アティはアーチャーの背を見つめる。

その瞳には、深い憂いをこめて。

「貴方は・・・」

そのアティの言葉をさえぎって、アーチャーは口を開いた。

「覚悟くらいはしておけ。その女が言うようにお前は理想と現実のズレのツケを払うときが必ず来る。己の矮小さを実感したとき、何を正し、誰を罰するのか。」

―――とても簡単な問い。

それは、マチガイもなく、ただすべきは己の考え、罰するべきは自ら、差し出すのは我が命。

その程度は、魔術師としての覚悟だろう・・・

「それが出来ぬようなら、その夢もその魔術も今すぐ捨てるのだな。後は、その女にでも教えてもらえ。」

そうしてアーチャーは歩き出した。

「救われぬものは、救われない。理想で救えるのは理想だけ。人間に出来ることなどあまりにも少ない・・・」

アティは、どこか悲しげにそう漏らした。

「―――それでも―――」

その言葉を聴いたか聴かずか、アーチャーはそういうと闇に姿を消した・・・

だが、どうしてか・・・

反論する気にはなれなかった。

正直、嫌味言いたい為に来たような気はするが、それでも。

「―――それでも。」

あの、最後のそれでも、に続きがあるような気がして。

「「それでも、一度も振り返らずにその理想を追っていけるか。」」

アティの声がはもる。

「私は、出来ませんでした。貴方には・・・どうなのか知りませんけど、私やセイバーちゃんを戦わせない、ってことだけはもう考えないでください。いいですね。」

その笑みに・・・

アーチャーとアティはどこか似ているような気がした。

不思議と、そんな彼女には不快感は感じなかった。

その違いが何かを考えながら・・・

俺は、去っていくアティの背中を追うように部屋に向かって歩き出した・・・


続く。





後書き。

何か書くとネタバレになっちまいそうです(挨拶

浦谷参上。

えー、多分キャスター編、その一。

題名が意味ありげ。

士郎君の挫折。

―――大切なもの。

そして・・・黒い影。

これだけで十分ネタバレです(汗

ここまでで・・・ええと。

本編で言うところの5日目。

2月4日。

本来なら、どのルートでも他者封印鮮血神殿は発動してませんね。

因みに、4話の3・4は5話の1と同じ日です。

まだアチャ弱ったままです。

今回は、セイバールートでなら7日目の深夜のお話ですた。

先生がクッションになった結果、原作より少しアーチャーに対する感情は柔らかめになったっぽいです。

―――先生は、士郎君とアチャの関係に気付いて・・・るのかな?

まぁ、その辺はゴニョゴニョ。

多分、原作の10日目くらいじゃ終わりませんね。

黒桜どうしよ・・・

反則技の出番だ〜〜〜

ウェイ。

なんか、変な言葉の羅列になってしまいますた。

申し訳ありません。

では、そのUの後書きでまた会いましょう。

シュワッチュ!!