/アティ・有り得ざるもの

―――おいで―――

魔女のささやき。

―――おいで―――

森乙女の調。

―――おいで―――

ただ、その妖しくも美しい声に導かれるまま。

彼は幽鬼のごとく歩き続けていた。

路地を飛び出したところで私は彼を見つけて、叫んだ。

「士郎君!?」

しかし、その言葉は彼の耳には届いていない。

ただ、彼はフラフラと・・・目的の場所へと。

そう、恐らくは・・・

柳洞寺と呼ばれる寺院へと向かっているのだろう。

あの寺院の主である、サーヴァントの下へ。

「行かせない・・・!」

私は全力で地面を蹴り、士郎君へ追いすがる。

だが・・・

ふと、周りを見ると、路地から幾人もの人間の姿が現れる。

「!?」

一目で分かる。

それは、人間の姿をしていて、それでいて人間ではない。

それぞれにこの世界の勤め人や若者、女性・・・様々な姿をしている・・・

「まさか・・・!」

だが、それらは既に生命を宿した存在ではない。

紛れもなく。

それは、そう・・・リィンバウムの時間で、季節が数巡りする前に起きた戦争・・・

『傀儡戦争』で悪魔たちが使った、屍人の群れ・・・!

帝国側にも少なからぬ被害を与え、そしてあの時護人のみんなの命を奪いかけた・・・源罪のディエルゴを生み出した戦争で使われたものたち。

この世界にも死霊を操る魔術やそういうことが出来る生き物が存在するそうだが、それではない。

ここにいる連中は間違いなくサプレスに属する憑依召還術で作られたものたちだった。

「―――何故、ここにこんなものが・・・」

ありえない。

この世界にこんなものはない。

なぜなら、この世界にいるリィンバウムの人間は私一人なのだから。

そうしている間にも、士郎君は真っ直ぐ柳洞寺へと歩いていく。

「考えている暇はありませんね・・・行きます!!」

そう叫んで、私は世界から剣を呼び出す。

「『果てしなき蒼』!!」

そして、私は変わる。

私は抜剣者。

目の前の敵を倒し、士郎君を助けろと、私の分身が吼える。

「召還!」

―――戦いは始まった。


Fate/Summon night
第五話「柳洞寺にて 〜Reality Marble〜」・V


/セイバー・狼狽と焦燥

バン!

襖が乱暴に開かれる。

開いたのは、私だ。

「シロウが、いない・・・?」

私は誰もいないシロウの部屋を見て、それから呆然とそう口にした。

3時間以上前。

食事を終え、シロウが早々に部屋へ行ったのを確認した後、私とリン、そしてアティは作戦会議をしていた。

ライダーは偵察に、イリヤスフィールはシロウについていっていた。

「―――衛宮君のあの力、アレは一体、何?生まれながらに、あんな力があるなんて聞いたこともないわ。」

リンはそう言って毒づいていた。

・・・確かに、あの力は異常だ。

素質のあるものですら、100年如きではたどり着けぬ境地。

人の身でその魔術を使うことは叶わず、人外となりてそれを得る。

死徒と呼ばれる、世界の理に背くものたち。

その中には、"シロウの魔術"と等しい力を行使する祖と呼ばれる王たちがいる。

そう、"普通"はそうなのだ。

しかし、あの斧剣が幻でないとするならば・・・

それをシロウが作ったと言うのならば。

―――異常。

そこまで私が考えた時、アティは唐突に話題を変えようとした。

「まぁまぁ・・・今考えるべきことは、今後の方針についてです。士郎君がちょっと昼間のことでショック受けてるみたいだから、私たちだけでやろうということになったんじゃないですか。」

状況を説明しているアティの言葉を私も肯定する。

「そうです、リン。少なくとも、ここからは慎重に行かなければならない。我々だけで既に・・・バーサーカーを倒し、ライダーを屈服させた。学園に現れたサーヴァントと言い、明らかに我々はターゲットになっています。」 

「確かに・・・最初に現れたっきりのランサーも気になるしね・・・」

そういいながら、彼女は爪を噛む。

「少なくとも、柳洞寺には一人以上のサーヴァントが陣取っていると考えていいと思う。新都の昏睡事件を起こしたのも多分・・・」

「同じ奴だ、と?」

「ええ、策略型で地味ながら戦力を増強していく・・・」

アティの言葉にリンが肯んずる。

「悠長、にしている場合ではない・・・ということ、ね。それでいて慎重に、か・・・難しい注文ね。」

噛んで含むようにそう言って、リンは自分のサーヴァント・・・アーチャーを呼んだ。

「アーチャー、偵察を。柳洞寺近辺を徹底的にお願い。」

その言葉に、反応はなく、だが屋根の上にあった気配が一つ掻き消える。

「さて・・・取りあえず、休みましょうか。慎二のアホはどうだった?」

「いいえ、やっぱりライダーの本当のマスターについては、何も。」

「そう・・・」

その、リンの独白のような返答のあと、誰からと言わずその場を去り、就寝する。

既に魔力の消費を抑える必要がなくなっている私は、そのまま居間で待機する。

暫し、茶菓子を楽しむ。

テレビはまだつけっ放しだ。

益体もない深夜番組が、意味もなく流れ続ける。

「―――つまらない。」

私らしくない、鼻白んだ声で私はため息を付く。

私はまだ、まともに戦闘をしていない。

「―――正直、いる意味がないような気がしてきましたね。」

情けない独白。

アティがほとんど敵を引き受けている。

私は力を出さなくていいが、使命感も置き去りだ。

―――情けない。

私はそう、自嘲の笑みを立ち上がる。

「さて、私も・・・っ!?」

自分も休もう、と思ったそのとき、視界が歪む。

微かな違和感、だが・・・

「―――シロウ!」

例えようもない、死にたくなるほどの危機感と共に、私はシロウの部屋へと急いだ。

そして・・・

今、シロウの部屋は、もぬけのから。

「―――しまった―――!」

「士郎君!?」

どうやら、アティも気付いたらしい。

押っ取り刀で駆けつけ、こぶしを握る。

「―――柳洞寺の、サーヴァント・・・?」

「でしょうね・・・」

冷静に私はそう言って、武装を・・・

戦装束に身を包む。

「二手に分かれて。」

「行きましょう。」

私たちは同じことを考えていたらしく、走り出す。、

塀を飛び越え、道を飛ぶ。

後ろで、ようやく起き出してきたリンが「待ちなさい!」と言いながら、私たちの後を追ってくる姿が見えた。

しかし、それにはかまわず、私たちは走る。

絶対に、間に合わせてみせる。

「―――私は、今度こそ、聖杯を。」

その呟きは、風に流れていった。



/アティ・有り得ざるものU

「てえぇい!」

また一体、屍人を切り裂いた。

ゾロゾロと現れる、死者の軍隊。

明日の新聞には、沢山の行方不明者が載っていることだろう。

頭にくる。

そう、頭にくる。

人を人と思わない。

道具だ、と宣言しているような所業。

無職の派閥のやり口を思い出す。

吐きそうだ。

ようやく士郎君に追いついたというのに、これでは・・・

恐らく、士郎君の下へではなく、直接柳洞寺へ向かったセイバーちゃんのほうが、先に敵サーヴァントと接敵する。

だが、彼女は・・・

私は、ファリエルのことを思い出す。

性格や物腰は全然違うけど、あの何処か一途な雰囲気が通じるところがある。

ファリエル・・・かつて、兄と共に無職の派閥に属し、そして島を護るために戦い死んだ少女の魂。

ファルゼンと名乗り、無骨なヨロイに自らを封じ、島のために自らを犠牲にし続けた少女。

真っ直ぐに使命だけを見続けた彼女に、少しだけセイバーちゃんは、似ている。

こんな搦め手で来るやつと、彼女は戦えるのだろうか?

勿論、この連中・・・屍人を使っているのとは別だが。

この術は、リィンバウムの人間にしか扱えないのだ。

そう、何者かが柳洞寺のサーヴァントに手助け・・・いや、柳洞寺のサーヴァントを利用している?

そうして、詮無きことをつらつらと思う。

そう、真っ直ぐで硬い剣は、折ろうと思えば、簡単に折れる。

それこそ、短剣の一つもあれば、数倍の長さのロングソードを折ることも容易い。

そんなふうに、私は折れた。

ウィルが・・・みんながいなかったら、どうなっていたかも知れない。

彼女は・・・そうはならない。

そうは、させない。

勿論、士郎君も・・・だ。

「―――召還!」

サプレスの召喚獣、帽子をかぶった幽霊ポワソを呼び出す。

「ここお願いします!」

「ピッ!」

ポワソは一声鳴くと、敵の前にテレポートする。

彼(?)の力、それは・・・

この世界では、"魔法"一歩手前、とされる力・・・テレポーテーションだ。

無論、召還術でさえ、"魔法"に近いのだという。

盟友の絆によって、彼は実力以上の力を発揮する。

屍人がこの数、この能力ならば、任せても問題はない、はずだ。

ポワソが屍人の一体を弾き飛ばしたのを見届けると、私は走る。

アレから、たっぷり10分はたっている。

「間に合うか・・・!?」

しても詮無き独白を残して、私は全力で士郎君の後を追った。



/セイバー・Vsアサシン

―――護ると誓った。

彼を護り、聖杯を手にする。

それが、私の使命。

―――この夥しい魔力に汚された山を見上げ、そう心を決める。

空には鴉、まるで死霊のよう。

枝葉は魔という名の血に穢れ。

訪れし者を喰らい剥ぎ取る魔の空間。

死地という名の土地があるとしたら、ここは正にうってつけだ。

ここが、この山寺こそが、リンの言っていた新都の昏睡事件の犯人の牙城。

躊躇することなく踏み込む。

もとより躊躇などありはしない。

アティはシロウの確保に失敗したのだろう。

既に、我がマスターの繋がりは柳洞寺の中にしか感じられない。

ならば、することは一つ。

石の階段を駆け上がり、姑息な真似をするサーヴァントを切り伏せ、シロウを救うのみ。

山門は既に目の前。

すぐだ、すぐに!

魔力の篭るこの足を、今一歩踏み出せば――――

瞬時。

恐るべき気配。

私は立ち止まり、気配を探る。

山門に至る道。

そこに立ちし者、それは・・・・

「―――侍、か。」

流麗な眦持つ美剣士。

「訊こう。その身は如何なるサーヴァントか。」

―――その剣士は、にやり、と笑むと。

「我が名はアサシン。真名を、厳流佐々木小次郎と言う。」

透明。

透明な殺気。

どっと、汗が吹き出るような感覚。

構えもなく、真名を名乗るその心理。

そんなことする女性を知っているゆえ、驚きもしない。

だが・・・

アティとは、別の意味で・・・怖い、と感じた。

アサシンは・・・私のクラス・セイバーと比べれば、良い駒ではない。

7騎のサーヴァントのなかでも下から数えたほうが早いほどだ。

しかし。

だからこそ。

単純に、剣の勝負ならば、私は彼に勝てない。

・・・そして、後ろにシロウがいる以上・・・

私は、宝具を使えない・・・!

だが退く訳には行かない。

正々堂々と、名を名乗り、倒す。

今の私は・・・どうも麻痺しているらしい。

躊躇いなく、真名を口に乗せる。

「―――なるほど。ならば、名乗りましょう。我が名は・・・」

「よい。名乗れば、後ろの女狐に唆されるぞ。」

アサシンは嘲るように笑って、そう言った。

すこし、癇に障る。

憤りを隠さずに。

(そして、彼の言葉の中にあったものに気付かずに、私は言った。)

「なら・・・貴様に用はない。そこを退け、アサシン。」

「―――そうか・・・この門を通りたいのだな、セイバー。」

一足一刀の間合いまで、後半歩。

その位置で我等は向き合う。

恐ろしく長いその太刀を抜き放ち、あくまで流麗に敵は言った。

「ならば、押し通れ。急がねば、お前の主人とやらの命はないぞ。」

涼やかな笑い。

癇に障った。

「――――アサシン!」

飛び込む。

何を非力なサーヴァントが言う。

怒りと焦燥が一瞬で私の頭を支配し、それでいてまだ冷静な部分がひどく的確な剣撃を放つ。

堕ちてきた長剣を受け止め弾く。

ガキィン!!

否、敵の肢体ごと弾き飛ばす。

魔力に満ちた今の私に、このような剣、児戯に等しい。

―――勝てる。

単純な剣の勝負でも、力押しで勝てる。

ならば、さっさと下してそのまま突入する。

倒すまでもない。

「―――ふ・・・強いな・・・ならば・・・」

―――ぞっとした。

「―――構えよ。せねば、死ぬぞ。」

―――それは事実だ。

ギリ、と剣を構える。

ならば、先手を取る!

「ハァッ!」

我が聖剣の鞘を放つ。

風王結界。

不可視の鞘を衝撃波として、飛ばす。

ガシャァン!!

石の階段が砕ける。

だが、アサシンはそれを流麗に避け、そして。

間合いは、3m・・・

見たこともない構え。

敵に後ろを見せるように、その長すぎる刀を構える。

不可解な―――!

私は踏み込む。

長剣の弱点は、唯一つ。

近寄れば、その威力は――――!

「――――秘剣。」

この期に及んで、何を―――

「――――燕返し。」

―――長剣は、間合いを詰められると、弱い。

そんな常道、このサーヴァントには・・・ないとでも言うのか!?

稲妻が落ちる。

頭上から。

それを、力任せに打ち返す。

この程度・・・!

返す刃で、この男を斬る!!

―――もらった。

焦りを押し殺した甲斐があった。

そう思う。

だが・・・それは間違いだった。

「―――転がりなさい、セイバーちゃん!!」

「くっ!?」

後ろから聞こえたアティの声に従い。

私は獣の速度で転げた。

「まさか、多重次元屈折現象キシュア・ゼルレッチ・・・!?」

考えている暇はなかった。

アティの声が迫る。

「掴まって!速く!!」

ワイヴァーンを駆るアティが山門へ続く道を強引に押しとおり。

私の手をアティの手が掴んだ。

「行きます!!」

そうして、ニィと笑うアサシンの上を跳んで。

私達は、境内へと侵入した。

続く。




あとがき。

―――ごめんなさい。

言い訳しません。

本当にごめんなさい。

シュワッチュ!!


オ、押していただけるとうれしいです・・・


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